アストルフォ「ボクがジークを幸せにするんだ!」 (36)

フェイトアポクリファのアストルフォ×ジークのSSです。
いちゃいちゃしたりR-18シーンがあったりします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1428937297

「マスターはね、もっと自分を大切にすべきなんだよね」

聖杯大戦決着も近い深夜。
ブカレストの隠れ家にて、アストルフォこと黒のライダーはずずずっと
迫り来るように主人でもあり友人でもある少年へと告げた。
向けている目は座っており、どこか剣呑な雰囲気を醸し出している。
それはライダーが隠れ家で発見した度数の強い蒸留酒やワインによる酔いの影響。
魔術師が趣味で秘蔵していたものか。
地下にある倉庫にはたっぷりのアルコールが揃っており、酒宴をするには十分の量があったのだ。

「飲みたい飲みたい飲みたい! 決戦前にパーッと景気良くいこうよ!」

決着間近とはいえ待機の時である今、そう主張するライダーに強く反対する理由は
ジークにはなく、ルーラーは反対の意思を見せたもののジークとライダーだけに酒宴されては
疎外感を感じるのか、ワインだけならと参加することになった。

そうして宴もたけなわ、ルーラーがレティシアの身体のためか早めにダウンした後
突然ライダーがジークを寝室に引っ張ってから一言目に放った台詞がそれである。
普段の快活で明るいライダーにはらしからぬ強い物言い。
そこには酔いの勢いだけではない真摯な響きも感じ取れた。

「……? どういう意味だライダー」

銀髪でルビーの瞳を持つ少年ジークは首を傾げる。
何を言っているのかよくわからないと言った表情。
気分が多少高揚しているようだが酒に強いらしく理性ははっきりとしているしライダーが真剣なのも伝わっている。
それでもライダーの言いたい事はわかっていないようだ。

ジークは困り顔を作った。
ライダーが無茶な事を言うのはいつもの事だが、流石に欲張り過ぎるだろうと思ったのだ。
英霊ジークフリードの心臓を受け取って一時的に英霊になれるとはいえ、所詮はまがい物。
その力が純粋な英霊に匹敵はすれど上回るとは間違っても言えるはずもない。
扱うジークの心と精神はまだまだ未熟で、仮初の手が全てを拾い集めるにはあまりに不完全だった。

「ボクだって無茶を言っているのはわかってるんだ。これは心構えの話。
 戦力の足し算や引き算じゃなくてマスター自身に生き伸びたいって思って欲しいんだ」
「俺だって死にたいわけじゃない。ライダーが一番知っているだろう」

ホムンクルスの少年が生まれてから最初に願ったものは、赤子の泣き声にすら劣る言葉にもならない呼びかけ。
目の前にいるライダー以外、そこに意味を感じる者はいなかった。
魔の部品でしかなかった彼が今ここに在る奇跡はライダーが生まれたばかりのジークを見つけてくれたから。
ホムンクルスの仲間達の慈悲。ジークフリードの心臓。繋がった奇跡はライダーが導いてくれたもの。
生きたいというジークの想いを知らないはずもない。

「わかってるよ。マスターの生きたいって意思がマスターを救ったんだから。
 でも……うん、もうマスターは生命を捨ててどうにかなるかもしれない。
 それか生命を捨ててでもどうにかしたいって場面では迷わないと思う」
「……」
「前も話したよね。マスターは頑張りすぎなんだよ。マスターが向こう見ずの怖いもの
 知らずってならまだいいのに、怖いくせに頑張り過ぎるから困るんだ。
 前みたいにホムンクルス達を助けたり、サーヴァントを倒すために死んじゃいそうでさ……ボクはそれが怖いんだよ。
 理性がどっかいっちゃってるボクを怖がらせるだなんてホントマスターは相当だよ」
「そう言われてもな……仲間を助けれるのに俺一人の生命で済むのなら妥当だ。報うだけの価値がある。
 それに半端な俺が生き延びるよりもライダーやルーラーが闘えるほうが勝算があるし
 仮令相打ちでも赤のサーヴァント達を倒せるのならばお釣りが来るだろう」
「ストップ! そういうのがダメなんだ! 助けるにしろ倒すにしろマスターが生きてないと意味がない!」
「そうできるのならば最善だろうが…………」

ジークは困り顔を作った。
ライダーが無茶な事を言うのはいつもの事だが、流石に欲張り過ぎるだろうと思ったのだ。
英霊ジークフリードの心臓を受け取って一時的に英霊になれるとはいえ、所詮はまがい物。
その力が純粋な英霊に匹敵はすれど上回るとは間違っても言えるはずもない。
扱うジークの心と精神はまだまだ未熟で、仮初の手が全てを拾い集めるにはあまりに不完全だった。

「ボクだって無茶を言っているのはわかってるんだ。これは心構えの話。
 戦力の足し算や引き算じゃなくてマスター自身に生き伸びたいって思って欲しいんだ」
「俺だって死にたいわけじゃない。ライダーが一番知っているだろう」

ホムンクルスの少年が生まれてから最初に願ったものは、赤子の泣き声にすら劣る言葉にもならない呼びかけ。
目の前にいるライダー以外、そこに意味を感じる者はいなかった。
魔の部品でしかなかった彼が今ここに在る奇跡はライダーが生まれたばかりのジークを見つけてくれたから。
ホムンクルスの仲間達の慈悲。ジークフリードの心臓。繋がった奇跡はライダーが導いてくれたもの。
生きたいというジークの想いを知らないはずもない。

「わかってるよ。マスターの生きたいって意思がマスターを救ったんだから。
 でも……うん、もうマスターは生命を捨ててどうにかなるかもしれない。
 それか生命を捨ててでもどうにかしたいって場面では迷わないと思う」
「……」

即座の否定はできなかった。
知ってしまったのだ。
ただ生きるだけではない英霊達の信念に満ちた在り方を。
魔翌力供給電池としての存在意義でしかなかった自分の生命なぞよりよほど尊いだろう。

とは言ってもただで死ぬつもりなどはない。
取れる手段と時間があれば自身を代償にしない解決手段を探す。
けれどそれしかないという瞬間があれば、刹那にだって身を投じるに違いない。
もし目の前にいるライダーがどうしようもない危機に陥ったとして、それが防げるのならば
見過ごすなど到底できるものではなかった。
仮令それが共倒れになる結果だとしても、迷いはしないだろう。

「うん。マスターはそれでいいんだ。これはボクのわがまま。そんなマスターがボクと……いやボクは好きなんだからね」
「……ありがとうライダー」
「マスターがそうしたいのは止めれないからね。ほんっと強情なんだから。
 …………でもね。マスターが生きたいと思う手助けはボクにもできるんだ」
「今更何を。ライダーが助けてくれたから今の俺が在る」
「そういう意味じゃなくて……いいや」

ライダーの言葉と共に鎧を外していた黒の衣装が代わり、街を散策していた時の私服へと変わった。
臍を覗かせる丈の短いストライプシャツ。紫の色をしたうさ耳のついたパーカー。
黒のプリッツスカートと足を覆うタイツは細くて長い脚線を綺麗に映しだしている。
実態はともかくとして、そのプロポーションは胸が小さめの可憐な少女そのものの姿だ。

「何故服を?」
「いいからいいから。座って座って」

妙に軽くて適当な返事。
何か雰囲気というか空気を投げ捨てたライダーはジークをベッドへ座らせて、自身も隣へと腰を下ろす。
頭半分ほど高いジークへと腕組して寄り添った。

「ライダー?」
「しょうがないんだけどジークは経験が不足してるからね。
 ボクが色々教えてあげないといけないんだ」

衣装の切り替えと共に呼称が変わる。二人の様子はさながら年若い恋人のよう。
ただ少年のほうはライダーの言葉の意味がなんのことだかわかっていない。
ライダーのくりっと大きい紫の瞳には元々乏しい理性的なものが消えていて情熱の光を帯びている。
ギラギラっとした欲望が溢れ出しそうなほど危険な輝きを放っている。

「ジーク……」
「ん、んんっ……!?」

唐突に、ライダーはジークの身体を抱きしめて唇を奪った。
感じた事のない柔らかな感触がジークに触れた。

「……ジークどう?」

ちゅっ、ちゅっ、としばらくそうしていてライダーが離れると驚きでジークは固まったまま。
反応が無いのでライダーがまたキスしようとした所で

「待て、待ってくれ。いきなり何をするんだライダー」

ようやくのように言葉を発した。

「嫌だった?」
「そういう話をしていない。何故そうしたかがわからないと言っている」
「ボクがマスターを大好きだからしたんだ。本当にわからない?」
「愛情表現とぐらいは俺にだってわかる。何故今……」
「今だからだよ! ボクがジークとキスしたいからするに決まってるでしょ!」

完全に自分の都合であった。
わかったのは親愛を示しているということだけで、それが何故今したのかはわからない。
いやある意味わかっているのかもしれない。
ライダーの理性は蒸発していていつでもどこでも刹那的なのだ。
ジークにはスイッチがわからなかっただけで、ライダーにはすべき場面だったのだろう。
服装と呼び方を変えた辺りでライダーの中でそういう事になっているのだ。

「ね。キスしようしようそうしよう!」
「……こういうものは一度すれば伝わるものでは?」
「そんなにボクが嫌なの!」
「そういうわけではないのだが……」
「じゃあジークからキスしてよ!」

ズボッとなにやら落とし穴にでもハマったかのような感覚。
ライダーが目を瞑って唇を向け、ジークを待ち構えた。
多分、いや絶対。
ここで身を引いたらライダーが怒る泣く喚く。
そのどれもが起きうるだろう未来が待っている。
どこぞの軽快小説のごとく、暴力に訴えるようなライダーではないにしろ激情家なのは言うまでもない。

ただそれと同時に、先ほどの初めて触れた唇の感覚が未だに残っているのも感じた。
朴念仁どころではない、恋愛という単語に含まれた意味をほとんど理解できていないジークにとって初めてのものだ。
そして未知の体験は不快ではなかった。
またライダーがしたいというのならばあえて拒否する理由はなかった。
ライダーの言う大好きと同じものであるかはわからないが、ジークもライダーを好きだと思っているからだ。

「……わかった」

ジークがライダーの両肩に手を置くと、びくりと跳ねた。
指先から微かな怯えとそれ以上に喜色の気配が伝わってくる。
ジークは無造作にライダーへと唇を重ねた。

「……ん、んんっ……ジーク……」

うっすらと触れ合うような、でも長い時間をかけてのキス。
二人の息遣いが部屋に小さく響く。呼吸の度お互いの口内へと消えていく。
まだ残っているワインの渋みやアルコールの吐息をお互いに交換する。
ちゅっとライダーが音を立て、ジークは応えるように唇を強く押し付ける。
しばらくそのままでいて二人は離れた。

「……わっはー! ホントにしてくれた! 凄い凄い凄く嬉しい!
 唇からぐわーってきて胸の中までいっぱいになりそうだ! ジークありがとう! 大好き!」

全身いっぱいで喜んでいるといった様子でジークを抱きしめる。
しばらく頬ずりを繰り返したり、ぎゅーっとしたりと、ひとしきりジークを堪能した所で、はたっと顔をあげる。

「ジークはどうだった? ボクだけ舞い上がったりしてない?」

少し不安げな様子で、抱擁してる間にぴょんぴょこ跳ねていた三つ編みも心なしかしょぼんとしているように見えた。

「……いや、俺も嬉しかった。そのなんと言えばいいか……多分、心地よかったと思う」

つっかえつつもぎこちなく想いを伝える。
好意。信頼。友情。思慕。敬愛。恋愛。愛情。情愛。
そのうちのどれかなのか、それともどれでもないのか。
知識だけでは得れるはずもない織り交ぜた感情はキスをすることで実感ができた。

(ああ……俺はライダーが好きなのだろうな)

素直にそう思えた。

「ボクもだ……! うん! ……うん! 好きな人とキスするとね、心地がよくて気持ちよくて幸せな気分になるんだ!」

三つ編みがパーカーの耳と一緒にうさぎのように跳ね回る。

「マスターに知ってほしいんだ! 世界にはそんな幸せがいっぱいあるって言う事を!
 使命は大切だしホムンクルスのみんなもサーヴァントの仲間達だって守れたらいい!
 でも死んでしまったら、これから得れるかもしれない幸せを想う事も感じる事もできなくなっちゃうんだ!」
「そうか……ありがとうライダー。誰かと共に未来へ想いを馳せる……
 人間なら当たり前の事すら想像もできないくらい俺は幼いんだな」
「いいっていいって! ジークはたった今知ったんだもん! これからこれから!
 仮令ボクが弱くたってさ。聖杯戦争に勝ってマスターを幸せにしてあげるんだから!」

燦々と太陽を浴びている向日葵のような笑顔。
誰だってこんな風に笑いかけられれば、嫌でも幸せな未来を想像してしまうに違いない。
しかしジークは若干空気が読めていなかった。

「だがライダー。気持ちは伝わったのだがこういった事は普通異性同士でするものではないのか?
 俺とライダーはおと―――」
「むぅぅぅぅぅ………………ジークの大バカ野郎ーーーー!!!!!!」

爆弾が連鎖爆発するイメージ。どんっと怪力でジークは押されてベッドへ倒される。
マウントポジションを奪われ、下から見上げるライダーの表情に表れたものは烈火のごとき怒り。
ジークフリートの記憶で垣間見た邪龍ファヴニールもかくやという有り様だ。
もし竜の夢を見た後、寝起きにこんなライダーを見ようものなら英霊の心臓を持ってしても不整脈は免れないだろう。

「もー全然わかってない! ボクがジークを大好きで! ジークもボクが大好き!
 それだけで十分でしょ……!? そこに男とか女とかなんの違いもないでしょうが!」
「しかしキスとは生殖に繋がる行為では……」

知識だけが優先しているとはいえ、常識的な発想で口答えしようとするジーク。
やはりどうしてもそういった感情には疎いらしい。
いよいよもって大好きの基準が二人の間でズレていると感じなくもなかった。
けれどもそのズレは続く言葉でカチリと噛み合う。

「だったら……! 前にジークは自分が死んでもボクに他の魔術師を充てがえればいいって言ったよね!?
 それならジークはボクがジークじゃない他の誰かとキスしてもいいの!?
 ジークを放っといて別のマスターと気持ちよくなって幸せになってもジークはどうだっていいの!?」
「な……!」

賭けとも言えるライダーの問い掛けを聞いて、言葉が出なくなる。
確かに言った。ユグドミレニアには他のマスター資格者のがいるから問題はないと。
ただライダーとキスを終えたばかりのジークの心には音叉のごとく強く響いた。
あり得るかもしれない未来を思い描いただけに揺らがされた。
自分が発した言葉はそんなにも残酷なものだと理解したのだ。

もちろんライダーがそんな事をするとは思っていない。考えもしない。信仰すらしている。
自分だってマスターを辞めるなど三千世界を巡っても有り得ない。
それだけにライダーの口から聞く言葉は衝撃的だった。

「…………どうでもよくない。ライダーに去られるのは困る。そんな未来ならいらない」
「ジーク…………」

応えるライダーの顔がぼやける。
ほんの三言。それだけの間でジークの瞳には涙が溢れていた。
例えでも聞きたくはない想像したくもない言葉は、得難い未来を感じたばかりのジークの心を強く苛んだ。

「ごめんねジーク……ウソだよウソ。絶対有り得ない。ボクがジークから離れるはずないじゃないか」

ライダーがジークを抱きしめ、涙ぐんでいる瞳を唇で拭っていく。
まるで親猫が子猫の毛づくろいでもしているよう。
愛情いっぱいに頭を撫でながら抱きしめてキスを繰り返したりと慰めている。

「ごめんね……ボクがジークをどれだけ大好きか証拠を見せてあげるから」
「……っ!」

上から覆いかぶさってくるライダーのキスにジークは目を見開き驚いた。
今度のキスは唇を擦れ合わせるだけじゃなくて、ぬめる舌で口内を掻き回してきたのだ。

「んっ……ちゅ、れろっ、くちゅ……」

神経そのものに触れられたかのような激感。
粘膜と粘膜を触れ合わせる感覚は、ジークの想像もできないくらいに刺激的で官能的。
ソフトなキスよりもずっと気持ちがよくて、口内をねぶっているライダーにされるがままだ。

(舌は言葉を話し、味覚を感じて食物を味わうためにあるのでは―――)

そんな常識的な発想が置いてけぼりになって、だんだんとジークも柔らかな舌を舐めるようにキスを返す。
幼い少年は与えられたばかりの快感の果実を貪る。
味覚が薄くとも、いや味覚が薄いからこそ鮮烈過ぎる舌肉の触れ合いに傾倒していく。
気持ちがよすぎて止められなくなってしまう。

「ぁ……いいよジーク……ちゅ、ちゅ、んむっ……んぇ……」

舌を入れられるばかりではなく、逆にライダーの口内へと差し返して小粒の歯や涎を掬い舐めしゃぶる。
粘膜を擦れ合わせるうちに溢れた唾液を飲み込み合う。
ジークは深いキスによって紛れも無い快楽を感じていたのだ。

「ん、はぁ……知らなかったでしょ……キスはこういう風にしたほうがずっと気持ちいいんだよ……」
「ああ……初めて知った。この世にはこんなにも心地いいものがあるのか…………
 君と……ライダーとキスをしていると説明できないほどに気持ちがよくて…………
 多分、これは幸せだと言うものなんだと思う」
「ん、ボクも……嬉しくてすっごい幸せだよ……」

知識だけでは得られない触れて触れられる幸せを実感する。
肉と肉の触れ合いが心まで伝わってくるようだ。
愛する人と繋がっている歓びをいっぱいに味わって、会話の時間すらもどかしいとでも
言うように、また唇を、舌を、重ねては口交に耽る。
淫らな水音だけが室内に響いてお互いの熱が伝わり少しずつ高まっていく。

「ん、くぅ……!?」

キスに熱中しているジークが新たな快楽に襲われて、ライダーの口内へと驚きの吐息を送る。
ライダーの手がズボン越しに股間へ触れたのだ。

「ね……ジーク、もっと気持ちよくしてあげるから……もっともっとボクが幸せにしてあげるんだ……」
「ぐっ……ライダー……」
「うわぁ……おっきくなるとすごい……ジークのオチンチンって立派なんだね……」

ズボンが細い指で脱がされていき、ライダーが股間へと顔を下ろしていく。
そこにはライダーの可愛らしい小顔を覆い隠せそうなぐらいのモノが情欲で満ち満ちていた。
キスをしているだけで知らず知らずのうちにそうなっていたのだ。
ホムンクルスとして生まれたジークは魔力供給電池という役割のためか
性交による魔力の受け渡しも設定に入っているのだろう。
本人は気づいていないがジークフリートの心臓で変化した身体と相まって、十全に機能するのが見るだけでわかる。

「くっ、ぅ……!」

ライダーはうっとりと微笑みながら逞しいモノを甲斐甲斐しく手で覆って、小さく整った唇で先端へとキスをした。
ソフトに唇で撫でるようにして押し付けてきて、柔らかいその感触だけでジークは快感に呻く。
ちゅっちゅっと丸みのある亀頭部分をキスされただけで苦しげな、でも気持ちよさそうな顔になってしまう。

「ま、待て……こんな所を……汚い、ぅっ……だろう……」
「ん……汚くなんかないよ……もし汚かったとしても、ボクが綺麗にしてあげる…………れろぉっ……」
「あ、ぐ、あぁぅ……!」

キスだけではなく敏感な尿道部分を舐められると悲鳴のごとき叫び。
しかしそれは痛みではなくより強い快感のためだ。
開いた唇で亀頭を挟み舌で丹念に先を濡らす。
柔らかくぬめる舌が粘膜の上で踊りエラばった所や、筋めいた部分を這い回った。

「ん、れおぉっ……お汁出てる……ねぇ……ジーク気持ちいい……?」
「くぅ、ああ……ぞくぞくとして柔らかくて……こんな行為が、あるのか……?」
「うん……あるんだ……もっと教えてあげるから。ボクのお口で気持ちよくなって……ジーク……」

ジークは耐え切れないようにライダーの髪をくしゃりと握った。
ライダーが顔を沈めてそそり立つモノを咥えたのだ。
ちゅぽんっと棒が半ばまで口内に入り込み、熱くとろみのある涎と舌に包まれたまま
唇がきゅっと締めつけてきて頭を前後に動かし始める。

「はぁ、くっ……」

ジークは悶えながらもライダーを見つめる。
不格好な性器が薄く整った唇に飲み込まれては引き出されていき、たっぷりの涎で濡らされる。
太いモノで唇がぷくりと膨れているのに咥えてる顔はなお可憐。
角度をつけて入り込んだ時は内頬が亀頭の形に膨らんでしまい汚しているように思える。
征服欲などとは無縁のジークであっても、ライダーを性の従属者のように
扱っているようで、快楽と共に背徳感まで覚えてしまう。

「ライダー……気持ちいいのだが、これは、なにかいけ、ないもの……では……? ぅっ、ぁっ……」
「ちゅぷっ、んぇ、……はぁっ、もぉジークは気にしすぎ。素直に楽しも? ちゅじゅぅっ……!」
「……く、あぁっ……!」

ライダーの頬が窪み音が響くほどに強く吸われた。
半ばどころか根本近くまで口内に入り込み、喉の壁に亀頭が押し当たる。
頬肉が幹を包み、縦横無尽に蠢く舌が気持ちいい所を全部舐めていく。
ライダーの口腔はまるで湧き上がる快楽の泉。
何をされても気持ちが良くて、ジークの中からまだ知らぬ感覚を汲み上げていく。

「ちゅっ、ぽんっ! ん、れおぉっ、んくぅっ……んっふ、ふっ……
 びくびくしてきてる……ジークいっちゃいそうなんだね」
「い、いく……? この……気持よくて堪らない感覚のことか……?」
「もう少しだよ。ジークはサイコーに気持よくなる直前なの。ボクがイカせてあげるんだから……んぉおぉっ……」

ライダーがジークの腰を抱きしめて、膨れあがった肉棒を全て飲み込んでいく。
引き締めた唇が亀頭から根本へとどんどん進んでいき、ついには喉の中まで入ってしまうほどに深い。
狭隘な食道粘膜に全部が包まれると、ごくんっとそこが蠢きジークはあ、と声をあげてしまう。
嚥下している動きそのものがジークを締め付けたのだ。

「苦しくないのか……?」
「ふぇーきふぇーき……んぶぶっ……んっくんっくぅ…………」

くぐもった声で答えるライダーはどういう手管を持っているのか
何度も何度も飲み込む動作で亀頭を喉肉で責めてくる。
そのまま頭を前後に動かせば、狭く熱い喉で亀頭を扱いているようだ
飲み込みすぎてドロドロの涎が溢れだし潤滑油となって滑りも格別。
口内に入っていく時は舐めまわすようにして、引き出す時は吸い付いて刺激をより強くする。

ジークは快感で熱のこもった視線でライダーは見つめる。
口奉仕しながらうっとりと目を細めていて、舐める行為を楽しんでいるように思えた。
いや、楽しむだけではなく実際ジークの気持ちよくなっている様子を五感で受け止めて感じているのだろう。
唇と舌と喉で丹念にフェラチオを続けている顔は赤く色づいていて、ジークの昂ぶりに同調しているようだ。

ぐいっとまた深く飲み込んだまま音が響くほどに吸う。
先端がくにくにとした部分に擦れながら棒全体を吸われると内側から絞り出てしまいそう。
じゅっじゅっじゅっじゅっと、三つ編みが振り乱れるほどに速く顔を振って射精感がどんどんと高まっていく。

「ラ、イダー……!」
「くふぅっんっ……! ん、んんっ……、んぉっ……んっくぅ……んぅっ……」

ライダーの口内に全部飲み込まれたままジークは至った。
頭の中が真っ白に溶けてしまいそうな感覚。
今日幾つもの覚えて感じた感覚を上回る快感を腹の裡から吐き出していく。

「く、あ、ああっ……! 射精とは……! こんなに気持ちがいいのか……!」

ジークは初めての吐精によって感嘆の叫びをあげた。
量も多くて肉の震えのたび、気持ちよさそうに、切なそうに、ジークの顔が歪んだ。
喉の入り口となる所にずっぽりとハマった先の空間へと、精を何度も何度も撃ち放っていく。
口というよりは食道か胃へ直接射精しているような有り様だ。

「ん、ちゅじゅぅっ、ん、ごくっ! こくっ……ちゅじゅぅっ……」

されどライダーは苦にもせずジークの精通となった固形のごとき精液を飲み下していた。
飲みにくいだろう粘性のあるそれを麦酒のごとく、喉を鳴らして飲み干していく。
可愛らしい顔は美酒によってうっとりと蕩けており、大きなモノが喉元まで入っているのを感じさせないほど堪能している。

「…………ちゅっぽんっ! っんぇ……ふふふ、ジークの全部飲んじゃった」

吸い付いたまま音を立てて肉棒が抜き出されて、ライダーが見せつけるようにして舌をさらけ出す。
桃色の舌と口内には精の一片もなくて、ずくりとジークは込み上げる何かを感じた。

「……堪らないほど……はぁ……気持ちがよかった。ありがとうライダー…………」
「キミが喜んでくれるのがボクだって嬉しいんだ! お互い様だよ!」

本当にそう思っているのが伝わってきて、まるで尻尾を振っている犬のようだ。
ジークも満足そうに微笑を浮かべている。

「ただ……少し恥ずかしいな」
「なんで?」
「……君が俺の排泄したものを飲んでくれているのを見ていると、またそうしてほしいと思ってしまった」
「ふぇ……」

ライダーの表情が一瞬驚きに固まって、胸の奥がきゅんっとときめいた。
にへっと笑いながら自身の頬を両手で隠す。
嬉しすぎて顔がおかしくなってないか気になってしまったのだ。
ジークがボクで興奮してくれている。
そんなもの。ボクだって堪らないくらい嬉しいに決まっている。

「もージークったら! ジークったら! ボクをそんなに喜ばせてどうするつもりなのかな!
 なんでもしちゃいたくなっちゃうじゃないか!」
「どうするというかなんでもというか……その前に俺が君に返したい。
 同じように舐めたりすればいいのか?」
「あー待って待って。あれは結構高等テクニックだからね。
 初心者のジークには難しいのさ。ボクが教えてあげるから傍にきて」

半身だけ起こしていたジークが逆に仰向けに寝ているライダーの上に位置する。
そうしてライダーがスカートをめくると黒のタイツが覗かせる。
中心には髪と同じ色をした薄手の下着から覗かせる、ジークと同じように興奮を表しているモノがあった。
ジークと比べると随分小さくて毛も生えておらずどこか幼い作り。
ライダーの美少女そのものの外見に似つかわしくなく、でもある意味それらしい性器だ。

「でね……脱いじゃうから触ってくれるかな……」
「こうか」
「ふひゃぁっ!? 脱いでからってば!」

変な声をあげてしまうライダー。
少し触られただけで感じてしまうぐらいにライダーも興奮のボルテージが上がっている。
脚を伸ばしタイツと一緒に下着を脱ぐと、黒に隠された細く、でも鍛えられた均整の取れた脚線が描かれる。
股間からタイツを降ろした時にはモノが反動でしなって真上を向くほどに張り詰めているのがわかる。

「なんだかボクも恥ずかしいかも……ジークよりちっちゃいのにこんななっちゃってさ……」
「可憐なライダーらしくて俺は可愛いと思うぞ」
「可憐で可愛い……!? もー、もーってば、もー! いつからこんなタラシになったのかなーコイツはー」
「俺は思った事を述べただけだ」
「天然で言っているほうがタチが悪いんだから!」

ぷんぷんと怒った振りをしているライダーの頬は更に赤くなっている。
そんな風に思ってくれている事が嬉しくて嬉しくてしょうがない。
続く言葉も喜びを全然隠せていない。

「いいからやろう! ジークが手で優しく触ってくれたらそれだけでボクはいっちゃうかも!」
「わかった。君も気持ちよくなってほしい」
「あっ! ふあぁっん……!」

力は入れすぎず、でも手と指全体でしっかり包んだ。
きゅっとジークの手の中で隠れてしまいそうなそれを握ると、高い声が部屋に響く。
声が女性のように高いライダーだが、普段の快活な調子から出たとは思えないほど甘い。
普通の男性のように自慰の経験もなく、テクニックなどあるはずもないジークが触れただけでこれだ。

「んんっ……! ジークの、手! 気持ちいい! そのまま動かしてっ!」
「ああ……君の声を聞いていると……俺もなにか……」
「んっくぅ……! やぁっ! ふぅっあ、ああっ……」

優しい手つきで上下に扱くとそれだけでライダーは身悶える。
快感に染まった表情に昂ぶりを覚えて、ジークは技巧の代わりに思いを込めながら奉仕する。
先ほどライダーが舐めていてくれたみたいに、カリの所を擦った。
気持ちいいのだろう。
手の中で跳ね、こぼれた先走りが滑りをよくして、より手コキの潤滑を上げていく。

「あ、んぅ……! あ、やぁぅっ……! ホントにいっちゃうそう……!」
「ライダーがいく所を俺に見せてくれ……!」

喘ぐ可愛らしいライダーの表情や、艶かしくくねる肢体にジークも昂っていく。
一度射精して萎えたモノを張り詰めさせたまま、ライダーを高みへと誘っていく。

「ふぁあっっっんんぅっっっっ…………!」

ジークの手の中でびくびくと脈動して、快楽が溢れだした。
白混じりの透明に近い液が掌中で放たれていく。
ジークはライダーがそうしてくれたように、軽く扱きながら律動を助けていく。
手で絞り取ってあげる度に身悶えするライダーはとてもかわいらしかった。

「……はぁぅ…………きもち、よかったぁっ……」
「喜んでくれると俺も嬉しい」

しばらくの時間を置いてふにゃっとしたライダーがうっすら笑みを浮かべながら呟いて、ジークもまた笑顔を返す。
二人の表情は今までのマスターとサーヴァントだけの関係とは違っていて、友人や戦友と
いった信頼関係とはまた別なものが含まれている。
熱っぽい視線に込められたそれはきっと愛情というものだろう。

「……これが君の味なんだな」
「わわわっ舐めちゃダメだよ! ばっちいってば!」
「君も飲んでくれた。ライダーの言葉を借りるなら君に汚いところなどない」
「……もーボクが綺麗にするから手出して」

嬉し困った顔で笑うライダーはジークの手を自分で舐めとる。
指の又から先までを舌を這わせて、ちゅちゅぅっと吸う。

「……我ながらあんまり匂いとか味がしないね……サーヴァントだからかなぁ」
「そういうものなのか?」
「ジークのはね味も匂いも濃くて魔力もいっぱいで美味しいんだけどね。ちゅぅ……れろ……んっ……」
「む……そんな風に指を舐められると……」
「ふふふ、さっきの思い出しちゃった? エロエロのジークもボクは大好きだよ!」
「……どうやら俺はライダーに夢中になってしまっているらしい」
「うわぅっ……ジークったら殺し文句まで覚えちゃったよぉ……」

真剣な、でも渇望に満ちた瞳でライダーを見つめるジークの表情。
ドキドキが止まらない。もっともっとしてあげたくなる気持ちが溢れ出しそう。

「……ね、ジーク…………続きしたいよね……?」
「ああ。君にもっと触れたい」
「それじゃあボクに入れて……」

ライダーは脚を抱えて見せつけるように開く。
射精したばかりの性器はジークの言葉によって硬度が高まりつつある。
皺のほとんど無い玉袋の下に見える窄まりは薄いピンク色をしていて
何かを求めるように盛り上がって口を開いていた。
ライダーの言葉の通り受け入れるのを待っているようだ。

「排泄するための所だが……そこでいいんだな?」
「うん……ジークのが欲しくてしょうがないんだ……ボクのお尻にジークのおちんちん頂戴…………」

求められる。
それだけでジークの鼓動が速まり、雄の欲求に襲われる。
重ねた快感が肉の実感となって、生まれて間もない少年を愛と欲に染めている。
けれどそれが人間というもの。生きている証。

「あ、きてる……あっ、あぅっんんんっ…………!」
「ふぅっ、くっ……熱い……」

ジークは硬くそそり立つ肉竿をライダーの中心へと向け、くびれた細い腰へ手を添えながら挿し入れた。
中は熱く、湯だった肉の襞に亀頭が柔らかく包まれているよう。
同時にきゅんきゅんと尻穴の輪が食い込んでくる。
柔らかく入っていって、なのにきつく締めつけてくる矛盾した快感にジークは息を吐く。
そして腰を少しずつ推し進めていく。

「あっ、ふぁっ……すご……!」
「大丈夫なのか……?」
「へい……き……! きもちよくて……ふぁっ…………」

目を瞑り、切なげに打ち震えるライダーの肢体。
臍が腹筋と共にくぼみ、内を満たしていく肉を深く深く感じている。
幼さの残るモノは先端から薄くて白く滲んだ液を零して、ビクビクと痙攣する。

「きもち、いいから……! もっと、ボクのお尻おかしてぇっ……!」

そう言われては我慢できるはずもない。
入れているだけで快楽を引き出す魅惑の穴。
擦れ合わせればより気持ちがよくなるともうジークは知っているのだ。
情動のままライダーの深い所で前後運動を始めた。
わずかに蛇行した排泄器官の道のりを逆しまに進めていく。
先端が腸粘膜を削っていき、括約筋がきゅんきゅんと根本から半ばまでを絞っていく。

「はぁう……んっ……ジークうぅぅ……ん、ちゅっ……れぉん、ぴちゃ……」

見下ろせば今までで一番いやらしくも可愛らしいライダーの表情。
ジークが中へと肉を叩きつけるたびに涙ぐんで高い声で喘いでいる。
愛しさと情欲のままジークがキスをして、舌を絡め合わせた。
短く早く腰を揺すりながら甘い甘い舌をねぶっていく。
ジークの逞しい腹筋に潰されたライダーのモノが、感じているのか先走りを零していく。
上下の粘膜を擦り合わせて二人は一緒に快楽を高めあっていく。

「あぁ……んっ! それ、……! すごく気持ちい……い……!」
「それとは……?」

中を何度も摩擦している最中にライダーが嬌声をあげた。
不意の快感にうっすらとした液が先端から漏れ出る。

「ボクのおちんちんの裏側辺りを……ジークのおちんちんがゴリってしてきて……」

訴えにジークは上半身を起こし、ライダーの尻を軽く持ち上げた。

「こうか?」
「ひゃぅっぅっ……!? そ、れ、あ、やぁっ……! す、ごぉっ……!」

言葉の通りの位置に当たるようモノの先端を上向きにして突き入れた。
効果は劇的で、強風に煽られた旗のごとくライダーの可愛らしさの残る性器が跳ね揺れて
薄い色をした先走りと精液の混合物をまき散らす。
軽くイキかけてしまうぐらい気持ちがよかったらしく、だらしなく開いた口からは涎が零れている。

「おっ、お、おぉっ……ボクお、かしく……なっちゃうよぉっ……」

そんな風に感じてしまうのもしょうがない。
肉棒が突き捏ねている所は前立腺と言って男の器官でもっとも敏感な所。
先走りや精液を分泌するためのそこを内蔵から直接弄られて、勃起したモノがびくびくと反り上がり痙攣する。
それどころかライダーの締め付けに合わせて全身も震えていて、裡の快感を抑えきれていないようだ。

「くっ……ライダーの中が締まってきて……俺も……」

そしてジークだってライダーと同じくらい感じている。
ライダーを一方的に責めているようでも射精感はどんどんと高まっている。
突きながらクニクニとした前立腺が先端に当たる。
ライダーの泣きそうなのに甘い喘ぎ。
グリリッと擦るように奥まで入れればかすかな抵抗と包み込むような柔らかさな感覚。
引き抜けば食いつくような締りがグイグイと根本から先端までを刺激する。

「ジーク……もう、……ボク……ボク……」
「ああわかってる。俺もだ」
「うん……一緒に……いこ……?」

感じすぎて不安になっているのかライダーは突かれながらもきゅっとジークの腕を掴み
ジークが安心させるように、指を絡めて交差させるように握った。
すがりつくようにライダーがジークを引き寄せて抱き合う。
ジークは泣き笑いの顔で見上げるライダーと見つめ合いながらスパートをかけていく。

じゅくりっちゅくりっと深い所で湿った音が響く。
激しくはない動きだが深い官能へと浸かりきった身体は繋がっているだけで快楽を高める。
ライダーの中がヒクヒクと痙攣して。ジークのモノも脈動を繰り返して。

「ぐっ……で、る……」
「ふぁっっっ……! あ、あ、んあぁぁぁっっ……!」

二人は同時に達した。
どくどくどくと心臓がもう一つあるかのように肉棒が脈動して愛の証を注ぎ込んでいく。
疼きに導かれるまま、熱い想いをぶつけていく。
複雑に蠢く腸内が後押しをしてくれるよう全部飲み込んでいてくれていた。
そしてライダーのほうも同時にイッていて挟まれた腹の中で竿が打ち震えながら精液を吐き出している。
まるでジークに注がれた分だけ出るように射精が止まらない。
ジークがライダーの中からモノを引き抜き大きく息を吐いてライダーへと
身体を預けきった時には、二人の下半身はドロドロの液にまみれてしまっていた。

「よ、かったよ……ジーク…………」
「はぁはぁ……俺もだライダー……」

息を荒げながら言葉で伝え合い、まだ余韻がある快感混じりの気だるさに二人はうっすらと微笑み合う。
抱きしめ合いずっとそのまま寄り添い合う

「へっへっへージーク大好きー……ってそういえば……」
「……? なんだ」

逞しいジークの身体を下から抱きしめながら、ライダーはぷくっと頬を膨らませた。

「あのね。ジークはボクをいっぱい喜ばせてくれたけど肝心な言葉を聞いてないんだ。
 ちゃんとボクのことを好きだとか愛してるとか言ってほしいし聞きたい」
「…………それはそうだな」

考えてはいた。頭の中で思ってはいた。
しかし言われてみるまで発していない事に気づいてはいなかった。
ライダーと愛しあっていたのに、それを伝えていなかったなどと。
またも自分の至らなさをライダーに気付かされたらしい。

「ああ、俺は君が好きだ。ライダー――――君を、愛している」

気負いなく、本心のままに言えた。舌に載せた言の葉の流れに小気味よさすら感じた。
ごく自然に放った告白は今まで言わなかったのがおかしいとすら思えてしまう。

「うわわわわ、すっごい嬉しくて嬉しくて堪んないけど別離っぽい調子で言うのやめて!」
「なんのことだ」

慌てながら、でも顔が真っ赤で笑みが蕩けて崩れちゃいそうな複雑な表情を
しているライダーが誤魔化すようにジークをまたぎゅっと抱きしめる。

「えーいまあいいや! ボクもジークが大好きで愛してる!」
「ああ。改めて聞くと俺も嬉しい」
「それじゃあさ、嬉しいついでにって言っちゃなんだけど……」
「……ん……どうしたんだ?」

調子よく言っている最中にライダーが口ごもった。
珍しく瞳には迷いの色が見えて、何か恥ずかしがっているように思える。

「聞かせてくれ。俺に出来ることならなんでもしたい」

だから今度こそ自分から踏み込む。
今はまだわからずとも、ジーク自身からライダーに歩み寄りたいのだ。

「うんとね……えーとね……ボクをさ……ライダーじゃなくて、アストルフォって呼んでほしいんだ…………」
「ん? そんなことなのか」
「そんなことだよ! もうボクはマスターじゃなくてジークって呼んじゃってるけどさ!
 ジークもそんな風に呼んでくれたらと思うと恥ずかしくなっちゃったの!」

横にあった布団へと顔を押し付ける。
髪から覗く耳が真っ赤になっていて、理性が蒸発しているライダーらしくない様子だ。
ただそれも可愛らしいとジークは思った。

「君が望むならそうしたい。アストルフォこっちを向いてくれ」
「んひゃぅっ……うー今日のジークはどうなっちゃってるんだよぉ……んぅ……」

振り向いたライダー、いやジークの中でもうアストルフォとなった愛しい人の唇を塞ぐ。
口付けが続き、舌を絡めてお互いの唾液を啜って飲み合う。

「ん……またジークのおおきくなってるよ……」
「ああ。アストルフォとまだ愛しあいたい」
「うんボクもしたい。いいよ……きて……」

そうしてジークはアストルフォを深く抱きしめた。





「んっ……少しだけ酔いが残ってますね……」

ルーラーは自室のベッドの中で目覚めた。
外はすっかりと明るくなっていて、鳥の鳴き声が聞こえている。
昨夜の酒宴にてあまり酒に強くはないルーラーはジークらを残して早々と床についたのだ。
少しだけだるい身体を起こして宴の後を見れば、酒瓶が幾つも転がっていてため息をついた。

「ジーク君達はあれからも飲んでたんでしょうね……全くライダーははしゃぎ過ぎです」

呟きながらジークとライダーが寝ているだろう二回の寝室へ向かいノックする。
案の定無反応で、ドアを開ければ片方のベッドは空っぽでもう片方はこんもりとシーツが膨らんでいた。
どっからどう見ても一つのベッドに二人が寝ているらしい。

「またですね。もういい加減慣れてきたんですがなんだか釈然としないん…………!?」

と、シーツを開いた瞬間、時間停止でもしたかのように固着した。
不思議と、シーツがはためく様子は聖旗を振っている時のルーラーに似ていた。
しかしこの光景をルーラーが祝福する事は到底あり得ないだろう。
裸のジークが、同じく裸のライダーを腕枕しながらこれ以上無く仲睦まじく寝入っているのだ。

「あ、あ、あ、あ、あ、あああなたたちぃっ……! 一体何をしているんですか!!!!」
「わわ、あ……ルーラー……」
「む……」

大音量の叫び声。
わずかにあった酒気も一瞬で吹き飛んで、でも二人の身体を見るのが恥ずかしくてシーツを激しく叩きつける。

「えーとこれはねぇ……ちょっと酔っ払っちゃってたんだよねぇボク」
「酔ってるだけならともかくとしてなんで二人共脱いでるんですか!?」

脱ぐだけならわりとあることなのだが、ベッドを共にしているとなるとそうはないわけで。

「驚かせてしまったのなら済まない。俺がアストルフォに教えてもらっていたんだ」

怒ればいいのか恥ずかしがればいいのか混乱しているルーラーにジークが声をかけた。

「ジーク君……教えてもらうというのはいいんですけど……」

ベッドに同姓同士裸で寝ていて教えてもらう事ってなんでしょう。
っていうかライダーへの呼称が変わっていません?
などと聞きたい事を抑えながらジークの台詞の続きを待った。

「人を愛するということはどういうものか俺は知った」
「姦淫じゃないですかぁっ!!!」
「そうなのか……?」

不道徳な性の行為を指して姦淫。
教会ででは同性愛はどちらかと言えばそのたぐいであった。
ルーラーはもうどうすればいいのっという感じで頭を抱え蹲ってしまっている。
聖杯大戦の戦友がいきなり教義に反しているのは些かダメージが大きかったらしい。
もちろん教義だけが理由ではないが。

「ううぅ……お酒飲んだにしてもいきなりすぎます……ジーク君はこう……
 純粋で……そういうのとは関係なかったじゃないですかぁ……」
「わっはっはっは、ごめんねルーラー。お先にご馳走様でした」
「朝食はまだだぞアストルフォ」
「そういう問題じゃありません!」

立ち上がったルーラーの怒声が隠れ家を揺らすがアストルフォはきゃっという感じでジークを抱きしめるだけ。
むしろ逆効果である。

「ううん……ルーラーにはちょっと衝撃的だったかもしんないね。いいさいいさ、わかってもらえなくたって。
 ボクらが愛し合っているのはいずれわかってもらえるよ。
 約束したとおり一緒に幸せになろうねジーク」
「な、ななななんですとぉ……!?」

意味深な言葉を聞いて顔が赤くなったり青くなったりと聖女っぽさなどどこにもない。

「それはそれとしてまだ眠いから寝るねー、昨日っていうか今日だけどジークがあんまり眠らせてくれなかったからさ」
「いや、しかし……ルーラーが……」

寝ようとするアストルフォに何か問題を感じながらも事態を把握しきれないジーク。
そう、これは修羅場というものだ。

「私はそんなこと許しませんよ!」
「へーだったらどうするんだい? 一緒に寝る? それとも混ざりたい?」
「ふ……ふふふふ不潔です!」
「俺は不潔なのか……?」
「違うんですジーク君! これはライダーが……あーもう……! なんなんですかこれはぁっ……!」

若干悲しげな顔をするジークに訂正しようと、でも混乱しながらルーラーは叫ぶ。
ルーラーがついには聖旗を取り出すに至ったのは間違いなくアストルフォのせいであった。

終了

あとtrueとgodの二つのendを書いて終わりです

すみません
>>2が色々と間違ってますが>>3に続く正しい文章はこれです

「マスターはね、もっと自分を大切にすべきなんだよね」

聖杯大戦決着も近い深夜。
ブカレストの隠れ家にて、アストルフォこと黒のライダーはずずずっと
迫り来るように主人でもあり友人でもある少年へと告げた。
向けている目は座っており、どこか剣呑な雰囲気を醸し出している。
それはライダーが隠れ家で発見した度数の強い蒸留酒やワインによる酔いの影響。
魔術師が趣味で秘蔵していたものか。
地下にある倉庫にはたっぷりのアルコールが揃っており、酒宴をするには十分の量があったのだ。

「飲みたい飲みたい飲みたい! 決戦前にパーッと景気良くいこうよ!」

決着間近とはいえ待機の時である今、そう主張するライダーに強く反対する理由は
ジークにはなく、ルーラーは反対の意思を見せたもののジークとライダーだけに酒宴されては
疎外感を感じるのか、ワインだけならと参加することになった。

そうして宴もたけなわ、ルーラーがレティシアの身体のためか早めにダウンした後
突然ライダーがジークを寝室に引っ張ってから一言目に放った台詞がそれである。
普段の快活で明るいライダーにはらしからぬ強い物言い。
そこには酔いの勢いだけではない真摯な響きも感じ取れた。

「……? どういう意味だライダー」

銀髪でルビーの瞳を持つ少年ジークは首を傾げる。
何を言っているのかよくわからないと言った表情。
気分が多少高揚しているようだが酒に強いらしく理性ははっきりとしているしライダーが真剣なのも伝わっている。
それでもライダーの言いたい事はわかっていないようだ。

「前も話したよね。マスターは頑張りすぎなんだよ。マスターが向こう見ずの怖いもの
 知らずってならまだいいのに、怖いくせに頑張り過ぎるから困るんだ。
 前みたいにホムンクルス達を助けたり、サーヴァントを倒すために死んじゃいそうでさ……ボクはそれが怖いんだよ。
 理性がどっかいっちゃってるボクを怖がらせるだなんてホントマスターは相当だよ」
「そう言われてもな……仲間を助けれるのに俺一人の生命で済むのなら妥当だ。報うだけの価値がある。
 それに半端な俺が生き延びるよりもライダーやルーラーが闘えるほうが勝算があるし
 仮令相打ちでも赤のサーヴァント達を倒せるのならばお釣りが来るだろう」
「ストップ! そういうのがダメなんだ! 助けるにしろ倒すにしろマスターが生きてないと意味がない!」
「そうできるのならば最善だろうが…………」

True endです

「かくて世界は変わらないままってね……これでよかったんだろうってそう思いたいけどさ。
 ………………やっぱり…………寂しいよジーク…………」

アストルフォは昼間の窓辺で独りごち、ぐすっと鼻をすすった。
冷えて澄んだ空気の空は日照時間が短くて、太陽が既に下りはじめている。
聖杯大戦は終わった。しかしジークは竜となって行ってしまった。
ユグドミレニアで居候している最中、ふとした時に城に在ったジークとの思い出を振り返ってしまうのだ。

(キミはボクを信じてくれていたのに……ボクってこんなクヨクヨしてた奴だったかなぁ……)

胸にぽっかり穴が開いたようだなんて、月並みな言葉が頭に浮かぶ。
ラインが繋がっていたとしても、あるいは繋がっているからこそ。
ジークと遥か遠い隔たりを感じてしまう。
戦いは終わり魔術師達はそれぞれの道を選び歩いて行こうとしている。
アストルフォにだって第二の生を受けて未だ見ていない世界を巡りたい気持ちはある。

それでも。
それでも。

彼がどこにもいないという事実が辛かった。
アストルフォの辞書には後悔の単語などない。
けれどもあの日あの時あの瞬間カウレスとレティシアを置いて、もしくは連れて行ってでも
ついていけばよかっただなんて考えてしまう。
在り得ない仮定だ。
仮令そんなことをジークが望んでいないとしても浮かび上がってしまうのだ。

「泣いてすがったらやめてくれたかな…………
 うーん……無理だろうなぁ……見かけによらず頑固だもんねジークは。ジークは寂しくないのかなぁ……」

いや、きっと寂しいに決まっている。
それでも人が人であってほしかったのだ。
救いなど求めていないと、断固拒否して行ってしまったのだ。

「でもね……どんなに生き汚くてもみっともなくてもさ、ボクはキミがいてくれるだけでよかったのに」

救いの聖杯を異界へと持ち去った竜。
しかしその救いは永遠という名の停滞にしか過ぎない。
もしジークが留まれば世界は恒久の平和と共に全ての熱を失っていただろう。
末路は静寂と虚に閉ざされた人類のなれの果て。
そうとわかっていてもジークが行ってしまったのが悲しかった。

「…………ボクはキミを幸せにしたいって言ってたけど、本当はボクがジークと幸せに
 なりたかったのかもしれないね………………」

俯きため息をついて

「やっぱり……ジークに逢いたいなぁ…………」

と、そこまで独りごちてから顔をあげた。

「……そうだよ逢いたいんだ」

そう、ジークが行ってしまってからは言葉に出していなかった。
何故今まで言わなかったのか。気づいていなかったとでもいうのか。
それとも無意識に諦めてしまっていたのか。
そんな風に俯き沈んでいた表情に彩りが満ち、瞳に情熱が宿った。

「遠い世界に聖杯とジークフリートの心臓と令呪の力でジークは行ったんだ。
 だったらそれに匹敵するぐらいの魔力や魔術師がいれば……」

ジークが起こした奇跡はあらゆる条件が揃ってのこと。
そのうちの一つを得る事すら凡百の魔術師では生涯を賭けても難しいだろう。
もちろんアストルフォにはそんな魔術師を手に入れる当ても知識も何も無い。

「それがなんだってんだ! もーボクのバカバカバカ! 悩む必要なんてなかった!
 別世界がなんだって言うんだよ! ボクはお空の月にだって行ったんだぞ!」

無意識のうちに不可能なことだと諦めていた行為は言葉に発する事でただの手段へと変わる。
立ち上がりだっと駆け出し、ヒポグリフもかくやという速さで目標の部屋へと突入する。

「な、な、な……ってお前かよライダー!」

どがしゃーんと白い木のドアを張り倒した先にいるのは旅支度を整えているカウレスだ。
行き先はもちろんのこと英国の時計塔だ。
ユグドミレニアの敗戦における人質としての役割がカウレスにはあった。

「ボクも時計塔に行くよ! ジークに逢いに行くんだ!」
「はっ? お前何を言って……」
「だからージークが行っちゃったんだから逢いに行く方法がいるんだよ。
 魔術師がいっぱいいる時計塔なら何か見つかるかもしれないでしょ」
「んな無茶な。別の世界にアイツは行ったんだろ。別世界横断なんて魔術じゃなくて魔法の領域―――」

そこまで言った所でカウレスは言葉を噤み考えこむ。
何かあるのかとアストルフォが迫る。

「近いって。……噂で聞いた事あるけど時計塔に魔法使いの弟子と目されている魔術師がいるらしい。
 トーサカって日本人だったはずだ。そいつなら何か知ってるかもしれない」
「それだ! やーありがとうありがとうカウレス。キミを見捨てないでよかった!」
「お前そんな事考えてたのかよ……あいつがいなくなって落ち込んでたからって」

カウレスはアストルフォに両手を握られてブンブンされなから信じられないような目で見ている。
塞ぎがちだった様子を知っているだけに、在り得そうな話しだと思ったのだ。

「よし! じゃあ行こうか!」
「無茶言うな! 出発は明後日だ」
「えー」
「どっちにしろ魔法が必要かもしれない状況で二日間の時間なんてたいして変わんないだろ。
 飛行機のチケットは用意してやるから待ってろよ」

カウレスはすぐにパソコンへ向かい手配を始め、なんとなく勢いが削がれたのかアストルフォは素直に頷いた。

「……無茶って言ってるのに話しを聞いてくれるんだね」
「聖杯大戦始まってからお前はずっと無茶苦茶だらけだったろ。今更なんだってんだよ。
 英霊なんてどいつもこいつも止めたぐらいじゃ無駄なのは俺だって知ってる」

アストルフォだけじゃない。カウレスだって失った人はいる。
姉のフィオレだってそうだ。
皆が皆乗り越えていけたなどと強く言えるはずもない。
誰かが悲しんでいる姿を見ればカウレスだって思い出してしまうだろう。
思い出は誰もが持っているものだ。

(それにライダーが落ち込んでるの見ると調子狂うんだよ)

アストルフォが元気ならそのほうがいいと思う。
理性が蒸発している英雄が悲しんでいるなんて似合わない。
大戦の最中、脳天気とすらとれるアストルフォの元気さに助けられたのはジークやルーラーだけではないのだ。

「……ごめんね。でもありがとう。いやーカウレスはいい奴だね。ジークがいなかったら惚れてたかも」
「やめてくれっ。女みたいなお前に言われると思い出しちゃうから」
「うーん……いい人止まりって奴かい」
「だからやめろってば!」

過去に女絡みで何かあったのが伺えた。
貴方って優しいけど恋愛対象じゃないの的な奴だ。

「わかったわかった。それじゃあよろしくね」
「ああ……襲撃か何かと思ったからもう突入するのは止めてくれ。あとドア直せ」
「うっ、不得意分野だなぁ……魔術でどうにかなんない?」
「俺はそういう魔術はできないんだよ」
「それじゃあしょうがないね。道具探してくるよ!」

だっとまたも駆け出していくアストルフォ。
道程は星よりも遠く、行き先の地図どころか方向の当てすらない。
けれどもう歩みは止まらない。
軽やかな疾走で広大なユグドミレニアの城塞を一瞬で駆けて行く。

「よーしやるぞぉっ! 今は離れていてもボクはキミに絶対逢いにいくんだ!」

幾年幾十年、いや、幾百年かかろうとも目指すべき未来は確かにある。
アストルフォの瞳にはジークが飛び去った空の遥か先までが映しだされていた。

「あ、テンション上がりすぎちゃって外出ちゃってた」

でもひとまずは。
出来る事からやろうとホムンクルス達に修理の道具の在処を聞きに行くアストルフォがいたのだった。

本編ではアストルフォがジークをジャンヌに任せっきりなのが気になりました
無理でも探しに行きそうだなって思ったり

ちまちまgood endのほうも書きます


「たまの早起きも気持ちいいもんだね。ジークもそう思うでしょ?」
「ああ昨夜の雪が嘘のように空が澄み渡っていて広いな」

陽が昇り、透き通るように蒼い空の下。
氷点下に達していても元気なアストルフォと共にジークは街を歩いていた。
アストルフォは跳ねるように足取りを軽くして。
ジークは石畳を踏みしめるよう一歩一歩着実に。
対称的な歩みは、アストルフォが行き過ぎて離れては振り向き立ち止まって続いていた。

「やっぱりこうしよ!」

と、何か物足りなかったのかアストルフォがジークの手を握る。
へへへっと笑いながらジークの腕ごと行進でもしているみたいに一緒に振り回す。
機嫌がいいを通り越した、嬉しくて嬉しくてしょうがないといった様子。

「ほどほどになアストルフォ。手が痛くなる」
「ごめんごめん我慢できなくってさ。ジークと一緒だから当然なんだけど」

隣のジークを見上げてにっこりと笑う。
そうして昂ぶる気持ちを抑えんとばかりにぎゅぎゅっと今度は腕組みをしてくっついた。

「ふふふーん幸せだなぁ。……やっぱりね、やればなんとかなっちゃうもんだよねぇ」
「あの時か…………あれはまさしく君らしかった」

一週間ほど前に集結した聖杯大戦を二人は思い描く。
ルーラーがシロウと対峙し、大聖杯が願望機として真価を発揮しようとする直前。
或いはルーラーが特攻宝具ラピュセルを発動する直前。
間に合ったのは些細な巡り合わせか奇妙な偶然か。
アサシンの足止めの鎖を断ち切り続けたアスルトフォが決戦の場に踊り出たのだ。

魔術で歪め広げられた空間に在る大聖杯。
それから流星のごとく降り注ぐ魔力の鉄槌を聖旗で生命削りながらもジル・ド・レェが防いでいた。
庇護にあるジークと祈り詠唱するルーラーの姿を見て、アストルフォは即座に全力で
大リーガーのピッチャーのように怪力スキル付きで投げたのだ。

「ルナァァァブレイクゥゥゥマニュアルゥゥゥゥ!!!!」

宝具・破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)をだ。
必殺技みたくやたらエコーを効かせながらも正しい宝具名ではなく適当に付けた名前を
何故叫びつつ投げたのかは自身でもわかっていない。
まさしく直感的としか言い様がない。でもそれは間違いなく正しかった。

書物という空気抵抗を存分に受ける形ながらも人外の怪力で投げられたそれは
追いすがろうとするアサシンの鎖を置いてけぼりにして大聖杯へと突き刺さった。
そしてぼふんっと大きくも間抜けな音を立てて煙が吹き出したのだ。

「はぁっ……!?」

馬鹿みたく口を開け、端正な顔を歪めるシロウが疑問をあげても何も変わらない。
まるで六十年ぐらい酷使され続けた家電製品が焼き切れて寿命を迎えたかのように黒い黒い煙を大聖杯は吐き出していく。
宝具のランクとして高くはなくむしろ低いCランクの破却宣言ではあったが、その真価はあらゆる魔術の破壊。
仮令第三魔法に至った聖杯と言えども元は単なるマジックアイテムにしか過ぎない。

ランクが低くとも、突き刺さったそれは速やかに魔術のシステムそのものを破壊して攻略して機能そのものを失わせていく。
聖杯とは比喩であり、実際は球状の形をしている大聖杯からは底が抜けたかのように純粋魔力が垂れ流されていく。
Aランクの宝具を受けてもこうはなるまいという完璧な破壊。
死にかけているアサシンにも、聖杯を自由に制御していたシロウにも止める術など在りはしない。
空中要塞は溢れ出る魔力の海によって歪み風穴が開いては浮いたまま沈没していく。

「馬鹿なっ! 宝具一つで聖杯が―――うぉぉぉっ!?」

あまりの魔力の勢いにシロウは流されて見えない所へ逝ってしまう。
残るはぽかーんとした顔のジークとルーラーと、私の見せ場は? みたいな顔で消えていくジル。

「よーしぃなんだかわからないけどボク達の勝ちだ! 逃げるよ乗って乗って!」

ヒポグリフでだだっと駆けつけたアストルフォが二人を無理やり引っ張り乗せる。

「我が六十年の彼岸がぁ…………!!!!」
「許さんぞぉライダー!!! 貴様だけは先に殺しておくべきだったぁぁぁ!!」

遠くからマスターとサーヴァントのそんな声が聞こえるのを聞き流しつつ夜明けの空へと飛び去ったのだった。

「どっちかと言うとアサシンのほうが怖かったね」
「呪詛でも残していそうだな。君には効かないだろうが」
「だねぇ。…………自分でやってなんだけどちょっと可哀想だったかも」
「シロウがか?」
「そおそお」

歩きながらジークはシロウの事を思う。
人間に絶望して救いを聖杯に賭けて六十年を生きた魔人。
方法はどうあれその想いだけは間違っていないだろう。

しかし。

「どう考えても言える言葉は…………ざまあみろだ」
「だよね! ボクたち気が合うね!」

今ではお互いの気持ちを確かめる材料でしかなくて、アストルフォは背伸びして抱きしめながらジークの頬へキスをした。

「待ちなさい」

いや、正確に言えばキスしようとしてがしりと頭を白い手に掴まれた。

「あれ? いたのジャンヌ?」
「いましたよ! 貴方達が先に行って置いてけぼりにしたんです!」

当然ながら、戦いで生き延びたのはジークとアストルフォだけではなくジャンヌもいた。
特攻宝具でシロウと刺し違える直前だったので、ある意味シロウよりも呆然としたままだった。
聖杯大戦が終わり、役目を終えたルーラーことジャンヌが現界している理由は簡単なこと。
レティシアが今でもジャンヌを受け入れているからだ。

最初は役目を終えたジャンヌは消えようとしていたが、ジークとアストルフォと
他ならないレティシアの呼びかけに応え、現界の道を選んだ。
聖杯の加護は消えているし、レティシアにも魔力は殆ど無いのだが
ユグドミレニアの降霊術の力とジークの魔力を借りて意思と魂が宿っている。

「はぁ……ジークさんもアストルフォさんも脚が速いです」

むっとしていたジャンヌの顔が穏やかな表情に切り替わる。
表層にレティシアが現れると様子が違っている。

「すまないアストルフォに釣られてしまった」
「ごめんねジークといるとテンション上がっちゃってさー」
「私には無視でもされたかのように感じましたが。というかいたのとか聞いてましたよね」
「ボクって前しか見えなくなっちゃうんだよねー」

冷たい返事はジャンヌのもの。
雰囲気がコロコロと変わっているが慣れているのかジークとアストルフォにはすぐ区別がつくよう。
こうして四人が朝から出歩いているのが何故か言うと旅というよりは旅行の真っ最中だった。
アストルフォが世界を見ようと宣言してから、ひとまずルーマニアからフランスまで観光がてら回っている。
早朝なのは少しばかりジークと仲を深めようと抜け駆けしたがるアストルフォがジャンヌに捕まったからだった。

「貴方達が仲がいいのはわかりました! けれど朝方からはやめてください」
「だってさー昨日いちゃいちゃできなかったんだよねぇ」
「ほっといたら貴方達はいつもじゃないですか!」

具体的な内容をジャンヌは言えていない。
ちょっとばかりくんずほぐれつしているアレな行為は聖乙女には刺激が強すぎる。

「私は素敵だと思います。あんなに激しい戦いでしたから。
 きっと通じ合うものがあったんですね。」

肯定するレティシアの様子はなんというか、若干の陶酔を秘めている。
むしろそれがいいといった様子だ。
出来ればまた見せて頂きたいです。
小さくそんな声を漏らすほどに。

「だ、ダメですよレティシア! 貴方は敬虔な教会の信徒じゃないですか!」
「あー……修道女のレティシアにはちょっと刺激が強すぎたかもねぇ」
「そういうものなのか?」

あろうことか。
朝まで繋がっていた二人を見てしまい、レティシアは何かに目覚めてしまっているようだった。
凛々しい美少年と、どう見ても美少女にしか見えない美少年が愛しあう姿は暴力的で衝撃的だったようだ。

「違います。私は愛というものの形を一つ知っただけなのです」
「だったら心の中で二人が絡んでるのを想像しないでください!」
「その、俺達に何か問題があるのでは?」
「いいのいいの。ボク達が愛し合ってるのが本当だからこそジャンヌもレティシアも思う所があるんだよ」

一人二役で会話というか喧嘩している様子はなかなかに奇異で、ジークも疑問をアストルフォへと向ける。

「いいですか! 聖書にはこう記されています。
 女と寝るように男と寝てはならない。それはいとうべきことであると。
 主は寛大です。姦淫ではありますが全てが裁かれるとは言いません。悔い改めれば――」
「しかし、あんなに幸せそうなお二人を見て罪だなんて、とても……」

言い合っている少女らを見てアストルフォはにんまりとチェシャ猫のように笑う。

「色々大変なんだねぇ。なんならジャンヌとレティシアも混ざってみればいいと思うよ」
「なんですとぉ……!」
「しかし愛する人というのは一人ではあるべきだろう。そうみだりに行うことでは」
「ジークはそうだよねぇ。だったらボクが入れるほうに回るのもいいかも。ジークが許してくれるんなら」
「……そ、それは……」

アストルフォとジャンヌを見て視線が彷徨うジーク。
生後数週間にはちょっとばかり荷が重い選択のようだ。
アストルフォはそれをわかっていて楽しんでいるようだったが。

「……ジークさんとアストルフォさんに囲まれてる私……? 素敵です……」
「うわぁーん、レティシアが堕落してますぅ……!」

喜びながら頭を抱える器用な少女を見ながらアストルフォは悩むジークに腕組みして歩き出す。

「ふふふっ、面白いなぁ! やっぱり生きてるっていいよね! 楽しいよね!」
「……あ、ああ。なんだかわからないが、君とこうしていると楽しい」

結局は、肴にして遊ばれているだけで。

「ちきしょー! 結局私の人生は同性愛者尽くしなんですかー……!」

お空のどこかでジルが嘆きそうな叫びが冬の空気へと消えるのだった。

終了
アポクリフォがアニメ化してアストルフォがエロ同人とかにホイホイ描かれる未来がみたいです

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