純「今日はこどもの日だぞ!」衣「どうして衣に言うんだ!」 (29)


純「いや、ゴールデンウィークだなって……」

衣「衣はこどもじゃない!」

智紀「国民の祝日。 ころもの日」

衣「こどもの日だ! 衣じゃない!」

智紀「噛んだ。 ごめん」

一「今日はこどもの日だし、それらしく外で遊ぶ?」

衣「衣はこどもじゃないから関係ない!」

一「いや、せっかくの休みだから遊びにいかない? ぐらいの発言なんだけど……」

透華「それにしても、ゴールデンウィークだと言うのに黄金っぽいことを何一つしてませんわ!」

純「黄金っぽいことってなんだよ……」

透華「こう、派手で目立つ感じの……」

純「それこそいつもやってるだろ……」

智紀「いつも通りなのも、それはそれでいいこと」

一「じゃあ、今日もまた麻雀する? 今年が最後のインハイだし……」

純「去年は清澄が出てきて夏は観戦だけだったしな……どうせ東京行くなら勝って行きたいぜ」

透華「団体戦、個人戦、揃って制覇してこそド派手に目立てると言うものですわ! そうと決まればころもの日返上で特訓を……」

衣「ころもじゃない! こどもだ!」

透華「失礼、噛みましたわ……」

純「お前は衣だろ」

衣「そういうことじゃない! 今日はころもの日じゃなくってこどもの日だ!」

純「合ってるんじゃ……ん? 合ってない? なにがなんだって?」

一「こどもがころも? ころもがこども?」

智紀「ころ……こども……こど、ころ……?」

透華「こどもろ日?」

衣「もういい! 衣をバカにして!」

透華「衣! けっしてバカにしてるわけでは……」

純「マジで噛みまくってるだけだって……」

衣「うるさい! バカ! 家出してやる!」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1430835630


衣「なんなんだ! まったく……! こどもは衣じゃない! ん……? こど……衣はこどもじゃない!」

衣「ややこしいな、まったく……いやいや! ややこしくなんかない! こ……衣はこどもじゃない! 圧倒的で厳然たる事実だ!」

衣「それにしても、勢いに任せて飛び出したはいいが……財布も携帯も持っていないぞ……むむ、どうしたものか」

ハギヨシ「衣様、衣様の携帯電話とお財布ならばこちらに……」

衣「おお、ハギヨシ! こんなところで何をしている?」

ハギヨシ「……お仕事の合間に屋敷の回りを散歩していたら衣様のお姿を見かけたものですから」

衣「そうか、それは僥倖だ! これで衣も心置きなく家出ができるというものだ!」

ハギヨシ「衣様は今日はお家出されるのですか?」

衣「うむ、少し腹に据えかねることがあってな……だが、行く宛もないのだ……」

ハギヨシ「では、せっかくのお休みですし友人のもとを訪ねてみればどうでしょうか?」

衣「それはいい考えだ! 咲やののかも衣のように暇を持て余しているやもしれん!」

ハギヨシ「一度、電話で連絡を取ってみるとよろしいでしょう」

衣「では、そうしてみるとしよう……ふふ、楽しみだ! 咲やののかは衣と遊んでくれるかな?」

ハギヨシ「ええ、きっと」

衣「あ! 衣は家出だからな? ハギヨシはついてくるなよ? 仕事に戻るんだ!」

ハギヨシ「それでは、駅まで用事があるのでそこまでご一緒してもよろしいでしょうか?」

衣「む……まあ、それなら仕方ないな。 別にひとりで行くのが心細いとかじゃないぞ?」

ハギヨシ「はい。 存じております」


衣「…………むむ」

ハギヨシ「お電話が繋がらないのですか?」

衣「……切れてしまった。 咲は忙しいのかもしれん……」

ハギヨシ「ふむ……たしかに、長期休暇ですからお出掛けされている可能性はありますね」

衣「……仕方ない! 衣の友人は咲だけじゃないし……ののかにも電話してみて……あ! ののかから電話だ! もしもし!」

和『もしもし? 天江さん、お久しぶりです』

衣「ののか! ののか! どうしたんだ? 今日は衣になにか用か? 衣は暇で暇で仕方がないぞ!」

和『いえ、天江さんから咲さんに電話があったようですが、咲さんが慌てて電話に出ることができなかったので私から折り返しを……』

優希『咲ちゃんに電話の操作はちょっと難易度が高いじぇ』

衣「おお、優希も! 壮健そうだな!」

優希『当然! 元気いっぱいだじぇ! それで、今日はどうしたんだ?』

衣「いや、余暇を持て余していてな……咲たちが暇なら遊びに行こうかと思ったのだが……」

和『そうでしたか……それでは、……あ、少々お待ちください』

衣「うん!」

ハギヨシ「どうですか、衣様」

衣「咲はどうやらいまだに電話を使いこなせないようだ……今時珍しいものだな」

ハギヨシ「ふふ、不器用な方なのですね」


和『すみません、お待たせしました』

衣「ののか! 衣は気にしてないぞ! それで、どうだ? 今日は忙しかったりするのか……?」

和『いえ、今日は麻雀部のみんなで集まっているんです。 染谷先輩の実家の雀荘のRoof-topというお店なのですが……』

衣「ふむ……そういえば、そんな話は聞いたことことがあるな。 家にいれば麻雀の相手が集まるなどとは大層羨ましいことだ」

和『ふふ、そうですね……それで、もし天江さんの予定に余裕があるようでしたら是非とも招待したいのですが……』

衣「行く! 行くぞ! ののかたちとも打てるんだろう?」

和『はい、麻雀も当然打ちますよ……今日は卒業した竹井先輩も来てくださりますし』

衣「そいつは重畳! 奇幻な手合いが増えるのは喜ばしいぞ!」

和『今日は、特別な日ですからね』

衣「衣はこどもじゃない!」

和『? ……ああ、今日はこどもの日でしたね』

衣「衣の日じゃない! 衣には関係ないし特別でもないぞ!」

和『いえ、ふふ……そういうことでは……』

和『んんっ……それでは、よろしければ龍門渕さんたちとご一緒にいらしてください。 楽しみにしています』

衣「わかった! すぐに行くから待っているといい!」

和『はい、お待ちしてます』


衣「……ハギヨシ! 今日は染谷まこの実家の雀荘とやらでののかたちと遊ぶことになった!」

ハギヨシ「よかったですね、衣様」

衣「ああ! しかし困ったことに透華たちも誘ってきてくれと言われてしまった……衣は家出中なのに……」

ハギヨシ「衣様が顔を会わせ辛いのでしたら、透華お嬢様たちには私からお伝えしておきましょう。 心配なさらずともすぐに仲直りできますよ」

衣「む……そうか。 ハギヨシが言うのならそうなのだろう。 では任せるぞ。 衣はこのままむ、Roof-topに向かうからな!」

ハギヨシ「かしこまりました……場所はわかりますか? 電車の乗り方は?」

衣「ふっ……衣はこどもじゃない。 東京に行ったときにゆーきや華菜と町にも出たし、電車ぐらい余裕だ! 場所だってインターネットで検索すればすぐにわかる!」

ハギヨシ「左様でございますか。 それでは、気温も上がってきましたし水分補給だけは欠かさないように……それと何かあれば私に連絡を。 すぐに駆けつけますので」

衣「うむ、大儀である」

ハギヨシ「それと、家出中ということですがあまりお帰りが遅くなると皆さま心配されますので、あまり遅くならないように……」

衣「うむ、それでは今日中にはやめるとしようか」

ハギヨシ「ありがとうございます。 それではお気をつけて」

衣「行ってくる!」


――――――

衣(……しかし、祝日というだけあって電車も込み合っているな)

衣(やはり、ハギヨシに車を出してもらった方が……いやいや、衣は家出中だし、ひとりで電車に乗るのもちょっとした冒険のようで楽しいものだ)

衣(……こんなに込み合っていなければ外の景色でも楽しめたのだろうが……まあ、仕方がない。 衣は大人だから窓の外の景色を見てはしゃいだりはしないんだ)

衣(……暇な上に暑いな。 満員電車とは不便なものだ)

衣(世のサラリーマンは毎日このような環境に…………恐ろしい世界だ)

衣(……む、LINEか? どれ……)

華菜『今日はこどもの日だし!』

衣『衣はこどもじゃない!』

華菜『まだなにも言ってないし……』

衣(あ、写真が……)

華菜『かわいいだろ? うちのチビたち』

衣『噂の妹たちか。 随分と楽しそうではないか』

華菜『今日は家族でピクニックだし! 珍しく両親も休みでな。 チビどもがはしゃぎにはしゃいでまだ昼前だってのにこっちはボロボロだし』

衣『どうせ一緒になってはしゃいでるくせによく言う……』

華菜『どうせなら楽しまなきゃ損だしな。 衣はこの連休どうなんだ? 龍門渕は金持ちだし旅行とか避暑地でバカンスとかあるんだろ?』

衣『いや? ここまでの休みは学校もないしひたすらみんなで麻雀してたぞ?』

華菜『なんだ、もったいないな。 せっかくの休みを……』

衣『ここまで麻雀だけできると言うのも休みあってのことだ』

華菜『それもそうだなー』

衣『そっちこそ、遊んでていいのか? 今年も衣たち龍門渕に敗北を喫することになるぞ?』

華菜『高校生活三年間で一回もインハイ行けないとかありえないし! 当然団体も個人戦も優勝するつもりだから覚悟しておくし!』


華菜『ということは今日も麻雀なのか? 休み中麻雀だけってのもそれはそれで寂しくないか?』

衣『いや、今日はののかたちにお呼ばれしてな。 染谷の実家の雀荘に遊びに行くんだ!』

華菜『結局麻雀だし!』

衣『本当だ!』

華菜『まあ、いいんじゃないか? 原村や宮永と打つなら衣も楽しいだろ』

衣『ああ! 楽しみだ!』

華菜『ちゃんと準備したか?』

衣『準備? 雀荘で麻雀を打つのに準備もなにもないだろう?』

華菜『なんだ、知らないのか? 今日は染谷の誕生日だし! だから学校じゃなくて雀荘の方にあつまってるんだろ? たぶん』

衣『そうか……ののかの言っていた特別な日というのはその事だったか』

華菜『なにかしら手土産ぐらい持っていった方がいいし! 急に遊びに行ってケーキとかの御馳走を頂いて帰るなんてこどものすることだし!』

衣『衣はこどもじゃない!』

華菜『ああ、だからちゃんと準備して行くべきだし。 あっちからなにも言われなかったのなら気を遣わせたくないんだろうけど……そういう挨拶がちゃんとできてこそ大人だし! こどもの日でも大人アピールだし!』

衣『なるほど……恩に着るぞ華菜! いいことを聞いた!』

華菜『頑張るんだぞー……私もそろそろチビどもがうるさいから家族サービスに戻るし!』

衣『大変だな、年の離れた妹が三人もいると』

華菜『まあ、姉としての宿命だし。 衣おねえさんもしっかり家族サービスするといいし』

衣『ふむ……衣はお姉さんだからな。 華菜を見習うとしよう』

華菜『それじゃあまたな! 県予選が楽しみだし!』


衣(……とはいえ、家出してきたのだったな)

衣(…………まあ、ののかたちと遊ぶとなればトーカも絶対に来るだろうしな。 お姉さんとして、広い度量で許してあげるとしよう)

衣(……ピクニックか。 一の言う通り外に遊びに行くのも良かったかもしれん……)

衣(いや、しかし行かなかったからこそ今日はののかたちと遊べるんだからな。 気にしても仕方がない……)

衣(……少し空いてきたな。 座るか)

久「あら、天江さんじゃない?」

衣「ん? ……おお、竹井ではないか! 久しいな!」

久「お久しぶり! さっき和から連絡来たけど、おひとりかしら?」

衣「……まあ、少し事情があってな。 そういう竹井こそどうした? 電車に乗るような位置関係でもないだろう」

久「さっきまで学校の方に顔出しててね……もう、めんどくさいったら! そこそこ麻雀できるとこに入ったら厳しくって嫌になっちゃう」

衣「どうだ? 大学麻雀のレベルは? 楽しめそうか?」

久「ええ、けっこう楽しめそうよ? 天江さんレベルの人はそういないけどねー」

衣「ふっ……大学といえどもそのレベルか。 まあ、衣ほどの力の持ち主がそうそういるとは思わんが」

久「そうそういたら困るわよ……この四年で複数回インカレ制覇して、U-22の代表とか……なんなら実業団チームも経て、最後にはプロ入りして荒稼ぎするつもりだしね」

衣「なんだ? 障害が少ない方が楽でいい、なんてタイプでもあるまい」

久「まぁね。 どうせなら強いやつらを負かしてってこそ燃えるってもんよ」


久「いやぁ、ほんとに楽しみねぇ……奇しくも靖子ルートになってるのがちょっとアレだけど」

衣「フジタか……そういえば、あやつもインカレから実業団入りしてプロに転向したんだったな」

久「前シーズンの後半では低迷してた佐久を"Reversal Queen"の称号に恥じない活躍で盛り上げたからね。 最近はけっこう人気も出てきたみたいよ? 去年ごろなんてプロ麻雀カードファンに散々ネタにされてるだけだったのにねー」

衣「ああ、華菜の後輩と鶴賀の新部長が集めていたな……」

久「あ、靖子も今日は顔出すってよ?」

衣「…………」

久「露骨に嫌そうな顔したわね」

衣「あいつは嫌いなんだ! 衣のことをこども扱いするし、撫でるし、ハグするし……」

久「……のわりにはあんまり嫌がってるようには見えないけど」

衣「なにか言ったか!?」

久「べっつにぃ?」

衣「むぅ……なんだ、今日はテンション高いな、竹井」

久「そりゃあ、今日は素晴らしい日だもの! なんの日か知ってる? ヒント! こどもの日!」

衣「衣はこどもじゃない!」

久「そんな話してないでしょ……っていうかーいちいち言っちゃう辺りこどもっぽいって言うかー」

衣「なんだと!」

久「あ、時間切れ! 今日はなんと! まこの誕生日よ!」

衣「……それはさっき聞いた」

久「あら、そう? 今日は天気もいいし、祝日だし、絶好の誕生日日和ね!」

衣「すまんが意味がわからんぞ」

久「もう、誕生日が国民の祝日なのよ? これはもう国を挙げてまこの誕生日を祝福してるってことよね!」

衣「……おめでたい脳みそだな」

久「ええほんと! おめでたい日よねぇ」

衣「こいつこんなにめんどくさいやつだったのか……!」


久「ふふーんふんふんふーん♪」

衣「公共交通機関だぞ? 鼻唄はやめろ恥ずかしい……」

久「あ、そういえば天江さんはなにか用意してきてくれた? まこの誕生日だもの、気合入れてお祝いしないと……ふふふんふんふーん♪」

衣「人の話を聞け! ……まだ、用意していないが」

久「えっ! なんで?」

衣「何でと言われても……電車に乗ってから聞いたことだし、それに衣があまり大層なものを持っていってもむしろ恐縮されてしまうだろう」

久「まあ、それもそうねー……お客さんなわけだし……これは、別行動してる龍門渕さんの高価なプレゼントを期待しようかしら」

衣「トーカにはそういう気遣いをしないのか?」

久「いいじゃない。 龍門渕さんなんてお金有り余ってるんだし……」

衣「思っていても普通は言わないぞ? ……まあ、たしかに有り余っているがな……」

久「龍門渕の方だと、やっぱり誰かの誕生日とかはお高くて豪華なケーキを食べたりするの?」

衣「そういうこともあったが……去年の衣の誕生日は、まっさらなホールケーキにおかしをみんなでトッピングして食べたぞ!」

久「あら、それはすごく楽しそうね……」

衣「今度やってみるといい……しかし、今こうして思い出してみるとやはり誕生日は特別な日だな。 なんだか衣も楽しくなってきたぞ!」

久「そうそう! 天江さんも今日は楽しんでってね! 私もだけど、咲たちと打つのは久しぶりでしょう?」

衣「清澄は春季も人数不足で出てこなかったからな……鶴賀も不参加だったし、衣を楽しませることができたのは華菜くらいだったぞ? 全国ではそこそこ楽しめたがな……」

久「層の厚いとこは羨ましいわねー……まあ、うちや鶴賀みたいに人数ギリギリのところも珍しいんだろうけど」


衣「清澄は、夏の大会は出てくるんだろうな? 新入部員が入らなかったとは言わせんぞ?」

久「何人か入ってるから大会にエントリーもするし、夏の二連覇目指してるわよ? ま、私の穴を埋められるほどの子はいなかったけどねー」

衣「まあ、竹井もなかなかの打ち手だしな……中学上がりでお前ほど打てるやつもそうはいないだろう」

久「あら、意外と評価されてるのね……うれしいわー」

衣「去年の夏、県大会決勝で打った者たちはある程度評価しているぞ? そこらの有象無象に比べれば力もあるし、恩も受けた……色々なことに気づくきっかけにもなったしな」

久「価値のある敗北だったってわけ? お蔭でやる気満々の天江さんと大会でやりあうんだからこっちとしては大変なんだけど」

衣「その方が燃えるんだろう?」

久「まぁねー……ほら、そろそろ降りるわよ? なにか買ってく?」

衣「まあ、知っていてなにも持たずに行くというのも礼を欠くだろう……適当でいいか? 食べ物とかの方がいいか」

久「仲がいいって言っても、天江さんはまこと特別親しいってほどでもないもんね……私と違って!」

衣「……ああ、そうだな」

久「そりゃあ、私とまこレベルの親しさになれば手元に残る? 身に付けるような物を贈ってもいいと思うけど? 天江さんとまこの距離感なら食べ物とかの方が……」

衣「わかった。 わかったからちょっと静かにしてろ」

久「私とまこは深い絆で結ばれてるっていうか? 伊達に高校生活の長い期間をふたりで過ごしてないっていうか?」

衣「ああめんどくさい! 黙れと言ってるんだ!」


――――――

久「みんな、久しぶり! 来たわよっ!」

衣「衣も来たぞーっ!」

まこ「おう、よく来たのう……天江さんも、久しぶりじゃな」

衣「うむ、今日はせっかく招いてもらったことだし楽しませてもらうぞ! これは、つまらないものだが誕生日プレゼントだ。 受け取ってくれ」

まこ「ん、わざわざすまんのう」

久「まこ! なによ、私をほっといて天江さんとおしゃべりして! 浮気者!」

まこ「なんつー鬱陶しいテンションで入ってくるんじゃあんたは……」

衣「道中ずっとこの調子でな……鬱陶しいことこの上なかったぞ」

久「久しぶりなのに冷たい! 冷たすぎる! あ、もしかして倦怠期ってやつ?」

まこ「久、ちょっと黙っとれ……一般のお客さんも来とるんじゃからあんま騒ぐんでないわ……あ、そういえば」

衣「ん? どうした?」

まこ「ほれ、今日はこどもの日じゃからな。 イベント中なんじゃ……風船配っとるんでな。 どうぞ」

衣「衣をこども扱いするな!」

まこ「いやいや、回りを見んさい……みんな持っとるじゃろ? こども扱いしとるわけじゃないんじゃ」

久「……常連のおじさまたちがみんなして風船持ってるわね」

まこ「一昨年から始めた風船を配るイベントじゃが、これがなかなか評判よくてのう……」

久「ほんと、世の中何が当たるかわからないわね……」

衣「……まあ、そういうことなら受け取っておこう」

久「めっちゃいい笑顔してるじゃないの……」

まこ「気に入ってくれたようでなによりじゃ」

衣「べ、別に気に入ってなんかないぞ!? 風船で喜ぶのなんてこどもだけだ!」

靖子「つまり、衣はこどもってことだな」

衣「フジタ!?」


靖子「あぁもう、衣はほんとにかわいいなぁ……」

衣「やめろ! 撫でるな! 抱き上げるな!」

靖子「まあいいじゃないか。 今日は衣の日なんだから、精一杯かわいがってやろう」

衣「今日はこどもの日だ! 祝日の名前も知らんのかこのゴミプロ雀士!」

靖子「はっはっは、つまりは衣の日じゃないか。 何を言ってるんだまったく」

衣「ふわ……! やめろ! 撫でるな~!」

久「……靖子、あんたそれセクハラじゃないの?」

靖子「私と衣の仲でセクハラもなにもないだろ」

衣「ふざけるな! 離れろ!」

靖子「今日はひとりで来たのか? 偉いぞ~」

衣「こども扱いをするな! 話を聞け!」

まこ「相変わらず仲ええのう」

衣「どこをどうやったらそう見える!?」

久「私とまこの方が仲いいけどね!」

衣「訳のわからんところで張り合うな!」

靖子「まあ、せっかく来たんだ。 衣、相手しろよ」

衣「ふん……なんだ? 衣に勝てるつもりか? フジタの分際で!」

靖子「はいはい……強がっちゃってかわいいなぁ」

衣「いい加減下ろせ!」


咲「衣ちゃん!」

衣「ちゃんではなく! ……咲! ののか! 優希! 久しいな!」

和「お久しぶりです。 天江さんだけ先にいらしたんですね」

優希「久しぶり! タコス食うか?」

衣「いただこう! ちょうど腹も減ってきたところだ……優希のタコスは絶品だしな!」

優希「そう言ってくれるのはうれしいが、そいつを作ったのは私じゃないじょ?」

京太郎「あ、ども……すみません、俺が作ったやつです……」

衣「……誰だ、こいつは?」

京太郎「やっぱりそんなもんですよね!? 何回か顔は会わせてるんですけどね!?」

靖子「なんだ、面識あるらしいぞ? さすがに失礼だろう?」

和「……そういう藤田プロもいつまで天江さん抱き上げてるんですか」

靖子「はっはっは、そんなことより卓についてくれよ。 衣と打ちたいんだ」

衣「おい! ののかが今いいこと言っただろ! なぜスルーした!?」

京太郎「そういう天江さんも俺のことスルーしてますよね!?」

衣「ん? すまんな、特に力も感じないしどうでもいいかと思ったのだが……名前ぐらいは聞いてやろう」

優希「こいつの名前は須賀京太郎……うちの男子部員兼タコス職人だじぇ」

咲「まあ忘れてもいいよ。 京ちゃんと絡む場面なんてそうはないし」

衣「そうか、わかった」

京太郎「自己紹介すらさせてもらえない上に忘れられる前提!?」


衣「それにしても、今日は見ない顔が多いな?」

京太郎「俺とかですね?」

咲「新入部員の子たちだよ……そこそこの人数が入ってくれてよかったよ」

優希「ムロたちが大会レベルになるまで鍛えなくちゃな!」

和「竹井先輩が抜けたところをどうするか……オーダー順をどうするかもまだ決まってませんし……」

衣「メンバーの入れ替わりがあると大変だな……衣たちは面子も変わらんし、今まで通りのオーダーで行くぞ?」

靖子「おいおい……一応バラしちゃダメなやつだろ、それ」

衣「トーカなら『作戦がちょっとバレたぐらいで私たちの勝利は揺るぎませんわ!』とかなんとか言うと思うぞ?」

優希「余裕で想像できるじぇ」

衣「むしろ、これでののかが副将から外れたりしたら『私に恐れ慄いて逃げましたわね!』とか言うと思うぞ?」

和「まあ、個人戦もあることですし……私は団体戦での直接対決にはそこまでこだわりはないのですが……」

咲「和ちゃん、相変わらずだけど……ちょっと冷たいなぁ」

京太郎「龍門渕さんが聞いたらちょっと泣くんじゃないか?」

優希「ライバル相手にそれはないじぇ……」

和「ライバル?」

衣「……この事はトーカには黙っておこう」

咲「……そういえば、りゅーもんさんが一方的にライバル視してるんだったね……あまりにもりゅーもんさんが仕掛けてくるからてっきりライバル関係だと思い込んでたよ」

京太郎「咲もそういうことは思っても口に出すなって……」


――――――

靖子「ふぅん……お前ら、みんな腕上げたなぁ」

和「去年の今ごろはやられるばかりでしたが、そうはいきませんよ」

咲「カツ丼さんも、最近は調子いいらしいですね。 私はプロとかあまり詳しくないんですけど……」

靖子「カツ丼さんって……いや、別にいいけどな」

衣「ふん、それでも衣の方が上だ! ツモ、6000オール!」

靖子「……衣は、ちゃんと麻雀を打つようになったな……去年宮永たちにやられたのがよかったんだろう」

衣「うるさいぞ! お前もそろそろ衣より下だってことを認めたらどうだ?」

靖子「私はプロだぞ? こども相手にいきなり本気を出したりしないさ」

衣「衣はこどもじゃない!」

靖子「あぁ……衣はかわいいなぁ……こんなこどもがほしい……」

衣「対局中だぞ!? 撫でるな!」

咲「カツ丼さん、楽しそうだね……」

和「……藤田プロ、ただ天江さんと遊びたいだけなんじゃ」


靖子「今日はほら、こどもの日だからな。 衣と遊んでやらなきゃ……」

衣「やめろ! だいたい今日はこどもの日じゃない!」

靖子「ん? お前、国民の祝日も知らないのか? こどもだから仕方ないかぁ……」

衣「知ってるってば! そうじゃない! 今日の集まりはこどもの日ではなく染谷の誕生日だろう!」

靖子「まあ、そうだな。 お前が来ることになったと聞いて待ってたんだが……本当なら久の大学の方の様子とか聞くつもりだったんだぞ?」

衣「衣が頼んでもないのにお前が勝手に予定変えたんだろう! なんで衣のせいみたいになってるんだ!」

咲「まあ、染谷先輩のお祝いが本筋だからね……そろそろオーブンにいれたケーキも焼けるんじゃない?」

和「そうですね……対局も一段落しましたし、確認してきます」

衣「む、そうか……」

京太郎「咲、藤田プロ、天江さん、お茶淹れてきましたよ」

咲「あ、ありがと京ちゃん」

靖子「おお、気が利くな」

衣「感謝する。 ああ、須賀とかいったか? 先ほどのタコス、なかなかの美味だったぞ! まるで、そう……ハギヨシの料理を思い出すような味付けで……」

京太郎「……俺、ハギヨシさんにタコス作り習ったんで……」

衣「そうなのか? ふむ……それならまだまだだな。 ハギヨシの弟子にしてはできなすぎる」

京太郎「出来のわるい弟子ですみません……」

優希「京太郎! ヘコんでいる暇があったら特訓だじぇ! そして私にタコスを差し出せ!」

京太郎「はいはい……わかりましたよ」

咲「それじゃあ、私もケーキの様子見てくるよ……タコス以外のお料理は私と和ちゃんの担当だから……」

衣「そうか……なぁ、咲……またあとで打ってくれるか?」

咲「もちろん!」


衣「…………」

靖子「なんだ、そんな寂しそうにするなよ。 私がいるだろ?」

衣「むしろマイナス要素じゃないか」

靖子「そんなこと言われるとさすがに傷つくなぁ……」



和「ケーキ、準備できましたよ!」

咲「料理並べますね……ちょっと、京ちゃんそっちのテーブル片付けといてって言ったじゃない」

京太郎「あ、わりぃ……タコス作りについつい気合入っちゃって……」

優希「それ事態はいいことだけど準備に手落ちがあるようじゃ困るじぇ」

久「まこ、誕生日おめでとう!」

まこ「なんじゃ、こうやって改めて祝われると照れるのう……」

「まこちゃんももう18かい……立派になって……」

「染谷のじいさんにも見せてやりたかったなぁ……」

まこ「そうやってしみじみすんのもやめてほしいんじゃがのう……」

久「こら、常連さんに文句言わないの! お店を会場にしてる時点でまこの人生を振り替えってしみじみする会だから!」

「まこちゃんが小さい頃はじーちゃんじーちゃんって付いて回って……」

「わしらが打ってるの後ろでずっと見ててなぁ」

まこ「ほんと、勘弁してくれんかのう……」



衣「…………」



靖子「……なぁに羨ましそうな顔してんだよ」

衣「……染谷は、回りの人間に愛されているのだな」

衣「衣は、両親もなくしているし……本家の当主……龍門渕の入り婿には疎まれ……」

靖子「…………」

衣「いや、衣とて両親の愛を受けた記憶はある。 多忙な両親ではあったが、充分に衣に愛を注いでくれた……」

衣「それでも、衣は……友も少なく、頼れる大人もおらず……そういう人生を歩んできたからな」

衣「こんなことを言っても詮無きことだが……誰かがああして、周囲の大人や友人に囲まれて愛情を受けている姿を見ると……」

衣「……たまに、無性に羨ましくなるときが、ある」

靖子「……お前、やっぱりバカだなぁ」

衣「なんだと!? 衣が真剣な話をしてやってるというのに……!」

靖子「去年、お前だってちゃんと気づいたんだろ?」

衣「…………」

靖子「なんだ、まあたしかに……まこは、久や部活の後輩たち……ガキの頃から付き合いのあるここの常連のお客さんたちだとか……そりゃあ、愛されに愛されてるがなぁ……」

靖子「そんなの、お前だって同じだろ?」

衣「衣は……!」

靖子「いちいち言われないとわかんないってこともないだろ? それとも、言葉にされないと安心できないか?」

衣「…………むぅ」

靖子「なんだよ、私がいつもかわいがってやってるのは嫌がるくせにさー」

衣「……撫でるな、バカ」

靖子「素直じゃないねぇ……こどもはもうちょっと素直な方がかわいいんだぞ?」

衣「衣はこどもじゃない!」

靖子「本当はこども扱いされたいくせに……」


純「お、なんだよ! もう始まってんじゃんか!」

優希「む、来たなノッポ! タコスならやらんぞ!」

純「ケチケチすんなよ、いっぱいあるんだからさ」

透華「お邪魔しますわ! 本日はお招き頂き光栄ですわ!」

和「こんにちは、龍門渕さん。 ちょうどこれからケーキを切り分けるところで……」

智紀「手作り?」

咲「和ちゃんが焼いたんですよ」

透華「くっ……原村和! 手作りだからといって勝った気にならないことです! 私だって特別にケーキを準備させて来ましたわ!」

和「は、はぁ……」

一「いいよ、いつものだから気にしないで……染谷さん、誕生日おめでとう!」

まこ「ありがとな。 そこまで気を遣ってくれなくてもよかったんじゃが……」

透華「手ぶらで参上するわけにはいきませんもの!」

久「いいじゃない。 くれるって言ってるんだからはもらっちゃいなさいよ」

裕子「せ、先輩……なんなんですかあの派手な人……」

京太郎「ああいう人なんだよ。 後、その言葉は喜ぶからやめとけって、ムロ」

ハギヨシ「おや、須賀くん……透華お嬢様に向かってそのような発言をされると私の立場としては……」

京太郎「は、ハギヨシさん!? すみません! 他意はないんです!」



靖子「ほら、みんな来たぞ? お前の家族だろ?」

衣「…………ふん! 衣は今家出中なんだ! 知らない!」

靖子「拗ねんなって……ほんと、こどもだなぁ」


透華「……あら、藤田プロ! お久しぶりですわ」

靖子「よう……最近好調じゃないか。 春季大会、最高に目立ってたぞ?」

透華「ありがとうございます! 藤田プロにそう言っていただけると私もうれしいですわ!」

衣「…………」

透華「……衣、先にひとりで行ったと聞いて心配しましたのよ?」

衣「……衣はこどもじゃない! ひとりで出かけたって大丈夫だ!」

純「そうそう。 別にガキじゃねぇんだから平気だって言っただろ?」

智紀「透華はちょっと過保護すぎる」

一「まあ、心配する気持ちもわかるけどね……」

衣「一まで衣をバカにして……!」

一「え? ちょっと、そうじゃないってば! ボクらは家族で友だちなんだから、心配して当然でしょ?」

衣「……家族で、友だち」

透華「衣、ひとりで飛び出して行ってしまったから……ハギヨシがいてくれて本当によかったですわ」

衣「ん? ……ハギヨシとは屋敷の前で会っただけだぞ?」

透華「え? そんなはずは……」

純「あー! そうだよな! 偶然ヨッシーが通りかかって携帯と財布渡してなきゃ危ないとこだったぜ!」

智紀「いやあよかったよかった」


靖子「……ほら、ちゃんと愛されてる」

衣「……うるさい」

靖子「それに、友だちはそいつらだけじゃないだろ?」

咲「衣ちゃん、ケーキ切ったよ! 食べるでしょ?」

和「改めてケーキに合うお紅茶も淹れましたので……お口に合うかわかりませんが」

優希「のどちゃんが作ったなら問題ないじぇ! ほら、早く!」

衣「……うん! おい、フジタ! 衣は行ってくるぞ!」

靖子「はいはい、楽しんできなー」



まこ「ほんと、こんな豪華なケーキまで頂いて……申し訳ない気持ちになるわ……」

透華「今日の主役はあなたなのですから、もっと堂々としてなさいな」

衣「そうだぞ! それに、どうせ透華のもとにはお金なんて余るほどあるんだから気にするな!」

久「あらら……自分達で言うのもそれはそれよねぇ」



まこ「……天江さん、大丈夫か?」

衣「ん? なにがだ?」

まこ「ちょっと、ヘコんでいるように見えたんでな……勘違いならよかったわ」

衣「……いや、勘違いではないぞ? 衣もたまには傷心することもある……それにしても、端しっこで打ってたというのによく見ていたな?」

まこ「友人の様子がおかしかったら、誰だって気にかけるもんじゃろ?」

衣「……うん、そうだな……まこの言う通りだ」


久「まこ! 早くこっち来て! ろうそく立てたから! そして私とお喋りしなさい! 久しぶりなんだから!」

まこ「……なんじゃ、あのアホは……ほんと、せっかく来てくれたんにすまんのう」

衣「気にするな。 竹井の気持ちもよくわかる……衣だって、もしトーカたちと離ればなれになって、久しぶりの会う機会とでもなればああなるやもしれん」

衣「それに、誕生日なんて年に一度のめでたい日だからな! 特別な友人の特別な日なら当然とも言えるだろう!」

まこ「ふふっ……そういうもんかのう? 」

久「まこ!」

咲「ちょっと、竹井先輩! 当然のように染谷先輩を独占しようとするのやめてくださいよ! 今日の主役なんですよ?」

和「というか、私たちだって竹井先輩と会うの久しぶりなんですからお話ししたいです」

久「なにかわいいこと言ってんのよ! ハグしてあげる!」

和「きゃあ!?」

咲「あ、和ちゃんずるい」

京太郎「……うわーこりゃウザいわ。 テンション高すぎ……」

優希「かわいい先輩じゃないか。 自分がハグしてもらえないからって拗ねるなよ」

京太郎「拗ねてねぇよ!」

優希「なんなら私がハグしてやるぞ? ん?」

京太郎「要らぬ気遣いをどうも!」

衣「……ほんと、清澄は仲がいいな」

まこ「そんなん、龍門渕だってそうじゃろ?」

衣「……そうか、そうだな!」


純「衣、さっきは悪かったな……別にからかってたわけじゃないんだぜ?」

智紀「ちょっと舌が回らなかった」

衣「もういい、わかってる」

一「ふふ、衣おねえさんはやさしいね」

衣「おねえさんだからな!」

透華「せっかくなのですから衣と一緒に来たかったですわ……」

衣「それに関してはすまなかったな! でも、帰りは一緒だ!」

透華「ふふふっ……そうですわね!」



ハギヨシ「…………」

京太郎「……どうしたんですか? ニコニコして?」

ハギヨシ「いえ、別になにも……」

透華「それでは、ハギヨシ!」

ハギヨシ「はい、お嬢様。 準備はできております」

咲「……なんですか、それ?」

透華「私が作詞作曲したバースデーソングの歌詞カードですわ! 原村和! いくらあなたでもここまでは準備できていないでしょう!?」

和「え、それはまあ……」

まこ「歌まで作って来てくれたんか……? そこまでされると恥ずかしいわ……」

久「くっ……私もそれくらいやらないと愛情で負けてる感じしない!? 大丈夫!?」

まこ「あーはいはい。 あんたの気持ちは充分に感じとるよ」

優希「むしろ愛が暴走気味だじぇ……」

純「……いや、つーかこれさ…………」

智紀「長い」

一「もうちょっと短くならない?」

透華「では、少々修正して……ハギヨシ!」

ハギヨシ「はい、準備しております」

透華「それでは、みなさん! いきますわよ!」




『『『まこたんイェイ~』』』



久「おめでとう!」

衣「おめでとう!」

まこ「ありがとな、みんな」

靖子「ほんと、おめでとさん……」


カン!

まこたんイェイ~&こどもの日記念ってことでひとつ

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom