工藤忍「上京物語 そのよん」 (53)

アイドルマスターシンデレラガールズ工藤忍のSSです。

以前投稿した

工藤忍「上京物語」 「上京物語 そのに」工藤忍「上京物語 そのさん」

工藤忍「上京物語」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428411771/)
工藤忍「上京物語 そのに」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429354949/)
工藤忍「上京物語 そのさん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431143790/)


の続きになります。

よろしければ前作もご覧ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1431861860

♪ピンポーン

「工藤さんお届けものです」

忍「はーい」

レッスンもバイトも休みのある日
アパートに居たアタシに荷物が届いた。

忍「うわー、こんなにたくさん」

実家から送られてきた箱を開けると
もみ殻の中にリンゴがいっぱいに詰まっていた。

箱の中から甘く懐かしい香りが立ち込める。

地元に居た時は飽きるくらい食べていたけど
スーパーとかで買うと果物は高いんだよね。

忍「しかも二箱もあるなんて、アタシ一人じゃ食べきれないね」

どうしようかな、事務所におすそ分けしてもいいけど
これを持ったまま電車乗るのはちょっと大変だよね。

忍「まずは近いところから…」

カンカンカン…

アタシはリンゴを紙袋に入れるとアパートの階段を下りていく。

♪ピンポーン

大家「おや、忍ちゃん。どうしたんだい」

忍「実家からリンゴを送って来たんです。おすそ分けに来ました」

大家「ありがとう、よかったら中に上がってお茶でも飲んでいきな」

忍「はーい、お邪魔します」

アタシの住んでいるアパートの同じ敷地に、
大家のおばさんの住居がある。

アタシが一人暮らしを始めてから大家さんには、
なにかと親切にしてもらいお世話になっている。

ニャー

忍「おお、お前はまた太ったんじゃないの?」

この家の三毛猫はいつもアタシがコタツに入ると膝の上に乗ってくる。

大家「その子は冬になるといつもブクブクとなってね」

お腹を撫でても嫌がらず喉をゴロゴロならしている。

忍「そうかー、お前もアタシと一緒にダンスレッスンする?」

イヤー

そう聴こえるように鳴いた猫はアタシの指先をペロペロ舐めてくる。

♪ピンポーン

P「こんにちはおばちゃーん、って忍も来てたのか」

忍「あープロデューサーさん、こんにちは」

プロデューサーさんはチャイムを鳴らすと
案内されないうちから勝手に上がりこむ。

まったくずうずうしい人だね。

P「ちょうど良かった、忍の部屋に行ったんだけど留守だったからな」

忍「さっき、こっちに来たんだよ。プロデューサーさんも良かったらリンゴ持ってく?」

P「いやいい、今朝がた忍の親御さんから3箱届いたところだから」

あれ、お母さんたら事務所にも送っていたのか。

大家「おや、Pじゃないか。相変わらずフラフラしてんだね」

P「おばちゃんそりゃないよ、俺は今仕事中なんだよ」

大家「へえー、アイドルプロデューサーってのは昼間からコタツ入ってミカン食べるのが仕事かい?」

プロデューサーさんは学生時代このアパートに住んでいたらしい。

卒業した後も大家さんと交流があって
時々こうやって遊びに来ているみたいだ。

アタシをここに紹介してくれたのもその縁だったらしい。

もっとも格安家賃については特別扱いと言うわけでもなく

大家「アパートは道楽でやっているからね」

と言う事らしい。

らしい、が多いのはプロデューサーさんは、はっきりとは教えてくれず…

大家「Pはまったく昔から変わらないね、ほらあのギターの件だって…」

P「分かった分かった、その話はまた今度で。今日は忍に話があってきたんだ」

二人の会話からアタシが推測したところそんな事情なのだ。

忍「それで、アタシに話って何なの?またお仕事?」

アタシがミカンの皮をむきだすと猫が嫌がってコタツの中に潜り込んでしまう。

P「ああ、それな。あのな忍…」

忍「うん、」

ミカンをひと房口の中へ放り込む

P「お前、高校に通え」

へっ?Pさん今なんて言ったの?

P「うちの事務所の方針なんだよ」

P「アイドルや芸能人といっても世間に対して特別扱いをしない」

P「普段はあくまで一人の社会人であり、もしくは学生だ」

ウン、事務所の方針は分かるんだけどさ

忍「アタシの高校青森だよ!」

東京に出てきた後、親から正式に休学届を出してもらった。
一応学籍は残っているけどまったく通っていない。

忍「それとも穂乃香ちゃんみたいに週末だけ東京に出てくるの?」

せっかく一人暮らしも慣れてきたところなのにね

P「いや、最近のアイドルブームで学校も対応をしてきている」

P「芸能科とまではいかなくてもアイドル活動を支援するコースの設置が増えているんだ」

P「都内のそういった高校が忍の学校と提携してるから編入させてもらう事にした」

事にしたって、本人の意思がまったく無視されてるんですけど。

P「それにそのコースなら上手くすれば授業料一部免除に奨学金も受けられる」

おお、それは確かにアタシには魅力的な話だね。

P「ただそれには編入試験を受ける必要がある」

忍「ちょ、ちょっと待ってPさん」

勝手にどんどん話を進めないで!!

忍「試験ってアタシ勉強道具なんか全然持ってきてないんだよ」

P「ああ、実家のご両親に送ってもらうように頼んだんだが聞いてないか」

忍「聞いてないよー、だいたい送るったって…」

あれ、さっき受け取ったリンゴ箱
一つは開けて中のリンゴを持って来たんだけど…

忍「ちょっと見てくるね」

アタシは嫌な予感がして自分の部屋にかけ戻り
未開封の箱の中味を確かめる。

P「お帰りー、どうだった」

アタシが再び大家さんの家を訪ねると
Pさんは猫の前足をつかんで二足立ちをさせていた。

忍「なに、こんどは猫のプロデュースでも始めるの?」

P「おお、こいつ意外と才能あるかもしれないぞ」

まったく、いっつも調子いいことばっかり言うんだから。

忍「入ってたよ、ほら」

アタシはコタツの上に教科書とノートを置く。

P「おお確かに届いていたな、それじゃあ試験は来週だから頑張れよ」

無責任に言う事だけ言うとPさんはさっさと帰ってしまう。

後に残された猫はPさんに延ばされた脚を舌でペロペロ舐めている。

♪カラン

志保「あら忍ちゃん、いらっしゃいませ。今日はお休みじゃなかったの?」

忍「ええ、そうなんですけど…」

突然、高校への編入試験なんて話を持ちかけられて混乱したアタシは
とりあえず槙原志保さんに相談しようと喫茶店へやってきた。

志保「ふーん、高校編入試験かあ…大変ね」

忍「まあ勉強はそこそこは出来る方だったんですけどね…」

そうは言っても東京に出てきてひと月以上、学校の勉強なんかしていない。

志保「私も卒業してしばらく経つからあまり自信はないのよね…」

忍「まあ自分で頑張るしかないよね…」

プロデューサーさんは試験までレッスンの予定はないって言ってたし
バイトも休んで一生懸命に勉強するしかないか。

志保「そうだ、忍ちゃん。テストまでの間女子寮に来ない?」

忍「女子寮ですか?」

志保「そう、プロデューサーさんに強制されたなら試験は業務命令も同じ」

志保「女子寮に泊っても文句は言われないわよ」

忍「そうですねぇ…」

正直なところアタシも一人きりで勉強をやりきれるかどうか不安なんだよね。

それに寮ならご飯とお風呂は心配いらないしね。

忍「お邪魔しまーす」

一度家に戻って着替えや勉強道具を持ってきたアタシは
志保さんに連れられて女子寮の中へ入った。

??「いらっしゃーい」

女子寮の談話室で一人の女性がテレビを見ながらお酒を飲んでいた。
彼女が振り向くと短く揃えられた黒髪がふわっと踊る。

志保「あれ、茄子さん帰ってたんですか?」

鷹富士茄子「あら~、志保さん久しぶりですね♪」

忍「うわっ、茄子ちゃんだ!」

茄子「はーい、ナスじゃなくてカコですよ~」

おお、生であのセリフを聴いちゃった♪

茄子「あなたが工藤忍さんですね、初めまして♪」

茄子「茄子と書いてカコと読む、鷹富士茄子ですよ~」

鷹富士茄子さん。

正月番組でおなじみの幸運の女神。

実際にかなりの幸運体質らしく、今のプロダクションの社長が
前の会社から独立するときに彼女がついてきてくれるというので
成功を確信したとのエピソードがあるくらいだ。

忍「本物の茄子ちゃんだぁ…」

あ、いけない事務所の先輩なんだから失礼だよね

茄子「いいですよー、皆さんカコちゃんで呼んでくださいますから♪」

志保「いつ戻って来られたんですか」

志保さんとアタシで茄子さんを挟むようにコタツの左右に座る。

茄子「今日の朝、東京に戻ってきましたー」

志保「はい、どうぞ」

志保さんが銚子を持ち上げてお酌をすると
茄子さんは猪口を取り上げて美味しそうにお酒を口にする。

茄子「事務所でちょっと手続きを済ませて、後は寮でのんびりです~♪」

忍「茄子さんも寮住まいなんですね」

アタシのおじいちゃんも知ってたからけっこう売れてるんだよね?

茄子「私は営業で地方に行くことが多いんですよ~」

茄子「そうなると東京に戻ってきて一人の家に居てもつまらないですからね~」

なるほど、茄子ちゃんをテレビで見るのは正月くらいだと
思ったらそういう芸能活動してたんだね

茄子「年末はテレビの収録を連続でして、お正月は各地で生放送」

茄子「そのまま地方営業に出て各地で小正月や旧正月」

茄子「いろんなところに行って楽しかったですよ~♪」

幸せそうな顔でお酒を飲みながら、つまみに箸を付けている。

志保「私が事務所入ってしばらくの頃から、茄子さん帰りが遅くなったんですよね」

志保「お正月迎えたらそのまま地方に行っちゃうし」

茄子「はい、久しぶりの我が家みたいでのんびりできます♪」

茄子「それで忍ちゃんは今日は遊びに来たんですか?」

ああそうだ、忘れるとこだった。

忍「実はですね…」

アタシは茄子さんに編入試験の話を説明する。

茄子「なるほどー、大変ですねー」

志保「まったくプロデューサーさんも無茶ばかり言いますよね」

志保さんがアタシたちにお茶を淹れてきてくれた。

茄子「でも、できないことは言わない人ですから」

茄子「きっと忍ちゃんなら合格できるって信じているんじゃないんでしょうか」

うーん、あの人そんなに考えてるようには見えないんだけどな。

茄子「受験の神様は、私とはまた別の担当なんですけど応援してますね♪」

志保「ただいまー」

茄子「お帰りなさーい♪」

志保「今日もお酒飲んでるんですか?」

茄子「日本全国から美味しいお酒とおつまみ持って帰りましたからね♪」

志保「仕事がオフでもあんまり飲み過ぎちゃ駄目ですよ。忍ちゃんはどうしてます?」

茄子「ほら、あそこ」

志保「あー談話室のコタツで教科書開いてますね」

茄子「すごいんですよ忍ちゃんの集中力」

茄子「最初は遠慮してたんですけど、私がテレビ見たくなってつけても全然そちらに見向きもしないで」

茄子「お昼食べてからずーと勉強してますよ♪」

志保「すごいですね、努力する子だとは思ってましたけど」

茄子「とっても真面目なんですね~♪」

茄子「私ね、忍ちゃんがどのくらい集中してるか試したくなっちゃって」

茄子「コタツの向かい側で腹踊りしたんだけど全然反応がないの」

志保「何やってるんですか!」

志保「その芸は禁止だって前にプロデューサーに言われたじゃないですか!」

忍「う、うーん」

両手を上に挙げて大きく伸びをする。

あ、もうこんな時間なんだ。

時計の針がてっぺんに近づいている。

茄子「忍ちゃん、一休みしますか」

茄子さんがお盆を持って向かい側に座る。

忍「それ、なんですか?」

茄子「お茶漬けです♪忍ちゃんも食べますか」

ふーふー…
ポリポリ…

茄子「勉強は進んでますか?」

忍「はい、ぼちぼちですけど…」

様々な漬物がお皿の上に並べられている。

香ばしいお茶の風味と漬物の塩味が
舌から喉の方へと通り過ぎていく。

茄子「飲んだ後はやっぱりこれですね~」

茄子「日本各地からいろんな漬物をお土産で持って来たんですよ~」

忍「あ、これ美味しい」

青い葉っぱみたいな漬物
ちょっと酸味があるけど独特の香りがする。

茄子「それはすぐき漬けですね、京都の名産品なんですよ♪」

お酒に酔っているのか茄子さんの頬がほんのりと上気している。

忍「ご馳走様」

茄子「どうします、今日はもう休みますか」

忍「ううん、もうちょっとだけ頑張るよ」

忍「はぁ…これくらいやればいいかな」

お茶漬けを食べたあと静まり返った夜の
女子寮でアタシは勉強していた。

自分でも不思議なくらいに集中して
気がついたら窓の外が仄かに明るくなってきている。

コトコトコト…

台所の方からは朝食の準備をする音が聞こえる。

せっかくだからご飯食べてから眠ろうかな。

でもまだ朝食には時間があるし…

徹夜で気分が高まっていたアタシはトレーニングウェアに着替え
寝ているみんなを起こさないようにこっそりと外に出る。

忍「東京の夜明けってこんな感じなんだ…」

アタシが住んでいる町よりもここは都心に近い。

すでに電車が動き初めているけど普段渋滞している道路が
まだぜんぜんガラガラで凄い速さで車が走っていく。

夜から朝に変わっていく街をアタシは走り抜ける。

空がほんのりと淡い色に染まり始める。

白い息がリズミカルに吐き出されていく。

寒さはまったく感じない。

忍「おはようございます!」

犬の散歩をしている見知らぬおじさんに挨拶をする。

深夜から朝にかけて大人たちをのみ込んでいた店が
役割を終えて休息に入ろうとしている。

忍「ふう…」

当てもなく走ってたどり着いたのはビルに囲まれた小さな公園。

坂を登った場所にあって眼下には
トラックが信号待ちをしている交差点が見える。

街の中を走って体が温まってきた。

アタシはポケットから取り出したイヤホンを耳に差し込む。

♪~

お気に入りの音楽が頭の中に流れ出す。

音の波動に合わせてアタシはステップを刻み始める。

タンタンタタンタン…

見下すと街がようやく動き始めようとしている。

久しぶりにダンスを踊ってみたけどキレは鈍ってないみたい。

タタタンタン…

曲の盛り上がりに合わせて動作を大きくしていく

手を回して脚を前後にリズムをキープしながら…

トレーナーさんに言われたことを思い出しながら一人で踊ってみる。

♪~

曲の最後のサビの部分

飛び跳ねて…空中で回って着地、指までまっすぐに伸ばす!

キマッた!

ビルの間から太陽が顔を出す。

ポーズをとったアタシの影が後ろに大きく伸びていく。

眩しい…

♪~

プレーヤーが次の曲を耳に届けてくる。

アタシはそれに合わせて再び踊りだす。

こうして光を浴びているとまるでステージの上みたいだね。

タンタンタン…


おーいみんなー

未来のスーパーアイドル工藤忍がここに居るよ!

早く起きて見においでよ♪

本日投下ここまでにします。

また来週続き投下します。

シリーズの新作か
大好きだから続きが楽しみ

>>24

ありがとうございます。
ご期待にそえるよう頑張ります。

それでは続き投下します

忍「ふああ…」

寮に戻ったアタシは朝ご飯を食べると泥のように眠ってしまった。

昼過ぎに起きて志保さんが作っておいてくれたおにぎりを食べたんだけど
机に向かっても全然教科書の内容が頭に入ってこない。

うう…調子に乗って徹夜なんかするんじゃなかった…

試験も近いことだしちゃんと体調管理しないとね。
また寝不足で倒れたりしてられないよ。

食堂でコーヒーでも淹れようかとアタシは立ちあがって廊下に出る。

茄子「あ、忍ちゃんちょうど良かった♪」

玄関から入ってきた茄子さんとちょうど出くわした。

茄子「芋ようかん買って来たんだけど一緒に食べない?」

忍「いいんですか?いただきます♪」

それじゃあコーヒーはやめて緑茶にしようね♪

忍「んー、美味しい♪」

甘さが控えめでほっこりとした食感。
まるでさつまいもをそのまま食べているみたい♪

茄子「これを焼いてバターをのっけるのも美味しいんですよ」

あっという間に一本食べてしまう。

茄子「よかったらもう一つどうぞ、いっぱいありますから」

忍「ありがとうございます♪」

忍「茄子さん今日はお出かけだったんですか?」

茄子「はい、隠し芸のお稽古に行ってきました」

アタシは口の中に入れた芋を慌てて飲み込む。

忍「えっ、茄子さんって練習とかするんですか?」

茄子「はい、私もみなさんと同じように練習しますよ~」

忍「あっ、ごめんなさい。失礼だったよね」

茄子「気にしないでください、お客さんにはそう思われてますから」

毎年お正月に茄子さんはテレビでいろんな芸をするんだけど
ほとんど練習しないで成功させてしまう。

本職の人みたいには上手に行かなくても
生放送で初めて見た芸を数十分後に披露してしまえるぐらいに。

忍「茄子さんて練習しなくても芸が出来ちゃう人じゃないんですか?」

とっても運がいいからあんまり努力しなくても成功するんだと思ってた。

茄子「テレビだとそうですね~、そういうキャラにしてますから」

茄子「でも本当は事前に台本見て練習してるんですよ~」

おやつを食べながら芸能界の裏話を聞いてしまった。

忍「それでいつも上手くいくんだね」

茄子「みんなには内緒ですよ♪」

かわいらしく茄子さんが微笑む。

茄子「練習しないで成功しても達成感がないじゃないですか」

忍「でも茄子さんが芸をするのって大体生放送のテレビですよね?」

忍「失敗したりはしないんですか?」

茄子「テレビだと分かるようなミスはしたことありませんね~」

いくら練習していても本番のプレッシャーとかに負けたりしないのかな?

茄子「でも地方の営業とかだとたまにミスすることもありますよ~」

忍「えー、それって大変じゃないんですか」

失敗したら幸運の女神の看板に傷がついちゃうよね。

茄子「でもね、そんなときはこう言ってフォローするんです」

茄子「『今日は皆さんに幸運をあげすぎて私の分が無くなっちゃいました』ってね」

忍「幸運の女神っていうキャラを守るのも結構大変なんだね」

茄子「そうですね~、でも楽しいですよ♪」

茄子さんが笑いながらアタシの湯のみにお茶を注いでくれる。

忍「失敗を運のせいにできないんだもんね」

茄子「それはみんなそうですよ、アイドルは実力の世界ですから」

茄子さんの口からそんな言葉が出るとは意外だった。

茄子「運がよくてアイドルになれる人は居ても、運だけで成功できる人はいませんよ~」

茄子「本当に実力がある人しか上に登ることはできません」

忍「厳しい世界なんですね」

茄子「はい、だから成功した時はとっても嬉しいんですよ♪」

やっぱりそうだよね、アタシも今は勉強頑張ろう

忍「あれ、もうノートないや」

鞄の中を探しても、寮に持ってきたノートはすべて使ってしまった。

忍「しょうがない、買いに行こうっと」

コンビニでもいいけどせっかくだからちょっと足を延ばして
駅前の文房具屋さんまで出かけよう。

昼間は日がさしてコートがいらないくらいに暖かい。

地元だとこの時期は雪が降ったりで晴天はほとんどないんだけど、
東京では毎日のように太陽が見れる。

忍「あ、ここ…」

そこはアタシがプロデューサーさんと出会った広場。
あの日声をかけてもらえたから今こうしているんだよね。

忍「もしあのまま田舎に居たら今頃どうしているのかな…」

ふと疑問が頭に浮かぶ。

あーでもアタシの高校もそろそろ期末試験の時期か。

そうしたらやっぱりウンウン唸りながら勉強して
今頃ノート買いに行ってたかもしれないね。

どこまでも澄んだ青空を見上げながらそんな事を考える。

アタシの行動で変わったこと変わらないこと。

運命なんてあるか分からないけど今できることをやるしかないよね。

忍「今日もがんばるぞーっ!」

自分に気合を入れてみる。

まあでもちょっとくらい…

少し汗をかいたアタシの足はアイス屋さんへと向かっていた。

茄子「はい、終了~」

参考書を見ていたアタシの目の前が突然暗くなった。

茄子さんが後ろに覆いかぶさりアタシの目を両手で隠す。

忍「あれ、もう時間ですか?」

目隠しを外して時計を見ると夜の九時を回っている。

茄子「今日の勉強はここまでです」

そう言って茄子さんはアタシの教科書やノートをしまっていく。

茄子「明日は試験なんだから後はお風呂に入ってゆっくり休んでくださいね~」

そう、無理しすぎないようにって夕食の時に相談していたんだ。

忍「んん~」

大きく伸びをしてアタシは飲み物を取りに食堂へと向かう。

志保「あら、忍ちゃん。勉強は終わったの?」

食堂に行くと志保さんがエプロンをしてなにか調理をしている。

志保「明日はお弁当作ってあげるからね、今準備をしているの」

忍「いいんですか?ありがとうございます!!」

志保「いいのよ、試験頑張ってね♪」

志保「あ、それからね。ちひろさんから服を預かってきたの」

志保「良かったら明日これを着て行ってくださいねって」

椅子の上に袋が置いてある。

取り出すと中からはセーラー服が、何故か緑色の…。

しかも蛍光色って…

忍「あの…これはお気持ちだけで結構です…」

♪キーンコーンカーンコーン

試験官「はい終了時刻です。解答用紙を集めるのでそのままで」

ふう…

アタシは大きく息を吐き出して鉛筆を置く。

試験官「それではこれから昼休みです。午後は面接がありますので」

試験監督の先生がそう言い残して教室を出ていく。・

午前中の筆記はまあまあの出来だったかな?

お腹も空いたしとりあえずはお弁当食べよう。

飲み物を買おうと廊下にある自動販売機にやってくる。

忍「おお、種類がいっぱいある♪」

どうして学校の自販機は値段が安いんだろうね?

アタシはそんな事を考えながら出てきた
ジュースを取り出して元の教室に戻ろうとする。

忍「あ、ごめんなさい」

向こうから来た女の子にぶつかりそうになり慌ててよける。

あれ?

アタシが振り返るとその子は自販機の前で飲み物を選んでいる。

その姿には見覚えがあった。

最近雑誌とかに出ているアイドル、だよね。

あの子も一緒に受験していたんだ。

教室に戻りあらためて見回すとやっぱり可愛い女の子が多い。

アイドルと候補生の為のコースだから当然かな?

でもまあ…

ジュースを一口飲んでアタシはお弁当のふたを開ける。

芸能界では先輩でも今日の試験は筆記と面接。
それならアタシにもチャンスはあるからね!

忍「うわー、カツサンドだ!」

切りそろえられた断面が綺麗に上を向いている。

一きれ取って口に運ぶ。

しっとりしたパンにかぶりつくと中にはサクサクの衣
さらに噛むとじわっとソースと肉汁が溢れ出て
柔らかい肉がとってもジューシー♪

うーん美味しい♪

志保さんありがとう。

あっという間に一きれ食べ終えて次のサンドに手を伸ばす。

ふと見ると窓の外はどんよりと雲が立ち込めている。

うーん、傘持ってないから帰るまでに降らないといいんだけどな。

午後の面接は一人ずつ呼ばれて試験室に入って行く。

廊下で待機しているとアタシの名前が呼びあげられる。

忍「6番、工藤忍です。よろしくお願いします」

試験官の先生が並んでいる前に腰掛けて質問に答えていく。

出身の中学校や今まで在学していた高校のこと。
現在の住まいやバイトしてる事なんかを答えていく。

芸能関係の高校では珍しくないのか
アタシが東京に出てきて一人暮らししている
事情についても深くは追求されなかった。

芸能事務所に所属してレッスンしたり、
小さなお仕事をしていることなんか説明していく。

今のところ大きな間違いはないと思うんだけど…

質問に答えるたびに試験官の反応が気になって仕方ない。

だけど向こうもプロ、アタシの話がどうだったかほとんど表情に出してない。

うう…どうなんだろうアタシの評価は…?

試験官「それでは最後の質問です」

試験官「工藤さんは将来どんなアイドルになりたいですか?」

うーん、どうしよう。

アタシはアイドルになるのが夢で、
どうしたらアイドルになれるのかはたくさん考えてきた。

でもアイドルにもいろんなタイプが居て、
アタシはどんなアイドルになるんだろう。

ううん、どんなアイドルになりたいんだろう。

はっきりとした答えはまだ出せていないけど
今は悩んでる時間はあまりない。

思ったことをそのまま伝えるしかないんだよね。

忍「アタシは…歌もダンスも演技もまだそんなに上手じゃなくて…」

忍「一生懸命練習したりはしてるんですけど、それでもまだまだなんです」

忍「だけど、そんなアタシでも応援して支えてくれる人がいるなら…」

忍「精一杯努力して、これが今のアタシの全力だよって!」

忍「胸を張ってみんなに見てもらえるような、そんなアイドルを目指したいと思います」

志保「お疲れ様、試験はどうだった?」

校舎を出ると志保さんが傘を持って立っていた。

忍「ありがとうございます、わざわざ来てくれたの?」

志保「雨になるかと思って傘持って来たんだけどね、いらなかったかな」

忍「ううん、まだ降るかもしれないしね。お弁当ありがとう、美味しかったよ♪」

志保「そう、良かった。今度お店でも出してみようかな」

志保さんと並んで、駅に向かって歩き出す。

忍「筆記はまあ良かったんだけどね、面接は緊張したなあ」

志保「ふふっ、アイドルになったらオーディションとかでしょっちゅう面接があるわよ」

そうか、お仕事もらうためには今日みたいな自己PRをしなくちゃいけないのか。
どんなアイドルになりたいか、もっと良く考えてみないとね。

志保「今日はどうするの、このままアパートに戻る?」

忍「ううん、事務所に行ってみたい。最近は顔出してなかったから」

志保「そう、ならもう一晩寮に泊まって行けば?」

志保「試験も終わったし、今日はみんなでお鍋にしましょうか」

忍「はぁ…」

店長「どうしたんだいタメ息なんかついて、珍しいね」

忍「あ、おはようございます」

バイト先のレストランで開店前の掃除をしていた
アタシは書類を持って通りかかった店長に挨拶をする。

忍「今日発表なんです、高校の試験の」

店長「あー今日か、もう見に行ったの?」

忍「いえ、郵便で結果が届くことになってるんですけど」

学校にも張り出されるんだけど一人で見にいくのが怖かったんだよね。

家に居ても落ち着かないし気を紛らわすために
早番のシフトにした、なんて言ったら怒られるかな?

ん…?

ああマナーモードの携帯が震えてる。

忍「すいません、ちょっと電話出ます」

店長に断って電話に出る。

忍「はい忍です。はい…、はい…分かりました。それじゃあ夕方に行きます」

店長「どうしたんだい?」

忍「プロデューサーさんからです、バイト終わったら事務所に来るようにって」

またお仕事の話かな?

最近は勉強ばかりだったから久しぶりにアイドルらしいことしたいよね。

♪ポーン

エレベータの扉が開く。

バイトが終わったアタシは事務所の扉の前に立つ。

シンデレラプロダクション、と書かれたプレートが飾ってある。

最初はここに入るのにちょっと緊張していけど
今ではすっかり馴染んで自分の家に帰ってきたみたい。

アタシも少しはアイドルに近づいてきたのかな。

忍「おはよーございます」

元気にあいさつをしながら事務所の扉をいっぱいに開く。

パンパパンパンパン

え、え?

頭の上からヒラヒラと紙吹雪やテープが舞い降りてくる。

そして目の前には…

打ち終えたクラッカーを持ったみんなと

『忍ちゃん高校合格&誕生日おめでとう!!』

の横断幕が。

え、え?何これ?

P「おめでとう忍、高校受かってたよ」

え?合格?Pさんもう知ってるの?

ちひろ「プロデューサーさんが学校まで見にいったんですよ」

いやそれならアタシも連れてってよ!

ってそれより

忍「誕生日知ってたの?」

P「今日だろ、3月9日。そりゃ履歴書とか見れば分かるしな、一応親御さんにも確認したけど」

まあ、それはそうか。って!

忍「いつの間にこんな準備したの?」

事務所の中はいつもの机が片づけられて
テーブルの上には料理やお菓子が並んでいる。

P「みんなで協力したんだよ、いやー忍に気づかれないようにするの大変だった」

いやいや、力入れるポイントが違うでしょ!

志保「はーいタルト焼き上がりましたよ」

給湯室からエプロン姿の志保さんがお皿を持って現れる。

雪乃「今日は特別なお茶を用意しましたの、さあ召し上がれ♪」

わわ、雪乃さんまでティーカップに紅茶注いでる。

穂乃香「おめでとうございます、これ頑張って取ってきたんですよ」

穂乃香ちゃん、そのブサイクはアタシの鞄より大きいよね?

茄子「それじゃあ1番、鷹富士茄子。どじょうすくいやりまーす」

志保「茄子さん、まだ早いですよ!」

っていうかアイドルがそれやっちゃダメでしょ!!

P「それじゃあまずは主役の忍から一言もらおうかな」

アタシはいつの間にか飲み物を渡されて一番奥に立たされていた。

見回すとみんなが笑顔でこちらを向いている。

えーと、こういう時はなんていえばいいんだろう…

忍「あの、みんな今日はありがとう。とっても嬉しいよ」

忍「アタシ今まで以上に勉強もアイドルも頑張るから…」

忍「これからも工藤忍を応援よろしくお願いします!!」

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本編以上になります。

もともとは忍ちゃんの誕生日にSSを投下する予定で
初期Rをフリトレでお迎えしたんですが、
育てているうちにどんどん話が膨らんでしまいました。

もはや誕生日に遅刻とかいうレベルではなくなって来たので
開き直ってゆっくり書きたいように書いた次第です。

ちょっとやすんでおまけコーナーいきます。

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カリカリカリカリ…

ペラ、ペラ…

あずき「うー、もう限界だー」パタリ

柚「あずきチャーン、しっかりー!寝たら凍えちゃうよー」ユサユサ

あずき「うう…柚ちゃん…あずきが倒れた後はこれをよろしく…」

柚「こ、これは数学のノート…ダメだよあずきチャン、これはあずきチャンが持ってないと…」

あずき「あずきはもうダメだから…後は頼んだよ…」

柚「あずきチャーン、寝るなら柚も一緒に…」

忍「なにやってるの?」

あずき「えーと、演技の練習。なーんてね」

忍「もう、テスト前だからって勉強会しようっていったのあずきちゃんだよ!」

あずき「えへへっ、ごめんね」

柚「分からないとつい眠くなっちゃうよね」

あずき「勉強会して答えを教えてもらおう大作戦だったんだけどね」

忍「宿題じゃないんだから答えだけ教えてもらっても意味ないよ」

あずき「そうだよねー」

穂乃香「あずきちゃん、どこが分からないの?」

あずき「えーとね、この辺りの問題なんだけどね」

穂乃香「ああ、これなら補助線をこう引いて…」

忍「もう柚ちゃんまで一緒に悪ノリして」

柚「ごめんねー」

忍「柚ちゃんは勉強大丈夫なの?」

柚「アタシはいつもだいたい真ん中くらいだよ」

穂乃香「ほらこうやれば面積の比が求まるから」

あずき「すごーい、できたー♪」

穂乃香「パターンを覚えてしまえば簡単ですよ。この問題も…」

忍「いつの間にか穂乃香ちゃんが先生になってるね」

柚「教え方が上手いみたいだね」

あずき「うん、とっても分かりやすいよ」

あずき「穂乃香ちゃんてすごいよね、美人だしスタイルいいし、優しくて努力家で」

忍「バレエも上手だし真面目だしね」

あずき「なんかずるいー、一つくらい欠点あってもいいのにっ!」

柚「可愛いものに対するセンスがずれてるとか?」

忍「ふふっ」

あずき「穂乃香ちゃんだとそれも萌えポイントになっちゃうのっ!」

あずき「たとえばアタシが変な人形大事にしてたら子供っぽいって言われるでしょ?」

あずき「世の中は不公平だー」

柚「まあまあ、あずきチャンにもいいところはたくさんあるよ」

穂乃香「そういえば、この前撮影したグラビアとっても綺麗でしたね」

あずき「ホント!?穂乃香ちゃん、見てくれたんだ!」

穂乃香「はい、とっても艶やかで大人っぽかったですよ」

あずき「えへへ♪プロデューサーは色気が足りないなんて言ってたけど」

あずき「やっぱり見る人が見れば分かるんだね♪」

穂乃香「ええ、それじゃあ次はこの問題をやってみましょうか」

あずき「ウン♪」

デスカラココハヘロンノコウシキヲツカッテ

忍「すごいね、あずきちゃんがすっかり穂乃香ちゃんのペースで勉強してるよ」

柚「ファンだけじゃなく女の子のハートも掴むようになってきたね」

柚「このままじゃ穂乃香チャンに差をつけられちゃうかもっ」

忍「そうだね、でもね柚ちゃん…」

忍「アタシたちは今できることを頑張るしかないんだよ」

柚「今できること…それは…」ゴクリ

忍「テストに向けて勉強することだよ!」

柚「あー…」

柚「まあそうだよね…」

以上で終りです。

読んで下さった方ありがとうございました。

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とりあえず本編が一段落したのでこの機会に
参考にさせていただいた作品を2点紹介したいと思います。


工藤忍「ホワイトドロップ」
工藤忍「ホワイトドロップ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363729791/)

Pさんがカッコいいです、忍ちゃんが可愛いです。
読むたびにこの先どうなるんだろうとドキドキしてしまいます。

フリスク結成前の話ですが最近忍ちゃんに興味を持たれた方はぜひ一度読んでみてください。


太宰 治  津軽(青空文庫)
http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/card2282.html
(スマホの方はアプリだと読みやすいです)

青森の人の気質を知る為に参考になればと読んでみました。
忍ちゃんの中にある不器用な強情さは土地柄なのかな、と思いました。

それではHTML化依頼出してきます。

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