俺「シーユー・レイター・アリゲーター」

幼女「いんな・ほわいる……なんだっけ？」

俺「クロコダイル」ﾎﾞｿｯ

幼女「ん、そうそう……いんな・ほわいる・くろこだいる」

俺「くっふぅ……これは効くぜ」

幼女「ねね、間違えちゃったから、もいっかい」

俺「いいの？　それじゃ……シーユー・レイター・アリゲーター」

幼女「いんな・ほわいる・くろこだいる」

俺「くっはあぁぁ……効くぜ！」

幼女「んぅ、お兄ちゃんがよろこんでくれると、わたしもうれしー！」

俺「よし……それじゃ最後は、知らんぷりしてくれ」

幼女「……しらんぷり？　わかった」

俺「シーユー・レイター・アリゲーター」

幼女「……」ｼｰﾝ

俺「えっと……幼女ちゃん？」

幼女「……」ﾂｰﾝ

俺「えっとね、知らんぷりってそういうことじゃないんだ」

幼女「え、ちがった？」

俺「うん。俺が言ったあと、なにそれおかしー……とか言ってくれればいいかな」

幼女「んぅ、りょーかい！」ﾋﾟｼｯ

俺「くはあぁ……たまらん……よろしく！」

俺「シーユー・レイター・アリゲーター」

幼女「……くふふ、お兄ちゃん、おもしろーい」

俺「いや、シーユー・レイター・アリゲーターって言われたら、インナ・ホワイル・クロコダイルって返すんだよ」

幼女「ふーん、そうなの……いんな・ほわいる・くろこだいる……これでいい？」

俺「……」

幼女「えっと、お兄ちゃん？」

俺「……くはぁ、生きてて良かった、生まれてきて幸せだ」

幼女「そんなにっ！？」

ダン・シモンズの名作sf『ハイペリオン』は、だいたいこんな感じです
みなさんも是非お試しを

『ハイペリオン』を読んだ「俺」が、
「幼女」を登場人物のひとりに見立て、
名台詞を言わせて遊んでいる……という、どうしようもない状況。

石ころ握りしめて「バルス！」と叫ぶラピュタごっこのようなもの

俺「それじゃあ次……どうぞ」

幼女「このからだはあなたの……えっと……ええっと……」

俺「うーん、長いセリフは難しいか」

幼女「うん、ごめんね」

俺「いや、いいんだよ……それじゃあ……」ｺﾞﾆｮｺﾞﾆｮ

幼女「ん？　んぅ、そういえばいいの？」

俺「よろしくお願いします」

幼女「ん……どこにいこうかしら、ねっとはこうだいだわ」

俺「ぐはあああぁぁぁ！　幼女ちゃん！　かわいい！　かわいいっ！」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

幼女「ふにゃ……お兄ちゃ……えへへぇ……」

俺「続けていきましょう」

幼女「はいっ！」

俺「ええと、次は……バイオハザードかなあ」

幼女「え……あのえいが、こわいからきらい」

俺「でもさ、この台詞言って欲しいんだけど……」

幼女「ん……うぇ、こわいからいや！」

俺「ううぅ……幼女ちゃんが言ってくれたら、俺すっごくうれしいんだけどなあ……」

幼女「ほんと？　それじゃあ、すこしだけなら、いいよ？」

俺「うぐはああ！　よろしくお願いしまーす！」

幼女「それでは……こほん……あなたたちはここでしぬ」

俺「うひょおおぅ、背筋がぞっとしたぜ」

幼女「……」

俺「あれ、どうした？」

幼女「お兄ちゃん、しんじゃだめ」

俺「死なないって……よしよし」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

幼女「ふに……んみゅ……」

なんか、俺のダメ人間っぷりが露呈してるな
もう控えるわ

幼女「ねー、つぎはー？」

俺「つぎ？　んー……そうだなー……」

ｺﾝｺﾝ

俺「はい、どうぞ」

ｶﾞﾁｬ

叔母「俺くん、幼女いる？」

俺「ああおばさん」

幼女「おかーさん」ﾄﾃﾄﾃ

叔母「ああ幼女、良かったわねえ……お兄ちゃんと遊んでもらえて」

幼女「うん！」

叔母「ああそれと俺くん？」

俺「はい？」

叔母「おばさんって呼ぶなって、何度言えばわかるのかしら？」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ

俺「ひ……ひぃっ！？　ごめんなさい、叔母さん！」

叔母「うむ、よろしい」

叔母「はい、替えの服と、歯ブラシと……お菓子も買ってきたわ」

俺「いつもすいません」

幼女「おかし……うぅ……」

叔母「だめよ？　これはお兄ちゃんのだから」

幼女「うん……お兄ちゃん、おかしたべて、げんきになってね」

俺「あはは、ありがとう」

叔母「それじゃあ行くわ。俺くん、しっかり寝るのよ？」

幼女「お兄ちゃん、また来るね」

俺「うん、またね」

幼女「あ……しーゆーれーたー、ありげーたー」

俺「インナ・ホワイル・クロコダイル……またね」

叔母「ふふ、なにそれ……じゃあね俺くん」

俺「はい」

ｶﾞﾁｬ……ﾊﾞﾀﾝ

俺「行ったか……」ｹﾞﾎｹﾞﾎ……ｺﾞﾎｯｺﾞﾎｯ

翌日
ｺﾝｺﾝ……

俺「はーい」

幼女「こんにちは」ﾋﾟｮｺﾝｯ

俺「わ、幼女ちゃん？　あれ、お母さんは？」

幼女「きょうはおしごと」

俺「え、それじゃあ、どうやってここまで……」

幼女「ようちえんからあるいてきたの」

俺「ひとりで？」

幼女「うん」

俺「幼女ちゃん、お見舞いに来てくれてありがとう……」

幼女「ん？　んぅ……えへへ……」

俺「でもね、幼女ちゃんはまだ小さいんだから、ひとりで来ちゃダメ。お母さんと一緒においで」

幼女「……ん、うん」

俺「幼女ちゃん？」

幼女「……うん、ごめんねお兄ちゃん」

俺「別に怒ってないよ」

幼女「……ほんと？」

俺「ホントは叱るべきだろうけど、幼女ちゃんが来てくれて、うれしくて……ほら、おいで」

幼女「お兄ちゃん……わーい」ﾄﾃﾄﾃ……ﾎﾟｰﾝ

俺「うぐっふ……幼女ちゃん、また背伸びた？」

幼女「うん。ねんちょうさんだもん」

俺「そーかぁ、来年の今頃は小学生か……どおりで……」

幼女「……お兄ちゃん、わたし、おもい？」

俺「そんなことないよ」

幼女「でも、お兄ちゃんのおてて……ぶるぶるして……」

俺「……っ」

幼女「お兄ちゃん、ちょっとやせた？」

俺「……ああ、ほら、ダイエットしてるんだよ。前よりかっこよくなったでしょ？」

幼女「ううん……まえのほうが、げんきだった……」

俺「……そうかな」

幼女「うん」

俺「幼女ちゃんは俺のこと、もう少し太ってた方がいいと思う？」

幼女「うん！　……あ、でも、あんまりふとっちゃいや」

俺「あはは、わかったよ。お菓子食べて元気出さないとね」

幼女「おかし……」ﾋﾟｸｯ

俺「昨日叔母さんが買ってきてくれたお菓子があるからね。一緒に食べようか」

幼女「いいの？」

俺「うん。量が多くて、ひとりじゃ食べきれないと思ってた所なんだ」

幼女「そーなの……なら、たべるー」

俺「それなら、よっと……」ｷﾞｼｯ

幼女「あれ……パジャマ？」

俺「うん。ベッドに寝てることが多いからね」

幼女「……ふーん、あさにおきがえしないと、おぎょうぎわるいんだよ？」

俺「あはは、そうだね……えっと、お菓子は……バームクーヘンか……はい、どうぞ」

幼女「ありがとー！」

控えないことにした
今日はここまで

幼女「もぐもぐ」

俺「はい牛乳」

幼女「むぐ、ありがと。んぐんぐ」

俺「少女ちゃんくらいの歳の子って、無心に食べるよなあ」

幼女「はむはむ……なにかいった？」

俺「いや、べつに」

幼女「んむぐ……お兄ちゃんは、ばーむくへんたべないの？」

俺「んー、あんまりおなか減ってないんだよ」

幼女「そうなの？」

俺「そうなの。さてと、叔母さんにメールしとこう」

幼女「……お兄ちゃん」

俺「ん、なに？　ちょっと待ってね……送信っと……なあに？」

幼女「たべないんじゃなくて……たべられないんじゃないの？」

俺「……そんなことないって」

幼女「ほんと？」

俺「ほんとだよ。幼女ちゃんは、どうして俺がお菓子を食べられないんだと思うの？」

幼女「おばあちゃんちのねこ、げんきがなくなって、ごはんたべなくなって……それで……」

俺「……うん、弱くなった生き物は、ごはんが食べられなくなって、いつか死んじゃうんだよ」

幼女「そんな……お兄ちゃんは……」

俺「俺は元気だよ。今はちょっと調子が悪いだけ」

幼女「そうなの？」

俺「うん」

幼女「なおる？」

俺「治るよ。大丈夫」

幼女「いつ？」

俺「いつかなあ？　こんど手術があるから、夏前には退院できるだろうね」

幼女「夏……なおったら夏休み、すいぞくかんにつれてってくれる？」

俺「うん。動物園も、遊園地も……映画館も、いろんな所に行こう」

幼女「……」

俺「幼女ちゃん？」

幼女「ぜったいだよ？」

俺「うん」

幼女「ぜったいのぜったいだよ？」

俺「もちろん」

幼女「うそついたら、はりを……ひゃくせんまんぼんのむ？」

俺「飲む飲む。うそなんかつかないって」

幼女「……」

俺「大丈夫だって。ほら、指切り」

幼女「……んぅ」きゅっ

俺「ゆびきりげんまん嘘ついたら……」

幼女「はり、せんひゃくまんじゅうまんぼんのーます」

俺「増えたっ！？　ふふ……のーむよ、指切った」

幼女「……」

俺「幼女ちゃん？」

幼女「……お兄ちゃん」ぎゅ

俺「うわ……どうしたの？」

幼女「元気になってね」

俺「うん」

幼女「……ん」

俺「……」

幼女「すー……くぅ……」

俺「疲れてたのかな、あんなに必死な幼女ちゃんは初めて見た」

幼女「……んにゅ、つかれてなんれ……」

俺「うん、お母さんが来たら起こしてあげるから、おやすみ」

幼女「ん……おやす……すぅ……」

俺「うん。おやすみ」

ｶﾞﾁｬ

叔母「幼女来てるって？」

俺「叔母さん、しー」

幼女「んむにゅ……ん……くかー」

叔母「ああもう、ベッドを占領しちゃって……ごめんなさいね俺くん」

俺「良いんですよ」

叔母「でも、幼女は小さいんだから、一緒に寝てれば良かったのに」

俺「ご婦人と同衾するなんて、俺にはできません」

叔母「あら、俺くんってロリコンなの？」

俺「ちがいます！」

叔母「わかったわ……でも、いとこ同士って結婚できるのよ？」

俺「わかってませんよね、それ」

叔母「あら、俺くんなら幼女をまかせても良いんだけどなぁ……なんだかんだで尽くすタイプだし」

俺「からかわないでください」

叔母「幼女、最近料理もはじめてね、これが卵焼きを上手に焼くのよ」

俺「は？　はぁ……」

叔母「お兄ちゃんのお嫁さんになるんだーって」

幼女「いっちゃだめー！」

俺「うわわ、幼女ちゃん？」

叔母「あら幼女、起きてたの」

幼女「おかあさん、ひどい、お兄ちゃんに言っちゃだめって……」ﾎﾟｶﾎﾟｶ

叔母「あらあら、ごめんなさい」

幼女「だめ、れったひ、ゆるはなひ……んぅ……くぅ……」

俺「あ、あれ？」

叔母「寝ぼけてるのよ、こうなったときのこといつも憶えてないんだから……ほら幼女、帰るわよ」

幼女「んむにゅ……ん……」

叔母「ああもう、だっこね……はいはい……よいしょっ！」

幼女「ん……くー……すぅ……」

俺「その体勢で寝れるんですね」

叔母「子供だもの。俺くんだって、姉さんにだっこされて寝てたのよ？」

俺「何年前の話ですか」

叔母「ふふ何年前かしら……遅くまでお邪魔したわね。帰るわ」

俺「はい、お見舞いありがとうございます」

叔母「こちらこそありがとう、こんど幼女が来たとき、迷惑だったら帰らせてね」

俺「迷惑だなんて……」

叔母「ん？　これはやっぱり脈ありか？」

俺「茶化さんでください」

叔母「ふふふ、ほら幼女、お兄ちゃんにバイバイしなさい」

幼女「んゅ……お兄ちゃん……ん……」

俺「そんな、無理にさせないでも……」

幼女「おにいちゃん……れーたー……ありげーたー」

俺「おお……インナ・ホワイル・クロコダイル」

幼女「んにゅ……んん……すぅ……」

叔母「なにそれ、ふたりの合い言葉？」

俺「そんなところです」

叔母「ふむ、すでに調教済みか。手の早い男め、油断ならん」

俺「はいはい、面会時間が終わりますよ」

叔母「もう……ふふ、じゃあね」

俺「はい、お気をつけて」

ｶﾞﾁｬ……ﾊﾞﾀﾝ

俺「……」

俺「……行ったか」

俺「……」

俺「……」ｺﾎﾝ……ｹﾞﾎｹﾞﾎ