ほむら「ループ・ザ・ループ」キュゥべえ「アンドループ」 (209)




キャハドカーン

………



M市 ワルプルギスの夜戦跡地



ガシャ ガラ パララ

ヒョオオオオ


ほむら 「…………」

ほむら (倒せた……ワルプルギスの夜を!)


杏子 「大丈夫か、さやか……!」


さやか 「大丈夫! このさやかちゃんを甘く見なさんなって」

さやか 「あんたこそいい加減、背中を預けた仲間に気を遣いすぎるクセ……いたたたた」


杏子 「あーあー。まったく、まいど無茶しやがって」

杏子 「ほらよ、肩貸してやるからつかまんな……」


マミ 「よかった。みんな、生き残れたようね……」

マミ 「さあ帰りましょう。町はこんな風になってしまったけれど」

マミ 「鹿目さんが待っているわ」

マミ 「お茶と、みんなでつくったお菓子を用意してね」


さやか・杏子 「ひゃっほー!」


ほむら 「……ついに」

ほむら 「やったわよ、まどか……!」


キュゥべえ 『一週目クリアおめでとう、暁美ほむら!』


ほむら 「……!」



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ほむら 「キュゥべえ……いえ、インキュベーター……!」

ほむら (……姿が見えない)


キュゥべえ 『もの凄く遠くから君だけに話しかけているんだ』


ほむら 「…………」


キュゥべえ 『おめでとう、暁美ほむら。ついに未来の君……いや』

キュゥべえ 『ワルプルギスの夜を倒したんだね!』


ほむら 『さらりと変なことを言わないで……!』

ほむら 『嘘をつかないはずでしょう!』


キュゥべえ 『いい加減、君に撃たれすぎたからね』

キュゥべえ 『ちょっとしたバグが発生しても、おかしくはない』


ほむら 『……なるほど。納得のいく後付けだわ』


キュゥべえ 『君らは外付けだけどね。外付けのハードディスクだけどね』


ほむら 『ぶち殺すわよ』




キュゥべえ 『それはさておき』

キュゥべえ 『見ていたよ、暁美ほむら。もの凄く遠くから、君の活躍をね』


ほむら 「…………」


キュゥべえ 『鹿目まどかと僕の契約を要所要所で阻止しながら』

キュゥべえ 『マミに魚類にホームレス』

キュゥべえ 『ややこしい連中を陰に日向にまとめあげ』


ほむら (巴マミが何かの括りみたいにされている)




キュゥべえ 『的確なカリキュラムによって、短期間で戦力を底上げし』

キュゥべえ 『さらにスクールカウンセラーも助走をつけて逃げ出すほどの心のケアまでこなし』

キュゥべえ 『ついにはワルプルギスの夜を倒した』

キュゥべえ 『死んで覚える何かのゲームのような行程を』

キュゥべえ 『君は一発でやってのけたわけだ』


ほむら (一発じゃないわ……!)

ほむら (美樹さやかが失恋しては繰り返し)

ほむら (巴マミの首がもげては繰り返し)

ほむら (佐倉杏子が決戦前に食い倒れては繰り返し)

ほむら (まどかがうっかり契約しては繰り返しエトセトラエトセトラ……)

ほむら (頭の中に分厚い攻略本ができるほど繰り返した……!)


キュゥべえ 『いやあ、君の口八丁手八丁には頭のさがる思いだよ』

キュゥべえ 『魔法少女ではなく、うちの特別契約社員として契約をお願いしたいくらいさ』


ほむら (あれもこれもそれも)

ほむら (おのれ、キュゥべえ……いえ、インキュベーター!)




キュゥべえ 『……というわけで、暁美ほむら』


ほむら 「…………」


キュゥべえ 『二周目、いっとく?』


ほむら 「…………」

ほむら 「……は?」





ほむら 『二周目……? 何を言っているのかしら』

ほむら (まどかを救うために時間遡行を繰り返した私)

ほむら (二周どころじゃなかったのだけれど……それ以前に)

ほむら (この時間軸のインキュベーターはそのことについて知らないはず……)


キュゥべえ 『いや、このままエンディングに突入しても良いんだけれどね』

キュゥべえ 『惜しいんだよ』


ほむら (エンディング? 惜しい?)

ほむら (本当に何を言っているのかしら)


キュゥべえ 『実は、君たちがワルプルギスの夜との戦いで受けたダメージが』

キュゥべえ 『少しばかり多いんだよ』

キュゥべえ 『あとちょっと少なければ、Cランクのエンディングに行けたのに』


ほむら 『……Cランク?』




キュゥべえ 『ちなみに、最高ランクであるSSSランクのエンディングは』

キュゥべえ 『ワルプルギスの夜をノーダメージで撃破することが必須さ』

キュゥべえ 『その他の必須条件として、佐倉杏子の見滝原中学校への編入学および小テストで学年二百位以内』

キュゥべえ 『美樹さやかの限界突破、巴マミのアイドルデビュー、早乙女和子の婚約……』


ほむら 『……そうね』

ほむら 『忘れていたわ』

ほむら 『あなたと話すのは時間の無駄だってこと』


キュゥべえ 『やれやれ、ひどい言われようだ』




キュゥべえ 『ワル夜撃破後だから、二周目へと引き継ぎができるよ』


ほむら (突っ込んでは駄目……。ワルプルギスの夜をいきなり略したことに)


キュゥべえ 『あ、そうそう。二周目と言っても、君が生まれるところから始まるわけじゃない』

キュゥべえ 『今よりだいたい一ヶ月くらい前くらいからかな』


ほむら (……こちらのこと、何か気づいているのかしら)


キュゥべえ 『こなしたイベント、倒した魔女や使い魔は復活してしまうけれど、所持金、各魔法少女の強さはもちろん……』

キュゥべえ 『えーっと、Dランクだと……うん、かなりの特典もつくね』

キュゥべえ 『まずは……』


ほむら 『……待ちなさい』


キュゥべえ 『おや、早速僕と話してくれる気になったのかい、暁美ほむら』




キュゥべえ 『あれかい、ツンデレというやつかい』

キュゥべえ 『さすがは暁美ヶ原のほむらさんと呼ばれる……』


ほむら 『引き継ぐ魔法少女の強さは』

ほむら 『ワルプルギスの夜撃破後……つまり現時点の状態と考えて良いのかしら』


キュゥべえ 『そうだね』


ほむら 『では、ソウルジェムの穢れもそのままと考えて良いのかしら』


キュゥべえ 『…………』

キュゥべえ 『……あ、たぬき』

キュゥべえ 『聞いてよ暁美ほむら。今、僕の目の前をたぬきが……』


ほむら 『答えなさい』




キュゥべえ 『……君の言う通りさ、暁美ほむら』


ほむら 『それだけ聞けばじゅうぶんよ』

ほむら 『本当に大切な真実を隠すあなたのやり方……うんざりだわ』

ほむら 『もう消えなさい、キュゥべえ……いえ、インキュベーター!』


キュゥべえ 『特典はまず』

キュゥべえ 『あの強敵が仲間に!? 新しい魔法少女加入イベントの追加』


ほむら 『…………』

ほむら (何度阻止してもまどかに契約を迫り続けた、この諦めの悪さ……しつこいところも憎たらしい)




キュゥべえ 『巴マミの叛逆コスチューム追加』

キュゥべえ 『まどかや他の魔法少女から君への好感度にプラス補正』

キュゥべえ 『……おや、これは良いね』

キュゥべえ 『ギス夜撃破前なら、いつでもその周回の初めに戻ることができるよ』


ほむら 『……!?』


キュゥべえ 『あくまでも戻るのであって、次の周回へ行くわけではないことに注意だね』

キュゥべえ 『……この辺りはあやふやにしておく方が良いかな。あんまり詰めちゃうとあれがね、ひろがりがね』


ほむら (私の場合、何かこの盾みたいなやつの砂時計みたいなやつの砂が落ちきらないと)

ほむら (時間遡行はできないのに……)


キュゥべえ 『ほら、車でもアソビの部分が無いとタイヤが回らないからね……』

キュゥべえ 『あ、戻るときは一言、ループと言う必要があるよ』

キュゥべえ 『次は……』


ほむら 『……やめなさい』





ほむら 『本当に、もういい加減に黙りなさいキュゥべえ……いえ、インキュベーター』


キュゥべえ 『もしかして信じていないのかい。まあ、信じられないのも無理はない』

キュゥべえ 『それじゃあ、特別に少し特典内容を先取りしてみよう』


ほむら 『…………』


キュゥべえ 『どうでも良いところから……よし、マミの叛逆コスチューム追加だ』

キュゥべえ 『そおれ、ちちんきゅっぷい』


ほむら 『ふざけないで』


キュロリロリン


ほむら 「!?」

ほむら (何、今の音……)


マミの声 「……あの、ねえ、暁美さん?」


ほむら 「! あ、ああ、マミさ……巴マ……」


クル


ほむら 「!?」


バスタオルマミ 「どうしたの、暁美さん」

バスタオルマミ 「早く行きましょ」


ほむら 「マミさん!?」




バスタオルマミ 「きゃっ!?」

バスタオルマミ 「ど、どうしたの暁美さん。いきなり大きな声を出して……」


タ タ タ


杏子 「おい、どうした! 何があった二人とも!」


さやか 「まだ敵が残ってたの!?」


ほむら 「…………」

ほむら 「いえ、ごめんなさいね、大きな声を出してしまって」

ほむら 「でも巴マミ、あなたのその格好……」


バスタオルマミ 「? 何か変かしら」


さやか 「……いつものマミさんだと思うけど」


ほむら 「な……っ」




ほむら (いつもの……いつもの!?)

ほむら (バスタオル一枚で外を出歩くのが、いつもの!?)

ほむら (そんなはずない。この時間軸の巴マミは一度もそんなことしなかったわ)

ほむら (どこかの時間軸では、変な偶然が重なって衣装が凄いことになったりしたけれど)


杏子 「……おっ」

杏子 「あははは……! ほむらの言うとおり、何て格好だよマミ」

杏子 「ここ、破けたまんまで下着が見えてるぞ」


マミ 「えっ!?」


杏子 「やーい、マミのエッチー」


マミ 「や、やだ、やめてよ……」


さやか 「ちょっと杏子、あんまりマミさんをからかうんじゃないわよ!」

さやか 「……しかし、久々に出ましたなあ、我らのうっかりマミさん!」

さやか 「いや~、眼福眼福」


マミ 「美樹さんまで……」


杏子 「あはは、赤くなってやがる」


さやか 「うっはあ、すごい破壊力。ただでさえ美人なマミさんのこんな姿」

さやか 「こりゃあ、我が校の男どもには見せられませんなあ、杏子さんや……」


杏子 「へっへっへ……」


マミ 「もう、いい加減にしなさい二人とも……!」


杏子 「しっかし、よく気づいたよなあ、ほむら」


さやか 「あんたも大げさよね。こんな小さい穴であんな大きな声出して」


ほむら 「……え、ええ」

ほむら (佐倉杏子に美樹さやか、巴マミ自身もこの異状に気づいていないというの……?)





キュゥべえ 『どうかな。信じてくれたかい、暁美ほむら』


ほむら 『…………』


キュゥべえ 『だんまりかい』

キュゥべえ 『まったく、君の悪いくせだね。都合が悪くなると自分の世界に閉じこもろうとする』


ほむら (キュゥべえ……いえ、インキュベーター。やはり油断ならない)

ほむら (まだ、何か隠している能力があるというの……)


キュゥべえ 『まあ、そのことについては、いま論ずるべきではないだろう』

キュゥべえ 『そちらの状況は把握できている』


ほむら 『…………』


キュゥべえ 『インキュベーター的なあれで丸見えだからね』

キュゥべえ 『ガン見だからね』


ほむら 「…………」

ほむら 「巴マミ、あなたはこれからもっと周囲の目を……」

ほむら 「とくに赤い目を気にした方が良いわ」


マミ 「? え、ええ……」




キュゥべえ 『それにしても暁美ほむら』

キュゥべえ 『彼女らを相手に、本当に君はよく理性的でいられるものだ』

キュゥべえ 『その年頃の少女が持てる忍耐力や柔軟性というものを、ゆうに超えている』

キュゥべえ 『経験上、とくに君のようなタイプは融通がきかず孤立するはずなのに』


ほむら 『心が無いくせに、よくも偉そうなことを』

ほむら 『どうせその経験とやらも、血液型とか人相とかロッキー占いとかでしょう』


キュゥべえ 『そうだけど』


ほむら (……大きなきっかけは、眼鏡だったと思う)

ほむら (数え切れないほど繰り返した時間遡行)

ほむら (ことごとく失敗したその旅で、私もまた変節を繰り返し、そしてまったく別の私へと成り果てた)

ほむら (愛に命を、希望に全てを……)

ほむら (ただ、まどかを救うという意志だけを残して)




キュゥべえ 『ロッキー占い。二人差し向かいで一本のロッキーの端と端を咥えて……』

キュゥべえ 『あれは脅威だね。もう二度とやるべきじゃない』


ほむら (はじめ、私はまどか以外の人たちも救おうとした)

ほむら (けれど)

ほむら (良い感じだと思っていたら、だいたい、思わぬところで思わぬ人の思わぬ心の闇が発露して)

ほむら (結局それがもとで失敗)


キュゥべえ 『ずいぶん前にマミと試してみたんだけど、こう、ロッキーの端を咥えてキョトンとしているマミの顔を正面から見ていると』

キュゥべえ 『僕の中でバグが発生しそうになって、むしろ発生してからが本番かなって……』


ほむら (中には似たようなパターンがいくつもあった。美樹さやかの失恋とか)

ほむら (……イライラした。絶望とか以前に、すごくイライラした)

ほむら (同じ失敗を繰り返す自分に。そして他人に……いま思えば理不尽だけれど)

ほむら (こっちはあなた達を助けたいのに、なんであなた達が同じ失敗を繰り返して邪魔するの、と)

ほむら (美樹さやかの失恋なんて、もう途中から変な笑いが起きた。実際、それで大変なことになった)

ほむら (ほかならぬまどかに殺されかけた)

ほむら (……因果の糸の話を聞いて絶望しかけたとき)

ほむら (そんなつもりつもったイライラが勝って何とか切り抜けられたのは、思わぬ幸運だったけれど)




キュゥべえ 『杏子とやったときは、話にならなかった』

キュゥべえ 『せーの……の掛け声の時点で頭まで丸呑みされたからね』

キュゥべえ 『占いようが無いったらないよ』


ほむら (私は他人を信じられなくなった。みんなを助けようとする自分も)

ほむら (誰の力も借りないと決めて、徹底的な合理化をはかった)


キュゥべえ 『さやかには断られた。そしてあのヴァイオリンの彼と経験済みだった』

キュゥべえ 『その結果あれなんだから……人間というものはわけがわからないよ』

キュゥべえ 『まあ、よくあることさ』


ほむら (それでも失敗し、繰り返し続けた。そしてある日)

ほむら (鏡に映る自分の顔がインキュベーターに見えた)

ほむら (……心を燃料としない、合理性の化物)

ほむら (心よりの願いでうまれた私という魔法少女の、なれの果てだった)




キュゥべえ 『百江なぎさという魔法少女がいたんだよ』

キュゥべえ 『三度の飯よりチーズ好き、ツンデレるときにもチーズを絡めてくるあの百江なぎさだ』


ほむら (鏡と頭を撃ち砕いて、私は考えた)

ほむら (何が最も合理的かを)


キュゥべえ 『ここだけの話、僕は、彼女が実はネズミの一種だったんじゃないかと推測しているんだけどね』

キュゥべえ 『勘違いしないでくださいもう一度チーズを貪り食らいたかっただけなのです……なんて』

キュゥべえ 『ネズミくらいしか思いつかないだろうそんな台詞』


ほむら (何という皮肉)

ほむら (私がたどり着いたのは)

ほむら (もっとも非合理的に思えるものこそ、じつは合理的な手段かもしれないという考えだった)




キュゥべえ 『あの子、チーズだけじゃなくてロッキーもいけるんだよ。たぶんネズミのくせに』

キュゥべえ 『もちろん彼女ともロッキーゲームもとい占いをしたんだけど』


ほむら (……心)

ほむら (いくら頭では正しいと分かっていても、心まで納得させられないこともある)

ほむら (……心のせいで、物事が悪い結果へ向かうこともある)

ほむら (私たちのように)


キュゥべえ 『彼女、杏子ほどとはいかないまでも、ブラインドタッチのレコードホルダーみたいな勢いで』

キュゥべえ 『またたく間にロッキーを食いつくしたばかりか』

キュゥべえ 『僕が咥えている部分も求めて、無心に、僕の上の口に舌を入れようとしてきたんだ』

キュゥべえ 『もう占いどころじゃなくてね……』


ほむら (だから理性で、頭で心をおさえつける)

ほむら (……私はそれで良い)

ほむら (だからといって、心を否定したりはしない)

ほむら (むしろ理解につとめることにした)

ほむら (どうせ人と心は引き離せないなら、とことん心と向き合い、寄り添うようにして導くことにした)

ほむら (望む結果のために、結果を度外視するような……)

ほむら (大切なまどかを守るために、まどかにまつわる人の心を愛することにした)

ほむら (そうしたら……)

ほむら (恐ろしいほどうまくいった)




キュゥべえ 『話が大きくそれたね』

キュゥべえ 『さて、次の特典だけど』

キュゥべえ 『おや、これは驚いた……』


ほむら 『まどか以外の人に目を向けることで、たくさんの発見があった』

ほむら 『美樹さやかが失恋したら、佐倉杏子にドジョウすくいをさせると良い……とか』

ほむら 『本当にたくさんの発見があった』


キュゥべえ 『暁美ほむら、これはもう一周するしか手はないよ』


ほむら 『……無駄よ、キュゥべえ……いえ、インキュベーター』

ほむら 『もう終わり。私は、同じ時間を繰り返したりはしない』


キュゥべえ 『なんと、次の周回からはソウルジェムの穢れが進行しなくなります』


ほむら 「!?」




キュゥべえ 『対象は君と、この周回で君と仲間関係にあった魔法少女』

キュゥべえ 『また、次の周回で新たな魔法少女と仲間関係になった場合、その魔法少女も対象となる』

キュゥべえ 『グリーフシードによるソウルジェムの浄化は問題なく行える』


ほむら 『……話がうますぎる』

ほむら 『あなた、何かまた……』


キュゥべえ 『……実際ね、Dランクというのはかなり高いランクなんだよ』

キュゥべえ 『いや、ワルプルギスの夜を撃破したというだけで、このくらいの特典は当然と言える』

キュゥべえ 『僕としては残念だけど、しかたないね』


ほむら 『…………』


キュゥべえ 『本当だよ』

キュゥべえ 『人の身で到達できるであろう最高のエンディングランクはCなんだ』

キュゥべえ 『惜しいというのは、そういう意味でもある』


ほむら 『…………』


キュゥべえ 『ランクBからは、条件に早乙女和子の婚約が加わる』

キュゥべえ 『もはや神の御業だ』


ほむら 『悔しいけれど、その言葉だけは信じるほかないようね……』




ほむら 『早乙女和子……決して悪い人じゃないのよ』

ほむら 『ただ、結婚できないというだけ』


キュゥべえ 『そう言われても、僕にはどうすることもできないけどね』

キュゥべえ 『……特典も神がかってくる』

キュゥべえ 『魔法少女が魔法少年に切り替え可能になったり』

キュゥべえ 『逆さになったプル夜……真ワルプルギスの夜と対戦可能になったり』

キュゥべえ 『早乙女和子、鹿目詢子が魔法少(?)女として参戦可能になったり』

キュゥべえ 『……いったい何を願ってなるんだろうね彼女らは。見当もつかない。他に……』


ほむら 『……Cは』


キュゥべえ 『?』

キュゥべえ 『ああ、Cランクの特典かい』

キュゥべえ 『普通だよ。鹿目まどかも交えて、毎日みんなでパジャマパーティーさ』


ほむら 『…………!!』




ほむら 『あなた、どうしてそんな大事なことを黙っていたの……!』


キュゥべえ 『訊かれなかったからさ』

キュゥべえ 『……いや、実際、とくに魅力的な特典でもないしね』

キュゥべえ 『いつでもリターン、穢れ進行なしときて、パジャマパーティーだ』

キュゥべえ 『チョモランマ……マミの好む言語で言うところのエベレスト踏破の記念に、山ほどのマミのケーキを貰った直後』

キュゥべえ 『今度はグリーンブーツを履いて踏破すればカマボコが貰えるよと聞かされて』

キュゥべえ 『君はモチベーションを上げられるのかい?』


ほむら 『……ループ』


キュゥべえ 『……!』


ほむら 『ループよ……!』





キュゥべえ 『……まあ、良いけどね』


ほむら (……しまった。ついうっかり……!)

ほむら 『待って、今のは……!』


ウニョン ウニョン ウニョン


ほむら 「……!?」


杏子 「おい、ほむら!?」


さやか 「あんた、体が透けて……!」


マミ 「暁美さん!?」


キュゥべえ 『……言っていなかったけれど、暁美ほむら』

キュゥべえ 『ループを取り消すことはできない』


ほむら 「そんな……!」


キュゥべえ 『決定の確認が出る設定にしておけば、その限りではなかったんだけどね』

キュゥべえ 『あとで変更しておくといい』


ほむら 『だから、わけのわからないことを言わないで……!』




ウニョン ウニョン


さやか 「どんどん薄くなっていく」

さやか 「ね、ねえ、何とかならないの!?」

さやか 「マミさん、杏子!!」


杏子 「ちくしょう、マミ……!」


マミ 「駄目……こんなの初めて……!」


さやか 「ほむら……ほむら!」


ほむら 「美樹さやか……」


キュゥべえ 『最初だからループ開始まで時間がかかる』

キュゥべえ 『別れの挨拶でもして時間を潰しておいてくれ』


ほむら 「…………」

ほむら 「……子どもみたいに泣かないで、美樹さやか」

ほむら 「別れ際にあなたのそんな顔なんて、見たくないわ」


青・黄・赤 「……!?」


キュゥべえ 『どうでも良いけど、彼女らを見ていると』

キュゥべえ 『どこかの小粋な子鬼トリオを思い出すよね』


ほむら 『黙りなさい……!』




マミ 「お別れ……?」


ほむら 「ええ、そうよ、巴マミ」

ほむら 「ワルプルギスの夜の脅威は乗り越えた」

ほむら 「私も、もう行かなくては」


キュゥべえ 『パジャマパーティーにね』


ほむら 『黙れと言っているでしょう!』


杏子 「…………」


さやか 「いきなり何言ってんのさ!」


マミ 「そうね……私も納得いかないわ、こんなの」


ほむら 「…………」


さやか 「まどかは……まどかはどうすんのよ!」

さやか 「親友に、別れも告げずに行っちゃうっての!?」


杏子 「……もうやめろ、さやか!」




杏子 「ほむら、困ってんじゃねえかよ……」


さやか 「じゃあ、あんたは納得できるっていうの!?」


杏子 「できねえよ!!」

杏子 「できるわけ……ッ、ねえじゃねえかよ……」


マミ 「佐倉さん……」


さやか 「杏子……」


ほむら 「…………」


杏子 「でもさ、仕方ないんだ」

杏子 「こうしなきゃならないんだ……」

杏子 「ほむらは、帰らなきゃならないんだよ」


マミ・さやか 「?」


ほむら 「?」




杏子 「……ワルプルギスの夜がやってくることをアタシたちに教えたのは、ほむらだ」

杏子 「ほむらがいたから、アタシたちはあのバケモンに勝つことができたんだ」


ほむら 「…………」


杏子 「……アタシたちの大きな節目には、いつもこいつがいた」

杏子 「さやかが失恋でまいっているときも」

杏子 「魔法少女の真実を知って、マミが誤った選択をしそうになったときも」

杏子 「そして、アタシが消費期限をギリギリ過ぎたヨーグルトを食いそうになったときも……」

杏子 「まるで最善の手を知っているみたいに、導いてくれた」

杏子 「出来すぎじゃねえか、こんなの」


マミ 「……そうね。暁美さんにはとても……とても、感謝してる」


さやか 「……だから、だから何だってのよ」

さやか 「それが、ほむらがどっか行っちゃうのと、どう関係があるのよ!」


杏子 「アタシさ、うちが教会だったからさ……分かるんだよ、こういうの」


さやか 「…………!」

さやか 「杏子……」


杏子 「ほむら……」

杏子 「あんた、天使なんだろ?」


ほむら 「…………」

ほむら 「……は?」




さやか 「杏子、あんたなに言って……!」


杏子 「天使だったんだよ、ほむらは」

杏子 「アタシたちを助けるためにやってきた」

杏子 「天使だったんだ……」


キュゥべえ 『僕らの価値観からしたら悪魔みたいなものだけどね』


ほむら 『縁起でもないことを言わないで』


杏子 「だけど、いつまでも甘えているわけにもいかない」

杏子 「アタシたちも、しっかり自分で歩いていかなきゃ」

杏子 「誰かに手をひいもらわなくてもね」

杏子 「あんたも、そう思ったから……今のアタシたちならそれができると思ったから」

杏子 「行くことにしたんだろ、ほむら」


ほむら 「…………」


さやか 「そんな話、信じろったって……」


マミ 「そうかしら」


さやか 「マミさん!?」


マミ 「魔法少女だって、こうやって存在するのよ」

マミ 「だったら……」


さやか 「あ……」




ほむら 「……そうね」

ほむら 「ご想像にお任せするわ」

ほむら 「……とだけ、言わせてもらおうかしら」


杏子 「……へへ」

杏子 「なんだよ……神も仏も、あるんじゃねえか……」


マミ 「……ありがとう、暁美さん」

マミ 「天使でも、そうでなくても構わない」

マミ 「あなたはかけがえのない仲間よ」


ほむら 「ありがとう……巴マミ」


さやか 「……やだよ」


ほむら 「美樹さやか……」


さやか 「行かないでよ、ほむら」

さやか 「学校で皆でバカやってさ、休みにはマミさんちで皆でバカやってさ……」

さやか 「ほかにも海とか遊園地とか行って、皆でバカやってさ……」

さやか 「まだやってないこと……いっぱいあるじゃん!」


マミ 「さやかさん……」


ほむら 「美樹さやか……」


>>59
訂正ごめんなさい




ほむら 「……そうね」

ほむら 「ご想像にお任せするわ」

ほむら 「……とだけ、言わせてもらおうかしら」


杏子 「……へへ」

杏子 「なんだよ……神も仏も、あるんじゃねえか……」


マミ 「……ありがとう、暁美さん」

マミ 「天使でも、そうでなくても構わない」

マミ 「あなたはかけがえのない仲間よ」


ほむら 「ありがとう……巴マミ」


さやか 「……やだよ」


ほむら 「美樹さやか……」


さやか 「行かないでよ、ほむら」

さやか 「学校で皆でバカやってさ、休みにはマミさんちで皆でバカやってさ……」

さやか 「ほかにも海とか遊園地とか行って、皆でバカやってさ……」

さやか 「まだやってないこと……いっぱいあるじゃん!」


マミ 「美樹さん……」


ほむら 「美樹さやか……」




さやか 「うぅ……」


ほむら 「…………」

ほむら 「あなたのそんな顔なんて、見たくないと言ったでしょう」

ほむら 「……お願いだから、笑って見送って」


さやか 「……!」


ほむら 「その方が、私も救われるから……」


キュゥべえ 『いろいろとね』


ほむら 『黙りなさい』




マミ 「さあ、顔を上げて、美樹さん」


杏子 「正義の味方が、最後にメソメソしててどうすんだ」


さやか 「……分かった」

さやか 「笑って、見送ってやるわよ……!」


ほむら 「ありがとう、美樹さやか」

ほむら 「巴マミ、佐倉杏子」


マミ 「ええ……」


杏子 「こっちこそ、礼を言っとくよ、ほむら」


さやか 「……まどかのことは安心してなよ」

さやか 「ぜったい、魔法少女にはさせないからさ!」


ほむら 「……ええ」




ウニョン ウニョン ウニョン


キュゥべえ 『そろそろループを開始するよ』


ほむら 『……ええ』


キュゥべえ 『カウントダウン開始だ』

キュゥべえ 『ワルプルギスの夜のときみたく』


カチ ジー ジジー……

……5


ほむら 「……じゃあ、そろそろ行くわ」


杏子 「ああ」


マミ 「元気でね、暁美さん」


……4


さやか 「……うぅ。だ、駄目、また泣けてきそう」

さやか 「そうだ、杏子。あれをやってよ、あれ!」

さやか 「私が失恋してダメになりそうになったときに、してくれたやつ」


杏子 「ええっ、あれをやんの!?」


マミ 「私からもお願いするわ」

マミ 「私が魔法少女の真実を知ってダメになりそうになったとき」

マミ 「暁美さんの助言で佐倉さんがやってくれた……」


杏子 「マミまで……でもなあ」


ほむら 「……そうね、最後に見ておくのも良いかもね」


さやか・マミ・ほむら 「ドジョウすくいを」




……3


杏子 「な、なんだよ、みんなして」

杏子 「分かったよ、やればいいんだろ!」

杏子 「ちょっと待ってろ、用意するから」


さやか 「男踊りの方で頼むよ」


杏子 「分かってるよ!」

杏子 「えーっと、ザルに腰カゴに、ひょっとこのお面に……」


……2


杏子 「……へへ」

杏子 「アタシんち、すごい貧乏でさ。食う物にも事欠く有様だった」

杏子 「それで、家の中が暗い雰囲気になったとき、よくやったんだよ」

杏子 「ドジョウすくいを」

杏子 「落ち込む家族を少しでも救いたいって……」

杏子 「ドジョウすくいを」

杏子 「そしたら、はは、親父にぶん殴られてさ……そりゃそうだよなあ、ドジョウなんて高級品……」

杏子 「そんなもんの踊り見せられたって、かえって腹がすいちまうもんなあ」

杏子 「その後なんやかんやで家族があんなことになって、魔法少女の力と一緒に封印しちまったんだけど」

杏子 「……また、こんな風に踊れる日が来るなんてね」


マミ 「佐倉さん……」


さやか 「杏子……」


杏子 「救われたのは、アタシの方さ」

杏子 「ありがたい話じゃないか」

杏子 「こんなアタシでも、まだ、誰かを笑顔にすることができるんだ……」




……1


杏子 「……くっ、駄目だ!」


さやか 「どうしたの、杏子!?」


杏子 「ワルプルギスの夜との戦いで消耗しすぎちまった」

杏子 「これじゃ、分身して安来節を奏でることができねえ……!」


さやか 「そんな……!」


杏子 「くそ、肝心なときだってのに、こんな……!」


ベョン ベ ベンベン 

ン トン ン トト……


さやか 「!!」

さやか 「これは」


杏子 「ああ、間違いない……安来節!」

杏子 「いったい誰が……」


ヂョン ヂョチョン……


マミ 「…………」


杏子 「マミ……!」


さやか 「マミさん!」

さやか 「すごい……あれだけの楽器を一人で!」


杏子 「やめろ、マミ! あんただって、もう……!」


マミ 「……やって、佐倉さん」


杏子 「……!」


マミ 「暁美さんのため、美樹さんのため、私のため……みんなのために」

マミ 「舞って!」


杏子 「マミ……!」





さやか 「……よっしゃ」

さやか 「私もいっちょ、喉に無理させてみますかね」


杏子 「さやか……!」


さやか 「やってやってよ、杏子」

さやか 「一世一代の……ドジョウすくいをさっ」


杏子 「…………!」

杏子 「……ああ」

杏子 「やるよ。そうさ、やってやる……」

杏子 「何度殴られたってやってやる……!」


ベョン ベベッ ベ


杏子 「頼むぞ、さやか!」


さやか 「がってん!」

さやか 「…………」


スウウ……


さやか (最後にちゃんと見ていってよ、ほむら)

さやか (私たちの安来節を……!)

さやか 「おやじぃ~~~ぃい~~……!」



……0







…………



カランカラン


静かな喫茶店



コト


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「……飲み物が来たよ、ほむら」

キュゥべえ 「興味深いストローだね。一本なのに吸い口が二つある」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「そんなに落ち込むことないよ、暁美ほむら」

キュゥべえ 「たかが安来節じゃないか」


ほむら 「……まどかはカラオケに行くと歌ったものだわ」

ほむら 「安来節を」

ほむら 「あの子、演歌が好きだったから……」


キュゥべえ 「安来節は演歌なのかい?」




ほむら 「……何なの、ここは」


キュゥべえ 「喫茶店だね」


ほむら 「どうして私はこんなところに来ているのかと質問しているの」

ほむら 「しかも、どうしてペア・ストローで飲む飲み物を挟んで」

ほむら 「あなたと差し向かいで座っているの」


キュゥべえ 「……あ、鼻眼鏡」

キュゥべえ 「見てよ暁美ほむら。こんなところに鼻眼鏡があるよ。誰かが忘れていったのかな」

キュゥべえ 「せっかくだからかけてみないか、暁美ほ……」


ほむら 「私の質問に答えなさい」




キュゥべえ 「やれやれ……僕も、すべての質問に答えを用意しているわけじゃないんだけどね」


ほむら 「分からないの?」


キュゥべえ 「分からないね」

キュゥべえ 「けれど、こうなったのは暁美ほむら」

キュゥべえ 「きっと君が二周目を望んだからだ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「たぶん、ここは次の周回への待合所みたいなものだろう」

キュゥべえ 「あっちのテーブルにいる人たちを見てくれ」


ほむら 「…………」

ほむら 「!」

ほむら 「あれは……」



海の幸っぽい一家 「…………」


春日部っぽい一家 「…………」


清水っぽい一家 「…………」



ほむら 「…………」


キュゥべえ 「ね?」




キュゥべえ 「どれも、ループで有名な一家だ」


ほむら 「……黒塗りでよく分からないわ」


キュゥべえ 「何かの二期みたいだね……おや、飲み物がもうなくなった」

キュゥべえ 「おかわりを頼もう」

キュゥべえ 「暁美ほむら、呼び鈴を鳴らしてくれ」


ほむら 「自分で鳴らしなさい」


キュゥべえ 「君は飛びぬけて女子力が低いね」

キュゥべえ 「……あの海の幸っぽい一家を見てくれ」

キュゥべえ 「特徴的な頭の人物が二人いるだろう」

キュゥべえ 「あの組み合わせはあの一家しかいない」


ほむら 「……納得せざるをえないわね」





チリリン チリリン 

オーダー!



キュゥべえ 「おや、呼び鈴を鳴らしたら声が聞こえたぞ」

キュゥべえ 「何となく、海の幸の一家っぽい……」


ほむら 「……あっちのテーブルの人たちは」



新劇っぽい人たち 「…………」


進撃っぽい人たち 「…………」


電撃っぽいネズミ 「…………」



ほむら 「……半分透けているようだけど」


キュゥべえ 「そういう疑惑がある程度なんじゃないかな」


ほむら 「……ネズミもいるのだけど」


キュゥべえ 「なぎさがかい?」

キュゥべえ 「海の幸っぽい一家のタマさんに会わないと良いね」



ガタ



ほむら 「……パンとバイキンのような人たちが席をたったわ」


キュゥべえ 「意外と仲が良さそうだね」

キュゥべえ 「出て行くようだ」


ガチャ カランカラン……


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「あれが次週……次周の入り口ということかな」


ほむら 「うるさい」





ほむら 「さっさと行きましょう」


キュゥべえ 「パジャマパーティーの何が君をそんなに急かすんだい」

キュゥべえ 「本当に理解できないな、人間の価値観は」

キュゥべえ 「まあ待ってよ。店員を呼んだばかりだし」

キュゥべえ 「二周目の前にまだ説明しておきたいこともあるからね」


ほむら 「…………」

ほむら 「やはり何か隠していたのね」


キュゥべえ 「まだ説明の途中だったんだよ」

キュゥべえ 「それをいきなり君が……」


ほむら 「早く話しなさい」


キュゥべえ 「うるさいと言ったり、早く話せと言ったり……」


ほむら 「良いから」


キュゥべえ 「さっき、君は佐倉杏子の問いに想像に任せるとか答えていたけど」

キュゥべえ 「あそこは、それは秘密……と答えた方が良かったんじゃないかな」


ほむら 「ふざけないで」




…………


ほむら 「……では、特典の効果は切り替え可能なのね」


キュゥべえ 「ああ、いつでもどこでも切り替え可能さ」

キュゥべえ 「このポータブルなメニュー表で設定を変更すればね」


ヒョイ


ほむら 「…………」

ほむら 「……PS[ピーーー]」


キュゥべえ 「[ピーーー]SPじゃないよ。メニュー表だ」

キュゥべえ 「これで、好きなときに巴マミをバスタオル姿にして楽しむと良いよ」


ほむら 「そこは割とどうでも良いわ」


キュゥべえ 「じゃあ、オンにしておこう」


ほむら 「……このメニュー表。もの凄く重要なものなのに」

ほむら 「今後いっさい使わない気がするわ」


キュゥべえ 「僕も何故だかそう思うよ」




キュゥべえ 「……ああ、あと、これも特典のようなものだけど」


ほむら 「?」


キュゥべえ 「ここに来てうすうす感づいてはいたと思うけれど」

キュゥべえ 「二周目からは僕がついてきます」


ほむら 「!?」

ほむら 「……そう」


キュゥべえ 「すまし顔でストローに口をつけようとするところ悪いけれど、暁美ほむら」

キュゥべえ 「そっちは僕が吸うほうだ」




キュゥべえ 「小動物を肩に乗せて時の荒野を旅する、魔法使いの少女」

キュゥべえ 「じつにジブリ的じゃないか。ジブリッシュじゃないか」


ほむら 「演技の練習法みたいに言わないで」


キュゥべえ 「マミだとどうも、アダルティすぎてね」

キュゥべえ 「残念ながら成長過程の少女という絶対的な条件を満たせない」

キュゥべえ 「その点、君なら……」


ほむら 「全方位を敵にまわして」

ほむら 「あなたは何をしたいというの……!」


スチャ


キュゥべえ 「わあっ」

キュゥべえ 「何を怒っているんだい、ほむら。いきなり銃を向けてきて」

キュゥべえ 「今のは君にとって褒め言葉のはずだろう!」


ほむら 「黙りなさい……!」




キュゥべえ 「……だいたい何だって君は、僕をそんなに目のかたきにするのさ」

キュゥべえ 「僕の何が気にさわると言うんだい、ほむら」


ほむら 「すべてよ」


キュゥべえ 「全否定か」

キュゥべえ 「……ふう。あのね、ほむら。よく聞いてくれるかい」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「感情のない僕たちだけれど、精神疾患はあるんだよ。たぶん」

キュゥべえ 「たとえば、いわれのない誹謗中傷をうけて」

キュゥべえ 「悲しいという気持ちが、たぶん芽生えないわけでもないんだよ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「僕もね、ほむら」

キュゥべえ 「君とはなるべく良好な関係を築こうと思って今までやってきたんだ」

キュゥべえ 「でもそろそろ限界だよ、ほむら」

キュゥべえ 「こんなんじゃ、ループひとつ始まらずに終わってしまうよ、ほむら」

キュゥべえ 「僕のアンリミテッドな何かが発動してしまうよ、ほむ……」


ほむら 「黙りなさいと言っているでしょう……!」




ほむら 「もう行くわよ……」


ガタ

コツ コツ コツ


キュゥべえ 「せっかちだね」

キュゥべえ 「やれやれ、マミとは違って苦労させられそうだ……」


テコ テコ テコ


キュゥべえ 「二周目に入ったら、僕はマミの家ではなく君の家に入り浸ることになる」

キュゥべえ 「そして二周目に入っても、僕たちの使命は変わらない」


ほむら 「……そう」


キュゥべえ 「今度は落ち着いているね」


ほむら 「近くにいるのなら、止めやすいでしょう」


キュゥべえ 「なるほどね……」


コツ コツ コツ

テコ テコ テコ




扉前



ほむら 「…………」


キュゥべえ 「……さて、いよいよ二周目だ」

キュゥべえ 「正直、のばしてのばして結局ループしないというオチも危惧したけれど……」

キュゥべえ 「Cランク目指して……さあ、扉を開けるんだ、ほむら!」


ほむら 「……パジャ……まどか」

ほむら 「今度こそ、あなたを救ってみせる……!」


キュゥべえ 「二周目の世界に、アンリミテッドの風を吹かせよう」

キュゥべえ 「色的に、風が君で……僕は雲かなっ」


ほむら 「…………」


ガチャ 

ドガッ


キュゥべえ 「蹴っぷい!?」


ほむら 「…………」


スタスタスタスタ

バタン ガチャ




…………






…………



見滝原中学校 教室



ほむら 「暁美ほむらです」

ほむら (これが、二周目……)


さやか 「うわ、すげえ美人……だけど」

さやか 「ね、まどか。あの転校生が肩に乗せてるの、何だろう……」


まどか 「さあ。先生は何も言わないし、みんなも……」


キュゥべえ 『……何か変化は見られるかい』

キュゥべえ 『教室の生徒の顔ぶれとか』


ほむら 『志筑仁美の髪が桃色で、頭に何か変な花飾りがあるくらいで』

ほむら 『とくにこれといった変化はないわね』

ほむら 『けれど……』


貝木 「よおし……」

貝木 「じゃあさっさと席につけ」


ほむら (誰かしら、こいつ)




キュゥべえ 『けれど、何だい』


ほむら 『担任が変わっているわ。性別ごと』


キュゥべえ 『ああ、たしかに』

キュゥべえ 『早乙女和子から、サリーちゃんのパパみたいな頭の男になっているね』

キュゥべえ 『なつかしいなあ、サリーちゃん。魔法少女サリーちゃん。彼女は良い魔法少女だった』


ほむら 『魔法使い。あなたの犠牲者みたいに言わないで』


貝木 「…………」


キュゥべえ 『……気のせいかな』

キュゥべえ 『この人、僕とちょくちょく目が合う気がするんだけど』


ほむら 『気のせいでしょう』


貝木 「……どうした」


ほむら 「……!」


貝木 「はやく席につけ」


ほむら 「……はい」




休み時間 廊下



ほむら 「……それで、私に何の用かしら」

ほむら (妙に胸がむかむかする担任について考える暇もなく)

ほむら (まどかと美樹さやかに連れ出された……)


まどか 「あの、用っていうか……」


さやか 「私が言うよ、まどか」

さやか 「……ねえ、転校生」


ほむら 「ほむらで良いわ」


さやか 「あ、うん。ほむら」

さやか 「その肩のやつ……いったい何なの?」


ほむら 「ペットよ……!」


まどか 「ひっ!?」


さやか 「うわああっ!?」

さやか 「なんでそんな恐ろしい形相で答えるんだよ!」




ほむら 「……驚かせてごめんなさい」

ほむら 「これについては後で説明するから」

ほむら 「それより、こっちも尋ねたいことがあるの」


さやか 「な、何さ……」


ほむら 「あの先生なんだけど……」


まどか 「……鈴木先生のこと?」

まどか 「首輪につける鈴に、木で鼻をこくるの木……の」


ほむら 「ええ」

ほむら 「彼は、いつ頃からあなたたちの担任だったの」


さやか 「いつ頃からって……そうだなあ」


まどか 「ええと、早乙女先生が産休に入ってからだから……」


ほむら 「!?」


キュゥべえ 「何だって!?」


さやか・ほむら 「きゃあ!?」




さやか 「しゃべったあ!?」


ほむら 「だ、大丈夫よ。害はないから……」


ヨロ ヨロ ヘタ


ほむら (あまりのことに、腰が抜けてしまった)


まどか 「ほ、ほむらちゃん、大丈夫!?」


ほむら 「だ、大丈夫、大丈夫だから……」

ほむら 「そう。結婚できたのね……」


貝木 「何をしているぅ……」


ほむら 「……!」




さやか・まどか 「鈴木先生」


貝木 「授業だ。さっさと教室に……」


まどか 「あ、あの……!」


貝木 「何だ」


まどか 「ほむらちゃん、具合が悪いみたいだから、保健室へ……」


貝木 「…………」


まどか 「その、連れていこう、かな……なんて……」


貝木 「……さっさと行ってこい」


まどか 「は、はい。行こう、ほむらちゃん。立てる?」


ほむら 「……ええ」

ほむら (その方が都合が良いかもしれない)


貝木 「…………」


まどか 「……あの」


貝木 「まだ何かあるのか」


まどか 「……ほむらちゃんの肩の上、何か見えますか?」


貝木 「……ぁあ?」


キュゥべえ 『……見てる、見てるよほむら』


ほむら 『だから、そんなわけないでしょう。だけどまどか、どうして急に……』


キュゥべえ 『彼女は何か気づいていたようだからね』

キュゥべえ 『こんなことなら、変に隠したりせずに』

キュゥべえ 『鹿目まどかと美樹さやかに魔法少女のことを話した方が良かったんじゃないかい』


ほむら 「…………」


貝木 「……何も見えん」


さやか 「え、そんな、だってこんなにはっきり……!」


貝木 「見えんものは見えん」

貝木 「ほれ、早く行け」


まどか 「は、はい……」


ほむら 「…………」


貝木 「…………」



…………

…………


ほむら (転校初日。不測の事態に見舞われながらも……)

ほむら (巴マミ、美樹さやか、そしてまどかと接触して)

ほむら (どうにか仲間にすることができた)

ほむら (さらに、数日後には佐倉杏子も……)

ほむら (だけど)


貝木 「……今日からお前たちを指導することになった」

貝木 「鈴木だ」

貝木 「首輪につける鈴に、木で鼻をくくるの木と書いて」

貝木 「鈴木だ」

貝木 「魔女も魔法少女とやらも信じちゃいないが」

貝木 「ワル……のなにがしかがやってくるという日まで」

貝木 「お前たちをびしばし鍛えていくから」

貝木 「覚悟しておけ」


ほむら 「…………」


杏子 「ちょっとちょっと、何なのさ、こいつ」


貝木 「こいつではない」

貝木 「鈴木だ」




マミ 「ベテラン魔女バスターの鈴木先生よ」


さやか 「魔女バスターって、マミさん、さすがにそれは……」


杏子 「こいつ、いま魔女も魔法少女も信じてないって言ってたじゃんかよ」


マミ 「本当よ。だって、ほら、名刺に書いてあるもの」


ピ


杏子 「……まじかよ」


さやか 「本当にベテラン魔女バスターなんだ……」


ほむら 「疑う余地はないようね……」


キュゥべえ 『普通、名刺に書くなら教師の方だろうに。まるで詐欺師みたいな男だね』

キュゥべえ 『これじゃあ早乙女和子の件も疑わしい』


ほむら 「…………」


貝木 「ではこれより、特訓をはじめる」

貝木 「全員、位置につけぇ……」



…………





ほむら (それから私たちは鈴木先生のもと)

ほむら (ワルプルギスの夜との戦いに向けて特訓を重ねた)

ほむら (まどかの見守る中、吐くほどに体を痛めつけるうちに、やがて)

ほむら (私たちと鈴木は、強い絆のようなもので結ばれていった)

ほむら (ような気がした)


貝木 「おれは昔から紅茶をいれられなかったから」

貝木 「紅茶をいれられる人間はすごいと思う」


マミ 「鈴木先生……」


貝木 「おれは昔から失恋できなかったから」

貝木 「失恋できる人間はすごいと思う」


さやか 「鈴木先生……」


貝木 「おれは昔から分身できなかったから」

貝木 「分身できる人間はすごいと思う」


杏子 「鈴木……先生……」


ほむら (そして)

ほむら (ワルプルギスの夜との決戦の日がやって来た……)




…………


カチ ジー ジジー……

……5


杏子 「とうとう来たな、この日が……」


マミ 「ええ……」


ほむら 「…………」


……4


マミ 「やれるわよね。あの特訓をやり遂げたんですもの」


杏子 「ほんと……いま生きているのが不思議なくらいさ」


さやか 「もうどんな敵が来ても、負ける気がしない」

さやか 「全力でワルプルギスの夜を倒す」

さやか 「ですよね、鈴木先生!」


貝木 「馬鹿を言え」

貝木 「んなもん、できるわけが無いだろう」


四人 「!?」



……3


マミ 「先生……?」


杏子 「いきなりなに言ってるんだよ……」

杏子 「アタシたち、あれをブッ倒すために、今日まであんたの特訓を受けてきたんだろうが!」


貝木 「ノーだ」

貝木 「おれはお前たちに、ワルプルギスを打倒するすべなど」

貝木 「何ひとつ教えていない」


……2


ほむら 「……私たちを、騙していたの」


貝木 「ノーだ」

貝木 「ワルプルギスの夜が来るまで鍛えるとは言ったが」

貝木 「ワルプルギスの夜を打倒するために鍛えるとは、おれは一言も口にしていない」


さやか 「そんな……」




……1


さやか 「じゃあ、先生は私たちに死ねっての!?」


貝木 「ノーだ」

貝木 「おれがお前たちを鍛えたのは」

貝木 「ワルプルギスの夜を打倒せるためでもなければ」

貝木 「ワルプルギスの夜に打倒されるためでもない」

貝木 「ワルプルギスの夜と行きあい、生き残らせるためだ」


さやか 「……つまり」


杏子 「どういうことなんだよ……」


ほむら 「……まさか」

ほむら 「尻尾をまいて逃げろと言うの?」


貝木 「…………」

貝木 「イエスだ……!」


……0



>>101
訂正ごめんなさい


……1


さやか 「じゃあ、先生は私たちに死ねっての!?」


貝木 「ノーだ」

貝木 「おれが今日までお前たちを鍛えたのは」

貝木 「ワルプルギスの夜を打倒するためでもなければ」

貝木 「ワルプルギスの夜に打倒されるためでもない」


マミ 「……えっと、それは」


さやか 「つまり」


杏子 「どういうことなんだよ……!」


ほむら 「……まさか」

ほむら 「尻尾をまいて逃げろと言うの?」


貝木 「…………」

貝木 「イエスだ……!」


……0









貝木 「さあ、逃げろ逃げろぉ……!」

貝木 「貝木ストライドを習得したお前たちなら、造作もないはずだ」




キャハハハハハ ドンドコドンドコ


マミ 「……ティロ」

マミ 「フィナーレ!」


ドムン


…………


貝木 「お前の南斗……ティロ・フィナーレをさらに強化する方法」

貝木 「それは」

貝木 「お前自身が砲弾になることだ」


…………


マミ (体が軽い……)

マミ (先生、私いま……飛んでる!)





キャハハハハ

ヒュルルルルル



さやか 「……やっぱりすごいや、マミさん」

さやか 「もうあんなところまで……」


…………


貝木 「お前は……軽快に踊ったあとに」

貝木 「千キロ先に明日の自分を想像して」

貝木 「そこに向かってクラウチングスタートだ」


…………


杏子 「……たく」


…………


貝木 「お前は分身して……」

貝木 「走れ」

貝木 「たぶん速い」


…………


さやか 「……杏子」


杏子 「……遅れんなよ、さやか」


さやか 「へへ、こっちの台詞だっての」

さやか 「……じゃあ」

さやか 「いっちょやりますか!」




キャハハハハ

ズドドドド ダダダダダ


ほむら 「…………」


キュゥべえ 『君を含め、みんななかなかの逃げっぷりじゃないか、ほむら』


ほむら 「そうね……」


ガッチョン ガッチョン ガッチョン


…………


貝木 「お前は靴のかかとにこれを仕込んで走れ」

貝木 「ホッチキスだ」

貝木 「安心しろ、針は抜いてある」


…………


ほむら 「…………」


ガッチョン ガッチョン ガッチョン


キュゥべえ 『うるさいったらないね』






キュゥべえ 『しかも、音はしっかり針が噛んでるんだよね』


ガッチョン ガッチョン ガッチョン


ほむら 「…………」


キュゥべえ 『気のせいかな、ほむら。心なしか楽しそうだ』


ほむら 「否定はしないわ」

ほむら 「この一ヶ月間、ずっと走っていたからかしら」


キュゥべえ 『そんなものかな』


ガッチョン ガッチョン ガッチョン


ほむら 「キュゥべえ……いえ、インキュベーター」


キュゥべえ 『何だい』


ほむら 「走るのって、楽しいわね」


キュゥべえ 『そうかい』


ガッチョン ガッチョン ガッチョン


ほむら 「キュゥべえ……いえ、インキュベーター」


キュゥべえ 『何だい』



ほむら 「ループ」




ウニョン ウニョン ウニョン

……………



カラン カラン



静かな喫茶店



ほむら 「…………」


キュゥべえ 「待合所だ」

キュゥべえ 「……いやはや」

キュゥべえ 「初っ端から大変なことになったね」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「これはキツイよ、ほむら」

キュゥべえ 「多分もうここからは右肩下がりだ」

キュゥべえ 「最初から下がりきっていた気もするけれどね」


ほむら 「黙りなさい」


キュゥべえ 「まあ、上げていこうよ。何をとは言わないが」

キュゥべえ 「……しかし、貝木ストライドか」

キュゥべえ 「君の走法に名前をつけるとしたら、あれかな」

キュゥべえ 「暁美ステイプラー」


ほむら 「黙れと言っているのよ」


キュゥべえ 「…………」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「……暁美フォーミュラ1」


ほむら 「インキュベーター……!」




ほむら 「……あれはどういうことなの」


キュゥべえ 「何のことかな」


ほむら 「鈴木よ……!」


キュゥべえ 「ああ、あの不吉な男かい」

キュゥべえ 「今となっては、名前さえも本名だったかどうかあやしいね」


ほむら 「あんなのいなかったじゃない」

ほむら 「あなた、まだ何か隠しているのではないの?」


キュゥべえ 「あれは僕にとっても想定外のことだったんだよ、ほみゅら」

キュゥべえ 「おかげで、あの男を警戒するうちにワルプルギスの夜が来ちゃって」

キュゥべえ 「まさかの契約件数ゼロだよ」

キュゥべえ 「こんなのってないよ」




ほむら 「……あなた、いま私をなんと呼んだのかしら」


キュゥべえ 「失礼、かみま……」


ほむら 「不覚だったわ。どうして逃げてしまったのかしら」

ほむら 「戦っていれば勝つことくらいできたはずなのに……!」


キュゥべえ 「うん。二周目からはアレもただのエンディング発生装置だからね……」

キュゥべえ 「まあ、ちょうど良いんじゃないかな」

キュゥべえ 「舞台装置の魔女もエンディング発生装置の魔女も、そんなに変わらないさ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「だけど、前向きな要素もあったと思うんだ」

キュゥべえ 「今回のワルプルギスの夜戦」

キュゥべえ 「受けたダメージは実質ゼロに近い」


ほむら 「与えたダメージもゼロなのよ」




キュゥべえ 「ほむら、こんな言葉を知っているかい?」

キュゥべえ 「大魔王からは逃げられない」

キュゥべえ 「ある男が、この世の理を端的にあらわすときに用いた言葉だ」

キュゥべえ 「大ボスからは逃げられないという意味なんだけれど」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「しかし今回、あのままいけば、君たちは逃げおおせていただろう」

キュゥべえ 「すごいことじゃないか」

キュゥべえ 「やったね!」


ほむら 「…………」




キュゥべえ 「ほむら」

キュゥべえ 「これは本当にキツイよ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「ワルプルギスの夜撃破前なら、いつでも振り出しに戻れるけれど」

キュゥべえ 「しかしだからと言って、それは、その周回をクリアしたということにはならない」

キュゥべえ 「今回のようなことが次も起こるとするならば」

キュゥべえ 「延々とこの周回でハマり続けることになる」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「ここは、協力していかないと」


ほむら 「…………」




キュゥべえ 「君が重度のイカ好きを患っているとしてだ。君が僕のことを」

キュゥべえ 「イカリングに偽装したオニオンリングのように嫌っていることは知っている」

キュゥべえ 「だけど、今回はことがことだ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「僕もね、さすがに君と一緒にハマり続けるわけにはいかないんだよ」

キュゥべえ 「勘違いしないでくれ。君が嫌いとか、そういうことじゃない」

キュゥべえ 「端的に言うと、飽きたんだ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「正直、こんなにしんどいとは思わなかった」

キュゥべえ 「変化があったとはいえ」

キュゥべえ 「やっぱり、二周目……また同じことをこなしているという感覚がぬぐえないんだ」

キュゥべえ 「ほら、出てくる魔女が同じだったり、一周目とまったく同じ情景が繰り広げられたりしただろう」

キュゥべえ 「そんなときとき、ああ、本当に時間の無駄だなと思ったんだ。しかもスキップできないし」


ほむら 「…………ッ」


キュゥべえ 「もしも……もしもだよ」

キュゥべえ 「どの周回でも八割がた同じイベントが起こり、エンディングも似通っている一ヶ月間を」

キュゥべえ 「八周以上できる人間がいるとしたら、僕は主義を曲げてでも言ってやりたいね」

キュゥべえ 「僕は人間を愚かだとは言わないが、間違いなく君こそ、人類史上もっとも愚かな人間だってね」


ほむら 「…………」




ほむら 「……キュららぎ君」


キュゥべえ 「いきなり何だい」

キュゥべえ 「誰だい、それは」


ほむら 「……いえ、インキュベーター」


キュゥべえ 「あ、僕のことだね」


ほむら 「あなたって、腐ったコラーゲン玉みたいよね」


キュゥべえ 「…………」

キュゥべえ 「その発言を、僕はどう処理すれば良いんだい」




ほむら 「…………」


キュゥべえ 「頼むよ、ほむら。暁美ほむら」

キュゥべえ 「僕は本気で言っているんだ」

キュゥべえ 「こうしている間にも、この宇宙の寿命はまずいことになっているんだ」

キュゥべえ 「……たしかに宇宙の寿命なんて」

キュゥべえ 「種全体よりも個を尊ぶ傾向にあり、そしてその個としての寿命が短い君たち人間からすれば途方もない話だろう」

キュゥべえ 「じゃあ、地球規模で考えてみてくれ」

キュゥべえ 「今は生きていない過去の人間たちが、欲望のままに地球を痛めつけた結果」

キュゥべえ 「地球の寿命は確実に縮んでしまったんじゃないかい」

キュゥべえ 「それはつまり、君たち人間はもちろん、将来地球に生まれるであろう数え切れない生命を殺したということだ」

キュゥべえ 「君たちは、種という単位でもはや重罪人なんだよ」

キュゥべえ 「ちょっとはその自覚を持って、人を腐ったコラーゲン鍋の素よばわりするとか」

キュゥべえ 「勝手気ままな言動で僕の時間を奪うようなことを、しないでほしいものだね!」


バンッ


キュゥべえ 「ジュースおかわりしても良いかなッ! ペア・ストローでッッ!」


ほむら 「…………!!」

ほむら 「~~~~っ! ッッ!」

ほむら 「死ね……ッッ!」




ほむら 「……早乙女和子」


キュゥべえ 「うん?」


ほむら 「彼女を産休させない方法があると良いのだけど」


キュゥべえ 「……たしかに、今回あんなことになったのは」

キュゥべえ 「彼女の退場のせいだろうからね」

キュゥべえ 「そして独自のルートで調べた結果」

キュゥべえ 「九分九厘、彼女の妊娠は超高度な想像妊娠だ」


ほむら 「でも、本当に妊娠しているとしたら……」


キュゥべえ 「てきとうな少女に契約させて」

キュゥべえ 「早乙女和子を戻ってこさせるというのはどうだい」


ほむら 「却下ね」




キュゥべえ 「どうせ仲間にすればソウルジェムが穢れることはないんだし」

キュゥべえ「君にとって都合の悪いことは無いと思うんだけど」


ほむら 「黙りなさい。美樹さやかは何故か最初から魔法少女になっているから」

ほむら 「しかたないとして……」


キュゥべえ 「それでいて、魔法少女になるというイベントだけは発生するんだよね」


ほむら 「あなたの犠牲者をこれ以上増やすことはしない」


キュゥべえ 「……早乙女和子のことを放っておくのはどうかな」

キュゥべえ 「奇しくも、Bランク以上のエンディングの可能性が見えてきたわけだし」


ほむら 「Cで良いのよ」


キュゥべえ 「真ワルプルギスと戦ってみたくはないのかい?」


ほむら 「ないわ」




…………



キュゥべえ 「……よし」

キュゥべえ 「では、できる限り早乙女和子を担任として戻ってこさせる」

キュゥべえ 「それが無理なら、あの鈴木という男を秘密裏に病院送りにする」

キュゥべえ 「……ということで良いかな」


ほむら 「問題ないわ」


キュゥべえ 「本当に良いかな」


ほむら 「ええ」


キュゥべえ 「では、気を取り直して行ってみよう」


ほむら 「…………」



…………





…………



見滝原市 見晴らしの良いところ



ほむら 「…………」


キュゥべえ 『……いや、驚いたね』

キュゥべえ 『まさか、早乙女和子が産休どころか』

キュゥべえ 『失恋して普通に担任をやっているなんてね』


ほむら 『ええ』


キュゥべえ 『しかも、魔女化していた百江なぎさが魔法少女に戻って新たに仲間になるという』

キュゥべえ 『やっていてハラハラするイベントも起きた』


ほむら 『そうね』

ほむら 『だけど……』




なぎさ 「よく狙ってください」

なぎさ 「少しでもズレると、大変なことになるのです」


マミ 「ええ、任せておいて」


さやか 「気合いはいってるなあ、なぎさの奴」


杏子 「しかたないさ。何てったって、今日は……」


なぎさ 「タイミングもですよ」

なぎさ 「早すぎるとフライングになってしまうのです」


マミ 「ふふ……もう、そんなに心配しないで」

マミ 「何年ティロ・フィナーレしてきていると思っているの」


杏子 「大事な」

杏子 「チーズ転がし祭りの日だもんな」




ほむら 「…………」


マミ 「さあ、みんな! 準備はいい?」


さやか 「こっちはいつでもオッケーっすよ、マミさん!」

さやか 「イングランドみやげ、楽しみにしていてください!」


杏子 「油断すんなよ、マミ」

杏子 「人間を砲弾にしてぶっ放すのなんて、初めてなんだろ」


マミ 「大丈夫、何度もキュゥべえで試してきたから」

マミ 「ありがとう、キュゥべえ。無理をきいてくれて」


キュゥべえ 「なに、おやすい御用さ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「…………」

キュゥべえ 『……基本』

キュゥべえ 『優秀で手間のかからないマミだ。会話だって、てきとうにハイハイ受け流しておけば良いんだけど』

キュゥべえ 『今回は、そこを逆手にとられるかたちとなったね』


ほむら 『知らないわ』





なぎさ 「それでは、カウントダウン……いくのです!」



カチ ジー ジジー……

……5



キュゥべえ 『……まさか何気ない会話のなかに、さらりとまぜてくるとは』

キュゥべえ 『何週間か前、ちょうどマミの様子を見に行ったときのことさ』

キュゥべえ 『ちょっとシャンプーとってくれるかしら……の、あとに』

キュゥべえ 『ちょっと実験につきあってくれるかしら……だからね』


ほむら 『どうでも良いわ』


……4


さやか 「……でも」

さやか 「ホント、悪いね、ほむら」


ほむら 「…………」


杏子 「ああ。ワルプルギスの夜との戦い……こんなかたちで参加できなくなっちまうとはな」


ほむら 「……良いのよ」

ほむら 「チーズ転がし祭りだもの」




……3


マミ 「ワルプルギスの夜は、暁美さんと私で何とかするわ」


ほむら 「ええ」

ほむら 「あなたたちは、私たちの分まで戦ってらっしゃい」


さやか 「マミさん、ほむら……!」


杏子 「必ず、三人でチーズをもぎ取ってきてやるからな!」


……2


ほむら 「絶対に、途中でソウルジェムを落とさないようにね」

ほむら 「とくに美樹さやか。……心配だわ」


さやか 「こらこら、本当に心配そうにするな」

さやか 「それを言うなら、相手はなぎさでしょうが。私は子どもかっての」


杏子 「まあ、ほむらの気持ちも分かるけどな」


さやか 「あんたにだけは、言われたくないわよ!」


杏子 「へへへ。やーい、怒ったあ! さやかが怒ったあ!」


さやか 「もう、杏子!」


なぎさ 「二人とも、子どもなのです……」


ほむら 「ふふ……」


マミ 「さあ、そろそろ口を閉じないと、舌がなくなっちゃうわよ」




……1


マミ 「いくわよ」


まどか (みんな、頑張って……)

まどか (私は何の力にもなれないけれど……いっぱい、応援してる……)


マミ 「ティロ……」


……0


マミ 「フィナー……」


ほむら 「…………」


カチャリ




キュゥべえ 「時間停止か」

キュゥべえ 「初めて知ったときは驚いたよ」

キュゥべえ 「君の能力はいろいろと謎だったから……」


ほむら 「…………」


トコ トコ トコ


なぎさ 「…………」


ほむら 「…………」


ダキ


なぎさ 「ひゃあ!?」

なぎさ 「って、あれ、ほむら」

なぎさ 「なぎさを抱えてどうしようと言うのです」


ほむら 「…………」


なぎさ 「なぎさを地面にそっとおろして、どうしようと……」


ピタ


なぎさ 「…………」


ほむら 「…………」


ムズ


キュゥべえ 「……僕をぞんざいに掴み上げて、どうしようというんだい」


ほむら 「…………」


ヒュン ビシ


キュゥべえ 「僕をなぎさの入っていた大砲に投げ込んで、どうしようと……」


ピタ


キュゥべえ 「…………」


ほむら 「…………」


カチャリ




マミ 「……ーレ!」


ドム ドム ドム

ヒュルルルルル


さやか 「ひゃっほおー!」


杏子 「いっけえぇえええ!」


キュゥべえ 「うわあああーー……」


なぎさ 「ああ、待つのです!」


ほむら 「…………」

ほむら 「さようならインキュベーター」

ほむら 「ループ」



…………



…………


カラン カラン



キュゥべえ 「ひどいじゃないか、暁美ほむら。何の準備もなく空に放り出されたもんだから」

キュゥべえ 「目がかわいて真っ赤だよ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「いや、しかしこれは本当にキツイよ」

キュゥべえ 「安来節の時点で分かってはいたけれど」

キュゥべえ 「誰が得をするのさ、こんなの」

キュゥべえ 「事前の準備もまったく役に立たないし……」

キュゥべえ 「マミのバスタオル姿がなかったら」

キュゥべえ 「見るべきところなんて何ひとつ無いよ!」


ほむら 「早乙女和子が必ずしも産休しているわけではない」

ほむら 「これが分かっただけでも収穫としましょう」

ほむら 「行くわよ」


キュゥべえ 「今後、早乙女和子の産休はまずないと断言できそうだけどね」

キュゥべえ 「真ワルプルギスの夜との戦いも、夢のまた夢となってしまったわけだ」

キュゥべえ 「この際、ワルプルギスの夜は早乙女和子だった」

キュゥべえ 「……とか何とかこじつけて終わり。それで良いんじゃないかな」


ほむら 「ぜったいに」

ほむら 「ワルプルギスの夜をひっくり返すようなことはしないわ……」


コツ コツ コツ

ガチャ


…………




…………


対ワルプルギスの夜戦場



キャハハハハ


マミ 「使い魔は私たち後衛にまかせて」

マミ 「前衛は魔女本体を叩いて!」


ドオン ドゴオン


ほむら 「…………」


キュゥべえ 『今回は良い感じなんじゃないかい、ほむら』

キュゥべえ 『早乙女和子は無事失恋していたし』

キュゥべえ 『百江なぎさを仲間にしたまま、チーズ転がし祭りを回避』

キュゥべえ 『今までにない充実した戦力でワルプルギスの夜戦に臨めた』


ほむら 『……そうね』

ほむら 『でも……』


キタキタおやじ 「ほぁあああ~~~!」

キタキタおやじ 「キタキタキタキタキタキタ……!」


ほむら 『あからさまにおかしい人がいるわ』





キュゥべえ 『キタキタおやじ……アドバーグ・エルドル』

キュゥべえ 『踊るように戦う彼が繰り出す攻撃は』

キュゥべえ 『何らかの補正によって』

キュゥべえ 『素手だというのに、あのマミのティロ・フィナーレに相当する』

キュゥべえ 『ただの愉快な腰ミノおやじというわけでは無いらしい』


ほむら 「…………」


ククリ 「ブレイクビー召喚!」


ボワン


※ブレイクビー召喚
地の王オッポレを崇拝する砂漠の民、
「エルエル族」に伝わる太鼓のオモチャから、
ククリがつくり出したグルグル。
太鼓を叩く大きな音は魔物を転ばせるが、
人間には心地よく聞こえる。 


ドオン ドドオン


杏子 「使い魔たちの動きが止まった!」


さやか 「よっしゃ、これなら一気に本体まで行けるね!」


ほむら 「…………」

ほむら (予想外の人たちが紛れ込んでいるけれど)

ほむら (たしかに、うまくいっている……)





杏子 「うおおおおお!」


さやか 「でやああああ!」


キタキタおやじ 「キタキタァ~~ッ!」


ズガガガガ ドガガガガ


かいしん の いちげき!
かいしん の いちげき!
つうこん の いちげき!
かいしん のいちげき!
…………


ワルプルギスの夜 「キャハハハハハ」


フラ フラ


杏子 「よっしゃ!」


さやか 「笑い声的には分からないけど」

さやか 「絵的にはボロボロだ!」




ククリ 「……今よ、勇者さま!」


ニケ 「うお~~!」


キュゥべえ 『えらい高いところから降ってくるね、彼は』

キュゥべえ 『開戦と同時に、あのジミナ村のククリが描いた何かの魔方陣の上に立ち』

キュゥべえ 『空にのぼりだして以降、姿を見なかったけれど』


ほむら 『ずっと上昇しつづけていたのね……』


※ヨンヨン召喚
グルグルレベル3の魔法。
空を飛ぶ幻獣「ヨンヨン」を召喚する。
ヨンヨンを召喚したあとの魔法陣の上に立つと、
真上に浮かぶことができる。


ニケ 「うお~~!」


さやか 「勇者!」


杏子 「いっちまえ、勇者!」


キタキタおやじ 「勇者どの、ソンマレ~~!」


ニケ 「おいしいところは……」

ニケ 「俺にまかせろぉおーーッッ!!」




ほむら (彼ら……とくにあの踊りの人が見滝原中学に現れたとき)

ほむら (今回も駄目だと思ったけれど)

ほむら (ついにここまで来てしまった)

ほむら 『キュゥべえ……いえ、インキュベーター』

ほむら 『Cランクの条件は満たせているのかしら』


キュゥべえ 『ああ。満たせてるよ』

キュゥべえ 『彼がワルプルギスの夜にトドメをさせば』

キュゥべえ 『Cランクエンディングに突入さ』


ほむら 『そう……』


ククリ 「……いっけえ、勇者さま~~!」


杏子・さやか 「つっこめーー!!」


ニケ 「ぬおおおお~~!」


ワルプルギスの夜 「キャハハハハハハ」

ワルプルギスの夜 「アハハ……アーッハハハハハハ」


ニケ 「ワルプルギスの夜!」

ニケ 「お前……」

ニケ 「逆さまなんじゃ~~い!!」


ボガ


※勇者の拳
ジタリの遺跡に封印されていた、勇者のアイテム。
対象に的確なツッコミを入れることで効力を発揮する。
使用時は巨大な拳となるが、それ以外では
腕輪のかたちをとる。




ワルプルギスの夜 「……………」


ゴゴゴゴゴゴ

グルン


真ワルプルギスの夜(仮称) 「…………」



ワルプルギスの夜は ひっくり返った!



ほむら 「……な」


キュゥべえ 『まずいよ、ほむら!』

キュゥべえ 『条件を満たしていないのに、真ワルプルギスの夜とエンカウントだ』

キュゥべえ 『ジミナ村のニケ。勇者という称号は伊達じゃなかった!』

キュゥべえ 『彼は因果律を……』


ほむら 「ループ……!!」



…………



…………



ほむら宅?



キュゥべえ 「……早乙女和子が婚約したらワルプルギスの夜はひっくり返るけれど」

キュゥべえ 「ワルプルギスの夜がひっくり返ったからといって、早乙女和子が婚約できるわけじゃない」

キュゥべえ 「そんなことがかなうとすれば、それは因果律そのものに対する反逆と言っても過言じゃない」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「あの少年には驚かされたね」

キュゥべえ 「きっと、僕たちの知りえない世界のバグでも見つけて突いたんだろう」

キュゥべえ 「そういうことが得意なのかもしれないね」

キュゥべえ 「勇者というより盗賊みたいだ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「……これは一時的なものだと思うんだよ、ほむら」

キュゥべえ 「ほら、君たち人間の玩具にヨーヨーというものがあるだろう」

キュゥべえ 「あれの糸よれを直している感じさ」


ほむら 「…………」

ほむら 「それでは……」




テレビのようなもの 『新たにクーカイ・ファウンデーションの代表理事となった』

テレビのようなもの 『国民的食うかいの佐倉杏子さんが……』


カシュ シュウィン


マミ 「みんな、大変よ!」


なぎさ 「グノーシスの大群が街で大暴れしているのです!」


M.O.M.O 「たいへん、すぐ向かいましょう!」

M.O.M.O. 「スターウィンド、ドレスアーップ!」


KOS-MOS 「ヒルベルトエフェクト発動。グノーシス、固着します」


まどか 「みんな、頑張って……!」


さやか 「ほむらはまどかをお願い。じゃあ、行ってくる!」


ドタバタ ダダダ


ほむら 「この事態は一時的なものなのね」


キュゥべえ 「そのはずさ。もう一度やり直せば元通りになるだろう」

キュゥべえ 「……まさか、見滝原どころか惑星ごと消滅した超未来だなんてね」

キュゥべえ 「わけがわから……」


ほむら 「ループ」


>>150 訂正ごめんなさい



テレビのようなもの 『新たにクーカイ・ファウンデーションの代表理事となった』

テレビのようなもの 『国民的食うかいのキョウコ・サクラさんが……』


カシュ シュウィン


マミ 「みんな、大変よ!」


なぎさ 「グノーシスの大群が街で大暴れしているのです!」


M.O.M.O 「たいへん、すぐ向かいましょう!」

M.O.M.O. 「スターウィンド、ドレスアーップ!」


KOS-MOS 「ヒルベルトエフェクト発動。グノーシス、固着します」


まどか 「みんな、頑張って……!」


さやか 「ほむらはまどかをお願い。じゃあ、行ってくる!」


ドタバタ ダダダ


ほむら 「この事態は一時的なものなのね」


キュゥべえ 「そのはずさ。もう一度やり直せば元通りになるだろう」

キュゥべえ 「……まさか、見滝原どころか惑星ごと消滅した超未来だなんてね」

キュゥべえ 「わけがわから……」


ほむら 「ループ」



…………



ほむら宅



ほむら 「…………」


パチ プチ パチン


キュゥべえ 「……何をしているんだい、ほむら」


ほむら 「見て分かるでしょう」


パチン


ほむら 「ガンダムを……ビルドしているのよ」




キュゥべえ 「分かるけれど」

キュゥべえ 「どうしてそんなことをしているんだい」

キュゥべえ 「魔法少女の仕事もせずに」


ほむら 「ガンプラバトルひとつできない者に」

ほむら 「発言権は無いの」


キュゥべえ 「ああ、今回はそういう感じなんだね」


ほむら 「…………」


ガチャ カチャ




ほむら 「……魔法少女と魔女の戦いもガンプラバトルで行われると耳にしたときは」

ほむら 「眩暈がしたわ」


キュゥべえ 「そうかい」

キュゥべえ 「……ワルプルギスの夜が来るまで一ヶ月しかないんだけど」


ほむら 「三ヶ月で日本一になった人もいるらしいから」

ほむら 「そう難しくは無いのよ。たぶん」


キュゥべえ 「……つかぬことを尋ねるけれど、暁美ほむら。自信はあるのかい」

キュゥべえ 「そして君は、ガンプラバトルというものをどのくらい理解できているんだい」


ほむら 「……ええ」

ほむら 「ガンダムをビルドして……」

ほむら 「ファイトすれば良いのでしょう」


キュゥべえ 「そうだね」




ほむら 「……しまった」


キュゥべえ 「どうしたんだい」


ほむら 「頭のパーツが見当たらない。どこかへ行ってしまったわ」

ほむら 「キュゥべえ……いえ、インキュベーターが余計な口出しするから」


キュゥべえ 「それは理不尽というものだ」

キュゥべえ 「……本当に大丈夫なのかい、ほむら」


ほむら 「うるさい」

ほむら 「……しかたないわね」

ほむら 「インキュベーター」


キュゥべえ 「何だい」


ほむら 「頭……力を貸しなさい」


ズカ ズカ


キュゥべえ 「ちょっと……待ってくれ暁美ほ……」

キュゥべえ 「うわっ……」




グイ ギュ ギュ

ムギュ ムギュ


ほむら 「……これで良し。完成ね」

ほむら 「頭も、何とか殺さずにはめこめたわ」


キュゥべえ 「……うーん、身動きがとれない」


ほむら 「はじめは戸惑いしか無かったけれど」

ほむら 「自分でつくりあげたと思うと、感慨深いものがあるわね」

ほむら 「キュゥべえレイ……とでも、名づけましょうか」


キュゥべえ 「…………」

キュゥべえレイ 「…………」




翌日 昼休み

見滝原中学校 屋上



さやか 「これがさやかちゃんの新たな相棒」

さやか 「オクタヴィア改め……オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフだ!」


杏子 「へえ、こいつは……」


まどか 「あれあら一晩しか経ってないのに」

まどか 「さやかちゃん、すごいね!」


さやか 「へへーん、まあね」

さやか 「よおし、今日こそ負けないわよ、杏子!」


杏子 「へっ……受けてたってやるよ、さやか」

杏子 「だが覚悟しとけよ」

杏子 「アタシのオフィーリアは、駆け出し相手だろうが容赦しねえ!」


さやか 「はんっ。いつまでも人を素人扱いしてたら、痛い目みるんだから!」


杏子 「はんっ、明日も同じ台詞を言わせてやるよ!」


さやか 「なにをー!」


まどか 「あ、あの、二人とも、そのくらいに……」


ほむら 「…………」




マミ 「二人とも、気が早いわよ。その熱意は放課後までとっておきなさい」


さやか 「えへへ……ごめんなさい、マミさん」


杏子 「なあ、マミ。さやかをぶっ倒したら相手してくれよ」

杏子 「この辺じゃ、ロッソ・ファンタズマシステムを使ったアタシと本気でやりあえるのは、マミくらいのもんだからな」


さやか 「くぅ~、いちいちムカつく言いかた!」


まどか 「さやかちゃん……」


マミ 「ふふ……ええ、狙い撃ってあげるわ」

マミ 「でも、いくら美樹さんのファイターとしての経験が浅いからといって」

マミ 「ナメてかかっていたら大火傷しちゃうわよ?」

マミ 「私だってこの前……」


ほむら 「…………」


マミ 「……暁美さん」


ほむら 「何かしら、巴マミ」


マミ 「良かったら、あなたがつくってきたっていうガンプラ……見せてくれるかしら」


ほむら 「…………」


さやか 「そうだよ。あんた、朝からぜんぜん見せてくんないじゃん」


杏子 「戦場に出るまでなるべく手の内を見せびらかすようなことはしない、てことだろ」


さやか 「ちょっと見せてくれるくらい良いじゃん」


まどか 「私も、ほむらちゃんがどんなのつくってきたか、見たいかも……」


ほむら 「…………」

ほむら 「待っていて。持ってくるから」




…………


ほむら 「待たせたわね、みんな」

ほむら 「これが私の機体……」

ほむら 「キュゥべえレイよ」


キュゥべえレイ 「…………」


杏子・さやか 「…………」


まどか・マミ 「…………」


キュゥべえレイ 「やあ」


杏子 「…………」

杏子 「……嘘だろ、おい」


さやか 「ほむら。あんた……」


ほむら 「何かしら」


さやか 「それ……」

さやか 「メダロット」


ほむら 「…………!」




ほむら 「…………」


キュゥべえレイ 「だから言ったんだよ」

キュゥべえレイ 「だいたい、ほむら。君は……」


ほむら 「ループ」



…………


…………


対ワルプルギスの夜戦場



ドオン ドゴオン

アハハハハハ アハハ


ワルプルギスの夜 「アーッハハハハ……」


ほむら 「怯んだ……!」


なぎさ 「今なのです!」


アオベエ 「了解でゴンス!」


アカネ 「アタイたちの力、見せてやるよ!」


キスケ 「キーくん頑張るッピ!」


アオベエ 「せーの……!」


青・黄・赤 「がった……」


ほむら 「ループ……!」



…………



魔女の結界深部



ネプテューヌ 「上から来るよ~!」

ネプテューヌ 「なーんて、上から来るわけ……」


シャルロッテ 「モジョモベェエ~」


マミ 「…………!」


ほむら 「ループ……!」





…………



ワルプルギスの夜 「アハハハハハ」


歴史の道標 「…………」


ヴィルヘルム 「宇宙の死を回避する良い方法があるよ」

ヴィルヘルム 「この秩序の羅針盤で……」


キュゥべえ 「ふむふむ……」


ほむら 「……ループ」

ほむら 「ループ! ループ! ループ!」


ワルプルギスの夜 「アハハハハハハ!」


ほむら 「うるさい!」



…………

…………




…………


ほむら宅



コポコポコポ

コク コク コク

カチャ


ほむら 「……ふぅ」

ほむら (一時はどうなるかと思ったけれど)

ほむら (数え切れないほどやり直して、何とか混乱もおさまってきたわね)


キュゥべえ 「蛇使いというものを知っているかい」

キュゥべえ 「笛を吹きながら蛇を操ってみせる、どこぞの漂白民の生業であるあの蛇使いさ」


ほむら (さすがに疲れたわ)

ほむら (今回は何もせずにゆっくりして、英気を養いましょうか……)


キュゥべえ 「実は、あれは笛の音で操っているわけじゃないらしいんだ」

キュゥべえ 「笛を揺らしたり、蛇の入ったカゴを叩いたり……」

キュゥべえ 「たくみに蛇の敵意を煽って、威嚇行動をとらせているんだよ」

キュゥべえ 「それが、はたから見れば、あたかも笛の音で平和的に操っているように見えるだけなんだ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「まるで、ほむら。僕らの関係みたいじゃないか」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「君はどこか、蛇とかトカゲっぽいしね」


>>165訂正 重ね重ねごめんなさい

漂白⇒漂泊



ほむら 「……キュゥべえ……いえ、インキュベーター」


キュゥべえ 「何だい」


ほむら 「あなたが口八丁手八丁で契約をせまらなくても」

ほむら 「あなたがお腹を見せて可愛らしいしぐさをすれば」

ほむら 「年頃の少女たちはあなたにメロメロになるわ」

ほむら 「無条件で魔法少女になっても良いと思うくらい」


キュゥべえ 「なんだって」


ほむら 「可愛らしい鳴き声もくわえたら」

ほむら 「もはや完璧」


キュゥべえ 「…………」

キュゥべえ 「……ふうん」





ほむら 「……さて」


スク


キュゥべえ 「どこか行くのかい」


ほむら 「お手洗いよ。ついて来ないで」


カツ カツ

バタン ガチャ


キュゥべえ 「…………」





…………


街角



キュゥべえ 「きゅっぷい、きゅっぷい!」


少女A 「きゃー、可愛い!」


少女B 「流し目が素敵すぎるわあ!」


通行人 「……? 何もないところで何をしているんだろう、あの子たちは」


キュゥべえ 「キュプキュプキュプ!」


少女C 「きゃー、可愛い!」


少女D 「セクシーな腰つきが素敵すぎるわあ!」


キュゥべえ (本当に良い感じだぞ)

キュゥべえ (これなら契約の成功率も上がりそうだ)




キュゥべえ (もう一押し、きゅっぷいを入れておこうかな)

キュゥべえ 「きゅ……」


??ら 『ケーキ、ケーキ、まぁるいケーキ』

ほ?? 『まぁるいケーキはマーミーの……』


キュゥべえ 「おっぱい!!」


少女たち 「!?」


キュゥべえ 「……!? しまった、つい……!」


少女A 「……へ、変態」


少女B 「変態だわ……」


キュゥべえ 「違うんだ、今のは……!」


少女C 「いやあーっ! 淫獣、淫獣よおーっ!!」


少女D 「逃げましょう!」

少女D 「ついでに、知り合い二百人程度にこの淫獣のことを言いふらしてやるわあ!」


キュゥべえ 「ああっ、待ってくれ!」


キャアア ダダダダ


?む? 「…………」

ほむら 「……フッ」

ほむら 「ループ」




…………


対ワルプルギス戦場



ドオン ドゴオン


ほむら 「…………」

ほむら (今回はチーズ転がし祭りを回避できなかった)

ほむら (それでも万が一にかけてみたけれど……)


加奈子 「……渦巻け!」

加奈子 「サマーハリケーン!」


ゴオオオ

キャハハハハ


マミ 「そんな……」

マミ 「山崎さんのテンペスタ・エスターテが……!」


英雄 「おいおい、これでも駄目だってのかよ!」


はじめ 「まずいッスよ、あらしさん!」


小夜子 「くっ……こうなったら……」

小夜子 「カヤ!」


カヤ 「準備はよろしくてよ、あらし!」




カヤ 「いきます……!」


じゅん 「ま、まさかカヤさん、アレをやるつもりじゃ」


はじめ 「いけねえ、そんなことをしたら!」


小夜子 「いっけえ、カヤぁ!」

小夜子 「やったれえ!」


カヤ 「…………ッ」

カヤ 「あけみほ村の!」

カヤ 「暁美ほむらが!!」

カヤ 「明けに、ホームランッ!!!」


ほむら 「…………!?」


マミ 「…………!?」


一同 「…………!」


ゴオオオ……


カヤ 「……ああ」

カヤ 「特盛り、三段重ね……」


……ヒュウウウ


キュゥべえ 「おや、何だろう。寒くはないのにすごく冷えてきた」


ほむら 「…………」


ワルプルギスの夜 「アハハ、ハハ……」

ワルプルギスの夜 「…………」

ワルプルギスの夜 「………ハア」


キュゥべえ 「!」

キュゥべえ 「まずいぞ、ほむら。ワルプルギスの夜が笑うのをやめた!」

キュゥべえ 「愛想笑いならまだ希望はあったけれど……」

キュゥべえ 「あれに比べたら、真ワルプルギスの夜なんて可愛いものさ」

キュゥべえ 「理不尽な強さゆえに没にされた、素に戻りしワルプルギスの夜……」

キュゥべえ 「仕様上ありえないはずの、裏ワルプルギスの夜とのエンカウントだ!」


ほむら 「ぷふっ……クヒッ……」

ほむら 「る、ループ……!」




…………


ほむら宅



ほむら 「…………」

ほむら (にごらないソウルジェムや……)

ほむら (毎夜のパジャマパーティーにつられて始めた時間遡行の旅)

ほむら (なかなか、うまくいかないものね)


ドタバタ トトトト


キュゥべえ 「ほむら、ほむら!」


ほむら 「騒がしいわよ、キュゥべえ……いえ」

ほむら 「インキュベーター……!」


キュゥべえ 「グリーフシードのつかみ取りバーゲンの帰りに」

キュゥべえ 「すごいものを貰ったんだ」

キュゥべえ 「これさえあれば、宇宙の寿命を劇的にのばせるかもしれない!」


先に何かついた曲がった棒


ほむら 「これは……!」

ほむら 「……何かしら」


キュゥべえ 「まあまあ棒だ」




キュゥべえ 「行きずりの馬鹿でかいタヌキに貰ったんだよ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「ときに、ほむら」

キュゥべえ 「ジャイアンという生き物を知っているかい?」


ほむら 「……聞いたことはあるわ」


キュゥべえ 「このまあまあ棒はね、棒の先のバッテンを相手の口に当てて」

キュゥべえ 「まあまあ、と言えば」

キュゥべえ 「相手の、怒りの感情エネルギー出力をゼロにすることができるものだ」


ほむら 「それがジャイアンと何の関係があるの」


キュゥべえ 「この道具を使うときに注意すべき点はね」

キュゥべえ 「怒りを対象の内側に押し戻しているだけで、怒りそのものを消し去っているわけではないということなんだ」

キュゥべえ 「同じ人物を何度も怒らせてこの道具を使っていたら、いつかは許容量オーバーになる」

キュゥべえ 「そして、蓄積された怒りのエネルギーが一気に放出されてしまう」




ほむら 「だから、それがジャイアンと何の関係があるのかと」

ほむら 「尋ねているのよ……」


キュゥべえ 「ほむらって靴下くさそうだよね」


ほむら 「インキュベーター……!」


キュゥべえ 「まあまあ」


ピト


ほむら 「わプッ……」

ほむら 「…………」

ほむら 「まあいいわ。続けなさい」


キュゥべえ 「入浴中のマミで試してみたけれど」

キュゥべえ 「ふむ、どうやら本当に効くようだ」

キュゥべえ 「……ジャイアンという生き物は、怒りの沸点が低い」

キュゥべえ 「このまあまあ棒を使えば、僅かな労力であっという間に怒りエネルギーを満タンにできる」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「……ジャイアンの場合、エネルギー効率がものすごいんだ」

キュゥべえ 「常人が10の怒りを7くらいで放出するとしたら」

キュゥべえ 「ジャイアンは10の怒りを10万くらいで放出する」

キュゥべえ 「これを平和のために利用しない手はないよ」


ほむら 「…………」




ほむら 「……あなたが採取するのは、幸福から絶望に転じた際の感情エネルギーでしょう」

ほむら 「それも、私たちくらいの年頃の」

ほむら 「少女の」


キュゥべえ 「何とかいけると思うんだよ」

キュゥべえ 「それに、これを見てくれ」


スッ


ほむら 「レコード……?」

ほむら 「……!!!」


乙女の愛の夢


ほむら 「乙女の……愛、の……」

ほむら 「夢……ッッ!?」


キュゥべえ 「例のタヌキが鬼気迫る様子で、道具の特典として渡してきたものだけどね」

キュゥべえ 「作詞はジャイアンさ」


ほむら 「プフッ……こ、こここコレが……」

ほむら 「何だと、いう、フッ……の……ッ!?」


キュゥべえ 「笑いを隠せてないよ、ほむら。全身プルプルじゃないか」

キュゥべえ 「……こんなもの書くんだ。乙女で良いだろう」


ほむら 「……ッ…お、おのれ……インキュベーター……!」

ほむら 「こんな不意打ち……ンフフゥ……ッ!」


キュゥべえ 「さっそく、手ごろなジャイアンで試してくるよ」

キュゥべえ 「ほむら……君はここで無力に笑い転げていると良い」


トタトタトタトタ




…………


ガチャ 

トタトタトタ


キュゥべえ 「…………」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「……まさか」

キュゥべえ 「劇場版とはね……」


ほむら 「…………」

ほむら 「ループ」






…………


見滝原市 路上



バキ ドカ グシャ

ドゴドゴドゴ


キュゥべえ 「のぷぁっ……きゅぶぅ!?」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「ほむら……」

キュゥべえ 「見ていないで助け……」


ドゴォ


キュゥべえ 「へぶっ」


ほむら 「…………」


留渦 「…………」


耳雄 「おらおらおら!」


バキ ドカ


キュゥべえ 「ぎゃあっ」




留渦 「お兄ちゃん、そのくらいで……」


耳雄 「留渦ちゃんは先に帰っていなさい」

耳雄 「お兄ちゃんは、可愛い妹を魔法少女なんていう訳の分からないものに勧誘した」

耳雄 「この××××野郎とまだまだ話すことがあるから」


ほむら (この人、当たり前のようにインキュベーターが見えているのね)


キュゥべえ 「ほ、ほむら、このままじゃまずい……ループを……」


ほむら 「…………」


留渦 「語るって、お兄ちゃんはいつも妖怪とか幽霊相手だと拳じゃない」


耳雄 「……今まで数多の幽霊や妖怪どもを殴り倒してきたが」

耳雄 「今日こそ出そうなんだよ」

耳雄 「ハイスコアが」


留渦 「ハイスコアって何。出してどうするの」

留渦 「もう暴力はやめて、お兄ちゃん」

留渦 「じゃないと、家から閉め出すよ」


耳雄 「ぐ……そう言われちゃうと引き下がるしかないぜ」


留渦 「さあ、早く帰ろう」


耳雄 「ちぇー、ハイスコアがー……」


ほむら 「ループ」




…………


カラン カラン



ループ待合



ほむら 「…………」


キュゥべえ 「…………」


ほむら 「ねえ」


キュゥべえ 「何だい」


ミチオ 「…………」


ほむら 「当たり前のように居る、この気ぐるみみたいな物体は」

ほむら 「いったい何なの」


キュゥべえ 「僕に尋ねられてもこまるよ」

キュゥべえ 「さっきの……」

キュゥべえ 「僕がタコ殴りにされた直後のループのときについてきたようだ」


ほむら 「そんなことがあるの」


キュゥべえ 「本当は、あるはず無いんだけどね……」

キュゥべえ 「いろいろと想定外の出来事が起きるから」


ほむら 「そう……」


ミチオ 「…………」




キュゥべえ 「しかし参ったね」

キュゥべえ 「まったく光が見えてこない」

キュゥべえ 「このままじゃ、永遠にこのループから脱出できないぞ」


ほむら 「もとはと言えばあなたが……」


ミチオ 「できないことは、ありませんぜ」


ほむら・キュゥべえ 「!」


ミチオ 「姉ちゃんたち、ループで困ってるんだろ?」

ミチオ 「ボクが脱け出す方法を教えてあげるよ」



でろでろ妖怪名鑑

■プペペのミチオ
ループ現象を指摘し、
人に成長を促す妖怪。



ミチオ 「さあ、未来への道をひらこうじゃないか」




…………


ヨイ ヨヨイ


ミチオ 「もっとキレよく、そして変な顔をするんだ!」

ミチオ 「じゃないと、プペペ踊りにはならないぞ」


ヨイ ヨヨイ


ほむら 「……本当に、こんな踊りで脱け出せるの……!?」


キュゥべえ 「さあね。藁にもすがる思いだからね」

キュゥべえ 「良い方へ向かうことを期待するしかない」


ほむら 「……! ……!」


キュゥべえ 「ほむら。君の変な顔、すごく変だね」

キュゥべえ 「合わせてそのキレの悪い変な踊りは何だい、もしかして安来節のつもりかい」

キュゥべえ 「勘弁してくれ、暁美ほむら」

キュゥべえ 「このままじゃ、さすがの僕も感情が芽生えそうさ」


ほむら 「うる、さい……!」




ほむら 「ゼエ、ハア、ゼエ、ハア……」


キュゥべえ 「……キュ……ップイ」


ミチオ 「よーし」

ミチオ 「最後にボクの鼻を押すんだ」

ミチオ 「ループから脱出し、未来への道を歩むことができるよ」


ほむら 「……踊る意味はあったの?」


キュゥべえ 「良いから押すんだ、ほむら」


ほむら 「釈然としないわ……」

ほむら 「けれど、このふざけた状況を打開するには」

ほむら 「このくらいがちょうど良いのかしら……」


ミチオ 「……ループが終わっても、ループしていた間の人生が嘘になるわけじゃない」

ミチオ 「その経験を、これからの未来に役立てると良い」


ほむら 「…………」

ほむら 「ええ」



……ポチッ

…………




…………



病室



ほむら 「…………」


キュゥべえ 「……やあ、ほむら」

キュゥべえ 「綺麗な夕日だ」

キュゥべえ 「君たち人間は、美しい風景に涙することもあるのだろ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「……まったく、理不尽な生き物さ」


ほむら 「…………」




キュゥべえ 「こんな仮説はどうだろう」

キュゥべえ 「かつて僕たちは、心持つ魔法少女だった」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「正と負の感情の板挟みに苦しみながら、それでも」

キュゥべえ 「存在するすべてのものを守りたいと祈り」

キュゥべえ 「しかし心破れた、魔法少女のなれの果て」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「忘れてしまった夢の残り香にうなされながら」

キュゥべえ 「存在するすべてのものを存在させ続けるためのシステム」

キュゥべえ 「それが僕たち、インキュベーター」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「……と、いうようなことを話したら」

キュゥべえ 「マミはどんな顔をしたのかな」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「……まさか」

キュゥべえ 「数え切れないループの先が」

キュゥべえ 「魔法少女の存在しない世界とはね……」




キュゥべえ 「それでも魔女狩りは行われていたというのだから」

キュゥべえ 「本当に、人間は理不尽な生き物さ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「……僕たちが繰り返した一ヶ月よりずいぶん昔に」

キュゥべえ 「巴マミは事故で死んでいた」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「教会があったよ」

キュゥべえ 「荒れ果てて、誰も住んでいないようだった」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「さやかと……君の大切なまどかは、おおむね幸せそうだ」

キュゥべえ 「さやかの方はあやしいのかな」

キュゥべえ 「そして、君は……」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「……この、棚の眼鏡」

キュゥべえ 「君は目が悪かったんだね、暁美ほむら」




キュゥべえ 「もともと君はここで、顔にそんな布を乗せているはずじゃなかったろうに」

キュゥべえ 「運が悪いと言うほか無いよ」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「人のことは言えないのかな」

キュゥべえ 「……この世界には、僕のほかに僕はいないようだ」

キュゥべえ 「僕もやがては消えてしまうのかもしれない」

キュゥべえ 「だからと言って僕には、流す涙は無いのだけれど」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「やあ、ほむら」

キュゥべえ 「困ったことに、綺麗な夕日だ」

キュゥべえ 「……綺麗な、夕日だ」





ほむら 「…………」


ピク


キュゥべえ 「……まあ」

キュゥべえ 「魔法少女はいなくても」


ほむら 「…………」


ムクリ


ほむら 「…………お」

ゾンビほむら 「お゛ぉ゛おお゛お゛お゛ーー……」


キュゥべえ 「T-ウィルスは、あったみたいだけれどね」


ガシャン バリン

ダラララララ パラタタ

ウゥウウウウー

ピー ポー ピー ポー




…………



教会



カラン コロン

カラン コロン



ほむら 「…………」


キュゥべえ 「…………」


ほむら 「…………」


キュゥべえ 「……何度も」

キュゥべえ 「気が遠くなるほど、僕たちは繰り返してきた」


ほむら 「……ええ」


キュゥべえ 「そして、失敗してきた」


ほむら 「……そうね」





キュゥべえ 「もう駄目だと思うことが、何度もあった」


ほむら 「ええ」

ほむら 「再び鈴木が現れたときは、いよいよ終わったと思ったわ」

ほむら 「一ヶ月の内容も、まったく同じと言っても過言ではなかったし」


キュゥべえ 「果たして、それ以降ループは使わなかった」


ほむら 「……ええ」

ほむら 「そうだったわね」


キュゥべえ 「……うつ病を克服する方法を知っているかい、ほむら」

キュゥべえ 「逃げることさ」

キュゥべえ 「大きな問題からそういった行動をとることを、人は良しとしないことが多いけれど」

キュゥべえ 「目を背けて、逃げてしまうことさ」


ほむら 「…………」




ほむら 「それは、慰めのつもりかしら」


キュゥべえ 「さあね」


ほむら 「…………」

ほむら (……逃げた)

ほむら (あのとき……やり直し、やり直してはやり直し、もう何度目かも分からないワルプルギスの夜との戦い)

ほむら (それを待たずに私たち……巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか、百江なぎさ、そして)

ほむら (一ヶ月を繰り返すうちに知り合った多くの魔法少女たちは、一目散に逃げた)

ほむら (まどかたちを連れて)


ほむら (ワルプルギスの夜に勝てないからじゃない)

ほむら (いろいろなことから逃げ出そうとしただけ)

ほむら (……自分。まどかを守れなかった自分。たくさんの過去、後悔)

ほむら (未来……)


ほむら (多くのものを放り出して逃げる私の心と体は)

ほむら (泣きたくなるほど空っぽで、晴れやかだった)

ほむら (捨てられずにいた、悲しい思い出と楽しい思い出が共存する壊れた玩具を)

ほむら (ついに捨ててしまったときような、寂しさと安らかさ)

ほむら (カシャリ、カシャリと空振るホッチキスの音がとても間抜けで)

ほむら (いつしか私は走りながら笑っていた。涙を流して)




ほむら (気づけば皆、笑っていた)

ほむら (最後までワルプルギスの夜と戦うことを主張していた魔法少女も)

ほむら (皆で、一緒になって笑っていた)

ほむら (放り出したいものを、放り出せたのだろう)


ほむら (心に重い荷物を背負い、大きな傷を負い)

ほむら (その傷を隠し強くあろうとしてきた私たちは)

ほむら (そのとき、とても弱く、とてもみじめで、馬鹿馬鹿しくて)

ほむら (とても幸せだった)

ほむら (……人間だった)


ほむら (ワルプルギスの夜はなぜ笑うのだろう)

ほむら (脅威が過ぎ去って、滅茶苦茶になった私たちの町)

ほむら (まどかたちと並んで歩きながら)

ほむら (はじめて、私は自分の居場所を見つけたように思えた)





杏子 「これより、誓いの言葉」


ヴァー ラー ラー


キュゥべえ 「……あの馬鹿馬鹿しい旅の果てに、まさかこうなるとはね」


ほむら 「馬鹿馬鹿しいくらいがちょうど良いのよ」

ほむら 「私たちも、きっとあなたたちも、この宇宙で」

ほむら 「何も知らないに等しい馬鹿者なのだから」


キュゥべえ 「……本当に僕で良かったのかい、ほむら」


ほむら 「何度も言わないで」

ほむら 「決心が鈍るわ」


キュゥべえ 「では、やめておこう」


ほむら 「…………」


杏子 「……健やかなるときも、病めるときも」

杏子 「富めるときも、貧しきときも」

杏子 「二人ささえ合い、愛し合い、ともに生きることを……」

杏子 「誓いますか?」


キュゥべえ 「……ほむら」


ほむら 「……ええ」







ほむら・キュゥべえ 「ループ」









ご来賓のキュゥべえたち 「わけが分からないよ」






おわり






おもなパクリ元一覧


・魔法少女まどか?マギカ(アニメ本編・映画)
・物語シリーズ
・安来節(男踊り)
・チーズ転がし祭り
・魔法陣グルグル
・ドラえもん
・でろでろ
・夏のあらし!(アニメ)
・ゼノサーガ
・ガンダムビルドファイターズ
・おじゃる丸
・~次元ゲイムネプテューヌ


このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年05月14日 (木) 21:42:02   ID: vxjngNvM

なんとまぁ、哲学

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