真姫「私だけの」 (248)

更新遅め
百合要素あり
にこまき

以上のことが大丈夫な方はぜひお付き合いください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1428761231

――――――



真姫「それで、花陽は最近どうなの?」

花陽「うん。順調だよ」


久しぶりに会った友人、小泉花陽はそう言って笑った。


花陽「農業は奥が深いよっ!」

真姫「……そ、そう」


高校の時から食べ物、おもにお米に対して並々ならぬ情熱はあったけど、さらにパワーアップしてるみたい。
その気迫に少し気圧される。

……まぁ。
高校を卒業してからもう2年が経っていて。
それでも変わらず、今まで親交が続いてるんだからいい友達を持ったと思う。

友達、といえば。


真姫「凛は? どうなのよ?」


もう一人の同級生、星空凛のことを聞いてみる。
確か、体育大に行ったんだったわよね?


花陽「うーん……」


私の質問に首を傾げる花陽。
困ったような表情をしていた。


真姫「え、あんまりよくないの?」

花陽「ううん。陸上でいい成績は残してるみたい」


凛は高校時代に陸上はやっていなかったけれど、持ち前の運動能力とスクールアイドルで培った体力で体育大に入った。

……あぁ、そうだった。
ふと花陽の困ったような表情を見て、思い出した。


真姫「もしかして、座学の方?」

花陽「う、うん……。単位落としそうって泣いてたよ」

真姫「はぁ……まったく」


そういえば、大学に入るときのちょっとした試験の時も、花陽に泣きついてたわね。
なんて、1年前のことを思い出す。

悪い意味で変わらないわね、あの子。


花陽「えっと、真姫ちゃんはどう?」

真姫「私?」


うん。
やっぱりお医者さんになるにはたくさん勉強しなきゃなんだよね?

そう言って、花陽は首を傾げた。


真姫「まぁ、大変と言えば大変ね」


覚えることは多いし。
周りは無駄にプライド高い人ばっかりだし。
もっと謙虚になりなさいよね。

ため息をついて、花陽にそんなことを愚痴る。
すると、


花陽「ふふふっ」

真姫「な、なんで笑うのよっ」


なぜか笑われてしまった。


花陽「もっと謙虚に、なんて、真姫ちゃんの口から聞くとは思わなかったから」

真姫「も、もうっ! からかわないでっ」

花陽「えへへっ」


そんな皮肉を、花陽に言われた。
むっとする、ちょっとだけ。

昔の私だったらもっとむきになってたでしょうね。
けど、花陽がこんな風に皮肉を言うようになるくらい月日が経ったんだもの。
私だって、これくらい笑い飛ばせるようになってるのよ?

それに、そんなこと気軽に言ってくれる人なんて大学にはいないから、ちょっと嬉しいのもあるし。


真姫「ふふっ」

花陽「ん? どうかした?」

真姫「なんでもないわ」


久しぶりの皮肉に嬉しくなった。
なんて、口が割けても言わない。
変に思われちゃうもの。


花陽「なにか追加で頼もうか?」

真姫「……私はいいわ」

花陽「そっか……。私は頼もうかな」


そういえば、ここ喫茶店だったわね。
目の前でメニューとにらめっこする花陽を見て、ふと思い出した。

ぶつぶつとなにかを呟いてる花陽。
どうやらカロリーを気にしてるみたい。

と、そこで


「あ、あのっ!」

真姫「ん?」


誰かに声をかけられた。

こんなところで、いったい誰?

そう思って、声の主を確認する。
そこには、


「す、すみませんっ! わ、わたし、音ノ木坂のものなんですけどっ!」


私たちの母校、音ノ木坂学院の制服に身を包んだ女の子が経っていた。


真姫「えぇと……」


大人しそうな眼鏡をかけた女の子。
こういうタイプは私より花陽の方が応対得意なんじゃないかしら。

そう思って、チラリと花陽を横目で確認すると、まだカロリー計算と戦ってる様子で。

……はぁ。
しょうがないわね。
そんなことを心のなかで呟いて、笑顔を作った。


真姫「なにかしら?」

「あの、西木野っ、ま、まきしゃんですよねっ!」


噛んだわね。
そう思いながらも、指摘はせず頷く。


「わたし、えっと……そのっ」

真姫「落ち着いて? 深呼吸でもしてみなさい」

「あっ、は、はいっ!」


その子は私の言う通り、深呼吸をした。

ふふっ、なんだか昔の花陽を見てるみたい。
微笑ましい気持ちになる。

と、どうやら落ち着いたようで、彼女は言葉を続けた。



「わ、わたし! μ's の大ファンなんですっ」



μ's

それは、私や花陽、凛が高校一年生の時に参加していたスクールアイドルグループの名前だ。

今から考えると、四年前のこと。
だけど、今でも鮮明に思い出せる輝かしい思い出。
μ's は9人で走り抜けた青春そのものっていってもいいかもしれない。

……なんて、ちょっと寒かったかしら。



「あ、あの?」

真姫「……あぁ、ごめんなさい」


考え事をしてたのよ。
そう言ってから、言葉を続ける。


真姫「それで……」

「あ、えっと……」

真姫「……あぁ、私たちのファンだったわね」

「はいっ!」


私の言葉に、元気よく返事をする彼女。

4年も前のことなのに、こうしてファンでいてくれる人がいるっていうのは……。
ま、悪くはないわね。


「あ、あの、それでですね……」

真姫「?」

「さ、サインを!」

「み、みなさんのサインをくださいっ!」


もじもじとしながらも、期待に満ちた表情でそんな言葉を口にした女の子。


真姫「私はいいけど……」


そう言って、メニューから顔をあげた子に目配せをした。


花陽「はいっ! 喜んで!」

真姫「だ、そうよ?」

「あ、ありがとうございますっ!」


勢いよく頭を下げる女の子。
そんなところも、昔の花陽そっくりで。


真姫「ふふっ」

花陽「? 真姫ちゃん?」

真姫「なんでもない」


つい笑ってしまった。


――――――

ラブライブにハマる奴は大抵にわか

――――――


真姫「本当に私たちだけでいいの?」


書き終わったサインを渡しながら、私は女の子にそう言った。

みなさんの、とは言ったものの、ここにいるのは私と花陽だけ。
だから、9人全員のとはいかなかった。

だけど、彼女は


「はい! お二人のサインだけでもものすごぉぉぉぉく! 価値がありますからっ!」


ホクホクとした顔でそう言った。


花陽「えへへっ♪ そう言われると照れちゃうね」

真姫「そ、そうね」


二人してそんなことを言う。
ちょっと顔も熱い気がするわ。

と、花陽と照れていると。
女の子は、それに! と言って言葉を続けた。


「みなさん、お忙しいですもんね!」

「穂乃果さんは和菓子関係の専門学校で、海未さんは日舞の家元を継ぐため日夜稽古に励んでいると聞いてます」

「それに――」


彼女の口から出てくる出てくる。
μ's メンバーの進路やら何やらが。

それを語る彼女の表情はどこか得意気で。
本当に私たちの大ファンなのね、なんて思ったりした。


真姫「ふふっ」

花陽「えへへっ」


そんな様子を見て、花陽と微笑む。
と、その時だった。


「あっ」


不意に彼女の口が止まった。
疑問に思って、彼女の方をみると、私たちの後ろを見ているみたい。
その視線を追ってみると――


花陽「あっ」


その光景に、花陽が先に声をあげた。
視線の先にあったのはテレビ。
そこに映っていたのは、私と花陽がよく見知った顔で……。



『にっこにっこにー♪』

『あなたのハートににこにこにー♪』

『笑顔届ける矢澤にこにこっ♪』



真姫「……にこちゃん」


ポツリとその名前を呟く。

私たちと同じμ's のメンバーで。
人気アイドルの矢澤にこの名前を。


――――――

――――――


真姫「じゃ、またね、花陽」


帰り道。
花陽にそう別れを告げた。
……のだけど。


花陽「う、うん……」


なんだか、花陽は浮かない顔で。

ただ寂しいだけでしょ?
そう思った私は、


真姫「またすぐ会えるわよ」


そんな風に言った。
今生の別れじゃあるまいし、って。


花陽「…………」


それでも、花陽の表情は晴れない。


真姫「花陽?」

花陽「…………」

真姫「? 花陽ってば!」

花陽「…………」


肩を軽くゆする。
けど、反応はなくて。

それから少しだけ沈黙が流れた。
そして――



花陽「……ねぇ、真姫ちゃん」

真姫「……なに?」



花陽「にこちゃんの噂、知ってる?」



神妙な面持ちで、花陽はそう言った。

にこちゃんの噂?
それって……?

言わなくても私が言いたいことを理解したようで、花陽は口を開く。


花陽「……えっと、その……」


けれど、目を泳がせながら、花陽は言い淀んだ。


真姫「花陽、教えて?」

花陽「う、うん」


そう言って促すと、花陽はひとつ息を飲んで、俯いたままこう言った。

――――――



花陽「あのね」

花陽「にこちゃん、いじめられてるみたいなの……」



――――――

今日はここまで。
応援レスをくださった方には感謝です。

やはりにこまきは荒れるんですね。
だから、にこまきは書くの避けていたのですが……。

また19時頃にでも更新します。
見てくださる方、よければお付き合いください。

とりあえず
このssはにこまきメインです
にこまき嫌いな方は放置してください。

あとにこまきしか許さないスタンスではなく、他ににこえりとかも色々かいてます。
寛大な心で放置してください。

ちょっとだけ更新

――――――


矢澤にこ

その名前を聞いて、世間が思い浮かべるのは、たぶん今のにこちゃん、人気アイドルのにこちゃんの姿だろう。

2年前からテレビでよく見かけるようになった彼女は、今では歌番組やバラエティー、その他色々な方面から引っ張りだこ。

始めは、普通のアイドル路線で行こうとしてたみたい。
だけど、徐々に仕事はアイドルらしいものだけではなく、中には芸人がやるような仕事をしているのもよく見るようになって……。

それでも、見ている人が笑顔になるような、彼女の一生懸命な姿に世間はどんどん魅了されていった。


その結果が――

――真姫の部屋



『にっこにっこにー♪』


真姫「あ、またにこちゃん出てる」


帰ってきてテレビをつけると、そこにはにこちゃんの姿があった。

番組表を見れば、それが人気バラエティーなのがあまりテレビを見ない私でもわかった。
確か、ゲストとレギュラーメンバーがゲームで対戦する、みたいな感じだったかしら?
その前説なのか、いつもの営業スマイルで、例のやつをやっている。

まぁ、その営業スマイルもゲームに熱中するあまり崩れるんでしょうけど。


真姫「……ふふっ」


ちょ、こんなの出来るわけないでしょ!

なんて言いながらも、本気になるにこちゃんの姿が容易に想像できるわ。


真姫「…………」

『いじめられてるみたいなの』

真姫「…………」


ふと、昼間の花陽の言葉を思い出した。

いじめられてる、ね。

画面のなかで生き生きとしているにこちゃんを見たら、そんなこと到底信じられない。

―― 回想 ――



真姫「いじめられてる?」

花陽「う、うん」

真姫「……一体だれに?」

花陽「事務所の先輩、だって。なんだか悪質な嫌がらせを受けてるとか……」

真姫「…………」

花陽「…………」

真姫「……イミワカンナイ」

花陽「は、花陽も信じたくはない……けど」

真姫「けど?」

花陽「アイドルの世界ってそういうことも少なくない、から……」

真姫「…………」

花陽「真姫ちゃん……」

真姫「きっと、ガセ情報よ。そもそも何処からの情報なの?」

花陽「あ、えっと……インターネットだけど……」

真姫「……ネットの情報なんてガセ情報の方が多いくらいよ? ガセよ、ガセに決まってるわっ」

花陽「う、うん……そうだと、いいんだけど……」

真姫「…………」



―― 回想終了 ――


真姫「……馬鹿馬鹿しい」


ボソリとそう吐き捨てる。
きっとなにかの間違いよ。

あんなに一生懸命なにこちゃんに嫌がらせをするとか……。


真姫「イミワカンナイ」


少なくとも私には理解できない。
そんなことする人がいるなんて……。


真姫「早く寝ましょ」


思考を切り替えるように、そう呟く。
明日は1限からだし。
お風呂に入って早めに寝ないと。

私はお風呂に入るために、着替えを準備して。
さて、行きましょうか。

…………。


真姫「テレビは……このままでいいわよね」


私はテレビをつけたまま、部屋を出たのだった。


――――――

――――――


午後の講義が休講になり、急に時間ができた。
このまま家に帰るのもありだけど……。


真姫「……なんだか癪よね」


せっかくなのだから、外でなにか食べてから帰りましょうか。
けれど、高校時代ならまだしも、大学生になって一人でというのもなんだか味気ない。


真姫「誰かいないかしら」


そう言いながら、スマホのアプリを開き、連絡先をボーッと眺める。

大学の友達は……なしね。
たぶん午後も講義ある子がほとんどだし。
となると……。


『○○付近で暇な人いる?』


グループに向けて、そんなメッセージを飛ばした。


『すみません。今日は稽古の方が……』

『今、ことりはパリにいるよぉ』

『パリから行けたらいいのにぃ( ;8; )』

『ウチも講義入ってるんよ(泣)』

『ごめんなさい。私も講義が入っているから行けないわ……』

『凛、いくにゃー( >ω<)/』

『穂乃果も行きたい!』

『凛ちゃん、単位大丈夫なの?』

『(´・ω・`)』

『穂乃果? 今日は午後まで学校があると聞きましたが?』

『な、何でそれを!?』


真姫「…………やっぱり忙しそうね、皆」


メッセージを見ながら、呟いた。
ひとつため息をついて、歩き出す。

ま、仕方ないわよね。
今日は大人しく家に帰りましょ。

そんな風に、諦めかけた時だった。


―― prprprpr ――

真姫「えっ? 電話?」


デフォルトのままの着信音が鳴った。
相手は――



真姫「え、にこちゃん?」



――――――

――――――


電話を貰ってから10分後。
待ち合わせ場所に、彼女がやって来た。

髪を下ろし、大きな眼鏡をかけた姿。
昔のツインテールともテレビで見る縛る位置が下がったツインテールとも違う。
だけど、私にはそれがちゃんと彼女だと分かった。


真姫「……あっ」


彼女の姿を認め、私はその名前を呼ぶ。


真姫「にこちゃ――」

にこ「ストップぅぅ!!」

真姫「っ!?」


と、同時にそれを遮られる。
び、ビックリしたわねっ……。


真姫「急に大声出さないでっ」

にこ「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ」


にこにこと笑うにこちゃん。
いや、目が笑ってなかったわね。


にこ「こんなところで、にこの名前を呼んだら、ちょっとしたパニックになるわよ?」


それでもいいの?
そう言って、ジト目で私を見てくる。

昔なら、あり得ないわとか、自意識過剰ねとか言えたんだけど。
今はにこちゃんの言っていることがないとは言えない。


真姫「ご、ごめん……」


だから、素直に謝った。
浅慮だったわ、って。

そうしたら、にこちゃんは、


にこ「や、やけに素直ね……」


なんて言って、ちょっとビックリしていた。


真姫「なによ?」

にこ「えっと、本物の真姫ちゃんよね?」

真姫「あ、当たり前でしょっ!」

にこ「う、うん。ごめん」


今度はにこちゃんが謝る。
って、なによこれ……。
調子狂うわ。


真姫「とにかく、行きましょ」

にこ「……そうね」


なんだか微妙な空気のまま、私たちは並んで歩き出した。


――――――

――――――


にこ「だ、だいじょぶかしら」


昨日、花陽と来た喫茶店。
そこににこちゃんと入った。

なんだけど、にこちゃんは挙動不審。
キョロキョロと周りを警戒するみたいに見渡している。


真姫「大丈夫よ。木を隠すなら森の中って言うでしょ?」

にこ「……ま、いいわ」


私の言葉で覚悟が決まったのか、にこちゃんはやっと腰を落ち着けた。

なに頼む?
そう聞くと、


にこ「あんまり、カロリー高くないもの」


にこちゃんはそう答えた。
カロリー高くないものって……。


真姫「アバウトね」

にこ「仕方ないでしょ? 体型維持するためにカロリー計算は必須なのよ」

真姫「…………」


体型維持、ね。
まぁ、確かに見事に維持されてるわ。
高校の頃と変わらないくらい。


にこ「……どこ見てんのよ?」

真姫「べつに?」

にこ「ぐぬぬ……」

真姫「……にこちゃんこそどこ見てるのよ」

にこ「……別に?」


そう言って、プイッとそっぽを向くにこちゃん。
相変わらずコンプレックスみたいね。


とりあえず、悔しがるにこちゃんは放っておいて、注文をしましょう。


真姫「すみません。ナポリタンのセットひとつ」

にこ「って! まだにこ、決めてないんだけど!?」

真姫「……あと、クラブサンドひとつ」

にこ「勝手に……はぁ、いいわ」


諦めたみたいで、にこちゃんはため息を吐いて落ち着いた。

改めて、テーブルごしににこちゃんと向かい合う。
……んだけど。


真姫「…………」

にこ「…………」

真姫「…………」

にこ「…………」


会話が弾まない。

高校の時はどうしてたっけ?
あの時は……そうだ。
にこちゃんが私によくちょっかい出してきたのよね。

だから、その事を思い出して、


真姫「……なにか話しなさいよ」

にこ「……あんたこそ」


そんな風に言うんだけど、どうにもぎこちない。

……まぁ。
当然と言えば当然、なのかしら?

だって、にこちゃんと会うの――



真姫「2年ぶり、よね」

にこ「えぇ」


2年ぶり。

私が高校を卒業して。
そして、にこちゃんがアイドルとして売れ始めた頃から、私たちは全く顔を合わせてなかったのだ。


真姫「……穂乃果たちも寂しがってたわよ?」

にこ「……うん、ごめん」


私の言葉に、少し俯いて答えるにこちゃん。
ここ2年間は、連絡こそあったものの、μ's メンバーで集まるときに、にこちゃんは一度も顔を見せなかった。

忙しかったのは、分かるけど……。


真姫「ことりもその時はちゃんと来てたのに……」

にこ「……ごめん」


高校卒業後、改めて海外へ留学したことり。
そのことりですら、ちゃんと予定を合わせてくれて顔を出してたのに……。

なんて、口から出てくるのはにこちゃんを責めるような言葉ばかり。


真姫「…………」

にこ「…………」


あぁ、こういうところは私も全然成長してない。
そんな風に考えて、少し自己嫌悪に陥る。


にこ「ねぇ、真姫ちゃん?」


と、そこでふとにこちゃんが私の名前を呼んだ。

なによ?
ぶっきらぼうにそう返事をする。

にこちゃんはそれに怒るでもなく、こう聞いてきた。



にこ「穂乃果たち『も』……って言ってたけど」

にこ「もしかして、真姫ちゃんも寂しがってくれたの?」



真姫「……っ」


にこちゃんの質問。
それは的を射たもので、つまり、図星だった。

だけど、


真姫「……べつに?」


私の口は、にこちゃんの質問を否定した。

言っておくけど、照れ隠しじゃないわよ。
隠しているのは照れじゃない。
隠しているのは、自分の本当の気持ち。

高校時代に抱いてしまっていたにこちゃんへの気持ち。


にこ「……そ」

真姫「うん」


私の答えを聞いたにこちゃんは、短くそれだけを言った。

その一言からはなにも読み取れない。
怒ってるのか。
悲しんでいるのか。
なにも分からない。


程なくして、注文していたナポリタンセットとクラブサンドが運ばれてきた。
私とにこちゃんはそれを食べた。
その間、二人に会話はなくて。

だから、当然、私も聞くことができなくて。
昨日、花陽から聞いた例の噂。
あれが真実なのかどうか、本当は聞くはずだったのにね。


それから、私とにこちゃんは店を出た。
別れ際に、


にこ「今日は……ありがと」


にこちゃんはそう言って笑った。
その笑顔は、私の好きなそれじゃあなかった。


――――――

――――――



真姫「私、にこちゃんのことが好きっ」

真姫「だから、付き合ってください」



懐かしい。
2年前の、私の卒業式の時の記憶だ。

卒業式に来てくれたにこちゃんを屋上に呼び出して、私は告白をした。

こうなったきっかけ?
生意気な後輩が世話焼きの先輩にシンパシーを感じちゃって。
その気持ちが抑えられなくなった。

それだけの話よ。

……そう。
それだけを考えて、私は告白した。
にこちゃんがどうしようもなく好きだって。

返事はもちろん――



にこ「……ごめん」



当たり前よね。

にこちゃんはアイドルで、これからが大事な時期だったんだもん。
そんな時期に、恋人が、しかも同性の恋人がなんて。
普通に考えれば分かったはずなのに。



にこ「真姫ちゃんのことは嫌いじゃない」

真姫「じゃあっ!」

にこ「けど、にこにはやりたいことがあるの」

にこ「そのためには……恋人は作れない」

真姫「…………」


その時のにこちゃんの顔はよく覚えてる。
今にも泣きそうな顔で俯いてた。

そして、何回もごめん、ごめんって。



真姫「謝らないで」

にこ「ごめんっ」

真姫「謝らないでったらっ!!」

にこ「…………ごめんね、真姫ちゃん」


ヒステリックにそう叫んで、私はにこちゃんを睨んだ。
それでもやっぱりにこちゃんは謝り続けていて。


やっぱりそのせいよね。
この2年間、にこちゃんが私たちに会わなかったのって。

それを蒸し返すなんてね。
本当に私って、成長してない。



――――――

一旦休憩
また少ししたら書きます

――――――

――――――


真姫「……痛っ」


朝起きて最初に感じたのは頭の痛み。
それに、異常なまでの気だるさ。

原因は分かってる。
昨日、夜に強いお酒を飲んだから。

二十歳になっているとはいえ、普段はあんまり飲まない。
それなのに、いきなり強いお酒を飲んだら、そりゃ残りもするわよね。

その上――


真姫「嫌なこと思い出しちゃったわ……」


ポツリと呟く。

心地の悪い夢だった。
昔のこととはいえ、今だってにこちゃんをすっぱり諦め切れたって訳じゃない。
往生際悪いことこの上ないけれど……。

だから、また独り言。


真姫「夢の中でくらい、告白受け入れてくれてもいいじゃない」


にこちゃんのバカ。

逆恨みも甚だしい。
そう心のなかでは分かってるんだけど。


真姫「…………はぁ」

真姫「大学、いきたくない」


布団にまた潜り込む。
今日はもういいや。


――――――

いいぞ!!

1(中)
ID:aFqRG4t4O
正直にこまき以外を書く作者って自己主張が強すぎると思う。
流れに逆らうっていうのかな、板のリソースも限られてるわけで、
嫌味ならメモ帳あたりでやればいい

2(左)
ID:tWBoJ/tM0
にこまき以外考えられない
にこまき以外増えて欲しくない

3(右)
ID:sMhE8B/Ho
にこまきは公式の意向だぞ
認められないならラブライブから離れろ

4(三)
ID:gkYlXsmB
同じにこまき好きとして恥ずかしいわ
ほのにこ、ぱなにこ、ほのまき、りんまき等の数多の魅力的な
可能性のリンクがあってこそ、にこまきをつなぐ線の特権性が輝くというのに

5(遊)
にこまき推さないとかひねくれてるよなぁ?
http://i.imgur.com/FeG7sjs.jpg

6(二)
矢澤と真姫もぼっちだからぴったり!私もぼっちだから同じタイプ!
http://i.imgur.com/U1IbCnu.jpg

7(DJにこ巻き)
にこまき以外認めない
http://i.imgur.com/RhIIIo6.jpg

8(一)
ID:RJxZM99YO
にこまきの相性がよすぎるってのも問題だよ
確かに他キャラと絡ませるのはみたくないってのもわかる
人気見れば一番相性がいいのは間違いないし

9(投)
ID:77j2aKs9o
にこまきこそ正義 お前ら邪道の屍なので土に帰ってくれ
ID:77j2aKs9o
俺のきんたまもモザイクかかってるわ

こんなの貼られてスレ建てされてた
まだムカつきが残ってる

いつもの

余ったら大変だと騒ぎまくってるのは
希(のぞえり)、花陽(りんぱな)、にこ(にこまき)推し

大手カプが邪魔でdisしてるのは
真姫(にこまきは嫌い)、凛(りんぱなは嫌い)、絵里(のぞえりは嫌い)推し

二年生は公式が蒔いた種でなのでどうしようもない。どうやっても荒れる
http://imgur.com/RhIIIo6.jpg

――――――


―― ピーンポーン ――

真姫「んっ……んん?」


呼び鈴の音が聞こえて、ふと意識が覚醒する。

あれ?
私、いつのまにか寝ちゃってた?

ベッドから這うように出る。
頭の痛みは少しだけマシになっていた。


真姫「和木さん?」


お手伝いさんの名前を呼ぶ。
けれど、それに答える声はなかった。
どうやらどこかに出ているみたい。


真姫「しょうがないわね……」


見られても大丈夫な格好に着替える。
そして、部屋を出て、玄関の方へ。


真姫「はい、どちら様ですか」


ドアごしにそう尋ねる。
すると、


「真姫ちゃーん」


その向こう側からは、私の名前を呼ぶ声がした。
その声には聞き覚えがある。


「こんにちは!」

真姫「……随分と急に来たわね」

「えへへ、ごめんなさい」


ホンワカした声で謝る彼女。
その声を聞きながら、私は扉を開けた。


真姫「入っていいわよ」

「うん、お邪魔します。真姫ちゃん」

真姫「いらっしゃい、まこちゃん」


そこにいたのは、私の中学時代の数少ない友人。
尾崎まこちゃんだった。



まこ「来ちゃった」



――――――

――――――


まこ「えー、大学休んじゃったの?」

真姫「まぁ、ちょっとね」


首を傾げるまこちゃんにそう答える。
ずる休みだなんて、口が割けても言えない。
だから、そうやってぼやかしたんだけど……。


まこ「もしかして……ずる休み?」

真姫「うっ」


まこちゃんの指摘に顔を歪める。

こういうところ、まこちゃんは鋭い。
抜けているように見えて、本質を捉えてる。
中学生の頃からそれは変わってない。


まこ「珍しいね? 真面目な真姫ちゃんがずる休みなんて」

真姫「…………」


なにかあった?
そう言って、まこちゃんは私の顔を覗き込んでくる。

うぅぅ。
顔を背けても、まこちゃんはそれを追うように私を見続けてきて。


真姫「……はぁ、分かったわよ」

まこ「? なにが?」

真姫「…………昨日あったこと、聞いてくれる?」

まこ「うん♪」


ホンワカ笑顔を浮かべて頷くまこちゃん。
私はそんなまこちゃんに、昨日のことを話し始めた。


にこちゃんに会ったこと。
卒業式の日の夢を見たこと。
そして、にこちゃんの噂のことも。

前からにこちゃんのことは、まこちゃんに話していた。
だから、まこちゃんは私の話をうんうんと聞いてくれる。

話し終わって。
私はそのまま黙りこんだ。


真姫「…………」

まこ「そっかぁ」


まこちゃんは優しげな眼差しを、私に向けたまま。
うん、と。
ひとつ頷いてからこう言った。



まこ「真姫ちゃんは、まだにこさんのことが好きなんだね」

真姫「うっ」



ずばり言うまこちゃん。
それが図星だから、私はなにも言い返せない。


まこ「だから、心配で心配でしょうがないんでしょ?」

真姫「…………そんなこと」

まこ「だけど、自分はふられちゃったから、踏み込めないんだよね?」

真姫「…………うっ」


ホンワカ声でそう言われた。

やっぱりまこちゃんには隠し事が出来ない。
瞬間的な鋭さで言えば、きっと希以上ね。

そんなことを頭の片隅で考えながら、


真姫「…………うん」


私は素直に頷いていた。

それを見たまこちゃんは、


まこ「それじゃあ、直接言ってみたらどう?」


そんなことを言った。


真姫「はい?」


その言葉の意味が分からなくて、聞き返す。
まこちゃんはそんな私の反応を予想してたみたいで、すぐに補足してくれた。


まこ「にこさんに、心配なのって言っちゃえばいいんだよ」

真姫「そ、そんなこと言えるわけないじゃない!」

まこ「……なんで?」


なんでって……。
私にはそんなこと言える資格はないもの。
ふられちゃったし、今更……。

小さな声で私はそう呟いた。
それに彼女は、



まこ「恋人じゃなくても、友達だもん」

まこ「心配なのは当然じゃないの?」



そんな風に答えた。

もし噂が本当だとしたら、余計に言わなきゃ!
後悔しちゃうよ?

まこちゃんの言葉。
それに私は揺れる。
そして、まこちゃんはさらに言葉を続けた。



まこ「素直になるんだよね?」



それは、いつかの私が独白のように、まこちゃんへの手紙に書いたことで。
そして、まこちゃんと高校が離ればなれになる時に思ったことでもあった。


――――――

一旦ここまで
……レスすごいなぁ
少し休憩したらまた書く予定です

突然でもないんだよなぁ
1st(ぼららら)2人きりで衣装作り(真姫ちゃんは髪の毛くるくるしてるだけ)
2nd(スノホラ)ドラマパートで絡み有り
3rd(夏色)ハイタッチなど
4th(もぎゅ)チョコあげるシーン有り
5th(WR)サングラス
最初は余り物同士って感じ
あとスクフェス上位陣でにこまきアンチ見たことない不思議。

――――――

――――――


にこ「……また、なのね」


ポツリと呟く。
にこの目の前には、いつもにこが練習着として使っているジャージがあった。
……所々、ボロボロに切り刻まれてるけど。


にこ「はぁ、また直さなきゃ」


もちろん買ってもいいんだけど。
毎回毎回やられてたんじゃ、お金がもたない。
まぁ、どうせ練習で着るだけだから。

そんな風に言い聞かせて、騙し騙しやっている。


にこ「まるで、童話の継母みたい」


毒づいてみる。


にこ「ふふんっ! 宇宙ナンバーワンアイドル、にこにーの人気に嫉妬しちゃうのはしょうがないわよねっ」


鼻を鳴らして、そんなことを言う。


にこ「…………うん」


……うん。
まだ大丈夫。
まだこういうことを言える元気はあるわ。


更衣室に移動して一応、そのジャージに袖を通してみる。
それから鏡の前で確認。


にこ「これは……」


いつもよりもひどい。
一体、今日はなにが気に食わなかったのかしら。
この間のミニライブ?
それとも、先輩と一緒に出たバラエティーの番組でなにかした?


にこ「…………」


とにかく、よ。
練習だけでとは言ったけど、にこ以外に人がいない訳ではない。
人がいる前でこれを着るのは……。


にこ「さすがに、無理よね」


一応、予備のものは持ってきてはいる。
今日はそれでどうにかするしかないわね。
ボロボロになったそのジャージを脱ぎ、しまった。


それから黙々と練習の準備をする。
その間も、詰めなきゃいけないところを頭の中で反芻する。

この間のミニライブは成功ではあった。
だけど、所々でミスがあったし、会場の空気ももっと盛り上げることができたはず。
歌番組の中でも、動きのキレが甘かった。


にこ「まだ、まだよ……」


そんな言葉が口をついて出た。

もっと練習をしないといけない。
もっと、もっと上手くなって、誰にも受け入れられるような存在になるの。
そうすれば、きっとこんなことも……。


にこ「っ、うっ……」


ダメっ……。
余計なことは考えるなっ!

今は立ち止まってる暇なんて。
落ち込んでる暇なんて――。


にこ「……っ、ないのよっ」


そうよっ。
前を向け!
立ち止まるなっ!

ここでうずくまってちゃ、皆に顔向け出来ない。


「にこちゃーん!」

「あぁ! 鬱陶しい! 離れなさい、穂乃果!」

「穂乃果! ほら、にこが困っているでしょう?」

「そうだよ、ほのかちゃん」

「うひひ、じゃあ、ウチも穂乃果ちゃんに便乗して……」

「や、止めなさい! 希ぃ!」


うん……。
夢を叶えるって、皆に言って。
背中を押してもらったんだもの。


「にこ、本気なのね?」

「当たり前でしょ! にこは宇宙に名を轟かす存在になるのよ!」

「にこちゃん、ちょっと寒くないかにゃ?」

「なんですってぇぇ!?」

「に、にこちゃんっ、落ち着いてぇぇ」



にこ「……ふふっ、よく考えたら背中押されてないかもしれないわね」


うん、そう。
むしろ、背中を引っ張られてた。
引っ張られて、にこが夢を叶える邪魔をされてた。

だって、皆といるのが楽しくて。
それに――


「私、にこちゃんのことが好きっ」


あんなこと言って、にこの心を揺らして。


だから、にこは決意したのよ。
にこが夢をちゃんと叶えるまで、みんなとは会わないって。

迷いが生まれちゃうから。
皆と一緒にいたいって思っちゃうから。

なのに、なんで


にこ「真姫ちゃんと会っちゃったんだろう」


ただの気まぐれ。
そんな風に言えたなら、どんなにいいことか。


にこ「…………」


なんで、なんて分かりきってるわよね。

きっとにこはまだ諦めきれてない。
自分の夢のために、あの子の思いを無碍にしたのに。


――――――


「ねぇ、にこちゃん」

「なによ?」

「……べつに、なんでもないけど」

「ふふっ、なによそれ」

「……手、握って」

「……ん、仕方ないわね」

「………………ありがと」


――――――


そんな空想をしてしまえるほどには。
やっぱりまだ――



にこ「真姫ちゃんが好きだから」



――――――

今日はここまで。
明日から仕事のため更新は木曜以降になりそうです。

せっかく(特に好きでもない)にこまき擁護してやったのに邪魔者扱いかよ。
荒らそ
       , - ―‐ - 、

      /         \
     /    ∧ ∧  ,   ヽ
    ./  l\:/- ∨ -∨、! , ',  さあみんな集まってー!
   / ハ.|/          ∨|,、ヘ   作者の自己満足ssが始まるよー
  |ヽ' ヽ     ●  ●    ノ! l
. 〈「!ヽハ._    __    _.lノ |

  く´ \.)    ヽ. ノ   (.ノ  ̄
   \ `'ー-、 ___,_ - '´

      ` - 、 ||V V|| \
        | ||   || l\ ヽ

| ̄| ∧∧
|ニニ( ゚Д∩コ
|_|⊂  ノ
   / _0
  (ノ

 えっ…と、糞スレ
\はここかな…、と/
  ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄
  ∧∧ ∧∧
 ∩Д゚≡゚Д゚)| ̄|
  ヽ  |)ニニニ|
   | |? |_|
   ∪∪


  ∧∧ ミ  ドスッ
  (  ) ___
  /  つ 終了|
?(  /   ̄|| ̄
 ∪∪   || ε3

      ゙゙~゙~

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 えっ…と、糞スレ
\はここかな…、と/
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  ヽ  |)ニニニ|
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  ∧∧ ミ  ドスッ
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 えっ…と、糞スレ
\はここかな…、と/
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15 名無しで叶える物語(庭)@転載は禁止 sage 2015/01/05(月) 00:35:07.93 ID:9bJJJQVp
俺凛推しだが正直りんまき大嫌いだわ
>>13が必死すぎて笑える

56 名無しで叶える物語(庭)@転載は禁止 sage 2015/01/05(月) 08:14:48.50 ID:58ED/TyR
荒れてる中でりんまき大嫌いな真姫推しだけど
ほぼりんまき嫌いの凛推し>>15と一緒なんだよなあ嫌いな理由
高校ではじめて出来た友達で何かと言えば助け助けられしてきた花陽を真姫ちゃんが無視るとか有り得ないわ

59 名無しで叶える物語(庭)@転載は禁止 sage 2015/01/05(月) 09:38:46.03 ID:ZnC0nHzX
仲良くなる過程がーとか言ってにこまき散々disってる癖にりんまきにdisの矛先いった途端、都合よく二次創作だからとか言い出すんだよなりんまき厨って
りんまきは別にどうでも良いが厨がマジでうざい

75 名無しで叶える物語(庭)@転載は禁止 sage 2015/01/05(月) 11:23:27.40 ID:9bJJJQVp
りんまき厨ってりんまきを正当化するためには他カプや他カプ推しを盾にしてくるからな
信者がアンチを増やしてる典型的な例

ちょい更新

――――――

――――――



真姫「恋人じょなくても友達、ね」


ベッドの上に横になり、まこちゃんの言葉を思い出して呟いた。

ま、その通りではあるわよね。
恋人になれなかったから友達をやめるほど私たちの繋がりは薄っぺらいものじゃない。
廃校を阻止するために、ラブライブに出るために一緒に頑張った仲間だもの。
そんな友達を心配することは決して変じゃないはず。


真姫「……そうは思うんだけど」


踏ん切りがつかない。
やっぱり怖い。

にこちゃんに心配だと伝えたとして。
それすら、心配することすら拒絶されてしまったら?

それを考えたら――



真姫「臆病者……」



そんな言葉が口をついて出た。

誰への言葉?
もちろん、自分への言葉。
そんな自分をいまいち好きになれない。


真姫「…………はぁ」


携帯をいじる。
それだけ。
別になにかメッセージを送るわけでも、電話をするわけでもない。

私はそのまま、携帯を軽く放り投げて布団をかぶる。


真姫「おやすみ」


今日は、少しはマシな夢を見たいものね。


――――――

――――――



―― prprprpr ――


真姫「…………んっ」


まだ覚醒しきってない脳に、無機質な音が響く。
アラーム、じゃないわよね?
3コールで止まない、ということは……。


真姫「っ、電話?」


枕元の時計を見ると、午前6時。
休日の、しかも、こんな朝早くに誰よ?
そう思いながら、携帯の画面を見る。
そこには


真姫「…………凛?」


『星空凛』

その名前が表示されていた。


真姫「…………もしもし?」

『おぉ! 起きてたんだね!』


電話に出ると、その向こうから驚いたような声が聞こえてきた。
うん。
確かに凛の声ね。


真姫「起きてたっていうか、起こされたのよ……」

『?』

真姫「凛に!」

『あー……ゴメンね?』


朝早くに起こされて少しだけ不機嫌なのがわかったのか、凛は謝った。

それで、こんな早くにどうかしたの?

話を進める。
こんな時間に電話してきたんだから、予定あるんでしょうね。
そう思って聞いたのだけど……。


『えーっと……』

真姫「…………」

『…………』

真姫「用事は?」

『……えっと?』


電話の向こうで、凛が首をかしげているのが分かる。
って!


真姫「もしかして、用事もなくかけたわけ?」

『ち、ちがうにゃ!』


えっと、その……。
そんな風に言葉を探す凛。

はぁ、しょうがないわね。
別に今は朝も寒くないことだし……。


真姫「今から会う?」

凛「うんっ!」


――――――

――――――


凛「お待たせ、真姫ちゃん♪」


凛と私の家のちょうど中間で待ち合わせ。
そこに先に着いたのは私で、少しだけ遅れて凛がやって来た。


真姫「別に大丈夫よ」


朝たたき起こされたことを除いてね。
そんな風に毒を吐くと、凛は苦笑した。

それにしても?


真姫「……なんで、ジャージ?」

凛「あ、この後、少し走ってこようかなって!」

真姫「……休みの日なのに大変ね」

凛「そうでもないにゃ! 好きでしてることだし」


にこっと笑い、凛はそう言う。
μ's の朝練に文句を言ってた頃の凛とは別人みたいね。


真姫「ま、いいわ。 少し歩く?」

凛「うん」

二人並んで歩く。

閑静な住宅街を。
まだ開いてない電気街を。
もう緑だけになった桜の並木道の側を。

景色を眺めながら、歩く。


真姫「…………」

凛「…………」


会話はない。
けど、不思議なことに気まずくはない。

…………。

にこちゃんの時とは大違いね。
なんて、こんなときでもにこちゃんのことを考えてしまう自分に気づく。


凛「……真姫ちゃん?」

真姫「えっ? あっ……」


大丈夫?
なにか考え事?
凛は私の顔を覗き込みながら、聞いてきた。

ふと私の顔を覗き込んだ拍子に、少しだけ長くなった凛の髪が揺れる。


真姫「……髪、伸ばしてるの?」


ふと気になって、そんな疑問を口にした。

脈絡もなにもない質問。
だけど、凛は嫌な顔ひとつせずに、むしろにこりと笑って頷いた。

そして、


凛「凛も大人になったからね」


そう言って、凛はふと遠くを見つめた。
私もそれに倣って、そちらを見る。


真姫「あっ」


いつの間にか結構歩いていたみたい。
私たちの視線の先には、音ノ木坂へ続く階段があって……。



凛「行こっか、真姫ちゃん」

真姫「……えぇ」



私と凛は、音ノ木坂への階段をゆっくりと登り始めた。


――――――

今日はここまで。
今度の更新は木曜を予定。

ちょい更新

――――――


階段を登った先。
そこには、私たちの母校、音ノ木坂学院があった。

4年前に卒業したときと変わらない校舎。
それは、いつぞやに廃校問題が挙がった学校とは思えないくらい、堂々としている。



真姫「久しぶりに来たわね」



ポツリとそう呟いた。

卒業してそれっきりだったから、当然かしら。

そう言うと、凛はそうなの? って首をかしげる。


真姫「別に、ここに来る用事なんてないでしょ?」


卒業したのは、μ's のメンバーでは私たちが最後な訳だし、メンバーに会うなら他の場所でも十分だし。


凛「凛はたまに来てるよ?」


凛は校舎を見上げながら、そう言った。

もしかして、後輩の面倒見るため?

私たちが3年の頃のアイドル研究部を思い浮かべながら、そう聞く。
まぁ、後輩はいた訳だし、その可能性が高いでしょ?
でも、凛はそれには首を振って、


凛「用事はないよ? でも、たまに見たくなるんだ」


そんな風に呟いた。


真姫「見たくなるって……」


凛の呟きを受けて、私は校舎を見上げた。
代わり映えのしない、私たちがいた頃と変わらない姿。


真姫「代わり映えしないものを見て、楽しいわけ?」

凛「うん。やっぱり安心するにゃ」


私の問いかけに凛はそう答えた。

まぁ、そうね。
変わらないことは確かに安心できるし楽よ。
留まっていればいいんだもの。


真姫「…………」


でも、それじゃ前には進めない。
前に進むためには、変わらなきゃいけない。

……時には、想いを忘れないといけないことも、きっとある。


真姫「…………」

凛「……真姫ちゃん」


心に秘めたその思いが顔に出ていたのかもしれない。
私の表情を見た凛はこう言った。



凛「無理に変わらなくてもいいと思うよ?」




凛「確かに、色んなことがあって、変わらなきゃいけないこともあるよ」

凛「凛たちは大人にならなきゃいけないんだし」


そこでふと遠い目をする凛。
そういえば凛はたまにこういう目をするようになったわよね。
いつからだったかは覚えていないけど。


凛「けどね? 変わらなくてもいいものって、あると思うよ?」


遠い目をしながら。
凛はそんなことを言った。

変わらなくてもいいもの?
例えば?


凛「凛たちの関係とか」

凛「この学校の風景とか」

凛「あとは、凛の魚嫌いとかかにゃ?」


最後は笑って、凛は私の問いにそう答えた。


真姫「……それは変わらなきゃでしょ?」

凛「いいの! 別に食べなくても死なないから!」


むきになったみたいに、私の方を向いた凛は言う。

……なるほど。
こんな凛の明るさも、確かに変わらなくてもいいもの、なのかも。
そんなことを思った。

そして、凛はふと真面目な顔になって――



凛「だからね、真姫ちゃん」

凛「真姫ちゃんの……にこちゃんへの気持ちも変わらなくていいんだよ」



まるで、私の心を見透かしたみたいに。
私の目をじっと見て、そう言った。


――――――

――――――


凛「ただいまぁ!」

花陽「り、凛ちゃん、気が早いよ……」


まだ同棲してるわけじゃないんだから。
そう言って、苦笑いをしながら、かよちんが玄関まで出迎えに来てくれる。
それを見て、凛は、


凛「かーよちんっ♪」

花陽「ぴゃ、ぴゃぁぁ!?」


思いっきり抱き付いた。
可愛い悲鳴をあげるかよちん。


凛「えへへぇ♪」

花陽「く、くすぐったいよぉ、凛ちゃん」


そう言いながらも、離れようとはしないかよちん。
頭撫でてくれてるし。
やっぱりかよちん、可愛いにゃぁぁ。

しばらくして、かよちんを満喫した凛は、今日のことを話すことにした。

朝、真姫ちゃんと会ったこと。
それから、音ノ木坂に行ったこと。
そのあと、真姫ちゃんを連れ回して遊んだことも。


花陽「朝早くから出掛けて、どこに行っちゃったのかと思ったよぉ」

凛「ごめんね、かよちん」


朝出ていく時に、かよちんになにも言わなかったことを謝る。
出かけてくるねってメールはしたんだけど、やっぱり心配かけちゃったし。

でもね!


凛「にこちゃんのこと、かよちんから聞いたらいてもたってもいられなくて!」


かよちんの肩を掴んで、そう言う。
だって、かよちんからにこちゃんの話を聞いて。
それから、真姫ちゃんがそれを心配そうに聞いてたってことも聞いて。

なんだかもどかしくなって。

たぶん要領の得ない話だったとおもう。
だけど、それを聞いたかよちんは、


花陽「うん、凛ちゃんの気持ち、よくわかるな」


にこりと微笑んで、そう言った。


花陽「真姫ちゃんがにこちゃんのこと好きなのは花陽も知ってる」

花陽「卒業式の後の落ち込み方を見てたら、断られたってことも」


うん。
それは凛も知ってるよ。
あのときの真姫ちゃん、凛も見てられなかったし。

うん。
でも、だからこそ!


花陽「……うん。だから、真姫ちゃんの背中を押してあげたかったんだよね」


いつか凛の背中を、かよちんの背中を。
真姫ちゃんが押してくれたときみたいに。

だって、



花陽「きっと、にこちゃんのことを助けてあげられるのは――」

花陽「――にこちゃんを一番想ってる真姫ちゃんだもん!」



――――――

――――――

今日はこちらの都合でここまで
明日も少し更新できるかもしれません

ちょい更新

――――――


にこの楽屋に彼女が来たのはついさっきのことだった。
別に共演する訳でもないのに。

彼女はいつも神出鬼没で、いつの間にかにこの目の前に現れる。



「こんにちは、にこさん」

にこ「……はぁ、また来たのね」



ひとつため息を吐いてそう言うと、彼女は、


「えぇ、また来たわ♪」


ウィンクを返してきた。
あの頃から月日は流れたとはいえ、その仕草はやはり多くのファンを魅了していたそれで。

敵わない。
1度は超えた壁だとはいえ、そんなことを思ってしまう。
そんな劣等感を拭うため、にこは彼女の名前を呼ぶ。


にこ「……あんたも懲りないわね、ツバサ」

ツバサ「そうじゃないと、この仕事は出来ないわよ」


この仕事。
そう言った彼女はにこの同業者。
つまり、


ツバサ「アイドルは打たれ強くないと、ね?」



いつものように。
ツバサはそんな台詞を口にした。


ツバサとは、にこがアイドルとして事務所に入ったときからの付き合いだ。
最初はやっぱり恐縮してたけど、今となっては呼び捨てにする程度にはなった。

事務所も違うし、オファーの来る仕事の系統も違う。
なのに、今まで付き合いが続いてるのは、いつもツバサの方から付きまとってくるから。



にこ「それで? 今日は?」


何の用?
そう尋ねると、ツバサは、うーんと少し溜めをつけてもったいぶる。
さっさと言いなさいよ……。
にこの心の訴えが通じたのか、ツバサはやっとのことでこう言った。


ツバサ「例の件♪」


例の件。
…………あぁ。

それを聞いて、納得する。
ツバサが言ってるのは、きっと少し前からツバサに持ちかけられていることでしょうね。


にこ「…………」


悪い話じゃない、とは思う。
ツバサのカリスマ性、それににこが乗るとなれば話題性もきっと出るだろうし。

アイドルだって、息が長くないのはにこだって分かってる。

けど、



にこ「お断りよ」



にこはそう答えた。
それは話を持ちかけられていた時からずっと変わらない答え。


毎回同じ答えを返してるとはいえ、にこはその続きを言わないではいられない。



にこ「私は、アイドルよ」

にこ「ずっと、憧れてきたアイドルになったの」

にこ「みんなを笑顔にできるアイドルに」



人を笑顔にできる才能がある。
昔、パパにそう言われて。
それに仕事で忙しいママが、にこのそれで笑ってくれて。

きっと、にこは誰かを笑顔に、幸せに出来るんだって思ったから。

そんな幼稚な理由だったけど、にこにはそれがすごく大きなことだった。
だから、



にこ「だから、私はアイドルを止めるつもりはないわ!」



ツバサの目を見て。
にこはきっぱりとそう言った。



ツバサ「……そ。残念ね」


少しだけ微笑んで、ツバサはそう答えた。
ま、それもいつものことなんだけど。

でも、それからはいつもと違う展開。
ふとツバサは真面目な顔になり、


ツバサ「でも、大丈夫なのかしら?」


そう言った。


にこ「……なにがよ?」


ツバサの言葉に、にこは眉をひそめる。

大丈夫って?
にこの疑問に答えるように、ツバサは言う。



ツバサ「あなた、先輩さんによく思われてないみたいね」

にこ「っ!?」


そして、ツバサは、にこが受けた歓迎の数々を、指折り数えながら挙げていく。

練習着をカッターで切られた。
本番で足をかけられた。
靴のなかに画鋲なんかは日常茶飯事で。
靴を燃やされたこともあった。

ツバサが挙げていくそれを聞きながら、にこのなかでその最悪な思い出がフラッシュバックする。


にこ「っ……だ、黙りなさいよっ」

ツバサ「…………」


また、声をあげる。
と同時に、ツバサが静かになった。

だけど、ツバサが沈黙したのは、にこの声に従ったわけじゃあ、きっとない。
たぶん、自分が今から告げることを考えているんだと思う。


ツバサ「……ねぇ、にこさん」


ほら、やっぱり。
そして、ツバサはにこの目を見て、話し始める。


ツバサ「アイドルは打たれ強くないとって、言ったわよね?」

にこ「……えぇ」


ツバサの言葉に静かに頷く。
それを見たツバサは、残酷なほど魅力的な笑みを浮かべて言った。


ツバサ「じゃあ、やっぱり……」



ツバサ「貴女はアイドルに向いてないわ」

ツバサ「だって、貴女はこんなにも弱いじゃない」



――――――


ツバサを楽屋から追い出して。
それからのことは話したくない。

話してしまったら、ツバサの言ってることを証明してしまうことになるから。


――――――

――――――

――――――



『……もしもし』

真姫「……にこちゃん?」



電話帳からその相手を選んで、通話ボタンを押した。
にこちゃんが電話に出たのは、それから10コール以上してから。

それ以外に誰がいるのよ。
いつもよりも低いテンションで、にこちゃんはそんな風に答えた。


真姫「……えっと」


様子の変なにこちゃんの声を聞いて、急に言葉が出てこなくなる。
話すことはちゃんと考えてたはずなのに……。

って、これは言い訳かしら。


真姫「…………」

『…………』


沈黙が流れる。
なにか話さなきゃ。
そう思うけど、やっぱり言葉が出てこなくて……。


「素直になるんだよね?」

「真姫ちゃんの……にこちゃんへの気持ちも変わらなくていいんだよ」


だからってわけじゃないけど、二人のことを思い出す。

あの二人にせっかく背中を押してもらったのよ。
ここで、ちゃんと聞かなきゃ……。

二人に顔向けできるようにって、私はやっとのことで口を開いた。


真姫「ねぇ、にこちゃん」

『……なによ?』

真姫「噂のこと、聞いたんだけど……」

『…………そう』


静かに、電話の向こうでにこちゃんはそれだけを呟いた。


真姫「否定、しないのね」

『――事実だから』

真姫「えっ?」

『事実だから否定のしようがないわよ』


あまりにも薄い反応。
だから、ちょっとだけ反応が遅れた。
だけど、


真姫「っ!! それ、本当なのっ!?」


にこちゃんの言葉を理解した私は声を荒げた。
そんな私にもにこちゃんは変わらず平坦な声で答えを返してくる。


『本当よ』

『気に食わないんでしょうね。にこが売れることが』

『まぁ、今は我慢するしかないでしょ。 いざこざ起こしたなんて知られたらクビだものね』


そういうにこちゃんは、どこか他人事みたいに話していた。

あの頃の、μ's でキラキラ輝いていたにこちゃんと同一人物とは思えない。

そう思った。
それくらい今のにこちゃんには温度が感じられなかった。


だから、私は言ってしまったの。
にこちゃんの気持ちも考えずに……。

――――――



真姫「そんなの、にこちゃんらしくないっ!」


真姫「にこちゃんはもっと偉そうで、自分勝手でっ!」

真姫「でも、だから! キラキラって輝いていたのっ!」



真姫「そんなにこちゃんだから、好きになったのっ!!」



――――――

捲し立てるように、私はそう言った。
あの頃と変わらない、変わることができなかった素直な私の気持ちを、にこちゃんにぶつけた。


『…………』

真姫「っ……だからっ!」


だから。
その後の言葉が続かない。

そんなにこちゃんは見たくない。
見てられない。
もし、これからにこちゃんのキラキラが消えていってしまうのなら。
そんな風になっちゃうなら――。


アイドルをやめて。


そう言おうとしたのに、私の口は言うことを聞いてくれなくて、固まってしまう。

そんなことを言う資格が私にあるの?

迷いはまだ私の中でぐるぐると渦巻いている。
それが私の言葉を邪魔している。


真姫「…………だ、だからっ」


迷ったまま、私は無理矢理言葉を紡ぐ。
けれど、それは、



『……やめて、よ』



にこちゃんの声に遮られてしまった。
その声はとても小さなもので。


『お願いだから……やめてよっ』

『にこは、ただみんなを笑顔にしたいだけなの……』

『ずっと叶えたかった夢なのよっ』

『アイドルをやって、みんなを笑顔にして、幸せにっ――』


私はそれ以上なにも言うことができなかった。
それから、電話の向こうから聞こえてくるのは彼女の泣く声だけだったから。


あぁ、やっぱり。
私にはその資格がないのね。
恋人じゃなくても、友達だとしても。



『真姫ちゃんには、関係ないでしょ』

『にこの夢を邪魔しないで』



電話を切る間際。
にこちゃんが言ったその温度のない言葉に何も言い返せなかった私には。

にこちゃんの夢を邪魔する資格なんて、ない。


――――――

今日はここまで

ちょい更新と訂正
真姫ちゃんが卒業したのは四年前じゃなくて二年前

――――――

――――――



『真姫ちゃんには、関係ないでしょ』

『にこの夢を邪魔しないで』



真姫「はぁぁぁぁ……」



講義を終えた私は、にこちゃんに言われたことを思い出して、深いため息を吐いた。

もう3日も前のことなのに、私はそれを引きずっていた。
そのせいで、講義にも身が入らなくて。


真姫「……帰ったら、復習しとかないと」


そう呟く。
高校の頃とは違って、内容も複雑で専門的なことが多くなった。
だから、口にしたように復習しておかないときっと追い付けなくなる。

だけど――


真姫「…………どこか寄っていきましょ」


私の足は、家とは違う方向へ向かう。
正直こんな状態じゃ、復習したって頭には入らない。
なら、いっそ……ってわけ。

そう思い立った私は、携帯を取り出す。
それから、


真姫「…………」


『今日暇な人いるー?』


朝、グループ宛に届いたメッセージに、


『今からならいいけど』


そんな風に言葉を返した。


――――――

――――――


希「お待たせ」


手をヒラヒラと振って現れた希。
お待たせとは言っても、待ち合わせの時間の10分前。
こういうところは律儀よね、なんて思ってみる。


真姫「悪いわね、急に連絡して」

希「えぇよ。ウチは1日中暇やったから♪」


急に会うことになったことに謝ると、希は笑った。


希「真姫ちゃんも暇だったん?」

真姫「……ま、そんなところよ」


希の質問にそんな風に返す。

嘘はいってない。
暇といえば暇だったし。
復習はしないといけないけれど。
でも、今の状態じゃあ……。


真姫「…………はぁ」

希「真姫ちゃん?」

真姫「あっ……ごめん」


せっかく久々に会ったのに、ため息なんてひどいなぁ。
なんて、冗談めかして言う希。


真姫「わ、悪かったわよ」

希「ふふっ、ええよええよ♪」


流石に、さっきのはないわよね。
そう思って謝ると、希は昔と変わらない柔和な表情で微笑んだ。


無理に変わらなくてもいい、ね。
確かに、変わらない希の雰囲気は心地がよくて。
ふと凛の言葉が、案外的を射てるものだとまた実感してしまう。

……でも。


真姫「…………それだけじゃ駄目」

希「? 真姫ちゃん?」

真姫「…………それだけじゃ」


私の思いは、うん。
変わらない。
変わらず、にこちゃんのことが――。

だけど、変わらないままじゃ、私にはどうすることもできない。

だって、このままじゃ私はにこちゃんにとって、ただの後輩だから。
仲間で友達で。
ただ、それだけ。

それだけの私の言葉じゃあ、にこちゃんには響かない。
また拒絶されるだけ。

じゃあ、一体、


真姫「……どうしたら……」

希「…………」

真姫「…………」

希「………………真姫ちゃん」

真姫「……あっ、な、なに?」


いけない。
また考え込んじゃってた。

これ以上、せっかく会えた希に失礼なことをしないようにしないと。
そう思って、頭を振る。
余計なことを頭から追い出して、ちゃんと希の言葉に集中する。

けど、希はなにも言わず。
その代わりに、


―― ギュッ ――

真姫「っ!?」


不意に手を握ってきて


希「行こ?」

真姫「ちょ、待っ――」


希は慌てる私に構わず、走り出したのだった。


――――――

――――――


希に手を引かれて。
私たちは神田明神までやって来ていた。
のだけど、


真姫「ぜぇ……ぜぇ……」


大学に入ってから運動らしい運動をしていなかった私に、この全力階段ダッシュはきついものがあった。
すっかり息があがってる。

ふと隣を見ると、


希「……ふ、ふぅ……さすがに」


希も肩で息をしていた。

って!


真姫「なんで、ダッシュしたのよっ!」

希「いやぁ、その方がいいかなって?」


私の抗議の声に、悪びれる様子もなく希はそう答えた。

いいって、なにがよ!
口を開くのも辛くなって、目でそれを訴える。
けれど、希はどこ吹く風で。
そのまま息を整えながら、社務所の方にひとり向かっていった。


真姫「……どこ、行くのよ……」


私を連れてきておいて。
自由気ままな希の行動に、若干呆れながら文句を口にした。

少しして。


希「おまたせ、真姫ちゃん」


希が戻ってきた。
もうすっかりいつもの落ち着いた希で、さっきまで全力階段ダッシュをしていたとは思えない。


真姫「なにしに行ったのよ?」


こちらは息を整えながら聞く。
すると、


希「これを取りに行ってたんよ」


私の質問に、希は手に持っていたものを私の方に差し出した。
これって……。


真姫「……おみくじ?」

希「そうやね♪」


笑顔で頷く希。

……なんで、おみくじ?
まぁ、持ってきたってことは引けってことなんでしょうけど……。


真姫「……私、こういうの信じないって言ったことあるわよね?」

希「あれ? そうやったっけ?」


首を捻る希。
……わざとらしい。


真姫「私、神様とか信じてないし」

希「サンタさんは信じてたのに?」

真姫「う、うるさいわねっ!」


あの頃の私は純粋だったのよ!
なんて、自己弁護をする。
そんな真っ赤になる私を見て、希はニシシと笑った。



希「とにかく!」


物は試しやから♪
そう言って、希はそのおみくじをまた差し出してくる。


真姫「…………」

希「な?」

真姫「……はぁ」


仕方ない。
こうなった希は言うだけ無駄だったわね。
どうせ引くだけだし。

そう思った私は、


真姫「ほら、貸しなさいよっ」

希「ふふふっ」


なげやりにそう言った。
にやけながら、それを差し出す希にはなんか引っ掛かるけど。

ふんっ、いいわっ!
大吉でも引いて、希の鼻を明かしてあげるわ。

そう思って、希から強引に奪い取り、おみくじを乱暴に引いた。



『大凶』


真姫「…………」


希「その表情を見るに、あんまりいい結果とは言えんかったみたいやね」

真姫「うっ」

希「とにかく、詳しく見てみるといいんやない? 末吉でも凶でも案外いいこと書いてあるときもあるんよ?」

真姫「……そうね」


大凶だけど、とは言わない。
とにかく希の言う通り、中身を詳しく見てみることにする。
いいこと書いてあるかもしれないしね。

特に、対人というか待ち人の欄を――。



『思い叶わず』

真姫「うるさいわよっ!」


思いっきり吠えてしまった。
ついでに、おみくじを投げ捨てる。


希「あらあら、よくなかったん?」

真姫「……えぇ、最悪よ」


ついに、神様にも思いが伝わらないと言われたんですもの。
まぁ、神様なんて信じていないけど。


希「どれどれ?」


そう言って、不貞腐れてる私が捨てたおみくじを拾い上げる希。
なにやら頷きながらそれを読んでいる。


真姫「よくないでしょ?」

希「そうやねぇ……まさか大凶を引くとは思わんかったわ」


希は笑う。

私にとってはわらいごとじゃないんだけど?
そう言って睨むと、希はごめんごめんって謝ってくる。

それじゃあ。
希はふと表情を引き締めて、こう言った。



希「もう一回引いてみる?」



真姫「……は?」


予想外の提案に、思わず聞き返した。
すると、希はまた


希「だから、もう一回引いてみたらいいんやない?」


そんなことを提案してきた。

大凶を引いたからもう一回って……。
それおみくじの意味あるの?

そんな私の質問。
だって、そうでしょ?
そんなことをしていいなら、みんな大吉を引くまでやるに決まってるじゃない?


希「結局は心の持ちようなんよ」

真姫「心の持ちよう?」

希「そ」


希の答えはそんなもので。
それから希は続ける。


希「おみくじはあくまでもおみくじ」

希「それは別に、決まった運命とかじゃない」

希「だから、悪い運勢だからっていって、落ち込む必要はないし、むしろ今がどん底だと思えばいい」

希「そうしたら、あとは上がるだけ、やろ?」


まぁ、希の言うことも尤もね。
おみくじはあくまでもおみくじ。
ただの運試しみたいなものだし。

その通り。
そう言って、希は私の言葉に同意した。
だけど、


希「でもな?」

希「やっぱり不思議なもので、おみくじの結果っていうのはなるべくしてなるものでもある」


そんなことも言った。


真姫「……どういうこと?」


そう尋ねると、希は私をじっと見つめてそれに答えた。



希「真姫ちゃん」

希「マイナスのことを考えながらじゃ、大吉を引き寄せることなんて無理なんよ?」



真姫「…………」


希は、私が悩んでいることを知っている。
ま、あれだけ盛大にため息吐いていたら、悟られるわよね。
まして、聡い希のことだし。


真姫「じゃあ、どうしたらいい結果を引き寄せられるのよ?」


だから、私は尋ねた。
どうしたらいいのって。

その質問に、希は、


希「さぁ?」


思いっきり肩をすくめた。


真姫「って、そこまで言っといて無責任ね」

希「ウチだって、そんなことは知らないからね。大吉なんて、普通に引けるもんやし?」

真姫「嫌味にしか聞こえないわ」

希「ふふふっ」


ひとつ微笑んでから。
希はこう言った。


希「でも、それを聞くってことは……」

希「『大凶』な結果を受け入れたくないんやろ?」

希「それなら、抗えばいいんやない?」


真姫「…………」


『大凶』な結果にしたいように抗う。
それは、


真姫「廃校を阻止するために戦ったあの頃みたいに?」

希「ふふっ」


希は答えない。
ただ微笑むだけ。

抗う、ね。
あの頃はどうしてたかしら?

アイドルで学校を救う。
そう言い出したのは穂乃果だった。
私はそれに乗っかっただけ。

今思えば、よくそんな無謀なことに乗っかろうと思ったわよね。

…………。

いえ、違う。
そういえば、私は廃校がどうとかっていうのはあんまり考えてなかった気がする。

私が考えてたのは、そう。

音楽がしたい。
自分が好きな音楽を思う存分やりたかった。

ただそれだけ。
けれど、μ's に加入した後も、私はどこか冷めた気持ちで、すぐに終わるものだって考えてた。
でも、そんなことはなくて。
私は音楽が大好きなまま、高校3年間を駆け抜けた。

うん。
それはきっと――



『あんたは、私にないものをたくさん持ってる』

『正直、羨ましくてしょうがないわ』

『なのにっ!』

『なんでも持ってるあんたが!』

『なんでそんなに簡単に諦めるのよっ!』

『好きなものを簡単に諦めるんじゃないわよっ!』



あの人のおかげ。
あの人が私に本気でぶつかってくれなかったら、私は中途半端なまま終わっていたと思う。

あるがままの自分をさらけ出してまで、私に気持ちを伝えてくれたから。
簡単に諦めるなって、怒ってくれたから。

私は自分の『好き』を大切にできたの。


真姫「…………」


そんな人の夢を。
『好き』を邪魔してまで……。

私は自分を貫ける?
迷惑で自分勝手な想いを、あの人にぶつけられる?


私の『好き』を守るために。



真姫「…………希」

希「ん? なに?」

真姫「それ、もう一回引かせてもらえる?」

希「……ふふっ、ええよ♪」


その覚悟が、私にはある?
答えは――。



真姫「……………………」

『――――』



――――――


真姫「…………」


希は、私が悩んでいることを知っている。
ま、あれだけ盛大にため息吐いていたら、悟られるわよね。
まして、聡い希のことだし。


真姫「じゃあ、どうしたらいい結果を引き寄せられるのよ?」


だから、私は尋ねた。
どうしたらいいのって。

その質問に、希は、


希「さぁ?」


思いっきり肩をすくめた。


真姫「って、そこまで言っといて無責任ね」

希「ウチだって、そんなことは知らないからね。大吉なんて、普通に引けるもんやし?」

真姫「嫌味にしか聞こえないわ」

希「ふふふっ」


ひとつ微笑んでから。
希はこう言った。


希「でも、それを聞くってことは……」

希「『大凶』な結果を受け入れたくないんやろ?」

希「それなら、抗えばいいんやない?」


真姫「…………」


『大凶』な結果にしないように抗う。
それは、


真姫「廃校を阻止するために戦ったあの頃みたいに?」

希「ふふっ」


希は答えない。
ただ微笑むだけ。

今日はここまで
次の更新は少し間が空きます。

もう少ししたら更新します

ちょい更新

――――――

――――――



『今、どこ?』


にこ宛にそんなメッセージが届いたのは、今朝のこと。
相手は……。


にこ「なに考えてんのよ……」


楽屋でポツリと呟く。
引いてくれないことへの怒りと困惑。
それがにこの心のなかを占めている。

もちろん、返事はしなかった。


『関係ないでしょ』

『にこの夢を邪魔しないで』


電話ごしに言ったあの言葉。
あんなこと言っておいて、今更なんて返せばいいってのよ。
そんなことを考えて、


にこ「…………はぁ」


ため息が出た。
そして、にこはおもむろに1枚の写真を取り出した。


にこ「この頃は、楽しかったわね」


写真に写り込んだみんなのことを思い、呟く。

4年前とはいえ、昔は昔。
昔を懐かしむとか、年寄りくさい。
それにわざわざデータ以外の形で持ち歩いてるとか……。



にこ「ほんと、にこらしくない」



しばらく、そんならしくもない感傷に浸る。


にこ「…………」


そして、そこに写る彼女の顔を指で撫でようとした時だった。


―― prprprpr ――

にこ「…………電話?」


突然に、にこの携帯が鳴る。

デフォルトのままの着信音。
そんな風に設定してる相手は一人しかいない。
彼女とお揃いにしたくて、そのままにしておいたその音は誰からかかってきたのかをにこに知らせてくる。


にこ「…………」

―― prprprpr ――

にこ「…………」

―― prprprpr ――


出るわけ、ない。

着信の画面をただ黙って見つめる。
数十秒が経って。
そして、


―― prp


唐突にコールが終わる。
切れちゃったわね。

…………。

切れ『ちゃった?』
なによ、それ?
にこ、もしかして――


にこ「残念がってる?」

そんなわけない。
そう思う。

だけど、電話があのままずっと鳴り続けてたら。
収録が始まるまでずっと鳴り続けていたら。

私はそれをどうしていたのかしら?

放置しておく?
それとも、取ってしまうの?


にこ「…………」

にこ「…………とるわけない、わよ」


考えるまでもない。
仕事を投げ出すようなことを、にこがするはずないでしょ?
そんなのアイドルって仕事に対して失礼よ。


にこ「……うん、とるわけ」

にこ「………………」


……もし。
もしもの話よ?
もし、にこに仕事を投げ出させたいなら。



にこ「…………」

にこ「…………強引に」

にこ「強引に、にこをここから連れ出しなさいよ」



よくあるじゃない?
囚われのお姫様を助け出す王子様。

ま、強引にってなると、助け出すって言うよりも、誘拐に近いかも。
さながら、クリスティーヌを誘拐するファントムみたいに。

そんな風に連れ出されたなら、


にこ「万に一つくらいは、可能性あるわよ……」


誰が聞いているでもないのに、そんなことを口にする。

ま、あのヘタレにそんなことできないでしょうけど。
それに、あの子はにこの今の場所知らないんだし。


にこ「ふふっ、ありえないわ」


なんて、自分で言って笑っちゃうわね。

そう、思ったその時、



―― コンコン ――



ノックの音が聞こえた。


――――――

――――――

――――――


真姫「あぁ! もうっ! なんで返事ないのよ!」


朝に送ったメッセージに既読がついてるにも関わらず、返事がないことに苛立って声をあげた。
同時に携帯をベッドの上に放り投げる。


真姫「はぁぁ」


思わずため息が出る。
まぁ、あんなこと言われたんだもの。
普通は返ってくるはずもない。
仕方のないことなんだけどね。

けど、


真姫「…………少しくらい」


少しくらい、連絡くれてもいいじゃない。
そんな淡い希望も私はまだ抱いていて。

だから、その期待を頭を振って、外に追い出す。


真姫「待ってるだけじゃ……ダメよ」


自分に言い聞かせるように、そう呟き、ベッドの上に放った携帯をまた手にした。

そのまま、電話帳を開いて、電話をかける。
相手は……



『真姫ちゃん?』

真姫「もしもし! 花陽?」


相手は、花陽。
もし今、にこちゃんが番組の収録をしているならば、アイドルが好きな花陽がその情報を掴んでるんじゃないかって思ったから。


『急にどうしたの?』

真姫「実は……にこちゃんのことで聞きたいことがあるの!」

『!』


私の言葉で、電話の向こうの空気が変わった気がした。
たぶん察してくれたんだと思う。
花陽は、


『花陽で力になれるなら』


静かに、だけど、力強くそれだけを言った。


真姫「……ありがと」


――――――

――――――


花陽によると。
にこちゃんは1週間後に放送される番組の収録をしているらしい。

そのなかでも、収録スタジオの候補として有力なのは3ヶ所。
その3ヶ所のどこかに、にこちゃんはいる。

もちろん確定ではないけど。
それでも手がかりには違いない。

そして、今は……。


――――――


真姫「なんでっ、はぁっ! こんなに、遠いのよっ!」


3つのスタジオの中の1つ。
そこの最寄り駅のバス停から走っている最中ってわけ。
運動不足が祟って、息は切れるし、足も痛いけど。


真姫「携帯の電源くらいっ! はぁ、はぁっ……入れときなさいよっ」


そもそも電話が通じれば、ダッシュなんてしなくてすんだのにっ!
息切れしていても、そんな風に毒づく。

さっきからにこちゃんに電話はしてるんだけど、電源を切ってるみたいで通じない。
だから、とりあえず一番近いスタジオに向かうことにしたんだ。

え?
ダッシュじゃなくてもいいんじゃないかって?
……ま、そうだけど。
けど、私の決心が鈍らないうちに、ね。

にこちゃん曰く、私はヘタレらしいから。
土壇場で引く癖がついてるって。


真姫「ふ、ふふっ……見てなさい、よっ」

真姫「目にもの見せてやるわっ」


にこちゃんの呆気に取られた顔を想像して、ラストスパート。
私はやっとのことで、たどり着いた目の前のスタジオの中に駆け込んだ。

と、同時に、ある人物の姿が私の目に飛び込んできた。
それは私が求めていた人ではなく、


真姫「あ、あなたはっ」



「あら? こんにちは、真姫さん」

「そんなに慌ててどうしたのかしら?」



にこちゃんと同じ、現役のアイドル。
元A-RISEのリーダー。



ツバサ「もしかして、私の応援かしら?」



綺羅ツバサ。
彼女は昔と変わらないいたずらっ子のような微笑みでそう聞いてきた。



真姫「なにっ、それ……意味っ……はぁはぁ……わかんないっ」


息を整えながら、そう返す。
私の様子が可笑しかったのか、彼女はクスクスと笑った後、水を差し出してきた。


ツバサ「飲みかけだけど、いる?」


いらないわよ。
せっかくの好意ではあるけれど、遠慮と拒否の意を込めて断った。

すると、彼女は、


ツバサ「やっぱり?」


そう言って、また、笑った。
まるでその答えを予想していたみたいで、少しむっとする。


真姫「……っ、からかっているんですか?」


半目で睨むようにしながら、そう聞いた。
けれど、彼女は違う違うと笑う。
今度は少しだけ困ったように。

それから、こう言った。


ツバサ「やっぱり真姫さんが『彼女』のことを想っているのは、本当だったのね」

真姫「……」

ズバリ、だった。

ここで言う『彼女』が誰を意味しているのかくらいは、行間やらから読み取れる。
ただ彼女の本心は読み取れないけれど。

……でも、



真姫「えぇ。私は『彼女』が好きよ」

ツバサ「…………」



ここは答えなきゃいけない。
ちゃんと胸をはって。

あのときからずっと変わらない気持ち。
変わらなくていいんだって気付かせてくれた想い。
それをはっきりと口にする。


どんなに『彼女』に迷惑だと思われても、好きなものは好き。
その好きなものを守るためなら――


真姫「…………」

ツバサ「…………」

真姫「…………」

ツバサ「………………はぁ」


しばらくの沈黙の後、彼女はため息を吐いた。
それがなにを意味するかは分からない。

けれど、彼女はおもむろにメモ翌用紙とペンを何処からか取り出して……。


ツバサ「はい、ここよ」

真姫「……えっ?」


真意は分からないまま、1枚のメモ翌用紙を手渡される。
そこには、あるスタジオの名前と住所が書かれていた。


ツバサ「愛しの彼女のいる場所よ」

真姫「あっ」

ツバサ「会いに行きたいって、顔に書いてあるもの」


そこでまた、ふふっ、と笑う。

行ってきたらいいわ。
きっと待ってるわよ。

快活なその笑顔を受けて、私は――



真姫「……行ってきます」



――頷いた。


――――――

今日はここまで。
あと三回くらいで終わる予定です。
読んでくださっている方、もう少しだけお付き合いください。

9時過ぎくらいに更新予定

更新します

――――――


ノックの音。
それから、ゆっくり楽屋の扉が開いた。


にこ「…………あ」


そこにいたのは、にこが期待していた人物じゃなかった。
むしろ逆。
会いたくない人物。


「こんにちは、にこさん」

にこ「……先輩」


にこにこと愛想のよく笑う女の人。
彼女は今日の番組で共演する予定の事務所の先輩アイドルだった。


先輩「あら? 浮かない顔ね? もしかして、体調でも悪いのかしら?」

にこ「い、いえ……そんなことはないです」

先輩「それならいいのだけど。お互い健康には気をつけましょうね」

にこ「はい……お気遣いありがとうございます」


上辺だけの会話を交わす。
早く話を切り上げるために。


先輩「あ、そうそう。ねぇ、にこさん?」

にこ「なんでしょうか?」


本当は、この人とは関わりたくない。
だって、



先輩「今日のダンス『も』期待してるわよ?」

にこ「っ!?」



この人がにこへの嫌がらせの主犯だから。


先輩「いつも、にこさんのドジっ娘ぶりには癒されてもらってるわ」

先輩「本番中に転んじゃったり?」

先輩「それって緊張してる私たちを和ませるためにやっているんでしょう?」

先輩「先輩思いのいい後輩ね」

にこ「………………」


彼女の言葉にじっと耐える。

我慢よ、我慢。
こんなの適当にあしらっておけばいいの。

そう思って、ただ下を向いている。
すると、


先輩「……あら? なにかしら?」


彼女が、にこの机の上に手を伸ばしてきた。
って!


にこ「それはっ!」


彼女より先にそれを取ろうとして、


先輩「……ダメかしら?」

にこ「っ…………いえ」


にこは手を引いた。
そして、それ――μ's の写真を手に取る先輩。


先輩「……これって、学生の頃の写真?」

にこ「……はい」


静かに頷く。
本当は今すぐにでもその手から奪い返してやりたい。
だけど、そんなことをしたら、たぶん今よりも嫌がらせが酷くなる。

なら、ここは我慢。
……我慢しないと。


にこ「…………」

先輩「ふぅん」


じろじろと、品定めでもするみたいに、先輩は写真を見る。
そして、一言、こう呟いた。


先輩「にこさん、これじゃダメよ?」

にこ「…………え?」

ダメよ?
なにがダメだって?

彼女の言ってる意味が分からず、しばらく黙っていると、彼女は続けた。


先輩「あなた、トップアイドルを目指してるんでしょう?」

にこ「……はい」

先輩「なら、過去のことなんて全部捨てて未来を見ないとね?」

にこ「えっ……」

先輩「見たところ、学生の頃の写真みたいだけれど」

先輩「いつまでも思い出に浸っていたんじゃあ、上にはいけないわよ?」


そんな風に。
捲し立てるように、彼女は言った。
にこにこと残酷な笑みを浮かべながら。

そして、彼女はまた、言葉を続ける。



先輩「だからね、にこさん?」

先輩「わたしが、この写真破り捨ててあげるわね?」

その言葉を理解するのに、数秒かかった。
遅れて理解した瞬間に、


にこ「なっ!? やめなさいよっ!」


そんな言葉が口を突いて出た。

普通の人間ならそんなことは絶対しないでしょうね。
人の思い出を破り捨てるなんてこと。

でも、彼女ならやりかねない。
にこに散々嫌がらせをしてきた彼女ならば。

だから、にこは素が出るのも構わずに、


にこ「それを破ってみなさいっ! そしたら、あんたのこと絶対許さないわよっ!」


思いっきりそう言ってやった。
アイドル失格な口調と、目付きだったと思う。
けれど、そうしないとあれを守れないと思ったから。

だけど、にこはバカだった。
相手はにこのことをよく思っていない人間で、そんな相手ににこの凄みなんて通用しない。


先輩「先輩に対して、その言葉遣い?」

にこ「っ! うるさいっ! いいから、それを渡しなさい」

先輩「…………」


そう言っても、やっぱり写真を渡すつもりもないみたいで、彼女は黙ったまま。

なら、力ずくで!
そう考えて、それに手を伸ばす。


にこ「かえしなさいっ!」


けど、


―― スカッ ――

にこ「っ!?」


避けられて、にこはそのままバランスを崩して前のめりに倒れてしまった。
そんなにこに、後ろから声がかかる。


先輩「フフッ、アイドルがそんなことしちゃダメじゃない」

先輩「そんな後輩には、目の前でこれを破ってあげないと、みたいね?」


にこ「やめっ!?」


やめなさい、って。
言葉を言い終え前に、にこの写真に力が加えられていくのが分かった。


あぁ、もうダメなのね。


そんな風に諦めてしまいかけた時だった。

――――――




「にこちゃんっ!!」




――――――

バン、っと。
すごい音をたてて、楽屋の扉が開いた。


先輩「っ!? な、なにっ!?」

―― ヒラッ ――


その音と、声に先輩は写真を落としたのがわかって。
にこはそれを飛び付くみたいに拾う。


先輩「あっ……チッ」

にこ「っ」


…………よかった。
破れてない。

それだけを確認して、にこはすぐに、にこの写真を助けてくれた、その声の主を見る。


先輩「あなた……一体?」


不快感が隠そうともしない先輩。
その質問に、にこの視線の先の彼女は堂々とこう言った。

――――――




真姫「私は、西木野真姫」

真姫「にこちゃんを奪いに来たわっ!!」




――――――


にこ「真姫ちゃん……」


ぽつりと彼女の名前を呟く。


真姫「にこちゃん」


それに答えるように、真姫ちゃんもにこの名前を呼んでくれる。
それだけで、今まで絶望してた心が暖かくなっていく。


先輩「…………」

真姫「で? あなたは一体誰なのよ?」


ふと、先輩を見た真姫ちゃんは鋭い目で先輩を睨んだ。
そんな真姫ちゃんは今まで見たことがないくらいにすごい迫力で。
けれど、それで引くほど先輩は弱くはない。


先輩「この子の先輩よ?」

先輩「いつもこの子を可愛がってあげてるの」

にこ「…………」


にこにこと嫌らしい笑みを浮かべてそう答えた。

可愛がってあげてる?
嫌がらせをして、が抜けてるわよ。
そう思いながらも、 口には出来ないにこ。
それをいいことに、


先輩「いまだって、相談に乗ってあげてたの」

先輩「にこさんの」


いけしゃあしゃあとそんなことを言ってのけた。

あぁ、やっぱり腐ってもこの人は先輩だ。
こんなあからさまな嘘も、演技力で覆い隠してる。


にこ「…………」


ちょろい真姫ちゃんのことだ。
きっと騙される。
そう思ったにこの思考は、



真姫「にこちゃんの名前を口にしないでっ!!」


そんな真姫ちゃんの声に掻き消された。


先輩「っ!?」


真姫ちゃんの怒気をはらんだ言葉に、先輩はたじろいだ。
それを見て、真姫ちゃんはにこの方に近づいてくる。


真姫「…………」

にこ「……真姫ちゃん?」


―― ギュッ ――


そして、そのまま抱きしめられた。
って、えっ!?


にこ「ま、まきちゃんっ!?」

真姫「…………」


そのまま撫でられる。

って、ちょっ!?
な、な、ななにしてんのよっ!?

急なことに狼狽えるにこ。
少しして、真姫ちゃんはにこを解放してくれて。


真姫「ほら、これで拭きなさいよ」

にこ「えっ?」


差し出されたのはハンカチ。
それを受け取った。


真姫「目」


真姫ちゃんに言われたそんな一言で、やっと気づいた。

わたし、泣いてたのね。

涙を拭いたにこに、真姫ちゃんは、


真姫「ちょっと待っててね、にこちゃん」


にこりと笑った。
その笑顔は、今まで見たどんな笑顔よりも安心できるものだった。

真姫ちゃんの笑顔を見ていたら。
なんだか、言葉が出なくて。


にこ「……うん」


大人しく頷いたのだった。


――――――

――――――


さて。
にこちゃんも少し安心したみたいだし。

そう思って、私は向き直った。
にこちゃんをその人から守るように、間に立つ。


先輩「……もういいのかしら?」


その人はにこりと笑う。
なんだかその顔は気に入らない。
にこちゃんとは大違いで、嫌な笑顔。


真姫「よくはないわよ」


うん。
よくない。
まだにこちゃんに何も伝えてないから。
だから、


真姫「早く出ていってくれないかしら?」


目の前の人にそう言う。


先輩「っ! ……あなた、口が悪いわね」

真姫「そうね。元々こうなのよ」

先輩「そう。それは可哀想な子ね」

真姫「…………」


可哀想なのはどっちよ。

そう思いながらも、言葉にはしない。
今はそんなことどうでもいいし。

私がここに来た理由。
それは、



真姫「もうにこちゃんには手を出さないで」



にこちゃんを守るため。

きっと今、にこちゃんが苦しんでる元凶は、この目の前の人だ。
だから、彼女の目をじっと見て、そう告げた。


真姫「私は、にこちゃんが泣いてるのを見たくないの」

真姫「にこちゃんは笑ってるのが一番かわいいから」

真姫「でも、今はにこちゃんは笑ってないわ。それはきっとあなたのせいよ」

真姫「だから、にこちゃんに手を出さないで」

真姫「……ううん。金輪際、にこちゃんに近づかないで」


そう告げる。
それが素直になった私の思い。

笑っているにこちゃんを見ていたい。
可愛いにこちゃんを見ていたい。
幸せそうなにこちゃんを見ていたい。

そのためには。
それを守るためなら。


真姫「にこちゃんを泣かせるものはなんであっても許さないわ」


私はなんだってする。

楽屋に強硬突入するし。
にこちゃんの先輩にだって喧嘩を売ってやるわ。
持てる手段すべてを使って。
出来ることはすべて。



先輩「…………あなた、一体なんなのよ」


理解できないような表情で、私を見て、そう聞いてきた。

私?
私は、ただの――




真姫「にこちゃんの婚約者よっ!」




――――――

――――――

――――――


にこ「婚約者って……つくならもっとマシな嘘をつきなさいよ」

真姫「……別にそれで追い返せたんだからいいじゃない」


呆れ顔のにこちゃんにそう返すと、まぁそうだけど、と一応同意してくれた。


にこ「でも……」

真姫「うん」

にこ「…………助かったわ。ありがと」


プイッと顔を背けながら、にこちゃんはお礼を言った。
その顔はよく見るまでもなく、真っ赤になっていて。


真姫「ふふっ」


思わず笑ってしまう。

なに、笑ってんのよっ!
なんて、にこちゃんに怒られちゃったけれど。
まぁ、真っ赤な顔じゃ怖くもなんともないわね。


真姫「…………」

にこ「…………」


それから、しばらく私とにこちゃんは静かになる。
つかずはなれず。
触れているような触れていないような距離を保ったまま、その時を待った。

そして、



にこ「ねぇ……真姫ちゃん」

真姫「……なに? にこちゃん」



にこ「なにしに来たの?」



にこちゃんの質問。
なにしに、ね。


真姫「…………ふぅ」


少しだけ息を吐く。
息を吐いて、覚悟を決める。

……よし。
意を決して、私は口を開いた。



真姫「にこちゃんの夢を邪魔しに来たわ」



にこ「……うん」


私の言葉ににこちゃんはうなずいて。


にこ「でも、にこはアイドルを諦めたくない」


そう言った。

知ってる。
そんなの、私の卒業式の日に思い知ってるわよ。
そのせいで、私はフラれたんだから。


にこ「にこが諦め悪いの知ってるでしょ?」

真姫「えぇ、知ってるわ」

にこ「にこはファンを笑顔にし続けたいのよ」

真姫「……知ってる」


うん。
それも、よく知ってる。
だから、私はこう言ってやるの。


真姫「ねぇ、にこちゃん」

にこ「うん」

真姫「私はにこちゃんのファンよ? たぶん、にこちゃんのことが世界で一番大好きなファンよ」

にこ「…………知ってるわ」


そうよね。
だって、にこちゃんに告白したのはたぶん、後にも先にも私一人だから。


だからね、にこちゃん。



真姫「にこちゃん」

真姫「あなたは私だけのアイドルになりなさいっ!」

真姫「私もにこちゃんだけのファンになるからっ!」



真姫「だから、私のそばにいてっ!!」



真姫「そうしてくれないなら、私、ずっと泣き続けるわよっ!!」



それが私の辿り着いた結論。
暴論とも言われかねないものだけど。

それでも、にこちゃんは、


にこ「……ふふっ、自分勝手よね、真姫ちゃんって」


そんな風に笑ってくれた。

お互い様でしょ?
私のそんな言葉にも、笑って頷いてくれて。

それから、にこちゃんは私に笑いかけてくれて、こう言った。



にこ「一人だけのためのアイドルね」

にこ「……悪くないわ」



そう言ったにこちゃんの目の端は、少しだけ何かで輝いていて。
それに負けないくらい、にこちゃんの笑顔もキラキラと輝いていていた。


私の大好きな笑顔。
にこちゃんの、笑顔。



――――――

――――――

――――――


先輩「なんなのよっ、あいつ!」

先輩「矢澤にこっ!!」

先輩「どうしてやろうかしら……」

先輩「……そうよっ、あることないことネットで――」



ツバサ「お久しぶりです、先輩」



先輩「っ!? あなた、ツバサ!?」

ツバサ「はい。いつぶりでしょうね。えぇと、先輩がA-RISEを止めてからだから……」

先輩「だ、黙りなさいよっ」

ツバサ「あ、すみません。止めさせられたでしたね?」

先輩「うっ!?」

ツバサ「トップアイドルは過去に固執するようじゃなんておっしゃっていたので、つい笑ってしまいました」

先輩「黙れっ!!」

ツバサ「………………」

先輩「っ!? な、なんで……」

ツバサ「先輩?」

先輩「な、なにかしら?」



ツバサ「……矢澤にこにはもう手を出さないでくださいね?」

ツバサ「もし、またなにかするようでしたら、先輩の過去のことを週刊誌にリークさせてもらいます」



先輩「っ!? な、なんでそこまで矢澤にこに拘るのよっ! ツバサには関係ないでしょうっ!?」



ツバサ「彼女は――」

ツバサ「――私のビジネスパートナーに相応しい娘なので♪」



――――――

――――――

――――――



『大凶』

あの日、2回目に出たのはそんな結果。
どうやら神様は私にいい結果を引かせたくないみたい。

けれど、どう?
神様なんてものがいるとしたら。



にこ「ねぇ、真姫ちゃん」

真姫「なに? にこちゃん?」

にこ「……なんでもない」

真姫「そ」



今の私たちを見て、きっと驚くんでしょうね。

待ち人来ず、なんて。
そんなことはなかったわよ?

あ、でも。
私が迎えに行ったわけだから、待ってはないけど。
ということは、あのおみくじの結果とは関係ない?

…………まぁ、いいわ。
希と、あとついでに神様に悪いけど。
占いとかおみくじとか不確定なものは今はどうだっていい。

今は――



―― ギュッ ――



真姫「あったかい、わね」

にこ「……そうね」



繋いだ手のあたたかさ。
それが、私たちの関係の証明。


私だけのアイドル、にこちゃん。
にこちゃんだけのファン、私。


それはきっとこれからも続いていく。






―――――― fin ――――――

以上で
『真姫「私だけの」』完結になります。

レスをくださった方
読んでくださった方
稚拙な文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。

前作というかアフター。
最後の方に今回の話のアフターが少しだけあります。
【ラブライブ】凛「10年後に行けるお香?」
【ラブライブ】凛「10年後に行けるお香?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416603707/)


以下過去作です
【ラブライブ】花陽「凛ちゃんと一夜の間違い?」
【ラブライブ】花陽「凛ちゃんと一夜の間違い?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1426733320/)
よろしければどうぞ。


次はシリアスじゃないものを書く予定です。
またお付き合いいただけると嬉しいです。
では、また。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年05月07日 (木) 17:26:50   ID: KfuN533K

良かった
荒らしに負けずこれからも期待してます

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