男「腹が痛い……神様、助けて!」神「知るか」(22)

腹痛──

読んで字の如く、腹が痛いことを指す単語であるが、

本格的に腹痛が襲いかかってきた時のあの苦しみは、筆舌に尽くしがたいものがある。



あの恐怖感、あの焦燥感、あの孤独感。

まさに我々の最も身近に潜む生き地獄といえるだろう。



そして、腹痛に襲われた人間は、その多くが神にすがるといわれている。



そう、祈るのだ。

トイレ──



男「はうぅぅぅ~……」ギュルルル…

男(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!)

男(こんなに腹が痛いの、久々……いや生まれて初めてかも!)

男(いてぇよぉ……)

男(腹ん中でハリネズミが暴れてるような……そんな痛みだ!)

男(陣痛の痛みを10とすると……これはきっと15ぐらいはあるな! うん!)

男「はうぅっ!」ギュルルル…

男「ハァ、ハァ、ハァ……」ダラダラ…

男(汗やべぇ……。冷や汗っつうのか? 脂汗っつうのか?)

男(どんどん出てくる!)

男(額とか、さわってたしかめるまでもなくビショビショになってんよ~)

男(汗のせいで、体冷えたら、ますます腹痛くなるんじゃ……)

男(いてぇ、いてぇよぉ……)

男(なんで? なんでこんなことになった? 俺がなにしたってんだ?)

男(変なもの食った? 消化不良? 寝冷え? それともなにか病気?)

男(どれも思い当たるけど、どれも思い当たらん)

男(あ、ダメだ……原因を究明しようとすると、ますます腹が……)

男(ハリネズミが、ハリネズミがぁぁぁ……)

男(チクチクすんなぁぁぁ……)

男(落ちつけ! 冷静になるんだ俺!)

男(とりあえず、痛みを抑えることだけを考えろ!)

男(ゆっくり、深呼吸だ……)スーハー…

男(おお、痛みが……痛みが鎮まっていく!)スーハー…

男(…………)

男(が、駄目っ……!)ギュルルル…

男(いだだだだだっ! あががががががっ!)ギュルルル…

男(深呼吸で腹痛がおさまりゃ、苦労はせんわなぁ……)

男(つうか、腹式呼吸まがいのことしたせいで、ますますひどくなってきた!)

男(汗もますます出てくるし……)

男(これは……ヤバイんじゃないか? 実はとっても重症なんじゃないか?)

男(このままここで死んでしまうんじゃないか……?)

男(きゅ、救急車……呼ぶ?)

男(だけど呼んで、来るまでの間に治っちまったら最悪だ!)

男(救急隊員が怒りのあまり、俺に腹パンを……)

男(なんて下らない妄想してたら、また痛みが……! あだだだだ……!)ギュルルル…

男(ああ……どうしてこんなことになったんだよ)

男(そりゃ俺、決して優れた人間じゃないけど)

男(だけど、こんな目にあうほど悪いことだってしてないはずだぜ?)

男(安全運転するし、落ちてる財布は届けるし、席だって老人にゆずる!)

男(あ、だけど、こないだ100円玉拾ってネコババしたな……)

男(硬貨って汚いから、あの時ついたバイキンが俺の腹の中に入って……)

男(あだだだだだ……!)ギュルルル…

男(ダメだ! 思考で痛みをごまかそうとしても、結局腹痛にたどり着く!)

男(どうあがこうがバッドエンド……!)

男(ああ……あああああ……どうかお願いです)

男(この苦しみから解放されるなら! どんなことでもします!)

男(だからお願いします、神様!)

男(痛みを、痛みを、消して下さい!)

男(神様、助けてぇ~~~~~~~~~~!!!)ギュルルルルル…



脂汗まみれの男の祈り、果たして届くのであろうか!?

天界──



神「知るか」

天使「ず、ずいぶん冷たいんですね……神様」

神「当たり前だ」

神「この人間、普段は神なんか信じておらん。むしろ無神論者を気取っている」

神「天に届くほどの強烈な祈りも、あくまで一時的なものにすぎん」

神「仮に助けてやったところで」

神「神に祈ったことなど、トイレから出ればすぐさま忘却の彼方」

神「なぁんだ大したことなかったんだと、腹痛の苦しみさえ忘れる」

神「こんな人間、わざわざ私が助けてやる価値などない」

神「どうせ、あと2~30分もすれば便が出て、回復するだろうしな」

天使「……そういうものですか」

トイレ──



男「はぁ~……出たぁ~……! スッキリしたぁ~……!」パァァァァ…

男(なんかこう、体内にたまってた悪いもん全部出せたって感じだ)

男(ケツはまだヒリヒリするけどな……)

男(下痢すると、なんでこんなにケツ痛くなるんだろ)

男(たしか下痢って、かなり強い酸性かアルカリ性だったからって昔教わったな……)

男(ま、もうどうでもいいや)クイッ

ジャァァァ……

その後──



友人「ううう……」ギュルルル…

男「どうした?」

友人「いや、なんか腹の調子がさ……」

男「んなもん、正露丸飲めば治っちまうよ! 腹痛くらいでだらしねーな」

友人「あ、ああ……」

友人「でもなんかこう、神様にもすがりたくなる痛さなんだよ……」

男「神なんかこの世にいやしねーよ!」

男「信じる者は己だけ! 神にすがるなんてのは弱い奴のすることさ!」

天界──



神「な?」

天使「……みごとなまでの変わり身っぷりですね」

天使「さっきまでは人生の終わりといわんばかりに苦しんでたのに……」

神「人間とは、しょせんこの程度のものなのだ」

神「まともに付き合っていては、余計な仕事ばかりすることになるぞ」

天使「はい……よく分かりました!」

神「さてと……では女神と食事会の約束をしていたのでな。少し出てくるぞ」

天使「行ってらっしゃいませ!」

──

────

──────



男「あうぅぅ……」ギュルル…

男(な、なんだこの痛み!? こんな痛み、生まれて初めてだ!)

男(まるで腹ん中で、硫酸でできたスライムが暴れ回ってるような……)

男(ト、トイレへっ!)ダダダッ

トイレ──



男(痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!)ギュルルル…

男(神様……助けて下さい!)

男(この痛みを消し去って下さったら、今後どんなことでもいたします!)

男(神を永久に信じます! 神のために生きます! いえ、神のために死ねます!)

男(どうか……どうかぁぁぁ……!)

男「!」パァァ…

男(な、なんだ!?)

男(ホントに一瞬で痛みが消えちまったぞ!? ぶり返してくる気配もない!)

男(まさか、ホントに神様が……!?)

男(いや……まさかな……)

男(大した腹痛じゃなかった……ただそれだけのことさ……)

天界──



神「…………」

天使「神様、どうして今日はあの人間を助けたんです?」

神「うむ……」

神「実はな、先日女神が作ってくれたメシがあたってしまい」

神「女神ともども“腹痛”なるものを初体験したのだが」

神「あれほど苦しいものだとは知らなかったものでな……」

神「これからはバンバン助けていこうと思う!」

天使(神もしょせんはこの程度ってことか……)





                                     おわり

週末お腹を壊してしまったので腹痛SSを書いてみました
これからの季節は食べ物に気をつけましょう

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