【モバマス】岡崎泰葉「私は……好き」 (24)

ーープロダクションの中

アイドル1人とプロデューサー1人。

ソファーとデスク。

向いている方向は違うものの、向いている方向は一緒。

そんな2人のとある一幕。

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ーー四月の初めの事

夜風は少し肌寒く、咲いたばかりの桜を散りばめる。

そんな雨が降り注ぐ午後九時。

ここは芸能プロダクション

十人十色、文字通り様々なアイドルが所属する業界大手のプロダクション。

日中は、様々なアイドルでごった返す事務所も…既に夜。

事務所の中には、ソファーに座り勉強するアイドル1人とデスクに向かうプロデューサー1人。

お互いに背中合わせで、振り向く事もない。

お互いに興味がないから……ではなくて。
お互いに嫌悪……でもなくて。

多分、そういう関係なんだと思う。

「ふぅ……」

私はパタンと小さく音をたて、教科書を閉じました。

「……終わったのか?」

背中から声が流れてきます。

プロデューサーさんの声……二人だけしかいないので当たり前ですが。

でも当たり前が特別に感じる、この瞬間。

それが私にとって、とても大好きな瞬間……だったりします。

「…はい、ちょうど切りのいい所でしたので」

「そうか…こっちもちょうど切りのいい所だったよ」

私はプロデューサーさんを待つ間、勉強する。

プロデューサーさんは私を待つ間、仕事する。

こんな毎日。

「そうですか、それは良かったです。……あの……もう時間も遅いので」

「分かった、それじゃ……帰ろうか。また寮まで送るよ」

お互いがお互いを理解し合える。

そんな毎日。

多分、私は……が好きなんだと思う。

ーー車の中

「今日は……どうだった?」

車の中では大体、1日の起きた出来事を話す。

仕事は仕事の時に話せばいいから、今はただ単に、泰葉とコミュニケーションをキャッチボールする。

普通で当たり前のようなことが、とても大切なものと感じさせてくれる瞬間でもあるかもしれない。

「今日は乃々さんから漫画をお借りしたのと、悠貴さんと清美さんにお勉強を教えたこと……後、周子さんに『岡崎センパイー!』ってからかわれたり」

後部座席から声が流れてくる。

泰葉の声。

そのリズムからは、泰葉の表情、感情が少しずつ伝わってくる。

一見、気難しそうに見えるけど、本当は誰よりも純粋な女の子。

多分、この時間がなければ……気づいていなかったかもしれない。

【岡崎泰葉は芸能界を生き抜いてきた】

多分、この事が泰葉を苦しめている。

この業界で当たり前の経歴だからこそ、色眼鏡で見られてしまう。

芸能界の闇の部分。

事務所の力やコネで手に入れた仕事、ゴリ押しと一方的で暴虐なレッテルを貼られてしまいかねない。

しかし、一方でそれが泰葉を助けている事もある。

芸能界にいたからこそ、出来る気遣い。

関係者への信用、信頼。そして向上心。

荒波、修羅場を乗り越えてきた経験が、今の岡崎泰葉を作り上げてくれている。

「そうか……今日も1日楽しかったか?」

「そうですね……とても楽しかったです……」

しかし実際に話してみると……どうだろう。

その姿は唯の友だちが好きな女の子だ。

ただ、他の子よりも苦労を重ねているだけで。

「プロデューサーさんはどのようなお仕事でしたか?」

そして……また1つ苦労を増やしてしまう。

「また……やるらしい」

【第四回総選挙】

非情で無情。現実と現状を叩きつけられる。

プロダクションとしてもは目に見える結果だけに、【誰を推していくのか】を明確にできる。

それだけに、アイドル同士、ファン同士の仲が嫌悪になってしまう事や活動を止めてしまうことだってありうるイベントだ。

「そ…そうですか」

先程まで、笑っていた泰葉の顔が曇る。

それはそうだろう。泰葉は前回総選挙……ランク外。

仕事が増えてきたのにも関わらず、現実は非情。

結果に怯える事も、当然だろう。

「……大丈夫、大丈夫だ。全力を出す」

思ったままの事を言葉にする。

泰葉の不安を取り除く為の言葉ではなくて、自分自身を落ち着かせるように。

プロデューサーとして、1人のファンとして、岡崎泰葉に煌めくステージの上で笑顔を輝かせるために。

「大丈夫だ、信じろ」

「大丈夫です。私は信じていますから……みんなを信じていますから」


「そうだ、任せてく……」「皆ライバルだけど、それだけじゃないはずですから……!!」

正直……肩透かしを食らった気持ちだ。

しかし、良い気持ちだ。

自分の事ではなくて、順位の結果じゃなくて。

「私は……今が楽しいです。仲のいい人と一緒にいる事が出来る……そんな今が好きなんです」

「だから、それを壊される事が、今、一番怖いんです…」

多分、そう言う事なんだろう。

「俺も泰葉を見えていなかった。
……泰葉だけを幸せにしようとしても、泰葉は幸せにならないもんな」

友だちと仲良く出来る事が、今の岡崎泰葉の幸せ。

……今さっき、聞いたことを忘れるなんて、プロデューサーどころか、大人失格だな。

まだまだ教えてもらう事ばかりだ。

……周子の言うように泰葉は先輩だけど、やっぱり普通の女の子でもあるな。

「……私、昔より弱くなったかもしれません。でも……」

助手席に座る泰葉の頭にぽんっと手を置く。

分かってる、その返事代わりに。

「大丈夫、皆、大丈夫さ」

「……そうですね、皆、大丈夫です」

「最悪、岡崎センパイが声を掛けてあげたら大丈夫だ!」

「……もう!プロデューサーさんまで、からかうなんて。もう知りません」

「ハハッ、勘弁してくれよ」

彼女は多くの事を背負わなければならないかもしれない。

でも彼女だけで全て背負わなくてもいい。

お互いがお互いに荷物を分け合える。


ーーそんな今が好き。

「送っていただき、ありがとうございました」

「こちらこそ、送らさせていただき、ありがとうございました」

「「それじゃあ、また明日」」

寮と家路。

向いている方向は違うものの、向いている方向は一緒。

そんな2人のとある一幕。

END

総選挙の事で頭がアレになったので、反省的なアレで、アレにアレしました。

皆も自分の担当アイドルをしっかり見つめような!!!
でも、泰葉しようぜ!!!

完結後に、すみません……。

自動車に乗った時の位置とその後の乗車位置が変わってました。
後部座席→助手席になってます。
初歩的なミスである座席シャッフルをどうかお許しください。

元々はいつもは後部座席だけど、今日は助手席って書く予定でしたああああああああああ

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