一夏「鈴、中国に帰っちゃうのか?」(35)

鈴「そうよ。本国の都合でね。今週末にでも帰国よ」

一夏「……」

鈴「(――っていうのは真っ赤な嘘。

進展が無いなら、こういう嘘ついて様子見したら? って、ルームメイトに提案されたからなんだけどね)」

一夏「――そうか、分かったよ」

鈴「えっ」

鈴「(な、あまりに素っ気なさすぎない……?)

い、言っておくけど、この事はあの四人には秘密よ? 寂しがらせるわけにもいかないし、ね?」

一夏「分かってるよ。用はそれだけか? ――じゃあな」ガラッ、スタスタ

鈴「なによ……あの無表情……ちょっとくらい寂しがってもいいのに……」

鈴「一夏の馬k――」

ドガラガシャーン

モブ『キャアアア、織斑君が窓ガラスに思いっ切り突っ込んだァーッ!?』

千冬『織m……いちかぁーッ何をやっとるだァーッ!?』

鈴「い、一夏……?」

千冬「今日は二組と合同で模擬戦だ。違う組同士でペアを組むんだぞ」

ラウラ「むっ、これでは嫁とは戦えないな」

セシリア「ええ。ですが……」

シャル「……だよねー」

箒「一夏、本当に大丈夫なのか?」

一夏「なに、問題ない。かすり傷だよ」

鈴「ところどころ包帯巻いて……無理があるわよ!」

一夏「鈴……」

鈴「ま、アンタのことだから大丈夫でしょうし、
ここはアンタのコンディションに詳しいあたしとペアを――」

一夏「モブさん、俺と組みません? たまには色々な人と練習したいし」スタスタ

モブ「えっ織斑君が……私と?! 嬉しいっ!」
エーイイナァーチクショーモブノクセニィ

鈴「えっ」

箒「ん?」

セシリア「何と、珍しいですわね」

ラウラ「いっつもなら嫌々でも付き合ってやってる嫁が……」

シャル「嫌々、は余計だけど……確かに一夏、今朝から何だか変だよね」

鈴「そんな……やっぱりあたし、嫌われちゃった……?」

箒「おい、鈴。何を呆けている……その、気持ちは分からないでもないんだが」

鈴「ご、ごめん箒……まさか一夏があんなに私のことを」

箒「鈴? 今朝一夏と一体何――」

モブ「織斑くんの馬鹿っ!!」バキッ

一夏「グエッ」ドシャアアア

鈴「い、一夏っ?!」

セシリア「一体、何ですの?」

千冬「どうしたんだ、お前ら……というか一夏、また傷だらけになってお前は……」タタッ

モブ「だって……」

シャル「?」

モブ「織斑君、さっきからしきりに凰さんの名前ばっかりブツブツと……」

箒・シャル・セシリア・ラウラ「!」

鈴「えっ、あたし?」

モブ「こっちから呼びかけても、『りん、りん……』って! 私のことなんか眼中に無いんだわっ!」ウワアアン

一夏「……」

鈴「い、一夏、あの……」

一夏「ハッ、鈴……!? 俺は、俺は……!」

一夏「くっ!」バシュウウン

鈴「一夏っ!」

千冬「織斑ァ! 授業中に逃げるとは大した度胸だな! 怪我人とはいえ、千冬容赦せんせんせ」バシュウウン

鈴「(――もしかして、かなり効いてるのかしら……?)」

その後、授業は山田先生に引き継がれた。
それから昼休みに入った頃、漸く嫁は帰ってきた。その身に纏った包帯の量を増やして――byラウラ

セシリア「一夏さん、保健室で食べた方が……」

一夏「いや、大丈夫だよ。千冬ねえは、骨と急所はすべて外したと言ってくれたし」ハハハ

シャル「そんなアットホームな雰囲気で話せるようなものじゃないよ?!」

ラウラ「さすがは教官、厳しさの中に、教育者としての慈悲深さも感じられるぞ」ウンウン

一夏「だよな。で、その……鈴は?」

箒「午後の授業に備えて、今日はこっち(食堂)には来れない、とさ」

一夏「そうか、そいつは良かっ……いや、何でもない」

シャル「一夏?」

シャル「一夏、今朝から何だか変だよ?」

セシリア「そうですわ、何と言いますか……いつもの、
鈍感難聴野郎の主人公タイプという感じはギリギリ保ててらっしゃいますが」

ラウラ「うむ、表情だな。さすがは教官の弟だけあって、今日は常時キリリと引き締まった顔のままだ」

箒「一夏、鈴と何か喧嘩でもしたのか? あいつ、かなり落ち込んでいたぞ……?」

一夏「何でもねぇよ。ほら昼休みも終わっちまうし、さっさと席について食べようぜ」
酢豚<ゴトッ

箒「」

シャル「一夏が……」

箒「自分から酢豚を選んだ……だと……?!」

セシリア「オリンピックですし、フィッシュ&チップと思いましたのに……」

ラウラ「いやそれだけはない」

シャル・箒「ですよねー」ahaha...

セシリア「何ですってー」キー

一夏「何言ってんだよ、今たまたま食堂の献立は中華料理に
スポット当ててる特別期間なんだし、食べとかないと損だろ?」カタカタカタカタ

ラウラ「嫁……スプーンを持つ手が小刻みに震えてるが?」

一夏「いやいや、これは千冬ねえにやられた傷が疼いてるだけ、疼いてるだけ……」カタカタカチカチ

シャル「……」

一夏「いただきます」パクッ

セシリア「……」

一夏「……」

一夏「~~ッッッ!!!」ボロボロ

ラウラ「おおおっ?! 嫁が大粒の涙を!」ビクッ

箒「ちょ、本当に何があったんだ一夏ァ!?」

一夏「パイナポゥin酢豚……こんなに美味しかったんだなぁ……」ボロボロ

箒「一夏、なあ私達で良ければ相談――」

一夏「頼む、黙っていてくれないか……!

――今は静かにこの酢豚を食べたい、噛み締めたい、味わいたいんだ!」

箒「うっ」

シャル「い、一夏ぁ……」

ラウラ「くっ……あの嫁が泣いて頼むのだ、仕方あるまい。我々も退くべきだ」

一夏「」ボロボロ、パクパク、ボロボロ

セシリア「……ええ、時間を空けてから出直しましょう」

放課後

セシリア「一夏さん、よろしいでしょうか」

一夏「おや、そこにおわすは飯不味るところの国のお方、一体私に何の用が――?」

セシリア「ちょ、酷くなっておりません?! 一夏さん、しっかりしてくださいましっ」パンパン

一夏「お、おう、すまねえ。ちょうど大陸と島国との国交について思いを張り巡らしてたらつい――」

セシリア「とにかく、話してもらいますわよ。鈴さんとの事を……。

あんなにも鈴さんを避けるんですもの、心配するなと言う方が無理ですわ」

一夏「くっ……やはり隠し通せなかったか」

セシリア「(いえ、最初からだだ漏れでしたわ)」

一夏「本当は鈴から口止めされていたんだがな――」

セシリア「鈴さんが帰国……そんなことが。それで一夏さん、鈴さんに対して冷たい態度を?」

一夏「ああ、そうだ」

セシリア「鈴さんの口止めも水臭い話ではありますが、一夏も一夏さんですわ……!

鈴さん、あれからとっても落ち込まれていましたわよ。
自分が、一夏さんに嫌われたのではないか、って……」

一夏「……もう、良いだろ?」スタスタ、ガラッ

セシリア「一夏さんっ、まだ話は――」ガシッ

一夏「離せセシリアっ、千冬ねえがグランドで待ってるんだ、今朝の罰のことで……」ググッ

セシリア「知っています、ですが……!」

千冬『織斑、いや一夏! 止めろ、早まるなァー!』アワワ

セシリア「isも展開出来ない今の身体で、三階の窓から飛び降りるのだけは、やめてくださいましーっ!」ギュウウッ

一夏「セシリア頼む、行かせてくれ……」ググッ

セシリア「でしたら、その前にちゃんと鈴さんに、本当は寂しいって気持ちを伝えてくださいまし!
これでは彼女があまりに可哀相すぎますわ!」ギュウウッ

一夏「そんなこと言って見ろ、鈴だって未練がましくなって、帰れなくなっちまうだろ?」

セシリア「一夏さんっ……?!」

一夏「だから頼む、セシリア、行かせてくれーっ!」グググ

セシリア「い、いえ、今それとこれとは話が別ですわ!」ギュウウウウッ

一夏「セシリア、頼むよお……頼むから逝かせてくれよぉ……」シクシク

セシリア「やっぱり死ぬ気まんまんじゃないですのッッッ!」ギュウウウウッ

一夏「セシリア、行かせてくれ……行きたいんだ」ウウッ

セシリア「ですから、階段を使っ……ハッ?!」ギュウウ

一夏「セシリア、イかせてくれよぉ」ハァ、ハァ……

セシリア「(一夏さんの涙と蒸気した表情……そしてこの台詞ッ……)」ゴキュッ

セシリア「やだやだイヤですわ一夏さんったら! 実はどちらかと言えば私、
責めるようなご主人様側よりは、責められたい使用人側なのにそんな」キャー

セシリア「ハッ、私ったらはしたない。恥ずかしさのあまり、思わず諸手で顔を覆いたくなりまs――」

セシリア「……あらっ?!」

セシリア「……」ヒョイ

【↓三階からのセシリア視点↓】

  大 ←【一夏】


【↑三階からのセシリア視点↑】

千冬『ひちきゅああああ~~~ッ』ウオオオオ

セシリア「」

奇跡的にも一夏さんは一命を取り留めた……いえ、骨折もせず、軽い打撲で済んだそうです。

これもisに搭載されていた生命維持装置のおかげでしょうか。

――どうして伝聞形式かと? それはあなた、あんな失態を犯しておいて、千冬さんの猛追を逃れ
無事に済むなど、どだい無理な話というものです。

不幸中の幸いと言えば……私のベッドは一夏さんのベッドの隣だった、という事ですわね。
――byセシリアon保健室のベッド


鈴「一夏ぁ! ついでにセシリアっ! 大丈夫なのっ?!」ガラッ

千冬「騒がしいぞ凰。どちらも今は寝ているんだ」

鈴「(本当のこと話して、ちゃんと謝らなきゃ……)

織斑先生……いえ、千冬さん。一夏は、一夏はあたしが……」

千冬「ああ、事情はセシリアから聞いたぞ。お前、帰国するんだってな」

鈴「えっ……」

千冬「ほら、これを見ろ。大使館からの文書だ」ピラッ

鈴「?! 嘘……でしょ?!」

千冬「予定が繰り上がってな……出発は明日に変更だ。必要な荷物だけ準備しておけよ」
――


鈴「(あたしがあんな嘘をついたから、一夏も、セシリアも……。
そうよね……これは罰なんだわ。だから私は……)」

箒「鈴……」

ラウラ「酷いぞ鈴、我々に黙って本国に帰ろうとするだなんて!」

シャル「ラウラ、鈴の気持ちも分かってあげてよ」

ラウラ「くっ……しかし、せめて一夏とセシリアも見送りに来られたら……!」

千冬「さあ凰、そろそろ搭乗時間だ。皆に言うことはあるか?」

鈴「……はい」

鈴「実は皆に、謝らなければいけないことがあるの……」

一同「……」

鈴「一夏は……一夏はあたしがついた嘘……いや、あたしのせいで……」ポロポロ

空港職員「こらっ君、待ちたまえ!」

鈴「?」

職員「誰か、抑えろっ! って、うわああ」ドサッ

鈴「ああ!」

一夏「ま、間に合ったあ……!」ハァハァ

鈴「一夏、怪我は……」

一夏「そんなの関係ねぇよ……!
お前に伝えたいことも伝えられないまま、寝てなんかいられるかッ!」

鈴「!」

一夏「昔、鈴が中国に帰ったとき、やっぱりその時も俺……とっても寂しかったんだ」

一夏「でも鈴は家の事情もあったし、もっと辛かったんだなと思うと……」

鈴「一夏……」

一夏「鈴には出来る限り、後腐れなく帰ってほしかったんだ。だから、俺、あんな態度を……

謝りたいのはこっちの方だ。それに俺、気付いたんだ、自分の気持ちに!」

鈴「えっ」

一夏「鈴、お前がどんな事情で帰国するかは分からないし、お前がどんな思いで帰りたいかも分からないけど……

それでもやっぱり俺は、鈴には帰って欲しくない! 鈴に、ここにいて欲しいんだ!」

箒「!」

ラウラ「!」

シャル「!」

鈴「い、一夏ぁ……!」

一夏「鈴、俺はお前が欲し――」

千冬「はい、そこまで」バキッ

一夏「チボデー!」ドサッ

鈴「ちょ! 千冬さんっ?!」

千冬「全く、ちょっと懲らしめてやるつもりが、まさか思わぬゲストが飛び入りするとはな」

箒「さすがに今のは危なかった……」

シャル「うんうん、あの一夏がここまで積極的になるなんてさ」

ラウラ「ん?」

鈴「え、どういうこと?」

千冬「たわけ者め。私は教師だぞ。お前の帰国に関する話があれば、まずこちらに届かないわけがない。

だから、あえて一芝居打ったんだよ。こいつらに協力してもらってな」

鈴「!!」

鈴「じゃあ、文書は」

箒「あれも偽物だよ」

シャル「我を失っていなければ、すぐわかるんだけどねー」

ラウラ「何、鈴が帰国するのは嘘だったのか!」

シャル「(ラウラには、隠し事と芝居は無理そうだったからね……本当のことは伏せておいたよ)」

鈴「あ、あたしは……」コテン

ラウラ「鈴ーっ! 良かった、良かったな! お前と私達はこれからもずっと一緒なんだ!」ギュウッ

ラウラ「――ん、鈴……まだ泣いているぞ? 何が悲しいんだ?」

鈴「そうね、半分は『ごめんなさい』って気持ち、
もう半分は『ここにいていいんだ』って嬉しい気持ちなの……」ポロポロ

翌日、一夏の部屋にて

鈴「い、一夏……?」オドオド

一夏「……」ツーン

鈴「あんな嘘ついてごめんね、そのせいであんたは……」

一夏「……」

一夏「……本当に」ボソリ

鈴「!」

一夏「気が気でなかったんだからな。

鈴がいなくなるだなんて……今まで一緒にいるのが当たり前過ぎて、
こういう気持ち、久しく忘れていたんだよ」ムスッ

鈴「一夏ぁ……」グスン

一夏「本当に怖かったんだからな。だから、鈴は罰として……」

鈴「……」

一夏「これから一週間に一度、俺に酢豚を作ってくるように」

鈴「えっ」

一夏「いいな? 鈴が近くにいてくれることを、実感し続けたいんだ……!」

鈴「一夏ぁ……」

鈴「――ええ、お安いご用よ! 何だったら一週間と言わず毎n――」

一夏「それはやめて」

千冬「ま、まさかラウラの帰省に付き合わされるとは……」トボトボ


千冬「い、一夏……実はドイツに1ヶ月ほど行かねばならなくてな」
一夏「千冬ねえまで……! そんな嘘ついたっって、もう騙されないぞっ!」プンプン

千冬「」

\カシャアーン/
山田『キャアアアア、織斑が窓から身投げしたぁ~~~~~ッ?!』

<終劇>

>>12

×:セシリア「オリンピックですし、

○:セシリア「オリンピック期間中ですし、

おしまい

>>31

×:そんな嘘ついたっって

○:そんな嘘ついたって

>>31
×:織斑が

○:織斑先生が

今度こそ、これで。

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