幼馴染「手紙をかくよ」(23)


今年もあの日が近づいてきた

あの日というのは、女性特有のヒステリックデーのことではない
オレの幼馴染の誕生日だ

男「というか、もうあと2時間後か」

男「起きてるかな」

普段はメールこそしないが
毎年この時期になると電話で誕生日おめでとうの一言を言い合う、

というのが恒例というか何と言うかお決まりになっている。


ちなみにこれはオレと幼馴染が高校を卒業する前の年くらいから
オレが急に思い立って幼馴染に電話をかけたことから始まった。

どこか七夕チックなこのイベントは
大学3回生になった今でも地味に続いている。

男「電話してすぐ寝れるように風呂入っとくか」

普段浸かることのない湯船に浸かりながらオレは1人
幼馴染と離ればなれになってしまった時の話を思い出していた。


羨ましい話だと思うがオレには異性の幼馴染が3人いる。
そのうち2人の連絡先を今現在は知らない。

実家の母に聞いた話だが、今その2人は
実家を出て男と同棲しているとかなんとか。

少しは甘さを分けてくれよ、とでも言ってやりたいが
どうにもこうにも伝える手段がない。

とりあえず元気ならそれで良し。


残るもう1人、これから電話する予定の幼馴染は
小学校に上がる前に自転車では行けないところへ転校してしまった。

理由は覚えていない。
おそらく親の仕事の都合か何かだと思う。

自分ととても仲の良い女の子だった。

毎日一緒に登下校し、晩御飯の時間になるまで
互いの家で遊んでいた記憶がある。

幼稚園児ながらオレは幼馴染のことが好きだったし、
幼馴染も多分オレのことが好きだったと思う。

いわゆる両思いってやつだ。

だがしかし運命は時に残酷なことを小学生にもなってない子供に要する。


オレと幼馴染は離ればなれになってしまった。

それでも小学校4年生くらいまではよく手紙を送ってよこしてくれてはいたが
子供ながら嬉し恥ずかしかったのだろう、
当時のオレは幼馴染の手紙に全く返事を出さないでいた

非常にませていたというか
未だにそのことは謝れていないが反省している。

幼馴染からの手紙がパッタリ来なくなった5年生以降は

オレは幼馴染をすっかり忘れて同じ学校の子を好きになっていった


それから月日は流れ
高校へ入学して親に携帯電話を買ってもらい
メールを打つのに慣れた頃、知らないアドレスからメッセージを受信した。


from:幼馴染
件名:男くんひさしぶり
本文:幼馴染だよ、覚えてる?
  ~ちゃんから教えてもらっちゃったー。勝手にごめんね?

こんな感じだったと思う。

転校してからは一度も会っていないがメールのやりとりはする
という何だかおかしな具合にオレと幼馴染の
幼なじみという関係は修復されていった。


それからオレたちが受験を意識し始めるくらいまで
ちょくちょくメールでのやりとりは続いていったが
あれから一度も会ってはいない。

そしてオレが急に思い立って
幼馴染に電話をかける話につながるというわけだ


思い出話が重い話であってはならないと思っているが
流石に長風呂しすぎたか、なんて思い

防水機能がついた腕時計に目をやると
日付がとっくに変わっているではないか

男「あ!やべ!」

オレは急いで風呂を出たが何故か若干開き直っていた


男「5分くらい大丈夫だよな!」

大きい独り言を放った後で
オレは長くも短くもない髪をゆっくり乾かしていると
テーブルの上に置いたスマートフォンのバイブが鳴ってることに気づいた

男「…あっちから電話かけてくるか?」

また急に思い立ち、オレはあえて電話をとらないでみた


幼馴染「…出ない」

幼馴染「いつもは男くんから電話かけてきてくれるのに」

幼馴染「忘れてるのかなあ…」

10コールが鳴り終わる前に私は通話終了のボタンを押した。

まあきっとレポートやらバイトやらで忙しいだろう
明日のうちに連絡がきたらいつも通りに、
今日のことはお咎めなしでちゃんとお礼を言おう。


なんてことを思っていると携帯が鳴った

不意をつかれたという意味でびっくりしたので
ひと呼吸置いてから電話に出る

幼馴染「も、もしもし?」


男「もしもし?オレオレ」

男「誕生日おめでとう!」

幼馴染「ありがとう。…忘れてるのかと思った」

男「いやいや!そんなことあるわけないだろ」

男「オレなんかより幼馴染の身近にいる人たちのことを考えてだな…」

咄嗟に出てきた言い訳だったが
わりかし本心でもあった。

幼馴染「彼氏いたら電話出ないでしょ!シカトするわ」

男「はは、違いないね…」

なかなか強い口調で突っ込まれた。
その通りである。


誕生日を祝うだけのはずだったが
近況報告や進路についてなど色々話し込んでしまい
電話が終わってベッドに潜った時には既に午前二時を過ぎていた。

男「…これも毎年お決まりってな」

男「まあでも明後日は15分くらいだなきっと」

冷房で冷えないようにお腹にだけ軽めの毛布を掛け
目を閉じて先ほどの電話で話したことを思い出していた。


男「いつから彼氏居ないの?」

幼馴染「んー、一昨年くらいからかなあ」

男「まじで?ずいぶん前だねえ」

幼馴染「なかなかいい人だったんだけど」

幼馴染「なんせ遠距離だったから。違う学校になってから疎遠になっちゃって」

幼馴染「結局別れちゃった」

幼馴染「それからずっといないよー」

男「へえ…」


幼馴染は昔からずっとオレのことを好きで、
いつか自分と結ばれるときを信じて
誰とも付き合ったことがなくて…

なんていうのは物語だけの幻想に過ぎない。

そう思っていた時期も確かにあったが
もうオレも幼馴染も大人だ。

恋愛の1つや2つするだろう。


幼馴染「男くんは彼女とどうなの?」


男「いやー、それが1年前に浮気されちゃってね」

男「今は付き合ってないんだ」

幼馴染「え!?そうなんだ…」

幼馴染「辛かっただろうね…」

変なこと聞いて…なんて返ってきそうだったので
オレは間を空けずに

男「でもだいぶ時間経ったからもう平気だよ」

男「だから大丈夫」

声のトーンを上げて嘘をついた


が、すぐにバレた。


幼馴染「うそだー!絶対ひきずってるよー」

男「…はは、見透かされているようだね」

幼馴染「私が慰めてあげようか?」

とは言わなかったものの、慰めとは別物の
励ましのエールやらなにやらをもらった。

男「おかげで気持ちが楽になったよ、ありがとう」

幼馴染「ううん、いいの」

幼馴染「だって私たち幼なじみでしょ?」


男「幼なじみ…か」


世間一般に言う幼なじみとは
家族のように何でも言い合える仲のことなのだろうか。

それが異性の場合であっても。

だとしたらそれはオレが思っているのとは少し違う気がする。

思えばオレは、幼馴染に気を遣って話している。


なんで?

どうして幼なじみに気を遣うの?

こんな質問なんて決して聞かれはしないだろうが

その答えは簡単
幼なじみの期間にブランクがあるから。

少し違うか、うまく言えないが

オレたちはお互いの青春時代を全く知らずに今に至っているから。


オレがどんな女の子を好きになったかなんて
幼馴染がどんな男と付き合っていたかなんて
お互い知らない。

だから…

幼馴染「ねえ!聞いてる?」


男「…え!?ごめん」

幼馴染「もうー、それでお盆は実家帰るの?」

何故そんなことを聞くんだろうと思ったがすぐ答えた。

男「今年は帰らないかな」

幼馴染「なんだあ、会えるかなって楽しみにしてたのにー」

男「…」

あれ、これどういうことだ?

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom