【悪堕ち系?】榛名「榛名は……大丈夫ですから」【たまに安価とR-18】 (75)




タイトル通り、悪堕ち要素、たまにR-18(百合系)要素のSSです。

主人公は榛名





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月と星が世界を淡い光で照らす時間。けれど、この海は違った。


榛名「クッ……ゲホッ……う……ぁ……」

レ級「アーァ…………飽キチャッタナ」


ある海域で始まった艦娘と深海棲艦の戦い。

多くの艦載機が空を舞い、機銃が雨のように降り注ぎ、砲弾が飛び交い、魚雷が海の中を駆け巡った。


レ級「イヤサァ、姉妹揃ッテ頑張ッタ方ダト思ウヨ?ケド、シカシ、マルデ全然、
   コノ僕ヲ沈メルニハ、程遠インダヨネェ……ハァ~……」

榛名「お姉……様……霧島……皆ぁ……」


時間がどれほど経ったのかは分からない。ただ、始まった時は日がまだ高い所にあった事から、
相当な時間が経っている事は確かだろう。


レ級「デ、残ッテルノハ旗艦ノオ前ダケナンダケド、遺言トカアル?別ニ普段カラソウイウ事スル訳ジャナインダケドサァ、
   今日ハ趣向ヲ変エテッツーカァ、気分ヲ変エテ?聞クダケ聞イテヤルヨ」

榛名「ッ」ギリッ


榛名は目の前にいる戦艦レ級を、憎しみを込めて睨みつけた。

それは、普段の彼女を知る姉妹の誰もが見れば、背筋を凍らせていただろう。

しかしレ級は、まるでその目を見飽きているかのように、屈んで頬杖をついたまま榛名を見つめる。





レ級「ネ~、何カ無イノ~?」

榛名「……何も」

レ級「オ?」

榛名「何も……ありません。遺言なんて、ありません」

レ級「……ソウ言ワズニサァ」

榛名「貴方に言い残すことなど何も無い!私達は死ぬ事も覚悟してここに来た!この命が散ろうとも、
   必ず仲間がこの海に平和を取り戻す!!自分の仲間を死ぬまで盾にするようなお前には絶対に屈しない!!」

レ級「…………プッ」

レ級「ギャッッッハハハハハハハハハハハハハ!!!」


深海棲艦は高笑いした。


レ級「ハァ~……フフフ」ユラ


笑いながら立ち上がると、榛名の傍を離れて、水面に浮かぶ複数の艦娘の元へ向かうと、掴んで拾い上げていく。


榛名「!? お姉さま達から離れろ!」


それは榛名の姉達と妹、金剛、比叡、霧島だった。レ級は榛名の声を無視して軽巡2人も拾っていく。

全員気を失っているため何の抵抗もしなかった。艤装は大破し、あとほんの少しのダメージでも受ければ轟沈するだろう。


レ級「オ前、面白イヨ。気分ガ良クナッタカラ、良イコト思イツイチャッタ♪」

榛名「良い……こと?」


全員を榛名の前に連れてくると、ニッコリと、楽しそうに笑った。





レ級「ナァ、コノ状況カラ皆デ生キテ帰レル方法ガアルッテ言ッタラドウスル?」

榛名「!……そんなの、あるわけない。あったとしても、お前の甘言になんかには惑わされない!」

レ級「ソウカァ?今、一瞬躊躇ッタダロォ。ソレガオ前ノ本音ジャナイカ?」

榛名「っ……クッ」ギリッ


榛名は自分を卑下した。

この場にいる艦娘全員が、死力を尽くして戦った。無論、死ぬ覚悟もあった。けれど生きて帰ることを
心に決め、その上で敗れた。敗れはしたが、惨めに命乞いをした者などいなかった。最後の最後まで、一人の兵として立派に戦った。

なのに自分は、一瞬とは言えわずかに見えた”希望”に縋ろうとしてしまった。それが敵によってぶら下げられた”餌”だと分かっていたのに。


レ級「ソンナニ悔シガルナヨ。命アッテノナントヤラダロ?」


ズルリと、口がある巨大な尻尾型の艤装を前に持ってくると、その口が大きく開く。

その舌には黒と緑色が交じり合った、奇妙な玉が5つあった。


レ級「ハイ、ア~ン♪」

榛名「や、止めろ!!」


レ級はそれを、次々と気を失っている艦娘達の口へと入れていく。なんとか止めようと榛名は手を伸ばすが、


ゴクリ


と、飲み込む音が聞こえた。


榛名「あ……」

レ級「ハァ~イ、全員良ク出来マシタァ~♪」ペチペチ


*書きながらやってるもんで・・・




榛名「な、何を……お前!お姉さま達に、皆に何を!?」

レ級「アァ、今飲マセタノハ”深海ノ卵”ダヨ」

榛名「深海の……卵?」


それは初めて聞く単語だった。

艦娘は深海棲艦と戦う事が最重要任務とされいるが、深海棲艦の調査もその傍らに含まれている。

そして新たに分かった事は全ての鎮守府に行き渡るようにされ、常に艦娘には最新の情報が知らされる。

しかし”深海の卵”という単語や、たった今金剛達に飲ませた黒と緑の物体に関する情報は全く無かった。


レ級「オ前ラ艦娘ガ轟沈スルト、稀ニ僕達ニナルッテノハ知ッテルダロ?」

レ級「詳シイ条件ハ分カッテナイケド、ソコニ目ヲ付ケタウチノ”港湾ノ姫”ノ奴ガ……”港湾ノ姫”
   知ッテル?僕ノ顔クライオッパイガデカイ奴デサァ、チョット動クダケデメチャクチャ揺レルンダヨ!」ジュル


両手を使って大きさをジェスチャーで伝えてくるその目は、まるでロマン溢れる物を見る少年のようにキラキラと輝いていた。


レ級「アンマリ揺レルモンダカラ一回揉ンデシャブッテヤロウカト思ッテ飛ビツイタ
   ンダケド、ソッコーブン殴ラレチャッタンダヨネェ~。『頭取レタァ!?』ト思ッタネ、アノ時ハ」ケラケラ

レ級「チナミニ”港湾ノ姫”ヨリハ小サイケド”中間ノ姫”ト”戦艦ノ姫”モ良イオッパイデサァ!”港湾ノ姫”ト違ッテ2人共
   ”ロリコン”ダカラサービスシテクレルンダヨネ~♪揉ンデ良シ頬ズリシテ良シノ極上オッパイデ、1回2人ニ挟マレテ
   寝タンダケドソリャモウ最高!思ワズムラムラシチャッテ襲ッチャッタンダケド、ムシロソレガ狙イダッタミタイデ――――」ハッ!

榛名「……」(←深い海の底のように冷たい目)

レ級「……」コホン

レ級「……話ソレチャッタ。オッパイノクダリハ忘レテ。……デ、ソノ爆乳イ姫ノ奴ガサァ、
   意図的ニ艦娘ヲ僕ラニ変エル方法ハ無イカッテ言イ出シタンダヨ」

榛名「……意図的に?」





レ級「ソウ。ソシテ生ミ出サレタノガ”深海ノ卵”。僕等ノ細胞ヲ元ニ作ッタ物デ、コレヲ体内ニ摂取シタ艦娘ガ
   轟沈スルト”孵化”シテ細胞ヲ侵食シテ、タチマチ僕等ノ仲間入リッテワケ」

榛名「!?」

レ級「アァ、安心シナヨ。今ココデ実演スルツモリハナイ。ムシロココカラガ面白インダカラ……サァ!」ガシッ

榛名「ッグ!!」


レ級は榛名の首を掴むと、片手で易々と持ち上げる。抵抗しようにも、艤装が大破し、浮いて移動する事しか出来ない
榛名は己の腕力でしか抵抗出来ない。だが、レ級の腕力は榛名を上回っている。

僅かに呼吸は出来るが、身動きが取れなかった。


レ級「仲間ヲ確実ニ増ヤスタメトハイエ、一々”卵”飲マセテカラ沈メルノッテメンドクサイジャン?ダカラコノ”深海ノ卵”モ、
   ナントカ改良出来ナイカッテ最近”姫”ガウルサインダヨネ。デ、僕ガ思イツイタノハ、”送信機”ト”受信機”ニ分ケルッテ方法」

榛名「送ッ……信、機?」

レ級「今オ前ノ仲間ニ飲マセタノハ”受信ノ卵”。ソシテ」ズルッ


レ級が尻尾の艤装を榛名の顔に近づけ口を開くと、最初に見た物よりどす黒く、大きな玉が舌の上に乗っていた。


榛名「ッ!?」ぞくっ……

榛名(な、何?これ、見てるだけでも全身から寒気がする!)

レ級「コッチガ”送信ノ卵”。コノ”卵”ガ”孵化”スルト信号ガ送ラレテ、”受信ノ卵”ハ”孵化”、細胞ヲ侵食シテ僕等ニ変エル」

レ級「モチロンドッチノ”卵”モ、轟沈シタ艦娘ノ中ニアレバ”孵化”スルケド、他ノ”卵”ト違ウノハ、
   ”送信ノ卵”は”飲マセタ相手ノ意志”で”孵化”サセラレルッテトコ」

榛名「!?」


飲ませた相手の意思で孵化させられる。

それを聞いた榛名は理解した。このレ級が何を考えているのかを。


レ級「コレヲオ前ニ飲マセル」

榛名「ッ!」





皆で生きて帰れると提案したのは、この卵を持ち帰らせるため。

鎮守府内で孵化させればたちまち鎮守府を落とせる上に、上手くいけばそこからさらに深海棲艦を生み出せる。


榛名「ッグ、ウウウウウウ!!」


それが狙いだと理解した榛名は今すぐにでも舌を噛み切ろうとした。

敵に情けを掛けられ生き延びるだけならまだしも、仲間を巻き添えにするなど出来るわけがない。

それはかつて、この国を守るために戦い、再び人として生まれ変わってこの国を守ろうとする艦娘という存在にとって、最大の屈辱だった。


レ級「ア~ダメダメ。自殺ハダメダヨ~。自分ノ命ハ大切ニシナキャネ」


しかしそうはさせまいと、レ級は榛名の口を手で掴む。


榛名「ふっ、んぐ!ンンンンン!!」ジタバタ

レ級「ン~……ソンナ”クッ、殺セ!”ミタイナ目ヲサレテモネェ……ア、ソウダ」パッ

榛名「え?きゃあ!?」


ばしゃん!


何かを思いついたレ級は榛名を手放す。急に開放された榛名はそのまま腰を打つ。

意図が分からず一瞬呆けてしまうが、すぐに自害しようと思い直す。


榛名「クッ!」ギリッ

レ級「自殺シタキャスレバ~。ソノ代ワリ……」パシャン パシャン

榛名「!?」


だが舌を噛み切ろうとした瞬間、金剛の元に歩み寄ったレ級を見て踏みとどまる。





レ級「コイツニ”送信ノ卵”ヲ飲ンデ貰ウカラサ♪」

榛名「!? や、止め!」

レ級「ア~デモ先ニ”受信ノ卵”取リ出サナイトナァ~。鯨デ実験シタ時ハ一緒ニ飲マセルト”孵化”出来ナカッタシ」スッ

金剛「……ん」ピクッ


そう言ってレ級は金剛の顔に手をかざす。すると、徐々に金剛の顔色が悪くなって、呻き声が聞こえ始めた。


金剛「ゥ……ア……アァ……アッ!!……ギッ!!?」ビクッ!

榛名「お姉様!?」

レ級「ア、ソウ言エバ~。実験ジャア1度モ上手ク取リ出セナカッタナァ~」


レ級は、たった今思い出したと言わんばかりに、首をかしげて、頬に人差し指をさす。


レ級「取リ出ス時ニ孵化シチャッテ、生キタママ僕等ニナッタケドソノママ苦シミナガラ死ンジャッテタッケ」

金剛「アッガッ、アアッ!!?」ビクンッ!!

レ級「マァ今度ハ上手クイクヨネ。42度目ノ正直ダ♪」

金剛「アアアアアアアアアア!!!ギッ!ガアァ!!アアアアア!!!ギャアアアアアアアアア!!」

榛名「お姉様ああああああ!!!」


激痛に金剛は目を開き、海面をのた打ち回った。

視線の先には榛名がいたが、突如として全身を襲った痛みに脳が視覚情報を受け付けてはいなかった。




レ級「ガンバレガンバレー。アト少シデ取リ出セルヨ~」

金剛「アアアアアアア!!グッ!!ウウウウウッ!!アアアアアアアアアア!!」

榛名(お姉様ッ!)ギリッ……


榛名は迷っていた。

これ以上苦しめれば、金剛が死ぬのは容易に予測出来る。それを止めるには、レ級の提案を受け入れ、自分が”卵”を飲めばいい。

だが、それはつまり鎮守府にいる提督を、他の艦娘全員を裏切るという事だ。


榛名(そんな事は出来ない!……そうだ、ここで敵に屈服してはダメ!最も被害を抑えるには、要求を呑まず死ぬ事!
   艦娘6人が深海棲艦に成り果てようとも、鎮守府全滅の可能性を排除するべき。そう、それが一番の選択!)

榛名(逆の立場なら、きっとお姉様だって!)

金剛「アアアアアアアアア!!アアアアッ!!アアッ!!ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


金剛の悲鳴に、榛名は耳を塞いでいた。最善の選択を得るために、己の決心を折らないために、眼を背けた。

だが、聞くまいと耳を塞ぎ、見まいと目を硬く閉じたとしても、榛名の耳には金剛の悲鳴が聞こえ続けた。


金剛「ッぁ……カッ…――――――」


しかしそれも長くは無かった。喉が枯れたのか、それとも激痛に再び気を失ったのか、金剛の悲鳴が途切れた。


榛名「お姉……様……?」


終わってしまったのか?

そう思った榛名は耳を塞ぐのをやめ、目を開いてしまった。





榛名「ッ!?」


それは、間違いだった。榛名は金剛の顔を見てしまった。

太陽のように明るい笑みを浮かべていたその顔は、自ら掻き毟ったために傷だらけになっていた。

女の魅力を上げて提督を落とすと語り、トリートメントを欠かさなかった髪もまた、自らむしったために激しく痛み、乱れている。

目は虚ろで、だらしなく口が開き、いつも明るく姉妹や駆逐艦の艦娘達からも尊敬される明るい顔とは程遠い。

全身は痙攣し、まるで陸に上げられて呼吸の出来ない魚のようだった。


榛名「あ……あぁ……」


榛名の覚悟に亀裂が走る。

いつもハイテンションでノリが良く、太陽のようだと明るく振る舞い、けれど、秘かに提督への想いを語る時は乙女のような
恥じらしさを感じつつ頬を赤くする。そんな金剛を誰もが好いていたし、金剛もまた、鎮守府にいる艦娘全てが大好きだと語っていた。

そのために誰よりも早く強くなる事を願い、幾度と無く危機を乗り越えてきた。

今回の激戦でも、金剛は榛名を庇っていた。


レ級「オ?モウスグ取リ出セソウ!」

金剛「ガッ!!アアッ!!」ビックン!

榛名「ッ!」


再び悲鳴を上げた金剛に、榛名は思い直す。緩んだ覚悟を、再び強固なものにしようとする。


だが、遅かった。





金剛「あ……あぁっ…………て」

榛名「!?」



金剛「t……て……ぃ…と…く」



金剛は震えながら、榛名に手を伸ばした。目は虚ろなままだったが、顔が緩み、ゆっくりと、笑った。

何も写さぬ瞳に、榛名の姿を写し、恋焦がれる人の姿を見ていた。


榛名(……あぁ、ダメだ)


榛名の覚悟は、崩れ落ちた。


榛名「っ!……止めろおおおおおおおおおおおおおお!!!」

レ級「アン?ドウシタ?」ピタッ


榛名の叫びに、レ級は卵を取り出すことをあっさり止める。激痛の治まりと同時に、金剛は再び気絶した。


榛名「お願い……します……何でもしますから、どうか、どうか皆を、助けて、下さい……」


榛名は震える声で頭下げ、海面に頭を付けた。

屈辱は感じなかった。ただこれ以上、誰も苦しめたくないという思いしかなかった。





レ級「ウン。良イヨ。安心シナヨ鎮守府ニ戻ッテモスグニハ孵化シナイ。ヤッテモライタイ事ガアルカラネ」


レ級は金剛から離れると、榛名に近づいて屈んで話しかける。


レ級「オ前サァ、”スパイ”ヤッテクレナイ?僕ハ強イカラドウデモイインダケド、ココントコ負ケ続キデ”港湾ノ姫”が
   ピリピリシテテサァ、ココイラデ反撃シテ、機嫌トッテオキタインダヨネ~。……ソシタラオッパイ触ラセテクレソウダシ」

榛名「……はい」

レ級「コノ”送信ノ卵”ハ僕ノ一部デモアルカラ、鎮守府ニ戻ッタラ具体的ナ指示ヲオ前ニ出ス。ヨロシクネ♪」

榛名「……はい」

レ級「当タリ前ダケド、コレハ僕トオ前ノ秘密ダカラネ。誰カニ喋ッタラ、即効孵化サセルカラ」

榛名「……はい」

レ級「ン。ジャア、入レルネ」

榛名「……はい」


榛名はただ、うなずいた。ただ従うことで、この悪夢を終わりにしたかった。

レ級は艤装の口から”卵”を手に取る。唾液に濡れた卵は一層どす黒い色になりながらも、てらてらとした光を放っていた。

榛名の顔を持ち上げ卵を近づけると、榛名は自ら口を開けた。

ただ目を閉じて、涙を流しながら、己の無力さを受け入れるかのように、卵を口に含んだ。


榛名(ごめんなさい。お姉様。提督。皆……)

榛名「ン……っ……んぐ」


口の中に、卵が入る。舌の先さえ動かせないほどの大きな卵を、榛名は力を込めて、飲み込む。


榛名(榛名は……悪い子です……)


ゴキュッ





ぬるりとしたものが喉を滑り、食道を一瞬押し広げるほど大きなものが己の腹の中に入るのを、榛名は感じる。


榛名「ッ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

レ級「ウン。良ク飲ミ込ンダネ。偉イ偉イ」ナデナデ

榛名「……はい」

レ級「ジャア僕帰ルカラ、バイバーイ」

榛名「……はい」


手を振りながらレ級はその場を去っていった。

そして、レ級が去ってしばらくしてから、榛名は立ち上がった。


榛名「…………」










榛名「あはっ」







榛名「あはははははははっ!あははははははははははっ!!」


榛名は笑った。

何がそんなに面白いのか、何がそんなに滑稽なのか、そんな事など分からないまま、ただ笑い続け、

ピタリと、止める。


榛名「……死んじゃえ」

榛名「悪い子の榛名なんて、死んじゃえ」


静かに、そう呟いた。





それから後の記憶は、榛名には無かった。

ただ、たった一人で大破した全員を引っ張って海上を移動していたところを、
鎮守府から救援に駆けつけた長門、川内、大井、北上、木曽らが発見し、救助。

鎮守府に戻ると、特に損傷の激しかった金剛、比叡、霧島、那珂、神通は優先的に入渠に入った。

唯一大破しながらも意識があった榛名であったが、長門らの呼びかけに全く応じず、自分を
攻め続けていたため、医務室に運ばれた。

そして、榛名が次に目覚めたのは朝だった。


榛名「……ん」パチ


目を開けると、そこは見慣れた場所だった。立ち寄った機会は
少ないが、そこが自分の鎮守府にある場所だということは分かる。

体を起こし、周囲を見渡すと、


不知火「おはようございます」ぬいっ

榛名「きゃあ!?」


鎮守府ナンバー1の鉄仮面娘、不知火が真横にいた。


榛名「し、不知火さん?いつからそこに?」

不知火「榛名さんがこの部屋に運ばれてから、駆逐艦の皆で交代で看護にあたっていました
    私は6番目、10分前に交代し、榛名さんの覚醒を待っていました。」

榛名「そ、そうですか……」

不知火「……では、榛名さんが目を覚ましたら知らせるよう提督から
    命令されておりますので、失礼します。何か飲み物など、必要な物はありますか?」ガタッ

榛名「いえ、特には」

不知火「では、失礼します」


ガチャン





不知火が扉を閉め、廊下を歩いていく音が聞こえた。

医務室には、榛名しかいない。


榛名「……夢……なわけないですよね」


あの夜喉に感じたぬめりと圧迫感を思い出し、一人そう呟くと、榛名はベットから降りる。多少体が痛むが、構わない。

鏡の前に立つと、服を脱いで全身をくまなく見てみる。もしかしたら卵の影響で
体になんらかの変化があるかもしれないと思ったからだ。


榛名「何もない……か……」


これなら、特に誤魔化すために嘘を吐く必要はなさそうだと思った。

思わぬ強敵と遭遇し負けたものの、情けを掛けられ生き延びた。そう伝えれば良いだろう。


ダカダカダカダカダカダカダカ!!


榛名「?」


バーーーーーン!


医務室の扉が大きな音を立てて開いた。


提督「榛名!目が覚め……あ」


中に入ってきたのは榛名達が所属する、矢三尾鎮守府の提督だった。

提督は中に入るやいなや、その場で固まってしまう。





提督「あっいや!ゴゴゴゴゴメン榛名!別にそういうつもりじゃなかったんだけど!!」

榛名「?」


顔を赤くし、あたふたと慌てて後ろを向く提督の行動に首を傾げる。


榛名「どうかしましたか?」

提督「い、いやホラ、榛名その……なんで裸?」

榛名「……あ」


提督にそう言われ、やっと気づいた。自分が今、全裸だったという事に。


榛名「……申し訳ありません」

提督「いやいやいやいや!!こっちこそありがとうございます!じゃない!ゴメン!!本当にゴメン!!」

榛名「気にしないで下さい。榛名は、大丈夫ですから」

提督「へ?いや、ここは普通悲鳴をあげる所だしひっぱたかれても文句を言わないよ?
   っていうかむしろそうしてくれないと罪悪感が半端無い……」

榛名「提督は何も悪くありません。悪いのは全て榛名です」

提督「……え?」





榛名「全部榛名が悪いんです」

榛名「本当なら今回の任務は無事に終わるはずだったんです。だけど深海棲艦との戦いの中、
   金剛お姉さまは私を庇って被弾しました」

榛名「その時私は何をしたと思います?本当ならお姉様のフォローをしなければいけなかったのに」

榛名「私はパニックになってしまったんです」

榛名「ただひたすらお姉様の名前を読んで、死なないで下さい。死なないで下さいって、泣き叫んでたんです」

榛名「そのせいで比叡お姉様や霧島が、那珂さんや神通さんまで大破して……」

榛名「一番馬鹿なのは通信機を壊してしまった事ですかね。金剛お姉様を心配する余り、
   敵の妨害電波装置にまんまと破壊されて、提督からの指示を無くしてしまったんですから」

榛名「あぁもう本当に馬鹿ですよね。初めての旗艦だからって浮かれてたんですよね。私がこんなに馬鹿じゃなければ
   皆傷つかずにすんだのに本当に情けない。最悪です。榛名は悪い子です。解体されたほうがいいんですよ私なんて
   あぁもう是非そうしてください。きっと次に来る榛名の方が上手くやってくれます。ここにいる私なんて」



榛名「死んじゃえばいいんです……」



提督「……榛名」

榛名「提督、お願いがあります。この榛名を処分してくだ」

提督「ちょっとゴメン」

榛名「え?」


パシィン!


医務室に、乾いた音が鳴り響いた。


榛名「え?……ぁ」


頬の痛みと、提督が目に涙を浮かべている事に気がついた。自分が今、ビンタされたのだと。





ゆっくりと、提督は榛名の肩を掴む。


提督「確かに榛名は今回の任務でとんでもない失敗をしたかもしれない。それは事実だ」

提督「そのせいで皆を危険な目に合わせて、もしかしたら全員生きて帰ってこなかったかもしれない」

提督「今回こうして皆が帰ってきたのは、敵が情けを掛けたからかもしれない。運が良かっただけなのかもしれない。
   あるいは生きて帰らせる事が敵の作戦の内だったのかもしれない」

榛名「…………」

提督「だけど、皆無事に帰ってきたんだ」

榛名「無事……だなんて……」

提督「傷は簡単には癒えないかもしれない。でも、その傷を見て自分を責め続けるより、前に進む糧にして欲しい!」

提督「僕だってたくさん失敗してきた!資材詰め込みすぎて出撃さえ出来なくなった時もあったし、敵の罠に嵌って
   君たちを危険な目に合わせた!僕が未熟だったせいで、君たちを何度失いそうになったか、数え切れたもんじゃない!」

提督「でも、だからって僕はこの”提督”って場所から、鎮守府から逃げたくない!」

提督「ここは皆を守るためにある場所だ。僕には戦う事は出来ないけど、守る事は出来る!」

提督「傷ついて、立ち止まって、前に進めないって思ったなら、少しくらい座って休んだって構わない」


ぎゅっ


榛名「!……提督」


提督は、榛名を抱きしめた。けして力強いとは言えない、軽く走っただけで息切れするくらい
非力な提督ではあったが、今抱きしめられている榛名には、とてもそんな風には思えなかった。


提督「怖いなら、勇気を出せないなら、僕がこうして守る。勇気もあげる。恐怖も払ってあげる」

提督「だけど必ず立ち上がって!明日を守るために、この場所を、皆を守るために、自分の意志で立ち上がって欲しい!」

提督「だから、だから死んじゃえばいいだなんて言うな。榛名が死んだら、僕も皆も、すごくつらいんだ」ギュッ

榛名「提督……」





タッタッタッタッタ  バァン!


雷「榛名さんが目を覚ましたって本当!?」

提督「ッ!?」ばっ

榛名「あ……」


雷が医務室に入ってくると、提督が榛名から離れる。が、時既に遅しである。


雷「……司令官」ゴゴゴゴ

提督「あっいやち、ちちちち違うんだ電!これはやましい気持ちがあったわけじゃ!」

雷「電じゃない雷よ!!間違えてんじゃない!」

提督「あ……ご、ごめん!許して!」

雷「ダメ!」ピーーーーーーーーッ!


パリーン!


天龍「御用だ御用だーーーー!」

木曽「御用だ御用だーーーー!」

提督「ぎゃーーー修理費がーーーー!!」


雷が笛を取り出して吹くと、窓を突き破って天龍と木曽が入ってきた。





天龍「やいやいやいやい!朝っぱらから不健全な提督がいやがるじゃねぇか!おぉん!?」

木曽「おうおうおうおう!ここは天下の矢三尾鎮守府よぉ!イチャイチャしてぇならホテルにいきなぁ!」

提督「ち、違う!なにもやましい事なんて無い!僕は提督として榛名を慰めてただけだから!
   服だって榛名が脱いでたんだ!僕が脱がしたわけじゃない!!」

天龍「言い逃れたぁますますふてぇ野郎だ!」

木曽「なら慰める前にまず服を着せるのが道理だろうよ!」

提督「………………確かにそうだね」

天龍「おっしゃ!連行!」

木曽「おしきた!」

提督「あ、ちょっ!?」


言うが早いか、天龍と木曽は提督を簀巻きにして2人で担ぎ上げる。


天龍「よ~し。今日は『内臓グルグル地獄脳天パックリ部屋』行きでい!!」

提督「え!?またあの部屋!?」

木曽「おうよ!覚悟しやがれ提督ーーーーーー!」

提督「いやだああああああ!もうあの部屋は嫌だあああああああああああああ!!」

天龍「どいたどいたーーー!」

木曽「どいたどいたーーー!」

榛名「て、提督!」


ドタドタドタドタドタ!


榛名が手を伸ばした頃には、提督は天龍と木曽に運ばれていった後だった。





雷「榛名さん大丈夫?」

榛名「は、はい。榛名は大丈夫です」

雷「そっか、良かった。帰って来た時の榛名さん、すごく自分の事責めてたから……」

榛名「……ご心配をお掛けしました」

雷「榛名さんが謝る事なんて何もないわよ!。それよりさ、早く入渠しなきゃ!もう
  金剛さん達も入渠は済んでるから、早く入ってきて!」

榛名「は、はい……」


~~~~~~~


カラカラカラ

ぺた ぺた ぺた

ちゃぷ……


榛名「……」ブルッ

榛名「…………ふぅ」


湯船に浸かると、全身にあったずきずきとした痛みが徐々に治まっていく。

このまま時間が来るまで居続ければ、体は癒えるだろう。


榛名(けど、卵が消えるわけじゃない……)


湯の中で、榛名は自分の腹を撫でる。

見た目に変化は無い。卵を飲み込んだ直後に感じた、胃の中にあった重みも感じなかった。


榛名「全部、夢だったら……」


ぽつりと、何気なく榛名は呟いた。


――――――――――ドクン!――――――――――


榛名「ぐッ!?」ビクッ!


その次の瞬間、榛名の全身に痛みが走る。


休憩

再開




レ級『イヤイヤイヤ、夢ナワケナイジャーン!』

榛名「うっ、ううう!」ギリッ


頭の中から、レ級の声が聞こえる。


榛名「ッ……な、何の……ようですか」

レ級『エ?』


激痛に体を強張らせ、榛名は声を押し殺しながら問う。


榛名「私、に、……何を聞きたいんですか。そのために、話しかけているんでしょう?」

レ級『エ?……エ~ット……何聞コウカナァ~?』

榛名「……」

レ級『ア、ソウダ。チョット下見テ』

榛名「し……た?」

レ級『ソウソウ、モウチョイ下』


レ級の指示通り下を見るが、そこにあるものなど、


レ級『ウワ……オ前モ結構オッパイアルナ。揉ンドケバ良カッタ……』

榛名「……」





榛名「もういいですか」

レ級『ア、チョイタンマ。モウ1ツ聞キタイコトアッタンダヨ』

レ級『オ前サ、次ニ出撃スル艦隊ノ編成教エテヨ』

榛名「!?……それはつまり、私の仲間を沈めるつもりってことですか」

レ級『ア~違ウ違ウ。教エテハ貰ウケド、僕ガ伝エルノハホンノ一部サ』

榛名「……え?」

レ級『ジツハサ、ソノ”深海ノ卵”ハ”試作品”デサァ、アト何十回カ実験シナキャイケナイ物デ、
   ”港湾ノ姫”カラモ実戦投入ハマダマダ先ノ代物ダッテ言ワレテタンダヨネ』

レ級『デモソンナノメンドクサイジャン。ドーセオ前等艦娘ニ使ウンダカラト思ッテ
   使ッタンダケド、バレタラ命令違反デ僕モタダジャ済マナインダヨネェ』

レ級『鎮守府ニスパイ送ッタナンテバレタラドウヤッテ手篭メニシタノカ教エナキャナラナイジャン?
   ダカラ、オ前カラ貰ウ情報ハアクマデ”僕ガ独自ニ調ベタ物”ッテコトニシナキャナラナイノ』

レ級『僕元々ソンナコトスルキャラジャナイシ、100%正確ナ情報デアル必要ハナインダヨネ』

レ級『ア、ダカラッテ嘘ツイテモバレルカラネ。オ前ノ視覚ト聴覚デ得タ情報ハコッチニモ伝ワルカラ、
   チャント仕事シテヨネ』

榛名「……はい」

レ級『ジャア僕コノアト会議アルカラ、調ベ終ワッタラ読ンデネ~』


そう言うと、榛名の全身から痛みが消えた。


榛名「っ!……はぁっ!……はぁっ!」


榛名は全身から力を抜く。強張らせていた体を緩め、湯船に身を委ねた。





榛名「…………次の艦隊の編成」


それを教えるという事は、相手はその弱点を突くような編成を組んでくるだろう。

この鎮守府には、たとえ苦手な相手と戦っても簡単に沈められるほど弱い艦娘はいない。


榛名「誰かが沈むかもしれない……私が、敵に情報を流すから……」


それはつまり、間接的に仲間を殺すということだ。

この手で、直接でもなくとも、仲間を……。


榛名「っ」ぎゅっ


自分の体が、震えていた。

震えを止めようと身を縮こまらせるが、止まらない。


榛名「あぁ……ごめんなさい。すみません提督。……やっぱり榛名は悪い子です」


ポタリと、涙が落ちた。


榛名「う、ううう……ううううううう!」ポロポロ……

榛名(誰にも……誰にも言えない。私のせいでお姉様達は、霧島は、那珂さんは、神通さんは
   深海棲艦にされるかもしれないなんて!)

榛名(皆にどんな顔をして会えば良いんですか。私が情報を流すせいで、もうこの鎮守府は負けが決まっているなんて!)

榛名「やっぱり死ねばよかったんだ。……私が惨めに生きようとしたせいで!私が油断していたせいで!私が出撃したせいで!」

榛名「私がこの鎮守府にいなければ、きっと、こんな事にはならなかった!」

榛名「ごめんなさい……ごめんさい……ごめんなさい」


震えが止まらず、涙を流しながら、榛名は謝り続けた。


ふぅ。ここまで。

矢三尾鎮守府は完全にネタです。バッドエンドかハッピーエンドかは決めかねてます。

ハッピーだけどやるせないエンドもあるけど、どうしようかねぇ……

あと榛名に何させようかなぁ。ただ情報流すだけじゃなくて、もっとキツイ要求させてみたい。

ただいま転職活動中につき更新がもうしばしかかりそうです。

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