結衣「やれやれ。答えは、風のなかで舞っているのさ」 (51)

七森町立小学校

あかり「わぁ!結衣ちゃん、京子ちゃん、待ってよー!」

結衣「あかりー!京子ー!早くこーい!」

京子「結衣が早すぎるんだよー」よろよろ

結衣「京子?大丈夫か?」

京子「う、うん…。でも、足痛いよ」

結衣「え!?ごめん、気づかなくて。この木の下で休憩しよ?」

あかり「京子ちゃん、大丈夫?」

京子「う、うん…。大丈夫だよ」


私たちが小学校6年生、あかりが小学校5年生の夏、私たちは男の子のように森を走り回っていた。

大人しくて、か弱くて、お人形さんのように可愛らしい京子は、私からみても、年下のあかりから見ても、お姫様のような存在だった。

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結衣「大丈夫か?京子」なでなで

京子「う、うん…。でもしばらくこうしてたいな」

結衣「ふふ。幼馴染三人で、木の下で休憩って、いいな」

あかり「えへへ。なんか、仲良しって感じだよぉ」

結衣「…だな」

京子「え、えと…」

結衣「ん?」

京子「ずっといっしょにいようねっ」にこっ

結衣「う///」

結衣「…もちろんだよ」

あかり「あかりたちは、死ぬまで一緒だよ!」

京子「…死ぬまで?」

あかり「うん!」

二年後…

綾乃「船見さん、つぎ美術室よ。行きましょう?」

結衣「あ、ああ。いこう」

綾乃「…なんだか上の空みたいだけど。大丈夫?」

結衣「…大丈夫だよ、綾乃」



ちなつ「結衣先輩!」

結衣「ああ…ちなつちゃん。おはよ」

ちなつ「おはようございます!今日もかっこよくて綺麗です!結衣先輩は!」

結衣「あはは…ありがと」

綾乃「モテモテね」くすっ

結衣「…やめろよ」

結衣「ちなつちゃんは、つぎの授業なに?」

ちなつ「技術ですよ!結衣先輩はなんですか?」

結衣「美術だよ」

ちなつ「美術ですか?結衣先輩、絵もお上手そうです!」

結衣「絵なら、京子のほうが…」

ちなつ「…」

綾乃「…」

結衣「いや、絵も得意じゃないよ。ちなつちゃんは、私を買いかぶりすぎだよ」

ちなつ「で、でも!結衣先輩はクールで大人っぽくて、私の理想なんですよ!」アセアセ

結衣「ふふ。ありがと」

綾乃「船見さん、行きましょ。遅刻しそうよ。ごめんね、吉川さん」

ちなつ「あ、ごめんなさい!私ったら…」

結衣&綾乃「…」すたすた

ちなつ「…私、待ってますから!」

結衣「…」

ちなつ「茶道部設立、諦めてませんから!結衣先輩の入部、待ってますね!」

結衣「…善処する」



綾乃「吉川さん、けなげね。可愛いじゃない」

結衣「ああ、可愛いよ。すごく可愛い」

綾乃「…」

綾乃「…船見さん」

船見「ん?」

綾乃「…ごめんなさい、なんでもないわ」

結衣(放課後はいつも暇だ)

結衣(わがままを言って、一人暮らしさせてもらってるけど、逆にやることがないんだよなあ)

結衣(…ナモクエでもやるか)

ちなつ「結衣せんぱーい!」

結衣「…ちなつちゃん?」

ちなつ「今日、お暇ですか?よかったら、駅前で遊んだり…できません、か…?」

結衣「…いいよ」ニコッ

ちなつ「やった!」ガッツポース



ちなつ「結衣先輩!このクレーンゲームやりましょうよ!」

結衣「クレーンゲーム?私苦手だなあ」

ちなつ「私、このクラゲのぬいぐるみ欲しいです!」゙

結衣「…とってあげるよ」

ちなつ「ほんとうですか!?」キャッルルーン




結衣「ごめん、無理…」

ちなつ「だ、大丈夫ですよ!結衣先輩!気持ちだけで、ちなつ、おなかいっぱいですから!」アセアセ

結衣(…京子なら、一発でとるんだろうな…)



ちなつ「ゆ、結衣先輩?」

結衣「ん?」

ちなつ「手とか…つないでもいいですか?」

結衣「くすっ。いいよ」きゅっ

ちなつ「!」

ちなつ「えへへへへへ///幸せです////」

結衣「大げさだなぁ」

ちなつ「大げさじゃないです!」むぅ…

結衣「そろそろ、帰ろっか」

ちなつ「!は、はい…」

結衣「…帰りたくないの?」

ちなつ「うぅ…」

結衣「どうしたの?ちなつちゃん」

ちなつ「だって、今日結衣先輩、ほとんど笑ってないし…」

結衣「…そんなことない」

ちなつ「そんなことあります!まあ、確かに結衣先輩のどことなく陰があるところも素敵で大好きなんですが、私がそんな結衣先輩を笑顔にしてあげたいというか…!」

ちなつ「…そんな、願望を抱いてて…」

結衣「…今日楽しかったよ。家にいてもゲームするだけだし。ちなつちゃん、可愛かったし」

ちなつ「…」

結衣「…?」

ちなつ「先輩、そういうことさらっと言えるのずるいです」

結衣「…そうなの?」

ちなつ「はい…。そんなだからいろんな女の子を夢中にさせて、泣かせるんです…っ」ぐすん

結衣「…ごめん」

ちなつ「謝らないでください…」

結衣「…ごめん」

ちなつ「ほら、また…」

結衣「…」

ちなつ「…私、わかってるんですよ」

結衣「…なにが?」

ちなつ「先輩、好きな人いるんですよね?」

結衣「…」

ちなつ「…」

結衣「…いるよ」

結衣部屋


ズンズンズンズン…

結衣「はあ…やっぱドアーズはいいなぁ。60年代はいい。心から、60年代でロックは死んだと思うよ。まあ、中学生なんかが言ったら、中二病っていわれるんだろうけど…」

結衣「ジムモリソンのポスターなんか、貼っちゃったりして…」

結衣「ばっかみたい…」


~~~~~~~~~~~~~~

ちなつ『先輩、好きな人いるんですよね?』


結衣『…いるよ』

~~~~~~~~~~~~~~


結衣「まあ、嘘ついちゃダメだろ…」

結衣「京子…」

結衣「…」スッ…

結衣「ふん、ふああ、京子、可愛いよ、大好き、愛してるよ、京子」くちゅくちゅ

結衣「京子がいれば、私はほかになんにもいらない、大好き、世界一愛してる…」くちゅちゅっ…

結衣「京子、気持ちいいの?よがってる京子可愛い、そそるよ…」くちゅくちゅっ

結衣「京子、すごい、そんなに乱れちゃって…。え?いっしょにいきたいの?いいよ、京子、一緒にいこう」くちゅちゅちゅっ

結衣「ふあ、ふわ、あ、あああああんっ/////」ビクンビクン!

結衣「…」

結衣「…ふぇ」

結衣「ふぇえええんっ!あ、ああああ!!!!やだよおお!!ぅわああああん!」ぽろぽろ

中学二年生の夏、私は十年来の恋をしていて、その恋はわたしを厄介なところに連れて行き、私は行き場のない苦しみにあえいでいた。

だって、京子は、私のことを、愛してなどいなかったんだから。

二年前の冬


結衣「え?あかりが行方不明?」

京子「う、うん…。あかり、昨日から帰ってないって…」

結衣「おかしいな…。昨日は、五時に帰ったはずなのに」

京子「誘拐されたのかな…」ぷるぷる

結衣「大丈夫だよ、京子。心配ない。ただの家出だよ」

京子「…ならいいけど」ぽろぽろ

結衣「」ぎゅ…

京子「結衣…?」

結衣「大丈夫、京子は、私が守るから」

京子「えへへ…///」

京子「どこにもいないよ…っ」ぐすん

結衣「あとは…。あとあかりが行きそうな場所は…」

京子「…森!」

結衣「え?」

京子「夏休みによく走り回っていた森!あそこにいるかも!」

結衣「ま、まさか…。夜通しあんなところにいるなんて…!」

結衣「…ごくり」

結衣「探してみよう」

京子「うん…」




結衣「あかりー!」

京子「あかりちゃーん!」

結衣「いないのかー!」

京子「返事してよー!」

結衣「あ、あそこ…!」

京子「え?」

結衣「私たちが、よく休憩していた木…!」

京子「ま、まさか…。やめてよー!」

結衣「とりあえず行ってみよう」

京子「うん…」



結衣「…」

京子「…」

結衣「…」ぎゅ…

京子「ふぇ、結衣、なにも見えないよぉ…。さっき、白い、大きなさなぎが…」

結衣「そうだ、白いさなぎがあるだけだ。京子はこれ以上見ちゃダメ…。だって、白いさなぎがあるだけなんだから…」

あかりが首吊り自殺をしたあと、京子は変わってしまった。

あんなに大人しく、お淑やかだった京子が、妙に明るく、ハイテンションで、元気な女の子になった。

私は最初、それを奇妙におもったが、だんだんと人気者になっていく京子に、寂しさを感じるようになった。

なんだか、京子がどこか遠いところへ行ってしまうような、…そんな気がしたのだ。

中学一年生のとき…


京子「でさ~!そんでミラくるんがさ~!」

結衣「うん」

京子「あ、○○ちゃーん!おっはよー!」

京子「でねでね、ライばるんとね!」

結衣「おう」

京子「…きいてる?」

結衣「きいてる」


中学デビュー。

そんな陰口を叩く、同小の女の子たちもいたが、ルックスも頭もいい京子の明るさは、もちろん七森中学で好意的に受け止められた。

綾乃「と、ととと歳能京子ー!」

京子「お、綾乃ー。どしたの?」

綾乃「あなた、昨日アンケート出してないでしょ!出してよね!」

京子「えー。家忘れた!」

綾乃「あ、あなたねー…」

結衣「まったく京子は」

京子「へへへ」結衣の腕をぎゅ

結衣「!」

結衣「///」

京子「じゃまたねー♪」

綾乃「…ぐすん」

京子「ねえ結衣結衣!」

結衣「…いいから離せよ///」

京子「いや?」

結衣「いやじゃないけど恥ずかしい///」

京子「もー!」ぱっ

結衣(あ…)

京子「今日も行くよね?ごらく部」にこっ♪

結衣「…おう」

中学二年生


結衣「はっ」

結衣「いつのまに寝ちゃってたんだ…」

結衣「京子がまだいたころの夢なんか見ちゃって…」

結衣「は、はは、はははは…」ぽろぽろ

結衣「京子…京子ぉ…」ぽろぽろ

結衣「久しぶりに手紙を書くか」

結衣(もう、何枚送っただろう、京子への手紙)

結衣(すでに二十枚は送った。でも、京子からの返事は一度も来ていない…)

前略

あなたがそっちへ行ってから、もう半年がたとうとしていますね。

ちゃんとご飯、食べてますか?京子はやせてるから、ちゃんと食べないと…。

そちらで友達はいますか?まあ、いるよな。京子だもん。でも、もしいなくても、私が永遠に京子の友達だから。

京子がいなくて、私はさみしいです。よくいわれたよな、京子に。結衣はさみしがりやだって。いつも否定してたけど、まあそうだよな。京子がいなくて、さみしくてさみしくてしょうがないよ。

いつも同じような文面でごめん。なに書けばいいかわかんないけど、とりあえず京子に手紙を書きたくなるんだよ…。

京子のこと、大好きだから。いくらでも頼ってほしいし、たまには甘えてもいいから。

じゃあ、またね。

結衣「大好きだって書いちゃった…。私の気持ちバレたりしないかな」

結衣「バレたら、きっと友達関係崩れちゃうし…」

結衣(まだ崩れてなきゃいいけど)

結衣「まあ、これで送るか。このまえ買ったミラくるんの新刊もつけよっと」

結衣「…ラムレーズンは溶けちゃうもんな」


七森中にて

ちなつ「ゆーいせーんぱい♪」

結衣「あ、ちなつちゃん…。こんにちは」にこっ

ちなつ「もうすぐ夏休みですね!先輩!」

結衣「そうだね」

ちなつ「連絡先…教えてくれませんか?夏休みも、結衣先輩と会いたくて…」

結衣「もちろん」

帰り道

結衣(ふふ。ちなつちゃん可愛いな。顔も可愛いし、もふもふ可愛いし、私のこと慕ってくれるし…)

結衣(でも…京子がいる限りは、私はちなつちゃんとは付き合えない)

結衣(だから…早めに突き放したほうがいいんだろうか)

結衣(今日も、返事…来てないかな)

結衣(来てないよな…)

がちゃ

結衣「!?」

結衣「」がさごそ

結衣「京子からだ…京子から来てる!」

結衣へ

いままで返信しなくてごめんなさい。
なんだか、私の内部では、混沌としたものがうずまいていて、それのせいで心の感情や考えが整理できず、それは人になにかを伝えることをためらわせるほどだったのです。

いまでも、私が結衣になにを伝えたいのか、なにを伝えるべきなのか、なにも判断がつきません。

だから、次の夏休みに、私の療養所へ遊びに来て欲しいのです。
もしいいのなら、ぜひ遊びに来てください。


追伸
ミラくるんの新刊ありがとう。


歳能京子より

綾乃「ねえ船見さん?よかったら、八月になったら一緒に遊びにいかない?夏休みだし…。ほら、千歳も誘って!」

結衣「ああ、ごめん…」

結衣「八月は、ずっと用事があるんだ」


京子は、一年生の秋に精神的に病んでしまい、自殺未遂を繰り返すようになった。

それで、富山の山にある、療養所に行ったのだ。

結衣「ふう…」

結衣「富山県内って言っても、ひとりでここまで遠くに来たのははじめてだ」

結衣「ほんとに山にあるな」

結衣「あ、見えてきた見えてきた。○○療養所」



受付

結衣「はい、えっと、歳能京子のお見舞いにきた…」

京子「あ、結衣だー!」

結衣「え…」

結衣「京子…?」くるっ

京子「わーい!結衣結衣ー!」むぎゅぅぅぅ

結衣「京子…!」ぱぁぁあ!

結衣「ここが京子の部屋かー」

京子「うん!同部屋のひともいい人なんだよー。りせさん!」

りせ「…」こくん

結衣「あ、こんにちは…」

りせ「…」

結衣(大人しい人だな…)

京子「えへへ、結衣久しぶりだね!結衣!結衣!」

結衣「あ、あの、京子…///」

京子「ん?」首かしげー

結衣「いつまで抱きついてるの…///」

京子「えへへー♪」むぎゅううう

京子「ねえ結衣?」

結衣「ん?」

結衣(やば、久しぶりにみると美少女っぷりがやばい///)

京子「外散歩しよっ」にぱっ

結衣「いいけど…許されてるのか?」

京子「許可とれば大丈夫だよん」

結衣(京子…なんだか幼くなったな)

結衣(性格は幼いときと比べて妙に明るいけど、なんか甘えん坊というか…)

結衣(可愛いんだけどさ////)

京子「えへへー。結衣とさんぽっ♪」

結衣(手繋がれたし///)

結衣「ここでの生活はどうだ?京子」

京子「んー?楽しいよ?みんな優しいし」

結衣「そうか…ならいいんだ」

結衣(私がいなくても平気、みたいだな)

京子「あ、この大きな木の下お気に入りなんだー♪」

すとん♪

京子「結衣も隣すわろー?」にこにこ

結衣「お、おう」

すとん…

結衣(調子狂うなあ…なんでこんなに明るくて可愛いんだよ///)

京子「ねえ、結衣?」

結衣「ん?どうした?」

京子「結衣は…私のこと好き?」

結衣「嫌いなわけないだろ」

京子「もー!違うよー!好きかどうか聞いてるの!」

結衣「え、えと…」

結衣「しゅき////」

京子「なに噛んでるのー!」きゃはきゃは

結衣(うわ恥ずかしい///)



京子「すー、すー」

結衣(ぐっすり寝てる…ほんとに病気なのかな?)

結衣(あ、いや毎晩睡眠薬飲んでるって言ってたっけ)

結衣(でも、この調子なら、いつか戻ってきてくれるよな)

結衣(早くよくなって、それで、一緒に登校しような)

結衣(半年で終わっちゃったごらく部も…また再開しよう)

結衣(今度は、ちなつちゃんも誘ってさ)

結衣(おやすみ…)


うわ、うわあああ、あ

結衣(ん…?)

京子「あ、うぇえ、うわああん」ぽろぽろ

看護師「大丈夫、大丈夫よ、京子ちゃん」なでなで

京子「ふぇ、みんなどこか行かないで、私のこと嫌いにならないで、ふぇえええ」ぽろぽろ

看護師「大丈夫ですよ、こんなに可愛い京子ちゃんだもの」すりすり

京子「ごめんなさい、ごめんなさいあかりちゃん…うぇえええ」

結衣(京子…京子…)ぽろぽろ


好きな人が、苦しんでいるということ。

私は、彼女を救うことはできないということ。

好きな人は、私を求めていないということ。

いろんな苦しみがごちゃごちゃになっても、私は、ただ嗚咽をかみ殺して、寝ているふりをつづけていたただの卑怯者だった。



京子「えへへ、ここのご飯ってまずくはないよねー!」あむあむ

結衣「あ、ああ…」

京子「まあ美味しくはないけどさー!」けらけら

結衣「…そうだな」

京子「結衣元気なーい!」

結衣「はは、そんなことないよ。朝が苦手なんだよ」

京子「そだっけ?」もぐもぐ


京子「…」かきかき

結衣「お、京子ここで勉強してるんだな。偉いぞ」

京子「やることないからさー」

結衣「ふーん…なにやってるんだ?ってこれ高校の参考書じゃないか!!」

京子「中学は終わっちゃった☆」

結衣「やっぱお前天才だな…」

京子「えへへー♪」

西垣先生「お、歳能。調子はどうだ?」

京子「あ、せんせー!普通だよん」

西垣先生「彼女が言ってた友達か?」

京子「うん!結衣っていうんだ!」

結衣「あ、こんにちは。いつも京子がお世話になってます」

西垣先生「はっはっはー!しっかりした子じゃないか!あ、歳能、作業療法の時間だぞ」

京子「わ、やば!行ってくるねー!」

たったった…

西垣先生「…」

結衣「…」

西垣先生「…」

結衣「…あの」

西垣先生「どうした?」

西垣先生「精神病というのは複雑で、明確な物質的な症状もないから診断がつきにくいんだが…」

西垣先生「彼女は、一見天真爛漫にみえて、常に周りへ気を使い、こうあらなければという強迫観念にとらわれている…」

西垣先生「この行動の根本的な感情は、ひとに嫌われるのを過度に怖がり、またひとに好かれているということで自己愛を納得させたがる欲望だよ」

西垣先生「まあ、若い人間は多かれ少なかれこういう自意識過剰があるものだが、彼女はそれが特に酷く、そして他人へ依存しがちなんだ」

西垣先生「うつ病やら、双極性障害やらも、この根本的なものを解決しないと、治りようがないし、もし治っても再発は必至だ」

西垣先生「彼女から聞いたが、不幸な出来事があり、それが彼女には強烈すぎたのかも…」

結衣「…あかりのことですか?」

西垣先生「ああ」

結衣「いま言った京子の特徴と、あかりにどんな関係があるんですか?」

西垣先生「…それは私からはいえない」

京子「結衣ー。作業療法終わったよん♪」

結衣「京子…」

京子「朝から暗ーい!」ぽん!

結衣「…そんなことないぞ」

京子「もー!これは京子ちゃんが、またあの木の下に連れて行くしかないですな!」

結衣「なんでそうなるんだよ」






京子「えへへ。らんらんらーん♪結衣とおさーんぽ♪」てくてく

結衣(…あかりが死んだ日のことを思い出すな、ここ)

京子「結衣、西垣ちゃんとなに話してたの?」

結衣「お前がだらしないって話だよ」

京子「失礼な!京子ちゃんはここでは模範患者なんだぞ!」

結衣「なんだよその奇妙な造語」

木の下


京子「えへへ、ここは風があるから涼しいねー」頭を結衣の肩にすとん♪

結衣「そ、そうだな///」

結衣(京子の髪のにおい///)

京子「…ねえ、結衣?」

結衣「ん?」

結衣(顔ちけえ!///)

京子「キス、しよっか」

結衣「は!?///」

京子「…だめ?」

結衣「だめ…じゃない///」

京子「ふふ、結衣もしたいんじゃん♪」


ちゅっ


京子「えへへ///」

結衣(卒倒しそう////)

結衣「え、えと…」

京子「ん?」

結衣「小さい頃も、言ったけどさ」

結衣「京子は、私が守るから。だから、これからは、相談とかしてほしいし、私は、京子の一番になりたいし…」

京子「…」

結衣「京…子?」

京子「…一番は無理だよ」

結衣「え…」

結衣「はは、そう、だよな。私なんかじゃ、一番には…」

京子「そうじゃなくてさ、もういるもん。私の一番。永遠の一番」

結衣「…それって…だれ?」

京子「…よいしょ」すくっ←立ち上がる

結衣(京子…日のひかりがあたって…きらきらしてて…綺麗…)

京子「…あかりだよ」


その横顔は、もちろん私なんか見つめていなかった。
ただひたむきに、みずから命を絶った親友だけを、見つめていた。

二学期


綾乃「船見さん、おはよう!久しぶりね」

結衣「ああ…綾乃…おはよう」

綾乃「だ、大丈夫?なんか痩せた?」

結衣「大丈夫だよ」


ちなつ「結衣せんぱーい!」

結衣「あ、ちなつちゃん…おはよう」にこっ

ちなつ「夏休み、結局一度も遊びにいけなくて、寂しかったです!」

結衣「ごめん…。今度日曜日にでもいこ」

ちなつ「絶対ですよ!?」

結衣「うん」

綾乃「ふ、船見さん!私たちも、こんど二人で…」

結衣「ああ、うん。いつか行こう」

綾乃(いつかって…)

綾乃(船見さんのばか…)




日曜日


ちなつ「結衣先輩、遅れてすいませーん!」ぱたぱた

結衣「いや、まだ待ち合わせ時間になってないよ。私が早すぎただけ」

ちなつ「そっか。えへへ」

結衣「…私服姿も可愛いね」

ちなつ「はわっ!?////もー!結衣先輩ったら///」

結衣「ふふ」

結衣「映画、なにみよっか」

ちなつ「ゆ、結衣先輩が見たいのを見たいです!」

結衣「えー…困ったな…」

結衣「じゃあ、私はこれみたいな」


『侵食~日常に忍び寄る恐怖~』


ちなつ「!?」

ちなつ「わ、わわわ私も!これ前から見たいと思ってたんですよねー!やっぱり気が合います!」

結衣「…ほんと?」

ちなつ「はい!ささ!いきましょー!!!」

結衣「ちょ、まってよちなつちゃん…!」

ちなつ「ひぃぃいいい!!!!」びくびく

結衣(…こんな予感がした)

ちなつ「ゆ、結衣せんぱいぃ…」手をにぎる

結衣「…出る?」

ちなつ「い、いやせっかくお金払ったのに…ひゃああああああ!?」

ちなつ「…」涙ぽろぽろ

結衣「ほら、出よ。ちなつちゃんが泣いてるとこなんて見たくないよ」ぐいぐい

ちなつ「ずびばぜぇん…」ぐすぐす



結衣「ごめんね、あんなの選んじゃって」

ちなつ「いえ!私が断れなかったのが悪いし!」

結衣「なんで断れなかったの?」

ちなつ「いや、せっかく結衣先輩が選んでくださったし、あと、えと…」

ちなつ「腕に抱きついたりできるかなって///」

結衣「ぷっ、あははははは!」

ちなつ「!」

結衣「なんだよそれ…くすくす。別に今日ならいつでも腕抱いていいよ?」

ちなつ「結衣先輩が…笑った…」

結衣「へ?」

ちなつ「えへへ。結衣先輩、ふだんはかっこいいけど、笑った顔はすっっっごく可愛いです!」

結衣「なっ////」

結衣「そんなこと…ない///」

ちなつ「ど、どうして顔が赤いんですか?」

ちなつ(赤面結衣先輩萌えーーー!!!!)

結衣「い、いや…。かっこいいは言われるけど、可愛いなんていわれないから///」

ちなつ「結衣先輩、いますっごく可愛いですよ?」

結衣「だからやめろって///」

ちなつ(きゃわああああああ/////)

結衣「てか…ちなつちゃん、映画館で手にぎってきたよ?」

ちなつ「ええええ!?無意識でした!おぼえてないなんてもったいなさすぎですー!」しくしく

結衣「ふふ」手をぎゅ

結衣「またつなげばいいだろ?」イケメンスマイル

ちなつ「!」ずきゅーん!

ちなつ「えへへへへ…///」

ちなつ「結衣先輩…」ぎゅ

結衣(ちなつちゃん…可愛いな)

結衣(でも…私には京子がいるんだ)

結衣(京子がたとえ、私のことを見てくれてなくても…)

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