トレーナー「もっともっと、好きにまっすぐ」 (47)




モバマス・トレーナー青木明のSSです。



[補足]
マストレ=青木麗
ベテトレ=青木聖
トレーナー=青木明(今回の主役)
ルキトレ=青木慶

(参考:『アイドルマスターシンデレラガールズあんさんぶる!』)




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1431357894




好きという気持ちが、私をきっと、大きくさせた。

あの時の言葉は嘘じゃない。

己の気持ちにまっすぐ向き合う強さ。



たとえそれが、

仕事のことだろうと、

何だろうと。





マストレ「よーしそこまで! 今日のメニューは以上で終了だ!」

トレ—ナー「お疲れ様です! ストレッチして終わりますよー!」



みちる「ブアーッ! 終わりましたー! ハーッ! ハーッ!」

みく「…や、やりきったにゃ〜っ…」

茜「ハーッ! ハーッ! 終わりですか!!!!! おっつかれ様でーす!!!!!」

心「うっぼぁ、っごはッ、ゼーッ! ハーッ! ヘーッ! ハーッ! キッツ…!」



マストレ「よし、あと任せるぞ。先に資料整理始めておくからな」

トレーナー「わかりました。お疲れ様、姉さん」



トレーナー「はーいみなさん、そのまま倒れてないで柔軟体操始めますよー!」





茜「いやー今日のはキツかったですね!!!!! ね!!!!!」グイグイ

みく「茜チャンどんだけ元気なんにゃ…みくはもう無理にゃ〜!」ホグシホグシ

みちる「あたしも足パンパンですよ!」グッグッ

心「オメーら元気すぎるだろぁ…というかなんであたし同じ組で練習してんだって話だな…」イテテテ

みく「はぁとシャンは自分で志願してこっち参加したのに何言ってんにゃ…」

心「そうだけどさぁ…もうアレよ、『ス"ウ"ィ"〜テ"ィ"〜☆』って感じよ」

みく「今アイドルが出しちゃいけない声出したにゃ」

茜「やる気があるのはいいことですよね!!!!! ですよね!!!!!」

心「マストレさんをナメてたわ。あの人はトレーナーちゃんと違って鬼だわ」

トレーナー「ふふっ、やっぱり姉のレッスンは厳しいですよね」

みちる「でもなんか実力ついた気がしますよ!」

心「顔もちょっと鬼っぽいし」

トレーナー「ブフッ」

みく「いないと思って酷いこと言ってるにゃ! しかもトレーナーチャンも笑ってるし!」

トレーナー「///」プルプル

みく「ツボ入ってるし」

みちる「パン食べたいですね!」

心「おう流れ無視した発言やめろや」





彼女たちは今日も元気で、とても魅力的だ。

やはり、前に向かって進もうとしている人のサポートは、楽しい。



アイドルのレッスントレーナー。

これはなかなかに楽しく、そして奥深い仕事だなと改めて思う。

現場に入って数年経つが、今も日々、学ぶことはたくさんある。



今日は麗姉さんのサポートにつく日だった。



みく「しっかしきついにゃ〜! せめてもう少しこなせるようにならにゃいと…」

茜「さらなるパワーアップが必要ですね! とりあえず走りますか!」



麗姉さんのレッスンは厳しいことで有名だ。

だが知識にも実践力にも定評のある姉さんは、

今や業界でも一目置かれるほどの凄腕トレーナーである。

周囲からは「マスタートレーナー」なんて呼ばれているとか。



みちる「なんとか今日のステップをおさえて、次もっと進めるようにしたいですね!」

心「だわなー。いつまでも同じところミスってる場合じゃないしな☆ あっ足つりそう」



だからみんなも、単に過酷なだけのレッスンではないとわかっている。

だからこそ、こうしてひたむきになれるのだ。





トレーナー「前川さん最後のポーズ、もう少し背筋がまっすぐ伸びるともっと映えますよ」

みく「うえぇ、また猫背になってたかにゃ…こうかにゃ?」グーッ ピン

トレーナー「そうですそうです! 前川さんスタイルいいですから、すごく見栄えがよくなりますよ!」

みく「えへへ…ありがとうございますにゃ。気をつけますにゃ」

茜「胸張るポーズカッコいいですよね!」

みちる「みくさんウエストも細いですしね」

心「そのくせおっぱいも結構おっきいからな。ぽよんぽよんしてるよな。イヤんエロいぜ☆」

みく「はぁとシャンもっと言い方ないのかにゃ!」



ワイワイ ガヤガヤ



彼女たちの、こうした和気あいあいとした雰囲気がとても微笑ましい。

みんな夢に向かって邁進しつつ、精一杯今を楽しんでいる感じもあって。

成長のために、みんな必死でトレーニングをこなす。

期待に応えるだけの指導をする。

素敵な信頼関係だ。

もっともっと、私も学ばなくては。



マストレ「こらーっ!!! ストレッチが終わったならさっさと退出せんかー!!!」

心「ヤベェ鬼が戻って来た! 解散!」

トレーナー「フフッ… ああ、姉さんすみません! すみませんすぐ片付けます!」





P「お疲れ様です」ガチャ

トレーナー「あっ、お疲れ様です!」

P「今日も忙しそうですね」

トレーナー「いえそんな、私なんてたいしたことないですよ。プロデューサーさんこそ」

P「あはは。アイドルだけじゃなく、我々も体調管理、しっかりしないといけませんね」

トレーナー「ええ、そうですね」

P「でも本当に、トレーナーさん最近特に忙しそうですよ。頑張ってくださるのはとても嬉しいですが、あまり無理はしないでくださいね」

トレーナー「あ、あはは。ありがとうございます」



私のことまでちゃんと見てくださっているんだな。

ちょっと、嬉しい。



仕事上、プロデューサーさんと話す機会は少なくない。

アイドルのみなさんと接するのとはまた違い、

裏方どうしというか、サポート役どうしというか、

そういう、ちょっとした親近感みたいなものがある。



P「そうそう、これ例のオーディションに関する過去の資料です。参考になりますかね」

トレーナー「わあっ、助かります。ありがとうございます!」

P「いえいえ。このくらいでよければ、いつでも言ってくださいね!」



特にPaチームのプロデューサーさんは、

アイドルのみなさん同様に明るい方で、

いつも元気を頂ける気がして、話していて楽しい。



最近はプロデューサーさんとの打ち合わせの時間も楽しく感じていたりする。

他意はない。

ないのだけれど。





ガチャッ



裕子「♪ミラクルっテっレっバシー! お疲れ様です! エスパーユッコ、ただいま戻りました!」

茜「♪ナンダカンダっ叫んだって! お疲れ様です茜です!!! 戻りました!」

柚「♪この長い長い下り坂を〜! 柚でーす! ただいま戻りましたー!」

P「最後ちょっと待て」

トレーナー「ブフッ」///



柚「あっホラ、トレーナーさんにはウケたよ! イケてるイケてる!」

茜「昨日さんざん練習したかいがありましたね! イエーイ!」

裕子「私のサイキックもバッチリ決まってましたね!」

P「はいはい集合。撮影お疲れ様。とりあえず事務所では騒がない。まあ他所でもそうだけどな」

「「「はーい」」」



賑やかなPaメンバーが集まってきた。

いつもとても元気で、明るくて。

レッスンもよく担当するが、見ていて本当に楽しい。



私はアイドルのみなさんの雰囲気がかなり好きだ。

事務所の空気と、アイドルのみなさんと、ちひろさんと、そしてプロデューサーさん。



ただ…えっと。





茜「プロデューサー、いっしょにご飯行きませんか! お昼の時間ですよ!」

P「んー、まだ仕事あるしなぁ。3人で行ってくるといいよ」

柚「えーせっかくこの時間に合流できたのにもったいないよー。行こうよー」ペチペチ

裕子「そうですよ! プロデューサーぜひぜひ!」グイッ

P「もう…しょうがないな、書類だけまとめるからちょっと待ってろ」



相変わらずプロデューサーさんは大人気だ。

特に…。



裕子「今日の撮影もばっちりでした! サイキックのたまものですね!」ペカー

P「そっか、よかったなー」カタカタ

裕子「スプーン曲げましょうか! 曲がる気がします!」

P「後で見せてもらうよ」カタカタ

裕子「もうちょっとちゃんと反応してくれださいよぅ…」

P「いま書類まとめてんだから我慢しなさい」

裕子「むぅ…」

P「お昼は一緒に行くから。その時に聞くから。向こうで茜たちと待ってて」

裕子「わかりました!」パアア



裕子「♪」ニコニコ







堀さんは最近、今まで以上に元気で明るく、

そして今まで以上に、魅力的な表情をするようになった。

サポートしている私たちとしても、嬉しいことなんだけど。

そう、なんだけど。



堀さんのあの眼差しは、なんというか、

プロデューサーさんへの信頼も、

それ以上のものもあるような、気がする。



果たしてどうなのだろう。

私は恋愛ごとは得意じゃないし、

二人の関係の、本当のところはわからない。



けれど。



自信を持った堀さんの表情が素敵で。

笑顔で応える、プロデューサーさんの姿が印象的で。

あの二人の、信頼関係が、

…とても、うらやましい。





♪ちょっと気後れフリーズしちゃう
 だって仲間はみんな眩しい





ルキトレ「お姉ちゃんお疲れ様」ガチャ

トレーナー「あらお疲れ様、そっちはもう終わり?」

ルキトレ「うん、そっちの片付けも手伝うね! あ、コーヒー入れるけど飲む?」

トレーナー「ふふっ、ありがとう。じゃあお願い」



夕方。

資料を纏めているところに妹がやってきた。

新人トレーナーとして日々サポートに奔走する彼女。



ルキトレ「はい、どうぞ!」



数年前の自分を見ているようで懐かしくもあり、

私以上に元気で、はつらつとした彼女の姿が

ちょっとうらやましくもある。



トレーナー「ありがとう。少し休憩しようかな」

ルキトレ「それがいいよ」



慶が隣の椅子に腰かける。

心なしか口元が緩んでいる気がするが、

何かいいことでもあったのだろうか。





トレーナー「見習いとはいえ仕事大変でしょう。大丈夫? 無理のしすぎはだめだからね」

ルキトレ「大丈夫、まだまだ元気だよ! それに今は仕事がすごく楽しいんだから!」



満面の笑みがまぶしい。



ルキトレ「それよりお姉ちゃん聞いて! 今日久しぶりにCuのプロデューサーさんと話す機会があったんだけどね!」

トレーナー「うん」

ルキトレ「本気でアイドルになりたいと思った時は言ってくださいね、僕がプロデュースしますからね、魅力的だしきっと活躍できますよ、なんて言うの! もう〜お世辞がうまいよね!」テレテレ



懐かしい。

私もプロデューサーさんと出会ってしばらくの間、同じような口説き文句を受けたものだ。

私が本気にしないせいか、最近は言われなくなったけれど。



トレーナー「ふふっ、慶はアイドルに憧れたりするの?」

ルキトレ「え!? いやいや… いやいやそんな! ステキだなとは思うけど… ねえ?」テレテレ



褒められたことが嬉しかったのかな。

微笑ましいな。

女の子、って感じがする。





ルキトレ「CoやPaのプロデューサーさんもそうだけど、みんなそういう、さりげないトークうまいよね!」

トレーナー「そうね。やっぱりお仕事柄、そういう話ができる人でないとダメなのかもね」

ルキトレ「お世辞かもしれないけど、カワイイですねとか、アイドルする気はないですかとか言ってくれるのは、ちょっと嬉しいよね!」



とても前向きで、明るいこの笑顔。

私は妹のこういうところが好きだし、

私含め姉たちを慕ってくれていることも、

とても嬉しく思っている。



ルキトレ「まあ、今はトレーナーを頑張りたいかな。お姉ちゃんたちみたいに」

トレーナー「そっか。それは姉として嬉しいけど、夢は自由に選びなさいよ。あなたはまだ大学生なんだし」

ルキトレ「ありがとう。でも私もお姉ちゃんと同じで、麗お姉ちゃんや聖お姉ちゃんに憧れてるからね。私もああなりたいかな!」



あら。



トレーナー「…」

ルキトレ「どうかした?」

トレーナー「ううん、何でもないよ」



私はまだそっち側、なんだね。

まあ、そりゃそうだよね。



トレーナー「一つずつ、ね」

ルキトレ「…? う、うん。ありがとう」

トレーナー「さ、そろそろ作業に戻るよ」

ルキトレ「はーい。あ、私も書類の整頓するよ!」



ルキトレ「ね、お姉ちゃんはあの3人のプロデューサーさんたちだと誰がタイプ?」

トレーナー「えっ」

ルキトレ(ニコニコ)

トレーナー「…そ、そういうのはいいから早く片付けなさい」

ルキトレ「えへへ、はぁい」





裕子「トレーナーさん、自主トレのメニューをチェックしてほしいんですけど、いいですか?」



翌日、レッスン指導後。

ストレッチの傍ら、堀さんから声をかけられた。



裕子「これ自主トレのメモです」

トレーナー「あ、はい、もちろんいいですけど…え、これいつも家でやってるんですか?」

裕子「あ、いえいえ違います! 明日からちょっとレッスンのスケジュールが空きますよね? その間にも何かしておいた方がいいかなと思って、少し考えてみたんです! サイキック極秘トレです!」



ずいぶんしっかりしたメニュー量だ。自主トレにしては多い。



トレーナー「大丈夫ですか? 最近レッスン続いていましたよ? 少し休むのも大事かと…」

裕子「大丈夫です! あ、いやでも、やりすぎるのもよくないんですよね。そっか、ムムーン…」

トレーナー「一緒に考えますよ?」クスッ

裕子「はい! ありがとうございます!」バッ



いつも笑顔で、楽しそうな雰囲気を周囲に振りまいている堀さん。

堀さんは、きっとこの一生懸命さが人気の秘訣なんだろうな。

…スプーンを構えたポーズの意味はよくわからないけど。





あい「フフッ、ユッコくんは相変わらずだな。自主トレの話もいいが、まずはストレッチをきちんと終わらせたまえ」

裕子「あ、はーい」



エネルギー溢れる堀さんを落ち着かせるかのように、東郷さんが声を掛ける。

堀さんと東郷さん。二人が話しているところを見るのは今日が初めてだったのだが、



あい「押すよ」グッ

裕子「お願いしまーす」グイー



ここでの会話を見る限り、仲はよさそうだ。



トレーナー「お二人とも、今日のレッスンも動きよかったですよ!」

あい「ありがとう。フフッ、私もユッコくんの元気さを見習わないとな」

裕子「ふっふっふ、サイキックパワーですよ!」グイグイ

トレーナー「ええ。でも東郷さんも最近かなり、頑張ってらっしゃいませんか? 心なしか気合いが入っている…ような」

あい「おや、そう見えるかい? 特別そんなに、というつもりはないんだがね」クスッ



髪に手をやるクールな仕草が、なんとも絵になる人だ。

世間では「麗人」なんて言われているらしい。

確かにカッコイイし、そのうえ美人だ。



この人が私と同い年というのは、ちょっと驚きの事実である。





裕子「あ、私もそう思います! 最近あいさんも、なんというか素敵な感じ、ですよね!」グイグイ

トレーナー「ね! この間のイベント以来、カッコイイだけじゃなくて、色っぽい感じも増していますよね!」

あい「おいおい二人とも。お褒めの言葉はありがたいが、褒めても何も出ないよ?」

裕子「あいさん今後はカワイイ路線を目指すんですか?」

あい「…話が飛躍しすぎだろう、よしてくれ」

トレーナー「でも似合いそうですよ、もっとドレッシーな衣装とかも」

あい「や、よさないか、そういう話は」///



珍しい、ちょっとテレている。

こんなかわいい仕草も、するんだな。



裕子「えーでも、この間のイベントの衣装、Coのプロデューサーさんにべた褒めされてましたよね? フリフリのやつ」

あい「あっこら」

トレーナー「そうなんですか?」

裕子「ほめられて、あいさんもまんざらでもなかったってk」

あい「よし、もうちょっと押すぞー」グイー!

裕子「えっちょっ待って! 痛たたたた! サイキック痛い!」ググググ



微笑ましい。

みんな楽しく、一生懸命やってるんだな。



比奈「(眩しいっスねー)」オシー

杏「(アイドルすごいなー)」オサレー

トレーナー「はーい、そこのお二人も元気だしてー!」





トレーナー「そういえばみなさん、今は特にライブとかCDとか、近い期日で大きな予定はないですか?」

あい「あいにく当面はないね。目下、細かな仕事をこなす予定だよ」

裕子「私もないです」

比奈「私もないっス」

杏「いらないっス」

あい「こらこら」



トレーナー「…とするとみなさん、急ぎの練習課題などはないですね…はい、わかりました」メモメモ

あい「とりあえずは基礎練習の強化期間が続くイメージかな?」

トレーナー「そうですね」

裕子「ムムーン! 基礎練大事ですよね基礎練! 私来週はレッスンないですけど、自主トレ頑張っておきます!」

トレーナー「自主トレのメニュー、一緒に考えますね」

裕子「ありがとうございます! エスパーユッコ、気合い十分です!」バッ ババッ

あい「ずいぶんやる気だね。何かいいことでもあったのかい?」

裕子「いえ別に! ただプロデューサーが『ユッコは今こそ基礎練を大事にする時期だな』って言ってくれたので! サイキックパワー強化の為にも、今はコツコツ頑張ろうかなと!」



なんてまっすぐな瞳だろう。

それにこの笑顔。

プロデューサーさんとの信頼関係の厚さを感じる。



…すごいなぁ。



あい「なるほど、いい言葉だね。PaPさんはさすがユッコくんをよく見ている」

裕子「えへへ! それほどでもあります!」

杏「…そういえばユッコはこないだ、担当プロデューサーと約束してたねー。練習頑張って、どこか連れてってもらうとかなんとか」ボソッ

比奈「へー」ニヤリ

裕子「えっ!? なんでそれ、いやあの、ええっ!? 杏さん!?」

あい「ほう、そんなことが。興味深いね」

裕子「いやあの、いえ、そんな深い意味はなく、えっとあの…、サイキックバリアー! ノーコメントでーす!」



ワイワイ ガヤガヤ





同日夕方。

ひとり、帰路の途中で考える。



アイドルのみなさんはとても素敵だ。

それぞれ意見はどうあれ、今の自分に前向きだ。

姿勢から学ばされることが、最近本当に多い。



正直、ちょっとうらやましい。

今、私にこうした前向きさがあるだろうか。

身につまされるところがある。





アイドルのレッスントレーナーになりたい。

私も姉たちのようになりたい。



初めてそれを口にしたのは高校生の時だっただろうか。

当時は麗姉さんがトレーナーとして働きだした頃だった。

その姉は、今や周囲から「マスタートレーナー」と呼ばれるほどで。



私もああなりたい。



そう思ったのは本当だ。

今ではトレーナーを天職だとも思っている。



でも実際、それしか思いつかなかったから

目指したのだろうと言われれば、それも事実だ。



それに。

早くからスポーツ医学にも積極的で、

知識にも実践力にも定評のある麗姉さんや、

仕事からデイトレードまで、

何でもそつなくこなす「デキる人」な聖姉さんと比べ、

私はまだ、誇れることがない。



身体を動かすことは好きだ。

トレーニングを指導する知識ももちろんある。

だがそれ以上となると…。



とにかく、携わる人ひとりひとり、

できるだけ親身になって接することを心掛けていて。

一応、みなさんから温かい言葉はいつも頂けているけど…。



23歳。

いろんな刺激が、周りにある。



もっと、頑張らねば。

もっと、私も成長せねば。





♪きっと誰もが認められたいの
 私どうかな? イケてる?
 祈るようなキモチ





翌日。

今日の私は、どこか冴えない。

メニュー表を忘れて取りに戻ったり、

レッスン計画に修正が必要なことが見つかったり、

帰る時間になって今更、準備しなきゃいけない資料を一つ思い出したり。



幸い、おおごとになっていないとはいえ、

今日は反省しっぱなしである。



トレーナー「はぁ…」



歯車が、妙に狂った感じ。

実は最近、こういうことが何度かあって。

ちゃんと切り替えないといけないんだけどな。





ガチャッ



菜々「あれっ、トレーナーさん! お仕事お疲れ様です!」

トレーナー「あら、お疲れ様です」

菜々「…残業ですか?」

トレーナー「ええちょっと、仕事が終わっていなくて」

菜々「そうなんですか…遅くまで、いつもありがとうございます」ペコリ

トレーナー「えっ、いえ、そんな」



安部さんがやってきた。

彼女こそ遅くまで仕事だっただろうに、優しい笑顔。

いつも一所懸命、それでいて笑顔を絶やさない。



素敵な方だな、と会うたびに思う。



菜々「あ、あのー」

トレーナー「えっ、はい何でしょう?」

菜々「トレーナーさんの、その残業お仕事はまだ結構かかりそうですか?」

トレーナー「えっ? えーっと、あと10分か15分くらいで…できるかなと思いますけど…?」

菜々「そうですか! じゃああの、もしご迷惑でなければ、その後で構いませんので、ご飯とかいかがですか? 今日お仕事一緒だったメンバーで、これから食べに行くことになっていて」

トレーナー「えっ、あの、うれしいお言葉ですが、いいんですか?」

菜々「もちろんです! たくさんいた方が楽しいですし!」キャハッ

トレーナー「じゃ、じゃあ、これ済ませたら参加させて頂きますね。ありがとうございます」

菜々「わっかりました! 向かいの居酒屋で、奥の個室を予約してますんで! 待ってますね!」ウーサミン



バタン



いつもはつらつとした印象の安部さんだが、

心なしか、今日はひときわ元気に見える。

今日の私とは、対照的だ。



ガチャッ



菜々「あ、えっと、ご飯を食べに行くんですからね! 他の人はともかく、菜々は17歳なんで! 飲みませんからね!」





ワイワイ ガヤガヤ



仕事を終わらせ、居酒屋に駆けつけた。

隣に座る安部さんと少し話して、ようやく今日の会の意味を知った。



トレーナー「気付かなくてごめんなさい!」

菜々「いえホント気にしないでください! 私もなんにも言ってなかったんですから!」



まさか安部さんのお誕生日の、前祝いを兼ねた集まりだったとは。



友紀「気にしなくていいと思うよ! 菜々さんだって、みんなで騒ぐのが楽しくて声かけたんだからね!」

菜々「そうですよ! 一緒にワイワイできるのが幸せなんですよ!」

トレーナー「あ、ありがとうございます。…改めて、安部さん、おめでとうございます!」

菜々「ありがとうございます! 嬉しいです!」キャハッ



あい「誕生日当日は仕事三昧なんだっけ?」

菜々「はい…営業も撮影もガッツリ入ってまして…まあ仕事があるのはいいことですよ!」

礼子「いいじゃない、担当のPさんと二人で一日過ごすと思えば」

美優「前向きですね…でもそんな一日もいいかも」

あい「CuのPさんは晶葉くんに最近つきっきりだしね。少しは甘えてみたらどうだい」

菜々「そ、そうですね…えへへ」

友紀「誕生日を迎えて17歳になった私を見てくださいねーみたいな! みたいな!」バンバン

心「年齢ネタはやめろっつってんだろ☆」



アイドルのみなさんとご飯をご一緒するのは久しぶりだ。

ふだん見えない本音や弱音も見え隠れするし、

こうした機会に参加するのも大切なことだと思う。



だが今日は。



礼子「ところで…トレーナーちゃん。最近、何か気に病んでいることでもあるの?」

トレーナー「えっ」

礼子「いきさつはわからないけれど、話せば気も晴れるかもしれないわよ?」

菜々「なんですか? 気になりますね!」

トレーナー「………えっと」



まさか、自分が標的になるとは。





あい「…なるほど、つまり、お姉さんたちがすごくて、妹さんも頑張っていて」

菜々「アイドルの活躍する姿や、プロデューサーさんとの信頼関係を見て」

美優「焦ったり、うらやましく感じたりして」

心「で、頑張るけど、最近は空回りが多い…と」

トレーナー「は、はい…。お恥ずかしい限りです」



あい「まあ悪い流れは、一つずつよくしていくしかないよね。目の前の課題を、一つずつ」

トレーナー「…そうですよね」

菜々「でも、厳しく臨むだけじゃなく、楽しむことって大切ですよ! よい流れって引き寄せられるって言いますし!」

友紀「そうだよー! 楽しんでいかなきゃ!」モグモグ



ワイワイ ガヤガヤ



その後も、みなさんから温かな言葉を頂く。

結局はコツコツ頑張るしかない。それはそうだ。

でもこうしたつながりの大切さ。

意見を交えたり、心情を吐露したり、

相談に乗ったり乗られたり。

そのこと自体も、解決への一歩なんだろうな。





トレーナー「ありがとうございます。何かその…成長とか、日々の変化を追い求めすぎていた気がします」



目の前のことを当たり前にこなすことだって、大事な仕事だ。

継続こそが力だと、いつも教えているじゃないか。

そのうえで、先を見て進んでいくんだ。



みなさんと一緒に、私も頑張ればいいんだ。

それだけのことだ。



礼子「多少は切り替えになったみたいね」クスッ

トレーナー「はい、ありがとうございます」



アイドルのみなさんは、いい人たちばかりだ。

この環境で仕事できるのだ。

もっと楽しく、もっとしっかり臨まなければ。



礼子「ところで、話は少し変わるんだけれど」

トレーナー「はい」

礼子「トレーナーちゃんは、どのプロデューサーが好きなの?」

トレーナー「えっ、ええっ!? 何ですかいきなり!?」



…今日は静かに終わらせてくれないみたいだ。





トレーナー「えっ、いやそんな、えと、まったくそんな!」

礼子「何言ってるの。どのプロデューサーとも接点は多いでしょ。最近は結構楽しそうに話してるのを見かけることもあるわよ」

トレーナー「えっ、いや…」

礼子「アイドルとプロデューサーの信頼関係がうらやましいってさっき言ってたけど、そういう意味もあるんでしょう?」

美優「私もその話、気になります」

菜々「なっ、菜々も聞きたいです!」

あい「やれやれ…」



それからしばらく、私とみなさんとの問答が続いた。



トレーナー「とんでもない、恋愛なんてそんな」

トレーナー「私なんか、そんな、いえ、そんな…」

トレーナー「ただちょっと、お話する折に親しくして頂いているだけで…」

トレーナー「た、他意はないですよ!」



的を射ない返答ばかりになってしまったかもしれないが、

少なくとも、今の私に答えられるのはこれが精一杯だ。

プロデューサーさんはみなさんいい方だ。

でも今それは…その、ね?



なんだろう、この、その…恥ずかしさ、というか…。

顔が熱い。すっかり火照ってしまった。

もう。こんな、柄でもないことを…。



つ、疲れた…。





友紀「ヘイヘーイ!」ベシッ

トレーナー「!?」ビクッ



さっきまであまり話に乗ってこず、

佐藤さんとお酒を交わしていた姫川さんが、ここで絡んできた。

だいぶできあがっている感じがする。



友紀「ねぇトレーナーちゃん」

トレーナー「は、はい」

友紀「あたしの理想のタイプの男性ってどんな人だと思う?」

トレーナー「え」

あい「おやっ?」

菜々「へっ?」



また私への質問攻めかと思ったら、

意外な言葉が飛んできた。



トレーナー「い、いきなりどうしたんですか」

友紀「ちょっと考えてみてよ」

トレーナー「…えっと、キャッツの選手…とか?」

友紀「おしい。まあそれも理想の一つだけど」

トレーナー「違うんですか?」



友紀「今思っているのは、野球の試合観戦を、もっと言えばキャッツの応援を、一緒に楽しんでできる人かな」

トレーナー「は、はぁ」

友紀「別にプロ野球選手と結婚するのが難しいから言ってるんじゃなくてね。なんというか、楽しみ方も、好きになることも、いろんな形があるんだって思っていてね」



…んん?



トレーナー「…それはつまり、Paのプロデューサーさんということ…ですか?」

菜々「お?」

友紀「え!? いや違う違う! そういう意味で言ったんじゃなくてね! えっとね!」///

あい「ほう」

友紀「違うってば! いやプロデューサーはいい人だけどさ!」

菜々「(ニヤニヤ)」

友紀「〜〜〜っ!!! ああもう!!! ちょっと待って!!!」ガッ! ゴキュゴキュ

トレーナー「あっ」

あい「こら、一気飲みはやめなさい」

友紀「〜〜〜ぷはーっ!!! ハーッ!」

あい「まったく…」





友紀「…つまりね! つまりねトレーナーちゃん!」

トレーナー「は、はい」

友紀「あたしは野球が大好きなの。応援するのも楽しいし、ましてお仕事で関われるなんてとても幸せなの」

トレーナー「はい」

友紀「プロ野球選手のお嫁さんになりたいって思っていた時もあったし、それも幸せかもしれないと思う。でもそうじゃなくても、楽しさや幸せっていろいろあると思うの」

トレーナー「…」

友紀「ましてあたしはバカ騒ぎするのも好きだし、キャッツの熱狂的ファンでもあるし。そんな自分も好きだったりするし、それを踏まえてここまで来た自分も大事にしたい気持ちがあるんだ」

友紀「だから一緒に楽しめて、勝ちを喜べて、負けで愚痴吐いて、また楽しく生きる、そんな人が、今はいいなぁって思ったりするんだよ」



菜々「中継のゲスト席で悪口言ってたのは、ちょっとどうかと思いますけどね」

礼子「そうねぇ」

友紀「今いいとこだからちょっと黙って」



いや、とてもいいお話だ。

予想外…というと失礼かもしれないが。



友紀「…とにかくね、好きとか楽しいとかって、よくわからないところもあるよ。だからこそ、目の前のことを目いっぱい楽しんでみよう、気持ちに素直に、楽しく生きてみようって考えるのは大事なことだと思うよ!」

あい「…フフッ、友紀君もたまにはいいこと言う。まあさっきの仕事の、もっと楽しくなるよう工夫するって話ともかかっているのかな」

菜々「そして、悩みはこうして、みんなに相談したりしながら進んでいくのが秘訣ですよね♪」

トレーナー「…そうですね」

礼子「ま、恋愛の方も、たまにはもっと積極的でもいいのよ?」

友紀「そうだそうだ! 前向きな気持ちで、自分や相手にプラスになるようなことなら、たまには積極的な攻撃も走塁も必要だよ!」

トレーナー「えっと、いや、そんな」

友紀「…で、相手は誰なの?」

トレーナー「…ノ、ノーコメントです!」



みなさん素敵だ。

私ももっと、頑張らなくては。

でも大丈夫。

今度は、気負いはない。



友紀「…つまりねー、野球に関われている今もとても幸せなの!」

あい「(話がループしているな)」

菜々「(ループしていますね)」





友紀「すんませーん! 生ひとつー!」

あい「やれやれ、いつもの流れになってきたな」

トレーナー「東郷さんはあまり飲まれないんでしたっけ?」

あい「そうだね。残念ながら、あまり強くないので」

心「麗人にも弱点ありって感じかなー」

あい「よしてくれ、そんな」

菜々「麗人といえばジュリーの曲ですね! 私結構好きでしたよ!」





菜々「…はっ! なんでもないです!」

あい「菜々さんも酔ってるのかい?」

菜々「だから! 飲んでないですから!」



相変わらずである。



参考:沢田研二『麗人』
https://www.youtube.com/watch?v=tImje11mSMA








トレーナー「安部さんは…飲まないんですか?」

菜々「飲みませんよ! 17歳ですよ、17歳!」

トレーナー「…こんなこと言うとアレですけど、ふだん、陰ではこっそり飲んでらっしゃるのかなと思っていたんですけど」

菜々「トレーナーさん!」

トレーナー「は、はい。すみません」



触れちゃいけないところだったかな。



菜々「お気持ちはありがたく頂いておきます。でもダメです」

トレーナー「…?」



菜々「ナナにだって矜持ってものがあります。実年齢がどうとかいう話ではなく、今この場だけこっそりという話でもなく」

菜々「私は永遠の17歳なんです。ウサミン星から来たアイドルなんです。私は魔法が解けるまで、アイドル・安部菜々なんです。それが私なんです」

菜々「少なくとも今は、それが私の譲れないもの、なんです」

トレーナー「………!」

菜々「魔法はいつか解けます。けれど、どうせなくなるから努力をしないなんて理屈は、菜々は絶対に嫌だし、頑張れる限り、できる限りの努力はずっとしたいんです」



驚いた。

失礼ながら、菜々さんがここまで信念を持っている人だとは思っていなかった。



トレーナー「ごめんなさい、軽率な発言でしたね」

菜々「ああいえ、気にしないでください! お気持ちは大変嬉しいんですから!」



あい「フフッ、菜々さんを甘く見ないほうがいいぞ。この人はギャグっぽく見えて、実は努力家だし、実はとても芯の強い人だ。…ですよね?」

菜々「なんですかその褒め方!? あと敬語やめてくださいよ! 私17歳だから一応卯月ちゃんとか杏ちゃんと同級生なんですよ!!!」

あい「おおう…それはおもしろい話ですね」

トレーナー「フフッ」

菜々「ボケじゃないですよ!!!」

礼子「17歳おめでと♪」

菜々「ありがとうございます!!!」プンスコ





矜持、キョウジ、きょうじ…。

すごい話だ。

でも、そうなんだ。

みんなそれぞれ、一所懸命生きているんだ。



友紀「はーとちゃーん」ダキッ

心「ばっかテメやめろコラあたしは筋肉痛だって言って痛ててて痛いっつてんだろコラァ!!」



私は、どうだろう。

トレーナーとして、

アイドルのみなさんのサポート役として、

ひとりの、青木明という人間として。

どう生きていくのだろう。

何を思って生きていくのだろう。



礼子「今日もお酒がおいしいわね」

あい「さしずめ、揃った顔ぶれに乾杯、といったところかな」

美優「そ、そういうまとめでいいんでしょうか…」





♪カボチャの馬車はないけど キミがここにいるなら
 ねえ行けるよね? 夢の向こうの新しい世界





トレーナー「お疲れ様です!」

P「お疲れ様です、いつもお手数かけてすみません」

トレーナー「いえいえ大丈夫ですよ! これ、この間の資料です!」 

P「助かります」

トレーナー「またレッスンでも確認しますんで、お気付きのことは共有させてくださいね」

P「ありがとうございます。ぜひ!」



あれから数週間。

今日も私は、バタバタと日々のレッスン指導に勤しんでいる。

この数週の間にも、

堀さんたち三人に急遽イベントが入り、

それに合わせてレッスン内容を変更したり、

ダンスの強化に取り組んだり、

各アイドルの調子や伸び具合をプロデューサーさんたちと相談したりと、

奮闘の日々があった。



裕子「あ、トレーナーさんお疲れ様です!」

柚「お疲れ様でーす!」

茜「お疲れ様です!!!」



でも、大丈夫。






トレーナー「お疲れ様です。この間のイベントの映像、見せて頂きましたよ」

柚「えっもう動画資料あるの?」

茜「ぜひ見たいです!」

裕子「私も見たいです! プロデューサー! 今ありますか?」

P「おうあるぞ、じゃあ今からみんなで見るか」



裕子「トレーナーさんも一緒にどうですか?」

柚「そうだよぜひぜひ!」

茜「そうですね! 見ながらアドバイスしてほしいです!」



みなさんと、いろんな形で接点や交流が増えて、うれしい。



トレーナー「せっかくなんですけど、別のレッスンが入っていますんで」

柚「あらら、残念」

トレーナー「ごめんなさいね。ミスした箇所や、それぞれの苦手なところは、次回以降のレッスンでもできるだけ早めにおさらいしますので。ちゃんと確認しておいてくださいね」

茜「はい!」

裕子「ムムーン、わっかりました!」



私もアイドルと一緒だ。

一つ一つ乗り越えていって、前に進むんだ。

それだけのことなんだ。





トレーナー「あっ姫川さん! このあとレッスンですよ! くつろいでないで準備してくださーい!」

友紀「うわっもうそんな時間!? ごめんトレーナーさん、すぐ準備するから待って!」

トレーナー「まったくもう…」

P「すみません、僕もうっかりしてました。友紀がいつもご迷惑おかけしています」

トレーナー「いえいえ、…実は結構、楽しいですよ?」

P「へ?」

友紀「はえ?」ゴソゴソ

裕子「…?」ピクッ



どんなときでも、むやみに焦らない。

笑顔と、前向きさを、忘れない。



そして。



トレーナー「そうだ、プロデューサーさん♪」クルッ

P「は、はい」



熱くなるべきときは、熱くなろう。



トレーナー「イベントが終わって一息って感じですけど、…お暇な日はありませんか?」

P「えっ僕ですか? え、えっと、明後日は一応休みですけど…」

トレーナー「わ、やった、ちょうど私もその日は空いてるんです! …もしよければ、気分転換に、いっしょにお出かけでもしませんか?」



裕子「!?」ガタッ

柚「!」

茜「!」

友紀「なん…だと…?」





いきなりのことでプロデューサーさんもうろたえている。

あああでもそれ以上に、私の顔が、顔がもう熱い。



裕子「えっちょっトレーナーさんいきなり、そのあの、そういう、その、それは一体どういう」ガキガキガチャガチャ

柚「落ち着いてユッコちゃん、知恵の輪がこわれるこわれる」



はっ、恥ずかしがっちゃダメだ! 強気で!!



トレーナー「イベントいろいろお疲れ様でした。個人的にもいろいろお世話になりましたし、そのお礼もしたいですし、ちょっとした息抜きで………ね?」

P「お礼なんてそんな、こちらこそいつも感謝の限りですよ…。でもせっかくのお誘いなんで、じゃあ、息抜きがてら、ご飯とか…行きますか?」

トレーナー「やった、うれしいです」

裕子「!!!」

友紀「………」



ドキドキが止まらない。

でもやった、よく言った私!

………クールに、クールに。





トレーナー「ありがとうございます。じゃあまた詳細は追って連絡をするということで」アセアセ

P「わかりました、メールしますね」

トレーナー「はい! あ、姫川さん準備どうですか?」

友紀「…できてまーす」

トレーナー「あ、よかった、じゃあレッスン行きましょう! お疲れ様です!」



バタン



P「何かこう、すごく慌ただしかったな今日のトレーナーさん…ハハッ。さあ映像を…」

裕子「つーん」プイッ

P「えっユッコ、ちょっと」

裕子「つーん!」ムスッ

柚「(つーんって自分で言うんだ)」

茜「(これは荒れますね)」





トレーナー「はーっ! …はー!」



緊張で心臓が飛び出すかと思った。

やった…言えた…!!



友紀「トレーナーさん、うちのプロデューサーが好きだったんだね」

トレーナー「あっ、いやその、えっと…」

友紀「そっかー…そっかー…!!!」



あ。



トレーナー「あ、ひょっとして、姫川さんも…」

友紀「いやー、それはまだなんとも。思うことはいろいろあるけど、ね」

トレーナー「あ、はい。そうなんですか」



私も負けないぞ、と。

精一杯頑張るぞ、という思いで、あの場で勇気を振り絞ったのだけど。

やっぱり…まずかったかな。



友紀「いやでも、いいんじゃない? こっそりじゃなくあの場所でアプローチってのはなかなかできないよ。大胆だね」

トレーナー「ど、どうも…」///

友紀「まあでもとりあえず、あたしもいい女になってやろうかな、と今は思うよ」キラーン

トレーナー「えっ」

友紀「今『えっ』って言ったな!! この流れは感動する流れだったでしょ!! どうせあたしは酒飲みのチビ女ですよーだ!!! ふーん!!!」

トレーナー「えっいや今のはそういう意味では…、待って姫川さん!」

友紀「ちっくしょー特訓だ!!! かかってこいやマストレー!!!!!」

マストレ「ほう、いい度胸だ」ズーン

友紀「Oh…」





好きという気持ちが、私をきっと、大きくさせた。

あの時の言葉は嘘じゃない。

己の気持ちにまっすぐ向き合う強さ。



きっとそれは、アイドルだって、トレーナーだって同じだ。



この先どうなるかなんてわからない。

トレーナー業もそうだ。

恋愛なんて、もっとそうだ。



だからこそ、

全力を忘れずに。

楽しいを忘れずに。

そして、好きを忘れずにいよう。





♪SAY☆いっぱい羽ばたく 一人に一コずつ抱えた
 この煌めき信じているから





裕子「プロデューサーなんて知らないですー!」ツーン

P「ユッコー機嫌直してくれよー」

裕子「プロデューサーなんて時子様に踏まれて痛い目みればいいんですよーだ」

P「やめて、リアルな感じやめて」



時子「呼んだかしら」ヌッ

柚「あっすみません、呼んでないです」

茜「お役目ごくろうさまです!」ペコリ

柚「茜ちゃんそれ違うと思うよ」





時子「フン、まったくどいつもこいつも、恋だ愛だと面倒くさい話ばかり…」

法子「とーきこさん!」ヒョコッ

時子「………」(黙って顔をふさぐ)

法子「見てー! 新作のドーナツ、季節の味がいろいろ出てたのー♪」

時子「…貴女本当飽きないのね」

法子「えへへ! 一緒に食べよ!」

時子「…しょうがないわね」

法子「やった! あ、私のはこっちにあるから! これはぜーんぶ時子さんのぶん♪」ズシッ

時子「CuPィィィ! さっさとこの子をレッスンに連れていきなさい!」



ワイワイ バタバタ



比奈「………」

杏「………」

比奈「(こういうときどんなコメントしていいかわからないの、っス)」

杏「(鼻で笑えばいいと思うよ)」

比奈「…」

杏「…」

比奈「ふっ」

杏「ははっ」




☆おまけ



お風呂上がり。

「あ、メールきてる…」



From: Paプロデューサーさん
Sub: 明後日の件
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夜分失礼します。今日もお疲れ様です。
ご飯のお誘いありがとうございます。嬉しいです。

明後日の件ですが、トレーナーさんはお昼頃からお暇ですか?
もし時間があるなら、この間できた◯◯という商業施設を見に行きませんか?

結構大きめのところみたいで、見て回れるものも多いようですし。
新しい施設は結構気になるんですよね。

イベントブースがあったりするなら今後お世話になるかもしれませんので。
…仕事の話ですみません!(笑)

車ならそう遠くないので、もしよければ僕の車ででも。





「〜〜〜ッ!!!」バタバタ



この日、私がこのあと数時間、

文面を見てニヤニヤしたり、

返信の内容どうしようかと苦闘し続けたのは、ここだけの秘密。






以上です。



過去作に

みちる「もぐもぐの向こうの恋心」
裕子「Pから始まる夢物語」
飛鳥「青春と乖離せし己が心の果てに」
晶葉「世界はそれを、愛と呼ぶんだ」

があります。

続き物というわけではないですが、
登場人物の関係はだいたい同じです。
よろしければどうぞ。


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