お題ください、ショートショートします (11)

>>2>>3>>4で頑張ります

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アブラナ

たこ焼き

地平線


「アブラナ、って言うと何だかな」

「じゃあ何て言えばいいのさ」

「菜の花」

「どっちも変わんないよ」

「そっちの方が響きが綺麗じゃん」


丘の上に登ってみても、地平線までしか見られなかった。

非常につまらないビルと空の境界。


僕は退屈で、隣に生えていたそいつを思いっきりぶっこ抜いた。

ずぼ、と音がして、手には僅かな達成感が残る。


「あーせっかく綺麗なのに」

「え?」


反対を見ると彼女がこっちを見て頬を膨らましていた。

君の方が綺麗だよ、なんて僕の口から出るには後十年ばかり早い。


こんなのまだどこにでも咲いてるじゃないか、と言いそうになって止めた。

そのセリフが彼女の逆鱗に触れることなど分かり切っている。


彼女は要するにそういう奴だった。

生き物を大切に、とかお花さんにも命が、とかそういうちょっと気恥ずかしい事を、子供ならではの権利を振りかざして堂々と言える。

もしくは本気でそう思っている、そんな奴だ。


「ごめんごめん」


何だかバツが悪くなって、形だけでもと埋め戻す。


「うん、そうやって生えてる方が綺麗」

「じゃあ生け花とかはどうなのさ」

「アレはアレで生きてるからいいの。 あ、もしかしてだから生け花なのかな?」

「知らん」


僕は彼女と親友でいるにはちょっとこう、ませているというか擦れた奴だった。


世の中ってのはお前が思ってるほど綺麗じゃないんだぜ?


少し早い中二病をこじらせていた僕は、彼女に対してはそんな振る舞いでいた。

僕らは生き物を毎日殺して食べるし、花だって生えてようが引っこ抜こうがいつかは枯れる。


そうやって何が出来るわけでもないのに全てを悟った気でいた。

こいつが一週間後に二分の一成人式を控えているのだから笑えてくる。


「あ、可愛い! テントウムシだ」

「それ、よく見たらキモい顔してるぜ」

「またそんな事言って。こんなに可愛いのに」


彼女はそんな僕を良しとしなかったが、僕から離れることもしなかった。

どこまでも正しくあろうとし、僕にもそれを求め続けた。


彼女の側にいると恥ずかしくなる時がある。

自分の汚さにも、彼女の無垢にも。


汚い僕は、世の中的には絶対、僕の生き方の方が正しいんだとそう思っていたので、どこまでも正しい彼女に背を向けて否定しまくった。

彼女はその度に肩をすくめて、僕の隣に座って諭し始める。


「聞いてるの?」

「知らん」

「もう」


きっと僕らはこれでいいのだ。


代わり映えのしないガタガタの地平線は、夕日に染められて綺麗だった。

綺麗だったのは彼女に言わないでおこうと思った。


「バハハハハ、ちょっと見てよこれアンタねえ! わはははは面白ーっ!」


そんな彼女は今たこ焼きを食いながら、どの層を狙っているのかイマイチわからないお笑いを見て膝を叩いている。

あの丘で確かにあった品性も正義感もスタイルも全部どこかに置き忘れて、今のソファを占領している。


純粋だった彼女は簡単に俗世間に染まった。


「あんま食い過ぎんなよ、それ以上太るぞ」

「あーこれね、なんかね、ナタネ油? で揚げてるからどうとか言ってなんやかんやで健康にいいんだってさ!大丈夫大丈夫! それよりいいとこだから邪魔しないで」


彼女はまた30インチに釘づけだ。

僕は大きくため息をついた。


きっと僕らはこれでいいのだ。


彼女や僕がどんなに変わろうが、光景は必ず居心地がよくて綺麗だった。

綺麗だったのは、調子に乗るから彼女に言わないでおこうと思った。


たこ焼きをひょいっと口に含めると、すかさず彼女に頭をはたかれた。

きっと僕らは、これで……


以上です。お題くれた方ありがとうございました

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