スネ夫「おいのび太、葬式ごっこしようぜ」(48)

ここまで考えた

のび太「葬式ごっこって……」

スネ夫「バカ!ボクチン達だけじゃ、本物のお葬式なんかあげられっこないだろうッ?」

ジャイアン「ああ、スネ夫の言う通りだ、オレらはまだ、小学生なんだからな!」

スネ夫「そうそう!のび太は知らないだろうけど、ちゃんとしたペット葬ってやつはすっごくお金かかるんだからね!さ、みんなで裏の山に行って、この猫ちゃんを埋めてあげよう!」

しずか「かわいそうに……。車にはねられたのね……」

ジャイアン「ああ……、こんな車通りの少ない道で……。ちくしょう!おれが犯人を見つけたらとっちめてやる」

スネ夫「やめなよぉ、ジャイアン、見つかりっこないってえ」

のび太「ね、ねえ。そもそも葬式ってどんなことやるのさ?」

ジャイアン「なんだよのび太。お前葬式も知らねえのかよ」

スネ夫「はあ~これだからのび太は」

のび太「むっ、だっ、だって!僕お葬式なんて、小さいころお婆ちゃんの葬式に出たぐらいしか経験した事ないんだもの!」

しずか「そういえば私も大叔母さんのお葬式に、おかあさんについて行ってたぐらいしかないわ…。ちゃんとお葬式するって、何をすればいいのかしら……」

スネ夫「そ、そんなの、『ごっこ』なんだから!適当でいいのさぁ!」

ジャイアン「お、おうよ!オレらはまだ小学生だし、な!」

しずか「うん……、そうよね、大事なのは気持ちだものね……」

ジャイアン「おう!そうそう、気持ち気持ち」

のび太「えーと、じゃあ……とりあえずお棺?に入れてあげようよ。このままじゃ……、ちょっと運び辛いし……」

スネ夫「そうだね~、ちょっと素手で触るのは抵抗あるもんねえ……どんな病気持ってるかわかんないしさあ……」

ジャイアン「なーにビビってんだ、おまえら。だらしねえなあ」

スネ夫「みんながジャイアンみたく平気で触れると思わないでよね…」

ジャイアン「んん?!なんか言ったか?!」

スネ夫「いえいえいえ!言ってません言ってません!!!!」

しずか「でも、お棺どうしましょう。ちょうどいいのがあるかしら……」

のび太「うーん、そうだね……、よし!じゃあとりあえず僕、ドラえもんを呼んで………ああっ!!しまった!!そうだ、ドラえもん今日留守だった!!!」

みんな「ええっ?!」

ジャイアン「相変わらず使えねえなあ、のび太は」

スネ夫「ほんと、ドラえもんのいないのび太なんてただのお荷物じゃないか」

のび太「そこまで言わなくったっていいだろう!?」

しずか「でも困ったわ。私たちだけで、やらなくちゃダメね……」

ジャイアン「はーよいしょっと」ヌギッ

スネ夫「ジャ、ジャイアン?!どうしたのさいきなり脱ぎ出して?!」ギョッ

のび太「しっ、しずかちゃんの前だぞ!!このエッチ!!」

ジャイアン「ばかやろう!!運ぶもんがないからこうやってオレ様が変わりを用意してやってるんだろうが!!」ボカッボカッ

スネ夫「痛い!!」

のび太「痛い!!」

しずか「まあ!たけしさん自分のtシャツで……!」

ジャイアン「こいつでくるめば少しは違うだろう。母ちゃんにはぶん殴られるだろうけど、まあ猫ちゃんにくれてやるよ」

しずか「ありがとう、たけしさん、私が持つわ」

ジャイアン「いいってしずかちゃん、オレ様のtシャツだしな」

スネ夫「あ、それで山まで持って行くわけね…」タンコブ

のび太「ジャイアンあったまいい~!」タンコブ

ジャイアン「だろう~?もっと誉めてもいいぜ~?」

【山】

ジャイアン「よーし、ここら辺でいいかなッ。じゃあ、のび太、スコップ出せ」

のび太「ゼエハア……は、はい…。どおぞ…」

しずか「のび太さん大丈夫?」

のび太「ダッシュでスコップ取って来ないとぶっ飛ばされると言われればね……ゼエハア」

ジャイアン「よし、のび太スネ夫、掘れ!」

スネ夫「まあ予想はしてたけど……」ザクザク

のび太「ヒィ…僕走って来たのに…」ザクザク

しずか「手伝うわ…」ザクザク

スネ夫「おっ、いい感じに掘れてきたね」

のび太「ゼエゼエ…よし…じゃあ埋めて……」

ジャイアン「すとっおぉーーーっぷ!!」

みんな「!?」

ジャイアン「ただ埋めるだけって、それって葬式って呼ぶのか?」

のび太「! た、たしかに…」

しずか「そうよね……」

スネ夫「ええ~、でももう疲れたよぉ~」

ジャイアン「おいスネ夫、おまえが言い出したんじゃないか!」

スネ夫「そうだけど…でもぉ~~」

のび太「お葬式……お葬式か……」

しずか「のび太さん?」

のび太「うん!そうだ!ねえ、みんな!お花を詰みに行こう!!」

スネ夫「お花ぁ?」

ジャイアン「おう!そうだ!確かに葬式といえば花だな!!のび太にしてはやるじゃねえか!」

のび太「へへへぇ」

ジャイアン「そうと決まれば、行くぞ!!お花を詰みに!!」

のび太「おう!!」

スネ夫「ええ~、ま、待ってよぉ~」

ジャイアン「スネ夫、お前はそこで猫ちゃんについてろ!!」

スネ夫「えっ」

のび太「よろしくスネ夫!」

しずか「お願いね、スネ夫さん!」

【山中】

のび太「うーん…山の中だと、あんまりお花らしいお花はないなあ…」ガサガサ

のび太(あれ……?そういえば、なんで、お葬式では花が必要なんだっけ?)

のび太(というか、なんでお葬式ごっこだなんて、重い遊びになっちゃったんだろう……)

のび太(……)

のび太(……)

のび太(遊び……?)

しずか「のび太さん!どうだった…?」

のび太「ああ、うん、このくらいしか、見つからなくて……」

しずか「まあ!私よりも多いじゃない!さすがのび太さんね…!!」

のび太「そ、そんなことないよ……//」

ジャイアン「おい、のび太!!なに鼻のばしてやがる!!ちゃんと取って来たんだろうな!!」

のび太「ヒィ!!と、取ってきたよ!!ほら!!」

ジャイアン「ふう、やっぱり山の中じゃあこんなもんだな…」

しずか「でもほら、見て、3人分あわせたら、結構花束っぽいわよ」

のび太「ほんとだね!じゃあ、あとは……」

スネ夫「……」

のび太「スネ夫…?」

スネ夫「あ、う、うん。そうだね……、あとは、穴に猫ちゃんを入れて、回りに花を添えようか」

しずか「そうね。それがいいわ」

のび太「えと、じゃあ、僕が…」

スネ夫「いや、ボクチンがやるよ…」

のび太「えっ、そ、葬式お前!?」

ミス

のび太「えと、じゃあ、僕が…」

スネ夫「いや、ボクチンがやるよ…」

のび太「えっ、そ、そお?」

スネ夫「うん……」

のび太「じゃあ、僕は花をいれるね……、しずかちゃん、花ちょうだい」

しずか「はい」

ジャイアン「やっぱ花足りねえなあ」

スネ夫「ジャイアン、ボクチンもお花とりに行くよ」

ジャイアン「おっ、そうか?」

しずか「じゃあ、私も…」

ジャイアン「そうだな、次はのび太、お前が残れ」

のび太「あっ、うん!わかった!」

のび太「……」

のび太「……」

のび太「……」

のび太「…………ちょっとこわいな」

のび太「……」チラッ

猫「」

のび太「……」

のび太(こわくない……と、おもう)

のび太(むしろ、なんだか綺麗だ)

のび太(お花のおかげかな……、お花ってすごいな……)

のび太「……」

のび太(よくよく見ると……)

のび太(やっぱり猫ってかわいいな……、生きてたころはもっとも可愛かったんだろうな……)

のび太(その小さい足で……、草を踏みしめて……)

のび太(歩いてたんだよ、なあ……)

のび太「……」

のび太「……」

のび太「……」

のび太(スネ夫も……、猫と二人っきりのとき、こんな風だったのかな………………)

のび太「……」

のび太「……」

のび太「……」

のび太「……」

ジャイアン「よお!おまたせ!!」

しずか「大丈夫かしら?のび太さん」

のび太「大丈夫だったよ!花はとれた?」

スネ夫「ああ、ちょっとだけだけど、とれたよ!」

のび太「なら良かった」

しずか「ええと、次は……」

のび太「お別れの挨拶だ」

しずか「え?」

のび太「お別れの挨拶をするんだよ。お花をあげながら」

スネ夫「うん、そうだ。みんなで挨拶しよう」

しずか「ええ…、そうね」

ジャイアン「おう」

のび太「猫ちゃん、さようなら」

しずか「さようなら猫ちゃん」

スネ夫「さようなら…」

ジャイアン「さようなら猫ちゃん…」

さようなら、さようならと言いながら、四人で花を添えていく。

僕の目から、何故か涙が溢れる。

ごめんね、ごめんなさい

人間のせいで、死なしてしまって、本当にごめんなさい…、こんな弔い方しか出来なくてごめんなさい……

心に中で謝りながら、涙をぼろぼろと流す。

目頭はどんどん熱ぼったくなっていく。

なんの関係もない、ただの猫なのに……

これは気紛れだったのに……

むせびそうになる声を必死に抑えて、
のび太は「さようなら、さようなら」と猫に語りかけた。

ジャイアン「さようなら…」

ジャイアンの声が詰まるように途切れて、僕はふと、視線をあげた。

ジャイアンも泣いていた。

花をあげながら、猫を見つめ泣いていた。

スネ夫も泣いていた。

しずかちゃんも泣いていた。

それを見て、僕は一層、耐えきれずに声を嗚咽混じりにした。

みんな、僕につられたように、声をふるわせる。

ぼろぼろと、拭うことなく、涙を流し、いとおしむように、花を添える。



野草の花に囲まれた猫は、少しだけ、幸せそうに見えた。

.



ジャイアン「……よしっ」

小さくこんもりと盛り上がった土を見て、
ジャイアンは立ち上がる。

ジャイアン「帰るぞ!!」

スネ夫「うん」

しずか「ええ、帰りましょう」

のび太「……うん」

僕達は帰り道、自然と沈黙したままだった。

泥だらけの手をそのままにしながら、のび太はまたぼんやりと、色んな事を考えた。

(僕達も、いずれ死ぬんだ)

(今日やるはずだったお葬式ごっこは、
きっと……ごっこじゃなくて、立派なお葬式だったんじゃないかと思う)

(僕もお葬式してもらうならこんな風に泣いて欲しいなあ…)

(お葬式って、暗くて、怖くて、寂しいイメージしかなかった)

(こんなにも、あたたかくて、優しくて、あつくて、かなしいんだなあ…)


のび太「スネ夫」

スネ夫「…なんだい」

のび太「もう、お葬式ごっこ、だなんて言葉、使っちゃダメだよ」

スネ夫「……わかってらい」

スネ夫は自分の膝を睨み付けて、ポツンと言った。






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