【ダンガンロンパ】ダンロンでほのぼのと薔薇薔薇する (46)

スレタイ通り、ほのぼのとホモホモするため、安価でペアとお題を頂きたい!!というスレです。
短めの話をいくつか書いたら終わります。

キャラの範囲は1.2、ゼロ、ロン切、絶望少女…全部OKです!
と、言いたいところですが、ロン切3巻は未読です、済みません。それ以外の登場キャラでしたら問題ありません。
投下はゆっくりまったりでやっていきます。

前回のほのぼの百合スレ
【ダンガンロンパ】ダンロンでほのぼのと百合百合したい - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1427117659/)


ひとり目の男子キャラを>>2
お相手の男子キャラを>>4
お題を>>6

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1428814453

日向

新月

不二咲

今の自分を変えたいコンビ

ちーたんは強くなりたくて、日向は才能を持ちたくてそんな2人が出会ってお互いが話している内に何かを見つける的な

日向君とちーたんで“ふたりが出会い、互いの悩みを話す”で行きます!

このふたりというだけで、すでにほのぼのだと思う>>1

ホモホモになる気がしない

 才能は手に入れるモノではなく、元々備わっているモノだ。ない人間がいくら頑張ろうと、努力しようと、徒労に終わるだけ。
 どれだけ望もうと、どれだけ憧れようと、俺に才能は眠ってなんていなかった。それだけの話。そう言い聞かせようとしてきた。それなのに諦めきれなくて、悪あがきする今の俺はなんて惨めなんだ。

日・不 「はあ」

日・不「えっ?!」

 映画館に備え付けられている椅子に座って物思いに耽り、ため息を吐いたところで誰かのため息と重なった。反射的に隣を振り返ると、小学生くらいの女の子が俺と同じように驚いた顔でこっちを見ていた。

日向 「……はは」

 顔を合わせたところで何かあるでもなく、どうしようもないから、とりあえず笑って誤魔化した。

不二咲 「ふふっ」

 そんな俺に、女の子も笑い返してきた。ふわりとして愛らしい笑顔。まさかのことに戸惑いと気恥ずかしさで顔をそらそうとした時――

不二咲 「何か悩みがあるの?」

 向こうから話かけて来た。

日向 「キミもそうなんじゃないのか? この映画観にきてるってことは」

 投げかけられた質問に対して、俺は質問で返してしまう。けれど女の子はそれを問題にはせず、俺の質問に素直に頷いた。

不二咲 「……うん……そうなんだ」

 さっきまでの愛らしい笑顔が曇り、少し俯いてしまう。

 今日観ていた映画の宣伝文句は“悩みを抱えるあなたに贈る”というもの。映画を観ただけで悩みが晴れるとは思ってはいないが、一応観ておくのもいいだろうと思い、足を運んではみたが……やはりそれだけでは、自分の悩みの解決になるような糸口にならなかった。
 この子も俺と同じ心境だったから、ため息を吐いていたんだろう。

日向 「キミみたいな小さい女の子が、俺みたいな初対面の男相手にってのが抵抗なければだけど」

日向 「悩みを聴くよ」

不二咲 「えっと……」

 この反応! やっぱマズかったか!?
 女の子はかなり困った様子で目を泳がせる。それはそうだ。会って数秒程度の人間に悩みを聴くと言われたって気持ちが悪いだけに決まっている。ただの変質者じゃないか。

日向 「困らせるつもりはなかったんだ! ごめん!」

不二咲 「ううん! 違うんだ! キミは悪くないよ! 僕が悪いんだ!!」

 女の子は身を乗り出して自分が悪いのだと強く主張する。何故彼女が悪いのかも、必死なのかも解らないけど……。

日向 「えっと……とりあえず、場所変えるか…邪魔になるし」

 女の子が叫んだことで、ちらちらとこちらに視線が集まっているのが解る。映画館のロビーだし、長居するのは邪魔になるというのも本当だけど、一番は居心地が悪い。どこかファストフードの店なんかに移動した方がよさそうだ。

不二咲 「あ、うん。そうだね」

 女の子の方も頷いて立ち上がる。自分から言い出しといてあれだけど…危機感なさ過ぎてこの子大丈夫か? と心配になりながら、映画館を出た。

不二咲 「えっと…まずは自己紹介した方がいいかな?」

日向 「いや…まあ、キミがそれでいいならいいけど」

 その場限りだからこそ、話せない話を思いっきりできる…というメリットは確かにある。しかし、この日限りの人間に、自己紹介をして意味があるのか…まあ、名前が解らないよりは、解った方が悩みを相談するのだし、ある程度の距離は縮めたほう話し易くなるかも知れない……か?
 
不二咲 「不二咲 千尋ですぅ」

 不二咲は自信なさそうに名乗った。名前を言うだけなのに、なにをそんなに不安がる必要があるんだろうか? ん? でも不二咲 千尋…どこかで聞いた覚えがある気がする。

日向 「俺は日向 創だ」

不二咲 「日向君だね。……えっと……あのね?」

 不二咲は手先を落ち着きなく組んだり離したりして、上目で俺を見ながら言い難そうにしながら口を開いた。

不二咲「歳はキミと変わらないと思うんだぁ」

日向 「え…?」

 俺と同じくらい? 俺高校生だけど…?

日向 「小学校高学年くらいだと思ってたんだけど」

不二咲 「やっぱり……これでも高校生だよ。映画館で小さい……女の子って言われたから、勘違いされてるんだと思って…」

日向 「嫌な思いさせてごめん!!」

不二咲 「ううん……背丈は仕方ないもん…ただ、それとは別に、僕が君を勘違いさせてるのがいけないんだ」

 そういえば、映画館でも“僕が悪い”って言っていたな。どういうことだろうか?

不二咲 「……まず、僕が趣味でこうしているんじゃないってことを念頭において欲しいんだ」

日向 「? 解ったよ」

 不二咲は小刻みに体を震わせている。何か怖がっている? そして不二咲は一度固く目を閉じて、その恐怖を払うように顔を上げた。

不二咲 「僕、男なんだ!」

日向 「……え?」

 男…って言ったか?

日向 「ええっと……」

不二咲 「だから、日向君に“女の子”だって勘違いさせちゃって、ごめんなさい」

不二咲 「それに…驚いたよね? でも、こんな機会でもないと、僕のしていることが他人からみたらどう思われているのか知れないから」

不二咲 「日向君は、どう思う? 男が女の格好して過ごしてるのって」

日向 「えっと…え?」

 華奢で人形のように可愛らしい不二咲が男……?
 どうしても疑ってしまうが、不二咲の目は真剣だ。ここで“まさか!”なんて笑ったりしたら、真実だった場合不二咲は間違いなく傷つくだろう。不二咲がからかっていたとしても、それはそれでいい。信じてやる方がいいに決まっている。

日向 「男が女の格好して過ごす、か」

 不二咲は趣味でこの姿をしているワケではないと言っていた。別に趣味なら趣味でも構わないとは…思うけどな。他人に迷惑になるようなことをしていなければ。
 でも、どうしても否定的な見方をする人間は一定数いる。だから、俺ひとりの意見で不二咲の否定されることの恐怖心は拭えないだろう。

日向 「俺はだけど、特に否定も拒否もすることはないな。好きでやっているなら、それはそれてま構わないんじゃないかと思う。 不二咲は好きでしているのとは違うみたいだけど」

 不二咲の場合は趣味ではなく、理由があるようだ。けど、その理由はどんなモノなんだろうか?

不二咲 「……僕、体があまり強くなくて、運動も全然できなくて」

不二咲 「弱いことが嫌なクセに、どんどん逃げることを考えちゃって、最終的に女の子になっちゃえばいいんだって思って……」

日向 「それで、その姿をとるようになったんだな」

不二咲 「うん……でも最近、逃げることより立ち向かわなきゃって、考え方が変わったんだ!」

日向 「なるほどな。初対面の俺に打ち明けることで足掛かりにしようってことか」

不二咲 「利用してごめんなさい……」

日向 「いや、構わないよ」

日向 「とにかく、不二咲は弱い自分を変えたいっていうのが悩みなんだな」

不二咲 「うん…心も体も強くなって、最終的にはクラスのみんなに打ち明けることなんだ」

 対象は誰であれ、自分の隠したいことを打ち明けた時点で、充分不二咲は強いように思う。不二咲のように、性別を偽るような姿をとることを嫌う人間は、とことんそれを嫌い相手を攻撃する。それを覚悟してのことだろうし、問題はすでに解決しているのではないだろうか?
 いや、やっぱり知らない人間に打ち明けられても、学校でずっと過ごす人間に打ち明けるのとでは、かける勇気の度合いは違うか。

日向 「体力はともかく、心の強さはもう充分だと思うけどな」

不二咲 「え?」

日向 「後は決意する勇気だけだ」

不二咲 「そうかな…? でも、男らしくスパッと物事はきめれないし、怒鳴られちゃうと萎縮しちゃうし……」

日向 「……それはまた違うな。人間だから仕方ない程度じゃないか」

不二咲 「だ、ダメだよぉ! 僕は男らしくなりたいんだ!」

日向 「うーん…」

不二咲 「あ…僕ばっかり話してごめんね! 日向君の悩みって、どんな悩みなの?」

 はっとしたように不二咲は俺の悩みについて話を振る。

日向 「俺のは、話してどうにかできる悩みじゃないと思うんだけどな」

不二咲 「でも、僕の悩みも聴いてもらったから、力になりたいんだ!!」

 不二咲は力強くそう言ってくれる。でも、才能がないことが悩みだなんて言われても、残念だねで終わってしまうだろう。

不二咲 「日向君!」

 ……言わないと不二咲は納得してくれなさそうだな。

日向 「俺の悩みは…自分に才能がないことだ」

不二咲 「才能?」

 不二咲はきょとんとした。だから言ったのに。

不二咲 「才能かぁ…まだ解っていないだけで、僕は日向君にも才能はあると思うなぁ」

日向 「え?」

 顎に手を充てて小首を傾げながら、不二咲は真剣に考えていた。俺の才能、悩みについて。
 まさかのことに、今度は俺がきょとんとしてしまう。

不二咲 「才能って、見えるだけのモノじゃないから、日向君が気づいていないだけなんだよ! きっと!」

不二咲 「日向君が良ければだけど、僕が日向君の才能をみつける手助けをしたいな!!」

日向 「え? え?」

不二咲 「ご、ごめんなさい…迷惑だったよね……そもそも、僕なんかじゃ頼りなくって日向君の助けにならないよね……」

日向 「あ、いや…そうじゃなくて…驚いただけだ」

不二咲 「え?」

日向 「初対面の相手を真剣に手助けしようとしている不二咲に」

 不二咲は不思議そうにして首を傾げる。

不二咲 「困っていたら、助けたくならない?」

日向 「いや、そういう気持ちも解るけど……」

 映画館でも思ったけど、危なっかしいな。不二咲はかなり騙され易いんじゃないだろうか? お爺さんお婆さんが苦労話なりなんなりの嘘を語れば、ホイホイ金を出してしまいそうだ。
 なんだか、これだけ真っ直ぐな不二咲の気持ちを無下にするのは申し訳ない。

日向 「でも、具体的にどうするんだ?」

不二咲 「うーん……一緒に何かをたくさんしようよ!」

日向 「何かって、何をだ?」

不二咲 「スポーツをしてみたり、勉強してみたり、遊んでみたり…かな? 何かみつかるかも!」

不二咲 「だから、連絡先教えて欲しいな!」

日向 「解った」

 俺だけ不二咲に頼るワケにはいかない。俺も不二咲のために、何かしてやれればと、思いはじめた。

期待

めっちゃ面白そう

 あの後不二咲と少し話、次の約束を交わした。
 しかし、妙な出会いってあるモノなんだな。気心の知れた友人でもない、知り合ったばかりの赤の他人とまさか、互いに互いの悩みを解決し合おうなんて話になるなんてな。でも、いいヤツそうだから、それを通して仲良くなれそうだ。

日向 「ん? 通知…不二咲からか」

 その不二咲から、どうやら連絡がきたようだ。

不二咲 『こんばんは! 今日はありがとう!』

日向 「律儀だな、不二咲」

日向 「こっちこそ…ありがとうっと」

 無難な返信をして数秒後、不二咲から返信がくる。

日向 「早っ?!」

不二咲 『明日から、日向君に勧められたウォーキングを始めてみようと思うんだ』

 あの後、不二咲にどう体を鍛えたらいいだろうかと訊ねられ、無理な運動は体に負荷がかかってよくないし、続かないだろうから、ウォーキングはどうかと提案していた。
 華奢で折れてしまいそうな不二咲の体。基礎体力を上げてから、筋肉を作るような運動をした方が不二咲に合っているんじゃないかと思ったからだ。そうしてだんだん上がる基礎体力と一緒に、自信もつくだろう。
 
日向 「無理はしない程度にガンバレ!」

不二咲 『うん! 次の土曜日にキミと再会した時、少しでも体力ついてるといいな!』

不二咲『じゃあ、お休み!』

日向 「お休み」

 さすがに一週間では……と、言いたいところではあるが、不二咲がやる気になっているのだから水を差すことはしないでおいた。

日向 「俺にも…才能はあるかも……か」

 それなら、不二咲はどうなんだろうか? 俺と同じように才能はないけれど、俺と違ってそんなことは気にしていない普通のヤツなのだろうか? それとも、俺とは違って才能があるのに、コンプレックスを抱えて悩んでいるのだろうか?
 それはそうだよな……人間だもんな。才能のあるなしで、悩みがあるないは決まらないよな。そうは思うけど、後者だった場合…俺は不二咲と普通に付き合えるだろうか? 名前に聞き覚えがあるのも気にかかる。
 今度会った時にでも訊いてみるか。


―――――――――


 約束の土曜日。待ち合わせた場所で不二咲と一週間振りに再会した。この前会った不二咲の服装はワンピース姿で、女の子らしい格好だったが――

日向 「今日は男の服装なんだな」

不二咲 「日向君は僕が秘密を打ち明けた初めての人だから…キミの前ではあるべき姿でいようと思って」

不二咲 「ど、どうかな? 似合ってる、かな?」

 照れくさそうにする不二咲の仕草は女っぽいけど、仕方ないか。長年女として過ごしていたんだからな。
 格好の方は顔立ちが少女っぽい所為か、少しの違和感はあるが、悪くはない。

日向 「うん。いいと思うぞ」

不二咲 「本当? 良かった!」

 ほっと胸を撫で下ろす不二咲。言うのはアウトだろうから、思うだけに留めるけど、正直可愛い。

不二咲 「今日はプールだね」

日向 「ああ。運動量は多く、且つ少ない体の負荷で筋肉をつけるなら、やっぱり水泳だろうからな」

不二咲 「でも、ボク浮かないんだけど……」

日向 「そこは俺が教えるから安心しろ」

不二咲 「うん! じゃあ、今日はお願いするね!」

日向 (本当に男なんだな)

 本音を言うと、不二咲が男だという話は半信半疑だった。信じようと思いながら、それでも俺は最低なことに、少しばかり疑ってしまっていた。
 しかし、今はただただ反省している。不二咲の胸は真っ平らだ、平面だ。

不二咲 「あ、あんまり見ないで欲しいなぁ……」

 まじまじと眺めてしまっていたようだ。不二咲はわずかに頬を染めながら、胸元を隠す。そういうのが…そういうのがなあ…なんか変なところ擽られてしまう。

不二咲 「やっぱり、直ぐには信じてもらえなかったよね……」

日向 「ごめん」

不二咲 「ううん……でも、解って…もらえたよね」

日向 「反省してる」

 そういう確認のためにプールを選んだワケではないけれど、結果的には不二咲の性別を確かめるため、ということにも繋がってしまっている。

不二咲 「素直な人だね、日向君」

日向 「どう考えても素直ではないと思うんだが……」

不二咲 「ううん。だって、疑ってたこと、素直に謝ってくれたじゃない」

不二咲 「キミのこと、信頼してもいいんだって、思ったよ」

 ただ悪いと思って謝っただけなのに、まさかそんな風に言われるなんて思わなかった。

不二咲 「行こう! 泳ぎ方教えてよ!」

 こうしていると、不二咲が弱さに悩んでいるようには見えないのにな。俺のがよっぽどうじうじしてる。

日向 「ああ」

 笑顔で俺の手を引く不二咲に従って、更衣室から出た。

日向 「力入り過ぎだぞ。もっと力抜いて、俺の腕に自分の腕を置くだけにしてみろ」

不二咲 「う、うん……」

 水に浮く訓練中。溺れるのが怖いからなのか、不二咲はものスゴい力で俺の腕に掴まっている。これだと逆に沈んじまうぞ。現に今――

日向 「おいおい…腰から下が沈んでるぞ…」

不二咲 「や、やっぱりちょっと怖くて」

 強張った表情で俺を見上げる不二咲。気持ちはよく解るんだけど、それじゃあいつまでも体は浮かないままだ。

日向 「俺を信頼してくれてるんじゃなかったのか?」

不二咲 「!」

 俺は悲しそうに嘆いてみせる。まだ会って二度目だが、不二咲は他人のこうした態度に弱いタイプとみて言ってみた。嫌なヤツだな、俺。

不二咲「そうだね…ごめんね。日向君」

 しかし、俺が思った通り、不二咲は顔つきをキリッと引き締めてしっかりと前を向いた。うん。これなら大丈夫だな。

日向 「ほら、力抜いてみろって」

不二咲 「うん……あ、足浮いてる…?」

 腕に掛かっていた重さがなくなり、それに合わせて水に沈んでいた不二咲の足がぷかりと浮かんだ。

不二咲 「スゴい! 僕今浮いてるんだね!」

日向 「な? 力さえ抜けば浮くんだって」

不二咲 「水に浮くってなんだかスゴい不思議な感じだねぇ」

日向 「でも気持ちいいだろ?」

不二咲 「うん!」

日向 「じゃあ、支えなしで浮いてみるか」

不二咲 「それはまだちょっと…恐いなぁ……」

日向 「んじゃ、今日のところはこのままバタ足だけでも練習しとくか」

不二咲 「うん」

 浮くことができれば、泳ぐだけだ。基本のバタ足で進めるようになったら、顔をつけたり上げたりの練習の後、クロールだな。

日向 「じゃあ最初はしんどいけど、太腿から左右の足を交互に上下だ!」

不二咲 「し、沈んじゃ……うぶっ」

 不二咲が足を動かしはじめると、浮いていた体が一気に沈んでいった。

日向 「力入れずに動かしてみろって」

不二咲 「んはぁっ! む、むずかし…ぶぶぶっ」

日向 「……こりゃ思ったより手強いかもなぁ」

 必死に頑張る不二咲には申し訳ないが、呟かずにはいれなかった。

面白い

>>18
ありがとうございます!

不二咲 「日向君のおかげで浮くようになったよ! ありがとう!」

 泳ぎ終えて、次の予定をどうするかを以前訪れたファストフード店で軽く食事をしながら話していた。

日向 「役に立てたようで何よりだ。今度は泳ぐ練習だな。筋力もつくし、一石二鳥だ」

 水に浮けなかった不二咲は浮けるようになった。しかし、あれからどうしても力が抜けずに沈み、泳ぐまでにはいけていない。でも、泳ぐにはまず浮くことができなければ話にならないから、とりあえずはこれでいい。

不二咲 「日向君は泳げるんだよね?」

日向 「泳げるけど、速くはないぞ」

不二咲 「日向君はスポーツに向いてるんじゃない? 体もがっしりしてるし、続けたらいい選手になりそうだよぉ?」

 そんなことを言われたのは、はじめてだ。しかし才能があるのと、ただできる、ただうまいのとでは全然違う。俺にとって大事なのは、できるできない、上手い下手ではなく、才能の有無だ。解ってる……やらない内から高望みをするなんて愚かなことだってことは……。
 こんなんだから、才能だって寄りつかないんだろう。こんなんじゃ、力をかしてくれている不二咲に申し訳ない。余計な思考を払うように、一度頭を振って切り換える。

日向 「……そうか? でも、もしそうだとして、何が合うだろうな」

不二咲 「うーん。好感触のモノが見つかればいいんだけどぉ…」

 顎に手を充て、小首を傾げて考えている。以前にもみた不二咲の考え事をする時の仕草。
 きっと、不二咲はどんなことだろうと、どんな相手だろうと、分け隔てなくこうして真剣に話を聴き、悩みを解決しようとするのだろう。
 いつか不二咲はその真摯さ故に、他人のモノを背負うだけ背負って、限界に気づきながらも頑張ってしまい、不二咲の意思に反して落としてしまうことがあるだろう。それを自分の責任だと、自分から自分を追いつめ崩壊させていくんじゃないか…改めて考えると、不二咲の強さにはそんな脆さが混在しているように感じる。
 不二咲がいう“弱い自分”とは違うけど、俺は不二咲自身が敵になっているのだと、勝手に思った。俺に協力する内に、不二咲がいつの間にか俺のことを背負い込んでしまわないか、気を配ってやらなきゃな。

不二咲 「あ!」

不二咲 「日向君のおかげで浮くことができたし、何かの指導するのも向いてるかも!」

 顔を上げた不二咲の顔は閃きで明るく輝いていた。指導…指導といってもな……そもそも俺が?

日向 「力抜けって言っただけなんだけど」

不二咲 「教える、教わるって、信頼の度合いで教わる側の成長が変わると思うんだぁ」

不二咲 「だから、日向君が信頼できる人だって、思っているからできた。任せられたんだよ」

不二咲 「秘密をはじめて打ち明けた人だからかなぁ? まだ会って二回目なのに、日向君といると何故か安心するんだ。きっと、日向君は人と関わり合うことに向いた才能があるんじゃないかなぁ」

日向 「!」

 不二咲の言葉に、心臓が一度大きく音を立てた気がした。
 なんだ…今のは……?

不二咲 「だからね……ひとりで浮くのが怖いっていうのは…日向君に掴まってると安心しちゃって、離すのが惜しいっていうのもあって……」

日向 「え? あ、え?」

不二咲 「そんな不思議な力があると思う。これからもよろしくねっ!」

日向 「……おうっ」

 今日の俺、何かが明らかにおかしい気がする……。不二咲の声や仕草…一挙一動に目を向けてしまう。気を配るといっても、そういうことじゃない…どうしたんだ? 俺。
 そう自問自答しながらも、胸の鼓動は早まっている。

 これじゃあまるで――

不二咲 「……日向君…大丈夫?」

日向 「え? 何?」

不二咲 「難しい顔して悩んでるみたいだから…」

 ひとりどんどん深みにハマっていく俺を、不二咲は心配そうに見つめている。

日向 「いや、なんでもない。大丈夫だ」

不二咲 「何かあったら言ってね? 無理はしたらダメだよ?」

 どうみてもなんでもないワケがないのに、とっさにそう答える。不二咲は納得していない表情で、しかし、俺がなんでもないと答えたので引き下がる。
 言えるワケがない。不二咲が原因で自分がおかしくなっているなんて。

日向 「本当になんでもない……なあ不二咲…お前の名前をどこかで見たか聞いたかをして知っている気がするんだけど……」

 なんでもないと念をおしてから、気になっていたことへと話を逸らす。不二咲のこと。なぜ聞き覚えがある気がするのかについてだ。もしかしたら何かのメディアで取り上げられているのかもしれない。となれば、不二咲は有名人ということになる。

不二咲 「え? 本当? 日向君はPCに興味がある人?」

日向 「PC? 興味があるかないかでいえば、そこまでではないかな。使えるならいいくらいで」

不二咲 「そうなんだ。前にパソコン雑誌のインタビューを受けたことあったから、それかなって思ったんだけど」

日向 「雑誌のインタビュー? 不二咲はパソコンに強いのか?」

不二咲 「うーん…それで一応《希望ヶ峰学園》に通ってるんだけど……」

日向 「……《希望ヶ峰学園》?」

 《希望ヶ峰学園》その言葉に一瞬、俺の思考が停止する。

不二咲 「うん。あ、そっか。お互いの高校の話はしてなかったよね」

不二咲 「僕、今は編入して《希望ヶ峰学園》で《超高校級のプログラマー》として通っているんだ」

 《希望ヶ峰学園》その学園は高校生でありながら、その枠を超えた一流の才能を備えた現役の高校生をスカウトし招き入れる、政府公認の超特権的の学園。俺が才能を求める理由。俺はその学園に憧れ、その学園の一員、生徒になりたかったからだ。
 そうか…思い出した。今年の入学生の中に、不二咲の名前が挙がっていたことを。
 つまり、不二咲は誰もが認める才能を持っているということ。俺なんかとは違う、特別な人間だということ。目の前に自分がなりたかった、憧れている存在がいる。

不二咲 「日向君はどこに通ってるの?」

 不二咲が俺に質問する。でも、俺は答えることができない。
 何もない俺が諦めきれずに、悪あがきも同然にすがり付いたのは――
 
日向 「予備学科…高い入学金を積めば誰でも入れる……」

不二咲 「予備学科?」

日向 「《希望ヶ峰学園》の予備学科。不二咲本科とは違う、その辺の高校となんら変わりない場所…俺はそこにいる」

 先ほどまでの穏やかだったはずの心中に、焦燥感が生まれている。俺が不二咲と同じこの場所にいることが、恥ずかしく、胸の辺りに鉛があるかのように重く感じる。

不二咲 「《希望ヶ峰学園》に予備学科があるの?」

 本科の人間は予備学科の存在を知らないのか。

日向 「俺は本科の希望ヶ峰に入りたくて、才能が欲しかったんだ」

不二咲 「そうだったんだ……」

日向 「……笑うか? 本科に選ばれたお前は、こんな惨めな俺を」

 自分でも解る。不二咲は悪くないのに、言葉に語気に棘があることを。余計に恥ずかしくなってくる。
 
不二咲 「笑わないよ。キミが才能を欲しがる理由が理由だから……そこにいる僕は何も言えない……」

 不二咲は唇を軽く噛んで、苦しそうにうつむいた。
 馬鹿か…俺。不二咲を責めるようなマネして……俺のことを無条件に、真剣に考えてくれてるような底抜けに優しくて良いヤツなのに……。
 ついさっきまで、気にかけなきゃならないって思ってたじゃないか。

日向 「ごめん…不二咲には関係ないのに、当たるような言い方して」

不二咲 「ううん」

日向 「……俺に無理して付き合ってくれなくてもいいから」

不二咲 「……日向君の目標は、あくまでも《希望ヶ峰学園》だけで、才能を探すことが今は必要ないのだと思うなら、僕の手助けは要らない…よね」

不二咲 「でも、それとは関係なく、自分の才能を見つけたいっていうなら、僕は手伝いたい…僕もキミの才能を見たいんだ」

日向 「……」

不二咲 「僕といるのが嫌だったり、迷惑だっていうなら、今日までのことにして諦めるから……」

 不二咲の噛み締めた唇が震えて、瞳が潤んでいる。俺は不二咲に何故才能が欲しいのか、その詳しいところまで教えていなくて、不二咲の素性が解ったからといって、いきなり拒絶するような態度を見せて、最悪だよな。本当に馬鹿だ。大馬鹿だ。

日向 「何でそんなに一生懸命なんだよ」

日向 「こんなヤツのために」

 俺の言葉に、不二咲の潤んでいた目がキリッと引き締まる。

不二咲 「こんなヤツなんて言わないでよ! 僕は日向君と友達になりたい! もっと知りたいんだ!」

 机越しに、わずかに身を乗り出すようにして俺に詰め寄る。

日向 「お、おうっ」

不二咲 「だから…」

 そこでまた不二咲はしゅんとうつむいてしまう。何だかな…本当に…不思議なのはお前の方だよ。不二咲。

日向 「変なヤツだな。不二咲は」

 苦く笑いながら、落ち込む不二咲の頭に手をのせる。不二咲は俺の手を払うでもなく、きょとんとした表情で俺を見つめる。

日向 「ありがとな。俺、不二咲のことが嫌いだとか、そんなんじゃないんだ。ただ、自分のどうしようもなさにイライラしただけなんだ」

日向 「ごめんな」

 心配ないから安心しろ、そうした意味を込めて、不二咲の頭を軽くポンポンと叩く。

不二咲 「ううん。やっぱり日向君は優しいね」

 不二咲の表情が安堵で柔らかくなる。うん。不二咲にはこうした表情をしていて欲しい。

日向 「どこがだよ……さっきだって不二咲にあたったりして……」

 暗い表情をさせてしまった自分を殴り倒したい。

不二咲 「そうして自分が悪いと思ったら直ぐに謝ることができる人って、少ないんだよ。それができる日向君は優しいよ」

不二咲 「それにむしろ、僕が君のことをよく知りもしないのに、才能を探す手助けをしたいなんて言い出したのが原因なんだから」

日向 「いや、俺が悪い…だから、こんなこと頼むのは図々しいんだけど」

不二咲 「なに?」

 切り出すのに躊躇う俺に、不二咲は待つ。

日向 「これからも俺の才能が何なのか、一緒に探してくれないか?」

不二咲 「もちろんだよ!」

 不二咲の周りに花が咲いているような気がする程の満面の笑顔で答えた。本当に負けるよ。不二咲が諦めていないのに、俺が自分のことを諦めるなんてダメだよな。
 だから、俺も不二咲にしてやれることを精一杯やる。不二咲が強い男になれるように。

日向 「改めてよろしくな」

不二咲 「うん! よろしく!! 日向君!」

 俺は不二咲に手を差し出した。小さい不二咲の手が、俺の手を握り返す。俺と不二咲の同盟は今この瞬間に、真に動き出したように思う。

ちーたんいい子だなぁ

素晴らしいと思いました

>>23
ちーたん、ちゃんと書けていますでしょうか?
>>24
ありがとうございます!

不二咲 「日向君! 最近ね、体育で全然バテなくなったんだ!」

日向 「おっ、日頃の成果が出てるな!」

不二咲 「だねっ! あんなに嫌だった体育が楽しくなってきたよっ!」

 あれから半年。不二咲と何かすることが土曜のお決まりになっている。でも、今日は才能探しと、男らしさを磨くのはお休みで、普通に遊ぶことにした。根を詰めるのもよくないからな。

日向 「今日はゲーセンだったな」

不二咲 「格ゲー、シューティング、クイズなら任せて!」

 珍しく不二咲は自信に満ちた表情で拳を作った。力入ってんな。やっぱり得意分野となると、人間生き生きするよな。

日向 「さすがはプログラマーだな。頼もしいなっ」

不二咲 「いつも情けないとこしか見せてないから…今日はいいとこ見せるからっ!!」

日向 「俺は不二咲が努力しているとこをこの半年、ずっと間近にみてきた。苦手なことを頑張っている姿を情けないなんてとんでもないぞ!」

不二咲 「! えへへ…ありがとう、日向君」

 照れ臭そうに笑う不二咲につられて…いや、なんか恥ずかしいこと言ったな…っと、自分の発言に恥ずかしくなって照れ笑いしてしまう。
 そこでふと思う――

日向 「あ。でも……」

不二咲 「何?」

日向 「対戦型で俺と闘う時は…手加減して欲しいかな…」

不二咲 「解った。何か縛り考えておくねぇ? じゃあ、行こう!」

 情けないことを言う俺に、不二咲はくすくすと笑いながら俺より先を歩き出した。


―――――――――


日向 「そんだけ縛ってんのに、何で勝てないんだ…?」

 勝てない。勝てなさすぎる。完璧も完璧に負かされてしまう。技とコンボ数の制限かけてるのに。タイミングとかの見極めが違う。やっぱ《超高校級》だな。

不二咲 「日向君…ごめんね?」

 おずおずと申し訳なさそうに、向かいに座っている不二咲が顔を覗かせていた。

日向 「謝るなよ。ゲームなんだからさ」

不二咲 「う、うん」

 そう。これは遊びなんだ…勝ち負けを競うゲーム…だけど……ここまで惨敗するなんてちょっと泣きそう。
 でも、これが不二咲の得意分野。不二咲が自信を持っていることなんだ。だったら、気落ちしてる場合じゃない! もっと不二咲が楽しめるように、とことん付き合わなくちゃな!

日向 「んじゃ、もう一戦だ!」

不二咲 「うんっ!」

 気を取り直した俺だったが、その後数えきれないほど俺の心は折れかけ、ゲームにトラウマを持ちそうになった。

不二咲 「今日もスゴく楽しかった! ありがとう! 日向君!」

日向 「自分の好きなことの後だと、いつもとくらべて晴れやかだな」

不二咲 「運動後と違って、身体的な疲労感がないからじゃないかな?」

日向 「ま、不二咲がゲーセンで満喫できたんならそれでいいけどな」

 ゲーセンの帰り道。途中までを一緒に歩く。こうして並んで歩くと、不二咲の頭頂部がよく見える。本当に小さい。
 でも最近は不二咲に体力と筋力がついてきてるし、大分自信はついてきたんじゃないだろうか?

日向 「なあ、不二咲。以前とくらべたら、自分に自信を持てるようになったんじゃないか?」

不二咲 「まだまだだけど、でも、まったくダメだなってことを思わなくなったかなぁ」

日向 「元々お前はダメなんかじゃなかったけどな」

不二咲 「ありがとう、日向君……だからね…今度みんなに打ち明けようと思うんだ」

 その先の目標を見据えるような真剣な眼差し。いよいよ決意を固めたようだ。クラスメイトに自分が女ではなく、男だと告げることを。

日向 「決めたんだな。不二咲」

不二咲 「うん。どんな風に思われても、許してくれなくても、僕は全てを受け容れないといけない」

 不二咲は胸の前で拳を作る。その拳はわずかに震えているようだった。

不二咲 「僕はみんなに嘘をついてきた…だから…もう逃げないよ」

 拳の震えを止めようとしているのか、もう片方の掌で覆う。それでも、抑えられない震えは声にも出はじめている。

不二咲 「逃げるのはもう嫌だから……嫌なのに…打ち明ける前から泣いてちゃ…」

不二咲 「あはっ…僕…全然強くなってないね……」

日向 「不二咲」

 不二咲の手と頭に自分の掌を載せる。気休めかもしれない。けど、その不安と震えを止めてやりたかった。

日向 「今までできなかった決断ができた。それって大事なことじゃないか? 立ち止まって進めなかった道を進んだってことだからな」

日向 「俺はお前のクラスメイトがどんなヤツらか知らないから、絶対大丈夫とか無責任なことは言えない…やっぱり、お前のことを最後まで認められないヤツもいるかもしれないとも思うし……」

不二咲 「……」

日向 「でも、俺は不二咲が変わろうとしている姿をずっとみてきた。見ていなくても、不二咲が陰で色んな思いとの格闘してたり、そういう部分を汲み取れるヤツも絶対いると思う。だからもっと胸を張っていいんだ」

日向 「それで、今理解してもらえなかったとしても、いつか理解してくれると思う。俺は側にいてやれないけど、応援してるからさ」

不二咲 「……うん。なんだか頑張れそう」

 顔を上げた不二咲は笑っていた。手の震えもなくなっていたから、少しは落ち着いたようだった。

日向 「そのいきだ」

 俺も笑って、不二咲に乗せた手でそのまま頭を無意識に撫でた。

不二咲 「……子ども扱いされてるみたい……」

日向 「悪い…なんか無意識で…」

 不服そうにする不二咲から慌てて手を離す。俺の慌てる様子がおかしかったのか、不二咲はくすくすと笑う。

不二咲 「いいよ。だって、日向君は僕を励まそうとしてくれたんだから」

不二咲 「……あのね。日向君」

 ひとしきり笑った不二咲が、一変して真剣な表情で俺を見上げた。まっすぐな瞳を向けられて、俺はドキリとする。
 いつもこうだ。不二咲といると、必ずどこかで俺は落ち着かなくなって普通じゃなくなる。

日向 「なんだ?」

不二咲 「君にも…打ち明けたいことがあるんだ」

 不二咲が俺に打ち明けたいこと? 俺はもう既に不二咲が男だということを知っている。これ以上何か秘密があるのだろうか?

不二咲 「前にさ…キミと友達になりたいって言ったよね…」

日向 「ああ」

不二咲 「日向君には日向君の価値観があるから、嫌だと思ったら言って欲しい」

 不二咲の言葉の要領を得ない。嫌だと思ったらと言われても、何に対して俺が嫌だと思うのだろうか?

日向 「まず話を聞かないことには、俺が何に嫌だと思うのか解らないぞ?」

不二咲 「うん。あのね…いつからかは解らないけど、キミと一緒に色んなことをしている内に、目的を忘れてキミと過ごすことが嬉しいって気持ちが先行してた」

不二咲 「日向君に申し訳なくて、日向君にとっては迷惑でしかない間違った感情だっていうのも解ってる」

不二咲 「心に秘めておけば、今のままでいられることは間違いなくて…でも、どうしても言いたい、伝えたいんだ」

不二咲 「僕を変えてくれた人だから」

 決意に溢れた曇りのない不二咲の瞳と、不二咲が何を言いたいのか察してしまったことで、俺は息を止めてしまう。

不二咲 「僕、日向君のことが好きなんだっ!」

日向 「!!」

 不二咲からの告白。察していたのに心臓が痛いくらいに高鳴り脈動が加速する。俺はどう答えればいいのか言葉に迷った。迷う必要なんてないはずなのに。何故なら、俺も不二咲を好きだからだ。
 全く不二咲と同じように考えて…けど違うのは、俺は不二咲に伝えずに気持ちを自分からも隠してしまおうとしていたことだ。伝えれば不二咲は俺から距離をおいてしまうだろうと。

不二咲 「ごめんなさい。嫌だよね? 男が男に好きなんて言われても……」

不二咲 「もうキミに迷惑はかけないから……今までありがとう…さような……っ?!」

 何も返さない俺に、不二咲はそれが答えだと受け取ったのか、俯いて一歩、俺から距離を取った。そのまま立ち去ってしまいそうな不二咲の手を咄嗟に取る。

日向 「俺も不二咲が好きだっ」

不二咲 「……え?」

 不二咲に避けられるかもって考えて、怖くて言えなかった言葉を、まさか不二咲自身の口から聴くなんて。情けないったらないよな。

日向 「俺も…好きだ……嫌なんかじゃいない。迷惑なんかじゃない」

日向 「さよならなんて言うなよっ」

不二咲 「え? え??」

 まくしたてるように喋る俺に、不二咲は目を白黒させながら戸惑う。けど、この場を去ろうとした足を止められたならそれでいい。

日向 「実をいうとな、俺もお前と会うこと自体が目的になってた。一緒に過ごせるなら何でも良かった」

日向 「いつからか才能とか、男らしさだとか関係なくて、自分が不二咲と会いたくて、自分のために続けてたんだ」

日向 「最初は危なっかしくて、気を配ろうと思ってただけなのに、お前の笑顔や言葉、仕草、何もかもに惹かれてたんだ…そんなこと考えてるような俺のが嫌じゃないか?」

不二咲 「……」

 呆れられたか? 静かな不二咲の様子に、俺は不安を募らせる。

不二咲 「嫌じゃないよ」

 凛とした声で不二咲は答えた。

不二咲 「僕とキミって似てるよね」

日向 「え?」

不二咲 「だって、自分を変えたいって悩みが一緒で、それを解消しようってはじめたことから、お互い会いたい気持ちが先になっちゃってて」

不二咲 「それが実は好きになっちゃってたなんてさ」

不二咲 「おもしろいよねっ」

 満面の明るい笑顔で、不二咲は言った。その笑顔と言葉に、全ての不安が一気に消え去って、代わりに胸がわずかに暖かくなる。

不二咲 「今までと変わらず、これからもこうして一緒に何かしてくれる?」

日向 「当たり前だろ。不二咲がいないとはじまらない」

日向 「それより……俺でいいのか?」

不二咲 「日向君じゃないとはじまれないよ」

日向 「!」

 俺が掴んでいる逆の手で、俺の掴む手に重ねた。

不二咲 「ね?」

 俺の胸が忙しなくなる。普通ではなくなる。でもそれは、不二咲に想いを伝えていなかったからで――

日向 「そうだな」

――これからは不二咲と一緒にいる時の普通のことになっていくだろう。


―――――――――


日向 「良かったな。不二咲を否定する人間がいなくて」

不二咲 「うんっ! 優しい人ばかりだよね」

 不二咲はクラスに自分が男であることを打ち明け、今まで騙していたことを謝った。
 冷たい目で見られるかもしれない、許してもらえないかもしれない。恐怖と不安が渦巻いて仕方なかったが、そんなモノは必要なかったようで、みんな驚いただけで不二咲を受け入れていたらしい。

日向 「男が上がったな、不二咲」

不二咲 「日向君のお陰だよ。出会ってなかったら、きっと今だってあの日の前の僕のままだったよ」

日向 「そうか? 俺はそう思わないけどな」

不二咲 「僕がそう思うんだから、そうなんだよ」

不二咲 「やっぱり、人に関わることがキミの才能なんだよっ!」

 どこか得意気に不二咲は断言する。男が上がったと言ったけど、やっぱりこういうところは可愛いと思ってしまう。

日向 「そういうことにしとくよ」

 お互いにもう悩みはなくなってしまったけれど、この先も楽しいことを探す、ということに目標を変えて今までしてきたように、色んなことを続けていくことになった。
 身の丈に合わないことを無理に頑張るよりも、自分ができる範囲で他人に何かできることの方が大事なのだと学んだ。
 もらってばかりだったから、これから俺は不二咲に返していこうと思う。今後の俺の課題だ。

まとめるのが苦手で、最後辺り何を言いたいのか解らなくなっていました。日向君が成長できてなくて申し訳ないです。

日向君とちーたん編終了です!


ひとり目男子キャラを>>32
お相手男子キャラを>>34
お題を>>36

狛枝

田中

十神

左右田

ksk

希望のかけらがマックスになるまで

田中君と左右田君で“希望のカケラがマックスになるまで”でいきます!

今更気味だが日向は才能への確執から解放されて十分成長出来てると思うな

>>38
そう言っていただけると安心しますっ
成長を描くってなかなか難しいです。もっとやりようあったろうになと反省。

 青い海、白い砂浜、肌を焦がすくらいに照りつける太陽。椰子の木生えてりゃハイビスカスだって咲いてやがる。見渡す限りに南国だ。リゾートだ。さっきまで居たはずの学校校舎はどこへ消えたってんだよ?

 そう俺が…いや、他にも15人の人間が居たのはこんな旅行気分満載な場所じゃなく、才能に特化した高校生がスカウトされて入学を許される、政府公認の特殊な学園…《希望ヶ峰学園》にいたはずだ。
 それがなんだ? 突然現れたおっさんみたいなフォルムしてるクセに、フリフリした衣装着た妙ちくりんなウサギが“先生”だと言い出して、これまたアニメや特撮でしかお目にかけないような妙ちくりんなステッキ翳して視界が真っ白になるくらい光ったと思えば……今のこの状況だ。意味が解らん。

 妙ちくりんなウサギの話だと修学旅行でここにいるらしいが、入学早々の修学旅行もあり得なけりゃ、魔法のように日本の学校から一瞬でこんなリゾート地にひとっ飛びなんてあり得ねェだろ。どうなってやがる。この異常事態がショックでひとり倒れちまった。

左右田 (それと…この電子生徒手帳……)

 希望のカケラだとかいうのを集めたら、このワケの解らん修学旅行も、この島ともおさらばできるらしい。

左右田 (つってもな…具体的にどうすりゃ集まんだ? このカケラ)

 ぼちぼちと島を見て歩いてる内に空港を見つけた。

左右田 「おっ、空港! 飛行機があるってことだよな? そいつで逃げらんねェかな……操縦者がそもそもいねェか」

 しかし、みておくだけみておいて損はねェよな。
 少しだけこの島から逃げられるかもと期待しながら、飛行場へと入った。

左右田 「ハァ…ご丁寧にエンジンやらなにやらすっからかんかよ……」

 ひとしきり飛行機を調べたが、無駄足だった。空港のロビーに戻って項垂れていた。

左右田 「……ん?」

 何か視線を感じる……気がする。その正体を探して空港内に視線を彷徨わせると、二色ソフト頭で首にストール巻いて、腕は包帯を巻いている異様な出で立ちのヤツがオレを見ていた。こいつもあの教室にいたヤツだな。つまりはクラスメイトだ。

左右田 「何だ? 何か用か?」

田中 「用? 用だと?」

 いきなり睨みつけてきやがった。何だこいつ……。

左右田 「オメェ、今こっち見てたろが」

田中 「この俺様が貴様ごときに目を向けるだと? 戯けたことを…笑わせる!!」

左右田 「あぁっ?!」

田中 「今しがたこの空港に足を踏み入れ、この閉鎖空間を破る空間破壊装置か呪具でもないかと、この一帯を見回していただけだ!!」

 何か面倒くさそうなヤツに出くわしちまったな。変な単語つらつら並べて何言ってんのか解んねェ。あれか? 中二病ってヤツか?

左右田 「どうでもいいけど、とりあえず名前教えろよ」

田中 「他に名を問うのならば、自らが名のるべきだろう。礼を欠いた不遜な振る舞い…ただの人間らしい愚行だ」

 面倒くさいより腹立つな。こいつ。

左右田 「オメェも初対面に対して充分礼を欠いてんじゃねェかよ。だいたい、ただの人間はオメェもだろが」

田中 「何だと? 貴様、この俺に牙を剥く気か? 力を見極められぬほどの弱者が」

左右田 「あ?」

 ウゼェ…とにかく腹立つから睨み返してやる。数秒睨み合うと、ヤツが低く笑いだして、いきなり腕を俺の前に突き出してきた。

田中 「ふっ…おもしろい。ならばっ! その矮小な脳に刻むがいい!!」

田中 「我が名は田中 眼蛇夢! いずれ世界を手中に収め、覇王の道を征く男だ!!」

 なんかポーズつけた、見てるこっちが恥ずかしい自己紹介をされてしまった。向こうが真剣な分、こっちの恥ずかしさは半端ねェ……こうした手合いにどう返せばいいか解らん。つか、ガンダムってスゲェ名前だな…それ本名か?

左右田 「あっそ」

田中 「貴様から訊ねておきながらなんだ、その態度はっ!? この俺様がわざわざ名乗ってやったのだぞ!? 貴様も名乗らんか!!」

左右田 (用がないとか言いやがるから、自己紹介とか要らねェのかと思ったわ)

左右田 (いや…でも希望のカケラとやらは仲良くなんねェと集まらねんだっけか……。)
 
 ウサギが言うには、この島から出る条件に、無期限の修学旅行の中で希望のカケラとやらを集めないといけないらしい。希望のカケラはひとりにつき6個。生徒数は俺を除いて15人。つまり全部で90個のカケラを集めなきゃならねェってことだ。……気が進まねェけどしかたねェ。

左右田 「左右田 和一。肩書きは《超高校級のメカニック》だ」

 俺の自己紹介が終わったところで軽い電子音が鳴った。

左右田 「なんだ?」

 その音の出処は電子手帳かららしかった。田中のヤツも同様に自分の電子手帳を見ている。どこかに何かしらの情報が追加されていないか確認すると、どうやらさっきの自己紹介で田中のカケラがひとつ増えたらしい。最初に増えたカケラがこいつのってのが喜んでいいのかどうか解らん。複雑だ。
 とりあえず、本当に希望のカケラとやらは増えていくみたいだな。仲良くなるって基準はなんなんだ?

田中 「この島には俺の力を封じる結界が張られている。今は仕方なくこの島のルールに従ってやるが……いずれは打ち破り脱してみせるぞ」

 あのウサギは全員のカケラを集めろっつってた…つまり、こいつのカケラもってことだ……こいつのは残り5つ。先行きが超不安だ。
 初めての修学旅行だってのに、全然ワクワクしねェ。いや、普通ならワクワクすんだろうけど、何もかもが異常なせいだよな。

左右田 「メンドクセェ」

 この島での生活と、ひとり盛り上がる田中の相手をするのが面倒なのも合間って、ため息と一緒にボヤいた。

保守
このふたり仲良くさせるのって、難易度高い……!

がんばれー

>>44
頑張ります!ありがとうございます!
いつの間にか落ちてるってことにならないようにします

保守っ

 異常な状況で始まった修学旅行。一応、生活に困るようなことはないらしいが、ある程度の自給自足をしなきゃならんらしい。そこで、役割分担でオレと田中が牧場に充てられた。

左右田 「自給自足でこいつら世話するっつーことは……食うのか?」

 目の前で干し草を食べている牛を眺めながら、ポツリとこぼした。

田中 「そういうことだろうな」

左右田 「……」

 食うとなったら捌かなきゃなんねェってことだよな? ……だれが? ある程度捌いたのならまだいい。でも、こいつらは今生きてる。つまり、まず殺さなきゃ食材にできない。
 オレはイヤだ。ムリだ。ムリ。

田中 「肉にし、食することが可能だという知識が備わっている。即ち我ら人間には、それをすることを許されている。権利があるということだ」

田中 「余すことなく食し、満たし、血肉にしてやることで、奴らを弔うのだ。生きた物から生を奪い、己が生を繋ぐ以上、それが道理だろう」

田中 「家畜といえど殺生をしたくないという心理は理解できる。食されるために生かされている、飼いならされた家畜を、俺が好まないのもそいつが理由が故に、だ。しかし、それでは罷り通らん」

 黙ったオレの心中を察してか、田中は言う。けど、こいつ飼育委員だよな。

左右田 「生かす方の才能があるオメェには、殺すの辛ぇんじゃねェのか?」

田中 「……フンッ。必要であるというのであれば仕方あるまい。生きるためだ。優先すべきは己の命。心に傷を負うくらいで家畜とを天秤にかけ、諦め自分の命を削る程、この俺は弱くもなければ、愚かでもない」

田中 「小者が余計な気を回すな」

左右田 「そうですか。そいつは悪ぅございましたね」

 つまり、必要になれば自分のために、好きなモノも殺すのか。自分の心も同時に殺しながら。
 くり返す内に当たり前に慣れるんだろうとは思う。でも、そこまでたどり着くまでに、何頭殺せばいいのかを考えると……つか、慣れるもん…なのか?
 のんびりと干し草を食う牛の姿をしばらく眺めて、作業を黙々とこなす田中の背中とを見比べてから、オレも作業を再開させた。

左右田 「オレはやっぱイヤだわ」

 やってもみない内から無責任だとは解ってはいるが、オレがそれをする度胸を、オレ自身見出せなかった。本当に田中のヤツはできんのか?

田中 「ならば、貴様は草だけ食っていろ」

 いつもだったら腹立つんだろうが、今はそんな気にならず、黙って体を動かすことで悩みを一時的に追いやった。

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