【モバマスSS】「ロボ、アイドルによろしく」 (44)


 【モバマスSS】です

 元ネタは、SF映画「サイレントランニング」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1430320241








 地上からアイドルは消えた。
 
 パッションな情熱など要らない。
 クールな魅力など要らない。
 キュートな仕草など要らない。

 地上にアイドルの居場所はなくなった。
 アイドルを活動させる場所などなくなった。
 
 地上から、アイドルは、消えた。





P「……」

A「また、君はそれを見ているのか?」

P「……ああ」

B「なんだ、そりゃ」

A「アイドルのライブだ」

B「アイドル?」

A「昔、歌や踊りで社会を楽しませていたらしい」

B「歌? 踊り? 楽しいのか、そんなの?」


A「昔は、楽しかったらしい」

B「おい、P。楽しいのか? それ」

P「……」

B「返事くらいしろよ」

P「楽しいよ」

A「と、いうことだ」

B「……わかんね」

P「……僕たちの、積み荷じゃないか」


A「それはそうだが」

B「は?」

P「データが積まれてる」

A「知らなかったのか、B」

B「へ? なに、積んでるデータって、こいつらのデータなの?」

A「そうだ」

B「へー、そりゃ知らなかった」

P「僕も知らなかったよ」

B「こんな美人さんども積んでるのかよ……」

P「……」

B「へへへ」

 
 
 
 かつて……


 地上に人は溢れた。
 人は、星が養える数を遥かに超えようとしていた。

 人は思った。
 人を減らすべきだと。
 自分以外の人を減らすべきだと。

 しかし、全てを減らすことは全てを滅ぼすこと。

 ならば、減るべき人を選べ。


 いずれ多種多様の才が必要となるときが来るだろう。
 滅ぼすわけではない。ただ眠りにつくだけ。
 
 いずれ必要となるべき時まで眠りについて待つがいい。
 その日まで、宇宙で眠ればいい。

 真摯な誘いは初めから唯の戯言だった。
 
 必要な才を保存すると誤魔化し、滅ぼすわけではないと言い訳、他者を放逐する世界。

 宇宙に眠るのは必要な才ではない。それは、地上にとって邪魔な才。


【Pの個人日誌】

 この宇宙船に積まれているのは、昔アイドルと呼ばれていた人たちのデータだった。
 誰の仕業かはわからないけれど、アイドル達の活動している姿もデータバンクに残されていた。
 もうこんな人たちは地上にいない。
 地上にいるのは、金持ちどもと政府のご機嫌を伺う人間だけ。
 それが出来ない者はデータにされるか、僕たちのように下っ端の労働者になる。
 どちらにしろ、地上とはおさらばしているのだ。
 データにされるのは、殺されるよりはマシなのだろうか。
 データから復活した人間がもう一度アイドルになれるのか、なれないのか。
 いや、そもそもデータからもう一度産み出される機会があるのか。
 
【了】


P「……」

ロボ「……」

P「ロボ、第四区画の掃除は終わったの?」

ロボ「ウサ」

P「じゃあ、次は第二区画通気口のメンテナンスだ」

ロボ「ウサ」

P「……君たち三人にも名前がいるか」

ロボ「ウサ」


P「ウサミンロボにしよう」

ロボ「ウサ」

P「いい名前だろ?」

ロボ「ウサ」

P「気に入ってくれて僕も嬉しい」

ロボ「ウサ」

P「君が一号、隣の君が二号、そっちの君が三号だ」

一号「ウサ」

二号「ウサ」

三号「ウサ」


B「何やってんだ、お前。ロボと遊びやがって」

P「名前、つけた方が呼びやすいと思って……」

B「馬鹿か? こんなの、どれでも一緒だろ」

P「待ってよ」

B「あ?」

P「一号は、二号より手先が器用なんだ」

B「は?」

P「三号は三人の中では一番力が強い」


B「何言ってんのお前?」

P「ちゃんと、よく見れば違いは……」

B「キモッ」

P「……」

B「勝手に遊んでろ、根暗野郎」

P「……」

A「何やってるお前ら、喧嘩じゃないだろうな」

B「おお、A、聞いてくれよ」

P「あ、あの、ロボに名前を付けようと」

B「この馬鹿……」


A「確かに、ロボに名前を付けるのはいいアイデアだな」

B「え」

A「区別が付かないのは不便だろう」

B「あ、ああ、俺もそう思ってたんだ、なぁ、P」

P「え?」

B「なぁ、P?」

P「あ、う、うん」

A「さあ、仕事の時間はとっくに始まってるぞ、定期巡回はロボに任せて、君たちには君たちの仕事がある」

B「うぃー」

P「はい」




【Bの個人日誌】

 データの複製と実体化について、Aの許可を取ることにする
  
【了】


P「……」

二号「ウサ」

二号「ウサ」

P「……どうしたの、ロボ?」

P「まだこんな時間……僕の当直時間はまだだよ」

二号「ウサウサ」

P「何かあったのかい? 異変があれば、コンピュータが直接通話してくるはずだけど……」

二号「ウサ」

P「わかった、信じるよ、二号」

二号「ウサ」


P「Bの部屋じゃないか、こんな所に何が」

???「!!」

P「今、何か聞こえた?」

二号「ウサ」

P「なんだよ、これ……」

B「……なんだ、Pか。何覗いてやがる」

P「ドアが開いてたから見えたんだけど……なに、してるんだ?」

B「見て、わかんねえのか?」


P「……わかんないよ」

B「……馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、そこまで馬鹿だったか」

P「僕には、君が規律違反をしているように見える」

B「データの複製と実体化は別に違反じゃない」

P「え」

B「無断だと違反になるが、許可は取ってる。これくらいは裁量の範疇だ」

P「それだけじゃ……ないだろう」


B「実体化したデータを俺がどう扱おうが俺の自由だ。それとも……」
B「てめえも一緒に楽しみたいのか?」

P「……泣いてるじゃないか」

B「は?」

P「その子を……アイドルを苛めるな」

B「はぁ?」

P「苛めるなぁっ!!」

B「なんなんだよ、てめぇはっ!!」

 
 
【Aの個人日誌】


 PとBの喧嘩。
 Bの個人的娯楽をPが妨害した模様。
 Pには罰として、ロボを使わずに第三区画の清掃をするように命じた。
 Pの感情不安定について本部に報告する必要があるかもしれない。
  
【了】


三号「ウサ」

P「ああ、ご飯だよ。君たちと違って、僕たちはこうやってエネルギーを補給するんだ」

三号「ウサウサ」

P「うん。食べ終わったら、次は君たちの補給を始めようか」

三号「ウサ」

P「……」

三号「……」

P「三号、君も椅子に座れ」

三号「ウサ?」


P「足下にいるんじゃなくて、僕の対面に……そう、そこだ、その椅子に座っていてくれ」

三号「ウサ」

P「ここは食堂で、働く場所じゃない。君も椅子に座って寛ぐべきだ」

三号「ウサ……」

P「そうだ、それでいい。あとは、そうだな……君が世間話を出来るようになれば完璧だ」

三号「ウサウサウサ」

P「あはは……ん?」

三号「……」

P「あの子……」


???「……」

P「やあ、君も食事かい?」

???「!!」

P「待って、落ち着いて、僕は君に危害を加える気はない。何もしない、何もしないよ」

???「……」

P「そう、ただ、ちょっと、君に話しかけたかっただけだ」

???「……」

P「……そうか、Bの食事を取りに来たのか……」

???「……」

P「待って、それって、一人分だよね、君の分は……」

???「……」

P「あ、あのさ、よかったら食べていかないか。君一人の食事くらいなら僕の信用単位でも……」


【Pの個人日誌】

 あの子は言った。僕に迷惑がかかる、と。
 あの子はBのおこぼれを食べているだけだった。

 あの子は食事を受け取らなかった。
 だけど、あの子は笑ってくれた。
 あの子のデータを見たと言ったとき、笑ってくれた。
 あの子のライブを見たと言ったとき、笑ってくれた。

 僕に、何が出来るのか
  
【了】


二号「ウサ」

P「ありがとう、ロボ」

三号「ウサ」

P「ああ、そこはもう少し右に」

A「何をやっているんだ? こんなところで」

P「邪魔、でしたか?」

A「いや、ここは予備区画だから、今すぐに開ける必要は無いが……一体何をしてるんだ?」

P「ステージです」

A「ステージ?」


P「アイドルのステージですよ」

A「……ああ、君もデータの複製と実体化を申請するつもりか? 残念だが、君の信用単位では……」

P「いえ、申請するつもりはありません」

A「どういうことかな?」

P「Bが実体化させたアイドルのためです」

A「無理だろうな」

P「Bには僕から話します、だって、可哀想じゃ……」

A「そうじゃない」


P「え?」

A「昨日Bから報告があってね、あれは破棄されたよ」

P「え」

A「無反応になってつまらない。とBは言っていたがね。資材がもったいないとは、私も思うよ」

P「……」

A「だが、彼の信用単位で許される範囲の浪費だ。クレームはつけられないな」

P「……」

一号「ウサ?」


【Pの個人日誌】

 Bがあの子を殺した
 Bがあの子を殺した
 Bがあの子を殺した
 Bがあの子を殺した
 Bがあの子を殺した
 Bがあの子を殺した

 Bが殺した
 Bが殺した
 Bが殺した
 Bが殺した

 Bが
 Bが
   
【了】

 
P「いいかい、一号、しっかりと覚えるんだ」

一号「ウサ」
 
P「酸素ボンベに赤いライン。これは三時間分の酸素」

一号「ウサ」

P「青いラインは一時間分だ」

一号「ウサ」

P「それじゃあ問題だ。僕ともう一人が船外活動中に救助を求めている」
P「僕のボンベは青いライン。もう一人のボンベは赤いラインだ。いいかい?」

一号「ウサ」


P「キミはどちらを先に助けるべきだい?」

一号「ウサ」

 ウサミンロボ一号はPを指さす。

P「そうだ、一号。よく出来たね。賢いぞ」

一号「ウサ~」

P「青いラインは一時間、赤いラインは三時間。いいね?」

一号「ウサ、ウサ」

P「いい子だ」



【Pの個人日誌】

 仕掛けは終わった

 あとは機会を待つ
  
【了】


P「え……」

A「君が一号と呼んでいたロボを破壊処理した、と言ったのだ」

P「何故……」

A「三日前のBの死亡事故の件だ。ロボによるミスのための事故だと結論される」

P「ロボの……ミス」

A「ボンベの酸素残量を何故か間違って記憶していたらしい。初期設定の手違いとも思えないからな」

P「そんな」

A「記憶が失われるならまだしも、記憶が間違えられているというのは大問題だ」

P「で、でも、稼働一旦停止ぐらいで」

A「ロボが貴重な労働力であるのはわかるが、危険が大きすぎる。事後報告になってしまったがよろしく頼むよ」

 
【Pの個人日誌】

 僕が一号を殺した

 違う

 違う

 一号を殺したのはAだ
   
【了】


二号「ウサ」

三号「ウサ」

P「……うん。僕たち三人だけになったね」

二号「ウサ」

P「データを実体化させれば賑やかになるかも知れないけれど」

三号「ウサ」

P「うん。ここで生まれても、行く場所なんてない」

P「いずれ、地上から連絡が来る。それまで……」

P「……二号、三号……君たちの稼働限界は?」

二号「ウサ?」


【Pの個人日誌】

 Bはウサミンロボにデータを実体化をさせていた。

 宇宙船は、ウサミンロボだけでも動かすことが出来る。

 だったら答えは、一つだ。

【了】


P「明日、地上からの定期通信が来る予定だ」

P「ウサミンロボ、君たちはデータと共に行くんだ」

P「もう、僕たちの星にアイドルはいない」

P「君たちが、アイドルを守るんだ」

P「君たちが旅立った後、僕は残ったモジュールを爆発させる」

P「君たちは誰も追えない」

P「人間には不可能な速度で進むんだ、いいね」

P「アイドル以外の人間のデータもある。君たちならそれを読み込んで自分のものに出来るだろう」

P「いろいろな知識が君たちを助けるよ」

P「遠いどこかで、君たちがもう一度アイドルを……人間を、蘇らせてくれ」

P「ウサミンロボ。アイドルたちによろしく」


【Pの個人日誌】

 (データは全て破棄されている)

【了】


 長い長い刻が過ぎました。

 ウサミンロボは、一つの星を見つけました。

 人間が生きていくことの出来る星。

 ウサミンロボは、データを実体化しました。
 
 人間たちを助け、ウサミンロボは頑張りました。

 ウサミンロボに護られた人間たちは、その星を「ウサミン星」と名付けました。

 ウサミンロボが稼働限界を迎えて眠りについた頃、人間はロボたちを星の守護神と呼んでいました。

 ロボたちは、人間たちの守り神として語り継がれていったのです。




 やがて…………

 一人のウサミン星人が地球を訪れます。アイドルとして。

 そして、プロデューサーと出会い、アイドル仲間と出会います。

「よし、出来た。ウサミンデザインの、ウサちゃんロボだ」

「さすが晶葉ちゃんですね」

「しかし、ウサミンにこんなデザインセンスがあったとは」

「ウサミン星人なら皆知っている、ウサミン星人の守り神さまですよ」

「ふーん、こんなのが」

「こんなの、じゃないです」


 
  
 
 
 
 
 ……ロボ、アイドルによろしく

 
 
 
 
 
 


 知らない男の声が聞こえたような気がして、菜々と晶葉は一瞬、顔を見合わせたのでした。
 


 以上、お粗末様でした

 初見でめちゃくちゃ泣いた「サイレントランニング」 
 大好きな映画を元ネタにしてSSやってみたかったんです

 後悔はしていない

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