お題ください、ショートショートします (9)

>>2>>3>>4で頑張ります

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マッチョ

メガネ

ビッグバン


「はー疲れた! ねぇあなた、今日晩御飯は何?」

「いつもお仕事お疲れ様。今日は生姜焼きだよ」

「嬉しいな、生姜焼き大好き。最近あなた料理上手って近所で評判よ」

「はは、自慢の旦那って言ってもらえるように頑張ったからな」


それは瞬く間に世界中に広がってしまった。


『男女逆転現象』。


立場も性格も仕草も好みも癖も服装も、何もかもが逆転を始めた。

女性が権利を主張し始めてから、気づけば1000年が経っていた。


「ギャハハハ、このチンポエッロ~」

「うわやばい何コレ濡れるわ~」

「アンタ馬鹿ぁ?キャハハハハハ」


男は華奢になり、女は力持ちになった。

男に持てない荷物は女が持ち、道路側は女が歩き、飯代は女が多めに出す。


そんな世の中に一人、


「お前男のくせに何だよその身体」

「まじムキムキなのな、ギャハハハ」

「……」


マッチョが取り残されてしまった。


遺伝かはたまた別の要因なのか、千年前あれ程男子の象徴だった筋肉は、今では蔑みの的だった。


「ぼ、僕だって、……痩せたいし、お洒落な服着てみたいし、……でも、体質で、仕方なくって」

「ねぇマッチョが何か言ってる~」

「マジ受けるんですけどォ」

「ぼ、僕は……」


歯向かうことなどできようか。

ここで歯向かって、万が一男子にあらざる強靭な力で相手を倒してしまえば、その事さえ揶揄の対象となり得るのだ。

彼は自分がマッチョに生まれた事を憎みながら、唇を噛んでじっと耐え忍ぶしかないのだった。


自身の中の牙に怯えながら。


「あー面白かった。こんなマッチョほっといてさっさと帰ろうよ」

「そうだねー。 あ、マック寄っていこうよ」

「賛成~!」


男のくせに。

イジメてくる彼女らよりも、自身の鋼の様な筋肉が疎ましかった。


視界も滲む。


「何で僕だけこんなマッチョなんだ……う、うう……好きでマッチョに、生まれた訳じゃない、のに……」

「どうしたの?」

「!」


泣いていると声がした。

見上げると知った顔。


彼女はクラス委員をやっていた。

皆に慕われながらも真面目で、マッチョを気にせず話しかけてくれる数少ない女子だった。


「ねぇ、これで涙拭きなよ?」


ハンカチを差し出す彼女が、彼は好きだった。


「あ、あり、がと……」


こんな自分に話しかけてくれる彼女。

惚れた人に対して情けない姿を見せるのが恥ずかしくて、彼は起き上がりながらおずおずとハンカチを受け取った。

動きがぎこちないのが自分でも分かった。


「いつもの人たちでしょ? ひどいよね、ちょっと筋肉質なだけでいじめなんて……」

「う、うん……でも、僕が悪いんだ……こんな身体だし、ずっといじめられてたせいで性格だって」

「こら!」

「ぅえっ?!」

「自分なんて……とかって言うの禁止! 余計あいつらの思うつぼだよ? ホラ、もっと自信もって胸張って!」


明るく話しかけてくれることで、彼がどんなに救われているか彼女は知らない。

胸を張るとどうしても主張してくる大胸筋も、彼女の前でなら堂々として見せられるような気がした。


「その、ね」

「ん?」

「ありがとう、いつも」

「……へへ、いいってことよ! さ、帰りましょ?」


メガネで三つ編みで、ちょっとイモくさい彼女。

その内側から滲み出る優しさが、彼はたまらなく好きだった。


「ねぇ、ちょっとその大腿四頭筋触らせてよ!」

「ええちょ、恥ずかしいよ……!」

「いいからいいから」

「うわぁあ……」


彼女と並んで帰る道が、いつまでも続けばいいと思った。

以上です。お題くれた方ありがとうございました

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