とある原石の呪血遊戯(ブラッド ゲーム) (598)


むかーし、むかし……あるところに二人の兄弟がいました

兄の名はカイン、彼は農作物を育てるのに長けていました

弟の名はアベル、彼は羊と触れ合うことで放牧の楽しさを知りました

そんな彼らはある日、創造主ヤハウェに捧げものをすることになりました

カインは自ら育てた収穫物を、アベルは放し飼いにしたことで丸々と肥えた羊をそれぞれ献上しました

ヤハウェの目に留まったのは、弟のアベルの供え物でした

カインは、自分が弟に負けた悔しさと、大切に育てた作物を無視されたことへの怒りで、アベルを殺してしまいました

その後、ヤハウェはアベルの姿が見えないことに疑問を持ちカインに尋ねました

「アベルの姿が見えないが知らないか?」

するとカインは動揺するどころか、むしろ少し不服そうにヤハウェに尋ねました

「いえ、見ていません。聞かせてください、私は弟の監視をしなければいけない義務があるもでしょうか?」

カインは、人類最初の『嘘をついた人間』と『殺人を犯した人間』になったのでした



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1370088688

しかし、そんな嘘もアベルの血により発覚しました

その血は川を流れヤハウェへと辿りつくと真実を告げました

カインは、罪により追放された後、四大天使のうち三体から、それぞれ呪いを受けました

『炎・太陽光・吸血』の三つの呪いを……

最後に現れた慈愛の天使のガブリエルは、カインとその子孫に呪いを克服する道を示しました
しかし、その道すらも拒み続けたカインは、消えることのない呪われた存在へと変貌してしまいました

その後、カインは数多の出会いと別れを経験し、多くの子孫を残しました

その呪われた子孫は三世代にも続き十三の氏族に別れました

しかし、自らの罪に気付いたカインは、もう子孫を残してはならぬとだけ残し彼らの前から姿を消しました



彼らは今でもカインの帰還を待ち望んでいます。そう、呪われた血の末裔となって……


・このSSは『とある原石のオニギリ』の続編です

・途中で失踪した「とある原石の血塗られの姫(ブラッディプリンセス)」の完全版です

・オリジナル要素(敵・解釈・設定)が大丈夫であれば、お付き合いして頂けると嬉しいです



〜前回迄のあらすじ〜

上条に気持ちを伝えられぬまま、彼には大事なパートナーがいることを知った姫神は悲しみに打ち拉がれ、路地裏に逃げ込んだ
しかし、そこに姫神の柔らかい躰を目的に不良たちが集まってきた
必死に抵抗するが暴力で押さえ込まれ、覚悟を決めそうになったとき、そこへ一人の少年が現れた

彼の名は、垣根帝督

学園都市 レベル5の『未元物質』を持つ超能力者

姫神を救出後、垣根は過去に接触してきた暗部の人物や、小萌などの学校の関係者と話すことで、少しずつ何かが変わりつつあった

しかし、一番彼を変えたのは、紛れも無く姫神であった
姫神も少しずつ、彼と触れていくことで自分に似た悩みを持っていることに気付いていく

しかし、そんな時間も音を立てて崩れていった

姫神は不良たちにより復讐する材料として人質になってしまう
垣根は、自分の責任で姫神を危険に晒してしまったこと
過去の自分を知られてしまったことで、彼は姫神を助け出した後、彼女の前から姿を
消した
悲しみに暮れる姫神に手を差し伸べたのは、かつて垣根と共に〝仕事〟をしていた心理定規だった

彼女から垣根と共に過ごした日々を聞かされた姫神は、それでも垣根に会いたいかと聞かれ姫神の出した答えは……

そんな、彼女たちの裏で、一方通行が垣根に接触し、自分の居場所に戻るように諭す
しかし垣根はそれを頑なに拒否し、一方通行に噛み付いた
殴り合いの末、自分の気持ちを一方通行に打ち明けた垣根は、姫神に連絡をいれ二日後に会う約束をした

二日後、無事に再開した二人だったが、この二日間のことは話さず最後の思い出作り(デート)へと出掛けた

日も沈みかけ、垣根は帰宅を促すが姫神は首を横に振った
困った垣根だったが、姫神が話し出した過去の惨劇を聞き目を丸くした
姫神が黙っていたことに、そして何より、そんな苦しんでいた姫神から眼を背けた自分が憎かった
そして、二人はお互いの気持ちを打ち明け、それを受け入れることで無事に付き合うこととなった

誰もが、これでハッピーエンドを迎えたと思われたが……



〜登場人物〜

姫神秋沙……本作の主役 兼 ヒロイン
垣根と付き合うが、お互いに歩み寄れずにいる初心カップル
彼女の持つ原石『吸血殺し』は吸血鬼を殺す甘い毒である
過去に能力により惨劇を生んだためか能力を行使することを躊躇っている

垣根帝督……本作の主人公(ヒーロー)
十月九日に死んだと思われていた少年
彼が、どこで誰によって復活を遂げたのかは不明である
噂では、姫神の料理に秘密があるとされている
学園都市〝第二位〟『未元物質』の能力者

上条当麻……前回の空気主人公
右腕に宿る『幻想殺し』と仲間を思う優しい心で戦う不幸少年
御坂美琴とお付き合い中

一方通行……かつての自分と重なるのか垣根に嫌悪感を抱いていたが、今は周りの尽力により以前よりはマシな関係に
現在は『冥土返し』の下で医療を研究し、医者を目指している
学園都市〝第一位〟『一方通行』の能力者

削板軍覇……一日一回の修行が日課の心優しい少年
吹寄と共に垣根たちの良き相談相手となっている
ある男に敗北して以来、鍛錬に勤しんでいる
学園都市〝第七位〟謎が多い原石『念動砲弾』の能力者

御坂美琴……名門『常盤台中学』の中学生
      姫神の上条への淡い気持ちに気付くが
お互いの気持ちを打ち明けることで、今では良き友人に
      学園都市〝第三位〟『超電磁砲』の能力者

月詠小萌……小萌家の家主 兼 姫神達のクラス担任
本人は自覚していないが、彼女の周りには癖のある人物が引き寄せられるように集まる
しかし彼女は、そんな学生たちを自分の家族のように分け隔てなく接する
お人好しな性格だが、悪い子には躾と称してお仕置きも躊躇わない


結標淡希……小萌家の一員
      かつて暗部に所属し、『窓のないビル』の案内人として働いていた過去を持つ
      名門『霧ヶ丘女学院』に在籍中
      姫神のことを妹のように接し彼女の為なら手段を選ばない覚悟
      ショタをこよなく愛する残念少女
レベル4『座標移動』の能力者 

吹寄制理……姫神の大切な友人の一人
      体を鍛えることと健康食品が好きで、削板とよく河川敷でトレーニングに励む
      どこか常人とズレている削板を気にかけている
姫神に〝とある件〟で罪悪感を感じている
      
心理定規……かつて暗部『スクール』の元構成員
現在は常盤台中学に通いながら『風紀委員』に所属している
      垣根たちの恋模様に微笑ましく思いながら、もどかしくも思っている

黄泉川愛穂……黄泉川家の大黒柱
過去に一方通行と垣根の戦闘に割って入り垣根により負傷する
       しかし、現在の垣根を見て和解をする
       教師をする一方で『警備員』に所属し治安を守っている

インデックス……暴食シスターであり姫神の良き理解者
        『必要悪の教会』所属のシスター
        とある事情で、ステイル等とともに学園都市に向けて飛び立つ

マントの男……謎の組織『七血衆』を率いて学園都市内を暗躍する謎の人物
       彼の狙いとは……





気付けば、彼の周りは血の海だった

月詠や他の教師も、学校のクラスメイトも、元暗部の者達も

みんな血まみれで倒れていた


「な、何があった……」


思考が追いつかない、目の前の惨状が理解できない

少し奥に人影らしきものが見えた

(何かがわかるかもしれない)

そう考える前に、人影の方へと足を進めていた

しかし、その足は人影の前で止まった。否、目の前の状況に驚愕し立ち止まってしまった

「ひ、姫神っ!!」

地面に倒れふした愛しい人である少女の首を、何者かが少しずつ力を込めて絞めていた

「やめろ……そこから早くどきやがれ!」

しかし気持ちとは裏腹に、手足が固まったように動かない

この少女だけは、救ってやらなければいけない

もう、怖い思いはさせてはいけない

そんな気持ちに答えてくれたのか、なんとか憎き者の肩を掴むことができた

それに気付いたのか姫神の上にいた者はゆっくりと顔を上げた

「なんだ、まだいたのか?貴様には興味が失せた……」

「……ぁああ!」

垣根は、その者の顔を確認すると息を呑んだ

姫神にまたがっていた人物は垣根帝督の姿をしていた



「ゲームオーバーだぁ!」



終わりを告げる叫び声とともに辺りは闇に包まれ、歓喜する笑い声と絶望する悲鳴が辺りに響いた





───────────
───────
カキ──ク

カキネ──ン

姫神「……垣根君」

垣根「はっ!?……夢?」

自分の名を呼ぶ声に導かれるように、垣根は目を覚ました

周囲を確認すると、授業が始まっていたらしく小萌が楽しそうに解説していた

それを見て安心したのか、ふぅっと溜め息を吐いた

姫神「垣根君。大丈夫?」

そんな垣根を心配するように、姫神は小声で話しかけた

長く綺麗に整えられた黒髪には、大事な人から貰った、付き合って初めてのプレゼントのヘアピンが光っていた

垣根「少し変な姿勢で寝ちまったせいで、うなされただけさ……まったく問題ねーよ」

そう告げると姫神に悟られぬよう無理やり笑ってみせた

姫神も、何かを感じとったのか詮索せずに、良かったとだけ呟いてほほ笑み返した

そんな、二人の間にズイっと顔が割り込み

小萌「コラー、二人とも!先生の授業は、真面目に聞くのですー!!」

垣根「お、おい!俺は、ともかく姫神は関係ねーだろ」

小萌「それじゃあ、垣根ちゃんには特別に、放課後に先生のお手伝いをする権利をあげるのです」

可愛らしい笑顔で、ビシっと人差し指を突き出した

垣根「またかよ……まぁ、アイツ等みたいに補修になるよりマシか」

と後ろの席に固まっている、上条・土御門・青髪の『デルタフォース』と呼ばれる

補修常習犯の方を見てフンッと鼻で笑った

青髪「あれ?いま垣根くん、こっち見て鼻で笑わんかった?土御門くん」

土御門「確かに笑ったぜよ……上やんはともかく、俺たちは常習犯じゃないにゃー」

上条「俺はともかくって……確かに、上条さんはお情けで留年は免れましたよ……でも最近は、授業は真面目に聞いてるんだぞ」

デルタフォース達が、やいやいと言い争っていると

小萌「ぐすっ……」

小さな鼻をすする音が聞こえたかと思うと

「あーあ、またあいつらかよ……」

クラスメイトたちからの蔑むような視線に気付いたのか上条たちは俯いたまま黙ってしまった

小萌「上条ちゃんは、他の先生の授業は真面目に聞いて、先生の授業は真面目に受けてもらえないのですか?」

上条「えっ俺だけ……?」

その瞬間クラス全員の視線と、さっきまで一緒に騒いでいた

土御門たちの鋭い視線を浴びた上条は、いつもの決まり文句を叫んだ

上条「不幸だああああああ」


お昼休み~屋上~

土御門「やっと、お昼だにゃー」

くぅーっと背伸びをする土御門は、愛妹弁当を片手にニヤついていた

垣根「午後も授業があると思うと憂鬱だ……」

垣根は、スケジュール帳を確認しながら愚痴を零した

姫神「ふふっ。学校には慣れた?」

姫神は、垣根に弁当箱を差し出して、嬉しそうに聞いた

垣根「学校がこんなに暇な所とは、知らなかった」

姫神「でも。そう言いながら無欠席」

土御門「姫神は鈍ちんだにゃー、垣根は弁当が楽しみで来てるに決まってるぜよ」

青髪「ひゃー、男らしいわ。垣根くん!」

青髪は腰をクネクネさせながら、垣根たちの周りを動き回った

垣根「テメーら……一応、知り合いとして確認してやる何の真似だコレは?」

垣根は怒りに満ちた表情でガタガタと震えている土御門と青髪の前へ歩いていくと

垣根「覚悟はできてるんだろうな……」

土御門・青髪「「優しくしてね」」

その言葉を最後に二人のいた場所には糸が切れた人形のような物が横たわっていた

垣根「愉快なオブジェの出来あがりってか」

垣根は満足そうな笑顔をして姫神の下へ歩いて行った

しかし、よく見ると土御門の弁当箱・青髪のパンの山には被害がないところをみると、本気で怒ってないことが伺えた

姫神「やりすぎ」

姫神は背伸びをして優しく垣根の額を叩いた

垣根「でもよぉ……」

怒られた子犬のように大人しくなってしまった垣根を見て土御門と青髪は慌てて近寄り

土御門「いやいや、悪いのは俺たちの方だにゃー!悪かったな垣根」

青髪「二人を見てると初々しくなってね、ついからかいたくなってしもたんよ!ほんま堪忍やで」

二人も悪気はなかったのか申し訳なさそうに頭を下げ垣根達に謝ってきた

姫神「私は。大丈夫」

垣根「姫神が気にしないってんなら、今日のところは勘弁してやる」

青髪「良かったわー!垣根くんは姫神ちゃんのこととなると冗談通じひんから……」

とりあえず安心したのか額の汗を拭いながら垣根を苦笑いしながら見た

青髪はのちにこう語った

「これで丸く収まる、楽しい昼休みが始まる」

しかしその幻想は上条の一言で無惨にもブチ壊された

上条「そういえば、前から気になってたけどよ。なんで垣根は、姫神のことを名前で呼ばないんだ?」

パキーンと硝子が割れる音とともに、その場の空気が凍りついた

青髪(上やん、空気よめー!)

青髪は叫びたいのを必死で我慢しながら、上条を睨みつけた

しかし、土御門も何やら悪い事を閃いたのか、ニヤニヤしながら垣根と姫神に近づき

土御門「そういえば、そうだにゃー!付き合ってるなら、恥ずかしがらずに名前で呼び合えばいいんだにゃ~」

姫神「初めからだから。違和感がなかった」

姫神(本当は。告白の時に。一回だけ言ってもらった)

垣根「オイコラッ!誰が恥ずかしがり屋だって?お互い呼ばないだけで、そんなこと楽勝なんだよ」

垣根は何かを訴えるように小刻みに震えながら土御門を睨んだ

土御門「決まりだにゃ~!じゃあ、この場で呼んでみるぜよ」

姫神「えっ」

垣根「なっ!?」

二人は土御門の突然の要求に困惑した

姫神(垣根くんに。やっと名前で呼んでもらえる……)

姫神は、ドキドキが伝わるほど顔を真っ赤にして垣根を見つめる

垣根(土御門の野郎、絶対楽しんでやがるな……しかも、姫神ちゃんも期待してるし後戻りはできねぇ)

垣根「あ……」

土御門「あ?」

姫神(心臓がさっきから五月蝿い///)

垣根「あっ、上条!この旨そうな里イモ 一個もらうぞ!」

ヒョイっと上条の弁当箱から里芋を摘むと口に押し込んだ

垣根(くそっ、やっぱり俺には無理なのか……)

上条「あーっ!俺のオカズがー」

垣根「ヘヘっ、ワリーな……んぐっ!?」

垣根は、急に焦ったように胸あたりを叩き始め苦しそうにジタバタと床を転がった

それに気付いたのか、姫神は優しく垣根の背中を叩いてやった

土御門「やっぱり、垣根はヘタレだにゃー!」

姫神(うぅ……でも。少しホッとした)

姫神は少し安心したように胸を撫で下ろした

垣根「ハァー……死ぬかと思った」

上条「俺の楽しみにしてた里芋が……」

垣根・上条「不幸だ……」



その後、放課後に上条のご機嫌をとる為に、垣根は特売の買い物に付き合うこととなった

姫神は、垣根と一緒に帰りたいのをこらえて、同じ寮に住んでいる吹寄と一緒に帰ろうと考えていると

?「ゲッ…」

屋上に上がるドアの近くから奇妙な声が上がった

上条「なんだ吹寄か、お前もお昼だろ?早くこっちこいよ!」

上条達は、吹寄の姿を確認すると、手招きしたり手を振って反応した

吹寄「え、えぇ……でも、残念ね!用事を頼まれてたんだった」

吹寄は慌てたように来た道を急いで引き返そうと振り返ると

垣根「なぁ、待てよ、さっき俺たちを見てすげー嫌な顔したよな?なんか、不味いことでもあるのか?」

垣根と土御門が悪い笑みを浮かべながら道を塞いだ

吹寄は彼女には似つかわしくない大きな風呂敷を大事そうに抱えて二人を鋭く睨んだ

土御門「なぁー、吹寄?俺たちに、その風呂敷の中身を少し見せてくれないかにゃー?」

吹寄は、これ以上は何を言っても無駄だと悟ると深く溜め息をつき、持っていた風呂敷を地面に下ろした

吹寄「いいけど、絶対笑わないと誓いなさいよ!」

と念を押し風呂敷の結び目に手をかけた、

二人の行動に呆れながらも、風呂敷の中身に興味が湧いたのか、姫神たちも風呂敷を覗きこんだ

青髪「こ、これは!」

土御門「なんて大きさの」

垣根「アルミホイルの塊なんだ……!」

周りが驚愕するなか吹寄が俯きながら口を開いた

吹寄「……リよ」

垣根「あぁ?」

吹寄の消えそうな声に垣根は聞き返した

吹寄「オニギリって言ってるでしょ!大きくて悪かったわね!」

その瞬間、静まりかえっていた空気が一変し、垣根と姫神を除いた三人は、ハハハハハと腹を抱えて笑い出した

それを見た垣根は、なぜかムカついたので、笑い転げている三人を血祭りにあげると吹寄に近づいた

吹寄「笑いたければ、貴様も笑えばいいでしょ!」

少し目頭を赤くさせながら垣根を睨んだ。

垣根は、吹寄の前に腰掛けると、額ににデコピンを食らわした

垣根「バーカ、誰が人樣が作った料理にケチつけるかよ!こちとら、料理に関して痛い目みてんだよ」

垣根は、いつかの料理対決の事を思い出したのか、溜め息をつきながら目の前のアルミホイルの塊を見つめた

姫神(でも最近の結標さんの。料理は美味しいって。影で誉めてた)

などと思い出しながら姫神は垣根の隣に座り微笑みかけた


垣根はそれに気付くと顔を赤らめながら言葉を続けた

垣根「それによー、旨いオニギリを作る奴に悪い奴なんかいねーよ///」

吹寄「っぷ///なによそれ!もう、変なこと言わないでよ」

吹寄も元気を取り戻したのか、目頭を紅くしながら笑っていた

しかし、垣根はここで一つの疑問が浮かんだ

垣根「それよりよー、こんなに大きいの一人で食ったら流石に太るんじゃねーか?」

心配そうに垣根は吹寄に告げた

それを聞いた姫神は呆れたように溜め息を吐いた

垣根「あ、あれ……なんかオレ不味いことでも言った?」

姫神の反応で気付いたのか、慌てて吹き寄せを確認すると顔を真っ赤にして何やらブツブツと呟きながら垣根の腹をめがけて力強く握り締めた拳が突き刺さった

垣根「ぬべらっ!」

垣根は、あまりの衝撃に膝から崩れ落ちてしまった

吹寄「まったく、私がこんなに食べれるわけないでしょ」

吹寄は呆れたように、転がっている人塊を横切り屋上のフェンスへと歩いていった

それを見送るように、姫神は転がっている垣根の傍に座り頬をつつき

姫神(……バカ)

どこか不器用な彼を愛おしく見えたのか、優しく微笑みかけた

その頃フェンスのギリギリまで辿りついた吹寄は少し長めに息を吸い

吹寄「お昼だぞー!!」

親しい友人に向けて力いっぱい叫んだ

その瞬間どこからともなく

「うおぉぉー!!」

大地の震動とともに、どこからともなく叫び声が聞こえてきた

その声は学校に近づいてきてるのか、ボリュームがだんだん大きくなっていった

すると遠くの方から砂埃をあげながら学校へと走ってくる者が確認できた

それは学校に侵入すると、屋上のすぐ下に広がるグラウンドで急ブレーキをかけた

しかし、あまりに勢いよく止まりすぎたのか、グラウンドは辺り一面、砂煙に覆われた

「くそっ、煙くてまったく見えん!困ったな……そうだ!」

姿は砂煙で確認できないが、若めの男性らしき声が聞こえた

吹寄「姫神さん、下がって!」

何かを感じとったのか吹寄は姫神の手を引いてフェンスから素早く離れた

吹寄の読みは当たっていた、吹寄達がフェンスからある程度、離れ終わった直後



「すごいパアアァーーンチ!!」



砂煙の中から空に向かって一筋の光が伸びた

その瞬間と爆発でも起きたかのような轟音とともに嵐のような突風が吹き荒れた

このような芸当ができるのは学園都市でも数えるほどしかいなかった

削板「おぉ、これで見やすくなった」

吹寄「貴様いつも手加減しろと言ってるでしょ!!」

そう……学園都市に七人しかいないレベル5の〝第七位〟『削板軍覇』だった

削板「おぉ!吹寄―!!今日も元気そうで安心したぞぉー!」

削板は嬉しそうに、眩しい笑顔をこちらに向けて両手を振った

吹寄「頭痛い……」

頭を抱えながら、座り込むと溜め息をついた

姫神は、ポンポンと肩を叩き慰めた

削板「なにー、頭痛だとー!?大丈夫だー今すぐそっちに行ってやるー!」

そういうと削板は校舎の真下に近寄ると

削板「すごいジャァァーンプ!!」

と叫びながら校舎の一階から屋上を軽く越す高さまで飛び上がり二人の近くに着地した

削板「吹寄―!体調は大丈夫かぁー!」

吹寄の肩を掴みブンブンと前後に揺らした

吹寄「貴様の能力の凄さに呆れただけだから……って早く離せ馬鹿者!」

あまりの力強い揺さぶりに気分が悪くなったのか、削板のふくらはぎ目掛け蹴りをお見舞いした

削板「うぅ……今日もなかなか根性ある蹴りで安心したぞ!それなら大丈夫そうだな」

何が嬉しいのか、ふくらはぎを摩りながら吹寄の顔を見て笑っていた

吹寄「ほらいつまで寝てるのよ……どうせ、お昼まだなんでしょ?これでもいいなら食べてもいいわよ」

巨大なアルミホイルの塊を削板に差し出した

削板「おぉ、なかなか根性あるオニギリだな!本当に貰っていいのか?」

子供が大好きなオモチャを見つめるように目を輝かせながら吹寄に確認した

吹寄「いいって言ってるでしょ……えっ、待って!今なんて?」

削板「ん?てっきりオニギリだと思ったんだが違うのか?すまんな……」

少し申し訳なさそうに吹寄の顔を見上げた

吹寄「ふふっ///」

削板「ん?どうかしたか?」

吹寄「ど、どうもしないわよ/// それより、さっさと食べなさいよ!」

などと悪態をつきながら、また熱くなった目頭をそぎ板に見られないように背を向けた

削板「ん?どうした、泣いてんのか?いったいどこのどいつだ、吹寄を泣かすような根性なしは!?」

美味しそうに巨大なオニギリにかじりつきながら、吹寄を心配そうに眺めた

吹寄(教えてあげないわよ……バーカ///)

削板が食事を終えるまで、どこか嬉しそうに見守っていた

土御門(おい、垣根……実は最初からこうなる事を予想できてたんじゃ)

垣根(さー、俺にはなんのことやら……)

土御門(チッ、喰えねー野郎だ。まったく……)

しかし、倒れている男達は誰一人として、嫌な顔を一つしておらず、晴れやかな顔をしていた

ただ一人、上条を除いて

上条(俺の弁当が砂だらけに……不幸だぁぁ)


今日はここまでです

皆様、お久しぶりです。それでは、今回も宜しくです

また明日、この時間に

まさかの復活なんだよ!

乙。姫神は。けっこうすごい。地味とかなんとかいわれてるけど。

>>25
本人乙

お勧めスレでも探していたけど前作読んで来る
変わった組み合わせだし

待ってましたー!!!

前作から待って下さった方、新規で読んで頂いた方、姫神が好きの方

本当にありがとうございます

それでは、今日の投下を始めます

~昼食後~

そのあと削板を交えながら昼食をとっていると、珍しく黙っていた青髪が急に口を開いた

青髪「そろそろ七夕やね!みんなは、何か予定とかあるん?」

土御門「もちろん!俺は今年も舞夏の作った夕食を食べるという、とーっても大事なイベントが待ってるにゃー!」

土御門は周りの冷めた視線を気にもとめず、去年の思い出や今年のメニューの予想などをペラペラと話し始めた

垣根「妹馬鹿は放っておいて、七夕かぁ…そういやー、まったく予定を考えてなかったな」

あまり乗り気じゃなさそうに呟くと青髪と吹寄がズイッと垣根に顔を近付けてきた

青髪「アカン、アカン!わかってへんなー!女の子っちゅーもんは、行事には凄く敏感なんやで!」

吹寄「でね、今年の7月7日は満月なのよ。七夕の夜に満月と天の川が両方見えるなんてめったにないのよ!」

そんな二人の熱弁を面倒臭そうに聞いていると、二人の間から顔を赤らめた姫神と目が合う。その顔からは少し期待しているのが伺えた

垣根「わ、わかったから、顔がちけーよ!」

指摘されて我にかえった二人は恥ずかしいのか顔を染めて、垣根から離れるように後退した

垣根(そういやー、七夕祭なんてするの初めてだな……。へっ、本当に丸くなったもんだな、こんなに行事が楽しみになってるなんてな)

垣根は過去の自分から考えると自身の変わりように苦笑いしながら空を仰いだ

姫神(また、あの顔……)

一緒にいるときに時より見せる、どこか思いつめた苦しそうな顔を見ると、姫神はどうしようもなく悲しくなる時がある

姫神(七夕の日。楽しんで欲しい)

思い人に向けた願いは梅雨が明けたばかりの夏空へ風に乗って消えていった



彼女たちは、まだ知ることはないだろう

ピースが一つずつはめられて、絶望へのカウントダウンが始まっていることに……

七夕まで残り四日 七月三日



放課後

小萌「今日の授業はこれで終わりなのです。また週明けに会いましょう!垣根ちゃんは、先生とお話があるので残ってて下さいね」

月詠は嬉しそうに、垣根の顔を見つめた

垣根「げっ、忘れてた……。上条、またあとで連絡する」

上条「おう、忙しいな次回でもいいぞ」

垣根「悪いな、そうしてもらえると助かる」

垣根は申し訳なさそうに小さく手を合わせた

姫神「垣根くん。またね」

吹寄「あまり、小萌先生を困らせるんじゃないわよ」

上条「んじゃ、頑張れよ」

上条・姫神と吹寄の三人は、垣根に手を振りながら教室をから出ていった

それを見送った垣根は、ちらほらとしか残っていない教室に、見知った人物が残っていることに気付く

垣根「あぁ?お前まだ帰ってねーのかよ」

青髪「そのことなんやけど……」

彼には珍しい思いつめたような暗い顔して、垣根に向かって手招きをする

垣根「なんだよ!こっちは、急いでんだよ……」

少し面倒臭そうにしながらも素直に青髪の前まで近づいて行った

すると、さっきまで暗かった顔を急にいつもの薄目の笑顔に変えて垣根の耳元に顔を近づけて囁いた

青髪「小萌先生を悲しませたりしたら、垣根くんでも容赦せぇへんよ……」

その声はいつもの彼のものと変わらないのだが、どこかドロッとした例えようの難しい、そんな声を垣根に向けた

それを聞いた垣根は思わず背後へ跳ぶと、ジッと青髪の動向を伺った

垣根「ゴクリ……」

暫く向き合っていると緊張のあまりか唾を飲み込んだ。しかし、視線だけは決して逸らさなかった

青髪「じょ、冗談やん!そない、警戒せんでも……」

いつもの調子に戻った青髪は、苦笑いしながら教室から走り去るように出て行った

顔を引き攣らせながら青髪が消えた後も、誰かが見ていないか警戒するようにドアに張り付いていると

「垣根ちゃん!」

垣根「うおぉ!?」

廊下に気を張り詰めすぎた為か、足元にいた月詠の存在に気付かず驚きのあまり声を上げてしまった

小萌「ひゃあ!驚かせるつもりはなかったのですが、垣根ちゃんが変な行動をしてたので……」

後ろにのけぞったときにバランスを崩した月詠は尻餅をつきながら垣根を見上げた

垣根「悪いな。ここ最近、少し疲れてんだな」

誤魔化すような笑顔を月詠に向けると近くにあった誰のものとも知らぬ座席に腰かけた

小萌「本当に大丈夫なのですか?姫神ちゃんも心配してましたよ。何か隠れて調べ物をしてるって」

垣根「そっちは、追い追い時期みて話すわ。それより進路も決める時期だしよ、先生に相談にのってもらいてーんだ」

小萌「は、はい!迷える子羊ちゃんの為なら、先生も協力するのです」

先程の軽いノリから一変し、急にトーンを下げ真面目な表情となる垣根に思わずドキッとする

垣根「俺……教師を目指そうと思う」

それを聞いた月詠は耳を疑った。目の前の少年は学園都市でも有数の頭脳の持ち主だ

だからか第一位のように医学や様々な分野の科学者になるとばかり思っていた

彼は超能力という巨大な力を持つが故に暗い過去を背負っていることに気付いていた

だからこそ、それを生かすように科学者になって、中から変えていくという道の方が彼には幸せじゃないのかとも考えた

そう、彼はレベル5。それこそ頭脳やコネといったものを使えば大企業にでも簡単に就職ができるはずだ

しかし、彼はそのどの選択肢とも違う『教師』という自分と同じ道に進もうとしていることを知り少し不安を感じた

小萌「後悔しないのですか?」

教師という職業は子供にただ勉強を教えるだけでなく、生徒を一人一人正しい道へ導いてあげるのも勤めである

今の彼にそれが果たしてできるのかという不安も感じていた。すると垣根は、月詠を真っ直ぐ見て

垣根「俺はあんたみてーな、泣き虫で子供っぽい教師にはなるつもりはねーよ」

小萌「そ、そうですよね……。では、垣根ちゃんはどんな教師を目指してるのですか?」

垣根の発言に思わず泣きそうになるのを堪えて、少しでも役立てるよう彼の目指す教師像を聞き返した

それを待っていたと言わんばかりに、人差し指で月詠の額を押すように指差しと

垣根「そうだな……。お人好しで、生徒の面倒見も良くて暑苦しいアンタみたいな教師かな……って、なに泣いてやがんだよ!」

話し終わる頃には瞳からポロポロと涙を流している月詠に思わず驚く垣根だったが

小萌「いえ、垣根ちゃんが先生の事をそうやって見てくれて嬉しいのです///もう、変な言い回しをするからですよ!」

頬を膨らませながら不満をもらしている月詠を見て安心したよう笑った

垣根「そんなもん世話になってりゃあ、嫌でも見えてくるんだよ……。それに、将来の先輩様に今のうちに媚を売っておかねぇとな」

背もたれにもたれながら、もう何度となく見上げてきた教室の天上を照れ臭そうに笑って見た

その顔からは、何か大事な物を見つけたように、満ち足りた雰囲気を漂わせ

それを感じ取ったのか、垣根の顔を眺めながらボソッと呟いた

小萌「頑張って下さいね、垣根ちゃん!」

もしこの場に誰かがいたら、きっとこう言うだろう。まるで仲のいい親子のようだと

───────
──────

上条「そういえば、二人はどうするんだ?」

「「えっ?」」

上条の唐突すぎる発言に二人は、見当がついてなかったのか思わず聞き返してしまった

上条「ほら、昼に話題になった七夕のはなしなんだけどさ、垣根も削板もまだ誘いに来てないんだろ?」

吹寄「あー、そのことね……どうせ削板のことだから、トレーニングで忙しいと思うから今年はパスね。それに私たち付き合ってるわけじゃ……」

上条「吹寄……」

姫神「…………」

吹寄「も〜!ほら、そんな顔するんじゃない。私なら平気よ!」

表面上は笑っているように見せているが、二人にはその笑顔すらもどこかぎこちなく感じた

吹寄「はい。この話はこれでおしまい!それより上条、テスト勉強は、進んでいるんでしょうね?」

上条「フフフ……今年の上条さんは一味違うのですよ!授業は欠席なし、ノートもバッチリな上条さんに死角はないのでせうよ!」

どこからそんな自信が湧くのかと本当に心配になる二人は呆れたように溜め息をつくと

吹寄・姫神(ノートを写すだけで勉強した気になってるなんて……)

そんな心配を二人から向けられている上条のポケットから軽快な着信メロディーが鳴った

上条「ん?あぁ、美琴からか……わりーな、ちょっと話してくる」

そう告げると二人から少し離れて、携帯の通話ボタンを押した

上条「あ、美琴か!どうかしたのか?」

御坂『あんたねぇ……学校終わったなら、早く連絡しなさいよ!』

スピーカーからは明らかに怒りを抑えているように聞こえる御坂美琴の声が耳に入ってきた

上条「……へっ?」

御坂『へっ?じゃないわよ!今日は、アンタがどうしても私の料理が食べたいっていうから買い出しを終えて待ってたのに』

上条「あぁ!?すまん、忘れてた……今すぐ帰るから待ってて下さい、美琴さま!」

御坂『まぁ、アンタがどうしても私の料理を食べたいっていうなら仕方ないから待っててあげてもいいわよ///』

上条「本当か?あと、10分程で着くから待ってろよ!」

携帯をパタンと閉じると、安心からか大きな溜息をついてトボトボと歩きながら二人に近付く


上条「先約があったのを忘れてた……」

吹寄「ん、彼女さんから?なら急いだ方がいいんじゃない」

上条「でもよ、女の子を置いて帰るのは上条さんとしては申し訳ないといいますか」

吹寄「変な気を使わなくていいから早く行ってあげなさいよ!それに、夕ご飯の買い物もあるから付いてきても迷惑よ」

吹寄は上条の背中を押して今すぐ帰るように催促した

上条「おう、サンキューな……でも、二人とも気を付けて帰れよー!」

申し訳なさそう手を振りながらに足早に寮の方角へと走っていった

姫神「行っちゃったね」

吹寄「ほら、私たちも暗くならないうちに早く買い物済ませちゃいましょ?」

姫神「うん。夕御飯何にするの?」

吹寄「そーね……キャベツは家にあるし、今日はお肉が安いからロールキャベツでもしようかしら。……痛っ」

よそ見をしていた為か吹寄はドンと何かにぶつかった衝撃で思わずよろけてしまった

「きゃぁ!」

可愛いらしい声を発した人物はバランスを崩したのか尻餅をついていた

よく見ると自分たちと同じ歳ぐらいの少女で、長いウェーブのかかった茶色の髪に整った横顔、そしてなにより姫神には見覚えのある服装であった

姫神(霧ヶ丘の生徒……)

そう、その少女はかつて姫神が在籍していた霧ヶ丘女学院の制服を着ていた


吹寄「すいません!大丈夫ですか?」

吹寄は、慌てて少女に駆け寄り抱き起こした

少女「えぇ、これぐらい平気よ……尻餅ついただけだから」

少女はゆっくりと顔を上げると柔らかい微笑みで吹寄を見つめた

姫神「……!?」

姫神はその少女の顔を見た瞬間、背中が凍るような感覚に襲われた

吹寄「本当にごめんなさい。私が、よそ見をしたばかりに」

自分の不注意が原因だと何回も何回も頭を下げていたからか姫神のわずかに怯える表情を見逃してしまった

少女「大丈夫だから、頭を上げて……ほら、貴方からも言ってあげて……あら、姫神さん?」

姫神「…………」

少女は姫神の顔を確認し少し驚いたものの、直ぐに柔らかい笑顔に戻った

吹寄「えっ!姫神さん、この人あなた知り合いなの?」

少し困惑したように姫神と少女の顔を交互に見つめた

姫神「え……えぇ。前の学校で……」

少女「ねー、私達は前の学校で友達だったの!久し振りね――――姫神さん。元気にしてた?」

今日の投下は以上です

前回のスレに追いつく為に、大量投下をしてしまいました

もし、読みにくい場合は、気軽に言ってください

それでは、また明日(22時ごろ予定)


カブトムシ05くんは出ないのかな?
出たら垣根を抑える役になりそうだけど……

乙ですの!

乙乙

今日もまた、投下していきます

>>44
このSSは、一年前のものなのでカブトムシはいない世界観です
ただ、新しい巻の内容でも組み込める内容は組み込んでいきます

では、今日も宜しくです


姫神の言葉を遮るように少女は少しオーバーにも見えるスキンシップをしながら思い出話を話し始めた

吹寄(姫神さんも、前の学校で上手くやってたのね。少し安心したわ)

吹寄は、以前の学校の話をあまり話したがらない姫神を少し心配していた

少女「そうだ!これから、時間あるかしら?昔みたいにお話しましょ!ここからだと私の家が近いからお友達も一緒にいらして」

少女は答えを聞かずに姫神と吹寄の手首を掴むと勢い良く歩き始めた

吹寄「ちょ、ちょっと!?」

バチンッ

勢いよく手を振り払った姫神は困惑する吹寄の手を掴むと少女とは反対の方角へと歩きだした

少女「痛いなー…。酷いな、姫神さん、酷いな酷いな酷いな酷いな酷いな……」

さっきまで笑顔だった少女の顔がみるみるうちに豹変していき口角が鋭く歪み、呪文のように、何回も何回も同じ言葉を繰り返した

少女「そんなにお望みなら、前みたいに壊して……あ・げ・る」

少女は吹寄を見て狂ったように笑い出した

姫神「!?……やめて!この人は。関係ない」

少女「あなた、よくそんな女と一緒にいれるわよねぇ……知ってる?その子の昔のあだ名?」

吹寄「……えっ?」

姫神の顔はみるみる青白なり、今にも泣き出しそうになりながら耳を塞ぎながら震えていた

姫神「ごめんなさい……ごめんなさい……」

少女「殺人姫(さつじんき)って呼ばれてたのよね?アハハハハハハハ!」

その瞬間、少女の楽しそうな笑い声が辺り一面に響きわたった

吹寄(姫神さんが殺人……どういうこと?)

吹寄は突然の状況で頭が正常に働いてくれず、ただただ少女の言葉を聞いている事しかできなかった

少女「えー、友達なのに何も知らないの!姫神さんお友達に教えてあげないと駄目じゃない!」

少女は見下した目で姫神達を見つめながら近くのベンチに腰掛けた

少女「なんなら教えてあげましょうか?その子の本当の過去を……」

――――――――
――――――

吹寄は少女が楽しそうに話す内容が頭に入ってこなかった、否……理解したくなかっただけだった

いま隣で震えて泣いている少女が吸血鬼を殺す能力者で、その能力で自分の村の住人を皆殺しにした

吹寄(う、嘘よ……だって姫神さんは)

吹寄が知っている姫神は何の能力もない、どこにでもいる女の子の姫神しか知らなかった

少女「驚いたでしょ?知らないのも無理は無いわ!だって、人殺しなんて誰が友達になるのよ。私だったら怖くて近づけないわ」

少女はわざと肩を震わせる動作をすると姫神を見下ろした

吹寄「……らなに?」

少女「あ゛ぁ?何か言ったかしらぁ」

吹寄は何かを呟きながら少女にゆっくり歩み寄った

吹寄「だから、何って言ってんのよ!」

吹寄は少女の目の前で止まって、手を大きく振りかぶり少女の頬を目掛け平手打ちを喰らわした

姫神「……えっ?」

姫神は、その行動と発言に驚き吹寄の顔を見上げた

吹寄「黙って聞いてれば勝手なことばかり言って何様だ!」

  「確かに、驚いたし全部を理解した訳じゃない……でも、私の友達を泣かせることは許さない」

姫神「吹寄さん……」

姫神はポロポロと涙を流しながら、何度も何度も謝まり続けた

吹寄せ「馬鹿ね、他人の勝手な評価より自分の目で見た事を信じただけよ。でも、時期がきたら説明して貰うわよ」

姫神「……ありがとう」

姫神は、感謝の言葉を伝えながらコクリと頷いた

吹寄「そういうことだから、まだやるっていうなら私が相手になってあげるわ!」

そういうと吹寄はファイティングポーズをとりながら少女に近づいていった

少女「……そう。あなたが次に楽しませてくれるのね?いいわ!だったら、遠慮なく観せてもらうわね」

叩かれた頬を赤く染めて瞳孔を開かせたその姿は、最初の可愛らしい少女とは似て非なる容姿だった

姫神「吹寄さん……逃げて!」

何かに気付いたのか姫神がそう叫ぶよりも

少女「……見ぃちゃった」

少女の喜びを噛み締めるような言葉の方が早かった

少女は、まるで喜劇を楽しむかのように姫神達の顔を見比べて呟いた

少女「へー、あなた……。そっちの人殺しも酷いけど、貴方も結構な酷い人間なのね」

吹寄「な、なんのことよ!」

その発言に一瞬ドキリとしたが、目の前の少女が何を言おうとしているのか吹寄には検討がつかなかった

少女「とぼけるの?いいわ!じゃあ、私の口から教えてあげる……ねぇ、人殺し!あなた最近、好きな人がいたそうね?」

「「!?」」

二人は驚いた表情を浮かべ、嬉しそうこちらを観察している少女の顔を見た

少女「やっぱりね……あなたは、その事でそこのデコ女に相談したようだけど、実はね……」

吹寄「やめて!」

と少女が言葉を遮るように吹寄が叫んだ

その瞬間、先程より少女の口元が緩んだように弧を描いていた

少女「急にどうしたの?顔が真っ青よ、もしかして私なにか不味いことでも言ったかしらぁ?」

人を馬鹿にしたような態度で、吹寄に近付くと何かを耳元で呟いた

吹寄「どうして、そのことを知ってるのよ……?そのことは………」

吹寄は全身の力が抜けたのか、その場に座り込んでしまった

少女は吹寄の肩をポンポンと叩き耳元に顔を近付けて

少女「貴方が教えてくれたのよ……忘れたかしら?」

と可愛らしく顔を傾けて天使のような悪魔の笑顔を近付けた

吹寄は、何を言っているか理解できず、ただただ少女に首を横に振るしかできなかった

吹寄「し、知らない!そんなこと教えた覚えなんて……」

少女「いいえ!確かに貴方から教えてもらったわ……そう、貴方の“心”にね」

姫神「心理解錠(メンタルオープン)……」

ボソッと姫神は、少女を見つめながら呟いた

少女「あらー、覚えてるなんて嬉しいわぁ……そう、私の能力は対称の人物の過去の過ちやトラウマを知ったり開いたり出来るの!どう、理解できたかしら?」

吹寄「ごめんなさい……」

少女「ん、聞こえなーい?」

吹寄「さっきのことは謝りますから、彼女にはまだ黙っていて下さい」

吹寄は涙で顔をぐしゃぐしゃにさせながら、少女の足下で土下座をした

それを見た少女は見下したように吹寄の行動を見て

少女「残念でした、調子乗っちゃダーメ!あひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

嬉しそうに吹寄の髪を掴むと顔をグリグリと地面に擦り付けるように押さえつけた

吹寄「はぁ…はぁ…、そろそろ続きを話そうかしら」

少女は少し息を切らしながら吹寄の髪を離すとベンチに腰掛けて話し始めた

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─────────

話はまだ、姫神と垣根が出会う二週間前に遡る

バレンタインの余韻も覚めやまぬ教室で吹寄は、一人の友人の席の近くに座ると耳元で

吹寄「上条に、チョコ渡せたの?」

吹寄は先程から元気がない姫神に優しく問いかけた

姫神「…………」

彼女は、ゆっくりと首を横に振った

そう残念ながら、彼女は思い人である彼にチョコを渡しそびれてしまったらしい

少し予想はしていた吹寄は、優しく姫神の頭を撫でてやった

吹寄「そんな、気を落とさないの……告白のチャンスなんて、この先いくらでもあるでしょ?」

吹寄は優しくそう告げると、首を少し傾けて微笑みをむけた

吹寄の問に答えるように、姫神は小さく頷いた

吹寄「ふふ、いっそのこと買い物とかに誘ってみるのもいいかもね!男性代表で来て欲しいとか」

姫神「……考えとく///」

耳まで真っ赤にさせた姫神は照れてしまったのか、そのまま俯いてしまった

そんな少女の姿を見て

吹寄「応援してるわよ」

と優しく呟いた

とそんな彼女らを邪魔するように

青髪「百合や!こんな、近くに百合の花が咲き乱れとるでー!!」

突如あらわれた気持ち悪い声の主は、二人の少女の周りをクルクルと回転しながら、ゆるゆるに緩みきった顔で二人の少女たちを観察した

吹寄「まったく……、いま大事な話の途中くらいわかるでしょ?」

青髪「えっ……なんか僕お邪魔やった?」

吹寄と姫神の蔑む目に気付いた青髪は、上条たちのいる席へと戻っていった

吹寄「まったく、アイツの脳を一回でもいいから分析したほうが世の中のためになると思うわ」

と呆れながら上条たちとおちゃらけている青髪を見た

姫神「吹寄さん……この都市(まち)だと冗談に聞こえない」

姫神は苦笑いを浮かべながら、もし本当に分析したら何の役に立つか真剣に考えていた

そんな彼女らの他愛もない会話を一人の少年が興味深そうに見つめていた

───────
─────

放課後

吹寄「ふーっ!」

教室全体に響くような大きな溜め息をつきながら吹寄は一人、クラス委員の仕事とにらめっこをしていた

気付けば窓から見える夕陽が沈みかけていた

吹寄は集中すると時間を忘れることが多かった

なので頼まれたら断れないため、よく小萌に心配されていた

吹寄(恋かぁ……私には、関係ない話ね)

夕陽を見ながら感傷に浸っていると

『俺は、削板軍覇だ!』

突然、頭の中に削板の顔が脳裏をよぎった

吹寄(なんで、あの馬鹿の顔が出てくるのよ!? あぁぁぁぁ〜〜!!今度会ったら覚えてなさい……)

などと悪態つくものの本人は自覚していないが頬が緩んでいた

そんな吹寄を現実に引き戻させるかのように

ガララララッ

突然、教室のドアが開く音がした

吹寄「ひっ!!」

突然教室のドアが開いたためか、それとも普段しない妄想に浸っていたためか

いつもの彼女からは想像できない可愛らしい声をあげながら教室に入ってきた人物を確認する

上条「ん……なんだ、吹寄まだいたのか?」

吹寄「貴様こそ、もう下校時間はすぎてるわよ?上条当麻」

上条の顔を確認すると、さっきまでの緩んだ雰囲気を正すように咳払いをし時計を指さして告げた

上条「あぁ、これのせいだよ……」

上条は机から使い込まれた財布を吹寄に見えるようにヒラヒラと揺らした

上条「はぁ……せっかく特売の卵が買えると喜んでいた矢先にこの不幸ですよ」

相当ショックを受けているのか肩を落として掴んでいた、財布の中身をチェックしていた

吹寄は上条の不幸話を聞き流しながら、残り僅かとなった仕事と格闘していると

上条「なぁ、吹寄……お前って好きな人とかいるのか?」

吹寄「えっ…?」

吹寄は、思わず自分の耳を疑った

目の前の少年は何を言っているか理解できなかった

よく一緒につるんでいる連中達と話すトーンでなく真剣な表情で吹寄を見ていた

上条「答えにくかったらいいんだけどさ……」

上条は少し申し訳なさそうに吹寄の答えを待っていた

吹寄は自分の顔が少しずつ熱くなっていくのがわかった

目の前の少年に赤面しているのを指摘されても夕陽で誤魔化せるなどと少し考えた

誰も校舎で異性と二人っきりというシチュエーションでなのか

いつもは意識をしない上条の顔を見るのが少し恥ずかしくなってきた

吹寄「あ、あるわよ……」

彼女は嘘をついた

否、この短い人生の中で人に好意を向けたことも向けられたことも無い自分を恥ずかしくなり見栄を張ってしまった

上条「そっか……ならいい答えが返ってきそうだ」

どこか安心したように、吹寄の前の座席に座った

吹寄「き、急にどうしたのよ……頼み事なら他の二人に頼めばいいでしょ?」

この場合の二人は、土御門と青髪だろうと上条は予想できた

上条「いや、今回は吹寄の方がいいと思ってる」

吹寄「な……なら、さっさと言いなさいよ!私も忙しいんだから」

吹寄は、自分を頼ってくれたことへの嬉しさと、なかなか本題に入らないもどかしさで感情を上手くコントロールできずにいた



上条「女の子から告白された」


吹寄「そう……えっ!今なんて?」

上条の発言を聞き握っていたペンを落としてしまった

上条「少し前に知り合いの女の子が呼び出してきて、その時に告白された」

上条は少し思いつめたように、落ちたペンを拾い上げると吹寄に差し出した

吹寄「それで!貴様は答えは出してあげたの?」

吹寄も少し興味が湧いたのか、仕事の資料を鞄に詰めると机に乗り出した

吹寄自身も、興味・不安・期待どの感情で聞いたのかわからなかった

上条「いや、まだ返してない……」

吹寄「そう……」

なぜか、それ聞いた瞬間、吹寄は言い知れぬ怒りが込み上げてきた


吹寄「バッカじゃないの、逃げても仕方ないじゃない」

上条「えっ」

吹寄「貴様は断る勇気も、付き合う勇気もない、ただの逃げ出した負け犬じゃない」

上条「…………」

上条は言い返すことはしなかった、ただジッと吹寄の話を黙って聞いていた

そう、吹寄はあながち間違っては無かった

彼は怖かったのだ、今の関係を壊れるのも新しい関係を築くのも

色々な困難に戦ってきた彼女を苦しめているのは自分だと気付いていた

吹寄「ごめん、言い過ぎたわ……困っているから頼ってくれたのにね」

上条「いや、少し頭が冷えた……いつまでも答えを出さないのは、アイツの勇気を踏みにじっちまうって気付けた」

さっきとは別人のようにスッキリした笑ってみせた

吹寄「ふん、上手くいくと良いわね!女の子は、買い物とか好きだから誘ってあげるといいわ」

上条「おう、サンキューな!じゃあな」

吹寄「明日も遅刻しないように気を付けなさいよ」

上条「不幸なことが起きなければな……」

吹寄「ふふっ、じゃあまた明日」

上条は手を振りながら教室を後にした

吹寄も、戸締りの点検を終えると家路へと急いだ


今日はここまで

明日には落ちた所まで追いつけると思います

では、また明日


この垣根君は未元物質の本質を忘れちゃったみたいだから分身とかムリかな……
せめてカブトムシストラップぐらい出て欲しいけど…

乙だァ!

おちゅん

清々しいまでのクズな敵役?が出てきたな
是非ともその鼻っ柱をへし折られるのを期待してるぜ・・・!

乙、ありがとうございます

>>66
小ネタ程度ですが、カブトムシが登場予定ですので期待していて下さい

>>69
期待に応えられたか不安ですが、頑張りました

それでは、今夜もお付き合い下さると嬉しいです

──────────
────────

心理解錠「応援すると言っておいて、貴方はそれを裏切ったの……理解してるかしら?」

俯いて体を震わせる吹寄を見下ろしながら少しずつ吹寄に歩み寄った

心理解錠「頼られて良かったわねぇ!でも、知ってるかしら?それは自己満足っていうのよ?実は影で笑ってたんじゃないの」

吹寄「違うっ!!私は……」

心理解錠「何が違うの?今まで黙ってたじゃない?そうだ、貴方に素敵な言葉をあげる」

心理解錠は、吹寄の前に立つと耳元に顔を近づけて

心理解錠「逃げるしか脳のない負け犬ね……」

それを聞いた吹寄は、顔色がみるみる青白くなっていった

心理解錠「貴方からも何か言ってあげたら?」

心理解錠は振り返ると、先ほどから黙って聞いていた姫神に語りかけた

姫神「…………」

姫神は黙ったまま心理解錠の脇を通り過ぎると吹寄の前で立ち止まった

心理解錠は、何かに期待するように姫神たちから視線を逸らさなかった

姫神が左手を振り上げたのが見えると、吹寄は痛みを待つように目を瞑った

心理解錠「なっ……!」

吹寄「え……」

姫神の行動は二人の少女を驚かせた

姫神「今まで。あなたの苦しみに気付けなくて。ごめんなさい」

姫神は涙を流しながら、壊れてしまわないように優しく吹寄を抱きしめた

吹寄「どうして……わたし貴方を騙していたのよ」

姫神「前に進めなかった私の責任……それに。相談にのってくれて嬉しかった」

吹寄「姫神さん……」

姫神「だから。もう傷つかないで」

姫神は、抱きしめる力を強めながら囁いた

姫神「これからも。宜しく」

吹寄「ありがとう、姫神さん……こちらこそ、宜しくね」

と吹寄もまた力強く姫神を抱きしめた

そんな二人のやりとりを出来の悪い茶番を見せられたように顔を引き攣らせて

心理解錠「どうして簡単に許せるのよ!?憎くないの、悔しくないの!どうしてよおぉぉぉぉ!!」

姫神・吹寄「…………」

心理解錠は声を荒らげて二人を睨みつけた

心理解錠「それになによ!前まで感情を殺してたくせに、もう罪の意識が消えちゃったのぉ?」

嘲るように、馬鹿にするように、血走らせた目で姫神を睨んだ

姫神「忘れたわけじゃない。でも、大事な人が教えてくれた。感情は表に出さないと伝わらないって」

固い意思をその目に宿らせて、心理解錠を真っ直ぐ見つめた

その目に怯むように、心理解錠は後ろに後ずさって叫んだ

心理解錠「いいから貴女は、昔のように誰にも助けてもらえずに、泣いてたらいいのよっ!!」

彼女の顔、言動からは、怒りや嫉妬といった感情が漏れ出ていた

叫び終わると、何かを思いついたのかニヤッと笑い虚空に向かって口を開いた

心理解錠「いいわ、だったら力ずくでも引き離してあげる……出てきなさい!!」

そういうと、どこからともなく体格のいい男達が集まってきた

男A「お呼びか?」

ひときわ体格のいい男が心理解錠に近付いてきた。どうやら集団のまとめ役のようだ

心理解錠「あの子達を少し可愛がってあげなさい」

そういうと姫神たちを指差した

吹寄「何人集まっても、私の友達には指一本触れさせない!」

そういいながら、姫神の前に立つと拳を構えた

姫神「吹寄さん……」

吹寄「大丈夫、絶対に守ってあげるからね……秋沙」

心配する姫神を不安にさせまいと、震える躰を抑え微笑みかけた

男A「ヒュー、気の強い姉ちゃんだな!安心しな痛いのは最初だけってなっ!!」

男A「それじゃあ、野郎ども狩りの時間だあぁぁぁぁぁ!!!」

「「「オォォォォ!」」」

号令とともに百は超える男たちの群れは、姫神たちに向かって走りだした

吹寄(流石に数が多過ぎる……でも、秋沙だけは)

座り込んでいた姫神を守るように上から覆いかぶさった

「くたばりやがれえぇぇぇぇ!!!!」

一人の男が発火能力で纏った拳を吹寄の背中めがけ振り落とした




しかし、それは彼女に届くことはなかった。拳と背中との間に純白の翼が邪魔をしていた



「おいおい……こんなもん女の子にむけていいもんじゃねーだろぉ?」



「やめておけ、こいつ等に説教する時間すら惜しい」



「ハッ、ちげーねぇ……」



「な、なんなのよ、あんた達は!?」

心理解錠は突然、自分たちの前に現れた白の学ランの男とホスト風の男に戸惑いを見せた


「「オレ達か?」」


垣根「ただの悪党(ヒーロー)だよ……」



削板「弱い奴の味方(ヒーロー)だぁ!」



吹寄「削板!?それに……」

姫神「垣根君っ!!」

削板「すまんな、遅くなって……」

垣根「話はあとで聞く……まずは、」

垣根と削板は、自分達を取り囲むように様子を伺っている男たちに視線をやると








            「「お前(テメェ)ら、覚悟はできてんだろぉーな!?」」







怒りをあらわにさせて、それぞれ額の鉢巻をきつく締め直し・翼を展開させ戦闘準備を終え、ゆっくりと男たちへ歩いて行った



二人のレベル5による一方的な戦況に顔を真っ青にさせ腰を抜かした

心理解錠「なによ、この強さ……レベル3とレベル4の集団が紙切れみたいに」

心理解錠の反応を見た垣根はゆっくりと歩み寄り

垣根「障害(ザコ)が何匹集まろうが、レベル5には関係ねぇんだよっ!」

と吐き捨てるように叫ぶと横目で男たちを見る

心理解錠「レ、レベル5ですって!?」

心理解錠は、現状を見る限り嘘ではないとわかると何かを呟き始めた

吹寄「気を付けなさい垣根!そいつ心の中を覗いてくるの」

削板に支えられるように立ち上がった吹寄は警告しようと叫んだ


垣根「あ゛ぁ?精神系能力者かよコイツ……」

不意に心理定規の顔が思い浮かび、苦虫を噛み潰した顔をさせながら

垣根「そんな能力ごときで、俺に勝てるとでも思ってんじゃねぇだろうなぁ?」

先程から何かを呟いている心理解錠を見下した目を向けた

心理解錠「…………フフッ」

垣根「……あ?」

急に笑い出した心理解錠に嫌悪感を抱かせるように顔をしかめた

心理解錠「レベル5といっても、所詮は人間でしょ?なら私の能力で貴方のトラウマを開いてあげるっ!」

そういうと息を荒らげながら何かを必死に探すように垣根の顔を睨んだ


姫神「垣根君っ!」

垣根「安心しな、俺の未元物質に常識は……なにっ!!」

垣根の背中に生えていた未元物質の翼が音をたてて崩れていった



ガチャンッ



その瞬間、鍵が開く金属音とともに、勝ち誇ったように心理解錠のけたたましい笑い声が響きわたった

姫神「う、嘘っ……」

姫神は、どこか安心していたのかもしれない

『垣根帝督が負けるハズがないと』

しかし、目の前で起きているのは、紛れも無く現実だった


垣根「…………」

精神が壊れてしまったのか、気を失っているのか垣根は彫刻のように固まって動かなくなった

心理解錠「あひゃひゃひゃひゃひゃっ!残念だったわねぇ。愛しのヒーローさんは私に負けたみたいよ」

削板「や、野郎……」

削板は、姫神達を護りながら、必死に男たちの数を減らしていった

心理解錠「そろそろ、潮時のようね……いいわ、貴方たちも私が始末してあげる」

そういうと、ゆっくりと姫神たちに近づいてゆく


姫神達の表情に焦り色が出てきた

削板(どうする、吹寄達を抱えて逃げることもできるが……)

削板にっとっては多数を相手に戦闘する事は簡単な作業であるが、少女達を護りながら多数を相手することは骨が折れた

しかも、垣根が放心状態で頼れないどころか、無闇に逃げ回ることができなくなってしまった


削板は自分の不甲斐なさを恨んだ

削板(こんな根性のねぇ奴に負けるのかよ……)

助けに入ったまではいいが、肝心の少女達を救えなかったら元も子もない

とにかく確実に数を減らし姫神たちだけでも逃げられるようにすることだけに集中した

垣根「…………」

姫神「か、垣根くんっ!」

そんな、削板が心の中で葛藤している間に、垣根が心理解錠の行く手を阻むように削板達との間に割って入ってきた


心理解錠「なぁーに、ビビって気を失ってても良かったのにぃ!まだ苦痛を味わいたいの?」

心理解錠はレベル5相手に自分の能力が効いた自信からか蔑んだ態度で垣根に近寄った

その瞬間、垣根を中心に強烈な突風が吹き荒れた

姫神「か……きね……くん」

周りの瓦礫や砂塵が勢い良く舞い上がり目を開けていられない勢いだった


暫くすると、風が弱まり周りを見渡し状況を確認していると、信じがたい情景が目に飛び込んできた

肌は褐色に変色し眼は血を連想させるように紅く、睨みだけで殺せてしまいそうな眼光をさせた垣根帝督が立っていた


そして、そんな視線の先には


心理解錠「か、かはっ……」

右手で首を絞められた状態で持ち上げられ、呼吸困難で もがき苦しむ心理解錠の姿があった

削板「お、おい……やりすぎだぞ!」

削板は、このままだったら死人が出ると察したのか慌てて、少女を掴んでいた右手を引き離そうとした

垣根「fgjkhy黙ktf」

今まで聞いたことがない言葉を発した直後、削板の行動が邪魔に感じたのか普段の垣根からは想像できない力で薙ぎ払われた

削板(くっ、なんて馬鹿力だ……)

削板は、近くのブロック塀に突っ込むと、その圧倒的な力の差に驚きを隠せなかった

吹寄「削板っ!」

慌てて削板に駆け寄る吹寄であったが、いつもの垣根とは違う異質な雰囲気を感じとったのか体が小刻みに震えていた


姫神「めて……やめて。垣根君……やめて!」

姫神は垣根に駆け寄り、喰らいつくように背中に抱きついた

唸りながら垣根は姫神を振り払うと、頭を押さえながら何かに抵抗するように動き回った

姫神「きゃぁ」

あまりの衝撃でか姫神は後ろに退けぞった。しかし、それを優しく包むように手を回された

その手の片方には、花飾りがついたブレスレットが付けられていた

姫神「えっ……?」

垣根「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

心理解錠が掴まれていた手の力が緩んだのか、勢い良く空高くへ投げ飛ばされた

直後、弧を描くように宙を舞うと、そのままの勢いで地面に向けて吸い込まれるように落ちていった

しかし、彼女は地面にぶつかる前に突然現れたツインテールの少女によって助けられた


「ジャッジメントですの!」



そうツンテールの少女が叫ぶと、右腕に付けられた正義の証『風紀委員』の腕章を見せつけた

姫神「……どうして」

姫神は、まだこの状況を上手く飲み込めてなかった

心理定規「どうしたも、こうしたも無いわよ……こんな街中で能力者同士の喧嘩があったら通報が普通はいるでしょ?」

少し呆れたのか怒っているのか低いトーンで囁かれた

姫神「心理定規……さん」

心理定規「久しぶりね、姫神さん」

今までの様々な感情の起伏からか、知り合いの顔を見て安心したからか思わず瞳から涙が溢れた

心理定規「よしよし……。こんな可愛い子を不安にさせて、何やってるのよ、アイツ」

心理定規は、困ったように溜め息をつきながら、未だ頭を抱えて暴れまわっている垣根を睨んだ


姫神「垣根くん!」

心理定規「待ちなさ……」

姫神は心理定規の制止を振り切ると垣根のもとへ走り出した

垣根「が…うがぁ…………が」

先程まで暴れていた垣根の動きがピタリと停止すると、小さなうめき声をあげながら、膝から崩れ落ちていった

姫神「…………!?」

慌てて姫神は垣根に駆け寄ると躰を揺さぶる。その直後、垣根の肌の色はもとの血色のいい肌色に戻った

垣根「んっ、ここは?」

姫神「垣根くん……」

いつもの垣根に戻ったことに安心したのか、うっすらと涙を浮かべながら優しく
微笑んだ


垣根「俺はいったい……。それになんで心理定規までいやがんだ?」

心理定規「あら、あれだけ暴れ回って、知らないふりなんて貴方らしくないわね」

少々煽るように垣根を見下した

垣根「あの女に何かされたのは覚えているが……そのあとは」

心理定規「そう……。白井さん悪いけど、警備員と一緒に犯人グループを連れて先に帰って貰っていいかしら」

白井「いいですけど、貴女はどちらへ?」

白井と呼ばれる少女は少し不機嫌そうに心理定規に質問した

心理定規「知り合いの方が調書を取りやすいでしょ?だから、お願い。ねっ」

白井「ハァ……。仕方ありませんわね、早めにお願いしますわよ」

少し呆れたように白井は了承すると、『空間移動』の能力者なのか一瞬で警備員のもとへ移動していった


心理定規「さて、順に説明してもらえる?そこのあなた達も大丈夫かしら?」

瓦礫まみれになって倒れている削板と、それに付き添っている吹寄の方に視線を移した

吹寄「えぇ……。私は大丈夫です」

削板「おうっ!俺は根性の塊だからな。これぐらいなんともないぞっ!!」

がハハハと笑っている削板の横で申し訳なさそうに吹寄は頭を下げていた

心理定規「まぁ、あの子たちは大丈夫そうね……」

少し顔を引き攣らせながらメモ帳を取り出すと二人から話を聴き始めた


──────────
────────

心理定規は近くにあった石に腰掛けると事件の経緯を詳しく書き始めた

心理定規「首謀者の女が垣根に何かをした瞬間。急に雰囲気が変わった、でいいわね?」

吹寄「えぇ……」

吹寄は思い出したくないのか少し怯えながら答えた

心理定規「垣根、あなた本当に何も覚えていないの?」

垣根「あぁ、それ以降のことはさっぱりだ……」

心理定規の質問に少し気だるそうに答えた

心理定規「そう……。まぁ、いいわ。思い出したら、また教えてくれる?」

垣根「…………」

垣根は何かを考えているのか無言で頷いた


吹寄「あの、一つ聞いてもいいですか?」

心理定規「なに?垣根との関係以外なら、なんでも聞いていいから」

少し不安げに手を挙げている吹寄を見て、どこか色っぽい笑みを浮かべて尋ねた

垣根「じゃあ、スリーサイぶっ!」

言い終わる前に、顔を赤らめた姫神の拳により遮られた

吹寄「削板たちは、何か罪になりますか?彼等は私たちを助けようと……えぐっ」

目に涙を浮かべながら、削板たちを指さした

心理定規「そこなんだけど、怪我人が出なかったから良かったものの。周りを考えずに能力を行使することは褒められたことじゃないわね」

と周りの惨状に視線を移すと呆れたように溜め息をついた


垣根「…………」

吹寄「じ、じゃあ……」

垣根と削板は、最初から覚悟をしていたのか何も言わずに心理定規の話を聞いていた

一方、吹寄と姫神は、心理定規の発言を聞き、その場に座り込んだ

それを見てクスッと笑みを浮かべて、二人の少女に顔を近づけると

心理定規「でも、私たちも駆けつけるのが遅かったじゃない?だから、今回は特別に正当防衛ってことで不問にして貰えるように掛け合ってあげる」

それを聞いた吹寄と姫神は、暗い表情だったのが色を取り戻したように明るい笑顔に変わり

「ありがとうございます!」

何度も何度も頭を下げてお礼を言った

心理定規「私に言われてもねぇ。ほら、もっと先に言う人がいるでしょ?ねぇ、この子達の味方(ヒーロー)さん達?」

少し意地悪そうに垣根たちへと視線を向けた


削板「ん?」

垣根「チッ……」

垣根(心理定規の野郎……余計なこと言いやがって)

垣根は、苦虫を噛み潰したような表情で心理定規を睨んだ

吹寄「そうね……助けてくれて、ありがとう」

姫神「二人とも。ありがとう」

姫神達は、少し照れたように二人に駆け寄り頭を下げた

削板「おう!二人とも無事でなによりだ!!なっ、垣根」

垣根「あ、あぁ……」

垣根は、少し思いつめたように、あの時のことを振り返っていた


垣根(急に能力が崩れた瞬間。俺は沼に沈むような感覚に襲われた……)

心理解錠の能力を疑ったが、自分が襲われるリスクの高い賭けを選ぶ人間に見えなかった

それに過去の過ちなどを覗き見ることと、呼び起こすだけと聞いいていたため、その線も消えた

垣根「俺の体に何かが起こっているってことか……」

垣根は、自分の手を開いたり閉じたりして感触を確かめた

姫神「大丈夫、垣根くん?」

姫神はその手にそっと触れると、心配したように顔を覗きこませた


垣根「心配ねーよ……たくっ、心配かけやがって」

姫神「んっ……」

少し悪態つくように姫神の額にデコピンをする

垣根「でも、無事で良かった」

姫神「……うん///」

垣根は優しく姫神を抱き寄せて声を震わせた


「ンンッ!」


なんて甘い雰囲気に入り込むように、大きな咳払いとともに


心理定規「そういうのは家でやってくれないかしら?とりあえず、支部に案内するから付いてきて」

垣根「お、おう」

姫神「う。うん」

そのあと垣根たちは気まずい雰囲気のまま、177支部へと歩きだした

垣根・吹寄((だれか喋れよ……))

垣根も吹寄も重い空気に耐えられ無かった

削板(みんな、疲れてんだな!ここは、黙ってた方がいいと俺の根性が叫んでる!)

削板は、ここは空気を読むところだと感じとったのか静かにしていた

この沈黙は支部に着くまで続くのだった


その後、垣根たち四人はツインテールの少女、白井黒子から永遠と説教を受けた

説教地獄から解放されたときには、最終下校時刻が過ぎていたのか真っ暗になっていた

垣根「たくっ……。人助けの為に能力を使って何が悪いんだよ!目の前で襲われてるのに指をしゃぶって見てろってか?」

垣根は長時間、拘束されたのが癇に触ったのか、グチグチと文句を呟いていた

姫神「私のせいで。ごめんなさい」

垣根「姫神が悪いわけじゃねぇよ、もともとはあの女が悪いんだからよ」

優しくそう囁くと姫神の髪を撫でながら心理解錠を思い出した


吹寄「それにしても驚いたわ……まさか、あの削板が吹っ飛ばされるなんてね」

削板「油断していたとはいえ、あの怪力は俺でも焦ったぞ」

二人は垣根の豹変ぶりの事を思い出すように話し出した

垣根「あの時は血が昇ってたのかもな……悪かったな」

まるで自分に言い聞かせるように削板に話しかけるとヒラヒラと手を振った

削板「俺なら大丈夫だぞっ!生半可な鍛え方はしていないからな」

垣根「へっ……そうみたいだな」

垣根は豪快に笑う削板に呆れながらも、見るところ怪我はなさそうだったので安心した


そんなやり取りを微笑みながら聞いていた姫神には少し引っかかりがあった

姫神(あの時の垣根くん。あの日の感覚に……でもそんなはずは……)

首から下げたペンダントを握り締めながら少し顔を曇らせた

吹寄「こーら、そんな暗い顔をしないの」

姫神「えっ……」

声の主は優しく顔をして隣を歩く吹寄だった

姫神「……吹寄さん」

吹寄「怪我もなく、お咎めなしだったのに、もったいないわよ」

そういうと姫神の手を握り締めた


姫神「吹寄さん。あのね……」

吹寄「本当はもっと早く言うべきだったのに……姫神さん、ごめんなさい」

吹寄は手を離すと姫神と向き合うように頭を下げた

姫神は少し困った顔をして

姫神「頭を上げて。私なら大丈夫だから……」

吹寄「でも……」

なおも食い下がらない吹寄に静かに頭を横に振ると

姫神「私も隠し事。してたから」

そういうと優しく微笑みかけた

吹寄「それじゃあ……本当に」

驚いたように目を見開いている吹寄に小さく頷いた

吹寄「姫神さん……あなた」

姫神「だから。互い様……」

姫神はそういうと、みるみる顔を紅くさせながら

姫神「だって。友達でいたいから///」

吹寄の顔をまともに見れないのか恥ずかしそう俯いた

吹寄「もぉ、当たり前でしょ!これからも宜しくね……秋沙///」

姫神「宜しく。制理///」

お互いの顔を見合わせて嬉しそうに笑いあった


そんなやりとりを少し離れた場所から垣根たちは見守っていた

削板「心配なさそうで良かったな……垣根」

垣根「あぁ……」

二人は愛しい少女らを眩しそうに見つめていた

垣根「この先、何があっても守れるかな……」

削板「…………!?ふっ、守れるさ」

垣根らしからぬ弱音な発言に力強く答えた

吹寄「ほらー!二人とも置いていくわよー」

二人の少女たちは仲良く大きく手を振って垣根たちを呼んでいた

垣根「やれやれ、お姫様たちがお待ちかねみたいだ……行くか!」

削板「おう!」

二人はゆっくりと月明かりに照らされた二つの小さな影へと走り出した

今日の投下は以上です

ちなみに小ネタは、当分まだ先です。すいません

それでは、また明日

それでは、今日の投下を始めます

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次の日 

垣根「はぁ……」

垣根は周りの買い物客に聞こえない大きさで深く溜め息をついた

垣根「なんで女って買い物が長いんだろうな」

削板「さぁ……なっ!」

垣根は、片手で腕立てをしている削板に、愚痴を零すように話しかけた

垣根「どうしてこうなった……」

振り返ること昨夜の別れ際のことだった




垣根「買い物っ!?」

吹寄「大きな声出さないでよ。明日は休日だし、どうせ貴様は暇してるんでしょ?」

吹寄は急に垣根が叫んだため、眉をひそめながら提案した

垣根「なに勝手に俺の予定を決めてんだよっ!」

垣根はギャーギャーと騒ぎ立てながら反抗した

姫神「提案したのは私。制理は悪くない……」

姫神は眉を曇らせながら申し訳なさそうに俯いた

垣根「ぜひ行かせて下さい」

吹寄「貴様、とことん秋沙に弱いわね……」

垣根の豹変ぶり苦笑いしながら姫神にVサインを送る


垣根「だからって、こんなに時間が掛かるとは聞いてねーぞ……」

遠くでスカートなどを物色している二人を少し不機嫌そうに見る

削板「まぁ、そういってやるな。こうやって四人で買い物なんてしたことなかったから嬉しいんだろ」

垣根「…………」

垣根は昨夜、小萌の家に泊まり姫神と深夜まで話していたことを思い出す

姫神の話の内容は吹寄も絡んでいた上条の件だ

自分を救ってくれた上条に感謝していること

そのあと恋心が芽生えて、吹寄に相談をしていたこと

そして、出会った時に渡したお弁当は上条に向けてだったこと

姫神は、途中で泣きそうになりながらも堪え、時間を掛けて一から説明した

垣根は気にしていないと言えば嘘になる

それでも今まで起こった出来事は夢じゃないし、お互いの気持ちも偽りがないということで話は終わらした


垣根(俺はなにをしても二番手か……)

能力も大好きな人を救ってやるのも惚れられるのも〝二番目〟という文字が浮かぶ

いつしか彼は〝一番目〟の人間が憎く感じるようになっていた

なので彼は目的を忘れ学園都市〝第一位〟の一方通行に勝ってメインプランになることが優先になっていた

垣根(まぁ、今じゃそんな事どうでもいいがな……俺には)

そう今の彼には、楽しく話せる友人がいる、支えてくれる仲間がいる、大事な家族がいる


そして……

姫神「おまたせ」

垣根「気に入ったのあったか?」

姫神「垣根くん。ちょっと……」

垣根「ん?どうしたって……って、おい!」

吹寄「削板も筋トレしてないで来なさい」

垣根(大好きな姫神がいる)

垣根は姫神たちに引っ張られるように店の中へとついて行った

その顔はどこか満足そうに笑っていた







「……………………………」






そんな彼らを遠くの物陰から見張るように少女が見ていた


〜香水屋 パ・フューム〜

垣根(どこを見ても香水・香水・香水!あぁ〜〜、鼻が曲がるぅ!!)

垣根は漂う様々な香水の臭いに少し顔をしかめていた

垣根(やっぱ作られた臭いは苦手だ……)

垣根は整った容姿に、普段着がジャケットやスーツを着るためかホストに間違わられることが多い

当然、この見た目のためか香水も好みのものがあると思われやすいが

彼は嗅覚は敏感なほうで、あまりの臭いを振り撒くことに抵抗があった

暗部時代、心理定規の香水の臭いで少々言い争いになったりもした

しかし、目の前の少女たちは興味深そうに柑橘系の香水の入ったテスターを鼻に近付けたりして臭いを楽しんでいた

吹寄「もう、垣根!貴様も何か選んで嗅いでみたら?」

吹寄は不満を漏らしながら近くにあったハーブ系の香水を差し出した


垣根「あ……あぁ」

少し戸惑いを見せながら、恐る恐る受け取るとゆっくりと蓋を開け鼻を近付けた

垣根「…………」

垣根はそっと蓋を閉じると、それを吹寄に押しつけ猛スピードで店の外へ走り出した

姫神「垣根くんには。合わなかったみたい……」

姫神は店外で深呼吸をしている垣根を見て微苦笑をしていた

吹寄「あの見た目で、香水が苦手ってどういうギャップよ……。それに比べ貴様は大丈夫そうね?」

先程から興味深そうに近くの特殊コーナーで吟味している削板に声を掛けた

削板「おぉ、俺はこれしきの臭いで音はあげないぞ!それより面白いものを見つけてな」

などと楽しそうに一つの小さな小瓶の香水を指さした


吹寄「なになに、『これ一本で中ビン十本分使えます』?」

あからさまに怪しい雰囲気を醸し出している、その商品は新製品のためか結構な売れ行きで大きく宣伝までされていた

削板「なんでも臭いが強いため薄めて使うみたいなんだ」

使用上の注意を読み進めていくと一つの気になる項目が目に入った

『ただし薄めずに使用する例で、痴漢や野生の動物などへの撃退グッズとしての使用もオススメ』

吹寄「なるほどね……それで売れ行きがいいわけね」

納得したように吹寄は自分の買い物カゴへ放り込んだ

削板「ん、なんだ購入するのか?安心しろ、そんな物を使わなくとも吹寄の安全は俺が約束してやる!」

姫神「お……おめでと」

聞いているこちらが恥ずかしくなるような削板の台詞に苦笑いを浮かべながら吹寄に視線を送った


吹寄「そ、そういう意図があって買わないわよ!ほら、リラックス効果に最適ってココに書いてるでしょ///」

顔を真っ赤にさせながら必死の形相で匂いの効果の項目を指さした

削板「なんだ違うのか?」

削板はなぜ吹寄が怒っているのか理解できないと言いたげに首を傾げた

吹寄「それにしても垣根の奴いつまで店の外で休憩してるのよ……」

姫神「あれ……?垣根くんが。いない」

吹寄が不機嫌そうに怒っている横で姫神は先程まで垣根がいた場所に居ないことに気付いた


時間は少し巻き戻り、姫神たちが例の香水に興味を惹かれていた時

垣根は、ジッと自分を見上げている目の前の少女を見据えた

垣根「テメェは、あの時の……!」

少女の顔を見た瞬間、額からじっとりとした嫌な汗が流れた


「お久しぶりですね……垣根帝督さん」


少女は頭に乗せた花飾りを揺らせ、少し緊張させた表情で笑った

今日の投下、以上です

ついにあの子の出番です

では、また明日

過去の清算か・・・
おつ


いったい、何春なんだ

たまにタイトルが「(ブラッドストーム)」と勘違いする俺はデュエル脳

乙レスありがとうございます

それでは、今日も投下していきます


ことの始まりは少し遡る

垣根が慌てて店の外に出た直後

何者かが物陰からコチラを伺うように見ているのが確認できた

垣根(上層部の手回しか?いや、行動があからさますぎる。まるで……)

コチラに気付かせるのが目的のような、そんな素振りだった

垣根(ハッ、いいぜ!どこの手の者か知らねぇが、俺の平穏を脅かすってんなら……)

垣根は深呼吸をする素振りを見せながら相手の人数を確認する

垣根(ん、たった一人か?〝第二位〟も随分と舐められたもんだな)

そんな不満を抱きながら眉を潜ませていると、道行く女子学生たちからの眩しい視線に気づく

垣根(ここじゃあ不味い。場所を変えるか)

一般人を巻き込まないのが彼のスタイルである為、ショッピングモールのような人通りの多い場所は好ましくなかった

なので極力、人通りの少ない死角の場所を探すため、ゆっくりと歩き始めた


垣根(やはり俺が狙いか……。そのまま大人しくついてこい)

追手の狙いは自分だと気付くと、ゆっくりと香水屋から離れるように歩き出した

そして、垣根は物置きへと続く通路を見つけると急に歩く速度を速めた

追手もそれに気付いたのか、慌てて垣根を追いかけるように曲がり角に差し掛かった時

垣根「テメェの目的は何だ……返答しだいで」

垣根は、自分を追っていた人物に、声を低めて脅すような態度で言い放った



「…………殺しますか?」



少女は少し驚いた表情を見せた後、ゆっくり顔を上げると垣根の顔を真っ直ぐな目で見つめた


垣根「テメェは、あの時の……」

少女「お久しぶりですね……垣根帝督さん」

垣根は目の前の少女に見覚えがあった

彼が行方をくらませた十月九日の暗部組織間の抗争があった、あの日の夜

ターゲットの『打ち止め』と仲良く連れ添って歩いていた少女

そして、自分の敵とみなし殺そうとしたあの日の〝風紀委員〟の少女であった

「…………」

互いに沈黙したまま両者の顔をジッと観察した

垣根「あの時は……すまなかった」

最初に沈黙を破ったのは垣根だった

その表情はあの日の怒りに満ちた『スクール』としての垣根帝督の面影はなかった


少女「もういいですよ……」

その表情を見てどこか安心したのか、頬をポリポリと掻きながら垣根に微笑みかけた

垣根「でもよ……」

垣根が何かを言いかける前に初春は遮るように口を開いた

少女「それに私も垣根さんに謝らないといけないことがありますし」

眉をハの字にさせながら申し訳なさそうに笑った

垣根「俺は謝ることはあっても、テメェに謝罪される義理はねぇだろ?」

垣根は顔を上げると不思議そうに初春の顔を見た

少女「いやー、申し上げにくいことなんですが……」

なにかを躊躇っているのか、モジモジとさせながら体をくねらせた


垣根「別に怒らねーからいってみろよ」

だんだん不機嫌そうに初春の顔を睨んだ

少女「本当に怒ったりしませんか?」

垣根「だあぁぁぁぁ!!さっきから何だっつの、こっちも忙しいんだよ。さっさと言ってみやがれ!」

我慢の限界といいたそうに頭を掻きむしりながら大声で叫んだ

少女「やっぱり、怒ってるじゃないですか……!それにテメェじゃなくて初春です」

初春はシュンとした表情で俯くと少し涙を浮かべた

垣根は慌てて眉間に寄っていた皴を戻しあからさまな作り笑顔で

垣根「初春ちゃんだっけ?よかったら詳しく話をしてもらえると、お兄さん嬉しいな」

そういうと初春の目線まで膝を曲げ、ぎこちない手つきで頭を撫でた


初春「……ぷっ///」

垣根「へっ……」

突然、頬を染めながら噴き出した初春を見て、垣根は素っ頓狂な声を出しながら面を食った

初春「ひひっ///……本当にあの時と同じ人物ですか?全然、キャラが違うじゃないですか」

垣根「…………」

垣根は、目に涙を溜めながら腹を抱えて笑っている初春にあっけにとられていると

初春「長期間カメラで監視していたのに時間の無駄だったみたいですね……」

垣根「あぁ、今なんつった?」

初春は垣根の表情が変わったのに気づき慌てて口を塞いだ


それを聞いた垣根は初春の頭に置いていた手を少し乱暴に撫でまわすと

垣根「初春ちゃ~ん。今、お兄さんとんでもないこと聞こえたんだけど、どういうことかな~?」

悪戯な顔をしながら垣根は顔を初春にズイッと近づけた

初春「たはははは……やっぱりそうなりますよね」

初春は額に大量の汗を噴出させながら観念したように説明しだした




初春の説明によると、二月下旬のある日。髪の長い少女を抱きかかえて

例の白い保護者から逃げる垣根をカメラで見つけたのが事の始まりだった

初めは誘拐を疑がったが、どうも雰囲気が変だと感じ、自分が納得するまで監視を続けようと決意した

しかし、ここで問題が起きた

仕事と両立させながらの監視をするのはリスクが高かった

それもあってか、とある人物に疑念を抱かれた

その人物とは177支部に所属して、少し経った頃の心理定規だった


彼女とは風紀委員の仕事以外でも何かと親交も深く、隠し事を見破るのに長けているのか直ぐにバレてしまった

観念した初春は、事情は説明しないまま、とある青年を追っていることだけを教えた

心理定規も特に詮索をしてこず、とりあえずその人物の顔を見せるよう求めてきた

それが、死んだとされていた垣根帝督との久しぶりの再会だった

心理定規は監視カメラの映像に映る垣根を見て、初春の横でポロポロと涙をこぼした

もともと『心理定規』と能力名を名前と名乗るくらいだったので、訳ありだと思っていたが、その反応を見て確信した


この少女、心理定規は垣根帝督の関係者


この答えだけは容易に想像ができた


初春は危険を覚悟で心理定規に質問をした

初春「彼とは知り合いですか?」

他に聞きたいこともあったが、いま知っておかないといけない真実を確認した

心理定規「えぇ、あなたが疑っているように、彼とはかつての仕事仲間よ」

心理定規の答えはシンプルなものだった

初春は、その何の含みもない真っ直ぐな答えを聞き驚愕した

彼女が驚いたのは素直に認めたことや平然とした態度で答えたからではなかった

心理定規は初春に疑われているにもかかわらず、何のアクションを示さなかったことだ


彼女の能力を使えば、自分が垣根をどういう眼で見ているかわかるはずだった

それなのに、あっさりと垣根との関係を認めてしまった

初春は急に心理定規が遠い存在に感じられた

平然と自分に手をあげた垣根と関係があるということは、心理定規も同じことをしてきたということだろう

初春は言葉を失ったのか口をパクパクとさせ薄らと目に涙を溜めた

初春「信じていたんですよ……。こころさんは良い人だと」

心理定規は目の前で泣いている少女を見て小さく口を開いた

心理定規「貴女には本当の私を知ってもらうべきね……」

そう呟くと肩を小刻みに震わせている初春の横に座ると懐かしむように暗部での出来事を話し始めた


初春にはどれも初めて聞く単語ばかりだった

普段暮らす学園都市には裏の顔があり、その闇に身を置いていたのが『暗部』の人間達

彼女が語るには、この手で何人殺したかも忘れたらしい

説明を終えると静かに瞬きをし初春の顔に向き直った

そこが、唯一の居場所だったと笑い、どこか悲しそうに、しかし、安心したように、今は潰れてないわと付け加えた

心理定規「ここまでが私の過去よ、そのあとはあなたの知る通り」

そう告げると右手に付けた花飾りの付いたブレスレットをさすった

心理定規「通報したければしていいわよ。でも手錠はあなたがつけてくれると嬉しいんだけど」

そういうと鞄から、新しく買いなおした携帯電話を初春に差し出した


初春は差し出された携帯電話を見てしばらく沈黙したあと

初春「そんなことしませんよ……。そりゃあ、少しはショックでしたけど」

困ったように微苦笑し、その新しい携帯電話を突き返した

心理定規「どうして!私は貴方が目にしたことのないような事も数えきれないくらいしてきたのよ」

心理定規は過去の自分たちが作り上げた惨状を思い出しながら声をあげた

初春「……私にはどうすればいいか、正直言って判断がつかないです。とりあえずこの件については保留にしておきましょう!」

心理定規「そんなことだと風紀委員失格ね……」

初春「お、お互い様ですよ」

心理定規が意地悪そうに笑うのを見て、初春は反抗するように悪態ついた


初春「それよりこの女の人は誰なんでしょう?」

うーんと悩むように録画をしていた映像を詳しく解析し始めた

そんな彼女の横顔に優しく声見かけると

心理定規「ありがと……飾利」

心理定規はカメラを確認している初春の横顔にそっと頬に口づけた


初春「いや~、あそこでキスされるとは思ってもみなかったですね///……あれ?どうしました垣根さん?」

その時のことを思い出したのか初春は頬を染めて照れたように笑った、

しかし、先程から反応を示さない垣根に疑問に思ったのか顔の前で手を振るそぶりを見せた

その初春の行動に気付いたのか、急に眼を見開くと

垣根「誰がテメェらの惚気話を聞かせろっていったんだよっ!」

垣根は両手を挙げながら噛みつくように初春に叫んだ

初春「の、惚気///ちょっ、ちょっと、なに勘違いしてるんですか!」

垣根の寝言に恥ずかしくなったのか、茹で上がったように紅く顔を染めて訴えた

初春「た、確かに脱線させた私も悪いですけど、どこを誤解釈すれば惚気に聞こえるんですか!?」

垣根「どこって、そりゃあ……キス?」

目の前の少女の勢いに少したじろぎながらもスッパリと答えた


初春「あなたは小学生ですか!今どきそんな人、中学生にもいませんよ」

ホスト風の見た目にそぐわない返答に少し引いたのか引き攣った顔をさせながら呟いた

垣根「今どきのガキどもは早いと聞いていたがここまでとは……」

世の学生の真実を知ってショックを受けたからか膝をついて何かをブツブツ呟き始めた

初春「だからどうしてそういう解釈になるんですか!ただのスキンシップです!それにされたのは唇じゃなくて頬です///」

そういうと真っ赤に染まった頬を指差した


しかし、その発言ですら垣根にとっては禁句だった

垣根「彼女がいるのにキスしたことない俺って……一度だけ会ったけど額だし」

もはや、体力はゼロですと訴えるように暗い雰囲気を放つ垣根を見兼ねてか

初春「付き合ってられませんね。せいぜい彼女さんと仲良くしてくださいよ」

そういうと初春は呆れたように溜息をついた

その言葉を聞いてか膝を払いながら立ち上がると

垣根「大きなお世話だ。悪かったな色々と……それと、あの時は助かった」

初春とすれ違いざまに頭をポンポンと叩くと人通りの多い道へと歩いて行った


初春(たはは、やっぱりお見通しでしたか……)

初春は不服そうに頭に触れながら、偶然発見したと偽ったとある工場で起きた〝誘拐事件〟を思い出した

いの一番に現場へと走り出した心理定規を見送った初春だったが、彼女は二度と戻ってこないのではないかと不安になった

しかし、そんな心配は一通のメールによって壊された



『ただいま』



たった一言だけ書かれたメールは今でも保護をかけて大切に残されていた


今日の投下は以上です

本当は前作で登場するはずだった初春


明日は少し時間が取れないため明後日に来ます

ではでは

乙だァ

前スレから読んでおいついた!おもしろい
このままの更新ペース保って頑張ってくれ

乙でごんす

乙ありがとうございます

それでは、今日の投下を始めます

――――――――――
――――――――
フードコート


垣根「…………」

ソファの上で俯いて黙り込んでいる垣根に、腕を組んで沈黙していた吹寄が口を開いた

吹寄「何か言いたいことはある?」

垣根「ありません……」

いつもの彼の明るさは消え、意気消沈したように俯いていた

それを隣で見ていた姫神は何かを察したのか向かいに座っていた吹寄に

姫神「許してあげて。私なら大丈夫だから」

吹寄「あのね秋紗、私たちの前から消えたと思ったら女の子と密会してたのよ」

姫神の発言を一蹴すると、責めるように垣根を指差した

垣根「だから……あれには深い理由が」

吹寄「さっきから言ってるじゃない、その理由を教えてって」

垣根はこの場をどう抜け出すべきか迷っていた

かつての暗部時代の話は極力一般の生徒に話す内容でないことは十分理解していたからだ

それは垣根の過去を聞かされていた姫神も同じ気持ちだった

姫神(きっと。あの子と暗部時代[むかし]かあったんだ)

先程から頑なに話さない彼を見て確信はなかったが、彼の性格からしてそうだろうと考えた


しかし、そんな攻防もいつまでも続くはずがなかった

垣根「はぁ……わかったよ、説明すればいいんだろっ!」

吹寄「最初からそうしなさいよ」

垣根は観念したのか深く溜息を吐くと頭を掻きながら不機嫌そうに叫んだ

吹寄はその態度が少し気に入らなかったのか眉間に皴を寄せて悪態をついた

姫神「待っ!」

垣根「実は俺……」

姫神の制止を振り切るように、今となっては忌まわしい過去を語り出そうとしたとき



「お兄ちゃぁぁん!飾利も仲間に入れて~」



垣根「は?」

垣根たちの視線の先にはアイスクリームの乗ったコーンを危なっかしく持ってこちらに走ってくる初春の姿があった

吹寄「え、お兄ちゃん?いったい誰の……」

削板「……ん?」

数えられない量の料理を食べていた削板は隣に座っていた吹寄の視線に気付く

吹寄は言葉は発せずこちらに向かってくる少女を指差した

削板はそれに気付いたのか、指の先にいる少女へと目をやった

しかし、吹寄が考えていた反応と違い、削板は少女を見ると不思議そうに首を傾げた


吹寄「削板じゃなさそうね……もしかして!?」

初春「えへへへ、帝督お兄ちゃん///」

嬉しそうな笑顔をさせて初春は垣根の左隣りに座ると機嫌よくアイスを食べ始めた

吹寄「えええええええええええ!?」

垣根「ぶぅぅぅぅ!」

吹寄が驚く垣根は飲んでいたお冷を思わず吹き出してしまった

垣根から噴出された水は、人への被害はなかったものの机をビチョビチョにした


初春「もう、汚いよ~!お兄ちゃんの馬鹿……」

垣根「わ、わりー……」

垣根は店員が持ってきた布巾で水浸しになった机を拭きだした

吹寄「え、え。か、垣根の妹さん!?」

先ほど現れた少女と垣根を見比べながら驚きを隠せない表情をさせた

初春「初めまして帝督お兄ちゃんの従妹の初春飾利です」

丁寧にお辞儀をすると照れたように顔を赤らめた


吹寄「う、うそよっ!貴様にこんな可愛い従妹がいるはずないじゃない」

吹寄は思わず立ち上がり垣根と初春を交互に指差しながら指摘した

初春「嘘じゃないですよ……ほら」

吹寄の指摘にも動じず持っていたタブレットを差し出すと画面を操作しだした

吹寄「なによこれ……」

差し出されたタブレットに記された内容を見て吹寄は驚愕した

それに興味を持ったのか姫神も吹寄から受け取ると垣根と一緒に確認した

垣根・姫神「「…………!?」」

画面には垣根の横でアイスを口にする少女の学籍や個人情報を記したサイトだった

そのサイトは『風紀委員』などが情報などを調べるときに活用されるものだった

それだけだとごく普通のものだが、二人が驚いたのは個人情報の欄に書かれていた内容だった

『垣根帝督…………に住んでいる初春飾利は母親の血筋の従妹である』

初春「ねっ、本当だったでしょ?」

そういうと初春は姫神から機械を受け取ると満足そうに微笑んだ


吹寄「で、でも……そんなこと垣根から一度も聞かされてないわ」

そう、彼の口からは一度も兄弟や親類がいることを聞かされていなかった

そのことをげんきゅうされた初春は何かを考えている素振りをみせ、シュンとした顔で口を開いた

初春「実は……」

垣根「それはまだ説明しなくていい!」

今にも泣きだしそうな初春の声を垣根の強い一言で遮った

垣根「すまねーこれはまだ説明できねぇんだ……俺が不甲斐ないばかりに」

初春「お兄ちゃんのせいじゃないよ……飾利が」

俯いて何かをぶつぶつ呟く垣根に寄り添うように初春がアイスを口にした


削板「吹寄……」

吹寄「わかってる……」

眼に涙を浮かべた吹寄と削板は垣根の手をとると

吹寄「疑って、ごめんなさい。いつでも力になるからね……」

削板「うおおおおお、根性ある話じゃねぇか!」

彼らの目には疑念という文字は消えていた。そんな二人を無視するように

眼の前で泣いている彼らには聞こえない声で垣根は初春に話しかけた


垣根(おい、なにが従妹だ。真っ赤な偽物じゃねーか……いつから仕込んでやがった)

垣根の指摘する通りあのサイトに載っている内容は全て出鱈目だった

だが、垣根には不明な点があった。横に座る少女がいつの間にあれほどの物を作れたのか

しかし、それを聞いた初春は極々当然のことのように口を開いた

初春(そのことですか。あのレベルの偽物を作ろうと思えば、三十分とかかりませんよ)

まるで、驚いている垣根の方が変だと言いたげに含みのある笑みを浮かべた


彼女は知らないが巷で噂されている『守護神』とは彼女のことだった

風紀委員にもその実力が買われ度々、セキュリティー面でも活躍している

逆にハッカーとしての一面を持ち、レベルの高い情報も閲覧することが可能なのだ

ハッカーの実力だけでなく、様々な用途に合わせた自作プログラムを組み上げることもできる

なので、今回のような急な入用でも容易に作ることができた

初春(なので、私を怒らせると垣根さんの学生生活に支障をきたす恐れがありますから気を付けてくださいね)

それは世の男を魅了させてしまうほど可愛らしい笑顔を貼りつけた悪魔との契約だった

垣根(……こいつ、実は物凄く腹黒いんじゃ)

その容姿とは懸け離れた言動に怯んだのか、垣根は拒否することもできず静かに頷いた


しかし垣根にはもう一人、自分を怯えさせる存在がいたことを忘れていた

姫神「…………」

彼女は垣根と初春とのやり取りを知ってか知らずか無言で垣根の影から初春を見た

初春「ひぃ!?」

無言の圧力。初春は自分を睨む姫神から出るドス黒いオーラに怯えたのか小さく悲鳴をあげると

初春「そ、それじゃあ、お兄ちゃん!ま、またね~」

引き攣った笑顔を貼りつけ逃げるように、学生で賑わう人混みへと消えていった


それに小さく手を振る吹寄と削板は申し訳なさそう垣根に囁いた

吹寄「妹さん、気まずかったみたいね」

削板「やっぱり、俺たちお邪魔だったか?」

しかし、そんな彼らの気遣いは垣根の耳には届いていなかった

彼は花飾りの少女が残していった姫神との溝を修復するのに必死だった

垣根「な、なぁ……機嫌なおしてくれよ」

姫神「知らない」

少女は不機嫌そうに垣根とは逆の方を向いた

愛しの彼女にそっぽを向かれたショックからか、注文が来たコーヒーにも目もくれず

肩を落としてコーヒーに出来た小さい波紋を見つめ寂しそうに呟いた

垣根「ふ、不幸だ……」


昼食後、彼らお世辞にも人気があるとは言えない古びた小物店に来ていた

垣根「へぇ、この値段で細部にまで仕事されてんだから凄い技術だよな」

一つ一つが丁寧に作られたアンティーク用品の虜となった垣根は感心したように言った

それに同意するように頷くと吹寄は木で掘られたコップを手に取ると驚いたように言う

吹寄「本当よね!学園都市って聞くと、どれも機械で量産されていると思ってたけど、こういう手作りもいいもんよね」

彼らが来ている店は学園都市では珍しい、手作りを中心としたアンティークショップだった

店員「いや~、気に入ってもらえて良かったよ!君たちみたいな学生が来てくれると僕としても作った甲斐があるよ」

商品を誉められたからか奥から嬉しそうな笑顔をさせた若い金髪の男性店員が出てきた


店員の言動に驚いたのか持っていたコップを指差して話しかけた

吹寄「これ全部あなたが?」

店員「Yes!ここにあるもの皆、一つ一つ愛情を込めて作成したのさ」

店員は一つの木製のブレスレットに触れた

店員「だからね、それぞれ相性のいいアイテムや相性の悪いアイテムがあるんだ」

そういうと、どこか悲しそうにブレスレットから手を離した

その顔を見た四人は何と声を掛けていいのかわからず、黙り込んでしまった


店員は四人のそんな表情を見て申し訳なさそうに口を開けた

店員「あはは、しんみりさせちゃったね……。そうだ、お詫びにここにあるもの一つ持っていくといいよ」

にこやかに笑うと大きく両手を広げて四人に申し出た

それを聞いた吹寄は申し訳なさそうに店員の顔を見上げ

吹寄「で、でも……」

店員「いいんだ……この店ともそろそろお別れと思っていたし最後の思い出にね」

吹寄が躊躇っている姿を見て優しく微笑むと、もうすぐ店を閉めることを説明をした


それを無言で聞いていた垣根は一際高そうな時計を指差しながら店員に尋ねた

垣根「どれでもいいんだよな?」

店員「あぁ、どれでも持っていくといい。君たちの選んだ物なら、きっと良い一品に違いない!」

店員は少し悪戯な笑みを浮かべると、垣根たちを試すような言い回しをした

垣根「後悔してもしらねーぞ!」

垣根も店員の挑発にのるように店内を散策しだした

吹寄「はぁ……仕方ないわね」

削板「まぁ、これも形の違う親切ってやつだな」

呆れたように溜息をつく吹寄の横で、店員の男気に共感したのか削板は張り切って店内の奥へと消えていった


姫神(何にしよう)

姫神は他の三人より少し遅れて店内を見回っていると、とあるコーナーが目に入った

それは白い艶々としたハート形の矢尻が付いたペンダントだった

姫神「…………」

姫神は服の上から自身の能力を抑える十字架に触れると、小さく首を振り後ろを振り返った

店員「お目が高い!それ僕の一押しなんだよ」

姫神「…………!?」

すぐ後ろまで迫っていた店員に驚いたのか、姫神は少しだけ後ろに下がった


店員はそんな姫神を無視するように、置かれていたペンダントを大事そうに拾い上げると

店員「これはね大事な人に身に付けてもらうと、どんなに離れていても再び会えるというお守りなんだ」

彼は本当に気に入っているのか嬉しそうにペンダントの説明をしだした

店員「ただ使っているのが羊の角の為か気味悪がって誰も買っていく者がいないんだ」

姫神「…………」

確かに羊の角というと、悪魔を連想させるからか、あまり良い印象はなかった

姫神もそれを垣根に付けてもらうのは躊躇ったのか断ろうとしたとき


いつからいたのか自分の隣に立っていた垣根がペンダントへと手を伸ばした

垣根「じゃあ、俺がもらってやるよ」

店員「本当かい!?」

垣根の一言で元気を取り戻したのか、店員は嬉しそうにペンダントを差し出した

垣根「羊の骨だろうが、悪魔だろうが俺には関係ねぇよ。姫神から離れないって決めたからな、首輪の代わりにでも付けといてやるよ」

そういうと姫神にペンダントを渡すと、その場にしゃがみ込み付けるように合図する

姫神(垣根君を。守って)

姫神は垣根の身の安全を祈りながら垣根の首につけてやった


それを見た店員は微笑ましそうに笑って口を開いた

店員「ありがとう。これで僕も心置きなく店を畳めるよ」

彼はどこか満足そうに笑うと吹寄たちの様子を見に奥へと消えていった



帰り道、吹寄と削板もそれぞれ気に入った物があったのか、満足そうにお互いの物を見せ合っていた

そんなやり取りを見ていた垣根は隣にいる少女が選んだ物が気になったのか何気なしに尋ねた

垣根「そういや姫神は何にしたんだ?」

姫神「あっ……」

姫神は店員の説明を逐一聞いていたためか結局、何も貰わずに帰ってきてしまっていた

垣根「それはそれでいいと思うぜ」

垣根は姫神の選択も一つの答えと解釈したのか優しく頭を撫でながら微笑みかけた

その選択は今の彼らにとっては本当に一つの選択にすぎなかった

そう、姫神のこの行動によりこの先の運命は大きく変化することには今は誰も気付いていない

とある地下倉庫

薄暗い闇の中で一本の蝋燭だけが怪しく部屋を照らしていた

そんな部屋の中を数人の男女が机を囲んで立っていた

「あのー、すいません。いつまで私達はここにいるのでしょう?」

一人の眼鏡をかけた青年がマントで身を包む男に申し訳なさそうに尋ねた

男は特に悪びれた態度も見せず、微かに見える口元を緩ませて

マントの男「ふふふ、そう慌てなくとも今から計画を説明しますから」

穏やかな口ぶりで懐から一冊の本を取り出しと机の上に置き話し出した


説明が終わると、壁に寄りかかりながら聞いていたが男が口を開いた

「この程度の作業なら、テメェでもできんだろ?なぁ、奴隷」

男が指を鳴らすと物蔭の奥から、被っていた帽子から金髪をなびかせた少女が歩いてきた

「…………」

その少女からは生きている人間特有の温かみはなく、まるで抜け殻のような表情をさせて頷いた



七夕まで残り3日 七月四日


今日の投下は以上です

それでは、また明日この時間に

乙 前に見てたスレが再開してたとはきずかなんだ 

これから見てるんでこれからも期待

乙乙

それでは、今日も投下をしていきます

とある高校の男子寮

四人で買い物に出かけた、その日の夜のこと


垣根「テメェんとこの花飾りのせいで、こっちは迷惑してんだよ。飼い主ならしっかり管理しときやがれっ!」

今日の初春の奇行に不満をぶつけるため、垣根は電話の向こうの心理定規に叫んだ

心理定規『あら、あの子に会ったの?それはお気の毒さまね』

ふふっと笑う心理定規は、とくに悪びれた様子もなく淡々と話し始めた

心理定規『それに、あなたは疑っているようだけど、私あの子に能力は使ってないわよ?』

心理定規は垣根の思考を見透かすように先手をうった

垣根「誰があの花畑の心配なんかしてるか!ただ、どっかの常盤台の女王さま宜しく学校を支配したいのかと思ってはいたがな」

そういうと垣根は同じレベル5で精神系能力者の『食蜂操祈』のことを思い出す

心理定規『彼女の話をしないでくれると助かるんだけど……。
     彼女に媚びへつらう位なら、スクールにいた時の方が幾分かマシね』

話題の内容が気に入らなかったのか、穏やかに話していた声のトーンが、急に不機嫌な色を漂わせた

垣根(やべぇ……地雷踏んだか)

垣根は受話器に拾われない大きさで舌打ちをした

しかし、このまま切るのも後味が悪く感じたのか、前から気になっていたことを口にする


垣根「なぁ、〝アイツ〟がもし生きてて、今の俺らを見たら何て言っただろうな」

垣根はかつてスクールの構成員の一人で、頭に大きなヘッドギアをつけた少年を懐かしんだ

心理定規『さぁ、どうかしらね。少なくとも今のあなたを見たら腰を抜かすことは間違いないわね』

心理定規はどこか悪戯まじりに笑い、話題に上がっている少年が驚く顔を想像した

垣根「テメェも大概だがな。元暗部の構成員が今じゃ正義の味方だからな」

垣根は街の治安の為に働く今の心理定規の姿を思い出して鼻で笑った


心理定規『ねぇ、彼に会いに行かない?』

垣根「はぁぁ!?」

垣根は電話の先の少女の発言に驚きを隠せなかった

心理定規『大きい声出さないでよ……。会いに行くといっても生きている彼にじゃないわよ』

垣根「何が言いてぇか全く理解できねぇ。まさかテメェ……危ねぇ宗教に」

電話で顔が見えないためか心理定規の意図が掴めず、垣根の不安がより一層に増した

しかし、そんな垣根の心配をよそに、年齢にそぐわないなまめかしい笑いをさせた

心理定規『ふふっ、外れだけどいい線いってかな……。それじゃあ、明日―――――に来て頂戴。じゃ』

垣根「おい!勝手に決め……って切りやがった」

垣根は頭をくしゃくしゃと掻き乱ながら携帯の画面を見て溜息をついた

垣根「第十学区に来いねぇ……」

狭い部屋に不釣り合いな黒を基調とした机の上に、酒が注がれたグラスの中の氷が静かに音をたてた


垣根は第十学区にある『墓地』であるビルの前に来ていた

垣根「科学の街なのに墓地って……なんか、すげぇ違和感あるな」

垣根は少し苦笑いさせながらビルの屋上を見上げた

すっかり梅雨も明けたのか太陽の日の光が眩しくも暑苦しく思えた

心理定規『久しぶりに彼に会うんだから、よく着ていたあのスーツを着てきなさいよ』

今朝、早くにそんな心理定規の言葉で彼は目覚めた

この七月に入ったこの時期に少女の無茶な提案に垣根は当然の如く抗議をするが

心理定規『どうせ能力で何とでもなるでしょ?ならいいじゃない』

心理定規は羨ましいと言いたげな口ぶりで垣根の持つ能力の可能性を口にする


しかし、納得がいかない垣根は次から次へと不満を呟いてみるが、最終的に納得させられて現在へと至った

垣根「だからって夏にこの服は見た目でアウトだろ……」

垣根はここら一帯を占める柄の悪い不良たちからの、憐れむような視線に嫌気がさしていた

しかし、彼らの視線の先には垣根の着ているスーツなど入ってなかった

垣根の横に飾られている、相手がレベル5と知らずに突っかかった愚か者のオブジェだった


心理定規「あら、ちゃんと着てきたのね」

垣根「おせーよ!」

不機嫌そうに返事をし、声を掛けられた方へ視線を落とした

垣根「あぁ?なんでテメェは、そんな涼しそうな服着てんだよ」

垣根が抗議する先には、今の季節でも違和感なく出歩ける真っ赤なドレスを着た心理定規が微笑んでいた

心理定規「だって私、ほぼ毎日ドレスを着て過ごしてたじゃない」

心理定規が少し意地悪そうに微笑みながら携帯を操作しだした

垣根「なーに、嬉しそうに携帯を見てんだよテメェは?」

垣根は心理定規の意味深な笑みが気に食わなかったのか不機嫌そうに携帯を覗いた


そこには一通のメールが表示されていた


20xx/07/04
From 飾利
本文

本当に、スーツを着てくるとは……
素直すぎるでしょww
垣根さんって騙されやすい
タイプだったんですね(―_―)!!
さすが常識がない人は違いますねw


垣根「…………」

心理定規「気持ちはわかるけど、余計な仕事が増えるから今は抑えてね」

心理定規は垣根の腰を軽く叩くとスタスタとビルの中へと入っていった


垣根はキョロキョロと辺りを見渡しお目当ての物を見つけると

垣根(おい花畑、あんま調子に乗ってると……)

垣根は近くにあった監視カメラに向かって何かを訴えかけるように睨んだ




初春「ひぃいいいい!!」

白井「なんですの、初春?急に大声なんか出したりして」

白井は初春が突然大きな悲鳴をあげたので少し不機嫌そうに尋ねた

初春「な、何でもないですよ。ほら、喉渇きませんか?お茶淹れますね」

白井「今日の初春。少し変ですの……」

初春(と、当分外には出掛けられないなぁ……)

初春は己の身の安全を守るため、パトロール以外での外出を控えることを決意した


垣根「たくっ……」

垣根はイライラしながら、エレベーターが降りてくるのを待っていた

心理定規「あら、貴方ってそんなに待つことが嫌いだったかしら?」

心理定規はわざとらしい笑みを浮かべて垣根に尋ねた

垣根「テメェらのせいだろうがっ!こちとら姫神と買い物に出掛けたかったのによ……」

垣根は怒る気力を無くしたのか、残念そうに深い溜息をついた


心理定規「あら、あの子よく私と出掛けることを許してくれたわね?」

心理定規は少し不思議そうに垣根の顔を見上げた

垣根「そりゃあ、俺を信頼してくれてるからな!」

心理定規「それで、現実は?」

垣根の誇らしげに語っているのを無視し、心理定規は意地悪っぽく問いかけた

垣根「『私のことはいいから。お墓参りに行ってあげて』だってよ……」

心理定規は小さく笑うと、どこか納得したのか頷きながら垣根の嘆きを聞いていた


垣根「それで……何で墓なんて登録したんだ?」

ここの墓地は、登録さえすれば例え遺骨がなくとも名前を入れることができた

なので、引き取り手のない者や『闇』で生きてきた者などが数多く眠っている

心理定規「彼とは、長い付き合いだったじゃない?それでね……」

心理定規は、かつて垣根をリーダーに『スクール』として暗躍していた時代があった


そして、もう二人構成員がいた


一人は、凄腕のスナイパーで補充要因として加わった大柄な男

彼の行方は未だ知れず、生きているのか死んでいるのかわからなかったが、垣根が語るには

「あいつは、例え爆風に巻き込まれようとも、死ぬタマじゃねぇよ……」

心理定規は、垣根の説得力のある発言に思わずクスリと笑ってしまった


そしてもう一人、歳は垣根より少し若い少年の構成員がいた

少年は名前も年齢も、ましてや能力者かも不明だった

そんな彼だが暗部の者としては珍しく、どこか憎めない人間味のある構成員だった


しかし、彼は『ピンセット』の奪取の一件で、『アイテム』のリーダーでレベル5〝第四位〟麦野沈利によって殺害された

その事を知った心理定規は彼女を恨んではいなかった

いつ死ぬか、誰に殺されるか、いつでも死と隣り合わせの世界に垣根達は生きていたのだ

だからこそ墓の登録は、せめて彼の生きた証だけでも という、心理定規なりの〝仲間〟心だった

垣根「たくっ、とことん世話のかかる野郎だ」

垣根は口では悪態をつくものの、その表情はどこか悲しげだった


心理定規がパスワードを打ち終わったのか、奥の方の壁から一つの引き出しが出てきた

その引き出しは本来、供え物などを入れる所だった

本来、墓石はリフトに乗って遺骨の入った状態で運ばれてくる

しかし、彼には遺骨もなければ、墓石に入れる名前もなかった

なので、引き出しを墓代わりとして活用していた

心理定規「なかなか来てあげられなくて、ごめんなさいね」

そういうと水をあげなくて済む、ドライフラワーを一輪入れた

垣根「暫くの間、預かってろ。つぎ来たとき、旨く熟成させられてなかったら……。わかってんだろうな」

一方、垣根はというと高級ワインのボトルを供えた。彼等の〝リーダー〟だったころの言動で


心理定規「本当にあなたって不器用ね」

心理定規は、茶目っ気のある微笑みで、小さく肩を震わせている垣根の横顔を眺めた

垣根「黙ってろ……!」

暫く二人は、お互いに話しかけず、ただただ引き出しに書かれた彼の使っていた偽名を見つめていた


何十分そうしていただろうか。二人は少し吹っ切れた様子で、ゆっくり引き出しを閉め別れの言葉を送った




「じゃあな────―――」




一度も呼んであげられなかった彼の偽名(なまえ)を


「…………」

二人は、一言も話さないままエレベーターを待っていた

ポーン     ポーン

と上りのエレベーターと下りのエレベーターが同時に来たのか二つの軽快な音が鳴った

垣根たちは、それに乗り込むと一階のボタンを押した

ドアが閉まる瞬間、数人の女性の話し声が聞こえた

垣根(たくっ……どこに行っても女が集まると姦しい、てか)

垣根が呆れるように溜息を吐いた


一階に到着したのか、エレベーターのドアが開いた

エレベーターを降りると二人は真っ直ぐに玄関へと向かって歩き出した

タッタッタッタッ

その時、垣根の横をベレー帽から金髪をなびかせた少女が通り過ぎた

垣根(あの女どこかで……)

垣根が振り返った時にはドアが閉まり上へと上がっていった

心理定規「どうかしたの?」

心理定規は急に歩くのを止めた垣根を不思議そうに見上げた

垣根(気のせいだよな?)

垣根は目をこすりながら心理定規の方を振り返ると

垣根「何でもねーよ、帰るぞ」

垣根たちは、それぞれの帰る場所へと歩き出した

今日の投下は以上です

初期の頃から見て下さってる方
新規で見て下さってる方

本当にありがとうございます

それでは、また明日この時間に


ゴーグルが出てくること期待


結局ゴーグルって能力者だったのかね

こんばんは

遅くなりましたが、今日の投下を始めます



「超遅いです!」


「はぁ……はぁ……!」

ぜいぜいと息を切らしながら、階段をすごい勢いで上ってきた少年に一喝するように少女は叫んだ

「まったく、何分待たせる気ですか!?これだから超浜面は」

先程から息を切らしながら、ガミガミと少女に説教を食らっている少年の名は〝浜面仕上〟


なぜ彼が息を切らせているかというと

彼が所属する組織のリーダーが四階まで昇るのに同時に出発すると階段とエレベーターならどっちが早いかという

小学生でも考えなくともわかる問題を解決すべく、スタートの合図と同時に猛ダッシュで階段を駆け上がってきたのだった

浜面「ちょ、絹旗!?俺の頑張りは無視かよ?少しくらい気遣ってくれても……なぁ、滝壺」

そんな浜面の嘆き交じり訴えを無視する少女〝絹旗最愛〟は呆れたように溜息を吐いた


そんな酷い扱いを癒してもらおうと、浜面は近くのソファに腰かけている少女に泣きつくように駆け寄った

「ぐーぐー」

しかし、浜面の願いも虚しく癒し女神は現在、絶賛夢の中へと旅立っていた

それを見た浜面は、拠り所を無くしたショックからか驚いた顔をさせて小さく叫んだ

浜面「って、寝てるし!」

浜面は寝息をたてて寝ている少女〝滝壺理后〟を、起こさないように静かに離れた


しかし、彼の不幸はこれだけではなかった

滝壺のすぐ隣から物凄い剣幕で浜面を睨みながら怒鳴る少女がいた

「浜面、テメェ遅すぎるんだよ!私達が着くと同時に出迎えるくらいできねぇのか!!」

浜面はソファに足を組んで座りこちらに罵声を浴びせる少女に、不服そうに口を開いた


浜面「そんなこと言われても、麦野よぉ。どんなに頑張っても階段がエレベーターに勝てるわけが……」

それを聞いた少女〝麦野沈利〟は酷く釣り上げた口から白い歯を見せつけて

麦野「ご機嫌斜めだけど、どうしたのかにゃーん?はぁぁまぁぁづぅぅらぁぁ!」

徐々に怒りを滲ませた声を出した直後、麦野の右腕が浜面の右腕を捕らえると

怒っているのか楽しんでいるのか、よく分からない表情をさせて浜面の関節を決めた

浜面「いでぇぇぇぇ!!ちょっ、タンマ!折れる、本気で折れるって!?」

麦野「大丈夫よ、どうせ折れたって痛いだけで、すぐ治るでしょ?」

浜面「治んねぇよ!」

特に理由がある暴力が浜面を襲う!


そんな二人のやりとりを遮るように昇りのエレベーターが到着したことを伝える音が鳴った


ポーン


その音で目覚めたのか滝壺は、眠たい目を擦りながら口を開いた

滝壺「……ん?北北西から信号が来てる」

そして、四人がエレベーターへと視線を注目させていると


コツコツコツコツ


エレベーターの中から現れた少女は一定のリズムを刻みながら、浜面たちの方へ歩いてきた


「なっ!」

その場にいた誰もが、その少女の姿を見て息を吞んだ

麦野「フレ……ンダ?」

麦野が目を見開き、愕然とした表情で少女の名を呼んだ

それを聞いた少女〝フレンダ=セイヴェルン〟はどこか照れくさそうに笑った


フレンダ「結局、私がいないと締まらないってわけよ!」



ドンッ

何かが壁に勢いよくぶつかる音が鳴る

麦野「どういう目的で私達の所に来たか知らないけど……ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

悪意・憤怒・狂喜・それら全部が詰まった表情でフレンダを睨んだ

浜面「お、おい!いきなりどうしたんだよ。こんなところで能力なんか使ったら……」

麦野「どけ……今度こそケリを」

浜面の制止を無視するように、麦野は右手をフレンダに向けた。すると……


フレンダ「麦野、みんな!本当にごめん!」

その場で膝から崩れるとスムーズに土下座をした

フレンダ「こんな事で許してもらおうとか考えてないけど、これだけは言っておきたかったってわけよ」

フレンダは、涙をポロポロと流しながら、何度も何度も額を打ち付けた

麦野「……言いたいことはそれだけ?」

麦野は静かにフレンダを見下ろした

フレンダ「色々とまだあるけど……。みんなの顔を見たら忘れちゃったてわけよ」

頬を掻きながら申し訳なさそうに小さく笑った


「…………」

浜面たちはフレンダの話を聞いたあと、お互いの顔を見合わせて

「ぷっ……」

フレンダ「えっ!」

麦野「アハハハハ!もう、なに真剣になってんのよ。別にフレンダのことを責めてたわけじゃないわよ」

フレンダ「どういうこと……」

フレンダは他の四人が何を言っているかわからなかった

滝壺「フレンダ、私の能力を覚えてる?」

フレンダ「そんなの『能力追跡』に決まってるわけよ……」

フレンダは、まだ検討がつかないのか小さく首をかしげた


絹旗「もう!超察しが悪いですね。いいですか……」

そういうと絹旗はフレンダに近づき説明しだした

説明の内容を簡潔にまとめると

初め自分たちの前に現れたのは、偽物かはたまたクローンかと疑った

しかし、麦野の脅しも効き目がなく、ただ涙を流し謝り続けていた

そして、極めつけは滝壺の能力による、AIM拡散力場の検索

絹旗「それで、寸分違わぬフレンダの物と超確認したというわけです!」


浜面「どういう理由で、生き返ったかは知らねーが、こうして本物ってわかったんだ素直に喜んどけ」

フレンダ「じゃあ……みんなは怒ってないの?」

麦野「馬鹿ね、当たり前でしょ」

浜面「麦野……お前」

浜面は麦野の優しい微笑みに安心したのか嬉しそうに見つめた


麦野「なんていうと思ったかにゃぁぁぁん!」

「え……!?」

その場にいた四人は、麦野の落差に追いついてきていないのか、思わず聞き返してしまった

麦野「確かに、フレンダ。あなたを殺したのは私よ。それは悪いと思っているわ。でも、もとはといえば、フレンダが私たちを裏切ったせいでしょ?」

フレンダ「…………」

浜面「お、おい!むぎ……」

フレンダの今にも泣きだしそうな顔を見て、浜面はやりきれなくなったのか麦野に抗議しようとしたとき


麦野「だから……『アイテム』の最下層〝浜面〟と同格扱いとして、今日一日こき使ってあげる」

彼女の言葉は普通に聞くとブラックな企業を思い浮かべるかもしれないが、フレンダからすると

フレンダ「どこのブラック企業よ!!」

浜面「おい……」

浜面は少しでもフレンダのことを同情した自分が惨めになった

麦野・フレンダ「プっ……」

「アハハハハハ」

フレンダを含めた四人の少女たちは、お互いの顔を見渡して堪えきれずに吹き出してしまった

浜面はそれを見て嬉しそうに、〝新生〟アイテムの門出だと嬉しくなった

今日の投下は以上です

明日で、いったんアイテム編は終わりです

乙レスも、毎日ありがとうございます

それでは、また明日


浜面の扱いの悪さはどのSSでも一緒だな

>>214
様式美というやつだけどな。『特に理由のない暴力がライナーを襲う!』と同じ(?)

まあ、実際嫌いなやつがいるから必要以上に扱いが酷いけど……

乙ッス!!

>>214
それでこそ浜面って感じだよなwwwwwwwwwwwwww

こんばんは
今日も遅くなりましたが、投下を始めます

舞ってた期待

セブンスミスト


「はぁ……」


浜面は、やつれた表情をさせながら、次から次へと増えていく買い物袋の山を見て溜息を吐いた

フレンダの荷物持ちとして同行することになったまでは良いのだが……。もう一人の少女が増えていた

フレンダ「結局、フレメアはどんな服を着ても可愛いって訳よ!」

フレメア「疲れた、にゃー」

フレンダは、自身の妹である〝フレメア=セイヴェルン〟に次から次へと年相応の可愛らしいフリルの付いた洋服を着せていった

しかし、当のフレメアは先程から何着も着替えていたからか、疲れた様子で鞄に付いた白いカブトムシのストラップを触っていた


そんな疲れ切った表情のフレメアよりも、浜面には気になったことがあった

浜面「一つ聞いていいか……。これ全部、俺が持つのか?」

浜面は恐る恐る仲のいい姉妹に近付くと、まだまだ増える勢いの買い物袋を指差した

フレンダ「結局、私はそこまで鬼じゃないってわけよ」

フレンダは、呆れたように溜息をつくと店員に合図を送るように手を挙げた

店員「御用でございましょうか?」

フレンダ「ここに送っておいて」

フレンダは店員に小さな紙切れを渡すとフレメアと手を繋いで店を後にした

浜面(か、かっけー)

浜面は自分よりも幼い少女の堂々とした態度に暫し見とれていたが、あることに気付いた

浜面「うわああああ。あいつら、俺を置いていきやがった!」

浜面は、慌てたように店を出ていくと急いで二人を追いかけた


食糧品コーナー


ガシャン ガシャン ガシャン

浜面「…………」

浜面は、カゴいっぱいに積まれたサバの缶詰の山に声を失った

フレンダ「いやー、久々の買い物にテンションが上がるって訳よ」

フレメア「缶詰がいっぱい。にゃー」

フレメアは山盛りの缶詰に感動したのか、目をキラキラさせながら姉の行動を見入った


浜面「おい、これフレメアにも食べさせるつもりかよ……」

浜面は、体に悪いと文句を訴える視線で缶詰の一つを拾い上げた

フレンダ「そんなわけないでしょ……。フレメアの分は私が作るってわけよ」

浜面「お前、料理できたのかよ」

浜面はいつも缶詰を食べているイメージがあったためか、不安げに問いかけた

フレンダ「結局、いい女は秘密を持ってるってわけよ!」

フレンダは誇らしげに強調するには少々つつましさを備えた胸を張り笑った


浜面「まぁ、食えるもの出してやれよ」

フレンダ「じゃあ、これを見ればわかるってわけよ!」

そういうとフレンダはスカートの中に手を入れると一冊のファイルを差し出した

浜面「なんだよこれ……」

浜面はフレンダから渡されたファイルに目を通すと

そこにはびっしりとサバを使ったレシピの数々が記されていた

フレンダ「いっておくけど、そのメニューは私のオリジナルだから」

フレンダの言うとおり、このレシピは昼夜問わず彼女が時間を見つけては研究に研究を重ねた代物だった


浜面「なんていうか……すげーな」

フレンダ「浜面もそれを見て料理を勉強するって訳よ!」

浜面にメニューを押しつけてニッコリと微笑んだ

浜面「いいよ、今は滝壺の料理で満足してるし……」

浜面は、フンスと鼻を鳴らすと滝壺の料理は世界一といいたげに涎を垂らした

フレンダ「うわ~。結局、ヒモになる運命の浜面はキモいって訳よ……」

浜面「うっ……。わ、わかった、貸してください。フレンダ様」

浜面は急にフレンダの視線が冷たくなったのを感じ、仕方なく借りることにした


フレンダ「さぁ、フレメア。帰ったらお姉ちゃんが、美味しい料理を作ってあげるって訳よ!」

フレメア「お姉ちゃんの料理。にゃー!」

嬉しそうに姉の顔を見てフレメアは両手を広げて飛び跳ねた

二人の少女の後ろを大量の缶詰の入った袋を手提げて呟いた


「結局、荷物は持たされるのかよ……」


帰り道


フレメア「にゃ?」

フレンダ「どうしたの?……あぁ!」

フレンダはフレメアの視線の先を見てニッコリと笑うと手を引いて、何台かの機械に近付いた

フレメア「大体、これはなーに?」

フレンダ「これはプリクラっていうの」

フレメア「プリクラ?」

ピンときていないのか首を傾げながら姉の顔を見上げた

ふとましい

ライナー「それがモテる男の宿命だ…」

ベルトルト(ライナーはモテてないじゃないか……)


フレンダ「まぁ、お姉ちゃんに任せるって訳よ!」

フレンダに引かれて入った『虚数学区の人間もプラズマ(幽霊)も映っちゃう!?』

といううたい文句に少し怖くなったのか、フレメアは姉の手をぎゅっと握った

勘違いをしているフレメアに気付いたフレンダは、その反応を見てクスッと笑った

そして、一通り設定が終わるとフレンダはフレメアの高さまでしゃがむと

フレンダ「ほらほら、ニッコリ笑うってわけよ!1+1=」

肩を抱き寄せてきた姉に安心したのか、フレメアはお日様のように微笑んだ



カタンッ


フレンダは出来上がったプリクラを綺麗に切り揃えてやると何枚かをフレメアに差し出した

フレメア「わぁぁぁ///」

幸せそうに笑う姉妹が映ったプリクラを見てニンマリと笑い、まるで高価な宝石を扱うように丁寧に鞄にしまった

フレメア「にゃー///」

浜面「やっと追いついた……ん?」

フレメアを愛おしそうに見るフレンダはどこか悲しそうだと、浜面は唐突に感じた

浜面(いや、俺の気のせいだよな……)

三人は夕日をバックに仲良く並んで仲間が待つ隠れ家へと帰って行った



残り2日 七月五日

短いですが、今日の投下は以上です

浜面の件ですが、期待していて下さい。それだけです

それでは、また明日この時間で


浜面が巨人になるのか……「馬面の巨人」とかか?(ネタ)


この二人を見てると泣けてくる
こういうの原作で見れないかな

こんばんは、少し早いですが

今日の投下を始めます


週が明け、朝から垣根は病院の待合室で一人そわそわしていた

そう、まるで生まれてくる生命を待つことしかできない無力な父親のように

垣根(…………)

彼の名誉のために言っておくが、決して出産に立ち会うことに怯えているわけではない

そもそも、彼らが出会ってまだ4か月しか経っていないのだ

いくら技術が発達している学園都市でも、腹の中にいる生命に手を出すことは容易ではない

彼が先程から落ち着かない様子を見せているのは、今朝姫神と一緒に登校している時のことだ

急に首あたりの痛みを訴えたため本人の有無を聞かず、彼女を抱きかかえて、いきつけの病院まで運び現在に至るという訳だ


垣根(なんだ……なにが原因だ)

落ち着きを取り戻したのか、椅子に腰かけ静かに原因を一つ一つ考えていった

ウイルス・感染症・外傷などなど自分の知りうる知識をフル稼働させ痛みの正体を探った

垣根(まさか……)

垣根は確信を持てなかったが、自分の知っている範囲ではこれしかないといいたげに一つの答えに辿り着いた

垣根「吸血殺し(ディープブラッド)……」

彼女の生まれ持った能力である吸血鬼を一撃で殺すための唯一の方法――――

その血は甘美な匂いを放ち遠く離れた吸血鬼でさえも、そのあまりに甘い香りに誘われ血を欲し彼女へと近付く


一滴でも口に含めば、灰へと変わり死に至る決して抗うことのできない甘い甘い毒の罠

過去、彼女はその能力により故郷に吸血鬼を呼び寄せてしまい、吸血鬼と化した村人全員を灰へと帰してしまった

その後、彼女は悲劇を生んだ血の呪いを止める術を追い求め学園都市へとやってきた

垣根(原因があるとすれば、そこしかねぇ……)

垣根は、言い知れぬ不安を払いながら、姫神が出てくるのを待った

ガララララ

ドアの開く音が聞こえて反射的に立ち上がった


垣根「姫が……何だテメェか。なんだ、ついにモヤシ化が進んで病院通いか?」

垣根は出てきた少年の顔を見て明らかに嫌そうな顔をして悪態ついた

一方通行「チッ……オマエこそ診てもらう場所を間違ってませンかァ!?脳の花畑を解析する場所はこの階じゃありませン

一方通行も挑発するように嘲笑し、案内図の精神科の場所を指差した

垣根「久々にムカついた……表へ出やがれ!愉快なモヤシ炒めにしてやるよ」

一方通行「上等だァ!打ち止めの奴に連絡しねェとな、今日の土産はメルヘンなオブジェってなァ!!」

両者は互いに狭い廊下で睨み合っていた



「あれ、垣根くんやない!こんな所でどないしたん?」


垣根「あん?」

垣根と一方通行は突然を声を掛けられ、そこらの不良なら土下座をしながら後退りしてしまうほどの刺すような睨みで邪魔をした者の方を向いた

青髪「そ、そんな怖い顔せんでも……」

垣根「今度はテメェかよ……」

垣根の目の前には、状況を把握しきれずに声を掛けたのか困惑したように両手を挙げた青髪が立っていた


青髪「僕はただの食あたり……垣根くんの方こそ、どないしたん?」

興が削がれたのかツカツカと杖突きにしては早いスピードで、診察室へと入っていく一方通行を見て舌打ちをし

垣根「チッ……俺は姫神の付き添いだ」

垣根は不機嫌そうに、青髪の質問に答えた

青髪「えぇっ!姫神ちゃんどないしたん!?まさか食あたり……あいたっ!!」

垣根「テメェと一緒にすんじゃねーよ!ただの疲れだと思う……多分」

青髪は次第に沈んでいく垣根の顔を見てニッコリ笑った


青髪「うーん、医療のことはさっぱりやけど、姫神ちゃんなら大丈夫!
    なんてたって垣根くんが、そばにいてくれてるんやから」

垣根「なんだよそれ……くそっ、悩んでた俺が馬鹿みてえじゃねぇか!」

テメェは楽でいいな と羨ましげに青髪を見て笑う

そんな会話をしていると診察室から姫神が出てきた

姫神「お待たせ。あれ……青髪くん?」

姫神は垣根の隣で大きく手を振って笑う青髪を見て不思議そうに首を傾げた



垣根「大丈夫だったか?」

姫神「うん。検査を少ししただけだから」

垣根は検査という言葉を口にした時の一瞬みせた暗い表情を見逃さなかった

青髪「なぁ、僕の言った通り姫神ちゃんなら大丈夫やったやろ?」

垣根の隣に立ち姫神の無事な姿を見て嬉しそうに告げた

垣根「うっせぇ!お前はさっさと頭ん中を診てもらってこい!!」

ちょうど看護師に呼ばれたのか、残念そうに二人に手を振りながら先ほど姫神が診て貰っていた部屋へと入っていった


姫神「青髪くん。どうかしたの?」

垣根「なんか腹が痛いんだと……どうせその辺に落ちてる物でも食ったんだろ」

垣根の脳内では、犬も猿も青髪もみんな一緒という結論になっていた

姫神(こんな大きな病院に……わざわざ?)

姫神は垣根の話を聞き、少し引っ掛かりを覚えたが特に気にしなかった

垣根「それより、検査で何かあったんだろ?まさか……エロい目で見られたのかっ!?」

カエル顔をした医者に裸に剥かれる姫神を想像した垣根は姫神が診て貰っていた部屋へと入ろうとドアノブに手を掛けた時

姫神「ふん///」

垣根の鳩尾に寸分の狂いなく拳を突き刺した


垣根「がっ……」

垣根は、その場に倒れるとピクピクと小刻みに悶えながら腹を押さえた

姫神「そんなことはされてない。 ただ……」

姫神は顔を真っ赤にしていたが、急に口ごもり俯いてしまった

垣根はそれを見て痛みを忘れたのかスッと立ち上がり姫神に寄り添った

垣根「冗談だよ……で何があった?」

姫神は急に安心したのかゆっくりと話し始めた


ことは少し前に遡る、冥途返しが診察をしてくれることになり精密検査を受けている時のこと

MRIという磁気を使う為、金属類を身に付けてはいけないと説明され

自身の能力を抑える役目を持つ『歩く教会』と同等の力を持つペンダントを外した時のこと

いい知れぬ不安を感じた……それもそのはず、彼女はそのペンダントを身に付けてから今まで、自分から外したことがなかったのだ

その為、少し躊躇いながらも看護師に預け、検査を受けようとしたとき

冥途返し「おっといけない、僕としたことが忘れる所だったんだね?」

そういうと採血用の台を姫神との間に置いた

姫神は荷物を預けた看護師を探すが、不安がピークに達したためか

その少女が何人にも分身している風に見えてきたため放心状態に陥った


ガタガタと震えながら採血が終わるのを見ていると

「おら……ゆっくりと息を吸いやがれェ」

後ろから声を掛けられたため、ゆっくりとそちらに顔を向ける

一方通行「ン……なンだァ、オマエか」

特に驚いた様子も見せず淡々とした様子で声を掛けたのは一方通行だった

姫神「どうして。あなたが。ここに?」

お世辞にも似合っているとはいいにくい白衣を着た一方通行に問いかけた


一方通行「見てわかんねェか?じゃあ、一生そこで考えてろ」

一方通行は面倒事はごめんだと言わんばかりに姫神から離れてコキコキと首を鳴らし背中を向けた

姫神「ありがとう。落ち着いた」

聞こえるか聞こえないほどの小さな声で、ガタガタと震えた看護師の少女に向かって歩いて行く一方通行に礼を言った

一方通行「そォかよ」

彼らしいぶっきらぼうな態度で返事をした


垣根「それで、検査の結果は大丈夫だったと……」

どこか不服そうな声で話の内容を繰り返した

姫神「うん。あれ……怒ってる?」

垣根のあからさまに不機嫌な態度に少し不満に思った

垣根「べっつにぃ、優しい一方通行くんがいて良かったなぁと思ってさ」

姫神「…………」

姫神は何も言わず、垣根を置いてスタスタと歩いて行ってしまった


彼自身も気付いているが、あからさまな嫉妬だ

自分が本来やってやるべきポジションを、一方通行に盗られたことへの自身の不甲斐なさの感情が溢れ出し悪態をついたのだ

垣根「何やってんだよ……俺は」

ダンッと壁を殴りつけると、護ると決めた少女を悲しませてしまった自分への怒りが爆発した

その時、扉が開き中から看護師と思われる少女が出てきて


ミサカ「あのー、これさきほど渡し忘れたものですがとミサカは急に
大きな音が鳴りビックリしたことに怒りを隠しながら告げます」

垣根「それ隠せてねぇぞ……で何か忘れものか」

ミサカ「はい、このペンダントなんですが……とミサカは一方通行に怒られていた為、
     渡しそびれてしまったと自分に責任はないことを説明します」

少女の取り出したペンダントを見て驚愕する

垣根(……姫神!!)

垣根は少女からペンダントを掻っ攫うと急いで姫神を追いかけた

ミサカ「頑張るのだぞ少年……とミサカは主人公の師匠っぽくエセホストを見送ります」


少ないですが、今日の投下は以上です

明日もこの時間帯に来ます

乙!意外と子供っぽい垣根にニョニヨ

それでは、今宵も投下をしていきます


姫神「…………」

もうすぐ七夕が近いためか、友人や恋人達の楽しそうな話し声が聞こえる中、姫神は独り宛てもなく歩き続けた

姫神「垣根くん……」

思い人の名前を呟くが、それは彼に届くことはなかった

心の乱れなどで垣根と微妙な関係になってしまったことを後悔した

姫神(きっと。……怒ってる)

付き合って初めて経験する喧嘩に、不安で泣き出しそうになるのを必死で堪えた


姫神(帰ったら。垣根くんに謝らないと)

携帯の時計が、そろそろ正午になろうとしていたため、帰ろうと周りを見渡すと

姫神「ここって……」

そこは昼間とは思えない暗さだったが、自分がいま立っている場所に見覚えがあった。否、忘れられるはずがなかった

そこは、初めて垣根と出会った場所であり

「俺ト、出会ッタ……場所ダヨナ?」

姫神は、背後から聞こえるドロッとした粘り気のある声にハッとし後ろ向いた

「……ぁあ……ぁ」

姫神は声を必死に絞り出そうとするが、恐怖からか上手く声として発せれなかった


目の前にいた男は、かつてこの場所で襲ってきた不良のリーダーとしての面影がないほどに変わり果てた姿だった

眼は血走り、口は三日月のように裂け、服はボロボロの布きれをまとっていた

誰が見てもまともな姿ではない、姫神の動きを鈍らせるのに十分すぎた

姫神(どうしてココに……)

男「久シブリダナ。アイツ ハ 元気 カ?」

恐れ戦く姫神をよそに、男はこの場にいない邪魔者の名前を出すと、カラカラと笑い出した


姫神「…………」

そのあまりの豹変ぶりに、姫神は視線の先の男が笑っているのを、パクパクと口を動かすしかできなかった

そんな姫神を見てウズウズと肩を震わせて

男「ダメダ……我慢デキネェ」

姫神と出会った時から何かを、必死で耐えているような素振りを見せていた男は、姫神の頸もと見てニタリと笑った

姫神「えっ……」

さっきまで漂わせていた雰囲気とは違い、獲物を見る獣の目をさせた男に畏怖し少しずつ後退った


しかし、男はニタリと笑うと、嬉々とした表情で叫んだ

男「コォォォンナ 良イ匂イ ヲ 目ノ前二シテ 我慢シロッテノガ 不可能ナンダヨォ!!」

男が大口を開けると、人間のそれとは違う、まるで鋭利な刃物のような犬歯を怪しくギラつかせるとふぅーっと姿を消した

姫神(どこに……!?)

リーダー「イタダキマァァァス!」

いつの間にか背後へと移動した男は、姫神の肩と頭を支え勢いよく首に噛みつこうとした

そのとき



バシュゥゥゥゥ!!


男は白い何かに薙ぎ払われると、そのまま壁へと突っ込んだ

すると、姫神の上空から六枚の純白の翼をはためかせて

ゆっくりと地上へと降り立った少年は、ガラガラと崩れる瓦礫にキッと睨みつけながらいい放った

「たくっ、テメェも懲りねぇな……悪党ごっこの次は吸血鬼ごっこか?つくづく俺たちの嫌がらせが好きと見えるな」

男「テメェハ……」

掻き分けるように瓦礫を払い退け、姫神の傍に立つ人物を見て一瞬、狂喜の表情を張り付けて

男「カキネ……垣根ェ……垣根帝督ウゥゥェェアア!!」

幾度となく自分を邪魔してきた少年の名を、怨み込めるように叫びだした


垣根「今度ばかしは、本気でムカついた……」

その姿に静かな怒りを滲ませた垣根は、自分を見てケタケタと笑う男を見据えた

姫神「か……きねくん」

垣根「…………」

垣根から見ても、今までとは比べ物にならないほど、姫神はガタガタと何かに怯えるように震えていた

それを見て、何かを思い出したのか懐から何かを取り出すと、それを姫神へ差し出した

垣根「大事な物なんだろ?たくっ、忘れんなよ」

それはケルト十字をあしらった自身の能力を抑えるペンダントだった


姫神はソレを受け取ると、急いで首から提げた

しかし、それを身に付けた途端、垣根達から少し離れた場所で立っていた男は不思議そうな顔をさせた

男「なんだぁ?匂い消えちまったじゃねぇかよ……」

血に飢えた動物のように殺気立っていた男は、まるで嘘のように冷静さを取り戻した

男「お前の血……甘い匂いで旨そうだったのになぁ!」

少し悔しそうに姫神を見ると、不気味に笑いだした


垣根「何が言いてぇか知らねぇが……今から黙らせてやる」

そんな男に垣根は嫌悪を抱いていると、急に姫神が垣根の裾を掴んだ

姫神「……げて」

垣根「あっ?」

姫神「いいから。逃げて」

その目は何かに怯えているというよりも、何かを確信したような、そんな真っ直ぐな眼で垣根を見ていた


男「〝何人〟もその手で殺してきたのに、気付くのが遅いよ。お嬢ちゃん!」

垣根「どういうことだ!?テメェは一体……」

一瞬よぎった最悪の〝六文字〟の名前を、振り払うように男に叫んだ

男「なぁ……」

男は二人の反応に満足いったのか、ゆっくりと口を開いた



「〝カインの末裔〟って知ってるかぁ?」

という事で今日の投下は以上です
次回は土曜日のこの時間に来ます
それでは

おつん

それでは、今夜も投下していきます


垣根「吸血鬼?」


以前、垣根は〝それ〟について姫神から聞いたことがあった

吸血鬼またの名を『カインの末裔』と呼ぶ。その者達は自分たち人間と何も変わらないと彼女は語った

悲しいことがあれば涙を流して泣き、楽しければ大声で笑う。自分達と同じように喜怒哀楽を表現することができた

誰かの為に笑って、誰かの為に怒って、誰かの為に行動できる。そんな〝人達〟であると

まるでガラス細工のように触れれば壊れてしまいそうな笑みを浮かべて姫神は説明した

彼女は、彼らを〝被害者〟と呼び、殺してしまった罪を背負っている

もう二度と能力(この血)で殺させはしない、そう誓い彼女は学園都市へとやってきたのだ


正直、垣根は初め信じることができなかった、吸血鬼などはチープなおとぎ話に出てくる架空の化け物だと思っていた

しかし、目の前にいる彼女がそんな嘘をつくメリットがなかった

誰にも知られず自分の巨大な力に怯える彼女を、救ってやりたいと垣根は静かに誓った


そう、垣根は救えると思っていた……


垣根「はぁ……はぁ……」


しかし、現実はそんなに甘いものではなかった


男「どうしたよ、さっきの威勢は!僕ちゃん怖いから許してぇってか?」

ゲラゲラと笑う男はどこか余裕を感じられた、片や垣根は、疲労でギリギリといった感じだった

初めは垣根が優勢だった。否、そう見えただけだった

手加減したわけではなかった、吸血鬼という情報を持っていたこともあり

『もしも』のことを考えて、相手の戦意を削ぐ戦い方をしたはずだった


垣根「俺がいうのもなんだが、テメェ本当に化け物だな……」

視線の先にいる男は垣根に斬り落とされた腕を嬉しそうに見ると、それを拾い上げ傷口へと近づけた

男「これでも痛みはある。爪と肉の間に電動ドリルを刺しこまれたくらいの激痛がな」

ジュブジュブ と傷口同士はまるで生き物のようにうねりながら、もとの一本へと戻っていった

どこかの映画好きが観れば、間違いなくB級と決めつけてしまいそうな光景を、垣根はただただ見ているしかできなかった

腕をコキコキと馴染ませるように動かし、男は納得がいったのかニヤァと笑うと二人の目の前からスッと消えた


垣根(消えた……いや違っ!)

突然、背後からの衝撃

吸い込まれるように垣根は、先ほどの男と同じ壁に突っ込んでいった

男「ゴォォォォル!!」

高らかに雄叫びを上げながら、男は両手を広げて走り回った

男「なんだよ、なんだよ!レベル5様だからって本気を出さないと、負けちゃうよぉ~。あっ、もしかして本気だった?ごめんねぇ」

馬鹿にするように嘲笑いながら、倒れた垣根に近付き頭を脚で踏みつけた

男「ン?血ノ匂イ……」

何かを嗅ぎ取ったのか、獣のように辺りを匂いが漂ってくる方を振り向いた


姫神「…………」

ポタポタと血が垂れる指先を男に向けた姫神が立っていた。逆の手には血がベッタリついたヘアピンを握りしめていた

垣根「やめ……」

薄れつつある意識を何とか保ちながら、垣根は姫神に向かって手を伸ばした

男「流石ァ!伊達 二 村ヲ崩壊 二 追イ込ンダ奴ハ躊躇イガ ネーナ!!」

皮肉たっぷりに叫ぶが、顔からは理性が残っていなく、完璧な野生の動物のように姫神へ駆けていった

姫神はこれで全てが終わる……。そう願うようにゆっくりと瞼を閉じた








              「そんなことさせないんだよ!」




姫神「えっ……」

突然、どこか懐かしい声で、しかし怒りを込めたその言葉にハッと目を開いた

そこに広がっていた光景は赤一色が広がっていた。触れれば骨も残さず燃やし尽くしてしまいそうな『火』の海だった

その火に照らされるように三人の影が姫神を見ていた

その内の一人の少女が近づいてきた

姫神「イン……デックス」

インデックス「助けに来たよ、あいさ」

インデックスと呼ばれる少女は、まるで全てを包み込んでくれそうな優しい笑みを浮かべ姫神を抱きしめた


「まさか、本当にいたとはね……これは老後のいい話のネタになるよ」

二メートルはあろう長身の青年は煙草を咥えながら、火の海を静かな目で見つめていた

姫神「垣根くん!」

そう先ほどまで垣根が倒れていた場所にまで炎が広がっていたため、慌てて姫神は駆けだそうとした

「少年なら無事です」

その声を聞いて、足を止めた姫神は後ろを振り向いた

すらりと伸びた脚、長く一本にまとめた髪

そして二メートル以上ある日本刀を持った女性の肩には垣根が抱きかかえられていた

慌てて自分に向かって駆け出す姫神を見て、女性はゆっくりと垣根を地面に降ろしてやった


それに近付くとすぐさま垣根の顔に自身の耳を近づけた姫神は、息をしているか確認しだした

姫神(良かった。息はしてる)

服の上からでもわかる酷い傷を負っているものの命に別状がないとわかると、ホッとしたように顔を少しだけ緩ませた

それを見て安心したのか、インデックスは後ろに立つ二人の仲間にニッコリとさせた笑顔で言った

インデックス「すている・かおり、ありがとう」

まるで子供にお礼を言われて照れている両親のような優しい微笑みで『聖人』神裂火織・『魔術師』ステイル=マグヌスは笑った

少ないですが今日はここまでです

明日もまた、この時間に来ます

乙だァ

それでは今夜も投下していきます


しかし、そんな穏やかな時間もすぐに終わりがやってきた

ドバァァァァァ!

急に炎の勢いが増し、辺り一面に散らばった

その中央に立っている男を見て、ステイルは多少の焦りを見せながら皮肉を込めて声を掛けた

ステイル「フン、随分スッキリしたじゃないか……」

リーダー「殺す。コノ傷ガ治癒シタガ最期。オマエラ全員を殺してやる……」

理科の授業で見かける人体標本のように皮膚は爛れ、肉を剥き出しにさせて

肉の焦げた嫌な臭いを放ちながら、男はペタペタとインデックス達に向かって歩いてきた


ステイル「残念だけど、僕たちが追っているのは君みたいな下っ端じゃないんでね……悪いけど、消えてもらうよ」



「Fortis931(我が名が最強である理由をここに証明する)」



そう静かに彼の魔術名を名乗ると、煙草を吹かし穏やかな笑みで軽く胸で十字を切り、まるで死刑を告げるようにいい放った



  


  ―――炎よ(Kenaz)


           巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)―――







ステイルは、手にした炎の剣を、こちらへと歩み寄る男を目がけて振るった

ゴォォォォォォォォォォ

地獄の入口への鍵を思わせる灼熱の剣は男の体を飲み込んだ

『聖職者』ステイル=マグヌスは、黙ったままソレを見届けて、静かに煙草の煙を吐いた

インデックスと神裂も、祈りを捧げるように静かに手を合わせた


ベタッ ベタッ……


確かに聞こえたコチラへ向かって歩いてくる足音に、ステイルの背筋は凍りついた

ステイル(馬鹿なっ!)


かませ技キターーーー!


炎のカーテンから姿を現したのは、左腕は肩から下は炭と化したのか無くなり、ところどころ焦げた肉から骨が剥き出しにさせながらも

殺意・殺戮・惨殺を目的だけで己を保つ男はゆっくりと足を交互に動かしステイル達に近付いてきた

男「シュゥ……シュゥ……」

もはや喋ることさえなくなった目の前の者は本当に〝人間〟と言っていいのだろうか、そんな疑問を抱きながら神裂は顔を強張らせた

炭に近い黒焦げとなった男は口から黒い煙を吐くと、喉を焼かれた為か呂律が呂律が回らない話し方で何かを呟いた

「なじぇ……だ」



男「なぜだあぁァァァァァァァァァ!!!」


辺り一面に響くその怒号はビリビリと空気を伝ってステイル達の動きを鈍らせた

ステイル「驚いたな……。まったく、まるで悪い夢を見ているみたいだ」

目の前の人間を見て、出来の悪いホラー映画を見ている気分に陥ったステイルは咥えていた煙草を思わず落としてしまった

男「なぜ傷が修復しない!!俺はカインの末裔だぞ……なのに」

自分の肩から下が無くなったのを見て、男は傷の修復が遅いことに焦りを覚えた

それを見たステイル達はふぅ……と胸を撫で下ろした


神裂「一時はどうなることかと思いましたが、どうやら本当だったみたいですね」

そういうと神裂は、今回の件を自分達に任せた少女から受け取った資料を取り出した

『現存するカインの末裔は〝七人だけ〟。他は、デキの悪い人形(コマ)にすぎず火に弱い。
  そして、その者たちと行動を共にする魔術師が一人』

たったそれだけの情報を手に彼らは学園都市にやってきた

ステイル(でも、人形でこのしぶとさは予想以上かな……)

目の前を不気味に立つ男の変わり果てた姿を見て驚いた表情をさせた



そんな、ステイル達を称賛するように


パチ パチ パチ パチ……


どこからともなく、乾いた拍手が響いた

「いやー、いいもの観せてもらいました」

その声を辿るとビルの上から見下ろすようにステイル達を見ている二つの人影があった

一人は、闇を連想させるほどの真っ黒なマントに身を包み、微かに見える口元を不気味に歪ませて笑っていた


そして、もう一人。マントの男の傍らでジッとインデックス達を睨む者がいた

インデックス「あいさ!」

髪を赤黒く染めた青年の両手に抱きかかえられた姫神の姿がインデックス達の目に飛び込んできた

神裂「そんな筈はありません……現に彼女はココに」

青年の腕の中で気を失っている姫神を見て、神裂は背後に姫神の気配がある場所を確認した

モヤ モヤ モヤァ

そこには煙のように歪んだ姫神の姿があった


ステイル「蜃気楼ってわけか……。それも、この僕を騙せるほど強力な」

それを見て忌々しそうに呟きながらマントの男を睨んだ

マントの男「ご名答。流石はステイル=マグヌス君!といったところですか」

身を乗り出したマントの男は称賛するようにステイルに向かって笑いかけた

そんな彼らのやり取りを見ていた、哀れな姿へと変わってしまった〝人間〟が口を開いた


男「おぉ、我らが主。どうか、わたくしめにご慈悲を……」

助けを求めるように、赤黒い髪を持つ青年に手を伸ばした

青年「心配するな、貴様はよく働いた。いま楽にしてやる」

それを聞いたステイル達は、それぞれ武器を構えた

しかし、赤黒い男は魔術を使うそぶりは見せず、その代わり爪先を一度だけ鳴らした

その行動の直後、砂で作られた彫刻が崩れるように男がいた場所には灰の山だけが残された

その光景を見たインデックス達にゾクンッと嫌な寒気のようなものが立った


彼等の本能が奴は危険だと叫んだ。今まで出会ってきたどの人物よりも冷たいものが、彼から伝わってきた

能力者や魔術師といった括りで言い表せない人間を超越した存在『カインの末裔』

あの男のような人物があと六人もいるのかと考えたステイルは

ステイル「まったく穏やかじゃないね……」

最悪の想定を噛み潰すように、ギリッと歯を鳴らした



「待ちやがれ……」


突然、背後から叫び声が聞こえたのでインデックス達は思わず背後を振り返った

マントの男「おや、驚きました。まだ立てる力があったとは」

想定外ですっと嬉しそうに笑いながら、フラフラと立ち上がった垣根を見た

垣根「返せ……姫神を……秋紗を返しやがれぇぇぇ!!」

ブワァァァァ

垣根の怒号と共に辺り一面に鋭利な刃物のような突風が吹き荒れた

神裂「ここは危険です」

素早くインデックスを抱きかかえると近くの物陰へと隠れた


マントの男「そう慌てなくとも、貴方の役目はちゃんと用意してますよ……。アディオス、垣根帝督君」

そう告げるとマントの男たちは一枚の紙切れを投げ落とすと煙のように消えた

それを、ただただ見ることしかできなかった垣根は、ぁぁ……と呻くような声が漏らしながら誰もいない虚空を見上げた


垣根「あいさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


膝から崩れ落ちた垣根は、マントの男が消えたビルの屋上を仰ぎ見て一帯に響く声で叫んだ


インデックス「………………」

誰も彼に声を掛けるものはいなかった。いま彼に触れたところで、慰めにもならないと悟るように

そんなか、神裂は上空に舞うマントの男達が落としていった紙に手を伸ばした

神裂「こ、これは……」

ヒラヒラと舞い落ちてくる紙をパシッと掴みとり内容を確認すると神裂は驚愕した

そこに書かれていたものは


『超能力者の者達に告ぐ。諸君らの命、我ら〝七血衆〟が貰い受ける』


これから起こる惨劇の舞台への案内状だった


――――――――
――――――
とある工場跡地

「ククク……」

暗闇の中で佇む一人の男がいた。その男は、全身を黒いマントで身を隠し口元だけが微かに見えていた

男は何やら分厚い書物を読んでいたが、傍らで寝ている少女に視線を移すと楽しそうに笑った

そんな彼に近付く一つの影があった

「えらく機嫌が良さそうだが、何がそんなに可笑しい?」

髪を赤黒く染め、整った顔立ちを怪訝そうに歪めて青年が男の隣に立った

「いえ、やっと彼女を手に入れたので、……つい嬉しくなりまして」

男は少し照れたように、後頭部を擦って青年の顔を見上げた

「ふん、その女に何の利用価値があるか知らぬが、我々の邪魔だけはするな」

そう言い放つと、青年はドアの方へと歩いて行った

それを見送るように、青年の背中に向かって

「えぇ、肝に銘じておきます」

と小さくお辞儀をした

バタン……

「…………」

ドアが閉まったことを確認すると、誰にも聞こえない声で

「安心して下さい。今はその時ではないので、今はね……」

怪しげな雰囲気をまといながら、地面で気を失っている少女に近付き見下ろすように眺めた

「姫神秋紗、『日女神(ヒルメノカミ)』は手中に収めた。あとは……」

懐から一枚の写真を取り出すと、それを見て不気味にニタリと笑った

そこには『学園都市 第二位』である少年の姿が写っていた







科学と魔術が交差する時、二極の〝呪血〟を賭けた物語が始まる








という訳で第一章が終わりました
この物語のやりたい事が少しだけ出せた
では、また明日

おお、良い展開!

こっから、どう着地するか気になる

レスありがとうございます
それでは、今日も投下していきます

ポツポツ ポツポツ

雨が何粒か顔に当たったのを皮切りに、次第に強さが増し四人を濡らしていった

垣根「…………」

神裂「……!?」

雨で肩が濡れるのを、お構いなしに無言で神裂の持っていた紙切れを乱暴に引ったくると三人の間を抜けるように歩いて行った

インデックス「待って!……その体で動くのは危険かも」

今にも倒れてしまいそうな、誰から見ても衰弱している体を見てインデックスは叫んだ


垣根「どこの誰かは知らねぇが、助けてくれたことは感謝してる。だが、今日は勘弁してくれ……」

最後に、すまねぇとだけ呟くと雨が降り続く街の中へと消えていった

インデックス「あの人、泣いてた……。自分の非力さを恨むように声にも出さず、泣いてたんだよ」

一瞬、通り過ぎた時の少年の顔を思い出して、悲しそうにポツリと言った

それを見届けるしかできなかった、インデックス達を攻め立てるように、雨の勢いは増していった


ザァー ザァー ザァー




その日の夜

ファミリーサイド

打ち止め「わーい、わーい!今日は久しぶりに、あなたと食事ができて嬉しいなって、ミサカはミサカは満面の笑みをあなたに向けてみたり!」

ソファで項垂れている一方通行は、ピョンピョンと飛び跳ねている打ち止めを恨めしそうに見て口を開いた

一方通行「ガキィ……今日ぐらい静かにしてろォ」

その声からはいつもの強い口調の面影はなく、弱々しく消えてしまいそうな声だった

その声を聞いた番外個体は、ソファの淵に座り一方通行を見下ろす形で口を開いた

番外個体「ギャハ☆今のあなたなら、ミサカでも殺せる気がしてきた」

しかし、悪態をつくわりにはキンキンに冷えた缶コーヒーが、一方通行からは見えない手の方に握られていた


その微笑ましい光景を見て、黄泉川愛穂はプッと吹き出しながら皿を並べ終えた

黄泉川「打ち止め、ご飯の準備ができたじゃんよ。桔梗を呼んできて欲しいじゃん」

それを聞き打ち止めは元気に返事をすると芳川桔梗の部屋へテッテッテッと走って行った

打ち止めが離れたのを確認してから、番外個体はそっと机の上に持っていた、缶コーヒーを置いた

それを見た一方通行は気怠そうに、目だけを動かし番外個体を見た

一方通行「……何の気まぐれだァ?」

そういいながら、ゆっくりと起き上がるとノブを開けグビッと飲み込んだ


番外個体「せっかくのご飯の時間なのに、ひとり暗い顔されているとミサカまで食欲なくなっちゃうのが嫌なだけ」

一方通行「悪かった……」

そう呟くと残りを一気に飲み干した

いつもの彼とは雰囲気が違うからか、番外個体は照れ臭そうに頭を掻いて

番外個体(あぁぁ~~!こんなのミサカらしくないのにぃ!!)

と悶えながら、料理が並ぶテーブルへ歩いて行った

一方通行も面倒臭そうに、立ち上がると団欒の待つ台所へと歩き出した


――――――――――
――――――――
――――――

「ごちそうさまでした」

一方通行は食後の一杯をすすりながら呟いた

一方通行「オマエら、明後日は用事あンのか……?」

打ち止め「ううん、ないよってミサカはミサカは暗に暇だよって答えてみる」

番外個体「ミサカはねぇ、あなたにする悪戯を考えるのに忙しいからパス」

二人の少女は、別々の返答をしながらテレビに釘付けになっていた


二人が心を躍らせて見ているのは、白いカブトムシが主人公のアニメ番組だ

そんな二人の後姿を見て呆れたように頭を掻くと

一方通行「そうか、オマエはついてこねェンだな。じゃあ、打ち止めは予定を空けとけ」

二人の前に一冊の鮮やかな冊子を放り投げた

そこには『七夕の日は出店においでよ!~七夕祭~』と書かれたパンフレットだった

表紙にはポップな絵で描かれた彦星と織姫が笑っている何とも可愛らしいものだった

打ち止め「えっ!あなたと一緒にこれに行けるのってミサカはミサカは期待を膨らませてみたり」

一方通行「最近、働き詰めだったからな。カエル爺に文句いってやったら、
     二日の休暇をよこしやがった。そンなとこでもガキには良い暇つぶしになるだろォ」

どこかぶっきらぼうに、しかし申し訳なさそうに打ち止めを見た


番外個体「あっ、やっぱりミサカも……」

慌てたように番外個体は一方通行の方を見た。しかし、それをからかうように笑うと

一方通行「あァ?オマエは、俺への悪戯を考えるのに忙しいンじゃなかったかァ?」

番外個体「うっ……」

痛いところを突かれたのか、一方通行へ言い返せず黙り込んでしまった

打ち止めは呆れたように溜息をつくとペラペラと冊子のページをめくり出した

一方通行「…………」

少しからかいすぎたのだろうかと少し後悔をした一方通行は頭を掻きながら口を開いた

一方通行「どうせ悪戯を考えるならよォ。本人を前にした方が思いつきやすいンじゃねェか?」

彼も素直でないのか、いいから付いて来いとは決して言えなかった

番外個体「本当にミサカも行っていいの?」

ゆっくりと顔を上げ一方通行の顔を見上げた

一方通行「何回も言わせンな……オラ!行きてェ所を決めとかねェと当日困るだろォが!」

打ち止めが読んでいる冊子を指差して怠そうに言うとズズゥーっとコーヒーをすすった

指差す方向に気付くと、先程まで暗かった表情がだんだんと明るくなっていき

番外個体「ミサカも見る!」

許可が出た喜びからか声を弾ませて打ち止めの横に座ると一緒に冊子を見始めた

二人の同じ顔を持つ少女は、仲良く冊子をめくりながら、行きたい場所を話し合いだした


黄泉川「素直じゃないじゃんよ。どうせ一ヶ月以上も前から休暇の申請をしてたんだろ?」

一方通行の背後に立つ黄泉川は呆れたように声を掛けた

一方通行「チッ……」

黄泉川「ふふ……」

照れ隠しからか一方通行はギロッと鋭い睨みを向けて舌打ちをした

しかし、黄泉川には通じていないのか軽くあしらうように微笑みかけた


そんな団欒の終わりを告げるように、



ピンポーン



突然の呼び鈴に、打ち止めと番外個体は肩をビクゥと震わせた

黄泉川「いったい誰じゃんよ。こんな夜中に」

夜中といっても、まだ夜の七時を過ぎたところなのだが、この街は学生が多く締めているため、夜中の来訪者というのは珍しかった


面倒臭そうに玄関へと歩いていく黄泉川が気になるのか、一方通行は玄関の方をジッと見たままコーヒーをすすった

ピンポーン

黄泉川「はいはい、いま開けるじゃんよ」

二回目のベルに眉をひそめて、掛かっていた鍵を戻しドアを開けた

黄泉川「えっ……」

ドサッと人が倒れる音が、雨のBGMによって掻き消された

しかし、警戒をしていた一方通行には確かにそれが聞こえた

飲み終わったコップを乱暴に机に置き、チョーカーのスイッチをオンにし玄関へと急いだ

一方通行「…………」

一方通行の見た光景は―――


今日の投下は以上です
明日もまた、九時半に来ます

少し早いですが投下していきます


ザァー ザァー


ドアが全開になっている為か風に吹かれた雨が玄関を少しずつ濡らしていく

一方通行「何があった……」

しかし、黄泉川を濡らしていたのは、それだけではなかった

赤。ただの赤ではなかった。どす黒いそれは、顔や服などにベタベタと付いていた

背後に一方通行がいるのを確認すると、先ほどの笑顔から一変し怒りを滲ませた顔で振り向き

黄泉川「なに、ボヤァと突立ってる!早く病院に連絡しろ!!」

彼に怒りを向けても仕方がないのは分かっていた。しかし、自分の胸の上で倒れて気を失っている少年をここまで追い込んだ奴が許せなかった


黄泉川「何があったら、ここまでボロボロになれるじゃんよ……垣根」

何とか息をしている垣根を起こしあげ、肩を貸して引き摺るように長身の垣根を部屋の中へと運んだ


中では、玄関から聞こえてきた怒声に驚いたからか、それとも血塗れで戻ってきた黄泉川を見たからか、オロオロとした様子で二人の少女は座っていた

その隣で表情を変えず、ただただ状況を飲み込んだように黄泉川の顔を見る芳川がいた

黄泉川「打ち止めと番外個体は湯銭を、芳川はここに布団を敷いて欲しいじゃんよ」

打ち止め「う、うん」

番外個体「どういうことか、あとでミサカ達にも教えてよね」

芳川「悪いけど、私の専門外だから頼むわね」


それからと黄泉川は一方通行を見て優しく微笑んで

黄泉川「さっきは怒鳴って悪かったじゃん。お前の力を貸して欲しいじゃんよ?」

落ち着きを取り戻したからか、怒りのこもった目ではなく、信頼するように温かい眼差しで一方通行を見た

そんな目を向けられたからか、沈黙を破るように、ハァと溜息をつくと

一方通行「ココは病院じゃねェ。応急処置程度しかできねェぞ」

そういいながら、打ち止め達の怪我を直ぐ治せるように、鞄に携帯している医療道具を取り出した

医療道具といってもメスや傷口を縫うといった道具はなく家庭にあるような道具に毛が生えた物しかなかった


一方通行(ま、無いよりはマシだな……)

垣根の体は全身に何かで斬りつけた古い傷や、まだ比較的に新しい傷などがあった

十分に殺菌した後、自身の能力で傷口から出る血を支障が出ない程度に操作し、消毒液を含ませたガーゼを貼り、それがズレ無いように包帯で巻く

という一連の作業を何十回と繰り返したが、二人でやったからか短時間で終えることができた

しかし、まだ塞がっていない傷からは血が包帯の下からジワァと染み込んできて城を赤く染めていった

頼みの綱である一方通行の能力もバッテリーが切れかけていて、これ以上は望めそうになかった


黄泉川「ふぅ……。一方通行、疲れているところ悪かったじゃんよ」

心配そうに見つめていた打ち止め達の横で、ぐでーっと倒れこんだ一方通行を労った

応急処置は済ませた。あとは、さっき呼べていなかった病院への救急の連絡をするだけと携帯を取り出した。その時

ガッ

携帯電話を持つ方の手首を待ったをかけるように、力強く握りしめる手が出てきた

その手は先程まで気を失っていた垣根のものだった


黄泉川「垣根!気が付いたじゃん?」

自分の手首を握っている手なんか目もくれず、垣根の顔を覗き込んだ

垣根「ハッ!下手くそな治療のおかげで、嫌でも目が覚めたぜ……」

弱りきった笑みを浮かべ、一方通行と黄泉川をそれぞれ見た

打ち止め「ちょっと、今の言葉にカチンときたってミサカはミサカは憤慨してみる」

番外個体「うん、今のは流石にミサカも聞き捨てならない」

二人の少女は、ついさっきまで治療に専念していた二人の姿を間近で見ていたからこそ、垣根の発言に怒りを覚えた

しかし、一方通行も黄泉川も気にしていないのか、眉一つ動かさず垣根を見た


一方通行「そンだけ悪態吐けるなら、大丈夫ってことだろォな」

黄泉川「なにが、あったかは知らないけど、無事で何よりじゃんよ」

黄泉川に至っては、ホッとしたように笑っていた

二人の少女は納得いかないような顔をして、風呂の準備を片手に脱衣所へと向かった

それを見送った黄泉川は、さてとっと呟くと真剣な面持ちで垣根を見た

黄泉川「で、なにがあって、そんなにボロボロになったじゃんよ」

手当してみて分かったことがあった、これはスキルアウトとかそういった生易しい事件のものでないと

彼女は、教師の傍ら『警備員』もしているので、ある程度の酷い怪我なども見てきた


しかし、そのどれとも当てはまらない一切の躊躇を感じられない、傷跡が物語っているものは


殺し―――


過去、目の前の垣根に深手を負わされた事を思い出す

黄泉川「また、危ないことに……」

垣根「転んだんだよ。ご丁寧に包丁の散らばってる道でな」

黄泉川の言葉を制止するように、垣根は嘲るように笑った

垣根「いやぁ~、医者にかかるのも面倒だからよ。ここなら無料で診てくれるだろうと踏んでたが、まさか中途半端で終了とは思ってもみなかったぜ」

黄泉川「…………」

垣根の口から吐き出される毒を、黄泉川はただジッと聞いていた


垣根「それに、さっきのも何だよ?あの二人みたいに、俺にキレて家から追い出せばいいじゃねぇか。やだやだ、これだからお人好しは……」

その瞬間、ずっと黙っていた一方通行が、垣根の頬目がけ拳を突き刺した

黄泉川「一方通行!!」

一方通行「…………」

一方通行は首をコキコキと鳴らすと、乱暴に垣根の襟首を掴むと杖でバランスを保ちながら玄関へと向かった


時折、垣根は悪態つきながら暴れるが、血を流しすぎたためか、手に力が入っていなかった

一方通行は、玄関のドアを開け、降りしきる雨の中、外へ出ようとしたとき

黄泉川「一方通行、お前のことだからわかっていると思うけど、無茶はしないで欲しいじゃんよ」

遠まわしに垣根を任せたという黄泉川の顔を見て

一方通行「ガキ共の世話を頼む……」

そう告げ垣根と共に外へと出て行った

黄泉川「また子供に助けられたじゃんよ……」

そう呟きながら静かになった部屋の中へと入っていった



バシャッ


マンションの廊下にできた水たまりの上に一方通行は乱暴に垣根を放り投げた

一方通行「場所は作ってやった。話があンならさっさとしろ……」

冷えきった目で、垣根を見下ろす一方通行。彼は最初から知っていた、垣根の目当てが〝第一位〟の自分であると

だが、同時に驚きもした。学園都市 レベル5〝第二位〟である目の前の少年がまるで、赤子を捻るように傷ついた姿で現れたことを

上層部の何者かの仕業か、それとも、この街の者ではない〝魔術師〟の攻撃か

色々と考察するが、彼をここまでできる人間が、この街いるとすると。――次は自分

そんな、考えが浮かんだ。なので、もしものことを想定し、あの場を離れることを優先させた


〝第一位〟と〝第二位〟が一ヵ所に集まっていると、相手に知られるほど厄介なことはなかった

なので、廊下(ここ)にいつまでもいた場合、巻き込んでしまう

彼がやっとのことで手に入れた平穏が音を立てて崩れてしまうと。彼は内心焦るが、垣根に知られないように振る舞った


垣根「助けてくれ……」


一方通行「……!?」

垣根はゆっくりと体勢を正し、正座をすると地に頭を打ち付けた

垣根「力が必要なんだ……。どうか力を貸してくれ」

一方通行は目を一瞬目を見開き動揺した

あのプライドが高い垣根帝督が、ましてや序列が上の自分に対し頭を下げていたからだ

一方通行「なにがあった……」

垣根は頭を上げ、俯きながら口を開いた


――――――
―――――

一方通行は、黙々と垣根の話に耳を傾けた

『姫神秋紗』という少女、その所有する『吸血殺し』という能力。そして、『吸血鬼』という未知なる存在

オカルト過ぎて、正直ついていけなくなりかけた

しかし、垣根の目は真実を語っているような眼だった

そして、思い出す今朝のことを――――

採血に怯える少女がいたことを、その少女が姫神だったことを

そして、能力を抑えるペンダントを持った一人の妹達を叱りつけていたことを

一方通行(こんなくだらねェ、クソッたれな悲劇を生んだのは俺のせいじゃねェか)

なぜ、あそこで疑問を持たなかった。なぜ、あそこで早めにペンダントを届けさせなかった

なぜ、なぜ、なぜ……後悔という波が一方通行を襲う


一方通行「すまねェ」

垣根「あ゛ぁ……」

目の前の少年は何を言い出すんだという顔をしながら、フラフラと立ち上がった

垣根「なんだ?オカルトな話を聞いて頭でも狂ったか?」

いつものふざけた調子で一方通行をおちょくる

しかし、一方通行はそれを無視するように、真っ直ぐ垣根を見つめる

一方通行「オマエも気付いてンだろ……。俺の責任であの女が狙われたってよォ」

淡々とした調子で話す一方通行を見て

垣根「ふざけんな……。ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!!!」

我慢の限界だった。確かに一方通行を恨んでいないといえば嘘になる


だが、一番に許せなかったのは

垣根「テメェが原因だぁ!?じゃあ、何か?俺が負けたのも、姫神を連れ去られたのも全部、テメェの責任なのか?ちげぇだろぉがよ!!」

弱い自分だった。きっかけはどうあれ、最終的に護れなかった自分の責任だ

しかし、目の前の少年は、それすらも背負うつもりでいた。それが許せなかった

垣根「テメェを殴った分だけ強くなるってんなら喜んで殴ってやるよ……。だが、そんな都合のいいことが起こる筈がねぇ」

だから、彼は―――――

垣根「テメェは、最強(ちから)さえ貸してればいいんだよ……」

力を集める――――強敵に立ち向かえるぐらいの仲間(ちから)を



「ふぅー、なんとか間に合った」


そんな彼に導かれるように―――

垣根「上条……なんでテメェが!?」

上条「助けがいるって聞いてな」

まず一人目の仲間となる少年が現れた

上条「ほら立てよ。行くんだろ、姫神を助けに!」

ここから始まる反撃(ゲーム)に向けて、力を持つ者(かれら)は少しずつ垣根の下に集う


今日の投下は以上です

明日もこの時間帯に来ます

相変わらず面白い!

垣根も一方通行もいい味出してるな~
上条さんのターンはまだでせうか?

上条さん来た!!
これで勝つる!!

カイン一族は六人いるからあと三人必要だな……ソギーは決定として後2人は?

ヒーロー来たか!

こんばんは
今頃ですが
>>294
×あの男のような人物があと六人もいるのかと考えたステイルは
○あの男のような人物が、他にあと六人もいるのかと考えたステイルは

すいません、わかりにくくて

それでは、投下していきます


「……………」

垣根の満足そうな笑みを見て、一同は呆れているのか驚いているのかよくわからない顔をさせた

しかし、一方通行だけは興味なさげに、缶コーヒーをすすりながら近くの高級そうなソファに腰かけた

上条「えーっと、ここはどこのパーティー会場でせうか?」

上条は広々とした大広間の中央にポツンとあるソファに居心地悪そうに垣根に質問した

垣根「いいだろ?もう少し狭くても良かったんだが、ホテル側が是非といってきやがってな」

垣根は自分の身分を提示した瞬間、態度を一変させたホテルマンの顔を思い出す


それを聞いた上条・ステイル・神裂は、レベル5という人間は自分達とは次元が違うことを痛感した

そんなことは、お構いなしにインデックスはニヤニヤと不気味に笑う一方通行から渡されたメニュー表を見てはしゃいでいた

インデックス「ねぇ、好きに注文していいんだよね?」

知らぬ者から見れば、ホテルに浮かれる子供に映るだろう、だが本当の彼女を知る三人は、その言葉を聞き嫌な汗をかきだした

上条「イ、インデックスさん……流石に長旅で疲れただろう?あまり食いすぎて胃に負担をかけないようにな」

垣根の財布が壊れる。そう脳が告げている危険信号に上条は、比較的リーズナブルなメニュー表を差し出した


しかし、その行動に怪訝そうな顔をさせた垣根が口を開いた

垣根「おいおい、そんな安もんを助けてくれた恩人に食わせる気かよ……
   インデックスだったか?遠慮はすることはねぇ、好きな物を好きなだけ食え」

その言葉を聞いた一方通行は、腹を押さえて笑い転げた

絶対に楽しんでるだろコイツという目で上条たち三人は、これから起こるビックリショーに恐怖しながら、自分たちもメニューを見だした

垣根「で、何が食べたいか決まったか?」

難しい顔をさせてメニューを睨んでいるインデックスに微笑みながら声をかけた

悩みに悩んだという顔をさせたインデックスは、垣根の顔を見て

インデックス「決まったんだよ。このメニューに書いてある品物全部食べてみたいかも」

笑顔で爆弾を投下した


垣根「えっ……」

何かの聞き間違いか。怪我による後遺症か。垣根は自分の耳の調子を確認しながら、もう一度インデックスの方へ向き直った

インデックス「まずは、このメニューに書いているもの全部を食べたいんだよ」

彼女は目を輝かせながら垣根の返事を待った。何の悪びれもなく、素直に正直に注文をして

垣根「っと、ハハハ。あれか英国式のジョークってやつか?そうだよな、こんなに小さい子が食えるわけ……」

食えるわけない。そういいかけた時、チラッと上条たちが視線の中に入った

彼らは頭を抱える者、手を合わせて謝罪する者、それぞれの反応を見せた


インデックス「ジョークじゃないんだよ。私は至って真面目に聞いてるかも」

頬をプクーッと膨らませて自分に抗議をするインデックスを見て、垣根は顔をひきつらせながら

垣根「よ、よし。本当に食べきれるか俺が確かめてやる」

ほんの興味本位、それが命に関わることがある。彼もそのうちの一人になると上条は確信した


三十分後……そこには、大量の皿の山がそびえ立っていた

数にして、およそ100種類の料理は運ばれると同時に彼女の胃袋へと消えていった

まるでマジックで消したように。学園都市風にいうと座標移動を使ったように綺麗に米粒一つ残さず食べきった


垣根「ま、マジかよ……」

目の前の小柄な少女のどこに入ったのか、それが知りたいという目で垣根はただただ茫然としていた

インデックス「まだ足りないけど、今はこれで満足かも。ありがとう、ていとく」

口の周りに付いたケチャップを拭きとりながら、インデックスは垣根に柔らかい笑顔を向けてお礼を言った

垣根は、無言で立ち上がると上条の前へとやってきた

上条(やばい、これは確実に怒ってる……だからといって、上条さんには払えませんことよ)

大量に積まれた高級料理の数々に、自分の小遣いどころかステイルや神裂の手持ちと合わせても払えない金額に怯えた


垣根は勢いよく上条の肩を掴むと、こう言い放った

垣根「おいおい、なんだよあの大食らい少女はよぉ!あれか、あれも『魔術』の一種なのか?」

まるで、自分の知らない世界に感動した子供のような反応を見せる垣根に、上条は呆気にとられた

上条「え、怒ってないのか?」

恐る恐る伝票に明記されている、0が6つ並んだ金額を指差した

垣根は気にする素振りを見せず、あろうことかデザートのメニュー表まで取り出しインデックスに話しかけた


垣根「おい、これ全部食べてみろって言われたら食えるのか?」

もはや興味という範囲を超えたその行動は、上条たちを驚かせた

一方通行もここまでは予想範囲だったのか興味なさげに見ていたが、少し興味が湧いたらしく食い入るように二人のやり取りを見つめていた

インデックス「余裕なんだよ!……でも、本当にいいのかな?」

こちらも料理ほどにないにしろ、結構な値段のするデザートに流石のインデックスも遠慮がちになった

それを察してか、一方通行がハァと溜息をつきながら、こう提案した


一方通行「だったら次は俺が払ってやる。ガキ共にしか使う機会がねェしな」

これなら文句ねェだろ?というと早速、店員に注文をしだした

次元というより頭の螺子が何本か抜けているんじゃないだろうかという上条たちの心配をよそに

一方通行は、またコーヒーを注ぎ静かに飲みだした

しかし、それを見て一人、垣根帝督は不愉快そうな顔をして一方通行を睨んだ

垣根「おい、なに横から入ってきて格好つけてんだよ!何か、第二位の俺の金の心配でもしてるのか?さすが第一位様は違うぜ」

一方通行「オマエの財布なンざ、気にもしてねェよ。ただ奢ればいいと思ってる、三下に教えてやっただけだ」

また喧嘩が始まったと上条は頭を抱えながら二人のやり取りを見ながらそんなことを思った


ステイルはみんなとは少し離れたところで、ふぅーっと一服をし

神裂は困惑した表情をさせて学園都市製のコーヒーメーカーに苦戦をしていた

ボーイ(なんだこのカオス……)

注文されたデザートを持ってきた、営業スマイルを貼りつけたベテラン店員は

心の中でそう思いながらインデックスの前に次々とデザートの皿を並べていった

インデックス「どんどん持ってくるんだよ!」

気分を良くした彼女は運ばれてきたデザートを飲み込むように胃袋へと収めていった

ボーイ(ここの仕事、辞めようかな……)

次々に空になっていく器を片付けていきながら、店員はそう思うのであった

少ないですが、今日の投下は以上です

明日もまたこの時間帯に来ます


てか、ここまでインデックス大食いじゃないよ……
これくらいだったら上条さん養えてないよ……

>>352
すいません、かなり盛りすぎました

では、今日も投下していきます


一時間後、ようやく落ち着きを取り戻したのか

垣根たちは食後のコーヒーを飲みながら、インデックスたちの話に耳を傾けた

インデックス「まず説明する前に〝この本〟なんだけど」

そういい修道服のどこに入っていたのか不明だが、古ぼけた一冊の本をテーブルの上に置いた

上条「なんだこれ……なんか禍々しいオーラを放ってるように見えるけど」

インデクッス「安心して、とうまが触れても大丈夫なものだから」

これは右手で払い拭うことのできるオーラではなく、雰囲気がそう思わせてだけなのだが、上条は触れるのを躊躇った


すると少し離れたところで一服をするステイルが本を指差して口を開けた

ステイル「それは『ノドの書』といってね、いうならば吸血鬼の聖書みたいなものさ」

煙草を咥えながら、忌々しそうに本を見つめた

上条「吸血鬼の聖書!?」

垣根「…………」

一方通行「…………」

驚いている上条以外の二人は興味深げに埃をかぶった古ぼけた本に視線を落とした

上条「聖書って吸血鬼にもあるのかよ!」

驚愕したように上条はノドの書と呼ばれる本を見つめながら叫んだ


ステイルは当たり前だというように呆れた様子で煙草を吹かすと

ステイル「聖書といっても外典にあたるんだ。ある人物の出生に関わる大事な書物さ」

そういうと、まるで子供に紙芝居を見せるようにページをめくりながら、スラスラと話し始めた

ステイル「君らでも、名前ぐらいは聞いたことがあるはずだ。アダムとイヴという最初の〝人間〟を」

垣根「たしか、旧約聖書だったか……」

垣根は独り言を呟くようにボソッと小さな声で言った


ステイル「じゃあ、その二人には子供が、兄弟がいたことは知っているかい?」

垣根「おい!まさか、それって……」

垣根の言葉に反応するようにステイルはコクンと頷き、また話し出した

ステイル「そう。そのうちの一人が今回の議題になっている吸血鬼の祖『カイン』さ」

一方通行「じゃあなンだ、そのカインってのは人間だったっていいてェのか?」

沈黙していた一方通行が確認するようにステイルに尋ねた

ステイル「その通りさ……しかも人類最初の殺人を犯した罪人というオマケ付きでね」

そう言い放つと少し時間をおいて、フッと笑うと

ステイル「今から話すことはあくまでも、この書物上の話だと聞くことだ」

そういうと、まるで子供におとぎ話を聞かせるように、ゆっくりと話し出した



ステイルが話し終わると、新しい煙草を取り出すとそれに火を点け吸い出した

その場の空気が凍りついたようにシーンと、静まり返った

『四大天使のうち三体からの呪い』・『ガブリエルが示す救済への道』・『呪われた血を継ぐ十三の末裔』

――――そして、最初の殺人事件の被害者『弟のアベル』

これらのショッキングな内容の数々に、動揺を隠せないのか誰一人として話し出す者はいなかった

そんな中、一方通行は淡々とした様子でステイルを見た

一方通行「吸血鬼(ヤツら)に対抗する方法はあンのか?」

まるで、返ってくる答えを知っているような、一方通行はそんな表情をさせた


ステイル「答えはNOだ」

ステイル「ニンニクが、十字架が、奴らに効くと思っているのなら、そんな知識は今すぐ忘れることだ」

冷たく感じるステイルの言葉は残念ながら真実であった

カインの末裔という魔術師でさえ懐疑的になる存在、弱点どころか存在でさえ確認できていなかった

ステイル「火に弱いとわかっている駒(グール)でさえアノしぶとさだ。末裔となると……」

そのあとの言葉は絶望を意味するからか、ステイルは口に出さなかった

しかし、垣根は何かに気付いたようにハッと顔を上げて呟く

垣根「あるかもしれねぇ……」

弱々しくも、どこか確信したように垣根はポツリと口にした


その言葉にステイルは驚いたように目を見開き

ステイル「馬鹿なっ!吸血殺しを持つ姫神秋紗が連れ去られた現在、そんな方法なんて」

まるで、もう諦めるしか方法がないというように、垣根を否定した

垣根「簡単なことだろう?十三の氏族があったはずなのに、今じゃ七血衆と数が減ってやがる。てことは、何か方法があるはずだろう?」

インデックス「確かに、カインが姿を消してから同族殺しが頻発したと書かれているんだよ。でも……」

人間の私たちに、それができるのと言いかけたとき、垣根の含み笑いに遮られた

垣根「くくく……わざわざ超能力者(オレたち)を狙ってやがるんだ」

そういいながら、スクッと立ち上がるとインデックス達を見つめて


垣根「あんた達の力も貸してもらうが、相手が化け物なら、こっちも化け物級を揃えればいいだけだろ?」

超能力者(レベル5)―――学園都市の7人の頂点

一人の超能力者の力でも軍の戦力に匹敵するほど強力な力を持つ、そんな人間を七人揃えることこができれば

しかし、ここで問題が生じる

インデックス「でも、どうやって説明するつもり?吸血鬼が命を狙ってるよって説明しても誰も信用しないと思うんだよ」

ここは科学の街。教会はあっても、魔術関連の話を信用する者は皆無に等しいとインデックスは考えていた

垣根「伝え忘れていたが、すでに一名には接触済みだ」

彼はそういうと、机の上に置かれていたメモ用紙に1~7までの数字を書き、『交渉済み』・『決定』の二項目を書き出し

垣根「まず、こいつは交渉済みだ」

4の数字に書かれた交渉済みの所に○を付けた


一方通行「それであの傷か……」

この4という数字の示す人物に会った。それが表すのは一つ、垣根が相手なら話し合いでは解決はしないということ

どこか納得したように、一方通行は垣根の治療をした際の真新しい傷の真意を理解した

垣根「とりあえず、麦野の所に連絡先は置いてきた。あとはアイツしだいだ」

垣根は、必要最低限の知識だけを持って麦野の所に単身で乗り込んだ

それは、他の者が来たら被害が拡大するということと、もう一つ

垣根(アイテムを解散にまで追い込んだ本人が行くのが筋ってもんだろ)

インデックス達と別れたあと垣根は独自で調べ物をしていた


超能力者の位置情報の特定

初春飾利に要請も考えたが、余計なことに関わらせたくないと考え一人で動くことにした

結果は、第一位、第二位以外は検索することができた

欠けている番号は気にすることなく、垣根は順番に情報に目を通していく

その際、ある人物の項目が目に入った

垣根が『ピンセット』を奪取した事件のあと、アイテムが仲間割れにより解散寸前まで追い込まれた記事

それを見た垣根は『原子崩し』麦野沈利を優先すべき人物に決めた


話は簡単にはいかなかった。垣根の謝罪を聞くや麦野は怒りの表情をさせた

そんな麦野を浜面仕上、絹旗最愛、滝壺理后の三人は必死に宥めるよう努力した

能力を使わない暴力。その優しさが、現在の麦野の丸くなったことを表していた

ボロボロになりながらも、必死に頭を下げて助けを求める垣根を見て

麦野「帰って……」

そう呟き、部屋の奥へと消えていった

返事は聞けずじまいで、帰ることにした垣根の背後から


浜面「正直言ってテメェを信用したわけじゃねぇ」

けど、と浜面は続けた

浜面「あのとき、『体晶』の真実を教えてくれたことは感謝してる」

垣根「そぉかよ」

浜面は静かに雨の中を歩いていく垣根を見送った

守りたい者を救えた喜びと感謝、彼が垣根に声を掛けた理由はそれだけだった


そんなことを思い出していた垣根は、少し顔を曇らせながら人差し指と中指を広げてピースサインを作ると

垣根「次に交渉すべき相手は……二手に分かれて接触する」

どこにでもある安物のボールペンで3と5の数字を指差した。ステージは夜の常盤台へと移る

今日の投下は以上です

次回の投下は土曜日となります

それでは

おつおつ
先の展開が気になってドキドキする・・・

ところでインデックスは本気さえ出せばこんくらいは平気で食うと思うぞ
映画とか、映画の前日譚と銘打った某ゲームとかでの食いしん坊描写はここのと結構近いノリ

明日か!楽しみ!

>>367
情報ありがとうございます
映画はまだ見れていなかったので、嬉しい情報です

それでは、投下を始めます

垣根(第三位のことは、上条たちに任せておいて大丈夫なはずだ。問題は……)

雨の降る夜空を一人で飛び、ある意味で麦野以上に厄介な人物に会うために常盤台の寮へと向かっていた

常盤台中学には二人のレベル5が存在する

〝第三位〟最強の電撃使い『超電磁砲』 御坂美琴

そしてもう一人

〝第五位〟最高の精神系能力者にして最大派閥を率いる『女王』 食蜂操祈

彼女の情報は御坂よりは公には知られてないものの、常盤台を代表する一人だ

垣根が一人で交渉に行くのも、彼女の能力で厄介な展開にならないとも限らない

自然と垣根が一人で行くことで決まった。そこまでは良かった


垣根「どうやって、会うかだな……」

いくらレベル5が会いに来ましたといっても寮側が拒めば計画は丸潰れだ

こんなことなら、囮役で上条でも連れてくるべきだったかと思う垣根だったが

御坂「…………」

神裂・ステイル・インデックス・一方通行「……………」

うん、駄目だ。と思い直し上条は連れてくるべきでなかったことを改めて確信する

その筈だった

御坂・白井「…………」

インデックス・ステイル・神裂「…………」

上条「じ、じゃあ、美琴に白井。とりあえず、来てもらったのには訳があってだな」

一方通行(帰りてェ……)

タクシー兼心配でついてきた白井黒子が増えていたことは彼の予想外だった


寮前――

垣根「一つずつ部屋を確認していくのもありだが……」

リスクが高い。そのうえ常盤台の警備を前にして、そうやすやすと入れるものではない

と考える垣根はこれしかないといった顔で、すぅと息を吸い込むと


垣根「〝第五位〟食蜂操祈。出てきやがええええ!!第二位様が来てやったぞ!」


その瞬間、ジリリリリリリリリリリと警報ベルの音がけたたましく鳴り響いた

「なんですの!」

「なにごとですか!」

「どこからなの!」

寮内がざわつきはじめたことに、垣根はチャンスとばかりに堂々と正面切って寮へと歩き出した


寮の玄関まで辿り着くと、廊下を走り回る人や箒を竹刀のように構える学生が立っていた

侵入者の姿を認識できていないのか、キョロキョロする少女の脇を垣根は翼を広げた状態で堂々と横切った

垣根(俺の未元物質に常識は通用しねぇってか)

自身の能力の可能性がまた広がったことに満悦していると

少女たちの動きが急にぎこちなくなり、ゆっくりと階段に向かって歩いて行った

暫くすると、先ほどまでざわついていた寮内はシーンと静まり、まるで何ごともなかったかのように部屋の電気が次々に消えていった


垣根(そろそろか)

垣根は純白の翼を飛散させ能力を切った

すると侵入者の姿を認識したからか、暗闇の奥から垣根に近付く足音が聞こえてきた

それは、薄暗い廊下で垣根の近くで立ち止まると



「もうっ、こんな夜中に女の子を呼び出すなんて、いけないんだゾ☆」



闇から現れた金髪の少女は、ネグリジェ姿で頬を膨らませて垣根を指差した


まるで来ることを察していたかのように、微笑みながら垣根を見据える彼女の瞳は星のように怪しく煌めいていた

垣根「〝第五位〟『心理掌握』食蜂操祈だな」

食蜂「違うと言ったら、いったい私はどうなるのかしらぁ?」

余裕。彼女の態度・言動・全てにおいて、垣根に恐れる素振りを見せるどころか、どこか挑発的な態度を見せる

垣根「どうもしねーさ、俺は忠告をしに来ただけだ。お前の命に関わる重要な話をな」

それは脅しとは違う、純粋な忠告

彼女がどういう態度をしようとも、垣根はできるだけ被害を減らす努力をする。今はそれだけしかできなかった


フフッと微笑むと食蜂は何か品定めをするように靴先から髪の毛の先まで下から上へ眺めながて口にした

食蜂「名前も名乗らない失礼な人に忠告されても、説得力に欠けると思うんだけどぉ」

垣根「俺は〝第二位〟の垣根帝督だ。なんなら能力でも使ってやろうか?」

食蜂「いいえ、使わなくても私の能力でバッチリ把握できているわあ。もちろん、貴方が来た理由もね」

そう、最初から垣根は説明する気はなかった。否、直接に会って作戦を変えた

垣根(あの余裕からして、自分の能力に自信があるはずだ。だったら……)

食蜂「私の性格を買ってくれたってことでいいのかしらぁ?」

食蜂の表情は変わらないが、わずかに口元が緩んだ

垣根「そういうこった。無駄に警戒されて無茶苦茶に能力を行使されるほど、厄介なものはねぇからな」

どうやら垣根は彼女の精神状態の強弱が気になったらしい

精神系能力者は常に冷静で余裕を持っていた方がいい。なぜなら自分に能力の行使なんてことはできないのだから

なので、彼からすると精神能力者で、食蜂のような自信の塊みたいな人間の方が逆に話しやすいのだ

垣根(どいつもこいつも似たようなもんか……)

垣根は過去に二人ほど精神能力者に会ったことがあった。いずれも、自分は安全圏にいるという安心感を持っていた人物だった


しかし、それはあくまでも人間に対してという話だ

食蜂「話の内容は理解したけど、お断りするわあ。どうも乗り気になれないのよねえ」

どこか気に食わなさそうに爪を弄りながら呟いた

垣根はというと、返ってくる言葉を予想していたからか、驚きも怒りの表情も見せなかった

そして一言だけ、そうか……と告げるとヒラヒラと手を振り食蜂に背を向けた

垣根(それじゃあ、Good Luck!女王様)

その場を立ち去ろうとした時、後ろから息を切らせた声で



「待ちなさい、垣根!」


食蜂「あら、あなた来たの?」

驚いた顔ではなく、どちらかといえば、この後の展開にワクワクするような表情で食蜂は走ってきた少女を見た

しかし、一方の垣根はここまで予定通りといったところだったが、一つ見落としがあった

一人の少女の存在を

垣根「どうして、お前がここにいやがる……」

心理定規「どういうことか説明してもらうわよ。垣根……」


キッと自分を睨む少女の顔を見て、これは逃げられそうにないと悟ると、ハァと深い溜息を吐いた

垣根(どうする、厄介なことになりやがった)

失念。心理定規はてっきり、御坂たちの入っている外部の寮にいると思いこんでいた

事前に下調べをすればわかることだったのだが、急なことであった為、そんな余裕はなかった

食蜂(どうするのお?彼女とは面識あるみたいだしぃ、助けてもらったらあ)

念話を通して白々しい話し方で食蜂は垣根に問いかけた

垣根(お前の能力で帰らせることはできねぇのかよ)

どこか突破口はないかと考え、出てきた答えは最もあてにしたくない人物への助けだった


食蜂(知ってると思うけど、ここに来る前に『何も無かった。就寝しなさい』って命令を送ったから、彼女には通じないと思うわあ)

それを聞くと、垣根は苦虫を噛み潰したような顔で、舌打ちをした

相手が一般人なら、いくらでも偽ることは容易かった

しかし、目の前にいるのはかつての仕事の同僚なのだ

垣根(くそっ)

できることなら巻き込みたくなかった。それが垣根の本心だった

別に垣根は心理定規の腕を見下しているわけではなかった


心理定規も暗部で生きてきたのだ、彼女の能力だけが取り柄というわけではなかった

しかし、彼女もそれは人間にだけ通じる戦い方。レベル5などの能力の効かない相手では赤子同然だった

ましてや戦闘になる相手が未知なる者となると、垣根は彼女を本当に連れて行くべきか迷った

心理定規「こんな夜中に、レベル5の二人が揃うなんて、ただ事じゃないわよね」

何かを確信した目で心理定規は垣根と食蜂、それぞれを睨み据えた


垣根「仕方ねぇ……お前も関係ないかで言えばある方だ。とりあえず説明してやるよ」

そういうと、ハァと仕方なしというように溜息をつくと、続けて

垣根「だが、今から話すことは真実だ。信じるかはテメェ次第だ」

心理定規は空気が急に重くなるのを感じとると、何も言わずただ彼が話しだすのを待った

食蜂はというと、これ以上楽しめそうにないから帰るわあといった感じで廊下の奥へと消えていった

それを見計らってか、垣根は心理定規に向き直り

垣根「お前は吸血鬼っていると思うか?」

姫神の本当の過去。そしてここに来た理由を話し始めた


―――――――――――
――――――――

心理定規「そんな事って……」

全ての話を聞き終えた最初の感想はそれしか言えなかった

心理定規は彼女には何か特別な裏があるとは出会った当時から気付いていた

だが、吸血鬼なんていう作り話にしても飛び抜けた、その内容は彼女の思考を停止させた

垣根「信じたくねぇ気持ちもわかる。だが、事実だ……」

駄目押しの一言。心理定規も薄らと危険な橋に噛んでいると予想はしていた

食蜂と話している時に必死に隠そうとしている傷跡がチラリと見えた瞬間、心理定規は自分で助けになるのかと考えた


しかし、垣根の側にいるはずの彼女がいないことに気付くと食い下がることができなかった

泣いている姿が、かつての自分の姿と重なった黒髪の少女。弱々しい見た目とは違い、強い意志を持った少女

そんな彼女に何かあったのか。と脳裏に浮かんだ時には垣根たちの前に現れ睨んでいた

しかし、事件は心理定規の予想を遥かに超えていた

心理定規「あなた、これからどうする気?」

垣根「助けに行くに決まってんだろ……俺の大切な」

大切な人。心理定規にはそんな答えなんて聞かなくともわかっていた

それでも、彼女は念のため確認しておきたかった

彼が出す答えが自分の答えと同一かを照らし合わせたかった


心理定規「そう……。じゃあ、次に私から出る言葉はわかるかしら?」

いつもの挑発まじりの悪戯っぽさはなく、真剣な眼差しで垣根を見上げた

垣根「どうせ断っても来る気だろ?いつから、そんな熱血女になったんだよ……」

かつての心理定規なら能力が通じる相手ならば、それなりの戦果をあげてきたが

一方通行のように能力が通じる相手かどうかわからない相手に対して関わろうとはしなかった

それがいま、垣根でさえ未知なる存在である吸血鬼に対し敵対する意欲を見せたことに垣根は少し驚いた顔をさせた

心理定規「風紀委員(あそこ)にいたら、そういうのも悪くないと思えてきたの」

クスッと笑いながら心理定規は、ツインテールの少女とともに活動してきたことを思い出した


暗部と違い汚れ仕事など一切ない純粋な人助けが主な内容のソコは心理定規の考えを改めさせた

楽な仕事ばかりではなかったが、過去に関わってきた事件に比べると優しく思えるソコは彼女にとって居心地が良かった

心理定規(その点では、あの子に感謝しないとね)

たまに毒を吐いたり、甘えてきたりと手のかかる花飾りの後輩を心理定規は笑みを浮かべながら思い出した

急に微笑んだ心理定規に気にも留めず、垣根は背中を向けると

垣根「ついてこい……」

スタスタと先に歩いていった

外はすっかり雨が止んでいた。だが

心理定規(ほんと……懐かしいわね)

不器用で優しい彼を間近で久々に見たからか、心理定規の場所だけ雨が降ったように頬を濡らせた

今日の投下は以上です

明日もまた、この時間帯に来ます
では

それでは、今夜も投下していきます

ホテルに戻ってきた垣根の第一声は呆れ混じりのものだった

垣根「なぁ、上条……。俺の気のせいか知らねぇが、ここを出る前より空気が重くねぇか?」

垣根と心理定規が広間のドアを開けた瞬間、まるで人が亡くなったかのように静まり返った空気が迎えてくれた

上条「説明はしたんだ……。説明は」

ブツブツと項垂れながら何かを呟く上条を見て、垣根は何かを察してかハァと溜息をついた

するとインデックスが垣根たちに近寄りオロオロとした様子で口を開いた

インデックス「おかえり、ていとく。もう私この部屋にいるの辛いかも……」

今にも部屋で休みたいという顔をさせて、上条たちが座るソファを見た

垣根「なにがあった」

もう聞くのも嫌になるような雰囲気だが、ここで不仲になってもらっては困ると垣根は仕方なくインデックスに問う

インデックス「えっとね……」

色々な情報を雪崩の如く話し始めたインデックスに呆けた顔をさせながら垣根は聞き続けた

ちなみに、話をまとめると白井を巻き込みたくない上条たちは白井を説得するも失敗に終わり

頼みの綱である御坂は一方通行に気付くと不機嫌そうに黙ってしまうという最悪の展開に

結局、上条がこの場を丸く収めるために奮闘するも上手くいかず、今に至るという訳だ


垣根は呆れてものも言えないのか眉間を指で何度も揉みながら考え込んだ

垣根は、意を決したのかソファに歩き出すと

垣根「で、第三位に白黒。テメェらはどうする気だ?」

今すぐに答えは求めてねぇよと付けたし二人を見つめた

御坂「私は自分が絡んでいることもそうだけど、なにより秋沙さんを助けたい。ていうか、名前で呼んでよ」

白井「し、白黒!?わたくしは、お姉様のパートナーであり風紀委員。誰が相手であろうと、この都市の治安は護って見せますの」

二人の少女からは、それぞれ別の目的ではあるものの強い意思が感じられた


白井「ところで、こころさんも誘われましたの?」

項垂れている上条当麻を興味深そうに見つめている心理定規の姿を見つけると、白井は少し疑念のような眼差しで見つめた

心理定規「昔の知り合いからの頼みだもの。断る必要ある?」

疑われていることを察したのか、心理定規は少しも調子を崩さずにスラスラと答えた

それを聞いた白井は腑に落ちない表情をさせるも、これ以上の詮索は無理と察すると紅茶を淹れるために立ち上がった

それを面白がってみていた垣根は、心理定規にせせら笑いを浮かべた

それに気付いた心理定規は、いつか初春に相談することに決めた


垣根(白井黒子……か)

しかし、もう心理定規のことは頭に入っていないのか、垣根は紅茶を数杯のカップに注いでいる白井の姿を見ていた

別に垣根はお嬢様学校、特有の丁寧な紅茶の淹れ方に見とれていた訳ではなかった

どうにかして白井をこの件から離すことはできないものかと考えていたのだ

それを感づいたのか心理定規は静かに笑みを浮かべて垣根に告げた

心理定規「あの子、私以上に頑固で正義感の塊みたいな子よ。諦めるべきね」

召集をかけるにしても明日にすれば良かったのに。と呆れた物言いで垣根を見上げた

正論と言いたかったが、いつ相手が攻め込んでくるかわからない状況の現在(いま)

味方、そして情報を知っている者は多い方がいい


その事を考えると白井は、戦力として申し分ないのではないかと垣根は思い始めた

折りたたんでポケットに入れておいた紙を取り出すと〝3〟と書かれた数字の決定の欄に○を付けた

垣根(食蜂のヤツは誰かをフォローに向かわせるとして、……残るは)

残りの〝6〟・〝7〟と書かれた欄を見て、垣根は少し面倒臭そうな顔をさせて

垣根(削板は……まぁ、アイツなら心配ねぇだろ。俺以上に理解不能の能力だからな)

一応、明日にでも連絡しとくかと思う垣根だったが、すぐさま顔色が曇った


垣根(さて、問題は第六位をどう説得するかだな)

第六位。学園都市の中でも、その存在を知る者は少ない。垣根も情報としては持っているものの、交渉に応じるかはわからない

ましてや相手は

垣根(アイツだったとはな……)

意外な人物が第六位の正体だったためか、さすがの垣根も驚きを隠せなかった

垣根の身近にいた人物。しかも、姫神秋沙とも関わりがある人物

垣根はその人物との交渉を明日に予定した

その後、常盤台組は寮へ他はホテルを何室か借り今日は解散となった


各部屋へ帰っていく上条たちを見送るようにホテルのロビーで垣根は椅子に腰かけていた

垣根「さて、そろそろ行くか……」

痛む横腹を押さえながらホテルの敷地を出ると、垣根はおぼつかない足取りで目的地へと向かった

暗い夜道の中、誰にも悟られず歩くその姿は、どこか寂しく映っていた


カツン カツン


垣根は薄暗い廊下を一人の少年が歩いていた

彼は廊下に設置されている手すりを伝い、ある部屋へ目指していた

廊下は薬品などの匂いで鼻を刺激してきた


別に研究室などではなかった。ここはどこにでもある一般的な病院だ

垣根が来た理由は、ここに勤めているカエル顔の医者『冥途返し』に自身の治療を頼むためだった

途中で応急処置をしたといっても、もうかれこれ数時間は経過している為か、意識もだんだんと薄れてきていた

常盤台から帰る時もここに来る時も能力を使える状態ではなかった

垣根の体は、それほどまでに衰弱した状態だった

ここまで彼を動かしてきた理由はただ一つだった。姫神を救いたい、ただそれだけであった

自分が弱いばかりに彼女を救えなかった。そのことが頭の中を支配していた


誰かがそれを否定しても彼は、垣根帝督はそれを許さないだろう

それほどまでに彼は自分を追いつめていた

おぼつかない足取りの垣根は、意識が飛びそうになるのを何とかこらえて歩いていると、とある一室が見えてきた

垣根(電気は……点いてやがるな)

目的の部屋に着いたのか垣根はドアの前に立ち止まると、隙間から漏れる光を確認しドアをスライドさせた

中に入るや否や、垣根は気怠そうに口を開いた

垣根「こんな夜中に悪ぃな、ちょっと用事が……」

しかし、その声は部屋の中の光景を見ると途中で止めてしまった

人気がないのか、ガランとした静けさだけが漂う部屋の奥に机と椅子だけが寂しく置かれていた


垣根「誰ももいねぇのか。いや……、そこにいやがるのは誰だ!」

回転式の椅子の下からわずかに見える足に気付くと垣根は思わず叫んだ

椅子には誰かが座っているのか、垣根の声に反応すると椅子をクルッと半回転させ姿を見せた

そこに座っていた人物はなにやら嬉しそうに笑みを浮かべて話し出した

「来る思っとったよ、垣根帝督くん。いや、ここは、ようこそ〝第二位〟といった方がええんかな?」

座っていた人物の顔を確認した垣根は、鋭い眼光で睨みつけて口を開いた

垣根「前から胡散臭ぇ野郎だと思ってたぜ。青髪ピアス……。いや、〝第六位〟―――」

不敵に笑う青髪と睨み殺さんとする垣根が見つめ合うなか

部屋にあった時計が、日付が変ったことを伝える電子音が鳴った


七夕まで残り一日 七月六日

少ないですが今日の投下は以上です

それでは、また明日この時間帯に


つまり画像にするとこれか
ttp://lohas.nicoseiga.jp/thumb/1446274i

やっぱり青髪がレベル5か!でも、カッコいいからいいや。

佳境だな…!

皆さまレスありがとうございます

>>402
解説画像ありがとうござします

それでは、今日の投下を始めます

お互いが無言で向かい合って少しばかり時間が経過したあと。突然、青髪が口を開いた

青髪「もう、そんな怖い顔せんといてぇな!さすがのボクもその目力は怖いわ」

先程の余裕を浮かばせた顔とは一変し、両手で口元を隠しクネクネと蠢きだした

突然の彼の行動に意表を突かれたからか、垣根は口をあんぐりと開けたまま青髪をただただ見ることしかできなかった

青髪「あれ、もしかしてボクが君に何かすると思っとったん?嫌やわ、そない警戒せんでも僕は何もせぇへんよ」

いつもの調子で軽い笑みを浮かべて垣根に話しかけた

その姿はどこか胡散臭くもあるが、気を許してしまいそうになるものだった



やっと思考が鮮明になってきたのか、ハッとした垣根はまた向き直った

垣根「いやいやいや、さっきの悪役ばりの雰囲気はなんだよ!」

青髪「も~、お芝居やん。お・し・ば・い」

ゴンッ!

我慢の限界からか気付いたら垣根は、青髪の頭に拳骨を振り落していた

隙を突かれたからか、それともわざとなのか青髪はそれを食らうとその場に頭を押さえてうずくまった

青髪「いった~、もうちょっと優しくしてほしいわ」

少し不満げに殴られた個所を擦って青髪は立ち上がった


それを見た垣根は、もう少し強めの方が良かったかと後悔した

垣根「で、芝居は信じてやるが、どうして俺が来るのがわかった。そして、なぜここにいやがる」

強い口調で捲し立てる垣根を見て、フッと笑う青髪は机の上を指差した

青髪「君が来たのを知ったのは、あそこにあるモニターでドアに立つ君が見えたから。そして、ボクがいる理由は先生と個人的な話があったから」

指差された先を見ると、先ほど立っていたドアの前を斜め上からのアングルで映されたモニターが置いてあった

しかも部屋から顔を覗かせ廊下を見渡すが、カメラが設置されているのは、この部屋だけのようだ

ますます、怪しく思えてきたのか垣根は笑顔を崩さず観察するような目つきで見てくる青髪に向き直った


垣根「おい、なんでここだけカメラなんて取り付けてやが?いくら、腕利きの医者だからって警戒しすぎだろ」

そう、ここの診察室は主にカエル顔の医者『冥途返し』の異名を持つ名医が使う部屋だ

そんな彼だからこそ納得がいくのだが、ここには手伝いという名目で一方通行という最強の護衛がいるのだ

身辺警護を彼に頼めば悪態はつくかもしれないが、最終的には引き受けてくれるのは垣根でもわかった

しかし、青髪は垣根の話を聞くと、途端に口に薄笑いを浮かべると

青髪「甘いわ、垣根くん。ビックリするほど甘々やわ」

どこか呆れた声で、肩を竦ませて大きな溜息を吐いた


垣根「じ、じゃあ、何だっていうだよ!」

垣根も緊張のあまりか、ゴクリと唾を飲むと青髪の言葉を待った

すると、青髪はゆっくりと垣根の顔を見ながら椅子から立ち上がった

青髪「そんなん、可愛い患者かどうか見極める為に決まってるやん!」

垣根「あぁ……?」

思わず垣根は思考を停止させかけた

目の前の少年が発した愉快そうな言葉を聞いて、それでもなお意識を取り留めたのは暗部時代の警戒心が働いたからだ


青髪「これほんまは内緒なんやけど、前にチラッと教えてくれてん」

とびっきりの笑顔させた青髪は、クルクルとステップを踏んで踊って見せた

垣根「…………」

青髪「やっぱり先生も男やわぁ。しかも、ボクの好みの談義も興味深そうに聞いてくれるし」

僕もあぁなりたいわと憧れというより、もはや崇拝の域に達している青髪を見て、ついに垣根は声を失った

青髪「あれ、垣根君どうしたん?」

急に黙りこくった垣根を心配するように近付き顔を覗かせた

すると、垣根の肩が小刻みに揺れ出すと、いきなり青髪の脳天へ拳骨を振り落した


本日二度目の痛みに若干慣れが生じたのか、先ほどよりは痛そうに見えなかった

しかし、そんなことお構いなしと垣根は青筋を立てながら青髪に向かって叫んだ

垣根「どうでもいい情報なんていらねえぇんだよ!それよりも、テメェに話があんだよ」

ここに来た理由よりも、青髪に遭遇できたのだ、今すべき優先順位を変更する

後半は誰が見ても理不尽にしか見えないが、そこは青髪の茶番に付き合ったことでチャラにした

青髪「いつつ……あれ。垣根君、ボクのこと探してたん?」

頭を押さえて涙目になっている青髪は、垣根の顔を不思議そうに見た


垣根「青髪(テメェ)に用っていうか、〝第六位〟(オマエ)に用があるんだよ」

第六位、全てが謎に包まれた人物。であったが、垣根の手にした資料にはよく見知った友人の名が記載されていた

どこかまともな人間ではないと睨んでいた垣根だったが、資料を手にするまで予想もついていなかった人物の名

そんな予想外な人物、青髪ピアスは超能力者としての自分に用があると聞かされると急に顔つきが変わった

青髪「何の用?いっとくけど、ボクの存在は君らみたいな特殊な人間しか閲覧できない秘密、表には出て行かへんよ」

淡々と説明するその姿は、学校では決して見せないもう一つの顔であった


そんなことには興味なさげに、垣根は声色を低めて告げた

垣根「テメェの意思なんざ、もはやどうでもいい。時間がねぇから手短に済ますぞ」

虚ろな目、息も絶え絶えの状態。理由も知らない青髪から見ても垣根の状態はまともではなかった

しかし、言葉に詰まることもなく自分の知る情報を全て青髪へと説明していった


青髪「…………」

ひとしきり垣根の話す内容に興味を持つように聞いていた青髪だったが、だんだんと話が進むにつれて顔色が青ざめていった

話し終えた垣根は何度となく見てきた、その顔を確認すると以上だと呟いた

沈黙。外から聞こえる外の虫の音だけが静かな部屋を色づけていた


青髪「これってほんまなん?」

そう呟く青髪からは恐れや怯えなどの色などはなかった。ただ真っ直ぐ垣根の顔を見つめていた

垣根「あぁ……」

そう答えるしかできなかった。相手は未知数の組織、しかも強制的に命を狙われているのだ

普通の感覚ならば、ここから逃げ出したい気持ちになるだろう。そう普通の人ならば

青髪「仕方ないなぁ。そっちには顔は出さへんけど、誰よりも垣根くんの頼みや。ボクもヒメやんの救出に協力する」

いつもの薄目がいっそう目を細めて笑うとスッと手を出した

垣根「……後悔すんじゃねぇぞ」

それを握り返すと鼻で笑った


それを聞いた青髪は慌てたように手を離し両手をバタバタさせ

青髪「こ、このことは内緒やで!とくにカミやんに知られたら面倒やし」

このこととは第六位という意味だろうが、上条がそんなことを気にするようには見えなかった

垣根(まぁ、コイツにも事情があるんだろうから、別に黙ってるつもりだが)

兎にも角にもこの問題が解決した今、垣根は少し穏やかな気持ちになった

残り接触する人物は〝第七位〟『削板軍覇』を残すのみとなった

垣根は連絡先を検索するため携帯を取り出すと何件かの着信が入っていた


垣根「…………」

そこには二人の〝家族〟の名前が記載されていた。『月詠小萌』・『結標淡希』の二人が

垣根(どうする……結標には説明ができたとしても、チビ先生には)

月詠もまた垣根から見て護りたい人物の一人だ

しかし、濁した言い方で姫神の件を説明しても月詠なら生徒の心配を優先させるだろう

ここ何ヶ月もの間、彼女を近くから見てきて、それがくすぐったいほどに伝わってくるのを垣根は感じていた

だから、垣根はこの後どうするべきか迷っていたのだ

そんな暗い表情を察したのか青髪は口を開いた

青髪「どうせ、小萌先生のことを心配してるんやろ?その件、ボクに任せてくれへん?」

それを聞いた垣根はバッと顔を上げて、表情を緩めて自分を見る青髪に向き直った


垣根「本当に任せていいんだな……」

彼女に怪しまれずに、本当に上手くいくのだろうかと一筋の不安がよぎる

しかし、青髪はそんな垣根の不安をよそに自信ありげに胸を張った

青髪「それに前にも言ったやん。あの人を悲しませたりしたらただじゃ済まないって」

顔はいつも通り笑っているが、目は笑っていないどころか薄目からでも十分に伝わる怒りが垣根にも読み取れた

それが第六位としての怒りなのか、青髪ピアスという少年の怒りかまではわからなかった

垣根「わかった。頼む」

青髪「うん、垣根くんは自分のことに集中しててええよ」

垣根の弱り切った表情に青髪は微笑みかけた


垣根「あぁ、そっちも気を付けろ。相手は……」

青髪「吸血鬼やろ。でも、そんなオカルトチックな事件が学園都市になぁ」

どこか信じられなさそうに、遠い目をする青髪だったが何かに気付いたのか垣根の顔を見て口を開いた

青髪「吸血鬼を従える魔術師って、実は異世界の魔王やったり魔神ぐらいちゃうんかな?」

垣根「あぁ?何だよそれ……」

青髪が真面目な顔つきになって自分を見てくる為か、垣根は少しのあいだ思考を巡り合せた

すると、青髪が何やら思いつめたような顔をしていい放った


青髪「だってほら……RPGとか漫画とかであるやん!実は裏ボスでしたっていう展開。ボク、そういうのに憧れるんよ」

でも、とつけたすと青髪は急に緩んだ顔で

青髪「やっぱりボクは悪魔っ娘か魔女っ娘がええな」

なんとも緊張感に欠ける話題に呆れたのか、垣根はハァと溜息をついた

垣根「わかった、わかった。その話は、全て終わった時にでも聞いてやるよ」

今は一刻も早くカエル医者を探したいと、垣根は部屋から出ようとドアの手すりに手を掛けた

青髪「垣根くん」

垣根「あぁあ、まだなんかあんのか?」

急に呼び止められたからか、垣根は少し気怠そうに後ろを振り向き青髪を虚ろな目で見た


青髪「死なんようにね……」

その言葉は第六位からのものか青髪ピアスのものか、それだけは垣根にもハッキリとわかった

そして、少し驚いた顔から柔らかい顔にさせると

垣根「テメェもな」

とヒラヒラと手を振る。ドアが閉まる直前までは、ドアが閉まったと同時に

ドサッ

何かがドアの向こう側で倒れた音を聞いた青髪は小さく呟いた

青髪「ホンマ、甘々やな……」

モニターには倒れ伏す垣根の傍らに何者かが立っているのが映っていた

今日はここまでです

明日もこの時間帯に来ます。それでは、また

こんばんは、それでは今夜も投下していきます


垣根「…………」

目が覚めたら知らない部屋のベッドで横になっていた

天井、布団、壁どれを見ても真っ白に統一されていた

しかし、なぜかそれは不快に思わなく、むしろ心地よささえあった

垣根(ここは……)

まだ、意識が覚醒しきっていないからか、自分の周りへと目を動かした

垣根(誰だ……姫神か?あぁ、無事だったのか)

垣根が寝ている少し離れた場所で少女が本を読みながら座っていた

窓が開いているからか外から吹く風に舞いあがる白いカーテンが何とも気を落ち着かせた


少女は垣根の意識が戻ったことに気付くと、読んでいた本を閉じて垣根の近くに歩きだした

「あなた、大丈夫なの……」

その声からは心配や不安といったものが伺えるほど悲しそうだった

垣根「あぁ……大丈夫だ」

そう、言いながら少女の頬に触れる。しかし、それはすぐに払われた

思っていた反応と違ったのか、驚いた垣根は意識を一気に覚醒させ、ガバッと起き上がると少女の顔を確認した




垣根「!?」

結標「秋沙がいないからって、いい根性してるじゃない。もういっぺん死んでみる?」

こめかみに青筋を浮かばせてコルク抜きをチラつかせている少女は結標淡希だった

垣根「ちょ、ちょっと落ち着けって、さすがの俺もこの体じゃあ……あれ?」

自分の体を見てやっと気付いた、自分が寝ている場所。そして、結標がいる理由が

垣根「病室か……それに治ってやがる。傷が、痛みが無ぇ」

触ったり、叩いたり、服をめくって確認するが、包帯が巻かれているものの、痛みはほぼ皆無だった

それを、顔を真っ赤にさせながら見ていた結標は、事情を説明するように口を開いた


結標「貴方が気を失った直後に、あの医者が帰ってきたらしくて、そのままオペ室に直行だったらしいわよ」

垣根「じゃあ、ここにお前が来た理由も」

どこか面倒臭そうに説明する結標を無視し、垣根は傍にあった携帯を見て尋ねた

結標「そう。今朝、小萌と朝食を食べてる時に電話が掛かってきて。小萌には心配させないように演技するの苦労したわ」

愚痴を零すように結標は今朝がたの小萌の心配した顔を宥めるのに骨が折れたことを思い出した

それを聞いた垣根は申し訳なさそうに俯いて、そうかと小さく呟いた

その顔からは心配させた申し訳なさの他に、別の理由で悲しんでいるように結標には見えた

そして、一呼吸を置いて垣根の横顔に話しかけた


結標「そろそろ教えなさい。秋沙はどこ?貴方が重傷で倒れた理由と何か関係があるの?」

だんだんと口調が強くなっていくのがわかった。しかし、垣根はただただ俯くことしかできず

垣根「…………」

結標に顔を合わせようともせず、垣根はあぁとかうぅとか声にならない相槌を打つばかりであった

それに、痺れを切らせたのか垣根の胸倉を掴むと自分の方に向かせ

結標「ねぇ、何とか言いなさいよ。言えっていってんでしょ!!」

少女は声が枯れんばかりに叫んだ。その目からは怒りや心配といった様々な感情を涙とともに溢れさせていた

垣根「連れ去られた……」

結標「え……」

弱々しく、しかし結標にも聞こえる大きさで発せられた言葉は、妹のように可愛がっていた少女の危機を意味するものだった


結標は垣根の言葉を信じられなかった、信じたくなかった

なぜ姫神なのか、なぜ彼女でないといけないのか、そんな疑問が頭の中をグルグルと動き回った

結標「どういうことなの……」

垣根「…………」

ここまできてもなお、垣根は目の前の少女が関わるのは避けたかった

それは、結標らのやり取りを間近で見ている垣根だからこそ思う感情なのかもしれない

この少女にもしものことがあったら、一番に悲しむのは姫神本人であると垣根は知っていた

自分に向けてくれている感情とも、吹寄に向けている感情とも違う

本当の姉に対して向けるような、そんな温かい感情を結標には向けられていた

だから、垣根は今回の件では結標を加えるか悩みに悩んでいた


しかし、もう隠しきれない状況に陥ってしまった

垣根は意を決したように、震える唇を開いた

垣根「これから話すことは、信じるか信じないかはお前が決めろ……」

ただと付け加えると、瞳から何粒もの涙を流して笑って言い放った

垣根「ただ……これを聞いても姫神を、お前が可愛がってる『妹』のことを嫌わないでやってくれねぇか」

決して血の繋がりがあるわけではない。しかし、見えない何かで彼女らは繋がっていた

垣根はそう感じたからこそ、これが精一杯だった。彼女の〝一番〟の居場所である姉への心からの願いだった


垣根は今回の件の鍵となる姫神の能力の説明から、なぜ霧ヶ丘女学院を追い出されたのかの理由

そして、昨日の事件とその事件に関わる『ある生き物』など、他の人物より詳しく丁寧に説明していった

途中で何度となく涙が流れるものの、結標が黙って自分の話を聞いてくれているからか、垣根は何とか最後まで説明ができた

垣根「で、俺はボロボロに負けて帰ってきて、この様だ……」

最後の最後で、自分の不甲斐なさで連れ去られたことを付け加えて笑った

垣根は結標の顔を見ず淡々と話してきた。否、見られなかった

今まで、説明してきた人物はどれも憐れむような怖がるような、そんな顔に垣根の目には見えていた

まるで、過去の自分に向けられた顔であるように錯覚させられたのだ


だが、この少女は違う。この少女がそんな顔をすれば、二度と姫神が笑えなくなる。そう思えて仕方なかった

しかし、そんな垣根の心配(げんそう)は打ち砕かれた

結標「えぇ……知ってるわよ。『吸血殺し』の能力も『三沢塾』での読んでて吐き気のするような酷い扱いも全て調べたわ」

その声は震えているものの、静かな病室に響くぐらいハッキリとしたものだった

そして、結標は一呼吸を置くと垣根を見て口を開いた

結標「秋沙も貴方も、私が何も知らずに生きているとでも思った?……馬ッ鹿じゃないの!?」

その目は真実だけが見えているかのように真っ直ぐな眼差しで垣根を見据えていた

それを聞き驚きのあまり体ごと結標の方を向き、ゆっくりと口を開けた


垣根「どういう……ことだ?」

今の彼が鏡を見た時、きっとこう思うだろう。本来ならば、この顔は結標がするはずじゃねぇか。と

そんな垣根を無視するように結標はしっかりとした口調で発する

結標「私の学校は秋沙と同じなのよ。そんな根の葉もない噂が蔓延していたら心配にならない奴こそ気が狂ってると思うわ……」

顔を隠すように俯いて話し始めた

結標「貴方は知らないでしょうけど、昔の秋沙は今以上に感情を押し殺してたわ」

何かを思い出すように顔を上げるとフッと笑った

結標「いま思えば、あの子なりに罪の意識を感じてたんでしょうね……」

垣根「…………」

垣根は黙って結標の顔を見つめて話を聞いていた


結標「でも、そんな姿を見てたら放っておけなくてね。出掛けたり、一緒に行動するようになったわ」

それからと続けて垣根の顔を見て

結標「貴方と出会った。しかも、笑顔まで向けられる関係……になった……」

そう言い終えると大粒の涙を流しながら悔しそうに呟いた

結標「正直、あなたが羨ましいわ……。笑顔もそうだけど」

何回も何回も言葉を詰まらせながら語りかけた

結標「このことは本当は秋沙の口から聞きたかったんだけど。結局、本人から聞く前に一人で真実に辿り着いちゃった」

寂しそうに、悔しそうに彼女は垣根に向かって無理やり笑って見せた

そこには二人に向けた怒りなどなかった。むしろ……


結標「ごめんね、貴方だけに秋沙を背負わぜで。ごめんね、守ってあげられなぐで……ごめんね、ごめんね、ひぐっ……ぃぐ」

垣根「お前のせいじゃ……俺が……ぐっ」

この場にいない少女と垣根に向かって、結標は何度も何度も謝った

それを見て、垣根も何かを言いかけるが、その前に溜め込んでいたものが決壊を起こすように大粒の涙を零した

廊下にまで聞こえそうな、二人の声は暫くのあいだ続いた


結標「ふぅ……久しぶりに泣いたわ。まさか、貴方まで泣くとは思ってもなかったけど」

よいしょと立ち上がると少しからかうように微笑んだ

垣根「うるせぇよ……」

それに苛立ったのか垣根は少し不貞腐れたように、片肘をつきながら悪態をついた

それは、彼らの関係を知らぬ者が見れば、からかう姉と素直じゃない弟に見えただろう

結標「いい、安静にしてるのよ!」

指を垣根に向けて言い聞かせるように怒鳴った。しかし、その怒りからはどこか優しいものが感じられた

ドアに向かおうとする結標に気付くと垣根が慌てたように

垣根「俺も……痛っ」

急いでベッドから降りようとした為か、先ほどまで無かった傷の痛みが急に蘇ったように垣根を襲った


それに気付くと、ベッドから落ちた垣根を能力で戻してやると優しく微笑みかけた

結標「貴方は当分、そこで休んでなさい。残りは私がやってあげるから。じゃあね、義弟くん」

フフッと笑いながら優しく囁くと、ヒラヒラと手を振り部屋から出て行った

そんな、結標からの突然の発言に目をパチクリさせるが、ドアが閉まるのを確認してから
小さく舌打ちしたあと薄く口を開けて


垣根(ありがとな――)

決して誰にも聞こえない声で、垣根は一人っきりの病室で恥ずかしそうに呟いた


結標が部屋から出ると待っていたかのように、良く知る三人が待ち構えていた

海原「ほら、行きますよ。準部はできていますね」

土御門「できていなくとも、無理にでも連れて行く」

一方通行「あのクソメルヘンに比べたら、悪くねェ人選だな」

結標「あなたたちがどうして!?」

ここになぜ彼らがいるのかという疑問と、三者三様の言葉に結標は戸惑いを隠せなかった


土御門「随分な言い草だな。かつての同僚の危機となれば黙っておけるか」

海原「よくいいますよ……先程まで妹さんの心配をされていたじゃないですか?」

土御門「お前に至っては、ストーキングしている相手の為だなんだと言ってただろ!」

海原「す、ストーキングじゃありません!自分は遠くから見守っているだけです」

土御門「知ってるか?それを世ではストーカーって呼ぶんだぜ」

ギャーギャー

海原と土御門が何やら言い争いをしている横で、一方通行は真っ直ぐ結標を見ると

一方通行「容態なら心配ねェだろ。アイツが留守の間、オマエが仕切りやがれ」

それは無愛想な口調だった


しかし、不器用な彼なりの信頼の証だろうと受け取った結標はクスッと笑いながら頷いた

もしかしたら目的は違うかもしれない。しかし、最終的に辿り着くのは『大事な人の平穏を守る』だった

その目的が再び彼らを集めた理由。それで十分だった

結標「ほら……喧嘩してないで、さっさと行きましょ?」

まだ言い合い、掴み合いをしている二人に近付き結標は諭すように声を掛けた

しかし、争ってる中で気分が高揚したのか土御門と海原は二人揃って結標に向かって叫んだ

土御門・海原「黙ってろショタコン!!」

結標「…………」

一方通行はこの先に起こる事態を予測したのか、面倒臭そうに頭を掻きながら、その場を離れた

背後から聞こえる、二人の少年の悲痛な叫び声を聞きながら


さて、主人公が結標にいったん交代したところで、第二章も佳境に入ってきました

それでは、また明日

それでは、投下していきます
バトルは、もう暫くお待ち下さい


結標「予想はしていたけど、濃い面子よね……」

広間に入った第一声は、目の前の光景を表すのに最適だった

大人数とは言えないが一人一人が実力を持っているのが見ただけでわかった

特に結標が気になったの人物が二人ほどいた

結標「超電磁砲……それに、白井さん……」

かつて『残骸』の一件以来、顔を合わす機会などなかった少女たちの姿がそこにあった


その二人の顔を見るや否や、さっきまで笑みを零していた顔が怪しく曇っていった

協力者である彼女らの前に立てば、彼女らは協力を解消するかもしれない

そんな不安を抱かえていると、御坂がこちらに気付き白井を連れて向かってきた

結標の不安はピークに達しようとしていた。御坂の言葉を聞くまでは

御坂「アンタのしたことは許せない。でも、今はそれをいっても仕方ないのはわかってる……」

少しの間が開く、御坂は何かを躊躇っているのか握っていた拳がプルプルと震えていた

隣で見守るように立っていた白井もオロオロとした表情で御坂をを見上げた


そして、御坂はゆっくりと結標の前に右手を差し出し握手を求める姿勢をとると

御坂「だから、今だけ私も秋紗さんのために協力する!」

結標「えっ……」

どこか納得のいってないような表情だった。否、実際のところいっていなかった

しかし、目の前の少女、結標淡希のことを楽しそう話していた友人の顔を思い出すと、どうしても悪く言えなかった

隣で心配そうな顔をさせて立っていた白井の顔を見てごめんと呟いた

白井も首を横に振り御坂の思いを汲むように微笑んだ

御坂「ちょっと、いつまでそうしてるつもりよ。早く手を握りなさいよ、私が残念みたいじゃない!」

傍目から見れば御坂が握手をしつこく強要しているように見えるためか御坂は顔を赤らめて結標に囁いた


それを聞いてか一瞬だけ驚いた顔になるがすぐさま、かつて彼女らに見せていた不気味な笑みを浮かべて口を開いた

結標「握手を強制するお嬢様って聞いたこともないけど、さすが御坂さんってとこかしらね。白井さん、貴女も苦労するわね」

仕方なさそうに結標は指先だけを摘まむような形で握手みたいなものをした

それを間近で聞いた御坂と白井は肩を震わせて何かに耐えるように目を瞑った

そこに追い打ちをかけるように、弧を描いた口から白い歯を見せつけて

結標「逃げ出すなら今よ~、誰も貴女達なんか止めないけど」

嘲るように、馬鹿にするように二人の顔を見下す眼で見て鼻で笑った


ブチンと何かが切れる音。否、何かが解き放たれる音がその場にいた者達には聞こえた

白井「わたくしとしたことが危うく忘れるところでしたわ。貴女がクズ野郎で……」

御坂「どうしようもなく言葉の汚い女ってね……」

御坂・白井「上等よ(ですの)、このケンカ買ってあげる(あげますわ)……結標淡希!」

怒りを露わにする二人を無視するように、まるで貴婦人のように笑いながら結標は手をヒラヒラとさせて立ち去ろうとした

しかし、彼女らの怒りが収まらないのか、御坂からバチバチと青白い光が発せられると

御坂「無視すんなやゴラァァァァァァァ!!」

凄まじい速さの雷撃の槍が結標に向かって一直線に放たれた


ブチンと何かが切れる音。否、何かが解き放たれる音がその場にいた者達には聞こえた

白井「わたくしとしたことが危うく忘れるところでしたわ。貴女がクズ野郎で……」

御坂「どうしようもなく言葉の汚い女ってね……」

御坂・白井「上等よ(ですの)、このケンカ買ってあげる(あげますわ)……結標淡希!」

怒りを露わにする二人を無視するように、まるで貴婦人のように笑いながら結標は手をヒラヒラとさせて立ち去ろうとした

しかし、彼女らの怒りが収まらないのか、御坂からバチバチと青白い光が発せられると

御坂「無視すんなやゴラァァァァァァァ!!」

凄まじい速さの雷撃の槍が結標に向かって一直線に放たれた


結標「ごめんなさい。それと、ありがとう」

震えた声で二人の耳元で囁くと、他の連中がくつろぐソファへと歩いて行った

怒るタイミングを完全に見失った二人はポツンと俯いて立っていた

御坂「あんな風に謝られたら、私まで調子狂っちゃうじゃない……」

白井「ムカつくほどに不思議な人ですわね……」

御坂たちの知らない結標の顔が確かにそこにあった


パタン

「ハァ……」

机に置かれた本を閉じると、結標は溜息をついてインデックスに話しかけた

結標「ねぇ、これに書いていることって役に立つの?」

先程まで読んでいたノドの書を、不審がるるように指差した

インデックス「わからないんだよ……。でも、何かしらの役に立つかも」

不安からか、それとも責められていると思ったのか、インデックスは顔をシュンとさせて下を向いた

そんな彼女を落ち着かせるためか、ステイルはアイスココアを差し出してニッコリと微笑みかけた

それを受け取ると、インデックスは小さくお礼を言いストローでココアをちびりちびり飲みだした


そんな彼女らのやり取りを見て、結標はこれ以上は何を言っても一緒だと悟ると

再び古びた書物を拾い上げ、読み飛ばしがないか確認するように目を通した

結標(ここに書かれている氏族っていうのは、今回に関係するのかしら)

結標が注目したのは、カインの子孫である『十三の氏族』である

垣根たちが導き出した答えでは、今回の件で最低でも〝7人〟が関わっているらしく

残りの〝6人〟は死んでいる可能性があると言っていた

可能性としては無いとは言えないかもしれないと納得する一方


結標はあることが引っ掛かっていた

結標(じゃあ、いったい誰がどうやって殺したの……)

記述には、同族殺しにより半数以上もの血族が息絶えたと書かれているが

それは、この本での話なわけで実際は違っているかもしれない

本当はもっと別の意図があるかもしれない、そんな不安が次々と湧いてきた

結標「ハァ、事前に情報は頭に入れてたんだけど、ここまで深いと頭がどうにかなりそうね」

ここ科学の街では触れることがないであろう、目の前のオカルトに頭を悩ませるようにページをめくっていった

ペラペラとめくっていくと、氏族の名前とどいう人物だったかの説明が書かれたページで手が止まった

結標「読まないことには、何もならないわね……」

と独り言をいいながら、白井が淹れてくれた紅茶をすすって読み始めた


ブルハ― 自由を優先し束縛を嫌う氏族。自分たちの親を殺した罪により、平衡を保ちにくくなる呪いをかけられ
人間性と獣性のはざまで苦しんでいる


ギャンデル 孤高に放浪する氏族。狼の如く気高く生き、人狼と話すこともできる
      夜闇の中、大地を走る彼らに敵はなし


結標(人狼ねぇ……)

どちらも獣を意味するためか、あまり出会いたくないといいたげに苦笑いをする



マルカヴィアン 巨大な力を所持していた氏族。予測のつかない行動をする


ノスフェラトゥ 呪いにより醜い容姿にされた氏族。その容姿により人に好かれず愛することもできない悲しい存在
        最も賢い血族でもある


トレアドール 美貌を追い求める氏族。美こそが唯一の価値であると豪語する。
       ただ、それにより目的を見失うことがある


結標(下の二人は対極的ね。醜い者と美しき者、世の女性は断然、後者に憧れるでしょうね)

自分もそのうちの一人かと微苦笑させ、結標は前髪を気にしながら続きを読み始めた


ヴェントルー 氏族の中でも最も誇りの高い氏族。支配者として生まれ、人間社会に入り込み
       彼らを使って、一族の安寧を保とうと企てた


トレメール 若き魔術に長けた氏族。魔術師によって作られ、氏族間の実権を握ろうとする野心家
      どんな悪事も辞さない彼らを見て、孤独であると囁かれている
      信用を無き今も、独り研究している


ラソンブラ 闇と地獄の力を所有する氏族。自ら地上の支配者であると考え
      人間性を捨てたため強固な心臓を持つ。人を人と思わない冷徹非道な考えを持つ。闇に通じるため鏡に映らない


ツィミーシィ 悪鬼と恐れられる氏族。氏族の中でも最も残忍で、人間たちを恐怖させる存在
       醜悪なグールなどを使役し、自らも悍ましい姿へと変えることができる


結標「趣味の悪い四人ね……」

思わず吐き気がこみ上げてきそうな説明を見て、顔をしかめて呟いた


ジョヴァンニ 生と死を操る妖術使いの氏族。企業などでは裏で操る黒幕として動く
       死者を冒涜する一面を持ち、妖術で邪なことを考えている
       一家系からしか生まれず、珍しい氏族


セト人 『邪神』セトに使われる氏族。暗黒魔術を用いる魔術結社に所属する好戦家
人の心の隙間に入り込み、没落させ邪神教へと勧誘する。彼らのに対抗するには心の強さが要となる


結標(いつの日も心が弱い人間が狙われるのよね……)

何かを思い出したようにボソッと呟いた


アサマイト そのほとんどがアラブ系で構成された氏族。他の氏族を憎む求道者
      彼らは氏族の血を飲めない呪いを掛けられ、血を代償とした傭兵となる


ラヴノス 世界中を放浪する氏族。彼らは占いに長け自らの運命を予測することができる


結標(これで、十三氏族っていう訳ね。…….あら?)

読み疲れたからか、背伸びをするように両手を挙げた直後、結標は何かに気付いた

それは、先ごろまで読んでいたページの下に鉛筆で書かれた文字だった


結標(なになに……、上記の他にも『ドバルカイン』の存在が判明している。これって!?)

ハッとしたように顔を上げると、白い修道服を着たインデックスに話しかけた

結標「ちょっと、これって〝14〟番目って意味じゃ」

インデックス「うん……」

予め知っていたかのような声色で、インデックスは結標から本を受け取った

インデックス「この氏族はね〝14〟番目という見方もできるし、違うという見方もできるかも」

結標は目の前の少女が言いたい事がわからないのか、ただただ口を開けて聞いていた

すると、インデックスは〝とある〟単語を口にする


インデックス「他の氏族とは違って、このドバルカインは〝人間〟なんだよ」

純粋なねと付け足すと、その小さな口からは想像がつかない言葉を並べていった

彼女の説明によると、ドバルカインとはアダムから数えて七代目にあたる人物で、

鉄や銅といった金属でできた刀を、人類で初めて鍛えた人物とされている

いわゆる鍛冶の祖であった


話し終えると、コップを置いた衝撃で小さく波紋を描いたココアを見てハァと溜息をついた

それは、これ以上の情報がないことを表していた

結標「なんていうか、本当に凄い世界ね……」

修道服の少女が持つ本のぶっ飛び加減に、少し引き攣った顔をさせた

インデックス「こういう研究をするのが〝魔術〟なんだよ」

少女は誇らしげに胸を張ると、自分達の住む世界がどれだけ面白いか説明しだした

そんな彼女の話に、これ以上関わりたくないのか、結標は耳を塞いで寝ころんだ

結標「日常が……日常が壊れる」

不幸だと言いたげに目に薄らと涙を浮かべて、口をヒクヒクさせた


そんな少女達のやり取りを気にする素振りも見せず、携帯と睨めっこをしている上条が口を開けた

上条「なぁ、やっぱり浜面の奴らも呼んだ方がいいんじゃ?」

ここにはいない友人の名前が書かれた番号をチラチラ見せながら一方通行に話しかけた

それに面倒臭そうに舌打ちをすると、一方通行の真っ赤な眼光が上条を捕らえた

一方通行「来ない奴をわざわざ、呼ぶ必要なンてねェだろ」

その目には怒りとも憐れみともとれぬ、ぶれることのない眼差しだった

一方通行も本当は気になっているんじゃないのかと思う上条だったが、それは口にしなかった

上条「あとは……あああああああ!!」

何かを思い出したのか慌てたように携帯を操作すると、まだ連絡さえ取れていないもう一人の少年の番号に掛けだした

そのディスプレイには、世界最大の原石である『削板軍覇』の名前が載っていた

今日の投下は以上です
明日、明後日とこれませんので、いつもより多めです
それでは、また今週の土曜に


次はいよいよ削板か

こんばんは、それでは今夜も投下していきます


いつもそうしているのか、上条は耳から携帯電話を遠ざけると相手がとるのを待った

そんな彼の姿は、どんどん膨らんでいく風船が唐突に爆発するという罰ゲームをしているように見えた

コールが二回ほどなった直後、まるで受話器に向かって拡声器を使ったような大声で

削板『えーっと、こちらナンバーセブンの削い……いや、根性と日々の鍛錬が好きな削板軍覇だぁぁ!!』

少し離れたところで座っていた白井黒子の耳にもハッキリと聞こえたその声の主は

今回の事件の最後の関係者となる学園都市〝第七位〟だった

削板は、徐々に気分が盛り上がってきたのか根性と雄叫びを上げていた

そんな一向に会話を進めようとしない削板を見兼ねてか、少女の呆れた口調で

『ほら、そんなに叫んだら相手に迷惑でしょ』

どこか諭すような話しぶりで削板を落ち着かせていた


その声の主である少女は今ごろ学校にいるはずではと疑問に思いながらも上条は少女の名前を呼んだ

上条「あれ、吹寄か?」

吹寄『えっ、その声は貴様上条か?』

どうやら、隣にいた吹寄制理にも上条の声が聞こえたらしく、上条が呼んだ名前に反応した

しかし、上条は一つ気になっていた事があった。今日は平日で、まだこの時間は授業のはずだったからだ

そんな上条の疑問を感じ取るように、吹寄は削板から携帯電話を奪ったのか先程よりもクリアーな声で怒鳴った

吹寄『貴様、今日の授業はどうする気!垣根も秋沙も昨日から電話にも出ずに休んでいるし……』

その声はだんだん弱々しくなり顔は見えないが、友人の身が心配で泣きそうになっているのが上条にはわかった


しかし、上条は言いだせなかった。きっと彼女なら姫神達の身に危険が迫っていると聞けば動き出すから

現に吹寄は学校がある日にも拘らずこうして電話で話しているという事はそういう事なんだと上条は察した

それに今も病院で休んでいる垣根が聞けば、きっと自分の評価を下げても吹寄を止めるだろう

それならこのまま知らない振りをして通話を切った方が良いのでは無いかと考え出した

しかし、上条のその考えは削板の一言で打ち消された

先程まで携帯を離しても聞こえていた叫び声でなく、聞き取りやすい低く力強い声で

削板『何を悩んでいるかは知らないが、これだけは誓っておく……』

そういうと削板はすぅーっと息を吸い込んだ


また雄叫びかと慌てた様子で上条は携帯電話を耳から離した

それを見ていた、一方通行たちはまたかという反応をさせて耳を手で塞いだ

そして、たらふく息を吸い込み終わったのかお互いの受話器から音が一瞬だけ消えた

削板『吹寄の安全は根性に誓って俺が絶対に守る!!!』

その声で携帯のイヤホンが壊れてしまうんじゃないかと心配になるほど大きな誓いの言葉だった

「…………えっ!?」

上条と周りの者たちは突然の告白ともとれる、その言葉に呆気にとられていた

その中で一人、土御門だけはヒューっと口笛を鳴らせて削板の男気を称した


『な、なななな何を口走ってるか貴様!』

照れているのか、怒っているのか不明だが、顔を真っ赤にさせた吹寄は慌てふためきながら削板に抗議した

その吹寄の顔を見て不思議そうに削板は電話の先にいる上条に問いかけた

削板『おい、吹寄が顔を真っ赤にさせて怒っているんだが、今の言葉そんなに嫌なものなのか?』

上条はその言葉を聞いて、少し呆れた調子で小さく呟いた

上条「それぐらいわかるだろ……」

そんな上条の話を間近で聞いていたインデックス、御坂、神裂はムッとした表情をさせながら少年を睨んだ

そんなこととは露知らず上条は削板たちに現在いるホテルの場所を伝えて通話を切った


暫くすると、バーンと勢いよくドアが開いた

中にいた全員がドア付近に注目すると、そこには整った顔立ちに落ちつた服装の少年と吹寄制理が立っていた

誰だあれという具合にポカーンと口を開ける一同に少年が口を開けた

「おぉ、上条!これは何の集まりなんだ?」

少年の言葉を聞いた上条は、必死で頭を働かせて目の前に立つ少年の正体を探った

そんな上条の行動に不信に思った、削板とは違い何かに気付いた様子の吹寄が口を開いた

吹寄「まさか上条貴様、この男が誰かわかってないって、オチでないでしょうね?」

その言葉は、どこか恥ずかしそうにも怒っているようにも聞き取れた


吹寄の言葉を聞いてもまだ、ピンときていない上条とは違いソファに腰かけていた一方通行が口を開いた

一方通行「まさか、あの根性馬鹿か……」

驚いたように目を見開かせて一方通行は、根性馬鹿こと削板軍覇と思わしき少年の顔を見上げた

その言葉を聞いて嬉しそうに笑う少年が一方通行を見た

削板「おぉ、ようやく気付いてくれたかぁ!流石は〝第一位〟だな」

というとハハハと豪快に笑って見せた

その瞬間、一部の人間を除き上条を含めた何人かは

「はああああああああああああああ!」

と少しオーバーなリアクションを見せた


それを聞いた削板は不思議そうに首を傾げ、隣に立っていた吹寄は顔を真っ赤にさせて俯いた

そんな二人にはお構いなしと、上条と隣で座っていた御坂が立ち上がり口を開いた

上条「えっ、え!?本当にお前、あの削板かよ」

御坂「人ってここまで変わるものなの?……つくづく意味不明よね」

どこか珍しい展示物を見るように削板の周りをグルグルと観察する二人にニカッと眩しい笑顔をで削板が言った

削板「そんなに変わったのか?実はこれ全部、吹寄が選んでくれたんだ!ただ少し運動に向いていないがな」

運動と言葉が出た瞬間、少し残念そうにズボンの表面を擦った

念のためか、持っていたカバンには、彼らしいいつも着ている勝負服が入っていた


しかし、それでも気に入っているのか、堂々とした態度で笑顔を張り付けて立っていた

それを隣で聞いていた吹寄は、先程以上に顔を真っ赤にさせて削板に抗議した

吹寄「こ、コラ!そんなこと言ったら垣根や秋沙に笑われるでしょ……ってあれ?」

吹寄の言葉を聞いた途端、先程まで笑っていた上条たちの顔が曇った

それが何を意味するのか吹寄には理解できなかった。が削板軍覇は少しだけ検討がついたのか口を開いた

削板「あいつらの身に何かあったのか?」

それは決して責めている言葉ではなかった。しかし、上条は答えにくそうに首を縦に振った

その瞬間、吹寄は上条の襟首を持ち上げ掴みかかった


それを必死に抑えるように削板は、上条から吹寄を引き離した

吹寄「秋紗と垣根はどこ、この集まりはいったい何?答えろ上条当麻!!」

その怒声に誰一人として答える者はいなかった。それが逆に吹寄の精神を乱した

姫神の名前を呟きながら膝から崩れ落ちる吹寄を削板はしっかりと抱きかかえた

その光景の一部始終を見ていた結標がソファーから立ち上がり削板達の下へ歩きだした

結標「貴女、名前は?」

吹寄「秋紗と同じクラスの吹寄制理です」

目に涙を浮かべた吹寄は結標の顔を見上げながら答えた


結標「そっ、貴女が吹寄さんね。いつも秋紗から話は聞いているわ」

そういいながら結標は優しい笑顔で吹寄と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ

そして、結標は本題へと入る前に、あることを確かめる為、一つの質問を吹寄にした

結標「秋沙の能力は知ってる?」

それは、このメンバーに参加させるべき人間であるかどうかの試験問題であった

結標は吹寄が姫神と同じ高校と聞いた瞬間、あることを察した

結標(この子は『無能力者(レベル0)』ね。しかも、本当にただの一般人レベルの)

その考えは厳しくも優しいものだった


それもそのはず、目の前にいるのは姫神の大事な友人なのである巻き込みたくないというのが一般的な考えであった

だからなのか、あえて意地悪な問題を出し、この件から手を引いて貰うつもりだった

先程の電話では上条が了承したものの、やはり結標は容認できなかったのだ

そう、吹寄の出した答えを聞くまで

吹寄「知っています。『吸血殺し(ディープ ブラッド)』その名の通り吸血鬼を殺す能力……」

その場にいた誰一人として冷静な表情をさせた者はいなかった。ただ一人、削板軍覇を除いて

結標「貴女いったいどこで、そんな情報を」

目を見開いて驚いている結標は、吹寄の両肩を力強く掴むと顔を近づけた

掴まれた肩の痛みに顔を歪めながら、吹寄は数日前に起きた〝ある事件〟のことを話しはじめた


全てを聞き終えた瞬間、白井黒子と心理定規は口を開いた

白井「あの時の調書にはなかった情報ですの……」

心理定規「まぁ、あの事件に関係ある内容ではないわね」

どうやら吹寄が黙っていた姫神の詳しい内容については、お咎めが無いようだ

しかし、これからは軽くでいいので伝えてほしいと付け加えられた

吹寄は、白井たちに頭を下げると結標の方に向き直った

吹寄が何かを言いかけた瞬間、結標の抱擁で遮られた


吹寄「え、ちょ、えぇ!?」

慌てふためく吹寄とは真逆に、目に薄らと涙を滲ませた結標が耳元で囁いた

結標「ありがとう。そのことを知っても秋沙の友人でいてあげてくれて、本当にありがとう」

吹寄は、胸を圧迫する苦しみに悶えながらも、照れたようにフフッと笑った

しかし、吹寄には二つほど気がかりがあった

一つ目は、この集まりの意味するもの

二つ目は―――――

吹寄「ところで、削板。貴様、秋紗の能力について知っていたんじゃないでしょうね?」

そう、先程吹寄がいい放った姫神の能力の時に一人だけ反応を全くって言っていいほど見せていなかった


上条を含め他のここにいる人物が驚いたのは吹寄が知っていたからだとわかった

しかし、吹寄は友人である姫神の能力を言いふらすほど愚かではなかった為、削板にさえ教えていなかった

そのことを指摘された削板は、さも当然のように力強く答えた

削板「あぁ、あいつと会う前から能力についてなら知ってるが」

吹寄「なんで!?だって私、そのことについては一言も……」

驚いた表情をさせる吹寄は、削板に問いかけた

それを聞いた削板は少し思い出そうとする素振りを見せた。そして、思い出したのかゆっくりと答えた

削板「なんでってそりゃあ、俺が最大の『原石』という事で、研究所にいた時に他の原石の資料を見せられたからな」

そう、削板が姫神と会うずっと前から『吸血殺し』という存在を知っていた


それだけでなく、学園都市が抱える数人の原石の存在も確認しているのだ

削板「別に隠すつもりは無かったが、だからといって楽しく話せる内容ではないだろう?」

さも当然ように答える削板を見て、彼のことを知っている者達はどこか納得したような表情をさせた

結標「まぁ、いいわ。とりあえず座りなさい」

そういうと結標は二人に、新たに準備させたソファを指差した

結標「これを聞いて、参加するかしないか決めなさい」

そういうと、紅茶に口を付けて喉を潤した

結標「命に関わる大事な選択よ」

そういい、ゆっくりと口を開いた


吹寄「秋沙が連れて行かれた……」

目を見開かせた吹寄に、優しく諭すように結標が口を開いた

結標「本物の吸血鬼よ……無理は言わないわ。大人しく……」

帰りなさいそう言いかけたが、吹寄の何かを決意した表情を見て溜息をついて口を閉じた

結標(いい友人を持ったわね。秋沙)

目を細めて吹寄やここに集まった者達を見て結標は微笑んだ

近くで結標と話す吹寄には聞こえない小さな声で上条は削板に呟いた


上条「なぁ、本当に吹寄を連れて行くのか?」

削板「今のあいつは俺の根性ですら動かせねえ意思を持ってる。だったら、俺は傍で護ってやるだけだ」

心配の色を含ませた上条の話を聞いた削板は、小さく笑い吹寄の横顔を見て力強く言った

それを聞いた吹寄は顔を真っ赤にさせ抗議し、結標は少し呆れたように息を吐いた

結標「貴方たちって、本当に変わってるわね……」

「ハッ、ここにいる時点でテメェも一緒なんだよ。結標!」

そんな結標の言葉に付け足すように、一人の少年の声が会場の入り口付近から聞こえてきた


―――その少年は、長身で少し高めのジャケットを羽織っていた

―――その少年は、昨日のおぼつかない足取りではなく、しっかりとした足つきで結標たちの下へと歩いてきた

結標「あなた……」

吹寄「貴様、怪我は大丈夫なんでしょうね?」

―――数多くの仲間(ちから)が揃っているのを見て少年は笑った


垣根「ハッ……俺に、垣根帝督に常識は通用しねえ」


―――〝第二位〟『垣根帝督』は、仲間たちの下へと再び帰ってきた

今日の投下は以上です。少しスローペースだったので展開を早くさせました

では、また明日

乙でした!!


それでは、今夜も投下していきます


集った者たち全員がソファに腰掛けるのを確認してから、垣根はゆっくりと口を開いた

垣根「この際、準備ができてるかどうかなんて確認はしねえ」

その言葉からは、仲間を信頼しているように聞こえた

それを黙って聞いていたものたちは、垣根の本音を理解したように

待ちくたびれたからか鼻で笑うもの・自分の気持ちが固まったのか強く頷くもの・拳と拳をぶつけて気を集中させるもの

それぞれの反応を見て、予想通りの反応が返ってきたからか

それとも、その反応に嬉しくなったからか、垣根の顔は無意識のうちに笑みを溢していた

そして、垣根は静かに微笑むと今から始まる救出作戦(ゲーム)について話し出した


白井「納得いきませんの……」

そう小さく呟く白井を宥めるように御坂が口を開いた

御坂「仕方ないじゃない。食蜂のフォローに入って常盤台を守れるのはアンタしかいないのよ」

やはり常盤台の生徒が心配なのか、御坂はどうしても食蜂操祈の行動が気になっていた

垣根が考えるプランでは、白井は常盤台の学校内などを把握しているため、これ以上の適役はいないと告げた

それならばと白井は心理定規を押すも、精神系能力者が二人いたところで上手く機能はしないと垣根はスッパリ断った

垣根「最初に説明したが、結標は全ての戦闘にフォローに出てもらう。つまり、鍵なわけだ」

それは、これ以上の作戦を乱さないようにする為の言葉であった


もし、次に誰かを代わりにするとしたら同じ移動する能力を持つ『座標移動』結標淡希だろうと考えた

それを聞いて、自身の気の乱れを落ち着かせるように深呼吸をしてから、俯きながら呟いた

白井「取り乱してしまい申し訳ないですの。作戦通りに従いますの」

これ以上の説明は不要と、白井は穏やかな目つきで隣に座る御坂の顔を見上げ答えた

その目からは、これから起こることへの不安とかではなく、目の前の少女の無事を祈るようであった

それに気付いたのか、御坂は柔らかい微笑みを浮かべ、白井の髪をゆっくりと掻き撫でていい放った

御坂「安心なさい。私は絶対にアンタの下に帰ってきてあげる。それよりも、黒子の方が心配よ……無理すんじゃないわよ!」

白井「わたくしは、お姉様のパートナーであり風紀委員ですの。必ずや食蜂操祈や他の生徒を守ってみせますの!」

お互いに似たような約束をすると、二人は顔を見合ってクスクスと笑った


そんな光景を見て少し何かを悩んでいた垣根に、上条は心配したように声を掛けた

上条「おい、本当に浜面達は無理してでも呼ばなくて良かったのか?一ヵ所に集まった方が……」

上条の意見ももっともだった。この作戦にはいくつか疑問点があった

一つ目は、この作戦はバラバラになってようやく発揮するというもの

今この場にいない者たち以外は、ここに一ヵ所に集合している為、考え過ぎなのではないかということ

二つ目は、上条当麻が本作戦の『銀の弾丸(シルバーブレッド)』であること

これらの疑問に答えるように、垣根は静かに上条に告げた

垣根「これらの作戦は絶対だ。これ以外じゃあ考えられねえ」

その目は何かを確信したようなものだった。まるで、この先の未来を見てきたかのような、そんな目だった


垣根「それに、麦野たちなら昼ごろ俺の所に来たぜ」

上条「えっ……」

そういうと、上着のポケットから〝例の紙〟を取り出すと『4』の共闘を示す決定欄に○を付けた

それを見た上条は思わず嬉しくなったのか、それともホッとしたのか小さな溜息を吐いた

しかし、一向に姿を見せない浜面達に疑問を持ったのか、上条は垣根に問いかけようと口を開きかけた

垣根「麦野達なら、ココにはこねーよ。こっちが持ってる情報と交換に共闘を結んだだけだからな」

そう、垣根はここに来る前、再開した時と同じ四人と病室で話していた


なぜ急に麦野達が乗り出したのかは不明だが、どうやら彼女たちにもその気にさせる事が起こったと垣根は考えた

そして、垣根は役に立つかどうかは不明な情報と、あくまで姫神を救出の為に戦う条件を交換する

すると、話を聞いていた浜面仕上は、何かを思い出したような顔をさせると唐突に五人に向けて問いかけた

浜面「おい、この中の誰か化粧ポーチを持ってないか?」

浜面がいった問題発言ともとれる言動に、その場の空気がピキピキと凍りついた

麦野「お前、そんな趣味があったのかよ……」

絹旗「これだから浜面は超浜面なんです」

滝壺「女装趣味を持つはまづらを、応援できない……」

垣根「……言っとくが俺はそっちだけは常識ありでいてえ」

それぞれ、冷たい目線を送るなか、浜面は何かを訴えるように叫んだ

浜面「あああああああもおおおおおおおおお!なんでもいいから持ってるなら貸してくれよ!」


その時、病室のドアが開き、看護師の服装に身を包んだ一人の少女が入ってきた

看護師「騒がしいと思い来てみれば、エセホストの友人の方が来てたのですねとミサカは、うるさいから静かにしろと言いたいのを堪えて対応します」

浜面「いや、堪えきれてねぇよ。思いっきり口から出てるじゃねぇか!」

などと、浜面が入ってきた看護師にツッコミを入れている横で麦野沈利と滝壺理后は少女の顔を観察していた

その鋭い視線に気付いたのか、垣根は未だボケをかましている看護師を指差して告げた

垣根「気付いてるだろうが。コイツは『妹達』だ。まぁ、今はメイクしててわかりにくだろうがな」

そういうとベッドから起き上がり、〝妹達〟の一人『御坂妹』こと一〇〇三二号の前に立つと口を開いた

垣根「お前、化粧道具持ってるか?」

御坂妹「えぇ、持っています。しかし、何に使うのですかとミサカは女装趣味疑惑のエセホストに問いかけます」

その無感情と思われる少女の顔が注意して見ないと気付かない程度に笑っていた



垣根「俺にそんな趣味あると思うのか!?コイツが入用なんだとよ」

御坂妹の発言に抗議するように、垣根は怒りを交えた表情で浜面をズイッと指差した

それを聞いて御坂妹は浜面の顔をまじまじと見つめ、プッと吹き出したあとドアの方へと向かう

御坂妹「そちらの方でしたか……とミサカは少し憐れむように女装趣味疑惑のある金髪にほくそ笑みます」

そういうと、ミサカ一〇〇三二号は病室から出て行ってしまった

垣根(まぁ、そのあと無事に化粧バッグを持ってきやがったけどよ……なんで俺の分まで用意されたのか理解できねえ)

垣根は、嫌なことを思い出したのか髪の毛を掻き毟りながら溜息をついた

垣根(それにしても、アレを持っていきやがったって事は、何かに使うんだろうな……)

御坂妹から渡された化粧バックから取り出したある物のことを思い出して、垣根は何かに引っ掛かっていた


しかし、彼らの参加目的が不明な以上、考えても無駄だと悟ると机の上に置いてある紙を掴み席を立った

すると、上条の方から携帯電話の着信音が鳴った

上条との話もこれでしまいと悟ると、垣根はとある人物の方へと近づいて行った

垣根「…………」

―――その人物は、真っ白な少年だった

「何の用だ……三下ァ」

垣根「ヘッ、相変わらずムカつく野郎だ」

―――その少年とは、何度となくぶつかっていた

垣根「テメェの答えを聞いてなかったからな……」

「……答えだァ?」

―――最後の協力者となるかもしれない少年〝第一位〟『一方通行』


みんなが集まる少し離れた場所で、垣根は一方通行に安物のボールペンと紙を突き出して言った

垣根「テメェで最後だ。このまま別れて独自で闘うもよし、このまま残るもよし。テメェの人生だテメェで決めろ、一方通行」

それは、初めの交渉とは違い、この集まりを辞退するという道も用意しての交渉だった

垣根は、どこかで気がかりになっていた、この参加自体も彼は罪意識の為に来ているんじゃないのかと

別にそれで姫神が救えるのなら垣根は、一方通行が無理矢理に参加していても良かった

しかし、当の姫神がそれを知ったらどうだろうか?きっと彼女なら責任を感じ嘆くだろう

それが許せなかったがために、垣根は最後の参加者として一方通行に問いかけた

―――彼の、一方通行という一人の少年の本音を聞くために


少しの沈黙が二人の空間だけに訪れた

すると、その沈黙を破るように一方通行は口を開いた

一方通行「チッ、たくよォ……そンなことを、いちいち聞かねェと理解できないから、オマエはいつまでも三下なンだよ」

そういうと、一方通行はペンを乱暴に持つと自分の序列である〝第一位〟の参加欄に○を付けた

垣根「…………」

一方通行「オマエにどうこう言われる前に、俺の答えは決まってンだよ」

「俺の日常を邪魔するってンなら、〝第一位〟じきじきに相手になってやるってなァ!!」

それが本当の彼の本音だったのか垣根には知る能力(ちから)ない。だが、一方通行という人物が少しだけ理解したのか小さく鼻で笑うと


垣根「せいぜい、負けて脳みそ三分割にされねぇように気を付けろよ!」

一方通行「それは、経験者としてのアドバイスかァ?」

その瞬間、二人の間に火花が散っているように見えたと、二人のやり取りを見ていた者達はのちに語っていた

しかし、そんな険悪な空気も一瞬で消え去った

垣根「それより、『最終信号』じゃねぇや、打ち止め達には説明しなくて出て良かったのかよ……」

そう、垣根自身も『月詠小萌』という大事な人物に説明しないまま出てきてしまったのだ

きっと一方通行の周りにいる人物たちも心配しているに違いなかった


しかし、一方通行はそれを聞いてクツクツと小さく笑って垣根の顔を見て嘲笑しながら答えた

一方通行「俺が狙われていると聞いて、何も方法を取ってないと思ってンなら哀れ過ぎて涙が出ちまうなァ」

そういうと、天井を指差すように指で空を指し示すと

一方通行「何のために、海原の野郎ォをわざわざ連れてきた理由がソレだ」

そう、海原光貴ことアステカの魔術師〝エツァリ〟は、この会場に入ってきていなかった

昼前に打ち止め達を迎えに行ったあと、このホテルの一室に保護していたのだ

その後、海原に事情を話し警護役として、打ち止め達の保護に当てた


一方通行(だが、土御門はどこ行きやがった……。コイツは土御門が来ていることを知らねえから、作戦にはどこにも所属してねェ)

土御門は、削板達が合流する前にこの会場から出て行き、どこかへ行ってしまった

そもそも、土御門がこの集まりに参加すること自体が一つの疑問であった

一方通行(この裏で何かをなのか……)

そんな事を心配する一方通行を余所に、垣根はおもむろに立ち上がると

どこにでもあるような一〇〇円のボールペンと全員の交渉を終えた紙をポケットに突っ込み


全員に聞こえるくらいの張り上げた声でいい放った

垣根「準備はできてんだろうな」

「おぉ!!」

垣根「そんじゃあ、悪い悪い魔法使いに捕まったお姫様を救いに行くぞ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」

垣根(待ってろよ、秋沙……いま助けに行くからな)


御坂「ところで、三人で話してて疑問に思ったんだけど……いい?」

垣根「なんだよ、今いい場面だっただろうが……」

出鼻をくじかれたからか、垣根は御坂の質問に少し嫌そうな顔をさせた

インデックス「そもそも、行くってどこに行く気なのかな?」

結標「焦ってるのは分かるけど、こんな夜中に無暗に動くのは危険よ……」

垣根「それは……」

そう、垣根も言ってみたものの確信はなかった

ただ、結標と別れたあと少し眠りについたときに見た夢の内容がまるで、未来を映すように事細かな内容が頭にへばり付いていた

その光景の日時が『七月七日』になる数時間前のことだった


その後、あまりにリアリティのある夢なためか飛び起きた垣根は、周りを見渡した

真っ白な空間にポツンとあるベッドの横にある机の上には携帯電話と矢尻の付いたペンダントが置かれていた

大事な人物との繋がりであるそのペンダントを手に取ると首から下げた

そして、麦野達と出会い現在へと至る

垣根(あの時の夢といい今回といい、まるで……)

まるで予知夢ではないかと思いかけた時、唐突にどこからともなく男性と思わしき声が空間に響いた


『みなさん、準備の方は大丈夫ですか?』

御坂「誰……?」

インデックス「この声は、あいさがさらわれた時にいた人物の声なんだよ!」

マントの男『ご名答、さすがは完全記憶能力ですね』

垣根「ハッ、そんなモンなくてもなテメェの声を忘れた事はねぇんだよ!」

マントの男『どうやら傷は完治したようですね。それでなくては困ります』

上条「ごちゃごちゃ言ってねえで、相手になってやるから出て来いって言ってんだよ!」

マントの男『安心して下さい、私たちはその入り口のドアの奥にいますよ』

「何ッ!」

一斉に、入り口のドアの方へ注目した。しかし、特に開いた形跡も何もなかった

垣根「いいぜ、そっちから来ねぇならコッチから行ってやるよ」

そういうと垣根を先頭に集まった者達はドアの前まで来ると、ゆっくりとドアを開け部屋から出て行った


マントの男「じっくりと拝見させてもらいますよ。『儀式』を終えるまでね……」

クツクツと笑いながら、垣根たちの行動を地面に映し出された映像を見ていた

マントの男は、未だ気を失っている姫神に向けて指を一回だけ鳴らした

姫神「んっ……」

まるで催眠術が解けたかのように、指を鳴らした直後姫神は目を覚ました

それを見てニタリと口を裂かしたマントの男は、初めての挨拶を交わすように丁寧な物腰で口を開いた

マントの男「初めましてですね、姫神秋沙。いや……〝日女神 哀砂〟」

彼女とは別の名前を発するマントの男は、表情を変えずに姫神に告げた



「あなたの持つ『吸血殺し』の正体を知りたくはないですか?」



今日の投下は以上です。明日から、それぞれのバトル編です
それでは、またこの時間に


>―――その人物は、真っ白な少年だった


ここでつい白垣根君を期待してしまった…一方さんはもう参加している雰囲気だったし……
七巻みたいにカブトムシ姿で窓を破って助けに来るイメージが……
あとここの姫神は上条みたいに違う名前持ちなんだね


これぐらいのテンポが好きだな。
そして、吸血殺しに期待。

乙!!!

連絡が遅れすいません。明日もこの時間に帰宅することなりそうなので書き溜めが作れそうにありません
申し訳ありませんが、明日のこの時間帯か、明後日の九時頃に来ます

それでは、また

>>511
乙でござんす!
焦らなくっていいよ。

もう少しだけお待ち下さい。キリがいいところまで書ききってきます

やっと書き終わりました……それでは、遅いですが投下していきます


少年と少女は未開発な工場跡地を歩いていた

少年は、真っ白に色抜きをされた白ランに身を包んでいた

少女は、発達した体にも関わらず、どこかいやらしさを感じさせないジャージを着ていた

彼女の首からは、先日の買い物で購入した香水の香りが漂っていた

ポケットには、薄めた香水の小瓶が入っていた

少年の名は、学園都市〝第七位〟『削板軍覇』

少女の名は、この都市では珍しくない〝無能力者(レベル0)〟『吹寄制理』

彼等はいま、自分たちの身に起こっていることを整理させるため、とりあえず近辺を散策していた

なぜ彼らがここにいるのかは、本人たちにもわかっていなかった


吹寄「これって、明らかに罠にはまったって事でしょうね……」

どこか冷静に物事を考えれているのは、事前に情報を入れていることもあったが、それ以上に驚くことがあったからだ

削板「すげえな、まさか本当に吹寄とペアになれるとわな」

そう、彼らがドアから出た直後、二人だけがこの場所に移動させられていた

まるで、最初から作戦を知っていたかのように、削板達は誰もいない荒れ地を彷徨っていた

もうすっかり夜になっていた為か、空には真ん丸な満月が空へと昇っていた

吹寄(こんな場所じゃなければ、少しはロマンチックだったわね)

そんなことを考えてながら、吹寄は瓦礫のまま放置された周りの情景に嫌気が差したのか小さく溜息を吐いた


それに気付いたのかどうかはわからないが、急に削板が進めていた足を止めた

そして、いつも見せてきたモノとは違う真剣な表情で振り返り、吹寄と向き合うように立った

削板「一度しか言わないからな」

吹寄「えっ……」

急に真面目な雰囲気を出す削板に少し戸惑いながらも、少年が口を開くのをジッと待った

すると、二人の間に夏の夜特有の涼しい風が吹き抜けた

そして、それを合図とばかりに削板は静かにと口を開けた

削板「吹寄制理……好きだ、俺と付き合ってくれ!!!」

それは力強くいい放たれた。例え玉砕覚悟とわかっていても、彼は逃げずに自分の気持ちに向き合うだろう

しかし、玉砕覚悟なんて彼は考えてなかった。そんな考えは根性なしの考えだと言わんばかりに自信に満ちていた


そんな、自信満々な削板に驚いているのか、それとも突然の告白に困惑しているのか

吹寄「えっと……えっえっ!えぇぇ!!」

どういう反応していいものかと、あたふたした様子で吹寄は自分の赤くなった顔を隠すように手で覆った

それもそのはず、まさかこのタイミングで告白されれば誰でも反応に困るというものだ

しかし、そんな常識は根性でぶっ壊すというように削板は、愛の告白をしてきたのだ

全国の少女漫画のファンも真っ青の展開に、吹寄は暫く沈黙していた

すると、削板は何かを感じ取ったからか、吹寄の前に立ち廃屋の影の方を睨んで告げた

削板「返事はあとで聞く……まずは」

突然、口調が強くなったからか、吹寄はただならぬ雰囲気に戸惑いながらも削板の視線の先を見た


そこには一人の古ぼけた茶色いローブを纏った人物が音もなく削板たちの方を静かに見つめながら立っていた

その人物を確認すると吹寄は思わず後退りながら、今回の件で散々話されてきた『ある生き物』の名前を思い出す

吹寄(……!!……あれが、吸血鬼?)

その風貌から、この街の者とは違うことが明白な、目の前の人物が吸血鬼であると予測した

吹寄と削板がジッと見つめる中、纏った男はそんなこと気にも留めずゆっくりと口を開いた

「今日は、月が綺麗ですね……」

男は少し目線を下にしてそう告げると、なんの含みもなさそうな柔らかい笑みを浮かべた


削板「なんだ、そんなフードじゃ月なんか見えないだろ?」

その微笑みを見た吹寄は一瞬、緊張の糸が切れかけそうになったが、削板の一言で何とか保つことができた

そう、男が吹寄達の前に現れてから、一回も夜を照らす満月を見る素振りを見せていなっかった

それはまるで、月を見てしまわないように避けているようであった

「見えないのではありません、見たくないのです。アレを見てしまうと、わたしはあなた達を殺してしまうから」

「なぜならわたしは……」

その瞬間、どこからともなく強烈な突風が吹き荒れた


その強い風は、削板と吹寄の視界を奪うほどの、砂塵などを舞わせながらローブの男との間を吹き抜けていった

「あがぁ…………あぁ」

ようやく目を開けれるまでに風が収まり、吹寄たちはゆっくりと瞼を開けた

すると、さっきの風によるものか、削板たちの前に立っていた男はフードがはだけ、青年の頭を月明かりの下にさらした

それが原因か、男はもがき苦しむように頭を抱えて、その場をよろよろと歩きまわった

何度か壁にぶつかり苦しんでいた男だったが、ピタッと何かに指示されるように動きが止まるとゆっくりと顔を上げて月を仰いだ

「がふ……ゴフ……ハァ……ハァ」

「アオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン!!!!」

それは、どこまでも響き渡るような大きな獣の遠吠えだった


否、獣などこの一帯にどこにもいなかった。それを吠えたのは先程まで吹寄たちの前に立っていた『人間』だった

いや、今の彼は『獣』でも『人間』でもどちらでもないのかもしれない

吹寄「人狼……」

削板「ほぉ……変身とはなかなか根性あるじゃねえか」

関心する削板とは違い、あまりの出来事に思わず口に出してしまった吹寄は、体を小刻みに震わせながら男を見た

男の顔や首元からは髪と同じ黒っぽい毛が生え、顔や耳の位置はまるで骨格自体が変化したかのように犬のものと似ていた

犬のなかでも特に眼光が鋭いシベリアンハスキーとも違う、純粋な野生の本能を剥き出しの目つきで人狼は削板たちを睨んだ


「ハァ……ハァ……ハァ……」

前屈みの体制で両手を地面に触れるか触れない程度に垂らせて

荒い息を吐く人狼は、獲物を観察するように削板たちの周りをクルクルと歩きはじめた

削板「吹寄……今のアイツは言葉が通じねえかもしれない。どこか物陰にでも隠れていてくれないか」

人狼とは伝説上の生き物であるものの、目の前の生き物を見た限り、まともな思考ができるとは思えなかった

それはまるで、一匹の巨大な狼に遭遇し獲物として狙われている状態と同意であった

いや、狼ならば削板は能力を使うまでもないのかもしれない。だが、目の前にいるのは人狼なのだ

手は鋭い爪を持ちながらも、人間のように五本の指を自在に動かし、体などは細身であるものの、身軽に二本足で歩いていた

などと観察していた削板だったが、自分たちの周りで円を描きながら見据えてきた人狼の動き急に止まるのを見て

いつ飛びかかってきてもいいように耐性を低めて、グッと強く拳を握った


吹寄は、削板の邪魔にならないよう獣人とは反対方向にある瓦礫へと素早く隠れた

―――そして、その時は突然やってきた

その細い足からは想像できないほどのジャンプ力で、人狼は削板に向かって襲いかかってきた

予想通りの動きを見せた人狼に対し、削板はそれを迎え撃つように強く地面を蹴り上げて、空に向かって飛び上がった

両者は拳を突き出せば届く距離まで近づくと、互いに腕を大きく引きそして素早く突き出した


削板「うおらあああああああああああああ!」


人狼「ガアアアアアアアアアアアアアア!!」


拳同士は互いにぶつかり、その衝撃により二人はもの凄い勢いで吹っ飛び瓦礫の山へ突っ込んだ


吹寄「削板っ!!」

隠れていた物蔭から身を乗り出した吹寄は、安否を心配するように削板の名前を叫んだ

すると、その声に反応するようにガラガラと音を立てながら、瓦礫から立ち上がる削板の姿が現れた

瓦礫に突っ込んだときのものか、それとも互いの強力な力がぶつかった衝撃によるものか、削板は頭から血を流していた

削板「思った以上に根性のある拳だ。鍛錬の成果を試す相手としちゃあ不足なしだな」

どこか嬉しそうに額の血を拭いながら、削板は未だ瓦礫から出てこない人狼が吹っ飛んだ場所を睨んだ

しかし、近くにいた吹寄のことが心配なったためか、彼女が隠れている場所へと視線を移したほんの一瞬それは起きた

メリメリ……ゴキッ

削板「がはッ……」

どこか頑丈なところに固いものが食い込み、何かを破壊した音が空間に響いた



吹寄「えっ…………」

何が起こったのか理解が追い付いてないのか、吹寄は目の前の光景をただただ見る事しかできなかった

吹寄の視線の先には、肉眼では観測できないほどの速さで距離を詰めた人狼が、削板の横腹に拳を突き刺していた

削板「俺としたことが油断するたあ、まだまだ修行がたりねえな……っと!!」

そういうと口から血を吐きながらも、ガッシリと人狼の腕を掴む削板は、もう片方の手で相手の顔を掴み、地面へ叩きつけた

轟音とともに、そのあまりにも大きな衝撃でか、人狼を叩きつけた直後地面に巨大なクレーターができた

メキメキと指に力が入る不快な音が、削板の耳にも届いた

削板(これは、さすがに効いただろ……)

先程の攻撃により肋骨が何本かヤられたのか、削板は顔をしかめながらピクリとも動かない人狼を見下ろした

すると、目を覚ましたのか人狼は、自信の顔を押さえる削板を睨み、大きく口を開いた


削板「!?」

それに驚いた削板は、思わず両手を相手から離し、地面を蹴って大きく後ろへと下がった

『人狼』という姿をしているため、忘れてしまいそうになるが、相手は吸血鬼だ

噛まれれば当然、彼らの仲間として生きていくこととなる

それを人狼の鋭い牙を目の前にして察した削板は、なんとか最悪の展開は回避することができた

削板「こりゃあ、迂闊に近づくのも難しいってもんだな……」

思いつく限りの攻撃手段を頭の中で思い描き、何かいい方法は無いかと考え出した

しかし、そんな暇を相手は与えてくれるなどとは思っていなかったのか、削板はすぐさま体勢を立て直し人狼を見据えた

それと同時に、少し離れた場所にいた人狼は地面を蹴りながら先ほどと同様の速さで削板に襲いかかってきた


しかし、削板もその速さに反応できたのか、人狼が走ってくるのを狙うように拳を思いっきり引いた

削板「見せてやる……これが俺の能力(ちから)だ!すごい……パーーーーーーーーーンチ!!」

腕が引きちぎれんばかりの力強く振るわれた削板の拳の先から、巨大な一筋の閃光が出現した

それは、まっすぐ人狼の姿を捉えていた。しかし、人狼はそれを見てニヤリと笑ったように見えた

そして、人狼は目の前まで迫った光の塊を見ながら、スピードを緩めずに地面を横に蹴った

吹寄「ウソ……」

削板が放った閃光でこの戦いにも決着がつくと思っていた吹寄は、人狼の思わぬ行動に驚きを隠せなかった

しかし、当の削板は少し驚いたように目を見開かせたものの、次の迎撃に移るため体制を直した


削板「思った以上にやるじゃねえか……だが」

もう五メートルまで迫った人狼に向けてそう告げた削板は先ほどと同様に拳を引いた

この距離から放たれれば、反応はできても避けることはできないと考えた削板はギリギリまで拳を突き出さなかった

そして、削板は本当に目の前まで迫った人狼に向けて拳を突き出した

それを見計らっていたかのように、人狼は急に体制を低めて削板の拳を避け、脇を抜けていった

削板「しまっ……」

背後を取られたと思った削板は無理矢理に足を動かし、ガードする体制のまま後ろを振り返った

しかし、人狼は削板なんか目もくれずに、スピードを落とさずに走っていた

削板「…………!?」

走り抜けていった人狼が目指すものが何かわかった瞬間、削板は音速の二倍の速さで人狼を追いかけた

削板「吹寄、逃げろオオオオオオ!!」

速さでは削板が勝っているものの、少し気付くのが遅れたためかなかなか距離が詰められずにいた


削板「吹寄、早くその場から離れろ!」

吹寄「…………」

削板の叫び声に反応する前に、人狼がもう目と鼻の先まで近づいていたことの恐怖の方が勝った為か、吹寄はその場に崩れ落ちた

吹寄「ごめんね、秋沙……削板。何も役に立てなかった……」

涙をこぼすことも忘れてしまっているのか、声を震わせたまま目の前まで迫った人狼を見つめながら囁いた

人狼は吹寄の前で止まると、巨大な爪を付けた手を吹寄目がけて大きく振りかぶった

バシュッ

何かが鋭利な物で斬られる音が静かな空間に流れた

しかし、その音は吹寄を傷つけた音ではなかった

「グフッ……」

吹寄「えっ……」

恐怖で目を瞑っていた吹寄は、何者かが苦しむ声が聞こえたためゆっくりと目を開いた


吹寄「削……板?削板ああああああああああ!」

吹寄が目を開けると、巨大な爪の攻撃から守るように削板が人狼と吹寄の間に立って攻撃を体全体で受け止めていた

削板の体は肩から横腹にかけて鋭い爪痕が刻み込まれていて、その傷口から大量の血が流れていた

血で真っ赤に染まる白ランを見て、目に涙を浮かべながら膝から崩れ落ちた削板の体を支えた

吹寄「ねぇ、ふざけてる場合じゃないでしょ……。さっきの返事を聞くって言ったはずじゃない」

しかし、削板は吹寄の声に反応を示さなかった

吹寄「寝坊だなんて許さないわよ。早く起きなさいよ……軍覇」

しかし、無情にもそんな削板の腹に足を乗せて、勝利の雄たけびとも思える遠吠えをする人狼

そんな人狼の顔を目がけて吹寄は、周りにあった大きめの瓦礫の破片を投げつけた

吹寄「貴様、その足を今すぐどきなさい。この馬鹿者」

人狼相手に効かないのはわかっていた。しかし、吹寄は自分を守るために傷ついた少年を踏みにじる行為が許せなかった



吹寄「あうっ!」

しかし、その行為は人狼の気を逆なでするだけであった。そして、人狼は座り込んでいた吹寄の首を持つと一気に持ち上げた

息ができない苦しさと、あまりに強い握力により気を失いそうになる吹寄だったが、あることを思い出した

吹寄(確かポケットの中に……)

朦朧とする意識の中、なんとかズボンのポケットに手を伸ばす吹寄は、必死にバレないように両足や片方の手をバタつかせた

その姿を見て特に気にした様子を見せない人狼は、そろそろ決着をつけるため、まずは目の前の少女に噛みつくため大口を開けた

吹寄(間に合って……)

未だポケットから切り札を取り出せていない吹寄は、心の中で願った


まるで楽しむようにゆっくりと首元へ顔を近づけていく人狼だったが、時間が止まったようにピタリと動きが止まる

人狼「うがあぁ……」

何かを嫌がるように吹寄の首から急いで顔を離す人狼は鼻の周りを手で擦っていた

吹寄(首の匂いを嗅がれてそんな反応をされるのは流石に傷つくわね……)

それを不機嫌な表情で見ていた吹寄は何かを確信したように

やっとのことでポケットから取り出した小瓶の蓋を開け中身を人狼に向かって撒いた

バシャ

何かの液体がまき散らされた瞬間、人狼を中心に柑橘系の甘酸っぱい匂いが辺り一面に漂った

その瞬間、人狼はもがき苦しむように吹寄の首から手を離して地面に顔を突っ込んだ


吹寄「ヒュー……ハァ……ヒュー……ハァ。助……かった」

なんとか呼吸ができるようになったものの、未だ人狼は健在で少しだけ命が伸びただけであった

そのとき吹寄からは見えないが、わずかに削板の指がピクッと動いた

削板(なんだこの匂い……嗅いでるとすごい落ち着くな)

風にのって鼻へと運ばれるその匂いは、削板の気持ちを落ち着かせるのに最適だった

その匂いは、身近にいる大事な少女が好んで付けていた香水の匂いだった

削板(そうだ、俺はまだやらないといけねえことがあったんだった)

そう決心した時、削板の耳からではなく頭に直接話しかける声が聞こえてきた


『君はここで終わるにしては勿体ないな』

その声の主に思い当たる人物がいるのか、削板はわずかに動く体で反応を示した

『こうやって話すのは俺と君が初めて会った十月以来か』

その声の主は、昨年の十月の第二金曜に最大の『原石』をたった一人で倒し、学園都市に武力を使った交渉を仕掛けた人物

―――〝魔神〟と呼ばれるはずだった男『オッレルス』

オッレルス『ここで君が倒れるという事は、俺との再戦はなしという事でいいのか?』

どこか挑発するような、その言葉は満身創痍の削板を立ち上がらせるには十分すぎた

削板(勝手なことを……。俺がそんな根性のねぇ事を許すはずがねえだろ)

オッレルス『ふっ……いつか君とも会えることを楽しみにしているよ』

そういうとオッレルスは通話を切るように、削板には理解できない魔術を切った


吹寄「削板……削板ぁぁぁぁぁ!!」

フラフラと立ち上がった削板の姿を見て、吹寄は思わず駆け寄り抱きついた

削板「よっと……。心配かけて悪かったな。もう大丈夫だ、あの躾のなってねえ根性なしの犬っころは今度こそ倒す」

削板は、抱きついてきた吹寄をガッシリと受け止め、背中をポンポンと叩いてやり離れるよう諭した

そして、自分から吹寄が離れるのを確認してから、未だ香水の匂いに苦しむ人狼を見つめた

そして、思いっきり息を吸い込むと、腹の底から息を吐くように人狼に向かって吹きかけた

その息はまるで突風とでも勘違いするような強風であった

するとどうだろう、さっきまで匂いに悩まされていた人狼は何事もなかったかのように削板を睨んできていた



吹寄「えっ……どうして」

削板「アイツとは、今度こそ正々堂々とぶっ飛ばさなきゃならねえからな。ハンデなんかいらん!」

純粋にこの闘いを楽しんでいるのか、それともハンデを負った相手に勝つという根性なしになるのが嫌なだけなのか

とりあえず削板は、突風を起こすことで人狼に付いた香水の匂いを全て吹き飛ばした

それを聞いた吹寄は、もう何度目となるかわからない程の削板の根性論に呆れたように深い溜息を吐いたあと口を開いた

吹寄「そこまでいうなら、絶対勝ちなさいよ!」

削板「おう、そのあいだにさっきの返事でも考えといてくれ!」

カァーっと顔が赤くなる吹寄に背を向けて、削板は警戒していているからか、動こうとしない人狼を見つめた

削板「よっし……いっちょ根性を引き締めますか」

そういうと、四股を踏むように右足を上げて力いっぱい地面を踏みつけた


直後、削板の背後には虹を思わせる光の爆発が起き、夜の闇を照らした

キラキラと舞い散る七色の光の粉が無くなると同時に両者は地面を蹴って相手に詰め寄った

削板「この力は俺でも、まだハッキリとわかってねぇ……」

掌に爪が食い込むほど拳を握りしめながら、削板は人狼に向けて告げた

削板「だからよぉ、コイツの本気を根性なしのお前が耐えられる保証なんかねぇ。ましてや……」

そういうと削板は人狼が先に突き出した拳を上手く躱し、肘をめいいっぱい引いた

削板「今まで一度も試したことなんかないが、俺の本気の拳を直接叩きこんでやる……ゼロ距離―――」




「すごいパアアアアアアアアアアアァァァァァァァァンチ!!!!」




ブオォォンと強烈な衝撃波が一面を襲った


人狼は顔面に直接叩きこまれ地面へ仰向けの状態で倒れていた

〝人間〟の体の原型をとどめているのは『吸血鬼』という特殊な体であるからだろうか

なににしても『人狼』であった男は満足そうな顔をさせた元の人間の姿へと戻っていた

「あなたと闘えて良かった……」

削板「俺もだ」

男の幸せそうに笑う顔を見て、削板も思わずニカッと白い歯を見せて笑った

削板「最後に一つだけ……あなたの名前は」

「俺か?俺は学園都市〝第七位(ナンバーセブン)〟削板軍覇だ!」

問いかけた男に答えるように削板は、ガハハハと豪快に笑いながら名前を名乗った


アル「そうですか……私の名前は〝アル〟知っての通り人狼の吸血鬼です」

そういうと思い残すことが無くなったように静かに目を瞑った

吹寄「死んだの……?」

少し不安げに削板の横に寄り添う吹寄は、仰向けのまま笑って倒れているアルを見て隣にいる少年に問いかけた

削板「いや、気を失ってるだけだろうな……見ろもう傷口が治ってきやがる」

そういうと、先ほどアルを叩きつけた際につけたはずの傷口が、もう治癒し始めていた

しかし、削板も吹寄もそれを見て驚くものの、息の根を止めようとはしなかった

それは一度勝利したという訳でなく。最後の最後に人間として勝負の幕を閉じたアルに対しての敬意のようなものであった


削板「まぁだからといって、また襲ってきたら今度も容赦はしないがな」

そう、この傷が治っても仲良くお茶なんていうてんかいにはならないだろう

また同じように襲ってくる可能性の方が高い。しかし、それでも削板は今度も勝つ気でいた

それは、隣に寄り添う少女を二度と悲しませないために、そしてオッレルスとの再戦を果たすために

削板(見てろよ根性なし……いや、俺に似た力を持つ野郎、次こそ俺の根性を認めさせてやる)

そう心の中で誓う削板の背中に、吹寄はもたれる様に体重をかけて大きな背中に顔を埋めた

削板「あ……うぇ!?」

吹寄「うろたえるな馬鹿者……。こっちの気も知らないで」

ブツブツと何かを呟くが、その声は震えていてしっかりと聞こえなかった


削板「心配かけてすまなかったな」

吹寄「本当よ……貴様がいなくなったと思って不安だっただから」

削板「……改めて聞いていいか、さっきの返事?」

それを聞いた吹寄の顔はもちろん、言った本人である削板の頬も少しだけ赤く染めていた

しかし、お互い顔が見えないためか、そんなことになってるとは気付いていなかった

吹寄「貴様みたいな危なっかしくて目が離せない大馬鹿者は、大好きに決まってるじゃない!」

そういうと背中にもたれかかっていた体勢を、腕を前に回し抱きつくような姿勢になりギュッと腕に力を込めた

吹寄「さっ、あとは上条たちと合流して秋紗を取り返して終わりにしましょ?」

そういいながら上目づかいで、横から顔を覗かせて削板の顔を見上げた


削板「うぁ……」

吹寄「気を付けてたつもりだったけど、怪我の所でも当たったの?」

少し暗い表情をさせながら、俯く削板の顔を覗き込もうとしたとき、急に削板は顔を上げて走り出した

削板「うああああああああああああああああああああああああ」

顔を真っ赤にさせ、頭をブンブンと煩悩を振り払うように横に振りながら、物凄い速さでそこら一帯を走り始めた

吹寄は気付いていないが、彼女の持つ豊満なバストが抱きつくと同時に背中に押し当てられ

削板は初めてのことにどうしていいかわからず困惑したためとりあえず走ってみたという事だ

しかし、当の吹寄は返事を聞いて照れた顔を見られたくないと勘違いしていた

吹寄「根性なし……」

二歩進んで一歩下がるとといった具合に、彼女たちの物語はまだスタートし始めたばかりなのだ
  

キリがいいというか一話丸々投下しました

やはりバトル描写は難しい……

ということで、明日も投下できるよう頑張ります

ではでは

乙。
戦闘描写は上手いと思いますよ

ソギー良いなwwwwwwwwwwwwww

乙であった!

レスありがとうございます

すいません。今日も投下できそうにありませんが
明日は遅くなると思いますが投下します

それでは、また明日


      / ̄ ̄`ヽ  インフル?w
     /  _,,ノ ミミ ヽ  馬鹿は風邪ひかねーよw
     |  (○ )ミ(○)  常識的に考えてww
   /"|  ⌒(__人_)::\                   ____

  /::::::r'|     `ー"ヽ::::ヽ                 / \ / \
  \::::::\,       }/:::::/                / (○)  (○)ヽ 騒ぎすぎだお!
   \::::::\-┐._ 「i:::/                    |  ⌒(__人__)⌒ |
    ||ヽ::::::::::::ヽ  /:::{ . |                 \.__|r┬-|_ノ
    ||__ヽ::::::::::::::ソ、:::i__|./´⌒ヽ            r^:::::\`ー'´/:::::\|i

    || ̄`ヽ:::::::::::::ヽ:::i/:::::::::::::::::::ヽ      ビシッ!!! ゙m9ソ、::ヽ /:::::::、 !lヽi
    ||__}::;;;;;;;:::::}/::::::::::,r"\:::::::::ヽ. ,rー、     _ ̄i::::::::::::ヽ{:::::::: i !| !.|
    ||\ .{ | \ ̄ ̄ ̄ ̄|:::::::::|\:;;;//ミ/  ̄\  | \ ̄ ̄  ̄  ̄ ∑ 昨ノ <  ̄\

    || ヽ\..|.|\\    .|;;;;;;;;;|  \./ミ/..    \|.|\\        Y^Y´    \
    ||  ヽ_|.|::::::\\   iヽ,=ヽ、   ̄      .\::::\\         ドンッ!!!
    ||.   i|.|\::::::\\  \ゝノ.            \::::\\

         / ̄ ̄`ヽ
        /  ー  -ヽ        【 数日後 】
        |、( ●) ( ●)
        |゙ヽrー―个―|
        {_|    〉 |
        ヽ. ヽ___ノ                  (゙γ´)
      __ヽ__、,_ノ、                 .(__(´,)__゙)
      || /::::::::::::::|・::::::ヽ                 (_/ト、_)
      ||/::::::: ::::::::::::|・:::::::::ヽ                  .||
   __/:::::::/::::::::::::::|・::::::::i:::|.      ________ / ̄ヽ __
  | \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\. .| \.        .{.   }    \
  |.|\\                \|.|\\        ヽ_ノ     \
  |.|::::::\\                \::::\\

  |.|\:::::::\\                 \::::\\

こんばんは、それでは今日も投下していきます

今回は、若干グロ注意かもしれません


―――とある廃屋内


「あなたの持つ『吸血殺し』の正体を知りたくはないですか?」


ピチョン……ピチョンと天井から零れる水滴が、下に広がる水溜へと落ち無音の空間に色づけた

目の前の漆黒のマントに身を包んだ男の話を聞いていた少女『姫神秋沙』は、驚いた顔をさせた

―――『吸血殺し(ディープブラッド)』

京都の山村で育った幼い少女が、ある日突然手に入れた能力

科学の街ではなく、何の変哲もない京都の町はずれの村で彼女の血に能力が備わった

何をきっかけにかは不明だが、偶発的に超能力を持つこととなった者たちのことを『原石』と呼ぶ

姫神もおよそ五十人いるとされる原石のうちの一人である

彼女がこの街に来た理由も、この能力がどういったものなのか、取り除く手段はあるのかといった具合で

たった一人で、最先端科学を取り扱う『学園都市』へとやってきた


しかし、学園都市ですら吸血殺しの解明には至らなかった

そんな科学の街ですらどういったものなのかわからなかった能力を姫神の目の前にいる人物は知っているようだった

姫神「吸血殺しの……正体」

わずかに見開いた姫神の眼を見てマントの男は少し楽しむようにクツクツと笑いながら口を開いた

マントの男「えぇ……その能力は本来、とある神に流れていた血が能力となったんですよ」

そういうとマントの男は傍にあった、ところどころ傷んだ木製の椅子へと腰かけて続けた






マントの男「『日女神(ヒルメノカミ)』またの名を――




―――『日女神 哀砂(ヒメガミ アイサ)』」





『日女神』は、かの日本神話における『アマテラス』とも呼ばれる太陽神であった

多少そういった知識があった姫神だったが、もう一つの名を聞いたとき先程よりも驚いた顔をさせた

日の女神と哀しき砂と書いて『日女神 哀砂』

漢字こそ違うものの、その読み方は姫神秋紗に関係があるような名前であった

マントの男「本来、吸血鬼というのは欧州などで噂されるようになった生き物……」

そう告げるマントの男は、先ほどまで笑っていた顔を急に冷めた表情にさせて言った

マントの男「変だと思いませんでしたか?京都の山村で育った少女に吸血鬼を[ピーーー]能力が与えられるなんて」

そして、マントの男は吸血殺しの真実を伝える

「吸血殺し(それ)の本来の能力は別にあるんですよ……」

そういうとマントの男は、ゆったりとした口調で一冊の本を広げると中に書いてある内容を読み上げた


ところ変わり、垣根たちが会場のドアから出た同時刻

一八〇はあろう高身長の少年とまだ幼い少女が連れ添って歩いていた

長身の少年は青い髪と耳に光るピアスが印象的なので周りからは『青髪ピアス』と呼ばれる少年

その隣には、幼く見えるが歴とした大人で青髪の通う高校の教師を務める女性『月詠小萌』

知らない者が見れば即『風紀委員』か『警備員』に連絡を入れたくなるくらい周りからは危なく映っていた

しかし、本人たちは別に教師と生徒の禁断の恋に落ちているという訳ではなかった

月詠「わざわざ、こんな夜中まで先生のお手伝いをしてもらって、先生助かっちゃいましたよ」

青髪「なにいうてるんなー小萌先生。ボクは小萌先生のためならこれぐらいどーってことない。だから、気にせんでもいいよ」

申し訳なさそうに話す月詠に対し、青髪は特に気にした素振りも見せず、どこか嬉しそうに答えた



月詠「もう、そんなことを言ってると誘波ちゃんに言いつけますよ」

自分をからかう言動に月詠は頬をプクーッと膨らませて、仕返しとばかりに青髪の弱点を突いた

それを聞いた青髪は、髪の毛と同じくらい顔を真っ青にさせてあたふたとしだした

青髪「さすがは小萌先生。怒ったところも可愛ええわっといいたいところやけど、それは勘弁して―な……」

月詠と青髪が知る『誘波』という人物は、姫神がまだ月詠の家にお世話になる前に小萌家に居候していた少女だ

現在は、青髪が下宿する先のパン屋で、学校に通いながらもパンの修行をしている

その関係でか、青髪もアルバイト生として学校終わりに手伝う時があり、誘波とは仲良くしている

誘波の口から出る話題というのが、学校のことはもちろん、月詠と過ごした日々の思い話も良く出る話題の一つだった

それをあまりにも楽しそうに話すからか、青髪はいつしか彼女の大切な人である月詠小萌を気にかけるようになった


青髪(まぁ、今は垣根君がおることやし、ボクが大きく出ることも必要なくなる。これでお役御免やな)

どこか寂しそうにも見えるが、もともと誰かに頼まれたわけではないその役は、いつでも他の者に譲っても良かった

しかし、もう一つの仕事―――

青髪(これだけは絶対誰にも譲らん。彼女を守ると決めたんやから……)

何かを決意したように、握っていた拳に力が入った

そんな怖いとも悲しそうともとれる表情を隣でさせる青髪を見上げて月詠は心配したように口を開いた

月詠「どうしたのですか……なにか悩んでいるのでしたら先生に相談して下さいね」

いまにも泣き出しそうな月詠を見て、青髪はゆっくりと首を振った

青髪「へーき、へーき。ボクはいつもと変わらん、だから小萌先生は心配せんでもええんよ」

そいうと青髪はぎこちなさを感じさせる笑みを浮かべて月詠の顔を見た


青髪「それよりも小萌先生は姫やんの心配した方がええんとちゃう?噂では垣根君と一緒に旅行してるって話やし」

それを聞いた、月詠は少し何かを考えるように両腕を組み、眉間にシワを寄せた

月詠「あの二人のことですから、大丈夫とは思うのですが……」

生徒を信じたい気持ちと、世の中の少年たちは狼にもなるという疑念と月詠の頭で揺れ動いていた

青髪は知っていた。なんだかんだで最後は自分たち生徒のことを信じてくれるということを

だからこそ、青髪はそのお人好しなところを利用し、余計な心配をさせないように努力した

当の月詠はそんな事とは知らず、まだウンウンと悩みながら必死で答えを見つけようとしていた

そんな月詠を見て、青髪はクスッと笑うとポケットから一つの小さな小瓶を取り出した

青髪「小萌先生、これ嗅いでみてくれへん?きっとリラックスすると思うんよ」

そういいながら蓋を開けた小瓶を、月詠に手渡した




月詠「なんですかこれは?わかりました、いま流行の薄めるタイプの香水ですね」

月詠はどこか得意げに、学生たちに人気の一本の原液で十本分に相当する香水のことを思い出し笑顔で小瓶を受け取った

青髪「なんや小萌先生も知っとたんかいな……」

どこか残念そうな表情をさせる青髪を見て、フフッと笑うと少し興味があったのか月詠は小瓶を鼻に近付けた

月詠「とっても良い匂い……あれ?」

小瓶の中身を嗅いだ瞬間、月詠は急激な眠気に誘われるようにフラフラとしだした

ドサッ

倒れそうになる月詠を支え、ゆっくりと地面に寝かせた


青髪「堪忍やで……これも小萌先生のためなんや」

そういうと、近くの茂みの方を睨み口を開いた

青髪「いつまでそうしてるつもりや……。出てくるならさっさと出てきたらどう?」

「あらあら、そんなに焦ったら女の子に嫌われるわよ」

青髪「余計なお世話や。で、ボクのことは説明せんでもええやんね?」

リル「知ってるわよ〝第六位〟でしょ?じゃあ、おねえさんも……名前は『リル』」

リル「この世で最も美しくて賢い女よ。良かったわねボク、こんなに美人なおねえさんが相手なんだから」

そういうとリルと名乗る女性は、鋭い爪と牙をを怪しく光らせて青髪へと駆け出した


すると、青髪はポケットも手を突っ込むと、一本の試験官とナイフを取り出した

そして中に入っていた液体をナイフの刃物に垂らしていく

その液体は、夜にも拘らず赤く輝いていた

リル「……!?コノ 匂イ ハ」

急に目つきが変わったリルは、誘われるようにナイフに向かって飛びついた


その瞬間―――


ザシュッっと何か柔らかい物を切り裂く嫌な音が鳴った


リル「ガハッ……!!」

首から血を流すリルは、何か違和感を感じたのか、青髪に向かって言い放った

リル「ドウシテ!?アノ女 ハ 捕マエタハズ……」

青髪「コレを用意できるなんて不可能……とでも言いたそうやね。教えてあげてもええよ」

思った通りに事が進んだためか、青髪は眼を一層細めて、両腕で必死に自分に飛び付くのを抑えるリルを見て笑った

青髪「君たちが来るのなんて、とっくの昔に知っとたよ。だから事前に先生に頼んで血を保存してもらったというわけ」

リル「ソンナ 事ガ、イクラ 学園都市『超能力者』第六位 デモ 知ル事ナンテ!!」


青髪の驚くべき真実を聞き、目を見開かせたままリルは必死に何かに抗うように叫んだ

すると、それを聞いた青髪はどこか楽しそうにナイフを見せびらかし告げた

青髪「そんなことを気にしてるヒマなんてあるん?」

リル「嫌……来ナイデ……」

壁に追い詰められたリルは、最後の足掻きと鋭い爪を付けた手を藍花に向かって突き出した

それを軽いステップで避けると、青髪はリルの鼻の穴に指を入れ無理矢理に口を開かせた

その口の中には無数の鋭利な長い牙が並んでいた

吸血鬼の特徴であるその歯に気をつけながら、先ほど傷をつけた首筋に眼をやった

青髪(ざっと五分ってところかな……)

その時間が意味するものは不明だが、何かの時間を計っていた青髪は、おもむろにポケットからある物を取り出した


それは『吸血殺し』姫神秋沙の血の入った試験管だった

その蓋を開けると、口を開かせていたリルの口内に全て注ぎこんだ

その瞬間、何かに苦しむようにもがき苦しむリルに向けて藍花は口を開いた

青髪「君らの知ってる『吸血殺し』の能力はもうこの世にない。彼女が覚醒しかかってるからな」

リル「覚醒……!?」

ようやく落ち着きを取り戻したのか青髪の言葉にリルは地べたに這い蹲りながら反応する

その顔からは、先ほどのような野生を貼り付けた表情ではなく、どこにでもいそうな人間の女性の顔であった

しかし、そのことには気づいていないのかリルは、目の前で自分を観察する青髪を睨んだ


そんな鋭い目つきも、もはや青髪には通じないのか、ナイフを構えてリルに近付いていった

青髪「もう時間ないみたいやし、最後にいいこと教えたるわ」

口を三日月のように裂かせて笑う青髪は、リルにとって絶望ともとれる真実を告げた

「僕の名前は学園都市゛第六位〟でも、七人しかいない『超能力者』の一人でもない」

「ましてや、『青髪ピアス』なんていう名前ですらない」



藍花「『藍花 悦』って名前があるんだよねー!」



そういうと、持っていたナイフでリルの心臓がある部分を一気に突き刺した


藍花(また君を守れたよ……誘波ちゃん)

ある一人の少女のために、自らの身分を偽って過ごす彼は今日もまた、思い人の平穏を守れたからか

真っ白なYシャツを真っ赤に染め上げながら、夜空を見上げて幸せそうに笑った

カツ カツ カツ カツ

すると、どこからとも無く藍花の方へと近づく足音が聞こえてきた

その音の主が何者か分かっているのか、藍花は空を見上げたまま口を開いた

藍花「もう、来たんかいな。もう少し、満月の鑑賞をさせてくれてもええのに」


藍花「なぁ……『必要悪の協会(ネセサリウス)』の土御門 元春くん」


土御門「貴様は一体、『奴』と手を組んで何をやらかす気だ……藍花 悦!」


静かな夜の道の真ん中で、『諜報員(スパイ)』と『裏切り者(スパイ)』はただただ睨み合っていた

それでは、今日の投下は以上です

明日か明後日にまた来ます

遅くなりましたが、今日は投下できそうにありません

ですが、時間つぶしとして『とあるss総合スレ』に小ネタを
昨夜投下しておきましたので、よろしければそちらもどうぞ

それでは、また

遅くなりました。それでは、今日の分を投下していきます


――――――――
―――――――

姫神「吸血鬼を人間に戻す能力……」

目を見開かせたまま、マントの男から知らされた自身の能力の本来のチカラを口にする

それを、意味深な笑みを浮かべたマントの男が頷きながら答えた

マントの男「えぇ、これは英国図書館にすら記載されていない。隠された資料(シークレット データ)」

そういうと、指をパチンと鳴らした

すると、マントの男の手元には、ボロボロになりながらも丁寧にまとめられた一冊の冊子が現れた

マントの男「私は、ある目的を持って学園都市(ココ)に来ました」

ペラペラとめくられる冊子を見て、マントの男は不気味に笑うとあることを告げた

マントの男「そう、『カインの末裔』と共にね……」

姫神「カインの……末裔」

その言葉を聞き、姫神は幼い頃に経験した夜のことを思い出した


姫神の能力に怯え、戦力を整える為に村人が犠牲になった、あの日を

しかし、マントの男は姫神の考えていることを否定するように首を振った

マントの男「あなたの考えている『カインの末裔』は、いうならば『死人(グール)』。いま話しているのは、それの『親』ですよ」

『死人(グール)』とは、本来の意味は『死体を貪るもの』として知られているが

男がいう意味は、吸血鬼にすべての血を吸われ死んだ者に、血族の血を飲ませた生き物であった

なので、姫神の村を襲った吸血鬼は全て『末裔の模造品(カインレプリカ)』であった

では、なぜ今までこの情報が出てこなかったのかいうと、『カインの末裔』というのが雲をつかむような存在だったからだ

そのため、実際その目で見た姫神でさえも、どういったものかわかっていなかった

気が付いた時には彼女の周りには灰が風にのって宙を舞っていたのだ

どれが人間で、どれが吸血鬼であるか見分けがつかない、そんな恐ろしい場所に立っていたのだ

『襲ってくる者達』を『=カインの末裔』と思わずにはいられなかった


そんな耳を疑いたくなるような真実を打ち明けたマントの男は、再びニヤリと口を裂かせて言った

マントの男「頑張っていますよ……あなたを救う為に、大事な人が」

それを聞いて姫神の脳裏に過ぎったのは、垣根帝督という少年の顔だった

姫神「垣根君が……」

気を失う直前に見た、垣根の傷ついた姿を思い出した姫神は怯えた顔をさせた

そんな姫神を気にする素振りも見せず、マントの男はクツクツと笑いながら天井を見上げた

マントの男「垣根帝督……彼は実に優秀な人だ。ここまで、私の考え通りに動いてくれているのだから」

マントの男「超能力者(レベル5)達を集め、自身の身に何が起こっているのか気付き始めている」

姫神「超能力者……達?」

マントの男「おや、言っていませんでしたか?来てるんですよ」

マントの男「あなたの良く知る人物から、顔を見たことのない人物まで、国をも相手取ることのできる味方を連れてね」

淡々とした口調で姫神の質問に答えたマントの男は、面白い祭りを説明するように姫神に話しだした


マントの男「『六人』の吸血鬼に対し、『六人』の超能力者がぶつかる。あぁ……なんて素晴らしい光景だ」

姫神「それのどこに感動できるのか。私には理解できない。一体あなたは何が目的」

それは、先ほどまでさせていた暗い表情などではなかった。

自分の為に傷ついている人がいるという事実。それを聞いた姫神の目には、強い意思を宿していた

マントの男「目的ですか……そうですね。では、簡単に説明しましょう」

すると、マントの男は『七血衆』さえ知らない、その恐るべき野望を口にした





「もう一体の蛭奴神(ヒメガミ)の覚醒……。そして我々、人間の祖『カイン』の現出ですよ」







カツ カツ カツ

誰もいない物静かな廊下を軽い足取りで歩き、手入れされた金色に輝く髪を揺らす一人の少女がいた

その手には、テレビのリモコンとも見える物が握られていた

少女の名前は食蜂操祈。学園都市『超能力者(レベル5)』の〝第五位〟『心理掌握』の精神系能力者

そして、名門『常盤台中学』の最大派閥を率いる『女王』でもあった

そんな食蜂は現在、常盤台中学の内部寮内を探索していた

彼女がこんな夜中に一人で出歩いているのには訳があった

食蜂(外に配置していたのは、手錠か何かで動きを封じられたみたいねえ……)

そう、この寮がある『学び舎の園』には、八つのゲートがある

その入り口に配備された人物達、全員が身動きが取れないことを知った食蜂は『侵入者』を迎え撃つため自ら動きだした


食蜂(あの人が言っていたことは、本当のようねえ)

先日、ココ寮内に侵入してきた『垣根帝督』と出会った時のことを思い出し、食蜂はリモコンをグルグルと回した

食蜂(結局う、今回の件で私が狙われる理由……)

食蜂(それも、私が納得力のいく説明がされてないのが呆れるところではあるわねえ)

ブーブーと誰かに愚痴るわけでもなく、そんなことを一人心の中で考えていた

すると、食蜂の前から何者かが歩いてくる足音が聞こえ始めた

食蜂(どうやら、来たみたいねえ)

どこか余裕を感じられる笑みの食蜂は、相手の姿を確認すると口を開いた


食蜂「あなたが、この趣味力の悪い事件の関係者あ?」

五メートルぐらいの間隔まで、近付いてきた目の前の人物は柔らかな笑顔でこう答えた

ユル「趣味が悪いは聞かなかったことにして。そうです、私が貴女の相手を務めさせて頂きます。〝ユル〟と申します」

深々とお辞儀をして挨拶をするその姿は、眼鏡を付けた好青年という印象だった

その姿を見た食蜂は、少し呆気にとられたように目を丸くさせた

食蜂「ふーん、私はもしかして当たりを引いたのかしらあ?」

見た目がまともそうに見える、目の前の人物を見て食蜂はクスリと笑いながらリモコンを構えた

食蜂「でもお、いくら見た目が良くても、心までは綺麗にできないでしょお?」

そういうと食蜂は、ユルに向かって構えたリモコンのボタンを押した


しかし、描いていた予想と違ったのか、食蜂は何回もボタンを押した

それでも、変わらない結果に多少の焦りの色を滲ませた食蜂は、リモコンの別のボタンを押した

すると元から隠れていたのか、数人の女子中学生が部屋から出てきた

十数人の少女達は陣形を組むように、青年の前に立ちはだかった

食蜂「私の干渉力は、効かないみたいだけどお。この人数ならどおかしらあ?」

能力が効かないことも想定していた為か、十数人の少女達に護られている食蜂は笑って言った

しかし、一般の学生なら怯えて逃げる状況でありながら、ユルは少女達を見て笑っていた

ユル「どうやら、あなたと私は似ているようですね」

それを意味するものが何かわからないが、それを聞いた食蜂は少しムッとした表情をさせた



食蜂「余裕ぶってるつもりだけど……コレを避けられるかしらあ?」

そして、決着をつけるためのボタンが押された

ドドドドドドォ―――ン

凄まじい爆発音と共に、発火能力者の炎が、念動力で持ち上げられた花瓶など、様々な攻撃が加えられていった

食蜂(これ以上すると、改竄力にも無理が出るわあ)

ピッと押された瞬間、少女達は別の指示が出されたのか、食蜂の脇を通り過ぎて行った

食蜂「死なない程度には抑えたつもりだけど……。大丈夫かしらあ?」

もし食蜂が暗部などの『裏』に所属していたならば、殺意を持って相手をしていただろう

しかし、所詮は表の世界に住む中学生


物騒な事件には巻き込まれることはあっても、今まで相手をしてきたのは『人間』なのだ

能力による干渉は効くし、さっきのような攻撃を受ければ重傷の傷を負う

食蜂「う、うそ……」

だが……目の前の青年は

ユル「ニコニコ笑ってやってたら、調子に乗りやがって……クソアマがぁ!!」

食蜂「……傷が修復していってる」

『吸血鬼』。人間の枠組みには決して入れてはいけない。正真正銘の怪物なのだ

ユル「次はこっちの番でいいんだよな?……あぁん!?」

威圧するように、ボロボロになった眼鏡を地面に落とすと、それを一気に踏みつけた


食蜂は、どう手を打っていいかわからず、ただただ震える事しかできなかった

ユル「そんじゃあ、じっくりと楽しませてもらうぜぇ!!」

そういうと、ゆっくりと食蜂の方へ歩き出した

一歩、また一歩まるで、その時間すら楽しむように足を動かしていった

そして、地面にへたり込んだ食蜂の目の前で止まると、食蜂へ手を伸ばした。

――その瞬間

バシュッ

ユル(ん……)

伸ばした手の甲から掌へと金属の矢が貫通していた

ユル「誰だぁ……俺の邪魔をするクソッたれはあぁ!?」

怒りを露わにさせ、周りの見回す。しかし、廊下にはユル一人だけしかいなかった

ユル「あぁん、あのアマどこ行きやがった?」

もう一度確認する、廊下にはユルの他には誰一人としていなかった


食蜂は気が付いたら、誰もいない寮監室にいた

ガランとした部屋の中で、食蜂ともう一人

「間一髪でしたの……怪我はないですわね?」

食蜂「し、白井さん。どうしてあなたが……」

隣りで額を拭う少女『白井黒子』を見て、驚いているのか、それとも安心したのか

どちらにしても、くしゃくしゃの顔をさせて食蜂は白井の名前を呼んだ

白井「あなた一人でどうにかなる相手ではないですので、わたくしが助っ人に」

そういうと、へたり込んで泣いている食蜂の目の前に立つと手を差し伸べた


白井「泣いていても仕方ないですわよ。さぁ、わたくしに捕まって下さいな」

優しい笑みを浮かべて、手を差し伸べる白井に対し、食蜂は首を横に振った

食蜂「いやよぉ……。どうせ最後には私を置いて逃げる気でしょぉ?」

白井「…………」

食蜂「能力を使おうにも、あんなバケモノ相手に、どう対処していいかわからないしぃ」

食蜂「もういっそのこと、ココで死んだ方がましよぉ……」

弱音を次から次へと漏らす食蜂の話を聞いていた白井は小さい声で告げた

白井「失礼……」

パシンッ

何かを勢いよく叩く音が、静かな部屋に響いた


食蜂「えっ、なんで叩くのよぉ!?」

頬に痛みを感じた食蜂は、平手打ちをした白井をキッと睨んだ

白井「だから、先に失礼と言ったはずですの」

しかし、白井は悪びれもせず、それどころか憤りを感じさせた表情で食蜂を見下ろした

食蜂「でも、だからって叩く必要があるわけえ?」

白井「頬を叩かれたぐらいでその反応……」

食蜂の反論を聞き、どこか呆れたように続けた

白井「死ぬ覚悟もないくせに、軽々しく死にたいなどと口にしないでほしいですの」

食蜂「…………」

その白井の強い言葉に食蜂は言い返すことができなかった


白井「貴女がこれまで、どういった人生を歩んでこられたか興味ありませんの」

ですが、と白井は続けると食蜂の肩を掴んで叫んだ

白井「いま、常盤台の生徒を護れるのは、わたくしと貴女くらいですの!おいそれと諦めないで下さいまし」

白井「貴女は常盤台の『女王』を名乗る、誇り高きお方なんですから」

強い口調は、徐々に優しい温かいものになり食蜂に語りかけた

食蜂「うぅ……白井さ゛ん」

溢れる何だを拭こうともせず、食蜂は真っ赤な目で白井を見上げた

白井「ほらほら、涙を拭いてくださいな。せっかくの綺麗な顔が台無しですわよ」

そういうと、白井はポケットからオレンジ色のレースのハンカチを取り出す


それを受け取った食蜂は、涙を拭き終わると鼻をかみだした

白井「ちょっ、鼻までかめとは言ってないですの!」

クワッと怒りの表情で、食蜂に抗議しながら叫んで続けた

白井「しかも、常盤台の女王ともあろうお方が、はしたないですの!」

お嬢様学校に通っている為か、白井はそういった行動には五月蝿いのだ

それにグジュグジュと鼻をかみながら食蜂は答えた

食蜂「別にいいでしょお。弁償するんだから。それに、あなたしか見てないわけだし」

少し不機嫌そうな顔をさせた食蜂が白井の顔を見上げた

それを聞いた白井はハァと溜息をつくと、ミサカとはまた違った性格に少し呆れたように額に手を添えた


白井「お姉様―――」

ハッと何かを閃いたのか、白井は顔を上げると食蜂の顔を見た

白井「わたくしに提案がありますの」

それを聞いた食蜂は顔を上げて驚いた顔をさせた

それを確認すると白井は、ゆっくりと話し出した

白井「わたくしから見て、貴女をお姉様と同じ距離にできまして?」

食蜂「そんなこと余裕よぉ……でも」

弱々しく食蜂は答えるが、不安が過ぎったのか口ごもりながら俯いた

御坂美琴は、食蜂が能力を行使しても、心の中が覗けない人物

そんな彼女と同じ距離にしたところで、目の前の白井が裏切らないとは限らなかった



食蜂の不安は、ますます募る一方だった

それを見た白井はハァと溜息をつくと言い聞かせるように食蜂に顔を近づけた

白井「貴女のことは、確かに信用できないところがありますの」

大覇星祭のときに起こった事件。食蜂の意味不明な行動は白井の信用を下げていた

しかし、と続けると

白井「お姉様は……『御坂美琴』は、わたくしが信頼するパートナー。絶対に裏切ったりしないと誓いますの」

その言葉がどうしても信用できない食蜂は、白井の心の声と発してる声を両方聞けるように設定した

それは、本心からそう思っているのかの確認だった

そんなこととは知らない白井は、少し間隔を空けて強い口調でいい放った








『ですので貴女の安全は、わたくしが命を賭けて護りますの!』







それは、白井の言葉と心の声が重なった瞬間だった

風紀委員としてだけではない。常盤台の生徒だからというわけでもない

今この場にいない信頼している相手から託された使命を果たすために

その真っ直ぐ向けられた言葉は、食蜂の胸に突き刺さった

食蜂「ありがどう……しらいざん」

それを聞いた白井は照れ臭そうにフッと笑い

白井「お願いしますの」

と落ち着いた様子で、ゆっくりと目を瞑った


食蜂もそれを聞くと小さく頷き、リモコンを白井に向けてボタンを押した

その瞬間、白井は僅かに目を開けると、食蜂に柔らかい笑みを浮かべて

すらりと伸びた細い腕を腰の高さまで挙げて、床に座る食蜂に手を差し伸べた

白井「さぁ、反撃開始と行きますわよ。お姉様!!」

食蜂「えぇ、行きましょ……く、黒子!」

どこかぎこちなさがあるものの、ニッコリとした笑顔でそれを掴んだ


この瞬間、地へと落ちていた常盤台の『女王蜂』は再び空へと飛びあがった

今度は一人ではなく仲間と共に

これで、今日の投下分は終わりです

次回は、火曜か水曜を予定しております

では、また

お湯

乙でごんす。

火曜はまだかな

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マダカナー

長期にわたり連絡ができず、すいません
やっと、リアルが落ち着いたので近日中に投下します
待っていてくれた方、本当にありがとうございます

まだかー!?

>>596
おお!!!

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