勇者「ゴキブリ勇者」 (499)

「13才の少年を探しているんです。
ご存じありませんか」

医者「少年ですか……。
特徴を教えて頂けますか?」

「茶色のショートヘアーで、身長は年のわりに大きい方ですね。
最初は私も、16才ぐらいだと勘違いしました」

医者「……やっぱり見かけてないです。
お役にたてなくて、申し訳ありませんが」

「そうですか……一応、念のために中を拝見させて下さい」

医者「それは、私を疑っているということでしょうか?」

「特別あなただけにではなく、みなさんにお願いしているんです」

医者「そうですか。
しかしこの村には、おかしな方が度々いらっしゃるのです。
どうかお気を悪くなさらないで下さい」

「ああ……確かに、無理もありませんね。
ですが、早く見つけ出さないと、少年の命に関わるらしいのです」

医者「……詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか」

「ええ、もちろん。
少年は、王都の病院から搬送中だったのです。
しかし、逃げ出されてしまい、私達で捜索しているのですよ」

医者「それは大変ですね……。
その患者の名前は、なんと言うのですか?」

「私は御者なので、詳しいことは分かりません。
いつも通り運ぶだけだったのに、こんなことになってしまって」

医者「付き添いの医師は、いらっしゃらないのですか?」

「医師も少年を探していますよ。
隣町で聞き込みを続けているか、もう発見してくれてれば良いんですがね」

医者「では、その医師とお話させて頂けませんか?
医者同士で確認したいことがあるのです」

「いや、しかし隣町に……」

医者「出来ないのでしたら、残念ですが……。
一応入院患者もおりますし、万が一があっては困りますので」

「……そうですか。
では、担当の医師と相談します」

医者「申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
また、いつでもいらっしゃって下さい」

バタン

医者「……ふー、もう大丈夫だよ。
いなくなったみたいだ」

勇者「……やだ……いやだ……」ガタガタ

医者「大丈夫だから、落ち着いて。
君のことは、俺や村の人たちで守るよ」

勇者「……な……んで……?」ガタガタ

医者「お、やっと話してくれたね。
理由は、君を見捨てられないからだよ。
みんな辛い目にあった人達だから、同じく辛い境遇の君を助けたいんだ」

勇者「……」

医者「さて、とりあえずゆっくり眠ろうか。
何か考えるのは明日でいいからね」

勇者「……」

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ものすごく長いです。
でも、ものすごく真剣に書いたので、読んでいただけると嬉しいです。

ー10日後ー

医者「でさぁ、妻だけじゃなく娘も可愛いっていう。
俺の血が入ってるのに、天使みたいに可愛いんだよ?
凄いと思わない?」

勇者「その話は何度も聞きましたよ。
ホント、何回も繰り返すのはやめてください。
いい加減、ノイローゼになっちまう」

医者「お、ノイローゼなんて難しい言葉を知ってるね。
そうそう、娘も言葉を覚えるのが早くてさ」

勇者「やめろっつーの!
てか、これはなんなんですか?
やっと慣れてきましたけど」

医者「チャリンコ。
チャリチャリってね」

勇者「チャリンコとチャリチャリとどっちなんですか?」

医者「チャリチャリとは言わないけど、チャリでもチャリンコでもどっちでもいいかな。
それかケッタでもいいし、普通に呼ぶなら自転車だね」

勇者「結局よくわからない……。
もう一つ聞きたいんですけど、なんで座るところの形が違うんでしょう?」

医者「君の座ってる所は本来、人の座るところじゃないから。
荷台って言って、荷物を乗せるところなんだよ」

勇者「そんな場所に座っても大丈夫なんですか?」

医者「多分ね。
もし駄目でも、これは一つしかないから。
だったら2ケツするしかないよね」

勇者「2ケツってなんですか?」

医者「二人で乗るってこと。
そうだ、この先の町でもう一台買って、ちょっと練習してみようか」

勇者「練習ですか?」

医者「ああ、やっぱり自力で乗れた方が良いしね。
公園かなんかで乗る練習をしてみよう」

勇者「あの、ちょっと思ったんですけど……魔法で移動したら良いんじゃないですかね」

医者「いやいや、瞬間移動出来るわけじゃないんだから。
高速で移動なんてしたら、普通の人は怖がって逃げるよ。
最悪、通報される」

勇者「そんなの、透明になれば良いんじゃないですか?
やったことないけど……うおっ!?
真っ暗だ!」

医者「うわっ!どーしたの!?」

勇者「ちょっと、透明になろうとしてみたんすけど……なってます?」

医者「なってはいるけどね……一つ言っておくけど、姿が消えても怖がられるから。
早く元に戻りなさい」

勇者「自分に出来ないから怖がるっていうのは、よくわからないんですけどね。
まぁ、目見えないし戻りますけど」

医者「とにかく、透明になると紫外線の影響も受けるし、やめた方が良いんじゃないかな。
それに、俺は魔法自体あまり使わない方が良いと思うよ」

勇者「どうしてですか?」

医者「……何をもとにしてるか分からない力なんて、何が起こるか分からないじゃないか」

勇者「何をもとに、か。
確かに考えたこと無かったな」

医者「だから、極力控えた方が良いよ。
とりあえず、今は自転車をもう一台手に入れないとね」

勇者「さっきも気になったんですが、一台ってなんですか?」

医者「ああ、自転車の数え方だよ。
一つは一台、二つは二台ってね」

勇者「二台っていうのは、俺が座ってる所じゃないんですか?」

医者「いや、そこは荷物を乗せる台だから荷台。
二台の二は数字の二だよ」

勇者「うーん?なんかよく分からないけど、分かりました」

医者「慌てて覚えようとしなくても、良いんじゃないかな。
あ、お店っぽいのがあるから止まるね」

勇者「はい」

キーッ ガシャーン!

勇者「イテテ……なんで倒れるんすか!」

医者「君ねぇ、止まるって言ってんだから、せめて足を地面につけてよ!
ただでさえ二人乗りで疲れてるのに、支えきれないだろ!」

勇者「先生が「足は地面につけないで」って言ったんじゃないですか!
しかもあんまり動くなとか、車輪の邪魔にならないようにしろとか、すっげぇ気ぃ使ってたんですからね!」

医者「そりゃあさ、俺が言わなかったのが悪いけど……」

勇者「俺、今日初めて乗ったんですから、分かるわけないでしょ!」

店長「あの……どこかお怪我はございませんか?
大きな音が聞こえましたが」

医者「え、いや、あはは、大丈夫ですよ。
お騒がせしてすみません」

勇者「このくらい魔法で」

医者「あーっと!すみません、商品に倒れ込んじゃって。
これ買いますね」

店長「いえいえ、そんなお気になさらないで下さい。
それよりお連れの方のお怪我が心配です。
すぐに救急箱をお持ちします」

スタスタ

医者「ふー……。君ね、魔法って言葉使うのは禁止ね。
特別な力が使えるっていうのも、言っちゃダメ。
披露するのはもっとダメ」

勇者「えー、なんでですか?」

医者「追っ手に気づかれないよう、派手な動きはしない方が良いからね。
力が使えない人を装うのが一番だよ」

勇者「ふーん……分かりましたよ」

スタスタ

店長「お待たせ致しました。
では、お手をお借りしても宜しいでしょうか?」

勇者「お、おう」

ピチャッ

勇者「イテッ!」

店長「ああ!申し訳ございません!
大丈夫でございますか!?」

勇者「え、うん。別にちょっと驚いただけだし……つーかそれなに?」

店長「消毒液でございます。
細菌の侵入を防ぎ、体を守るために必要なのですよ」

勇者「なんか分かんないけど……ありがとな」

店長「いえ、礼には及びません。
当然のことをしているまでです」

ペタペタ

店長「応急処置に過ぎませんが、これで終了です。
お時間をとらせてしまい、申し訳ございませんでした」

医者「いえ、本当にありがとうございました。
助かりましたよ」

勇者「そういえば、先生は医者ってやつなんですよね?
なら、先生がやってくれれば良かったのに」

店長「まさか、これは出過ぎた真似を!」

医者「いやいやいや違うんですよ!この子なんか勘違いしちゃってて!
あははー、そうだあれ下さい!」

店長「あの、先ほども申し上げましたが、お気になさらなくて宜しいのですよ?
衝突した自転車でなくとも、他にも同じサイズの物はございますから」

医者「いえ、あの自転車に見とれてたら、倒れ込んでしまったんですよ。
素晴らしい自転車ですね。
ぜひ、買わせてください」

店長「お客様が宜しいのでしたら、これ以上は申しません。
お買い上げありがとうございます。
9800円になります」

医者「じゃあ、これでお願いします」

店長「かしこまりました。
では少々お待ち下さい」

スタスタ

勇者「なぁ、先生。
訳が分からないんですが」

医者「あとで説明するから、今は静かにしてて」

スタスタ

店長「お待たせ致しました。
200円のお返しです。
そしてこちら自転車の鍵でございます」

医者「早速練習をしたいのですが、どこか良い場所はありませんか?」

店長「あちらの角を曲がって頂きますと、すぐに公園が見えて参りますので、練習にも、お使い頂けるかと思います」

医者「ありがとうございます。
じゃあ、早速行こうか。
その自転車は君が押してね」

勇者「……はい」

店長「こちらこそ、ありがとうございました」

スタスタ

勇者「えーっと、つまり先生は医者だけど、医者だって言っちゃダメだってことですか?」

医者「そう。この街は、特に信仰心があつくてね。
凄く神様を信じてるから、神様の意に反する医者を、毛嫌いしてるんだよ」

勇者「別に嫌がっているようには見えなかったですけど」

医者「宗教の教えに、人に悪意を持つなっていうのがあるからね。
まぁ、人と見なされている間は、何もされないんじゃないかな」

勇者「見なされている間はって……」

医者「別の宗教のことを邪教って言ったりするんだけどね。
それを信じている人は、魔物と変わらないというか……魔物扱いされたりするみたいだよ」

勇者「魔物扱いってマジですか?
この街、危なすぎますよ」

医者「まぁ、今は医者も広く認知されてることだし。
この街の人だって医者に頼ることもあるだろうから、何も起きないと思うよ」

勇者「そんなこと言ったって……」

医者「まぁまぁ、公園に到着したことだし、自転車に乗ってみようか」

勇者「なんかモヤモヤしますけど……」

医者「ほら、やってみて」

勇者「……えっと、両足のせて足を上下させれば……はっ!」スッ

バタンッ

勇者「イテッ!」

医者「え……なにしてんの?」

勇者「いやだって、両足のせないといけないから」

医者「片足ずつじゃないと駄目だよ。
まずは片足は地面について、もう片足でペダルを踏み込んで」

勇者「ペダルってなんですか?」

医者「えっとね……」

ー20分後ー

勇者「あの、全然乗れるようにならないんですけど」

医者「もうちょっと練習すればいけそうだよ」

勇者「でも俺、追われてるんですよ!?
先生だって知ってるじゃないですか!」

医者「とは言ってもね。
もう日が陰ってきてるし、今日はこの街に泊まるしかないんだよ。
なら、明日以降のために、乗れるようにならないと」

勇者「それはそうかもしれないですけど……」

医者「敵だって、自転車の練習をしてるとは思わないんじゃない?
多分、大丈夫だよ」

勇者「そんなテキトーな」

医者「悪いけど、ちょっとトイレ行ってくるから。
練習しといてね」

スタスタ

勇者「……行っちまった。
はぁ、俺本当にこんなことしてて良いのかな。
さっさと魔王を倒しに行きてーのに」

フラフラ ガシャンッ

勇者「イテェ。あーあ、本当に乗れるようになんのかよ」

男1「お手伝いしますよ!」

勇者「え?」

ゾロゾロ

勇者「うわっ!」ぎょっ

男2「見ていましたよ。
自転車に乗る練習をしていらっしゃるのですね!」

勇者「ま、まぁ、そうだけど」

男3「私が自転車を支えましょう。
さぁ、ペダルを漕いで!」

勇者「いやでも、別に一人でだって」

男4「遠慮は要りません。
私どもがサポートいたしますから!」

勇者「えっと……どーもーっす」

キコキコ

スタスタ

医者「ん?な、なんだ!?」

男5「右に傾いています!今度は左に!
あ、その調子ですよ!」

男6「頑張って下さい!諦めなければきっと出来ますから!」

勇者「えーっと、なんかちょっとずつ分かってきたぞ」

男7「叶えようという意思さえあれば、夢は必ず叶います!
恐れず一歩を踏み出して!」

勇者「いや、そんな大げさな事じゃないと思」

男8「どんな時も希望を捨てては駄目です!
手を伸ばせば光は必ず掴めますから!」

勇者「うへ…………あ、先生!助けてください!」

医者「え、いや」

男9「助けて……?」

医者「あ、いえね!
彼この前までずっと監禁されてて!
人に囲まれるのは慣れてないんです!」

男10「監禁……そうだったのですか。
本当に申し訳ございません!」

男達「申し訳ございません!」

医者「いやいや、気にしないで下さい。
あー、こんな時間だ。
そろそろ宿を」

男11「しかし、一体誰に捕まっていたのですか?」

医者「え?えっと……」

勇者「魔物に捕まってたんだよ。
てか、魔王に」

男12「ま、ま、魔王!?」

医者「ああもう!あの、違うんですよねー。
彼は」

男13「うわぁぁあ!!」

男達「うわぁぁあ!!」

ダダダダッ

医者「はぁ……」

勇者「なんだったんだ……?」

医者「多分、教会から帰って来た人達だったんだろうね。
全員男だっただろう?
男だけはこの時間になると、教会にお祈りしに集まるんだよ」

勇者「教会か。俺の村にもありましたよ。
でも、俺の村は女もお祈りしてましたけど」

医者「ああ……、それは」

ジーッ

医者「……」

勇者「……」

ジーッ

勇者「……なんか、凄い見られてますね」

医者「そうだね……。
ねぇ君、どうしたの?」

男の子「お前、もう一回自転車のってみろよ」

勇者「え、俺か?」

男の子「早く乗れって」

勇者「なんで俺が命令されなきゃならないんだよ。嫌だね」

医者「うーん、とりあえず乗ってみなよ」

勇者「先生……俺の話聞いてました?」

医者「いいから、ちょっと乗ってみてくれ」

勇者「なんなんだよ……突然乗れるわけねーじゃん……」

スィー

勇者「お、おお!?」

スィー キィッ

勇者「乗れた……」

男の子「やっぱりな。
アイツらはきっと邪魔してたんだ」

医者「こんな短時間でさすがだね。
けど、君はどうして邪魔してると思ったの?」

男の子「だって乗れんのに乗れないようにしてたんだから、邪魔だろ」

医者「でも、悪意は無かったんじゃないのかな」

男の子「アイツらはみんないつでも悪意を持ってるよ。
それを悪意だと思いたくないだけだ」

勇者「なんだか分からねぇけど乗れるぞ!よっしゃ!」スィー

男の子「なぁ、お前なんで魔物に捕まってたんだよ」

キィッ

勇者「だから、なんでお前に話さなくちゃならないんだよ」

男の子「答えによっちゃ、家に泊めてやってもいいぜ。
つーか、匿ってやる。
このままフラフラしてたら、アイツらになにされるか分かんねぇだろ」

勇者「いらねぇ、世話だ。
あんなの襲い掛かって来たって、俺がボコボコにしてやる」

男の子「その自信はどこから来るんだか。
さっきは囲まれて、助けてーとか叫んでたろ」

勇者「ああいうのはどう扱っていいか分かんねぇんだよ。
それに根拠はある。俺は勇者だ」

医者「だから、そういうことは」

男の子「勇者?
ハハハ、勇者がパーカーとジーパンで自転車乗る練習するわけないだろ」

勇者「良いぜ、信じてないなら見せてやる」

医者「ちょっと、ダメだってさっき言っただろう?」ゴニョゴニョ

勇者「大丈夫ですよ。魔法は使いませんから」ゴニョゴニョ

男の子「何をゴチャゴチャ言ってんのか知らねぇけど、何かやるんだろ?
早く見せてくれよ」

勇者「よーく目ん玉ひんむいて見てやがれ」

勇者「行くぞ」

タッ

男の子「消えた!?」

勇者「上だよ。上」

男の子「えっ!?」

勇者「今降りるから待ってろよ」

スタッ タッ

男の子「確かすげぇけど、木に登って降りるだけ」

ボトボトボトッ!

男の子「なんだ!?」

タッ

勇者「ざっとこんな感じ。どうだ?」

男の子「な、なにをやったんだよ?」

勇者「え。分かんねぇの?
ほら、松ぼっくり」

男の子「松ぼっくりって……まさか今の音って、松ぼっくりが落ちた音なのか!?」

勇者「なんだよ見てなかったのかよ!
そりゃ地面は落ち葉だらけだし、紛れてよく分かんねぇけどよ。
かなりの数落としたはずだぜ」

男の子「……」

勇者「やっぱり地味か。
村にいたときは、かなり役に立ったんだけどな。
こうなったら炎でも出して」

医者「使わないって言ったよね。
それに落ち葉だらけだって、自分で言ってたよね。
君はなに?この公園には焼き討ちに来たのかな?」ゴニョゴニョ

勇者「冗談ですって。
そんな怒らないで下さいよ」ゴニョゴニョ

男の子「お前……」

勇者「あ?」

男の子「お前……すげぇな!
揺らしてもいねぇのにどうやったんだよ!
すっげー!」

勇者「そりゃ、このナイフでちょちょっと」

男の子「すげー!なぁ、それ俺にも教えてくれよ!」

勇者「教えろっつったって、お前には無理だと思うぞ。
村でも俺以外できなかったし」

男の子「ちっ、なんだよ。役にたたねぇな」

勇者「テメェ……」

男の子「でも、もう質問には答えなくて良いぜ。
とりあえず、魔物って感じじゃねぇみてぇだから」

勇者「魔物?テメェなに人様疑ってんだよ」

男の子「家に泊めるかどうかっつってんだから、不審じゃないか確認すんのは当たり前だろ。
じゃあ、行くぞ」

勇者「どこへだよ」

男の子「俺んちに決まってんじゃねぇか。
俺んち、あそこの角曲がってすぐなんだ」ニカッ

勇者「お前んちって、さっきの自転車のとこかよ!」

男の子「やっぱりそれウチのか。
まぁ、上がれよ」

医者「あの、俺も良いのかな?」

勇者「俺が良いなら良いんじゃないですか?
別に聞く必要ないと思いますけど」

医者「だって、君たちだけで話進めちゃうから。
ちょっと、不安になるよ」

男の子「なにしてんだ?さっさと入れよ」

勇者「いちいちうるせぇガキだな」

医者「お邪魔します」

ガチャ

男の子「そこらへんに適当に座れよ」

勇者「……なぁ、もしかしてこれは椅子か?」

男の子「はぁ?そうに決まってんだろ」

勇者「やっぱりか!すげぇフワフワしてんな!
こんな椅子初めて見たぜ!」

医者「中に綿を入れて、座り心地をよくしてるんだろう。
分解したことはないけど」

勇者「綿ってなんですか?」

医者「綿っていうのは、植物性の繊維のことだよ」

勇者「植物性の繊維?」

男の子「あーもう、付き合ってらんねぇ。
お前ソファーも知らねぇとか何者だよ。
あ、そういえば名前聞いてなかったな」

勇者「名前……」

カズキ「俺はカズキだ。お前らは?」

勇者「…………忘れた」

カズキ「は?」

勇者「……」

カズキ「……アンタは?」

医者「え?あはは……」

カズキ「……マジかよ。
名前も言えねぇってのは、裏に何がある不審人物なんだ?」

勇者「ちげぇよ。忘れたっつってんだろうが」

カズキ「んな訳ねぇだろ。
そういえばさっき、村って言ってたよな。なに村だよ」

勇者「……しまむら」

カズキ「しまむら……それ、服屋の名前だろうが!」

勇者「この服、しまむらで貰ったらしいぜ。
そうですよね?」

医者「ああ、貰ったんじゃなくて買ったんだけどね」

勇者「俺よく分かんないんですけど、買うってなんなんですかね?」

医者「お金を支払う代わりに、商品を手に入れることだね」

カズキ「話そらしてんじゃねぇよ!
お前ら本当は魔物なんじゃねぇのか?
なら、自分の名前も村の名前だってねぇもんな!」

勇者「違うっつってんだろ。
……俺の村は魔物に滅ぼされたんだよ」

カズキ「魔物に滅ぼされた村……?
そんなの、トウガサキ村しか聞いたことねぇぞ」

勇者「俺は、その村の生き残りだ」

ガチャッ

カズキ「誰だ!?」

母「誰だって、お母さんよ」

医者「やっぱり、店長さんがカズキ君のお母さんだったんですね」

母「アナタ方はさっきの……!
どうしてウチにいらっしゃるのですか?」

カズキ「母さん、こいつら名前も言わないし危ないよ。
警察を呼ぼう?」

医者「警察……!あの、我々は怪しい者ではなくてですね」

カズキ「ほら、警察って聞いただけで慌ててるし、こいつら絶対怪しいよ!」

母「警察は誰でも怖いわ。
あの制服を見ると、なにもしてないのに何かしちゃったような気になるのよね」

カズキ「な、何言ってんだよ母さん!」

母「ウチの子がご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません」

医者「い、いえ、そんなことは」

母「カズキ、アンタは向こうに行ってなさい」

カズキ「でも……!」

母「いいから、早く行きなさい」

カズキ「……」

スタスタ

医者「あ、あの……私達はそろそろ」

母「この町にはどういったご用事で?」

医者「……ただの旅行ですよ。
泊まるところを探していたら、息子さんが案内してくれましてね。
でも、やっぱり自分達で宿を探しますから」

母「旅行ですか。うらやましいです。
私もあの子とどこかへ出掛けたいと思うのですけど、中々……カズキ、立ち聞きしてないであっち行きなさい」

カズキ「嫌だ!こいつら自分のこと勇者だとか言ってんだよ!
母さんだけじゃ危ないよ!」

母「あっち行かないとひっぱたくわよ!」

カズキ「……バカ!」

ダダダッ バタンッ!

母「全く、すぐ外に飛び出して……まぁ、いいわ。
さて、勇者というのはどういう事かしら」

医者「あはは、やっぱりパーカーとジーパンじゃ、勇者には見えませんよね……」

母「ええ、せめて神々しく輝いてでもいれば別ですけど」

勇者「……へっ、光ってりゃ勇者なのか?
ならいくらでも光ってやるよ」

医者「お、おい!」

ピカー!

母「これは……!」

勇者「お望みなら、七色に光ってやろうか?」ビカビカ

ガチャッ ズカズカ

母「!!」

男1「おお、本当に光ってますね」

母「ちょっと、なんで勝手に入って来るんですか!
私に聞き出せと」

男2「勇者様をお迎えするためです。
勇者様、失礼をお許し下さい」

男3「こちらで宿も手配しておきますので、教会にお越し頂けないでしょうか」

勇者「……へっ、俺なんか呼んでどうするつもりだよ。
お前らさっき逃げてったやつらだろ」

男4「勇者様がお力をお隠しになっていたため、勘違いがあってしまったのです。
どうかお許し下さい」

勇者「……まぁ、俺だってこんな所には居たくねぇ。
邪魔したな」スクッ

男5「では参りましょう。
どうぞこちらへ」

勇者「先生、何してんですか。早く行きましょうよ」

医者「ああ、そうだね……」スクッ

スタスタ バタンッ

母「……」

医者「もう光るのやめた方が良いんじゃないか?」

勇者「あ……そうですね」

フッ

医者「うわっ、もうこんなに暗くなってたのか」

男6「ろうそくに火を灯しますので、少々お待ち下さい」

ボウッ

男1「さぁ、こちらの馬車へ」

勇者「この広さじゃ、全員は乗れないだろ」

男2「私どもは走りますので、お気になさらずお乗りください」

勇者「あっそう。……先生、どうしました?」

医者「あ、いや……俺は行く必要ないんじゃないかなと思って」

男3「何を仰います。是非、いらして下さい」

医者「うーん……君はどう?ついてきて欲しい?
俺なんにも役に立たないけど」

勇者「……好きにしてくださいよ。
先生になにか強制する気はありませんから」

医者「じゃあ、あとから俺も教会に向かうから。
先に行ってて」

男4「なにかご用事がおありなのですか?」

医者「ええ、ちょっと。野暮用ですけどね」

男5「ならば仕方ありません。我々だけで向かいましょう」

男6「それでは出発致します」

ピシャッ ギギギ

医者「あとからちゃんと向かうからね!」

勇者「……」

ガラガラガラ

男6「お連れの方のご用事はなんでしょうね」

勇者「知らねぇよ。俺だって、あの人のことはほとんど知らねーんだ」

男6「そうですか」

ーーー

男6「到着しました。足元にお気をつけてお降り下さい」

勇者「へぇ、随分とキレーな建物だな」

ギィ…

男6「どうぞこちらへ」

勇者「こんな小さい部屋にあと五人も入るってのか?
礼拝堂の方でいいだろ」

男6「申し訳ありませんが、この扉の下の地下室に集合するよう言われているのです」

ギィィ

勇者「ここに入れと?」

男6「なんの仕掛けもございません。
お疑いなら、私が先に降りますが」

勇者「ぜひ、そうしてもらえますかね」

男6「かしこまりました」

スタスタ

勇者「うへ……本当に降りてったよ」

男6「どうぞ足元にお気をつけ下さい」

スタスタ

勇者「うっわ、じめじめしてんな。
キレーなのは上辺だけってか……」

男6「……どうぞ足元にお気をつけ下さい」

コンコン

男6「開けてください。私です」

ガチャ

男6「どうぞ」

勇者「うわっ!」ぎょっ

男7「お待ちしておりました、勇者様」

男達「お待ちしておりました」

ズラー

勇者「……またこれかよ」

ギィ… バタンッ

勇者「じゃあ早速だけど、なんでこんなところに俺を呼び出したんだ?」

男8「勇者様のお力をお借りしたいことがあるのです」

勇者「あっそう。で、なんでこんなカビ臭い所に?」

男9「万が一にも、敵に聞かれるわけにはいきませんので。
用心に、用心を重ねた結果このようになりました」

勇者「敵って誰のことだよ。
まさか、俺にそいつを殺せってことか?」

男10「結果的には、それもお願いするかもしれません。
敵とは魔物の群れのことで、勇者様には討伐に力をお貸しいただければと思います」

勇者「魔物の群れ……?
魔物が襲ってくるのか!?」

男11「正確には、いつ魔物に襲われてもおかしくないという危機に、この町は瀕しています。
魔物の集落が目と鼻の先にあるのですよ」

男12「勇者様のご出身の村が滅ぼされたとき、魔王が復活したらしいという噂が持ち上がったのです。
しかし、出現するのは偽の魔王ばかりで、噂はデタラメだとばかり思われていました」

男13「ですが、国の正式な発表により、魔王が人間の世界に侵攻を始めたことが、分かったばかりなのです。
魔王がいつ魔物達をこの町にけしかけるか、分かったものではありません」

男14「勇者様、どうか私どもにお力を貸して頂けませんか」

勇者「……相手が魔物なら協力してやってもいい。
だがな、一つ聞かせてもらうぜ。
どうして俺の村が魔物に滅ぼされたって知ってんだ?」

男15「恥ずかしながら、勇者様のことを魔王ではないかと疑っていたのです。
国の発表では、魔王は子供の姿をしているとのことでしたので。
そして、勇者様と自転車屋との会話を陰で聞かせて頂きました。
失礼ばかり、誠に申し訳ございません」

勇者「俺は魔王に捕まってたって言ったよな?
なんでそんな勘違いするんだよ」

男16「魔王という言葉のみでさえ、我々には深い恐怖をもたらすのです。
その単語に囚われ、勇者様のお言葉を正確に理解することが出来ませんでした。
どうかお許し下さい」

勇者「あっそう。本当に大げさなやつらだな。
それで、いつぶっ殺しに行くんだ?」

男17「お言葉ですが、勇者様。
我々は殺生が目的ではございません。
魔物がこの町や他の町などに、危害を加えないようにしたいだけなのです」

勇者「説得でもする気か?」

男18「とりあえず、捕縛してしまおうと思います。
言葉が通じる相手ではないので、無心に襲いかかってくる者もいるでしょう。
そういった手合いは、残念ですが切り捨てるしかありません。
しかし、更正する可能性がある者もいるかもしれません。
その者達が更正した際には、自由にしてやろうと思うのです」

勇者「情けなんて必要だとは思えないけどな。
まぁ、アンタ達がそういうなら仕方ねぇ。
で、決行はいつなんだよ」

男19「明日の夜の予定でしたが、勇者様のご都合に合わせようと思います」

勇者「そうか、なら予定は変えなくていい。
明日で決定だ」

男20「ありがとうございます。
もちろん、成功した暁にはお礼をさせて頂きますので、ご安心下さい。
明日の夜の6時頃にお迎えにあがります」

勇者「ああ、分かった」

スタスタ ギィ

勇者「ぷはー、やっと湿っぽい暗がりから脱出だぜ」

男6「くれぐれもこの事はご内密に。
万が一情報が渡れば、何が起こるか分かりませんので」

勇者「先生に話すのも駄目なのか?」

男6「そうですね……。では、馬車の中でお話し下さい。
それ以外はどうか控えて頂けますよう、お願いします」

勇者「仕方ねぇな」

スタスタ

勇者「あれ、アンタらも追い付いてたのか」

男1「話し合いの途中で割り込むべきではないと思い、礼拝堂で待っておりました」

勇者「まぁ、アンタらはどうでもいいが、先生を知らねぇか?」

男2「申し訳ありませんが、お見かけしておりません」

勇者「そうか……。まぁ、いいや。
来るとき乗ってきたやつに乗せてくれ」

男6「馬車ですね。表にとめてありますので、どうぞお乗りください。
先ほどと同様、私が手綱をとります」

勇者「中から外はほとんど見えなかったからな。
アンタが先生を探してくれよ。
ここに向かってるかもしれねぇ」

男6「では、お連れの方を発見するまで、町内を走らせます。
合流したのち、宿へ向かいましょう」

勇者「ああ、そうしてくれ」

男6「先ほどより一層暗くなっておりますので、足元にお気をつけ下さい」

ピシャッ ギギギ

男6「では、出発致します」

ガラガラガラ

勇者「……」


ーーーーー

医者『あとからちゃんと向かうからね!』

ーーーーー


勇者(……)

ガラガラガラ

ーーー

ガラガラ ガガッ!

勇者「なんだ!?」

男6「お待ち下さい!勇者様のお連れの方ですか?」

医者「あっはい!
さっき彼を乗せていった方ですか?」

男6「ええ、勇者様も中にいらっしゃいますので、どうぞお乗りください。
足元にお気をつけて」

タッタッ ガチャ

医者「すれ違いにならなくて良かった。
もう用事は終わったの?」

勇者「ええ、まぁ」

医者「間に合わなくてごめん。あー、脇腹痛い」

男6「それでは、宿へお送り致します」

ピシャッ ギギギ
ガラガラガラ

医者「とりあえず無事で良かった。
一人で向かわせてごめんね」ヒソヒソ

勇者「別に。
それより、俺の明日の予定を話して良いですか?
馬車の中でしか話せないので」

医者「いいけど……。
あんまり良い話じゃなさそうだ」

勇者「俺にとっては良い話ですよ。
明日の夜、魔物の群れを倒しに行くんです」

医者「まさか、この町に襲いかかってくるのか!?」

勇者「いいえ、襲われる前に襲っちまおうってことです。
魔物の集落にこっちから出向くんですよ。
しかも、お礼もくれるらしいです」

医者「しかし……確かに君が魔物を恨むのは分かるが、そんな危険なことを引き受けることないんじゃないかな。
襲いかかってくるならまだしも、わざわざ敵地に踏み込むなんて。
それに追っ手のことも考えないと」

勇者「もしかしたら、先生の探してる魔物もいるかもしれませんよ。
理由は知りませんが、憎んでいるんでしょう?」

医者「……ああ、殺したいほどにね」

勇者「一応そっちも探してみますよ。
先生にそっくりな姿をした奴でしたよね」

医者「……」

勇者「あ、そうだ。
国の発表によると、魔王は子供の姿をしているようです。
俺たちの最終目標は魔王でしたけど、先生の探してる奴ではないかもしれませんね」

医者「……相手は魔物だ。
姿なんて自在に変えられるのかもしれない。
それに、人類の敵であることに代わりはないさ」

勇者「それもそうですね。
じゃあ、目標はそのままで」

ガラガラ ガッガッ

男6「宿に到着いたしました。
店主に勇者様であることを伝えて頂ければ、部屋まで案内するよう指示をしております。
代金はかかりませんので、ご安心下さい 」

医者「ありがとうございます。じゃあ、行こうか」

勇者「そうですね」

男6「では、明日お迎えにあがります」

勇者「うわっ!なんだこれ!?」

医者「どうした?」

勇者「これ、テーブルに変なものが乗ってるんですよ!」

医者「変って……もしかして、魚介類は食べたこと無いの?」

勇者「魚介類?」

医者「海でとれる食べ物のことだよ。
この町では聖典に従って、海の食べ物しか口にしないらしいんだ」

勇者「ふーん……そうなんですか」

医者「聖典によると海は原始の祖先が産まれた場所だから、海にいるのは原始的な者だけっていう考え方なんだ。
陸上の生物は高度な知能があるから、食材には出来ないとのことだよ」

勇者「つまり、これは食えるってことですか?」

医者「もちろん、全部食べられるよ」

勇者「でも、どうやって食べたら良いんでしょう」

医者「大きな器のは、塩をつけて食べると良いよ。
他のは味がついてるからそのまま食べて良いだろうね。
全部塩味だけど」

勇者「……いただきます」

勇者「ごちそうさまでしたー。
こんな見た目なのに、意外とうまかったですね」

医者「俺は久しぶりって感じだったけど、塩気ばっかりだからなぁ。
あ、でもカニは美味しかったね」

勇者「殻があったやつですか?」

医者「そうそう。
君が殻まで食べようとするから、焦っちゃったよ」

勇者「初めて食べたんすから、仕方ないじゃないですか。
殻ごと出す方が悪いんですよ」

医者「はは、確かにそうだ」

勇者「……でも、これも旨かったですけど、先生のご飯の方が好きです。
あれは色んな味がして、本当に感動しました」

医者「あの程度のものは、材料さえ揃えば誰でも作れるよ。
もっと美味しいものは世の中にいくらでもあるから」

勇者「そうなんですか?」

医者「この町以外の食堂に行けば、食べられると思うよ。
魚介類はあんまり食べられないだろうけど」

勇者「どうしてですか?」

医者「魚介類って凄い高価なんだよ。
えっと、お金を沢山渡さないと食べられないの。
けど、お金ってそんなに手に入らないからね」

勇者「そうなんですか。
じゃあ、お金って貴重なんですね」

医者「貴重っていうのとは違うけど、なんて説明したらいいんだろう。
基本的には、働かないと手に入らないものだね。
あとは世界への影響力があると判断されるかで、手に入る量は変わるかな」

勇者「働くと手に入るっていうのが、よく分からないです。
何をやっても、手に入るっていうか感じるのは疲れですけど、お金と疲れって一緒なんでしょうか?」

医者「似てるけど違うよ。
どれだけ疲れてもほとんど手に入らないこともあるし、全然疲れなくても大量に手に入れる人もいる……。
まぁ、周りがその人をどう判断するかで左右されるものなんだよね」

勇者「難しいですね。俺、難しい話は苦手なんだよなぁ」

勇者「教会でもいつも寝てばっかりだったし。
すぐ眠くなっちゃうんですよ」

医者「だから、宗教についてもあまり知らないのか。
この町の宗教はこの国全体の物でもあるのに、おかしいと思ったよ」

勇者「え?全員が同じ神様信じてるんですか?」

医者「基本的にはね」

勇者「でも俺、肉とか野菜とか普通に食べてたんですけど……。
海でとれる食べ物以外は駄目だって、さっき言ってたじゃないですか」

医者「まぁ、時代と共に違和感が生じるようになったからだろうね。
君のズボンやパーカーの素材である木綿はもともと植物だし、俺の着てるニットは動物の毛を編んだものだし。
食べなきゃ残酷じゃないのかって考えが主流になってさ。
結局、なあなあに食文化も変化したって感じかな」

勇者「うーん、確かになんかおかしいですもんね」

医者「でもこの町は、魚介類しか食べないっていうのを続けてるから、ほとんどの魚介類がここで食べられちゃうんだよ。
だから、他のところに回らないし、輸送費もかかるらしいから、どんどんお金が必要に」

勇者「もういーです……。
このまま聞き続けたら、耳から血が出るかもしれませんから」

医者「そう?確かに今日はちょっと喋りすぎたね。
もうそろそろ寝ようか」

勇者「じゃあ、俺はこっちの布団で寝ますね」

医者「ああ、おやすみ」

勇者「おやすみなさい」

勇者「ふわぁぁ。おはよーっす……」

医者「おはよう。なんだか寝不足って顔してるね」

勇者「難しい話のおかげで、眠くはなったんですけどね。
なんか枕がごそごそうるさくて……なかなか眠れなかったんですよ」

医者「そば殻の枕だからね。
女将さんに言えば取っ替えてもらえたかもしれないのに。
まぁ、顔洗いなよ」

勇者「その前にトイレ……」

ジャー

勇者「あー、眠い。眠すぎる」

医者「あとで枕については俺が相談しておくよ」

勇者「……そーいえば、ちょっと聞きたいことがあるんですよ。
答えたくなかったらいいです」

医者「どうしたの?」

勇者「昨日……俺が教会にいる間って、どーしてたんですか?」

医者「ああ……そういえば話してなかったね。
カズキ君を探しに行ってたんだよ」

勇者「あのガキを?」

医者「君ついていくべきか迷ったけど、どうしても気になっちゃってね。
ほら、君はいざとなってもなんとか出来そうだし……なんて言い訳して探しに行っちゃった。ごめん」

勇者「いや別に、その通りですし……。
見つかりました?」

医者「ああ、公園にいたよ。
実を言うともう一つ目的があってね、彼から話を聞いて見たかったんだ」

勇者「話ですか」

医者「どうして男だけが教会に集まるのか、君に言いかけただろ?
あれは宗教上、女性は教会に入れないからなんだよ」

勇者「女性は入れない?
おかしいですよ、俺の村では」

医者「昨日話した食べ物と同じで、少しずつ差別はいけないって変わっていったんだよ。
だから、あからさまに男女差別をしているところは今ではほとんど無いんだ」

勇者「あの、差別ってなんですか?」

医者「……ある一方だけ差をつけて酷い扱いをすることだね。
逆差別なんて言って、一方だけ良い扱いをするのも問題視されてるけど」

勇者「でも、この町の女の人が全員酷い目にあってる訳じゃないですよね?
だって女将さんだってにこにこしてたし」

医者「この町は、そもそも悪意を持ってはいけない町だから。
君みたいな子供にも、寄ってたかって善意をアピールしてたよね?
ほら、自転車の練習してた時なんかさ。
だから、表向きは何もないんだよ。建前ではね」

勇者「建前……」

医者「それに、女性の役割とされているような、家事や育児をやっている場合は問題ないよ。
仕事をするにしても男性の下なら許容範囲。
でもね、あの自転車屋はカズキ君のお母さんしかいないみたいだった。
それでちょっと気になったんだよ」

勇者「それってつまり、アイツの母親が酷い目にあってるって事ですか?」

医者「まぁ、そうじゃないかと思って聞いてみたら、そうだったんだ。
自転車屋が近くにあるのに、当て付けのように遠くの自転車屋に行ったり。
修理もやってるのに、やっぱり皆町外れの方に行ったり」

勇者「……」

医者「母親が避けられてたら、やっぱり子供も良い扱いはされないからね。
カズキ君もなんとなく避けられてるし、友達が出来ないんだって。
まぁ、そもそも子供の数も極端に少ないらしいけど」

勇者「そんなに少ないんですか?」

医者「そうだね。だって、ここまで話を聞いてこの町に魅力を感じた?」

勇者「い、いえ……」

医者「親もみんなそう思って、子供のために別の場所へ移り住むんだよ。
自分の意思で動けるようになった時点で、この町を出ていく決心をする人も多かっただろうね。
残るのは決心が出来ない人と、熱狂的な信者だけだ」

勇者「大体分かりましたけど……それをアイツから聞き出して、どうするつもりなんですか?」

医者「彼の母親に、俺が居た村への引っ越しを勧めてみようかと思って。
あの村はおおらかな人が多いからね。
お金も手に入らなくて、自分や子供まで酷い目に遭う町より、絶対生きていきやすいと思うんだ」

勇者「確かに、そうできるならその方がいいですね」

医者「それともう一つ、聞き出した理由があるんだよ」

勇者「なんですか?」

医者「カズキ君ね、やっぱり君といるの楽しかったみたいだよ。
責任感とか、母親の身を案じて辛く当たっちゃったけど、友達が出来たみたいで嬉しかったんだって」

勇者「……」

医者「って訳で……朝ごはん食べたらお母さんに勧めに行くからついてきてよ」

勇者「ええ?どうして俺が同伴しなくちゃいけないんですか」

医者「だって……ほら、俺だけで行くとなんか下心があるみたいだろう?」

勇者「俺がついていっても同じだと思いますけど」

医者「そんなこと言わないで頼むよ。
俺一人じゃ緊張しててうまく喋れないんだ」

勇者「……仕方ないですね。分かりましたよ」

医者「良かった。ありがとう助かるよ」

勇者「あ、そういえば俺、まだ手ぇ洗ってなかった」

医者「ああ、トイレ行った帰りだったね。
早く手洗って食事を済ませちゃおう」

勇者「うーっす」

バシャバシャ

医者「ああ、緊張するなぁ。
君となら大丈夫だろうけど」

勇者「やっぱ惚れてんじゃないですか?」

医者「何を言うんだ、俺は妻帯者だぞ!
それに妻を愛してるんだ!娘も!」

勇者「あーはい。すいませんでした」

医者「だって、君だってお節介野郎だと思うだろ?
本人だってきっと何回も悩んだろうし」

勇者「まぁ、お節介野郎ですけど、言いたいなら言った方が良いですよ。
じゃないと後悔が残るだろうし」

医者「分かってんだけどさぁ……なんていうか……」

勇者「ああ、うっとうしい」

コンコン

医者「あ、ちょっと、まだ心の準備が」

ガチャ

母「はい。あら、アナタ達は昨日の……」

勇者「先生が話があるみてぇだよ。
俺はその付き添い」

医者「ど、どーも」

母「どうも。昨日はカズキを送っていただきありがとうございました。
それで、話ってなんでしょうか?」

医者「玄関でいいので、中でお話しできますか?
外ではちょっと」

母「それなら、昨日のお詫びもしたいので、奥へあがって頂けますか?」

医者「は、はい……」

ギィ バタン

スタスタ

母「どうぞおかけになって下さい。
今、お茶を用意致しますので」

医者「お構い無く……」

スタスタ

勇者「先生、なに本当に緊張してるんですか」

医者「本当にって、あのねぇ。
すこっしも嘘なんてついてないから」

勇者「なんでそんなに緊張してんですか?」

医者「……実はちょっと女性が苦手で」

勇者「結婚してるんですよね?どういうことですか」

医者「いや、妻は別だよ?けど、なんでか駄目なんだよなぁ……」

スタスタ

母「お待たせ致しました。どうぞ」

医者「あ、ありがとうございます」

母「昨日は本当に申し訳ありませんでした。
アナタ方の正体が魔王と手下だって、村の人に脅されてつい……」

勇者「魔王って俺だよな。手下は……フフッ」

医者「……」

母「勘違いどころか、本当に勇者様だったなんて失礼すぎますよね。
本当に申し訳ありませんでした」

勇者「……アンタも光っただけで勇者だと思うのか?」

母「えっ、違うんですか?」

勇者「いや、勇者だけど……ちょっと判断基準が気になっただけ。
俺はまだ勇者らしいこと何もしてないのに、勇者なんだなーと思うだけだよ」

ジーッ

勇者「……この感じは」

ジーッ

カズキ「……」

勇者「やっぱりお前か。……なんの用だよ」

カズキ「……ちょっとこっち来いよ」

勇者「なんで行かなきゃならねぇんだよ。やだね」

カズキ「いいから来いって!」グイッ

勇者「何すんだやめろ!おい!」

グニョーン

母「こら!カズキ!」

勇者「分かったよ、行くから離せ!」

パッ

勇者「全く……ああ、服が」

カズキ「早く来いよ」

勇者「分ーかったよ」

医者「ええっ、ちょっと……」

スタスタ

カズキ「ここ、俺の部屋なんだ」

勇者「あっそう」

ギィ

カズキ「早くこっち」

勇者「いちいち急かすんじゃねーよ」

カズキ「えっと、あれは……あれ?」

ガサガサ ガチャガチャ バタバタ

カズキ「あれ……おかしいな……」ガサガサ

勇者「なにしてんだよ?」

カズキ「ああ、あった。これだ」

勇者「なんだそれ」

カズキ「俺の宝物だ。やるよ」

勇者「やるっつわれてもなぁ……。
でんでん虫か?」

カズキ「アンモナイトの化石だよ。しかも超レアな虹色バージョン」

勇者「なんかよく分かんねぇけど、貰っとくわ。
もういいよな」

カズキ「ちょ、ちょっと待てよ!」

勇者「まだなんかあんのかよ?」

カズキ「えっと……」

勇者「早くしろよ。俺は先生に頼まれて付き添いに来てんだから、戻んなきゃなんねぇの」

カズキ「その…………」

勇者「おい、わざとやってんのか?」

カズキ「……」

勇者「ああもう、黙るなら知らねぇからな」

スタスタ

カズキ「……ごめん!」

勇者「は?」クルッ

カズキ「怪しいとか散々言って……ごめん……」

勇者「それ言うためだけに口ごもってたのか?
アホすぎんだろ」

カズキ「……」

勇者「もう、怒っちゃいねぇよ。名前も言えねぇ奴は怪しんで当然だ」

カズキ「でも……」

勇者「それに、俺のこと友達みたいで嬉しかったっつーのも聞いたぜ。
まぁ、そう言われて悪い気はしねぇよな」

カズキ「なっ……!」

勇者「なーに顔真っ赤にしてんだよ。
変なことは言ってねーぞ」

カズキ「う、うるせぇ!さっさと母さんの方へ戻れよ!」

勇者「テメェが連れてきたクセに身勝手だな。ったくよー」

スタスタ

医者「で、ですから、ちょっと引っ越し方が良いんじゃないかななんて思いまして!
あ、その……すみません……」

勇者「先生、大丈夫ですか?」

医者「大丈夫じゃないよバカァ……。
すげー噛んじゃったよ……」

勇者「えーっと、先生の話伝わった?」

母「多分……、大まかには」

医者「多分……」ガーン

母「とにかく、お気遣いありがとうございます。
確かにアナタの仰る通りなんですが、引っ越しは出来ません。
この店は主人の思いが詰まってますから、置いていけないんですよ」

勇者「だって?」

医者「そ、そうかもしれませんが、ご主人はそれを望んでいないんじゃ無いでしょうか」

母「そんなこと分かりませんよ。
死んだ人には確認出来ませんし……」

医者「もしですよ?
もし私が先に死んで妻と子供だけが残されたら、自分のことは忘れて欲しいですね」

母「忘れ欲しいんですか?」

医者「ええ、いやちょっとは悲しんで欲しいですけど。
一年半ぐらいしたら忘れて、人生を楽しんで欲しいです」

勇者「一年半って、ちょっとじゃないですよね」

医者「うるさいな、言ってから思ったよ」

母「本当にそんな風に思う人がいるんですね。
忘れて欲しいなんて……私だったら思えません」

医者「……じゃあ、ちょっと嫌なこと言いますね。すみません」

母「なんでしょう」

医者「ご主人が守りたかった自転車屋は、町の人に信頼されて愛される店だったんですよね。
先代のように自分も子供に継がせたいと」

母「ええ……」

医者「でも、今のところ叶ってませんよね?
だって町の人は誰も……この店に来ないじゃないですか。
…………すみません……」

母「……」

医者「あ、あの、とりあえずこれだけは言えます。
ご主人は絶対、アナタと子供の幸せを願ってましたよ。
先代のように夫婦で自転車屋を営んで、子供に継がせるのが幸せそうに見えたから、それを自分もやろうとしたんだと思いますから。
自分の幸せに、あなた方の幸せも含まれていたはずです」

母「……」

医者「あの……ホントすみませんでした。帰ります」

勇者「え?良いんですか?」

医者「いやだって、強制したい訳じゃないし、思ったこと言ってみただけだし……。
本当に申し訳ありません。お邪魔しました」

スタスタ

母「あの……お勧めして頂いた村の名前、よく聞き取れなくて。
もう一度お願い出来ますか?」

医者「えっと、あの、トクシュク村です。
ご存知ないかもしれませんが、この町の西の森の向こうにあるんですよ」

母「ああ、なんだ。トクシュク村なら知ってますよ。
よく村の人もウチに来てくれますし。
引っ越すならそこにしようと思ってたんです」

医者「そ……そうだったんですか……」

母「ということは、アナタもトクシュク村の方なんですよね。
いつもありがとうございますって、他の村の方にも伝えて頂けますか?」

医者「……はい……では……」

ガチャ バタン

医者「……」

勇者「……ま、まぁ、気にしたって仕方ないですよ。
言えて良かったじゃないですか」

医者「はぁ……全部、無意味だったのかぁ……はぁ……」

勇者「元気だして下さいよ。また次の恋をさがしましょう」

医者「だから、恋じゃないよ!俺には妻がいるんだ!娘も愛してる!」

勇者「あーはい、大丈夫ですよ。冗談ですから」

医者「クソーッ!」ガチャッ

シャーッ

勇者「漕ぐの早っ!ちょっと待って下さいよ!
ってか、どこ行くんですか!?」

医者「衣料量販店!しまむら!
服はせめてもう一着必要だから!下着もタオルも!」

勇者「なに言ってるか聞こえませんよ!
おーい!待って下さい!」

シャーッ

勇者「これで着替えられますね。
やっぱりしまむら、良いところだ」

医者「本当にもう一組もパーカーとジーパンで良かったの?」

勇者「これすっごい着心地良いんですよ、フワフワで。
ズボンはしっかりしてるし。
先生こそ、また首が覆われてるやつなんですね」

医者「こういうデザインの服はタートルネックって言うんだよ。
チョーカーつけてるから隠すのにちょうど良いかと思って」

勇者「チョーカーってなんですか?」

医者「えっと……アクセサリーとしての首にぴったりつける輪っか?」

勇者「アクセサリーなら、隠したら意味ないじゃないですか」

医者「確かにそうだ……あれ、なんでつけてるんだっけ?」

勇者「しっかりして下さいよ。自分でつけてるんでしょう?」

医者「そうなんだけど、随分前からつけてるからさ。
多分、宗教上のなにかなんじゃないかな」

勇者「そのヘアバンドもですか?」

医者「あ、ああ……多分」

勇者「ふーん……まぁ、本当のこと言いたくないならいいっすけど」

医者「言いたくないとかじゃないんだけど……」

勇者「もう良いですって。早く帰りましょうよ」

医者「ああ……そうだね。早く服も着替えたいし、洗濯板でゴシゴシやんなきゃなんないし。
頼んでも良いみたいだけど、下着とか自分で洗いたいもんね」

勇者「……」

医者「どうしたの?」

勇者「いや、やっぱり今日は汚れそうなんで、明日着ます」

医者「そう……」

ー2時間後ー

勇者「……」

医者「……やっぱり着替えてきたら?すっきりするよ」

勇者「そうですね……」スクッ

医者「……」


ー2時間後ー

勇者「……」

医者「……あ、おやつ買いにいかない?
好きなもの買ってあげるから」

勇者「いえ……」

医者「……」


ー2時間後ー

勇者「……」

医者「……」


ー2時間後ー

コンコン

女将「勇者様、迎えの者が到着しました」

医者「……」

勇者「……」スクッ

スタスタ

医者「……気をつけて」

勇者「……はい」

ガチャ

女将「勇者様、表で馬車がお待ちしております」

勇者「……」

スタスタ

男6「お待ちしておりました、勇者様。
さぁ、どうぞ中へ」

勇者「……」

ピシャッ ギギギ

男6「出発致します」

ガラガラガラ

ガヤガヤ

男1「お待ちしておりました、勇者様」

勇者「うわ……凄いな。どこから集まったんだ?」

男2「全地方に招集をかけました。
普段はそれぞれの教会に集まるのですが、今日は特別ですので」

勇者「ふーん……。全部で何人いんの?」

男3「全員で1486人です」

勇者「敵の数は?」

男4「1200人ぐらいですが、純粋な戦闘員はさらに少ないでしょう」

勇者「武器は……包丁?」

男5「一般人が用意できるのはこれくらいですので。
草刈りカマや、オノの人もいますよ。
後はアイスピックや金づちですね」

勇者「……こんなんで勝てるもんなのか?」

男6「勇者様がいれば、なんとかなりますよ。
そう聖典にも記されていますから」

勇者「あっそう……。
とりあえず、足音で気がつかれたらたまんねーからな。慎重に行くぞ」

男7「分かりました。
集落はこの森を抜けた先にあります。行きましょう」

スタスタ

勇者(しかしなぁ……どうすっかな。
こんなんで勝てるわけねぇのに、やる気満々だし。
今さらやめようとか言い出せる雰囲気じゃねぇよな……)

ーーー

男8「ハァハァ……」

勇者(おいおい、歩いただけで疲れてんじゃねぇかよ……。
もう帰ろうぜー)

男9「見えてきましたよ。あれがそうです」

勇者「……あのピンクのやつらか。確かに、人間じゃなさそうだ」

男10「とりあえず武器で脅して、縛り上げられるのは縛りましょう。
出来るだけ大人数をまとめて縛った方が良いですね」

勇者「まとめて?どうやって縛るつもりだよ。
それより一人ずつ手足を縛った方が確実だろ」

男11「……確かにそうですね。
じゃあ予定通り麻糸係と刃物係で二人一組になって下さい。
二人で一人ずつ捕まえていきましょう」

勇者「二人組が二組で一班。それで一軒分だ」

男12「家に入るのですか?」

勇者「当たり前だろ。だが、もし何か仕掛けがあればすぐ仲間に知らせろ」

男13「では、速やかに班に別れてください」

男14「あの、それだと余りが出てしまいますが」

勇者「余りは俺と行動だ。
電気が通っていないお陰で、ほとんどがもう寝てるみてぇだな。
出来るだけ目立たないように行くぞ」

男15「そろそろ行きますか?」

勇者「まぁ、うん。そうだな。
門番は俺がなんとかする」

勇者(本当は俺一人でやりてぇけど……)

勇者「行くぞ」

ソロソロ

門番「ギギギ、ギ」

ひゅがっ

門番「っ……」バタッ

スタタタ

勇者(入るぞ)

スッ

魔物1「ぐー……」

勇者(縛れ)

男15(はい!)

魔物1「ギギッ!」パチッ

魔物2「ギキャーイ!」スクッ

勇者「ああ、クソッ」

魔物2「ケタタタぐっ……」バタッ

勇者「こいつを縛れ!」

男16「はい!」

魔物1「グアッダッ!カァーアぐえっ……!」バタッ

勇者「こっちもだ!」

男15「はい!」

男16「あの、殺してはいないんですよね?
どうやってるんですか?」

勇者「みぞおちを狙ってなぐってっだけだ。
魔ほ……いや。俺は他に回るからな」

ー20分後ー

勇者「あらかた捕まえたものの、なんていうか……地獄絵図ってやつか。
アイツらどうしちまったんだよ……」

男17「死ねぇ!」

男18「クソカス共が!」

男19「ゴミクズ野郎!」

勇者「さすがに……こいつらを捕まえた方が良いんじゃねーのかなーなんてな」

タタタッ

魔物3「ギャイヤァアイイ!」

勇者「全く、逃げられてんじゃねぇか……あれ?」

魔物3「ギャガアッ!」

スタタタ

勇者(あの魔物の先は……アイツを狙ってる!)

ダダダッ!

勇者「おい逃げろ!」

勇者(間に合わねぇ!)シュタッ

ズバシュッ!

魔物3「がぁぁ……」

バタッ

勇者「あ、やべ……魔法使っちまった……。
早めに移動しただけだからいっかな」

カズキ「あああ……」ガクガク

勇者「おい大丈夫……は!?
お、お前なんでこんなとこにいんだよ!」

スタスタ

カズキ「うわああ!来るなぁ!化物!」ズテッ

勇者「な……なんで化物なんだよ!俺はお前を」

カズキ「うわあああ!」

ズテッ ザッ
ダダダッ!

勇者「……なんなんだよ……」

男20「どうかされました?」

勇者「別に……なんでもねぇよ」

男20「そうですか。しかし、さすが勇者様ですね。
素晴らしい跳躍、拝見させて頂きました」

勇者「……そんなことより、アイツら止めなくて良いのか?魔物もヤベーだろ」

男20「死ななければいいので、放っておきましょう」

勇者「まぁ、確かに殺そうって訳じゃなさそうだが……。
アイツなんか結構な怪我負ってんのに、狂ったように魔物に襲いかかってるぞ。
放置して良いのかよ」

男20「だから、死ななければ良いと申し上げたはずです」

勇者「……へっ、見事に狂った奴しかいねぇんだな。
まぁ、これだけ狂ってるから、包丁なんかで何とかなんのか」

男21「勇者様ー!助けてください!」

勇者「……いや、俺のおかげか。仕方ねぇな」

タタタッ

勇者(どうして俺が化物なんだよ。
どう考えたってこいつらの方が化物じゃねぇか)

勇者「こっちへ回れ!」

男21「は、はい!」

勇者(他のやつらの方が化物みてぇに戦ってるってのによ、魔法使っただけで化物か。
体が光れば勇者だしな!)

勇者「全く、やってらんねーよ!」ズバシュッ!

魔物4「ぐふっ……」

バタッ

ザワザワ

町民「おい!一体なにがあったんじゃ!」

男22「魔物の群れに襲われたんだよ」

町民2「なに言ってんのよ!一斉にいなくなっておいて襲われた!?
襲ったの間違いでしょ!」

ザワザワ

勇者「……」フラフラ

ガチャッ

女将「お帰りな……」

勇者「……」

スタスタ ガチャッ

医者「あ……」

勇者「ただいまーっす」

医者「……大丈夫か?」

勇者「ああ、これ俺の血じゃないっすから。
まぁ、ちょっとは疲れましたけどねー」

医者「……」

スタスタ

勇者「ああ、疲…………!」

医者「……どうした?」

勇者「…………」

医者「なぁ……大丈夫か?」

勇者「……俺ね、カズキに会ったんですよ。戦ってるとき」

医者「えっ!?」

勇者「アイツを守ろうとしてうっかり魔法使っちまって。
しかもアイツに見られちまって。
化物呼ばわりされたんです」

医者「それは……驚いたんだろうね」

勇者「でも、直後に俺誉められたんですよ。さすが勇者様って。
だから、アイツの許容範囲が狭いだけだって思って、ずっと怒ってたんですよ。
今の今まで」

医者「……」

勇者「でもね、今一瞬だけ鏡に写った俺、笑ってたんですよねー。
目見開いてて、口の端歪んでて、しかも血まみれだし、もしかして顔が怖かったのかなーとかちょっと思ったんですよー。
あんな地獄みたいなところで、もしかしたら笑ってたのかなーって。
……まぁ、どうでもいいですけどね。
あんなとこに来んのがわりーんだし。
あんなとこにいたら、誰だっておかしくなりますよ」

医者「……君らしくないな。
自分が笑ってたのがショックなら、ショックだって言えば良いじゃないか」

勇者「…………俺らしいってなんですかねー。
俺らしいとこなんて何も…………!」

医者「……人間、怖くても笑ってしまうらしいよ。
というより、怖いからこそ笑って乗り越えようとするらしいんだ」

勇者「……でも……アイツらみたいに……楽しそうだったんですよ……!?」

医者「明らかに君の笑顔は異常だった。ひきつってたよ。
嘘笑いっていうのはね、目が笑ってなくて口の端が歪んでて、左右非対称になるんだ。
自分の顔をよく思い出してみたら?きっと当てはまるはずだよ」

勇者「もう思い出せませんよ……怖くてすぐ引っ込めちまいましたし……」

医者「ほらね。普通なら笑顔って良い印象しか与えないんだ。
そりゃ状況にもよるけど、見ただけでぞっとするような表情なんて笑顔じゃない。
楽しいなんて思ってないよ」

勇者「…………本当に思ってないと思います……?」

医者「ああ、思うね」

勇者「……」

医者「とりあえず、お湯を浴びるといいよ。
きっと暖かくて気持ち良いから。さっぱりするし」

勇者「……」

…スタスタ

勇者「……あの、俺が風呂入ってる間、そこにいます?」

医者「そのつもりだよ。
ああ、覗きに行ったりしないから心配しないで」

勇者「……へっ、どうだか」

キュッ ジャー

ーーー

魔王「……魔王の次は勇者が現れたらしいな。忙しいことだ」

女「あんたの情報はいつも怪しいからねぇ。
本当に勇者なんか現れたのかい?」

魔王「裏ルートの情報だからな。それでも、今回は間違いないだろう」

女「裏ルートねぇ。王のクセに裏とは、いじましいじゃないか」

魔王「別に魔王らしさなどは必要ない。私は私だ」

女「なら、その鬱陶しいマントも喋り方も必要ないんじゃないかい?」

魔王「ギャップ萌えというのを狙っているのだ。
さあ、キリッと喋る私にイダッ!」

男「萌えねーよバーカ。彼女は大人の魅力に弱いのよ」

女「ふん、ガキもカマも男らしさを辞書で引いてから出直しな」

男「辞書に載ってんの?」

魔王「俺に聞くな。勝手に調べりゃいいだろ」

男「全く、使えないね。
ところで役立たずの魔王様、ご用件はなんでしょう」

魔王「そうねぇ、役立たずの小間使い。アナタは呼んでないわ」

男「昔から言うでしょ?俺居るところに俺ありって」

魔王「理解不能も良いところだ。
そんな下らないことより、噂の勇者が例のアレみたいなんですよ!」

女「例のアレってなんだい?」

魔王「実験体」

男「最初からそう言えば良いのに。
例のアレって、恥ずかしいお人だね」

魔王「うるせー。
とにかく、今はヒヌマ町にいるみたいだから、捕まえてきてくれるかな?」

男「いやともー」

魔王「うるせぇ、黙れ」

女「いやともー」

魔王「え……えぇ!?」

女「冗談だよ。じゃあ適当に行ってこようかね」

男「行ってきまーす」

魔王「アンタは帰ってこないでらっしゃーい。
あ、くれぐれも無理はしないでね。
別に絶対必要な訳じゃないし」

女「強がりはやめな。ま、ほどほどに頑張ってくるよ」

男「行ってきまーす」

魔王「おい、何回言うつもりだ」

男「もちろん、君が望むならいくらでも」

魔王「さっさと行けよ」

男「あらやだ。彼、きっと自分より身長の低い女を選ぶタイプよ」

女「そうだな」

魔王「よく分からないけどガァーン……」

スタスタ



ーーー

勇者「……あー」

医者「おはよう。
昨日は君が先に寝ちゃうから、晩ごはんが寂しかったよ。
でも、二人分食べれたから良かったかな」

勇者「はあ……え!二人分!?」

医者「ウソウソ。ねぇ、ちょっとお願いがあるんだ」

勇者「なんですか?」

医者「俺の代わりにおしっこ行ってきて」

勇者「意味わからないこと言わないで下さい。
ってか、なんで布団から出ないんですか?」

医者「あはは、実は出れないんだなこれが!
遅れてきた筋肉痛の悪夢だね」

勇者「そのままだとションベン漏らしますよ。
あ、魔法でお漏らしさせてあげましょうか?」

医者「それなんのメリットがあるのかな?」

勇者「俺が楽しいですね」

医者「酷い勇者だな」

勇者「俺は勇者じゃないですもん。
まだ勇者らしいこと、なにもしてませんし」

医者「……」

勇者「……」

医者「……俺はさ、君が見たのは疲れで見えた幻なんじゃないかと思うんだ。
カズキ君が君達について行ったとは思えないよ」

勇者「……」

医者「直接話を聞きに行かないか?
俺も一緒に行くから」

勇者「……とりあえず、トイレ行ってきまーす」

医者「ああ!本当に頼むから俺の分も出してきて!
ねぇ、聞いてる!?」

とりあえずここで切ります。
急いで書くので、できれば最後まで付き合って下さい。
こんな遅くまでありがとうございました!

世界観が全く解らない
でもなんか読んでしまう、不思議な魅力があるな
焦って書かなくても大丈夫だから、自分が満足出来るようにしたら良いよ
長くても遅くても、面白ければ人は着いてくる

わけ分からんのに、すごく気になる

>>50
>>51
>>52
ありがとうございます!
でも……そんなに訳分からないんでしょうか……。

とりあえず再開します。

勇者「先生……もうこの町出ませんか?」

医者「君がそう言うのも分かるけど……俺、動けないんだけどなぁ」

勇者「トイレには行けたじゃないですか」

医者「そうだね。君が支えてもくんないから自力で」

勇者「じゃあ大丈夫ってことじゃないですか。
それとも神経を麻痺させましょうか?」

医者「変なことはやめてくれ、怖いよ。
……しかし、君って知識がかなり偏ってるよね。
神経を知ってるのに魚は知らないとかさ」

勇者「さぁ、自分では偏ってるかよく分かりませんけど。
村の人が教えてくれたことで、面白そうなことは覚えてますよ」

医者「魚は面白くなさそうだったの?」

勇者「うーん、多分?
いや、でも俺だけ戦いの修行ばっかりやってましたから、教えて貰ったこと自体が無いかもしれません」

医者「勉強はしなかったってこと?」

勇者「魔法を使うための勉強はしましたよ。
イメージが大事だから正確に想像するために、色々なことを知らなきゃいけないって言われて、俺だけ特別に勉強してました。
親はいなかったっすけど、その代わりに大人たちが付きっきりでいてくれまして。
お陰で村のガキどもなんかには絶対負けなくなりましたよ」

医者「……寂しくなかった?」

勇者「まさか。大人がみんな俺に期待してくれるんですよ、俺だけ特別に。
親がいないくらいで拗ねたりしませんって」

医者「いや……そう」

勇者「そんなことより、ほら早くこんな町出ましょうよ。
どうしても無理なんですか?」

医者「……まぁ、なんとかするよ。
でも、カズキ君には会ってからの方が良いんじゃないの?」

勇者「いや……会う必要ありますか?」

医者「ないよ。ないけど」

勇者「なら、出発しましょうよ」

医者「……じゃあ、服買ってからにしようか」

勇者「えー、またですか?」

医者「君の服、間違って捨てちゃったんだ。ごめん」

勇者「……」

医者「よし、まずは朝ごはん食べよう。ね?」

勇者「……はい」

勇者「先生」

医者「なに……?」

勇者「服捨てといてくれて、ありがとうございました。
枕もフワフワのやつに変わってたし、嬉しかったです」

医者「そう……」

勇者「それに、この服も鞄も先生のお金と交換してるんですよね。
本当にありがとうございます」

医者「うん……」

勇者「本当に感謝はしてるんですよ?本当ですって」

医者「ならさ……なんで置いていこうとしてるのかな……?」

勇者「やだなぁ、まさかおいていこうとなんてしてませんよ。
うっかり先生のことを見失ったりするかもしれませんけど」

医者「酷い……酷すぎる……!」

勇者「冗談ですよ。でもこれじゃ、服屋までもちませんねー」

医者「ああ、ぐらぐらする……おぇぇ……」

勇者「仕方ないな。しばらく休みましょうか」

医者「うん……」


ー5分後ー

勇者「せんせー、まさか寝てませんよね?」

医者「ぐー」

勇者「寝てるよ……どうしたもんか」



ーーー

勇者「先生、いい加減起きて下さい。風邪引きますよ!」

ユッサユッサ

医者「うう……あれ?犬は?」

勇者「なにねぼけてるんですか。
犬なんかいませんよ」

医者「うーん……ああ、夢か。良かったー」

勇者「道端でずっと寝てたのに、なにも良くないですよ」

医者「いやね、すごい数の犬が追いかけてきてさ。
逃げてる途中で起きたんだよ。
夢で良かった」

勇者「ふざけた夢ですね。全部で101匹ですか?」

医者「全然ふざけてなんかないよ。
多分101匹よりは少ないけど、追いかけられてんのに誰も助けてくれないし」

勇者「あらー、夢の中でまで」

医者「朝のトイレの時だって、君が助けてくれても良かったんだよ?」

勇者「えー、まぁ自力で動けてんだから良いんじゃないですか」

医者「全く……。でも、さっきよりかは少しだけ元気になったかな。
あそこで飲み物でも買っていこうか」

勇者「買うって言うのは、お金と交換することでしたっけ?」

医者「そうそう。
あ、思い出した。これ君のお金だから」

勇者「えっ?」

医者「昨日、君がお風呂入ってる間に町の人が来て、置いてったんだ。
お礼だってさ」

勇者「そうなんですか。
……なんだかなぁ、ちゃんと俺が出るまで待って俺に渡せば良いのに。
用が済んだ途端、ぞんざいな感じがやだなー」

医者「いや、待つって言ってしつこかったよ。
俺が断っちゃったんだ、ごめん」

勇者「……いえ、確かに会いたくはないですから」

医者「じゃあ、飲み物買おうか。
って言っても、水しかないだろうけど」

勇者「水も海から運んできてるんでしょうかね」

医者「それは絶対町の人の前で言っちゃ駄目だからね」

勇者「はいはい」

店員「ありがとうございました」

勇者「なんか、よく分からない入れ物に入ってましたね」

医者「あれはビンっていうんだよ。
飲み物以外のものも入れたりするね」

勇者「へー。でも、なんでビンは返しちゃったんですか?」

医者「ビンって洗えば繰り返し使えるから、回収してる店がほとんどなんだよ。
俺たちは水筒持ってるし、移し変えればすぐに返せるだろ?
余計な荷物を増やさないためにも、そうした方が良いかと思って」

勇者「ふーん、そうなんですか」

医者「それより、本当に会わなくていいのかい?」

勇者「誰にですか?」

医者「誰にって、カズキ君にだよ」

勇者「もう良いじゃないですか。アイツだって、会いたいと思ってるか分かりませんし」

医者「後悔すると思うよ」

勇者「……もっと大きな後悔をしないためには良いんです。
もう行きましょうよ」

医者「うーん……」

勇者「今度こそ置いていきますよ」

医者「やっぱり置いていこうとしてたんじゃないか」

勇者「ああ、これはうっかり。聞かなかったことにして下さい」

医者「やだよ」

勇者「心狭いですね」

医者「それは君の方だろ」

勇者「いいから早く自転車に乗りましょうよ。ほらほら」

医者「でも、次はどこに向かうか決めてないじゃないか」

勇者「あー……どうしたらいいでしょう」

医者「とりあえず、近くにあるのはツネズミ町とコウヤダイ市だね。
どっちに行くかは、誰かに聞いてみるしか無いんじゃないかな」

勇者「うーん……仕方ないですね」

キコキコ

勇者「あ、おい」キキッ

男8「勇者様ではありませんか。どうされました?」

勇者「ちょっと聞きてぇんだけど、魔王がどの辺りに出たとか、そういう情報はねぇのか?」

男8「申し訳ありませんが、存じません」

勇者「ならよ、ツネズミ町かコウヤダイ市のどっちかでなんかしら怪しい噂はねぇの?」

男8「…………ツネズミ町で、町に魔物が紛れ込んでいたという話があったようです」

勇者「紛れ込んでいた、か。ありがとな」

男8「いえ……私はこれで」

勇者「先生、とりあえずツネズミ町へ行きましょう」

医者「そうだね。入れ違いにならないといいけど」

勇者「そうならないためにも、さっさと向かいましょう。
前進あるのみですよ」

医者「前進か……」

勇者「もうそろそろツネズミ町でしょうか?」

医者「そろそろというか、すでにツネズミ町に入ってるね。
景色が単調で分かりづらいけど、さっきの岩が境目だったんだよ」

勇者「ああ、突然置いてあったやつですか。
なんなのか気になってたんですよ」

医者「境目には何らかの印があることが多いんだ。
今回は岩だったけど、金属の看板だったりもするんだよ」

勇者「へぇ、なんだかちょっと面白いですね。
一歩こえたら別の場所なんですか」

医者「隣り合ってても境目で色々変わるから、注意が必要だね」

ブォーン

勇者「……なんか、変な音が聞こえません?」キキッ

医者「そうだね。
……しかも、段々と近付いて来てるみたいだ」キキッ

勇者「なんの音なんでしょう?」

医者「さぁ……」

ブォオオン!

勇者「な、なんだ!?」

医者「危ない!」ガッ

勇者「うわっ!」ズザッ

ブォォ キキィーッ!

男「ふー、危なかったね。避けられて良かった」

勇者「避けられたのは先生のお陰だろ!なに突っ込んできてんだよ!」

男「お互い怪我もないんだからいいじゃない。そう怒らないでよ」

勇者「ふざけやがって……謝るのが筋ってもんだろが」

女「すまないね。こいつは常識が欠落してるんだ」

男「そこまで言わなくても良いのに。傷ついちゃうな」

女「そんなことより早く下ろせ。こんなおもちゃのせいで死にたくないんだよ」

男「いや、君が降りれるように足で支えてるんだけど……」

スタッ

女「全く、お前のせいでいらない時間食っちまったよ」

男「えー、それはアイツのせいでしょ?
ヒヌマ町にいるって言ったのに、もうツネズミ町にいるし」

勇者「……俺達になんか用なのか?」

女「いーや、用があるのはアンタはだけだよ。
連れがいるなんて聞いてもいないしね。
そいつは誰なんだい?」

勇者「誰って……先生だよ」

女「先生?誰の先生なのさ」

勇者「……みんなの」

女「みんな?こりゃ大きく出たもんだ。
アンタは一体何者なんだい?」

医者「……お前らこそ何者だ。その乗り物はなんだ?」

男「これはオートバイって言うけどね、仕組みは説明しても分からないんじゃない?
俺にも分からないし」

女「仕組みも分からないのに私を乗せてたのかい。最低だね」

男「それでも扱い方は分かるのよ。
なぜか俺って何でも乗りこなせちゃうんだよね」

女「あっそう」

男「冷たいね……もう少し優しくしてよ」

勇者「それで!なんの用があって来たんだよ」

女「アンタに一緒に来てもらいたいのさ」

男「そして、脳をさいの目に切って情報を取り出させてもらう」

勇者「へっ、答えは42だよ。満足したか?」

男「というのはジョーダン。君の魔法で助けて欲しいだけ」

医者「なぜ魔法の事を知ってるんだ」

女「勇者様なんだから、魔法ぐらい使えてもおかしくないだろう?
まぁ、単純に魔法の目撃者もいたらしいしね」

勇者「チッ……もうそんなに噂になってんのか」

女「いや、アイツの情報網が一応役に立ってるから分かったんだろうね。
これから噂も広がっては行くだろうけど」

医者「アイツというのは誰だ。魔王か?」

勇者「魔王……!」

女「あら、どうしてバレたんだろうね」

勇者「なんだと!?」

男「あーあ、そういうこと言うから。本当にバレちゃったじゃない」

女「いいんだよ。コソコソやるのはつまらないだろ?」

勇者「どういう事だ……お前ら魔王の手下なのか!」

女「さぁ……、『自称魔王』の手下って奴だろうね。
部下でも使いっぱでもなんでも構わないよ」

医者「自称魔王?魔王じゃないのか?」

男「まーた君は否定的なことを。
魔王の部下が忠誠心の欠片もないなんて、面白すぎでしょ」

女「はっ、笑わせんじゃないよ、ただの女たらしが。
お前は魔王の手下ですらないだろう」

男「確かに違うけど、俺はいつでも君の手下だよ」

女「気持ち悪いからやめな。勘違いされるじゃないか」

勇者「ごちゃごちゃうるせぇ!自称でもなんでもいい。
俺を魔王の所に連れていけ」

女「そりゃ、願ったり叶ったりさ。
だけど、アンタに指図される筋合いは無いね。
生きの良いまま連れていっても、何されるか分からないし」

勇者「何されるか?決まってんだろ。
魔王の野郎をぶっ殺す!」

男「あちゃー……。俺、ガキをいたぶんのやだよ」

女「いたぶられんのはお前だろう?素直に引っ込んでな。
あのガキんちょは、マトモな体じゃない」

勇者「ケッ、ふざけんなよ。マトモじゃねぇのはテメェらだろ」

医者「なぁ、聞いてくれ。アイツらは君が魔法を使えることを知った上で、ここにいるんだ。
それにあの乗り物、本当に何があるか分からない。
今は逃げよう」

勇者「……イヤです。どうぞ、一人で逃げて下さい」

医者「意地を張るところはここじゃないだろ!」

女「逃がさないよ。やっと見つけたんだ。
本物の魔王をね」

勇者「なんだと……?」

男「先手必勝!」スチャ

バンッ!

勇者「ぐあっ!」

医者「なっ……!」

男「……なーんだ。ぐあっ!程度なの?」

女「バカ!そんなもん使って、もし殺しちまったりしたら」

男「だいじょーぶだよ。撃つとこは選んでるから。
腕を落とそうとしたんだけどね」

勇者「クソ……!ぶっ殺す!」ボタボタ

医者「落ち着くんだ。あの銃には勝てないよ」

勇者「え?」

医者「……その銃、どこで手に入れた?」

男「んー?秘密。しかし、これのこと知ってるんですね」

医者「……」

女「ま、安心しな。もうこのバカタレにおもちゃは使わせないよ」

男「えー、俺の見せ場無くなっちゃうよ?」

女「うるさいね、最初から引っ込んでなって言ってるだろ」

勇者「へっ……、じゃあ誰が戦うんだよ。まさか、まだ仲間がいんのか?」

女「心配性な坊やだね。大丈夫、アンタの相手は私だけだよ。
……私一人で十分さ」タッ

タタッ

勇者「……逃げた?」

医者「後ろだ!」

勇者「!!」

ザキュッ!!

勇者「ぐっ……どうやって後ろに……!」

女「瞬間移動さ。坊やも使えるだろう?」

勇者「なっ……!」

女「魔法を使いたくないなら、使わなくてもいいけどねぇ。
こっちも助かるから」

勇者「へっ……まさか」

タッ

女「あら、なかなか素早いじゃないか」

勇者「魔王の居場所を吐け」

女「そいつは出来ない相談だ」

シュンッ…

勇者「なに!?」

女「幻影さ。そして、これは炎だよ!」ボッ

ゴオォッ!

勇者「クソッ!」パリッ

パリリ ボンッ!

女「へー、やるじゃないか。それ、氷の魔法だろう?結構難しいのに。
誰かに教わりでもしたのかい?」

勇者「お前らが……滅ぼした村の人からだ!」

女「なーに言ってんだい。人聞きの悪い。
そりゃ、ろくな事はしてこなかったけど、村を滅ぼしたりはしてないよ」

勇者「ふざけるな!忘れたとは言わせねぇぞ……トウガサキ村だ」

女「トウガサキ?
ああ、どっかで聞いたことがあると思ったら、魔物に襲われた村だね」

勇者「とぼけやがって……俺はあの村の生き残りなんだよ」

女「それはお気の毒様。だからって私に八つ当たりすんのはお門違いさ。
襲ったやつらに仕返ししな」

勇者「……指示を出したのはお前らのボスだろ。テメェらも許さねぇよ」

女「ハッハッハッ!……まぁ、絶対に違うとは言えないけどねぇ。
私もアイツが産まれたときから一緒にいる訳じゃない」

勇者「何を言ってやがる……!」

女「直接聞きなって事さ。さぁ、話しはおしまいだ」タッ

トッ

勇者「うっ……!?」

バタッ

医者「そんな……!おい、しっかりしろ!」

女「大丈夫、眠って貰っただけさ。
お望みなら先生も眠らせてやろうか?」

医者「……」

女「そんな怖い顔しなくても、アンタは関係ないから連れていかないよ。
それとも着いてきたい」

男「伏せろ!」バッ

スチャッ

医者「……」

男「見せかけだけ?……じゃないな」

医者「……」

女「……はっ、急にだんまりかい。気味が悪い」

医者「……」

男「……あれは俺のやつよりヤバいやつかもね。逃げる?」

女「逃がしてくれるかねぇ……」

医者「……」ガタガタ

男「なーんかヤバそうだし……逃げるしかないでしょ」

女「アレに乗るのか……」

男「いーから早く」

ブルル……ブォオオ!

医者「……」ガタガタ


ーーー

『……パ……』

ーーー


医者(……?)ガタガタ

勇者「」

医者「……血を……止めなきゃ……」ガタガタ

シュルッ ギュッ

医者「うぅ……」フラッ

バタッ


ー3分後ー

歴史学者「おっ?」

勇者「うーん……」

歴史学者「ん、起きるか?」

勇者「……イテェ!なんだ!?」

歴史学者「おお、起きたな。おはよう」

勇者「うわっ!誰だよお前!腕と背中イテェ!」

歴史学者「騒がしいな。背中と腕の傷は適当に手当てしといたよ。
君の連れの鞄から勝手に使わせて貰った」

勇者「連れ……そうだ、先生は!?」

歴史学者「多分、隣にいるのが先生だ」

勇者「お前じゃねーよ!」

歴史学者「そうじゃない。君の左だ」

医者「ぐー」

勇者「なんだ、良かった……。あれ、なんで俺寝てたんだ?」

歴史学者「それは私が聞きたいが、とにかく君の腕の恩人は私だ」

勇者「はぁ?」

歴史学者「止血のためだろうが、あのまま圧迫してたら、君の腕は腐っていたかもしれない。
感謝してくれ」

勇者「圧迫?なんのことだよ」

歴史学者「むっ……この流れで許して貰おうと思ったんだが、甘かったか」

勇者「なにをブツブツ言ってんだ?」

歴史学者「……実はな、連れの鞄から煮干しを頂戴していたんだ。
君達を命の恩人として感謝するから、許してくれ」

勇者「煮干し?よく分からねぇが、先生に感謝した方が良いんじゃねーの」

歴史学者「ふむ……そうか。ならそうしよう」

勇者「あっ!そうだ、アイツらはどうした!?」

歴史学者「アイツら?君たちの他にまだ誰かいたのか?」

勇者「クソ女とクソ男の二人組だ。
バカみてぇにうるせぇ乗り物に乗ってた奴らだよ」

歴史学者「そんな二人組は知らんな。倒れていたのは君たち二人だけだ」

勇者「チキショー、逃げられたのか……。
つーかイテェよ!」

歴史学者「痛いのは分かったから、静かにしてくれないか。迷惑だ」

勇者「痛くて仕方ねぇんだ、頭くるに決まってんだろ!?」

歴史学者「いや、痛みと苛立ちは別だろ。
本当に痛いなら、そんな大声出せるとは思えないけどな」

勇者「本当にイテェよ、クソ野郎!」

歴史学者「私はクソでも野郎でもない」

勇者「ふざけやがって!なんでそんなに胸でけぇんだよ!詰めすぎだろ!」

歴史学者「君は何に対して腹を立てているんだ?
別に詰め物はしてないぞ」

医者「うぅ……うわっ!」

歴史学者「おや、おはようございます」

医者「お……おはようございます……」

勇者「先生!良かった起きてくれて……どうしました?」

医者「いや……こ、ここはどこかなって」

歴史学者「ここはツネズミ町の土手です。
そしてアナタは命の恩人です、ありがとうございます」

医者「えっ……えっ?」

勇者「イテェよ、チクショウ!」

歴史学者「起きて早々なんですけど、こいつを黙らせてもらえませんか?」

勇者「ああ?ざけんなよテメー!」

医者「ええと……何がどうなってんの?」

一旦切ります。

今日の夜は仕事なので、次に投稿するまで少し時間がかかりそうです。
でも出来るだけ頑張ります!

読んでくれてる方、本当にありがとうございました!

意図的でもあるんですけど……やっぱり分かりづらいですよね、すいません。

初めてオリジナルで書いたのでかってが分からなくって。
世界観的には、ファンタジーベースの現実的な世界って感じに思って頂ければいいのかなと思います。

とりあえず仕事行ってきます。レスが励みになってます。ありがとうございます!

確かに世界観が非常にわかりにくいですね少し補足というか説明が欲しいかもです。

あと勇者があまりにも物を知らなさすぎるのですが全く文明が無いような村で育ったのですか?魔王に囚われてたにしても余りにも酷いかと…

ただ私も何故だか物凄く吸い寄せられるというか早く続きを読みたいです。

期待

分からなさ加減が、ある種の味にはなってる、かな
まあ、詳細に説明しようとして本筋がおろそかになったら元も子もないし
もし組み込めるようなら軽く補足を入れてくれるとありがたい

個人的には、ちょっと荒んだポケモンぽい世界観で再生されたよ
文明の度合とか地名とか旅して町ごとにイベント起こるとことかで、なんとなく

>>73
>>74
>>75
ありがとうございます!吸い寄せられるなんて初めて言われました……!

世界観ですが、わざとゴチャゴチャにしようと思ったんです。
道路は舗装されてないし化学繊維はないけど、テレビはあります。
設定としては家電はそこそこにあって、全て太陽光発電で賄われています。
一応理由も明かすつもりです。
私はnarutoという漫画が好きなので、あの世界観をもっと複雑にしたイメージで書いてました。

続きをのせるつもりで来たのですが、弟を病院に連れていくことになったので、もうちょっと待ってください。
ホントにホントにありがとうございます。

遅くなってすみません。
再開します。

医者「と、とりあえず、麻酔は打ってみたけど……」

勇者「うーん、まだ痛いっすよ」

医者「大丈夫、すぐに効いてくるよ。
…………あ、あの、アナタはどちら様ですか?」

歴史学者「私は……さすらいの歴史学者です。名前は故郷に置いてきてしまいました……」

医者「そ、そうですか……」

歴史学者「……何も言われないのも恥ずかしいな」

勇者「さすらいの歴史学者の意味わかんねーし」

歴史学者「意味分からないって、人間誰しもさすらいたい時があるだろ?
私はたまたま歴史学者だっただけだ」

勇者「だからさすらいってなんだよ。歴史学者の意味わかんねぇ」

医者「行く当てもなくさ迷うことをさすらいって言うんだよ。
歴史学者は世の中の移り変わりなんかを研究する人だ」

勇者「ふーん、そうなんですか」

歴史学者「まさか言葉を知らなかったとは……ますます恥ずかしいじゃないか。
どうしてくれるんだ」

勇者「意味わかんねーし俺のせいじゃねぇだろ!」

医者「あの、もしかして私達を助けてくれました?」

歴史学者「はい。とは言っても、アナタは川辺に移動させただけですが。
そうだ、煮干しを奪ってしまい本当にすみません」

医者「い、いえ……え、煮干しですか?」

歴史学者「ええ、アナタの鞄に入っていたのをつい。
申し訳ありません」

医者「いえ……気づいてすらいなかったです……」

勇者「先生、なに敬語で話してるんですか。
こんなやつに敬語はいりませんよ」

歴史学者「酷い言いぐさだな。
しかし、敬語を使って貰うのも悪いので、やめてもらって構いませんよ」

医者「えっと……やめた方がいいんでしょうか」

歴史学者「そうですね。悪いですし」

医者「……じゃ、じゃあやめま……やめる!……えっと、やめるよ」

歴史学者「まさか本当にやめるなんて……」

医者「え……すみません…………」グスッ

歴史学者「冗談ですから泣かないで下さい。私はそんなに怖いですか?」

医者「い、いえ!怖くなんかないですよ!全然怖くないです!」

勇者「怖いって言えば良いじゃないですか。
先生は女が怖いんだよ。惚れちゃいそうで」

医者「違う!惚れたりなんかしないよ!
……あ、えっと違うんです!アナタだから惚れないのではなく、わたしには妻と娘がおりまして」

歴史学者「分かりましたから。もう少し肩の力を抜いて下さい。
とって食ったりしませんよ」

医者「いえ……そうじゃないんです……」グスッ

勇者「とりあえず、こいつに敬語使うのはやめて下さい。
ぶん殴りますよ」

医者「え……えぇ……!」オロオロ

歴史学者「ムカつくが確かに敬語はいらないな。やめていいですよ」

医者「だって……でも……本当に……?」

歴史学者「ええ、本当です。さっきのは本当に冗談でしたので、気にしないで下さい」

医者「あの……じゃあ……やめます……」

勇者「やめてないじゃん」

医者「うるさいな、これ以上追い詰めるのはやめてくれよ……」

歴史学者「もしかして、女性恐怖症ってやつでしょうか?」

医者「え、ええ、多分そうで……そうだす……あ」

勇者「そうだすか」

歴史学者「そうだすね」

医者「うぅ……」グスッ

医者「もういや……」ウルウル

勇者「テメェ、なに先生泣かせてんだよ。ふざけんな」

歴史学者「君も一緒になって言ってただろう。でも泣くほど怖いのか……。
やっぱり胸のせいですか?」

医者「いや、そんな。多少それもあるけど……」

歴史学者「うーん、やはり切り落とすべきか」

医者「ええ!?」

勇者「じゃあ、俺がざっくりやってやるよ」

医者「ええ!?」

歴史学者「お断りだ。それより、君は他に言うことがあるだろ。
川辺に大人がジャージでいるんだぞ?なにか質問があるはずだ」

勇者「あー、なんで胸に詰め物してんだよ」

歴史学者「違う!それに詰め物はしていない。
もっと聞くべきことがあるだろ」

医者「……どうして川辺にいるのですか?」

勇者「ホームレスってやつだからでしょ」

歴史学者「人の答えを決めつけるのはやめろ。
まぁ、確かにホームレスだが」

勇者「じゃあ、もういいな。
先生、町の方へ行きましょう」

歴史学者「ウエイト!待ちたまえ!ここであったのもなにかの縁だ。
私も旅の仲間に加えてくれ」

勇者「嫌だね」

歴史学者「先生!連れてってくれますよね!?」

医者「う、うん……良いんじゃないかな……」

勇者「なに言って」

歴史学者「そういう事だから、これからよろしく頼むよ!少年!」

勇者「ふざけんな!気持ち悪い呼び方すんじゃねぇ!」

歴史学者「呼び方で怒ってるのか。じゃあ、名前は?」

勇者「……名前は忘れた。俺は勇者だ」

歴史学者「……は?」

勇者「だから、勇者だよ」

歴史学者「なんとまぁ、私に負けず劣らずだな。
じゃあ、先生のお名前は?」

医者「えっと……その……」

歴史学者「……」

医者「……」

歴史学者「…………ま、まぁ、私も名無しだ。名無し同士仲良くやろう!」

勇者「ふざけんなっつってんだろ!
先生、こんなの仲間にするなんてやめましょうよ」

医者「いや、でも……。
ほら、助けてくれた訳だしさ。君の傷だって彼女が手当てしてくれたんだろう?」

勇者「確かにそうですけど……」

歴史学者「先生は先生で良いだろうが、君はなんて呼んだら良いか。
少年は絶対にダメか?」

勇者「先生のことだって、青年とは呼ばないだろ」

歴史学者「まぁ、確かに」

医者「…………あのさ、青年なんて気を使わないでいいんだよ?
中年なのは分かってるから……」

勇者「はっ?中年?」

歴史学者「中年って感じではないですし。
まだ25~6では無いんですか?」

医者「……45だけど……」

歴史学者「よっ、45!?45才ですか!?」

勇者「嘘だろ!?」

医者「いや……え、そんなに意外?」

歴史学者「それはもう……。
先生はたまにいる年を取らない人なんでしょうね」

医者「そう?そうかな?」

勇者「なに嬉しそうな顔してんですか。
そんなんだから年相応に見られないんですよ」

医者「……そうだよね……」

医者「年相応か……」ズーン

歴史学者「私は良いことだと思いますけどね。
わざわざ年をとる必要なんてありませんよ」

医者「……そう?優しいね」

歴史学者「よく言われます」

勇者「うるせーボケ。先生が言うなら仕方ねぇが、ついてきても邪魔はするなよ」

歴史学者「うーん、それはきっと無理だ。私は市街地には行きたくない」

勇者「なんでだよ!」

歴史学者「君達こそ、なぜ市街地に行きたいんだ?
魔物が紛れ込んでいたという噂は、耳にしていないのか」

勇者「その魔物が目当てで来たんだよ」

歴史学者「それは驚いた……魔物をどうするつもりなんだ?」

勇者「それは……どうしましょう」

医者「うーん……考えてなかったね」

歴史学者(……)

歴史学者「…………良いだろう。正直に話すよ。
魔物は私だ」

勇者「……は?」

勇者「頭どうかしてるのか?いや、どうかしてるよな」

歴史学者「答えを決めつけるのはやめろと言っただろう。
恐らく頭は正常だ」

勇者「お前が魔物な訳はねぇだろ。
……魔物ってのは、もっと人間離れしてんだよ」

医者「確かに、君が魔物というのはちょっと……」

歴史学者「正確に言えば、魔物二世だ。私の母が魔物だったんだ」

勇者「なんだと……?」

歴史学者「優生思想というものがこの国の根底にあってな。
魔物は人間と子供を残してはいけないんだ。
しかし、私は産まれてしまった。しかも魔物二世であることがバレてしまったんだよ」

勇者「……」

歴史学者「三日前に、中心街の方から逃げ出して来たんだ。
だから、君たちの探している魔物は私だ。
さて、私をどうする?」

医者「どうするってそんな……」

勇者「……テメェは魔物じゃねぇだろ。俺と会話できるんだからな」

歴史学者「そんな判断基準でいいのか?」

勇者「俺の知ってる魔物は、話が通じない相手ばかりだった。
……俺の村を襲ったやつらの目付きは忘れねぇ」

歴史学者「村を襲った……トウガサキ村か?」

勇者「ああ……俺はそこの生き残りだ。
襲いかかってきたやつらな、冷たい目をしてたんだ。
俺や村に興味はねぇって目だった。早く仕事を終わらせて帰りてぇって感じだったな。
向こうから襲いかかってきてるくせにだぜ?」

歴史学者「……酷いな」

勇者「酷いなんてもんじゃねーよ。
どんどん人が殺されていった……。俺の目の前で……」

歴史学者「ふむ……とにかく、魔物じゃないと言ってくれるのは嬉しいよ。ありがとな」

勇者「別に……先生だってこいつを魔物だとは思いませんよね」

医者「うん、思う要素はないね。魔物の血っていうのは間違いじゃないのかな?」

歴史学者「いえ、母が魔物なのは確かですよ」

医者「そう……ま、まぁでも、親が全てを決める訳じゃないから。
俺の親父だって、ろくな奴じゃなかったからね……」

歴史学者「……二人とも優しいですね。ありがとうございます」

医者「お礼はいいよ。でも、市街地には行かない方が良さそうだね」

勇者「そうっすね……。なら、どこに行きましょう?」

歴史学者「魔物を探しているなら、コウヤダイ市に行った方が良いんじゃないか?
この街は私以外の魔物関連の噂はないし、コウヤダイ市の方が魔物の噂もあるじゃないか」

勇者「そうなのか?さっき隣町の奴に聞いたときは、そんなこと言って無かったぞ」

歴史学者「おかしいな……ヒヌマ町にだって、噂ぐらいは伝わってる筈だが。
とても有名な噂だからな」

医者「それって、どんな噂なのかな?」

歴史学者「コウヤダイ市は、農業が盛んに行われているんですがね。
そこの農場で魔物が働いているという噂があるんですよ」

勇者「魔物が働いてるだと!?どういうことだよ」

歴史学者「私につかっかってどうする。ただの噂だ。
根強い噂だけどな」

医者「今まで国の調査は無かったの?」

歴史学者「ええ、恐らく。それに国は黙認しているという話までありますね」

医者「黙認ね……まぁ、都市伝説なんかの部類に入るってことかな」

勇者「とにかく、真相は分からないんだろ?確認しに行こうぜ」

歴史学者「待ってくれ。君たちは、魔物の事を知りたくはないか?」

勇者「事をっていうか……まぁ、情報は多い方が良いな」

医者「そうだね。何か知ってるの?」

歴史学者「一応、私は魔物の研究をしているので。
しかし、論文は家に置いてきてしまったんです」

勇者「つまり、取りに行けってことか?」

歴史学者「まぁ、そんなところだ」

勇者「テメェが市街地には行きたくないって言ったくせに……。どうするつもりだよ」

歴史学者「私はここで待ってるよ。さぁ、早く行ってこい」

勇者「なんで上から目線なんだよボケ」

歴史学者「いいから。これが家の鍵だ。こっそり行ってきてくれ」

医者「見張りなんかはいないかな?」

歴史学者「さぁ……全然分かりません」

勇者「そんなの俺の魔法でなんとかしますよ」

歴史学者「君は勇者だの魔法だの、大丈夫か?将来、悶え死ぬぞ」

勇者「嘘はついてねぇよ。お前も光れば勇者だって認めっか?」

歴史学者「光る?ああ、聖典にある輝きの事だな」

勇者「ほらよ」

ピカー!

歴史学者「おお!」

勇者「どうなんだよ」ビカビカ

歴史学者「暗いときに便利だな、うん」

勇者「そうじゃねぇ。俺は勇者か?」

歴史学者「光ってるだけではな。私にギャートルズの肉でも出してくれれば、お前は勇者だ。
あとコーヒーもつけてくれ」

勇者「……んだよ、それ。ふざけやがって」

歴史学者「出してくれないのか?」

勇者「出来たとしてもお断りだ。テメェは煮干しでも食ってろ」フッ

歴史学者「ケチだな。光るのまでやめるなんて」

勇者「あたりめーだ。もったいねぇからな」

歴史学者「君はどこまでケチなんだ。
まぁ、いい。早く論文をとってきてくれ」

勇者「チッ……場所はどこだよ」

歴史学者「郵便局のそばの民家だ。目印はそうだな……青い屋根を探してくれ」

勇者「郵便局ってなんだよ?」

歴史学者「なにって言われても……」

医者「手紙や荷物を集めて、指定されたところにとどける仕事をしている所だよ」

勇者「ふーん、仕事ってことは店屋みたいなもんですね。じゃあ、行きましょうか」

医者「あ、君はその怪我だから自転車はやめようか。服も着替えた方が良いね」

勇者「あー、確かに。ますますめんどくさいっすね」

歴史学者「いいから。はい、これ君のカバン」

勇者「うぜぇな。上だけ着替えっからあっち向いてろ。
先生もお願いします」

医者「ああ、分かった」

歴史学者「へぇ、君も一応気にするんだな」

勇者「あたりめーだっつーの。こんなところで着替えさせやがって……あ」

医者「どうした?」

勇者「服がないんです……。どうしましょう」

医者「ああ、まだ買って無かったね。とりあえず俺のやつ着なよ」

勇者「ありがとーっす。……もう着替えたんでいいですよ」

歴史学者「そうか、じゃあ早速行ってらっしゃーい」

医者「うん、行ってきます」

勇者「あんなのに返事しなくていいですって。ぶん殴りますよ?」

医者「えっ!」

スタスタ

医者「あの、すみません。郵便局の場所を教えて頂けますか?」

町民1「えっとですね、ちょっと複雑なんで地図を書きますよ」

医者「ありがとうございます」

サラサラ

町民1「これで大丈夫かな。
まず、この古本屋で右に曲がりまして……って感じです」

医者「ありがとうございます。助かりました」

町民1「本当ですか?良かったー。
もし分からなくなったら、交番で聞いてみてくださいね。ここですから」

医者「ええ……ありがとうございました」

スタスタ

勇者「……なーんか、普通の人でしたね。隣町の奴らとは大違いだ」

医者「あの街はかなり特殊だからね。
他の村や町の人も、大体この町っぽい感じだと思うよ」

勇者「そうなんですか?ちょっと安心しました」

スタスタ

医者「お、あの人のお陰でひとまず到着だ」

勇者「これが郵便局ですか。あの赤くて四角いのはなんですか?」

医者「ああ、あれはポストだよ。
手紙をあれに入れると、相手に届けてもらえるんだ」

勇者「それって凄い性能ですね」

医者「……あの中から手紙を取り出して、人が届けるんだよ?」

勇者「なんだ、つまんないですね」

医者「そんなことないよ。素晴らしいシステムだ」

勇者「そうですか?しかし、アイツのウチはどこなんでしょう」

医者「青い屋根だって言ってたけど……それらしいのはないね」

勇者「また誰かに聞いてみましょうよ」

医者「うーん、青い屋根で分かるかな?」

スタスタ

医者「すみません。ちょっとお尋ねしたいのですが」

町民2「なんですか?」

医者「ここら辺に、青い屋根の家はないでしょうか。探しても見当たらなくて」

町民2「青い……まさか、魔物の家の事ですか?」

医者「え、ええ……。魔物が出たと噂で聞いたものですから」

町民2「噂ですか……。
とにかく、あの家はもうありませんよ」

勇者「無いってどういうことだよ?」

町民2「みんなで燃やしたんだ。残ってるのは黒焦げの柱ぐらいだろうな」

勇者「燃やした……!」

医者「……あの、とりあえず場所だけでも教えて頂けますか?」

町民2「別にいいですよ。ほら、あの家の奥です」

医者「あれですか。ありがとうございます」

町民2「いえ、指差しただけですから。それじゃあ」

スタスタ

勇者「……」

医者「とりあえず行ってみようか。ね?」

勇者「そりゃ行きますよ。行きますけど……」

医者「うわ……」

勇者「本当に燃えてる……」

医者「……これじゃあ論文も残って無いだろうね」

勇者「……」

医者「こんなの見ちゃうと……伝えるのが辛いな」

勇者「……やっぱり、伝えますよね」

医者「多分……」

勇者「……こんなの……なんて伝えたら良いんでしょう……」

医者「……」

スタタタ

勇者「ん?」クルッ

町民3「やばっ」

医者「なんだ……?」

勇者「おい、おま」

医者「駄目だよ話しかけちゃ。怪しさ満点でしょ」ボソボソ

勇者「いや、だってこっち見てるから」

町民3「バレてんな……どうしよう……」

勇者「ほら、話しかけて欲しそうですよ」

医者「なおさら近づいちゃダメだよ。わざわざ危険な目に遭うことないから」

町民3「……あの、その家に何かご用ですか?」スッ

勇者「うわ、話しかけてきたよ」

医者「用ってほどじゃないですよ。それじゃ」

町民3「その家は魔物が住んでいた家なんですよ」

医者「そうですか、では」

勇者「知ってるよ。だから来たんだ」

医者「ちょっと!?」

町民3「だから……ですか。
失礼ですが、もう少し詳しく話して頂けますか?」

勇者「アンタらこそ、家燃やすなんてなに考えてんだよ。
住んでたやつは本当に魔物だったのか?」

町民3「魔物ですよ。
だって魔物の研究なんてしていたのですよ?魔物じゃないですか」

勇者「あんたアホか?どうして魔物が魔物の研究するんだよ」

町民3「そりゃあ……自分達のことが知りたいからでしょう。
とにかく魔物が紛れ込んでいたなんて許せないことです。
町民の日常が脅かされていたんですから」

勇者「脅かすって、具体的にどういうことだよ」

医者「なぁ、もうそのへんに」

町民3「具体的な事が分ければ苦労はしません。
分からないからこそ脅威なんじゃないですか」

勇者「なんだよそりゃ。テキトーだな」

町民3「……なんなんですか君は。魔物を擁護するのですか?」

勇者「別に。あんなクソ女を擁護する気なんかねぇよ」

町民3「クソ女……?」

勇者「けどな、お前らムカつくんだよ。なにが魔物だ。
魔物のことなんかなんにも知らねぇクセに。
どうしてアイツが魔物だなんて言えるんだよ!」

町民3「……この家に住んでいた者とお知り合いのようですね」

医者「ああ、もう……君はなんでそう考えなしに」

勇者「考ええもクソもねぇっすよ。
ムカつくもんはムカつくんです」

医者「だからって、一体どうする気なんだ!もうイヤ……」

町民3「……アナタ達にお話ししたいことがあります。ウチへ来ていただけますか?」

医者「え?」

勇者「は?」

町民3「ここではちょっと話せないのです。お願いします」

勇者「おいおい待てよ。突然どうしたんだ?」

町民3「僕を信じてください。彼女についてお話ししたいのです」

勇者「……彼女ね。いきなり態度変えちゃってさ」

町民3「……」

勇者「いいぜ、ついてってやる」

医者「おい!」

勇者「まぁまぁ、俺を信じてくださいよ。何かあっても、何とかしますから。
それに、アイツに少しでも良い話を持ち帰りたいでしょう?」

医者「そりゃあ、俺だって……でも……」

勇者「大丈夫です。女好きな先生は、俺が守りますから」

医者「女好きってどういうことかな?」

町民3「あの、どうしても来て頂けませんか?」

医者「いえ……行きますよ。彼一人では向かわせられませんから」

町民3「そんなおかしなことはしませんよ」

勇者「とにかく、決定っつーことで。話とやらを聞かせてもらうからな?」

町民3「ええ、もちろん。その為にお招きするわけですから」

スタスタ

町民3のセリフ、点を打ち忘れました。

町民3「そんな、おかしなことはしませんよ」

でした。すいません。
一旦切ります。読んでくれてる方、ありがとうございます。

ありがとうございます!
再開します。

勇者「結構立派な家に住んでんな。庭付きか」

町民3「僕の手柄ではありませんがね。
父が町長をやっていまして。僕もその補佐をしています」

勇者「町長ってなんですか?」

医者「町の政治の最高責任者だよ。簡単に言えば、町で一番偉い人だね」

勇者「ふーん、だから良い家に住めるって訳か」

町長の息子「父はなにも悪いことはしていませんよ。もちろん僕もです」

医者「そうですかね。悪に手を染めてない金持ちとは珍しい」

勇者「先生、いつまでもいじけてないで下さいよ。45なんでしょう?」

医者「う、うるさいな!年は関係ないだろ!」

町長の息子「あの、中へ入りませんか?」

勇者「あーそうだな。俺は入ろっと」

医者「俺だってついていくよ。君一人じゃ不安だろうから」

勇者「おや?先生が挑発なんて珍しいですね。ぶん殴りましょうか」

医者「なんだよ、卑怯だぞ!」

スタスタ

町長の息子「お掛けになってお待ち下さい。
今、お茶をお持ちしますから」

勇者「お茶なんかいらねーけどな」

町長の息子「そういう訳にはいきませんよ。では、お待ち下さい」

スタスタ

医者「全く君ってやつは、あんな怪しいやつにホイホイと……」ブツブツ

勇者「良いじゃないですか。アイツのことを彼女なんて呼んでたし、悪い話はしないと思いますよ」

医者「そうは言ってもさ……」

勇者「やっぱり女好きの先生には、野郎だけの空間はキツイですか」

医者「違うよ!いい加減にしないと怒るよ?」

勇者「うわー、怖い」

スタスタ

町長の息子「お待たせしました」

勇者「それで、話ってなんだよ」

町長の息子「……彼女が魔物だと、私には思えないのです」

勇者「はぁ?さっきは魔物を擁護するのかー、とか言ってたじゃねぇか」

町長の息子「それは、町長の息子として魔物を認めるわけにはいかないからです。
この町の住民が怖がっているものを、僕が認めていたら、父の仕事も疑われかねません」

医者「じゃあアナタは保身のために、彼女を追い出し、彼女の家を焼いたんですね。
素晴らしい」

町長の息子「保身のためというのも否定はできません……。
しかし、納得出来ていないというのも事実です。
彼女は魔物ではなかったのではないでしょうか」

勇者「今更遅すぎんだろ。
アンタやこの町のやつらがどう思おうと、アイツは追い出されてんのが事実だ。
アイツの家も研究の成果も残ってねぇのが、事実ってやつなんだよ」

医者「彼の言う通りです。
アナタは口先だけの正義の味方が、お気に入りなようですね」

町長の息子「……そう言われても無理はありませんね。
実際、私にはなにも出来ませんから。
しかし、研究の論文だけは守れましたよ」

勇者「守れた?燃えてないってことか?」

町長の息子「ええ、彼女の人生を懸けた研究を、燃やしてしまうわけにはいきませんから。
魔物の考えを知るためとか、適当な名目で運び出しておきました」

医者「そんなことを言っても、大人の決断をした本当は優しい人だなんて評価はしませんよ。
ただの卑怯者じゃないですか。どっちの味方もするコウモリの話を知ってますか?」

勇者「先生、何を苛立ってるんですか。
こいつだって、こいつなりに頑張ったんでしょう。
しがらみって奴が邪魔してるだけじゃないですか?」

医者「君こそなぜ庇うのか分からないな。
君もいつもなら怒るだろう?」

勇者「いやだって、アイツの欲しがってた研究の論文はあるわけですから。
どうせ家は持っていけないし、論文だけでも残ってて良かったとおもってるだけですよ」

医者「確かにそれはそうだけどさ……」

町長の息子「いえ、本当におっしゃる通りだと思います。
僕は彼女の研究しか守れなかった。
だから、せめて論文だけでも届けてあげて下さい」

勇者「そりゃもちろん、くれんなら渡すよ」

町長の息子「じゃあ、今とってきますから、少し待ってて下さい」

スタスタ

医者「……」

勇者「全く、何が気に食わないんですか。
確かに卑怯ですけど、役に立ってんだからいいと思いますよ」

医者「……ああいうタイプは苦手でね。裏が見えすぎなんだよ」

勇者「裏ってなんなんですか。別に裏なんて」

スタスタ

町長の息子「紙袋に入れてみましたが、どうでしょうか?」

勇者「うお、こんなにあんのか。紙袋は助かるぜ」

町長の息子「そうですか、良かった。
これで少しでも彼女の助けになれるといいんですが」

医者「……」

町長の息子「ああ、そうだ。
もしご迷惑でなければ、お願いがあるのですが」

勇者「なんだよ?」

町長の息子「アナタ方は、この町の住民ではないですよね?」

勇者「まぁな」

町長の息子「実は、私の父は病気で寝込んでいるんです。
他の土地の話を聞かせてくれませんか?
きっと喜びますから」

勇者「俺は少しなら構わねぇが……先生はどう思います?」

医者「……別に好きにしたらいいさ」

勇者「……じゃあ、町長の所へ案内してくれよ」

町長の息子「ありがとうございます。こっちです」

スタスタ

ガチャ

町長の息子「親父、お客さんが来たよ」

勇者「……!!」

医者「チッ……」

町長の息子「ほら、お客さんだよ。分かるよな?」

町長「……」

町長の息子「遠くの街から来た旅人さんだ。見えてるだろ?」

町長「……」

勇者「な、なぁ……」

町長の息子「では、話しかけて貰えますか?」

勇者「い……いや……なんて話しかければ良いんだよ……」

町長の息子「なんでも良いです。お客さんが来たってだけで、嬉しいと思いますから。
この町までの旅のお話でも良いんじゃないでしょうか」

勇者「う、うん……」

町長「……」

勇者「あ……あの……えっと……」

町長「……」

勇者「えっと……あ、虹色のアンモナイト見ます?
アンモナイトがなんだかは分からないけど……」スッ

キラキラ

町長「……」

勇者「……あのぅ……見えてますか……?」

町長「……」

勇者「あ、光にかざした方がもっと」

医者「……もういい。やめるんだ」

勇者「え?」

医者「こんなお芝居に付き合ってやる必要はない」

町長の息子「……お芝居ってどういうことですか」

医者「町長さん、認知症だろ」

勇者「認知症……?」

町長の息子「だからなんだって言うんですか……親父が話を理解してないとでも言いたいんですか!」

医者「俺はそんなこと一言も言ってない。
そうやって自覚があるからこんなことしてんだろ?」

町長の息子「なんですか自覚って……!そんなもんありませんよ!親父を馬鹿にしないで下さい!」

医者「馬鹿にする?俺は何も言ってないんだぞ。
何を勝手に想像してるんだ」

町長の息子「違います!アナタの考えてることなんて分かってるんですよ!
はっきり言ったら良いじゃないですか!」

医者「アンタの親父さんは、俺たちやアンタの事すら理解してないだろ?」

町長の息子「な……!」

医者「俺の親父も、お袋が倒れたとき、アンタと同じ事をしたよ。
無意味に話しかけ続けて、反応することを強要し、頭をやたらと撫でるんだ。
聞いただけじゃ、どれだけ不快な状況か分からないだろうな」

町長の息子「意味が分かりませんよ。悪く受け取りすぎじゃないですか?」

医者「俺の親父とお袋の仲は最悪だった。ずっと別居してた。
親父は不倫相手と堂々と暮らしてた。
でもな、お袋が倒れたら、ベタベタとまとわりつくようになった。
どうしてだか分かるか?自分が悪者になりたくないからだよ」

町長の息子「そんなの、アナタの家の事情でしょう!知りませんよ!」

医者「なら聞くが、アンタが親父さんの世話をしてるんだよな?」

町長の息子「そうですけど……なんか悪いんですか」

医者「親父さんに怒鳴りたくなったことあるか?」

町長の息子「は?」

医者「もう会話できないことを、悲しいと思うか?」

町長の息子「……怒鳴りたくも、悲しいと思ったこともありませんよ。
なんですか怒鳴るって。ありえないでしょう」

医者「悲しいとはなんで思わないんだ」

町長の息子「そりゃ、悲しいなんておかしいでしょ。
生きてる人間に対して、悲しいなんて間違ってる。
僕は親父と会話は出来なくなっても、理解はしてると思ってますから」

医者「ははは、ヘドが出るね」

町長の息子「……ッ!」

町長の息子「アンタ一体なんなんですか!ふざけるのもいい加減にして下さい!
こっちは真剣に答えてるんですよ!?」

医者「真剣に?これ以上笑わせんなよ。
あのな、正義を振りかざせばどうにかなるってもんじゃないんだぞ」

町長の息子「だから、何が言いたいんですかっ!」

医者「アンタの頭の中にあるのは、「頑張ってる自分」だけだ。
こんな上っ面だけの関係でいるってことは、親父さんとの仲も良くなかったんだろう」

町長の息子「……アナタに何が分かるって言うんですか!」

医者「分かるよ。アンタは病人を放置した罪悪感を抱きたくない。世間から後ろ指を指されたくない。
それに弱者を利用して、良い人になろうとすらしているんだろうな」

町長の息子「ち……違う!僕は……」

医者「布団の上の新聞紙、やってる本人は気づかないもんだよな。町長さんの上に置いて読んだんだろ?
ここまでなんとも思ってないのは、町長さんとの年の差のせいかな」

町長の息子「……適当なことばかり言わないで下さい!なんなんですか!」

医者「へぇ、ここまで言われてもまだ敬語なんだな。そんなに体面が大事か」

町長の息子「これは……別にやめても良いですけど、私は大人として会話したいだけです」

医者「本当に大人なら、声を荒げたりしないよ。
しかし、荒げてるにも関わらず、敬語を操れるんだから大したもんだ」

町長の息子「アナタは何を言いたいんですか?
話をそらしてばかりで、まるでお話にならない」

医者「じゃあ、一番大事な質問をしよう。
親父さんは、アンタのしていることを喜んでいると思うか?」

町長の息子「……!!」

医者「無理矢理、面白いかどうかも分からない話を聞かされて、嬉しいか?
返事もできないのに、「お客さんだよ、分かるよな」「見えてるだろ」なんて言われて、嬉しいと思うのか」

町長の息子「………………そりゃ、親父だって本当は嫌だろうけど!治療には必要なんですよ!
なにかしら話しかけなきゃいけないんだ!」

医者「大事だから嫌がることをしてもいいのか。アンタは凄いな」

町長の息子「仕方ないでしょう!本当は俺だって嫌ですよ!
やらないですむならやりたくなんかない!でも仕方ないじゃないですか!」

医者「じゃあ、アンタにとってだけは大事な事を言ってやる。
アンタのしていることは、端で見てても不愉快だ。
アンタを介護を頑張る善人だと思うのは、アンタとほとんど関わりのない奴だけだ。
彼女だって、アンタの事をよくは思ってないよ」

町長の息子「な……な……何を根拠に……」

医者「なら聞いてきてあげようか?
アンタの事を「大人な正義の味方」だと思ってるかどうか」

町長の息子「ぼ、僕は、そんなことは望んでないんだ!
彼女に評価されるためにやってる訳じゃない!」

医者「じゃあ、どう思われてても良いわけだ。
聞いてきて、結果を教えてやるよ」

町長の息子「やめろ!そんなこと頼んでないぞ!」

医者「じゃあ聞きに行こうか、ね?」

勇者「……あ、はい……」

スタスタ

町長の息子「やめろ!余計なことはするな!」

ギィ バタンッ

町長の息子「アンタ一体なんなんですか!ふざけるのもいい加減にして下さい!
こっちは真剣に答えてるんですよ!?」

医者「真剣に?これ以上笑わせんなよ。
あのな、正義を振りかざせばどうにかなるってもんじゃないんだぞ」

町長の息子「だから、何が言いたいんですかっ!」

医者「アンタの頭の中にあるのは、「頑張ってる自分」だけだ。
こんな上っ面だけの関係でいるってことは、親父さんとの仲も良くなかったんだろう」

町長の息子「……アナタに何が分かるって言うんですか!」

医者「分かるよ。アンタは病人を放置した罪悪感を抱きたくない。世間から後ろ指を指されたくない。
それに弱者を利用して、良い人になろうとすらしているんだろうな」

町長の息子「ち……違う!僕は……」

失敗した!すいません……

勇者「……」

医者「……」

勇者「……あの」

医者「ん?どうしたの?」

勇者「彼女ってあの学者のヤローですよね……。
本当に聞くんですか?その……アイツの事どう思ってるか……」

医者「うーん……やっぱり、やめようかな」

勇者「俺は、なんだかやめた方が良いように思います」

医者「そうだよね……。
巻き込むべきじゃないのは分かってるんだけど、イライラしちゃって」

勇者「イライラってレベルじゃないでしょう……俺、ビックリしすぎて、なに話してたか覚えてませんよ」

医者「うん……実は、俺も何喋ったか覚えてないんだ……」

ガラガラガラ

医者「……今すれ違った白黒の馬車、あの家の方に向かってったね」

勇者「ああ……そうみたいですね」

「はぁ!?逮捕ってどういうことですか!」

ピタッ

医者「まさか……」

勇者「どうしました?」

医者「……今の声は町長の息子の声だっただろう?」

勇者「ええ、何か叫んでましたね」

医者「逮捕っていうのは警察に捕まることなんだ。
警察は治安を守るために国が組織した公共のしくみでね、罪を犯した人が捕まるんだよ」

勇者「罪を?」

医者「ああ。だけど、見つかると君も捕まるかもしれない」

勇者「え!?どうしてですか?」

医者「警察と魔物は仲間かもしれないんだ。もっと言えば、国と魔物はグルかもしれない。
魔物の村を軍も警察も取り締まらないことから、そんな話があるんだ」

勇者「じゃあ俺は、魔物からだけじゃなく、人間からも追われてるかもしれないんですか?」

医者「その可能性も無いとは言えないよ」

勇者「マジかよ……じゃ、じゃあ、アイツもヤバイじゃないですか!」

医者「アイツっていうのは誰の事?」

勇者「町長んとこの奴ですよ!
そんなのに捕まったら、なにされるか分からないじゃないですか!」

タタタッ

医者「おい、待つんだ!
行ったら君も危ないんだってば!」

タタタッ

ここで切ります。
失敗ばっかりすいません。読んでくれてる方、ありがとうございます!

休みが続くので、もうちょっと載せようと思います。
よろしくお願いします。

町民4「あ、ちょっと近づいちゃダメよ」

勇者「言われなくても、正面から突っ込んだりしねぇっつーの。さて、どうしたもんか……」

町民4「まぁ、物騒なこと言うわね」

町民5「やめときなさいよ。アンタも捕まっちゃうわよ」

勇者「だからって、アイツが捕まってもいいのかよ?
警察なんて、なにするか分からないだろ」

町民4「何を言ってんの。警察のお陰で、私たちは安全に暮らしていられるんじゃない」

町民5「ちょっと知識がついたからって、悪い面ばかり見ちゃダメよ。
それに何かされるとしても、それだけの事をあの人はしたのよ」

タタタッ

医者「ああ、君は本当に速いな……。やっと追い付いたよ」

町民4「アナタ、この子のお父さん?ちゃんとついてなきゃ。
この子、あの家に入ろうとしてたわよ」

勇者「この人は親じゃねぇよ。先生だ」

町民5「先生でもなんでもいいわ。子供の面倒を見るのが、大人の責任よ」

医者「はい……すみませんでした」

勇者「まーた、なに謝ってんですか……」

勇者「そんなことより、何かされるだけの事をしたって言ったよな?
アイツはなにをしたんだよ?」

町民4「何をって……そりゃあ、勝手に家を燃やしたり、魔物についての論文だっけ?
それも運び出してたしね」

勇者「家燃やしたのはアイツ一人なのかよ?
アンタらも一緒になって燃やしたのかと思ったけどな」

町民5「でも、あの人が指揮したのよ。
魔物の家なんてあっても害になるだけだって。
そのくせ論文だけは運び出すなんておかしいでしょう?」

勇者「だって、燃やしたのはアンタらが望んだから仕方なくって……論文だけは守りたかったって言ってたぞ」

町民4「ほら、守りたかったなんて、魔物の研究なんかを大事に思ってたんでしょう?
どうかしてるじゃない」

医者「あの……そもそも燃やされた家の人は、本当に魔物だったんですか?」

町民4「そりゃあねぇ……あの人は何かおかしかったのよね。
喋り方も変だし、服装にも気を使って無かったし。
一応学者だったみたいだけど、研究してたのだって魔物の事だったんだから」

町民5「そもそも学者扱いだって、ちょっとおかしいと思ってたのよ。
そうしたら、親が魔物だって言うじゃない?
魔物の力を使ったのかしらね」

医者「……学者だというなら、彼女のスポンサーもいたのではないでしょうか。
支持していた人達にも問題があるのでは?」

町民4「問題はあるでしょうよ。
だって、多分スポンサーは魔物の擁護団体だったんだから。
でも、他の支持者っていうのは、魔物の力で脅してただけみたいよ」

医者「脅していた?」

町民5「近くの学校の教授もね、その被害者なのよ。
魔物の研究なんてしてるあの人を、ずっと庇ってたの。
教え子だからだろうとみんな思ってたけど、本当は脅されてただけだったんだって。
味方をしないと、魔物の力で教授の奥さんや子供を襲うって」

町民4「本当だったら怖いじゃない?
だからみんなで本当か聞こうとしたら、逃げられちゃったのよ」

勇者「へー、だから家も燃やしたのか。
本当に魔物かどうかも、どうせ確認してねぇんだろ?」

町民4「でも、証言があるんだから。
関わってる団体も怪しいし、研究の内容も怪しいんだもの。
それに、聞こうとしただけで逃げちゃったのよ?」

医者「聞こうとしただけね……私は、なぜアナタ達が、彼女の研究内容を知っていたのかが気になりますね。
それに、町長の息子さんを通報したのはどちらなのでしょうか」

町民5「……どちらなんて失礼しちゃうわ。
アナタ達も団体の連中なんでしょう。
魔物を庇うようなことばかり言っちゃって」

医者「そうやって、アナタ達は魔物に関することは団体だ、脅されていたんだと切り捨て、真偽も確認しないで来たんでしょうね。
彼女の親が魔物だってことも、どうやって知ったんです?
何が本当かなんて分からないのに」

町民4「……教授が言ってたのよ。親が魔物だって、自分で言ってたんだって。
団体の事だって研究内容だって、分かる人には分かるでしょう?
その分かる人から聞いただけよ」

町民5「ねぇ、もうやめましょう。
いくら話したって時間の無駄だわ」

町民4「それもそうね……。さようなら」

スタスタ

勇者「……なんかモヤモヤしますね。
アイツは悪者なんでしょうか?」

医者「悪か善かより、悪だと思い込まれているのが問題なんだ。
あの人達が自分達を、善人だと思い込んでいるのもね……」

ガチャ

勇者「あ、誰か出てきましたよ」

医者「ちょっと隠れようか」

勇者「はい」

スタスタ

町長の息子「僕はなにもしてないぞ!町の人はみんな分かってるはずだ!」

警察官「とにかく署の方に来て下さい。まずは、お話を聞かせて頂くだけですから」

町長の息子「離せ!僕はみんなのためにやったんだ!
論文だって、町の安全を守るために保管してただけなんだ!」

勇者「まずいな。アイツ、馬車に乗せられちまう」

医者「……助けに行くの?」

勇者「……止めても行きますよ」

医者「いや……俺も手伝うよ」

勇者「先生……!」

医者「まずは俺が注意をそらすから。
君は隙を見て……えっと、気絶かなんかさせてくれ」

勇者「はい!」

スタスタ・・ズテッ

医者「イテテ……ああ!」

警察官「どうされました?」

医者「カバンが馬車の下に飛んでいってしまって……。
ちょっと取らせて頂けませんか?」

警察官「ええ、手伝えなくて申し訳ありませんが。
ご自由にどうぞ」

医者「ありがとうござい」

勇者「……」シュタッ

ドスッ

警察官「ぐっ……」バタッ

勇者「よし」

御者「なん……っ」バタッ

勇者「よし、これでオッケーだな」

医者「あちゃー……本当にごめんなさい!」

町長の息子「なんなんだよ……アンタらなにしてんだ!」

勇者「なにしてんだって、助けに来たんだよ」

町長の息子「助けに来た……?こんなの、助けになってないだろ!
どうして気絶させちまったんだよ……」

勇者「いや、だってアンタが捕まっちまうから……」

町長の息子「警察に武力で反抗するなんて、自殺行為だろ!
今この場で逃げ出せても、追われ続けるだけじゃないか!余計なことしやがって!」

勇者「な、ならよ、なんで素直に馬車に乗らなかったんだよ?」

町長の息子「そんなの、俺が悪人だと思われないためのアピールに決まってんじゃないか!
突然警察に連れてかれたら疑われるだろ!」

勇者「でも……」

医者「ああ、もう。ゴチャゴチャとうるさいな」

町長の息子「なんだよ……俺は悪いことは何もしてないんだぞ!?
みんなが望むことをしただけだ!
町長の息子として、この町の人の助けに」

医者「現実を見ろ。アンタはこのままだと捕まるんだ。
こんな偽善と権力にへりくだる町で、無実が証明できると思うのか?
実際アンタは放火犯なんだぞ」

町長の息子「……だからって、どうすりゃ良いんだよ!
僕は……僕は……良い人になりたかっただけなのに……!
優しくて頼りがいがあるような、そんな人になりたかっただけなんだ!」

医者「違うな。アンタは良い人になりたかったんじゃない。
良い人だと思われたかっただけだ」

町長の息子「……それの、なんの違いがあるってんだ!」

医者「全然違うね。
なによりも、良い人は家を燃やしたりはしないだろう。
だから、町の人の支持も得られず通報されてる訳だ」

町長の息子「うるさい……アンタには関係ないだろ……!
どうせ俺は捕まるんだ!もうほっといてくれよ!」

医者「嫌だね。
正直言って、アンタがどうなろうと、そんなことはどうでも良い」

勇者「ちょっと、先生!?」

医者「でもな、アンタを通報したようなやつらの思い通りになるのは不愉快だ。
だから、アンタは逃がしてやる」

町長の息子「逃げ場なんてどこにあんだよ……!」

医者「俺も住んでいたトクシュクという村がある。警察もなんにもない。
その代わり、住んでいるのは過去なんか気にしない人達だ。
アンタも、アンタの親父さんも気兼ねなく住めるだろう」

町長の息子「……」

勇者「あの、町長さんは移動させられるんでしょうか……?
それにそのあとの介護だって、大変じゃないでしょうか……」

医者「移動は、この馬車を使って逃げてしまえば良いだろうと思う。
白黒じゃなく塗り直すのは、君の魔法に頼っても良いかな?」

勇者「え、ええ……それは構いませんが」

医者「それと介護についてだけど、俺が麻酔薬を持っているように、医療や介護系の物品は商人が仕入れてくれるんだ。
加えて村の人の手伝いもあるだろうし、あまり心配はいらないとおもうよ」

勇者「うーん……大丈夫なら良いんですが。
とりあえず、馬車の色変えますね」

町長の息子「……待てよ。僕は行くなんて言ってないぞ」

医者「じゃあ、大人しく捕まるのか?
親父さんだってどうなるか分からないのに」

町長の息子「どうせ親父と仲が良かった訳でもない。
俺は頑張ってる自分に酔っていたかっただけだ。
それに、いつ捕まるか分からない恐怖に怯えて過ごすのはごめんだ」

医者「なぁ、もう一度聞くぞ。
アンタは町の奴らのせいで捕まってもいいのか?
本当に親父さんを見捨てて、後悔しないのか?」

町長の息子「ああ、そうだよ!逃げるのは面倒だし、親父との仲だって、今更何をしようが修復できねぇ!
修復したいとも思わねぇよ!」

医者「少しは本音で喋ったらどうだ。
修復したいと思わない?そんなわけないだろ。
親と仲良くしたくない子供なんて、本当はいないんだよ」

町長の息子「はっ、何を決めつけてんだか……アンタがそうなだけだろ」

医者「……いいや、人が持つ基本的な欲求の高次なものは、人に認められることなんだよ。
それは誰からでも、心の底から認められたいという欲求なんだ。
そこに親だけ入っていない訳がない」

町長の息子「訳の分からない事をべらべらと……!
基本的な欲求ってなんだよ!
本能に、人に認められたいなんてのもあんのかよ!」

勇者「なぁ、俺も先生の話はよく分からねぇが、アンタに聞きてぇことがあんだ。
もしアンタが捕まったとして、アンタを助けてくれる奴はいるのか?」

町長の息子「……!」

勇者「いねぇならさ、やめとけよ。
アンタ今逃げなきゃ必ず後悔すんぞ。
捕まんのって……本当に辛ぇから」

町長の息子「……」

勇者「アンタは町の人のためにやっただけなんだろ?
悪いことはなにもしてないって、自分で言ってたじゃねぇか。
なのに捕まるなんて、絶対後悔すると思うんだ。
町長さんの事も……多分、後悔するぞ」

町長の息子「……逃げた先にも何もねぇだろ。
むしろ、後悔しかねぇんじゃねぇのか」

勇者「アンタが今より素直になって、相手に喜ばれることをすれば、人との関わりの中で幸せは見つかると思う。
喜ばれることをするって、自分も相手も幸せになるからな。
俺も最近、そう思えるようになったんだ」

町長の息子「僕は喜ばれることは、この町でだってしてたはずだ。
みんなが望んでいることを、代表してやってたんだからな」

勇者「望んでいることと、喜ぶことっていうのは違うだろ。
アンタも捕まることを望んでても、それが嬉しいわけはないんだからさ」

町長の息子「……」

勇者「馬車の色は変えたぜ。この二人も、俺が眠らせといてやるから。
……どうすんだ?」

町長の息子「…………」



ーーー

医者「しかし、君があんなに優しいとは思わなかったよ。俺に対しては冷たいのに」

勇者「先生が無駄にアイツに辛くあたるから、俺がフォローしてやったんじゃないですか。
先生こそ、あんなに辛辣な人だとは思いませんでしたよ。
もしかしてあの日ってやつですか」

医者「……君の知識の偏りも腹立たしいね。
あの日ってどういうことか分かってるの?」

勇者「血がダラダラ。頭ムカムカ」

医者「あーあ、もう勘弁してくれよ。
俺は子供を叩いたりはしたくないんだ」

勇者「先生に叩かれるのなんて、蚊とかハエぐらいでしょ。
俺を叩こうなんて100万年早いですよ」

医者「万年って……長すぎるよ!」

勇者「いーえ、これでも短く言った方ですよ」

医者「いくらなんでも、俺の扱い酷すぎじゃないか。
……怒ってるの?」

勇者「別に?
先生のせいで面倒に巻き込まれたなんて、思ってませんよ」

医者「……ごめん」

勇者「いーですよ、本当に気にしてませんから。
とりあえず、アイツも逃げられた訳だし」

医者「でも、よく思い出すと、なんで警察が来たのか確認してなかったよ……。
どうしよう、凶悪な犯罪者を村に送っちゃったかも!」

勇者「大丈夫ですよ。アイツは悪じゃありません。
……アイツは何かを怖がってただけです」

医者「なにそれ。君のカン?」

勇者「いえね、俺ってなぜか、昔から良いやつか悪いやつかは分かるんですよ。
まぁ、アイツはどっちでも無かったっぽいですけど」

医者「ふーん……そう。
じゃあ、俺はどっちなの?」

勇者「えっ?」

医者「良いやつか悪いやつか分かるんだろ?」

勇者「えっ……いや、例外もいるんですよ。
得体の知れない人も、世の中にはいるんですよねー」

医者「そうやって馬鹿にして。答えてもくれないなんて酷いよ」

勇者「じゃあ、先生は極悪人ってことで」

医者「……君ってやつは」

勇者「あはは。あ、自転車が見えてきましたよ」

医者「ああ、彼女もいるね」

勇者「アイツには色々と聞かなきゃな……おい!」

歴史学者「おお、遅かったな。何をしてたんだ全く」

勇者「食事だよ。羨ましいか」

歴史学者「しょしょ食事だと!?私が煮干ししか食べてないの知ってるだろ!
なんて残酷な人たちなんだ!」

医者「いや、ただの冗談だから。
俺たちもなにも食べてないよ」

歴史学者「……本当ですか?嘘だったら許しませんよ!」

医者「い、いや、本当だって!」

勇者「嘘ついたら許さねぇのは俺らの方だ。
お前には正直に話してもらうぞ」

歴史学者「なんのことだ?
……まさか、煮干しを猫に分けた事を知って……!」

勇者「ちげーよ、ボケ。
そんなことより、お前にはちゃんと答えてもらうぜ……自転車の上でな!」

歴史学者「……自転車?」

シャーッ

歴史学者「なんで君達が警察に追われてるんだ!バカか!」

勇者「うるせー!俺たちにも色々あんだよ!
それにテメェのせいでもあんだぞ!」

歴史学者「私のせいだと!?私は論文をとってきて欲しいと言っただけだ!」

勇者「そのせいで色々と厄介事に巻き込まれたんだよ!ちったぁ反省しやがれ!」

歴史学者「私はそんなこと知らないぞ!厄介事って一体なんだ!」

勇者「それは…………」

医者「……君の話を町の人から聞いたんだ。教授を脅してたって話もね」

歴史学者「脅してた……ははっ、あのタヌキおやじめ」

勇者「なぁ……本当に脅してたのかよ」

歴史学者「バカ言うな。むしろ脅されたのは私の方だ。
私を教授の思い通りにさせなければ、私の親が魔物だとバラすってな」

勇者「なっ……!ホントかよ?」

歴史学者「……最初はな、声をかけてくれただけだった。
大丈夫か、困ったことがあったら何でも言ってくれってな。
私はそれだけで嬉しくて、私なんかを評価してくれる人がいるんだと、バカみたいに舞い上がったよ」

医者「……」

歴史学者「何回か食事にも誘われてな。
今まで誰かに誘われたことなんて無かったから、とにかく嬉しくて。
教授の長話も苦じゃなかった。
しかし……教授と二人っきりになったとき、糖尿病の話になったんだ」

勇者「糖尿病?」

歴史学者「教授は糖尿病の患者だったんだよ。でも、問題はそこじゃない。
教授は私の足を触りながら説明したんだ。
「病気が進行すると、足を切り落とさなきゃいけない。膝か太ももか……足の付け根でね」ってな」

勇者「…………」

歴史学者「私はとにかく困ったよ。それに辛くて仕方なかった。
教授のことは、私の母の話をするぐらい信頼していたから、良い人だと思っていたかったんだ」

勇者「……なんでそんなことに。急にかよ」

歴史学者「いや、前兆はあったよ。
糖尿病だからたたないとか、エイズは乱交のせいで広がるとか……そんな話が増えてきたなー、ってな」

勇者「たたないってなんの事だよ?」

医者「まぁ、それは置いといて。
……君が辛くなる必要はないと思うよ。完璧に相手が悪いからね」

歴史学者「でもきっと、最初からそんなつもりだったんじゃ無かったんじゃないかと思うんですよね。
だったら、誘いを断ってれば良かったのかなーとか……。
いや、今は自分が悪かったなんて思ってませんよ。
きっと、みんなそんなもんですから」

医者「……」

勇者「……」

医者「……魔物の擁護団体とは関わりがあったの?」

歴史学者「あー……それは聞かれると痛いですね。
まぁ、関わりはありました」

医者「あまり団体の良い噂は聞かないんだけど……実際は違ってたのかな?」

歴史学者「いえ、表立ってはいませんけど、テロとかやってたみたいです。
私もよくは分かりませんが」

勇者「そんな奴らと付き合ってたのかよ!
お前、本当は悪人なのか?」

歴史学者「さぁな。ただ、あの団体は金払いが良かったんだ。
研究を続けるには調査費用なんかもかかるし、なにより普段の生活費も稼がなきゃならないからな。
でも、研究内容はあまり明かしてないぞ。
それらしいことを適当に言って、ごまかしていたんだ」

勇者「けど、そんなのって……」

歴史学者「私は過ぎたことは振り返らない主義なんだ。
それより今の状況の方が不可解だな。
なぜ、私が自転車をこいでるんだ?」

勇者「自転車貸してやってんのに、なんか文句あんのか」

歴史学者「大アリだ。どうして私じゃなくて、先生が君の後ろに乗ってるんだ」

医者「え?あはは……」

勇者「先生は筋肉痛で死にそうなんだよ。仕方ねぇだろ」

歴史学者「それにしたって、君の怪我は重傷な上に麻酔を打ってただろ。
ちゃんと動くのか?」

勇者「当たり前だろ。傷だってとっくに治ってるよ」

歴史学者「なんだと?」

医者「彼は傷の治りが早くてね。本当にもう傷跡もないんだ」

歴史学者「……全く、君は光ったり異常なスピードで傷が治ったり、一体何者なんだ?」

勇者「……俺は勇者だっつっただろ。なんてったって光れるからな」

医者「……」

歴史学者「本当にバカな判断基準だな。
まぁ、面白いから許してやる」

勇者「だから、テメェは何様なんだよ!」

医者「わっ、ちょっと!揺れるから暴れないで!痛いっ」

ガタガタガタ

一旦切ります。
乙って入ってるだけでも、凄く嬉しいです。ありがとうございます!

再開します。
レスありがとうございます。

医者「うわー、もう暗くなってきたね」

歴史学者「あの、もしかして宿には泊まらないんですか?」

医者「いや、宿屋があれば泊まろうと思ってるけど……なかなか無いね」

歴史学者「ラブホならありましたけどね」

勇者「ラブホってなんだよ?」

歴史学者「んー、秘密」

勇者「んだと、このボケナス!」

歴史学者「ボケナスよりオタンコナスの方が好きだな。
おたんこナースという作品が、私は好きで」

勇者「知るかよボケナス」

歴史学者「嫌なやつだな。君の方がよっぽどボケナスだ」

勇者「なんだと!」

医者「ケンカしないでって!あ、宿の看板があるよ」

勇者「どこっすか?」

医者「ほら、右の方」

勇者「あ、ホントだ。じゃあ、止まりますよ」

キキッ

歴史学者「なんだか飾りっ気のない宿ですね。
もっと立派な所がいいなっ」

医者「ここを見つけるだけでも苦労したんだから。探してたら朝になっちゃうよ」

勇者「苦労したのは俺ですけどね」

医者「あはは……ごめん……」

歴史学者「嫌味言うくらいなら、先生は置いてくれば良かったじゃないか」

勇者「な、なんでそうなんだよ。
疲れたのは俺なんだから、言ったっていーだろ。
そんなことより早く入ろうぜ」

医者「そうだね。俺は別に気にしてないからさ」

歴史学者「そうですか?なら良いですけど……」

スタスタ ガチャッ

店主の娘「いらっしゃーい」

医者「……!」ビクッ

勇者「あれ、どうしました?」

医者「いや……あ、あの、宿泊したいのですが、へ、部屋は空いてますか?」

店主の娘「まぁね。いっつも空いてるよ。ほら、鍵」ポイッ

勇者「うわっ!投げんなよ!」

店主の娘「階段上がって右ね。じゃあ、ごゆっくり」

バサッ

勇者「んだよアイツ……まだ俺達いんのに、雑誌読みやがって」

医者「ま、まぁ、別に良いじゃない。
泊まるところは見つかった訳だし」

歴史学者「うん、私もギャートルズの肉があれば」

勇者「しつけーよボケ」

医者「そういえば、ご飯はどうなるんだろう。
あの、すみません」

店主の娘「なんすか?」

医者「あ、あの、ご飯って出して頂けますか?」

店主の娘「ああ、出すよ」

医者「そ、そうですか、ありがとうございます」

歴史学者「なるはやで頼む」

店主の娘「オッケー」バサッ

勇者「……本当に分かってんのか?」

医者「しー!いいから早く部屋に行こう」

歴史学者「ああ、お腹減った……」フラフラ

ギィ バタンッ

医者「ふー、やっと落ち着けるね」

勇者「緊張し過ぎですよ。受付が一応、女だったからですか?」

医者「いやさぁー、やっぱり怖くて……」

歴史学者「15~6の女の子でも怖いって、重症ですね。
ま、何はともあれ疲れたよ。こんなに自転車をこいだのは久しぶりだ」

勇者「ここってもう、コウヤダイ市なんですか?」

医者「そうだよ。さっき境目を通ったんだけど、気づかなかったかな」

勇者「全然気づきませんでした」

歴史学者「良いことを教えてやろう。
暗くて分からないだろうが、なんとこの街は海に面しているんだ」

勇者「えっ、海!?スゲー!
俺、海に来んの初めてだ!」

歴史学者「うん、良いリアクションだな。
しかし、君達には海よりも、何か目的があるんじゃないか?」

勇者「うーん、目的って言ってもな。
なにしたら良いんだっけ?」

歴史学者「農場で、魔物が働いてるという噂が本当か、確認するんじゃないのか?
……まぁ、そのあとはどうするのか知らないが」

勇者「……どうしたら良いんでしょうね」

医者「そうだね……」

歴史学者「……そもそも君達は、なぜ魔物を追っているんだ?」

勇者「それは……そりゃあ、俺は村を襲われたからだよ」

歴史学者「じゃあ、襲った魔物を探しているのか?」

勇者「いや……俺の村を襲った奴らは国が退治したらしいからな。
そうなんだろ?」

歴史学者「確かに、トウガサキ村を襲った魔物の村は、壊滅したらしいな」

勇者「だから、せめて俺の力で、全ての魔物をぶっ倒してやろうと思ったんだ」

歴史学者「ぶっ倒すか……ぶっ殺すではないんだな」

勇者「……うるせぇよ」

歴史学者「ふむ、まぁ大体分かった。では、先生の目的を聞かせて頂けますか?」

勇者「おい……!」

歴史学者「ぜひ聞いておきたいので、お願いします」

勇者「先生、こんなの無視して良いですからね。こんなやつのために無理することは」

医者「いや、大丈夫だ。
……単純に敵討ちだよ。魔物が俺に化けて、俺の大事な人を殺したんだ」

勇者「……」

歴史学者「……しかし、奥さんと娘さんがいらっしゃるんですよね。
二人は仇討ちの旅を許してくれたのですか?」

医者「う、うーん……多分……?
あれ……どうだったっけ……」

勇者「……答えたくないと忘れたフリするの、やめた方がいいっすよ。
嫌なら嫌って、言ってくれれば良いんですから」

医者「そうじゃないんだ……そうじゃない…………?」

勇者「……先生?」

コンコン ガチャ

店主の娘「ご飯おっとどけー!」

勇者「お、おい!勝手に開け」

歴史学者「よっし!ご飯ゲットだぜ!」グッ

店主の娘「ここ置いてくよ」ガチャ

ギィ バタンッ

歴史学者「これは……」

勇者「なんでしょう、これ」

医者「……ねこまんま?」

勇者「ねこまんまってなんですか?」

医者「これの名前だよ。
まんまはご飯って意味だから、猫のご飯って意味もあるんだけど、本当に猫に米あげるとお腹壊すんだよね」

勇者「ふーん……え!猫の飯!?」

医者「そうだね」

勇者「なんだよそれ……あのヤロー、ふざけやがって!」

歴史学者「まぁ、怒るな。結構うまいぞ」モグモグ

勇者「食ってんじゃねーよ!バカにされてんだ!文句言いに行くぞ!」

医者「まぁまぁ、これそこそこ美味しいよ」モグモグ

勇者「だからなんで食ってんですか!」

歴史学者「君こそ、なぜ食べないんだ?いらないなら私が貰うぞ」

勇者「……勝手にしろ!」

ギィッ バタンッ!

医者「あー、出ていっちゃった」

歴史学者「ついていかなくても良いんですか?」

医者「彼なら特に問題はないと思うけど」

歴史学者「いやいや、だって先生、私と二人っきりになっちゃうんですよ?」

医者「……」

歴史学者「……」

医者「……」

歴史学者「……」

医者「……やっぱり追いかけていい?」

歴史学者「ええ、じゃあ行きましょうか」

ギィ バタンッ

勇者「くっそー!全員グルになって、俺をからかってんのか?」

スタスタ

勇者「おい!……あれ?いねぇな」

ガラーン

勇者「……こうなったら、意地でも見つけてやる」

ガチャ バタンッ
ガチャ バタンッ

勇者「いねぇな……ん?あのドアは……」

ガチャ

勇者「あ!居やがったな!」

店主の娘「なんか用?」

勇者「なんか用、じゃねぇよ!なんで猫の飯なんか……」

店主「あの、どうされました?」

勇者「ん?誰だよオッサン」

店主の娘「私の父親。ここの店主」

勇者「ふーん……そんなことより、あれ猫のエサなんだろ!」

店主の娘「猫のエサ?……ああ、ねこまんまの事」

店主「お前……またあんなものをお出ししたのか!」

店主の娘「他にどうしろってゆーの。材料も、食器すらないのにどうしようもないっしょ?」

店主「だからって、お客様にねこまんまはないだろう!」

勇者「そうだそうだ!」

店主の娘「……はぁ。なら、次からは白米オンリーね。おかずはセルフで」

勇者「なんだと!ふざけん……あれ?」

スタスタ

医者「ああ、こんなところに居たの」

勇者「どうしたんです?」

歴史学者「どうしたんです、じゃないだろ。
まさか、文句つけにいってるとは思わなかったぞ」

勇者「別にお前には関係ねぇだろ」

医者「全く、君は……本当にすみません」

店主の娘「まぁ、ちゃっちゃと部屋に戻ってくれんならいいよ」

勇者「なんだとこの」

パシンッ!

店主の娘「ッ……!」

勇者「え?」

歴史学者「……!!」

医者「ちょっと……なにやってるんですか!」

店主「お前は減らず口ばかり……!お客様をなんだと思ってるんだ!」

店主の娘「ああまた……本当にそういうの好きね。楽しい?」

店主「訳の分からないことを……!」バッ

勇者「やめろよ!なにも叩くことはねぇだろ!?」ガシッ

店主「いえ、これ以上失礼な態度をとらせる訳にはいきません。
しっかり駄目なことは駄目と教えなければ」

医者「別に怒ってませんから!お願いですから、落ち着いて下さい」

店主「ですが……」

店主の娘「はぁ、みなさんお人好しなことで」

店主「まだそんなことを!」

勇者「あーもう!お前もそういうこと言うなよ!」

店主の娘「まぁ、いいわ。
お客様、不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません」

医者「い、いや、別に、ねぇ?」

歴史学者「私はねこまんまで十分だからな。君も文句ないだろ?」

勇者「そりゃ……まぁ……」

店主の娘「ありがとうございます。
では、私は明日の準備がありますので。お客様もごゆっくりお休み下さいませ」

勇者「お、おう……」

医者「……じゃあ戻ろうか」

勇者「あ、はい」

店主「本当に申し訳ありませんでした」

医者「いや、全然大丈夫ですから気にしないで下さい」

歴史学者「もう十分ですので、これ以上叱らないであげて下さいね」

店主「え……はい」

スタスタ

医者「ああ……疲れた……」

歴史学者「全く、人騒がせなやつだ」

勇者「ホントだよな。猫の飯なんて出すから悪いんだ」

歴史学者「違うぞ。君のことを言ってるんだ。
文句なんか言いに行くから、こうなるんだよ」

勇者「ああ?普通言うだろ。猫の飯だぞ」

歴史学者「ねこまんまイコール猫の飯なんて、単純すぎるだろ。
手軽で美味しいんだからいいじゃないか」

勇者「俺は人間としてのプライドを」

医者「あのさー、悪いけど俺外に出てくるよ。ここじゃ落ち着けないから」

勇者「えっ……」

歴史学者「突然イヤミですか?」

医者「違う違う。あの女の子がいると思うと、ソワソワしちゃうのよ。
正直、怖くてねぇ」

勇者「まぁ……そりゃ止めませんけど……。
なんか喋り方カマくさくなってません?」

医者「そーお?とにかく外に出させてね」

歴史学者「行ってらっしゃーい」

ギィ バタンッ



ーーー

モグモグ

勇者「それにしても、こんな時間にどこ行ったんだろうな。
まだ戻ってこねぇし」

歴史学者「さぁ、居酒屋なんかじゃないか?」

勇者「居酒屋……?まぁいい。俺も出てくる」

歴史学者「君は酒は飲めないぞ」

勇者「酒なんか飲まねぇよ。トイレがねぇから探すんだ」

歴史学者「ああ、言われてみれば。
でも、さすがに外まで行かなくても大丈夫だろ」

勇者「さぁな。……おい、なんでお前もついてくんだよ」

歴史学者「結局君も食べた、ねこまんまの器を片付けるためだ」

勇者「うるせーな、食ったっていいだろ。
つーか、一緒にくんじゃねぇよ」

歴史学者「私もそろそろトイレに行かないとヤバいからな」

勇者「チッ、なんでテメェと連れションしなきゃなんねーんだ」

ギィ バタンッ

店主「どうされました?」

勇者「トイレがねぇか聞きに来ただけだよ」

店主「ああ、ご不便をおかけして申し訳ありません。
今、マリに案内させます」

勇者「マリ?」

店主「娘の名前です。マリ!」

マリ「聞こえてんよ。じゃ、ついてきて」

店主「敬語を使いなさいとあれほど……!」

勇者「まぁまぁ良いから!早く案内してくれよ」

マリ「こっちだよ」

歴史学者「あ、これどうしたらいいかな?食器持ってきたんだ」

マリ「持って来なくても回収すんのにー。ま、預かっとく」

勇者「それでトイレは?」

マリ「一階の階段の下。ほら、そこの……」

歴史学者「悪いな、先に入る!」

ダダダッ
バタンッ!

勇者「おい!なんなんだよお前!」

歴史学者『あー、ギリギリセーフ』

マリ「……全く賑やかねー。そんで、風呂はアンタらの部屋についてるから。
もう、私は戻るわ」

勇者「……なぁ、大丈夫だったか?」

マリ「なにが?」

勇者「いや……その、顔叩かれてただろ」

マリ「別になんてことないって。いつもあーだからね」

勇者「……まぁでも、しっかりしてっから怒るんだろ?」

マリ「しっかり?なにが?」

勇者「そりゃ、父ちゃんが」

マリ「……プッ。アッハッハッ!しっかりしてる、ねぇ。
アンタ見てないの?あの人、頭ボサボサだし、上下スウェットだったのに」

勇者「スウェットってなんだよ」

マリ「スウェットはスウェットでしょ。灰色のだらしない服着てたじゃない」

勇者「なんだよ……服なんてどうでもいいだろ。
俺だって、ジーパンだけど勇者だぜ」

マリ「はい?」

勇者「だから、俺は勇者なんだよ」

マリ「それはそれは。失礼致しました」

勇者「……信じてねぇだろ」

マリ「いやぁ、信じてますよ。じゃあ、さいなら」

スタスタ

勇者「……んだよ。本当だっつーの」

ジャー

歴史学者「普通は信じるわけないだろ。バカだな」ガチャ

勇者「テメェ、聞いてたのかよ」

歴史学者「嫌でも聞こえるさ。
ほら、君も早く入らないと漏らすぞ」

勇者「俺は、ギリギリまで我慢したりしてねぇよ」

ギィ バタンッ



ーーー

勇者「うーん……」

歴史学者「ぐがー」

勇者「ふわぁぁ……んー、もう7時か。あれ……先生は?」

歴史学者「うーん……肉……」

勇者「おい、起きたのか?」

歴史学者「……お肉食べたい……」

勇者「どっちなんだよこれ。おい」ユッサユッサ

歴史学者「いやぁ……起きてるよーん……」

勇者「なんだか気持ち悪ぃな……。
先生がいねぇんだけど、どこいっか知ってっか?」

歴史学者「うーん……分かんない……」ゴロン

勇者「チッ……。俺は先生を探しに行くからな」

歴史学者「んー、待って……私も行くー」ムクッ

勇者「はぁ?そのすげぇ頭でか?」

歴史学者「ん……手ぐしでなんとか……」グテン

勇者「なぁー……来んなら来るで早く準備しろよ!」

歴史学者「んー……ウフフ……」

勇者「気持ち悪ぃな!ぶっ飛ばすぞ!」

歴史学者「やら」

勇者「じゃあ、早く準備しろっつーの!」イライラ

歴史学者「いやぁ、すまないな。朝は苦手でね」

勇者「苦手だから甘えんのか?スゲー気持ち悪かったぞ」

歴史学者「いいだろ別に。君の歯ぎしりよりマシだ」

勇者「歯ぎしり?俺が?」

歴史学者「ああ、ギリギリうるさかったよ。
君は綿かなにか噛んで寝ると良いな」

勇者「ふざけんな。なにが歯ぎしりだ……」

歴史学者「おい、あれ。先生じゃないか?」

勇者「ん?あっ!ホントだ。あの屋台だろ?」

歴史学者「うむ、行ってみようか」

タタタッ

おっさん「おー、もしかしてこの兄ちゃんの連れかい?」

勇者「そうだよ。迷惑かけたな」

おっさん「いや、迷惑なんてこともねぇよ。
その兄ちゃんの話はとにかく悲しくてね。
俺もそっとしておいてやりたかったんだ」

勇者「そうなのか……ありがとな。おーい先生!」ユッサユッサ

医者「うぅ……」グテン

勇者「ダメだな……担いで帰るか」

歴史学者「あの、悲しい話と言うのは、どんな話でしょう」

勇者「おい、やめとけよ」

歴史学者「君は気にならないのか?」

勇者「そりゃ気になるけど……」

おっさん「アンタら連れのクセに、知らないのか?
女の子が怖くて逃げてきたって言ってたけどな」

勇者「えっ、じゃあ昨日の夜からずっと?」

おっさん「ああ、宿屋の娘が怖かったんだと。
その理由が悲しい話でね」

歴史学者「へぇ、どんな話なんですか?」

おっさん「昔に奥さんと娘を亡くしたらしいんだよ。
それも自分の目の前で、魔物に襲われたらしい。
そのせいで女性恐怖症なんじゃないかって……特に小さい女の子が怖くて仕方なかったみたいだな」

歴史学者「そうですか……」

勇者「……でも、おかしくねぇか?
今の話では魔物が怖くなったとしても、女を怖がる理由はねぇだろ」

おっさん「そりゃオメェ、失った恐怖からだろ。
失いたくないから、失った対象が怖いんだろうな」

勇者「そういうもんなのかな……」

歴史学者「とにかく、一旦先生を運ぼう。ありがとうございました」

おっさん「あ、お代だけ貰えるか?」

勇者「お代ってなんだよ?」

歴史学者「お金のことだ。参ったな……私は持ってないし、先生の財布を開けるわけにも」

勇者「なぁ、なんで金が必要なんだ?」

歴史学者「先生が屋台で飲み食いしたからだ」

勇者「ふーん……俺、金なら持ってるぞ。ヒヌマの奴に貰ったんだ」

歴史学者「本当か?良かった。
あの、いくらお支払すればいいでしょうか?」

おっさん「えーっと、2770円だ」

歴史学者「だそうだ。持ってるか?」

勇者「うーん……これで足りっかな?」

ドンッ

歴史学者「お、おい……」

おっさん「うおっ、すげぇ金持ちだな」

勇者「金持ち?よく分かんねーな」

歴史学者「……とにかく、それは一枚で十分だ。渡してくれ」

勇者「えっ、一枚でいいのか?本当に?」

おっさん「そりゃあ、おじさんだってくれるんなら欲しいよ……。
でも、受け取れるのは一枚だけだ」

勇者「こんな紙っぺら一枚でいいのかよ……なんだかなー」

歴史学者「いや……逆に、そんなに持ってるやつの方が少ないぞ。
というか、普通は持ち歩かないな」

勇者「そうなのか?」

おっさん「ほらよ、お釣りだ」

勇者「お釣り?」

歴史学者「君のお金が必要な分より多いから、余分が戻って来たんだ」

勇者「そうなのか。じゃあ、ありがとな」ジャラ

おっさん「こっちこそ、ありがとな。
なぁ、お前も飲みに来てくれよ。サービスするからさ」

歴史学者「子供を誘っちゃダメですよ。
でも、おでんは頂きに来るかもしれません」

おっさん「いつでも来てくれ。待ってるよ」

勇者「じゃあな」

スタスタ

歴史学者「……しかし、そんな大金どうやって手に入れたんだ?」

勇者「言っただろ。ヒヌマの奴に貰ったんだよ」

歴史学者「そうではなくて、なぜ貰えたんだ?」

勇者「……魔物退治をしたんだよ」

歴史学者「退治?……殺したのか」

勇者「……」

歴史学者「まぁ、私がどうこう言う話じゃないな」

勇者「……魔物を倒……殺したときな、俺は笑ってたんだ。どう思う?」

歴史学者「ワーハッハッハッみたいな感じで笑ってたのか?」

勇者「いや……鏡見て初めて気がついたんだよ。
口の端が歪んでてさ」

歴史学者「ふむ……まぁ、君自身がどう思うかだろ。
嫌なら魔物だって殺さなければ良いんだし」

勇者「……」

歴史学者「一つ気になるんだが、魔物を退治したのは最近のことじゃないのか?」

勇者「ああ、一昨日のことだ」

歴史学者「本当に最近なんだな。じゃあ、それまでは一体何をしてたんだ?」

勇者「それまでって……」

歴史学者「君の村であるトウガサキが滅ぼされたのは、4年も前の事だろう。
それから今まで何をしてたのか、少し気になったんだ」

勇者「……多分、魔王に捕まってた」

歴史学者「魔王!?多分っていうのはなんだ?」

勇者「俺も良く分かんねーんだよ。村を襲ったやつらがつけてた紋章は、魔王のものだって先生が。
それに俺が捕まってた所のやつも、同じ紋章をつけていたんだ」

歴史学者「だから魔王か。その紋章って言うのは、どんなものなんだ?」

勇者「蛇がリンゴに巻き付いてる絵だよ。いかにもって感じだろ?」

歴史学者「蛇がリンゴに……私もどこかで見たことがあるな」

勇者「とにかく、俺はそこから逃げ出した。それが10日ぐらい前の話だ」

勇者「そんで、たまたま先生に助けて貰って、俺の旅に先生も同行してくれてんだ」

歴史学者「ふむ……じゃあ、ずっと捕まっていたんだな」

勇者「そーだよ。変なやつらに囲まれて、4年も無駄にしちまったぜ」

歴史学者「4年前と言うと、君は12才ぐらいか?」

勇者「は?今、13なんだぞ」

歴史学者「……君も立派な年齢不詳マンじゃないか。
その身長と生意気さで13はないぞ」

勇者「無いもなにもねーだろ。13だから13なだけだ。
テメェこそいくつなんだよ」

歴史学者「私か?秘密だ」

勇者「どうせ32とかそんぐらいだろ」

歴史学者「失礼だな!私はまだ24だ」

勇者「あっそう」

歴史学者「……くそぅ、卑怯者め!」

勇者「卑怯?テメェが勝手に喋っただけだろ」

歴史学者「くっ、13のくせに」

勇者「くせに、なんだよ。お前は24のくせに、先生一人も運べないんだな」

歴史学者「か弱い私が、大の大人を一人で運べるわけないだろ」

勇者「俺は13のガキだけど、余裕だけどね」

歴史学者「くーっ、ムカつく」

スタスタ

ここで切ります。

書き忘れてましたが、荒んだポケモン世界みたいってレス嬉しかったです。
なにかに例えてもらうの好きなんです。

それに読んでくださってる方、本当にありがとうございます!

ちょっと書けたので再開します。

医者「うぅーん。イテテ……」

勇者「あ、やっと起きました?」

医者「あー……うん。頭がズキズキする……」

歴史学者「お酒なんか飲むからですよ。はい、お水」

医者「ああ、ありがとう……」

勇者「おいしいですか?トイレの水」

医者「おぶっ。トイレ!?」

勇者「冗談ですよ。多分ね」

医者「もう、やめてくれよ。あー、頭痛い」ズキズキ

歴史学者「痛み止めでも買ってきましょうか?彼のお金で」

勇者「おい!」

医者「いやいや、大丈夫。痛み止めならあるから」ガサガサ

ジャララッ

勇者「なにやってんすか。出しすぎでしょ」

医者「いや、そんなこともないよ」

ゴクッ

歴史学者「ちょちょっ!飲んじゃったんですか!?」

医者「うん。まぁ、そんなにビックリすることでもないよ。
意外と平気だから」

勇者「そんなこと言ったって……本当に大丈夫なんですか?」

医者「うん。ちょっと眠くなるぐらいかな」

歴史学者「……でも、あんまり飲まないで下さいよ。
ゾッとしますから」

医者「うーん……じゃあ、控えるよ」

医者「それよりさ、俺って自力で帰って来たんだっけ?」

勇者「いえ、俺が屋台からおんぶしてきました」

医者「ええ!?……それも冗談?」

歴史学者「いいえ、私も同行してましたから確かです」

医者「嘘だろ……子供におんぶされるオッサンなんて……なんて……」

勇者「大丈夫ですよ。クスクス笑われてただけですから」

医者「それが嫌なんじゃないか!あーあ……」

勇者「あ、ほら、でも、屋台の人は先生のことを兄ちゃんって呼んでましたし。
だから、オッサンだとは思われていないかもしれませんよ」

医者「…………。
でもやだよ。はぁ……」


勇者(……)


勇者「……あの、先生……」

医者「なに?」

勇者「……俺達、先生が屋台で話したこと、聞いちゃったんです」

医者「え?」

歴史学者「ああ、君は全く……。
私が聞き出したんです。申し訳ありません」

医者「えーっと……屋台に行ったとこまでは覚えてるんだけど……なに話したんだっけ?」

勇者「え?」

医者「いや、俺ってお酒入るとめちゃくちゃで。
普段思い出せないようなことまで口走っちゃうし、話した事いっつも覚えてなくてさ」

勇者「えっと……」

歴史学者「内容は秘密です。だって、言ったらかわいそうだから」

医者「かわいそう……?かわいそうってなに?
俺、また変な話しちゃったの?」

歴史学者「そりゃあ、もう……。
ああ、私の口からはとても言えないっ」

医者「頼むから教えて!ねぇ、なんで目そらすのさ」

勇者「いえ……」

歴史学者「じゃあ、勇者くん。我々は海を見に行くとするか」

勇者「そ、そうだな。じゃ、先生またな」

スタタタッ

医者「なんだよ、教えてくれよー!」

歴史学者「全く君は、バカ正直はやめてくれ」

勇者「黙ってたらズルいだろ?
……でも、誤魔化したままの方がいいのかな」

歴史学者「多分な。私にも正解は分からない」

勇者「……」

歴史学者「……まぁ、なんでも良いじゃないか。海に行くぞ!」

勇者「えっ、本当に行くのかよ?」

歴史学者「当たり前だ。しかし、その前に必要な物がある!」

勇者「な、なんだよ」

歴史学者「私は未だにジャージのままなんだぞ。
しかも、下着も同じだ。ほら、何が必要か分かるだろ?」

勇者「……」

歴史学者「なんだその目は。たかったっていいだろ!」

勇者「……どうせ使い道もねーけどさ。なんか気に食わねぇな」

歴史学者「む……どうすれば気に食うんだ」

勇者「土下座」

歴史学者「買ってください、お願いします!」ガバッ

勇者「お、おま、バカ!やめろ!」

歴史学者「買ってー!おねがーい!」ガシッ

勇者「バカ離せ!やめろよ!」

歴史学者「なんだ、君がやれと言ったのに」パッ

マリ「……」じー

勇者「ほら、冷たい目で見られてんぞ」

歴史学者「まさか人がいたとは……恥ずかしいっ」

マリ「別に、なんとも思ってないっすよ」

勇者「だって。良かったな」

歴史学者「良いわけないだろ!」

勇者「それよりよ……お前、それどうしたんだ?」

歴史学者「え?」

勇者「テメェじゃねぇよ。なんだっけ……マリだっけか?」

マリ「なに。なんか用?」

勇者「だから、その……足がなんか」

マリ「ああ、アザのこと。転んじったのよ」

勇者「どんな転び方したんだよ。酷すぎんだろ」

歴史学者「……父親か?」

マリ「……!」

勇者「へ?父親がどうかしたのか?」

歴史学者「いや……なんでもない」

マリ「……じゃ、私は中に戻っから」

歴史学者「待ってくれ。私達と一緒に海に行かないか?」

マリ「……突然なにゆってんの?」

歴史学者「まぁ、その前に服屋にもよるけどな。良いだろ?」

マリ「意味分かんないんだけど。どゆこと?」

歴史学者「意味なんて特にないって。行こーよー」

マリ「そーね……服屋によるんでしょ?
私の分も買ってくれんならいーけど」

歴史学者「良いよな?」クルッ

勇者「……勝手にしたらいいだろ」

歴史学者「だそうだ。さぁ、行こう !」

マリ「ちょっ……マジ?」

歴史学者「大マジだ。マリはこいつの自転車の後ろに乗ってくれ」

勇者「なんでオレが」

歴史学者「ほら、早く早く」

マリ「本気なんね……。ま、いっか」

ストッ

歴史学者「さぁ行くぞ!しゅっぱーつ!」

勇者「うっせぇな!ったく……」

キコキコ

勇者「つっても俺、しまむらがどこにあんのか分からねぇぞ」

マリ「へ?しまむらまで行くつもりなの?」

歴史学者「いやいや、服屋ならどこでも良いんだ。案内してくれ」

マリ「すぐそこよ。角まがってすぐの、「服のカズトシ」って店」

勇者「ふーん……もしかして、あの看板か?」

マリ「そ」

歴史学者「おお、あれか。まずは服を買わないといけないからな」

勇者「買わなきゃってこともねーだろ」

キキッ

店長「いらっしゃいませー」

勇者「おー、いっぱい服があんな。さすがしまむら」

店長「……」

歴史学者「おい、ここはしまむらじゃないぞ」

勇者「え?服屋のことはしまむらって呼ぶんじゃないのか?」

歴史学者「ユニークな勘違いだな」

勇者「うっせーボケ。ほら、さっさと買うぞ」

歴史学者「よし、選ぶか」

マリ「いえーい」

スタスタ

歴史学者「さぁ、君も好きな服を選んでくれ」

マリ「ねぇ、一応聞くけど。後から請求したりしない?」

歴史学者「するわけないだろ。なぁ?」

勇者「別に……」

歴史学者「よし、じゃあ一緒に選ぼうか」

マリ「どーすっかなぁ」

勇者「あ、このヒョウ柄のやつ良くねぇか?」

歴史学者「センスの無いやつは口を出すな。
マリもこんなの放っといていいからな」

マリ「えー、それもカッチョいいと思ったのに」

歴史学者「……」

マリ「じょーだん。さ、選ぶか」

スタスタ

勇者「……フン」



ーーーーー

勇者「遅ぇ……」イライラ

歴史学者「あ、こっちの方が似合うんじゃないか?」

マリ「派手すぎ。私は青のグラデーションのやつにしよっと」

勇者「おい!いつまでやってんだよ!太陽沈むぞコノヤロー!」

歴史学者「なんだよ、心が狭いなぁ。
じゃあ、青いワンピースとカーディガンにしようか」

マリ「あのさ、アンタ自分の選んでなくね?」

歴史学者「あー、んっと、じゃあ選んで貰おう。なぁ」

勇者「なんだよ」イライラ

歴史学者「このズボンの色なんだが、どっちの方が良い?」

勇者「んだよ、口出すなっつってなかったか?」

歴史学者「いいから。どっち?」

勇者「……白」

歴史学者「じゃあ、このチュニックとロングシャツはどっちがいい?」

勇者「…………その左手の方のやつ」

歴史学者「えっ、なんでチュニックの方なんだ?
こっちのロングシャツは駄目か?」

勇者「じゃあ、ロングシャツってやつにすりゃいいだろ」

歴史学者「いや、よく考えて欲しいんだ。
このチュニックの色合いは良いが、私の年齢からすると、少し幼くないか?」

勇者「だから、ロングシャツの方にしろっつってんだろ!うぜぇな!」

歴史学者「本当にロングシャツの方が」

勇者「はいはい、良いんじゃないですかね!素敵ですよ!」

歴史学者「じゃあ、ロングシャツの方にしよっと。
あ、鞄も買っていいか?」

勇者「勝手にしろよ!聞くな!ったく……」

歴史学者「よし。それじゃ、お会計お願いします」

勇者「あ、待て。俺もパーカーとジーパン買わねぇと」サッ

歴史学者「また、似たようなやつを……。本当にいいのか?」

勇者「気に入ってからいーんだよ。
で、どのくらい必要なんだ?」

歴史学者「ああ。じゃあ、これもお願いします」

店長「合わせて2万7120円」

歴史学者「ほら、お金」

勇者「だから、どのくらい必要なんだよ?」

歴史学者「一万円札を三枚だ。
一万円札二枚と、さっきのお釣りでも足りるかもな」

勇者「一万円札ってどれだよ?」

歴史学者「ああ、もう。ちょっと鞄を貸してみろ」

勇者「おい、やめろよ!」

ガサガサ

歴史学者「いいか、これが一万円札だ。そして、これが五千円札。
これが千円札で、これが百円玉で、これが十円玉。
分かったな?」

勇者「分かんねーよ。一気に言いやがって」

店長「はい、まいど」

勇者「お、おう」

歴史学者「さぁ、海に行くぞ!」

スタタタ

勇者「待てよ!ったく」

スタスタ

キコキコ

勇者「しかしよー。海ってどんなとこなんだ?
でっかい水溜まりだって聞いたけど」

歴史学者「それであってるよ。しょっぱい水溜まりだ」

マリ「アンタ海見たことないの?」

勇者「ああ、初めてだ」

マリ「ふーん。まぁ、塩水ばっかでなんにもないとこよ。
砂浜はガラスの破片だらけで汚いし」

勇者「マジかよ……。もっとスゲーもんだと思ってたのに」

歴史学者「何を言ってるんだ。海は魚もとれるし、塩だって作れる」

マリ「でも、ただ見に行くだけなら、退屈なだけねー」

勇者「うーん、なんかスゲー事が起きる訳じゃねぇんだな……」

歴史学者「なんにもなくても、海はキレイだぞ。
君のキラキラしたアンモナイトと同じくらいな」

勇者「……お前、いつの間に見たんだよ」

歴史学者「さっき、鞄の中をあさった時だ。
良い趣味してるじゃないか」

勇者「別に……ヒヌマのガキに貰ったんだよ」

マリ「それって……もしかして、カズキのこと?」

勇者「えっ!?なんで知ってんだよ!」

マリ「近くの自転車屋さんが無くなってから、修理にはヒヌマに行ってたんよ。
ちょい遠めだけど、行くと泊めてもらえたりしてね……。
私もアンモナイトを貰う約束をしてた」

勇者「じゃあ、アイツの友達だったのか?
アイツ、友達がいねぇとか言ってたみてぇだけど」

マリ「それは……多分、私が約束を破ったからだねぇ」

歴史学者「約束?」

マリ「……キレイなアンモナイトを持ってるんだって言われて、見たいってゆったの。
そーしたら、見つかったらやるよって言われてね。
でも、そん時は部屋がぐちゃぐちゃで見つからなかったのよ。
だから、「次にマリが来るときまでに見つけておく、約束だ」って言ってくれてさ……」

勇者「じゃあ、行かなかったのか?」

マリ「まぁね。……あんまり遠出はしなくなったから」

勇者「そんなの、今から会いに行けばいいだろ。ヒヌマまで行くか?」

マリ「えっ」

歴史学者「そうだな。私も付き合うぞ」

勇者「アンモナイトも、俺が返せば良いことだろ。じゃあ、行くか」

マリ「ちょっと待ってよ!」

勇者「なんでだよ?」

マリ「別に……アンタ達には関係ないんだから、ほっといて」

歴史学者「そんなこと言わずに、行」

マリ「放っといてって言ってんでしょ!!」

勇者「……」

歴史学者「……」

マリ「……」

勇者「……分かったよ。そんなに嫌なら行かねぇよ」

マリ「……」

歴史学者「……じゃ、海に行くか」

勇者「おー」

キコキコ

マリ「……」

勇者「もうそろそろかな。あれが海か?」チラッ

歴史学者「まだ全然見えてないぞ。なーにを言ってんだ」チラッ

マリ「……もうすぐよ」

勇者「あ、そう?いやー、楽しみだ……」チラッ

マリ「あのさ、チラチラ見ないでくんない?キモい」

勇者「……」

歴史学者「お、海が見えてきたぞ」

勇者「えっ、マジで?」

歴史学者「ほら、あの青いところ」

ザザー……

勇者「ええっ……あれ全部?」

歴史学者「そうだ。いやー、いつ見ても海はいいな」

勇者「この音はなんだ?ザザーっていうやつ」

歴史学者「海の波の音だよ。満ち引きの音だ」

勇者「満ち引き……?」

マリ「見ないと分かんないっしょ。
そこ下におりるとこがあるから、左」

勇者「あ、ああ」

キコキコ

勇者「うわっ!?なんかタイヤが重いぞ?」

歴史学者「砂がまとわりついてるんだな。もう降りた方が良いぞ」

勇者「そうか?じゃあ支えてっから、お前先に降りろよ」

マリ「言われなくても降りるし」

ストッ

勇者「……広いな……スゲェ……!」

ザザー

勇者「雲がどこまでも続いてるぞ……スゲェな!」

歴史学者「ああ……キレイだな」

マリ「こんなことで感動できていーわね。うらやましい」

勇者「なぁ、あの赤いのはなんだ?ちっせーやつ」

歴史学者「あれは船だろう。なにをしているかは分からない」

勇者「このザザーって音はなんだよ」

歴史学者「ほら、水が動いてる音だ。
手前に来たり奥に行ったりしてるだろ」

勇者「なんで動いてんだ?」

歴史学者「うーん…………。
じゃ、私はさっき買った服に着替えてくる!」ダッ

スタタタ

マリ「ちょっと!……全く」

勇者「なぁ、なんで動いてんだ?」

マリ「知らんっつーの。月の引力がどうとかじゃないの?」

勇者「んー?」

マリ「いいから、海に入って来なって」

勇者「え、入れんの?」

マリ「ちょっと寒いけど、足ぐらいなら入れんじゃん?」

勇者「そういうもんなのか」

スタスタ

マリ「あ、靴脱ぎなよ!」

勇者「えっ?」

マリ「えっ、じゃないよ。濡れるでしょ」

勇者「あ、ああ、そうか。そうだよな」スッ

マリ「ったく……」

勇者「うおっ、砂がペタペタする!
お?なんだこれ。おーい」

マリ「か・い・が・ら、よ。
あのさ、いちいち聞いてこないで」

勇者「うおっ水冷てっ!
……ん!?おい、なんか水が透明だぞ!青いのに透明だ!」

マリ「はぁ……」

歴史学者「お、楽しんでるな」

マリ「勇者様だけがね。私も着替えてくるわ」

歴史学者「ああ。あっちの方にトイレが」

マリ「知ってる」

スタスタ

歴史学者「やれやれ……。おーい!」

勇者「……ん?」

歴史学者「随分楽しそうだな。来て良かっただろ?」

勇者「……まぁ、そりゃ来て良かったっすけど」

歴史学者「砂でお城なんか作っても楽しいぞ」

勇者「へぇ……そうすか」

歴史学者「どうした?よそよそしいな」

勇者「そりゃあ……あれ?お前、学者のヤローか!?」

歴史学者「ヤローじゃないけどな。
髪の毛まとめただけだぞ。分からないか?」

勇者「いや、そりゃ、そんなにキレ……分かんねぇよ!」

歴史学者「怒鳴ることないだろ」

勇者「うっせぇバーカ!あっち行けよ!」

歴史学者「なんなんだ全く……」

スタスタ ストッ

歴史学者「…………海か。
また来ることになるとはな」



ーーーーー

スッ

歴史学者『な、なに?』

母『貝殻。いらないの?』

歴史学者『持って帰っていいの?』

母『一個ならね』

歴史学者『……ありがと』

ーーーーー



歴史学者(思えば、優しかったのはあの時だけだったな。
いや、優しいとは言わないか……)

スタスタ

マリ「なに?その貝がら」

歴史学者「……母親に貰ったんだ。
10年前、一緒にこの海岸に来たときにな」

マリ「へぇ、それはうらやましい」

歴史学者「……」

マリ「別にバカにはしてないって。
本当にうらやましいと思っただけ」

歴史学者「マリはいつだって来れるだろ?こんなに近いんだから」

マリ「近いと逆に来ないもんよ。それに、母親なんていないし」

歴史学者「そうか……悪かった」

マリ「別に。貝がら貰って喜ぶ年でもないしねー」

歴史学者「そういえば、何才なんだ?」

マリ「14」

歴史学者「じゃあ、私がここに来た時と同い年だな」

マリ「えっ、もっと小さい頃だと思ったんだけど」

歴史学者「10年前って言ったじゃないか」

マリ「あー……。
でも、14才が親と海に来て貝がら貰うなんてねぇ。友達いなかったの?」

歴史学者「……いませんでした」

マリ「あっそう。まぁ、でも親とは仲良さそうで良かったじゃん」

歴史学者「いや……全然だ」

マリ「そうなの?」

歴史学者「私の母親は魔物だからな」

マリ「……?」

マリ「魔物みたいな人ってこと?」

歴史学者「違う。警察に見つかって逮捕されたよ」

マリ「ふーん、魔物ねぇ……。貝がらくれる魔物なんて聞いたことないけど」

歴史学者「私もよく分からない。だから、魔物のことを知りたくて、研究してるんだ」

マリ「あっそう。結局、アンタも親に縛られてんのね。がっかり」

歴史学者「……みんなそんなもんだろ」

マリ「そーお?だとしたらつまんないわね。本当に……」

歴史学者「……」

スタスタ

勇者「なぁなぁ、貝がらってめっちゃ落ちてんのな」ガチャガチャ

歴史学者「い、いや、そんな量は落ちてないだろ。
どっから持ってきたんだ?」

勇者「えっ?海の中から」

歴史学者「それ……貝がらじゃなくて、生きてる貝だろ」

勇者「えっ、生きてる?」

マリ「やるじゃん。今日の晩御飯は決まりね」

勇者「ええっ!これ食えんのか!?」

マリ「当たり前じゃない。豪華なねこまんまが作れるわよ」

勇者「結局ねこまんまなのかよ!」

勇者「んー、じゃそろそろ帰っか。さみーし」

歴史学者「そりゃ、服のまま潜ればそうなるだろ。バカだな」

勇者「だって、脱いで入るの嫌だしよ」

歴史学者「まぁ、さっき買ったやつに着替えれば良いだろ。
もう少し待てば、海に夕日が沈むのを見られるぞ」

勇者「ふーん?どんな感じなんだ?」

マリ「海がオレンジ色に染まるのよ」

勇者「おー、それは見てぇな」

歴史学者「ほら、あっちのトイレで着替えてくるといい」

勇者「ああ、分かった」

スタスタ

マリ「……」

歴史学者「……」

マリ「……なんか幸せそうよね」

歴史学者「勇者のことか?」

マリ「まぁ、アイツもそうだけど。
ほら、あっちの家族連れ。
こんな季節にうれしそーにさ」

歴史学者「あれか。確かに、幸せそうだ……」

マリ「……さっき、親に縛られてるって言ったでしょ」

歴史学者「ああ、ちょっとグサッときたよ」

マリ「私も縛られてる方の人間だから。
そうじゃない奴がうらやまひーのよ」

歴史学者「そうなのか?」

マリ「そう。仲が良い親子なんかを見ると、ブツブツ出ちゃう」

歴史学者「私も似たようなもんだ。自分が酷くみじめで汚く感じるよ」

マリ「……ほお、オネーサンも分かんのね」

歴史学者「みんな、そんなもんだろ」

マリ「そうかしら。あの家族連れには、きっと分かんないでしょ。カズキも……」

歴史学者「えっ?」

マリ「なんでもない。とにかく勇者様みたいなのには、理解できなさそうだってこと」

歴史学者「……どうだろうな。アイツもヘビーな人生歩んでるから」

マリ「……」

スタスタ

勇者「夕日はまだか?」

歴史学者「もうすぐだと思うぞ。まぁ、ご飯でも食べながら気長に待とう」

マリ「かったるーい。私そろそろ帰りたいんだけど」

歴史学者「まぁまぁ」



ーーー

ゆらゆら…


勇者「すげぇ……」

歴史学者「ああ……」

マリ「……」


ザザー…


勇者「水面がキラキラ輝いてる……」

歴史学者「ああ……」

マリ「……」


ザザー…


勇者「……」

歴史学者「……」

マリ「……」


ザザー…



ーーー

勇者「あー……、良いもん見た。キレーだったな!」

歴史学者「ああ、想像以上だ」

マリ「大げさ。オレンジ色になっただけじゃん」

勇者「冷めたこと言うなよ。すっげぇキレーだったのによ」

マリ「まっ、息抜きにはなったわ」

歴史学者「さぁ、そろそろ帰るか。暗くなる前に戻ろう」

マリ「あ、出来るだけ急いだ方が良いね。今頃、大騒ぎだろーし」

勇者「大騒ぎ?」

マリ「ウチの父親ね、騒ぐのが大好きなの。
多分、娘はいずこへって騒いでんね。
近所の人も巻き込まれてっかも」

歴史学者「い、いや、日中出かけただけだぞ?
そんなに怒ってないんじゃないかな」

マリ「いーや、完璧にアウトね。
だって海に行くこと、許可とってないもーん」

勇者「お前なぁ……なら、声ぐらいかけてこいよ」

マリ「言ったら必ず反対されるんよ?嫌だね」

勇者「だからって……」

マリ「今言ったってしょうがないでしょ。
早くしないとオネーサン達の仲間も危ないかもね」

勇者「えっ!?なんでだよ?」

マリ「だって、アンタ達に娘が誘拐されたとか思ってっかも知んないわよ」

歴史学者「そうか。
そうなると怒りの矛先は、宿に残った先生になるな」

勇者「ええっ!なら、さっさと帰らねぇと」

歴史学者「仕方ない、急ぐか」

ここまでで切ります。
こんなにレスを頂いたのは初めてです。ありがとうございます!

再開します。
ここからはちょっとどぎついシーンもあるかもしれません。

シャーッ キキッ!

勇者「なにモタモタしてんだよ、早く降りろって!」

マリ「うっさい。がならないで」

勇者「ああ、クソッ!怒鳴り声が聞こえてきやがる!」

歴史学者「手遅れだな」

ガチャ

店主の妻「あなたの仲間が連れ去ったんでしょう!?
そうじゃないなら、なんでいないのよ!」

医者「あの……ですから……私には分からないんです……」グスッ

店主「ふざけるのもいい加減にしてくれ!一体マリをどこへやったんだ!」

マリ「ここよ」

店主「……マリ!」

タタタッ

勇者「先生、大丈夫ですか!?」

医者「うぅ……大丈夫じゃないよぉ……バカァ……」グスッ

歴史学者「ホントすんません」

店主の妻「マリちゃん大丈夫?怪我はない?」

マリ「大丈夫だから触らないで」

店主の妻「だって、ワタシ心配で心配で……。
無事で良かった……!」シクシク

マリ「あーはいはい。悪かったですね」

店主「マリ、一体どういうことなんだ?」

マリ「服買ってもらって、海を見てきたのよ。あとお昼ご飯もごちそうになった。
それだけ」

店主「酷いことはなにもされてないのか?」

マリ「別に。酷いことならいつもされてるし」

店主「……なんだその言いぐさは。 本当に心配してたんだぞ」

マリ「本当に?笑わせないで。そうやって良い人ぶりたいだけでしょ」

店主の妻「マリちゃん、そんなこと言うもんじゃないわ。
お父さんはあなたのことを」

マリ「うっさい。帰って来て早々これだから嫌なのよ。
……気持ち悪い」

店主「……!」バッ

パシンッ

マリ「ッ……」

勇者「おい!やめろって!」ガシッ

歴史学者「いちいち手をあげるのはやめろ!」ガシッ

店主「離してください!そもそも、アナタ達がマリを連れ出すからでしょう!
探すのを手伝ってくれた近所の人にだって、菓子折りを持っていかなきゃいけないんですよ!
ただでさえウチは貧乏なのに!」

医者「お礼なら私が用意しますから!もうやめて下さい……!」

グッ

勇者「先生……」

医者「……私にも娘がいます。
だから、私は娘さんが叩かれるところなんて見たくないんです……!」

店主「……。
分かりました。でも本来なら警察に突き出されてもいいってこと、分かってますよね?」

医者「ええ……」

パサッ

医者「これで足りますか」

歴史学者「……!」

マリ「ちょっと……!」

店主「……まぁ、これだけあれば十分ですね。
じゃあ、マリは夕食の準備をしてあげてくれ」

マリ「……」

店主「返事は?」

マリ「……分かったわよ。アンタ達は部屋に戻って」

医者「は、はい」

勇者「おう」

歴史学者「……」

スタスタ

バタンッ

歴史学者「……」

勇者「とりあえず一件落着って感じか?良かったなー」

医者「ああ。店主さん、引き下がってくれて良かった」

歴史学者「……なにも」

勇者「ん?」

歴史学者「なにも良」

ガチャッ!

マリ「良くないよ!」

医者「ひっ」

勇者「えっ?」

歴史学者「マリ……!」

マリ「なにも良くなんかない!なんでお金なんか渡したのよ!
しかもあんな額!」

医者「い、いや、その、別に大した額じゃ」

マリ「すぐにギャンブルに消えるだけなのよ!菓子折りなんて買う気はないんだから!」

医者「いや、だ、だとしても、別に……」

マリ「バカじゃないの!……バカじゃないの……!」ポタッ

ポロポロ

医者「!!!」ビクッ

勇者「お、おい、泣くことな」


ーーー

『……パパ……』ポタッ

ーーー


医者「ぁ……」ガタガタ

勇者「ん?」

医者「……うわああああ!!」ダッ

ダダダッ ! バタンッ!

勇者「……え?」

歴史学者「は?」

勇者「……なぁ、マリ。ちょっと待っててくれな」

マリ「……」

勇者「おーい、先生?」

医者『……』

勇者「先生、なんで風呂場に行くんです?開けますよ?」

医者『……やめてちょうだい!アタシのことはほっといてよ!』

勇者「はぁ?」

歴史学者「なんだ?」

医者『もうイヤ……もーイヤよ……。アタシには構わないでっ!』

勇者「……なぁ」チラッ

歴史学者「私を見るな。私にも分からん」

勇者「……」

歴史学者「……」

マリ「……」

勇者「……とりあえず放っとくか。そんじゃ、マリも座れよ」

マリ「う、うん」

歴史学者「話ぐらいなら聞いてあげるから」

マリ「ああ、ありがと……」

ストッ

マリ「……なんか、涙が引っ込んだわ」

勇者「なんだろうなアレ……」

歴史学者「気にするな。そんなことより、マリの話を聞かせてくれ」

マリ「んー。まぁ、なんかね。
親父に金なんてもったいないってさ」

勇者「ギャンブルがどうとかって言ってたよな。
ギャンブルってなんだ?」

マリ「あの人、競馬が好きなんよ。そんで、ほぼ必ずすってくんの」

勇者「競馬?」

歴史学者「馬をあやつって、速さを争うことだ。
どれが何着か客が予想して、お金をかけるんだよ。
予想が当たればお金は増えるが、外れればお金は無くなる」

勇者「ふーん」

歴史学者「……まずいな。先生の解説病がうつったか?」

勇者「なんだそれ。それより、金が無くなっちまうのはヤバくねぇか?」

マリ「ヤバイなんてもんじゃないわよ。
その度にイライラして、お酒飲んで暴れるんだから」

勇者「暴れる?そんなふうには見えなかったけどな」

マリ「あの芝居がかった喋り方で分からない?
頭のネジが外れちゃってんのよ」

歴史学者「……」

マリ「ご飯抜きなんてのはしょっちゅうで、アイツ、テーブルごとご飯引っくり返すんよ。
最悪でしょ?」

勇者「なんでそんなことすんだよ」

マリ「さぁね、そういうのに憧れてたんじゃないの?マンガとかではよくあるじゃない。
ずっとやってみたかったんでしょうね 」

歴史学者「……」

マリ「最初の内はビクビクしながらやってたんだけどね。ここまでやったら怒られるかな、みたいな。
人の顔色伺って、ホントお笑いよ。
でも、誰も何にも言わないから調子乗ってんのね」

勇者「それなら、やり返せばいいじゃねぇか」

マリ「はい?……あのねぇ、あんな暴力バカ相手に何が出来んのよ。
私は、天井に貼り付いた味噌汁のワカメを、笑って見てただけ。
…………そんなの、面白くなんかないのに……面白いと思ってたのよ……!」グッ

勇者「おい……」

マリ「どんなにむなしいか分かる!?
母親はいなくなって、不倫相手が家に住み着いて。しかも、そいつも頭が腐ってる!
ウチには、自分に酔ってる奴しかいないのよ!」

勇者「落ちつけって!色々あんだろうけど、二人ともお前のこと心配してたじゃねぇかよ」

マリ「心配なんかしてないわよ!
アイツは金のことと、娘を誘拐された父親役に酔ってただけ!
女の方は、義理の娘を心配する母親役に酔ってただけ!
分からないの!?」

勇者「いや、でも……」

マリ「あの女、なんて言ってたと思う?
暴力ふるわれてんのに、「ソウイチさんは私が守らなきゃ……」なんて目キラキラさせてたのよ。
私がいくらアイツのことを訴えても「ソウイチさんはそんな人じゃない」「ソウイチさんはカッコいいよ」なんて繰り返すだけ。
…………しかも私が殴られそうになったとき、全身で私を抱え込んで、暴力から庇いやがったのよ!
ホントに素晴らしいわよね……!!」

勇者「……」

歴史学者「……」

マリ「……分かんないでしょ。誰にも分かるわけないもんね。
いくら話したってなにも……」

歴史学者「いや……、少しだけなら分かるよ」

マリ「なぐさめはいらない。無理しないで」

歴史学者「無理はしてないさ。ただ、私も暴力を受けて育ったんだ」

勇者「えっ……」

マリ「……!」

歴史学者「あの頃を思い出すと、いつも薄暗いんだ。
外がどんなに明るくても、家の中で髪の毛を引っ張られ、引きずり回されてる」

マリ「……」

歴史学者「色んな作品に首を絞められるシーンってあるだろ?
ずっと忘れてたけど、そういうのを見て思い出したんだよ。
壁に押さえつけられて、足は地面につけなくて……本当に舌が口からこぼれ落ちるんだ。
フィクションでまでこういうシーンを見ると、世間の認識なんてこんなもんかと、いつも思うよ」

勇者「……」

歴史学者「……その飛び出た舌の上にな、何か感触があったんだ。
私は「小さな白いUFOが乗ってる」って思った」

勇者「は?」

歴史学者「その瞬間からUFOの事が気になって、首を絞められてることより、それしか頭になかった。
意味が分からないだろ?」

勇者「……少しも分かんねぇよ。何を言ってんだ?」

マリ「私は少し分かる気がする……。現実逃避してたってことじゃない?」

歴史学者「どうやら、そうだったみたいだ。
本当に辛いときは、どうでも良いことが気になるもんなんだな。
喘息の発作で死にかけた時も、ずっと本の並びが気になってたし」

マリ「まさかオネーサンもこっち側の人間だったとはね……。そんな気はしてたけど」

歴史学者「きっと、こんなやつはザラだと思うぞ。
そこら中にゴロゴロしてるんじゃないか?」

マリ「だから、そんななぐさめはいいの。本当のことを教えて」

歴史学者「なんだ?」

マリ「どうやってその生活から抜け出したの?」

歴史学者「……」

マリ「それぐらい教えてくれても良いでしょ」

歴史学者「……私の力でじゃない。突然、両親が逮捕されたんだ」

マリ「逮捕?……ああ、魔物だったからとか言ってたね」

歴史学者「私の母親は魔物で、父親はその魔物にたぶらかされていたってことになってな。
二人とも私を残して、捕まった」

マリ「なんだか嘘くさい経歴ね。両親が捕まったあとは、生活はどうしてたんよ?」

歴史学者「父親の親に預けられて、家を飛び出すまでそこにいたよ。
それからはアルバイトしながら、魔物の研究を続けてた」

マリ「ふーん……。一応聞くけどさ、親とは和解した?」

歴史学者「いや……逮捕されたっきり会ってないからな。
話す機会すらなかったよ」

マリ「もし親が逮捕されてなかったら、どうなってたと思う?」

歴史学者「……多分、死ぬことは無かっただろうな。
けれど、悲惨な毎日が続いたらだろうと思うよ。
私の力じゃ、どうすることも出来なかったから……」

マリ「やっぱりそうなんね……分かった、ありがとう」スタッ

スタスタ

勇者「お、おい。どこに行くんだよ?」

マリ「部屋に戻るだけよ。もう寝るわ。オヤスミ」

ギィ バタンッ

勇者「……」

歴史学者「……」

勇者「……」

歴史学者「……じゃ、私たちも寝るか」

勇者「なぁ……」

歴史学者「……」

勇者「……」

歴史学者「……冗談だよ、全部」

勇者「えっ」

歴史学者「UFOがどうのだの、本の並びが気になるだの、嘘に決まってるじゃないか。
信じたのか?」

勇者「いや……」

歴史学者「じゃ、オヤスミ」

バサッ

勇者「……」

バサッ



ーーー

チュン チュン

勇者「うーん……」

歴史学者「ぐがー」

勇者「ん……もう朝か。眠った気がしねぇな」

ブツブツ

勇者「ん?何の音だ?」

ブツブツ

勇者「もしかして……先生の声か?」トッ

スタスタ

勇者「……開けますよー」

ガラッ

医者「うーん……やめてくれ……助けて……」

勇者「なにうなされてんですか。おーい」

ユサユサ

医者「う……うわっ!」ガバッ

勇者「な、なんすか?」

医者「……なんだ君か。驚かさないでくれ」

勇者「なんだじゃないでしょう。なんで風呂場で寝てるんすか」

医者「うーん?そういえば、なんでこんなところにいるんだろ」

勇者「また忘れたふりっすか」

医者「ふりじゃなくて……あれ、なんだか苦しい。
思い出そうとすると、胸がぎゅーって」

勇者「はいはい、もう良いっすから。部屋の方に戻りましょうよ」

医者「え、ええ。そうね」

勇者「またカマくさくなってますよー」

医者「あれ?おかしいな……」

勇者「ったく……」

スタスタ

歴史学者「んふふ……ぐっもーにん……」

勇者「なにニヤニヤしてんだよ。寝ぼけんな」

歴史学者「寝ぼけてないよーん……。センセ、おはよ」

医者「う、うん」ビクッ

勇者「なんで俺の後ろに隠れるんです?」

医者「いや……なんか怖くて……」

歴史学者「えー……うふふ……」

医者「ひっ」

勇者「あーめんどくせぇ。俺はトイレに行きますからね」

医者「いや、ちょっと、置いていかないで!」

ギィ バタンッ

歴史学者「んー……」コテン



ーーー


勇者「で、今日はどうすんだよ」

歴史学者「どうすんだよって、君たちには目的があってこの街に来たんだろう?」

医者「た、確かにそうだけど……。魔物のこと調べてみる?」

歴史学者「ええ、私もついていきますよ」

勇者「お前は残んなくて良いのかよ」

歴史学者「私がマリにしてやれることは何もない。
……私にはどうすることも出来ないからな」

勇者「……」

歴史学者「さぁ、決まったらまずは聞き込みだ。
海なら人がちらほら居たよな」

医者「今度は俺が君を後ろに乗せるよ」

歴史学者「当たり前です。レディに自転車を漕がせるなんて間違ってるわ」

勇者「レディ?」

歴史学者「はいはい、どうでもいいから行くぞ!」

スタスタ

勇者「先生、外ではオカマ化しないで下さいね」

医者「オカマ……」

ギィ バタンッ

キコキコ

勇者「それにしても、腹減ったなー」

歴史学者「昨日は食べないまま寝ちゃったからな。
海の家でなにか売ってればいいのに」

医者「この季節だからね。とりあえず、あそこのお店に寄ってみない?」

勇者「お店?」

医者「ほら、看板が出てるだろう。多分、定食屋だと思うよ」

勇者「ふーん、じゃあ行きましょうか」

キキッ

歴史学者「おお、さびれぐあいが良い感じ」

医者「そんなこと言わないで……。だって、他に見当たらないじゃないか」

歴史学者「いえ、本当にこういうお店は好きなんですよ」

ガララッ

店長「いらっしゃいませー」

勇者「よし、なに食うかな」

歴史学者「私は刺身定食がいいな」

医者「じゃあ、俺はトンカツ定食にしようかな」

歴史学者「あれ、怒らないんですか?」

医者「えっ、何を?」

歴史学者「だって、刺身定食ってお高いでしょう」

医者「ああ、お金のことなら気にしないで。君はなんにする?」

勇者「えーっと、豚のしょうが焼き定食ってやつが気になりますね」

医者「しょうが焼きか、良いね。きっと気に入ると思うよ」

勇者「じゃあ、俺はこれで」

医者「みんな決まったね。すいませーん」

店員「お決まりですか?」

医者「ええ。刺身定食とトンカツ定食と……」


ー10分後ー

店員「お待たせしましたー」カチャ

勇者「うおっ、うまそうだな」

歴史学者「ああ、刺身なんて何年ぶりだろう……」

医者「いい香りだね。いただきまーす」

歴史学者「いただきます」

勇者「うめぇ!この白いのなんでしたっけ。
めちゃくちゃウマイんですけど」

医者「お米だよ。ホントに美味しいね」

歴史学者「なーに米だけ食べてるんだか」


ガララッ

店員「いらっしゃいませー」

スタスタ

「こんにちはー!ああ、疲れちった。レバニラ定食お願いしまっす!」

店員「かしこまりましたー」

勇者「なんかうるさいのが来たな」

歴史学者「そういうこと言うな。こっち見てるぞ」

「……」ジーッ

勇者「うっ、ホントだ。あんなの無視無視」

「……」

勇者「……」

「……」

勇者「……」

「……」

勇者「……なんなんだよお前!」バンッ

「だって露骨なまでに無視するからぁ。
記者だからってそんなに嫌うことないだろ?」

歴史学者「記者なんですか?」

記者「そうそう。雑誌記者やってまーす」

勇者「なんだか知らねぇが、俺達に何の用なんだよ」

記者「アンタらこの街の人だろ?ちょっとインタビューさせて欲しいんっすよぉ。
ね、お願い」

歴史学者「いや、私達は地元の人間じゃないぞ」

記者「ええー。ま、いいや」

勇者「いいのかよ」

記者「どうしてこの街に来たんですか?」

医者「……ちょっと旅行に」

記者「家族旅行ですかぁ、いいなあ。
それじゃ、お父さん。どうしてこの場所をお選びに?」

医者「お父さん!?」ガーン

記者「あれ、違いました?まぁいいや。なんで選んだんですか?」

医者「……」シクシク

歴史学者「いや、ちょっと田舎でのんびりしたくて」

記者「そうですか。お子さん連れで大変ですね」

歴史学者「お子さん!?」ガーン

記者「えっ違うの?ま、気にしないでよ。
ボクちゃん、旅行楽しい?」

勇者「誰がボクちゃんだコノヤロー!」

記者「なんだよ、怒鳴ることないだろ?
いっつもこうなんだよな。誰もちゃんと答えてくれねぇの」

勇者「お前が悪いんだろ!もうあっち行けよ!」

記者「いいじゃん、もうちょっと話聞かせろよぉ」

勇者「ふざけんな!すでにスゲー不快なんだよ」

記者「仕方ねぇなー。分かった、これだけ聞かせて」

勇者「なんだよ」イライラ

記者「ここらへんの魔物のウワサって知ってる?」

勇者「……!」

記者「ねぇねぇ、どうなんだよ」

勇者「……お前はなんか知ってんのか?」

記者「そりゃあな。タケオっていう農場経営者のとこで、魔物が働いてるらしいっすよ」

勇者「タケオ?」

記者「一軒だけタカーイ塀の家があってね。
農地もハンパなく広いから、魔物に農場の管理を手伝わせてるっていう、ウワサ」

勇者「ふーん……魔物にねぇ」

記者「なんだよその顔。信じてないだろ」

勇者「だってよ、魔物に手伝わせる必要あっか?リスキー過ぎんだろ」

記者「俺たちの想像以上にがめついらしいから、どうだか分かんないぜ。
だって魔物ならこき使えるし、給料いらないだろ」

バンッ!

勇者「!!」ビクッ

記者「今の店長さん?」

店長「……アンタら、ウチの店から出ていってくれ」

記者「そんな。まだ俺レバニラ食べてな」

店長「出ていけ!!」

記者「なんだよクソオヤジが……」

勇者「……どうしますか?」

医者「出るしかなさそうだね。お代、ここに置いておきますから」

店長「……」

スタスタ

ここで切ります。

もしかしたらこんなの読みたい方はいないかもしれません。
でも、こういうのしか書けないんです。
すいません。

でも、こんなのでも読んでくれる方がいたら嬉しいです。

勇者はどこでオカマって言葉知ったんだろwwww

乙!

楽しく読んでる人が居るんだから、作者が「こんなの」なんて言っちゃいかんよ

>>182 聞かないでください。

>>183 いつもありがとうございます!

>>184 ありがとうございます!

>>185 すいません、熱出てて弱気になってました。
もうちょい気楽に投稿します!

再開します!

記者「あーあ。店長さん、何を怒ってんだか」

医者「アナタが魔物の話なんかするからでしょう。
誰だって怒りますよ」

歴史学者「本当に迷惑な人だな。お陰でほとんど食べられなかったぞ。
刺身だったのに」

記者「俺だってレバニラ食べ損ねたんだよ!あー最悪だ」

勇者「そんなことより、そのタケオって奴のこともっと教えろよ」

記者「もっとって言ってもなぁ。タダで話せってか?」

勇者「はぁ?」

記者「俺、アンタらにインタビューしようとしただけなんだよ。
なのに、何でこっちが話さなきゃいけないのかねぇ」

勇者「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」

記者「なんかスクープをくれたら、話してあげてもいいけどな」

歴史学者「全く、図々しいにも程がある。なーにがスクープだ。
そんなものあるわけないだろ」

勇者「なぁ、スクープってなんだよ?」

記者「意味を聞いてんのか?
あのな、インパクトがあるようなことをスクープって言うんだよ」

勇者「インパクトってなんだ?」

記者「はぁー……みんなが驚くようなこと。
これで分かっか?」

勇者「驚くようなことか。なら、これはどうだ?」

記者「なんかあんのかよ」

勇者「俺は勇者なんだよ」

記者「……はぁ?」

勇者「なんだよその顔」

記者「あのな、大人をからかうのもいい加減に」

勇者「うるせぇ。光れば信じんだろ」

記者「光る?」

ピカー!

勇者「ほらどうだ」

記者「うはー!どうやってんだよ!お前すげぇな!」

勇者「七色に光ってやろうか?」

記者「ぜひ見たい!早く!」

医者「早くやめなさい。そんなことはしなくていい」

勇者「ちぇー、わかりましたよ」

フッ

記者「ああ、クソ。でも光れるってだけで大スクープだな。
ホントにどうやってんだよ?」

勇者「俺にも分からねぇよ。
そんなことより、タケオっつーやつのこと教えろ」

記者「仕方ねぇな、話してやるよ。
43才のオッサンで、独身だったな」

医者「オッサン……」

歴史学者「ま、まぁ、続きを聞きましょう」

記者「ここらへんの公共機関に投資してて、こいつの金で成り立ってる所がいくつもある。
学校も警察も病院も、その他もろもろこいつが牛耳ってるよ」

歴史学者「それなら店長さんが怒っても当然だな」

医者「しかし、さっきタケオさんはがめついと仰ってましたよね?
どういうことですか?」

記者「自分が使うと決めたら、いくらでも使うんだよ。
でも、それ以外にはびた一文支払わない。
ここらに投資してるのは、殿様気分でいられるからだろうな」

勇者「殿様気分?」

記者「だぁれも頭が上がらないからさ。
それを良いことに、かなり好き勝手やってるみたいだぜ」

歴史学者「なんだかろくでもない話ばかりだな」

記者「そうだな。ああでも、一回だけ住民達が反旗をひるがえしたこともあっぞ。
10年前にまじない師がやって来て、住民をけしかけたらしい」

勇者「マジかよ。それでどうなったんだ?」

記者「住民の惨敗。どうやらその時、魔物が騒動を鎮圧したとかしてないとか。
それで、あの農場では魔物が働いてるってウワサが広まったっつーこと」

勇者「10年もの間、ウワサについて誰も調べなかったのか?」

記者「調べられるわけないだろ?相手は権力者だぜ。
しかも王家の血をひいてるとか、そんな話まであんだからな。
誰が手出せんだ?」

勇者「じゃあ、アンタはなんで調べてんだよ」

記者「最近、農場にいくつも馬車が乗り入れてたんだよ。
中には何が乗ってたと思う?」

勇者「さぁ……なんかヤバいもんなのか?」

記者「相当ヤバイな。ありゃあ絶対魔物だった」

歴史学者「アナタが見たんなら、真偽は怪しいな」

記者「残念だったな、俺以外にも何人も見てんだよ。
どうやらヒヌマから来た馬車だったらしい」

勇者「なんだと……!?」

記者「なんだよ、どうかしたか?」

勇者「その魔物ってのは、ピンク色のやつらか」

記者「そのとおり。50人ぐらいはいただろうな」

勇者「……先生、もしかしたらそいつらって俺が……」

医者「……」

記者「一体なんなんだよ。急に暗くなってよぉ」

勇者「……」

医者「……」

歴史学者「……馬車を見かけたのはいつのことなんだ?」

記者「つい何日か前だよ。きっとアイツらはヒヌマから売られてきたんだな」

勇者「売られてきただと!?」

記者「ああ、だからヒヌマに揺さぶりをかければ、タケオも引っ張り出せるかもしれないだろ。
そうしたら特大スクープってわけよ!」

勇者「……」

歴史学者「アホらしいな。アンタのことなんか誰も相手にしないだろう」

記者「クソ編集長もそう言うんだよ。
会社からストップがかかっちゃってるから、なぁんにも出来ねぇし。
だから地味ーに聞き込みなんてやってるわけ」

医者「その辺にしといた方が良いですよ。
危ないことに、自ら関わる必要なんてありませんから」

記者「危ない危ない言ってたら記者なんて続けられねぇだろ?
俺はスクープが欲しいんだよー!」

勇者「……うぜぇな。何がスクープだ。
勝手にはしゃぎやがって」

記者「なんだよ、記者がスクープ狙って何が悪い」

勇者「黙れ、もうアンタに用はねぇ。消えろ」

記者「はぁ?なんだよその態度。
こんなに話してやったのに、何が不満だっつーんだよ」

勇者「いちいちカンにさわんだよ……!消えろ!」

記者「ああそうかい。もうなんにも教えてやらねぇよ。
それではみなさん、ごきげんよう」

スタスタ

勇者「クソッ……」

歴史学者「……なにを憤ってるのか知らないが、私からすれば君もアイツと同じだ」

勇者「なんだと……!」

歴史学者「君が原因なんだろう?ここに魔物が売られてきたのは」

勇者「……こんなことになるとは思って無かったんだ!
アイツら更正させるって……」

歴史学者「魔物をか?更正なんて何様のつもりだ。
その魔物が君達になにをしたんだ?」

勇者「なにをって……町が襲われそうだったから……」

歴史学者「襲われそう?そうってなんだ。
襲ったのは君たちの方じゃないのか?どうなんだ!」

医者「もうやめてくれ。この件は彼の責任だけじゃない。
彼は巻き込まれただけなんだ」

歴史学者「そんな言葉で誤魔化してどうるんです?
彼のようすを見れば、私にも嘘だって分かりますよ」

医者「そうだとして、今彼を責めてなんになる?」

歴史学者「……」

医者「君にも事情はあるだろうが、俺は魔物に同情なんかいらないと思う。
売られようが死のうが勝手にすればいい」

歴史学者「なんですって?」

医者「俺は魔物なんか大嫌いなんだよ。憎くて仕方ないし、庇う言葉なんて聞きたくもない。
でも、君の言葉なら少しは聞いてみようと思う」

歴史学者「……!」

医者「だから、君も少しでいいから、彼の立場を考えてあげてくれ。いい?」

歴史学者「……」

医者「さて、一旦宿に帰る?
行きたいところがあるなら、一緒に行くけど」

勇者「……先生。俺、先生が魔物を憎む気持ち分かります」

医者「そう……」

勇者「でも俺、どこかで納得いってないんです。
このままでいいとは思えなくて……」

医者「具体的にはどうするつもりなの?」

勇者「……まだ分かりません。
でも、魔物に会えば分かるような気もするんです」

医者「……そもそも、魔物が働いてるかどうかも分からないからね。
調べてみる?」

勇者「……はい!」

医者「君も一緒に来るよね?」

歴史学者「……ええ」

医者「良かった。でも、どうしようか。
農場に入り込む訳にもいかないし」

勇者「えっ、入り込まないんですか?」

医者「いや、どうせ入るにしても夜の方がいいだろう?」

勇者「確かに、真っ昼間にはヤバイですね……」

医者「じゃあ、やっぱり宿に帰った方がいいんじゃないかな。
君はどう思う?」

歴史学者「……まぁ、私もその方がいいかと。
仮眠もとらないといけませんしね」

医者「じゃ、決まりだね。帰ろうか」

勇者「はい……」

スタスタ

医者「あの女の子にも話を聞けると良いんだけど」

歴史学者「女の子ってマリのことですか?」

医者「うん。なんかしっかりしてそうだったし、色々聞けるかも」

勇者「先生じゃ、まともに会話できないんじゃないですか」

医者「それはさ、君達が話を聞いてくれればいいじゃん。
俺、部屋で待ってるから」

歴史学者「そんな。
私たちに押し付ける気ですか」

医者「だって嫌なんだもん。二人で行ってきてくれよ」

勇者「だもんじゃないっすよ。全く、頼りにならねぇんだから……」

医者「じゃー頼んだよ。あとはよろしくっ」

スタスタ

歴史学者「ああもう……」

勇者「……」

歴史学者「……」

勇者「……マリ、いっかな」

歴史学者「さぁな……」

勇者「……」

歴史学者「……」

勇者「……あのさ」

歴史学者「……なんだ」

勇者「……」

歴史学者「……」

勇者「……」

歴史学者「……悪かった、ごめん」

勇者「別に……俺が悪ぃんだし」

歴史学者「……」

勇者「……」

マリ「アンタ達、なにやってんの?」

勇者「ま、マリ」

マリ「なに驚いてんの。私、さっきからずっとここにいたけど」

歴史学者「気がつかなかった……」

マリ「まぁね、気配消してたから。
それより、その暗い顔やめてちょーよ」

勇者「……」

歴史学者「……」

マリ「ねぇ、なんか知らんけど、仲直りしたいんじゃない?
ここは一つ、握手でもしたら?」

勇者「握手?」

歴史学者「それは……」

マリ「握手って仲直りには凄く効果があるらしいんよ。
ほらほら、手握って」

勇者「うーん……」

歴史学者「……まぁ、言う通りにしてみるか?」

勇者「あ、ああ」

スッ

二人「……」グッ

マリ「うわっ、ホントにやるなんて」

勇者「な、なんだよ。お前が言ったんだろ!」

マリ「まー、いいじゃん。仲直りおめでとう」パチパチ

勇者「まぁ……悪かった」

歴史学者「いや、私のは八つ当たりで……」

マリ「だーから、暗い顔はやめてって。
じゃあ、私はもう行くからね」

勇者「あ、ちょっと待ってくれよ」

マリ「なんすか?」

勇者「いや、俺達お前に用があんだ」

マリ「はい?なら先に言ってよね。
まぁ、仕方ないからちょっと待ってて」

スタスタ

勇者「……」

歴史学者「……仲直り、成立か?」

勇者「お、おう……」

歴史学者「良かった。君と話せなくなるのは辛いからな」

勇者「……俺もだ」

歴史学者「そうか……ありがとう」

勇者「いや、別に」

歴史学者「……」

勇者「……」

スタスタ

マリ「お待たせっ!さぁ、何の用?」

歴史学者「……なんだか凄い話を聞いてしまってな。
タケオという名は聞いたことあるか?」

マリ「ああ……。ここらへん牛耳ってるおっちゃんっしょ?
私にはあんま関係ないけどね」

勇者「……魔物を働かせてるってのは本当なのか?」

マリ「さぁ。噂はあるけど、ホントのことは誰も知らないよ。
ずっとどこまで行っても塀で囲われてんもん」

歴史学者「タケオはどこに住んでるんだ

マリ「こっから東に行けば、塀にはぶつかんよ。
でもねー、私も門のあるとこまで行ったことないから」

勇者「東か……。ありがとな」

マリ「忍び込もうとしてんならやめた方がいいんじゃない?
レーザーだのビームだの地雷だの、変なウワサばっか聞くけど」

勇者「……でも、確認しなきゃなんねぇんだ」

マリ「あっそ、ならとめないよ。私も忙しいし」

歴史学者「なにか手伝おうか?」

マリ「うーん、ならお金ちょうだい」

歴史学者「えっ?」

マリ「マネーよマネー。ないならほっといて」

勇者「いくら必要なんだ?」

マリ「全然分かんない。100万くらい?」

歴史学者「100万!?」

マリ「ジョーダンよ。だけど、ホントにいくらかかんだろ」

歴史学者「一体なににそんな」

勇者「これで足りっかな?」

バサッ

マリ「なっ……!」

歴史学者「お、おい!」

勇者「どーせ俺が持ってても使い道ねーし。やるよ」

マリ「なに、どーいうこと?からかってんの?」

歴史学者「いや、彼は本気だ。お金の価値を分かってないんだ」

マリ「もー意味分かんない。
アンタねぇ、そんなもんさっさとしまいなさいよ」

勇者「なんでだよ。やるって」

マリ「ふざけないで。そんなに持ってんだから大事にしなさいよ。
じゃあね」

スタスタ

勇者「……別にふざけてねぇんだけど」

歴史学者「十分ふざけてるぞ。君も先生もな」

勇者「なんで先生まで」

歴史学者「君たちは金銭感覚がおかしいんだ。
先生がマリの父親に渡した額も相当なもんだったぞ。
それも平気な顔して……」

勇者「うーん、おかしいのか」

歴史学者「そうだな……君は好きなものはないのか?」

勇者「焼き鳥は好きだぞ」

歴史学者「屋台の100円ぐらいのやつなら、10000本は買えるな。
君のお金だけで、だ」

勇者「マジかよ。10000本はすげぇな。大事にしよ」

歴史学者「マリがいい子で良かったな。
さて、じゃあ夜まで寝るか。今日忍び込むんだろ?」

勇者「ああ……ってか、ホントにお前もくんのかよ」

歴史学者「一人で残されるのも嫌だからな。
それにタケオのことは前から気になってたんだ」

勇者「なんだよ、前から知ってたのかよ」

歴史学者「詳しいことは知らなかったぞ。
だが、タケオってやつは、ずっと魔物の擁護団体にマークされてたんだ。
表向きは善人面して、陰でなにしてるやつなのか気になっててな」

勇者「ふーん、ならいいけどよ。
無理してついてこようとしてんなら、悪ぃと思ってさ」

歴史学者「私が無理なんかするわけないだろ。
しかも君達相手に無理したって、何の得にもならないじゃないか」

勇者「オメーはそういう奴だったな。心配して損したぜ」

ガチャ

医者「グー」

勇者「寝るのはぇぇ……。
ま、俺達も早く寝ねぇと」

歴史学者「そうだな。君も無理はやめた方がいいぞ。
おやすみ」

勇者「別に俺は無理なんてしてねーよ。俺のどこが」

歴史学者「グー」

勇者「……チッ。のび太かよ、こいつは」



ーーー

医者「ふわぁ……。うーん、塀の前まで来ちゃったね」

歴史学者「この『ほーほーほほぅ』っていうのはなんでしょう。
夜になると聞こえますけど」

医者「確かミミズクかフクロウの鳴き声だったなぁ。
どっちか忘れちゃったけど」

勇者「そんなことどーでもいいっすから、早く入りましょうよ。
こん中だって分かってんすから」

医者「それはそうだけど……どうやって?」

勇者「俺に任せて下さい。うーん……はい、どうぞ」

歴史学者「なにも変わってないぞ」

勇者「バリバリ変わってるっつーの。ほら」

ずぼっ

歴史学者「……壁に穴開けたのか?」

勇者「穴っちゃ穴だな。でも腕抜けばもとに戻るだろ?」

ずぼっ

医者「うーん、不思議だなぁ」

歴史学者「トンネル効果ってやつじゃないですか?」

医者「いや……トンネル効果は染み出すっていうか……。
そもそも量子力学の分野で」

歴史学者「すんません、本気で言ったんじゃないんです。バカでごめんなさい」

勇者「なにをごちゃごちゃ言ってんだよ。誰から行く?」

歴史学者「君は勇者なんだろ?
先に行って見てきてくれれば良いじゃないか」

医者「そんな危ないことはさせられないよ。俺が行くから」

勇者「いや、でも」

医者「俺になにかあっても、助けに来ちゃダメだよ?
危ない真似はしちゃダメだからね」

スッ

勇者「あ、ちょっと!」

歴史学者「ハリポタの駅みたいだな」ドキドキ

勇者「先生だけで大丈夫かな。すぐに見つかって捕まるんじゃ」

『……!なんですかアナタは』

医者『い、いや、私は』

歴史学者「さっそくだな」

勇者「ったく!」

スッ

魔物「……外の方ですね。どこから入ってきたんです」

医者「いや、その」

勇者「先生から離れろよ魔物ヤロー。ぶっ飛ばすぞ」

医者「ちょっと、なんで君達」

歴史学者「ウフ、来ちゃった」

魔物「お仲間もご一緒ですか。
どういったご用件なんでしょう」

勇者「……ウワサを確かめに来たんだよ。
だが、どうやら魔物が働かされてるってのは本当らしいな」

魔物「……」

医者「そのピンク色の肌や瞳の色……ヒヌマの近くの集落の奴か?」

魔物「いえ、よく間違われますが、私は東の集落出身です。他にご質問は?」

医者「……どうして人間の言葉が話せるんだ」

魔物「そうですね、さぞ不愉快でしょう。
ですが、さほど珍しいことではありませんよ。
私以外にも、話せる者はいくらでもいます」

歴史学者「アナタ以外の方はどちらにいらっしゃるのですか?」

魔物「残念ですが、お話しできません。
アナタ方が部下の安全を脅かさないとも限りませんので」

勇者「部下?魔物に序列があんのかよ」

魔物「ええ、私は他の魔物とは待遇が違います。
ですから、一応序列はあるのでしょうね」

医者「くだらない。どうやってタケオに媚売ったのかは知らないが、所詮魔物は魔物だ。
部下じゃなく手下の間違いだろ」

魔物「そうですね、確かにアナタの言う通りです。
他の魔物と私は理想的な上下関係ではありません。
ですが、タケオに媚を売ったと言うのは間違いです」

歴史学者「あの、少なくとも我々は争いに来たわけではありません。
ですから、詳しくお話を聞かせて頂けませんか」

魔物「いいでしょう。どうせ私だけでは、アナタ方にはかなわない。
月でも見ながら話しましょうか」

一旦切ります。
読んでくれてる方、こんな遅くにすいません。
ありがとうございます!

レスありがとうございます。再開します。

ここから先はもうちょっと鬱です。

すいません、データが飛びました……。
もう少し待ってください。

今度こそ再開します。すいません。

魔物「まず、私がなぜ他の魔物を部下と呼ぶのか。
お話ししますよ」

勇者「そんなのどうせ、人間のケンゼンな上下関係に憧れてっからだろ」

魔物「大体あってますよ。手下と呼ぶにも、私はあまりに彼らを知らなさすぎる。
だから、せめて呼び方だけでも部下としておこうと思っているのです。
本当は部下でも手下でも、なんでもないのですがね」

医者「他の魔物と自分を分けて話すのはやめろ。
自分が特別だとでも思ってるのか?」

魔物「実際に特別なんですよ。私は彼らのボスですからね。
タケオを脅し、魔物を農場で働かせているのは私ですから」

勇者「なんだと!?」

歴史学者「……失礼ですが、アナタはとてもそんな風には見えませんよ」

魔物「ですが、そういう事になっているんですよ。
ここで働いてる魔物達も、そう信じている」

医者「……言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうだ。
アンタは一体何者なんだ?」

魔物「スケープゴートってやつですよ。
魔物が働いていることが露見すれば、私が責任をとらされる。
魔物は悪質な生き物ですからね。皆、私が首謀者だと信じて疑わないでしょう」

勇者「お前はちっとも悪くなくて、悪いのは全部タケオってか。
魔物ヤローがよく言うぜ」

魔物「いえ、私も悪には代わりありません。
何年もタケオに付き合わされて、仲間がこき使われてるのも見て見ぬふりを決め込んできた。
きっと、私にもいつか報いがあるのでしょうね」

歴史学者「あの……話せと言ったくせになんですが、どうしてそこまで話して下さるんですか?
私達がこの話を外に広めれば、アナタもタダじゃすまないのでは?」

魔物「ええ……ですが、私も疲れたのでしょうね。
もう彼に振り回されたくはないのです。
私は今の暮らしまで壊して欲しくはなかったのに……それすら叶いそうにありませんから」

歴史学者「どういうことですか?」

魔物「タケオは魔物を使って、この街を完璧に自分の支配下におく気でいます。
そしていずれは、王都も奪うつもりでいるのですよ」

歴史学者「そんな……」

医者「自分は被害者みたいな口ぶりだな。
アンタはそんなこと反対すれば良いじゃないか。
それとも反抗出来ないように、人質でもとられているのか?」

魔物「カンの鋭い方だ。私の故郷を人質にとられています。
逆らえば皆殺しにするとね」

医者「……」

魔物「ですが、それも15年も前の話ですよ。
もう……私は故郷など、どうでもよくなってしまった」

勇者「なら、街を支配するなんてこと、やめさせろよ」

魔物「そんなこともどうでもいいんですよ。
私はただ、今の暮らしを続けたかった……。
しかし、彼にこんな話をしても通じる訳もない。
昔のタケオなら、少しは聞く耳も持ったでしょうがね」

歴史学者「もしかしてですけど、街を支配するなんて言い出したのは、彼が離婚してからではないですか?」

魔物「よくご存知で。
彼は離婚後はネジが一本飛んでしまったようです。
昔は酒を酌み交わしたりもしたのですがね」

医者「酒だって?」

魔物「彼は私を友だと……そう思っているのではないかと考える時期もありました」

勇者「友?アンタと人間が?」

魔物「おかしいと思うでしょうね。私も自分で錯覚だったと思ってます」

歴史学者「あの、それでも友だと思うきっかけがあったのですよね?
ぜひ、聞かせて下さい」

魔物「なんてことない、私がタケオを助けたんです。
うっかり命を救ってしまった。
ただ農場で働かされていた暮らしから、タケオの身代わりとして豪華な家に住めるようになったのも、そのおかげです」

勇者「うっかりねぇ……」

魔物「とっさに体が反応して、気がついたら助けていただけなんですよ。
ですが、タケオは喜んでいました。
「変わった奴だな、俺が死んだ方が都合が良いだろうに」と。
それからはたまに顔を見せるようになり、私とボードゲームまでするようになり、しまいには結婚相手まで紹介された。
私は友になったのかもしれないと、思っていました」

医者「フン……ふざけたことを。
アンタ自分でなに言ってるのか分かってるのか?
自分を虐げていたやつと友情だなんて、キレイ事が過ぎるだろ」

魔物「それは簡単に説明できますよ。他の魔物への優越感があったんです。
誰だって特別扱いされたら嬉しいでしょう?始まりはそんなものですよ。
ですが、三年前までは友情があるものだと思い込んでいました」

勇者「……なにかあったんだな」

魔物「彼が結婚すると言い出した頃です。どうやら彼は妻の言いなりになっているようだった。
だからタケオに言ったんですよ。「アイツはお前の財産を狙っているだけだ」と。
すると彼は言いました。
「魔物のお前に何が分かる。知った風な口を聞くな」とね。
彼が想像するより重い一言だった」

勇者「……」

魔物「彼はそれから離婚を決意するまで、私のもとへは来なかった。
そして現れたかと思えば、妄想のように下らない野望を語ったんです。
王都を支配なんて出来るはずはないのに、夢を見ているような口ぶりで言いました。
「この国を魔物の国にしてやる」と。
私はとめましたよ。でもタケオには私の声は届かなかった」

勇者「……」

魔物「そんなこと、これっぽっちも望んでいないのに……私にはなにも出来やしない。
ねぇ、みなさん。こんな人生になんの価値があったのでしょうね」

勇者「……」

医者「……」

歴史学者「……価値はあったんじゃないでしょうか」

魔物「……」

歴史学者「きっとアナタは彼にとって、ただの魔物ではなかったのだと思いますよ」

魔物「適当なことは仰らないで下さい。
アナタには分かりませんよ」

歴史学者「そうおっしゃらずに聞いていただけませんか。
確かにタケオはろくでもない人間のようです。
魔物を魔物だと切り捨てて、心を踏みにじるようなことを平気でする。
ですが、アナタのことは大事に思っていたのかもしれませんよ」

魔物「なにをバカなことを……。
アナタには魔物と切り捨てられることの辛さが、どれほどか分かっていないんです。
私にとっては一番触れられたくないことだった。
トラウマと言ってもいいほどにね」

歴史学者「そう、うっかりとはいえタケオはそこに触れてしまった。
タケオ本人も相当焦ったはずです。
だから、怖くてアナタに会いに来れなかった。
友だったと言うなら、アナタにも分かっているはずです」

魔物「……」

歴史学者「アナタの言う通り奥さんとは別れるべきで、結局別れることになった。
アナタが正しかったことは分かったけど、その後のアナタとの関わり方が分からなかった。
きっと、タケオは怒られることも謝ることも、極端に苦手な人間なのでしょう。
だからアナタから責められずに、それでいて関わっていたくて、バカらしい態度をとり続けたんです」

魔物「……まるで見てきたような口ぶりでですね。
なにを根拠にそんなことが言えるのですか」

歴史学者「この街や王都を支配するという戯言です。
アナタが言う通り、小さい子が空想するような内容でしょう。
実際に出来るはずがないのに、タケオは踏み切ろうとしている。
私には大きな子供が大金をはたいて、駄々をこねているようにしか思えませんよ」

魔物「……」

歴史学者「アナタもきっと分かっていますよね。
タケオさんはアナタと友達でいたいんです。
アナタなら怒らないでいてくれると、信じていたいんですよ」

魔物「……」

勇者「……それがホントなら、ずいぶん自分勝手なヤローだな」

歴史学者「確かにな。だが、タケオはきっと、自分のことを本気で止めて欲しいとも思ってるんだと思うぞ。
矛盾しているが」

魔物「……身勝手な人なんですよ、あの人は。
だから、私は疲れてしまった……。
私はタケオを止める気概など、持ち合わせてはいません。
彼に付き合う気もありませんしね」

歴史学者「……」

魔物「15年という歳月がどれほど長いか、アナタ方には分からないでしょうね。
生まれたての赤ん坊が15才になるんですよ。
そのとても長い間、私は振り回されてきたんです。
私にはもう……本当に疲れてしまったんだ」

医者「……」

勇者「……」

魔物「どうですか?こんな話をされて、不愉快でしょう。
斬り捨てて頂いても構いませんよ」

歴史学者「そんな……我々は争いに来たのではないんですよ」

魔物「なら、なにをしに来たんです?
こんな夜更けに、私を励ましに来てくれた訳ではないでしょう」

歴史学者「なにをと聞かれると、やっぱり困りますね」

勇者「……他の魔物にも会わせろ。用件はそれだけだ」

魔物「会うだけでよろしいのですか?」

勇者「俺は……確かめたいことがあるだけなんだ」

魔物「まぁ、いいでしょう。話を聞いてくださったお礼です。
ついてきて下さい」

スタスタ

医者「……確かめたいことってなんなの?」

勇者「…………今は話せません」

医者「そう……」

歴史学者「……」

スタスタ


ガチャ

魔物「カギは開けました。……どうぞ」

歴史学者「アナタは一緒にいらっしゃらないのですか?」

魔物「ええ。私がいても、なんにもならないでしょう?」

医者「……中はどうなってるんだ」

魔物「檻の中に2~3人ずつ魔物が捕まっています。
鉄格子には近づかない方がいいでしょう。
アナタ方のためにも」

歴史学者「……この中に魔物が……」

勇者「ビビってんなら帰れ。
入るのは俺だけでもいいんだ」

歴史学者「ビビってはいるさ。
だが、ここまで来たら、帰るわけにはいかないだろう。
現実からただ逃げてちゃ、歴史学者の名折れだ」

勇者「あっそ、よく分からねぇな。
先生も無理はしないで下さい」

医者「大丈夫、俺は俺でお目当ての相手でも探すさ」

勇者「……そうですね。
じゃあ、行きましょう」


ガチャ


歴史学者「……!」

勇者「……」

医者「……」

スタスタ

魔物達「……」

歴史学者「……」

医者「……」

スタスタ

魔物達「…………」

勇者「……」

スタスタ

ピタッ

勇者「……」

医者「ど、どうした?」

勇者「……俺は……」

魔物達「……」

勇者「俺は……アンタらのせ」

歴史学者「母さん……っ!!」

勇者「えっ?」

医者「母さん……?」

魔物女「……」

歴史学者「そんな……」

勇者「なぁ……母さんって……」

魔物女「まさか……!」

歴史学者「……」

魔物1「……おいおい、感動のご対面ってやつか?
全く、外でやれよなぁ!」

魔物2「ホントだぜ、今何時だと思ってやがるんだ!」

勇者「うるせぇ、黙ってろ!」

魔物1「ちっ……クソ野郎共が……」

魔物2「……」

歴史学者「母さん……私のことが分からないか?」

魔物女「なに言ってるのよ……分かるに決まってるじゃない。
大きくなったわね、エリカ」

歴史学者「……」

魔物女「ちゃんとご飯食べてる?結婚はしたの?
それに……ああ、ごめんなさい。アナタに聞きたいことが沢山あって」

歴史学者「……ご飯なら食べてるよ。
母さんと居たときよりちゃんとね」

魔物女「……そうよね。きっと私のことも恨んでるでしょう。
アナタにはなにもしてあげられなかった」

歴史学者「いいや、色々してもらったよ。
ご飯はいつも菓子パンを買って貰ってたし、裸で立たされたこともあったね。
アザが出来ないように私を殴るのは楽しかった?」

魔物女「……」

歴史学者「……ごめん、こんな話をしたかった訳じゃないのに……。
もし、もう一度会えたら、ちゃんと話をしようと思ってたんだ」

魔物女「そう……」

歴史学者「今の私なら、母さんを理解してあげられる。
あれから私は色んなことを勉強したんだ。
少しでも母さんのことを知れば、憎しみも無くなるんじゃないかと思って」

魔物女「憎しみ?」

歴史学者「そうだよ。初めはなかなか、理解しようなんて思えなかった。
正直、殺してやりたかったよ。
毎日、母さんを殺す夢を見てた」

魔物女「……」

歴史学者「でもね、小さな心理学の本を買ったんだ。
そこには、不安の裏返しで、人に辛く当たることもあるって書いてあった。
そのとき思ったんだ。
母さんも辛かったのかもしれないって」

魔物女「……」

歴史学者「ちょっと読みかじっただけだけど、心理学の本のお陰で色んなことが分かった。
平行して魔物の研究もして、母さんのことを理解しようとした。
そうしたらね、憎しみがかなり収まったんだ。
そして、母さんと話したいと思うようになった」

魔物女「……私も、アナタと話したかったわ。
捕まったりしなかったら、もっとアナタと居られたのに」

歴史学者「……10年前、母さんを通報したのは私なんだ。
まじない師として、この街の人達を先導して、タケオにけしかけたでしょ。
私は母さんが恐ろしくて……ごめん」

魔物女「そう、やっぱりね。アナタだったの。
そんなに私が怖かった?」

歴史学者「……言葉じゃ言い表せないほどにね。
毎日、目が覚めるのが辛くて仕方なかった。
父さんも庇ってはくれなかったし、警察は薄笑いで帰っていくだけ。
刃物振り回してる相手と「仲良くやってくださいよー」なんて、へらへらするだけだったものね」

魔物女「そうね……通報されるほどのことをしてたもの。
仕方ないわ。アナタはなにも悪くない」

歴史学者「……」

魔物女「悪いのは私よ。アナタやアナタのお父さんを、深く傷つけてしまった。
後悔してるわ」

歴史学者「母さん……」

魔物女「私だって今まで苦労したのよ。
色んなことがあって、色々なことを考えたわ。
アナタに会えたらどんな話をしようって、いつも考えてた。
ただ、私はもっとアナタと一緒に居たかったわ。
お父さんのこともアナタのことも愛していたのに」

歴史学者「……ッ!」

歴史学者「……愛していたなんて、軽々しく言わないでくれ。
私も苦労してきたんでね。少しは理解してるつもりだよ。
でも、母さんが言うのはおかしいんじゃないか」

魔物女「どうして?嘘はついてないわよ。
檻に囚われるような生活でも、アナタを忘れることはなかった。
アナタは大事な子供だもの」

歴史学者「やめてくれ……。
自分に酔うのはやめたらどうだ。
母さんだって、本当は下らないって分かってるだろ」

魔物女「そう?自分に酔ってるのはアナタじゃないかしら。
私に憎しみを持ってるって言ったわよね」

歴史学者「言ったよ……当たり前だろ」

魔物女「私はアナタのために、色々してあげたはずよ。
勉強も教えてあげたし、病気になったら看病もしてあげた。
一緒にお菓子を作ったこともあったわよね。
なのに、そんなに私が嫌いなの?」

歴史学者「やめろ……!アンタは私のことなんて何も考えていなかった!
いつも自分の都合で私を振り回しただけじゃないか!なのに……!」

魔物女「自分の都合で?そう言うなら、私だって振り回されたわ。
アンタは手のかかる子供で、いつも親を試すようなことばかりしたわよね?
お店に連れていけば、レジの内側まで入ったし。
忘れてないでしょ」

歴史学者「……小さかったからだ!アンタはそのあと私になにをしたのか覚えてないのか!?
小さい子のイタズラに本気で怒って、私の首をしめたんだぞ!そりゃ、死にはしなかったが私は」

魔物女「……いい加減にしろ。お前が私に文句言う権利なんてないんだよ」

歴史学者「……!」

魔物女「死にはしなかった?そりゃそうよ、殺す気なんてないもの。
アンタに飯食わせてやってたのは私なのよ。
ちゃんと育ててやったのに、アンタ頭おかしいんじゃない?」

歴史学者「……飯は毎日、菓子パンだけだっただろ。
ブロックの箱に、何枚ポケモンのシール貼ったと思うんだ。
未だに私は、あのパンに触ることも出来ないんだぞ」

魔物女「何回もご飯作ってあげたわよね。
それに色んなところへ連れていってあげたじゃない。
アンタはちっとも楽しそうな顔しなかったけどね。
他人の子供だったら、そんなにブスッとしてるやつ、絶対に育てないわ。
アンタ、なにか勘違いしてない?
どうして、アンタが私を憎むの?」

歴史学者「私は……虐待されて育ったから……」

魔物女「ははは……ふざけんじゃねぇよ」

歴史学者「……!」

魔物女「なんか言うとお前はいつもそれじゃねぇか。
本当に成長しねぇやつだなぁテメェは。
なにが、母さんを理解できるだ……。
のこのこ顔見せやがって!」ガシャンッ!

歴史学者「!!」ビクッ

魔物女「いいか!私はお前のこと憎んでるからな!
謝ったって許す気はねぇ!こんなクソみてぇな扱いされて、ただで済むと思うなよ!
聞いてんのか!」

歴史学者「……」ガタガタ

魔物女「返事をしろクソガキ!恨んでるって言ってんだよ!
テメェが私を恨むなんて、お門違いも良いところだって言ってんだ!
聞こえてんだろクソ女!」

歴史学者「……」ガタガタ

勇者「おい、しっかりしろ。……もう、こんなとこ出るぞ」

グイッ

歴史学者「……」ガタガタ

魔物女「テメェ、覚悟してろよ!必ず天罰が下るからなぁ!
平和になんて生きていけると思うなよ!」

医者「あんなの聞かなくていい、行くよ」

勇者「しっかりしろよ!逃げるぞ」

歴史学者「……」ガタガタ

魔物女「絶対に幸せな生活なんて送らせねぇからな!
必ずお前も同じ目に合わせてやるよ!
それにお前は私のガキなんだ!お前も子供を虐待するだろうな!
ろくな生活は送れねぇと思え!クズ女!」

ギィ バタンッ

魔物「どうされました?大きな声が聞こえましたが」

歴史学者「……」ガタガタ

勇者「しっかりしてくれ、もう大丈夫だから。
……もうアイツはいねぇから」

医者「落ち着いて、深呼吸してごらん?
ゆっくり息を吐き出すんだ」

歴史学者「…………ッ!」

ダッ!

勇者「お、おい!」

歴史学者「……」ダダッ

医者「待って!」

ダダダッ

歴史学者「……ハァ……ハァ……!」

ダダダダッ

歴史学者「ハァ……ハァ……!うぅ……」

ダダダッ

歴史学者「うっ……うぅ……ぐっ……ハァ……!」

ダダッ ズテッ!

歴史学者「うぐっ!……ハァ……ハァ……!うぅ……ううう……」ギュッ

タタタッ

勇者「おい!大丈夫か!?」

歴史学者「……」

医者「どうした!?」

歴史学者「…………」

勇者「先生、どうですか!?」

医者「大丈夫、生きてるよ。ただ……」

歴史学者「……」

勇者「……」

医者「……」

歴史学者「…………ははっ、私はバカだ。クソすぎて涙が出るよ。
なんで生きてるのか分からない。もう死のうか」

勇者「おい……」

歴史学者「私はバカだろ……!?意味が分からないだろ!?
頭がおかしいからな!母親ゆずりでさ!
もう終わりだよ、なにもかも……!」

医者「……」

歴史学者「もうほっといてくれ……!そばにいないでくれ……!
お願いだから……!」

医者「……」

勇者「……やだよ」

歴史学者「……はは、はははは。こんな望みも叶わないのか。
一人にしてくれって言ってるだけなんだぞ!放っといてくれよ!
どうせ自殺なんかしねぇから!」

勇者「そんなことを言ってるんじゃねーよ。俺はお前と一緒にいたいんだ。
それに先生とも、三人で一緒にいたいんだよ」

歴史学者「うるさい!私と会って何日経ったって言うんだ!
君になにが分かる……!」

勇者「……」

歴史学者「私はずっと……あの人を理解しようと、魔物の研究をしてきたんだ。
そうすれば、憎まなくてもすむと思ったから……もう親に執着なんてしたくなかったのに……!
なんで私が恐怖を感じなきゃならないんだ!!」

勇者「……」

歴史学者「何度同じ夢を見たと思う!?何度うなされたと思う!
いつもあの人を殺して、警察から青ざめながら逃げて……!
その度に、こんな夢を永遠に見るのかって絶望するんだぞ……!

なぁ、辛いのは私だけじゃないって!?私より辛いやつがいくらでもいるってか!
そんなことは分かってんだよ!私なんて過去にこだわる鬱陶しいやつでしかないんだ!
分かってんだよ!誰より私が一番分かってんだ!」

勇者「俺もお前の言ってっことが正しいと思う。
お前の考えはまっとうだ。
……でも、俺は帰らねーぞ」

歴史学者「いい加減にしてくれ……!なんで一人にもなっちゃいけないんだよ……!」

勇者「お前のことが心配だからだよ。
俺が勝手にお前を心配してるから、一緒にいてぇんだ」

歴史学者「……ははっ、私は君に心配して貰えるような人間じゃないんだよ……。
心理学だって、あの人と穏やかに話すために勉強したわけじゃない。
寛大なふりをして、あの人より優位に立ちたかっただけだ。
母親を見下したかったんだよ。クズヤローだろ」

勇者「ちげーよ……お前はな、きっと母親に勝ちたかったわけじゃねーんだ。
まず謝ってもらって、そのあとは普通に話がしたかっただけなんだ。
親となんでもなく話すっていう、人並みの幸せを求めてただけなんだろうな」

歴史学者「セラピスト紛いのセリフはやめろ!あの人はなにも変わっちゃいなかった!
後悔も反省も……なにもないんだぞ!なにもないんだ!
人一人の人生をめちゃくちゃにしておいて、まだ私を責める!平気な顔で!
私を憎んでるだって!?
私は……私はアイツを殺してやりたい………………!」

医者「落ち着くんだ。あんなののために君が手を汚すことはないよ」

歴史学者「ははっ!先生には分かりませんよ!私がどんな気持ちで今日まで生きてきたか!
今日のためだけに生きてきたようなもんなのに……終わったよ、全て……」

医者「……」

歴史学者「終わりなんだよ……もういいから……今だけはほっといてくれ……!」グッ

勇者「……いやだっつってんだろ。俺も先生も、ここから動く気はねぇよ」

歴史学者「じゃあ、なんだ……また諭す気か?
君のカウンセラーみたいな言葉なんか、私みたいなクズに届きはしないんだよ」

勇者「違う。一緒にいるだけだ」

歴史学者「……うっとうしいやつだな、君は。
君になにが分かるんだ。私の気持ちなんて分かるわけないだろ……」

勇者「確かに、俺には分からねぇ。俺は両親に会ったこともねぇしな」

歴史学者「……!」

勇者「きっと俺じゃなくても、誰にもお前の苦しみは分からねぇんだろうな。
だけど、俺はお前が辛そうな顔してんのは、なんか嫌だ。
泣いてる顔見んのも、なんか嫌だ。
理屈抜きで、俺まであのババアが嫌いになるぐらい、すっげー辛いんだよ。
だから、泣かないでくれ。頼む」

歴史学者「……君が辛いかどうかなんて知るか。
今、私が辛いんだ。もうほっといてくれって言ってるだろ」

勇者「いやだね。俺、お前を泣き止ませたいんだ。
泣き止んだお前と、先生と俺とで、一緒にいてぇんだもん。
お前も俺もちょっとでも辛くなくなるように、三人で一緒にいたいんだ。
先生も一緒に居てくれますよね?」

医者「ああ……それで少しでも助けになるなら、俺も逃げないよ」

歴史学者「…………お人好しだな、君達は。
私は君達を利用してるだけなんだぞ。
そうでもなければ、あの街から逃げられなかったから……それだけなのに……」

勇者「正直、お前はクソヤローだよ。
俺にたかるし、ズケズケ質問しやがるし、無神経なボケナスだ。
だけど、クズじゃねぇ。
一緒に居ても、そんなに悪くねぇなと思うしよ」

歴史学者「……」

勇者「だから、いつまでもメソメソしてねぇで、一緒に帰ろうぜ。
さみーし疲れたし、俺は宿に帰りてぇの。
お前と先生と三人でな」

歴史学者「……」

勇者「なぁ、いつまでも畑なんかにいたってしょうがねーだろ。
いいから乗れって」

歴史学者「……」

ギュッ

歴史学者「……変なところ触るんじゃないぞ。
触ったら耳食いちぎるからな」

勇者「はぁ?誰が触るかよバーカ。
気持ち悪ぃな」

医者「二人ともカバン貸して。俺が持つから」

勇者「あ、はい。ありがとうございます」スッ

医者「ほら、君も」

歴史学者「……」

…スッ

医者「じゃあ、帰ろっか。俺も疲れたよ」

勇者「あれ、そういやどっから入ってきたんだっけ。
……マジで分からん」

医者「多分あっちの方じゃないか?ほら烏瓜があるし」

勇者「あの赤い縦長のやつっすよね。
でもあれ、こっちにもあるんですよ」

医者「うーん、どっちかな」

歴史学者「人が……」

勇者「えっ?」

歴史学者「……今、向こうの壁のところに誰かいたぞ」

勇者「あっ、ホントだ。
まさか、入ってきちまったのか?」

医者「ちょっと待って。……あっちにも沢山いるよね?」

勇者「なんでこんなに人が……。
あ!あれ飯屋の店長じゃねぇか!」

歴史学者「あの私達を追い出した店長か?」

勇者「そーだよ、まず間違いねぇ。
ちょっと話聞いてくっから、お前は先生と待ってろ」

歴史学者「ああ……分かった」

医者「気をつけてね」

勇者「はい、すぐ戻ってきますから」タッ

タタタッ

店長「……」

勇者「おい、アンタ飯屋の店長だよな?」

店長「な、なんだ急に。誰だ?」

勇者「アンタが追い出した客だよ。
あのウザいヤローごと、俺達まで追っ払っただろ」

店長「ああ、あれはすまないことをしたな。
あの人の事を勘違いしてたから、つい……」

勇者「勘違い?なんの話だよ」

店長「あの人から直接聞いてないのか?
あの雑誌記者だって名乗ってた人、本当はクラショーの人だったんだ。
それならそうと、最初から言ってくれればいいのにな」

勇者「クラショーってなんだよ」

店長「おい、まさかなにも知らないでここに来たのか?
説明があったはずだが」

勇者「俺達は自力で入ってきたんだよ。
アンタらが使ってるあの穴は、俺が入るために空けたやつだ」

店長「なにを言ってんだ。
あれもクラショーの人が用意したものだろう」

勇者「まぁいい……。アンタらはなんでこんなところにいるんだよ」

店長「……なにも知らない奴に話す気はない。
帰ってくれ」

勇者「まーた説明なしで追い返すのか。嫌なやつだな」

店長「そもそも来てくれと頼んだ覚えもない。帰れ」

勇者「ふざけんな、アンタらがなんのつもりでいんのか聞くまで」

モクモク

勇者「……ん?」

ここで切ります。

なぜかずっと返し忘れてたレスに答えます。今ごろすいません。
勇者の知識のムラについてですが、勇者の出身の村の人は、あえてなにもない生活をしているという設定があります。
補足程度にストーリーの最後の方で理由は明かしますが、そんなに複雑な理由ではありません。

読んでくださってる方、ありがとうございます!

知的障害者………言葉にすると重たいですね。
言い訳したいことは色々あるんですが……でも、ストーリーから感じ取ってもらうしかないです。
すいません。
一応ですが、勇者が障害者という設定はありません。
そのくらい世間的に弱い方に入るとは思います。

あと医者の見た目についても、なんとなくの説明しかいれる気がないので、読んでも納得はいかないかもしれません。


全体的にちょっとでも分かりやすくと思って、デフォルメしまくってるので、なんとなくの雰囲気で読んで頂ければなーと思います。
レス嬉しいんですが……ショックだったので書き込んでしまいました。
分かりにくい内容ばっかりですいません……。

勇者は地頭は悪くないけど知識が欠けてるタイプに見えるよ

瑣末にこだわって筆が止まっちゃうよりかは気にせず勢いよく書いてってほしいな
話が面白いんだし

あ、連投になるけど

この辺が気になるなーって感想は、自分の場合ぶっちゃけ先を読みたい的な意味だから
あんま深く取らなくて大丈夫

>>226
>>227
気を使わせてしまってすいません。
でも、勇気でました!いちいち豆腐メンタルで申し訳ないですが、頑張ります!

ちょっと書けたので再開します。

勇者「なんだ?なんか燃え……てる!」

店長「ああクソッ!こうなったら仕方ない、お前も来てもらうぞ」ガシッ

勇者「なにすんだよ!一体どういうつもりだ!」

店長「みんな、手伝ってくれ!部外者がいた!」

市民1「部外者だって!?」

市民2「捕まえてどうすんだよ!」

店長「役員に引き渡す!
とにかくこのまま帰すわけにはいかないだろ!」

市民3「確かに……仕方ねぇな」

ゾロゾロ

勇者「ざけんな!全員すっこんでろ!」

バッ!

市民1「うわっ!?」ズテンッ

市民2「ギャッ!」つるん

店長「お前らなにやってんだ!」

勇者「オッサンもあっち行け!」ドンッ

店長「うおおっ!?」ツルルッ

ズテッ

店長「チクショ!?な、なんだこれは!」ズルッ

勇者「早く戻らねぇと……!先生!」

タタタッ

医者「大丈夫か!?君が襲われてるのは見えたんだけど、なにもできなくて」

勇者「それでいいんです、俺なら大丈夫ですから。
それより、俺は向こうへ戻らねぇと」

歴史学者「戻るだと!?なんでまたあんなところに……!」

勇者「向こうでなにかが燃えてんだろ。
アイツら魔物のとこにまで火ぃつけるつもりかもしれねぇ。
俺は止めに行かなきゃならねぇから」

歴史学者「……そんなの放っておけばいい。
君が危険な目に遭うことないじゃないか」

勇者「お前な、あんなことぐらいで負けてんじゃねぇよ。
お前は魔物の味方で、俺と先生は魔物の敵だ。
俺ももうちょっとブレねぇで考えてみるから、お前もブレるなよ」

歴史学者「……なら、君はどうして魔物を助けに行くんだ」

勇者「お前のためだよ。誰がなんと言おうとな」

歴史学者「……」

医者「じゃあ、俺達はどうしたらいい?」

勇者「そうですね……逃げられるか分からないし……。
俺と一緒に来てくれませんか。絶対守りますから」

医者「足手まといにはなりたくないけど……仕方ないね」

勇者「お前も頼む」

歴史学者「……行けばいいんだろ?行くよ」

勇者「そうか、じゃあ走るぞ!」

ダッ

歴史学者「全く……」

医者「また筋肉痛かな……」

タタタッ


タタタッ!

勇者「おい!テメェらなにやってんだ!」

市民5「えっ!?」

市民6「な、なんだ君達は!」

勇者「それはこっちのセリフだ!
……そこのクソ男も、なにしてやがんだ」

記者「フフフ……こんばんは、ボクちゃん。それにご両親も」

医者「どうしてアナタがここに……」

勇者「こいつ、クラショーとかいうのに所属してるみたいですよ」

歴史学者「クラウン商会だと……!」

記者「そのとおり、愛と幸福を売ってまーす」

医者「どうして記者だなんて嘘をついたんですか?」

記者「仲間を探すためですよ。
クラウン商会って言うだけで、顔をしかめる人もいますから。
ほら、奥さんみたいにさ」

勇者「なんだかよく分からねぇが、一体なにをするつもりなんだよ」

記者「俺は商品を売るだけだ。
そして動作確認のために、立ち会ってるんだよ」

勇者「向こうの方が燃えてるのも、お前らの仕業か」

市民7「アナタ達には関係ないでしょう?
なんでこんなところにいるのよ」

勇者「お前らが怪しいことしようとしてっから、止めに来たんだよ」

記者「うっわ、そんなめんどくさいことすんなよ」

勇者「ふざけんな、お前らがなにもしなきゃいいんだよ」

記者「なにもしないでなにが変わる?
タケオのせいで、タケオ以外の農家の皆さんは、それはそれは貧乏なんだぜ。
それをボクちゃんが変えられっか?」

勇者「それは……俺の」

記者「ボクちゃんの金だけじゃ無理。
魔物を殺して手に入れた金なんかじゃな」

勇者「……!」

記者「さぁ、みなさん。どんどん燃やしちゃって下さい。
いくら使っても料金は変わりませんから」

市民8「お、おう」

勇者「させるかよ!」

バッ!

市民9「わっ!」ツルンッ

市民10「うわぁっ!」ズテッ

ツルルッ

医者「これは……なにをしたの?」

勇者「地面をゲル化したんです。
氷より摩擦係数を低下させたんですよ」

歴史学者「分かりそうでよく分からないな。
なんで私達は大丈夫なんだ?」

勇者「俺たちのとこは水分を蒸発させてっからな。
だから、あんまりここから動くなよ」

記者「ふーん……魔法か」ガサガサ

ポシュンッ

記者「よいしょっと」

スタッ

勇者「なっ……!」

市民11「アンタ、それは……」ズテッ

記者「ご希望とあらばお売りしますよぉ。
五万円でございます」

市民12「早くまいてくれ!」ツルッ

記者「かしこまりましたぁ。ぱぱっと」

ポシュウッ

市民13「あ、立てる……」スタッ

市民14「ふぅ……」スタッ

勇者「どういうことだ……テメェ、どうやって!」

記者「秘密だ。俺達はこういう事が出来るし、なんでも知ってっぜ。
ヨウコさんのこともな」

勇者「なんだと……!!」

記者「ほら、さっさと燃やして下さいよ。
彼は俺が抑えておきますから」

市民15「は、はぁ」

勇者「テメェ……どうして俺の母親の名前を……」

記者「なぜでしょう!今話してやろうか?」

勇者「……!」

記者「まぁ、ボクちゃんが俺たちの仲間になるなら、だけどな」

勇者「仲間だと?」

記者「俺は自分の意思でクラショーにいる。他の奴らも強制された奴は誰もいない。
まぁ、きっとボクちゃんも参加したくなると思うよ?」

勇者「ふざけんな……!調子にのるんじゃねぇぞ!」シュバッ

パリリッ

記者「これは氷の魔法ってやつ?でも無駄っすよ」

ポシュンッ!

勇者「氷が消えた……!」

記者「これは魔法を無効化するんだよ。
欲しいなら、一本五万で売ってあげるよ?」

勇者「いるか!この野郎……!」

ボオオオッ!

勇者「なんだ!?」

ゴォオオ!

医者「建物が……!」

歴史学者「……!!」

市民16「お前らがいつまでもグダグダやってっから、俺が燃やしてやったぜ」

記者「おお!よくできました!」

市民16「……」

ゴォオオオ!!

歴史学者「そんな……」ガクッ

勇者「諦めんな!こんな火……!」パリッ

パリリリッ!!

医者「やった……!」

記者「どうかな?」

ピキッ ピキキ

勇者「クソッ……ォオオオ!」

パリリリッ!

記者「頑張るねぇ。氷の魔法って疲れるんじゃなかったっけ?」

勇者「…………!」

ピキッ パキパキ
ボンッ!

勇者「!!」

メラメラ……ゴォオオオ!

勇者「嘘だろ……」

医者「魔法でも駄目だなんて……」

記者「さぁ、あと三十秒もすれば丸焦げですよぉ。
ボトルを使うタイミングを間違えないで下さいね。
すぐに原子がプラズマ化しちゃいますから」

市民17「プラズマ?」

記者「はい、だからよぉくタイミングを計らないとダメっすよ。
それより良いのかなぁ。お客様方は、この農場を乗っとるつもりなんでしょう?」

市民18「……これ以上なにをしろって言うんだ。
タケオは始末したし、ここの魔物達だって……」

記者「俺が言ってるのは、目撃者のことですよ。
この人達やさっきの魔物も始末するべきでは?」

市民19「……!」

市民20「……」

勇者「クソ……させねぇよ!」

バッ!

市民21「ぎゃあ!」ツルッ

市民22「またっ!」ズテンッ

勇者「逃げっぞ二人とも!」

歴史学者「……」

勇者「しっかりしろよ、学者ヤロー!」

歴史学者「あ、ああ、そうだな。走ろうか」

医者「ここから動くと滑るんじゃ……」

勇者「足元だけ蒸発させますから行きましょう!」

記者「全くしつけぇな」

ポシュウッ

勇者「……!」

バッ! ツルルッ

勇者「さっ、今のうちに!」

医者「ああ!」

歴史学者「……」

タタタッ

記者「……ホントにしつけぇ。クソヤローが」

ポシュウッ

市民23「ほっ……」スタッ

市民24「……」スタッ

記者「あ、マズイ。
早くボトルを使って下さい。死にますよ」

市民25「あ、ああ」ポイッ

ぼしゅぅぅぅ……


タタタッ

勇者「クソッ……なんでこんなことに……!」

医者「あ!なぁ、あっちに魔物が!」

勇者「えっ!?あれはさっきの……!」

歴史学者「あ、ああ、縛られてるな」

勇者「……仕方ねぇな。助けに行ってきます!」

医者「えっ、ちょっと!」


タタタッ バッ!

市民26「うおぉっ!?」ツルンッ

勇者「立てっ!逃げっぞ!」グイッ

魔物「えっ……」

タタタッ


勇者「お待たせしました!行きましょう!」

医者「君は本当に凄いな……頼もしいよ」

勇者「ありがとうございます。
じゃあ、もう一回塀に穴空けますから、飛び込んで下さい」

医者「分かった」

魔物「……?」

歴史学者「……」

スッ

勇者「全員通ったな!?穴消すぞ!」

フッ

医者「これからどうする?」

勇者「どうしましょう……俺、分かりません」

医者「そうだね、宿屋でかくまってもらえれば一番いいんだけど」

勇者「そう、っすね……そうできれば……」

歴史学者「……どうした?」

勇者「なんでも……な…………」フラッ

バタッ

歴史学者「おい!?」

医者「どうしたんだ!しっかりしろ!」

勇者「」

医者「おい!」



ーーー


勇者「うぅ……」

歴史学者「先生!」

医者「ああ」

勇者「う……あれ、ここは……」

医者「宿屋だよ。マリちゃんにかくまってもらった」

勇者「なんで俺寝てたんだ……?」

歴史学者「覚えてないのか?
タケオの農場から抜け出した直後に、君は突然ぶっ倒れたんだ。
先生がここまで抱えて走って来たんだよ」

勇者「えっ……!マジですか?」

医者「うん……ちょっと死にそう……」

勇者「……すいません」

歴史学者「それに、君が助けた彼も無事だぞ」

勇者「彼?」

魔物「……お礼を言うべきでしょうね。ありがとうございます」

勇者「ああ、お前か……別に礼なんていらねぇよ」

歴史学者「しかし、突然ぶっ倒れるのはやめてくれ。本当にびびったぞ」

勇者「仕方ねぇだろ。ああ、アゴいてぇ」

医者「扁桃腺が大きく腫れてたからね。どうしてこんな……」

勇者「ああ、昔からこうなんですよ。
魔法使い過ぎると倒れたり喉が腫れたり。
でも、すぐに元に戻りますから」

医者「そう?でも……」

勇者「心配しないで下さい。魔法でなんとかなりますから」

医者「うーん……」

ガチャッ

マリ「みなさーん、サプライズご飯ですよ。
じゃーん」

歴史学者「おお!これオデンじゃないか!
買ってきてくれたのか?」

マリ「違う違う。屋台のおっちゃんが、なにも聞かずにくれたんよ。
みんなで食えって」

歴史学者「あの屋台の人か……優しそうな人だったもんな。
一緒に食べましょうか」

魔物「私は別に……」

マリ「なんだ、ノリ悪いなー。
オカマおじさんは?」

医者「お、俺はいいから、みんなで食べて?
ほら、君も貰いなよ」

勇者「……」

マリ「なによ……。なんでそんな目で見るの。
そんなにオデン嫌い?」

勇者「……」

マリ「ねぇ、一体どうしたのよ……」

勇者「…………誰を殺した?」

マリ「!!!」

歴史学者「殺した……?」

医者「……?」

魔物「……」

勇者「……」

マリ「…………へぇ、アンタよく分かったわね」

歴史学者「そんな…………。
まさか、オデン屋のおじさんを襲ったのか?」

マリ「はっ、なんでそんなことすんのよ。バカじゃないの?」

歴史学者「だって殺すって……冗談なんだろ?」

マリ「……」

勇者「……血のにおいがすんだよ……。
誰をやった。父親か?」

医者「……!」

マリ「……そうよ。それにあの女もね。
これで清々したわ」

歴史学者「バカな……!そんな嘘つくんじゃない!
なに言ってるか分かってるのか!」

マリ「分かってるに決まってるじゃない!
……アイツは、母親が死んだのは、私のせいじゃないって……言ったのよ……!」

歴史学者「なに……?」

マリ「……私が9才の頃、母親は死んだのよ。
あの頃の私は虐待されてんのに父親が好きで、アイツの手下だった。
無理矢理じゃなくて、進んで言うことを聞いてた」

歴史学者「……」

マリ「私は……アイツと一緒になって母に暴力をふるった。
アイツがいなくても、母を殴った。
あの日も私は、どうでもいいことで母を蹴った。
そうしたらどうなったと思う?
……母は死んだよ」

医者「……」

勇者「……」

マリ「アイツは私が殺したんだと罵った。
日常的な暴力と、最後のきっかけになったのも私だと、全てを私のせいにした。
私は自分が殺人犯だと思って生きてきた……ずっとね」

歴史学者「……」

マリ「でもね、家出を決意して、さっき宣言しに行ったら言われたのよ。
『全て俺が悪いから、出ていかないでくれ。母さんのこともお前のせいじゃない』って。
フフフ……私のせいで死んだんじゃないってさ。
五年間抱えてきた物はなんだったんだろうね。
ただの病死だってさ」

歴史学者「マリ……」

マリ「なんで私ばっかり、こんな目にあわなきゃならないのよ。
……そう思ったら刺してた。刺しちゃったよ。
もう終わりだね」

勇者「……二人の死体はどこだ?」スクッ

マリ「……一階の奥よ。包丁も刺さったまま、放置してる……」

勇者「そうか、分かった。
先に言っとくが、誰もこの部屋から出るなよ」

医者「ちょっと、一体なにをする気なんだ?」

勇者「……お願いだから聞かないで下さい。
うまくいったら話しますよ。
だから、今はオデンでも食べてて下さい」ガチャッ

バタンッ

医者「もう……」

マリ「……」

魔物「……」

歴史学者「……とりあえず、オデンを食べよう。
先生もそこの人も強制ですよ」

医者「うーん……分かったよ」

魔物「……」

マリ「私は……」

歴史学者「いいから今は彼に任せて、言う通りにしようじゃないか。
はい、これマリの分な」カチャッ

マリ「……」

医者「彼、大丈夫かな……。さっきまで意識失ってたのに……」

歴史学者「はい、先生の分ですよ」カチャッ

先生「う、うん」

歴史学者「はい、これはアナタの」カチャッ

魔物「……」

歴史学者「じゃあ、いただきまーす」

モグモグ



ーーー


医者「……」

コンコン

医者「なぁ……」

シーン

医者「……」コンコン

シーン

医者「……」ガチャ

ギィッ

勇者「……」ガッ!

医者「うわっ!
……な、なんだ、良かった」

勇者「なにがですか」

医者「いや、また倒れてるんじゃないかと思って。
ずっと戻ってこないから、みんな心配してるよ」

勇者「用件はそれだけですか」

医者「いや……一旦休憩したら?って言いに来たんだよ。
オデン以外にも、俺がご飯作るからさ」

勇者「今はいりません」

医者「そんなこと言っても……顔が真っ青だよ?
ちょっとぐらい休憩したって」ギィッ

勇者「やめてください」ガッ!

医者「……」

勇者「これ以上開けないで下さい。
なにも見たくないでしょう?
俺が村でなにしてたかなんて、知りたくないでしょう?」

医者「でも……」

勇者「お願いだからみんなといてください。
もうすぐ終わりますから。
俺なら大丈夫ですから」

医者「……」

ギィ バタン

医者「…………」



ーーー


医者「お待たせー、サンドイッチが出来たよー」

歴史学者「おお!私ツナがいいです」

医者「ごめん、一種類しかないんだ。
まぁ、みんなで食べようよ」

マリ「私はさっきのオデンがまだ……」

医者「大丈夫よ、だらだら食べても良いんだから。はい」スッ

マリ「うーん……」

歴史学者「おっ、女性恐怖症は克服したんですか?」

医者「そうね、ちょっと慣れてきたみたいだわ」

歴史学者「……まだダメそうですね」

医者「はい、アナタも」スッ

魔物「……」

歴史学者「なんだか素っ気ない厚みですね」

医者「あはは……。でも、これはちょっと自信作なんだよ。
さ、食べてみて」

歴史学者「あれ、ウマイ!」パクパク

マリ「なにこれ、梅?」

医者「そうよ、梅の種をとって潰したやつを、みりんで溶きのばしたの。
パンにはマーガリンを塗って、それを挟んでみたわ」

歴史学者「すごいな……めちゃくちゃウマイですよ」パクパク

マリ「まー、悪くないかな……」パクパク

魔物「……」モグモグ

医者「うん、やっぱりおいしい。
自画自賛だけど」パク

歴史学者「先生、おかわり!」

医者「じゃあ、俺の分食べる?」

歴史学者「いただきます」パクッ

マリ「はぁ……なんだかなぁ」

歴史学者「どうした?」

マリ「……こんなに平和でいいのかね。
なんだか全部、悪い夢でも見てたみたいでさ」

歴史学者「……」

医者「今はそれで良いんじゃないかしら。休憩ってことで、ね。
アナタもゆっくりして下さい」

魔物「休憩ですか……ですが、私はもう……。
タケオもいなくなった今、どうしたらいいのか……」

医者「とりあえず、梅パン食べましょう。
ささやかですが、お詫びの気持ちでもあるんです。
私は……魔物を誤解してた面もあるようですから」

歴史学者「先生……」

魔物「……」

医者「価値観が全て変わった訳ではありません……。
ですが、アナタは憎むべき相手ではなかったようです。
失礼な態度ばかり、申し訳ありませんでした」

魔物「……いいんですよ、慣れてますから。
でも、謝られたのは初めてです。
生きてると、こんなこともあるものなんですね」

マリ「そりゃあね。生きてれば色々あるでしょーよ。
美味しいサンドイッチ食べれたりね」

医者「あら、やっぱり美味しい?うれしいわ」

歴史学者「あーあ、もっと食べたいな。
これはなんなんです?」

医者「これは彼のだよ。
戻ってくるまで、とっておこうと思って」

歴史学者「そうですか、いただきます」

マリ「やめなさいよ。私の食べかけあげるから」

歴史学者「いいよ、我慢するから。
……大丈夫かな、彼」

マリ「うん……」

魔物「……」

医者「……あ、足音が」

ガチャッ

勇者「……あー、疲れた」フラフラ

歴史学者「……」

医者「……大丈夫か?」

勇者「とりあえず横にならせて下さい……」フラフラ

ボフンッ

勇者「あー……」ゴロン

マリ「……」

医者「……」

歴史学者「……」

ここで一旦切ります。

明日はあまり投稿できないかもしれません。
ですが、ちょっとずつ頑張ります。
読んでくださってる方、ありがとうございます!

おっつ!

梅サンドの味が想像できねえ……

レスありがとうございます!

>>246
母の母いわく、駄菓子の梅ジャムに似ているそうです。

再開します。

ちょっとテスト

「♪」

医者「あ、オデンとサンドイッチがあるよ。
食べる?」

勇者「えーと……サンドイッチは食べたいです」

医者「はい」

カチャッ

勇者「うん……ああ、ウマイ」ぱくっ

歴史学者「ずいぶん疲れたみたいだな」

勇者「そりゃあ疲れんだろ。
生き返らせるのはキツいからな」

歴史学者「生き返らせたのか……!?」

マリ「……!」

勇者「そうだよ、もうさすがにねみーわ」

医者「まさか、そんなことまで出来るなんて……」

勇者「俺は勇者ですから。なんでも出来ますよ」

マリ「……ははは、アンタたち本気?生き返らせられる訳ないじゃん。
アンタら神様かなんかなの?」

勇者「……」モグモグ

マリ「ねぇ……冗談よね?そんなバカなことってないわよね?
だってせっかく殺したのに……」

勇者「冗談でも嘘でもねぇよ。俺が生き返らせたんだ」

マリ「意味分かんない。
どうもおかしいと思ってたけど、アンタたち本当にイカれてんのね。
マジで気持ち悪いんだけど」

勇者「信じなくてもいいけどよ。
お前は殺人犯じゃなくなった、それだけだ」

マリ「じゃあ、なにか?またアイツらと過ごせっていうん?
やっと解放されたのに、また同じ毎日を続けろってこと?」

勇者「そりゃ、逆に無理だ」

マリ「どういうことよ……」

勇者「お前と顔合わせちまうと、アイツらまた死んじまうんだよ。
だから、お前とはもう暮らせねぇ」

マリ「ねぇ、バカみたいなことばっかり言うのやめてよ。
私、疲れてんの」

勇者「俺も疲れてっから、もう休ませてくれ。
ふわぁーあ……」ゴロン

マリ「ちょっと、ふざけないでよ!
アンタ一体なにしたのよ!」

勇者「もう話しただろ……。
俺が起きるまで、お前は部屋から出るなよ…………」コテンッ

マリ「なに寝ようとしてんのよ!ねぇ!」ゆっさゆっさ

勇者「……ぐー」

マリ「もう、なんなのよ……!」

歴史学者「……とりあえず、私達も寝ようか。
マリも明日になってから考えよう、な?」

マリ「……」

医者「俺は床で寝るから、マリちゃんはベッドで寝ていいわよ。
アナタは、ソファでもいいですか?」

魔物「ええ……構いませんよ」

歴史学者「いや、私がソファで寝ますから、アナタはベッドで寝て下さい。
私、ソファの方が眠れるんで」

魔物「……どちらでも良いですよ。
気にしないで下さい」

歴史学者「じゃ、私はソファで寝ますからね。
みんな、一旦寝ましょう」

医者「じゃあ、隣の部屋から布団持ってこないと……」スタッ

マリ「……」

歴史学者「マリ……、寝よう?」

マリ「……」

魔物「……生きていれば色々ありますからね。
どうやら私も君も、辛い1日だったみたいだ」

マリ「……アンタも街の人に追われてたんだっけね。
住んでたとこが燃えたんだっけ?」

魔物「ええ……、私の人生が燃えたようなもんですよ」

マリ「なら、私なんかを気遣わなくていいよ。
アンタも辛いんなら、気遣ってる場合じゃないでしょ」

魔物「……私も辛いからですよ。
だからこそアナタの顔を見ていると、冷静になってきてしまいましてね。
つい、声をかけたくなったんです」

マリ「あっそう。悪いけど私は同族嫌悪するタチなんよ。
だから、ほっといて」

魔物「……」

ガチャッ

医者「はい、これ。君の分の布団」

歴史学者「ありがとうございます。じゃあ、私は先に寝ますから。
マリもベッドで寝るんだぞ」

マリ「いいからさっさと寝て。私のことはほっといて」

医者「……電気は豆にするからね。おやすみ」

パチッ

マリ「……」



ーーー


チュン チュン

勇者「うぅ……ふわぁー」ムクッ

医者「おはよう、気分はどう?」

勇者「うん……まぁまぁっす」

医者「それは良かった。
うどんがあったから、焼きうどんを作ってみたよ。
みんなが起きたら食べようと思ってさ。
君も食べるだろ?」

勇者「うーん……えっ!?下に降りたんですか!?」

医者「ま、まぁ……台所は一階だし」

勇者「……マリの父親たちは見かけました?」

医者「いや、早い時間だったから。コソコソ作ってきたよ」

勇者「そうですか……」

歴史学者「うーん……なんだよ、うるさいぞぉ」ゴロン

勇者「お前も起きろよ。もう朝だぞ」ゆっさゆっさ

歴史学者「やめてよー……まだねむいー」

勇者「マリとオッサンも起きろー。焼きうどん食おうぜ」

医者「オッサン……」

マリ「……ん、朝?」

魔物「……」

勇者「じゃあ、俺はトイレ行ってきますから、とり分けといて下さい」

医者「えぇ……うん、頑張る」

歴史学者「……なんかいいにおいがするー。ごはんー」コテンッ

医者「ひっ」ビクッ

勇者「あー……。まぁ、頑張って下さい」ガチャッ

バタンッ

医者「薄情……!」

勇者「じゃあ、メシ食うか。いただきまーす」

医者「いただきまーす」

歴史学者「……これ、粉チーズですよね。なんで焼きうどんに……」

医者「まずは食べてみてよ」

魔物「……」ぱくっ

勇者「おお!ウマイ」

歴史学者「あれ……美味しい!どういうことですか?」

医者「どういうことって……どう説明すればいいの?」

歴史学者「そうですね、味付けを教えて下さい」

医者「特別なものは入れてないよ。
マーガリンと砂糖と醤油と和風ダシ入れただけだから」

歴史学者「へぇー、和風のダシが粉チーズと合うなんて……」

医者「喫茶店で出してた味を真似したんだよ。
あれはマーガリンじゃなくて、バターだったけどね」

マリ「なーんか、料理の才能あるんじゃない?イケるわよこれ」

医者「そ、そうかな。ありがとう」

魔物「……いいですね。美味しいです」

勇者「当たり前だろ。先生が作ったんだから」

モグモグ

勇者「あー、うまかった」

医者「ごちそうさまでした」

歴史学者「お肉が入ってたら、もっと良かったけど」

マリ「そりゃ無理よ。ウチに肉なんてないもん」

魔物「キャベツの新鮮なシャキシャキ感が良かったですね」

医者「えっ、シャキシャキしてました?」

魔物「えっ、わざとじゃないのですか?」

医者「えっと……わざとです」

勇者「先生はテキトーなヤローですね。
美味しかったからいいですけど」

医者「……ごめんなさい」

魔物「そういうつもりで言ったんじゃないんですがね。
私はシャキシャキの方が好きなんですよ」

歴史学者「そんなことどうでもいいじゃないですか。
外はこんなに良い天気だし」

勇者「旅するには絶好の日だな」

チュン チュン

全員「……」

チュン チュン

勇者「……みんな、旅支度すっか」

マリ「……そうね、私も捕まりたくはないし」

勇者「なににだよ?」

マリ「警察に決まってんでしょ。なんたって人刺したんだかんね」

勇者「警察なんかには捕まらねぇよ。生き返らせたって言ってるだろ」

マリ「また下らないことを……」

勇者「じゃあ、ちょっと一階の方見てみろよ。
もう起きてるはずだから」

マリ「……!」

勇者「間違っても声はかけるなよ。
後ろからそっと見るだけだからな」

マリ「…………ふん、訳分かんないことばっかり。
そんなんで私が騙されっと思う?」

勇者「だから、見てみろって言ってるだろ。静かにな」

マリ「バカみたい……こんなこと……」ガチャッ

ギィ

マリ「……」キョロキョロ


店主「……」

店主の妻「……」


マリ「……!!」

勇者「な、生き返っただろ」

マリ「そんな……嘘よ……」

勇者「とりあえずドア閉めろよ。見つかっちまうから」

マリ「……」

バタンッ

勇者「だから、お前は殺人犯なんかじゃねぇんだよ。もう大丈夫だ」

マリ「……」

歴史学者「まさか、本当に生き返ってるとは……君は勇者だったんだな」

勇者「最初からそう言ってんだろ」

マリ「……でも、アイツ私の読んでた雑誌読んでるわよ。女の方は掃除してるし」

勇者「まー、そりゃ、そういう気分なんだろ。
なんでかなんて、俺には分かんねぇよ」

マリ「……本当に生き返ったの?」

勇者「俺は勇者だからな。なんでも出来んだよ」

マリ「……」

歴史学者「マリ……?」

マリ「……」

歴史学者「なぁ……」

マリ「……良かった……」ポロッ

医者「!!!」ビクッ

マリ「……」ポロポロ

勇者「お、おい、泣くなよ。先生が怯えて」

医者「うわぁああああ!!」ダッ

ダダダッ バタンッ!

勇者「あーあ……まーた風呂場に」

魔物「……どういうことなんです?」

歴史学者「彼は女性恐怖症なんですよ。
状況から察するに、特に涙が苦手みたいですね」

勇者「まったく……引きこもんないで下さいよー、先生?」

医者『アタシのことはほっといて!もーイヤッ!』

マリ「……ぷっ、フフフ……あーもう、バカじゃないの?気持ち悪い」

勇者「ホント大迷惑だな。俺、風呂に入ろうと思ってたのに……」

歴史学者「そういえば、なんで風呂はあるのにトイレはないんだ?」

マリ「風水がどうとかって言ってたよ。
私もよく分かんないけど」

勇者「あークソッ。どうすっかな」

マリ「隣の部屋のお風呂使いなよ。こっちと同じだから」

勇者「マジで?じゃー行ってくるわ」

歴史学者「私もあとで借りていいかな?」

マリ「全然良いわよ。アイツらになんか聞かれたら、テキトーに誤魔化しといて」

勇者「ああ、それなら大丈夫だ」

マリ「なにが?」

勇者「いや……なんでもねぇ。じゃ、借りっぞ」ガチャ

バタン

マリ「……あ。
アンタも入りたいなら勝手に使ってよね」

魔物「ああ、ありがとう」

歴史学者「じゃー、私達は旅支度だな。
先生も早く出てきて下さいねー」

医者『うぅ……もうイヤよ……』グスッ

ガチャッ

勇者「あー、すっきりした。次入っていいぞ」

歴史学者「あ、その前に話があるんだ。
二人だけの、お・は・な・し」

勇者「なんだよ、気持ち悪ぃな」

歴史学者「いいから一緒にこい。マリ達は待っててくれ」

マリ「はいはーい。いってらっしゃーい」

ガチャッ バタン

勇者「で、なんだよ話って」

歴史学者「ここでは駄目だ。外までこい」グイッ

勇者「おい!なんなんだよ……」

スタスタ

勇者「なにをもったいつけてんのか知らねぇが、俺は」

歴史学者「もったいつけてなんてない。
マリに聞こえないところまで来ただけだ」

勇者「……」

歴史学者「君がマリは顔を合わせるなっていうから、私が一階を歩き回って、マリの荷物を集めたんだ」

勇者「……だからなんだよ」

歴史学者「…………本当に生き返らせたのか?あの二人を」

勇者「生き返らせたっつってんだろ。何度も同じ事を……」

歴史学者「君は悪魔だな」

勇者「……」

歴史学者「でも、良い悪魔だ」

勇者「……俺は悪魔じゃねぇ、勇者だよ。
テメェもさっさと風呂に入れ」

歴史学者「そうするよ。
今、七ならべをやってたから、君が私の代わりに入ってくれ」

勇者「七ならべ?」

歴史学者「暇つぶしに、三人で遊んでいたんだ。
ルールはマリに聞けばいいんじゃないか?」

勇者「ふーん、なんだかつまんなそうだな」

歴史学者「まぁ、そう言うな」

ガチャッ

マリ「お、秘密の話は終わったの?」

歴史学者「ばっちりだ。
じゃあ、私は風呂に行ってくるから、続きは彼とやってくれ」

勇者「なんだよこれ。ハートが書いてあんな」

マリ「アンタ、トランプも知んないの?そこから説明するわけ?」

勇者「トランプ?」

魔物「トランプって言うのは遊びに使う……」


ーーー


ガチャ

歴史学者「良いお湯だったー。ありがとなマリ」

マリ「別に。それよりこのアホを殴って」

歴史学者「なんだ、ルールが分からなかったのか?」

勇者「バカにすんな。
ルールなんて一瞬で把握したっつーの」

歴史学者「じゃあ、なにがあったんだ」

マリ「こいつダイヤ止めてやがんのよ。
おかげでパスが残り一回しかないわ」

歴史学者「なんだ、楽しくやってるんじゃないか。
……あれ、先生も風呂場から出てきたんですね」

医者「うん……もうダメ……」

歴史学者「とりあえず、状況が悪化してなくて良かった。安心したよ」

マリ「これ以上は悪化しようもないっしょ。
ドライヤー使う?」

歴史学者「いいのか?助かるよ」カチッ

ブオオン

歴史学者「イロトリドリにひーかるせかいをつくーってくぅ♪」

勇者「うるせぇな、なんで歌まで歌うんだよ」

歴史学者「ドライヤー中って暇だろう?私はいつも歌いながら乾かしてたんだ」

勇者「ここはテメェんちじゃねぇだろ。
うっとうしいからやめろ」

歴史学者「ふむ、そうかい。
僕らはそーれっぞれぇに輝くCOLOR♪」ブオオ

勇者「チッ……」

マリ「いいから早くダイヤ出してよ。
私が負けちゃうじゃない」

勇者「……俺は止めてねぇよ。止めてんのはオッサンだ」

マリ「えっ、マジで?」

魔物「まさか。違うよ」

マリ「えーもう、どっちなんよ!
二人とも手札見せなさいよ」

勇者「…………そんなことより、考えなきゃいけねぇことがあんだろ。
トランプなんかに逃げてねぇでさ」

マリ「……」

魔物「……」

ブオオ パチッ

歴史学者「……私も話に参加させてもらおうか。ドライヤーはあとでも良い」

勇者「そうだな。……お前はどうするのがいいと思う?」

歴史学者「どうするか……誰もここで暮らすことは出来ないのは確かだな」

マリ「……誰も、ねぇ。
ま、うさんくさい勇者様の話を信じるなら、そうだねぇ」

勇者「お前、まだ俺のこと信じてねぇのか?
二人とも生き返らせただろ」

マリ「まぁね。顔をあわせちゃいけないっていうのも、信じるしかないわ」

勇者「じゃあ、ちゃんと考えろよ。
アンタも、これからどうすんだ?」

魔物「これから……故郷にでも帰りますよ。
私にはそれしか出来ません」

勇者「お前は?」

マリ「どっかの街に宿の売り上げ持ってトンズラするわ。
生きていけるまで生きていくよ」

歴史学者「そうか…」

勇者「……先生、ここで出番じゃないっすか?」

医者「えっ?」

勇者「オッサンはともかく、マリは行くあてがないんすよ。
お得意の勧誘のチャンスじゃないんすか」

マリ「勧誘?」

医者「ああ……君が言ってるのはトクシュクのことだろ。
俺も良いとは思うけど……」

マリ「なによトクシュクって。村の名前だっけ?」

医者「そう……あ、あの、トクシュク村に住んだ方が、君も楽なんじゃないかって……多分……」

マリ「はぁ?なんでそんなヘンピなとこなんよ」

勇者「そう言うなよ。あの村のやつら、良いやつばっかだったぞ。
俺も助けてもらったんだ」

歴史学者「しかし、トクシュクは確か、国に認可されていない村のはずだが。
本当に大丈夫なんですか?」

医者「どこかをさまよって辛い思いをするよりかは、マシだと思う。
とりあえずの間、住んでみたらいいんじゃないかな」

マリ「私はイヤよ。そんなとこに行くぐらいなら、この人についていった方がマシ」

歴史学者「そんなこと言ったって……」

魔物「私は構いませんよ。本人が本当に良いのなら」

マリ「えっ」

勇者「マジかよ。本気なのか?オッサン」

魔物「昨日寝るまでに、彼女には私の話を聞いてもらいましてね。
彼女からも話を聞きました。辛い話だった」

マリ「だからって……そんなの一時的な感情っしょ?
テキトーなこと言わないで」

魔物「……じゃあ、正直に言いましょう。
私は、アナタのお母さんを知っています」

マリ「へっ?」

魔物「そもそも私がこの街に来たのは、アナタのお母さんを追ってだった。
うろついていただけで捕まった私は、気がついたらタケオの農場にいたんですがね。
遠い過去の話です」

マリ「どういうこと……?あの女のことを言ってんの?」

魔物「違いますよ、アナタのお母さんのことです。
私は化粧とかつらとサングラスをつけて、人間のフリをしていた時期があったんです。
……そうして別の街にいたとき、アナタのお母さんに一目惚れしてしまったんです」

マリ「は、はぁ」

魔物「結局思いを伝えることはなかったのですが、アナタのお母さんとはお友達になりましてね。
アナタを見ていると、懐かしくて…… 。
だから、アナタを助けたいと思ったんです」

マリ「……たぶん私、お母さんからアンタの話聞いたことあるわ。
ハマナスにいた頃、魔物の友達がいたってね」

魔物「まさか……!魔物だと知っていたのか……」

マリ「だからこそ、アンタ達をかくまったんよ。
お母さんから話を聞いていたからこそね。
……でも、おかしいと思わない?」

勇者「なにがだよ」

マリ「だってさぁ……こんな偶然ってある?
私が困った時に、偶然お友達がたすけてくれるなんて……ねぇ?」

歴史学者「いいんじゃないか?マリがそれでいいと思うならな」

マリ「……いやいや、だって今まではだーれも助けてくれなかったんよ?
まわりには汚い人間しかいなかったんよ?
……私自身だって綺麗な人間じゃないのに、こんなの……」

勇者「いいんだよ。これは、お前が掴んだ偶然だ。
お前が俺達をかくまってくれなきゃ、今はないんだからな」

マリ「でも……こんなんダメっしょ。
私には、似合わないってかさ。
ダメなんよきっと……」

勇者「きっとお前はさ、今まで辛い思いしかしなかったから、辛いことしか現実に思えないんだろ?」

マリ「……!」

勇者「多分これからも、そう思って生きていくのかもしれないな。
幸せな人生に不安を感じて、不幸に逃げ込みたくなるかもしれないし。
過去の自分が忘れられなくて、罪悪感に苛まれるかもしれない」

マリ「突然なんなのよ……」

勇者「でもな、お前は幸せになっていいんだ。
お前がお前自身を許したくなくても、許していいんだよ。
それに父親のことも恨んでいいし、恨まなくてもいい。
少なくともそう思うことは罪じゃない」

マリ「変な宗教に引き込もうとするのはやめて。
私には、自分の過去を帳消しにするような身勝手さはないの」

勇者「だけど、これからずっと辛い顔して生きてくなんて、馬鹿げてっだろ?
辛い顔したって、お前が思う罪が無かったことになる訳じゃないんだからな」

マリ「……すごーく客観的な意見ね。
アンタん中では、それは正しくて納得できるんでしょうよ。
でも押し付けないでちょーだい」

勇者「確かに、今のは俺のエゴだ。
……でも、そうでも考えなきゃ、俺も生きてこられなかったんだ。
だから、お前もたまにでいいから思い出してみてくれよ」

マリ「でも……」

勇者「さて、じゃあマリはオッサンと行くのな。
俺達はどーします?」

医者「そうだね……どうしたらいいかな」

歴史学者「とにかく、隣の町に行かないか?
そこでこれからのことを決めようじゃないか」

勇者「隣?」

歴史学者「ああ、シモヅマという町があるんだ。
いつまでもここにいる訳にはいかないし、とりあえず移動した方が良いだろう」

勇者「じゃあ、それがいいな。もう、みんな出発できるだろ?」

歴史学者「私はオッケーだ」

医者「俺も大丈夫だよ……」

マリ「……アンタは風呂に入んなくて良いの?」

魔物「少しぐらい我慢出来ますよ。到着すればなんとかなるだろうし。
魔物の村にも、お風呂はありますからね」

マリ「あのさ……私はアンタみたいな見た目じゃないでしょ。
村の人に変な目で見られたりしない?」

魔物「大丈夫ですよ。人間と結婚して、暮らしている者もいくらでもいるから。
だから、心配しないで下さい」

マリ「ふーん……あっそ。
なら、ついていってもいいかなぁ、なんて」

歴史学者「よし、じゃあ出発するか。私が髪を乾かしてからな」

勇者「うぜーな。さっさとしろよ」

歴史学者「約束はいらーないわー。果たされないことなど大っ嫌いなのぉ♪」ブオオ

勇者「……」イライラ

ここで切ります。
読んでくださってる方、ありがとうございます。

レスいつも楽しみにしてます。
ありがとうございます。

再開します。


スタスタ

マリ「ここまでくれば、街のやつには見つかんないんじゃない?」

勇者「そうか。じゃあ、そろそろお別れだな」

マリ「アンタらは自転車あっていーわね。私達はこっから先も歩きよ」

歴史学者「まぁまぁ。じゃあ、元気でな。
またいつか会おう」

マリ「はいはーい。そっちもお元気で」

勇者「ああ。また、トランプやろうぜ」

マリ「私はイヤよ。あ、そうそう。
おじさん、梅パンと焼きうどん以外のレシピってない?」

医者「え、えっと、じゃあ今書いてみるよ」

マリ「なるべくお菓子系にしてね。生チョコなんかあると良いんだけど」

勇者「生チョコってなんだよ?」

歴史学者「生っぽいチョコレートのことだ」

勇者「チョコレートって?」

マリ「アンタそれはないでしょ。なんでチョコも知らんの?」

勇者「仕方ねーだろ。よく分からねぇんだから」

医者「知ってるのはクッキーだけなんだけど……いいかな?」

マリ「仕方ないね。材料だけ教えて」

医者「材料だけでいいなら書けたよ。どうぞ」

マリ「ふーん、ありがと。作ってみるわ」

魔物「では、また」

マリ「じゃあね」

歴史学者「ああ」

勇者「じゃあな」

医者「またいつか会いましょう」

スタスタ

マリ「あ!一つ言い忘れたわ」クルッ

勇者「なんだよ」

マリ「カズキのアンモナイト、大事にしてね。私の分も」

勇者「……ああ」

マリ「それじゃあ、さよーなら」

スタスタ

勇者「大事にするに決まってんだろ……」

歴史学者「なんか言ったか?」

勇者「別に。なんでもねぇよ」

医者「じゃあ、自転車乗ろうか。もう歩くの疲れたよ」

歴史学者「私はどっちの後ろに乗れば良いんだ?」

勇者「ああ?テメェが自分でこげよ」

歴史学者「なんだよケチ。先生は乗せてくれますよね?」

医者「いや……ちょっと無理かな」

勇者「先生は俺の後ろに乗ってください。顔色悪いですし」

医者「え、でも」

歴史学者「仕方ないな。じゃ、シモヅマに向けて出発だ!」

勇者「うるせぇよ。ま、ダラダラ行くか」

医者「次の街で自転車や服も買おうか。その方が楽だろうし」

歴史学者「いいですね。セクシーなやつ買おうか」

勇者「想像しただけでげんなりだな」

歴史学者「パーカーの勇者様に言われたくないな」

勇者「うるせーんだよバーカ」

キコキコ



ーーー


キコキコ

勇者「でな!もうそのシーンがカッコいいのなんの」

歴史学者「ちょっと待て。なんでこんな話になったんだっけ?」

医者「確か、なにを買うか話してたら、ラーメンの話になったんだよね」

歴史学者「あー、そうですね。それでみそラーメンの話をしてたんですよね、私達は」

勇者「だから、俺はマンガの話をしてんだろ」

歴史学者「そこだよ。どうして君だけ、マンガの話なんか」

勇者「だって、みそラーメンと言えばこのマンガなんだよ。
主人公がうまそうに食っててさ。
まさか実在してるとは思わなかったな」

歴史学者「実在って……食べたことないのか?」

勇者「ねぇよ。いつもうまそうだなと思って、見てただけだ。
先生の村で屋台見たときは、すげー期待したのにさ。
売ってんの焼き鳥だったし」

医者「あー、そういえば言ってたね。
どこかで食べれるところがあるといいけど」

歴史学者「私も食べたくなってきましたよ。
やっぱりイチバンはみそラーメンですよね」

医者「うーん、俺はトンコツの方が好きだなぁ」

勇者「それより聞いてくれよ。このマンガって本当に良い話でさ。
全てがスゲー深いんだ。
術の名前もカッチョいいし、セリフに適度にカタカナを使うとこなんか、本当に良い軽薄さで」

歴史学者「うるさいぞ。大体そんなマンガ、私は知らないんだよ」

勇者「……そりゃ知らねぇだろうな。いつの物かも分からねぇマンガだし」

歴史学者「そんなに古いのか?」

勇者「まぁな。全部お前じゃ読めねぇような、古代の文字で書いてあったよ。
魔王に捕まってた頃に、色んな本を解読させられてたんだ」

歴史学者「どういうことだ?なぜ魔王が古代のマンガなんか……」

勇者「さぁな、俺も未だに分からねぇ」

歴史学者「……あれ?
なら君はマンガなんかを通して、もっと色々知ってて良いはずだと思うんだが」

勇者「……」

歴史学者「いや、ちょっと思っただけだぞ。
君はあまりにも知識が偏ってるから……」

勇者「……知ってて当たり前なことを、わざわざ読者に説明したりしないだろ。
だから分かんねーとこは、読み飛ばすしかなかった。
俺は言葉を訳せば良かっただけで、理解することは求められてなかったし。
それに俺は……もうなにも知りたくなかったんだ」

歴史学者「……古代文字はどうして読めるんだ?」

勇者「村のやつらに教わってたから、読めただけだよ」

歴史学者「その時に、言葉の意味は教わらなかったのか?」

勇者「……まぁな」

歴史学者「ふむ…………なぁ」

勇者「なんだよ」

歴史学者「……君の過去について聞いてもいいか?」

勇者「はぁ?なんでだよ」

医者「……俺も聞いてみたいな。君が良ければだけど」

勇者「別に……俺は村に住んでて、滅ぼされて、魔王に捕まってただけですよ。
それだけです」

歴史学者「そうじゃなくて、もっと詳しい話を」

勇者「聞いてどうすんだよ。俺をどうしたいんだ?」

歴史学者「……嫌なら無理にとは言わない。
ラーメン屋探す方が楽しいしな」

勇者「なら、最初から聞くなよ。どうせ面白い話なんかねぇんだから」


キコキコ

歴史学者「ん、あれは?」

医者「えっ?」

歴史学者「ほら、あれですよ。なにか浮いてる」

勇者「ああ、なんか文字も書いてあんな……。
『ようこそフタエサクランドへ!』だってよ」

歴史学者「なんだろうな、あれ。
それにフタエサクランドって……」

勇者「ちょっとよってみっか。
先生もいいですよね?」

医者「ああ。俺も気になるし、行ってみよう」

歴史学者「どんなところかな」ワクワク



チャーラチャッチャー……


勇者「なんか聞こえてきません?」

医者「なんだろう。明るい楽器の音だね」

歴史学者「なんだか良いにおいもするな」

キコキコ キッ

勇者「うわ……」

歴史学者「これは……なんなんだろうか」

医者「うーん……?」

ガヤガヤ

医者「とりあえず、賑わってるね」

勇者「あっちでなんか、スゲー勢いの物が動いてますよ」

歴史学者「……ん!?あれ、人が乗ってるぞ!」

勇者「本当だ……なんなんだここ……」

ピエロ「皆さまいらっしゃいませ」ピョコ

勇者「うわっ!な、なんだよお前」

ピエロ「わたくし、ピエロと申します。公認のマスコットでございます」

医者「マスコット?」

ピエロ「さあさ、中へお進み下さい。
本日無料の大盤振る舞い。
皆さん幸せ大笑い」

医者「ちょ、ちょっと待って下さい。
ここは一体なんなのですか?」

ピエロ「移動遊園地でございます。
愛と幸福をモットーに、各地を回っているのです」

勇者「先生、移動遊園地ってなんですか?」

医者「いや……俺にも分からないな」

ピエロ「そんな顔なさらないで。ここは楽しむ場所ですよ。
皆さまの笑顔が我々のカテなのです」

歴史学者「うーん、とても興味深いな。
二人とも、中に入ってみよう!」

勇者「まぁ、俺も気になるけど……」

医者「ここにいる人達も楽しそうにしてるし、良いんじゃないかな」

歴史学者「じゃー行こう!
私はあの速く動くやつを見に行きたいな」

ピエロ「あれはオススメでございますよ。ぜひご搭乗下さい。
ただし、心臓の弱い方はご遠慮頂きます」

勇者「なんだかコエーこと言ってねぇか?」

歴史学者「まぁ、いいじゃないか。とりあえず見るだけだ。な?」

勇者「分ーかったよ。じゃあな」

ピエロ「ええ、心行くまでお楽しみ下さい。
わたくし、いつでもここにいますので、またお声をどうぞ」

医者「あのでっかいのはなんだろうね。動いてないみたいだけど」

歴史学者「いや、ちょっとずつ動いてますよ。ほら、さっきより左に……動いてるよな?」

勇者「分かんねぇよ。俺見てねーし」

スタスタ


ゴーッ

歴史学者「ぎゃああああ!」

勇者「うおおおお!」

ゴーッ

医者「大丈夫かな二人とも。スゴい音が聞こえるけど…………」

ゴーッ

歴史学者「ぎゃああああ!」

勇者「うわああああ!」

ゴー…
ぷしゅん

勇者「ハァハァ……」

歴史学者「あー……」

係員「お疲れさまでした。バーをゆっくり持ち上げてください」

勇者「……」

歴史学者「……」

ガコッ

医者「……二人とも、大丈夫?」

勇者「……」

歴史学者「……」

医者「おーい……」

勇者「……いや、これスゴいっすよ。マジでスゲーっす!」

医者「えっ?」

歴史学者「なぁ、もう一周しないか?」

勇者「行くか!先生も乗ってください」

医者「いや、でもこれ怖いよね?
それに、ジェットコースターって心臓の弱い人は」

勇者「先生、心臓弱いんですか?」

医者「そういう訳じゃないけど……」

勇者「なら大丈夫ですって!これは乗っとかなきゃ後悔しますよ。
なぁ?」

歴史学者「そうだな。これは体験するべきだ」

医者「えぇ……でも……」

係員「ご搭乗の方は座席に腰かけて、安全バーをゆっくり下ろしてくださーい」

医者「うーん……。じゃあ、俺も乗るよ」

勇者「絶対ハマりますよ。こんなクレイジーなの、なかなかありませんから」

医者「クレイジー!?ってか君、クレイジーなんて言葉をよく」

係員「それではみなさん、シモヅマの風になりましょう。
いってらっしゃーい」

ぷしゅー ガタガタガタ

医者「や、やっぱりやめようかな」

勇者「大丈夫ですって。気を確かに持って下さいね」

医者「え」

ゴーッ!

医者「いやああああ!」

医者「うう……」グスッ

勇者「スイマセンって。ホント、悪かったっす」

歴史学者「こんなに爽快感があるのにな。もったいない」

医者「もったいなくていいし……。もうムリ……うぅ……」グスッ

勇者「はぁ……あ、ほら。
あっちのゆっくりしたやつ乗りましょうよ。
なんだっけあれは……」

歴史学者「観覧車だな」

勇者「そうそう、観覧車!あれなら怖くないですよ、多分」

医者「もう、俺はいいよ……君たちだけで乗ってきなよ……」

勇者「……だとよ。どうする?」

歴史学者「やっぱり君も乗りたいよな。先生には悪いが、待ってて貰おうか」

勇者「という訳ですから。ちょっと待ってて下さいね」

医者「うん……行ってらっしゃい」

スタスタ

係員「二名様ですか?」

歴史学者「ええ」

係員「一つだけ注意を。ドアは係りの者が開けますので、絶対に開けないで下さーい」

歴史学者「分かりました」

係員「では、どうぞ空の旅をお楽しみ下さい」

スタッ ガチャ

勇者「おお、乗ってみるとはえーな」

歴史学者「すごいな、もう景色が良いぞ」

勇者「うわ……さっき乗ったやつも、スゲー小せぇ」

歴史学者「あ、先生が見えるぞ。おーい」ブンブン

勇者「スゲー、手ェ振ってくれてんな!おーい!」ブンブン

歴史学者「おーい!
……ふふ、なんかいいな、こういうの。
手を振ってくれる人がいるってさ」

勇者「……そうだな。下に戻ったら、もうちょい先生に優しくしよ」

歴史学者「しかし、やっぱり遅いな。まだ前半だろ?やることないじゃないか」

勇者「景色見りゃ良いだろうが。
ほら、あっちで洗濯物干してるやついっぞ」

歴史学者「それ景色じゃないだろ。退屈だなぁ。
あ、じゃあ自己紹介でもするか」

勇者「はぁ?」

歴史学者「私は好きな色は赤で、好きな食べ物はどら焼きだ。君は?」

勇者「……俺は好きな色は青で、焼き鳥が好きだ。
これでいいか?」

歴史学者「そうか。じゃあ、今度真っ青な焼き鳥を作ってやろう」

勇者「真っ青?もっとウマイのか?」

歴史学者「全く、予想通りの反応だよ」

勇者「ん?」


ーーー

係員「お疲れさまでしたー」

歴史学者「いやぁ、意外と良かったな。
また機会があったら乗ろう」

勇者「なんだよ、退屈だとか言ってたクセに。
先生、お待たせしました」

医者「なんだか楽しそうで良かったよ。手振ったの見えた?」

勇者「ええ、バッチリ。ちょっと嬉しかったです」

医者「そっか、よかった。じゃあ、次はどうする?」

歴史学者「あの占いの館ってとこに行きませんか?いかにも怪しそうだし」

勇者「怪しいとこなんて行ってどうすんだよ」

歴史学者「今日の運勢でも占ってもらえばいいじゃないか。
先生も行きたいですよね?」

医者「あ、うん。あれよりは怖くなさそうだしね……」

勇者「やだなぁ、根に持たないで下さいよ。じゃ、行くか」

スタスタ

歴史学者「お、魔法使いみたいなのがいるな。いかにもって感じ」

勇者「運勢を占ってもらうって、具体的になにがどうなるんです?」

医者「君にとって、物事の巡り合わせがいいか悪いかを予測してもらうんだよ。
まぁ、当たるかどうかは分からないけどね」

勇者「ふーん、そうなんですか」

スタスタ

歴史学者「こんにちは。ここはなに占いをして頂けるんですか?」

占い師「ほほほ、ウチは水晶玉の上に手をのせるだけじゃよ。
そうすれば、幸運が訪れるんじゃ」

歴史学者「なんだか占いって感じじゃないんですね」

勇者「うさんくせぇ婆さんだな。幸運なんてさ」

医者「ちょっと!……あはは、すいません」

占い師「ほほほ、お疑いなら乗せてみればええ。
坊っちゃんからにするかえ?」

歴史学者「そうだな、早くやってみろ」

勇者「なんでだよ。お前が先にやれよ」

歴史学者「いーから君が先にやれ。
イチバンは譲ってやる」

勇者「へっ、ビビりが。こんなことで、なんか起きるわけねぇだろ」

スッ

勇者「ほら、置いたぜ」

占い師「ほほほ、だんだんと気分がよくなってきたじゃろ」

勇者「別にこんな……!」

歴史学者「どうした?」

勇者「なんだこれ……スゲェ……!」

歴史学者「なにがどうしたんだ。早く教えろ」ワクワク

勇者「なんか胸がすっきりしていくんだよ。
まるで、ずっと悩んでた問題が解決していくみたいだ」

歴史学者「そんなバカな。私をからかってるのか?」

勇者「ちげーよ。ホントにモヤモヤがすっきり」

医者「聞いてくれ。今すぐ水晶玉から手を離すんだ」

勇者「先生もやりたいんですか?
でも、もうちょっと待って下さい。
今はとても」

医者「いいから早く!」

勇者「……?」

医者「壁のビラに書いてあったんだ。ここを主催してるのはクラウン商会なんだよ」

勇者「……!」

歴史学者「なんだって……!」

占い師「……」

ここで一旦切ります。
読んでくださってる方、いつもありがとうございます!

あー、クラウンって王冠じゃなくて、そっちの……

乙乙!

レスありがとうございます!

>>279
検索かけて鳥肌たちました。クラウンってピエロのことでもあったんですね。
知っててつけたんならカッコよかったんですけど……。

再開します。


パッ

勇者「クラウン商会だと……どういうことだよ婆ーー」

歴史学者(クラウン……)


ーーー

ゴオオオオ!

歴史学者『そんな……全て燃えた……』

ーーー


勇者「ーーよなぁ!……なぁ?」

歴史学者「へっ?」

医者「……どうしたの?ボンヤリしてたようだけど」

歴史学者「あ、いや、なんでもないです」

占い師「ほほほ、気丈に振る舞い続けるのも辛いのぉ。
お前たちは強がりすぎなんじゃよ」

歴史学者「別に強がりなんかじゃない。
……ただ、本当になんともないだけだ」

勇者「えっ……」

医者「……」

占い師「ほう、ならなによりじゃ。
しかし、こらからも旅を続けるのかえ?」

歴史学者「ああ、続けるとも。
私の研究が正しいと証明するためにな」

占い師「立派な心がけじゃな。
では、最後にお前達を占ってやろう」

勇者「ふざけんなよ。今さらそんなの」

占い師「お前は死ぬ。そして疑う心を手にいれるじゃろう」

勇者「はぁ?」

占い師「そこのお前は、過去を垣間見るかもしれぬ」

医者「……!」

占い師「お前は、執着と抑圧の波に漂うことになるじゃろうな」

歴史学者「…………」

勇者「なにを訳わかんねぇこと言ってやがんだ。
一体何を企んでやがる」

占い師「ワシは事実を述べたまでじゃ。
あとはお主らが決めるんじゃな。
本当にこの旅が正しいかどうかを」

勇者「いい加減にしろ!
お前らが何を企もうと、好きにはさせねぇからな。
絶対にぶっ潰してやるよ」

占い師「ほほほ、楽しみにしておるよ。
お主らの愛と幸福を祈ろう」

勇者「二人とも、こんなとこ出るぞ!ふざけやがって!」

スタスタ!

歴史学者「…………」

医者「俺達も行こう。ね?」

歴史学者「……ええ」

スタスタ

勇者「くそっ……!なんなんだよ、ムカつくな……」

ピエロ「どうされました?」ピョコ

勇者「うわっ!……突然現れんのはやめろ」

ピエロ「みなさま憂鬱なご様子。
わたくし、心配になってしまいまして」

勇者「ふん、ふざけんな。
お前らクラウン商会の奴らだったんだろ?」

ピエロ「ええ、そうですが」

勇者「そうですが、じゃねぇ!
あのクソ男の仲間なんかに、心配されたかねぇんだよ。つきまとうな」

ピエロ「……私もね、よく分からないのですよ。
クラウン商会は正義の味方じゃないんじゃないかってね」

歴史学者「……!」

勇者「はぁ?そんなの当たり前だろ!」

ピエロ「でもね、わたくしピエロでございますから。
ぜひとも皆さんに笑って頂きたかった。
笑顔でないのはよろしくない」

ぷくー ぽんっ

ピエロ「さ、これを差し上げましょう。ハート型の風船でございます」

勇者「んなの、いらねぇよバーカ!」

歴史学者「なら、私が貰おう」

ピエロ「ありがとうございます。
ではまた、ぜひお越しくださいませ。
わたくし、いつでも入り口におりますので」

勇者「……」

歴史学者「なんだ、怒るなよ。
風船ぐらい貰ってあげてもいいだろ?」

勇者「……そりゃま、好きにすりゃいいだろうよ。
先生も貰ってきたらどうですか」

医者「いや……俺は別に……」

勇者「ふん……。さっさと宿探しに行こうぜ」

歴史学者「ああ、そうだな」

医者「……」

キコキコ

勇者「……つーか、お前はクラウン商会なんて、大嫌いなんじゃねぇのかよ」

歴史学者「私は……嫌いだよ」

勇者「ならなんでその……よくわかんねぇもの貰ったんだよ」

歴史学者「……あのピエロの人の言葉が気になってな。
『クラウン商会は正義の味方じゃない』なんて、聞けるとは思わなかった」

勇者「なんでだよ。当たり前のことだろ?」

歴史学者「クラショーは、今こそ攻撃的だが、最初はただのボランティア団体だったんだ。
先生は知ってますよね?」

医者「ああ、俺は良いイメージも持ってたよ。
あんなのを目の前で見るまではね……」

勇者「マジっすか……」

歴史学者「彼らの言う愛と幸福は、当初は正しく振り撒かれていたんだ。
善意を義務と課し、自己犠牲を貫く姿を、人々は正義の味方が現れたと囃し立てていた。
まるで、聖典から抜け出してきたような存在だったからな」

勇者「なら、なんであんなふうになったんだよ」

歴史学者「……トウガサキ村の悪魔教の信者が、団体を乗っ取ったというウワサがある。
そこからおかしくなり始めたんだと……」

勇者「ちょっと待てよ。
なんでトウガサキ村のやつが悪者扱いされんだ?
トウガサキは」

歴史学者「君の村だろ。分かってる。
私はそんなウワサは信じていない」

勇者「そうじゃなきゃ困るっつーの。
なんでトウガサキが……」

歴史学者「君の村は謎だらけだからな。
今どき電気も水道もないだろ?
おまけに外との交流もないんだから、悪魔教なんてウワサをたてられるのも無理はない。
というか、ここはそういう国なんだ」

勇者「……」

医者「……いやな話だが、考えても仕方がないね。宿を探そうか」

勇者「ええ……分かってますよ」

キコキコ



ーーー


キコキコ

勇者「宿屋まだっすかぁ?」

歴史学者「もう疲れたんですけどぉ」

医者「俺に言われても……あ、ほら、あの人に聞いてみようよ」

勇者「仕方ないっすね。おーい」キキッ

村人「なんですか?」

勇者「ここら辺に宿屋ってねぇのか?
探しても全然ねぇんだけど」

村人「宿屋は知りませんね……。
あ、でも、キリーク教の宿泊所ならありますよ。
誰でもお金を払えば泊まれるはずです」

医者「それって、どんなところなんでしょうか?」

村人「調度品も少ない質素なホテルに、調理設備がついてる感じみたいです。
私もよくは知りませんが」

勇者「場所は?」

村人「国道を北に行けば、看板が出ているはずです」

医者「ありがとうございます。早速行ってみます」

村人「いえいえ。では」

スタスタ

歴史学者「国道ってさっき通ったとこですよね。
看板なんかあったかな」

医者「小さな看板だったんじゃない?大々的に宣伝してるわけはないし」

勇者「よく分かりませんが、戻るってことですか?」

医者「そうだね。もう暗くなってきたし、急いで探そっか」

歴史学者「アイアイサー」

キコキコ


キコキコ キッ

勇者「もしかしてこれか?キリークって書いてあるぞ」

歴史学者「おお、よく見つけたな。きっとこれだろう」

医者「泊まれるといいけどなぁ。野宿は辛いし」

スタスタ

受付「よう。巡礼の方?」

医者「あ、いえ。宿泊所をお借りしたいのですが」

受付「よかったなぁ。今日は記念日だから、宿泊代が半額なんだよ。
アンタらついてるぞ」

医者「そうなんですか、やっと運が向いてきたみたいです。
おいくらお支払すれば?」

受付「3000万だ」

歴史学者「はぁ!?」

医者「はい、3000万」

受付「はい、確かに」

歴史学者「なんだ3000円か……ビビった」

受付「おう、良いリアクションだったぞ。じゃあ、ついてきな」

スタスタ

勇者「あー腹減った。早くメシ食いてぇ」グー

歴史学者「とは言ってもな。自分達で作らなきゃいけないんだぞ」

勇者「えっ!マジかよ、死ぬ……」グー

医者「まぁまぁ、急いで作るから」

スタスタ

受付「部屋はここだ。知ってるみてぇだが、ウチはメシは出さねぇ。
礼拝堂の近くに売店があるからよ、自分達で作って食ってくれ」

歴史学者「あざーっす」

受付「じゃあな。用があったら呼べよ」

医者「あ、待って下さい」

受付「なんだ?」

医者「今日はなんの記念日なんですか?」

受付「俺のお誕生日だよ。家族と祝うんだ」

医者「そうですか……おめでとうございます」

受付「おう、どういたしまして。じゃあな」

スタスタ

勇者「どういたしましてっておかしくねぇ?」

歴史学者「……」

勇者「おい、どうかしたか?」

歴史学者「あ、いや、別に。早く入ろうか」

ガチャ ギィ

勇者「……」

医者「……」

バタンッ

医者「ああー、疲れた……」ボフンッ

勇者「疲れたって、俺の後ろに乗ってただけじゃないですか」

医者「そうだけど……腰とおしりが痛くなるんだよー……」

勇者「仕方ないですね。じゃー、俺がメシ作りますよ」

医者「う、うーん……」

歴史学者「いや、今日は私が作ろう。
先生、材料買ってくるのでお金ください」

医者「じゃあ、頼んじゃおうかな。これでお願い」

歴史学者「頼まれました。行ってきまーす」

ガチャ バタンッ

勇者「……なんすか。そうやって俺をバカにして。
俺だって料理ぐらい作れますよ」

医者「何が作れるの?」

勇者「えーっと、サソリのくん製とか、蜂の巣のサラダとか、マムシ酒とかですね」

医者「……きっと材料が揃わないだろうからさ、今回は遠慮しとくよ」

勇者「ちぇっ、つまんねーの……」

医者「……」

勇者「……」

医者「……あのね、ちょっと聞いてくれる?」

勇者「えっ、やっぱり食べたいんですか?」

医者「そうじゃなくて……彼女のことなんだけど。
明日二人で出掛けようと思うんだ」

勇者「急にどうしたんです?」

医者「いや、やっぱり気になっててさ……。
彼女、ずっと無理してるみたいだし、ちゃんと話を聞いた方がいいかなって。
ほら、きっと君の前だと、意地はっちゃったりするだろ?」

勇者「さぁ……俺の前だけじゃないと思いますけど」

医者「まぁ、そうだったら俺も諦めるけどさ。
とりあえず時間が欲しいんだ。どうかな?」

勇者「別に全然構いませんよ。先生は女好きですからね」

医者「……せっかく忘れてたのに。次言ったら許さないからね」

勇者「許さないって、具体的には?」

医者「……くすぐろうか」

勇者「まぁ、変態。いやだわ」

歴史学者「なにが変態なんだ?」ガチャ

勇者「おまっ、突然入ってくんなよ!」

歴史学者「まぁ、ごめんなさい。次から気を付けるわ」

勇者「……」

医者「今のは君が悪いからね。味方はしないよ?」

勇者「……フン、別に?気になりませんし」

歴史学者「あら、そお?恥ずかしい子ねえ」くねっ

勇者「なに気に入ってんだよバーカ」

歴史学者「フフン、そう照れるなよ。
あ、先生。カレーの材料とって下さい。
シチュー作るんで」

医者「全く、君も素直じゃないね」

トントントン ぐつぐつ



ーーー


医者「ああ、美味しかった」

歴史学者「我ながら良いできだったな」

勇者「まー、悪くねぇけど。でも、先生のメシの方が全然うめぇ」

医者「そうかな。俺はこのシチュー好きだけど」

歴史学者「ねー、美味しいですよね。
彼には細かい味が分からないんですよ」

医者「そう言えばなんだか不思議な味がしたね。なにを入れたの?」

歴史学者「え、いや、別に?
あっ、そーいえばあれがなんだか知ってます?」

勇者「なにを入れたんだよ」

歴史学者「あのオブジェはですね、『キリークの目』と言うんですよ。
先生はご存じでした?」

医者「壁にかかってやるやつだよね。なんかどっかで見た気がするよ。
でも、あんなに大きかったっけ?」

歴史学者「あれより大きいのもあれば、手のひらサイズのもあるんですよ。
キリーク教のお守りなんです」

勇者「それより、なにを入れたんだよ」

歴史学者「しつこいぞ!どうでもいいじゃないか、そんなこと。
それより、キリークの話をしてやろう」

勇者「そんなの興味ねーし」

医者「俺は気になるな。話してくれる?」

歴史学者「ええ、もちろん。キリークというのはですね」

勇者「……くだらねぇ。俺は寝るからな」バサッ

歴史学者「なんだよ、つれないな。
じゃ、簡単に話しますね」

医者「ああ、お願い」



ーーー


歴史学者「ーーというわけで、民の信頼を集めていたキリークは、神様からご褒美があったんです。
ひとつだけ願いを叶えてやると、お告げがありました」

医者「へぇ、それはすごいな」

歴史学者「お告げがあったことはみんなの知るところになり、色んな人がキリークの元に集まりました。
自分の願いを叶えて欲しい人が、キリークに思いを語りに来たんです。
でも、キリークはとんでもない願いをしちゃうんですよ」

医者「とんでもない?」

歴史学者「ええ。彼女は、自分と血のつながった子供が欲しいと願うんです。
生まれて初めて、自分のために願った思いでした」

医者「……」

歴史学者「その結果、彼女は世界中から怒りを買い、子供は殺されてしまいました。
彼女も子供の魂と一緒に天に上り、神様になったと。
彼女は、特に女性のための神様になったそうですよ」

医者「そう……なんだか、辛い話だね」

歴史学者「でも、話しはここで終わりではないんです。
そのキリークなんですが、この国の主流な宗教では、悪魔だとされてるんですよ」

医者「そうだよね、俺もおかしいと思ってたよ。
遠い昔に、悪女の名前として覚えたはずだったんだ」

歴史学者「ええ。身勝手な願いをした、性悪女とだけ説明があったはずです。
私もそう教わりましたし」

医者「ということはキリーク教も、もともとはひとつの宗教だったってこと?
それが宗派によって、解釈が違っちゃったとか」

歴史学者「そうなんですよ。400年前の戦争の後、解釈が180度変わってしまったんです。
私の調査では、戦争後に国をまとめた国王の仕業らしいんですけどね。
教科書には載ることがない、非公式な歴史です」

医者「へー、180度か。
結構、極端な国づくりをしたんだね」

歴史学者「ええ。魔物が魔物として扱われるようになったのも、この時からっぽいんです。
当時の記録は、ほとんど残ってないんですけどね」

医者「そうだった……君は魔物について研究していたんだよね。
お母さんのために」

歴史学者「……別に、あんなやつのためじゃありませんよ。
自分のために研究してただけです。
ホント、死んでくれて清々しました」

医者「そうかな……。本当は辛いんじゃないか?
だって目の前であんなこと」

歴史学者「先生はなにがおっしゃりたいんです?
私が清々したって言えば、そうなんですよ。
勝手にチンケな解釈しないで下さい」

医者「……」

歴史学者「……はぁ、バカみたいですね私。
本当にキリークについて聞きたいのかと、はしゃいじゃいましたよ。
もう……ちょっと出てきます」スタッ

ガチャ バタンッ

医者「……」

一旦切ります。

結構長くなりましたが、それでもまだまだ続きます。
読んでくださってる方、すいません。
本当ありがとうございます。

レスありがとうございます!
再開します。

医者「……」

バサッ

勇者「先生、なにしてるんです?」

医者「起きてたの?はぁ……」

勇者「はぁ、じゃありませんよ。
追いかけないんですか」

医者「でも……」

勇者「だから先生は駄目なんですよ。
タイミング悪すぎるし、そりゃ相手も傷つきます」

医者「……」

勇者「今から追いかけて、謝って、心配してるって素直に伝えた方がいいっすよ」

医者「……うるさいんだよ。いちいち指図しないでくれ」

勇者「えっ」

医者「あ……!いや、違うんだ!
なんでこんなこと……」

勇者「……いえ、確かにでしゃばり過ぎましたね。すいません」

医者「違うんだよ、やめてくれ。
君の言ってることは正しいんだ。分かってるんだけど……」

勇者「悪いっすけど、俺も出てきます。そこらへん散歩してきますよ」スタッ

医者「ちょっと待って」

ガチャ バタンッ

医者「…………ッ!」ドンッ


スタスタ

勇者「……」

勇者「……全く、先生はダメダメだな。俺らなんかに気ぃ使いすぎなんだよ……」

勇者「……」

勇者「……さみー。月が出てねぇと、余計さみぃな。そんな気がする」

勇者「……」

勇者「……別に寂しくなんかねぇぞ。
俺はずっと一人だったんだ。この程度、別に……」

勇者「……」

勇者(……誰と喋ってんだよ、俺。こんなに夜って暗かったかな)

シーン

勇者「はぁ……」

勇者「……」

スタスタ

男の子「……」

勇者「あれ?なんだアイツ……」

男の子「……」ガタガタ

勇者「おーい、なにやってんだよ」

男の子「……!」ガタガタ

勇者「寒いのか?」

男の子「別に……。アンタには関係ねぇだろ」ガタガタ

勇者「全く、仕方ねぇな。これ着ろよ」

男の子「は?」

勇者「穴開いてっけど、洗ってはあっから。ほら」

男の子「なんだよこれ……切れてんじゃねぇか」

勇者「ちょっとな。まぁ、無いよりマシだろ?」

男の子「……」

勇者「いーから着ろって。金とったりしねぇよ」

男の子「……」

スポッ

勇者「温かいだろ?」

男の子「別に……」

勇者「俺、パーカーって好きでさ。柔らかいし最高だよな」

ストッ

男の子「……なんで隣に座るんだよ」

勇者「暇だからお前と話そうと思って。お前も話したいだろ?」

男の子「別に……」

勇者「俺はさみしーから誰かと話してぇの。自己紹介でもすっか?」

男の子「なんでだよ……」

勇者「俺は勇者だ。お前は?」

男の子「勇者ってなんだよ……」

勇者「いーから。お前の名前は?」

ケンタ「……ケンタ」

勇者「そうか。よろしくな」

ケンタ「……」

勇者「なんかずっとつまんなそうな顔してんな。なんかあったのか?」

ケンタ「別に、なんでもねぇよ……」

勇者「そうか。ならいいけどよ」

ケンタ「……」

勇者「……」



ーーー


勇者「……」

ケンタ「……」

勇者「……」

ケンタ「……お前、いつまでここにいるつもりだよ」

勇者「えっ?どうすっかな」

ケンタ「……」

勇者「……」

ケンタ「……俺の親に頼まれて来たのか?」

勇者「そんなことはねぇけど。
俺は先生とケンカして飛び出して来ただけだ」

ケンタ「先生?」

勇者「ああ、一緒に旅してるんだけどな。……いつまでも、心許してくれねぇの」

ケンタ「……」

勇者「原因は分かってんだよ。俺が心を開かねぇのが悪ぃんだ。
……でも、怖いんだよなー。全てを失いそうで」

ケンタ「……」

勇者「どうすればいいと思う?俺、決断できねぇんだ」

ケンタ「……知らねぇよ」

勇者「そりゃそうだよな……」

ケンタ「……」

勇者「……」



ーーー


勇者「……」

ケンタ「……お前、さっき勇者だとか言ってたけど……」

勇者「ああ、勇者だぜ」

ケンタ「……」

勇者「光ってみっか?俺は勇者だから光れるんだよ」

ピカー

ケンタ「……!」

勇者「な?」

ケンタ「……くだらねぇ」

勇者「へっ、俺も同感だよ」フッ

ケンタ「……」

勇者「……」

ケンタ「……つまんねぇな。ホントに」

勇者「そうだな……つまらねぇことばっかりだ」

ケンタ「……」

勇者「……」

ケンタ「……寒くねぇのかよ」

勇者「さみーよ。お前こそ寒くねぇのか?」

ケンタ「……そりゃ、さみーに決まってんだろ」

勇者「そりゃそうか」

ケンタ「……」

勇者「……」

ケンタ「……俺のこと、ウザくねぇのかよ」

勇者「まぁ、ちょっとはな。
でも、俺も似たような状態になったことあっから」

ケンタ「……」

勇者「俺な、ずっと良い子ちゃんだったんだよ。
誰に対しても良い顔してきたんだ」

勇者「俺が物心ついたころには、母親はもう死んでた。
父親は誰だか分からねぇし。
でも、お前は勇者だって育てられて、俺の周りには村の大人たちがいた」

ケンタ「……」

勇者「勉強も頑張ったし、狩りもやったし、俺は頑張った。
そうしなきゃ、見捨てられる気がして怖かった。
俺は役に立つってことだけが取り柄だったし。
村のやつらとは、当たり障りなく接してた」

ケンタ「……」

勇者「でもな、ある日気がついちまったんだよ。
他のガキは、大人にとって役に立たなくても誉められてたんだ」

ケンタ「……」

勇者「逆立ちが出来ただけで誉められてて、俺はなんだかバカらしくなった。
俺は勇者として人には言えねぇこともやって、それでも誉められやしねぇのにさ。
もう全てがどうでもよくなっちまった。
そのくせ考えれば考えるほど、今居るところは地獄かなんかみたいに思えた」

ケンタ「……!」

勇者「唯一村で俺が望んだことはな、親の名前を知ることだった。
俺は最後の賭けにでて、教会の地下に忍び込んだよ。
そして信用を失い、なにかを知ることは罪だと思わなきゃいけなかった。

もう俺はうんざりして、とにかくそこから逃げ出したくなった。
そこ以外ならどこでもいい気がして、でもそんな気力もなくて、俺は……村が滅ぶことを望んだ」

ケンタ「……」

勇者「だから、俺は分かったぜ。お前も辛い思いしたんだろうなってな」

ケンタ「……別に、アンタと比べたらなんでもねぇことだよ」

勇者「そうか?俺にはそうは見えねぇぞ」

ケンタ「……俺はな、学校で先生に怒られなかっただけだ。
くだらねーだろ」

勇者「怒られねぇのか。……それは辛ェな」

ケンタ「……」

勇者「なんでそんなことになっちまったんだ?」

ケンタ「……最初からそうだったんだ。
ここら辺はキリーク教の信者が多いから……。
差別につながる行動をしないように、いつもビクビクしてんだよ」

勇者「キリーク教って少数派らしいからな。そんだけデリケートになんのは分かるよ」

ケンタ「でもな、生徒がなにやっても怒らねぇんだぜ?
先生と親達の対立があってから、ずっとそうなんだよ。
中にはキツいこと言おうとしてる先生もいるけど、言い訳しながら説教しやがんだ。
「俺は嫌われ役でいいんだ。本当は怒りたくなんかないけど」なんて……、知るかっつーんだよな」

勇者「そうか……」

ケンタ「俺の周りは全員グレたよ。けど、俺は頑張ってたんだ。
勉強も運動も頑張った。
周りから良い子ちゃんって言われても頑張りたかったんだ。
でもある日ふっと思ったんだよ。
これをやめたらどうなるんだろうって」

勇者「……」

ケンタ「俺はトイレ掃除をサボった。
先生はどうしたと思う?
なにも言わなかったんだよ。
もしかしたら気づかれてもいなかった。
無意味だって……思った」

勇者「……そうか」

ケンタ「バカバカしくなって、なんのやる気もなくなっちまった。
頑張りたいときも、頑張れなくなっちまったよ。
……ここから逃げ出したいと、俺も思った」

勇者「そうだよな……。そう思っても無理はねぇよ」

ケンタ「……」

勇者「……よし。じゃあここで、俺たちには何が足りないか教えてやる」

ケンタ「は?突然なんだよ……」

勇者「俺達に足りないのは、悪の心だ」

ケンタ「……は?」



ーーー


スタスタ

勇者「よっ、待たせたな」

ケンタ「一体何してきたんだよ……」

勇者「なんだと思う?じゃーん、お酒でっす」

ケンタ「……はは、バカかアンタは」

勇者「まぁ、飲もうぜ。コップも買ってきたからよ」

ケンタ「……いらねぇ」

勇者「なんでだよ」

ケンタ「……」

勇者「……あのな、一回飲んだらアル中になるわけじゃねぇから。
とりあえず今日を乗りきろうってだけだよ」

ケンタ「そんなオッサンみてぇなノリはやめろ。俺はただ……」

勇者「ただ?」

ケンタ「……とにかく酒なんかいらねぇよ。
アンタに話しただけで、ちょっとスッキリしたからな」

勇者「そうか?つまんねーの」

ケンタ「アンタだけだったよ。俺に指図しねぇのは。
ただ、誰かに一緒にいてもらうのは、初めてだった」

勇者「ふーん」

ケンタ「……アンタ、名前は?」

勇者「忘れちまった。俺は勇者だよ」

ケンタ「へっ、真面目に聞いた俺がバカだった」

スクッ

勇者「おい、どこ行くんだよ」

ケンタ「帰るんだよ。
……明日どうするかはわかんねーが、今日は帰るよ」

勇者「まー、気を付けろよ」

ケンタ「アンタもな。最近変なやつがよく出るみてぇだからさ」

勇者「お前に心配されるほどよわっちくねぇよ」

ケンタ「そうかよ。じゃあな」

スタスタ

勇者「……けっ、なんだよアイツ。結局一人になっちまった」

キュポッ トクトク

勇者「いいよ、別に俺一人で飲むから」

ゴクゴク



ーーー


スタスタ ピタッ

歴史学者「……気づいてますよ。ついてきてるのは」

医者「……」

歴史学者「ちょっとズルいんじゃないですか?
私から声かけられるの待ってましたよね」

医者「……ごめん」

歴史学者「……はぁ、本当にズルい。
ここに来たのも先生の意思じゃないんでしょう。
アイツが起きてたのも、気づいてましたから」

医者「……君の言う通り、彼に言われて来たんだ」

歴史学者「じゃあ、帰って下さい。ウソもつけない人は嫌いです」

医者「……妻にもよく怒られたよ。俺は嘘が下手だし、子供との関わり方もイマイチ分からなかった。
だから君たちを相手に、やり直そうとしていたのかもしれない」

歴史学者「……どういうことですか」

医者「俺は君たちにとって、頼れる大人でありたかった。
あの子には親としてなにもしてやれなかったから、もう一度やり直したかったんだ。
でも……それはただのエゴだったよ。
君たちにはなんにも関係ないし、俺はすごく身勝手だって気がついたんだ。ごめん」

歴史学者「……ずいぶん長い言い訳ですね。本当に謝る気あるんですか」

医者「あるけど、どう伝えたら良いか分からないんだ。
それに、君のことは本当に心配だった。
けど、俺はどうしてもうまくいかなくて……」

歴史学者「どうすればいいか?
相手の目を見て、真剣に謝るんですよ。
逃げ腰のやつにくどくど言われて、許す人はいません」

医者「…………ごめん!俺が悪かった。
お願いだから、一緒に帰ってくれない?」

歴史学者「……やればできるじゃないですか。
じゃ、仕方ありませんね」

医者「……許してくれるの?」

歴史学者「ええ、渋々ですが。
先生の過去も聞けたんで、許してあげますよ」

医者「よかったー。ホントによかった……」

歴史学者「大丈夫ですか?」

医者「うん……。でもさ、俺の過去なんて知りたかったの?」

歴史学者「そりゃあ、まぁ。先生は得体が知れませんからね」

医者「うーん……俺もね、自分でもよく分からないんだ。
何かが抜け落ちてる気がして」

歴史学者「抜け落ちてる?」

医者「もしかしたら、俺の妻と娘は」


フラフラ

勇者「うぃっく。なんだよ、ふざけやがって。
大体先生のクセに生意気なんだよなぁ。俺は勇者だぜ?なぁ」

ねこ「にゃーん」

勇者「にゃーん、じゃねぇし。
オメー、ちょっと可愛いじゃねぇか。なでさせろよ」グリグリ

ねこ「にゃっ……フギャー!」ダダダッ

勇者「お、おい。なんだよ、置いてくなよ……あーあ」

ガサッ

勇者「なんだ?」

スタッ スタッ

勇者「……へへ、不審者でも来たのか?」

スタッ ぬらり

勇者「……!」

「アウウ……」

勇者「なんだよ……なんなんだよ、お前……」

「辛いのは俺だ」

勇者「へっ?」

「一番辛いのは俺だ!!」

バキッ

勇者「がっ!?」ズザザ

ぬらり

「俺だ!俺なんだ!お前じゃない!」

勇者「お前……」

「一番辛いのは俺だ!」

バッ!

勇者「やめろ!」ガシッ

「……一番辛いのは俺なんだ!俺だ!」

勇者「やめてくれ……!そんなの聞きたくない!」

ガスッ!

「がはっ……グウウ」ダッ

タタタッ

勇者「はぁ、はぁ……」



勇者「アイツは……俺だ……」

医者「もしかしたら、俺の妻と娘は」

ダダダッ

「があっ!」ベキッ

歴史学者「ギャッ!?」ズザッ

医者「うわっ!?だ、大丈夫?」

歴史学者「イテテ……まぁ、なんとか」

「……辛いのは俺だ……」

医者「なんだ?」

「一番辛いのは俺だ!」

歴史学者「……!」

「俺が一番辛いんだ!お前じゃない!」

医者「君は……!」

歴史学者「いや、違いますよ。こんなのがアイツのはずがない」

医者「いや、分かってるよ?分かってるけど……」

歴史学者「なんででしょうね……。こんな真っ黒なチビが勇者に見えるなんて」

「辛いのは俺だ!」ガシッ

歴史学者「うおっ!離せコノヤロー!」

「お前じゃない、俺だ!」ブンッ

医者「危ない!」バキッ

「ぐえっ!」

医者「俺の後ろに隠れて!」

歴史学者「は、はい!」

「なんで……俺はこんなに辛いのに……」ポロッ

歴史学者「……!」

「なんで……」ポロポロ

歴史学者「お前……」

医者「……」スチャッ

歴史学者「えっ、ちょっと、先生!?」

医者「……」

ドンッ!!



ーーー


勇者「……ん?あれ?」

歴史学者「グー」

勇者「なんだここ……おい」

歴史学者「ん……うおっ。目が覚めたのか」

勇者「ここどこなんだよ。それになんで俺……」

歴史学者「ここは病院だ。もう外は昼だぞ。
全くいつまで寝てるんだか……」

勇者「寝てた……んだよな?」

歴史学者「さぁな。君は昨日の夜、公園に倒れてたから運ばれたんだよ」

勇者「昨日は確か先生とケンカして……そうだ、先生は?」

歴史学者「隣のベッドで寝てる。だが、先生も目を覚まさないんだ」

勇者「目を覚まさない!?どういうことだよ!」

歴史学者「バカッ、静かにしろ。他にも人がいるんだぞ」

勇者「先生になにがあったんだよ!」

歴史学者「よくは分からない。
まぁ、ちょっと喉がはれてるが、先生はただ寝ているだけだ。
落ち着いてくれ」

勇者「寝てるだけか……ビックリさせんなよ」

歴史学者「先生より、君はどうなんだ。君なんか死にかけてたんだぞ」

勇者「死にかけてた?」

歴史学者「うーん……なにから話したらいいのか。
真っ黒で小柄なやつに、心当たりはあるか?」

勇者「あっ……!そういえば俺、そいつに襲われたんだよ。
公園で酒飲んでたら突然……」

歴史学者「公園で酒……」

勇者「うっせー。今はそっちはいいだろ」

歴史学者「まぁな。それはそうと、私もそいつに襲われたんだよ」

勇者「マジかよ……」

歴史学者「……私と先生はな、そいつを君だと思った」

勇者「えっ」

歴史学者「いや、君じゃないことは分かってるぞ。
でも、君だと思った思ったんだ。
何を言ってるのか分からないだろうが」

勇者「いや……分かるよ。俺もそう思った」

歴史学者「そうか、君自身もか……」

ここまでで切ります。

この先はなんかうまくいかなかったので、もうちょっと手直ししようと思います。
読んでくださってる方、ありがとうございます!

ちょっとビミョーですが、載せることにします。
再開します。

歴史学者「……実はな、さっきこの病室の人に聞いたんだ。
ここ数日、似たような事件がいくつも起きているらしい」

勇者「俺の偽物が、ちょくちょく現れてるってことか?」

歴史学者「いや、その時それぞれで、誰の偽物かは違うみたいだ。
見た目は君や私が見た通り、黒いやつなんだが」

勇者「なんだそれ……おかしな話だな」

歴史学者「ああ。とりあえず、今分かってることが一つある。
その偽物を殺すと本物も死んでしまうらしいんだ」

勇者「本物も死ぬ?
……だから、俺も死にかけてたのか」

歴史学者「ああ……。先生がな、君の偽物を吹っ飛ばしたんだ」

勇者「えっ……」

歴史学者「私が襲われたからだぞ?
だからきっと先生は……でもな……」

勇者「……」

歴史学者「……君の偽物は泣いてたんだ。
少なくとも私は、その姿に胸をえぐられた。
なにか訴えるものがとてもあったのに……先生はよく分からない方法で、そいつを破裂させたんだ」

勇者「破裂……」

歴史学者「私にも分からないが……。その直後、なぜか君が死ぬと私たちは悟った」

勇者「……」

歴史学者「だが、君を生き返らせたのも先生なんだぞ。
先生は君のところへ、一目散に駆けていったんだ。
謎が多すぎるが、先生が手をかざしたら君は息を吹き返した」

勇者「……」

歴史学者「その代わりなのか、先生まで倒れてしまって。
仕方ないから、君たちを病院まで馬車で連れてきたんだよ」

勇者「ちっとも意味が分からねぇ。
……けど、お前が嘘をついてねぇのは何となく分かるよ」

歴史学者「そうか……ごめんな」

勇者「いや、謝んなよ。
多分、原因は俺だ」

歴史学者「いや、それは」

勇者「いいからちょっと聞いてくれ。
……なんかな、胸に穴があいてんだ。
そこにつまってたのが、あの黒いやつなんだと思う……。
訳わかんねーだろ」

歴史学者「……まぁな。でも君が嘘をついてないのも分かるよ」

勇者「そうか……」

歴史学者「……じゃあ、もう一つ分かったことを教えてやろうか」

勇者「……なんだよ」

歴史学者「現れる偽物に共通してるのが、その本物の方が移動遊園地に行ったってことなんだ」

勇者「マジか……。
じゃあ、クラウン商会がなんかしやがったんだな」

歴史学者「たぶんな。特に怪しいのは、占いのばあさんだと思う。
占いの館に行って、水晶に触った人だけ、偽物が現れているらしい」

勇者「だから俺の偽物だけなのか……」

歴史学者「……そうだな、なにがどうなってるのかは全く分からないが……。
クラウン商会はとことん怪しいからな。
君の魔法と同じくらい、うさんくさい」

勇者「はぁ?ざけんな、テメーも十分うさんくせぇよ」

歴史学者「そんなことで言い争いたいんじゃない。
それより厄介な事になったぞ」

勇者「まだなんかあんのか?」

歴史学者「あの移動遊園地について、警察が聞き込みに来るみたいなんだ。
君たちも、顔をあわす訳にはいかないんだろう?
早く、病院を抜け出さないと」

勇者「なんで警察なんかがくるんだよ。魔物が指示したのか?」

歴史学者「は?魔物?」

勇者「だってあいつら、魔物の仲間なんだろ」

歴史学者「少なくとも、私はそんな話は知らないぞ。
警察は国の機関で、悪人を捕まえるための組織なはずだが」

勇者「そうだったか?」

歴史学者「ああ。魔物の仲間だなんて、誰から聞いたんだ?」

勇者「誰からって……先生だよ」

歴史学者「…………」

勇者「……」

歴史学者「……まぁ、いい。
病院の服から着替えたら、先生を抱えてくれ。早いとこ逃げよう」

勇者「……」

歴史学者「なぁ……」

勇者「……俺の服は?」

歴史学者「君のカバンの中だ。急ごう」

勇者「ああ……」

ガサガサ

勇者「……」

歴史学者「……」

医者「……うーん」

勇者「あ、先生起きました?」

医者「あれ……警察は?」

歴史学者「来る前に逃げ出せましたよ。ってか、どうして知ってるんです?」

医者「いや、うーん、待って……。
あ、夢だこれ」

勇者「夢?……夢の中でも警察に追われてるんすか?」

医者「そうみたい、怖かったよ。
それより、俺なんでこんな服着てるの?」

歴史学者「病院から抜け出してきたからですよ。
もう、さっさと着替えて下さい。
警察に見つかっちゃいますから」

医者「……外に来てるのか?」

歴史学者「いえ、まだ。
でも、ちょっとヤバいです」

医者「どうしよう。どこに逃げるべきかな」

勇者「先生が寝てる間に話してたんですけどね。
次はハマナス町に行ったら良いんじゃないかって、こいつが」

医者「ハマナス?」

歴史学者「クラショーも気になりますが、移動遊園地もいなくなってしまったようですし。
魔物の噂を追うなら、ハマナスがいいかと思って」

医者「うーん……。ハマナスにも魔物の噂があるの?」

勇者「魔物と人間が一緒に仕事をしているようです。
にわかには信じられませんが」

医者「そう……」

歴史学者「噂だけは前から知ってたんですけどね。
私もちょっと信じられなかったので、今までお話ししませんでした」

医者「うん……」

勇者「……なんか不満があんなら、言ってくださいよー。
別に怒ったりしませんから」

医者「あ……昨日は本当にごめんね」

勇者「全然大丈夫ですって。
それよりどうしたんですか?顔が暗いですよ」

医者「…………俺ね、ぼんやり思い出したんだよ。俺の妻と娘が死んだこと……」

勇者「……!」

歴史学者「……」

医者「俺はなんで、思い出そうともしなかったんだろうね。
こんな大事なこと……」

勇者「……旅をやめたいんですか?」

医者「分からない……。俺はどうしたらいいんだろう……」

歴史学者「……焚き付けるようですが、先生は復讐のために魔物を追っているんですよね。
続行してもいいのでは?」

医者「そうだよね……。続けるべきなんだろうね、きっと」

勇者「辛いなら無理しないで下さい。俺が代わりにカタキをとって来ますよ」

医者「……いや、俺がやらなきゃ。
多分、そうしなきゃいけないんじゃないかな。
あの二人は俺の全てだったから」

勇者「……」

歴史学者「……じゃ、準備しましょうか。先生は早く着替えて下さい」

医者「あ、うん」

歴史学者「君も、その棚の荷物とってくれ」

勇者「ああ……。ん、なんだこれ」

歴史学者「あっ!!待て!やっぱり自分で」

勇者「コガネムシパウダー……?コガネムシだと!?
テメェ、なんだよこれ!」

歴史学者「ああんもう。別にいいだろ。食べてみたかったんだもん」

勇者「昨日のメシに、これ入れやがったな!
なんでテメェ1人で食わねぇんだよ!」

歴史学者「だって、1人で食べんの怖かったんだもん。
いいじゃないか、金運アップするらしいぞ」

勇者「なんにもよかねぇよ!
なにが悲しくてコガネムシなんか……このクソヤロー」

歴史学者「まぁ、これは私が悪いな。すまん」

勇者「覚えてろよ、ボケナス女。必ず仕返ししてやっからな」

歴史学者「そう怒るなよ。意外と美味しかったじゃないか」

勇者「テメェのそういう態度が気に食わねぇんだ!」

医者「まぁまぁ、落ち着いて。俺も準備出来たよ」

歴史学者「じゃー、出発しましょうか。
ほら、すねてないで行くぞ」

勇者「いつかぜってーぶっ飛ばす……」

ギィ バタンッ



ーーー


男「ーー聞こえてない?おーい」

女「いくらその名で呼んだって、私は振り返らないよ」

男「でも、こうやって返事はしてくれるじゃない」

女「ふん……。私なんかは名無しの魔物で十分だろ」

男「君がそう言うならそれでいいよ。ただ、たまに俺に付き合ってくれればそれでいい」

女「今のは最後のお遊びだよ。これからは一切お断りだ。
二度とその名前で呼ぶんじゃない」

男「あら、つれないね。せっかく薬を持ってきたのに」

女「もったいつけて、さっさと渡さないお前が悪いんだろ。早くよこしな」

男「奪い取りに来てもいいんだけどね。前みたいに」

女「……」

男「……悪かった。そう暗い顔するなよ。
俺は……少しは頼って欲しいだけなんだ」

女「私を襲った犯人に弱音を吐けってかい」

男「……」

女「……ふん、そっちこそ辛気くさいツラはやめな。
私にはアンタへの恨みはない。あるのは酷い頭痛だけだよ」

男「……そんなに酷いのか?」

女「ああ、頭が割れそうだ。スポッと取り替えたいぐらいだよ」

男「……」グスッ

女「いちいち泣くな!お前が聞いてきたんだろ!?
いい加減その顔やめないとぶちのめすよ!」

男「はいはい、悪うございました。
……ま、それ飲んでしっかり休んでちょーだいよ」

女「フン、私は魔王様の手下なんだよ。休んでなんかいられないね」

男「でも、まっちゃんは休んでていいってさ。
むしろ休んでくれって」

女「……まーったく、魔王がそんなんでどうするんだか。
で、その手に持ってるやつはなんだい」

男「いやさ、ついに新しいお面が完成したのよ。
これ、すげーよくない?」

女「ダサい」

男「そこがいーんじゃない。こういうダサくてセンスの欠片もないデザイン、俺は好きだな」

女「私はイヤだよ。のしつけてお返ししといてくれ」

男「えー、いいのになぁこれ。
……じゃ、君はゆっくりしててね。俺が君の代わりにパパパッと片付けてくるから」

女「お前なんかに私の代わりは無理だよ……賭けてもいい……」

男「賭けるって、なにを?」

女「名前……お前を名前で……呼んでやる……」

コテン

男「……あらまぁ、凄い睡眠作用だこと。それとも副作用か……」

女「グー」

男「……俺の名前なんかどうでもいいからさ、名前で呼ばせてくれよ。
それか……出来ることなら、俺より先に死なないでくれって。
頼むから……」

女「グー……」

男「…………じゃ、行ってくるよ。仕事するフリしてくるね」ガチャ

バタン

女「……バーカ」


スタスタ

魔王「……」

男「おや、魔王様。ここへ来てもパフェはありませんよ」

魔王「……ダサくてセンスの欠片もなくて悪かったな」

男「あら、立ち聞きしてたの?やぁねぇ」

魔王「やぁねぇ、じゃねーよ。
なにが名前で呼ばせろだ……バーカ」

男「いいじゃない。俺、彼女のこと大好きなんだもの」

魔王「俺だって好きなんだよ。あとから割り込んできたくせに、図々しいな」

男「あとから割り込んだのはアナタ。
まぁでも、彼女のことを殺そうとしたのも俺だけどね」

魔王「……」

男「あら、優しくなったじゃないの。まさか、追い打ちかけなくなるなんて」

魔王「うっせーよ、バーカ。さっさと勇者連れてきやがれ」

男「いいともぉ」

魔王「じゃ、俺は寝顔の写真でも撮ってくっか」

男「まぁ、なんて小汚ない。焼き増ししてね」

魔王「いいから早く行けよ」

男「行ってきまーす」

魔王「はいはい」



ーーー


キコキコ

医者「そーいえば、自転車買うの忘れてたね。次の街で探そうか」

歴史学者「やっぱりメタリックな赤がいいな。
燃えるレッド!って感じが好きなんで」

勇者「お前はコガネムシでも食ってろバーカ」

歴史学者「しつこいぞ。さっきからそれしか言ってないじゃないか」

勇者「うるせぇ、コガネムシヤロー」

医者「全く、会話が不毛過ぎるよ。もうそろそろ許してあげたら?」

勇者「……チッ、先生に感謝しろよな」

歴史学者「ありがとうございます。このご恩はそれなりに忘れません」

医者「すぐ忘れていいって。
あ、境界の看板だ」

勇者「ホントだ。ハマナスって書いてありましたね」

医者「そうだね。今回はすぐに宿が見つかるといいな。
お風呂に早く入りたいし」

歴史学者「先生はシチュー作ってる間に入ったじゃないですか」

医者「まぁ、そうだけど……昨日は色々あったから」

勇者「……」

歴史学者「……あ、誰かいますね。宿の場所聞いちゃいましょうよ」

医者「ああ、それがいいね。すいませーん」

「……!」

医者「ちょっと宿の場所をお聞きした」

「先生!先生ですか!?」

医者「へっ?」

「私のこと覚えてます!?私ですよ!」

医者「え、えっと……」

勇者「なんだこいつ」

「あ、ごめんなさい。つい、嬉しくなっちゃって。
私のこと思い出せません?」

医者「ええ……申し訳ありませんが」

「敬語……そんなぁ……」

医者「えっと……」オロオロ

勇者「結局、誰なんだよお前は」

女医「……トクシュク出身の精神科医です。先生とは産婦人科医になるって約束してたんですけどね」

医者「えっ……!ってことは、まさかあの」

女医「思い出すの遅いですよ、もう」

医者「いや……凄くキレイになったね。全然分からなかったよ」

女医「やめてください、本気にしちゃいますよ?」

医者「いや、ホントだって。
……でも、懐かしいな。なんで精神科医になったの?」

女医「最初はちゃんと産婦人科医を目指してましたよ。
だけど、子供を産んだお母さんの、精神的なサポートをしたくなりまして。
まだまだトクシュクには帰れそうにないです」

医者「そうかー、進む道を自分で決めたんだね。応援するよ」

女医「ホントですか?私、先生との約束が胸のつかえだったんですよー。
本当に会えて良かったです」

医者「俺も会えて嬉し」

勇者「ずいぶんとお二人で楽しそうですね。俺達、先に宿に行ってましょうか」

医者「いやいや、そんなこと言わないで。今、紹介するから」

女医「ごめんなさい。悪気はなかったの」

勇者「フン……紹介なんていりませんよ。ちゃーんと分かってますから。
その人のことが好きになっちまったんでしょ」

医者「なっ……!なんでそんなこと言うんだ!」

勇者「なんすか急に……。怒鳴ることないでしょう」

医者「俺は誰かを簡単に好きになったりはしない……!
妻と娘がいるって言っただろ!
二人が死んでたって、俺は……っ!」

女医「先生、落ち着いてください!きっと、彼にも悪気はないですよ」

医者「…………」

勇者「……ケッ、くすぐるんじゃなかったんですか?
先生はいっつもそうですね。もう、ウンザリですよ」

医者「……」

勇者「やっぱり一緒に旅するのはやめましょう。お互いのためです。さよなら」ガチャッ

シャーッ!

歴史学者「おいっ!……先生、どうします?」

医者「……」

女医「……ちょっと診療所で休みましょうか。そうしたら、仲直りしたくなりますよ」

医者「……」

歴史学者「じゃあ、とりあえず私が追いかけます。診療所に二人で行きますから」

医者「……」

歴史学者「それじゃあ、お願いします」

タタタッ

勇者「……」

タタタッ

歴史学者「見つけたぞ。全く、なにをしているんだ」

勇者「……」

歴史学者「おーい、戻らないか?先生も診療所で待ってるぞ」

勇者「……」

歴史学者「なにをこの世の終わりみたいな顔してんだ。
私も一緒に謝ってあげるから、元気だせ」ポンッ

勇者「……別に、どうでもいーんだよ。あんな身勝手なやつ……」

歴史学者「本当か?そうは見えないぞ」

勇者「……」

歴史学者「いいから戻ろう。大丈夫だよ。
まだ怒ってるようなら、私がガツンと言ってやるから」

勇者「余計なことすんな!……もういいんだよ、全て……」

歴史学者「はぁ……。うっとうしいな、全く」

勇者「なら、どっか行けよ……」

歴史学者「そう簡単に追っ払われたりしないぞ。
私が辛いとき、私と一緒に居てくれた奴がいたからな。
私も同じことをしたくてね」

勇者「俺は辛くなんかねぇよ!先生だって辛くなんかねぇはずだ!」

歴史学者「感情を無視したって、どうにもならないさ。
もし無視できても、いつかツケを払わなくちゃいけなくなるもんだ」

勇者「じゃあ、その『いつか』に払うよ。ほっといてくれ」

歴史学者「イヤだ。君も諦めろ。
君が私にしたことだ」

勇者「チッ……。ふざけんなよ……」

歴史学者「ま、そんなに心配するな。
案外、仲直りなんて簡単なもんだろ?」

勇者「……」

ここで切ります。

読んでくださってる方、遅くにすいません。
ありがとうございます!


ますます分からんけど続き楽しみ

なんだか歴史学者がしっかり仲間になった感

乙乙

乙!

>>321 >>323
ありがとうございます!

>>320
やっぱり分かりづらいですよねー……。
でも嬉しいです!ありがとうございます!

>>322
ありがとうございます。その分、医者がビミョーになってきましたけど……。


再開します!


スタスタ

勇者「……」

歴史学者「あ、すいません。
ここら辺に病院ってありませんか?
待ち合わせしてるんですよ」

男性「病院ですか?メンタルクリニックぐらいしか知りませんが」

歴史学者「多分そこです。道を教えて頂けませんか?」

男性「もしよろしければ、一緒に行きましょうか。
ちょうどヒマですから」

歴史学者「えっ、本当ですか。ぜひ、お願いします」

勇者「おい……」

歴史学者「いやぁ、助かります。
私、道聞いても覚えられないんですよ」

男性「俺もそうなので分かります。
病院には、誰かお知り合いの方がいらっしゃるのですか?」

歴史学者「えーっとですね。
私達の旅の仲間が、病院の医師と知り合いなんです。
なので、話し込んでるみたいで」

男性「……そうですか。旅人さんなんですね」

歴史学者「ええ、彼がそのリーダーなんですよ」

男性「へぇ、君が。どうして旅をしているんですか?」

勇者「別に……魔物追っかけてるだけだよ」

男性「魔物を……。なら、この街に来たのは正解ですね」

歴史学者「どうしてですか?」

男性「……ここは魔物に乗っ取られた街だからですよ」


スタスタ

医者「あっ……!二人とも無事だった?」

歴史学者「ええ、先生こそ大丈夫ですか?」

医者「うん、なにかされたりはしてないよ。
どうやら説明はいらないみたいだね」

歴史学者「はい。噂の裏付けは、彼のおかげで出来ました。
ここまで案内して下さったんですよ」

医者「そうですか、本当にありがとうございます」

男性「いえ、では私はこれで……」

スタスタ

医者「これからどうする?ここに留まって、この街を調べるのもありだと思うけど」

勇者「えっ…………そうですね、調べましょう」

歴史学者「ちょっと危なくないですか?」

医者「そうだね。でも、このまま放っておく訳にはいかないでしょ?」

歴史学者「ほっとくもなにも、私達にはなにもできませんよ。
どうにかできるとしたら、彼だけじゃ」

勇者「俺は先生に従うつもりだぜ」

歴史学者「……君は本当にそれでいいのか?」

勇者「ああ。魔物に乗っ取られた街を、勇者様が放っておくわけないだろ」

歴史学者「そうかい……。なら、宿屋でも探しましょうか」

医者「一応、あの人に教えてもらった宿もあるけど、行ってみる?」

勇者「ええ、行きましょう。なにかあっても、俺が守りますから」

歴史学者「頼もしいな、君は。
そんなに必死になることないと思うがな」

勇者「いちいちうるせぇんだよ。さ、先生、行きましょう」

医者「ああ、ちょっと気を引き締めて行こうか」

勇者「はい」

歴史学者「……」

医者「この宿には魔物はいないみたいだね」

歴史学者「その事を売りにしているような看板もありましたからね」

勇者「裏方にいるかもしれねぇぞ」

医者「疑ってたらキリがない。ここにしよう」


ーーー


勇者「なんだこれ」

歴史学者「テレビだ。映像を映し出す電気製品だよ。知らないか?」

勇者「全然わかんねぇ」

歴史学者「資産家の娯楽用の製品だからな。
実は私も使い方は知らないんだ。
しかし、これがあるということは……」

医者「どうしたの?」

歴史学者「宿賃が気になるんですが」

医者「なんだ、心配いらないよ。俺に任せて」

歴史学者「ですが……」

勇者「そんなことより、魔物がいる街で寝泊まりできますかね。
今パパッとやっつけた方が良いんじゃないですか」

医者「町を一度調査してからじゃないと、行動を起こすわけにはいかないよ。
それに力で解決しようとしては駄目だ」

勇者「……」

歴史学者「今日は寝て、明日調査を開始する。それでいいじゃないか」

勇者「こんな町で眠れなんて、俺は無理だね」

医者「それなら俺が見張りをするよ。ところで、食事はどうする?」

歴史学者「私はなんでも構いませんよ。ルームサービスでも食堂でも」

勇者「……俺も、なにかしらは食いますよ」

医者「じゃあ、ルームサービスにしようか」



ーーーーー


「こんなことはやめよう。きっと何か解決策があるはずだ」

「表面上待遇がよければ満足か。お前らだって裏でなに言われてっか分からないぞ」

「そうだとしても、力で解決しようとするのは間違ってる」

「じゃあ、我慢し続けろって言うのか!
具体的なことはなにも言わねぇで、適当に片付けようとしてんじゃねぇぞ!」

「……」


ーーーーー


ジャー

勇者「……ん?」

歴史学者「起こしてしまったか。悪い」

勇者「……なにかあったのか?」

歴史学者「トイレに起きただけだ。それより、先生を知らないか?」

勇者「寝てたから……居ないのか?」

歴史学者「ああ、見張るために座ってただろう椅子も、ベッドも空だ」

勇者「トイレにでもこもってんだろ……」ゴロン

歴史学者「トイレは今私が入った」

勇者「ふわぁーあ……仕方ねーな。探しに行くぞ」


スタスタ

医者「こんな夜中にごめんね」

女医「いえ、先生といられるならいつでも構いませんよ」

医者「はは……。なぁ、本当のことを聞かせてくれないか」

女医「本当のこと?」

医者「君も魔物に脅されているんだろう?」

女医「いいえ……、違います」

医者「……やっぱり俺じゃ頼りないか」

女医「それも違います。頼りないのは私ですよ。
私にはなにかを変える力はない。なーんにも……」

医者「なにを変えたいの?」

女医「そうですね……。
たくさんありますけど、一番は先生を変えたいです」

医者「俺を?」

女医「ええ……」



ーーーーー


歴史学者「さーむーいー。もう寒いぞ。部屋に戻らないか?」

勇者「勝手に戻れよ。俺は先生を探す」

歴史学者「それを先生が望んでいなくても、か?」

勇者「…………」

歴史学者「全く、いちいち悩むのはやめたらどうだ。
君は、君のやりたいようにすればいいんだよ。
それが間違ってたら、私がとめる」

勇者「……すごい自信だな。なにが間違ってるのか、お前には分かんのか」

歴史学者「ああ。少なくともそう思ってなきゃ、生きてはいけないぞ。
みんなそんなもんだ」

勇者「…………おい」

歴史学者「どうした?」

勇者「あのベンチに座ってるやつ、確か……」

歴史学者「ああ、昼間に道案内してくれた人だな。
こんな真夜中にどうしたんだろう」

勇者「……へっ、どうして疲れた顔したやつは、公園に誘われんのかね。
おい!」

男性「……!」

勇者「なにしてんだよ。さみーだろ」

男性「……いや、別に。家の中に比べたら天国だよ」

勇者「まぁ、なんでもいい。
どうせオメーもなんか悩んでんだろ。
聞かせろよ」

歴史学者「態度がでかすぎるぞ。それじゃ話せるものも話せないだろう」

男性「いえ、俺なんかの話でよければ聞いてくださいよ。えへへ」

勇者「なんだ兄ちゃん、酒飲んでんのか。俺にも分けてくれよ」

男性「どうぞお好きなのをとって下さい。
やっすいチューハイしかないけどね」

歴史学者「おいおい。子供に酒はまずいでしょう。
君も飲もうとするんじゃない」

勇者「チッ、うぜーな。どうでもいいだろ……」

歴史学者「さて、そろそろアナタの話を聞きましょうか。
一体、なにがあったんです?」

男性「別に、今日に限ってなにかあった訳じゃありません。
でも、なにもないこともありませんよ。
いつものことです」

勇者「だから、なにがあったんだよ」

男性「……妻がね、俺をけるんです。
息子も殴られて、わんわん泣きまして。
でも、二人とも寝付いたみたいなので、私だけ逃げ出してきたんです」

歴史学者「なんですか、それ。卑怯な人ですね」

男性「ええ……。ですが、全部飲んだら帰るつもりです。
また炊飯器が飛んでくるかもしれませんが、仕方ないでしょう」

歴史学者「なんでそんな環境で我慢しているんですか。
今すぐ子供を連れて、逃げ出して下さい」

男性「……でも、ウチは中途半端に不幸なんですよ。
お金も無いことが多いけど、結局実家が助けてくれますし。
妻の暴力も怪我が残るほどではありません。
子供が抱えてる病気も、もうちょっと酷かったら入院という、ビミョーなラインなんですよ。
俺達より不幸な人はいくらでもいる。
なのに、逃げ出すというのは大げさじゃないでしょうか」

歴史学者「そんなの……子供の将来を考えれば、逃げ出すべきでしょう。
取り返しのつかないことになるかもしれませんよ」

男性「分かってます。でも……」

男性「……でも、私は怖いんです。彼女から離れたら生きていけないんじゃないかって。
息子を育てていく自信もないし……私も体が強い方じゃないから、とても怖いんです……」

歴史学者「いい加減にしてください。説得が通じる相手じゃないでしょう?
そういう輩は、世の中にいくらでもいるんですよ。
本当におかしな人って、なにをやっても効果はないんです」

男性「ですが、精神科の薬はちょっと効いたみたいなんですよ。
酷い目にあう回数も減ったし、ちょっとずつ改善してきたみたいなんです。
だから」

歴史学者「だから、許すんですか。
精神科なんて役に立つはずないじゃないですか。
おかしな薬を大量に出して、患者をもっとおかしくするのが関の山でしょう。
第一、お子さんがかわいそうじゃないですか。
母親がコロッと態度を変えたからって、それでいいんですか?」

男性「いいんですよ!息子はそれで喜んでます。
俺だけじゃ息子に母親の分の愛は注げない。
分かってるんですよ……」

歴史学者「……なら、なんでこんなところで酒なんか飲んでるんですか」

男性「……」ゴクゴク

勇者「……吐き出しちゃえよ。俺たちは誰に広めるわけでもねぇ。ただ聞いてやるよ」

男性「…………俺は許せないんだ……今更、母親面して子供に接するアイツが……!
なにが精神病だ!ただワガママ言ってダラダラして、気ままに暴力ふるってただけじゃねぇか!
その間ずっと耐えてきた俺に、今さら感謝の言葉?
なにを信じろって言うんだよ!!」

歴史学者「その通りです。許す必要はありません。
相手だって、どうせ反省なんかしてませんから」

男性「…………でも、本当に悪いのは魔物なんですよ。
私の仕事を魔物が奪ったから、こんなことになったんだ……魔物さえいなければ……!」

歴史学者「違いますよ。奥さんは生まれつきのクズなんです。
原因なんてないんですよ」

勇者「おい、お前はなんでそう決めつけんだよ。
相手だって、相手なりになんか考えてんだろ」

歴史学者「ははは、そんなわけないだろ。暴力をふるう奴なんて人間じゃないんだよ。
そういう奴は生きてる価値はない」

勇者「じゃあ、マリもか?」

歴史学者「……!」

勇者「生まれた瞬間から暴力的なやつなんていねぇだろ?
そいつはそいつなりの人生があったから、そうなってんだよ」

歴史学者「……お人好しだな君は。
なら、一番祖先を殴れってか?
今存在してるやつに、責任はないって言うのか」

女医「彼はそんなことは言っていませんよ。どんなことにも原因があるというだけです」

スタスタ

歴史学者「……やぁ、こんばんは。
先生も彼女と一緒だったとは」

医者「ちょっと話をしたくてね。君たちはどうしたの?」

勇者「このにーちゃんの話を聞いていただけですよ。
もともとは先生を探していたんですけどね」

男性「あの、俺は帰ります。ありがとうございました」

勇者「待てよ。……ちょっとだけ話を聞いてくれ」

男性「なんですか?」

勇者「アンタ、態度が改善してきた奥さんに、悪意を持っちゃうのが辛いんだろ?」

男性「……」

勇者「でもな、悪意は持って当然のもんだ。アンタはなにも悪くねぇ。
奥さんのことは恨んだままでいいんだ。
だけどそれを表には出しちゃなんねぇんだよ」

男性「……分かってますよ。だから、ただ毎日耐えてます」

勇者「それだけじゃ、ダメだ。
明日までになんでもいいから、奥さんに好きなもの買ってってやれよ。
それで『一緒にいてくれてありがとう。大好きだ』って伝えるんだ」

男性「どうして俺がそんなこと……」

勇者「一回でいいんだよ。一回だけなら出来そうだろ?
無理そうなら酒の勢いでもいいから、試してくれ。
きっと、なにかいいことがあるはずだから」

男性「…………考えてみるよ。じゃあ……」

スタスタ

歴史学者「なんであんなこと……あの人はもっと不幸になるぞ」

勇者「そうとも限らねぇよ。
相手には改善の意志があんだからな。
もしかしたら、上手くいくかもしれねぇだろ」

歴史学者「上手くいくわけないだろ!
いったとして、なんの価値があるんだ!
さっさと離婚するのが一番いいに決まってるじゃないか!」

女医「まぁまぁ、とりあえず落ち着いてくださいよ。
ゆっくりお話ししましょう」

女医「あの人の奥さんは、私のクリニックに通ってる人なんですよ。
今日もあの人が代わりに薬を取りに来たし、ちゃんと治療は続けています」

歴史学者「それは本当に治療なんですかね。
患者を非人格化して扱いやすくし、金を吸いとろうとしてるんじゃないですか」

女医「……そういう医者も中にはいるでしょう。否定はできません。
ですが、精神科医というのは、普通の医者より倫理観に敏感に生きている者が多いんですよ。
ですから、アナタの考えるような、閉鎖的な治療はおこなってません」

歴史学者「フン、ならアナタ、私の母親は治せますか?
人を騙し、自分の利益しか考えないで、子供を道具のように扱い暴力をふるう。
しかもどこからか精神薄弱と書かれた手紙が来て『私、精神薄弱だってよ、ハハハ』なんて言う腐れに、なにか治療法が思い浮かびますか」

女医「……本人とお話ししなければ分かりません。
ですが、尊重しなければいけないのは、お母様にも過去があったということです」

歴史学者「分かってますよ。虐待された子供は、自分の子供にも暴力をふるう可能性が高い。
……だから、私は結婚なんてしないと決めたんだ。
母が失敗したことを、私まで繰り返したくないですからね。
これ以上の解決法はないでしょうよ!どうですか!」

女医「……」

歴史学者「どこの医者も同じなんですね。
通りいっぺん常識を言い放つだけ。
内科に行けば、バランスよく食って運動しろと言われるでしょう。
そんなの、なんの解決策にもならないんですよ。
出来ないから困ってるんですから」

女医「……では、なぜ出来ないか。
それはアナタが現実と向き合っていないからです」

歴史学者「はっ?」

女医「アナタ、母親を恨んでるんじゃないですか?訳もわからずに」

歴史学者「はは……訳も分からずにってのは、どういうことですか」

女医「アナタがやっているのは理由付けに過ぎません。
これだけのことをされたから、恨む権利がある。
そう初対面の私にまで主張しているのは、肯定して欲しいからですか?
それとも、止めて欲しいのですか?」

歴史学者「ッ……」

女医「アナタは私の患者じゃないし、はっきり言いましょう。
ただアナタは、愛されたかっただけなんですよ。
母親に受け入れて貰えなかったから、憎しみに変わっただけです」

歴史学者「愛されたかった……?ハハハ…………アンタになにが分かる」

女医「分かりますよ。アナタみたいな人は、何人か知ってます。
みんな、普通の人から見たら呆れるぐらい、過去に執着してましたよ」

歴史学者「……ハハハ……ふふ。
アナタみたいな人から見たら、私なんてうっとうしい他人の一部でしょうよ。
もしかしたら、アナタという物語のスパイスにもならないような存在かもしれない。
けどねぇ……」

女医「……」

歴史学者「私にとっては、それしかないんですよ。
こき下ろすのも、すがり付く対象も全て過去なんです。
今も未来も、全て過去任せなんです。
きっと永遠に抜け出せないし……抜け出すのも怖いんですよ」

女医「……」

歴史学者「なにを言ってるのか、アナタには一生分からなくていい。
私は帰ります。さよなら」

スタスタ

勇者「……俺も帰ります。
先生は俺達のことは気にしないで下さい。じゃあ」

スタスタ

医者「……」

女医「……申し訳ないことをしてしまいましたね。ごめんなさい」

医者「……仕方ないよ。彼女の気持ちは俺にも分からないから。
多分、一生分かってあげられないんじゃないかな。
でも、君の気持ちは少しだけ分かるよ」

女医「えっ?」

医者「君もトクシュクに住んでたんだもんね。
過去になにかあったけど、きっと君は乗り越えたんじゃない?
だから、うじうじしてる人が、どうしても受け入れられないんでしょ?」

女医「……」

医者「まぁでも、今の仕事を続けるなら、理解しようとする気持ちも必要かもしれないね」

女医「……私にはなにも出来ませんよ。
私自身も周りも、なにも変えられませんから……」

医者「周りか……。診療所にいた魔物のことは、残念だけど受け入れられないよ」

女医「……私は、先生なら、この街の問題に気がつくんじゃないかと思います。
だから、結論はもう少し待ってください。
先生が待ってくれるなら、私ももう少し頑張ってみますから」

医者「……」



ーーー


ガチャ バタンッ!

歴史学者「……」

ガチャ

勇者「おい、目の前で閉めんなよ」バタンッ

歴史学者「……私は、ついてきてくれなんて頼んでないぞ。
君は先生を探してただけだろ。
一緒にいればいいじゃないか」

勇者「けど、先生がそれを望んでねぇから。
望んでねぇならやめることにしたんだ」

歴史学者「ああそうかい。なら、もう私は寝る。
今は誰とも話したくないんだ」

勇者「分かったよ。おやすみ」

歴史学者「おやすみ!」

バサッ



ーーー


チュン チュン

勇者「……んー」

歴史学者「ぐがー」

勇者「ふわぁ……あれ、先生?」

医者「ああ、おはよう」

勇者「……なにしてるんですか?」

医者「ちょっとね。……写真を見てたんだよ」

勇者「写真……」

医者「……」

勇者「……」

医者「……そろそろ彼女も起こそうか。よいしょっと」スタッ

スタスタ

勇者「あ、ちょっと」

医者「おーい、朝だよ」ユサユサ

歴史学者「……うふふ、おはよーん。センセ」

医者「ひっ」

勇者「もう、先生はあっち行ってて下さい。
……おい!起きろ!!」バチンッ

歴史学者「うおっ!なにすんだ君は!」

勇者「さっさと起きねーのが悪ぃんだろ。早く顔洗え」

歴史学者「ちっ……。今度はカナブン混ぜてやろ……」

勇者「なんか言ったかぁ?」

歴史学者「別に?先生、おはようございます」

医者「ああ、おはよう。今日は良い天気だね」

歴史学者「ええ、キレーに晴れましたね。じゃ、顔洗ってきまーす」

勇者「その爆発頭もなんとかしろよ」

歴史学者「うっさいぞ。ほっといてくれ」

スタスタ ジャー

医者「……なぁ」

勇者「あの」

医者「どうしたの?」

勇者「いや、先生こそどうしたんですか?」

医者「……」

勇者「先生?」

医者「…………まだ彼女に、家が燃えてたこと話してないなって……」

勇者「……!」

医者「どうしようか……」

勇者「……」

スタスタ

歴史学者「ちょっとタオル貸してくれ。すっかり忘れてたよ」

医者「あ、はい」

歴史学者「ありがとうございます。あー、目ぇイタッ」

スタスタ

医者「……」

勇者「……」



ーーー


スタスタ

医者「朝ごはん、美味しかったねー。コンポタージュが温かくってさ」

勇者「あのパンもいいですよね。中になんか入っててうまかったー」

歴史学者「私は君がパンばっかり食べるからヒヤヒヤしたぞ。
いくらバイキングだからって食べ過ぎだ」

勇者「お前だって朝から甘いものばっか食ってたろ。太るぞ」

歴史学者「うるさいっ。今日も自転車乗るからいいんだ」

医者「でもどこに行こうか。この街は建物が多いから」

歴史学者「どこでも良いんじゃないですか?
あっちに商店街もあるみたいですし」

医者「じゃあ、ちょっとあっちまで行こうか」



ーーー


勇者「いねぇな」

歴史学者「そうだな。八百屋にいるかと思ったら、派手なオバチャンだったし」

医者「アハハ……。もしかして工場とかにいるのかな。
あっちに煙突が見えるけど」

勇者「……でも、本当に魔物なんて働いてるんでしょうか。
全然そんなふうには見えませんけど」

医者「昨日、俺は実際に会ったよ。
……診療所で、にこやかに挨拶までされた」

勇者「そうですか……」

歴史学者「……だとしたら、ここの人は魔物と共存してるってことなんじゃないですか?
それなら良いんじゃ」

医者「良くないよね。人を殺したり村滅ぼしたりするやつらと、一緒に生きていけるわけないじゃないか」

歴史学者「……」

医者「……ごめん、どうしても辛くて……。
いつも、写真の中の二人は笑ってるから……」

勇者「やっぱり……奥さんたちの写真を見てたんですね」

医者「……」

歴史学者「……分かりました。私も余計なことは言わないように気を付けます。
だから、とりあえず移動しましょうよ」

医者「うん……ごめんね」

歴史学者「気にしないで下さい。大丈夫ですよ」

勇者「でもあれ、なんの工場なんでしょうね」

医者「……なんだろう。こういう工場の正体って、地元の人も知らなかったりして」

歴史学者「さすがに地元民は知ってるでしょう。
地元の人が働いてるんじゃないですか?」

医者「そんなこともないよ。俺の地元の工場は、都会から来た人が働いててさ。
誰もなんの工場か知らなかったんだ」

歴史学者「へー、そういうこともあるんですね」

医者「俺の地元だけかもしれないけどね。
そういえば、その工場の横に壊れた馬車があってさ。
いっつもホロがかかってて、中は見えないんだ。
だから誰も見たことがなくて、みんなのウワサの的だった。
でも一度だけ、俺は中を見たことがあるんだよ」

勇者「なんかいました?」

医者「いや。でもね、布団がしいてあった。
学校ではその馬車、『生にんじん』ってオッサンの住みかだってウワサだったんだよ。
だから怖くなって、走って逃げたなぁ」

歴史学者「面白いですね。生にんじんって名前なんですか?」

医者「そう。畑のにんじんを勝手にとって、しかも生のままかじってたから、生にんじん。
学校の池の魚を釣ろうとして、先生とケンカしたり、変な人だった。
いっつも細長い棒と青いバケツを持っててさ、棒の先を地面にペチペチ当てながら歩くんだ」

勇者「それって杖のことですか?」

医者「違う違う。もっと細い木の枝みたいなやつだよ。
……ホントに懐かしい……」

歴史学者「生にんじんに会いたくなりました?」

医者「アハハ、いやぁ……。
でも、どうだろ……会いたいかもね」

勇者「…………先生はやっぱり、旅が終わったら家に帰るんですか?」

医者「そうだね……。
でも、トクシュクの方じゃなくて、イナカの方に帰ろうかな。
実家は無くなっちゃってるから、どっか借りてさ」

勇者「……」

歴史学者「先生、勇者様がついていきたそうにしてますよ」

勇者「ば、バカッ」

医者「うん、それもいいかもね」

勇者「えっ」

歴史学者「私もついてって良いですか?」

医者「あ、うん。いいよ」

歴史学者「なんでちょっと迷うんですか。酷いな」

医者「いや……君は寝起きがね……」

スタスタ

勇者(……)

ここで一旦切ります。
読んでくださってる方、ありがとうございます!
レスいつも楽しみにしてます!

情緒不安定すぎてこっちまで情緒不安定になってきたぞいい意味で(?)

レスありがとうございます!

>>344
言いたいことはとてもわかります。危なっかしさを出したかったので、感じ取って頂けて良かったです。
でも……へこみますね。
これからもっと不安定になるんですよ……。

終盤に差し掛かってはいるのですが、今までよりきわどいシーンが増えます。
書くのをやめようかとも思ったのですが、自分のために書いてるので、このまま載せます。

どうか大目に見てください。
再開します。



ーーー


作業員「魔物なんて、ウチの工場には存在しやしません。
マ、そういうウワサはありますがね」

医者「では、そのウワサはどうして広まったんでしょうね。
アナタはどう思います?」

作業員「さぁ……。そう言えば、裏通りの方に精神科の病院があるでしょう。
あそこの先生は患者よりの先生ですからねぇ。
魔物も探せば、一匹ぐらいは居るかもしれませんよ」

医者「あの病院には行きました。
だから、聞き込みをしているんですよ」

作業員「そうですか。なら、アナタ方も分かってなさるでしょ」

勇者「魔物が働いてるってことか?」

作業員「いやぁ、働いているだなんて……。
我々は社会奉仕をしているんです」

歴史学者「社会奉仕?」

作業員「ええ。魔物なんて、放っといたらなにをしでかすか分からないでしょう?
そんな魔物たちを、我々は使ってやってんです。
これを社会奉仕と言わなかったらなんですか」

歴史学者「……それは対等な賃金で雇っているのですか?」

作業員「ン……?ハッ、そんなこと気にしなさるなんて。面白い方だ」

勇者「質問に答えろよ」

作業員「ン……マ、対等ではないですねぇ。
そんなことしたら、デモが起きますよ」

歴史学者「やっぱりか……。魔物から不満の声はあがらないのか?
きっと、同じ働きはしているんだろう?」

作業員「ン、いいでしょう。
あなたの望む通り、魔物の権利を人間サマと同じように保護したとします。
雇い主は同じ条件なら、魔物でなく人間を雇いますよねぇ。
そうすると、魔物のみなさんも困るんじゃないですか?」

歴史学者「……」

作業員「マ、これでもバランスがとれてるってことですよ。
じゃ、マ、お代を頂きましょう」

医者「構いませんが……。
私達はこの事を公表するかもしれませんよ。
アナタはそれでも良いんですか?」

作業員「ハッ。アナタ方この街の魔物のこと、調べてなさるんでしょ。
なら、ここからは生きて帰れない。
だから、私も困りゃしませんよ」

医者「……」

作業員「じゃ、また、生きてたらお目にかかりましょうか。それでは」

スタスタ

勇者「……」

医者「……」

歴史学者「……ムカつく」

医者「えっ?」

歴史学者「だって、ムカつきません?あのしゃべり方!」

勇者「お前はどこを気にしてんだよ」

歴史学者「ン、とかマ、とか!それにあの顔!あー、ムカつく」

医者「それより、内容が気になるね。生きて帰れないって言ってたけど……」

歴史学者「どーせデタラメですよ。あんなうさんくさい奴、ホントのこと言うはずありません!」

勇者「マ、本当でも俺がいるから大丈夫ですよ」

歴史学者「やめろ、真似するんじゃない!」

医者「まぁまぁ……。とりあえず宿に帰ろうか。
魔物がいることは分かったし」

勇者「そうっすね。でも解決法、なんかありますかねぇ……」

医者「それも宿で考えようよ。じゃあ、後ろに乗って」

歴史学者「ン、ありがとうございます」

勇者「気に入ってんじゃねぇよ」

歴史学者「気に入ってなんかないぞ!うームカつく」

キコキコ



ーーーーー

「……分かった、もう反対しないよ。俺たちも参加する」

「決断するのがおせぇんだよ。土壇場で言いやがって。
裏切るつもりじゃねぇだろうな」

「まぁ、落ち着けよ。クラウン商会にはちゃんと依頼してあるんだ。
こいつらが裏切ったところで、なにも変わらないさ」

「……」

「……今夜、なんだよな?」

「ああ、今夜だよ。全て終わらせよう」

「キリークの導きのままに」

「「「導きのままに!」」」


ーーーーー

医者「うーん……。俺たちじゃ、警察に訴えることも出来ないしね。
どうしようか」

歴史学者「やっぱりほっといた方が良いんじゃないですか?
私たちじゃ、なにも出来ませんよ」

勇者「いや、だから俺が証拠をとってくるって。
それをどこかに送りつければいいんだろ?」

歴史学者「出来たとして、告発したとして、魔物はどうする?
関係者も全員処刑されるかもしれないぞ」

勇者「うーん……」

カサッ

勇者「……ん、ちょっとトイレ行ってきます」カサッ

医者「行ってらっしゃい。
……とりあえず晩ごはんはどうしようか。
外に食べに行ってもいいけど」

歴史学者「私はステーキが食べたいです。君はどうする?」

勇者『あ、俺は一人で食いに行ってくるよ』

歴史学者「えっ?なんで」

勇者『たまには一人でいたいときもあんだろ?
今日はそういう気分なんだよ』

歴史学者「今、トイレに一人でいるじゃないか」

勇者『ふざけたこと言うなよ。先生、そういう訳ですから』

医者「うん……。君がそう言うなら仕方ないね。
でも、彼女は連れてってあげたら?」

歴史学者「いやー、私は三人で一緒にいたいなっ」

勇者『うっ、さぶいぼ。いいから黙ってろよボケ』

ジャー ガチャ

歴史学者「……なにしに行くつもりだ」

勇者「なんでもいいだろ。俺は心配はされたくねぇ」

医者「確かに……俺に君を心配する資格はないからね」

勇者「ええ。じゃあ、行ってきます」

医者「行ってらっしゃい……」

ガチャ バタンッ

医者「……」

歴史学者「……」

医者「……」

歴史学者「……はぁ、ホントに行かせていいんですか?
なんか暗い顔してましたよ」

医者「……俺に彼は止められないよ」スクッ

歴史学者「じゃあ、どこに行くんです?」

医者「俺は、俺の行くべき場所があるから……。じゃあね」

バタンッ

歴史学者「……あーあ、どうすっかなぁ」


スタスタ

勇者「……」


ーーー

『先生、勇者様がついていきたそうにしてますよ』

『うん、それもいいかもね』

ーーー


勇者「……」

勇者「……俺も、先生と一緒にいたいですよー……」

勇者「……」

勇者「……」カサッ


ーーー

《女を連れて宿を出ろ》

ーーー


勇者「……」カサッ

勇者「……どうすっかな。なんかと戦わなくちゃいけねぇのかな」

勇者「……殺さなきゃなんねぇのかな」

勇者「……」

スタスタ

勇者「……ん?あれ……」

男『……』モグモグ

勇者「あ……!アイツは魔王の!」

男『……』モグモグ

勇者「なんで店屋の中にいんだ……アイツがこの手紙の犯人だな……!」

ガチャ! ズカズカ

男「オッサン、刺身こんにゃく追加ねー」

勇者「おい!テメェ!」

男「んー?」

勇者「なんで魔王の手下がこんなとこにいやがんだ……なにしてやがる!」

男「こんにゃく食ってる。オッサン、ホットミルクも追加ね」

店長「ホットミルクだと?」

勇者「なに注文してやがんだよ!」

男「もちろん、君の分よ。カルシウムが足りなそうだから」

勇者「大きなお世話だ!」

男「分ーかったよ。分かったから大きな声だすなよ。
他のお客様に迷惑じゃない」

勇者「ふざけんなよ……お前の存在の方がよっぽど」

男「おっと、それ以上はダーメ。
君は勇者なんでしょ?言葉選びには気をつけてね」

勇者「うるせぇ!こんな手紙置いていきやがって……。どういうつもりだ!」

男「んー?そんなの俺のじゃないよ。俺の字ってもっとプリティーだもん」

勇者「はぁ?」

男「まぁま、坊ちゃん座りなよ。今日は頼みたいことがあって来たのよ」

勇者「……頼みたいこと?」

勇者「……なんだよ、頼みたいことって」

男「まっちゃんのとこに来てくんない?ちょっとでいいからさ」

勇者「誰だよ、まっちゃんって」

男「もちろん、魔王サマ」

勇者「ふざけんな、お断りだ」

男「ちぇっ、器のちっせー勇者だな。なんでそうケチなんだよ」

勇者「お前、本気で言ってんのか?俺の肩えぐったのお前だろ」

男「もう治ってるでしょ。ちゃーんと知ってんのよ」

勇者「治ってりゃ協力すると思ってんのかよ……。そもそも、お前ら俺の村滅ぼしたの忘れたのか?」

男「だーから、知らないよそんなん。俺達、そんなつまんねぇことはしません」

勇者「じゃ、魔王サマのつまることってのは、なんなんだ?」

男「壁に落書きしたり、アリの巣水攻めにしたりとかだな」

勇者「ざけんな。そんなの魔王じゃねぇよ」

男「ウチの魔王サマは変わってんのよ。
多分、頭ん中はパフェとマンガしかないだろーし」

勇者「はぁ?……お前、なんでそんな奴にしたがってんだよ」

男「俺の女が魔王の手下だからだよ」

勇者「……あのクソ女か」

男「なめた口きくんじゃありません。ぶっ殺すぞ」

勇者「ケッ、あんな物騒なやつ、どこがいいんだか。
まぁ、アンタにはお似合いだろうけどな」

男「お似合いね……。嬉しいのか悲しいのか分からんよ」

勇者「は?」

男「だって俺、あの人と結ばれることないんだもの」

勇者「……」

スタスタ

店員「お待たせしました。刺身こんにゃくとホットミルクです」

男「あら、ホントに?おっちゃん、やるぅー」

勇者「俺はいらねぇぞ」

男「いいから飲めよ。こんにゃくも食えば?俺も食うし」

勇者「なんでお前なんかとメシ食わなきゃなんねぇんだよ」

男「いーじゃんかさぁ。ここでメシ食えるのも、今日で最後なんだぞ」

勇者「は?」

男「だって今日、この街滅びるし」

勇者「はぁ!?なにするつもりだよ!」ガタッ

男「すぐ立つのはやめろよ。TPOをわきまえろ」

勇者「メシ食ってんじゃねぇ!」ガシッ

グイッ

男「……あのね、手ぇ離さないと僕ちゃん怒るよ」

勇者「答えろ!なにをするつもりだ……!」

男「やぁねぇ、俺達になんか出来るわけないじゃない。
勝手に滅んじゃうのよ」

勇者「そんなわけねーだろ!」

男「全く……いいから離せよ」スッ

バキッ

勇者「あぐっ」

男「俺なんかを目の敵にしてるより、大事な先生を追っかけたら?」

勇者「先生が……どこかに行ったのか……!?」

男「さっき見かけたよ。こんなときに、全くのんきな」

スゥッ……

男「……!」

勇者「で、テメェはここでなにしてんだ?」

男「へぇ……幻影なんて使えるようになったの」

勇者「テメェんとこのクソ女が使えんだからな。
俺も使えるに決まってんだろ」

男「はぁ……背後に立たれるとは、俺も落ちたもんだな」

勇者「あのへぼパンチに何を期待してんだよ。
あんなの痛くもかゆくも」

ドカンッ!!

勇者「なんだ!?」

男「一つ忠告しとくけどな。現実離れした力は、どんどん現実離れしていくぞ。
使う前によく考えたら?」

勇者「は?」

フッ

勇者「あ……!?どこ行きやがった!?」キョロキョロ

勇者(目の前にいたはずだろ……?)

ドカンッ!!

勇者「また……!なんだよこれ!?なんの音なんだ」

ガチャッ ズカズカ

勇者「……なんだお前ら!」

魔物1「残念ながら、あなた方には一緒に死んで頂きます」スッ

勇者「それはクラウン商会の……!」

ボッ! ゴォオオ!

客「うわっ!燃えた!」

勇者「俺が凍らせる!全員逃げろ!」パリッ

魔物1「……!」

パリリリッ!

歴史学者「おーい、二人ともどこにいるんだー!ヤバイぞー!」

男「あら、お嬢さん。こんな夜に出歩いてちゃ危険よ」

歴史学者「きゃー、変態!」

男「ひどい。今のはさすがに傷ついた」

歴史学者「誰なんですか、こんなときに」

男「勇者様の知り合いです。二人とも大丈夫ですよ。
もう少ししたら勇者様が来ますから、一緒に病院に行かれては?」

歴史学者「……なんで病院なんですか?」

男「さっき病院でお仲間と会ったので。それより、お頼みしたいことがあるんですよっ」

歴史学者「なんですか?うさんくさいな」

男「アハハ、あなたストレートですね。
そんなアナタにピッタリの、この古代文字。訳せます?」ピラッ

歴史学者「古代文字?これは『卵の黄身』と『虹』じゃ……いや、今はそれどころじゃ」

勇者「おーい!大丈夫か!?」

歴史学者「お、無事だったのか」

勇者「んだよ、それ!なにヘーキな顔してやがんだ!」

歴史学者「いや、もっと慌ててたんだが……あれ?」

勇者「なんだよ」

歴史学者「うーん、今までここに人がいたんだよ。
その人が、君と一緒に病院へ行けって。
先生が病院にいるらしい」

勇者「病院?気はすすまねぇが、行くしかねーか……その紙はなんだよ」

歴史学者「古代文字が書いてあるんだが、なんなのかは私も」

ボッ! ゴォオオオ!

歴史学者「あ……」

勇者「……おい、どうしたんだよ」

歴史学者「……」ボー

勇者「しっかりしろ」ブンブン

歴史学者「……うあ、うあ。やめろ、揺らすな」

勇者「ぼんやりしてたらヤベーだろ。早く先生のところへ行くぞ」

歴史学者「ああ……。どうやって病院まで行く?
瞬間移動とか透明になったりとか、なんかできないのか」

勇者「透明にはなれるけどやると」

魔物2「そこをどいて下さい。どかないとあなた方も燃やしますよ」

歴史学者「……!」

勇者「またお前らか。よるんじゃねぇ!」ドガッ

魔物2「うぐっ」バタッ

歴史学者「ほら、モタモタしてるとヤバイぞ。早く透明になれ!」

勇者「でも、やると目が」

魔物3「テメェ、よくも!」

魔物4「この野郎!」

歴史学者「おいっ、早く!」

勇者「……くそっ!」スッ

パッ

魔物達「……!?」

歴史学者「すごいな、私まで透明になったぞ」

勇者「いいから、自転車のところまで逃げるぞ」

コソコソ

歴史学者「いやー、いいなぁスケルトン。男だったら女湯入るのに」

勇者「おい……大丈夫か?」

歴史学者「……全然大丈夫だぞ。なにを気にしてる?」

勇者「いや……。それより、おかしいんだよ。目が見えなくなるはずだったのに……」

歴史学者「目が?なんともないが」

勇者「……」

コソコソ



ーーー


女医「へぇ、少しは進歩したんですね。奥さん達が死んだことは受け入れたんですか」

女医「なら、これはどうです?奥さんと娘さんは」


ーーー


シャーッ キキッ

勇者「先生っ!!」

歴史学者「……静かだな。誰もいないのか?」

勇者「俺はここを探してみる。お前は向こうを見てこい」

歴史学者「仕方ないな。勝手にいなくなるなよ?」

勇者「この状況でんなことしねぇよ。じゃあ、頼んだぜ」

歴史学者「ああ、分かった。先生ー!」タタタッ

勇者「いたら返事して下さい!先生ー!」

ガララッ

勇者「いねぇ……」

ガララッ ガララッ

勇者「先生……どこにいるんですか……!」

歴史学者「うわあああああ!!」

勇者「なんだ!?」タッ

ダダダッ

勇者「おい、どうした…………」

歴史学者「これ……血…………」

勇者「……」

歴史学者「……」

勇者「……」

歴史学者「……」

歴史学者「……」

勇者「…………とりあえず逃げるぞ。先生のカバン持ってくれ」

歴史学者「……」

勇者「おい……」

歴史学者「……」

勇者「……」バチンッ

歴史学者「はっ……ああ、すまん」

勇者「逃げるぞ。俺が先生を抱える」

歴史学者「ああ……」

ガララッ スタスタ

歴史学者「……」

勇者「……」

歴史学者「……正直言って、私は怖い……君はどうだ?」

勇者「……俺は…………」

歴史学者「……」

勇者「……」

スタスタ



ーーー


キコキコ

医者「ん……」パチッ

歴史学者「おい、先生が」

勇者「先生?」

医者「……」

勇者「……起きてるんですか?」

医者「……」

勇者「…………今、ハマナスから逃げてるんです。突然街がひどい騒ぎになって」

医者「……」

勇者「それで先生が倒れてたから……洋服で結んで、先生のこと自転車に固定したんです。
すいません」

医者「……」

勇者「とりあえず俺に掴まってくれませんか?
自転車が安定しないんですよ」

医者「……」

勇者「先生……」

医者「……」

歴史学者「……そこ、左に曲がってくれ」

勇者「ああ……。この先の街、なんて言うんだっけ?」

歴史学者「カシマオーノだ。国には認可されてないから、警察もいない」

勇者「そうか……」

歴史学者「……」

勇者「……」

医者「……」



ーーーーー


キコキコ

勇者「あ、看板があるな。ここからカシマオーノか」

歴史学者「住民が勝手に立てたんだろう。さて、宿屋があるといいが」

勇者「なぁ、ホテルって宿のことだよな?」

歴史学者「ああ。それがどうかしたか?」

勇者「別の看板に、『にゃーるホテル』って書いてあったんだよ」

歴史学者「近いのか?」

勇者「まぁな。直進1キロって書いてあったぜ」

歴史学者「そうか、今は他を探し回るよりはいいだろう。
行ってみよう」

勇者「ああ。だけど、なんかネコの絵が描いてあったんだよなぁ」

歴史学者「ネコ、苦手なのか?」

勇者「そうじゃねぇけど。……なんだか嫌な予感がするぜ」

歴史学者「ん?」

医者「……」


キコキコ

勇者「もうそろそろか?」

歴史学者「さぁな、私は距離の感覚がイマイチないんだ」

勇者「全く、役に立たねぇな」

歴史学者「君こそどうなんだ。分かるのか?」

勇者「……そうだ、あのガキに聞いてみよ。おーい!」

キキッ

男の子「なんすか?」

勇者「ここら辺に、にゃーるホテルっていうとこねぇか?」

男の子「なぁ、にゃーるだってよ」

女の子「ん?」

女の子2「にゃーるホテルってアンタんとこでしょ。
なにとぼけたツラしてんのよ」

女の子「うるさいわね。かえるヅラのアンタに言われたくないわよ」

女の子2「なんですって!?言ったわね、オバサン!」

女の子「フン、ちょっと遅く産まれたからって、チョーシ乗ってんじゃないわよ!」

勇者「おおーい……なんなんだよお前ら。道を教えてくれよ」

男の子「諦めろよにーちゃん。ミカとカナはこうなったら止まらねぇの」

勇者「お前が教えてくれればいいだろ」

男の子「俺は五才児だから分かんないよ」

ミカ「なによ、オバサン。やろうってぇの?」

カナ「いーえ、やめとくわぁ。ミカちゃんったら、すぐブサイクづらで泣くんだもの」

ミカ「フン、大した自信じゃない。
みにくい顔で泣くのはカナちゃんよ」

男の子「おい、やめろよ。お前ら二人とも可愛いって」

二人「五才児は黙ってろ!」

男の子「……ほらな?」

勇者「めんどくせー。俺は行くからな」

ミカ「待ちなさいよ!そもそもアンタが悪いんでしょ?」

勇者「はぁ?」

カナ「アンタが決着つけていきなさいよ」

勇者「なにを言ってんだよ。俺はただホテルに」

二人「さぁ、どっちがカッコいい!?」

勇者「……カッコいい?」

男の子「この二人、今戦隊モノにはまってんだよ。舞台見に行ってからずっとこうなんだ」

カナ「ほら、早く選びなさいよ!」

勇者「ああん?意味わかんねぇな……」

ミカ「どっちがカッコいいのよ!」

勇者「……じゃあ、よくわかんねーけどお前」

カナ「えっ……やったあ!」

ミカ「ちょっと、なんでカナちゃんなのよ!」

勇者「なんとなくだよ。それよりホテルの場所を」

カナ「まぁ、当然の結果よねぇ。お子さまとはオーラが違うのよ」

ミカ「フン、そんなわけないじゃない。おねぇさんにも聞いてみるわよ」

歴史学者「なんだ?」

ミカ「私の方がカッコいいわよね?」

歴史学者「うーん、まぁな」

ミカ「ほら、みなさい。私の方がカッコいいのよ」

カナ「なに、勝ち誇ってんのよ。ねぇ、オジサンはどっちだと思う?」

医者「……」

カナ「ちょっと、起きてよオジサン」スッ

勇者「触んな!」

カナ「!!」ビクッ

ミカ「……なによ突然」

歴史学者「この人は具合が悪いんだ。だから早く宿に行きたいんだけど」

男の子「カナちゃん、教えてやれよ。すぐだろ?」

カナ「……仕方ないわね。
あそこの角を曲がれば分かるわよ。ウチの宿は目立つから」

勇者「……悪い、ありがとな」

キコキコ


キコキコ

勇者「うお、なんだありゃ……」

歴史学者「やばいな」

勇者「ああ……ずいぶんファンシーだな」

歴史学者「ある意味ファンキーだな」

キキッ

勇者「……なんでこの宿ネコの形してんだよ」

歴史学者「面白いじゃないか。中もこの調子なんだろうか?」

勇者「へっ、嫌な予感が当たったな。
……先生、自転車降りましょう。宿につきましたから」

医者「……」

勇者「先生……行きましょうよ。先生だって中が気になるでしょう?」

医者「……」

歴史学者「……私が支えてるから、君は服をほどいて降りてくれ。
そのあとおぶっていけばいいだろう」

勇者「…………分かった」

くるくる スタッ


スタスタ ガチャッ

店主「いらっしゃいませぇ」

勇者「うっ……」

歴史学者「はは……中もヤバイな」

店主「お客さま、どうされましたぁ?」

勇者「……なんでネコのぬいぐるみだらけなんだよ」

店主「それはにゃーる君ですよぉ。かわいいでしょん?」

勇者「……」

店主「お泊まりになられるならぁ、宿帳にサインをどうぞ」

勇者「……」

歴史学者「……これ、全員分の名前書くんですか?」

店主「代表者だけでいいわよん」

歴史学者「そうですか」サラサラ

店主「ところで……アータの背中のお方、どうされたの?」

勇者「別に……ちょっと具合が悪いだけだよ」

店主「そーお?ならいいけど」

歴史学者「はい、書き終わりました」

店主「ありがとねん。
じゃ、お部屋までごあんないー」

歴史学者「あの……部屋の中までにゃーる君だらけなんですか?」

店主「もちろん当たり前じゃなぁーい」

歴史学者「ハハハ……」

勇者「……」

医者「……」


ガチャ

店主「では、ごゆっくりー」

バタンッ

歴史学者「ふぅ……。あー、疲れた」

勇者「先生、降ろしますね」

医者「……」

ドサッ

勇者「いやー……しかし、すげぇ部屋だな。
ネコのぬいぐるみでびっしりじゃねぇか」

歴史学者「君の好みのやつを当ててやろう。これだろ?孤高のヒューマニズムにゃーる君」

勇者「孤高のヒューマニズムってなんだよ」

歴史学者「私も知らん。じゃあ、これはどうだ?
やさぐれにゃーる君、目付きの悪さマシマシバージョン」

勇者「かっ……かわいくねぇよ!」

歴史学者「やっぱりな。いつかプレゼントしてやろう」

勇者「いらねーよバーカ!
……先生もなんか言ってやって下さいよ」

医者「……」

勇者「……」

歴史学者「……」

勇者「……」

歴史学者「……そうやって黙ってられていいですね」

勇者「おい……」

歴史学者「ホント、たまったもんじゃありませんよ。
あんなもの見せられて……血の海なんてね」

勇者「おい!」

歴史学者「君だって気になってるだろ!……あの部屋血まみれだったんだぞ」

勇者「……」

歴史学者「……」

医者「……」

勇者「……先生、病院でなにがあったのか教えてください。
先生はなにか知ってるんじゃないですか?」

医者「……」

歴史学者「……彼が言いたいのは、アナタがあの女の医者を殺したんじゃないかってことですよ」

勇者「黙れ……」

歴史学者「すごんでどうするんだ。先生は人を殺したんだぞ。
あの黒い手袋をはめてやったんでしょう。
ねぇ、先生」

勇者「黙れっつってんだろ!」グイッ

歴史学者「手を離せ。いくら君でも許さないぞ」

勇者「うるせぇ!」

医者「ククク……」

勇者「……!」

歴史学者「……」

医者「俺が殺した……ククク……」

勇者「先生……?」

医者「……ククク……クク……」フラッ

フラフラ ガチャ

勇者「先生、どこ行くんですか」

医者「どこだっていいだろ……ほっといてくれ……」

ギィ バタンッ

歴史学者「……」

勇者「……テメェ!」

歴史学者「フン……君にとってはこの方がいいんじゃないか?
あんな人のことは忘れればいい」

勇者「いい加減にしやがれ!先生がお前になにをしたってんだよ!?」

歴史学者「……私になにかしてなくても、あの人は人殺しだ。
あの血の飛び散り方は尋常じゃなかっただろう。
私は前にも見たから分かる」

勇者「……!」

歴史学者「先生は黒い皮の手袋みたいなものをはめて、手をかざしたんだ。
そうすれば、相手は背中が吹っ飛ぶ。
倒れてた死体もそうだっただろ?
きっと帰り血を浴びないように、開発されたんだろうな」

勇者「くっ……!チクショウ……!」ドンッ

歴史学者「……」

勇者「…………だからって、俺達にはなにもしてねぇだろ!
俺達を助けてくれたのはあの人なんだぞ!」

歴史学者「なら、君は先生を追いかけたらいいじゃないか。
追いかけないのは、真実を確認するのが怖いからか?
それとも、この期に及んで先生に気を使うアホだからか?」

勇者「……俺はアホなんだよ」

歴史学者「くだらないな。そうやってどうでもいいことばかり気にして。
先生は殺人犯なんだぞ」

勇者「うるせぇ……うるせぇよ!テメェは俺にどうしろっつーんだ!」

スタスタ

二人「!!」

ガチャッ

医者「ただいま!」

勇者「先生……!」

スタスタ

医者「この宿の近くに小さなお店があってさ、どらチョコっていうお菓子知ってる?
知らないよね。一口サイズのどら焼みたいなやつで可愛くてさ。
もうホントに可愛いんだから。
300個も買っちゃったよ。
箱で下さいって言ったら店番のおばあさんが驚いちゃって。
そんな人は初めてだって何回も言われちゃったよ。
まぁ、大人が買いに来ること自体あんまりないだろうしね。
なんだか俺まで恐縮しちゃった」

勇者「先生……」

医者「それ好きに食べていいからね。
ああでも、中に入ってるのあんこじゃなくてチョコだから。
でも美味しいよ。俺は大好きなんだ。
じゃあ…ちょっと…俺は…トイレに入るから」ガチャ

バタンッ

勇者「…………」

歴史学者「……」

勇者「……」

歴史学者「……」

勇者「……先生……、大丈夫ですか……?」コンコン

医者『……ほっといてくれ……』

勇者「……」

歴史学者「行こう。こっちまでおかしくなる」

スタスタ ガチャ

歴史学者「おい」

勇者「先生……俺……」

歴史学者「行くぞ!」ぐいっ

バタンッ!

医者『……』


スタスタ

勇者「……」

歴史学者「……」

勇者「……やっぱり俺」

ガシッ

歴史学者「今戻っても、状況が悪化するだけだ」

勇者「……」

カナ「あら?アンタ達まだ迷ってんの?」

歴史学者「え?」

カナ「え?じゃないわよ。私のこと、もう忘れちゃった?」

歴史学者「あ、さっきの子か。他の二人はどうしたの?」

カナ「全く、質問してるのは私なのに。身勝手ね」

歴史学者「ああ、ごめん。ホテルは君のおかげで見つかったよ」

カナ「じゃあ、もうお父さんと会ったってことね」

勇者「お父さん?」

カナ「そうよ。変なしゃべり方するオッサンがいたでしょう」

勇者「マジかよ……まさか、父ちゃんだなんて……」

カナ「昔、外国に住んでたからなまりが酷いって、本人は言い張ってるわ。
まぁでも、私は気に入ってるけどね」

ガサガサ

ミカ「ちょっと、かくれんぼほったらかしでお喋りとはいいご身分ね」

カナ「あーら、アナタの隠れてる場所がバレバレだから、わざとほっといたのよ」

男の子「俺もか?」

カナ「もちろん」

男の子「なんだよ。けっこう頑張って隠れたんだぜ」

カナ「なに言ってんのよ。生け垣の下にねっころがってただけでしょ」

勇者「お前らかくれんぼなんてやってんのか。いいな」

カナ「なによ、まざりたいわけ?」

勇者「まぜてくれんのか?」

カナ「どうしようかしら」

男の子「俺は賛成だ」

ミカ「じゃ、決定ね。ジャンケンで鬼決めるわよ」

カナ「ちょっと、なに勝手に進めてんのよ!リーダーは私なのよ!」

ミカ「ふん、リーダーに決断力が足りないから、こうなってるんじゃない?
やっぱり年取るともうろくしちゃうのね」

カナ「アンタ私と1年差しかないのよ。バカバカしい」

ミカ「バカバカしいですって?」

勇者「いーからやめろよ。ジャンケンしようぜ。お前もやるだろ?」

歴史学者「私がか?」

勇者「ああ。ヒマだろ?」

歴史学者「だが……」

勇者「……」

歴史学者「……分かった。じゃあ、やるか」

カナ「仕方ないわね……最初はグー」

五人「ジャンケンポン!」

勇者「クソ……」

歴史学者「君が鬼な。ほら、早く数えろ」

勇者「チッ。いーち、にーい」

カナ「どこにしようかしら」

ミカ「私の方にはこないでよね」

カナ「分かってるわよ。誰がアンタなんかと」

勇者「さんしごろくななはち」

男の子「やばっ」

勇者「きゅじゅっ!もういーかーい」

歴史学者「もういいよ」

勇者「よっしゃ。十秒で全員見つけてやる」

タタタッ



ーーー


男の子「アンタ強すぎんだろ!走るのも速いしこえーよ」

勇者「ハッハッハ。人は俺を勇者と呼ぶよ」

カナ「勇者?なにそれダッサ」

勇者「なんでだよ。いいじゃん、勇者」

カナ「だって、勇者って一体なにしてくれんのよ。
私たちには良いことなにもないでしょ?
ただのショーチョーって誰かが言ってたわ」

勇者「……」

歴史学者「まぁ、いいじゃないか。次はなにする?」

男の子「馬跳びやろーぜ」

ミカ「バカね。そんなことより、もっと面白いことがあるじゃない」

男の子「面白いこと?」

ミカ「そうよ。この人達が鍵を借りてくれれば、公民館の中に入れるのよ」

男の子「おお、それはいいな」

歴史学者「公民館?なんで公民館に入りたいの?」

男の子「そりゃ、妖怪に会えるからだよん」

ミカ「妖怪じゃなくて妖精よ。どんな姿なのかしら」

勇者「面白そうだな。詳しく教えろよ」

ミカ「いーい?あのね、そこの公民館って中世の優美さを感じさせる内装なのよ。
とってもゴージャスなの」

勇者「ふーん」

ミカ「せっかくそんな内装なら、舞踏会を開きたくなるじゃない?
で、自由参加のイベントがおこなわれたのよ。
ドレスとかゴージャスな服を着て、まぁなんとなく踊ったわけ。
みんなダンスなんて出来ないけど、それなりに楽しんだのよ」

勇者「それで、妖精は?」

ミカ「もう、今から話すの。
……でね、しばらく経ったとき女の子が現れたのよ。
ドレスを着て、髪を結ったそれはそれは綺麗な女の子。
この世のものとは思えないほど綺麗で、怖いぐらいだったらしいわ」

勇者「それが妖精なのか?」

ミカ「ええ、そう。
その子は『教えてあげる』と呟いた。
誰かが『なにを』と聞いたら、『アナタの知りたいことを』とだけ返事をしたの。
そうしたら、その誰かは気絶して夜まで目を覚まさなかったの」

勇者「へー。誰か、ねぇ」

ミカ「誰なのかは分かんないのよ。仕方ないでしょ」

勇者「はいはい」

歴史学者「それで、その人は?」

ミカ「別に。なにも言わず終いで、街からいなくなっちゃった。
女の子の姿もこの街の人はずっと見てないし、公民館は閉鎖されたままなのよ。
これが、私たちの産まれる前の話」

歴史学者「へぇ、興味深いな。
じゃあ、その女の子を見たって人は、まだこの街にいるのか?」

ミカ「ええ、その話はあまりしたがらないけどね。
でも、その評判を聞き付けて遠くからも人が来るのよ。
そういう人達には、自己責任ってことで鍵を貸してるの。
お金もとってね」

男の子「けど、お金とる代わりに衣装やCDプレーヤーも貸してくれんだぜ。
ちょっとした観光の名所にでもしようとしてんだろーな」

カナ「観光なんて軽々しい気持ちで行くもんじゃないわ。
妖怪が出るのよ?」

ミカ「妖精よ。やっと喋ったと思ったらそれね。
別にアンタは来なくて良いのよ。怖がりなんだから」

カナ「別に怖くなんかないわ。
ただ……ちょっと子供の行くところじゃないなって」

ミカ「私より年上のクセになに言ってんのよ。
私たちは行くわよ。ねぇ、シュウト」

シュウト「ああ、俺は気になるからな」

勇者「どうでもいいけど、お前シュウトっていうんだな」

シュウト「おろ、名乗ってなかったか?
まぁ、いいや。俺はシュウト。二人はミカちゃんとカナちゃん。
アンタらは?」

勇者「俺は勇者だ」

歴史学者「私はさすらいの歴史学者だよ」

シュウト「それ名前じゃねぇだろ」

勇者「ま、細かいことは気にすんなよ。鍵借りに行こうぜ」

歴史学者「おー」

シュウト「よっしゃ。じゃあ、俺らは公民館の方で待ってるから」

ミカ「公民館はあっちにまっすぐ行けばあるわ。
ほら、行くわよ怖がり」

カナ「だから、怖くなんかないって言ってるでしょ!」

スタスタ

一旦切ります。

ホントにきわどくてすいません……。というかアウトでしょーか。
でも、精一杯書いてるので怒らないでください。
もうちょっとがんばります。

乙!

ごめん、表現が良くなかったな
disってるわけじゃないんだぜ 読んでる奴もアレな感じを期待して読んでるだろうしな
というわけで続き期待

>>374
いつもありがとうございます!ビックリマーク見るたびに幸せになってます。

>>375
大丈夫です、分かってます。だけどガラスのハートなのですぐ砕けちゃうんです。
すいません、本当にありがとうございます!

再開します!

管理人「ほう、公民館の鍵か。
一人一万払えば貸してやろう」

歴史学者「一万はぼりすぎでしょう。もう少しなんとかなりません?」

管理人「あのな、アンタらになにかあったら、面倒事を引き受けるのはワシらなんだ。
妥当な額だと思うがね」

勇者「なぁ、一万円ってこれで足りるか?」

歴史学者「二人あわせて二万だから、それをもう一枚だ」

勇者「二人って、アイツらは?」

管理人「アイツら?」

歴史学者「いえ、なんでもないですよ。鍵貸してください」

管理人「……ほらよ。小さいのはロッカーの鍵だ。
衣装は公民館のロッカーに入ってるから、出るときもロッカーに戻してくれ」

歴史学者「どうも。じゃ、行くか」

勇者「お、おう」

スタスタ

勇者「なんだかなぁ。アイツらのこと言わなくて良いのか?」

歴史学者「あの子達にはすぐに帰ってもらうからな。
危ないことに巻き込めないだろ?」

勇者「まぁな……」

スタスタ

勇者「……」

歴史学者「……」

勇者「……あのさ」

歴史学者「なんだ?」

勇者「……別に。なんでもない」

歴史学者「そうか」

勇者「……」

歴史学者「……」


スタスタ

歴史学者「あ、ここが公民館か。おーい!」

ミカ「遅い!子供が寒空の下で待ってんのよ?」

勇者「それは大げさだ。今日はそこまで寒くねぇだろ」

ミカ「うっさいわね。細かい男は嫌われんのよ」

シュウト「鍵もらえたか?」

歴史学者「ばっちりだ」

シュウト「よっしゃ、早く入ろうぜ」

ガチャガチャ ギィィ……

歴史学者「お邪魔しまーす」

勇者「うおっ、本当にすげぇな。これは確かに優美だ」

ミカ「ホントね……。私も初めて見たわ」

カナ「すごい……。お姫様がでてきそう……」

歴史学者「なんで天使の絵って裸なんだろうな。寒そうだぞ」

シュウト「じゃー、さっさと着替えちまおうぜ」

勇者「お前ら感動とかないんだな。そんなんで生きてて楽しいか?」

歴史学者「失礼だな。私はこれでも感動してる方だぞ」

シュウト「俺もね」

勇者「ウソくせー」

シュウト「じゃ、着替えようぜ。兄ちゃんはこのタキシードな」

勇者「この黒いやつか?」

シュウト「ああ。タイはホックでつけるやつと、自分で結ぶのとどっちがいい?」

勇者「タイってなんだよ」

シュウト「……ホックな」

ミカ「おねーさんはどうする?一応ドレスは二枚あるけど」

歴史学者「情熱のレッド!……は、やめとこう。
もう一つの方にするよ」

カナ「ここって更衣室あったっけ?」

シュウト「トイレで着替えりゃ良いんじゃねーの。なんとかなんだろ」

歴史学者「いやー、でもやっぱりなぁ。こんなブリブリのを着るのは勇気いるな」

勇者「お前はジャージの方が似合いそうだもんな」

歴史学者「失礼だな。君だってパーカーの方が似合うんじゃないか?」

勇者「パーカーが似合うならいいじゃねぇか。十分だろ」

歴史学者「全く、なにを言ってんだか」

ミカ「いいから早く着替えましょ。髪結ぶの手伝ってあげるから」

歴史学者「おお、それは助かるな」

勇者「それでタイってなんだ?」

シュウト「蝶ネクタイのことだよ」

勇者「ん?」

スタスタ



ーーー


シュウト「ま、こんな感じで良いんじゃない?」

勇者「おー、なんか面白い服だな。
あ、蝶みたいだから蝶ネクタイなのか」

シュウト「今ごろかよ……。まぁ、いいや。行こうぜ」

勇者「なぁ、待てよ」

シュウト「なんだよ……」

勇者「お前、どっかで俺と会ったことねぇか?」

シュウト「ねぇよ」

勇者「即答だな。もう少し考えろって」

シュウト「だってわかんねぇし。
それより早く行こうぜ。待たせたらまたギャーギャー言われんだから」

勇者「ま、そうだな」

スタスタ

ミカ「あら、丁度そっちも終わったみたいね」

勇者「……!」ハッ

歴史学者「おお、なかなか悪くないじゃないか」

勇者「……」

シュウト「おい、どした」

勇者「い、いや、別に」

カナ「ははーん……おねーさんに見とれてたね」

勇者「んなわけねーだろ!そうだ、お前らは着替えねぇのか?」

シュウト「子供服は置いてねーから。じゃあ、CDかけるぞ」

勇者「CDって……ああ、音楽鳴るやつだな」

歴史学者「あ、その前に君たちには帰ってもらうぞ」

ミカ「えっ!」

歴史学者「なにかあったら困るからな。さぁ、帰ってくれ」

シュウト「そんなのずりーや。ここまで手伝ってやったのによ」

歴史学者「だって、お金払ったのは私たちの分だけなんだよ。
仕方ないだろ?」

カナ「仕方ないわね。帰りましょう」スタスタ

ミカ「ちょっと、カナちゃん。待ちなさいよ!」

シュウト「ちぇー、全くよぉ。妖怪見たかったな」

スタスタ バタンッ

勇者「……で、どうすんだよ」

歴史学者「せっかくだし踊ってみるか。君は踊ったことは?」

勇者「ない」

歴史学者「じゃあ、私がエスコートしてやる。CDかけるぞ」

勇者「……なんかまったりした曲だな」

歴史学者「速い曲じゃ君が踊れないだろう?」

勇者「うわっ!なんで手掴むんだよ」

歴史学者「仕方ないだろ、ダンスなんだから。左手は脇腹だ」

勇者「こうか?」

歴史学者「違う、私の脇腹に手を添えろ」

勇者「なんでだよ、嫌だね」

歴史学者「なんでもクソもないだろ……そういうものなんだよ!」

勇者「うるせぇな。分かったよ」

歴史学者「おい、バカ、くすぐるな、やめろ!」

勇者「なんだよ、くすぐるっていうのはこうだろ」

歴史学者「やめろバカッ!もう怒った。許さないぞ」

勇者「やめろ、このっ、やめろって!ボケナス!」

歴史学者「そっちこそやめろ、この!」


『教えてあげる』


二人「!?」


『教えてあげる』


ゆらり

勇者「おい……踊ってないのに出てきたぞ」

歴史学者「ヤバイな……ホントに出るなんて……」


『教えてあげる』


勇者「へっ、なんだか知らねぇが教えてくれよ」

歴史学者「私も……教えてくれ」


『いいわ』


勇者「うっ……?」グニャリ

歴史学者「なん……だ……?」グニャ

フラフラ バタッ


『……』



ーーーーー


勇者「……なんだここ。俺、なにしてたんだっけ?」

ザザーン

勇者「ん……海だな。誰かいねぇのか?」

ザザーン

勇者「あ。あっちになんかいるな。おーい!」

ザザーン

勇者「……聞こえてねぇのかな?」

スタスタ

勇者「おい、じいさん。おい」

じいさん「ん……?」

勇者「なんだよ、聞こえてんじゃねぇか」

じいさん「……ほっほっほ。こんなところでお前さんはなにをしているのじゃ?」

勇者「うーん、よく分かんねぇや。
じいさんこそなにしてんだよ」

じいさん「ん……。人々にとって正しい景色とはなにか、考えているところじゃ」

勇者「正しい景色?
……それを考えるために、釣竿が必要なのか?」

じいさん「いや、これは実験じゃよ。ワシは魚が釣れるのか、な」

勇者「波打ち際では釣れねぇと思うぞ。魚って結構向こうの方にいるから」

じいさん「ほっほっほ……」

勇者「なんだよ」

じいさん「ワシの隣のやつは、釣れたようじゃぞ」

勇者「!!」クルッ

医者「……」

勇者「先生……こんなところでなにを……」

医者「……」

勇者「どうして波打ち際で…………やっぱり先生は……」

じいさん「違うぞ。お前さんが見ているのは、お前さんが見ている世界じゃ。
間違ったことを正しいと思い込んでも、正しくはならんじゃろ?」

勇者「……」

じいさん「お前さんは自分で解決することを望んでいる。
なら、ワシは不要じゃの。頑張ってみるといい」

勇者「……」

医者「……」

勇者「先生……俺、先生のこと助けますから……。多分、きっと」

医者「……」

勇者「だから……。また、ご飯作って下さい。
俺、クッキーも食べたいな。
先生作れるんでしょ?」

医者「……」

勇者「だから…………」

医者「……」

勇者「…………俺は、諦めませんからね。なにがあっても」

医者「……」

歴史学者『おーい』

勇者「ん?」

歴史学者『おーい』

何が際どいのか分からんが乙
謝るって事は大切だけど無闇矢鱈に謝るのは勘違いして変な事言い出す輩も居るから気を付けてね


ゆさゆさ

歴史学者「おい!大丈夫か!?」

勇者「うわっ!」ガバッ

歴史学者「うおっ!」

勇者「……はぁ。んだよ、おどかすなよ」

歴史学者「君が呼んでも答えないからだろ。全く、肝が冷えたぞ」

勇者「……にしても、ずいぶん暗いな。夜なのか?」

歴史学者「ああ、月が出てるよ。ずっと気絶してたらしい」

勇者「……お前はなんか見たか?」

歴史学者「……ああ」

勇者「……」

歴史学者「……」

勇者「じゃあ……着替えてホテルに帰るか」

歴史学者「そうだな……着替えよう」

スタスタ


スタスタ

勇者「あー、さみぃ。温かいコーヒーが飲みてぇよ」

歴史学者「ブラック派か?」

勇者「え?」

歴史学者「砂糖やミルクは入れない方が好きか?」

勇者「いや。前に先生が飲んでるのを分けてもらって、真っ黒で飲んだんだよ。
そうしたら苦くて苦くて、あんなの飲みものじゃねぇな」

歴史学者「私はブラックも好きだぞ。あれは香りを楽しむものだ」

勇者「……そんときは鼻水びたびただったから、香りはな。
ずっと泣いてて、鼻水が止まらなかったんだよ」

歴史学者「へぇ、君が泣くなんて……」

勇者「先生も困っちゃってさ。あのCDってやつで、明るい曲をかけてくれたんだよ。
でも、そんな気分じゃなかったから曲を変えてもらったんだ。
ノエルって知ってっか?」

歴史学者「さぁ……洋楽はあまり聞かないんだ」

勇者「機会があったら一回聞いてみろよ。俺はデス・オブ・ユー・アンド・ミーっていうのが好きだ」

歴史学者「デスって入ってる時点で気乗りしないけどな。まぁ、覚えとく」

勇者「そんでな、その曲聞いてたらちょっと落ち着いてきてさ。
先生が出してくれたご飯を食ったんだよ。
すげぇ、うまくて。温かくてうまいって言ったら、先生も笑って。
先生の笑顔って目が糸みたいになって、柔らかい顔なんだよな……」

歴史学者「……」

勇者「……」

歴史学者「……」

勇者「……」

歴史学者「……」

勇者「……なんか、月が綺麗だな」

歴史学者「ん?」

勇者「いや、その、綺麗だよな、月。なんとなく」

歴史学者「ふーん。そうだな、まんまるで美味しそうだ」

勇者「なんでお前は……あーあ」

歴史学者「いや、ツレちゃんのゆううつってマンガで、猫が月を食べるんだよ。
それに憧れがあって」

勇者「そうかよ。楽しそうだな」

歴史学者「だろ?チーズの味がするらしいぞ」

勇者「あっそーかよ」


ガチャ

勇者「じいさん、鍵返しに来たぞ」

管理人「おお。ちょっと聞きたいことがあるんだが」

勇者「なんだよ」

管理人「にゃーるホテルに、お前らの連れが泊まってないか?」

勇者「えっ」

歴史学者「……なにかあったんですか?」

管理人「ワシもよくは知らないが、早く行ってやった方がいい」

歴史学者「……分かりました。ありがとうございます」

勇者「……」

歴史学者「ここで考えても仕方ない。行って確認しよう」

勇者「ああ……」


ダダダッ

歴史学者「ちょっと待ってくれ……疲れた……」

勇者「けど……!じゃあ乗れよ!」

歴史学者「へっ……?」

勇者「背中に乗れ!」

歴史学者「仕方ないな……」

のしっ

勇者「走るぞ!」

ダダダッ

歴史学者「……」

勇者「……」

歴史学者「……もし、先生が誰かになにかしてたら……どうする?」

勇者「……」

歴史学者「……」

勇者「……俺がなんとかするよ」

歴史学者「……」

勇者「……」


ダダダッ

カナ「あ!アンタ達……」

勇者「先生は!?」

カナ「今は寝てるみたい。さっきまでは酷かったけど……」

勇者「酷かった?」

カナ「うん……呼びにいかなくてごめんね。あそこには誰も近づきたがらないから」

歴史学者「おい、とりあえず私を下ろしてくれないか?」

勇者「あ、ああ」

スタッ

勇者「……先生になにがあったんだよ」

カナ「……」

歴史学者「誰かになにかをしたのか?」

カナ「いいえ、違うわ。
……薬を飲みすぎたのよ。黄色いビタミンでコーティングされた痛み止め、見たことある?」

勇者「ああ……先生が飲んでるのは見たことあるよ」

カナ「それを沢山飲んだらしいの。一番大きなビンを……四つも」

歴史学者「四つ!?」

カナ「……黄色い砂みたいなもの、吐き出してた。ずっと……それに、喉が渇いたって水を沢山飲んでたの……。
飲んでは吐いて……ずっと……」

勇者「……ごめんな、怖かったよな。俺も想像しただけでコエーや……」

カナ「ううん……今は落ち着いてるみたいだし。
魔王様に貰った薬が効いたのね」

勇者「魔王?」

カナ「そう。でも勘違いしないでね。いい魔王様だから」

歴史学者「いい魔王様ねぇ……」

カナ「ええ。ここは魔王様の城下町なのよ。
どこにお城があるのかは、大人しか知らないけど」

勇者「ま、とにかくありがとな。俺達は部屋に戻るよ」

カナ「うん……なんかあったら言ってね」

スタスタ

勇者「……じゃ、行くか」

歴史学者「ああ」

スタスタ ガチャ


バタンッ

勇者「……」

歴史学者「……」

スタスタ

勇者「先生……」

医者「ぐー」

歴史学者「……イビキが酷いな」

勇者「ああ……」

歴史学者「……くちびるもガサガサだし、肌も脂ぎってガサガサしてる。
素人目でも、なにかあったのは分かるな」

勇者「……先生な、普段からいっつも体がいてぇって言っててよ。
黄色いやつ、いつもバカみてぇに飲んでた」

歴史学者「ああ、私も見たから知ってるよ」

勇者「……痛かったのかな。いつもよりずっと」

歴史学者「……」

医者「ぐー」



ーーー


勇者「本当にお前が起きてるのか?」

歴史学者「ああ、今日はなんだか寝付けないんだ。
明日は君に頼むから、今日はゆっくり休んでくれ」

勇者「……ありがとな」

歴史学者「礼はやめてくれ。私がそうしたいだけなんだから」

勇者「そうか……おやすみ」

歴史学者「おやすみ。
…………また明日な」


ーーー


歴史学者「……」

医者「……」

歴史学者「……もう起きてるんでしょう?先生……」

医者「……」

歴史学者「それとも……コウイチ教授とお呼びした方がいいですか?」

医者「……!」

歴史学者「私はね……問題から逃げたりできない性分なんですよ。
だから、アナタのことも思い出してしまったんです」

医者「……」

歴史学者「なにを思い出したのか、言わなくても分かりますよね。
それとも忘れたフリを続けますか?」

医者「……」

歴史学者「……アナタの奥さんと娘さんは、アナタが殺したんだ。コウイチ教授」

医者「…………」


ドンッ!!!

一旦切ります。

>>384
そうですよね……もうちょい自信をもつことにします。なんとか。
ありがとうございます。

>>1昔キチガイのふりしたナルトのss書かなかった?

レスありがとうございます!

>>393
コテで分かったんですか?
それとも作風ですか?

作風だと嬉しいけど、そうだとするとあのときからあんまり変わってないってわけで……うーん。
というのを一瞬でぐるぐる考えました。

とにかく嬉しいです!こんな広いネットで、見つけていただけるなんて、思ってもいませんでした。
本当はもっと話したいことがうずまいてますが、キリがないのでやめます。
めちゃくちゃ嬉しいです!見つけてくれて、ありがとうございます!


再開します!


モゾモゾ

勇者「ん……。おい……今なんか……ふわぁーあ」

スタスタ

勇者「あれ……先生はソファで寝てなかったか?
それに……おい、どこにいんだよ」

スッ

医者「電気はつけないでくれ」

勇者「……!」

医者「つけなくても君なら分かるんじゃないのか?
なにが起きたのか」

勇者「いえ……目がかすんじゃって。
鼻水も止まらないんですよ。先生がいるってことしか分かりません」

医者「そう……。じゃあ、寝室の方で話そうか」

勇者「ええ……」

スタスタ

医者「ふぅ……」

勇者「先生……ここも電気はダメですか」

医者「君とは静かに話したかったんだ。照明はうるさすぎる」

勇者「……話ってなんですか?」

医者「俺達は魔王を追っていただろ?
でも、俺はもう目標を達成していたんだ。八年も前にね」

勇者「えっ?達成していたって……」

医者「魔物が妻と娘を殺したんじゃない。魔物はあの二人の方だったんだ」

勇者「……!?」

医者「フフフ……簡単なことさ。俺は窓ガラスに写った俺を見てたんだ。
俺そっくりの魔物なんていなかったんだよ」

勇者「先生……それって……」

医者「あの二人は耳を貸そうともしなかった。
だから、君が起きるのを待っていたんだ。
君なら聞いてくれるだろ?」

勇者「……ええ、話して下さい」

医者「あれは、俺がしたっぱの研究員だったころのことだ。
俺は、新しい発見をしようと躍起になっていた」

勇者「……」

医者「俺は火事場の馬鹿力の正体を探っていた。
そして特殊なホルモンを見つけたんだ。
俺は一時的にもてはやされて、妻も俺の将来性にひかれて近寄って来たようだった。
でも、俺はそれでもよかった。彼女を幸せにしようと誓ったよ」

勇者「……」

医者「だけど、俺達には問題があった。
子供ができなかったんだよ。
彼女は俺を治療に誘った。でも俺は治療に行くかわりに彼女を責めた。
子供ができないなんて、お前は呪われているんだと。
研究が思うようにいかない鬱憤を、彼女にぶつける形だった」

勇者「……」

医者「……それでも気がつくと子供ができて、俺達は平和を取り戻した。
俺の研究が乗っ取られるその時まではね。
その研究は俺の手を離れてから成功した。
俺の見つけたホルモンを妊婦に投与して、胎児に与える影響を調べるというものだった。
……その胎児が君だ」

勇者「お、俺ですか?」

医者「ああ。君は魔法の素質があるということで、研究はまた脚光を浴びた。
……だが、褒め称えられたのは俺じゃなかった。
俺は苛立ち、闇の取引を始めた。
ホルモンの軍事利用さ。俺は人殺しの道具を作ることにした」

勇者「……!」

医者「妻はそれが気に食わなかったらしい。何度も止められたよ。
でも俺は耳を傾けようともしなかった。
業を煮やした彼女は、衝撃的な事実を口にした。
娘が……娘が俺の子供じゃないってね」

勇者「えっ……」

医者「父親が別にいるらしい。
だから娘をつれて、そいつのところへ出ていくと言われたよ。
俺は相手の名前を問いただした。
彼女は正直に答えてくれた。一番聞きたくなかった名前を」

勇者「……研究を乗っ取ったやつですか」

医者「フフ……やけにカンがいいじゃないか。
そう、アイツは俺の生きがいを全て奪ったんだよ。
家族も仕事も、俺にはなにも残っていなかった。
……まわりにいたのは魔物だけだ」

勇者「そんな……」

医者「俺は、俺の唯一の成果を持って外に出た。
彼女と喧嘩をしたそのままの勢いで」



ー八年前ー


妻『……やっと帰ってきたわね。こんな時間にどういうつもり?』

医者『彼に会ってきたんだ。君の彼氏にね』

妻『そんなことは分かってるわ。私が聞きたいのは、アナタがなにをしたかよ』

医者『彼はね、虚栄心の塊みたいな男だったよ。俺は薄汚い間男だってさ』

妻『……』

医者『大丈夫、俺は怒ってないよ。
悪いのは全部彼であって、君の責任ではないからね』

妻『責任?責任ですって?』

医者『ああ。彼には責任をとってもらったから。この件に関して、君に追及する気はないんだよ』

妻『ふざけないでよ……。
一体彼になにをしたの!』

医者『彼はもうこの世にはいない。これで、全て元通りだ。違うかい?』

妻『……!!
分かったわ……。つまり、アナタはあの怪しい研究を実らせたって訳ね。
おめでとう、さようなら』

医者『待ってくれ。ただ一言だけ謝ってくれさえすれば、俺は君を許そうと思ってる』

妻『私を許す……?アナタまだ分からないの?
アナタはエミの父親を殺したのよ』

医者『父親は俺だよ。エミだって俺を父親だと思ってるはずさ』

妻『おめでたい人ね。エミはあの人が父親だって、ずっと前から知ってるのよ』

医者『なんだって?』

妻『エミもあの人と暮らすことを楽しみにしていたのに……。
アナタはただの人殺しよ』

医者『……』

妻『自首する前に離婚して。金輪際アナタとは縁を切らせてもらうわ』

医者『そうか、分かったよ』

バッ

妻『なによ、なんのつもり?こっちに向けるのはやめてちょうだい』

医者『俺は精一杯手を尽くしたはずだ。
エミの入園式も卒園式も入学式にも出席した。
家事もよその父親より、よっぽど手伝ってたはずだ』

妻『アナタはいつもそう。
俺はこれをしてやったんだ。家庭にも気を配って、頑張っているはずだって。
形だけでそこに心はないのよね。
そういうとこ本当に……アナタのお父さんそっくりよ』

医者『……』プチンッ


ドンッ!!!


妻『』ドサッ

医者『……なぁ、エミ。そこに居るんだろ』

エミ『あぁ……』ブルブル

医者『ママと俺を捨てようとしたんだって?酷いな』

エミ『……パパ……!』

医者『俺はお前のパパじゃない』


ドンッ!!!



ーーーーー


医者「俺はカバンに金を詰めるだけ詰めて、トクシュクに転がり込んだ。
村の人はちょうど医者を必要としててね。
俺はそのときから医者として生きてきた」

勇者「…………はは、そんな。まっさかー。先生が殺人なんて……ははは」

医者「君を宿から追い出して、精神科医を殺したのも俺だよ。
彼女も魔物だったからね」

勇者「……!」

医者「俺のまわりはいつも魔物だらけだ。
気持ち悪くて仕方ないよ。
妻と娘だと思ってたやつらのことも、愛してなんかいなかったのに」

勇者「…………そんなはずはありませんよ。
先生は二人のことを愛してたから、二人を殺したんです。
だって、二人の写真を見て泣いてたじゃないですか」

医者「それはただの強迫観念だよ。君と同じさ」

勇者「えっ?」

医者「君は魔物を憎まなきゃいけないと思い込んでるだろ。
トウガサキの村人を愛していたはずだから。
本当はこれっぽっちもそんな気持ちはないのに」

勇者「……!」

勇者「違う……俺は本当に魔物を憎んでますよ……」

医者「残念だけど、俺には無理してるようにしか見えないな。
君はトウガサキでの暮らしは幸せじゃなかったんだろう。
君が憎んでるのは、村人達の冥福を祈れない自分自身なんじゃないのか?」

勇者「やめろ!俺は魔物が憎いんだ!アイツらを殺してやりたいんだ!」

医者「殺して幸せだったのか?
そう、彼女も同じだ。憎き母親が死んだのに、少しも幸せなんかじゃないだろう。
この数年で俺が唯一学んだのは、罪悪感と愛は違うってことだ」

勇者「やめろ……!アイツだって……アイツは……?」

医者「……」

勇者「……先生、アイツはどこにいるんですか」

医者「電気をつけるといいよ……。
かすんだ君の目でも見えるんじゃないか?」

勇者「……」


パチッ


勇者「……ぁ……!」

医者「……」

勇者「そんな……嘘だろ……?」

歴史学者「」ゴロン

勇者「うっ……うう……うあぁ……」

医者「……さぁ、どうする?俺を殺すか?」

勇者「…………いや……俺は……もう……疲れた……」

医者「えっ?」

勇者「俺を……殺して下さい……もう……」

医者「……!」

勇者「……」


ドンドンッ

店主『アータ達、なにやってるのよ!さっきの音はなに!?ドア開けなさぁい!』

医者「……」

勇者「……」

医者「……」

勇者「……あっ……ひとつだけ……」

医者「……どうしたの?」

勇者「先生を傷つけてごめんなさい……ちゃんと謝ってなかったから……」

医者「……」

勇者「あっ、それともう一つ……。
本当にありがとうございました……先生といたから、生きてるのが楽しかった……」

医者「……」

勇者「……」

医者「……じゃあ、俺もひとつだけ、いいかい?」

勇者「ええ……」

医者「……ごめんね。俺はクソ野郎だよ」


ドンッ!!!


医者「」ドサッ

勇者「……?」

医者「」

勇者「先生……?」

ガチャガチャ ギギギッ!

店主「やっと開い……なにこれ……」

歴史学者「」

医者「」

勇者「先生……?」

医者「」

勇者「………………!!」

医者「」

勇者「…………!!!!!!!!……!!!!」

医者「」

勇者「…………!!!!!」

店主「ちょっと、しっかりして!ねぇ!」

勇者「…………!!!!!……!!!」

店主「なにがあったの!こっちを見て!しっかりしなさい!」

勇者「………………!!!!!」



ーーーーー


カナ「……」

勇者「……酒……」

カナ「えっ?」

勇者「……酒をくれ……」

カナ「……ねぇ、落ち着いて。一体なにがあったのよ?」

勇者「うるせぇな……酒出せよ!一本ぐらいあんだろ!」

カナ「……」

店主「ウチの子を脅すのはやめてちょうだいな。ほら」スッ

ガッ!

勇者「……」ゴクゴク!

店主「お酒なんて、それ以上は出せないからねん。あるのは温かいココアだけ」

勇者「……」

カナ「……」

店主「なにがあったのか、言わなくてもいいわ。
どうせこの街に警察はいないもの。
……でもね、アナタを引き取りたいって人が来てるのよ」

勇者「……」

店主「……ま、好きなだけここにいなさい。
気が向いたら外に出るといいわ。
部屋の荷物は預かっておくし……うん、ゆっくりしなさい」

勇者「……」

ガチャ

シュウト「こんちわー……」

ミカ「……」


スタスタ

カナ「ミカちゃん、シュウト……」

シュウト「いや、なんかさ……とりあえず様子見に来た」

ミカ「……やっぱり帰った方がいいわね。それじゃ」

ギュッ

ミカ「……!」

勇者「……一緒にいてくれ……」

ミカ「……」

シュウト「……」

カナ「……」

ミカ「……全く、袖つかむなんて小さい子みたい。カナちゃんそっくりよ」

カナ「……なに言ってんのよ。私よりシュウトの方が甘ったれでしょ。
この間まで指しゃぶってたのよ」

シュウト「いいじゃない。俺まだ五才だもん。
指がソーセージに見えるんだよ」

ミカ「アンタ指太かったもんねー。腕もボンレスだったし」

カナ「アンタも似たようなもんよ。
赤ん坊のころ医者に『うーん、デラックス』って言われたんでしょ?」

勇者「……先生……」

シュウト「ん?」

勇者「……うぅ……ぅぅぅ……うっ……」

カナ「……」

ミカ「……」

シュウト「……」ポンポンッ

勇者「う……うあああああ……!うわあああああああ!」



ーーー


勇者「……俺を待ってるってやつ、連れてきてくれ」

カナ「オーケー。ちょっと待ってて」

タタタッ

カナ「連れてきたよ」

職員「こんにちは。……大変な目にあったわね」

勇者「まぁな……アンタは何者だ」

職員「クラウン商会の者です。アナタを迎えに来ました」

ミカ「ねぇ、クラウン商会ってなに?」ボソッ

シュウト「知らねぇよ。なんかうさんくさいな」ボソッ

勇者「俺を迎えに?クラウン商会が?」

職員「ええ」

勇者「……いいよ、着いてってやる。行くところもねぇしな」

職員「よかった、ありがとうね。
……そうだ、これお父さんに渡しといてくれる?」

カナ「なによ、これ」

職員「これから、いろいろお金がかかると思ってね。その足しにしてくれていいわ」

カナ「いいえ、困ったら魔王様のところへ行きますから。
どうぞお引き取り下さい」

職員「あらそう……。じゃあ、行きましょうか」

勇者「……」

スクッ

カナ「ねぇ……!」

勇者「……」スタスタ

シュウト「おい……!」

勇者「……」スタスタ

ミカ「……アンタそれでいいの?
こんな終わり方で本当にいいの?」

勇者「別になにも終わらねーよ。
最初からなにも始まっちゃいなかったんだ……」

ミカ「……」

勇者「じゃあな」

ガチャ バタンッ


スタスタ

勇者「……俺がなんで着いていくのか、アンタには分かるよな」

職員「ええ……説明が欲しいんじゃない?なぜ、クラウン商会がアナタを仲間にしたいのか」

勇者「へっ……仲間だなんてバカバカしい……。
本当のこと話せよ」

職員「……アナタは、キリークの話は知ってる?」

勇者「少しはな。……学者のヤローが話してた」

職員「そのキリークの弟子の子孫が私たちなの。
トウガサキ村の人はほとんどそうだわ」

勇者「じゃあ、アンタらはトウガサキ出身なのか……」

職員「ええ。トウガサキから逃げ出した人間で構成されてるの。
村が滅ぶ前の話よ」

勇者「……」

職員「キリークは私たちの一族を世界の監視役にしたわ。
もう同じ悲劇を繰り返さないようにね」

一旦切ります。終わりまで、あともうちょっとかもしれません。

読んでくださってる方、ありがとうございます!

なにゆえもがき生きるのか……勇者は強いよなあ

乙乙

乙!



>>395
>>1がナルト好きって所と作風かなー
あのss妙に記憶に残る内容だったから何となく

>>408
>>410
ありがとうございます!

>>407
ゾーマですね。検索かけるまで知りませんでしたが、ゾーマごと好きになりそうです。
ありがとうございます!

>>409
作風だったんですか……!やっぱり嬉しいです!
ナルトのssはいくつか書いてたんですが、あれが最初でしかも一番できが良いんじゃないかなーとか思ってるんです。
だから、あれを知ってて下さったのは、本当に嬉しいです。ちょっと感動してます。

でも、私の作風って言葉にするとなんなんでしょう。『鬱』とかですかね……。


ともかく、再開します!

職員「キリークの子供が殺されてからのことは、私たちの一族しかしらないわ。
でも、アナタには知らされてないわね。
アナタは勇者様だから」

勇者「……どうせ、キリークは人々に復讐したとか言うんだろ。
子供殺されたらそりゃムカつくよな」

職員「ええ……。彼女は優れた科学者だったから、ある兵器を作ったのよ。
プスタ・テクルコという破壊兵器よ。それを使って世界を焼きつくしたの」

勇者「……」

職員「そして弟子達に世界を見張るように言い渡した。
もし世界がまた間違いを犯すようなら、勇者様に世界を作り替えさせるように言って、彼女は自殺したわ。
トウガサキの文明が遅れてるのは、世界の発達に干渉しないためでもあるのよ」

勇者「……へっ……へへ。
そんなのただのおとぎ話だろ。アンタは信じてんのか?」

職員「私には本当かは分からないわ。
でも、トウガサキの人は信じてた。
それに、プスタ・テクルコは実在したのよ」

勇者「なんだと?」

職員「400年前には戦争なんて起こってなかった。
ある青年による虐殺が始まったのよ。
肌がピンク色の一族と、私たちの一族に家族を踏みにじられたって言ってね。
その青年が言うには、プスタ・テクルコを作り出せたらしいの。
そして青年はこの国の王になり、それまで支配していた私たちの一族はトウガサキに追いやられた」

勇者「じゃあ、その……プスタなんとかってやつを、王族はまだ持ってるのか?」

職員「いいえ……青年が破壊したらしいわ。
でも、王族の科学力を恐れて、未だに支配が続いているのね」

勇者「くだらねぇな。アンタの話は、何一つ根拠がねぇ。
それにグダグタと無駄になげぇ。
クラウン商会はどうして俺を狙うんだよ?」

職員「アナタが勇者だからよ。世界を作り替えることの出来る、ね。
今の世界は間違ってる。ラジオは無いのにテレビはある。レコードは無いのにCDがある。
それはおかしいことらしいのよ」

勇者「質問を変えればいいか?
アンタらは俺になにをやらせるつもりなんだよ」

職員「この世界を変えてほしいの。
私達が導きやすいように。
それが世界を救う唯一の方法なのよ」

勇者「はは……。残念だが、俺にはなにも出来ねぇよ。
今までに俺がなにかできたか?なにか、勇者様の功績を知ってるのか?」

職員「街を救ったらしいじゃない。魔物の群れを倒してあげたんでしょう?
素晴らしいことだわ」

勇者「魔物は倒したんじゃない、殺したんだよ……!
俺は血まみれになって笑ってた!それだけだ!」

職員「なにを怒ってるのよ。アナタのその力は素晴らしいのよ。
世界を救う力があるわ」

勇者「へっ、やっぱり俺がバカだったぜ。
いくらヤケクソだからって、アンタらに協力しようとするとはな。
アンタの話は理解したくねぇ。もう俺は行かねぇよ。じゃあな」

職員「アナタだって世界は汚いと思ったでしょう?
私たちがトウガサキの出だって知っただけで、世間は眉をひそめるのよ。
トウガサキの悪魔教の信者が、ボランティア紛いの偽善を振り撒いてるってね」

勇者「どうせアンタらの行動が異常だったからだろ。
いきすぎた善意はただの狂気だよ。
もう、ついてくんな」

職員「……アナタも、こんな世界滅べばいいと思わなかった?
死んだ方がマシだと思わなかった?
私は両親が死んだときそう思ったわ」

勇者「……」

プシュッ

勇者「な!?」

職員「油断したわね。これでしばらく目は見えないはずよ」

勇者「この……!」

男「ったく、なにいいようにやられちゃってんのよ。
やぁねぇー」

勇者「その声は……!なんでこんなとこにいんだよ!」

女「アンタがクラショーに連れ去られたって言うから、助けに来てやったんだ。感謝しな」

勇者「連れ去られたなんて誰が……」

男「俺のカワイー甥っ子の、シュウトから教えてもらったんだよ」

勇者「甥っ子……マジかよ。ああ、だから……」

職員「アナタ達なにを話してるの……!なんなのよ!」

男「俺達は魔王様の手下ですよー。アナタから勇者様を奪いに来ました」

職員「……フフフ、たった二人で私の相手をしようとは。ずいぶんと自信があるようね」

男「いやぁ、正直言って怖いですよ。オシッコちびりそうだ」

女「だから、お前は残ってろって言ったじゃないか。
どうせ役に立たないんだからねぇ」

男「君を一人にする訳いかないじゃない。俺は君の手下なんだから」

女「私はアンタを手下にした覚えはないよ」

職員「私を前に無駄話とは、本当に命知らずね。そっちから来ないなら、私が行くわ」

シュタンッ

男「うひょっ。じゃ、任せた」

女「はいはい。アンタも勇者様を見てるんだよ」

男「オッケー」

グイッ

勇者「なにすんだよ!離せよ!」

男「そばにいると巻き込まれるから。ちょっと逃げましょ」

ズルズル


スタスタ

勇者「……お前らはなんなんだよ。あのオバサンも……」

男「あのオバサンは、お前んとこの先生が見つけたホルモンを注射してんだよ。
だから、魔法が使えちゃうってわけ」

勇者「……じゃあ、お前も注射してんのか?あの女も」

男「俺の女は国の機関にやられたよ。
俺は魔法が使えるようになる道具を使ってるだけ。
お前の先生が作ったのをもとに、魔王様が作ってくれたのよ」

勇者「ケッ……魔法が使えて満足か?魔法なんてなんの役にも立たねぇのによ」

男「あらまぁ、やさぐれちゃって。
俺は、色々と便利だと思うけどね。
それにこれしか方法がないんだよ」

勇者「なにがだよ」

男「……俺の女はもうすぐ死ぬんだ。俺のせいで、な」

勇者「……?」

シーン…

勇者「戦ってる音が……」

男「もう決着がついたんでしょ。じゃ、そろそろ行きますか」

勇者「……」

スタスタ

職員「」

女「う……あ……」

男「どうやら勝ったみたいだな。良かった」

勇者「良かった……!?こいつ死にかけてんだろうが!良かったなんて……」

男「……だから今から俺が治すんだよ。
こうなることは分かってたからな。準備は万端だ」

勇者「……どういうことだよ」

男「ま、勇者様を助け出すのは命がけだったってわけ。俺たちにとってね」ヒュッ

ヒュルンヒュルン

勇者「……なにやってるんだよ」

男「体の怪我を治してる。それに頭の中も掃除中だ。
俺のせいで、ずっと血だまりがあったからな……」

勇者「…………話せよ。聞いてやる」

男「全く、優しい勇者様だこと……。じゃあ、少し聞いてもらおうかな」

勇者「……」



ーーー


女「……ん。なんだいここは……」

勇者「やっとお目覚めかよ……頭はなんともねぇのか?」

女「そういえば痛くないね……。いや、そんなことより状況がさっぱりだよ。
なんでこんなところで、私は寝てるんだい?」

勇者「アンタの連れが、アンタを助けたからだよ」

女「私の……連れ……」

勇者「……アンタが記憶喪失だったこと、アイツから聞いたぜ。
アイツが原因だってこともな」

女「そうだ……私は研究員だったアイツの親をころ……なのにアイツの家に逃げ込んだんだ」

勇者「思い出したのか?」

女「ああ……。私はアイツに竹馬で殴られて……あのガキに助けられた……」

勇者「……アンタのこと、アイツは大好きだったんだと。
でも、助けを求めに来たアンタをめった打ちにしちまったらしい。
親を殺されて、その時は我を忘れてたって言ってた。
……後悔してるって言ってたよ」

女「アイツから話は聞いてたが……まさか本当だったとはね……全く。
それで、アイツはどこにいるんだい?」

勇者「……死んだよ」

女「死んだ……?」

勇者「アンタを助けるには魔法を使わなくちゃならなかった。
それも難しい魔法だ。俺にもよく分かんねぇようなやつだった」

女「……魔法を使ったから死んだのかい」

勇者「非現実的な力は……体を溶かしちまうらしい。
……アイツは溶けちまった……」

女「もしかして、あの緑色の塊がそうだとか?」

勇者「……」

女「全く気持ち悪い奴だよ。溶けちまうとは、想像もつかないことをするもんだ」

勇者「触んなよ、溶けるから」

女「……」

勇者「……今まで治さなくて悪かった。辛い思いをさせてごめんね。
これからは自由に生きてくれ、だって」

女「……」

勇者「じゃあ、俺は伝えたから……じゃあな」

女「ちょっと待ちな。私からも頼まれてくれないかい?」

勇者「なんだよ」

女「私も帰れないって、魔王様に伝えてくれ。
……それに気が向いたら、あのガキの友達になってやってくれ」

勇者「……」

女「魔王様は、森を道なりに行った先にいるからねぇ。これが鍵だ」ぽいっ

パスッ

女「……」

勇者「……」

女「頼むから……」

勇者「……仕方ねぇな。行ってきてやるよ」

女「そうかい。助かるよ」

勇者「……またな」

女「はいはい」

スタスタ



ーーー


スタスタ ガチャ

勇者「……」

魔王「……」

勇者「……」

魔王「……俺が起きたらな、あの二人はいなかった。
そしてお前が現れた」

勇者「……」

魔王「……あの二人になにしやがった。勇者様よ」

勇者「……お前に伝言がある。もうあの二人は、ここには帰れないってよ」

魔王「それを伝えに来たのか……?
人の仲間殺しといて、用件はそれだけかよ!」

勇者「俺は殺してねぇよ。
男の方は女を助けるために死んだ。
女は……俺は知らねぇ」

魔王「……」

勇者「本当に俺は殺してねぇ。
……でも、俺を助けるためにこんなことになったらしい。
だから、謝りに来た」

魔王「……謝る?謝罪なんていらないね。
もう、俺はお前に興味はない。こんな世界にもな!」

スタスタ

勇者「待てよ。……あの女が、お前の友達になってやってくれってさ。
俺に言い残したんだよ」

魔王「じゃあ、親友の勇者様。世界を滅ぼすのを手伝ってくれよ」

勇者「世界を滅ぼす?」

魔王「そーだよ。俺の母ちゃんは科学者だった。
テレビやCDを作り出したのも母ちゃんだ。
その他もろもろ、家電製品のほとんどを手がけたよ」

勇者「……それと世界と、なにが関係あるんだよ」

魔王「母ちゃんは世界を憎んでた。
そして自分の設計に発火する装置を加えたんだ。
そんなことも知らずに、世の中のアホどもは、量産を繰り返してる。
設計図をうのみにして、疑いもせず未だによ。
ここに起動装置があるってのにな!」

勇者「……そんなことしたら、カシマオーノの人もヤバイんじゃねぇのか?
お前の城下町なのに」

魔王「……誰から聞きやがったんだよ。口止めしてたのに」

勇者「お前が薬をくれたおかげで、俺の先生が助かったからな……。
薬の飲みすぎでへばってたの知ってんだろ?」

魔王「まさかアンタのお仲間のためだったとはな……。
そういえば、そのお仲間はどうした。
せっかく魔王の居場所を突き止めたのに、逃げちまったのか?」

勇者「死んだよ……」

魔王「……!」

勇者「……なぁ、世界を滅ぼすなんてやめろよ。俺達には仲間がいた。
仲間だって世界の一部だろ」

魔王「今はもういない。
……それに、俺は産まれたときから呪われてんだ。
俺の父親は誰だと思う?……俺のじいさんなんだよ!母ちゃんの父親だ!」

勇者「……親だけが全てを決めるわけじゃない。
現にお前は城下町のやつらに慕われてんだろ」

魔王「どうだか。
アイツらは、俺が甘い言葉を囁いたからここにいるだけだ。
装置が完成したら、願いを一つずつ叶えてやるってな」

勇者「装置ってなんだよ」

魔王「プスタ・テクルコだよ。あれの完成のためにアンタが必要だった。
まぁ、今となってはただのガラクタだ」

勇者「プスタ・テクルコってのは破壊兵器じゃねぇのかよ。願いなんて叶わねぇだろ」

魔王「いや、こいつはどんな願いでもひとつだけ叶えてくれるんだ。
アンタもこれを作るために、色んな古代文字の文献読まされただろ?」

勇者「……!」

魔王「だが、もうこいつに用はない。世界を滅ぼせば全てが終わるからな」

勇者「待てって!……お前キリークと同じ間違いをするのか?
世界を焼きつくすんじゃなくて、仲間を生き返らせろよ」

魔王「もういいんだよ!こんな世界に希望はない!
……アンタだって分かるはずだ。俺のイトコなんだからな」

勇者「なんだと……」

魔王「お前の母親は、俺の母ちゃんの姉だ。お前の父親は俺達のじいさんだよ。アハハ」

勇者「まさか……」

魔王「他にも話してやろうか?
アンタの母ちゃんは、人生を諦めて自分とアンタを研究所に売った。
訳の分からねぇホルモンで母ちゃんはボロボロだ。
それをトウガサキのやつがさらった。
助けに来たんだと思うだろ?」

勇者「……」

魔王「でもな、トウガサキのやつらはホルモン注射を続けたんだ。
母ちゃんは死んで、お前は魔法を使える勇者様だ。
輝かしい過去だよなぁ。えぇ?」

勇者「……」

魔王「ついでに教えてやるよ。お前の愛しのトウガサキを襲ったのは魔物じゃねぇ。
クラウン商会だ」

勇者「……!」

魔王「魔物の村も一個潰せて、いいことづくめだったんだろうな。
で、アイツらのバックにいるのは国だよ。
クラウン商会のパトロンは、なんと国王様だ。
魔物の擁護団体も国お抱えの組織だからな。
アイツらのリンゴと蛇のマークは見たことあるはずだ」

勇者「……」

魔王「これで分かっただろ……この世界は腐ってる!
腐りきってるんだよ!
だから俺がぶっ潰してやるんだ!」

勇者「……ふざけんなよ。それが世界の全てだとでも思ってんのか。
お前は世界の何を見たんだよ」

魔王「へっ……勇者様も見てきたでしょうよ。
この世界は汚い。そう思いませんでした?」

勇者「思ったね。ろくでもないことばっかりで、心底疲れちまった。
死にたいとも思ったよ。
……けど、本質は違う」

魔王「本質だと?」

勇者「ああ。どんなやつも、みんな自分が憎いんだ。
でも自分を憎めるだけの強さがない。
だから必死に演技してるんだよ。
良いやつのふりしたり、子供のふりしたり、愛してるふりしたり、スッゲー辛いのに平気なふりしたり、みんな自分と周りを騙そうと必死なんだ。
そうしてなんとかやり過ごそうとして、世界を汚していくんだよ」

魔王「……」

勇者「だから、みんなが自分と向き合えば、世界は汚くならねぇんだ。
俺もお前も含めてな」

魔王「はっ……なにをきれいごとを……」

勇者「きれいごとでもなんでもねぇよ。俺はきっとそうだと思いたいだけだ。
……だって俺達『世界が』って言うけど、まだこの国のことしか知らねぇんだぜ?
知ろうとすれば、うまくいってる素敵な国も見つかるかもしれねぇんだぞ」

魔王「……そんな国、存在しねぇかもしれねぇだろ」

勇者「なら、俺達の国がそうなるよう努力したらいいんじゃねぇか。
勇者と魔王が手をとりゃ、怖いものなんかねぇだろ」

魔王「フフ……勇者気取りのアンタには悪いが、魔王はアンタなんだよ。
国が追いかけてる魔王ってのはアンタのことだ。
残念だったな」

勇者「いーや、俺は勇者だ。この状況を打開する策もある」

魔王「なんだって?」

勇者「アンタの仲間が残したメモを見たぜ。
足りないのは『卵の黄身』と『虹』だろ?
文脈から察するに、虹はきっとこいつだ」

スッ

魔王「虹色のアンモナイト……」

勇者「こんな偶然、俺もコエーけどよ。こいつでなんとかならねぇかな」

魔王「ああ……黄身は解決した。
そいつが本当に虹なら、プスタ・テクルコは完成する」

勇者「じゃあ起動装置なんて捨てろよ。アイツらを生き返らせれば終わりだ」

魔王「……単純だな、アンタは。
あの二人を生き返らせても、世界は腐ったままだ。
生き返らせる価値がどこにある?」

勇者「俺達が望むからだよ。生き返らせたいから、生き返らせるんだ。
世界が腐ってるのは今に始まったことじゃねぇしな。
身勝手だなんて言われても、気にしねぇよ」

魔王「……それでもアンタは身勝手だよ。生き返らせたあとはどうするか、考えてんのか?」

勇者「俺が願うなら……一緒にいたいって願うだろうな。
三人で一緒にいたいって願いを叶えてもらって、あとは自分でなんとかする」

魔王「……もし二人が死にたいと言ったら?」

勇者「泣きつくよ。泣いてすがって一緒にいてもらう。
土下座でもなんでもするね」

魔王「その先にアンタの思う未来があるのか、アンタは考えないのかよ?」

勇者「しつけぇな……理屈じゃねぇんだよ。会いたいか会いたくねぇかってだけだ。
俺はあの二人に会えるなら地獄に落ちたっていい……それでも会いてぇんだよ。
世界平和なんてあの二人が生き返ったあとでいい」

魔王「…………へっ、俺の装置を使う気満々なんだな」

勇者「手伝ってやるんだから、あたりめーだ。
それに俺は絶対諦めねぇって約束したんだよ」

魔王「……」

勇者「お前も、本当は復讐なんかより大事なことがあるはずだ。
お前が寂しいってことは、俺も分かるよ」

魔王「……」

勇者「泣いてみるとちょっとだけすっきりするぞ。
で、ゆっくり寝る。
メシは俺が作ってやるから、それも食え」

魔王「……なんでそんなに俺に関わるんだよ。願いを叶えてもらうためか?」

勇者「まぁな、それはなにをおいても重要だ。
……それに、今お前の気持ちを一番分かるのは、恐らく俺だからな」

魔王「へっ……大した勇者様だ。
お仲間が死んでるのに優しいことで」

勇者「……死んだからだ。なにかをしてないと頭がおかしくなっちまう。
今だって手の震えが収まらねぇよ。
お前も分かるだろ」

魔王「……」

勇者「じゃあ、俺はメシを作るから……しばらくゆっくりしてろ。
起動スイッチは押すなよ」

魔王「信用できないなら奪えよ。勇者様ならお手のものだろ」

勇者「……」

バタンッ

魔王「……」

魔王「……へっ……」

魔王「……へへっ……なんだよ、あの二人が死んだなんてよ……。
意味分かんねぇ……!!」

魔王「分かんねぇよ……!!」

魔王「……!」ポタッ

ポロポロ

一旦切ります。
読んでくださってる方、本当にありがとうございます!

レスありがとうございます!

とりあえず今回で最後です。ちょっと緊張してます。
本当にありがとうございました!


モグモグ

魔王「……」

勇者「うめぇか?これ、先生の焼きうどんを真似したんだ」

魔王「……まぁ、かなりうめーよ」

勇者「良かった……。じゃあ、食い終わったらすぐに装置作れよ」

魔王「作るもなにも、あとは虹を組み込むだけだ。
そんなに手間はかからねぇ」

勇者「そうなのか。あっけないもんだな」

魔王「……完成させんのはな。だけど俺は……」

勇者「なんだよ」

魔王「……あの人に生き返らせないでくれって、頼まれたんだよ。
延命処置もいらないし、人間死ぬときに死ぬもんだって……」

勇者「まだ迷ってんのか?
……人間なんて身勝手なもんなんだよ。
お前も、魔王なんてやってたんだから分かるだろ」

魔王「まぁな……あの人と一緒に万引きしたり、壁に落書きしたり……。
くだらないほど身勝手なことばっかしてきたよ」

勇者「でも、それじゃ寂しいから城下町なんて作ったんじゃねぇの?」

魔王「……アンタはどうなんだよ。人のことばっかり言いやがって」

勇者「俺は、積極的に人の人生を引っかき回してきた。相談に乗るふりしてな」

魔王「へっ、ろくでもねぇ勇者様だな」

勇者「……多分、寂しかったからだ。誰かの記憶の中にいたかったんだ。
……でも、今はあの二人がいればなにもいらねぇ」

魔王「……死んだことを、受け入れるべきだとは思わねぇのか?」

勇者「…………思うけど、お前は諦められんのか?」

魔王「……」

勇者「じゃあ、作ろうぜ。あとちょっとなんだろ?」

魔王「ああ……」

スクッ



ーーーーー


ゆっさゆっさ

勇者「……うーん。まだ眠いんだよ」

バチンッ

勇者「イデッ!なにすんだよボケナス!」

歴史学者「ちゃんと起きてるじゃないか。早く顔洗え」

勇者「あ……待ってくれ」

歴史学者「どうした?」

勇者「もう一回、顔叩いてくれ……」

歴史学者「……」

バチンッ!!

勇者「イテェ!!」

歴史学者「全く、こっちの手だって痛いんだ。
いい加減にしてくれ」

勇者「……」

歴史学者「……大丈夫だ、夢じゃないよ。私はちゃんといる。先生もな」

勇者「……あたりめーだろ。いなきゃ困るっつーの」

スタスタ

医者「ああ……おはよう」

勇者「今日のご飯はなんですか?結構ガッツリ食いたいんすけど」

医者「オムライスだよ。ちょっと甘めに味つけてみた」

勇者「やった。早く食べましょうよ」

医者「そうだね……」


カチャ モグモグ

歴史学者「……」

勇者「……」

医者「……」

歴史学者「……うん、うまい」

勇者「ああ、ほっとする味だな」

歴史学者「うん……」

医者「……なぁ」

勇者「……」

医者「俺はやっぱり……君達といるべきじゃないと思うんだ」

歴史学者「……全く、まだ言ってるんですか?こいつに免じて許してあげるって言ったでしょ」

医者「でも……俺は……」

歴史学者「……あの時は私もタイミングが悪すぎました。
私は自分の思いに忠実に生きようって、それしか考えてなかったんですよ。
そうしなきゃ自分が自分じゃなくなるような気がしてたんです」

医者「……だけど……許されることじゃないよ……」

歴史学者「確かにそうですね。
でも、あの勇者様が泣いてすがりついて来たんですもん。
だから先生だって腹を決めたんでしょう?」

勇者「……」

医者「……俺は君にも酷いことを言った……なのに……」

勇者「そりゃあ傷つきましたけど、本当のことだからこそ傷ついたんです。
俺は自分が一番辛いと思ってるようなやつですから。辛かった……」

医者「……」

勇者「……でも、今はもういいんです。三人でいられないことより辛いことはないですから」

医者「……ごめん……」

歴史学者「さ、そんなことより、さっさと部屋を片付けましょう。
今日はパーティーなんですから」

勇者「そうか……そうだったな」

医者「……じゃあ、俺は料理を作るよ」

勇者「あ、クッキーも作って下さい。俺が食べたいんで」

医者「いいけど……パーティーには出さない方が良いんじゃないかな」

勇者「そんなことないですよ。なぁ?」

歴史学者「うーん、ビミョーだ。
私は好きだけど、やぼったいからな」

勇者「とにかく、作って下さい。いいですね?」

医者「ああ……分かったよ」



ーーー


ピンポーン

歴史学者「はいはーい」

ガチャ

カナ「こんちは!遊びに来てやったわよ」

ミカ「なんだ、キレーなとこに住んでんじゃない」

シュウト「ヤッホー、ゾンビのお姉さん」

歴史学者「失礼な!私は不死身なだけだ」

勇者「よく来たな。ま、入れよ」

ミカ「お邪魔しまーす」

カナ「わぁ、風船がいっぱいね」

勇者「すげぇだろ。ピエロに作ってもらったんだよ」

シュウト「ピエロ?ああ、遊園地から逃げてきたやつか。
俺達の街にいたよな」

勇者「魔王経由で来てもらった。俺達も顔見知りだからな」

ピエロ「ようこそみなさん。星形にハートにスマイルちゃん。
色々ありますよ」

カナ「私ハートがいい!」

ミカ「私は星かなぁ」

シュウト「俺、スマイルちゃんがいいな」

男「俺もスマイルちゃんもらおうかな」

勇者「お前も風船欲しいのかよ」

男「いいじゃない。だってカワイーんだもの」

勇者「魔王達はどうしたんだ?」

男「俺は今日はこの子達の保護者だから。魔王様のお守りまで出来ないよ」

魔王「テメェのお守りなんかいらねーよ」

男「あらら……」

勇者「よぉ、よく来たな」

女「私を呼ぶってことは、お酒もあるんだろうねぇ」

勇者「多少はな。その抱えてんのはなんだよ」

魔王「これか?電子レンジって言うんだよ。すげぇぞ。テメェにくれてやる」

マリ「ちょっと、後ろつかえてんのよ。早く入って」

歴史学者「マリ……!」

魔王「頼まれた通り見つけ出して来たぜ。
じゃ、俺はジュースでももらおうかな」

スタスタ

歴史学者「よく来てくれた……。会えて嬉しいよ」

マリ「大げさ。これからはカシマオーノに住むし、いつでも会えるよ」

勇者「そうなのか?」

マリ「魔王様からお誘いがあったんよ。この人も一緒にね」

魔物「こんにちは。もう一人のお仲間は?」

歴史学者「奥でご飯つくってますよ。ぜひ声かけてあげてください」

魔物「ええ。では失礼します」

勇者「全く、相変わらずだな。
……でも、元気そうでなによりだ」

マリ「なーに言ってんのよ気持ち悪い。アンタらこそ元気でなによりよ」

歴史学者「ははっ。じゃ、入ってくれ。
先生手作りのご飯が並んでるぞ」

マリ「それはちょっと楽しみね。お邪魔します」

スタスタ

歴史学者「良かった……本当に元気そうだ」

勇者「そうだな。俺もほっとしたぜ」

ピンポーン

勇者「おっ、また誰か来たな」


ガチャ

ケンタ「よう」

勇者「おー!お前も来てくれたのか」

ケンタ「まぁ、あの時、酒の誘いは断っちまったからな。
今回は乗ってやるよ」

勇者「いや、もう酒はすすめねぇよ。入ってくれ」

ケンタ「ああ……そういえば言いたいことがあってな」

勇者「なんだよ」

ケンタ「今はそこそこうまくいってる。先生に誉められんのは諦めることにしたよ」

勇者「そうか……。俺もな、やっとうまくいきそうなんだ」

スタスタ

歴史学者「……じゃ、これで全員か?」

コソコソ

歴史学者「ん?」

町長の息子「やべっ」

歴史学者「おい……そこの不審者二人」

町長の息子「ふ、不審者だなんて言うことないだろ!
せっかく来てあげたのに……」

歴史学者「私はアンタには会いたくなかったよ。
よくも私の家を焼いてくれたな」

町長の息子「うっ……それは……」

歴史学者「まぁ、のこのこ来てくれたんだし、許してやる。
その子は誰だ?」

カズキ「……俺は勇者に会いに来たんだよ」

ピタッ

勇者「……カズキ……!」

カズキ「……」

勇者「なんでお前が……」

町長の息子「僕が連れてきたんだ。友達だから会いたいってせがまれてさ」

カズキ「……お前に謝りに来たんだ。ごめん」

勇者「……!」

カズキ「……」

勇者「……じゃあ、あれは幻じゃなかったってわけか」

カズキ「幻?」

勇者「いや……。俺は謝ってもらうより、許してもらいてーけどな」

カズキ「なんでだよ……俺の街のやつが魔物退治なんて頼んだから」

勇者「そんなことはお前の責任じゃねぇよ。
……あんな姿、見せて悪かった」

カズキ「……いいぜ、許すよ」

勇者「そうか……ありがとな」

歴史学者「話しは終わったか?」

勇者「な、なんだよ」

歴史学者「マリを連れてきた。無理矢理な」

マリ「もう、離しなさいよ!」

カズキ「マリなのかよ……!?」

マリ「全く、隠れてようと思ったのに……」

カズキ「良かった……元気だったんだな……」

マリ「……怒んないの?アンタとの約束破ったのに」

カズキ「いや……なんか……嬉しくて泣きそうだ……」グスッ

マリ「ちょっと、やめてよバカ。やっぱりガキね……」グスッ

歴史学者「……じゃ、私達も食べようか。せっかくの料理が無くなる」

勇者「そうだな……食うか!」

カチャ モグモグ



ーーー


ガヤガヤ

シュウト「俺は緑の風船な!カナちゃんは黄色を集めてくれ!」

カナ「アハハ!もう、バカ!そんなふうにやったら割れるって!」

ミカ「ねぇ、ジャグリングってできる?」

ピエロ「できるよ。特別にお見せしましょう」

男「おおすげぇ。お手玉なら俺も出来るんだけどなぁ」

魔王「じじくせぇな。お手玉かよ」

女「私もお手玉は好きだったんだけどねぇ」

魔王「いやぁ、とっても素敵!」


ガヤガヤ


勇者「……」

マリ「なに遠い目してんのよっ。勇者様が主役でしょ」

勇者「いや……今日は幸せだなってさ」

カズキ「ふーん。そうは見えねぇけど」

勇者「……」

マリ「……アンタが色々と大変だったのは聞いたよ。魔王が話してくれた」

勇者「……」

カズキ「幸せだなんて、無理に思わなくていいんじゃねぇの。
三人でいるのが幸せだって、思いてぇのは分かるけどさ。
まだ時間がかかんだろ」

勇者「なんだよ、お前ら……。俺は……幸せなんだよ……」

マリ「だから、そんなふうには見えないんよ。無理しちゃダメだって」

勇者「……」

マリ「そんなふうに自分を責めなくても、アンタは幸せになっていいんよ。
アンタがアンタ自身を許したくなくても、許していいんだよ」

勇者「それ……俺が言ったことだろ」

マリ「そうよ。これからずっと辛い顔して生きていくのは馬鹿げてる。
アンタがそう言ったんよ」

勇者「……」

カズキ「話聞いてやっから、言えよ。なにを抱えてる?」

勇者「……生き返らせて良かったのか、分からねぇんだ。
このままずっと、あの二人がギクシャクしてるままなら……こんなこと……」

マリ「……」

カズキ「……」

勇者「……俺はどうしたらいい?あの二人は俺のために一緒にいるだけなんだ……。
もうわかんねぇよ……」

マリ「……じゃ、まだ大丈夫よ。アンタを通して繋がってるんだから」

勇者「えっ……」

カズキ「お前がなんとかしてやれっかもってこと。
まだ可能性はあんだろ」

勇者「本当か……?」

マリ「ええ。それに、アンタ達また旅に出るんでしょ。
王様ぶっ飛ばしに。
みんなで同じ目標追っかけんのはいいことよ」

勇者「……」

カズキ「俺も応援してるよ。あのアンモナイトまだ持ってんだろ?
まー、あれを俺だと思ってさ」

勇者「悪い……あれは使っちまった」

カズキ「使う?なんか使い道あったのか?」

勇者「……あれのおかげで二人が生き返ったんだ」

カズキ「なら、文句はねぇよ。
じゃ、代わりにこれをやる」

ぽいっ

勇者「なんだこれ」

カズキ「怪獣の化石だよ。マリにもやる」

マリ「怪獣じゃなくて恐竜っしょ。ゴジラみたいなのがいたら困るわ」

勇者「……」

カズキ「ま、俺からのアドバイスは心を開くってことだな。
自分が心を開けば相手もまた然り!」

勇者「お前に言われても説得力ねーよ。
……ま、ありがとな」

スタスタ

医者「みなさん、デザートができましたよー……」

シュウト「スゲー!でっけぇケーキだな!」

魔王「本当に手作りかよ。よく作れんな」

歴史学者「ほら、三人とも。
そこでウジウジしてないで、食べようじゃないか」

マリ「じゃ、いっくよー」

カズキ「なんかスゲー豪華だぞ。行こうぜ」

勇者「……ああ!」

スタスタ



ーーーーー


歴史学者「ふわぁーあ。今日は疲れたよ。片付けは明日だな」

医者「そうだね……俺も疲れた。早く寝よう」

勇者「そうですね……」

スタスタ ボフン

歴史学者「あー、布団が気持ちいい。本当に疲れたー」

勇者「なぁ……今日は床に布団しいて寝ないか?」

歴史学者「なんで?」

勇者「……みんなで一緒に寝たいんだ」

歴史学者「……仕方ないな、甘ったれ」

勇者「先生……」

医者「いいよ。俺もそうしたかったから」

バサッ ゴロン

勇者「……」

医者「……」

勇者「……俺、言ってなかったことがあるんです。
言ってもいいですか?」

医者「ああ、いいよ」

勇者「……俺の村が滅ぶ前に……俺……滅べって、思ったんです」

医者「……」

勇者「俺のせいで滅んだんじゃないかって……怖くて言えなかった……」

歴史学者「……」

医者「……俺も、妻と娘を愛してるって思いたかった……自分が悪かっただなんて、考えたくなかった……」

勇者「……」

歴史学者「……じゃあ、私は母親の墓でも立てようかな……立派なやつをさ……」

医者「……」

勇者「……ありがとう」

医者「それは俺のセリフだね。……二人とも、ありがとう」

歴史学者「いえいえ。まぁ、私は過去は振り返らない主義ですから」

勇者「うそくせー」

歴史学者「なんだよ。嘘なんかじゃないさ、たぶんな」

勇者「そうか……」

医者「……じゃあ、もう寝ようか。おやすみ」

歴史学者「おやすみ」

勇者「おやすみ……」



ーーーーー


キコキコ

勇者「王都ってどんなとこなんですか?王様がいるんすよね?」

歴史学者「やっぱゴージャスな感じなんでしょうか。
きらびやかーみたいな」

医者「いや、普通の街と変わらないよ。ただ、大きなお城があるけどね」

勇者「お城か……魔王のヤローのウチみたいなやつですか?」

医者「まぁ、あんな感じかな。壁はまっ白だけど」

歴史学者「なぁ、思ったんだが。
ただ国王を倒したってしょうがないんじゃないか?
この国が変わるわけじゃないだろう」

勇者「まぁな。だから、人助けをして賛同者を地道に増やしていくんだ。
そんで、この国が変わってきたら国王をボコる」

歴史学者「最後のはいらないな。ボコったってろくなことにはならないぞ」

勇者「一発は殴るべきだろ。ってか、殴ったら許してやるんだ。
そこらへんは俺の優しさじゃねぇか」

医者「確かにね。……でも、長い道のりになりそうだ」

勇者「いいじゃないですか。どうせヒマなんだし」

歴史学者「まぁな。ヒマ潰しにはもってこいだ」

勇者「だろ?俺、ナイスアイディーア」

歴史学者「けど、その旅の前に聞きたいことがあるんだ」

勇者「なんだよ」

歴史学者「君の名前は?」


キキッ


勇者「……」

勇者「……」

歴史学者「私はエリカだ」

医者「俺はコウイチだよ。俺も、君の名前は知りたいな」

勇者「……」

歴史学者「……」

医者「……」

勇者「……マコトだよ。これでいいですか」

歴史学者「じゃあ、これからもよろしく」

医者「よろしくね」

勇者「ええ、よろしく。
……ところで、先生はあれつけないんですか?
ヘアバンドとチョーカーでしたっけ」

医者「必要なくなったから。もうあの手袋は使わないからね……」

勇者「……そうですか。あれうっとうしかったから良かったです」

歴史学者「私はチョーカーとかは好きだけどなぁ。
まぁ、先生には似合いませんけどね」

医者「俺もそう思うよ。とれてスッキリした」

勇者「じゃ、そろそろ行きますか。まずは飯屋に」

歴史学者「腹へったもんな。そうだ、あのクッキーはないんですか?」

医者「さっき君が食べたので最後だよ。また焼かなくちゃね」

勇者「じゃ、一旦帰ります?クッキー食べたいし」

医者「うーん……」

勇者「冗談ですよ。この国が平和になったら、また焼いてください。
ゆっくり食べたいんで」

歴史学者「えー、それまで待つのか?せっかくクセになってきたのに」

勇者「うるせー。行くぞ」




この糸が切れかかっていたとしても、俺は離さないと決めた。

これからもずっと、俺は俺のために糸を結ぶ。

何度でも俺が結び続ける。




ー終わりー

ここで一旦終わりです。長い間ありがとうございました。

一応ですが、続きもあるので興味がある方はぜひ読んでください。

それと、おふざけで作った勇者達のプロフィールがあるのですが、読みたい方は言ってください。喜んでのせるんで。

あと、なにか質問があれば答えます。でも、そんなに作り込んでないので、答えられないかもしれません。

とにかく、本当にありがとうございました!

読みたい乙



続きもプロフィールも読みたいよー

楽しかったよ乙!

読み返してみます。
改めてこれからも楽しみにしてます。


面白かった

乙乙

最後までドキドキしてたよ!
勇者が幸せに慣れればいいなー

続きもプロフィールも読みたい
あと質問っていうか……スレタイが最後まで謎だったような?

完結乙です
キャラが立っていたので読みやすいんだけど
ストーリー感や背景が判りにくくて面白いけどわからんっていう不思議な感じだった
リクエストとしては年表形式でストーリーの概要とかが見てみたいかな

>>441
>>442
>>443
>>444
ありがとうございます!
本当にこんなにレス頂いちゃって良いんでしょうか……泣きそうです……!

リクエストも頂けたので、プロフィールのせます!
でも、本当におふざけで作ったので雰囲気で読んでください。


>>445
ありがとうございます!
スレタイについては番外編があるので、それをのせようと思います。


>>446
ありがとうございます!
でも……年表無くしちゃったんです……。
一応、続きの方である程度の時系列はわかると思うので、よければ読んでみて下さい。
すいません。



それでは、プロフィールと番外編をのせようと思うのですが、番外編を先にのせます。
番外編の時間設定は、前編は二人が歴史学者と会ったばっかりの時で、後編は続編のさらに後って感じです。

番外編と続編はあまり関係ないです。多少はありますが。


では、再開します!



ー番外編・前編ー


歴史学者「自分を虫に例えるなら、なんだと思う?」

勇者「は?なんだよ突然」

歴史学者「いや、さっきアゲハ蝶のステンドグラスを見かけたんだよ。
なんて優雅なんだろう、まるで私のようだ、と思ってな」

勇者「勝手に言ってろバーカ」

歴史学者「なんだよ冷たいな。先生は答えてくれますよね?」

医者「うーん……虫に例えるとかぁ。なんて言うか、青虫は好きだよ」

歴史学者「えっ」

医者「そんな顔しないで……。生まれたてのやつ限定だから。
変な模様もなくて、ただ緑色で、結構可愛いんだよ」

歴史学者「うーん……青虫ねぇ……」

医者「……ほ、ほら、君も答えなよ。君だけ答えないのはズルいよ」

勇者「なんすかズルいって。俺は虫じゃなくて人間ですもん」

歴史学者「ノリが悪いな。じゃあ、私が考えてやろう。君は…………」

勇者「……ゴキブリ」

歴史学者「は?」

勇者「……俺はゴキブリだよ」

歴史学者「なんとまあ。ゴキブリが好きなのか?」

勇者「まぁな。空も飛べるし、黒いし、触覚もなんとも言えねぇし」

歴史学者「ふーん。でも、そんなこと言われると、なんだか叩き潰しづらくなるな」

勇者「いや、気にすんなよ。ゴキブリは叩かれてこそゴキブリだからな。
コソコソ人の気配伺って、メシも隠れながら食って、みんなに嫌われてさ」

歴史学者「なんだ、自分語りか?なにをいじけてんだ」

勇者「別に。俺はちょうちょ様のお友だちにはなれねぇってことだよ」

歴史学者「蝶だってもとは青虫だったんだぞ。先生と同じ最下層だ」

医者「最下層……」ガーン

勇者「そうか、なら俺の方が上だな。ゴキブリならその気になれば、青虫ぐらい食うだろ。
頭からバリバリと」

医者「……」ゾー

歴史学者「なにを怖いこと言ってんだ。やめろ」

勇者「……ま、そうなりそうになったら、容赦なく叩き潰して下さい。俺は気にしないんで」

歴史学者「全く、無駄な心配だよ。私はのらりくらりと逃げるからな。
蝶のように舞い、青虫を生け贄に捧げてやる」

医者「それだと俺がヤバイね。まぁでも、食べられても諦めるよ。
来世で人間になって、蝶とゴキブリを仲間にするから」

勇者「……先生は優しすぎますねー。じゃあ、俺も青虫を食べるのはやめます」

歴史学者「なら、私は誰を生け贄にすればいいんだ?」

勇者「知るかよ。まぁ、アゲハ蝶なんて食ったら頭悪くなりそうだしな。
やっぱりやめてやるよ」

歴史学者「ふざけるな。アゲハ蝶は栄養価が高いぞ。
頭が良くなるサプリにしてもいいぐらいだ」

勇者「ほらな。バカがうつる」

歴史学者「くーっ、むかつく」

医者「全く、変なケンカしないでよ。あ、食堂があるけど、どうする?」

歴史学者「えー、こんな話をしたあとに食事ですか?」

勇者「お前がふった話だろ。嫌なら外で待ってろ」

歴史学者「私は刺身定食がいいです!」

医者「はいはい。じゃ、入ろっか」


ーつづくー

ここからはプロフィールです。

歴史学者(本名・エリカ) 24才

服装
(最初は赤いジャージとスニーカー)
デニムのロングシャツ
白いスキニーパンツ
貝殻のネックレス
メガネ
大きなトートバッグ
白いスニーカー

好きな歌手
椎名林檎
ゆず
いきものがかり

好きな作家
ゆうきゆう
星新一

苦手な歌
軍歌
演歌
(母親が好きだったから)

好きな早口言葉
かえるぴょこぴょこ~
(ぴょこぴょこっていう語感が好き)

信じてるもの
FSM教




医者(本名・コウイチ) 45才

服装
テーラードジャケット
白いタートルネック
ベージュのズボン
トートバッグ
ヘアバンド
腕時計

好きな歌手
サザンオールスターズ
安全地帯
BUMP OF CHICKEN
Oasis
(ノエルよりオアシスの方が好き)

苦手な歌
クラシック

好きな作家
東野圭吾
海堂尊

好きな早口言葉
生麦・生米・生卵
(早口言葉のボスって感じがするから)

好きなもの
青いふわふわのホコリキャッチャー
ハイビスカスのキーホルダー

勇者(本名・マコト) 13才

服装
ポケット付きのパーカー
ジーパン
ブラウンのエンジニアブーツ
ショルダーバッグ

好きな歌手
Noel Gallagher
(オアシスよりノエルの方が好き)

苦手な歌
ノエル以外のバラード

好きな本
星の王子さま
(新訳より古い方が好き)
さよならは霊界から
パコと魔法の絵本
人の心はどこまでわかるか

好きな早口言葉
東京特許許可局
(本当は実在しないことを知っている)

好きなマンガ
NARUTO。これより面白いマンガは無いと確信している。

魔王(本名・マサト) 13才

服装
(外に出るときは黒のロングコートと角と自作のお面)
Tシャツ
迷彩のフルジップパーカー
ジーパン
スニーカー

好きな歌手
乃木坂46
KANA-BOON
モー娘。(母の影響で)

苦手な歌
暗い曲

好きな作家
マンガしか読まない
好きな漫画家は中村光となもり

好きな早口言葉
隣の客はよく柿食う客だ
(柿が好きだから)

嫌いなもの






女・魔王の手下(本名・サヤカ) 25才

服装
(魔王が作ったお面をたまにつけたりする)
黒のVネック
赤いフレアスカート
黒のレザーのロングブーツ
黒のストッキング
ビジュー(?)のネックレス&ブレスレット

好きな歌手
赤い公園
東京事変
ゲスの極み乙女。

苦手な歌
アイドルの歌

好きな作家
宮部みゆき

好きな早口言葉
バスガス爆発ブス自爆
(爆って字はバランスよく上手く書けるから)

男・魔王の手下(本名・アキラ) 25才

服装
(魔王が作ったお面をたまにつけたりする。結構気に入っている)
黒のライダースブルゾン
豊天のTシャツ
黒いズボン
黒の編み上げブーツ
シルバーのネックレス

好きな歌手
大瀧詠一
ポルノグラフィティ
たま
keytalk
西野カナ

苦手な歌
なし

好きな作家
有川浩
筒井康隆
スティーブン・キング
金子みすゞ
あまんきみこ

好きな早口言葉
なし
(最後まで言えたことがないから)

これで終わりです。
書いたあとになんですが、読まなくても全く支障はありません。
でも、魔王側の名前を紹介できたので、満足です。

このあとは、書き終わり次第、続編をのせようと思います。
続編が終わったら、番外編の後編をのせます。


読んでくださってる方、本当にありがとうございます!

おお、スレタイの意味が分かってスッキリした!

歴史学者の好きな作家ゆうきゆうに吹いた
や、イメージ合ってるけどもww

勇者と魔王は並んだら似てるっぽい

続編も楽しみにしてます乙乙

まとめサイトのコメントを見てしまいました……。
心がポッキリ折れました……。
明日まで寝込ます。

こことまとめサイトでは、そもそも読者層が違う
あまり過度に気にする必要はないよ
ただ悪い点を遠慮なく指摘してくるから、もっと良くしていきたいと思うならある程度の役には立つ
ダメージ大きい内は見ない方が良いかもね

思った以上に趣味が若くてワロタ

最後はアレな感じなくなっちゃったけどハッピーエンドでよかったよ 乙

まとめなんてファミレスで高級レストランの対応しろって文句いうようなとこだから
気にしないで良いよー
少なくとも、このスレに直接乙を書いてる人より重い意見なんぞないぜ

>>456
笑っていただけて良かったです!
一応ですが、勇者と魔王の母親は双子だという設定があるので、似せてみました。

>>458
そうですねー、あんまり気にしすぎちゃダメですよね。
どうしても豆腐メンタルなんで、へこんじゃうんです。
でも、復活しました!

>>459
ありがとうございます。
あとちょっと続くので読んでいただけると嬉しいです。

>>460
ありがとうございます!

>>461
そうですよね、そうなんですよね!
私はアホでした!
本当にありがとうございます。
皆さんに読んでいただけただけで幸せです。


これから続編をのせますが、地の文で書いてしまったので、ちょっと読みづらいかもしれません。
再開します!

ついにやった。世紀の瞬間を俺の目でとらえることが出来たのだ。
彼はたった今発見したホルモンを、どう発表するか考えていた。

きっと、大々的にもてはやされるだろう。
その確信だけは揺るがず、顔は自然とほころんだ。

そして彼は我が子を眺めるように、研究室の隅々を見渡した。
近々もっと大きな所で研究できるようになるだろう。

名残惜しそうにしながらも、彼には新たな可能性への希望があふれていた。

そんな彼が本当の子供を授かったのは、それから五年後のことだった。
あの夢見るような日々から、五年も経ったのだ。
彼の研究は、大発見からのち、少しも進歩していなかった。

幸運の真っ只中で彼は結婚もしていたが、妻に八つ当たりをする日々が続いていた。
そんな鬱々とした毎日に、光が差し込むように妊娠の知らせを受けた。

妻の不妊治療が効果を現したのか、うさんくさい宗教のお導きかは分からない。
怒鳴り声ばかり浴びせていた妻を見て、あふれたのは後悔の気持ちだった。
これから今までの分を取り返さなければならない。

だから、妻の顔にふっと影が差したのを、彼は疑いもせず見逃してしまっていた。

娘はすくすくと成長した。
まだ彼女は二才で、父親が全力で遊んでやれる盛りだ。

そう何年も経たない内に、娘というものは父親から離れていくらしい。
そんなことは散々聞かされていたので、彼は精一杯娘と遊んだ。

遊びたい、今日も疲れてるけど遊んであげなきゃ、そうしなければならない、そうでなければ間違っている。

いつから遊ぶことが義務になったのだろう。
顔には出せない冷たい気持ちを押し退けて、彼は娘の世話を続けた。
しかし、そうしている内に、社会的な成功は遠ざかっている気がした。

そして実際に、大きなチャンスを奪い取られることになった。
彼が見つけたホルモンを使って、手柄をあげたやつがいるのだ。

動物から採取したホルモンを妊婦に投与し、胎児に驚くべき才能を授けたらしい。
聖典の中の勇者が、この世に産まれようとしていた。

しかし何者かが妊婦を奪い去り、勇者誕生は幻のものとなった。
そうでなくとも、無事に産めたかどうかは分からない。
この実験は妊婦に大きな負担を与えるものだった。
国も妊婦が誘拐されたのをもって、実験は行わないようお触れを出した。

誰もが、実験を行った研究者は破滅の道を辿ると思っていた。

だが、国は研究者に所長職を与えたのだ。
それが決まった日には皆が態度を一変させ、研究者にゴマをすった。
二才の娘の相手ばかりしていた彼には、胸を引き裂かれるような出来事だった。

あの研究者は非公式に次のプロジェクトが決まっているらしい。
こんどは十二才の女の子を捕まえて、ホルモンを注射するのだという。
その女の子の心配など、誰もすることはなかった。
親も進んで実験に参加させたらしい。

この一部始終をただ見ているだけだった彼は、以前から持ちかけられていた闇の誘いに乗った。

あのホルモンを、軍事的に利用したいと言われ続けていたのだ。
うさんくさい団体には嫌気が差していたが、詳しく聞くとバックに国がついているらしい。
もしかしたらまた、俺が日の目を見られるかもしれない。

その思いだけに頭は支配され、罪悪感を感じる隙間さえなかった。
裏道の研究に没頭している間、彼は幸せだった。

世の中の父親達よりよっぽど家族を気にかけている俺は、妻の文句に耳を傾ける必要もない。

そうして試作は繰り返され、全ての雑音を遮断するように、彼の部屋には資料と部品の山が積み上げられていった。
誰も彼に話しかけることはできなくなった。

どこかの海沿いで、まじない師が逮捕された。
それは当事者以外は気にも留めない、いつも通りの事件の一つだった。
娘が母親を警察に売ったという、ちょっと目を引く見出しがついていても、彼は新聞を読もうとはしなかった。

それよりあの研究者の実験がどうなったのか、そればかりが頭から離れなかった。

実験は成功したのだろうか。
情報はあえて隠されているようで、実情が少しも見えなかった。

そんな秘密の被験者が脱走したと聞いたのは、翌年のことだった。
いち早く悲劇が訪れたのは被験者の女の子で、その時彼女は、すでに十六才になっていた。

ある研究者がホルモンの投与の量を間違えて、錯乱状態に陥った彼女は、夫婦で研究者だった二人を襲って逃げ出してしまった。

さらにおぼつかない足取りで、その夫婦の家に向かったのだ。
夫婦の家では仲の良い兄妹が親の帰りを待っていた。

今日は妹の誕生日だったので、兄は張り切って部屋を飾り付けていた。
口下手な兄はそうすることで、妹を喜ばせようとしていた。
そして飾りつけが終わった頃、明るいチャイムの音を聞き付けて、扉を開けた。

しかし、やって来たのは理不尽な知らせと、泣いている幼なじみだった。

彼女がなにかの実験のために連れ去られた時は、恋心を寄せていた兄は泣かないよう必死になっていた。
その日から親の仕事を疑うことも増え、彼の周りはギクシャクとした空気であることが多かった。

だが、つい何週間か前に、親とじっくり話す機会があった。
妹の誕生日プレゼントについて話始めたのが、自分の産まれた日まで話しはさかのぼり、自分は親に愛されていると知った。

親への不信感が少しずつ解消されて、今日は自分のためにも、妹を盛大に祝うはずだった。

そこに転がり込み、幼なじみは最大級の不幸を振り撒いた。

妹のためだったか、自分のためかは分からない。
彼は傘立ての裏に立ててあった竹馬を抜き取った。
これは幼稚園に通っていた頃、珍しく父が園に顔を出し、作ってくれたものだった。

言葉で表現できない思いを、竹馬に乗せて振りかぶった。
気がつくと幼なじみの姿は消えていた。
この事件は表沙汰にはならず、全てが影で処理された。

彼と妹にはわずかな同情が集まったが、それもすぐに忘れ去られた。
細々と暮らす兄妹の涙を、誰も見た者はいない。
その代わり、兄は以前より饒舌になった。

実の無いことをべらべらと話続け、誰かに止められても、中途半端な笑みを返すだけだった。

誰にも、彼自身でさえ自分の心の内は分からなくなった。

次に悲劇が襲ったのは、娘を抱えた研究者である彼だった。
あの頃はまだ二才だった娘が、もう七才にまで成長した。
目は知性の光をたたえ、髪は強気な性格を現すように、張りがある焦げ茶だった。

そのどちらも自分に似たものではない。
最初から似ていないのか、自分が娘からかけ離れていったのか、よく分からなかった。
分からないことにしていた。

妻がついに口を割るまで、真相はいつも部品の山に隠していた。

しかし、今日は最悪な一日になった。
積み重なった資料を放り投げ、部品を蹴散らしてあの手袋を捜す。
自分の手に合うように作っていたのは、実験のためだけではなかったのだ。

それが証明されたその日の内に、彼は金を鞄に詰めるだけ詰めて姿を消した。
そして彼は、自分の記憶からもこの日のことを消した。
いつしか彼は感情の起伏が緩やかな、ただの村医者になっていた。

しかし、傷がうずくように残った苦手意識は、彼をたびたび悩ませた。
どうしても女性とうまく話すことが出来なくなった。
なぜか気がつくと自分は女性的になっていた。
きっと女性というベールが、彼の闇を覆い隠していた。

あの日に勇者と名乗る少年と出会うまでは。

少年は王都のにおいを少しだけ運んできた。
少年は自分の過去も、名前さえも語らなかった。
まるでこのトクシュクの村に来たばかりの自分を見ているようで、少し歯がゆい。

だが、自分も未だに村人達に何も打ち明けてはいない。
思わず苦笑いが浮かんだ。
その表情にすら少年は怯えているようで、医者はすぐに表情を取り繕った。

そして温かい食事を作り、柔らかい洋服を取り揃え、いつまで続くか分からない共同生活を気長に過ごした。
少年はよほど辛い思いをしたのか、ほとんど口を開かなかった。
しかし、あることをきっかけに、ぽつりぽつりと話すようになった。

あるとき、少年からうっかり飛び出た発言に、医者は最大限に困った顔をしたのだ。
大げさな身ぶりは少年を安心させ、穏やかな笑いを誘った。
その時からもつれた糸がほどけだしたらしい。
半分は無理をしていたが、半分は心を開こうとしているようだった。

少年と話している間は、久しぶりに幸せなひとときになった。
少年もそう感じているらしく、この時間がいつまでも続けば良いと思うほどだった。

しかし、二人は旅に出ることになる。
少年が魔物を倒しにいくと言い出したからだ。
それは恐らく、これ以上迷惑はかけられないと言う代わりに取り付けられた理由だった。

村人に煙たがられながらも、少年の追っ手は村に目を光らせていた。
こんな状態がいつまでも続くのはよくないと思ったのだろう。

旅に出ようとする少年を引き留めて、俺は本当に少しだけ自分のことを話た。
魔物に復讐するという共通の目標を立て、俺達は自転車にまたがった。
外はまだ太陽が昇っておらず、肌寒い朝だった。

そんな勇者と同じ年に産まれた少年がいた。
彼が魔王になると決めたのは、自殺した母の日記を見つけた時だった。

日記には自殺の理由が書かれていた。
息子の顔が父親に似てきたことが、耐えられなかったらしい。

まだ四才の彼に、重たい現実がのしかかる。
少しでも軽くしようと思い付いたのが、突拍子もない野望だった。

自分は魔王になって、この世界を滅ぼす。

それを叶えてくれそうな人間が、幸運にも彼の前に現れた。
地面に倒れていた女性はなぜか血まみれで、自分の助けを必要としていた。

彼は母親ゆずりの機転をきかして、彼女を命の危機から救った。
しかし、彼女の記憶まで取り戻すことは出来なかった。
それでも助けてもらっただけでありがたいと、女性は笑った。

そんなある日、彼女には不思議な力があることが分かった。
その力で魔王になるのを、手助けしてくれるという。
それからの数年は彼にとって素晴らしいものになった。

やりたいことはなんでも出来た。
万引きも、新しいものを開発することも、城下町を作ることも楽しかった。

だが、女性の方は少しずつ影が張り付くようになり、起きられない日が続くこともあった。
原因は分かっているがなにもできない。

延命治療を嫌がる彼女に、痛み止めだと今日も半分嘘をつく。
そんな毎日に、突然ある男が割り込んだ。

ずっと彼女を探していたと言うが、どうも怪しい。
名前や年齢をたずねても、実の無い話を延々と続け、なにも答えようとしなかった。

しかし、一つだけ男の方から言ってきた言葉があった。
「俺は彼女を愛する資格がない」と、どこかのポエムにでも出てきそうなことを、平気な顔で口走った。
俺はますます男を疑った。

だが、抵抗むなしく、男はするりと日常に入り込んできた。
なんてやつだと思いながら、少し楽しんでいる自分がいるのは最近のことだ。

一時期、彼女に怪我を負わせた犯人だと分かった時は、どこまでも罵った。
だが、今はこの男の方が自分より彼女にお似合いな気もしてくる。

二人を魔王という立場から見下ろすのも悪くないと、近頃は思うのだった。

毎日を少しずつ楽しんでいる魔王のもとに、知り合いから手紙が届いた。
丁寧な滑り出しで書かれた文章は、要約すると「プスタ・テクルコを貸せ」と書いてあるようだった。
別にそれは構わないのだが、手紙の差出人に魔王は少し驚いた。

それはどこかで人助けをしているはずの、勇者の仲間からだった。
文字は落ち着きを払いすっきりとした印象だ。

そこから思い浮かべたのはあの医者の姿だったが、別に文字から連想しなくても名前がちゃんと書いてあった。

多分コウイチなんて名前だったと思う。
そう書いてあるのだし、そうなのだろう。

俺はあまり気にとめず、書かれていた日付を見た。
明日の午後にやって来るらしい。
勇者もやって来るといいなと思いながら、魔王は手紙をそこら辺に投げた。
もうすぐ昼食の時間だった。

台所から楽しげな二人の声が聞こえてくる。
俺はべーっと舌をだし、ソファに寝転んだ。
でも、運ばれてきたのは俺の大好物で、諦めてソファから起き上がった。
仕方ないから、これで買収されてやることにした。

次の日の午後、手紙に書かれていた通り、勇者ご一行が現れた。
夏の日差しにやられたようで、三人とも黒い。
前に会ったときより、さらに背が高くなった勇者が俺に手をふった。

その姿はなんとなく旅を楽しんでいるようで、俺は意味もなく安心した。


「よ。ちょっと借りに来たぜ」

「一体誰が使うんだ?お前はもう無理だぞ」

「分かってるよ。今日は先生が使うんだ」

「ふーん」


後ろの方で医者が真剣な顔をして立っていた。
隣でだるんだるんに伸びているのは学者のヤローか。
そのアンバランスさが、勇者達が来たという実感につながっていた。


「まぁ、入れよ。なんか飲み物ぐらいは出してやる」


セミの声がいくつも重なって、城の中まで響く。
熱気も音も閉め出すために、俺は威勢よく扉を閉めた。


「一応聞くが、なんに使うんだ?」


勇者は目をそらす。医者が神妙な声で答えた。


「俺達が殺した人間を生き返らせたいんだ」

「へぇ」


俺はあまり深くは追求せず、装置までの道のりを先導する。
あの二人が死んだとき、ここを早歩きで勇者と歩いたのを思い出した。
あの頃と違い、今は緩やかな時が流れていた。


「さぁ、ついたぜ」


淡く光る装置は、雑然とした部屋のすみに置いてあった。
結局この装置を使ったのは俺と勇者だけだ。
カシマオーノの人間は、それなりに幸せに暮らしているらしく、勧めても使おうとしなかった。

お人好しな連中だと、俺は笑った。


「じゃあ、借りるよ」


医者が一歩進み出て、装置に手を伸ばす。
淡い光が一段と強くなった。

時はさかのぼり、トクシュクの村で医者は頭を抱えていた。
今日もあの女の子が診療所に来るのだろう。
そう思うと、嬉しさと恐怖が沸き上がってきた。

空は今日も青く澄み渡っている。
気持ちの良いお日様がのぼる朝に、医者は酒に手を伸ばした。

こんな自分を信頼してくれるのは嬉しい。
だが、毎日顔を出されるのは辛かった。

もしも今日村で怪我人が出ても俺は役に立たないだろう。
相当アルコールが回ってきた頃、女の子が顔を出した。
俺は無駄にヘラヘラして、女の子の話を適当に聞いていた。

今年彼女は十九才になるらしい。
二十才までには、将来の夢を見つけたいと言っていた。
まだ幼さが残る顔で、彼女はコロコロと笑う。
俺は青空に思いを馳せて、なんとか時間をやり過ごした。

そんな俺を現実に引き戻すように、扉が激しい音をたてる。
村の女性が産気付いたという知らせだった。

俺はずっと、隅で震えていることしか出来なかった。

見慣れた診療所を人が行き来して何かをしていたが、何をしているかはさっぱり分からない。
とことん役に立たないなと笑うしかなかった。

そんな俺の隣で、女の子が静かな声を出した。


「私、産婦人科の医者になって先生を助けます」


いつもの女の子らしい明るさをたたえたまま、彼女は凛とした空気をまとっていた。

その後、彼女がどんな風に人生を送って、なぜ精神科医になると決意したのか、詳しいことは分からない。
とにかく彼女の人生は、終わるべきではなかったのだ。

もし、やり直せたら。

医者は淡く光る装置にそっと触れた。
セミの鳴き声だけが、どこまでも響いていた。

魔王城は一時的に落ち着きを失った。
白衣をまとった女性に、肌がピンク色の人達に、勇者と医者の二人はずっと頭を下げていた。

とりあえず言葉が通じる相手がいたので、通訳はいらないらしい。
魔王は、最近開発した翻訳機をそっと置いた。

怒鳴り声と泣き声と、湿度の高い空気が体にまとわりつく。
いつまでこの話し合いは続くのだろう。
魔王は椅子を持ってきて、背もたれを前に腰かけた。

部屋の中は混乱が渦巻いていたが、一時間もしない内に騒動は収まった。
皆諦めるしかないといった顔をしている。
白衣の女性に医者が平手打ちされたのも、少しだけ効果があったようだった。


「もう良いか?いい加減帰って欲しいんだけど」


行くあてがない奴にはカシマオーノを勧めて、俺は静かになった部屋に飲み物を運んだ。
暗い面持ちでオレンジジュースを飲む二人は、少しバカっぽく見えた。

もう一人、オレンジをソファの端で飲んでいる学者を、なんとなく見る。
前より服装も化粧も派手になり、若々しくなった印象だ。
その隣の医者は、ちらりと白髪が見えて、年相応に見える。

それが良い変化なのかどうかは、俺には分からなかった。


「俺達、旅をやめようと思うんだ」


唐突に、勇者が飲み干したコップの氷を見つめながら言った。

まだ一年も経っていないのに、あの時から勇者の印象はだいぶ大人びた。
目には力強い決意が現れていて、考えを変える気はないようだ。
たずねて欲しそうだったので、俺は理由を聞いた。


「突然どうしたんだよ。
王様ぶっ飛ばすんじゃなかったのか?」


静かな予定調和を乱すことなく、勇者は穏やかに答えた。


「俺達は、この現実で生きていこうと思ってさ。
旅の途中で出会ったやつらも、みんな現実と向き合おうとしてたから。
ちょっと影響受けちまった」

「ふーん。具体的にどうすんだよ」

「どこかで働いて、どこかで暮らしていこうと思う。三人とも別々に」


決意を確かめるように、勇者は丁寧に話した。
いつか再会したときに、また笑って話せるように生きていく。
勇者は照れ隠しに笑った。


「じゃあ、元気でな」


三人の後ろ姿を見送って、俺はため息をついた。
わざわざ俺に宣言していくこともないのに、勇者達は思い思いに笑っていた。

俺もそろそろなにかを考えるべきなのかもしれない。
でも、うだるような暑さに思考を奪われて、俺はソファに転がった。

もう少しだけ、このままでいようと思った。



ーーーーー


コンコン

歴史学者「はーい」ガチャ

勇者「よ、久しぶり」

歴史学者「なんだ、久しぶりだな。
来るなら連絡くれれば良かったのに」

勇者「そばまで来たから、ちょっと寄ろうと思っただけなんだよ。
すぐ帰るからさ」

歴史学者「そんなこと言うなよ。
今、コーヒーでも出すから」

勇者「あ、俺ブラックがいいな。最近飲めるようになったんだ」

歴史学者「へぇ、成長だな。私はもう、甘くないと飲めないよ」

勇者「ふーん。確かにちょっと太ったもんな」

歴史学者「なんだと!追い返すぞ、全く……」

カチャッ

歴史学者「お待たせ。それで今はどんな感じなんだ?」

勇者「まぁ、普通に暮らしてるよ。仕事も順調だし」

歴史学者「配送の仕事をしてるんだっけか。
君が馬車を操るようになるとは思わなかったよ」

勇者「はは、俺もたまに思うよ。なんか嘘みたいだなってさ」

歴史学者「私もだ。本当に色んなことがあったからな……。
今思い返すと、どれも感慨深いよ」

勇者「そうだな……」

歴史学者「……」チラッ

勇者「……なんだよ」

歴史学者「…………相談、乗ってくれないか」

勇者「相談?別にいいけど」

歴史学者「……あのな。まぁ、なんていうか……」

勇者「どうしたんだよ」

歴史学者「……」

勇者「なにをソワソワしてんだよ。気持ち悪いぞ」

歴史学者「……その。今、好きなやつがいるんだ」

勇者「ま、マジで?」

歴史学者「……うん」

勇者「うはは……アハハハ!お前バカじゃねぇの?
なんで俺に相談すんだよ!」

歴史学者「し、仕方ないだろ!誰にも言えなかったんだから!」

勇者「まぁ、まぁ、面白いじゃん?
好きなやつが出来るなんてな」

歴史学者「……どうしたらいいと思う?」

勇者「うーん。とりあえず当たって砕けろよ」

歴史学者「他人事だと思って……。私は真剣に悩んでるんだぞ」

勇者「まぁ、まずはお茶にでも誘えばいいだろ。
あとは誕生日にプレゼントやるとか。
……聞かれても、当たり前のことしか言えないな」

歴史学者「うーん……その……。
私は過去があれだろ?どうしても悲観的に考えてしまうんだ」

勇者「だーいじょうぶだよ。もっと気楽に行こうぜ。
ダメだったらダメで、他のやつ探せばいいぐらいの感じでさ」

歴史学者「……そういう君は、彼女とかいるのか?」

勇者「いや、別にいないな」

歴史学者「ふーん……」

勇者「あ、悪い。俺そろそろ行かないと。じゃあな」

歴史学者「全く慌ただしいな。今度はいつ来れるんだ?」

勇者「まぁ、来ようとすればいつでも。だけど、そう頻繁には無理だな」

歴史学者「そうか……。君とラーメンでも食べに行きたかったんだが」

勇者「んー、じゃあ来週の日曜ならどうだ?
とりあえず空いてるし」

歴史学者「えっ?あ、ああ。
じゃあ、行こうか」

勇者「オッケー。それじゃ、またな」

歴史学者「ああ」

スタスタ



ーーーーー


ピンポーン

医者「はーい」ガチャ

勇者「先生……うぅ……」グスッ

医者「ど、どうしたの!?」

勇者「アイツ……好きなやついるって……うぅ……」

医者「……まぁ、中に入りなよ。聞いてあげるから」



ーーー


勇者「はぁ……俺どうしたらいいんだろう。
よりにもよって俺に相談するなんて……」

医者「ふふ。なんか楽しそうじゃない」

勇者「なに言ってんですか!なんにも楽しくないし……」

医者「ま、とりあえずラーメン食べに行きなよ。
その時に話も聞けばいいでしょ」

勇者「それしかないっすよねぇ……あーあ。
俺、なんか昔より弱くなりましたよね。
こんなことでくよくよして、バカみたいだ」

医者「それだけ人生を楽しんでるってことだよ。
いいなぁ、若さって」

勇者「……先生は最近はどうですか?」

医者「まぁ、それなりに幸せかな。
医者としての知識も身に付けられたし、なんとかやってるよ。
君は?」

勇者「俺もそれなりに楽しいです。なにより、色んな場所に行けるのがいいですね」

医者「そうか、それは良かった。
じゃあ、今日は泊まってく?」

勇者「あー、じゃあ良いですか?すいません」

医者「いやいや、なんか食べたいものがあったら言って」

勇者「えーっと、そろそろクッキーお願いしても良いですかね。
魔王が色々がんばったおかげで、平和になってきてるし」

医者「うん……そうだね。
じゃあ、久しぶりにクッキー焼こうかな」

勇者「あ。クッキー、アイツの分も焼いてくれませんか?
次会うときに持っていきますから」

医者「それなら君が焼いてみる?
作り方教えるから」

勇者「えー、俺に出来るかな……」

医者「大丈夫だよ。混ぜて焼くだけだし」

勇者「んー……。じゃあ、やってみます」

医者「よしきた。早速準備するから」

勇者「……」



きっとこれで間違っていなかった。

窓の外の綺麗な青空が、そう言ってくれている気がした。

これからもっと幸せになるとまでは、誰も保証してくれない。

でも俺は、それなりに幸せなだけでもいいかなと思った。



ー終わりー

とりあえず終わりです。
あとは番外編の後編を残すだけです。
ちょっと寂しいですが、明日中にはのせようと思います。

読んでくださってる方、ありがとうございます!

乙乙

くっ、ニヤニヤが止まらん!
後編も楽しみにしてます

乙!
もう終わっちゃうのか…

>>480
ありがとうございます!こんなに嬉しいことを言われたのは初めてです!

>>481
ありがとうございます!

>>482
ありがとうございます!……私も名残惜しすぎるので、のせ終わったら最後にヤバイこと言いますね。


それでは、これが最後になります。
再開します!



ー番外編・後編ー



歴史学者「それで、君は今はなんの虫なんだ?」

勇者「ん?」

歴史学者「昔、話しただろ。自分を虫に例えるならなんの虫かって」

勇者「ああ……俺なんて言ったんだっけ?」

歴史学者「ゴキブリ」

勇者「ははは、頼むから忘れてくれ」

歴史学者「先生は青虫でしたよね?」

医者「うーん、まぁそうだけど……。今はモンシロチョウぐらいにはなれたかなぁ」

歴史学者「いいんじゃないですか?私はモンキチョウに転職しようと思うんですよ。
そして幸せを運びます」

勇者「幸せねぇ。誰に?」

歴史学者「君に」

勇者「ははっ、俺にかよ。そりゃ嬉しいけど……」

歴史学者「私は君が好きだ」

勇者「……!!」

歴史学者「私と付き合ってくれ」

勇者「………………全く、おかしいと思ったんだよなー。突然、先生が俺達呼び出すなんてさ」

歴史学者「お答えは?」

勇者「そりゃ、俺だって……好きだよ」

歴史学者「そうか、じゃあよろしく」

勇者「お、おう」

医者「いやー、良かった良かった!俺泣いちゃう……」グスッ

勇者「な、なんで先生が泣くんですか。泣きたいのは俺ですよ」

歴史学者「なんでだ、失礼な」

勇者「いや、だって俺、レストラン予約したばっかりなんだよ。そこで告白しようと思ってて」

歴史学者「そうだったのか……」

勇者「まぁ、別にいいけどな。なんか幸せだし。俺も蝶になりたいよ」

医者「大丈夫、もうなってるよ。だって俺も幸せだもん……」グスッ

勇者「まだ泣いてるんですか。全く……ちょっと嬉しいですよ」

歴史学者「いやー、なんだか今さら照れてきた!ちょっと一人にさせてくれ」スタタタ

勇者「なんだよ、急に。はーあ」

医者「ホントに良かった……俺、君たちのこと大好きだよ」

勇者「じゃあ、先生も参加して三角関係になります?」

医者「えっ……考えてもいい?」

勇者「やめてください。本気で殴りますよ」

医者「君が言ったんだろ!物騒だな」

勇者「まー、俺も照れてるんですよ。察して下さい」

医者「いや、そんなことは分かってるよ。耳まで真っ赤だし」

勇者「……やっぱり、本気で殴りますね」

医者「ちょっとタンマ!やめて!謝るから!誰か助けて!」


ーおわりー

これで終わりです。
今まで本当にありがとうございました!ちょっと泣きそうです!

こんな内容を書いていいのか、すごく悩みながら書いていたのですが、皆さんが読んでくれたから、最後までのせることができました。

こんなに離れたくないスレは初めてです。なのでヤバイというか、かなり血迷ったことを言います。

私、一昨日にツイッターを始めたので、見かけたら声かけて下さい。
doradorayakiで検索すればオータというアカウントが出てくると思います。

すごくアホなことを言ってるのは分かっているのですが、ssを投稿するのは最後になりそうなので許してください。

とにかく本当にありがとうございました。
レスにとても救われました。ここまでハッピーエンドを書けたのも、多分皆さんのおかげだと思います。

ホントに本当にありがとうございました!

なんか3人が仲良くしてると本当によかったと思う
そんで、やっぱニヤける

完結乙でした!
毎日スレ覗くの楽しみにしてたよ
途中までは欝エンドになるかとひやひやしてたから、ハッピーエンドで嬉しかった

ツイッター……アカ持ってないから、ここで言っとく
早く家見つけて!

気が向いたら、また書いてね

乙!!


>>487
本当にありがとうございます!
私も三人が仲良くしている話をかけて、ホッとしてます。
それと、ツイッター見てくれたんですね!ありがとうございます。家も多分……見つけます。
ssもいつか、また書けたらいいなと思ってるので、その時はまた読んでいただけると嬉しいです!


>>488
ありがとうございます!ビックリマークを見るたびに嬉しかったです。


>>489
最後までありがとうございました!


>>490
ありがとうございます!レスが頂けて幸せでした。


やっぱり泣きそうです。本当に本当にありがとうございました!
依頼を出してきます!

あ、いっこ聞き忘れてた……間に合うかな

水晶玉で抜き取られた黒いのってなんだったのか
クラウン商会の実験とか?

>>492
あまり詳しく設定してないのですが、クラウン商会なりの幸せの与え方だったという……ちょっとこっぱずかしいですね。
勇者を仲間にしたかったから、ってのも理由にあります。
その装置に関しては医者がつくりました。
魔法関連の装置は大体医者が作ったものです。

まー、あんまり詳しく作り込んでないんです。雰囲気を楽しんでもらいたかったので……すいません。

質問ありがとうございます!

あ、なんか読み間違えた。

あの黒いのは勇者の心の暗い部分を形にしたものです。
クラウン商会の仕業です。
二回もすいません。

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