助手「「博士! 博士っ! どうなされました!?」(11)

「博士! 博士っ! どうなされました!?」
「え!?」
 気がつくと、漢が俺の肩を揺すっていた。
「博士…大丈夫ですか?」
 男は心配そうにそんなことを訊く。
 それよりも、俺はこの男を知っている。
 この男は確か…
「あんたは、刑事の柳川だ!」
 俺は、男を指差しながら言った。
 ついでに、さらに重要な事も思い出した。
「『鬼』の柳川だ! なぜ俺の部屋に居るんだ!?」
「博士、私は助手の柳川です。オニではありません。
このシナリオでは、大発明をなさった博士の助手ですよ」
「う~む」

 彼の説明台詞を聞いている内に、俺は段々記憶が鮮明になってきた。
 そうだ…。
 俺…いや、私は高名な科学者であった。
 私は今、ある薬品の開発を行っていたのだ。
 その薬は、『飲むとどんな物質も通り抜けられる』という画期的なものだ。
 壁を通り抜けて隣室へ行くなど、簡単すぎてあくびの出る作業となる。
 薬は既に完成し、現在は実用化に向けての派生的問題の解決に全力を上げている。
 完成すれば、建物の外で暇を持て余す武装警官達もむくわれることだろう。
 他国がこの発明を狙っているとの情報だが、あれだけの『暇人』に守られていれば安心だろう。
「博士、この薬はもはや完璧と言えるのではないでしょうか」
 フラスコを片手に、助手が訊いた。
「そうだ、それを飲めば、たとえ鉄の壁であろうと通り抜けるのは簡単だ」
 私は自信たっぷりに答えた。

   助手は窓の外の警官隊に目をやり、
「例えば、これを飲めばピストルで撃たれても平気だということですね?」
「そのとおり。ピストルの弾は通り抜けてしまうからな」
 確かにスーパーマンになることも可能だろう。
「それさえ確かめれば、お前に用はない」
「えっ!?」
「フッフッフッフ、…新薬の開発、ご苦労だったな。
俺は北朝鮮のスパイだ。新薬の合成法はすべて頭に納めさせてもらった」
 私は驚いた。
 優秀な助手の柳川が、北朝鮮のスパイだなんて。
 しばしの沈黙…。
「と、とにかく、これでお前の役目は終わりだ」
 柳川はピストルを取り出した。

 狙いは心臓だ。
「待ってくれ。私を殺したとして、
厳重な警戒網をどうやって突破するつもりだ? 逃げられはしないぞ」
 彼は空いた手でフラスコの新薬を飲み干し、
「バカ言え! たった今、お前が説明しただろう。
俺にはピストルは通用しない。どんな方法でも、捕まえることは不可能だ」
 引き金に指が掛かった。 まずいぞ!
「ちょっと待ってくれ!」
 私は時間稼ぎを試みた。
 …生き延びるにはこれしかない。
「往生際が悪いぞ!」
「じ、実は、この薬には一つだけ欠点がある。
実用化に向けて解決しなければならない問題がそれなんだ」

 私も必死だった。
「今更なにを…。お前はさっき、薬は完璧だと言っただろう。
完璧とは、完全無欠を言うんだぞ!」
「それなんだ! 薬の欠点は、完全無欠である点なんだ!」
「フン…、恐怖でおかしくなったか? 完璧なら問題はあるまい、死ね…」
 引き金が動いた。
 …もうダメだ。

 刹那、柳川の手からピストルが床に滑り落ちた。
フラスコも同じように床に音を立てる
 …間に合った!
 驚きの表情で私を見つめる柳川。
「うわっ!!」
 次の瞬間、彼の姿は床に吸い込まれた。
 私は、ほっとため息をついた。
「私たちは常に、引力に引かれることを忘れたか?
新薬の欠点は、『どんなものも通り抜ける』ことだった。鉄も…、床も…、地球も…、」
 柳川の消えた床には、彼の身に着けていたものが、すべて残されていた。
新薬完成までは、もうしばらくかかりそうだ…。

書き溜めですがここまで読んでくれた皆様ありがとうございます。
自分が先日4時間かけて考えたどんでん返し系のssです。
萌え系アニメ系ではなくてゴメンね♪ 
では股

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