【モバマス】周子「ただ風が騒いでじっとしてらんない」 (22)




「――――お疲れ様でしたー!」


「――お疲れさま――――」


「お疲れ―――」



―――――――――――――――
――――――――――
―――――



「……もう一度、言っておくわね……ふふっ、おめでとう」


「おめでとうさん……ほんまに、ほんまに、おめでとうさん。……ぐす」



未だその活気と熱気が収まらぬ、春の夜空の下
私は仲間からの賛美の声をひたすらに聴き入れる
中には泣いてしまう者もいて、私が成し遂げたことの重みをひしひしと感じさせる

この夜空の中、輝く一番星に見守れらてたくさんの仲間から浴びるその声は
誰も訪れたことの無い様な深緑の水面に、雨水のように身を堕とし、連なる波紋を生み出す
それはとても心地いいもので、頭の中で燦燦と輝き、胸の奥の奥を熱く燃やす




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第四回総選挙、私は1位だった

私は、シンデレラガールになった

幾日、幾月、幾年、掛かっただろう

どれだけの時間が、過ぎたのだろう

辛くて大変で楽しかったあの日々、その全てが一時の出来事に思える



「……もー、ほら。紗枝ちゃん泣かんといてー」


「そ、そないな、こと、いっいったっ、て…………ふえぇぇぇ……」



涙で濡れた彼女の真白は頬を、優しく指で拭う
冷たく暖かい、止まる気配を見せないこの涙が指を触れる
私の為に泣いてくれるこの娘の優しさを、愛を、指先から全身に伝わらせる
そしてまた、私は笑う





「貴女、この後はどうするの?寮、帰る?」


「ん、そーだね。ちゃちゃっと……………あ、ごめん」


「?」


「私、事務所に忘れ物してたんだよねー。取ってから帰るん」


「あら、そう。分かったわ、先に寝てるかもしれないから……おやすみ」


「うん。おやすみ」



もう打ち上げの解散を始めていた、CGプロダクションの面々
その間を通り、あの人を探す

ささっ。と歩いていても、その間皆から掛かる声は止まらない
私はその声にきちんと返事をして、それを幾度となく繰り返しながら、その背中を探す


この軍勢の端の方、そこにあの人はいた





「Pさん」


「周子。お疲れ様」


「うん」


「どうした?奏、帰っちゃうぞ」


「いーの。Pさん、これから事務所戻るでしょ?」


「あぁ」


「私……えー、と、忘れ物、しちゃったからさ」


「ん、そうか。なら一緒に行こうか?」


「うん」


「車は無いから徒歩だが」


「いーの」


「そうか」


「うん」



星達に見守られた私達は、皆に別れの挨拶をして、二人共に事務所を目指す




「…」


「…」



沈黙

心地よい沈黙

私の自論だけど
沈黙が気まずくない関係って、素晴らしいと思う
友人でも、恋人でも、家族でも
心地よい、安心できる沈黙って言うのは、信頼の現れだと考えているんだ


けれどもその素敵な沈黙は、私が自ら破りにいくのです



「Pさん」


「ん」


「ありがとーね」


「あぁ」

「俺こそ」

「ありがとう」


分かっていたかの様な返事に、私の口角が上がる
それを見たPさんも、静かに笑う



「見て」

「これが私の翼」



「まだマトモには飛べなかった、私の魅力だよ」



私はさ
私は、思ったんだ
周りの、魅力的なアイドルの皆に埋もれていた、私の姿をちゃんと見てくれていたのはPさんなんだって


「Pさんは、私の魅力を全て分かっていたの?」


「俺はそのつもりだが」


「ふふっ、だよね」


世間体や上辺だけを気にした、つまらない顔は見せないよ
今迄もそうだし、これからもそう
本当の顔でうたうよ



「キレイな夢を見たんだ」

「アイドルとして輝く、皆の姿」

「どれもが満点の星のようで、私はいっつも見惚れていたよ」



その夢は、本当に夢だったのかもしれないけれど

私がその光景を忘れてしまうことはないだろう

例え世界が水で埋もれてしまっても、鉛の空に覆われても、紅の蛍に塗れたって

いつまでも、いつまでも、覚えているだろう





「私はそれに混ざりたくって、一緒に輝きたくって」

「今もふんとーちゅー」


「でも」


「でもね」

「ふふっ、そうだよ」

「まだ、終わりじゃないから」

「皆の輝きの中に、私は混ざれたのかもしれないけど」

「これで終わりじゃないから」

「まだ、まだ、最高の輝きを放ち続けないと、ね」




「Pさんは、私を愛してくれた?アイドル塩見周子を、愛してくれた?」


「当たり前だ」


「うん。知ってる」

「私は、私自身の努力と、Pさんのおかげで成長出来たんだ」


Pさんがこぼした愛は、私に全部染み込んで
穢れ無きその愛がアイドルとしての私を成長させる
そして、ついに
明日を迎えることが出来た


努力が報われる、とはこういうことなんだろう、って
空を見上げると眼前に飛び込んでくる満天の星空
いつの間にか仲間を増やしていた輝き、その一つ一つの光が、何となーくそう思わせる





私は煙のような街で眠っていたんだ
皆のように輝くことが出来なかった、濁った水晶玉のようなあのとき
まだ、アイドルとして目覚めることが出来ていなかった、あのとき


でも、今は違うよね
あのときの私は、今の私でもあるけれど
それでも今の私は、人一倍強い輝きを纏っている
それは、驕りでも怠慢でもなくって
自分と力とPさんの力、皆との時間のおかげで鋭く研ぎ澄まされた、煌く輝きなんだって
自信を持って、そう言える



「喉が渇いてるだけじゃない、高みに上りたいだけじゃない」

「もっと、もっと、上に行きたいんだ」

「始めたからには、ずっと」

「ずーっと」

「だから、Pさん」



終りのない終わりに、前だけ向いて向かっていきたい





"終りだよ"って

"あきらめな"って

そんな音、私には聞こえない

そんなつまんない音何か、両手で耳塞いでぜーんぶ無視しちゃう



「シンデレラになった私は、これから何処にいけるんだろーって」

「どんなものが待ってるんだろーって」

「どんなものが見えるんだろ、って」

「それが楽しみで、仕方ないんだ」

「ワクワクが止まらないんだ」





「今日も探してるんだ」

「シンデレラになった今でも探してる」



私にもっと似合うシンプルスカイ


私が


「最高に輝いていられる、その場所」


アイドルとしての私が、ひたすらに輝いていられる、そのどこか
まだ見付けられていない、その素晴らしい素敵な場所


「雲が邪魔したって、怯まないよ。吹き飛ばして見せるんだ」

「だから」


「あぁ」


「これからも、よろしくね」


「分かってる」


「だよねー」




―――――――――――――――
――――――――――
―――――


「所で周子、忘れ物ってのは何なんだ?」


「ん?あぁー……それ、勘違いかも!」


「えぇ……」


「へへ、いーじゃん別にー。ほら、さっさと事務所入ろ」


「あぁ、分かった。………押すなって」


「ふふっ……ね、Pさん」


「ん?」


「ちょっとさ、ちょっとだけ。少しだけ、振り向いて欲しいんだ――――







今なら、この真っ赤な顔も、最高の笑顔で見せられるかな
誰でも持ってる明日は、もう来ちゃったけど
色んな希望が混ざった虹は、もうずーっと後ろにあるけれど


これからは、どんな世界が待っているんだろう

あぁ

楽しみだなぁ


熱くて吐き出した愛も

いつかきっと、飲み干せるさ




おしり
おめでとう
前作です
【モバマス】P「渋谷凛6歳、闇に飲まれる」
【モバマス】P「渋谷凛6歳、闇に飲まれる」 - SSまとめ速報
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