遊矢「名前で呼ぶな」 (34)


・遊矢×柚子

・2人が小学生の頃の話

・デュエルなんてない

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舞網市のとある小学校にて……

遊矢「…………」

柚子「あ、遊矢」

遊矢「…………」ピクッ

柚子「今日もウチの塾に来るんでしょ? 学校終わったら一緒に行こうよ、遊矢」

<クスクス

遊矢「…………」

柚子「むぅ~返事してよ、遊矢。あたしの話聞こえないの?」

遊矢「……ちょっとこっち来い」グイッ

柚子「?」


…………

柚子「どうしたの、遊矢? こんな所に連れて来て?」

遊矢「…………」

柚子「ここホコリ臭いからやだよ。早く教室に戻ろ、遊矢」

遊矢「……名前で呼ぶなよ」

柚子「ふぇ?」

遊矢「だからオレの事を『遊矢』って呼ぶなよ」

柚子「どういう事?」

遊矢「そのままの意味だよ。これからオレの事を遊矢って呼ぶの禁止」

柚子「何で?」キョトン

遊矢「何でって……男子と女子がお互いに名前で呼び合うのは可笑しいだろ?」

柚子「えー。別に可笑しくないと思うけど?」

遊矢「実際さっき笑われてただろうが」

柚子「そうなの? あたし、全然気づかなかった」

遊矢「とにかく遊矢はやめろよ」

柚子「でも遊矢は遊矢じゃない。それなのに呼んじゃダメだなんてそっちの方が可笑しいよ」

遊矢「それでもだ。いい加減しつこいぞ」

柚子「むぅー。じゃあ遊矢じゃないなら何て呼べばいいのよ?」ホッペプクー

遊矢「普通に苗字で良いだろう。他の男子を呼ぶ時みたいにさ」

柚子「でもそれだと遊矢の家族の人はみんな同じだから誰だか分かんないよ?」

遊矢「それは……クラスで榊って苗字の奴はオレしか居ないんだから別に困らないだろ」

柚子「……じゃあ遊矢はあたしの事どう呼ぶの?」

遊矢「それは勿論、柊さんって苗字で呼ぶ。それとあんまり近づくのも控えて……」

柚子「…………」ジワッ

遊矢「お、おい! 何で涙目になってんだよ!?」

柚子「だって遊矢が意地悪言うんだもん……」グスン

遊矢「別に意地悪なんて……」

柚子「遊矢はあたしの大切な友達なのに……急にそんな呼び方とか呼ばれ方を変えるとか……近づくなとか……あたしやだよぉ……」

遊矢「ああ、もう。ほら、ハンカチ貸してやるからとりあえず涙拭けよ」

柚子「うん……」フキフキ

遊矢「仕方ないだろ? こうでもしないとオレ達ずっとクラスの奴らから笑われるんだぜ?」

柚子「笑われてもいい……遊矢の事を遊矢って呼べない方が辛い……遊矢に柚子って呼ばれないのも辛い……」

遊矢「そんな事言われても……あー分かった。じゃあこうしよう」

柚子「どうするの……?」

遊矢「家とか塾とか学校の奴らが居ない時は今まで通り遊矢って呼んで良いよ。オレもお前の事は今まで通り名前で呼ぶから」

遊矢「だけど学校に居る間はオレの事は他の男子みたいに苗字呼べ。オレもお前の事は柊さんって呼ぶから」

柚子「……榊くんって、呼べばいいの?」

遊矢「お、おう。いいか、これはオレ達が笑われない為に言ってるんだからな? 絶対にそうしろよ、分かったな?」

柚子「…………」

柚子「……うん。分かった」コクン


…………

遊矢(やっと言えた。だけど柚子の奴、何も涙目にならなくても良いだろうに……)

遊矢「…………」

遊矢(でも本当の事を言うと、オレも呼び方を変えるのはあんまりやりたくは無かった)

遊矢(あいつとは最初に会った日から名前で呼び合ってた。だから急に呼び方を変えるのは正直難しい)

遊矢(さっきあいつに『榊くん』って呼ばれた時、何だか胸の辺りがムズムズした)

遊矢「でも変えないと……笑われる」

遊矢(オレが笑われたり馬鹿にされたりするのは良い。あんまし良くは無いけど男だから我慢できる)

遊矢(だけどあいつが、しかもオレのせいで笑われたり馬鹿にされたりするのは……絶対に我慢出来ない)

遊矢(何だかあいつに悪い事をした気がするけどこれは仕方ない事なんだ)

遊矢(とにかくこれで柚子が笑われる事がなくなれば良いんだけど……)

遊矢「さて、そろそろ昼休みも終わりか。クラスに戻らないと……」

柚子「遊矢~!!」ノシ

遊矢「」ガシャーン←遊矢が転倒した音

柚子「遊矢、大丈夫! 今顔から倒れなかった!?」

遊矢「お、お前なぁ……」

柚子「?」

遊矢「さっきオレの事は学校では苗字で呼べって言ったばかりだろ! 何で普通に名前で呼んでんだよ!?」

柚子「あ、ごめん。忘れてた」アワアワ

遊矢「忘れてたって……」

柚子「でもやっぱり急には変えられないよ。ねえ、やっぱり呼び方を変えるのはやめにしない?」

遊矢「だからさっきも言った通りこれはオレ達の為で……」

男子A「あ、また榊と柊が一緒に居るぜ」

男子B「相変わらず仲良しさんだな、お前達」

遊矢(やばい! クラスの連中だ!?)

男子A「本当お前達って何処に行ってもイチャイチャしてるよな」

遊矢「べ、別にイチャイチャなんてしてない!」

男子A「いや、してるだろ。本当にアツアツだね、2人共~」

男子B「普通は男子と女子はそんなに仲良く無いぞ。名前で呼び合うのも可笑しいって」

遊矢「だ、だから……」

男子A「やっぱりお前ら付き合ってるんだな。きっと家でちゅーとかしてるんだぜ」

男子B「かもな。おい、オレ達にもキスしてるところ見せてみろよ」

遊矢「くうぅ……」

柚子「ゆ、遊矢……」

男子A&B「キスー! キスー!」( ゚∀゚)o彡゜( ゚∀゚)o彡゜

遊矢「……違う」

男子A「は?」

遊矢「オレとこいつは付き合ってなんかないし……」

遊矢「か、勝手にこいつがオレに着いて来るだけだし……」

遊矢「オレは……オレは……」



遊矢「オレは柊なんかと仲良くなんかない!!」



柚子「……遊矢?」

遊矢「ゆ……!?」

柚子「…………」ポロポロ

遊矢「あ、いや、その……」

柚子「ひぐっ……ひくっ……」

男子A「あ~榊が彼女泣かしたぞ」

男子B「ほら、早く慰めてやれよ。お前の彼女だろ?」

遊矢「だ、だから違っ……」

柚子「えぐっ……ひくっ……」

遊矢「うぅ……くっ!!」ダッ

男子A「あ、逃げた!」

男子B「皆さん~榊くんが彼女を置いて逃げましたよ~」


…………

遊矢(しばらくして教室に行くと柚子は先に戻ってた)

遊矢(もう泣き止んでたけど、その目は真っ赤になっていた)

遊矢(友達に大丈夫かと聞かれた柚子は何でも無いと笑顔で首を横に振っていた)

遊矢(だけど隣の席のオレには何も言わず、こっちを見ようともしなかった)

遊矢(何でこうなってしまったのか?)

遊矢(オレはただ柚子が笑われるのが嫌だっただけなのに)

遊矢(早く謝らないといけないと思った)

遊矢(酷い事を言ってごめんって。泣かしてごめんって)

遊矢(だけどそれがどうしても言えなくて)

遊矢(結局そのまま放課後になった)


…………

遊矢「雨、か……」

遊矢(天気予報だと今日は晴れだって言ってたのに……まあ置き傘あるから良いけどさ)

遊矢「……塾、行き難いなぁ~」

遊矢(早くあいつに謝らないと……だけど……)

遊矢(もしかしたらこのままで良いの、かな?)

遊矢(だってオレと仲良くしなければあいつも笑われる事は無いし……あ)

柚子「…………」

遊矢(あいつ、何で下駄箱の前に立ったままなんだ?)

遊矢(誰か待ってるって感じでもないし、もしかして傘忘れたのかな?)

柚子「…………」

遊矢(一応オレの傘に入れてあげられない事も無いけど……って、何を考えてるんだよ、オレは!)

遊矢(そんな事したら余計に馬鹿にされるだけだろうが。相合傘なんて……)

柚子「…………」

遊矢(そうだよ。雨だってすぐに止むかもしれないし……もしかしたら塾長が心配して迎えに来るかもしれないし……)

柚子「…………」

遊矢(これは柚子が馬鹿にされない為、笑われない為なんだ)

柚子「…………」

遊矢(だからオレは……)

柚子「…………」

遊矢(…………)


…………

柚子「…………」

柚子「…………」

柚子「……はぁ」





遊矢「――何溜め息なんか吐いてんだよ」

柚子「!」

遊矢「溜め息吐いてると幸せ逃げるって父さんが言ってた」

柚子「遊矢……あ!」

遊矢「……遊矢で良いよ、もう」

柚子「え?」

遊矢「傘無いのか?」

柚子「う、うん」

遊矢「……入れてやる。来い」グイッ

柚子「きゃ! ゆ、遊矢?」

遊矢「…………」

柚子「ゆ、遊矢? 良いの?」

遊矢「何がだ?」

柚子「だってあたしと一緒にこんな事したらまた……」キョロキョロ

遊矢「今日は一緒に塾に行くって約束だろ。だったらこうするしかないだろ」

柚子「そ、それはそうだけど……」

遊矢「だったら黙って着いて来いよ」

遊矢(柚子の悲しそうな顔を見て、やっと分かった)

遊矢(こいつが笑われたくないからなんて嘘だって事が)

遊矢(男の子だから我慢出来るなんて嘘だって事が)

遊矢(オレは自分が笑われたくないから、馬鹿にされるのが嫌だからあんな事言ったんだ)

遊矢(だけどそのせいでオレは柚子を傷つけた)

遊矢(おまけに泣いているこいつを置き去りにして逃げた)

遊矢(オレは最低だ。大馬鹿野郎の嘘つきだ)

遊矢「……遠慮しないでもっとこっちに寄れよ。濡れるぞ」

柚子「う、うん」モジモジ

遊矢(早くこいつに謝らないと……)

遊矢「あのさ、柚子。昼休みは……」



男子A「おい、見ろよ! 榊と柊、相合傘なんてしてるぜ!!」

男子B「うひょー! 雨の日もお熱いですね、2人共~」

遊矢&柚子「!」

男子A「仲良く片寄せ合っちゃって見せつけるね~」

男子B「もうそのまま結婚しちゃえよ~」

遊矢「…………」

柚子「遊矢……じゃない榊くん。あたしやっぱり離れるね」

遊矢「…………」

柚子「さか……きゃ!!」

遊矢「遊矢で良いって言っただろ? 後離れなくて良い」

男子A「おい、今榊の奴、柊の奴の肩を抱いたぜ? 本当に見せつけて……」

遊矢「……悪いかよ?」

男子B「は?」

遊矢「オレ達が仲良くするのが……そんなに悪いかよ!!」

――これからも一緒に居たら、名前で呼び合ったら笑われるかもしれない。

遊矢「オレは好きでこいつと、柚子と一緒に居るんだ!!」

――だけどオレも柚子も、一緒に居たいし名前で呼び合いたい。

遊矢「好きで柚子の名前を呼んでんだよ!!」

――なら笑われない様に、オレが柚子を守れば良い。

遊矢「そんなオレ達の事を馬鹿にする奴は……絶対に許さないからな!!」

――父さんの様な本当に強い男になって、柚子を守れば良いんだ。

男子A&B「…………」ポカーン

柚子「遊矢……?」

遊矢「いくぞ、柚子!」

柚子「は、はい!」ビクッ

タッタッタッ

男子A「……行っちまったな、榊と柊も」

男子B「けっ、調子に乗りやがって。べ、別に今のでビビッてねーし」

男子A「なんかムシャクシャするな。よし、明日もまた榊と柊を苛めてやろうぜ」

男子B「そうだな。今度は隣のクラスの奴らも呼んで……」


「――お前ら、何の話をしている?」


男子A「はあ? 何の話って……!?」

権現坂「オレの聞き間違えか? 今、遊矢と柚子を苛めると言ったか?」

男子B「いや、その……」

権現坂「この漢(おとこ)、権現坂……親友を苛めようとする不当な輩は許さんぞ、絶対にな」ギロリ

男子A&B「」


…………

柚子「ねえ、遊矢」

遊矢「な、何だよ?」

柚子「大丈夫? 何だか顔色悪いよ?」

遊矢「……慣れない事、したから」

遊矢(うわ~、やっちゃったよ、オレ……明日どうなるのかな? だけど柚子を守るって決めたばかりだし頑張るしか、ないよな?)

柚子「ふふふ♪」

遊矢「何で笑ってんだよ?」

柚子「だってやっと何時もの遊矢に戻ってくれたんだもん。さっきの遊矢、ちょっと怖かったから」

遊矢「……ふん!」プイッ

柚子「でも怖かったけど、カッコ良かったよ。ありがと、遊矢♪」

遊矢「…………」

遊矢「あのさ、柚子」

柚子「ん、何?」

遊矢「昼休みの時は、その……ごめんな。オレ、お前に酷い事言った……その上置いて逃げて……」

遊矢「あれ、嘘だから。オレはお前と仲良くしたいし……名前だって本当は……」

柚子「…………」

遊矢「今更遅いかもしれないけど……その、本当にごめんな」

柚子「……大丈夫だよ」

遊矢「え?」

柚子「あたし、遊矢の事なら何でも知ってるから大丈夫だよ」

柚子「あれが嘘だって事もちゃんと分かってたもん」

柚子「だから大丈夫だよ。もう気にしてないから」

遊矢「でもオレ、本当に酷い事……」

柚子「確かに最初はびっくりしたよ」

柚子「でも遊矢、今あたしに『ごめん』って謝ってくれたじゃない」

柚子「だからあたし、遊矢のした事許してあげるよ」

遊矢「柚子……」

柚子「さあ、早く塾に行こう。あんまり遅いとお父さん心配するし」

遊矢「そうだな……って柚子、お前ちょっとくっ付き過ぎ。少し離れろよ」

柚子「最初にくっ付いて来たのは遊矢の方じゃない。それにこうしないと濡れちゃうし」

遊矢「そうだけどさぁ……」

柚子「ねえ、遊矢」

遊矢「何だよ?」

柚子「あったかいね」



遊矢(その日の雨は結局夜まで降り続けていた)

遊矢(だけどオレ達の気持ちは何だか、とても晴れ晴れとしていた)

<おわり>

以上です。予告のロリ柚子ちゃんが可愛かったから思わず書いた。本編で早く再会して欲しいです。

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