友「おーい、テレビでお前みたいな奴が映ってたぞwww」 (96)


男「……は?」

友「いやーびっくりしたわ」

友「56歳でニートして、79歳の母親の年金で暮らしてやがんの、そいつ」

友「まるでお前そのものだったぜ!」

男「ハア……」

友「……何ため息ついてんだよ」

男「で? 何が言いたいんだ?」

友「何とも思わないのか?」

男「そいつはそいつ。 俺は俺」

男「どうでもいい」


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友「……いい加減に働けよ」

友「あんな奴みたい、と言われて恥ずかしくないのか?」

男「俺はクズだからな」

男「何とも思わない」

男「お前も俺みたいな奴、早く見限った方が……」

男「……ああ、俺のおふくろにまた頼まれたのか?」

友「…………」

男「図星かよ」

友「……お前、どうしてそうなっちまったんだ?」

友「昔はいい奴だったのに……」

男「俺はいい奴じゃねーよ」

男「いい奴を演じてただけだ」

友「…………」


友「あのテレビの奴だって、それなりに反省はしていたぞ?」

友「お前も世間一般に顔向けできない事をしている自覚があるんだろう?」

友「だったら顔向け出来る様に頑張ればいいじゃねーか」

男「ハア……」

友「またため息かよ」

男「そんな事は、耳タコだっての」

男「ニートってクズはな、それを自覚しながらも続けたいと思うんだよ」

男「もう変化する事に諦めがついているんだ」

友「はあ?」

友「そんな訳無いだろ」

友「誰だっていい暮らしや金稼ぎをしたいって思うだろ、普通」


男「今の世の中で、56歳の元ニートにそんな事できんのか?」

男「年齢だけじゃない。 俺みたいな職歴の薄い奴が」

男「ちゃんとしたところに雇ってもらえると思ってんのか?」

友「努力もしないで何言ってんだよ」

男「あーはいはい。 努力ね」

男「就活してあちこち行って徒労に終わる」

男「いや、その前に電話で落とされるのがオチ」

男「そんな未来しか予測できません」

友「…………」

友「やってみなけりゃわかんねーだろ、そんなの」

男「そのテレビで映ってた奴に誰か同情していたか?」

友「居るわけねーだろ」

男「じゃあそんな奴雇いたいって思う人間も居ないだろ」


友「あー言えばこー言うなぁ」

男「事実だろ。 俺が言ってるのは」

友「親とかに申し訳ないとか、そういう気持ちはないのか?」

男「無いけど普通表には出さない」

友「……本当にクズだな、お前」

男「ええ。 そうですが何か?」

友「マジに親とかに悪いって思ってねーのかよ?」

男「ああ」

友「……本当に最低だな」

友「あのテレビの56歳ニートだって、そこまでの最低発言はしなかったぞ」

男「そりゃテレビだからだろ」


男「不特定多数の大勢が見ている中で、最低発言するわけない」

男「モザイクが掛かっている状態でも居場所を特定される世の中なんだ」

男「狂った平穏を求めるニートが、わざわざ波風立てるような事するか」

友「いや、モザイクなんてかけてなかったぞ?」

男「……は?」

友「つーか、住所とかは無かったけど住んでる家はバッチリ映ってたぞ?」

男「…………」

男「……ギャラ目当てのただの馬鹿か」

男「もしくはヤラセだな」

友「被害妄想乙」

男「何となくだが」

男「母ちゃん俺頑張るよ、みたいなので母親が泣くシーンとか無かったか?」

友「…………」


男「……今のテレビは、そんなのばっかだな」

友「あーもう! テレビの事はもうどうでもいい!」

友「お前だよ、お前!」

友「お前、そんな態度で将来どうすんだ!?」

友「食っていけねーだろ!?」

友「親が死んだら、どうするつもりなんだ!?」

男「生活保護申請するつもり」

友「」

男「とりあえず生きてはいけるよ」

友「アホか! いきなりそんな申請通るわけないだろ!?」


男「ああ」

男「親が死んだあと、年金は止まるが」

男「保険もそれなりに入ってくる」

男「それを食いつぶした後になるな」

友「」

友「……マジでモノホンのクズだな」

男「だからそうだってば」

友「もういい」

友「今聞いた事、洗いざらいお前のおふくろさんにぶちまけてくる」

男「どうぞ」

友「ほ、本当に言うぞ!?」

友「ここを追い出されて野垂れ死ぬぞ!?」

男「そうなったら」


男「そこらへんの誰かに襲いかかって、刑務所に入る」

友「」

男「そう言ってるから、追い出したくても追い出せないだろうさ」

友「……マジにムカついてきた」

友「いや、俺でこんな気持ちなんだ」

友「そのうち、親に殺されるぞ?」

男「そんな度胸があれば、とっくにやってるだろうさ」

男「……ああ、それは違うかも」

男「もしかしたら今、進行中かもしれん」

友「なに?」


男「食事の事で文句を言わなくなったからな」

友「……?」

友「どういう意味だ?」

男「俺が痛風持ちなのは知ってるか?」

友「いや、初めて知った。 なんだそれ?」

男「簡単に言うと、食事に気を付けないと激痛が伴う病気なんだよ」

友「…………」

男「そして病気が進行していくと腎機能障害を起こす」

男「命に関わる状況になる」

友「……狂ってる」

男「そう思うのなら、お前は正常だよ」

男「悪いことは言わん。 もう俺に関わるな」

男「お前が居るせいで、おふくろが希望を持ってしまう」

男「いらん事するな」


友「…………」

友「……なあ」

男「ん?」

友「お前……さっき『狂った平穏』とか言ってたよな?」

男「…………」

友「そういう自覚があるのなら」

友「それを変えていきたいって……本当にこれっぽっちも思ってないのか?」

友「いや……そうじゃない」

男「…………」

友「お前は……どうしてもらったら、それを変えようと思えるんだ?」

男「…………」

友「…………」


男「……それを聞いてどうする?」

男「実現は絶対不可能だ」

友「…………」

友「それでもいい」

友「聞かせてくれ」

男「…………」

男「そうだな……」

友「…………」

男「対等で居てもらいたい」

友「…………」

友「……は?」


友「どういう意味だ?」

男「わかりやすく言えば、上から目線で指図するなって事だ」

友「……いつ俺がそんな事したよ」

男「例えば」

男「働けって言葉」

男「これは働いてない奴に向かって上から目線で言っている」

友「…………」

男「ああ、そういう顔されると思ったよ」

男「コイツ何言ってんだ?的な」

友「……じゃあ聞くが」

友「どう接すればいい?」


男「何も指図しなけりゃそれでいい」

友「へ?」

男「ニートってクズが望むのは、無理強いしない、対等でいてくれる」

男「コミュニケーションを取ってくれる存在だ」

友「…………」

男「ええ、わかってますよ」

男「ロクに働きもしないでクズ生活続けて」

男「対等の立場で見守ってくれる人間が欲しい?」

男「何言ってんだこのクズって感じですよね」

友「…………」

男「だから言ったんだ」

男「実現は絶対不可能だって」

友「……そうだな」


友「そんな人間は存在しないからな」

男「…………」

友「お前の望み通り、もうここには来ない」

友「俺には……無理だ」

男「ああ、わかってる」

男「お前の人生をしっかり生きてくれ」

友「…………」

友「……じゃあな」


友(…………)

友(来なければ良かった)

友(そんな気がする)

友(…………)

友(働こうって気になるのは)

友(そんなに難しい事なのか……?)

友(…………)

友(俺は……どうして働いている?)

友(食っていく為、女房や子供たちの為、両親の為……自分の為)

友(それが普通だろ?)

友(…………)



数年後



嫁「あなた、息子にひとこと言ってやって!」

嫁「このままじゃロクな人間にならないわ!」

友「わ、わかってるよ……」

友「はあ……仕事で疲れているのに」

嫁「あなた!!」

友「わかったわかった……」


友「おーい、息子ー?」

友「もうそろそろ人生設計について考えないとヤバイんじゃないか?」

息子「…………」

友「長い人生に失敗はつきものだ」

友「けど3年も家にこもっていたって、何も変わらないだろう?」

息子「…………」

友「そろそろさ……まあ就職はハードル高いだろうけど」

友「バイトとかでリハビリしてみるとか、どうだ?」

息子「…………」

友「…………」


嫁「あなた、息子に強く言ってくれた?」

友「う、うん」

嫁「まったく……」

嫁「このままじゃご近所さんに恥ずかしいわ」

友「まあまあ……あいつもいろいろ悩みを抱えてるんだよ」

友「今はそっとしておこうじゃないか」

嫁「あなたはそんなだからダメなのよ!」

嫁「こういう時は、例え嫌がっても、無理矢理でも働きに出さないと」

嫁「後々あの子が困るのよ!?」

友「そ、そうだな……でも」

友「そういう感じで働き始めても、すぐやめてしまうんじゃ意味ないし……」


嫁「あーもうまったく!」

嫁「どうしてこんな事になったのよ……」

友「…………」

友「今度、気分転換に外に連れて行ってみるよ」

友「お前もどうだ?」

嫁「…………」

嫁「そうね」

嫁「それがいいかもしれない」

友「きっと大丈夫さ」


息子「行かない」

嫁「」

友「」

友「ど、どうしてだ?」

友「天気もいいし、きっと……」

息子「行きたくない」

嫁「どうしてよ」

嫁「お父さん、今日の為にいろいろ準備したのよ?」

息子「行きたくないから行きたくない」

嫁「息子! わがまま言わないの!」

息子「うるせーよ!」


嫁「…………」

友「…………」

嫁「まったく……あの子は」

友「どうしたらいいんだろうな」

娘「やっほー、ただいまー」

友「娘、帰ってきたのか」

娘「うん。 息子は? 相変わらずなの?」

嫁「ええ……」

娘「そっか」

嫁「そうだ、お姉ちゃんも息子に何か言ってあげてくれない?」

娘「自分で言ったらいいじゃない」

嫁「私の言う事なんて、何も聞かないのよ!」

友「まあまあ、無理強いは良くないよ、母さん」


娘「そーそー」

嫁「…………」

友「それよりせっかく帰ってきてくれたんだ」

友「もう一度、息子を誘ってみる」

友「家族が勢ぞろいするんだし、息子も気が変わるかも知れない」

嫁「そ、そうね」

娘「私は無理だと思うなー」

友「ははは……」


息子「……行かないって言ってるだろ」

友「で、でも、お姉ちゃんが久しぶりに帰ってきてくれたんだぞ?」

息子「いいよ……」

息子「俺抜きで行ってきたらいい」

友「息子!」

息子「行かないって言ってるだろ!」

友「あ……」

友「…………」


友(……このままじゃいけない)

友(そんな事はわかっている)

友(…………)

友(どうすればいい?)

友(どうすれば、働くようになるんだ?)

友(何が気に入らないんだ、息子……)

友(…………)

友(!)

友「……そうだ」

友「もしかしたら、あいつなら!」


友「……よう、男」

男「…………」

男「何で来たんだ?」

友「…………」

友「頼みがある」

男「頼み?」

友「俺の子供が……ニートになった」

男「……ほう」

友「いろいろ試したんだが息子はどうしても働きに……いや」

友「外にすら行こうとしない」

男「…………」

友「頼む、子供を……あの子が何を考えているかわからない」

友「何でもいい、アドバイスをくれ!」

男「…………」


男「何でクズの俺に頼むんだよ……」

友「…………」

友「……俺にもどうしてだかわからない」

友「ただ……子供の事を考えた時、何故かお前の顔が浮かんだ」

友「お前なら、いい答えをくれるんじゃないかって……」

男「…………」

友「頼む、男!」

男「…………」

男「はあ……」

男「…………」

男「本当に俺でいいのか?」

友「もちろんだ」


男「…………」

友「…………」

男「…………」

男「……先に言っておくが」

友「!」

男「失敗しても俺は責任持てないぞ?」

友「……ああ、わかっている」

男「そうか……」

男「じゃあ、お前の子供がニート歴どれくらいか」

男「友がそいつにどんなことをしたのか、まず教えてくれ」


友「……という感じだ」

男「ほうほう、なるほど」

男「若いっていいねぇ~」

友「……真面目にやってくれ」

男「悪いが俺はクズなんでな」

男「不真面目は大得意だ」

友「…………」

男「…………」

男「……よし、こんなもんかな」

友「!? ……もう出来たのか?」


男「まあな」

友「何を書いたんだ?」

男「ニート流、ニート更生プログラム」

友「……急に不安になってきた」

男「いらないなら別にいい」

友「とんでもない」

男「…………」

友「男?」

男「……俺が言うのも何だが」

男「これは家族に結構な忍耐力を強いる」

男「特にお前の嫁さんへの負担は大きいと思う」

友「…………」

友「覚悟している」

男「そうか……」


男「嫁さんが精神的に不安定になったら」

男「しばらく実家とか、落ち着ける所に預けるといい」

男「間違っても精神科病院とかへ連れて行くなよ?」

友「なぜだ?」

男「俺の経験談だが」

男「誰かに『連れられて行く』ってシチュが結構くる」

男「精神的に不安定な時、これをやられると」

男「意地でも否定したくて腹が立つんだ」

友「…………」

男「俺がおかしいって思うなら、参考にしなくていいぞ」

友「……すまん」


男「謝らなくていい」

男「ニートに悩んで、よりにもよって俺のところに来るんだ」

男「お前も相当自分を追い詰めているんだろうよ」

友「…………」

男「それじゃ……ほい」つ(レポート)

友「ああ、ありがとう」つ(レポート)

男「…………」

男「最後に言っておくが」

友「ん?」

男「焦りは禁物だ」

男「お前の子供を俺みたいにしたくないのなら」

男「時間がかかっても、少しづつ進んでいると思ってやってみてくれ」

友「……わかった」


プログラム①


無理強いをしない事

ニートに何かを『やれ』というのは禁句。

必ず『お願いする』という、ニートが断ってもいい形を取る事。

また、しつこく頼むのも厳禁。

一度断られたら諦める事。



友「いきなり難易度高いな……」

嫁「……どうしてお願いしなきゃいけないのよ」

嫁「私たちは親なのよ?」

嫁「本当にこれを信用してもいいの?」

友「…………」


友「俺にもわからん」

嫁「はあ!?」

友「だが……今までの方法は全部ダメだった」

嫁「…………」

友「これを書いた奴も言っていたが」

友「失敗しても責任は持てないよ……」

嫁「そんな方法を息子に試そうっていうの!?」

友「じゃあどうすればいい?」

友「確実ですぐに良くなる方法なんて存在するのか?」

嫁「……自衛隊とかに入れたら更生すると思うわ」

友「本人が嫌がっているのに入れてくれるのか? 自衛隊は?」

嫁「…………」

友「……次、読むぞ」


プログラム②


ニートに向かって『あなたの為を思って』とか言わない事。

また、行動しない事。

どうしても行動したい場合は、ニートに事前に話す事、必須。

この際の伝え方はプログラム①に準じる事。

黙って行動した場合、親への『信頼』が著しく減る。



友「……親への『信頼』と来たか」

嫁「なによ。 子供相手なのに、どうしてこっちが気を使わないといけないのよ」

友「…………」


プログラム③


ニートの前、または聞こえる場所でニートについて話さない事。

悪口でなくても、話題に出さない事。

ニートは、自分の行動を悪い事と認識しているが

それを言われたり、指摘されるのを嫌う。

言われなくても自覚しているので、平穏な家庭環境を乱さずに

許容する事。



嫁「悪いって思ってるのなら、なぜ変えようとしないのよ!!」

友「少し黙ってくれ」

嫁「…………」


プログラム④


ニートに対して挨拶をきちんとする事。

ニートが無言であっても続ける事。

この際、仰々しくやる必要はないが、テキトーにやるのもダメ。

あくまで『他の人たちと変わらない挨拶』を行う事。



嫁「……だんだん幼稚園児に対してのマニュアルに思えてきたわ」

友「…………」

友「……だが、間違った事じゃないだろう?」

嫁「それは……そうだけど」


プログラム⑤


ニートが話しかけてきたら、最後まで聞いてから答える事。

ニートの話をくだらないと思っても遮らず、焦らせず、真剣に受け止め

受け答えする事。

ニートには間違った事をしているという自覚が有る。

その為、ニートは萎縮する傾向があり、自分の意見を言う事に躊躇する。

友人が居ないのであれば、より増大する。

よって身近な人物がやるしかない。



嫁「だからどうしt」

友「いいから、黙って最後まで読め」


プログラム⑥


金銭の授受はきちんとしておく事。

毎月のお小遣い制度は無くす事。

欲しい物を買い与え過ぎない事。

ただし、ニートがはっきり買いたい物を提示し、求めてきた場合は

考察をし、明確な理由を持ってイエスかノーか答える事。



嫁「……ここは割とマトモね」

友「家族間でも金銭トラブルは多いからな」

友「うやむやにしないで」

友「いい事、悪い事ははっきりしないといけないって事だろう」


プログラム⑦


以上の事を踏まえ、普通に生活する事。

決して人任せにしない事。

後はニートの資質と家族の忍耐力の問題。

健闘を祈る。



嫁「…………」

友「……健闘を祈る……か」

嫁「……本当にこれで大丈夫なのかしら?」

友「……俺だって不安だよ」

友「今は……信じてみるしかない」





……しばらくは慣れない事もあって

ぎこちない態度になってしまったが

俺は男のプログラム通りの行動を行った。



一年が過ぎ、二年が過ぎ……

三年目の三分の一が過ぎた頃

ようやく変化が見え始める。




友「息子ー」

友「今日はいい天気だ」

友「父さんと散歩にでも行かないか?」

息子「…………」

息子「……どこへ行くの?」

友「んー特に決めていない」

友「そのへんプラプラって感じかな」

息子「…………」

息子「少し待って。 着替えるから」

友「おう、いいとも」


息子「…………」

友「ああ、気持ちいいな」

息子「…………」

友「あれ? ここって畑じゃなくなってるな……」

息子「……いつの話?」

友「だいぶ前だな」

友「10年くらい前」

息子「そう」

友「…………」

友「公園はどっちだったかな?」

息子「……あっちだよ」

友「そっか」


友「ふう……疲れた」

息子「全然歩いてないのに」

友「通勤は電車だからなー」

友「立ってるだけなら、自信あるんだが」

息子「そう」

友「ふー……」

息子「…………」

友「…………」

息子「…………」

友「…………」


息子「ねえ、父さん」

友「ん?」

息子「最近……働けって言わないね」

友「……ああ」

息子「母さんも言わないね」

友「そうだな」

息子「どうして?」

友「…………」

友「……本音を言えば、働いて欲しいさ」

息子「…………」

友「今は何とかなってるけど……この先、病気になったり」

友「事故にあったり、何かの事件に巻き込まれたりした時」

友「俺たち一家がどうなるか、わからないからな」

息子「…………」


友「でも……父さんちょっと考えを変えてみた」

息子「え?」

友「それはお前が働いていても同じ事じゃないかって」

息子「…………」

友「まあ……税金とか、保険の費用とか、いろいろあるけど」

友「待つ事が出来るうちは、待ってやろうかなって」

友「思ったんだ」

息子「……父さん」

友「もちろん母さんは大反対だろうけどな!」

息子「…………」 クスッ

友「はははは……」





……この翌年

嫁に限界が来た。



だいぶヒステリックになっていたので

男に言われた通り、実家に帰らせる事にする。

ここからはしばらく、俺と息子の二人だけで生活する事になった。





息子「……父さん、出来たよ」

友「すまんな、息子」

息子「俺も大したもの作れるわけじゃない」

友「それでも俺が作るより100倍美味いって」

友「いただきます」

息子「いただきます」

~~~~~~~~~~~~

友「ごちそうさまでした」

息子「ごちそうさま」

息子「……それから、父さん」

友「ん?」


息子「保険料のお金」

息子「振り込んでおくから貰えないかな?」

友「ああ、わかった」

友「いくらだ?」

息子「全部で5万円くらい」

友「よし……ほら」つ(5万円)

友「領収書を忘れずにな」

息子「わかってるよ。 ちょろまかしたりしない」

友「よし」

友「じゃ、行ってくる」

息子「行ってらっしゃい」


友「ただいま」

息子「お帰り」

息子「今日の夕食は……」

~~~~~~~~~~~~

友「ごちそうさまでした」

息子「ごちそうさま」

友「いつもありがとう」

息子「いいよ、礼なんて……」

友「いや、大事な事だぞ? 感謝するのは」

息子「そうか……そうだよな」





嫁が居なくなって数ヶ月

俺と息子の生活は続いていた。



そんなある日。

娘が子供を連れて帰って来た。





娘「うわーきったない部屋!」

息子「……これでも片付けたんだけど」

娘「ちょっと私が掃除するよ」

娘「子供の面倒見てて」

息子「へいへい」

孫「おっちゃ! 遊ぼ!」

息子「おじさん、な?」

孫「おっちゃ!」

息子「……もうそれでいいよ」

息子「…………」





……そして、突然だったが

息子は、アルバイトを始めた。



寝耳に水で本当に驚いたが……

俺は『そうか。 頑張れよ』とだけ言った。





友「……よお」

男「友か」

男「しびれを切らして文句を言いに来たんだな?」

友「いや」

男「!」

友「バイトだけど、働き始めたよ。 俺の子供」

男「…………」

男「そうか」

男「良かったな」

友「改めて礼を言う。 ありがとう」


男「……ちげーよ」

男「たまたま上手くいったんだ」

男「運が良かっただけだよ」

男「あとは……お前の忍耐力がずば抜けて高かっただけ」

友「そうかな……お前の助言がなかったら」

友「ひどい方向で違った結果になったと俺は思う」

男「…………」

男「そうか」

男「そう言ってくれるか」

友「ああ」

男「…………」

友「息子の奴、働き始めたきっかけの事を話してくれてな」


友「俺の娘の子供……つまり孫を見て」

友「この子に『昼間なのに何でおウチに居るの?』って」

友「質問されたくないからだってさ」

男「ははは」

男「なるほどな……」

友「…………」

友「だから、さ」

友「俺は思うんだ」

男「…………」

友「お前だって、きっかけがあれば……」

友「きっかけさえあれば……」

男「…………」


男「……かもしれないな」

友「今回のこれだって、お前の経験から導き出されたものだろう?」

友「本当は、変わりたいって、何とかしたいって思ってたんじゃ無いのか?」

男「…………」

男「……そうだな」

男「そうかもしれない」

友「だったら!」

友「今からでも遅くない」

友「変えていかないか? 今を!」

男「…………」

男「もう遅いよ」

男「俺は……歳を取りすぎた」


友「けど……!」

男「ニートに無理強いをするな」

友「…………」

男「…………」

男「……言い方を変えれば、な」

男「俺はクズに変わる『きっかけ』があったんだ」

友「!?」

男「もう……両親を尊敬できない。 敬えない」

男「そういう『きっかけ』が……な」

友「男……」

友「…………」


男「だが、もうこれでここに来る必要は無くなった」

男「今度こそ本当にお別れだ」

友「……何でだよ」

友「別にまた来たっていいだろ?」

男「来なくていい」

男「俺はこの『狂った平穏』にいるのがお似合いだ」

男「お前みたいな奴は、関わらな方がいい」

友「……どうしてもか?」

男「どうしてもだ」

友「……そうか」

男「…………」

男「あ……そうだ」

友「え?」


男「ちょっと待っててくれ」

友「あ、ああ……」

男「…………」

友「…………」

男「よし、こんなものか」

友「男?」

男「これ……」つ(レポート)

友「なんだ? これ?」つ(レポート)

男「ニート流 ニート更生プログラム」

男「その⑧」

友「へえ?」


プログラム⑧


ニートに出来る範囲で頼み事をする事。

ニートは、基本後ろめたさがあり、自分からは行動しないが

身近で出来る範囲の事なら割とやる。

ただしプログラム①の基準に従い、無理強いはしない事。

何かの役に立てたニートは嬉しく思い、感謝をされればなお喜ぶ。

自分も社会の一部なのだと実感できるだろう。



友「…………」

友「……おい、これって」

男「さあ、もう行け」

男「二度と来るな」




……それが、俺の見た最後の男の姿だった。

この2年後、男は死んだ。

直接の死因は出血多量による失血死。

末期の胃がんによる吐血で、自分の部屋で亡くなったそうだ。

その一年後に訪ねた時、男の死を知るのだけど……



男の両親の顔は信じられないくらい

明るいものだった。




友「…………」

友(男……お前)

友(本当にこれでよかったのかよ……)

友(こんな最後で……両親にすら悲しまれず、誰にも知られず……)

友(…………)

友(嬉しかったんだろう?)

友(俺の子供が真人間になって……社会に貢献できて)

友(役に立てた自分が嬉しかったんだろう?)

友(…………)

友(やっぱりお前……)

友(いい奴じゃねーかよ……)

友(バカ……やろうが……!!)




今、日本にいる中年ニートと呼ばれる存在は

約100万人居るという。

その多くは、就職氷河期と呼ばれ、若い頃

出だしにつまづいた世代である。

努力が足りなかった。 仕事を選びすぎ。 自業自得。

それは、多くの人が考える理由であり

グウの根も出ないほど正論である。






だが……世の中には『できる人』ばかりではないのも確かだ。

努力も、頑張りも、身体能力も、人並み以下しか

持ち合わせない人も居るのである。



甘えだ、と言える人は、きっと努力家なのだろう。

ろくでなしだ、と言える人は、きっと仕事のできる人なのだろう。

コミュ症だ、と言える人は、きっと世渡りが上手で空気の読める人なのだろう。

ニート生活は、心地の良い不幸のぬるま湯である。

浸かっている時間が長ければ長いほど

極寒の世間へ抜け出すのに時間がかかってしまう。

頭で分かっていても、抜け出せないのだ。







このSSは、余りにもご都合主義で描いている為

絶対に不評を買うであろう事は覚悟している。



でも、それでも、一言だけ読んでくれた皆さんにあえて

更に不評を買う事を覚悟で言っておきたい。



どうか、ニート達をそっとしておいてやってください。




おわり

HTML化お願いしましたので。
読んでくださった方、ありがとうございます。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年02月24日 (水) 20:38:23   ID: KFmA8M9g

おもしろかった

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