【艦これ】 五月雨「パンダ提督とわたし」 (237)


※ 未熟者の提督と五月雨さんが主人公のSSになります。

※ シリアスよりの恋愛ものになる予定です
 
※ 暴力表現やエロはありません。

※ キャラの性格や口調などは、筆者なりの解釈です。自分の好みと違うようであれば、そっとスレを閉じていただけると幸いです。特に主人公の五月雨さんは、提督に対するボイス以外の情報がほとんど無いので、友人姉妹への言葉遣い、呼び方はすべて独自解釈です。違和感を感じたらごめんなさい。

※ 長くなる予定です。ほぼ毎日投下で1~2週間かかると思います。長編が苦手な方には向いていません。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1429113386



――――― 第二駆逐隊の部屋

村雨「それでは、第2駆逐隊全員集合を祝して、かんぱーい! 」

夕立「わーい、素敵なパーティー、はっじめるよー♪ 」

五月雨「春雨、改めて、いらっしゃーい! 」

春雨「みんな、ありがとう! 着任遅れちゃったけど、これからよろしくですっ! 」


こんばんは、白露型6番艦 五月雨です! 今日はわたしたちにとって特別な日です。第2駆逐隊の仲間である春雨を、やっとうちの鎮守府に迎えることが出来たんです! 前世で離れ離れになってしまった第2駆逐隊ですが、今日こうして再集結です!


夕立「今日はドーナツいっぱいあるっぽい! 」

村雨「鎮守府は補給がちゃんとしてるからね。必死に運ばなくても、ジュースもドーナツもあるんだよ! 」

春雨「素敵です! じゃあ、ドラム缶持ってこなくても良かったかな……」


夕立「そういえば春雨ちゃん、提督さんには、もう挨拶したっぽい? 」

春雨「はい、してきたですっ」

村雨「提督の印象はどうだったー? 」

春雨「すごく優しそうな人で安心しましたっ。偉い人だから、もっと怖いのかと思ってたです! 」

村雨「優しすぎて、舐められてるけどね! 」

五月雨「あは、あはは……」


確かに……。提督はとっても優しいのですが、威厳のあるタイプではないので、艦娘の皆さんからはすっかり舐められているというか、好き勝手されているというかです。でも、みんな楽しそうだから良いですよね!


春雨「あとあと、司令官さんのお部屋がすごく広くて、人がたくさん居てびっくりしました。もっと……校長室みたいな感じなのかと思ってました! 」

五月雨「あはは……。それはうちの鎮守府が特別なんだー……」

村雨「わたしはあんまり行く機会無いけど、相変わらずなんだぁ?(ぷぷ) 」

夕立「あの人達、いっつも居るっぽい! 」

春雨「何か特別なのです? 」

五月雨「うん……なんだかね、提督が大好き? で、用がなくても、提督の側ですごしてる人が何人かいるの」


村雨「そうそう、春雨。提督って何かに似てると思わなかった? 」

夕立「ヒントは、動物っぽい! 」

春雨「動物ですか? うーーーん、まるっこくて、お腹とかポヨンと出てて……黒くて丸いメガネで……、わかりました、パンダです!」

村雨「あはは! やっぱり初対面でそう思うんだー」

五月雨「もうすっかりパンダで定着しちゃったねー」

夕立「パンダ提督ってアダ名、すごく似合うっぽい~ 」

春雨「はわ、ほんとにそういうアダ名なんだっ! 」


わたしたちの提督は、ちょこっと丸めで、黒くて丸いメガネをかけてます。その見た目から、すっかり「パンダ提督」という扱いになってしまいました。わたしは、パンダは可愛くて大好きだからすごく良いと思いますけど、提督はちょっと複雑みたいです……あはは。


春雨「でも、司令官ってここで一番偉いんですよね。そんなアダ名つけちゃって平気なのかなぁ? 」

村雨「あははっ。提督は、そんなこと気にしないから大丈夫だよっ」

夕立「夕立なんて、お腹ぽんぽんってさせてもらってるっぽい~。楽しいよ~ぽんぽんっ」

五月雨「ほ、ほどほどにしてあげてね……。提督、ぽんぽんされると、いつも困った顔で汗かいてるから」

村雨「あはは、提督は相変わらず、女の子が苦手なのね」

春雨「でもでもー、艦娘はみんな女の子ですから、それじゃあ司令官は大変そうですね~」


提督は、女性があまり得意ではないので、近寄られるだけで緊張して大変みたいです。でも、駆逐艦の女の子たちや動物系の子。一部の提督スキーな人たちは気軽に近寄ってきちゃいますから、大体いつでも困った顔をしています。これって逆セクハラって言うんでしょうか。


村雨「大丈夫大丈夫っ。提督は女の子が嫌いなんじゃなくて、慣れてなくて緊張しちゃってるだけだものっ。いっぱいさわって、慣れさせてあげるほうがいいよ♪ 」

夕立「わかった! 夕立、もっとがんばるっぽい~♪ 」

五月雨「あは、あはは……ほんとに、ほどほどにしてね? 」


こうして提督はまたおもちゃにされちゃうんですね……かわいそう……。


村雨「秘書艦に怒られちゃった! 気をつけないとお仕置き食らっちゃうぞ~~」

五月雨「もうっ、お仕置きなんてしないですっ」

春雨「すごい人がいっぱいいる鎮守府で秘書艦なんて、五月雨すごいね! 」

夕立「大体いつも秘書艦っぽい? 」

村雨「だよね。出撃してる時以外は、いつも秘書艦だよね」

春雨「すごいねー、信頼されてるねっ! 」

五月雨「ち、違うよ~。わたし、初旗艦だから、その流れでずっと担当させて頂いているだけだよー」

村雨「五月雨は、こう見えて、この鎮守府一番の古株なんだよね! 」

夕立「わたしも相当古株っぽい♪ 」

春雨「いいなー、春雨もがんばっておいつかなきゃっ 」


村雨「わたしも結構遅めだったから、鎮守府の初期の頃はよく知らないのよねー」

春雨「初旗艦っていうことは、最初は五月雨一人だけだったんでしょ? どんな感じだったのか知りたいな~ 」

夕立「わたしも聞きたいっぽい~ 」

村雨「聞きたいな! 提督が最初はどんな感じだったのかとかも知りたいし」

五月雨「ええ~~。長くなっちゃうよー」

村雨「いいじゃんいいじゃん、夜はこれからなんだしさ! 」

春雨「五月雨、聞かせて~ 」

五月雨「うーん、じゃあ、ほんとに長くなっちゃうからね! 」


……

そっか、もう1年になるんですね。初旗艦として提督と出会って、いろんな事件があって……。大変な事もいっぱいあったけど、わたしは……そして提督も、きっといっぱい成長できました! ちょっと恥ずかしいけど、思い出しながら……お話してみようかな……。


――――― 五月雨の部屋 提督着任前日の夜

……新しい鎮守府が開かれることになると、そこに一人だけ艦娘が先に生まれて、提督をお待ちすることになります。初旗艦って言われてます。

と言っても、わたしも今日誕生したばかりの身ですが……。前世のおぼろげな記憶、艦娘として必要な知識……そういうものは自然と身についているみたいです。赤ちゃんが泣き方を知っているようなものなのでしょうか。

提督は明日朝着任されます。鎮守府入り口までお迎えに行って、わたしが案内することになっています。

提督っていうと……戦艦とか空母にのって艦隊の指揮をとったり、本営にいらっしゃる、とっても偉い人ですよね。前世でも駆逐艦だったわたしにはあまり縁がありませんでしたが……。怖そうな、いかつい感じの男の人ですよね……。

正直、ちょっと怖いです(泣) でも、艦娘はわたしだけで、いきなり秘書艦になることが決まっています。こ、怖いけどがんばらないと……。

遅刻なんてしたらきっと怒られます! 今日はちゃんと寝ないと……寝ないと……寝ないと……

そう思うと眠れませ~ん!


――――― 翌朝 鎮守府入り口

提督(ここが……僕の鎮守府かぁ)

提督(戦闘指揮には不向き、デスクワーク向きと言われて……。それでずっと後方勤務だった僕が、いきなりこんなことになるとは)

提督(艦娘を率いるには、なにか生まれ持っての適正が必要なことが分かって……。提督不足の中、軍人全員に一斉適性検査が行われて、僕には適正があって。それで、下っ端からいきなり司令官なんてなぁ。)

提督(深海棲艦の脅威に対して、提督が不足しているから仕方ないんだろうけど……。士官学校時代から、戦闘関係には落ちこぼれで……コミュニケーションも苦手な僕が……本当に提督なんてつとまるのかな)


提督「確か鎮守府入り口でいいはずだけど……誰も来ない……。場所間違ったかな……? 」


た、大変です、大変です! 眠れないー眠れないよーってやっているうちに、寝過ごしてしまいました!

ど、どうしよう、怒られます!


五月雨「とにかく、全力で走ります! 駆逐艦ですから、足は速いですっ。せめて遅れを取り返さないと! 」


ダッシュダッシュ


提督(あ、誰か来た。良かった、場所は間違ってなかったみたいだ……)


ダッシュダッシュ


提督(あ、あれ、すごい勢いで……)

五月雨「あああ! スピードが落ちない~~」

コケッ

五月雨「わあああぁぁぁ!」


ぼよんっ(提督のお腹に顔から飛び込んだ)


五月雨「うわっぷ!」

提督「げふっ」


あわ、あわわ、誰かにぶつかってしまいました! ……その割には、ぼよんって柔らかく跳ね返った気がしますけど……。

って、きっと提督です! あわわ、どうしよう!


五月雨「わわわ、だ、大丈夫ですか? お怪我はありませんかっ! 」

提督(み、みぞおち……。って、これが艦娘! なんか思ってたのと全然ちがう……。普通の女の子じゃないか)

提督「は、はい、大丈夫です。そちらこそ、怪我はないですか?」

五月雨「は、はい、わたしったらドジでごめんなさい! 」

提督「怪我がなかったなら良かったです。あなたが、艦娘ですか……? 」

五月雨「は、はいっ! 五月雨っていいます。よろしくお願いします! 」(ペコリ)

提督「こ、こちらこそよろしくお願いします。提督です」(ぺこり)

五月雨「ぶつかってしまって、本当にごめんなさい! すぐご案内します! 」

提督「は、はい、お願いします」


――――― 鎮守府 廊下

ふー、やっと落ち着いて来ました。いきなり遅刻して衝突して……あああ、遅刻したお詫びを忘れてました。ちゃんと謝らないと。


チラッ


この方が提督……。イメージと全然違う。すごくお若いし、全然怖そうじゃないし。お腹がぽよんとしてて……。あ、わたしがさっきぶつかったのはこのお腹だったんだ……。眼鏡がまんまるで……。こう、全体的に「丸」って感じの方ですね。


五月雨「あの、提督……? 」

提督「はい? 」

五月雨「その、先程は思いっきり衝突してしまっただけでなくて、思いっきり遅刻してしまって……本当にごめんなさい! 」

提督「ああ、遅刻したから、あんなに一生懸命走っていたのですか。どうか気にしないで下さい」

五月雨「いえ、でも! 」

提督「それどころか、逆に良かったです」

五月雨「え……? 」

提督「……実は僕もすごく緊張してました。艦娘って、一体どんなごっつい感じなんだろう。ロボットみたいな感じなんだろうか? って色々不安だったんです。でも、いきなり緊張がとけました」


ろ、ロボット! そっか、知らない人が艦娘の事を聞いたら、きっとそんなイメージなんですね。でも、なんか傷つきました!


五月雨「怒ってないなら良かったですけど、でも、ロボットはひどいです!」(ぷくー)

提督「あ、い、いえ! その、事前に聞いていた話が……女性の形をしているけど、強力な戦闘艦と同等以上の能力を……。破壊力、耐久力、速度などなどを持っているっていう話だけだったので……。それこそ、身長2mで、『ゴメイレイヲ……』みたいな感じなのかなってイメージしてまして……」

五月雨(ぷくー)

提督「ほんと、ごめんなさい、こんなかわいい女性だとは知らなくて。ちゃんと認識を改めました」(あせあせ)

五月雨「かわいいですか……えへへー。はい、許しちゃいました! 」

提督(どぎまぎ)


五月雨「でも、わたしも……提督っていえば、すごく怖い感じの、いかつい感じのおじいさん、っていうイメージだったんです。前世の提督ってそんな感じだったので」

提督「……」

五月雨「だから……怖いよ、どうしよう、ってハラハラして、昨日は寝付けなくて。朝も、遅刻して衝突して、怒られる!って、すごく不安だったんです」

提督「そうだったんですか」

五月雨「でも、イメージと全然違う、とっても優しい方で嬉しいです。一生懸命頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!」

提督「こ、こちらこそ、不慣れな提督ですが、どうぞよろしくお願いします」(ぺこぺこ)

五月雨「そんな! 頭を下げないでくださいっ。提督は偉い方なんですから、こう、『うむうむ』みたいにドーンと! 」

提督「あはは、僕には似合わなそうですね」

五月雨「あはは♪」


これがわたしと提督の出会いでした。今思えば、いきなりドジしてしまって、しょんぼりです。でも……前日までの不安はどこかに飛んでいってしまいました。

すごく明るい気持ちで、さあ、この人と一生懸命がんばろう! って思える。そんな出会いでした。




本日分は以上となります。初回ゆえ説明セリフが多いのはご勘弁を。

次は明日投下予定です。よろしければまたお越しください(o_ _)oペコリ


――――― 現在 第二駆逐隊の部屋

村雨「あははははは! 五月雨ってば、最初からドジ全開だったんだ! 」

五月雨「ひどいよ~」

春雨「五月雨、まさか転生してからも、白露姉さんに衝突したり、迷子になったり……してないよね? 」

五月雨(ぎくっ)

夕立「五月雨ちゃんのドジは、全然かわってないっぽい~」

五月雨「……ま、まぁ、出会いはそんな感じだったんだ~」

春雨「ごまかした~」

村雨「でも、聞いてて思ったけど、提督の雰囲気がちょっと違うね、今と」

五月雨「そうだね。提督も最初は、慣れてなくて大変だったみたい」

夕立「そうかも~。最初の頃は、なんだかバタバタしていたような……そんな気がしたっぽい? 」

春雨「こんなに立派な鎮守府でも、最初は大変だったんだねー」

村雨「その辺の苦労話とかも教えてよ! 」

五月雨「うーん、そうだねー……」


……そうだ。最初は手探りで……提督もほんとに大変そうで、わたしも上手く支えられなくて……。懐かしいですねー。


――――― 提督着任からしばらく後 提督執務室

五月雨「残念ですが、撤退してきました……(しょぼん)」

川内「提督! なんで夜戦させてくれなかったのさっ。夜戦なら一発だったのに! 」

初雪「疲れた……もう引きこもる……」

不知火「つまらない」


提督「みなさん、よく頑張ってくれました。入渠して休んで下さい」

川内「ちょっとー! 夜戦ー!」

提督「川内さん、ごめんなさい。五月雨さんが中破していたので、念のため撤退指示を出したんです」

川内「もー! そんなんじゃ、いつまでも進めないよっ。もういいよっ! 」


提督着任からしばらく経ちました。本営の指示通り、建造や開発、編成や出撃などを行なって、何とかやってこられたのですが……。仲間が増えたり、敵が強くなったりで、だんだん上手くいかないことが増えてきました。


提督「はぁ……」

五月雨「提督、ごめんなさい! わたしが被弾しちゃったせいで……」

提督「いえ、避けられないことは当然あります。それより、痛くありませんか? 早く入渠しないと」

五月雨「はい、ありがとうございます! 次は頑張ります! 」

提督(何とか手探りでがんばってきたけれど……。あの敵を倒せる気がしない……。どうすればいいんだろう)


提督、すごくしょんぼりしています……。明日は一生懸命がんばって、絶対に倒してみせます!



――――― 翌日 提督執務室

川内「見たかっ! 夜戦すれば見ての通り楽勝だっ! 」

五月雨「提督、無事倒せました! 」(ぼろっ)

不知火「沈めてきました」

初雪「本気出した! 」

提督「みんなありがとうございました。次の海域攻略はまた後日になりますので、ゆっくり入渠、休養してください」

初雪「やったー。ひきこもる……」

川内「えー! もっと戦いたいのにっ」

不知火「では、次の戦いに備えて休養に入ります」(敬礼)


ガヤガヤ


五月雨「提督、よかったですね~~」(ぼろっ)

提督「良くありません! 五月雨さん、耐久残り1じゃないですか。轟沈寸前です! 本当に心配しました。無理しすぎです」

五月雨「えへへ、今日もドジっちゃいました」

提督「ドジじゃありません。旗艦への強力な攻撃を身を挺して守ってくれたんじゃないですか! 」

五月雨「避けたかったんですけど、避けられなくて……てへへ」

提督「でも、おかげで無事倒せたんです。どうか、しっかり治してきてください」

五月雨「はぁーい。ちょっとお休みしてきますね! 」



――――― 少し後 ドック

初雪「お風呂……気持ちいい(ぶくぶく)」

川内「あーあ、昨日も夜戦に突入してれば、倒せてたのになー。提督は弱気すぎるよっ」

不知火「上官批判はいかがなものかと」

川内「いいじゃん、ちょっと文句言うくらいさー」


川内さんのお気持ちもわかりますが、提督だって悩んで悩んでがんばっているのに!


五月雨「川内さん、提督は、自分のミスで誰かが沈んでしまうんじゃないか? って、すごくすごく心配していて、それで慎重なんです」

川内「うーん、そういう優しい人なのは分かるんだけどさー。でも、やるときはやらないとだぜっ」

不知火「確かに、安全策だけでは、戦い抜くのは厳しいかと」

五月雨「うう、そうかもしれないですけど~~」


提督は、全然怖そうじゃないし、艦娘にも『さん』付けで敬語だし……。それでみなさん、提督を軽く見ている気がして、心配です。


――――― 同時刻 提督執務室

提督(五月雨さん、あと一歩間違えれば轟沈……死んだんだ……。勝つために、仲間を守るために、頑張ってくれた……。ありがとう)

提督(僕は、とりあえず、慣れない提督業を何とかこなそうとしているだけ……。彼女は、彼女たちは、命がけで戦ってくれている……)

提督(僕は、彼女らの司令官として……命懸けで戦う彼女たちに応える義務がある。でも僕には、きらめく才能もカリスマもない。でも、これまでの人生では、それを補うために、時間をかけて勉強してきた。今僕がすべきことは、きっとそれだ)


……

提督「はい、士官学校で同期だったとお伝えいただければ……」

提督「ご無沙汰しています。はい、このたび提督に…… どうしてもお願いします…… そうです、どうしても轟沈なんてさせたくないんです…… そうですか! では明日早速うかがいます! 」

提督「快く引き受けてくれるとは、やっぱり彼はすごいな。早速準備しないと」



――――― 夜 提督執務室

コンコンコン

五月雨「提督、入渠終わりました。ありがとうございました」

提督「おかえりなさい、大ダメージでしたから、長くかかってしまいましたね。お疲れ様でした」

五月雨「いえー、ゆっくりお風呂につかれました! 最後は一人だけになっちゃって、ちょっと寂しかったですけど」

提督「今日のうちに会えてよかったです。僕は明日から3日ほど留守にします。ですので、その間は皆さん、退屈でしょうが待機をお願いします」

五月雨「3日もお出かけなんですか! 心配です……」

提督「はい、どうしても必要なことなんです」

五月雨「よろしければ、どこにお出かけするか聞いてもいいですか? 」

提督「……知り合いの提督のところです」

五月雨「えっ!」

提督「他提督の鎮守府へ訪問することは原則禁止されていることは知っています。ですが、どうしても必要なことなんです。相手方の許可は取ってありますが……。これは他言無用にお願いします」

五月雨「そんな、軍規違反なんて……どうして? 」



提督「……艦娘のみなさんは、命がけで戦ってくれています。五月雨さんは今日、一歩間違えれば轟沈というところまで……」

五月雨「は、はいっ。それが艦娘ですから! 大丈夫です、もうこの通り治っちゃいましたから! 」

提督「でも、命懸けで戦ってくれていることには違いありません。僕は、成り行きで提督になってしまった身で、覚悟が足りませんでした。みなさんの……、五月雨さんの一生懸命の頑張りに、ちゃんと応えたいと思うんです」

五月雨「提督……」

提督「僕も、五月雨さんのように、一生懸命がんばろうと思います。そのために、僕が今すべきことは、提督の勉強をすることです。ですので、士官学校の同期で、初期から提督に就任している人がいるので、その方に教えを請うてきます」


じーんと来ちゃいました……。わたしの頑張りを認めてくれて……ドジって被弾しちゃったのに……自分も頑張るって言ってくれました。


五月雨「提督、分かりました! 五月雨、一生懸命、待機任務がんばります!」

提督「川内さんや不知火さんは、出撃が無いと怒るでしょうから、なだめるのも大変だと思いますが、待機任務、どうかよろしくお願いします」

五月雨「あは♪ 目に見えるみたいです。『夜戦~夜戦させろ~』(←川内のものまね)」

提督「あはは、そんな感じですね。モノマネは似てませんが……」

五月雨「似てますっ(ぷくっ)」

提督「あははは」


わたしも、提督に負けないように……いっぱい訓練して待ってます!



――――― 3日後 鎮守府入り口

五月雨「提督、おかえりなさい! 」

提督「五月雨さん、出迎えありがとう。こちらは変わりありませんでしたか? 」

五月雨「えっと……川内さんと不知火さんが不機嫌です……。初雪さんはごきげんですけど! 」

提督「あはは、目に見えるようですね」

五月雨「もー、笑い事じゃありません! 提督が帰ってきたら文句言ってやるって怒ってますよ! 」

提督「しょうが無いです、怒られることにします。さ、執務室に戻って、みんなに集まってもらいましょう」

五月雨「はいっ! そうだっ、提督のほうは、成果はいかがでしたか? 」

提督「いやー、自分がいかに無知か思い知らされました。でも、良い先生のお陰で、何とかやっていくだけの知識は身についたと思います」

五月雨「うわー、おめでとうございます! わたしも、一生懸命訓練したんですよ! 」

提督「おお、五月雨さんもがんばりましたか。ドジはしませんでしたか? 」

五月雨「え、えっと……ちょっと不知火ちゃんにぶつかったかなー……あはは」

提督「……怖そうですね」

五月雨「怖かったですよ~~。ジロッて睨まれました~~」

提督「彼女は迫力ありますね、ほんと」


提督、すごく元気そうです! いっぱい成果があったんですね。本当は秘書艦たるわたしが、提督を元気にできたら良かったんですが……結果オーライです!



――――― 少し後 提督執務室

川内「提督、なんだよ、突然不在にしてさー! 」

提督「みんな言いたいことがあるとは思いますが、まず僕の話を聞いて下さい」

川内「うー……ブツブツ」

不知火「了解です」

提督「不在にしてすみませんでした。今回の不在は、この鎮守府のあり方、戦略。そういうものを決めるためのものでした」

提督「当面の方針、作戦は決まりましたので、しばらく忙しくなりますが、皆さん頑張ってください」

初雪「忙しい……嫌かも……」

提督「そう言わずにお願いします。まず、川内、不知火、初雪の3名で、鎮守府周辺の警備任務を継続して行なって下さい。その際、各地に点在する資源を集めてくるようお願いします」

川内「遠征ってやつだな。夜戦できないけど、退屈よりはいいかぁ」

不知火「了解しました」

提督「資源は何をするにも必要です。面倒な任務ですが、よろしくお願いします」(ペコリ)

初雪「しょうがない、がんばる……」


提督、すごく堂々としています……。えへへ、なんだか見違えちゃいます。


提督「五月雨さんは秘書艦として残って頂いて、建造と開発を手伝って下さい」

五月雨「建造ですか……。あまり人が増えても困るっておっしゃってたのに……」

提督「はい、何はともあれ、味方の数が多くないと話にならないようです。しっかり出撃や遠征ができるよう、どんどん準備しましょう」

川内「おおっ。強い主砲や魚雷をつくってよ! 」

提督「そのためにも、警備任務、しっかりお願いします」

川内「あいよー! 」



――――― 数日後 提督執務室

五月雨「鎮守府、すごく賑やかになってきましたね」

提督「そうですね、元気な駆逐艦の子が多いから、特にそう感じますね」

五月雨「あはは、うちの夕立も、ぽいぽいしてますしっ」

提督「同じ第2駆逐隊だったんですよね」

五月雨「はい! だから、部屋も一緒なんです。早くあと2人来てくれるといいなぁ。楽しみですっ」

提督「あはは、早く来てくれるといいですね」


あれから数日……。鎮守府はすっかり賑やかになり、遠征や任務で、日々忙しくなりました。でも、提督はすごく嬉しそうで、みんなも生き生きしていて、わたしもすごく元気です!


五月雨「川内さんも、先日の戦いで、夜戦で見事MVP! 上機嫌でした♪ 」

提督「ええ、さすが夜戦のプロですね」

五月雨「前は、何故ここで夜戦に行かないのか! って怒ってばかりでしたもんね」

提督「僕はやっぱり怖がりで、轟沈を恐れて、とにかくすぐに撤退してましたから。でも、学ぶことで、どこまでなら進んで良くて、どうなったら撤退するか、しっかり指針をもてました。そのお陰です」

五月雨「不知火さんも、それを言ってすごく感心してました。提督は勉強家だって」



提督「誰でも最初は手探りです。でも、勇気を出して前進して、経験を積みます。それってすごいことですよね。僕には真似できませんでした。そして、その経験を惜しみなく分けてくれる人には、本当に感謝しないといけません」

五月雨「士官学校のお友達だったんですよね? 」

提督「いえ、僕はとても地味な男で……。士官学校でも友達らしい友達はいなくて、ひたすら勉強ばっかりしていました。でも、今回教えてもらった人は、人望のある人気者でした」

五月雨「……」

提督「学生時代は、とても羨ましく思ったものです。でも今回、どうしても経験者から教えを請いたいと思った時、彼ならきっと僕のことを憶えていて、もしかしたら力になってくれるかもしれない、と思ったんです」

五月雨「それで……」

提督「連絡先をこっそり調べて、突然連絡し、しかも軍規違反です。でも彼は、快く引き受けてくれました」

五月雨「素敵な話ですね! 」

提督「彼から聞かれました。『どうして必死に学びたいのか』と。正直に……艦娘を誰も死なせたくないと答えたら……。それなら俺の同志だから何でも力になると……」

五月雨「良い人なんですね……」

提督「はい。本当に助かりました。しかも、今後の協力まで約束してくれて。彼は本当にすごい男です」


でも……すごいのはその人だけじゃないです、提督


五月雨「……でも……口下手な提督が……昔の知り合いに、思い切って必死に頼み込んで……。それで実現したことです。提督の勇気、がんばり……わたしは、それこそがとても素敵だと思います」

提督「え! あ、そ、そうですか……あはは……褒められるの慣れてないから……照れてしまいます」

五月雨「あはは、提督、耳まで真っ赤です。かわいいです~」

提督「うむむ……からかってはいけません」

五月雨「はぁい、ごめんなさい(ぺろっ)」


提督(僕が思い切れた勇気は、君がくれたものです。君こそが本当に素敵です……。お陰で、僕は一つ成長できたみたいです。本当に……ありがとう)



本日は以上となります。続きはまた明日投下予定です。

自分のSSを継続して読んでくださる方が居ること、本当に有難うございます。レス、ほんとに感謝です。

おはようございます。レスありがとうございます。
パンダ提督の容姿は、そんなに派手だったりオークだったりはしませんです。
ジャイアンみたいな体型ですね。しかも田舎出身で口下手で、という人なので、学校とか組織ではなかなか溶け込めること無く生きてきた。そんなイメージでお考えいただくと助かります。


――――― 現在 第二駆逐隊の部屋

春雨「はぁ~。最初は本当に大変だったんですねー」

夕立「夕立が来る前は大変だったっぽい~」

五月雨「夕立が来た頃から、軌道に乗った感じだったかなぁ」

夕立「ふぅ~ん。もっと前に来たかったな~」

村雨「でも、執務室で二人っきりの頃は、そんな感じだったのねー♪ なんだか、二人の世界って感じだねっ! 」

春雨「うん、なんか信じあう二人って感じだよね~ 」


うわ、赤くなっちゃう。そういうのやめてよ~


五月雨「提督じゃないけど、からかっちゃダメっ。もう~」

村雨「あはは、ごめんごめん」

春雨「あれれ、確か執務室って、いつも人でいっぱいって言ってたよね。この頃は二人だったのー? 」

五月雨「そうだね、この後、執務室に居着く人がだんだん増えていって……」

夕立「そっか、執務室引越し前かー。懐かしいっぽい! 」

村雨「あれ、前は違う部屋だったの? 」

五月雨「そうなんだよ~。実は……」


――――― 提督着任から1ヶ月半後 提督執務室

五月雨「本日着任された、軽巡の球磨さんと多摩さんです」

球磨「よろしくだクマ」

多摩「よろしくにゃ」

提督「お二人ともよろしくお願いします。まだ小さな鎮守府ですので、色々大変なこともありますが、頼りにしています……って、どうして寄ってくるんですかっ」

球磨「くんくん……なんだか他人のような気がしないクマ」

多摩「すんすん……なんだか他人のような気がしないにゃ」

提督「あ、あの……」

青葉「青葉見ちゃいました。提督が、新規着任の軽巡を二人、早速はべらせてます! 」


……なんでしょう、着任早々提督にべったりなんて良くないです!


五月雨「お二人とも、提督は上官なんですから、そんな懐いちゃダメですっ」

多摩「膝にのりたいにゃー」

球磨「背中でも掻くクマ? 」

提督「いえ、あの……どらやき差し上げますので、とりあえず離れていただけますか? 」(あせあせ)

球磨「食べるクマ」

多摩「頂くにゃ」




パシャリ


青葉「写真は撮ったものの、なんだか色気がないというか、はべらせてる感じがしないですね 」

提督「はべらせてませんから……」

青葉「なんか、クマと猫の間に提督がいて……ああ、青葉ひらめきました! 大熊猫! パンダ! そっか、提督はパンダに似てたんです」

五月雨「ぷっ」


言われてみれば、確かに似てます。かわいいです!


球磨「だから、どこか同類のにおいがしたクマ。これからよろしくクマ~」

多摩「多摩はねこじゃないけど、なんとなく同類のにおいがするにゃー」

提督「あの、ほんとに困りますので……。ここにいたければ、居場所は作りますので、どうか膝に乗らないで下さい」

五月雨「そうですー、離れてくださーい(グイグイ)」

球磨「仕方ないクマ。じゃあ、巣でもつくるクマ」

多摩「多摩は、あの日当たりが良い窓際に、ソファーをもっていくにゃ。手伝ってにゃ? 」

提督「わかりました……(はぁ)」


五月雨「重いです……、よいしょ、よいしょ」




――――― 夜 提督執務室

球磨「それじゃあ、また明日クマ」

多摩「また明日にゃ」

五月雨「もうっ。ちゃんと自分のお部屋があるんですから、用もないのに居着いちゃだめですよ! 」

ゾロゾロ


提督「…………今日は……疲れました……」

五月雨「提督……すごく、まとわりつかれてましたね……」

提督「僕は昔から、人付き合いは苦手だったのですが、動物には、何故かすごく懐かれるんです……」

五月雨「すごく、理解しました」


くっつかれてたけど、提督にとっては、お二人は動物なんですね。ならいいでしょうか。


提督「でも、いくら動物っぽくても女の子ですから、くっつかれると困ってしまいます」


あ、やっぱりダメです。


五月雨「提督、みんなへの示しもありますっ。ここは毅然とした態度でやめさせないと! 」




提督「おお、五月雨さん、なんか秘書っぽいですね」

五月雨「ええぇー。できる女っぽかったですか? えへへ……じゃなくて! 」

提督「はい、なるべく頑張りますが、あんまり自信ありません」


うん、提督の性格ならそうですよね……。


提督「じゃあ、明日は、球磨さんの居心地のいい巣を部屋の隅っこに。多摩さんの日当たりの良い寝床を窓際に。それぞれちゃんと作りましょうか」

五月雨「え? 」

提督「居心地の良い寝床があれば、動物は、用がないときはそこで寝ますので、それで大分楽になると思います」

五月雨「は、はい……。本当にそんなことで大丈夫なんでしょうか……」




――――― 翌日 提督執務室

球磨「むにゃ……くまー……zzz」

多摩「zzz...zzz...」

五月雨「ほんとにずっと寝てますね、お二人とも……」

提督「僕は田舎育ちで、動物に囲まれて育ちましたからよく知っていますが……。動物は基本、寝ているか食べているかですから」

五月雨「初雪さんみたいですねー」

提督「それはさすがに彼女がかわいそうです……」

五月雨「でも、これで安心して執務に励めそうですね! 」

提督「おやつの時にはきっと起きてきますので、多めに用意しておいて下さい」


なんか……ペットを飼ったみたいですね……お二人には失礼だけど!


夕立「おじゃましまーす。遠征の報告にきたっぽーい! 」

五月雨「夕立、お疲れ様~」

提督「お疲れ様です」

夕立「そういえば、青葉さんの新聞で見たけど、提督、球磨さん多摩さんに、いっぱいさわられてたっぽい? 」

五月雨「そうなの。でも、寝床を用意したら、大人しく寝てくれてるけど」

夕立「いいなー、わたしも前から、そのお腹にさわってみたかったっぽい。ぽんぽんぽーん」

提督「ぽんぽんされると困ります……」

五月雨「わー、夕立、なにしてるのー! 」

夕立「えー、だって、ぽんぽん叩きたくなるお腹っぽい? 」


……それは認めるけど、ほんとにやっちゃダメです!




――――― 夜 提督執務室

球磨「じゃあ、また明日クマ~」

多摩「また明日にゃ~」

五月雨「ほんとに毎日来るつもりなんですね……」


提督「はぁ……今日も緊張して疲れてしまいました」

五月雨「今日は夕立にもモテモテで良かったですね(つーん)」

提督「……僕はほんとに女の子が苦手で……。気づいていると思いますけど、艦娘の皆さんとも、お仕事の伝達と報告以外は、未だにほとんど何も話せて無いんです」

五月雨「あれ……言われて見ればそうかもですね? 」

提督「気づいてなかったんですか? 」

五月雨「はい……って、あれ、わたしとは普通にお話してますよね? 」

提督「はい、ですから、未だに五月雨さんだけなんです、普通に話せるの」


そっか……最初から一緒なんだもん、やっぱりわたしが特別ですよね! えへへ……


五月雨「そうですか、わたしとだけ、普通に話せるんですかー(にこにこ)」

提督「はい、でも、いつまでもこんなことではダメだと思っています。幸い動物なら得意ですから、球磨さんや多摩さんとは、話ができるようになっていこうと思っています」


むー


五月雨「球磨さんも多摩さんもかわいいですもんねー(つーん)」

提督「あ、あれ? ダメでしたか? 」


あれ? 提督は、がんばって苦手を克服して、良い提督になろうとしているんだから、ダメじゃないですよね……。あれれ?


五月雨「ダメじゃないですっ! そうですよね、ちゃんと話せないとですよね。がんばりましょう! わたしも応援しますね」

提督「よ、よかった。とりあえず明日はおやつで釣って、茶飲み話からはじめてみます」

五月雨「わかりました! 美味しいおやつを用意しておきますね! 」

提督「クマと猫の好物っていうとシャケとかですが……」

五月雨「ぷっ。あはは。それじゃおやつにならないですよ~」


不器用な提督が、少しずつ、苦手を克服しようと頑張るのは、とってもすごいと思います! 一生懸命応援したいですっ。……でも、他の子とも楽しくお話するのは、ちょっと嫌だなって……理由は良くわからないけど……そんなふうに感じました。




――――― 1か月後 提督執務室

五月雨「本日着任された、重巡の熊野さんです」

熊野「ごきげんよう。わたしが重巡、熊野ですわ! よろしくお願い致しますわ」

提督「着任ありがとう。これからよろしくお願いします」

球磨「よろしくクマ~」

多摩「よろしくにゃ」

熊野「あ、あら? ずいぶんと秘書艦が多いんですわね」

五月雨「秘書艦はわたしで、他のお二人は、提督の側が居心地が良いとのことで、暇な時はずっとここにいらっしゃるんです」

熊野「ずいぶんと自由なんですのね」

球磨「くんくん、なんだか他人のような気がしないクマ……」

熊野「あら、わたしも同感ですわ。それに、なんだか姉を思い出しますわ、その口調」

五月雨「あ、なんだか嫌な予感がします……」

提督「同感です……」




――――― 翌日 提督執務室

五月雨「うわーん、ほら増えた~」

熊野「ちょっと、人を動物のように言わないで下さいまし」

提督「どうして熊野さんまでこちらに? 」

熊野「同室予定の鈴谷もまだ居ないようですし、わたくしも部屋に一人では寂しいですわ。ここは、なんだか落ち着きますので、わたしも球磨さんや多摩さんと同じく、こちらですごさせて頂こうかと」

五月雨「さすがに狭いですよー」

提督「そうですね、さすがにこれは手狭です……」

球磨「それなら、隣の会議室に引っ越すといいクマ。すごく広いのに、誰も使わなくてもったいないクマ」

熊野「あら、広いのでしたら、わたしくの私物も持ってきて大丈夫ですわね」

多摩「集めた宝物を隠す場所をつくるにゃ」

ワイワイ




――――― 夜 提督執務室

提督「結局、引っ越しすることになってしまいましたね……まぁ、狭い中で仕事をするよりは良いでしょうか……」

五月雨「確かに、今ですら大変なのに、熊野さんまで……。でも、一人だと寂しい気持ちはよく分かりますから」


わたしも、夕立や村雨が来てくれるまでは、夜にお部屋で一人で寂しかったです。


提督「はぁ……。球磨さんや多摩さんと、何とか話ができるぐらいになってきましたが……おやつで釣ってですけど……。熊野さんは動物っぽくないから苦労しそうです……」

五月雨「……提督、そんなに頑張って、疲れちゃったりしませんか? 」


提督は……球磨さんや多摩さんと普通におしゃべりしようと、すごく頑張っています。でも……ずっと苦手なことに立ち向かい続けてるみたいで……最近は、ちょっと心配にもなってきました。


提督「あははは。五月雨さんはいつも、任務にも、秘書にも、ドジ克服にも一生懸命ですが、疲れたりしますか? 」

五月雨「えっ! い、いえ、わたしは特に疲れたりはしませんけれど……」

提督「そうでしょうね。僕も、五月雨さんみたいに、一生懸命がんばるのを、当たり前にできるようになりたいんです」

五月雨「そんな、わたしは別に……ドジですし……」

提督「はい、ドジなのは認めますけど……」


むー! そこは否定するところですっ!


提督「でも、たとえ失敗しても、めげずに明るく前向きにがんばるあなたは……そうですね、僕の憧れなんです。ですから、あなたのようになるために、できることを頑張ります」


はうー。そんな、憧れだなんて……耳まで赤くなってしまいます!


提督「ですから、今後もよろしくお願いします」(ぺこり)

五月雨「えへへ、なんだか過分に褒められちゃってますけど……やっぱり嬉しいです。わたしも一生懸命がんばりますね! 」


わたしはドジで、笑われたり呆れられることが多かったけど……今でも多いですけど……。提督は、わたしのことをこんなに大切に、特別に感じてくれています。あ、憧れているとか……、えへへ。

この日は、ひさしぶりに、なんだかドキドキして眠れませんでした。



本日分は以上となります。明日は不在でして、次の投下は日曜日の予定です。
遅々として話が進みませんが、どうぞ気長にお付き合いいただけますと幸いです(o_ _)oペコリ


――――― 現在 第二駆逐隊の部屋

五月雨「……で、その後は、阿武隈さんや三隈さんも、着任早々に居着くようになって……。それで、彼女たちに会いたい人が執務室に来るようになって……で、今みたいな感じになったの」

夕立「もう動物園っぽい~」

村雨「いやいやいやいや、今の話のキモはそこじゃないよね? 」

春雨「はい、びっくりしました」

五月雨「え? だって、執務室に人がいっぱいいるっていう話で……」

村雨「いやいやいや、確かにその話だったけど、最後の……提督との話って……」

春雨「五月雨、司令官に告白……されてたよね? 」


!!! な、なんて誤解をっ!!



五月雨「違うから違うから! 憧れてっていうのは、その、頑張ることとか、そういうことの話で……」

村雨「うん、だから告白……だよね? 」

夕立「えええ! 五月雨ちゃん、いつの間に提督とそんな仲になったっぽい? 」

五月雨「違うからほんとにっ! お互いにがんばろうみたいな、そういう意味なの~~」

春雨「五月雨、真っ赤だね」

村雨「にやにや」


もー! ひやかして遊んでるんですよね!


五月雨「もー、変なこと言うから、思い出話はもうおしまいっ! 」

春雨「えー、もっと聞きたいなー」

村雨「でも、もう遅いから、後はなにかわからないことがあったら、都度聞くといいんじゃない? 」

夕立「あたしももう眠いっぽい~~」

五月雨「だよね! じゃあ、今日はもう寝ようね! おやすみっ」


ドキドキドキ。告白とか……うん、そういうんじゃないです。でも……特別だって思ってもらっていることは本当。それはとっても素敵なことです!




――――― 翌朝 鳳翔さんのお店

五月雨「朝ごはん定食を2つお願いします」

春雨「お願いします」

鳳翔「あら、五月雨さん、ついに第2駆逐隊が揃ったのね。おめでとう。春雨さん、ようこそ! 」

春雨「はいっ! よろしくお願いします(ペコリ)」

五月雨「そうなんです。賑やかになりました~」


春雨「美味しい~」

五月雨「でしょー」

足柄「五月雨。おはよう! 」

五月雨「足柄さん、おはようございます(ペコリ)」

春雨「はじめまして、春雨です(ペコリ)」

足柄「お、五月雨と同じ隊の子ね。よろしくね!」

五月雨「足柄さん、今日はまた出撃ですね。前回の様子から手応えはいかがですか? 」

足柄「敵に合わせて編成も変えてみたの。今回は大きな損害を出さずに行けると思うわ! 」

五月雨「心強いです! 期待しちゃいますっ」

足柄「任せておいてっ! 」


パーン(←ハイタッチ)


足柄「じゃあ、準備行ってくるわねー」

五月雨「行ってらっしゃ~い」




春雨「ほえー、五月雨すごいね。あんなに怖そうな人と普通に話してた」

五月雨「あの人は重巡の足柄さん。すごく高練度で、重巡のエースの人だよ」

春雨「そっかぁ。すごく強そうだもんね」

五月雨「そうだよ~。通称『飢えた狼』だもん」

春雨「こ、こわい……。五月雨、そんな怖い人とすごく仲良さそうだったね? 」

五月雨「うん、良くご飯にも誘ってもらってるんだー。わたしはお酒が全然飲めないから、そっちはお付き合いできなくて残念だけど」

春雨「そんなに仲良しなんだ~」

五月雨「仲良くなったきっかけは大変だったんだけどね。ずっと前のことなんだけど、提督と足柄さんが衝突したことがあって……」




――――― 提督着任から4ヶ月後 提督執務室 夜

熊野「では、本日は失礼いたしますわ」

ゾロゾロ クマー ニャー


五月雨「提督、今日も一日お疲れ様でした。やっと静かになりましたね」

提督「ふーーー。はい、やっと慣れてきたとはいえ、やはり皆さんが帰られると、とりあえずホッとしてしまいます。自然と一緒にいられる日が来るのでしょうか……」

五月雨「うーん……。でも、お仕事中は人と一緒にいるけれど、そうじゃない時は一人で居たいとか、少人数で居たい、っていう人も居ると思いますから、今ぐらいで十分かもしれないですねー」

提督「はぁ、あとは気疲れさえしなくなれば良いんですが……」

五月雨「でも、以前と比べたら、ずいぶん普通に話せていますから! わたし、びっくりしてます。提督って、ほんとにがんばりやさんですよねっ」

提督「あはは……。前も話したとおり、五月雨さんを見習ってるんですよ。がんばって、少しは近づけたかなって思ってますけど」


……わたしに近づけたかな……とか……なんだかちょっと意味深なセリフですね。なんちゃってなんちゃって!


五月雨「わたしからみたら、提督のほうが、わたしなんかより、ずっとずっと頑張ってます。ほんとです」

提督「ありがとう……誰に褒められるより嬉しいです」


……珍しく、提督がわたしの目をまっすぐ見て言ってくれました。照れ屋さんな提督は、なかなか目を見てくれないので。なんとなく見つめ合っちゃいますね……ドキドキ


コンコンコン


五月雨「わぁ!!」

提督「どうぞ」

足柄「夜にごめんなさい、提督にお話があります」




足柄さん……重巡のエース格で、戦うことが大好きな人。うーん、夜戦だけじゃなく、昼戦も大好きな川内さんみたいなイメージです。もっと大人ですけどね!


提督「はい、うかがいます。何でしょう」

足柄「以前もお話しましたが、わたしは後方で小規模艦艇相手に戦闘を繰り返すのはもう嫌です。早く、血が沸き立つような最前線に投入して下さいっ! 」

提督「……以前もお話しましたが、今は、なるべく早く練度を上げていただきたいんです。そのためには最前線で被弾入渠を繰り返すより、単調かもしれませんが、後方海域での練度上げをお願いします」

足柄「もう飽きました! 低練度の子たちと一緒に、歯ごたえが無い敵を倒すだけの日々! こんなのわたしの求める戦いではないわっ」

提督「……僕にも考えがあってのことです。もうしばらく我慢していただけませんか?」


ハラハラ……。提督は、以前と違って、確固たる考えを元に、しっかりと指示するようになりました。不満が出ても、簡単に曲げることはありません。でも……こんなケンカになるのははじめてです。


足柄「わたしは提督のように弱腰ではないのっ。戦場で強敵を倒すことこそわたしの生きがい! ちまちまと弱敵を潰すような生き方はしたくないわ」

提督「……挑発されても、僕の意思は変えられません。申し訳ないとは思うのですが、もうしばらく我慢して下さい」

足柄「ちっ。さすがパンダなんて言われてるだけのことはあるわね。狼とは生き方が違うということね。もういいわ! 」


カツカツカツカツ


足柄さんは怒って帰ってしまいそうです。提督は残念そう……。わたしは、提督がなぜ足柄さんに事情を説明しないか知っていますが……。本当にこれでいいのでしょうか。……わたしは違うと思います。……わたしは秘書艦です……ただ立っているのがわたしの仕事じゃない! 違うと思うなら止めないと!





五月雨「足柄さん、待ってください! 」

足柄「なに? わたしは機嫌が悪いの。弱腰提督と仲良しごっこしてる秘書艦には用は無いわ」

五月雨「お願いですから、少しだけ待っていて下さい。わたしも提督を説得します」

足柄「なに? あなたはわたしの応援をしてくれるっていうの? 」

五月雨「いえ、わたしは、お二人がちゃんと話すための応援がしたいんです」

足柄「?」

提督「……」

五月雨「提督、意見具申をお許し下さいっ」

提督「どうぞ」

五月雨「ありがとうございます。わたしは秘書艦という立場上、提督が何故、足柄さんの希望に反して、後方での練度上げに向けているのか知っています」

足柄「……」

提督「そうですね」

五月雨「そして、提督が何を心配して、足柄さんに理由を説明していないかも分かっています」

提督「……」




五月雨「でも、でも、ここは足柄さんにちゃんと説明すべきだと思うんです。足柄さんは仲間です。信じて大丈夫だと思います! 」

提督「……」

足柄「……」

提督「この件は……。万が一漏洩した場合、僕は間違いなく更迭されるでしょう。そうしたら……この鎮守府に居る艦娘の皆さんは全員解体です。僕は、そんなリスクは少しでも減らしたいと思っていました。でも……これは……間違っているでしょうか? 僕も自信がありません。五月雨さんの考えを聞かせて下さい」

五月雨「えっと……提督が間違っているとは思わないです。でも……提督は、わたしにはその秘密を話してくれました。それは……どうしてですか……」

提督「それは……。僕が五月雨さんを信じているからです」

五月雨「ありがとうございます。すごく嬉しいです。でも、あの……生意気かもしれませんが……。これからもみんなで戦っていくから……もっともっとみんなと信じあって行かないとって思うんです。わたしを信じてくれるみたいに……」

提督「……」

五月雨「あの……わたしもその……ちゃんとまとまって居ない話で……ごめんなさい。さっきみたいなケンカ別れはだめー!って思って、とっさで……」

提督「……僕は、ご存知の通り人付き合いが苦手です。足柄さんとも、仕事上のやりとり以外、会話したことすらありません。ですから僕は……足柄さんが信じられる人なのか、判断がつかなかったんです」

足柄「そうね、わたしも提督が何を考えているのか全然わからないわ」

提督「でも、僕は五月雨さんのことは心から信じています。ですから、五月雨さんが足柄さんを信じられるなら、僕も信じます。どうでしょう? 」


え……! わ、わたしが最終判断するんですか……! でも……そうか、司令官って……責任を持つって……こういうことなんですね……。なんて重たいんでしょう……。

万が一があったら、みんなが不幸に……やっぱり不安も感じます……。でも……でも……仲間を信じられなかったら、戦場で背中を預け合うこともできません。大丈夫、信じます!


五月雨「はい! 足柄さんを信じます! 」

提督「わかりました。では足柄さん、少しお話させて下さい」




……

足柄「驚いたわ……こんな詳細な情報を手に入れていたなんて……」

提督「入手手段が問題なんです。正規のルートではありません。これがばれたら、最悪、僕は即日銃殺です」

足柄「なるほど……、秘密にするのも納得だわ」

提督「ご覧のように、この海域を抜けたさらなる奥地では、戦場が狭く、戦艦や空母に頼れない場所が数多く出てきます。また、夜間に敵主力の目をかいくぐって細い海域を抜けて、敵中枢を狙う戦術も必要になります」

提督「今は戦艦と空母が自由に活躍できています。ですから、今のうちは彼女たちに前線を切り開いてもらって、その先のために、早急に中小型艦の練度を上げておく必要があるんです」

足柄「それで……ひたすら効率重視の練度上げなのね」

提督「そうです。分かっていただけましたか? 」

五月雨「提督、お話が足りてないです! 」

提督「何か足りていませんか? 」

五月雨「重巡は大勢居ますが、足柄さんを再優先で練度上げしたいっておっしゃっていました。その戦闘能力と、あの戦う意思が、厳しい戦場でどうしても必要だって。それをお伝えしないと! 」

提督「いや……それはあくまで僕の主観で、客観的なデータでは無いので……」

足柄「……話してくれてありがとう。わたしをそんなに評価してくれていたのね」

提督「その……僕は戦うのが苦手な男です。出撃前に皆さんの闘志を奮い立たせるカリスマはありません。ですから、足柄さんのような方の力が必要なんです。夜間に敵の目をかいくぐって中枢を狙う……そんな危険な作戦に、例えば駆逐艦の子を連れて行く必要が出てくるかもしれません。そんな時に、彼女たちを奮い立たせる力が……」




ガタ(←足柄が立ち上がった音)

足柄「提督、五月雨。まず二人に謝罪させて下さい。深い考えがあるのも知らず、自分の感情でわがままを言いました。また、そのためにお二人に暴言を吐きました。ほんとうにごめんなさい」

五月雨「そんな! とんでもないですっ」

提督「そうです。僕が、ちゃんと理由も説明せず、命令を押し付けようとしていたんですから。怒るのは当然のことです。僕の方こそ、失礼をお詫びします」

足柄「いえ提督。お詫びは必要ありません。これからはどうぞ、信じられる部下として、バンバン命令してくださいね! わがままのお詫びに、一生懸命頑張って、必ず提督に勝利をもたらして見せます! 」

提督「……ありがとう。これからもよろしくお願いします」

足柄「それから、五月雨。ありがとう。貴方は見かけによらず本当に強いわね」

五月雨「つ、強いですか……? 」

足柄「自分が正しいと思うことのために、わたしや提督にまっすぐ意見したことよ。本当に強いわ」

五月雨「えへへ……そんな……」

足柄「そして、なによりも……わたしを信じてくれてありがとう……。わたしも、あなたの全てを信じるし、戦場で必ず、あなたの期待に応えて見せるわ! 」

五月雨「あれ……どうしよう……涙が…………ぐす……はい……はい……ぐす 」

足柄「よしよし、あなたはわたしのとっても大切な友達になったわ。いつでも声かけてね」(なでなで)




――――― 少し後 提督執務室

提督「…………」

五月雨「…………」


足柄さんが帰られてから、提督はずっと黙ったままです。もしかして……怒ってるんでしょうか……。


五月雨「あの……提督? もしかして……わたしがでしゃばったこと……怒っておられますか……? 」

提督「え? いえ、怒ることなんて何もありません。すいません、考えていました」

五月雨「考え……ですか? 」


よかった、怒ってないみたいです。ほっ


提督「今回もまた、五月雨さんに助けられました。僕が、艦娘のみなさんを……足柄さんを……信じきれて居ないこと。でも、信じなければいけないこと。それに気づかせてもらいました」

五月雨「そんなことないですっ。提督の責任を考えたら! 」

提督「ありがとう。でも、そうです。言われてみれば当たり前なんです。命懸けでともに戦う。僕は戦場には出ていませんが、僕の命令に従って……それが間違っていたら、皆さんは轟沈……命を落とすかもしれない。それでも命令に従うのは、もちろん上官の命令だから、というのもありますが……僕を信じてくれているからですよね」

五月雨「はい……。みなさん、口では色々文句を言ったりしてますけど……ちゃんと信じてると思います」

提督「その信頼に応えるためにも、僕も皆さんを信じないといけないですね。今回は、五月雨さんの目に頼ってしまいましたが……」

五月雨「あはは……わたしの目で大丈夫でしょうか……」

提督「大丈夫ですよ。僕が保証します」




五月雨「あの……提督。わたしのことは……その……心から信じてるって言ってくださいました」

提督「はい、そうですね」

五月雨「でも、わたしは頭も良くないですし、ドジですし……。もしかしたらドジって秘密の書類を落としてしまったりするかもしれないし……。本当に大丈夫なんでしょうか、そんなに信じて頂いて……」


ほんとに……大事な書類とか落としたらどうしましよう! なんだか、怖くなって来ました!


提督「ご心配なさらずに。そうですね……想像もできませんが、万が一、五月雨さんが裏切ったり……。五月雨さんがドジしてしまって大変なことになったり……こっちは色々想像できちゃいますね」

五月雨「むぅ、ひどいです!(ぷくっ)」

提督「あはは、ごめんなさい。でも……裏切りでもドジでも……。それでもし、僕や艦娘のみんな……。もしかしたらそれ以上のものが損なわれるとしても……」

五月雨「……? 」

提督「それが、あなたを信じた結果であるなら、僕はそれでいいです。そう思っています」

五月雨「……?? 難しくて良くわかりません」


提督が、深い……優しい……迷いない目でわたしを見ています。きっと、すごく深い意味がある言葉なんです……。


提督「あはは、僕は全面的に五月雨さんを信じてますからがんばってくださいね、ぐらいの意味ですよ」

五月雨「ど、ドジしないようにがんばります!」


この日、わたしは……。勇気を出して頑張ったことが認められて、素敵なお友達ができて、とっても嬉しくて。……でも、提督との、本当に大切なことは良くわからなくて、自分の中に宿題が残ってしまったような……。そんなモヤモヤした気持ちが残る日でした。



本日分は以上となります。続きはまた明日の投下となります。
よろしければまたお越しください(o_ _)oペコリ


――――― 現在 提督着任から約1年 鳳翔さんのお店

五月雨「という感じで、足柄さんとはその時から仲良くなったの」

春雨「ほへー。なんだか難しい話だったけど、仲良く出来てよかったね」

五月雨「機密の部分は話せなかったから、ちょっとわかりにくかったかも。ごめんね」

春雨「大丈夫~。でも意外。五月雨、ほんとに、立派な秘書艦やってるんだね」

五月雨「えへへ、見なおした? 」

春雨「うん、ドジで困った子ってイメージだったからー」

五月雨「あ、ひっどーい(ぷくっ)」

春雨「あぅ、ごめんね? じゃあ、もうドジはしてないんだね」

五月雨(ぎくっ)

春雨「……もしかして、良い話ばっかりして、ドジは隠してたの? 」

五月雨「か、隠してなんか無いよ! ほんとほんと。た、例えば……」




――――― ある日 提督室室

提督「おや、お砂糖が無いようですね」

球磨「お砂糖がないと、紅茶が飲めないクマー」

熊野「球磨さん、紅茶はストレートでも美味しいんですわよ」

三隈「三隈は、ハチミツがおすすめですわ」

響「ジャムを入れるのも美味しいよ」

球磨「はちみつ……じゅる」

提督「でも、ハチミツもありませんね」

五月雨「じゃあ、せっかくですから、砂糖とハチミツを両方持ってきます!」

提督「お願いします。明石さんのところで頂けるはずです」

五月雨「はーい、大至急で行ってきます! 」(駈け出しっ)

球磨「まってるクマ~」

提督「あ、そんなに慌てては危ないd」

ガチャリ

白露「提督~。遠征おわったよー!」

五月雨「うわぁ、白露避けて~~」


ゴッチン




白露「あいたたたた……」

五月雨「うわぁ、ごめんなさい、ごめんなさい!」

提督「大丈夫ですか? 」

多摩「痛いの痛いのとんでけにゃ……」

白露「うう……転生しても……衝突の運命からは逃れられないというの……いたたた」

五月雨「あう、そういえばまた衝突しちゃいましたね」

提督「お二人とも破損が無くて良かったです。五月雨さんは膝をすりむきましたね。はい、絆創膏です」

五月雨「くすん、ありがとうございます」

三隈「提督は、ポケットにいつも絆創膏をいれておられるのですね」

提督「はい、よく使いますので常備しています」



――――― 現在 鳳翔さんのお店

春雨「やっぱり……また白露姉さんと……」

五月雨「ほ、ほら、赤城さんも言っていたよ! こう、前世の運命からは、なかなか逃れられないって! 」

春雨「そういう問題なのかなぁ……」

五月雨「そう、そう! 逃れられない宿命なんだよー。だって別の事件もあったし」

春雨「やっぱり、いっぱいドジしてるんだ……」

五月雨「運命運命! 」




――――― ある日 鎮守府中庭

五月雨「ん~~、いい天気ですねー」

提督「そうですね。最近は天候が安定していて助かります」

五月雨「あ、でも、お天気続きだから、花壇のお花が元気が無いですね。お水を撒いてきて良いでしょうか? 」

提督「はい、お昼休みはまだまだありますから、ゆっくりどうぞ」

五月雨「はーい! 五月雨、がんばってお水撒きしちゃいますっ」

提督「水まき用のホースは、確かあそこに……」


五月雨「とりゃー。あはは、なんだか楽しいですっ」

提督「気をつけて撒いてくださいねー」

五月雨「大丈夫ですよー。あ、ほら提督、虹ができてますよ虹! 見てください見てください! 」

提督「はい、綺麗ですね……、って、五月雨さん、前、前見てください」

比叡「お姉さまはこっちかなー」テクテク

五月雨「提督ー、なんですかー、聞こえませんー」

比叡「ひえー! 」(ばしゃばしゃ)




提督「五月雨さん、前です前! 前を見てください!」

五月雨「え、前ですか、はい」(くるっ)

比叡(ばしゃばしゃばしゃ)

五月雨「…………」

比叡「…………」(ばしゃばしゃばしゃ)


あ、あれ……わたし、比叡さんに水をかけてる……?


五月雨「う、うわぁ! ご、ごめんなさい! 」

比叡(ぷるぷる)

提督「比叡さん、大丈夫ですか? 」

比叡「五月雨~~~、そのホースを貸しなさいっ! 」(ばっ)

五月雨「へ? 」

比叡「誤射する子には、こうですっ! 」

五月雨「う、うわぁぁ~~~」(ばしゃばしゃばしゃ)

比叡「あはははっ! おかえしです♪ 暑いから気持ちいいよね 」

五月雨「うひゃぁうひゃぁ。冷たくて気持ちいいけど、やめてくださーい」(ばしゃばしゃ)




五月雨「比叡さん、誤射してごめんなさい。あー、二人ともびしょ濡れですね! 」

比叡「あはは、びっくりしたけど、楽しかったよ! 」

提督「/// そ、それじゃあ……僕は先に戻っていますので、お二人はまたあとで」


はれ? 提督がなんだか真っ赤になって行ってしまいました……。って、あああ!!!


五月雨「ひ、比叡さん! 服が! 濡れて、服が、スケスケですっ! 」

比叡「ひえー! し、しまった! お姉さま以外の人に見せちゃだめなのにー! 」


うう、恥ずかしいです……


五月雨「と、とにかく急いで着替えましょう! 」

比叡「いそげー! やっぱり誤射はダメだね、誤射は! 」

五月雨「くすん。はーい、反省します……」




――――― 現在 鳳翔さんのお店

五月雨「ね! 比叡さんに誤射して、撃ち返されるって、運命なの、運命! 」

春雨(じとーーー)

五月雨「えっと……運命……」

春雨「もう、ドジは全然治ってないね」

五月雨「運命……」

春雨「運命的にドジなんだね……」

五月雨「違うよっ。そう、前世をなぞってるだけなの! だってほら、こういうことも……」




――――― ある日 提督執務室

熊野「今日は本当に良い天気ですわねー」

多摩「日差しが暖かくて……抗えないにゃ……zzz……」

提督「ふぅ。仕事も片付きましたし、せっかくの良い天気です。ちょっと庭の散歩をしてきます」

球磨「それなら、球磨も行くクマ。起きているときは、じっとせずに徘徊するのがクマらしいクマ」

五月雨「徘徊……」

三隈「あら、それでしたら、くまりんこもご一緒いたします」

熊野「この流れですと、わたしまでクマ扱いされそうですが……せっかくですのでご一緒致しますわ」

多摩「zzz……」

五月雨「多摩さんは起きられ無さそうですね 」

提督(息抜きに一人になりたかったとは言えない……)



ぞろぞろ

利根「おお、皆、ぞろぞろとどうしたのじゃ? 」

熊野「良い天気なので、お庭に散歩に行くところですわ」

筑摩「面白そうですね。わたしたちもご一緒してよろしいですか? 」

三隈「賑やかなほうが楽しいですわ。ご一緒致しましょう♪ 」

五月雨「だんだん大事になってきましたね。おやつとか水筒とか用意すれば良かったでしょうか」

提督「いえ、ただの散歩ですから……」

利根「では、吾輩に続けー! 」

球磨「負けないクマー」




――――― 中庭

三隈「花壇の花が綺麗……。良い季節ですわ」

熊野「花壇、いつも素敵ですわね。どなたが手入れされているのかしら? 」

提督「鎮守府開設のころから五月雨さんが見てくれています。最初は何も植えられて居なかったのですが、それは寂しいと言われて」

利根「ほほー、これは五月雨が育てておったのか。良くがんばっておるの」

筑摩「わたしも良く楽しませてもらっています。お世話大変でしょう? ありがとうね」

五月雨「い、いえ、水を撒いたりするぐらいで……」


うう、そういえば先日、水を撒いた時に……うわぁ、思い出したら、ちょっと恥ずかしいです……


五月雨「さ、さて、ちょっとお花の様子も見ておきますね」

球磨「ミツバチが飛んでいるクマ。近くに蜂の巣があるかもクマ(くんくん)」


ぞろぞろ




うー、この間は恥ずかしかったなぁ。提督赤くなってたから、絶対見えちゃったんだよね。うわぁ……あんまり考えたことなかったけど、提督も男の人ですもんね……。それとも……比叡さんのほうを見てたのかな……。比叡さん、大人でスタイルも素敵だし……見るならあっちだよね……くすん。


五月雨「って、あれ? 皆さん居ない……置いてかれちゃいました! ど、どっちに行ったのかな、こっちかな? 」(ダッシュ)


五月雨「あ、あれ、こっちには居ないのかな。じゃ、じゃああっちかな!」(ダッシュ)


五月雨「……うわーん、みなさんどこですかー」

利根「ここにおったか。探したぞ」

五月雨「あ、利根さん。わーん! 」

利根「迷子になった時は、その場を動いてはいかんぞ」

五月雨「子どもじゃありませーん! 」




――――― 現在 鳳翔さんのお店

五月雨「ほ、ほら……。はぐれて、利根さんが迎えに来てくれて……。運命でしょっ! 」

春雨「…………」

五月雨「あーん、そんな冷たい目で見ないでっ」

春雨「五月雨、秘書艦の仕事……ほんとに大丈夫? 」

五月雨「だ、大丈夫だよっ。ほんとだよ! 」

春雨「ほんとに大丈夫なのかなぁ。ちょっと心配だよ~」

五月雨「ほら、もう1年も秘書艦やってるんだよ。大丈夫大丈夫! 」

春雨「はぁー。司令官をあんまり困らせちゃダメだよぉ」

五月雨「う、うん。気をつけるよっ」


確かに、わたしはドジばっかり。今日は運命がらみのドジを話したけど、それ以外のドジは大小数知れず……(しょぼん)


五月雨「って、あれ、もうこんな時間!! 遅刻っ! 遅刻だよっ! 」

春雨「えー! 」

五月雨「ま、またドジっちゃった……。い、急いで行ってくる、またあとで! 」

春雨「あ、まって、前前! 」

白露「♪ ふっふ~ん♪ 」

五月雨「あああ! 白露よけてー! 」

ガヤガヤ


ううう、今日も早速ドジばかり……ても提督は、ずっとわたしを秘書艦にしてくれています。今ではもう、わたし以外の人とも普通にお話出来ていて、信じられる人もいっぱい居るのに、それでもわたしに……。どうしてなんでしょう。わたしは、その信頼に応えられているんでしょうか……。

ううん、そんなの気にしちゃダメ! 提督は、難しく考えずに一生懸命頑張るわたしを大切に思ってくれてるんだ! って、なんだかアホの子みたいな感じですけど……き、気にせず、毎日をがんばろう、おー!



今日の投下は以上となります。続きはまた明日投下予定です。

昨日投下分の足柄さんは、アニメとか二次創作での雰囲気と違っていて心配だったのですが、受け入れていただけたようで良かったです。僕的には足柄さんは「かっこいいけど、可愛らしいところもある」っていう長門さん系の人なので!

ちなみに、お話の方は、今日の投下分で回想がやっと終わりまして、やっと時計の針が進み始めます。終わるまで、多分あと一週間くらいはかかってしまうと思いますが、よろしければまたお越しください(o_ _)oペコリ


――――― 1000 提督執務室

バーン!

五月雨「お、おはようございます! 遅くなりましたっ!」(ぜぇぜぇ)

熊野「あら、おはよう。今日はずいぶんごゆっくりですのね」

三隈「五月雨さん、おはようございます。なんだか大変そうですわ」

多摩「zzz...」

卯月「おはようぴょん! 」

球磨「おはようくまー! 」

五月雨「ぜぇぜぇ、提督、遅くなりました」

提督「おはようございます、はい、お水どうぞ。あと、絆創膏を」

五月雨「あ、ありがとうございます……ぜえぜえ」(ごくごく)




五月雨「ふぅ、ごめんなさい、落ち着きました」

提督「今日はどなたに衝突したんですか? 」

五月雨「衝突前提でお話しないでくださいっ(ぷくっ)」

熊野「あら、ちがいますの? 」

五月雨「違いません……今日はまた白露に……」

三隈「相変わらず仲がよろしいのね。三隈も、もっとモガミンと衝突したいのに……」

提督「やめてください……」

球磨「そうそう、揃ったところで大事なお知らせがあるクマ。多摩も起きるクマ! 」

多摩「うみゃー……。何事にゃ? 」

球磨「昨日、この群れの仲間である阿武隈が、ここを卒業して、新天地を求めて旅にでたクマ」

三隈「まぁ、阿武隈さんが……」

卯月「ぇー、阿武隈さん出て行っちゃったのー? 」

五月雨「旅にでたって……鎮守府を出て行っちゃったんですか!? 」

球磨「そうじゃないクマ。新しい縄張りを求めて、鎮守府内を旅しているクマ」

多摩「わかるにゃ。落ち着ける縄張りは、足で探すしかないにゃ……」




提督「でも、ずっとここに住み着いておられたのに、一体どうしたんでしょう? 」

球磨「阿武隈は、この部屋が天敵の巡回路であることをずっと気にしていたクマ。それで昨日、その天敵に髪をいじられて、旅立つ決心をしたらしいクマ」

熊野「そういえば、昨日、北上さんに追い回されていましたわ」

五月雨「そうですかー……寂しくなります」

球磨「これで、この群れの構成は、クマ3、パンダ1、猫1、うさぎ1、犬1となったクマ。一人減ったとはいえ、クマが最大派閥なのは変わらないクマ」

熊野「……クマに数えられるのは心外ですわね……。あら、犬というのはどなたですの? 」

球磨「五月雨にきまっているクマ」

提督「ぷっ……」

五月雨「えええ! わたし、犬じゃないですよ~」

三隈「確かに、犬系ですわ。子犬系と言うべきでしょうか」

卯月「五月雨ちゃん、子犬らしく、語尾は『わん』にするぴょん! 」

五月雨「付けませんっ! 」

三隈「くまりんこは平気ですわよ。くまっ♪」

多摩「多摩だってもちろんできるにゃ」

球磨「さ、やってみるクマ」

五月雨「そ、そんなぁ~。で、できないワン……」

三隈「かわいらしいですわ~」

提督「あははは、うん、かわいいですよ。また動物系が増えましたね」

五月雨「/// も、もうっ! もうやりませんっ! 」




――――― 1500 提督執務室

三隈「お茶の時間ですわ~ 」

熊野「今日は紅茶を入れましたわ。みなさん、集まってくださいまし」

多摩「zzz…………」(←提督の膝の上)

球磨「(ごそごそ)もうおやつの時間クマか? 」

卯月「たっだいまぴょーん! おやつ食べに帰ってきたぴょーん! 」

提督「もうそんな時間ですか。五月雨さん、では一息付きましょうか」

五月雨「はい提督」

提督「多摩さん、おやつだそうですよ。そろそろ降りて下さい」

多摩「うにゅ~~~、おやつだにゃっ」


多摩さんが膝の上に乗るの、最初はすごく困っていた提督ですが、すっかり諦めたみたいで、膝にのせたままお仕事をするのが当たり前になってきました……。これでいいのでしょうか……。


熊野「今日のおやつはチーズケーキですわ」

五月雨「うわぁ、おいしい~」

球磨「これは良い味クマ。さすがはクマ仲間。良い仕事をするクマ」


最近は、熊野さんと三隈さんがお茶とおやつを用意してくださって、みんなでお茶を楽しむのが日常になっています。とても美味しくて、毎日とっても楽しみにしています。




三隈「そういえば、多摩さんは、最近すっかり提督の膝の上がお気に入りですね」

多摩「午後になると窓から日が入らなくなるにゃ。そしたら提督の膝に移動するのにゃ」

提督「執務がやりにくくなりますので、できれば控えていただけると嬉しいのですが……」

熊野「でも、以前はあんなに嫌がってましたのに、最近はすっかりなすがままですわね」

提督「……実家に居た頃、勉強しているときには、大体猫が膝に乗ってきていましたので……。もうその感覚ですね」

多摩「多摩は猫じゃないにゃ」

熊野「説得力がありませんわね……」

球磨「それだけでもなく、最近は駆逐艦の子が膝に乗ることも多いクマね? 」

提督「最初は夕立さんや卯月さんぐらいだったのですが……だんだん真似する子が増えてきてしまいまして……」

三隈「昨日は、雷さんと電さんを左右の足に乗っけておられましたね」

提督「さすがに、二人に乗られてしまうと執務がやりにくいのですが……」

五月雨「もー、提督っ! ちゃんと断らないとダメですよっ」

提督「面目ない。なかなか無下にはできなくて」

三隈「提督らしいですわ♪ そうだ、それじゃあ……」




すくっ。てくてくてく。

三隈「では失礼いたします。よいしょっ」

提督「あ、あの、三隈さん、どうして膝に」

五月雨「!!!」

三隈「なんだか楽しそうなんですもの。くまりんこも座ってみたいですわ」

多摩「場所が取られたにゃ……」

五月雨「だ、だめですよ、三隈さん! 」


なんだか、駆逐艦の子や多摩さんが座ってるのとは全然違う感じです。すごく……いけない感じですっ!




三隈「なんだか不思議な良い感じです。みなさんが膝に乗りたがるのもわかりますわ♪ 」

提督「あの、ほんとに困ります(あせあせ)」

熊野「提督がお困りですわ。ほら、おりますわよ(グイグイ)」

五月雨「そうです、降りて下さい(グイグイ)」

三隈「残念ですわ。とっても楽しかったのに」

球磨「……そういえば、球磨も乗ったことないクマ……」


テテテテ のしっ


球磨「ふむ……確かに良い感じクマ!」

提督「はぁ……お茶が終わったらちゃんと降りてくださいね……」

卯月「あー、うーちゃんも乗るぴょんっ」


ずしっ


提督「さすがに二人だと重いです……」

熊野「もー、困った方たちですわね」

三隈「楽しそうです、では三隈も再び……」

五月雨「三隈さん、三人はさすがにダメですっ。提督が潰れちゃいますっ! 」


ワイワイ




――――― 夜 鎮守府

三隈「それでは、ごきげんよう、また明日♪ 」

ゾロゾロ


提督「やれやれ、今日も賑やかでしたね」

五月雨「そうですね。でも、もうすっかり慣れてしまいましたっ 」

提督「あはは、そうですね。以前は、皆さんが帰られた後、開放された気分で、ため息をついていたものですが……」

五月雨「あはは、そういえばそうでした。提督も、すっかり馴染んじゃいましたね」

提督「皆さん良い人達ですから、僕もリラックスしてお付き合いできるようになったみたいですね」

球磨さんの言うところの「同じ群れの仲間」として、もう長いことご一緒していますから。お互いの距離感もつかめて、気楽にお付き合いできるようになりました。提督もリラックスしていて、嬉しいです!


提督「でも、膝乗り合戦には参りました。多摩さんは猫ですから膝に乗るのは仕方が無いと思いますが……」

五月雨「多摩さんが乗っているのを見て『ずるい! わたしも! 』が始まると、もう止められないですからねー……あはは」


提督はみんなに甘いですから、頼まれたら、困った顔でOKしちゃうんです。もー、ダメですよねっ!

五月雨「多摩さんはともかく、猫はどうしてあんなに、膝に乗りたがるんでしょうね? 」

提督「不思議ですよね。やはり暖かくて気持ちが良いのか……体温を感じると安心するのか……。物心がついた頃から家に猫が居ましたが、未だによくわかりません」


気持ち良い……安心できる……うむむ……いいなぁ……。




五月雨「あの、提督、一つお願いがあります」

提督「話の流れから、嫌な予感がしますが、どうぞ」

五月雨「わたしもー……乗ってみていいですか? 」

提督「やっぱりそう来ましたか。仕方ないですね。どうぞ」

五月雨「わーい! では失礼して……」


ちょっと(ほんとはすごく)羨ましいと思ってたんです! 夕立が自然と提督の膝に座って、お腹をぽんぽーんってしてるの……。


五月雨「では、失礼します(ちょこん)」

提督「はい、どうぞ」

五月雨「うわー、なんだか不思議な感じです。ちょっと緊張しますけど……あはは」

提督「僕もさすがに緊張します。出会ってからもう1年になりますけど、こんなに近いの、はじめてですね」


ほんとだ……今わたしは、提督の右足の太もも座ってます。足を、提督の両足の間にぶらーんってしてる感じです。夕立がいつも、こうやって座って、左手でお腹をぽんぽーんってしてるんですよね。でも……顔を上げると、目の前に提督の顔があります……ドキドキ




五月雨「そ、そうですね。ちょっと緊張しちゃうから……こうですっ。ぽんぽんぽーん」

提督「やっぱり姉妹艦ですね……ぽんぽん好きですか? 」

五月雨「えへ、実はちょっと羨ましかったんです(ぺろっ)」

提督「言っていただければ、いつもお世話になっているんですから、お腹をポンポンするくらい構わなかったのに」

五月雨「なかなか言いにくいですよ~。でもこれ、夕立の気持ちが分かります。なんか面白いです! もっと柔らかい感じかと思ったら、なんだか太鼓みたいなハリが……ぽんぽんぽん」

提督「子どもの頃からこの体型で……。何とか痩せようと、いっぱい運動したんですが……筋肉はつくんですが、お腹は引っ込まなくて、こんな感じなんです。

五月雨「提督、子どもの頃からパンダだったんですね♪ 」

提督「……スリムだったことが無いのは確かです」

五月雨「あは♪ 」




五月雨「せっかくだから、もう一個だけお願い聞いてもらっていいですか? 」

提督「どうぞ」

五月雨「提督の髪、さわってみてもいいですか? 」

提督「髪……ですか? それは不思議なお願いですね」

五月雨「えっと……提督が執務されてる時、わたし、斜め後ろとか横に立っていることが多いじゃないですか? 」

提督「そうですね」

五月雨「そういう時、提督の頭が良く見えるんです。真っ黒で、なんだかチクチクしてそうで、ちょっとさわって見たいなって、前から思ってたんです……変ですか? あはは(あせあせ)」

提督「変ではないですが、不思議な感じですね。別に頭くらいいくらさわって頂いてもいいですよ。どうぞ」

五月雨「では失礼して……うわ、予想通りチクチクです。ほんとにクマの毛っぽいです。さわったこと無いですけど! 」

提督「もう頑固な髪でして。寝ぐせがついてしまうと、どうしても治りません」

五月雨「あはは♪ ほんとにそんな感じですね。うわー、ちくちくーちくちくー」




提督「頭ぐらいで喜んで頂けるなら、好きにしてくださって大丈夫です……でも、本当に何が楽しいんだか謎ですね」

五月雨「楽しいですよー。自分の髪と全然違いますし! 」


それに、提督の頭をさわってる人は他に居ないですからっ。わたしだけの秘密です♪


提督「確かに、五月雨さんの髪はすごく柔らかそうで、僕のとは全然違いそうですね。それに、本当に長い! そのうち、自分の髪の毛を踏んで転ぶんじゃないかと、実はちょっと心配してます」

五月雨「そんなことないですっ(ぷくっ) ……多分」

提督「あはは、でも、ほんとに気をつけて下さいね。とっても綺麗な髪なんですから、足あとがついたらもったいないですよ」


褒められちゃった! 実は、この長い髪はちょっとだけ自慢なんですっ。


五月雨「大丈夫ですよー。あ、さわらせてもらったお返しに、提督もわたしの髪さわりますか? 」

提督「良いんですか? 」

五月雨「お返しです、いいですよー。ちくちくーちくちくー」(←まださわってる)

提督「そ、そ、それでは失礼して」




なでっ


提督「なめらかな……細い……本当に、同じ髪なのに全然違いますね……」(なでなで)

五月雨「ですねー。提督が髪伸ばしたらどうなっちゃうんでしょう」(チクチク)

提督「……きっと、ほんとにクマみたいになっちゃいますよ……」(なでなで)


はうっ……。なんか、すごく、くすぐったいというか、ゾクゾクするというか……。


提督(頭小さい……なんてなめらかな髪……)


手、大きい……くすぐったいけど……すごく……安心する……


バタン!

夕立「たっだいまー! 遠征から帰ってきたっぽい~! 」

村雨「報告に来ました~」

春雨「警備任務頑張りました……って、五月雨、なにしてるの……? 」


!!!!!!




バッ(←光の速さで離れた)

五月雨「お、お帰りみんな。遠征お疲れ様! 」

提督「おかえりなさい。春雨さんは初任務お疲れ様でした」

春雨「は、はいっ。輸送任務とかはお任せ下さいっ」

夕立「五月雨ちゃんいいなー、わたしも膝に座ってナデナデしてもらうっぽいー」


み、見られた! 見られちゃいました!!


五月雨「///」

村雨「こ、こらっ夕立。その、ノックもせずに開けてしまって、し、失礼しました!! 」

春雨「五月雨、ほんとにごめんなさい。……その……ご、ごゆっくり!! 」

村雨「ほら、夕立、行くよ! 」(ズルズル)

夕立「あーん、夕立もー」(ズルズル)


バタン   しーーーーん




五月雨「はぅぅ、見られちゃいました……きっとからかわれます……」

提督「夕立さんをあんなに止めてたのに、同じことしちゃいましたからね」


提督わかってないですよー。お互いなでなでしあってた方でからかわれるに決まってるじゃないですか……


提督「まぁ、いいじゃないですか。姉妹艦仲良しで、素敵だと思います」

五月雨「うう、そうかもしれないですけど……そう思うようにしておきます(しょぼん)」

提督「あはは。ま、僕は今日は良い日でした。五月雨さんの髪、さわってみたいと思っていたので、夢が叶いました」

五月雨「夢!! そんなー、言ってくだされば、さわるくらいいつでもいいですよー」

提督「はじめて会った時、色々びっくりしましたけど、なんて長くて綺麗な髪なんだろうって思ったんですよ」

五月雨「身長2mもなかったし、ロボットみたいじゃなかったですしね! 」

提督「覚えていたんですか……ほんと、勘弁してください……」

五月雨「えへへ、ダメです、忘れませんっ。実はちょうど昨夜、春雨に聞かれて、はじめて会った時のこととか、昔の話をしたばっかりなんですよ。お腹に顔から飛び込んじゃった話とか……」

提督「1年前ですけど、本当に昔に感じますね。なつかしい……」

ワイワイ


1年……。お互い怖がりながらの初対面。手探りの戦い。慣れないことや不得意なことへの挑戦と、成長……。長いような短いような。そして、今ではこんなに自然に一緒にいられるようになりました。できることなら、これからもずっと、提督と仲良く楽しく日々を送っていけたらなって……。戦いの真っ只中にいることなど忘れて、そんな風に思っていました。



本日分は以上となります。続きはまた明日投下です。
長くなりすぎるので、阿武隈さんが北上さんに追い回される話は飛ばしてしまいました。ですので阿武隈さんはいきなり退場です……。阿武隈ファンのみなさんごめんなさい!


――――― 翌日 夜 提督執務室

提督「さて、ちょっと早いですが、今日はもう終わりましょう」

五月雨「今日も一日、お疲れ様でした! 」

球磨「んー、終わったクマ? じゃあ、今日は早めに部屋に帰るクマ」

提督「今日すべき仕事は残っていないので、五月雨さんも上がって下さい」

五月雨「提督が残業されるなら、ご一緒しますけど……」

提督「いえ、執務は終わりで、今日はまた個人的な調べ物をしていきますので」


提督は、いつの頃からか、夜は一人で、調べ物をすると言って執務室に残るようになりました。ご一緒したいと思うのですが、あくまで私的なことだとおっしゃるので……おじゃましてはいけないから、こういう日はわたしも早く帰ります。……昨夜が楽しかったから、今日もちょっとお膝に乗せてもらおうと期待してたんですけど……ちょっとしょんぼりです。


三隈「それでは、三隈たちも今日は失礼致します」

熊野「提督、ごきげんよう」

卯月「じゃあ、うーちゃんも帰るぴょん! また明日ぴょーん! 」

提督「はい、みなさんまた明日」




――――― その後 廊下

球磨「多摩、今日は木曾も一緒に晩御飯を食べるクマ」

多摩「わかったにゃ」

三隈「わたしはモガミンとお夕食に致します。それではみなさん、ごきげんよう」

熊野「卯月さんはもういらっしゃいませんわね。わたくしは鈴谷と一緒に食べる予定なのですが、五月雨さんはお一人でしたら、たまにはお夕食をご一緒にいかがですか? 」

五月雨「そうですね、わたしの姉妹は遠征中ですし……おじゃましちゃいます! 」


こうやって、群れの仲間(?)からお食事に誘われることもあります。とっても嬉しいです!


熊野「わたしたちはお酒は飲みませんし、行く先は鳳翔さんのお店しかありませんけれど」

五月雨「美味しいから、わたしは毎日でも平気ですね~」

熊野「わたくしは洋食派ですので、たまには洋食も食べたくなりますわ。ここでは、洋食といえばカレーぐらいですもの」

五月雨「鳳翔さんは何でも作れますから、メニューを増やすようお願いしてみましょうか」

熊野「そうですわね。美味しいものを食べないと元気が出ませんから」


熊野さんは神戸生まれのお嬢様なのですが、どこか気さくというか、飾ったところが無いので、わたしでも親しみやすくて嬉しいです。




――――― 少し後 鳳翔さんのお店

鈴谷「くまのん、こっちこっちー」

熊野「くまのんって呼ばないで下さいましっ。今日は五月雨さんもお連れしましたわ」

五月雨「鈴谷さん、こんばんわ」

鈴谷「ちぃーっす! 」


鈴谷さんは、とっても綺麗でおしゃれな、可愛らしい人です。しゃべり方も、今どきの若者(?)って感じで、誰とでも仲良しさんです。


鈴谷「いやー、今日はお腹すいたよー。思いっきりた~べよ♪」

五月雨「今日は長い戦いでしたもんね」

鈴谷「戦いもそうなんだけどさー。帰りに日向さんから、熱い瑞雲談義をされてね! わたしも瑞雲には思い入れあるから、つい白熱しちゃってさっ 」

五月雨「そうなんですかー。駆逐艦でも、魚雷への熱い思いを語り合ったり、北上さんや大井さんの魚雷に憧れたり、そういう話しますよ~」

熊野「何処も同じですわね。大事な大事な装備ですもの。思い入れがあるのも当然ですわ」

鈴谷「装備への思い入れといえば、前に空母のみんなが99式艦爆の話で……」

ワイワイ……




――――― 食後

鈴谷「あー、明日は出撃予定が無くて暇だなー。五月雨ちゃんは明日も秘書? 」

五月雨「はい、その予定です」


ていうか、ずっと秘書です。交代制の鎮守府もあるんでしょうか……? 秘書をしていないと、なんだか退屈してしまいそうです。


鈴谷「そっかー、毎日大変だね。わたしは絶対嫌だなぁー。熊野は? 」

熊野「特に予定はありませんので、また執務室で一日過ごしますわ」

鈴谷「てか、熊野も毎日毎日良く飽きないね。明日はわたしもお邪魔しようかな」

熊野「来るのでしたら、おやつを多く用意致しますわ」

鈴谷「でもさー、毎日執務室で、ちゃんとアピールしてるの? なんか人がいっぱいで、全然そんな雰囲気じゃないよね」

熊野「アピールなんてしませんわ。わたくしは、わたくしらしく、正々堂々とアタックするのみですわ」

鈴谷「えー、ちゃんと駆け引きとかも必要だと思うけどな~」


あ、あれ……この話って……もしかしてもしかすると……


五月雨「あの、アピールとかアタックとかって……」

鈴谷「あれっ!? 五月雨ちゃん知らないの? 熊野が提督のこと好きだって! 」


え、え、え、えええーーー!


熊野「隠し立てしているわけではありませんが、取り立てて宣伝しているわけでもありませんから、知らなくても不思議では無いですわ」

鈴谷「結構みんな知ってると思ったけど……。駆逐艦にはあんまり広まって無いのかもね」

五月雨「し、知りませんでした……すごくびっくりしてます」




びっくりして……何ででしょう……血の気が引いてます……


鈴谷「って、五月雨ちゃん、真っ青だよ! どうしたの!? 」

五月雨「い、いえ、びっくりしちゃっただけです。ほんとに、全然気がついて居なかったので」


というより、考えたこともなかったです……


熊野「はい、温かいお茶ですわ。ほんと、どうしてしまったの? 」

五月雨「ありがとうございます。ほんと、どうしたんでしょう、わたしもこんなことはじめてで……」


五月雨「でも、ほんとにびっくりしました。他の鎮守府で、提督と艦娘の恋愛があるって聞いたことはありますが、うちではあんまり、そういう話は聞かないですから」

鈴谷「金剛さんなんかは、いつでもバーニングラーブ! してるけどね! 」

五月雨「あはは、そうでした。提督、いつも困った顔で汗かいてますもんね……あはは」

熊野「瑞鳳さんも提督がお好きですわね。よくお弁当を作っていらっしゃいますし」

鈴谷「駆逐艦だと、雷さんが提督大好きっぽいよね」

熊野「うーん、あまり恋の匂いがしませんわねぇ、雷さんは」

五月雨「うちの夕立も提督が大好きですけど、恋っぽくはないですね」

熊野「そうですわね……大人しいパンダに抱きつく子どもたちって感じですわね」

鈴谷「あはは! まさにそんな感じっ。動物園だねぇ」




熊野「提督に本気、っていう点では、榛名さんも相当ですわ」

五月雨「え、そうなんですかっ! 」

鈴谷「榛名さんはやばいよね。あのモジモジ純情なアピールは反則だよっ」


意外です……提督は「僕は女性にモテたことなんてありませんから……」なんて言ってたけど、しっかり人気者じゃないですか!


熊野「ただ……これは内緒ですわよ? 提督にはすでに心に決めた女性が居るらしいですわ」

五月雨「え、えーーー! だ、誰なんでしょう。わたしたちの知っている人でしょうか!? 」


びっくりびっくりです! 提督、恋愛なんてちっとも考えて無さそうだったのに!


鈴谷「提督と一番古くから一緒にいるのは五月雨ちゃんだからねー。心当たりないの? 」

五月雨「考えたことなかったです……。ただ、地元に婚約者がーみたいな話は、聞いたことが無いですね……」

熊野「やっぱり艦娘の誰かですわね」

鈴谷「提督、あんな感じだからねー。恋愛してるってピンとこないよ。てか、どうしてあの提督がそんなにモテるのか不思議だよ~。丸いし、イケメンじゃないし、トーク力も無いし~」


むむっ!


熊野「あらっ。殿方の魅力はそんなものではありませんわ。あれほど誠実で優しく、頼りがいのある殿方はなかなかいらっしゃいませんわ」

五月雨「そうです、真っ直ぐで優しくて、確かにイケメンじゃないかもですけど、大きくて頼りがいがあって、パンダみたいでかわいくて…… 」(ぜぇぜぇ)




熊野「五月雨さん、ムキにならなくても大丈夫ですわ。鈴谷も提督のことが大好きなので、照れ隠しにすぐこういうことを言うんですから」

五月雨「!!!」

鈴谷「ちょ! そんなこと無いって! 」

熊野「『鈴谷ほめられて伸びるタイプなんですー、うーんと褒めてね♪』←鈴谷の真似」

鈴谷「え、ちょっと、聞いてたの!? 」

熊野「聞こえたんです。いつもは提督の悪口ばっかり言ってますのに、二人の時はすぐあんな感じになるんですから……。隠せていませんわ」

鈴谷「わーわー、違うの、なんというか、提督は恋愛対象じゃなくて、こう、お父さんみたいな感じで、安心して甘えたり、からかったりしたくなるだけなの~~」


びっくりしました。鈴谷さんまで……。提督、ずっと頑張って……みんなからこんなに愛されるようになって……良かったー……なんて思うわけありません! 女たらしはダメです!


熊野「ま、でも、提督を好きだっていう子は色々居ますけれど、誰かと仲良くなったり、特別な関係になったなんていう話は全くありませんわ。それどころか、一歩たりとも前進しないという嘆き節ばかりです。わたくしもその一員ですけれど」

鈴谷「そうそう。提督はどこまでも堅物っぽいからね。だから安心して? 」

五月雨「はい……。でも、ほんとに知らなかったなぁ……。カルチャーショック(?)です……」

熊野「提督といつも一緒の五月雨さんが、変化を一切感じないのですから、提督は相変わらず、恋愛なんて目もくれず仕事一直線ですのね。そういう意味では安心ですわ」

五月雨「そうですね。提督がお休みしたり遊んだりって見たことがありません。むむー、そういうことも考えたほうが良いかもですねー」

ワイワイ




――――― 少し後 鳳翔さんのお店

五月雨「ふう、色々お話ありがとうございました。夜も遅いですし、そろそろ戻ります」

熊野「はい、また明日ね。ごきげんよう」

鈴谷「じゃあね~」


鈴谷「いやー、でも驚いたね。五月雨ちゃん、ほんとにあんな感じなんだぁ」

熊野「ええ。本来なら倒すべきライバルと敵愾心を燃やすべき相手なのですけれど……とてもそんな気持ちになれませんわ」

鈴谷「まー、それに、提督のほうが心をはっきり決めちゃってるだけだから、五月雨ちゃんがどうこうって訳じゃないしねぇ」

熊野「そうですわね。提督は目先のことで心が揺らいだりしませんわ。そういう不器用で誠実なところこそが魅力……ですけれど、それが自分に向けられていないことが問題ですわ」

鈴谷「わたしもさ、あんな真面目君って最初はバカにしてたところもあるけど……。前に進むために、やることとか、できることを、ひたすら頑張ってるじゃん? 言い訳もしないし。そういう、取り繕ったところのない頑張りって、やっぱちょっと魅力的に見えちゃうよ。でも、わたしを見てくれることは無いだろうな~ 」

熊野「わたしを見てくださることも、おそらくあり得ませんわ。でも、わたしも好きになった以上は、報われるかどうかなんて関係ありません。己の道を貫くのみですわ! 」

鈴谷「くまのんのそういうとこ、すごくかっこいいよね。大丈夫、提督に振られたら、わたしがお嫁にもらってあげるよ! 」

熊野「訳がわかりませんわっ。それに、くまのんって呼ばないで下さいましっ」




熊野「それに……もう振られましたわ」

鈴谷「えええっ! それ初耳! 」

熊野「黙っていましたもの。わたくしだって、やっぱりショックでしたし」

鈴谷「え、いつなの? 」

熊野「もう2ヶ月前……3ヶ月近くですわね。はっきりと……。『好意はとても嬉しいけれど、もう心に決めた人がいるのでお付き合いはできません』と…… 」

鈴谷「うわぁ……。くまのん、それでも諦めず、毎日ちゃんと執務室行ってるんだ……」

熊野「当たり前ですわ! わたくしの気持ちは、そんなに軽いものではなくてよっ。断られたくらいで……提督にもう好きな人がいるからって……簡単に諦めるようなものではなくってよ! 」

鈴谷「そっか、それで頑張ってたんだ。よしよし、くまのんは、ほんとに負けず嫌いで意地っ張りで……とってもかわいいよ」(ぎゅー)

熊野「ちょ、ちょっと……いきなり何をするんですのっ」

鈴谷「いい子いい子。もっと早く泣きついてくれればいいのに……。好きな人の想い人とわざわざ一緒に居て、自分をいじめたりしてさ……そんなことしなくても、ちゃんとわたしが側にいるのにさ……」

熊野「……ぐす……ぐす……泣きつくなんて……わたしの誇りが許しませんわ」

鈴谷「お姉さんに向かって、そんな誇りなんて無し無し! さ、お部屋帰って、今日は一緒に寝よ。抱っこしててあげるからさ」

熊野「ぐす……子ども扱いしないでくださいまし……」

鈴谷「じゃあやめとく? 」

熊野「……行きますわ」

鈴谷「よしよし♪ 」




――――― 夜 第二駆逐隊の部屋

五月雨「眠れない……はぁ」


今日はみんな遠征に行ってしまっているので、お部屋はわたしだけ。みんながんばってね!


五月雨「提督もやっぱり、恋とか……するんだ……誰なんだろう……」


いつもお部屋にいるみなさんでしょうか。それとも、大人の素敵な女性たち……戦艦や正規空母の皆さんみたいな……。重巡・軽巡の皆さんもみんな綺麗だし……。


五月雨「はぁ……なんか……意外だなぁ……。こんなこと言ったら失礼だけどっ」


提督とは毎日一緒で……悩みや心の中を話してくれて、一緒に成長できてきた……そう思っていました。でも、いつの頃からか、提督はどんどん前に進んで、わたしの知らないこともいっぱい出てきています。わたしの知らない調べ物……わたしの知らない人間関係……わたしの知らない……恋……。


五月雨「いつまでも、今のままで、っていう訳にはいかないんですね、やっぱり」


提督は誰が好きなんだろう……。やっぱりその人と恋人になりたいんですよね。そしたら、いつも一緒に居たいでしょうし、秘書艦もその人に交代かな……。寂しいです……。


五月雨「でもでも、提督は、全然、恋したり、恋を成就させるために何かしてる感じないですよね……」


それとも、こっそり隠れて……。た、例えば、今の調べ物だって実は……好きな人をこっそり執務室に呼んで、あ、あ、逢引とかしてるのかも!!


五月雨「そんな公私混同はダメです! そんなことしてたら、お仕置きしちゃいますからっ! 」


この日は、提督の気持ちを考えて、頭の中がぐるぐるぐるぐる。目が回りそうでした。提督が誰が好きなのか、どうしたいのか、そんなことばかり考えていて……。何故そんなにも気になるのか? 自分の気持ちを見つめる余裕なんて全くなかった……そんな夜でした。



本日分は以上となります。また明日、続きを投下予定です。
自分に自信が無い、受け身同士の恋愛ってほんとに難しいですよね。きっと、お互い好きだったのに、お互いが躊躇して実を結ばなかった恋愛って無数にあるんだろうなって思います。
パンダ提督と五月雨さんには、是非がんばってもらいたいところですっ。


――――― 数日後 提督執務室

提督(カリカリ)←万年筆で書き物中

球磨(コリコリ)←クルミを食べ中

多摩「zzz……」(←昼寝中)

五月雨「…………」


あれから数日。わたしは、提督の好きな人が誰なのかがとても気になってしまって、何とか相手を知ろうと、ひたすら提督を観察し続けています……。でも、いつもどおりの、これといって何もない日々が続いています。


多摩「うみゃー」

提督「多摩さん、そこで伸びると落ちますよ」

多摩「ごろごろ」


多摩さんは相変わらず膝の上。でも、ここ数日ずっと観察していましたが、提督の、多摩さん球磨さんへの接し方は、やっぱり、どう見ても動物相手! きっとこの二人は除外しても良さそうです。



熊野「お茶ですわよー」

三隈「おやつですわー」

多摩(むくっ)

卯月「おやつの時間ぴょん!」

五月雨「うーちゃん、また机の下で寝てたんだ……」


うーちゃんも絶対動物枠ですね!


熊野「今日のおやつはクッキーですわ」

球磨(カリカリ)「うむうむ、今日も良い仕事クマ」

三隈「今日は紅茶ではなくカフェオレにしてみましたわ」

鈴谷「クッキー焼くのは鈴谷も手伝いました! 」

卯月「美味しいぴょん! 」


やはり……本命は熊野さんか三隈さんのどちらかでしょうか……


提督「ふー。今日も美味しいお茶とお菓子をありがとうございます」

熊野「喜んでいただけるなら何よりですわ」

三隈「みんなで美味しく頂けて、三隈も嬉しいです♪」

鈴谷「みんなで毎日こんな風におやつ食べてるんだぁ。太りそうっ」

ワイワイ


熊野さんは提督のことがお好きで……三隈さんはどうなんでしょう。何より提督の意思は……




球磨「五月雨、何か難しいことを考えているクマ? 」

三隈「眉間にシワが出来ていますわ」

五月雨「えっ! い、いえいえいえいえ! クッキー美味しいですっ(かりかり)」

提督「五月雨さん、ここのところなんだか難しい顔をしていますね。どうかされたのですか? 」

五月雨「いえ、そのっ! 調査というか観察というかで、ちょっと忙しくてっ。あはは……」

三隈「観察ですか? カブトムシの幼虫でも飼われたのですか? 」


そ、そんな虫を観察してるんじゃありませんっ!


球磨「変わった趣味クマね」

鈴谷「うぇー、わたし、絶対さわれない! 」

提督「僕も子どもの頃は良く飼っていました。ちゃんと蛹になって脱皮するのを、楽しみに観察したものです」

五月雨「飼ってません! どうしてそんなお話に~~ 」

三隈「あら、違うのですか……見せていただきたかったのに……」


三隈さんは、とっても綺麗で上品ですが、ちょっと変わってます!




提督「さて、それでは執務再開しましょう。月末報告書を作らないといけないので、まだちょっと忙しいですよ」

五月雨「はいっ! そうでした。がんばりましょう~」

三隈「あら、大変でしたら、何かお手伝いできませんか? 」

提督「いえ、毎月のことですから。それより、最上型の皆さんは、確か演習のはずです。頑張ってください」

熊野「ええ。相手は戦艦も居るようですが、わたくしが一捻りにしてまいりますわっ」

球磨「おー、頼もしいクマ」

三隈「三隈も、立派に戦って参りますわ! モガミンとぶつからないように気をつけないと…」

鈴谷「だるいけど、がんばってきまーっす」

提督「はい。その分、書類仕事などは僕が頑張ります。とは言え、僕だけではこなしきれなくて、五月雨さんにはずっとここに居て頂いていますが……」

五月雨「そういえば、最近は遠征も全然行っていません。でも、わたしには秘書艦のお仕事があるから大丈夫! がんばりましょう、おー! 」

提督「あはは、気の滅入る書類仕事ですが、一緒に頑張りましょう」

熊野「それでは行ってまいります! 」

三隈「まいります! 」


熊野さんと三隈さんは、やっぱり綺麗で凛々しくてカッコイイです。お二人共、すこーしだけ変わっているとはいえ……。うーん、でも、提督の様子は……好きな人に対する接し方じゃない気がします。うむむむ……。




――――― 夜 第二駆逐隊の部屋

夕立「ふぅ~ん、じゃあ、まだわからないっぽい? 」

五月雨「うん。ほんとに執務室のメンバーなのかなぁ」


落ち込んだり、あれこれ考えていたら、やっぱりみんなに心配されてしまって……。提督に好きな人が居るらしいって聞いて、いろいろ考えていることを白状させられました……。それから結局、みんなにも相談に乗ってもらっています。


村雨「わたしは、絶対執務室に居る人だと思うな~。だって提督、執務室からほとんど出ないもの」

春雨「わたしもそう思うよ~」

村雨「きっと、最初の方から身近に居る人だよ」

五月雨「うーん、でもなぁ……まさか球磨さんとか……全然そんな素振りないし……」

夕立「提督さんって、執務室から外に出ることってあるのかなー? 見たことないっぽい? 」

五月雨「夜はもちろん自分のお部屋に帰るけど……。あとは、鳳翔さんのお店でご飯を食べたり? 」

夕立「それだよっ! 鳳翔さんしかないっぽい! 」

五月雨「い、言われてみればそうかも……。ちょ、ちょっと鳳翔さんのところに行ってくるね! 」

夕立「あたしもついていくっぽい~~」


バタバタ




春雨「村雨姉さん、やっぱりはっきり言ったほうがいいんじゃないかなぁ? 」

村雨「うーん、でも万が一違っちゃったりしたら責任取れなくない? 」

春雨「そうかなぁ」

村雨「それにさ、やっぱり告白って、お互いがちゃんとしたほうがいいと思う! 」

春雨「それはそうかも……。じゃあ、やっぱり周りが何か言わないほうがいいのかなぁ」

村雨「問題は、五月雨が、またドジったり暴走して、おかしなことをしないかどうかだね。そこはしっかりフォローしないとね! 」

春雨「うん、がんばろうね」

村雨「でも……、どうして気が付かないんだろうね。提督の好きな人なんて五月雨に決まってるのに」

春雨「うん、来たばかりのわたしでもわかるくらいなのに……。やっぱり自分のことだとわからないのかな? 」

村雨「うーん、あの子、自分に自信がないから、自分のはずがないって頭から思い込んじゃってるのかもね」

春雨「五月雨、かわいいのに、自信がないなんて不思議だね」

村雨「あの子、前世からずっと、ドジドジって笑われてたからねー。どうしても、自分はダメだーって思っちゃうのかもね」

春雨「もったいないなぁ」




ワイワイ ポイポイ

ガチャ

五月雨「ただいまぁ……」

夕立「ただいまっぽいー」

村雨「おかえり、何してきたの? 」

五月雨「鳳翔さんのお店に行ってきたけど……考えてみたら鳳翔さんに何か聞けるわけでもなかったから……」

夕立「オレンジジュースごちそうになって帰ってきたっぽい」

春雨「オレンジジュースいいなぁ……」

村雨「わたしも羨ましくなってきた! 春雨、わたしたちも行ってこよ! 」

春雨「うんっ」

ドタドタ




五月雨「うーん、鳳翔さんは、なんだか違う気がするなぁ」

夕立「でも、執務室と鳳翔さんのお店しか考えられないっぽい? 」

五月雨「あ……工廠!」

夕立「心当たりがあるっぽい? 」

五月雨「装備の開発とか強化の相談で、工廠に行ってる! そういえば、工廠行くときは、わたし、いつもお留守番してる……、何かあった時のためにって」

夕立「そ、それは怪しいっぽい! 工廠というと……明石さんとか夕張さんが怪しいっぽい! 」


そうです……自分が行かないから気が付きませんでした……。最近特に工廠に行く回数が増えています……。これは……きっと会いたいからです……。


五月雨「ありがとう夕立! 次に提督が工廠に行ったら……尾行してみるよ! 」

夕立「おおお! 五月雨ちゃん、探偵っぽい~ 」




――――― 翌日 提督執務室

提督「さて、一段落着いたので工廠に行ってきます。今日の装備開発と改修がまだですので」


来ましたっ!!


五月雨「わかりました。ご一緒しますか? 」

提督「いえ、緊急事態があるかもしれませんし、五月雨さんは残って下さい。あと、多摩さんは降りて下さい」

多摩「しかたないにゃー。早く帰ってくるにゃ? 」(ごそごそ)

五月雨「行ってらっしゃい」

提督「はい、では行ってきます」


さて、早速後をつけないと……でも、緊急対応のために残った身ですから、黙って出て行くわけにもいきません。


五月雨「あ、しまった、急ぎの要件があったんでした!(棒) すみません、少し席を外しますので、どなたかお留守番をお願いできますか? 」

球磨「球磨はずっとここにいるから大丈夫だクマ。何かあったら放送すれば良いクマ? 」

五月雨「はい、すごく緊急なことがあったら、放送で提督を呼ぶように言われていますので、それでお願いします」

球磨「わかったクマ」

五月雨「それでは、行ってきます!」(ばたばたばた)

熊野(嘘が下手な子ですわね。どうしたんでしょう……怪しいですわ)




――――― 少し後 工廠

万が一にも見つからないように、こっそりこっそり、工廠に来てみました。提督はどこでしょう……。ドラム缶やダンボールの影に隠れながら……こっそりこっそり……スパイみたいですね!


夕張「五月雨、なにやってるの、ドラム缶にまぎれて? 」

五月雨「ひゃぁぁぁぁ」


び、び、び、びっくりしました!


夕張「わあ、びっくりした! ど、どうしたの? 」


容疑者(?)その1、夕張さんです。装備の開発を担当されています。機械とか発明が大好きな人ですね!


五月雨「いえ、提督がこちらに来てないかなーって」

夕張「あ、来てるよー。装備開発の指示をもらったところ。今は明石のところで改修してるんじゃないかな? 」

五月雨「そ、そうですか。開発は順調ですかっ」


と、とりえあず怪しまれないようにお仕事お仕事っ


夕張「うん、良い電探ができたよ。提督ってなんかすごいよね。開発するものに合わせたレシピ、すんごい詳しいの。わたしも結構調べてるんだけど、提督にはとてもかなわないなー」

五月雨「そうですね、提督はいつも夜遅くまで調べ物とかされてるみたいですから」

夕張「お仕事熱心だねぇ。わたしも負けないように頑張らないとなぁ。今のままじゃ、わたしはいらない子になっちゃうよ! 」

五月雨「提督は、夕張さんが来てくれて、開発が楽になったーっておっしゃってましたよ」

夕張「はぁ。役に立ってるならいいんだけどさ。自分より提督のほうが開発に詳しいって、やっぱくやしい~~。だからもっと頑張るよ! 」

五月雨「あはは……。良い装備ができるといいですねー」

夕張「そだね! そうそう、提督と明石なら、あっちの工房のほうに居ると思うよ」

五月雨「ありがとうございます!」


うーん……装備開発だけをして、すぐ明石さんのところに行っちゃったみたいです。これは、夕張さんは違うような気がします……。




――――― 少し後 工廠内 工房(の、窓の外)

コソコソ……コソコソ……。無事工房に接近できたんですが……。どうにか中を覗きたいところです……あと声も聞こえないかな……ああ、機械の音がうるさくて、声とか聞こえる気がしません!


五月雨「せめて窓から中を……でも背が届かない……あ、この箱を足場にして……」


よいしょ、よいしょ


五月雨「こ、ここで背伸びをすればなんとか……(ぐらっ)……え……、え……、え……、う、うわぁぁぁぁ!!」

ドンガラガッシャーン


五月雨「あ、あいたたたた」

明石「何事ですかっ。あ、五月雨さん、大丈夫ですか!? お怪我は!? 」


おもいっきり転んでしまったみたいです……


五月雨「げほっげほっ……痛たたた……大丈夫みたいです、ありがとう、明石さん」




――――― 工房内

明石「これなら入渠する必要も無いですね。絆創膏ぐらいでOKです。あんなすごい転び方だったのに、五月雨さん丈夫ですねー」

五月雨「あは、あはは……転び慣れしてるといいますか……」

明石「それで、どうしたんです? 工廠に来るなんて珍しいですね」

五月雨「あ、はいっ。急ぎでは無いんですが、提督がこちらに来てるかなーっと」

明石「提督でしたら、今日の装備改修を終えて、もう行かれましたよ。また妖精さんを見てるんじゃないですかね」

五月雨「妖精さんを……ですか? 」

明石「ええ、提督は妖精さんがよほど気になるようで、以前から熱心に、妖精さんのことを聞かれてるんですよ。妖精さんをじーっと見つめている時間も結構ありますね」


……こ、これは……まさか……予想もしていませんでした……


五月雨「明石さん、ありがとうございました! 早速行ってみます!」

明石「はい、多分、建造ドックに居ると思いますよ」




――――― 建造ドック

提督「………………………………」


居ました!提督ですっ。いつも工廠に行くと、なかなか戻られない理由はこれでした……。てっきり、夕張さんや明石さんとお話していると思っていたのに……。


提督「………………………………」


すごい……本当に真剣に見てる……。妖精さんって、喋らないし小さいけど……確かにかわいいですもんね……。提督が……そういうご趣味だったなんて……知りませんでした……


でも、ダメダメだめですっ! 相手は妖精さんじゃないですか! お話もできないし……そんな片思い、寂しすぎますっ。何とかして提督をお止めしないと……。


提督「………………………………」


でも、あんなに真剣に見つめて……。提督、本気なのかな……。うう、とりあえず今日はもう戻ろう……提督より遅くなっちゃダメですし……。


あまりのショックにがっくりと肩を落として、トボトボと執務室に帰りました。提督が本当に本気だったら、わたし、どうしたらいいんでしょう~~~~



本日分は以上となります。また明日、続きを投下予定です。
妖精さんが普通にしゃべる鎮守府もあるかと思いますが、このお話の世界の妖精さんは、アニメ版のようなイメージで、しゃべりませんが、こちらの言葉や意思は理解して、うなずいたりしてくれるという設定です。


――――― 夜 第二駆逐隊の部屋

夕立「まさか妖精さんが本命だったなんて、びっくりっぽい~ 」

村雨「いや、あの、おかしいでしょ? 」

春雨「そうだよ、絶対勘違いだよ~ 」

五月雨「でもでも、本当に、ものっすごく真剣な目で、じっと妖精さんを見続けてたよ。あんな提督、はじめてだよ……」

夕立「確かに、妖精さんたちはかわいいよね。あたしも大好きっぽい~ 」

五月雨「そうだよね~~、あんなにかわいいんだもん、夢中になってもおかしくないよね」

村雨「その結論がおかしいよっ 」

春雨「だって、あんなに小さな妖精さんだよ? 恋愛対象じゃないよ、絶対! 」

五月雨「そうなのかなぁ~~」

夕立「でも、提督も変わってるから、趣味が変わっていてもおかしくないっぽい? 」

五月雨「うわーん、やっぱりそうなんだぁ~~」

村雨「もう、夕立はちょっと黙ってなさいっ! 」




村雨「いーい、五月雨? すごくかわいい子猫が居て、五月雨がとってもとってもかわいがっていたとして……」

五月雨「うん……」

村雨「その子猫がオスでも、恋愛対象にはならないでしょ? それと一緒だよ! 」

五月雨「じゃあ、提督は、妖精さん大好きっ! だけど、恋愛対象ではないってこと……? 」

村雨「そ、それはそれでイヤだねぇ……」

春雨「で、でもさ、今日はたまたま気になることがあって、それで見ていただけかもしれないよ? 妖精さんじゃなくて、作っているものとか開発とかのほうが気になっていたのかもっ! 」

村雨(春雨、ナイスフォロー!)「そうそう、慌てて結論を出さずに、また工廠に行ってみればいいよ! 」

五月雨「そっか……そうだね、今日何かあっただけかもしれないもんね。よし、次も頑張って尾行するね! 」

夕立「おお~、すっかり、美少女探偵五月雨ちゃんっぽい~ 」

五月雨「な、なにそれ……? 」

村雨(ま、まぁ、今日のところは、こんなところでいいかな)チラッ

春雨(う、うん、少なくとも暴走を止められただけで良しとしましょう)チラッ




――――― 数日後 提督執務室

あれからもずっと提督観察を続けていますけれど、執務室からは出ないし、執務室メンバーとも相変わらず……。調査は一向に進んでいません。また工廠に行くときには……。


提督「さて、ちょっと工廠に行ってきます。多摩さん、降りて下さい」

多摩「せっかく気持よく寝てたのににゃ~」


き、来ました!


五月雨「はい。また打ち合わせですか? 」

提督「ええ、夕張さんと開発方針の打ち合わせと、明石さんと装備改修の話を」

熊野「それでしたら、20.3cm砲の改修を是非おねがいいたしますわ」

提督「今は対空装備を頑張っていますが……確かに20.3も強化したいですね。検討してみます」

三隈「三隈砲の方も是非強化してくださいませ♪ 」

提督「そ、それは……そのうちに……(ネジが足りない)。それでは行ってきます」

五月雨「はい、行ってらっしゃいです」

球磨「行ってらっしゃいクマ~」

卯月「いってらぴょーん! 」




さて……追いかけないとっ! でも、お留守番どうしよう……

五月雨「そ、そういえばー、大切な用事があったのを忘れてたなー(棒) 誰かお留守番してくれないかなー 」

卯月「じゃあ、うーちゃんがお留守番してるぴょん! 」

五月雨「うーちゃんありがとう! 今度おやつおごるから! じゃ、じゃあ行ってきますっ」(ばたばたばた)

バタン


熊野「……怪しいですわね」

三隈「……怪しいですわ」

球磨「……怪しいクマ」

多摩「……怪しいにゃ」

卯月「ぴょん? 」

熊野「もしかして、工廠に行くっていうのが合図なのかしら? 」

球磨「でも、そんな回りくどいことをする必要は無いクマね? 」

三隈「そもそも、執務中に二人で抜け出す必要もありませんですわ」

多摩「示し合わせての逢引ではないっぽいにゃ」




三隈「提督の浮気を疑って、五月雨さんが調査しているという可能性はいかがでしょう? 」

熊野「浮気もなにも、二人はそこまで行っていませんわ」

球磨「そういう関係でなくても、好きな相手が誰かと仲良くしていたら気になるクマ? 」

多摩「じゃあ、五月雨が、提督を尾行しているにゃ? 」

熊野「そのあたりですわね。とりあえず、わたくしも五月雨さんを尾行してみますわ」

三隈「あら、そんな楽しそうなこと、くまりんこもご一緒します♪ 」

球磨「もちろん行くクマ」

多摩「行くにゃー」

熊野「そんなぞろぞろとついていったら見つかってしまいますわ」

球磨「五月雨は鈍いから、きっと大丈夫だクマ」

多摩「五月雨は野性がまるで無いから、大丈夫にゃ」

熊野「確かに……そうかもしれませんわね。良いですわ、皆で行きましょう。あ、卯月さんはお留守番をお願いしますわ」

卯月「??? 何の話か、うーちゃんよくわからないけど、お留守番はわかったぴょん! 」




――――― 工廠

提督「………………………………」


提督……やっぱり、今日も熱心に妖精さんを見てる……。暇そうな妖精さんに声をかけたり……。やっぱり……やっぱり……


熊野「提督は何をしてるのかしら? 五月雨さんは予想通り尾行中みたいですわね」

三隈「……提督はずいぶん熱心に見ておられますね。建造を見ているのかしら? 」

球磨「うーん、建造というより妖精さんを見ているクマ? 」

多摩「妖精さんは、ついつい追いかけたくなるにゃ……」

熊野「もう少し近くに寄ってみますわ……みなさん、静かについてらして」


コソコソコソコソ


提督「………………………………」


あれ、でも、いろんな妖精さんを見たり話しかけたりって変ですね。『この妖精さんを愛してる!』ということなら、そんな風にはならないはずですよね……。妖精さんみんなを愛してる……? うーん、なんだかしっくり来ませんね。


熊野「本当に熱心に見ておられますね。話しかけたりもしてますわ」

球磨「妖精さんと友達になりたいクマ? 」

三隈「くまりんこは、三隈砲の妖精さんとはお友達ですわ」

五月雨「そうなんですよね、妖精さんに片思いしてるのかと思ったんですけど、ちょっと違うみたいな……」


あれ?




五月雨「って! みなさんどうしてここにっ! 」

球磨「声が大きいクマ! 見つかってしまうクマ! 」

多摩「まずいにゃ……提督が気がついた見たいにゃ」


提督「あれ、どなたかいらっしゃいますか? 」


ど、どうしましょう! 尾行がバレてしまいました……逃げられる場所も無し……ピンチです!


多摩「にゃ、にゃー」

球磨「が、がおー」


……流れに身を任せましょう


五月雨「わ、わん」

三隈「くまっ♪」

熊野「…………ガオー」


提督「…………」

提督「なんだ、通りすがりの犬と猫と熊でしたか……。さて、そろそろ執務室に戻らないと……その前に少しだけ間宮さんのところに寄り道をしておみやげを買って行きましょう、そうしましょう」


テクテクテクテク




五月雨「ふぅー、良かった、気づかれなかったみたいですね」

多摩「とっさの機転がきいたにゃ」

球磨「多摩、ナイスクマ!」

熊野「…………(みなさん、本気で言っているのかしら)」

三隈「さぁ、提督より先に執務室に戻りましょうっ! 」

五月雨「そうでしたっ! 急げ急げー」


五月雨「っとそうだ、皆さんどうしてここに? 」

球磨「五月雨がコソコソ出て行くのが怪しかったから、尾行したクマ」

熊野「隠し事はいけませんわ」

多摩「そうにゃー」

三隈「ご相談にのりますのに」

五月雨「うう、別に怪しいことをしているわけでは……ちょっと提督を尾行してただけですよ~」

熊野「すんごく怪しいですわ、それ」




三隈「どうしてまた尾行なんて……? 」

球磨「探偵ごっこクマ? 」

五月雨「遊びじゃありませんっ! えっと、提督の好きな人って、もしかしたら明石さんか夕張さんなのかなって思って……最近、よく工廠に行きますし……。それで、先日も尾行してみたんです」

多摩「ふむふむ。確かに最近、工廠に行くために膝から降ろされることが多いにゃ」

五月雨「そしたら、夕張さんや明石さんとはお仕事の話だけをして、後はひたすら妖精さんを見ていたんです。それで、提督はまさか妖精さんに片思いしてるんじゃないかなって」

熊野(ぶほっ…)「わたくしとしたことが、吹き出してしまいましたわ……」

三隈「確かに妖精さんは可愛らしいですが……そんな……提督、それは茨の道ですわ……」

球磨「衝撃的クマね……。それが本当だったら、さすがのクマもドン引きクマ……」

五月雨「それで、今日は確認のためにも、また尾行してたんです……」

熊野「五月雨さん、さすがに妖精さんがお相手というのは飛躍が過ぎましてよ。実際、今日の様子を見る限り、そんな感じではありませんわね」

多摩「そうにゃ。あれは、ハムスターの檻を眺める猫のような目だったにゃ」

三隈「まぁ……妖精さんを食べてしまうおつもりでしょうか」

球磨「怖いこと言うクマ……。じっくり観察していた、という意味クマね」

三隈「そうですわね、まさに観察? 研究? そんな感じでしたわ」

五月雨「はぅぅ、では、わたしの勘違いでしょうか」

熊野「間違いなく、勘違いですわね」


うう……どうやら、またやっちゃったみたいです……




――――― 少し後 提督執務室

提督「戻りました」

五月雨「おかえりなさいっ」(ぜぇぜぇ)


間一髪ですっ。うっかり話し込んでしまって、帰るのが遅くなってしまいました!


熊野「おかえりなさいませ」(はぁはぁ)

球磨「おかえりくまー」(ぜぇぜぇ)

提督「なんだかみなさんお疲れですね。間宮さんのところでおまんじゅうを買ってきましたので、どうぞみなさん、お茶でも飲んで一息ついて下さい」

三隈「みなさんなんだか息切れされてますし、冷たい麦茶にいたしますね」

熊野(提督は間違いなく気がついていたはずですわ。でも、何も言いませんのね……)


球磨「はー、麦茶が美味しいクマ」

五月雨(ごくごく)「ふー、生き返ります。三隈さんありがとうございます」


うーん……提督、妖精さんに片思いをしているわけではないのでしょうか……。だったら、どうしてあんなに妖精さんを見てるんでしょう……。




――――― 夜 提督執務室

提督「さて、今日も終わりですね」

熊野「はい、では提督、ごきげんよう」

三隈「ごきげんよう♪」

球磨・多摩「また明日クマー、にゃー」

五月雨「提督、今日はどうされますか? 」

提督「もう少し仕事がしたいので、五月雨さんは残って頂いて大丈夫ですか? 」

五月雨「はい、喜んで! 」


――― 二人で作業中 ―――

提督「あ、そういえばですね」

五月雨「はい? 」

提督「今日、工廠で、ネコとイヌとクマが通りかかりましたよ。最近は物騒ですね」

五月雨(ぶっ!)「へ、へぇ~、意外と動物が入り込んだりするんですね(棒)」

提督「はい、普段は執務室を巣にしているようですが、たまには工廠に出没するようです」


あわわわ……もしかして……バレちゃってます!


五月雨「あうぅぅ……ごめんなさい……(しゅん)」

提督「いえ、怒っているわけではありません。ただ、どうしてまた後をつけるような真似をしたのか、それがわからなくて」


うう、言えない……でも、嘘はつきたくない……ちょっとだけぼかして……


五月雨「その……。提督、最近は良く工廠に行かれるし、行くとなかなか帰ってこないから……。それで、熱心に妖精さんを見ているって聞いて……。どうしても気になって……」

提督「なるほど、そうでしたか、ご心配をかけたようで申し訳ありません」

五月雨「い、いえ、わたしが尾行とかしちゃって……」




提督「……まだ詳しいことはお話出来ませんが……。そうです、確かに妖精さんの観察に行っていました」


や、やっぱり……でも……きっと、真面目な理由です


提督「五月雨さん、妖精さんってどう思いますか? 」

五月雨「えっと……かわいいですよね! 」

提督「はい、確かに可愛らしいとは思いますが、そういう意味ではなく……。その存在は、不思議だと思いませんか? 」


……? 存在が不思議……? どういう意味でしょう……


提督「妖精さんがどういう存在なのか? 僕は……いえ、僕だけでなく人類は、全くわかっていません。そもそも存在を証明出来ません」

五月雨「???」

提督「工廠を建てると、いつの間にかそこにいる。資材を渡すと、人間ではとても作れないような物や存在を生み出す。捕まえると消えてしまう……。妖精さんとは良く言ったもので、科学的に存在を証明できないファンタジーな存在です」

五月雨「うーん……確かに、言われて見れば不思議ですよね。いつもそのへんで忙しく働いていて、かわいいなーぐらいにしか思っていませんでしたけれど……」

提督「僕は、もしかしたら妖精さんがすべての鍵になるかもしれないと考えています。ですが、なにせ謎に包まれていて、資料も何もありません。ですから、せめてこの目で見て、少しでもコミュニケーションを取って、出来る範囲で情報を集めようと思っています」


うう、わたしが、提督が妖精さんフェチなんじゃないかなんて馬鹿なことを考えている間に、提督はこんなに難しいことを……。とほほです~~


五月雨「そうだったんですか……。ごめんなさいっ、そんな大事な理由があるとは知らず(ペコペコ)」




提督「いえ、黙っていた僕が悪いんです。とは言え、先程も申し上げましたが、いろいろ思うところがあって、まだ詳しくはお話出来ません」

五月雨「…………」


秘書艦としてずっと一緒にやって来たわたしですけれど……それでもやっぱり言えないことはあるんですね……軍事機密ってやつでしょうか。ちょっと寂しいですけど、仕方がないです……


提督「ただ、五月雨さんは、僕が誰よりも信用し、信頼している人です。良い機会ですので、近々渡そうと思っていたものを、今渡してしまいます。これを」


チャリン……


五月雨「これは、ネックレス……いえ、鍵ですね」

提督「はい、僕の執務机の、この一番下の引き出しの鍵です。明石さんに特注しまして、鍵を使わずにこじ開けたりすると、中身が焼却されるように出来ています」

五月雨「……」

提督「僕の身に何かあったら、ここを開けて下さい。中に手紙と資料が入っていますので、それを読んで行動して下さい」

五月雨「……大事なもの……なんですね……? 」

提督「はい。本当に万が一の話ですが、最悪、僕が何者かに殺害されたり、連れ去られた時に必要になります」

五月雨「そ、そんな!!! 」

提督「そんなヘマをするつもりはありませんが、万が一に備えるのが司令官の努めです。それを託せるのは五月雨さんだけなんです。どうかよろしくお願いします」

五月雨「はい……確かに……受け取りました……」


ネックレスになっている鍵を、大事に首から下げました。落とさないように服の中に入れたので、ちょっと冷たいです……。ここに大切なものがあるって、知らせてくれているみたいな……。




五月雨「提督……また……お膝に乗せて頂いていいですか? 」

提督「あはは、どうぞ」

五月雨「失礼します……」

提督「……顔色が悪いです。それに、震えていますか? 」

五月雨「……はい……怖いです……。わたしたちを取り巻くものとか……考えたこともなかった別れとか……提督の身に何かが起こるとか……怖いです……」(カタカタ)


わたしたちは深海棲艦と常に戦っています。ですから、誰かが怪我をしたりする恐怖はありました。でも……それとは全然違う……すごく息苦しいような……そんな怖さを感じていました。


提督「嫌な話をしてしまいました。ごめんなさい」

五月雨「いえ……だって、理由があるんですよね? 」

提督「……はい。でも、正直言えば迷っています。ですから、僕にもう少し時間を下さい」

五月雨「……わたしは、提督の秘書艦です。生まれた次の日からずっとずっと一緒でした……ですから、これからだって、いつまでも一緒です……」

提督「ありがとう……」


ナデナデ


提督は……何を考えているんでしょう……何を迷っているんでしょう……。頭を撫でてもらって安心する反面……提督はなんだか寂しそうで……。

わたしは秘書艦です。提督の力になりたい! でも……わたしで役に立てるんでしょうか……。



本日分は以上です。続きはまた明日投下予定です。
おそらくあと数日で終わります。イベント開始までには終わらせたいけれど……。備蓄備蓄……レベリングレベリング……。
それでは、よろしければまた明日お越しください(o_ _)oペコリ


――――― 数日後 夜 鳳翔さんのお店

足柄「じゃあ、かんぱーい! 」

五月雨「かんぱーい! 」


あれから数日。わたしは元気が出ない日々を送っていました。そんな中、今日は足柄さんが晩御飯に誘ってくれました。気分を変えたいわたしとしては、とっても嬉しいお誘いです。


足柄「ぷはー! やっぱり仕事後のビールは最高ね! 」

五月雨「あはは、わたしもお酒飲めたらいいのになー」

足柄「お、いい傾向ね! じゃあ、試してみましょう。飲みやすいのからっ」

五月雨「ええー! 大丈夫でしょうかっ」

足柄「大丈夫よ~。鳳翔さーん、五月雨がお酒試して見たいって。ホット梅酒とかがいいかしら? 」

鳳翔「そうですね、では、うすーく作りますね」



五月雨「ふーふー。うん、これならわたしでも大丈夫です(ちびちび)」

足柄「お酒を飲めるようにしておくのはいいわよー。元気が出ない時、気持ちを切り替えるにはお酒が一番ですもの(ぐびぐび)」

五月雨「……みんなも元気を出すためにお酒を飲んでるのでしょうか……」

足柄「そうとは限らないわよー。お酒飲んでると楽しいからね。楽しむために飲んでる子も多いと思うわ。隼鷹とか隼鷹とかね! 」

五月雨「あはは、そうですね。ひゃっはー! 」

足柄「そうそう、その調子。ひゃっはー! 」


足柄「さて、ちょっと元気が出たところで、何があったか教えてもらおうかしら」

五月雨「うーん、何がっていうと……」

足柄「なんかここ数日元気が無いって、村雨が心配してたわよ。さ、言えることだけでいいから話してごらんなさいな」

五月雨「はい……」



……五月雨説明中……

五月雨「そんなわけで、提督が好きな人って、実は妖精さんなのかなって思って尾行をして、で、提督にバレちゃいました」

足柄「ぶはははははは! 傑作ね、それ! そっかー、妖精さんに片思いね。五月雨、すごいこと考えるわね」

五月雨「笑わないでください~~。わたし真剣なんですからっ」

足柄「ごめんごめん。でも、さすがにそれはなかったでしょ? 」

五月雨「はい……提督は、妖精さんっていう不思議な存在をもっと知ろうとしてるだけみたいです。あ、これは一応内緒でお願いします」

足柄「はいはい。うーん、でも、それでどうしてそんなに元気無くなったの? 妖精さん疑惑は誤解だったんでしょ? 」

五月雨「うーん……説明が難しいですけど……」(ちびちび)

足柄「お酒の席だもん、適当でいいのよ、適当でっ」(ぐびぐび)

五月雨「うーん……なんといいますかー」

足柄「ふんふん」

五月雨「提督が……うーん……わたしの知らない調べ物とかするようになったり、わたしの知らないところで誰かと仲良くなったり……」(ちびちび)

足柄「ふんふん」(ぐびぐび)

五月雨「わたしの知らないところで……誰かに……恋……したり……。危ない目にあったり……。最近、そういうことを考えてばかりで……」(ちびちび)


そう、そうなんだ。前は提督のことは何でもわかってるつもりだった……。なのに今は、提督のことで分からないことばっかり。それが……すごくイヤなんだ……




足柄「なるほどねー。五月雨は、提督のことで、自分が知らないことがあるのがイヤって感じなのかしら? 」

五月雨「そう……そうかもしれません。だって、最初からずっと秘書艦として横にいるのに……」

足柄「でも、ちょっと変ね」

五月雨「変……ですか?」(ちびちび)

足柄「わたしなんて、同室でいっつも一緒にいる姉妹たちのことだって、知らないことはいっぱいあるわよ。でも、別に気にならないわ。五月雨だってそうじゃない? 」

五月雨「……そうですね、確かに、姉妹のことだって知らないことはいっぱいあります……」

足柄「問題はそこよ。五月雨はどうして、提督のことだけは、全部知っておかないとイヤなの? 」

五月雨「……わかりません……」




足柄「それって、独占欲かしら? 」


独占欲……独り占め……わたし、提督を独り占めしたいの?


五月雨「うーん、ちょっと違う気がします。独り占めしたいみたいな気持ちじゃないです……」

足柄「じゃあ、提督の一番とか特別で居たい!っていう気持ちっていうのでどう? 」


あ……そうです。わたしはきっとそう思っているのです……。


五月雨「きっと、その気持ちです。わたしは、秘書艦として、最初から一緒の艦娘として、提督の特別で居たいんだと思います」

足柄「今でもいつでも秘書艦だし、十分特別扱いじゃない。それでもダメなの? 」

五月雨「ダメっていう訳じゃないですけど……もっともっと特別で居たいのかも……? 」

足柄「すでに公私ともに特別なのに、もっと特別になりたいなんて、五月雨は欲張りねー」

五月雨「わたしって、欲張りなんでしょうか……? 」

足柄「でも、しょうが無いのよ。ある病気にかかった女の子は、みんなそうなるんですもの」

五月雨「……わたしって、病気……なんですか……? 」

足柄「そうよ。恋の病ってやつね。あなた、提督に恋してるのよ。ま、そんなのみんなとっくに知ってるけれどね」




五月雨「ぐすぐす……ううう……わたしって、やっぱり提督に恋してるんですか? 」

足柄「間違いないと思うわよ。やっぱり自分ではわかってなかったの? 」

五月雨「わからないんです……提督のことは大好きですけど、姉妹のみんなのことも、足柄さんのことも、比叡さんのことも、みんな大好きですし……」

足柄「……でも、他の大好きな人たちが、何に興味があるとか、誰と仲が良いとか、そういうことで一喜一憂してる? 」

五月雨「ううう……してないです……ぐすぐす」

足柄「じゃあ、やっぱり、提督への『好き』は、特別なんじゃない? 」

五月雨「うう、そうなんだぁ、やっぱりそうなんだぁ、ぐすぐす……ぐすぐす……」

足柄(しまった、泣き上戸だ! )

五月雨「そ、そんなのダメなのに……わたしなんかじゃ……ぐすぐす」

足柄「ほ、ほら大丈夫よ! 提督も五月雨のことが好きに決まってるんだから、仲良くしていけるわ」

五月雨「ううう、そんなわけ無いじゃないですかぁ~、うわぁーん」

足柄「ほ、ほんとよ。ほら、お水お水」

五月雨「ぐすぐす、うわぁ~~ん、うわぁ~~ん……」(バタン)

足柄「あ、突然落ちる系なのね。めんどくさくなる前で良かったわ」

五月雨「zzz…………」




鳳翔「あらあら、五月雨さんは寝てしまいましたか。でも、これで少しは前進するかもしれませんね」

足柄「すごいですよねー。1年間かけて進展無しとか、わたしには信じられないですよ」

鳳翔「提督も五月雨さんも草食系ですからね」

足柄「それにしても、ゆっくり過ぎると思いません? 」

鳳翔「そうですねー……。確かに、外野としてはヤキモキしますけど……。お二人には、このペースで良かったのかもしれないですね」

足柄「? というと? 」

鳳翔「お二人とも、どちらかと言えば自分に自信が無くて……相手に愛されているって信じることが出来ないタイプだと思いませんか? 」

足柄「あー、それは言えますね。二人とも愛されまくりなのに」

鳳翔「しかも、五月雨さんは、自覚なく自然と愛されているタイプで……。それが当たり前だからこそ、いざ自覚して愛されよう、愛されたい、なんて思うと、どうしたらいいか分からないのかもしれませんね」

足柄「なるほどー」

鳳翔「そんな二人でも、積み重ねてきた時間があれば、自分や相手の愛情を信じられるかもしれないですよね。ですから、そのための時間だった……と、思いたいです。いい加減、見ているこちらもハラハラしてしまいますから」

足柄「あはは、同感です! はぁ、ここは姉貴分としてもうひと肌脱ぎますか。鳳翔さん、五月雨をお願いしていいですか? 」

鳳翔「はい、お任せ下さい。足柄さんはどちらに? 」

足柄「もう一人の当事者のところへ」

鳳翔「まぁ! がんばってくださいね」

足柄「何とか焚き付けてきますよっ! 」




――――― 少し後 提督執務室

コンコンコン

提督「どなたですか? 」

足柄「足柄です。少しよろしいですか? 」

提督「ちょっとお待ちください。」(ごそごそごそ)


提督「どうぞ」

足柄「失礼します」

提督「どうされました? 」

足柄「少しお話があるのですが、大丈夫ですか? 」

提督「構いませんよ。ではソファーの方にどうぞ。お茶を入れますので」

足柄「いえっ! お構いなくっ」

提督「何かお話があって来られたように思います。長くなりそうですし、お茶は入れておきますよ」

足柄「はい」

足柄(この人はもう以前とは違う……。元々、何事にも動じない人だったけれど……どこまでもどっしりとした落ち着き・冷静さを感じる……。ちょっとやそっとの揺さぶりでどうにかなる感じじゃないわね)




提督「……」

足柄(うーん、でも話を促しもしないし……徹底的に受け身なのは変わらずね。これは苦労しそうだわぁ)

足柄「さてお話ですが。五月雨がここのところ元気が無いと聞いて、先程まで一緒に飲んでました」

提督「確かに元気が無いですね」

足柄「お気づきでしたか……。原因に心当たりはありますか? 」

提督「はい、原因はおそらく僕が話したことです。数日前にちょっと」

足柄「五月雨から聞きましたけど、妖精さんを観察しているとかそういう件ですね……。それでどうして五月雨が落ち込むのか分かりませんが……」

提督「ふむ……五月雨さんが故意に内緒にしたのかうっかり言わなかったのかは分かりませんが……ポイントはそれではないですね」

足柄「と言いますと? 」

提督「万が一、僕の身に何かあった時にはここを見るように、という、まぁ、遺言のようなものの話をしたんですよ。そしたら急に元気をなくされまして」

足柄(ああ、なるほど。提督が居なくなるとか死んでしまうとかの可能性を実感して、急に怖くなったのね。かわいい乙女心じゃない)




足柄「今のお話で、五月雨が元気がない理由は分かりました。でも、提督は、五月雨が元気が無いことも、その理由もご存知なのに、どうして何もされないんです? 」

提督「うーん、さすが、痛いところを突きますね。そうですね、本来なら僕がケアすべきでした。ただ、この件に関しては僕にも迷いがありまして、それで手をこまねいていた次第です」

足柄「迷いですか……。良かったら聞かせて下さい」

提督「……あまり人に話すようなことでは無いですね」

足柄(ここで押さないとっ)

足柄「迷った時は誰かに相談するのも一つの考え方ですよ。わたしは女ですから、提督よりは五月雨の女心が分かると思いますし……それに、わたしは秘密を守るって信用して下さってるんでしょう? 」

提督「……足柄さん、交渉事も上手ですね。分かりました、お話します。ただ、秘密にして下さい」

足柄「承知しました。必ず秘密にします。それで、どういう悩みなんですか? 」

提督「……足柄さんは、僕が非合法な手段で情報を手に入れていることはご存知かと思います」

足柄「はい。本当に感心しています」

提督「……最初は、目先の戦いを勝ち抜くために、情報を交換していました。ですが今は……4人の同志で、もっと先を見据えた戦略的な協力関係を作っています」

足柄「……具体的にはどういう……? 」

提督「目先の戦いを勝つためではなく、この戦いの本質を知ること、勝つ事、そして戦いを終えた後にも生き残ること……。そういったことです」

足柄「……あまり考えたことがなかった内容ですから、ちょっとなんとも言えませんが……」




提督「うーん……あまり具体的にはお話できませんが……。深海棲艦がどうして生まれるのか? どうすれば滅ぼして戦いを勝利できるか……。そういったことです。僕はそういう研究・調査が得意ですから、そういう部分で同志に貢献するようにしています」

足柄「……なるほど。でも、それが五月雨にどのように関わるのですか? 」

提督「僕はすでに、非合法な調査に足を踏み入れています。ま、同志と情報交換している時点で軍法会議ものですが、僕の調査内容や調査範囲を上に知られたら、まず消されるでしょう」

足柄「……巻き込みたくないのですか? 」

提督「有り体に言えばそういうことですね。あとは……向き不向きの問題で……。五月雨さんは、一生懸命で誰からも愛される素敵な人ですが……その分、人の悪意や裏側は苦手に見えます。この手の調査は、そういう部分と向き合うことになりますから、なおさらですね」

足柄「なるほどー。でも、わたしが五月雨だったら、きっと怒りますよ」

提督「……悲しむのではなく、怒るのですか? 」

足柄「そうですよ! 相談もせずに離れていくなんてとんでもないっ。一緒に行こうって言ってもらえれば、選ぶこともできますが、勝手に離れられたら何もできません」

提督「なるほど……そういう意味ですか……。そうか、こちらで勝手に決めるのは失礼かもしれないですね」

足柄「そうですよ。五月雨だって泣いて怒ると思いますよ。わたしなら往復ビンタですね! 」

提督「あはは、怖いですね」




足柄「五月雨、寂しがってます。ちゃんと話してあげて下さい……」

提督「…………」

提督「実はもう一つ……僕は、五月雨さんに、ものすごく大きな負い目があります」

足柄「負い目……? 」

提督「これを話したら、さすがの五月雨さんでも僕を軽蔑するかもしれません。それが怖くてというのもあります。でも、やっぱり話すべきなんでしょうね……」

足柄「……提督。わたしの知っている五月雨は、いつでも一生懸命で、どんな相手でも偏見なく、まっすぐ受け止める。そういう尊敬できる子です。きっと、どんな話でも、まっすぐ聞いてくれます。それで……その負い目を持つに至った苦悩も、ちゃんとわかってくれると……そう思います」

提督「そうですね……そうかもしれません。僕は、いつかは話さないとと思っていながら、ずっと立ち止まっていました。そうですね、これをきっかけに、ちゃんと話してみます。足柄さん、ありがとうございます」

足柄「いえ、お役に立てたなら嬉しいです……。ていうか……」

提督「……?」

足柄(提督が五月雨のことで立ち止まってるのって、恋愛経験が無くてマゴマゴしてるだけだと思ってました、ごめんなさい! 深い悩みがあってのことだったのですね。でも大丈夫! お互い好きならきっとうまくいきますっ。なんて言うわけにもいかないから……)

足柄「お二人はずっと二人三脚でやってきたじゃないですか。そんな他人行儀はやめて、もっと二人で話して下さいっ! まわりは心配でやきもきしちゃうんですからっ! 」

提督「あはは、承知しました。明日にでも早速話してみます。どこまで話せるか分かりませんが……」

足柄「ええ、がんばってください! 」


本日分は以上となります。次の更新は、早くて月曜日になると思います。
長く読み続けて頂いている方には申し訳ありませんが、少しおまたせします。またお越しくださいm(_ _)m


――――― 翌日 提督執務室

提督「五月雨さん、遠征資料はどちらでしょうか」

五月雨「は、はひっ。忘れてました、すぐご用意しますっ」(ばたばたばた)

提督「慌てませんので、どうか気にせずゆっくりと」

五月雨「い、いえ、わたしのミスで、って、うわぁああ(バサバサバサ)」

三隈「たいへん! 集めるの手伝いますわ」

熊野「わたくしも。でも、どうしましたの今日は? いつもにもましてドジですわね」

五月雨「あ、あはは、ごめんなさいっ! 」


昨夜、目が覚めると鳳翔さんのお店でした。その後、鳳翔さんにもいろいろお話を聞いて頂いて……。足柄さん、鳳翔さん、ありがとうございますっ。それでその……ああ、わたしって提督のことが本当に大好きなんだなー……って思って……。

そうしたら、今日は、なんだか提督のことをちゃんと見れなく、落ち着かなくて、それでもう、朝から失敗ばっかりです! こんなことじゃダメです。気合! 気合です!




――――― お昼 鳳翔さんのお店

三隈「五月雨さん、どうしてしまったんでしょうね? 」

球磨「今日はいくらなんでも変クマ。だから緊急対策会議をするクマ」

多摩「対策っていってもこまるにゃー。そもそも原因がわからないにゃ」

熊野「原因なんて、提督がらみに決まっていますわ」

三隈「でも、ケンカをしたとか、そういう感じではありませんわ。提督はいつもどおりですし」

多摩「ケンカは無いにゃ。そういう敵意みたいなものは一切感じないにゃ」

熊野「おそらくですが……。五月雨さんは提督が誰が好きかで悩んでましたわ。妖精さんが好きなんじゃ?みたいなおかしなことも言ってましたし。ですから、きっとそれがらみですわね」

球磨「五月雨のことだから、またおかしなことを考えて、一人で暴走してるクマね」

三隈「もしかしたら、今度は『提督は深海棲艦に恋してるんじゃ?』みたいに悩んでいるのかもしれないですわ」

熊野「……あの子だと、あながち冗談にならないのが怖いですわね」

多摩「どうしたらいいにゃ? 」

球磨「このままだと、一つ誤解を解決するたびに、また新しい誤解をして……って繰り返すクマね」
熊野「難しく考えず、提督とちゃんと話をするのが一番ですわね」

三隈「それでしたら、お二人がゆっくりお話できる場を設定するというのはいかがでしょう♪」




多摩「でも、夜には残業で大体二人きりにゃ? 」

熊野「二人きりでも、黙々とお仕事してるのが目に浮かびますわね……」

球磨「自然と二人きりになれて、仕事からも開放されて……なかなか難しいクマ」

三隈「それでしたら、みんなでお夜食を用意して、お二人に渡しておくと言うのはいかがでしょう。お夜食中はお仕事もお休みするわけですし、執務室で二人きりになります♪」

熊野「それは自然で良いですわね。わたくしは賛成ですわ」

多摩「じゃあ、各自夜食を用意しておいて、夕方帰るときに渡すにゃ? 」

球磨「そんな感じクマね。じゃあ各自、美味しい夜食を用意しておくクマ! 」

三隈「はい、何に致しましょう……」

熊野「お夜食……やっぱりサンドイッチがよろしいかしら。三隈、一緒に作りません? 」

三隈「まぁ、素敵ですね。ご一緒致します」

球磨「クマは、これから美味しい物を捕りにいくクマ……」

多摩「良い獲物が居ると良いにゃ……」

熊野「ちゃ、ちゃんと人間が食べられるものにしてくださいまし……」




――――― 夜 提督執務室

提督「さて、今日はこのぐらいにしておきましょう。みなさんお疲れ様でした」

五月雨「はい~~、お疲れ様でした」


うう、結局、今日はドジばかりでした。こんなことで大丈夫なんでしょうか。


熊野「提督、今日は残業されますわね? 」

提督「そうですね、少し遅れを取り戻すつもりです」

三隈「それでしたら、今日はお夜食を用意いたしましたわ♪ 」

五月雨「うわぁ、サンドイッチですね。美味しそう~ 」

熊野「わたくしたちで用意しましたの。お二人で息抜きに食べて下さいまし」

球磨「クマは新鮮なハチミツを用意したクマ」

多摩「多摩はシーチキンにゃ……。多摩の一番好きなやつにゃ」

五月雨「あ、ありがとうございます……あはは(どうやって食べよう……)」

提督「ありがとうございます」

熊野「それでは、わたくし達はこれで失礼いたしますわ。ごきげんよう」

三隈「ごきげんよう♪」

球磨「晩御飯食べに行くクマっ」

多摩「一緒に行くにゃー」

五月雨「さ、うーちゃんも起きて。もう夕方だよ」

卯月「うー。もう夜ぴょん……。お腹すいたぴょん」

球磨「これからご飯食べに行くクマ。一緒に行くクマか? 」

卯月「ついていくぴょーん! 」


ゾロゾロ




――――― 少し後 鎮守府廊下

熊野「ふー、やれやれですわ。これで上手く行ってくれれば良いのですが……」

三隈「くまのんは偉いですわ。恋敵の応援をするなんて」

熊野「わたくしは、自分の恋のために、友人を邪魔するような真似はしたくありませんの」

三隈「すずやんが心配していましたわ。くまのんは、誇りのためにこっそり泣いてるって。今日は三隈もお姉さんらしく、くまのんを良し良ししてあげますわ♪ 」

熊野「も~~、子ども扱いしないで下さいましっ」

三隈「いいこいいこですわ♪ さ、もがみんとすずやんも誘って、みんなで夕食に致しましょう。みんなで賑やかにしていれば、寂しくなんてありません♪ 」

熊野「……分かりましたわ」

三隈「では、参りましょう♪ 」


熊野(もちろん、悲しくないわけではありませんわ。でも、好きな人や友人の幸せを願う気持ちも本当……。五月雨さん、今日は正念場ですわよっ。頑張って! )




――――― 夜 提督執務室

提督「さて、今日の分はこんなところでしょうか。せっかくですし、頂いた夜食を食べましょうか」

五月雨「はい、提督! お疲れ様でした。サンドイッチですし、紅茶を入れますね! 」

提督「そうですね、ハチミツも頂きましたし、紅茶にしましょうか」

五月雨「ふふふ、でも、お夜食の差し入れでハチミツって、なんだか不思議ですね」

提督「新鮮なハチミツと言っていましたが、まさか自分で蜂の巣から取ってきたんじゃないでしょうね……」

五月雨「あはは、まっさかー! ……ありえますね」


朝からずっとギクシャクしていましたけど、食べ物を前にして、ようやく普通に接することが出来ました! みなさん感謝です~~~。


五月雨「いただきまーす! はむっ。 たまごサンド美味しい~~」

提督「うん、美味しいです。サンドイッチは久し振りですが、良いものですね」

五月雨「おつまみ? のシーチキンもどうぞっ」

提督「多摩さんのとっておきなんでしょうね。ありがたく頂きます。……子どもの頃、猫が食べ物を分けてくれたことを思い出しますね……」

五月雨「猫が食べ物をくれるんですか? 」

提督「食べ物というか……。自分が捕まえた獲物を、枕元に持ってきて置いていくんですよ。どうやら、狩りも出来ない僕に、食べ物を分けているつもりだったらしくて」

五月雨「すごいです! やさしい猫ちゃんだったんですね! 」

提督「……起きた時、枕元に、鼠や鳥の死骸があったら、なかなかそんな風にも思えないですけどね……。モグラが置いてあったこともありました……」

五月雨「う、うわぁ……」


提督が、こうやってたまーに自分のことを話してくれるのが、わたしはすごく好きです。いつもこうやって楽しくお話できたらいいのに……。




提督「ふう、よく食べました」

五月雨「明日は、皆さんにお礼言わないとですね! 」(ぺろぺろ)

提督「……ハチミツ、そんなに美味しいですか? 」

五月雨「はい、このハチミツ、ほんとに甘くておいしいです~。止まらないですっ」(ぺろぺろ)

提督「……なんだか、今の五月雨さんはクマっぽいですね。またクマの勢力が強くなってしまいます」

五月雨「このハチミツが食べられるなら、クマでいいですよ~~」

提督「……僕は五月雨さんの、そういうところがすごく好きですよ」


!!!


五月雨「て、提督! 突然何をっ。クマっぽいのがいいんですかっ! 」

提督(苦笑)「いえ、そうではなく……。日々の様々なことに全力で……。良いことには全身で喜び、楽しむ。そういう生き方みたいなもののことです」

五月雨「はぅぅ、なんだか褒められている気がしません……」

提督「あはははは」


びっくりしました! うう、どういう意味なんだろう……




提督「僕はここに来て1年。当初思っていたことは『五月雨さんのように、やるべきことを一生懸命がんばろう』ということでした。覚えておられますか? 」

五月雨「うう、そんな風に言われると恥ずかしいですけど……そうですね、そういうお話をして頂いて、わたしもすごく自信になったり、もっとがんばろうって思えました。よく覚えています」


提督がすごく真剣な顔だ……。ど、どうしよう、きっと何か大事なお話が始まるんだ。


提督「その後、僕なりに頑張ってここまで来ました。とりあえず、仲間を誰も失わずに済んだことが一番ホッとしています」

五月雨「そうですね……誰かを失うなんて考えたく無いですけど……誰も失わずにすみました」

提督「仲間とともに戦い、勝ち進むこと。それは安定してできるようになりました。半年前ぐらいですよね。その頃にはようやく落ち着き、自信もついて……。目先のことだけでなく、もっと先のことや、他のことを考える余裕が出来ました」

五月雨「半年前……提督が、お一人で残って調べ物をされるようになった頃ですね……」

提督「さすが、良く見ておられますね。その通りです。前にもお話しましたが、僕には特別な才能やひらめき、カリスマ、そういうものはありません。ただ、地道に調べる、学ぶ。そういうことの積み重ねで、それを補ってきました。なので、自分の望むことのために、様々な調べ物をするようになりました」

五月雨「提督の……望むこと、ですか? 」

提督「そうです……。僕は弱い人間です。もちろん皆さんと共有できるような夢もありますが……とても人には言えないような、汚い欲望も持っています。そういう様々な気持ちを持って調査をしてきました……。その結果……」


提督……すごく苦しそう……




提督「その結果……前に進んだこともあれば……自己嫌悪で死にたくなるような事もあって……」

五月雨「そんなっ! 死にたくなるなんて冗談でも言わないで下さいっ! 」

提督「でも本当なんですよ。それで……僕は、ある部分においては完全に立ち止まってしまいました。でも……僕たちは戦いの中に居ます。今の状態がいつまで続くかもわからず、突然破局が訪れるかもしれません……。」


破局……つい、先日頂いた鍵に手が行ってしまいました。提督にもしもの事があった時に使う鍵……。わたしだけじゃない、提督だって怖いんだ……。


提督「本当にこのまま立ち止まったままでいいのか。勇気が足りなくてこのままで……。僕はそれでいいのかと。僕も……五月雨さんのように……あるいは足柄さんのように……熊野さんのように……時には勇気を出して前に進むべきだ。そう思って、今日は、お話を聞いていただきたいと思っています」




五月雨「その……わたしは頭が良くないので、提督のお心の中や、今のお話の意味がちゃんとわかっているか自信が無いです……。でも……提督の気持ちや悩み、夢……どんなことでも聞きたいです。少しでも知りたいです。ですから、どんなことでも、お話して下さい」

提督「分かりました。長い話になると思いますが……。どうか、聞いて下さい……。あはは、手が震えてます。僕の勇気の無さも相当ですね」

五月雨「提督、大丈夫です。提督はわたしを信じてるって言ってくれたじゃないですか! どんなお話だって……大丈夫ですよっ! 」


根拠は無いですけど! でも大丈夫です、大丈夫!


提督「……ほんと、そういう部分はいかにも五月雨さんです。ありがとう、では、落ち着いて、最初からゆっくり話させて頂きます」


こうして……提督とわたしの、最も長い夜(これまでの艦娘人生調べ)が始まろうとしていました。正直、わたしもとっても緊張していましたけれど……。提督の好きな人、そしてお預かりした鍵、そういう、ここのところずっと抱えていたモヤモヤがすべて終わるんだ。そんな予感がしていました。


本日分は以上となります。1日開いてしまいましてごめんなさい。
もうそろそろ終わります。長々と続いておりますが、もう少しお付き合い下さい(o_ _)oペコリ


提督「さて、何から話したものか……。そうですね、まずは、先日からの元気がない原因は、お預けした鍵の件だと思います。そこから行きましょう」

五月雨「うう、やっぱり元気なく見えましたか……? 」

提督「はい。ちょっとシビアなお話だったから仕方がないと思います」

五月雨「うう、こんなことじゃダメなんですけどね……」

提督「まぁまぁ。えっと、お預けした鍵で開ける引き出しの中身ですが……。手紙と資料が入っています」

五月雨「はい……」

提督「手紙には、4名の同志との連絡方法や、それぞれの鎮守府の位置などが書いてあります。僕の身に何かあったとき、皆さんで、同志の元に身を寄せてもらうためのものですね」

五月雨「あんまり考えたくないのですが……」

提督「今わかっていることは、提督の身に何かあっても、所属艦娘には特に影響は無いということ。ただ、艦娘はあくまでその提督個人の所属になっていて、別の鎮守府に移動みたいな事はできません」

五月雨「そういえば……転属とか無いですもんね」

提督「はい。ですから、僕が何者かに危害を加えられた場合も、みなさんは僕所属の艦娘としてここに存在し続けます。犯人からしたら怖いですよね。もしかしたら皆さんから報復なり攻撃を受けるかもしれませんから。」

五月雨「それは……。確かに、提督が誰かに捕まっている!ってなったら、みんなで助けに行こうってなりますから……」

提督「はい、ですから犯人としては、先手を打って皆さんを攻撃してくるでしょう。それを避けるための対処ですね」


うう、なんだかシビアな話です。提督は万が一って仰っていたけど、やっぱり……怖くて嫌です……



提督「それで……ではなぜ僕が、身の危険について言及するかですが、それは一緒に引き出しに入っている資料が理由です」

五月雨「……」

提督「資料は、深海棲艦が生まれる謎、艦娘の謎、妖精さんの謎、それらを知るために必要だと思われる過去の記録。そういうものです」

五月雨「……良くわかりません……」

提督「簡単にご説明します。まず、我々の敵、深海棲艦です。彼らは、10年に満たないほどの昔から、ある日突然、人類に襲いかかり、海と空を支配しました。我が国のような島国は、他国との連絡すらできず完全に孤立。大変なことになりました。このへんはご存知ですね? 」

五月雨「はい。知っています」

提督「そこで当然の疑問が出てきます。深海棲艦は、一体どうして生まれてきたのか? なぜ戦うのか?」

五月雨「そうですね……わたしも当然考えたことはありますけれど……。特に、わたしたちによく似た、艦娘のような姿をした深海棲艦と戦った時はなおさらです……」

提督「……そうですか。僕の今の仮説は、深海棲艦は、人と戦うことを目的に生まれてきている。深海棲艦と妖精さんが協力して生み出されている。というものです」


そんな……妖精さんが深海棲艦の味方をしているって……。提督はそれで妖精さんを見ていたのですか……?




提督「まず、もっと大前提のところから検討します」

五月雨(コクリ)

提督「僕は、深海棲艦も艦娘も『沈んだ船の魂』が具現化したものだと思っています。つまり、本質的には同じ存在だと思っているんです」

五月雨「それは……多分、わたしも……他のみんなも……感じていると思います」

提督「やはりそうですか……。これも仮説ですが、沈んだ船の『敵を滅ぼそう』とする強い気持ちが深海棲艦に。『国や人を守ろう』という強い気持ちが艦娘に、そういう風に分かれているんだと考えています」


……深海棲艦から感じる強い憎しみ……破壊衝動……確かに……


提督「最初の深海棲艦がどのように生まれたのかはわかりません。人間が関わったのかもしれませんし、強い強い意思を残した船の魂が妖精さんを呼び寄せて、自力で具現化したのかもしれません。妖精さんは、善悪とか関係なく『強い願いを実現する』存在なんじゃないかと思うんです。このへんはもう、科学的検証ができませんので、本当に想像でしかないですけれど……」




提督「とにかく、何らかの形で深海棲艦が生まれ、我々の工廠のようなものを作り、明石さんや夕張さんのような力を持つ深海棲艦が、どんどん仲間を生み出していった……そんな感じなんだと思います」


……深海棲艦にも、工廠があって、工作艦がいて、一生懸命仲間を作っている……あんまり考えると、戦えなくなってしまいそう……


提督「そして、仲間が増えた深海棲艦は、その意思の通り、敵を攻撃し始めました。敵は、味方以外の船だったり、人類そのものだったり……。そして、人類は為す術もなく海を奪われました」

五月雨「……」

提督「そんな中、その人々を守ろう、助けようという意思を持つ船の魂達が具現化し始めた。それが艦娘のみなさんなのではないか。そう考えています」

五月雨「わたしたちが……」

提督「あくまで仮説ですし、まだお話の入り口ですが……こういうことを考え、調査している資料が入っています」

五月雨「……お話はよく分かるのですが……その、どうしてその資料が提督の危険につながるのかがわからなくて……どうしてなんでしょう? 」

提督「ああ、そうですね。この資料……そんなに大した価値のあるものではありませんが、こういうものを喉から手が出るほど欲していて、かつ、すべて隠したいと思っている人たちがいるんです」

五月雨「それは……? 」

提督「軍と国の上層部。つまり、僕の上司たちですね」




提督「彼らは、もしかしたら深海棲艦以上に、提督たちと、その所属艦娘を恐れています。理由はお分かりになりますか? 」

五月雨「……えっと……あれ? 提督もわたしたちも、人々をがんばって守ってるのに……そんなに怖いでしょうか……? 」

提督「確かに、僕たちは今、人々を守るために全力で戦っています。では五月雨さん、無事戦いに勝って、深海棲艦を滅ぼすことが出来ました。その後どうなるでしょうか? 」

五月雨「えっと……平和になります……よね? 」

提督「そうだと良いのですが……。この世に、深海棲艦と同等以上の力を持ち、人類には戦う手段が無い相手がたくさん残ってしまうんですよ。それが艦娘の皆さんです」

五月雨「そんな! わたしたちは人に危害を加えたりしないじゃないですか! 」

提督「そのとおりです。ですが、艦娘のみなさんは、提督の命令を再優先で遂行します。この提督たちが、艦娘の皆さんを使って戦いをしたら……人類は為す術がないんです……そう、深海棲艦が現れた時と同じです」




五月雨「……わたしたちは、人を傷つけたりしないですっ! 提督だって、そんな命令は絶対に出しません! 」

提督「いえ、もし深海棲艦を滅ぼすことができたら、おそらく高確率で、提督たちと軍や国の上層部は敵対します。おそらく僕も、戦うでしょう」

五月雨「そんな……どうして!! 」

提督「提督の命令しか聞かず、誰も傷つけられない力をもつ艦娘たち。提督以外の人たちから見たら、それは自分たちを滅ぼすことができる力です。ですから、敵たる深海棲艦が居なくなったら、なんとか居なくなってほしい。彼らはそう考えます。短絡的に、すべての提督に『所属艦娘をすべて自決させよ』なんて命令をしてくるかもしれません。そこまで馬鹿では無いでしょうが……」

五月雨「自決……自沈しろなんて……」

提督「自分の艦娘たちを愛している提督なら、絶対にそんな命令は聞きません。もちろん僕だってそうです。そんな命令は聞けませんし、それで攻撃してくるなら戦うまでです」


わたしは……がんばって深海棲艦と戦っていれば、いつか平和になるって……。それなのに……


五月雨「う、ううう……うわぁ~ん……」




提督「ああ、泣かないでください。ごめんなさい、今のもすべて仮説です。それを避けるために日々頑張っているんです、僕たちは」

五月雨「ぐす……ぐすぐす……」

提督「上層部は、深海棲艦を滅ぼしつくし、その後は提督と艦娘すべてが滅びれば平和になると考え、そのために必要な行動をしています。例えば提督同士の交流を禁じたり、集まった情報を提督たちにフィードバックしないのも、すべてそのためです」


ぐす……そっか、だから他の提督に教えてもらいに行くのすら軍規違反なんだ……


提督「僕は……僕と同志たちは、深海棲艦を滅ぼした後も、提督や艦娘が生き残り、人々と戦ったりすることなく平和に暮らす。それを実現するために協力しあっているんです。五月雨さんもそういう未来を一緒に目指していただければいいんです! 」

五月雨「それなら……ぐす……喜んで……」

提督「そういう、みんなの未来の為に必要な資料。今は僕の手元にしかない情報です。僕に万が一があったら、五月雨さんに、それを未来に引き継いでもらいたい。そのために渡したのが、先日の鍵です」




五月雨「みんなの未来のための鍵……なんですね」

提督「はい。ささやかなものですが、未来の為に僕ができることをした成果です。それをあなたに託したかった。ただ、今お話したような事情を説明してしまうと……。知っていることで、五月雨さんが、より危険な立場になるかもしれないと、不安で躊躇していました。でも、事情をお話しなかったことで、逆に不安にさせてしまったようで、申し訳なかったです」

五月雨「そうですよ! 『僕は死んじゃうけど後のことをよろしく』みたいなことを言われたら、悲しくなるのは当たり前です。信じてくれているなら、最初からちゃんと話してくれないと嫌ですっ! 」

提督「あはは、はい、反省しました。本当に足柄さんの言うとおりでした」

五月雨「……?」

提督「いえ、事情をちゃんと説明せず、勝手に決めるのはダメなことだと。そんなことをすると、五月雨だって泣いて怒るって言っていました。ほんとだなぁと」

五月雨「!!! な、泣いて怒ったりなんてしてないですっ、してないですっ! 」

提督「あはは、泣きながら怒鳴っていたじゃないですか。いやでも、本当に反省しました。もう隠し事は無しにします」


むー。まぁ、良い結論だから許してあげましょうか


五月雨「はい、そうしてください。今日は特別に許してあげますっ」

提督「あはは、ありがとうございます」



提督「さて、長いお話になってしまいましたね」

五月雨「はひ~。なんだか難しくって、頭がパンクしそうですっ」

提督「そうですか……。では続きはまた明日にしたほうがいいでしょうか」

五月雨「続きがあるんですか! 」

提督「あ、鍵と資料の話はもう終わり……というか、資料の内容は、さわりしかお話出来ていませんので、時間をかけてゆっくりとお話していくことになりますが……」

五月雨「はい……? 」

提督「個人的なことで……お話したいことというか……僕は五月雨さんに謝らないといけないことがあります」

五月雨「謝っていただくようなこと……ありましたっけ?? 」

提督「はい。もしかしたら、どれだけ謝っても、軽蔑されてしまうかもしれません。でも、どうしても謝って……そして伝えたいことがあります」


どうしよう……提督の雰囲気がこれまで見たことが無いような感じです。緊張して震えているような……そ、そんなに謝られるようなこと、ほんとに心当たりありません!


五月雨「あ、あはは。そんなに改まられると、なんか怖くなって来ちゃいます。ほんとに怒ったりしませんので、話していただけますか? 」



提督「それでは……。お話します。えっとですね、僕がこの鎮守府に来る前は、本営でデスクワークをしていたというお話をしたことがありますよね」

五月雨「……? はい、覚えています」

提督「僕は、海軍情報局という部門に居ました。ここは、敵の情報を集めて分析したりする部署。いわゆるスパイなんかの部署ですね」

五月雨「提督が……スパイ……全然イメージが……」

提督「あはは、ごもっともです。僕は下っ端でしたから、集まった整理・記録したり、会議のためにまとめた資料を作ったり、そういう雑用をしていました」

五月雨「それなら分かります……って、こんなこと言ったらだめですね! 」

提督「いえいえ。その通りですから。ところがですね、今の敵である深海棲艦の情報は喉から手が出るほど欲しかったわけですが、スパイも何も通用しませんよね」

五月雨「そういえばそうです……」

提督「戦えるのも艦娘だけですし、情報を集める手段がありません。では何をしていたかというと……艦娘の情報を徹底的に集めて分析することに注力していました。おそらく今でもそうでしょう」

五月雨「……」



提督「先程のお話につながりますから、お分かりかと思います。将来、艦娘が敵になった時のために。また、艦娘と深海棲艦が近い存在なら弱点も共通かも知れない、みたいな理由で、艦娘の情報を集めていたわけです。とは言え、艦娘が居なければ深海棲艦は倒せないので、過激な実験などは行われず、ささやかな情報収集ばかりでしたが」

五月雨「そうだったんですね……」

提督「ちなみに、情報局の資料では、艦娘は徹底的に『兵器』として扱われて居ました。今なら理由は分かります。自分たちの都合で戦わせたり消したりするには、艦娘の皆さんは、あまりにも『人』です。知ってしまえば、とてもそんな扱いは許せない。だから、提督以外には、艦娘の様子は徹底的に秘匿されています」

五月雨「……あ! だから、初対面の時……」

提督「そうなんです。巨大なロボットのようなイメージだったというのは、そういうことなんです」

五月雨「じゃあ、提督と偉い人以外は、艦娘のことは全然知らないんですね……」

提督「はい、今でもおそらくそうでしょう」



提督「行われている情報収集って、本当に些細なものです。艦娘の誰と誰が仲が良いとか、この艦娘はこの兵器を好むとか、どんな食べ物が好きか、なんてものまで集めていました。また実験として、A鎮守府のある艦娘が喜んだものを、B鎮守府でも与えてみて、反応の差を見てみる、みたいなこともしていました」

五月雨「えっと……そんな情報が役に立つんでしょうか……」

提督「情報局としては、そういった些細な情報でも、大量に集めることで……最終的に、提督じゃない人間の命令でも聞く『従順な兵器』にするのが目的だったようです。非道なことを言えば……たとえば、筑摩さんは、利根さんを人質に取られたら、おそらく言うことを聞きます。そういう事を考えてのことでしょう」

五月雨「ひ、ひどい!!!」

提督「はい、ひどい話です。ですが、こういう現実がまずある、ということを知って下さい」


うう……。守ろうとしている人々の中に、そんなひどいことを考えている人がいるなんて思うと……悲しくなります……。


提督「とはいえ、その時にみた大量の資料から得た知識。そして……今はこっそり、情報局のコンピュータに侵入して、情報を集めたりできています。ですから、情報局に所属していた経験は、決してマイナスにはなっていません。当時、そういう連中の片棒を担いでいたことは、本当に情けない話ですけどね」

五月雨「……それが……謝りたいことなんですか……? 」


情報局というのは確かに嫌な部門、嫌な話ですが、提督がそこに配属されて雑用をしていたのは、提督のせいではありません! わたしは、こんなことで怒ると思われたのかなぁ。


提督「いえ、今のは実は前置きです。これからが本題です……」

提督(すーーーはーーー)


提督が! 話す決意のために深呼吸! こんなの初めて見ますっ。ほんとに尋常じゃない感じで……またドキドキしてきました。



提督「艦娘のみなさんは……前世の記憶を持って生まれてきます。そして、同じ艦娘なら、生まれた時の知識や性格は同一、と考えて良いようです。つまり、他の鎮守府にいる五月雨さんも、五月雨さんと同じ知識と性格をもって生まれてきています」

五月雨「はい、あったことがないけど、双子がいっぱいいっぱい居るような気分ですよね。会ってみたいなー! 」

提督「僕だったら絶対嫌ですけど……そのへんは五月雨さんらしいです。それでですね……」

五月雨「はい」

提督「そ、それで……」

五月雨「はい……? 」

提督「そ、その……」


提督がこんなに言いよどむなんて! いつも、淡々と淡々とお話されるのに……。


提督「僕は……最低なんです。僕は、情報局に、そういった、あちこちに居る艦娘たちの性格や行動の情報が蓄積されていることを知っていました。それで……僕は……あなたのことを知るために……各地から集められた五月雨さんの性格情報を集めて読んでしまったんです……」

提督(はぁ~~~~)


提督が深い深い溜息を……。えっと、すごく重要なこと? 謝られるようなこと? ちょっとピンと来ないのです……



五月雨「えっと、よく分からなくて。あちこちの鎮守府にいる、わたしと同じ『五月雨』が、どんな性格だとか、どんなことを言ったとか、そういう情報を集めたっていうことですか? 」

提督「はい、そのとおりです。本当に……ごめんなさい……」

五月雨「え、えっと。まだ良くわからないのですけど……どうして……? 」

提督「そ、それは……その……」


提督が……今にも泣き出しそうな、本当に苦しそうな……初めて見る顔を……。どうして……? どうしてそんなに苦しそうなの……?


提督「僕は……子どもの頃からずっと、とにかく口下手、無口で、見た目もこんな感じで……。性格も陰気で、ひたすら一人で勉強ばっかりしていました。ですから、同世代の子どもたちにはいじめられ、村の大人たちからは呆れたりバカにされ……。そうやって生きてきました」

五月雨「そんな……」

提督「進学すると、勉強ができるということで認めてもらえる面もありましたが、相変わらず誰とも上手に友達になれず……。軍人になってからもそうです。僕は、ずっとそうやって生きてきました」

五月雨「……」


きっと……それはとっても苦しいのに……提督はそれを当たり前の日々として、当たり前の顔をして勉強し続けて来たんでしょう……。目に浮かぶみたいです。わたしがその場に居ることができたら……きっと一人ぼっちにしないのに……。



提督「提督になり、鎮守府に来て……。あなたに出会いました。あなたは……五月雨さんは……、僕を、家族のように、親しい友達のように、当たり前にお話して、勇気付けてくれました。本当に……驚いたんです。こんな人が居るのかと」

五月雨「そんな……わたしはほんと、考えなしでドジで……お腹に突撃しちゃったし……」

提督「懐かしいですね。初めて会った日のことは、本当によく覚えています。僕にしてみれば奇跡の日でしたから」


奇跡だなんて!


提督「僕が提督という立場で、五月雨さんが艦娘という立場だから、きっとこうやって励ましてくれるんだろうなと……。最初はそう思っていました。でも、その後仲間になった皆さんからは、これまでの人生と同じように……値踏みされ、口下手をバカにされ……そういう、慣れ親しんだ感覚を感じました」

五月雨「確かに……最初はなかなか上手くいかなくて……そういうこともありましたね……」

提督「やっぱり五月雨さんが特別だったんです。そして、五月雨さんの頑張りと励ましで、僕も少しだけ変わっていって……そうしたら周りの人たちの反応も変わってきました」

五月雨「提督は本当に、苦手なことをずっとずっと一生懸命頑張ってました。わたし、ずっと見てましたもん! だからですよっ」



提督「ありがとうございます。お陰で僕は……少しずつですが、人と当たり前にコミュニケーションを取る、仲良くする、大切にする……そして……」

五月雨「……? 」

提督「人を愛するということがどういうことか、少しわかるようになりました」


それって……! ま、まさか……


提督「僕はあなたを、一人の女性として愛してしまったんです」


うわ、わたし……きっと真っ赤になってます……何も考えられない……


提督「最初は……あなたの幸せのために、戦いを勝ち抜こうと。そして、平和な戦後を迎えられるようにがんばろうと……そういう気持ちで、調査研究に邁進しました……」

提督「でも……やっぱり、愛されたいと……。二人で幸せになりたいと……。そんな浅ましい欲望が出てきました。それともう一つ……」


うう、だめ、ぼーっとしないでちゃんと聞かないと!


提督「あなたが僕を大切にしてくれる気持ちや……僕に向けられる笑顔が……僕自身ではなく『提督』に向けられるものなんじゃないか? という疑念と恐怖にとらわれました」

五月雨「……? 」



提督「つまり……『五月雨』という魂が、『提督』という役職の人物に対して好意を抱くようにできているだけで、僕がどんな人でも関係無いんじゃないか? という疑念です……」

五月雨「あ……」


そうか、だから!


提督「それで……どうしても知りたくなって……『五月雨』という魂をもつ人たちの記録に手をだしてしまいました……。僕のつまらない疑念で……やってはいけないことを……」

五月雨「それで……結果はどうだったんですか……? 」

提督「五月雨という人は、みなさん、ドジで優しく献身的で……やっぱり五月雨さんでした。でも……生まれた後は、一人ひとりどんどん個性が変わっていって……。結論としては、生まれた時には同じでも、結局はその後の経験次第だということでした」

五月雨「ですよねー。そんなの、わたしたち艦娘なら良くわかってます! 聞いてくだされば良かったのに」(にこにこ)



五月雨「えいっ」(←膝に乗った)

提督「五月雨さん、一体何を! 」

五月雨「良いですか提督。わたしの双子?達のことを調べたことなんて、どーでもいいんです! 」

提督「そんな! こんな……人の気持ちを知るためにスパイみたいな真似をして……」

五月雨「今はそんなこと、どーでもいいんです! 」

提督「え……。は、はい……」

五月雨「大事なことは、そのお話の前です! もう一回、ちゃんと言って下さい! 」

提督「僕がずっと口下手な人生を送ってきたこととかでしょうか……」

五月雨「あーもう! 違いますっ。 わたしのことをどう思ってるか、ですよ! 」

提督「えっと、やっぱり特別な人だなと」

五月雨「もー、そうじゃなくて! わたしを……ほら、どう思っちゃったって! 」

提督「あ……」(真っ赤)

五月雨「さ、言って下さいっ! 」

提督「そ、その……一人の女性として……愛して……」

五月雨「えへへ―! それそれ、それですっ! えいっ」


ちゅっ(ほっぺに)



提督「え……あ、あの……今のは……」

五月雨「/// へへー、こんなこと、わたしの双子達じゃ絶対出来ないですよね。これで信じられましたか? 」

提督「あ、あの……」


ぎゅっー(首に抱きついた)


五月雨「わたしも、提督のこと大・大・大好きですよ! わたしの大切なパンダさんですっ」

提督「あ、あの……そ、その……」

五月雨「不器用で真面目で……わたしなんかの良い所をいっぱい見つけてくれて……いつだって逃げずに頑張って……。わたし、そういう提督をずっと見てきました。だから、大好きなんです! これは、わたしだけの気持ち……。他の五月雨では絶対に持てない、最初から、ずーっっっと、提督と頑張ってきた、わたしだけの気持ちですっ! 」

提督「………………………………」


ぎゅっ


提督「ありがとう……ぐす……本当にごめんなさい。あなたを疑うような……逃げるような……そんなことをしてしまって、本当に……」

五月雨「好きな人が自分のことをどう思っているか、気になるのなんて当然じゃないですか! わたしだって、提督が明石さんを好きなんじゃないか?って工廠まで尾行したりしましたもん! 」

提督「あ、あれはそういう理由だったんですか……」

五月雨「だから、お互い様です♪ えへへ……」



提督「はぁ……五月雨さんから軽蔑される覚悟で、土下座しても許してもらえない覚悟で……話を切り出していたので……。なんだか力が抜けてしまって……(ぐったり)」

五月雨「もー、せっかく恋人になったのに、早速ロマンチックが足りないです(ぷくっ)」

提督「ぼ、僕にそういうのを期待されても……」

五月雨「それもそうですねー」

提督「あ、それはそれでちょっと傷つきます」

五月雨「あはは♪ 嘘です、ホントはロマンチックなんていらないです……。ただ、こうして一緒に居られて、こうやってお話できれば……すごく……幸せです」(じわっ)

提督「良かった、それなら僕でも出来そうです。どうか、これからもよろしくお願いします(ぺこっ)」

五月雨「あっ……」


お膝に座っていたので、お辞儀した提督の顔が、目の前です……。ちゃんすっ! 捕まえちゃえ!


がしっ(両手でほっぺたをおさえた)


提督「あ、あの……」

五月雨「えへへ、恋人なんですから……よろしくお願いしますは、きっとこうです……」


うう、ドキドキする……でも、後には引けません!!


ちゅっ



五月雨「/// えへ、えへへへ! や、やっちゃいました! 」

提督「/// さ、五月雨さん、大胆ですね」

五月雨「ふふーん、これで、提督はわたしのものです! だ、だから……」


あ、そうだ、前からお願いしようと思ってたんだ!


五月雨「だから、提督はこれから、わたしのことは呼び捨てで呼んで下さい! 」

提督「へ……。あ、あの……」

五月雨「実は前から、呼び捨てにしてもらいたかったんですー。わたしだけ呼び捨てとか、すごい特別っぽいですもんね! 」

提督「……わかりました、五月雨さんが喜んでくれるなら、頑張ります」

五月雨「もー! 早速違ってます! 」

提督「わ、わかりました……その……五月雨……///」

五月雨「うわぁい、呼び捨てだ、やったー! 」


こうして、長い長い夜が終わって……。ずっとずっと、のんびりのんびり二人三脚をしてきて提督とわたしは、少しだけ前に進むことが出来ました。わたしは……幸せってこういう気持ちなんだと知ることが出来て……また、提督に心から感謝することが増えました。



――――― 翌朝 提督執務室

提督「あ、あの、五月雨さん……朝からどうしたんですか……? 」

五月雨「えー、早速違ってますよー」←(提督の膝の上)

提督「いや、あの……。五月雨、朝から膝に乗ってどうしたんですか? 」

五月雨「/// えっへっへー。だって、先に乗らないと多摩さんが乗っちゃうじゃないですか。だから、わたしが先に乗りました。大丈夫です、ちゃんとお仕事できますから! 」

提督「いや……その……こ、困ったな……」


熊野「な、なんと言いましょうか……」

球磨「一夜明けたら、ひどいことになっていたクマ」

多摩「もう安息の膝はかえってこないにゃ……応援しなければよかったにゃ……」

三隈「まぁ、仲良しですてきですわ♪」

卯月「……いったい、何が起きたぴょん……」


五月雨「さ、お仕事しましょう! ここなら書類を一緒に見られて効率的ですね! 」

提督「は、はい。もうヤケです。いいでしょう、このままお仕事しますっ」


今日は朝から元気いっぱいです! さぁ、張り切ってお仕事するぞっ!
……もちろん、提督のお話にあったとおり、未来への不安、戦いの事、提督の安全のこと、いろんなことがあるけれど……でも、大丈夫! これまでと同じように、一緒にがんばれば大丈夫! そんな気持ちでいっぱいな朝でした。


あ、ちなみに、あっという間に鎮守府中に知れ渡ってしまって、午後には、わたしと提督を祝福してくれる人、からかいに来る人、取材に来る人で大忙しでした! もちろんわたしは、ずっとお膝の上にいて、提督はずっと真っ赤で大変そうでした。えへへ……。



本日分は以上となります。やっとここまで来た……。
おそらく、後1回で終わりです。明日か、遅くとも明後日には投下予定です。長々とお付き合い頂きましたが、是非またお越しください(o_ _)oペコリ


――――― 1か月後 朝 第二駆逐隊の部屋

うう、もう朝……最近がんばりすぎて、朝起きるのが辛いなぁ……。

春雨「ほら五月雨、早く起きなよー。今日も出撃でしょっ」

村雨「あと一息なんだから、がんばれがんばれっ」

夕立「zzz……」

村雨「ほら、夕立もっ。朝だよー」

五月雨「おはよ~。ふぁ~、眠いよぉ」

春雨「あはっ。ほんとにお疲れだね! 」

村雨「まー、幸せの代償だから。がまんがまんっ」

五月雨「うー、他人事だと思って~」



――――― 少し後 鎮守府廊下

足柄「あら、五月雨。おはよう」

五月雨「おはようございますー」

足柄「あはは、見るからにお疲れね。クマが出来てるわよ」

五月雨「えー。わたしまでクマになっちゃいます……」

足柄「あは♪ でも、もう一息でしょ? がんばりなさいな」

五月雨「はい、もうちょっとです……頑張るですっ」

足柄「出撃出撃ばっかりなんて、羨ましいわ~ 」

五月雨「わたしはもうお腹いっぱいです……とほー」

足柄「ま、幸せな悩みよね♪ 」

五月雨「うう、そうですね……」



――――― 少し後 提督執務室

五月雨「おはようございまーす! 」

球磨「おはようクマ」

熊野「おはようございます」

三隈「おはようございます♪」

多摩「zzz……」

提督「おはようございます。ちょっとお疲れの顔ですね」

五月雨「あはは……さすがに連日の出撃でちょっと……。よいしょっと」

球磨「五月雨が提督の膝に乗るのも、すっかり当たり前になってしまったクマね……」

三隈「多摩さんも、最近はもう諦めてるみたいですわ」

熊野「もう少し節度を持ってほしいものですが……まぁいいでしょう。さ、五月雨さん、少ししたら出撃ですわよ。今日はわたくしも一緒ですので、港までご一緒しましょう」

五月雨「はい、今日もよろしくお願いします!(ぺこり)」

提督「いつも言っていることですが、くれぐれも気をつけて。危なくなったらすぐ撤退してくださいね」

五月雨「提督……わたしももう、練度98なんですよ! いつまでも過保護な事言わないで下さいっ(ぷくっ)」

提督「ああ、ごめんなさい。でも、心配なものは心配です。駆逐艦ですから耐久力があるわけでもありませんし」

五月雨「もう歴戦なんですからっ。大丈夫です! 」

提督「わかりました……。でもくれぐれも気をつけて」

五月雨「だから~、大丈夫ですっ! 」

球磨「……空が……青いクマね……」

熊野「……ええ……とっても青いですわね……」

三隈「今日も仲がよろしいですわ♪ 」



――――― 少し後 廊下

熊野「まったく……五月雨さんと提督は、ちょっとイチャイチャしすぎですわ」

五月雨「あうう、ごめんなさい……。加減とかよく分からなくて……」


熊野さん……提督のことがお好きだったんですよね。やっぱり今でもそうなのかな……。でも、提督のことが好きな人の前では距離を……なんて考えたら、どこに行っても距離を置かないといけなくなっちゃいますし……


熊野「あら、そんな真剣な顔をしないで。冗談ですわ、冗談」

五月雨「あう、でも……」

熊野「ま、少し嫉妬してしまうのは本当ですわ。でも……提督、最近はすっかり、自然と笑顔で過ごしておられます。それを見られるだけで十分ですわ」


確かに、最近の提督は、普段から静かな笑顔を見せるようになりました。前は無表情この上なかったんですけど……。わたしも、とっても素敵なことだと思います!


熊野「……提督はどんどん前に進んで、人としても成長されたように見えます。それはきっと、五月雨さんが居たから。提督はきっとそうおっしゃいますわ。あなたにしか出来なかったから、あなたが提督に選ばれたんです。どうぞ、自信を持ってくださいまし」


熊野さんは、やっぱりかっこいい……。暁ちゃんの言うところの、素敵なレディです。誇り高く、公正で、とても強い……。わたしもレディになりたいな……。


五月雨「はい、ありがとうございます! わたしも提督みたいに成長して……熊野さんみたいなレディになりますっ 」

熊野「暁さんみたいなことをおっしゃるのね。良いですわ、ではまず、航空巡洋艦の華麗な戦いをお見せしますわ」



――――― 夕方 提督執務室

五月雨「ただいまぁ~。疲れましたぁぁ~~」

球磨「お帰りクマ」

多摩「zzz……」

三隈「おかえりなさい、無事のご帰還何よりです♪ 」

提督「お帰りなさい、お疲れ様でした」

卯月「おかえりぴょん~! おみやげはなにぴょん? 」

五月雨「うう、出撃だったんだもの、おみやげなんてないよ~。はぁ」

熊野「五月雨さん、レディを目指すのであれば、そんなにだらけてはいけません! 」

五月雨「は、はひっ! 」

球磨「また暁病の患者が増えたクマね……」

三隈「あら、そんなに肩肘はらずとも、五月雨さんは十分にレディですわ~」

五月雨「うう、自分的にはあんまり思わないです……はぁ~よいしょっと」

球磨「多摩もすっかり諦めてるから、膝はもう五月雨専用クマね」

提督「一応、この膝は僕のものなんですが……」

五月雨「はぁー、癒やし癒やし……」



――――― 夜 提督執務室

三隈「それでは、お先に失礼致しますわ♪ 」

ワイワイ


五月雨「さて、残業もがんばりましょうっ! 」

提督「いえ、五月雨も疲れてるはずですし、今日はもう終わりにしましょう」

五月雨「えー、大丈夫ですよー! 」

提督「慢心はいけません。ぼーっとして大破進軍なんてしてしまったらどうするんですか。休むときにはちゃんと休んで下さい」

五月雨「はぁ~い。でも、早く練度99になりたくて……」

提督「大丈夫です。ケッコンカッコカリは逃げませんし、他の人とケッコンしたりしませんから」

五月雨「うう、でも早く指輪したいんですー」

提督「駄目です。万が一あなたが沈むようなことがあったら、僕はどうやって生きていけばいいんですか。どうかお願いですから、安全に慎重に戦って下さい」

五月雨「はぁ~い。じゃあ、お仕事はしないで、お茶でも飲みましょう! 」



提督「とはいえ、戦闘はあんまり得意じゃなかった五月雨が、もう練度98とは、本当に頑張りましたね」(なでなで)

五月雨「そりゃそうですよー。お嫁さんは女の夢ですから! 」

提督「カッコカリですけどね」

五月雨「それでもですよ~ 」

提督「ケッコンカッコカリしたら、一度、同志の集まりに連れてきて欲しいと言われています。その時には是非来てください」

五月雨「お、お披露目ですかっ!(ドキドキ)」

提督「あはは、お披露目というと大げさですけどね。今後の連携のためにも、一度、秘書艦にも一緒に来てもらって、秘書艦同士の交流もしてもらいたいという感じです」

五月雨「うわー、駆逐艦なんてわたしだけですよね、きっと……。緊張する~~」

提督「同志の秘書艦は、加賀さん、明石さん、あと龍驤さんです。ただ、会ったらびっくりするかもしれません」

五月雨「びっくりですか……? 」

提督「穏やかにニコニコ笑う加賀さん。すごくおしゃれで女性っぽい明石さんですよ」

五月雨「えー! うちの加賀さんや明石さんと全然違うんですねっ」

提督「龍驤さんは、あんまり変わりません」

五月雨「あはは、マイペースなんですねー」

提督「そうそう、これは聞いた話ですが、提督とケッコンしてラブラブしている大井さんまで居るらしいですよ、どこかの鎮守府には」

五月雨「び、びっくりです……」



提督「執務室で、いつも提督の膝に座っている五月雨も、他には居ないと思いますけど……」

五月雨「そうですよー。わたしはわたしです! 」

提督「そうですね、ただ一人だけの、僕の五月雨です」(なでなで)

五月雨「えへへ~」

提督(なでなで)

五月雨「ううー、なんだか疲れてるから、なでられると眠くなっちゃいますよー」

提督「ほんとに頑張りすぎです。たまにはゆっくり休んで下さい」(なでなで)

五月雨「でもー……お嫁さんー………」

提督(なでなで)

五月雨「すうすう…………zzz…………」

提督「ほんとに……疲れてるんですね。僕なんかとケッコンカッコカリするのが、そんなにも嬉しいのかでしょうか……」(なでなで)



提督「五月雨。僕は、生まれてからずっと。日々が楽しいと感じたり、生きているのが嬉しいと感じるような事無く、ただ生きてきました」

提督「だから……積極的に死にたいわけではありませんでしたが……別に死んでしまっても惜しくは無いと思っていました」

提督「でも今は……。日々生きること。あなたと一緒に未来へ進むこと。それが嬉しくて楽しくて仕方がありません。だから今は……死にたくないです」

提督「僕達の置かれている状況は厳しい……。戦いに勝つこと。そしてその後も生き残り、艦娘の皆が幸せに暮らすこと……。それを実現するために死んでもいいと、危険な調査をしてきました」

提督「でも今は違います。僕も絶対に生き残り、あなたと一緒に幸せな未来を生きるために頑張ります」

提督「あなたと出会えた運命に、本当に感謝してます……。さて、お部屋までお連れしましょうか」


――――― 少し後 第二駆逐隊の部屋

コンコンコン

春雨「はぁーい」

提督「僕です、ドアを開けて頂いてよろしいですか? 」

春雨「あ、司令官! はい、ただいまっ」


村雨「あーあ、五月雨、寝ちゃいましたか」

提督「はい、さすがに疲れが限界だったようで。このまま寝かせてあげて下さい」

春雨「はいっ、今、お布団しいちゃいますっ」


五月雨「zzz……zzz……むにゅ……zzz……」

村雨「あーあ、よだれ。恋人の前でだらしない……」

提督「あはは、そういうところが五月雨さんぽくって良いと思いますよ」

村雨「あばたもえくぼというやつですね。あーあ、お熱いですねっ」

提督「そ、そういうわけでは(あせあせ)。それでは夜分におじゃましました」

春雨「はぁい。司令官、ありがとうございました! 」



村雨「あーあ、提督もさー、せっかくだから自分の部屋にお持ち帰りしちゃえばいいのにねー。恋人になっても、全然進展しないんだから~」

春雨「ああ! 村雨姉さん、えっちなこと言ってます! 」

村雨「大人同士なんだし、もうすぐケッコンするんだし、良いと思うんだけどなぁ~ 」

春雨「でもでも、のんびり屋な二人だし、きっと、そのへんものんびりだよ~」

村雨「せっかちなわたしとしては、なかなかヤキモキしちゃうねっ。まぁいいかー。わたしも寝よっと」

春雨「はぁ~い、おやすみなさいっ」

五月雨「むにゃ……えへへ……zzz……」

その日、わたしは夢を見ました。深海棲艦との戦いが終わって……。でも、いつかまた深海棲艦が現れたり、外国が攻めてくるかもしれない! ということで、南の島に大きな泊地を作って、鎮守府がみーんなそこに引っ越す夢です。

戦いが無いから、みんなで遠征したり、暇つぶしに演習したり、他の鎮守府に遊びに行ったり……そうやって、退屈だけどのんびりした日々を送る……そんな夢でした。


いつかこんな未来が実現したらいいな……。ううん、提督と一緒に、きっと実現してみせる。まずは……今日こそ練度99にして、ケッコンカッコカリからスタートですっ!



――――― 朝 提督執務室

五月雨「おはようございまーす! 」

提督「おはようございます。今日は元気ですね」

五月雨「はいっ! えへへ、昨日は提督に寝かしつけてもらいましたから……元気になりました! 」

球磨「く、くまっ!」

三隈「ま、まぁ!」

熊野「五月雨さん、そういうことは、もうちょっと秘めやかになさいな……」

五月雨「??? は、はい」

多摩「五月雨は今日も出撃にゃ。じゃあ昼間は膝を借りるにゃ」

五月雨「しょうがないですねー。帰ってきたら代わって下さいね」

提督「あの……僕の膝なのですが……」



五月雨「そうだっ! 提督、わたし、今日で練度99になってきますよ! 」

提督「そうですね。もうちょっとですから。よく頑張りましたね」

五月雨「あーん。もうちょっと感激してくださいっ。いよいよですよ、いよいよ! 」

三隈「これは、お祝いの準備をしないといけませんわ」

熊野「ケッコンシキカッコカリをするべきでしょうか? 」

提督「か、勘弁して下さい……」

五月雨「それいいですね!」

三隈「大変! では大急ぎで準備しなくてはっ」

熊野「大至急ですわっ」

球磨「群れの仲間につがいができるのは喜ばしいことクマ。ここはクマも手伝うクマ」

多摩「にゃー」

提督「こ、困ります……僕はそういうのがほんとに苦手で……」

五月雨「すごくやる気が出ました! それでは、いってきまーーす! 提督、ちゃーんと99になって帰ってきますから、覚悟しておいてくださいねっ♪ 」

提督「はい、心待ちにしています。どうか気をつけて行ってきて下さい」(にっこり)


提督が……にっこり笑顔で送り出してくれました。提督も、ちゃんとケッコンカッコカリを喜んでくれているんだなって思うと、足取りがもっともっと軽くなりました。

提督……これからも一緒に歩いて……一緒に幸せになりましょうね!




おわり





以上で完結となります。とにかく長くなってしまいまして、読まれるのも大変だったかと思います。ここまでお付き合い頂きまして、ありがとうございました(o_ _)oペコリ

五月雨さんは、ボイスの追加も改二も無くて、最近はめっきり影が薄いですが……。ドジだけどいつも前向きで明るく元気な、とても素敵な艦娘だと思います。あまり五月雨さんに縁が無い方は、よかったら是非一度、使ってみて上げて下さい。

乙!
後日談書いてほしいな


乙ありーです!

>>223
今回は後日談は無しです。ただでさえ長くなってしまってますので……ごめんなさい。

次は大淀さんの話を書く予定ですので、よかったらまたそちらを御覧ください(o_ _)oペコリ


書き忘れました。作中に出てくる『同志』というのは、過去作の提督たちです。興味がありましたら、そちらもぜひどうぞ。

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【艦これ】加賀「最近、皆との距離が近い」 - SSまとめ速報
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【艦これ】俺の鎮守府が修羅場…?
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【艦これ】俺の鎮守府が修羅場…? 龍驤END
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次大淀か…明石さんの時はあんなだったけど、どうなるか楽しみだなぁ

提督とケッコンしてラブラブしてる大井っちを期待してもいいんですか!?

最近提督就任したが
初めから終わりまで俺の秘書艦はずっと五月雨だ

今レベル80
さてもうひと頑張りだ


>>231
大淀さんのお話、始まりました。是非お越しくださいませ。

>>232
そのお話は、とっても有名なラブラブSSがあるかと思いますので、そちらから頂きました。とてもあれ以上に甘いのを書く自信はありませんので、ご容赦を!

>>233
五月雨提督がここに! 五月雨さんはほんとに素敵ですよね。


さて、次のお話をはじめましたので、誘導を一応置いておこうと思います。

大淀「駆逐艦の子たちはわたしが守ります!」
大淀「駆逐艦の子たちはわたしが守ります!」 - SSまとめ速報
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よろしければお越しください(o_ _)oペコリ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年07月23日 (土) 20:14:36   ID: aPq0_MYo

素晴らしい

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