漫画主人公「作者に頼まれて名言を生み出すことになった」(36)

とある漫画の世界──

作者「やぁ」

主人公「あ、どうも! お久しぶりです!」

主人公「あなたがここに来るなんて……何年ぶりですかね」

主人公「たしか、よほど集中しないとここには来れないはずじゃ……」

作者「うん、そのとおり」

作者「実は困ったことになってね。キミに相談をしに来たんだ」

主人公「困ったこと? いったいなんですか?」

作者「それを話す前に、少しおさらいしておきたい」

作者「この漫画は、悪の大帝国に挑むレジスタンスの戦いがテーマだ」

作者「そしてキミはレジスタンスの集団に新兵として参加し」

作者「メキメキ頭角をあらわしている」

主人公「そのとおりです」

主人公「この間も俺の活躍で、帝国基地を一つ潰しましたしね」

主人公「もちろん、あなたがやらせた(描いた)ことなんですが……」

主人公「そしていよいよ、帝国軍精鋭との戦いが始まろうというところです」

主人公「物語としては、ここからが本番ってところですね」

作者「そう、そのとおり……ストーリーはどんどん盛り上がっている」

主人公「──あ、そうか!」

主人公「もしかして、困ったことというのは、今後の展開に悩んでいるのでは?」

主人公「俺はだいぶ強くなったといってもまだまだ発展途上だし」

主人公「逆に帝国はあまりにも強大……。どうすればいいんだ、と」

作者「いや、そうじゃない」

作者「ボクが悩んでるのはもっと単純……いや、基本的なことなんだ」

主人公「基本的?」

作者「実は、読者の意見の中で……『この漫画には名言がない』ってのがあったんだ」

主人公「名言……ですか」

主人公「名言っていうと、たとえば──」

主人公「『天は人の上に人を造らず』とか『青年よ、大志を抱け』みたいな?」

作者「いや、なにも立派なことをいう必要はないんだ」

作者「名言というより、“印象に残るセリフ”といいかえてもいいかもしれない」

作者「この作品といったらこのセリフ、みたいなやつさ」

主人公「印象に残るセリフ……」

主人公「たしかに……あまりないかもしれないですね」

作者「ボクとしても、設定やストーリーを考えるので精一杯で」

作者「セリフ回しはあまり練ってこなかったからねえ」

作者「──というわけだから、名言を考えてくれ! 明日までに!」

作者「そうしてできあがった名言を、今度使わせてもらうからさ!」

主人公「ハァ!?」

主人公「な、なにいってんですか!」

主人公「それを考えるのは、作者であるあなたの仕事でしょう!?」

作者「う~ん、だけどボクも色々と忙しいしさ」

作者「ここは一つ“キャラクターが勝手に動いた”ってやつに委ねてみようと思ってね」

主人公(相変わらず勝手なヤツだ……。だけど逆らうわけにもいかないし……)

主人公「分かりました……やってみます」

作者「あ、ひとつだけいっとくけど」

作者「もしいい名言ができなかったら、主役交代させてもらうから」

作者「キミには戦死してもらって、別のキャラで第二部ってね」

主人公「え!?」

作者「それじゃ!」

主人公「あ、ちょっと待って……!」



主人公「……行っちまった。ホントひどい作者だ」

友「よう、こんなとこでなにやってんだ?」ザッ

主人公「あっ、実は──」

友「“名言を作れ”か……。あのいい加減な作者らしいな」

主人公「どうすりゃいいかな?」

友「他ならぬ親友の頼みだ。半日だけ時間をくれ」

友「外の世界に干渉して、他の作品の名言ってやつがどんなもんか調査してみるから」

主人公「え、なんでお前そんなことできんの!?」

友「…………」ギロッ

主人公「わ、分かった、なにも聞かない」

主人公「じゃあ……頼むよ」

友「ああ、任せときな!」

半日後──

友「ただいま」

主人公「おお、どうだった? 名言ってどういうもんか分かったか?」

友「名言っていっても色んなタイプがあるから」

友「名言とはこういうものだ、って一言でいうのは難しいな」

友「だけど“名言の法則”みたいなもんは、なんとか分かったような気がするよ」

主人公「すげえ! ぜひ教えてくれよ!」

友「んじゃさっそく、講義を始めるぞ」

友「まず……“自分の目的をしっかり告げる”なんてのは名言になりやすいな」

主人公「目的か……俺だったら帝国を倒す、かな?」

友「まぁ、そうなるだろうな」

友「代表的なのはワンピースのルフィの『海賊王におれはなる!』なんてのがある」

主人公「!」ビビッ

主人公「お~、いいねえ。今ビビッときたよ」

主人公「ここは海でもなんでもないのに、潮風の匂いがしたよ」

友「明確な目的がある主人公の方が、読者ものめり込みやすいだろうしな」



1.目的を告げる

友「それと……いわゆる“キレイごとを否定するセリフ”も名言になりやすい」

主人公「キレイごとを否定……」

主人公「人は愛があれば生きていける、みたいのを全否定すればいいわけか」

友「そうそう」

友「例としてはカイジの『金は命より重い……!』なんてのがある」

主人公「すげぇな、いいにくいことをいい切っちゃってるところがすげえ」

友「だろ? 思っててもなかなかいえねぇよ、金は命より価値があるなんて」



2.キレイごとを否定

友「だけど逆に、“命の素晴らしさ”を説くようなセリフも人気が出る」

主人公「ふうん、たとえば?」

友「ダイの大冒険の『閃光のように……!』とかだな」

友「人間の一生は短いけど、だから閃光のように生きてやるっていうセリフだ」

主人公「熱いな……」

主人公(俺、閃光のように生きられてるかな……せいぜい線香花火だ)



3.命の素晴らしさを説く

友「あとは単純に“自己紹介”のセリフが名言になったりする」

主人公「自己紹介が名言? どういうことだよ?」

友「名探偵コナンの主人公のコナンはこうやって自己紹介するんだ」

友「『江戸川コナン、探偵さ』ってね」フッ…

主人公「おぉ~、かっけえな。キザだけど、悔しいけどかっこいいや……」



4.自己紹介

友「他には……“面白い比喩”なんてのも名言になりやすい」

主人公「比喩? 炎のように熱い俺のハート、みたいな?」

友「ちょっと普通すぎるな。それじゃ名言にはなりにくいよ」

主人公「ぐ……!」

友「ジョジョの奇妙な冒険にはこんなセリフがある」

友「『コーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実じゃッ!』ってな」

主人公「ぶふっ! す、すげえ……」

主人公「確実とゲップをつなげるなんて……どんな発想だよ……」



5.面白い比喩

友「あとは……“同じフレーズを何度も繰り返し使う”なんてのもありかもな」

友「たとえばブリーチって漫画だと」

友「『なん……だと……』って言い回しが何度も何度も出てくる」

友「そのおかげで、ブリーチといえば『なん……だと……』っていうファンも多い」

主人公「なん……だと……」

主人公「うん、これはたしかに使いやすい」

友「使いやすい……だと……」

主人公「応用した……だと……」



6.同じフレーズ

友「それから、意外と“何気ない仕草”も名言になったりする」

主人公「何気ない仕草が?」

友「バスケ漫画のスラムダンクの『左手はそえるだけ』ってのは」

友「別に特別な技でもなんでもない、ジャンプシュートの時のコツなんだけど」

友「このセリフが、いざという時に使われるとグッとくるわけだな」

主人公「ジャンプシュートのコツが、ものすごい感動を生むわけか……」



7.何気ない仕草

友「あと、名言とはちょっとちがうかもしれないけど」

友「“変わった語尾”なんかも印象に残りやすいな」

主人公「語尾?」

友「NARUTOの主人公のナルトは『ってばよ』って語尾を使うんだが」

友「おかげでこいつのセリフ回しは記憶に残りやすくなってる」

主人公「語尾かぁ……ちょっと工夫してみるかなってばよ」

友「パクるなってばよ」



8.変わった語尾

友「それと……やっぱり“長いセリフ”ってのは記憶に残りやすい」

友「ヘルシングって漫画で敵のボスが『諸君、私は戦争(クリーク)が好きだ』って」

友「延々と戦争について演説をかますシーンがあるんだが」

友「あまりに強烈なので、作品知らない人でもこの演説は知ってるレベルになってる」

主人公「長いセリフは得意じゃないけど……やってみる価値はありそうだな」



9.長いセリフ

友「そして最後は……やっぱり“数字”だな」

友「ドカンとでかい数字でインパクト出してやりゃ、それだけで名言になる」

友「ドラゴンボールのフリーザの『わたしの戦闘力は530000です』とかな」

友「それまで戦闘力数万でやりあってたところに、53万だからな」

友「イヤでも印象に残るってもんよ」

主人公「数字ってのは分かりやすいもんなぁ」



10.大きい数字

友「──さてと、オレの調査はこんなところかな」

友「あとはおまえ次第だ」

主人公「ありがとな……。俺、やってみるよ! 名言、生み出してみせるよ!」

友「がんばれよ」

友「この漫画から、名言が生まれりゃオレだって嬉しいんだからさ」

主人公「ああ、任せてくれ!」

主人公(必ずすごい名言を作って、作者をギャフンといわせてみせる!)

その夜──

主人公(ああでもない、こうでもない……う~ん……)

主人公(くそっ、なかなかいい名言ができないな……)

主人公(ただでさえ、帝国軍との戦いで忙しい時に……)

主人公(ええい、今夜は徹夜だ!)



………………

…………

……

翌日──

作者「やぁ」

主人公「ど……どうも」クラッ…

作者「昨日ボクがいった宿題、名言は作ってきたかな?」

主人公「……バッチリです! 自信作です!」

作者「よし、じゃあさっそく聞かせてもらおうか。キミの“名言”を!」

主人公「はいっ!」

主人公「ククク、俺は主人公で帝国反乱軍の一員だ!

    俺は帝国を絶対にブッ倒す! ドミノ倒しをするようにな……!

    ククク、もちろんブッ倒すって思ってれば報われるとは限らない……!

    だが、俺のちっぽけな命を燃やせば大帝国だって倒せるはずだ!

    ククク、剣を持つ時は両手で握り締めるだけ……。

    俺が本気を出せば帝国兵700000人くらい余裕で倒せるぜ。

    ククク、やってやるでヤンス!」

1.目的を告げる 「帝国を絶対にブッ倒す」

2.キレイごとを否定 「思ってれば報われるとは限らない」

3.命の素晴らしさを説く 「ちっぽけな命を燃やせば大帝国だって倒せる」

4.自己紹介 「俺は主人公で帝国反乱軍の一員だ」

5.面白い比喩 「ドミノ倒しをするように」

6.同じフレーズ 「ククク」

7.何気ない仕草 「両手で握り締めるだけ」

8.変わった語尾 「ヤンス」

9.長いセリフ 「176文字」

10.大きい数字 「700000」

PERFECT!



主人公(き、決まった……!)

作者「……なにそれ?」

主人公「え?」

作者「やたら無駄に長いわ、内容は支離滅裂だわ、しかもヤンスってなんなんだよ」

作者「響くものがなんにもなかったよ」

作者「散々期待させといてこれかよ……ガッカリだわ」

作者「悪いけど、キミもういいや」シッシッ

作者「適当なところで死んでもらって、新しい奴を主役にすっから」

作者「じゃあな」スタスタ…

主人公「…………」

主人公(なんだよそれ……!)

主人公(せっかく人が一生懸命考えたってのに……)

主人公(だいたい、漫画のセリフなんてもんは作者が自分で考えるもんだろがよ)

主人公(それをよりによって自分のキャラクターにやらせて、なにがガッカリだよ……)

主人公(好き勝手、ほざいてんじゃねえ……)

主人公「…………」ブツブツ…

作者「?」

主人公「好ききゃって、ほざいてんじゃねェェェェェッ!!!」

作者「!!!」ビビビッ

主人公「このヤロ──」

作者「おおっ、い、今のはよかったよ!」

主人公「へ?」

作者「心の底からの叫びって感じで、なんかこうビビビッときた!」

作者「“勝手”を噛んじゃって“きゃって”になってたのもちょっと面白い!」

主人公「え、え、え?」

作者「ボクが求めてたのは、そういうセリフだよ! ぜひ使わせてもらう!」

主人公「ど、どうも……」

主人公(なんか知らんが、どうやら名言が生まれたようだ……)

その後、ある漫画雑誌にてこんなシーンが掲載された──



帝国将軍『国が民の命や財産を奪い取ってなにが悪い?』

主人公『好ききゃって、ほざいてんじゃねェェェェェッ!!!』





読者A「なんだこれ? 誤植か?」

読者B「いや、それだけ主人公がブチキレてるって表現だろ? すげえよ」

読者C「この漫画、絵やストーリーはいいのにセリフ回しはイマイチだったからな」

読者D「ようやくこの漫画にも、名言が生まれたな」

読者E「俺、このコマでコラ作ろっと」

友「よかったよかった」

友「例の名言、外の世界じゃずいぶん好評みたいじゃんか」

主人公「思いっきり噛んでるから、ちょっと恥ずかしいけどな」

主人公「お前の調査やアドバイスも役に立ったよ。どうもありがとう」

友「苦労したかいがあったよ」

主人公「だけど、読者の心に響く“名言”を生み出す上で一番大切なのは」

主人公「こういうセリフがウケるからこうしよう、とかいうことじゃなく」

主人公「いいたいことを心の底からズバッという、ってことなんじゃないかなと思うよ」







おわり

以上で終わりです
ありがとうございました

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom