少年「あなたが塔の魔女?」(323)



魔女「いかにも……僕が悪名高い塔の魔女だよ」

 村の近くにある古びた塔。
 そこのてっぺんには怖い怖い魔女が住んでいるという噂でした。

少年「本当に居たんだ」

 魔女は居ました。
 絵本に出てくるような格好は、まさに魔女だと思います。
 魔女は夕闇のような濃い紫の瞳を細めて、僕を見定めているようでした。



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魔女「まさかそれを確かめるだけにわざわざ僕の家まできたのかい?」

 魔女の声は何というか、ひんやりと冷たいような、井戸の水のような透明な声で、ゾクッとします。

少年「魔女に会いに来たんだ」

魔女「なぜ僕に会いに? 食べられたりするかもしれないんだよ?」

 魔女が、安楽椅子から降りて近づいてきます。
 身長はお姉ちゃんよりも小さくて、僕より頭ひとつ違うくらい。
 僕は、魔女って案外小さいんだなぁと思いました。




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 魔女は、僕の肩に手をかけると小さな鼻をひくひくと動かしながら、全身の臭いを嗅いできました。
 腐ってないか、おいしいか、臭いで判断する人なんでしょうか?
 お母さんもたまにお肉の臭いを嗅いで、『まだイケるわ』なんて言ってたのを思い出しました。

少年「僕は腐ってないよ? 美味しいかは分かんないけど」

 魔女は答えません。まだ臭いを嗅いでます。

 もしかしたら、知らない間に僕は腐っちゃってたのかなぁ。

 腐ってたら、嫌だなぁ。











魔女「怖がらないね、このまま食べられちゃうかもしれないのに」

 魔女が僕の首筋に爪を立てて言いました。魔女の爪は魔女の瞳と同じような深い紫色に塗られてました。
 血が滲む所をみると、僕はまだ腐ってはいないようです。


少年「とんでもない。 死ぬのも痛いのも怖いよ」

 うん、死んじゃったら何にも残んないし、痛いと涙も出ちゃうしね。 それってとっても怖いよね。 怖いこと、なんだよね?

魔女「その割には冷静だよ、普通は君くらいの少年がこんな風にされたら泣き叫んで命乞いをしてもおかしくないんだけど」

少年「怖ければそうしなきゃいけない?」

 それってなんだか面倒だよ。 どうにもならない時はどうにもならないものでしょ?

これ最後のやつ

前後に < > 付けなきゃ効果が無いよ

>>5

ありがとうございます(´・ω・`)



魔女「……」

 魔女は両手で僕の頬を挟むと、じっと僕の瞳を覗き込んできました。
 なんだか僕の中身を観ようとしてるみたいだ。 嫌だなぁ。

 普段から見えない物は見ない方がいいよ、人間の中身なんて気持ち悪いだけだよ。 ねぇ、そうでしょう、お父さん。

魔女「別に君を特別どうこうする理由は僕にはないな。まず、僕は人を食べたりしないし」

少年「そうなの? 村のみんなは魔女のことを人喰いの魔物の生き残りだって言ってたけど」

 魔女は手を離すと、さっきまで座っていた安楽椅子に戻りました。
 どうやら僕のことを食べるつもりはないみたいだ。 良かった良かった。



魔女「魔物なんてもうこの世にはいないよ。いたら僕はこんな所で引き籠もっちゃいないさ」


少年「じゃあ、魔女は人間なの?」


 魔女は人間だったらなんでこんな所に居るんでしょうか?


魔女「人間ではないな、もちろん魔物でもないけど」

 良かった。 魔女が人間じゃなくて少しうれしくなりました。


少年「じゃあ、魔女はなんなの?」

魔女「僕は僕さ」


少年「よくわかんない」

魔女「わかりやすいようには言ってないからね」

 ひとつわかった事があります。 魔女は意地悪が好きみたいです。



少年「いつからいるの?」

 魔女はもう僕に興味がないみたいで、安楽椅子をゆっくりと揺らしながらなにやら難しそうな本を読んでいます。


魔女「昔から。 いつまで居る気なの?」

 昔から居る割にはそんな年寄りには見えないんだけどなぁ。


少年「昔って? 魔女は何歳なの?」

魔女「……ハァ」


 魔女は小さくため息をついて、本を閉じました。
 なんだか不機嫌そうに見えます。 何でだろう?

魔女「僕は質問には答えたよ? 君は僕の質問には答えずに、質問を続けるつもりなのかな?」

 魔女が不機嫌な理由がわかって良かった。 うん、質問を質問で返すのは良くないって、お兄ちゃんも言ってたし。




少年「ごめんなさい。 質問って?」

魔女「招かれたわけでもないのに勝手に上がり込んだ僕の家に君はいつまで居座って居るつもりなのかって聞いたんだけど」

 確かにそうだった。 僕まさか帰れるなんて思ってなかったから。

少年「居ていいまで。 帰った方がいいよね、やっぱり」


魔女「変わり者だね。 怖い魔女の隠れ家に長居したいなんて」


少年「変わり者だなんて言われたことないよ」

 あんまり嬉しくない事を言われちゃったな。


魔女「……」


 魔女は僕の方を見て何か考えているみたいだ。
 僕も魔女をじっくりみてみた。 やっぱり僕より少し年上くらいにしか見えないんだけどなぁ。



魔女「帰りたければ帰れば良いし、帰りたくなければ帰らなくても良いし。 僕に干渉しない限りは好きにすればいいよ」

 魔女はそう言うとそっぽを向いて、奥の部屋に消えてしまいました。
 でも、もう少しお喋りしたかったので少し残念です。

少年「ねぇ、魔女。 僕まだ質問に全部答えてもらってないよ」

 干渉しないなら居てもいいと言われたけど、それじゃあここに来た意味がないので、話しかけてみます。

 追い出されたら、お家に帰ってまた明日来ればいいか。


魔女「……なに?」


 良かった。 一応話はしてくれるみたいだ。


少年「魔女が何歳なのか答えてもらってないよ?」


魔女「君のお祖父さんのお祖父さんくらいだと思う」


 冗談かな? でも魔女って嘘つくのかな?


ご飯作るので一時中断します。

今日中に再開します。

読みづらい、質問、等々あれば言って下さい。

ご飯食べました。
とりあえず書き溜めてる分を貼ってしまおうと思います。

晩御飯はミートソースを作りました。



少年「そんなに昔から居たの? その間ずっとここに?」


魔女「……。 僕に干渉しないならっていったよね」


少年「干渉しないならいてもいいって言われたよ?」

魔女「出口はわかるよね。 暗くなったから松明くらいなら貸してあげる」


 もう帰らなきゃ駄目なんだ。

 すこし残念だな。


少年「うん、大丈夫。 お邪魔しました」


 魔女さんはなんだか悲しそうな、怒ってるような、不思議な顔をしていました。

 『女の子には笑顔で居てもらえるような男になりなさい』て言うお姉ちゃんの言葉を実行するのは難しいことなんだなぁ。




「ただいま」


「今日は塔の魔女に会いに行ってみたよ」


「大丈夫だよ。危ないことなんてしてないから」


「ごめんなさい、心配かけて」

「今日の夜は少し冷えるね」


「一緒に寝る? お姉ちゃんの部屋寒いから嫌だなぁ」


「わがままっていうの、これ?」

「わがままなのはお姉ちゃんだよね、お母さん」


少年「ん、朝になった」

少年「じゃあいってきます」



 魔女はまだ僕のこと怒ってるかなぁ?

 塔の方に歩いて行くとなんだか不安になってきました。

 人に嫌われるのは悲しいことだと思います。

青年「おぉ、少年じゃないか。 朝早くからどこに行くんだ?」

 塔のある森で青年さんと会いました。 手に持っているのは綺麗な、それはそれは綺麗な花です。

少年「ちょっとね。 青年さんはお花を摘みに?」


青年「あぁ、狩りのついでにな。 獲物が穫れなかったからせめて嫁に花でも渡してご機嫌とりしなきゃならん」

 確かに綺麗な花を貰えたら嬉しいかもと思いました。



少年「僕もそのお花、摘んでいこうかな」

青年「母ちゃんか、姉ちゃんにでもあげるのかい? 良い心がけだな」


 やっぱりお花を渡すのは正解のようです。

少年「いや、お母さんでもお姉ちゃんでもないよ」


青年「ん? 違うのか……」


少年「?」

 青年さんは少し嬉しそうな、それで居て悲しそうな顔で黙ってしまいました。



青年「これはやる、お前が家族以外の人間に花を渡すようになるのは嬉しいことだからな」


 青年さんは、ゴツゴツとした手のひらで僕の頭を撫でました。

 人に頭を撫でられるのは久しぶりです。 悪い気はしません。


少年「ありがとう」

青年「んじゃな。 なんかあったらいつでも相談にのるからな」

 青年さんはにっこり笑って去っていきました。

 なんだか胸のあたりがムズムズします。

 少し、不愉快な感じです。

 なんとなく、昨日の魔女さんの気持ちが分かったような、そんな気がしました。




魔女「君、また来たの?」


 魔女は安楽椅子に腰掛けたまま不愉快そうに目線だけをこちらに向けて言いました。


 魔女にこういう態度をとられると、少しだけ悲しい気持ちになります。

少年「昨日はごめんなさい」

 悪いと思ったらすぐに謝らなきゃ駄目なんです。 相手が女の人だったら尚更。 お兄ちゃんのよく言ってた言葉です。
 でも、謝ってばっかりだったお兄ちゃんをみると、謝るような事ばかりしなきゃいいのに。 とも思います。

魔女「別に……、僕は謝罪を求めてるわけではないよ」

少年「……」

 魔女は許してくれたわけではなさそうです。

 やっぱりこの人に嫌われるのはなんだか寂しいような悲しいような気持ちになります。



魔女「……ハァ」

魔女「だからそんな顔で僕を見ないでくれないかな? 原因のない罪悪感に苛まれそうだから」


 魔女がため息をついて言いました。 許してくれたみたいです。
 お腹から胸の辺りがどことなくポカポカします。

少年「ありがとう」

 自然と頬が緩みました。

魔女「綺麗な花を持って来てくれた男性を邪険にするのは淑女としてはいただけない行動だしね」

 青年さんがくれた花も喜んでくれたみたいです。

少年「えへへ」


魔女「~~~~」

 魔女が何か聞き取れないような言葉を口にした後、指を鳴らしました。



少年「わぁっ」

 すると僕の手から花が浮いて、魔女の方にふわふわと飛んでいきます。

魔女「~~~~」

 もう一度同じようなことをすると、今度は部屋の片隅にあった花瓶がふわふわと魔女の前に飛んでいきました。

魔女「綺麗なお花のお礼に、僕の少しだけ魔法を見せてあげよう」
 ふわふわと浮いている花瓶を手に取ると、魔女はまた小さく何かを喋りました。 なんだか鼻歌のようにも聞こえます。
 すると、魔女の前に林檎くらいの大きさの水の玉がどこからともなくできました。

少年「すごいなぁ……、魔法みたいだ」

 水の玉は毛糸の玉が解けるように幾つもの筋になって花瓶の中に入っていきます。

魔女「魔法みたい、じゃなくて、魔法だよ? 正真正銘の魔女だからできる」

少年「やっぱり魔女はすごいなぁ」

 驚いている内に、水が注がれた花瓶には花が生けられて、窓のそばに飾られました。

 一歩も動かずにこんな事ができるなんて羨ましいなぁ。


とりあえず書き溜めてる分は終了です。

なにかございましたら、仰って下されば幸いです。



少年「やっぱり魔女は魔法が使えるんだね」


魔女「魔法を使えるから魔女なんだ。 魔法を使えないのに魔女とは呼ばれないさ」

 魔女は少しだけ上機嫌になったようで、安心しました。 


少年「ねぇ、魔女。 魔女に聞きたいことが沢山あるんだ。 でも魔女は干渉されたくないんだよね」

魔女「うん、僕は干渉されるのは好きじゃないな。 だからこうしてこの塔に住んでいる」



少年「聞いちゃ駄目なこと、聞いても良いこと、して良いこと、しちゃ駄目なこと、教えてほしいな」

 魔女は、窓辺に飾られた花瓶の花を見つめて考え出しました。


 何かを難しそうに考えている姿がよく似合うなぁ、なんて思っている内に魔女が答えてくれました。

 もう少しだけ、考え事をしている魔女を見ていたかった気もします。

魔女「まず、僕の生い立ちに関する事は聞かないでほしい。 次に、僕の趣味をとやかく言わない事。 後は、僕の家の物を勝手に触らない事。 この三つを守ってくれるなら、君がどれだけここにいようと僕はかまわない」


 魔女は、安楽椅子に腰掛けたままそう言うと、昨日とは違う本を読み始めました。

 なんにせよ、これさえ守れば居ても良いと言われたことが嬉しいと思います。



少年「魔女、質問があるんだけど」

魔女「なんだい?」

 魔女はこっちを見ずに返事をします。

 少し、寂しいです。

少年「何で自分の事を僕って呼ぶの? 魔女は女の人だよね」


魔女「僕って言うのは確かに男性の一人称だね」

少年「うん」

魔女「だけど、僕が僕って言うのには訳があるんだ」


 魔女は少しだけ唇を歪めたような笑い方をしています。
 にっこりと笑った方が可愛いのになぁ。 なんて思ったりします。


 魔女は安楽椅子から立ち上がり、こちらに歩いてきます。


魔女「僕はね、従僕なんだ。 敬虔なる魔術と知的探求心の従僕さ。 大気中の至る所に居る精霊たちの、夕闇に潜む禍々しき者達の、彼岸と此岸を行き来する亡霊達の、魔術という禁忌をそれを知り得る為に人である事を辞めたのだからね」


 魔女は薄い唇を更に歪めて話してくれました。
 そんな魔女を見てうなじの辺りがぞわぞわとします。
 
少年「よくわからないや」

 でも、言っている事はいまいちわかりませんでした。
 きっと僕が馬鹿だからなんでしょう。

 少し、悲しくなりました。






 朝早くから魔女の家に来てから数刻が経ちました。

 少しお腹が減ってきたことで、もうお昼なんだとわかりました。

少年「ねぇ魔女、君はおなか空かない?」

魔女「……うーん、食事か。 そういえば数年くらい口にしてないかな」

 驚きの事実が発覚しました。
 魔女は食事をしなくても大丈夫なようです。


少年「食べなくても平気なの?」
魔女「平気と言えば平気さ。 食事はうーん、そうだな。 魔女にとってタバコや珈琲と同じ嗜好品のようなものと考えてくれて良い」

 魔女はそう言うと、やっぱり安楽椅子に身体を預けて本を読んでいます。

 魔女は本を読んでなくてはいけないものなのでしょうか?


少年「食べれない訳じゃないんだね」

魔女「まぁ、そうなるね」


 魔女は心底どうでも良い、とでも言うような態度で返事をします。

 きっと僕にあまり興味が無いんだと思います。

 僕が魔女の立場だったらやっぱり、僕には興味が湧かないだろうなと思うとすんなりと納得できました。

魔女「昨日も思ったんだが」

 魔女は顔の前にふわふわと本を浮かべて僕の方に視線を向けました。

魔女「君もあまり満足に食事をとっているようには見えないんだが?」

 魔女はなんでもお見通しのようです。
 確かに最近はしっかりとした食事をとっていません。

 とりたいとは思っています。 でも、とっていません。



魔女「君は何故食事をとらないのかは分からないけど」

 魔女の瞳は綺麗です。 なんだか全部お見通しにされているような気がするのに、あまり嫌な感じはしないんです。 不思議です。

魔女「このままだと色々とまずいんじゃないかな? 既に身体のあちこちに影響は出てると思うんだけど」

 その通りです。最近の僕の身体は言うことをきいてくれない事がよくあります。

少年「うん、でも大丈夫なんじゃないかな」

 正直大丈夫な要素は殆どないと思います。難しい言い方をすると皆無って奴です。


魔女「君が大丈夫だと言うのならばこの話はここで止めよう、何事も無理強いは好きじゃない」


少年「ありがとう、魔女は優しいんだ」


魔女「優しいのなら君の口に無理矢理でも食物を詰め込むよ」


 違う、そうしないから魔女は優しいんだと思うんだ。

 青年さんみたいに無理矢理にでも食事させようとしてこなくて良かった。



 数刻の間、無言が続きます。 魔女が本の頁を捲る音だけが時折、部屋に響きます。

 とても、居心地が良いです。

魔女「なぁ、君。 君を見ていたらなんだか久々に空腹という感覚が僕にも蘇ったよ」


 珍しく、魔女の方から話しかけてきました。

少年「そっか、君でもお腹は空くんだね」


魔女「だが、生憎のところ我が家には食物を貯蔵するような習慣もなければ、それをする為の場所もない」


少年「それは大変だね、魔法でなんとかできないの?」


魔女「……」

 魔女が今までで一番真面目な顔をしました。

魔女「いいかい、良く聞いてくれ少年よ。 魔法は万能ではないんだ。 事象の原理を深く理解した上で、それを成す為に力を借りるのが魔法なんだ」


 また魔女は難しい話を始めました。

魔女「つまり、だ」

魔女「……料理を作れない奴には料理を作り出すような魔法は出来ないんだ」

 少しばつの悪そうな顔をして頬をかく魔女。 可愛らしい女の子みたいです。


少年「つまり、魔女は料理ができないんだ」


魔女「真実を言うだけで時折言葉というのは酷く心を傷つけるものだ」

 魔女は節目がちに僕を睨んで、唇を尖らせて呟きました。


 魔女にもできない事ってあるんだと思うと親しみを感じます。


今日はここまでにしようと思います。

明日も休日なので更新できるようにしたいです。

見てくれてる人が居れば嬉しいなぁ。

お休みなさい。

塔の魔女と聞いてウィッチクラフトワークス思い出した

星みたいな文体だな


おつ

>>34

その作品はわかりません(´・ω・`)

>>35

確かに好きな作家ですから、影響は受けていると思います。

なるべく地の文が邪魔にならないようにこのような形にさせていただきました。



魔女「君は料理というものをしたことがあるかい?」


少年「僕は料理をしたことはないや」


魔女「そうか、残念だ」


少年「うん、ごめんね」


 魔女はなんだか落ち着かないみたいです。 さっきからこんな会話ばかりが続きます。

魔女「僕は何か食べたいんだけど」

少年「僕は何も持ってないよ?」

魔女「だろうね」


 魔女が話しかけてくれるのはうれしいんだけど、なんだかさっきより居心地が悪いです。


魔女「ねぇ、少年。 お使いを頼まれてくれないかな?」


 魔女にお使いを頼まれるなんて思っても居ませんでした。



 塔から村までは、大した距離ではありません。 少し鼻歌を歌って歩いていればついてしまう距離です。

 熊や狼も、森には居ますが会ったことが無いのであまり気にしません。 むしろ、一度会ってみたいような気もします。

青年「おぉ、少年じゃないか。 何してるんだ?」

 村の入り口で青年さんに会いました。 頬には手のひらの痕があります。

少年「お使いだよ。 青年さんは?」

青年「ん、あぁ俺もそんな所だ

 やっぱり僕はこの人の事が好きじゃないようです。

 胸の辺りに嫌な感じがもやもやと広がりますもん。



 村にはパン屋さんがありました、小さな小さなパン屋さんです。
 焼き上がりの時間になると美味しそうな匂いが村の間を風に乗って流れます。 

少年「パンを下さい」

 お店にはパン屋の娘さんがいて、焼きたてのパンを並べていました。 どれもサクサク、ふわふわの美味しそうなパンです。

娘「っ少年!?」

 娘さんは驚いたような顔で僕を見ます。 どうやら僕がパンを買いにくるとは思っていなかったようです。

娘「その……大丈夫?」

 なにやら心配したような顔でした。 

 僕は人にこんな顔をさせることが多いです。 駄目な奴なんですね。 きっと。


少年「ん、大丈夫だよ」

 僕は魔女から預かっていた金貨を差し出しました。 これ一枚で店にあるパンを全て買ってもお釣りがきます。

娘「……どうしたの、これ?」

 魔女は正直に言っては駄目といって金貨を僕に渡しました。 なので嘘をつく事にします。

 嘘は嫌いなんだけどなぁ。

少年「森で拾ったんだ、これで足りる?」

 魔女いわく、金貨の価値を知らないふりをしろ、だそうです。 そうすれば買い物で余計ないざこざが減るらしいです。

 人間ってそんなもの、らしいです。

娘「えぇ、足りるわ。 どのくらい欲しいの?」

 娘さんは少し動揺したような、上擦った声で言いました。

少年「お釣りが無いように欲しいな」

娘「………」

 娘さんは悩んでいるようでした。 この人は悩んでいる姿が様になりません。 魔女なら凄く頭が良さそうに見えるのに。




青年「これくらいじゃないかな?」

 後ろから声がしました。

少年「あぁ、青年さん、パンを買いに来たの?」

青年「あぁ、そんな所さ」

 青年さんはお店の籠に大きなパンを何個か入れると、にっこり笑って言いました。

青年「少しおまけしてコレくらいだな、なぁ娘?」

 青年さんはちらりと娘さんを見て頷きました。

娘「え、えぇ、そうね」

 娘は頷くと、籠にもう一つパンを入れてくれました。

青年「良かったな、少年。 娘にありがとうしなきゃな」

 青年さんはにっこりと笑っています。

少年「うん、ありがとう娘さん」
 僕もにっこり笑って応えます。 そうした方がいいから、そうします。

 人間ってそんなもの、です。


少年「じゃあね」


青年「あぁ、じゃあな」


娘「ま、またね」


みんな顔がにっこりしてました。 まるで仮面をつけてるみたいです。

 みんな笑顔のままならそれも素敵なことかもしれないですね。


 僕が、パン屋さんを離れると、青年さんは娘さんの腰に手を回してお店の中に消えていきました。
 そういう関係、と大人の人達は軽蔑したような目で言っていたのを思い出しました。 みんな知っている、村の秘密です。

 知っているのに秘密だなんて、不思議だと思います。


 ただ、青年さんが周りからあまり好かれてないと思うと、嬉しいような、悲しいような気持ちになります。

一旦休憩

そのうち戻ります

戻りました。

なんだかほかの作品に比べて魔女が可愛くないですね(´・ω・`)





 魔女の塔に戻りました。
 長い長い石造りの階段をぐるぐる回って、頂上の魔女の部屋を目指します。

 なんだか、ぐるぐると回っている内に違う世界に迷い込んでいくような不思議な感じがします。

 僕は、この感覚が好きです。


 だから魔女も、ここに住んでいるのかな? それとも魔女が住んでいるからこうなのかな?


 ひんやりと沈んだ空気の中、僕はそんな事を考えてました。


少年「魔女、買ってきたよ」


魔女「あぁ、お使いご苦労」

 やっぱり魔女は安楽椅子に腰掛けて本を読んでいました。

 花瓶の置いてある窓から入った風が、魔女の蜂蜜のような濃い金色の癖っ毛を微かに揺らしてます。

 一枚の絵のように、自然で美しいと思います。


少年「ねぇ、魔女。 なぜ金貨の価値を知らないふりしなければいけなかったの? あれは大金だよね」

 魔女は受け取ったパンを手に取り、しげしげと眺めながら応えてくれました。

魔女「君は、わかってるんじゃないのかい?」


 魔女は小さな口を精一杯広げてパンを頬張ります。

 なんだか栗鼠みたいです。


少年「なんとなくしか分かんないや。 それに僕は魔女じゃないから、魔女が考えている事なんてわかんないよ」


 魔女の考えと僕の考えが同じだったらそれは素敵なことだけど。


魔女「人間は自分の物にならないものよりも、確実に手には入るものに目がくらむ奴が大抵だからね」

 魔女は、あっという間にパンをひとつ平らげると、僕にパンをひとつ飛ばしました。


魔女「もし、仮に君が金貨の価値を知った上で、このパンとの正当な取引をしようとすれば、大金を持っている理由に興味が湧くだろう。 妬みに近い感情で」


 僕は、渡されたパンを掴んだまま魔女の話を聴きました。

 薄く笑った魔女の顔は感情を表している笑顔なので僕は好きです。

 なぜ人は、感情を隠すために笑顔を作るんでしょうね? 不思議ですよね。


魔女「でも、金貨が自分の手に入るかも知れないと考えたら、その金貨の出所なんて途端に興味がなくなる。 僅かな罪悪感と、大きな満足感に比べれば、ね」


 難しい話でしたが、なんとなく僕と同じような考えだと言うのは分かりました。

少年「人間って、そんなものだよね」

魔女「うん、人間ってそんなものさ」

 魔女の笑い方はなんだか悲しそうでした。

 そう見えたのは、沈む夕日が魔女を照らしてたからなんでしょうか?

 僕は、魔女じゃないから分かりませんでした。

>>44
まぁいろんなタイプが居るさ

>>49

ありがとうございます(`・ω・´)

>>50
よくあるドジっ子魔女だとかのステレオタイプばかりじゃ面白くないからね

>>51

ありがとうございます。がんばります。


魔女「僕はもうおなか一杯になったんだけど、君は食べないのかい?」

 魔女はまた本を見てます。
 今日一日魔女が安楽椅子から降りたのをみていません。

少年「食べようかな」


魔女「……そう」


 魔女は僕がパンを食べるかどうか、あまり興味がないようです。

 すっかり冷えてしまいましたが、やはりパンはいい匂いです。

 僕はパンを噛みしめます。

少年「魔女、このパンどんな味がした?」


魔女「ふんわりとバターの香りが鼻腔を抜けていく、久々に食べた食物がコレで良かったと思える程度にはおいしいパンだと僕は思ったけど?」

 そうか、このパンは美味しいんだ。


魔女「君的にはどうだったのかな?」


少年「魔女と同じだと思う」

 嘘は嫌いなんだけどなぁ。


魔女「……そう」

 魔女は僕の方に視線を向けるとなんだか残念そうな顔でため息をつきました。


 どうやら、魔女の期待から外れてしまったようです。 残念です。

 手に残ったパンを口に運ぶ作業に戻ります。

 胃に入れた先からこみ上げてくる吐き気との戦いには骨が折れますね。


魔女「飲み物……必要かい?」


少年「できれば」


 魔女は安楽椅子から降りて、奥の部屋から硝子の小瓶を持ってきました。

 彼女の瞳よりも濃い紫色の液体が満たされている小瓶は、凄く不味そうです。


魔女「生憎だけど、僕の家には飲み物といえばこれくらいしかないんだ」


少年「飲まなきゃ、駄目なの?」

魔女「飲まなくても良いけど、僕はわざわざ読書を中断してまで取りに行ってあげたんだよ?」

 魔女は諭すように言いました。 少しずるいと思います。



少年「わかった。 わざわざありがとう」

 冷たくも温かくもない、苦くて酸っぱくて甘くてしょっぱい液体が喉を通っていきます。


魔女「どんな味がした?」


少年「苦くて酸っぱくて甘くてしょっぱい味」


魔女「そう、良かったわね」


 魔女はなんだかほっとしたような顔をして、安楽椅子に戻ります。

 あまりに変な味だったせいか、いつの間にか吐き気は収まっていました。



魔女「さて、夜も更けてきたようだ」

 魔女は読んでいた本をパタンと閉じて言いました。

少年「うん」


魔女「今日はいつまで居るのかな?」

 魔女の瞳がいつもより小さく見えます。

少年「居ても良いまで」


 この部屋はランプもないのに随分と明るいです。 部屋の壁がぼんやりと光っているからなんですが、これも魔女の魔法なんでしょうか?



魔女「……」

 魔女の瞼が徐々に下がっています。 眠いんでしょうね。

魔女「居ても良いまでとは言ったが、ここには僕の分の寝具しかないんだけど」


少年「魔女は眠らないんじゃないの?」


魔女「魔女だって眠るさ」


少年「なら帰った方が良さそうだね」


 居心地が良い分、帰る時は後ろ髪を引かれるような気分になります。 でも、魔女の睡眠の邪魔は良くないですね。 『寝不足は美容の天敵よ』ってお姉ちゃんも、言ってたし。

~リビング~

男「お母さんは?」

父「ああ、長旅の疲れが出たんだろう。先に休んでいるよ」

男「そっか」

父「......それで男の意見を聞かせてもらえるかな」

男「意見って......もう決まったことなんだろ」

父「まあそうなんだが......」

男「......従うよ、親父に......」

父「そうか、すまない」



 塔を出て森を歩きます。 耳を澄ませば、遠くにある木々の葉が風に擦れる音までも聞こえてきそうな程、静かな、透明な夜です。

 どこからか狼達の遠吠えが聞こえてきました。


 不純物のない空気は、思わず深呼吸をしたくなります。


少年「?」

 しばらく歩いている内に、青年を見かけました。

 スコップを片手に怖い顔で森の奥へ消えていきます。

 なにやら大きな荷物を背負っていました。
 ちょうど娘さんくらいの大きさだな、なんて思ってしまいました。

 そんな訳ないですよね?

仕事行ってきます(`・ω・´)

戻りました。再開します(`・ω・´)



「ただいま」

「うん、魔女は悪い人じゃないよ」

「はは、お姉ちゃんは心配しすぎだよ」

「魔女の正体?」


「魔女は魔女じゃないかなぁ」


「今日は父さんがいないね? まだ帰らないんだ」


「大丈夫だよ、父さんなら」


「今日もお姉ちゃんと一緒に寝るの?」

「良いけど、お姉ちゃんチクチクしてくるから痛いんだよなぁ」


「うん、お休みなさい」



少年「ん、今日は雨か……」



 今日は朝から雨でした。 雨は素敵だと思います。 昔、お母さんが『雨は、泣きたくても泣けない人の代わりにお空が泣いてくれているの』と言っていました。

 でもそれは嘘だと思います。

 だって、それならば、毎日雨が降っていなきゃおかしいでしょうから。

 それに、自分の悲しみなのに、どこかの誰かが何の断りも無しに奪って行くなんて酷い話だと思いませんか?

 喜びや悲しみは、感じた人だけが表現できる大切な物だと僕は思うんです。

 僕の悲しみは僕じゃなきゃ悲しめませんものね。


少年「押しつけがましいから雨は嫌いなんだ」



 魔女の塔へ行く途中、村のみんなが慌てていました。 口々に娘さんの名前を呼んでいます。

青年「少年!? 娘を見なかったか?」

 青年さんが慌てた様子で僕に話しかけてきました。 周りの村人のみんなはそれを遠くから眺めてます。

 どうやら、娘さんが居なくなったらしいです。 青年さんは、周りに聞こえるような大きな声で、僕が昨日の夜何をしていたか聞いてきました。

少年「昨日の夜は森を散歩していたよ。 その後は家に帰って寝たんだ」


青年「夜の森に一人で散歩? 何か目的でもあったのかい?」


少年「うーん、特に理由は無いけど」

青年「理由も無く夜の森を? おかしな事もあるもんだ。 野獣が彷徨くような夜の森にふらふらと行くなんて!!」

 青年さんは一層大きな声で言いました。 まるで僕の話している内容を、周りのみんなに聞かせているみたいです。

 みんなに聞かせるような面白い事は話して無いつもりなんですけど。


少年「そうは言っても……」

 魔女の事はなんだか話したくありませんでした。 僕の中だけの出来事で良いからです。 青年さんに話せば、周りにも聞こえてしまうでしょうし。

青年「そうか。 もし娘を見かけたら教えてくれ。 彼女のパンは村の大切な財産だから」

 青年さんはそれだけ言うと、村のみんなのところに戻っていきました。 村のみんなは、僕の方を見ながら小さな声で何か話し合っているようで、少しだけ内容が気になります。




 内緒話なんて、良くないです。


 なんとなく、昨日の夜に青年さんを森で見かけた事は言わないでおきました。

 なんとなく、言わない方がいい気がしたからです。

眠気が頂点に達したので今日は多分更新終了です。

質問等あれば起き次第応えます。

おやすみなさい。

戻りました。

再開します。



少年「やぁ魔女。 今日も本を読んでいるんだね」

 今日も魔女は安楽椅子にその小さな身体を預けて読書をしています。

魔女「あぁ、僕にとっては読書は呼吸にも等しいからね」

 魔女は、今日は僕の方に視線すら向けません。 よほど面白い本なのでしょうか?

魔女「今日は……ないの?」

 魔女は本からは視線をずらさずにポツリと呟きました。

少年「なにが?」

魔女「いや、何でもない」

 魔女の視線が一瞬窓辺の方へ向きました。

 窓辺では綺麗に飾られた昨日の花が、風に揺れています。 その隣にはなにも飾られていない花瓶が一つ、置かれていました。


少年「もしかして、花が欲しかった?」

魔女「いや、そういう訳じゃないんだけどね。 ただ……」


少年「?」

魔女「素敵な贈り物だったからつい、期待してしまったんだ。 恥ずかしい話だけど、ね」

 魔女の声は、普段と変わりません。 澱まず、通り抜けていく、見た目の割に落ち着いた低い声。
 ただ、その夕闇の色をした紫色の瞳は少し残念そうに見えました。

今日は少ないですけどこの辺で失礼します。


毎日更新目指してがんばります。

再開します。


 魔女が花を好きだとは思いませんでした。 知っていたなら一抱えでも、二抱えでも花を持ってきたというのに。


少年「ごめんね、魔女が花を欲しかった事に気がつけなくて」


魔女「よしてよ、僕だって柄じゃないことくらい自覚している。 それに、声にも出してもいない思いを他人に悟られる程若くはないよ」

 魔女が笑いました。 ほくそ笑むように唇だけを歪めるいつもの笑い方ではなく、しっかりとした笑みです。

 それは自嘲気味な、寂しい笑顔でした。 でも、まるで神様が魔女の為に作った表情だと思ってしまう程魔女には似合っていてました。



少年「魔女の笑顔はどうしてそんなに悲しいの?」


 魔女は夕闇のような深い紫の瞳を、満月のように丸くして僕の方を見ました。 驚いているようです。

 そして、安楽椅子から降りると僕の方へ歩いてきました。

 その表情は、怒っているような、喜んでいるような、そんな表情です。


魔女「まさかそんな事を言われるとは思わなかったよ」


少年「怒らせちゃったかな?」


魔女「あぁ、怒っている。 あって数日の年端もいかぬ少年に分かったような口を叩かれたんだ。 魔女のプライドもあったもんじゃない」


少年「……ごめん」


魔女「ただ、それを言われたのは君が初めてじゃないんだ。 だから、その言葉を君から言われて、なんというか複雑な気持ちでもある」


 魔女はまた、笑いました。

 泣き出してないのが不思議なくらい悲しい、寂しい笑みでした。

こういうの好き
支援

>>79

ありがとうございます。

そういってもらえると凄く嬉しいです(`・ω・´)


 魔女は、それだけ言うと安楽椅子に戻りまた本を読み始めました。 

 僕も、魔女も、口を開きません。 時間だけが過ぎていきます。

 日が暮れていきます。 茜色の空が紫色に染まっていきます。 

少年「今日はもう帰るよ」

 魔女は明日も来て良いと思ってくれているでしょうか?


魔女「あぁ」


 魔女は本から視線を外さないで答えました。


少年「じゃあね。 それと魔女……」

魔女「なに?」


 魔女はまだ僕を見てくれません。

少年「明日、来ても良いかな?」


魔女「僕と君ではあまり有意義な時間は過ごせない。 今日わかったでしょう? 僕は本を読んでいるだけだし」

 魔女はため息混じりに応えました。 

 きっと今、僕は情けない顔になっています。
 魔女にやんわりと拒絶されたのが胸にどうしようもない鈍痛を生み出しましたから。

少年「え……あ」


 なんとか言葉を返そうと頑張りますが、出来損ないの心は言葉を考えつきませんし、役立たずな舌は、気の利いた言葉を話したりはせず、漏れ出した空気に適当に声をつけただけです。


 いっそ泣き出したい気持ちです。 こんな気持ちは久しぶりでした。


今日は多分ここまでです。

おやすみ!続きが気になる…段々世界に引き込まれていくね!面白い!


魔女「……全く」

 魔女は呆れたように呟きました。

魔女「明日は、花を持ってきてくれると嬉しい」


少年「いいの?」

 聞き間違えや、幻聴でなければ魔女は明日も来て良いと言ってくれてます。


魔女「だから、野良猫や野良犬の類を連想させられるその目を止めてくれ」

 魔女は優しいですね。 その優しさにつけこんだみたいで情けないです。 でも、すごく嬉しいです。


 自分でも、なぜ魔女と仲良くしたいのかは分かりません。 なんなんでしょうね。 こんな気持ちは初めてです。



 魔女の塔から出ました。

 明日、朝一番で魔女に花を渡したいので、摘んで帰ろうと思います。

 夜の森は静かで暗くて、でも何かが常に居るようで。

 怖くはないけど、今日の森は居心地は良いとは思えませんでした。


少年「あの花はどこで摘んだ物何だろう?」

 青年さんに聞いておけば良かったです。 でも、青年さんとはあまり仲良くしたいとは思えません。

 村のみんなは、彼を多少女癖は悪いが腕の良い狩人で頼りになる人だと言っています。

 みんなが言うならそうなのでしょう。

 でも、僕は青年さんの目が好きではないんです。 何故なのかはわかりませんが。


少年「そういえば、青年さんが狩りをする時の為の小屋があったんだ」

 どうしてひとりなのに喋ってしまうんでしょうか?

 昔、僕がお皿を割ったのを隠していたときにお母さんが『人は何かを誤魔化すとき、喋らずにはいられないものなのよ』なんて言って僕の嘘を見破りました。

 今の僕もきっと何かを誤魔化そうとしてるんでしょうね。 

 自分では分かりませんけど。

 小屋は村からも塔からも離れた森のはずれにありました。

 木を適当合わせただけの簡素な小屋です。

 青年さんは居ないみたいです。


少年「んーこの辺にあればいいけど」

 近くの茂みを探しますが、花は見あたりません。

 それになんだかこの辺りはいやな感じがします。


 そんな気持ちで辺りを探している内に夜も更けていきました。

 いつの間にか、欠けた月が真上近くにまで来てます。

 不完全で、色も黄ばんで濁っているそれは見ているだけで不快になりました。 


 今日はもう切り上げて、明日の朝早くに青年さんに尋ねようかな、とも思いましたが、あまり気が進みません。

 青年さんは、きっと教えてくれるだけじゃなく、色々聞いてくるでしょうから。

 それに、魔女が欲しいって言ってくれた花だから自分で探したいですしね。



少年「次は、そこを探してみよ……?」


 茂みの奥から、お腹の中の物が押し上げられるような酷い臭いがしました。

 血肉の腐ったような嫌な臭いです。 それは、死の臭いでした。


 茂みを押し広げて、臭いの元を確かめようか迷います。

 見ない方が良いと思うのですが、足は臭いのする方へ動くのを止めません。

 嫌な予感はします。 見たい物はそこには無いと断言できます。
 でも、そこにある物が、自分の想像している物じゃ無いことを確認して安心したいから、僕は見ることにしました。


 見なければ良かった――。

 と思うの事になる事は分かっていたんですけど。


 茂みを掻き分けると、そこにはありました。

 真新しい血の痕と掘り返された形跡のある地面です。

 きっとこの地面の下には僕の予想通りの物が埋まっているんだと思います。


 埋めた人は、きっとここには人が来ないと知っているんでしょうね。 じゃなければこんな雑なやり方にしないと思います。

 埋めた人も埋まっている人も、知っている人です。

 理由も何となくわかります。


 人間って、そんなものです。


 あの人が埋まっている近くに、綺麗な花はありました。

 今の内に摘んでいこうか迷います。 きっとこの花を持っていたら、僕がこの場所に来たことに気が付くでしょうから。

 そしたら、僕もこの場所で木の栄養にされちゃうと思います。


 それは、嫌です。


少年「だからあの人の事、嫌いだったんだ」


 あの人が埋めちゃうから、花を摘むだけでも悩まなくちゃいけないなんて迷惑な話です。

 どうせなら別の所に埋めてほしかったと思いました。


 結局、バレなければ大丈夫だと自分に言い聞かせて、花は摘むことにしました。

>>84

ありがとうございます。

そういって頂けると励みになります。

今日の更新は以上になります。

再開します。




「ただいま」


「お母さん、女の人を喜ばせるのって難しいんだね」


「違うよ、そういうのじゃないよ」

「だから違うって、お姉ちゃんまでなに言ってるのさ」


「そういえば、お父さんはまだ帰らないの?」


「んー、大丈夫だとは思うけどちょっと心配だね」





少年「ん、朝か」




 まだ、朝露も乾いていない明け方に家をでました。

 山に囲まれたこの村はこの時間、霧に静かに包まれます。 

 辺りはぼんやりと白く、まるでミルクの海に沈んでいるようで、 夢の中にいるような気分になります。



少年「まだ魔女は寝てたりして」

 寝起きの魔女は想像できないので、見てみたいと思いましたがきっと怒らせてしまうでしょうね。

 魔女を怒らせたくはありませんから、どこかで時間を潰さなくてはいけないです。 


 霧の中でそんな事を考えていると、どこかから見られているような感じがしました。

 周りを見渡すと、近くの民家の窓が開いています。

 でも、人は居ませんでした。



少年「気のせいか」


 どことなく、嫌な気分です。

 こんな時は、早く魔女の塔まで行ってしまいましょう。

 石段に座りながら魔女が起きるまで待っていた方が楽しいでしょうしね。



















村人3「気持ち悪い餓鬼だ……やっぱりアイツが……」

怖い事になる?

(;・ω・)?

>>96

1と2なんて存在しないのになぜか村人3が登場してしまいました(´・ω・`)。


正しくは、‘村人3’ではなく‘村人’です。



今日はここまでとなります。


明日も更新できるようにがんばります。

>>97

プロットの段階でホラー的な要素はありませんが、どのような展開になるかはお答えできかねます。


ただ、読んでくださっている方が不快な思いをしないような話にはしたいと思います。


個人的には魔女をもう少し可愛い存在にしてあげたいです(`・ω・´)

再開します。



少年「おはよう魔女。 起きてる?」


 扉を開けます。

 いつもの安楽椅子に、魔女の姿は在りません。


少年「魔女? 居ないの?」


 主の居ない安楽椅子が、寂しいとでも言っているみたいに、風に揺られていました。


少年「早く来すぎちゃったかな……」

 とりあえず、持ってきた花を花瓶に生けようと思います。

 本当なら直接渡して、魔女の喜ぶ顔が見たかったです。 残念です。


 でも、さり気なく飾っておくのもなかなかかもしれません。

 お兄ちゃんも『気づいたらプレゼントがあるっていうのに女は弱いんだぜ?』とか言ってましたし。


 いや、魔女に対してそんな下心は無いですよ?


 ほんとにほんとです。

 神様に誓っても良いです。


 居るか居ないかなんかは知りませんけど。

再開します。



 花瓶に花を生けたあと、少しの間魔女を待ちましたが、一向に魔女は現れません。


少年「うーん、どこかに出かけているのかな?」


 もし居ないとしたら、戸締まりもしないで外出するなんてちょっと不用心ですね。

 戸締まりを忘れているとしたら案外ドジっ子なんでしょうか?


少年「魔女ー? 本当に居ないの?」


 返事はありません。 よく見ると、普段は閉まっている奥の部屋の扉が開いています。

 もしかしたら奥にいるかもしれないです。



 見ても、良いんでしょうか?






 怒らせてしまうかもしれないです。

 でも、魔女の身に何かあったのかもしれません。

 そうです。 魔女が心配なんです。

 別に、魔女の寝顔が見てみたいなんて思ったりはしていません。

少年「魔女、居るの?」

 扉から部屋を覗き込みました。

 そこに居たのは、美しい、綺麗な、可憐な、なんて言葉が全部集まったような少女がベッドで寝ていました。

 シーツよりも白い、透き通るような肌。

 上等な蜂蜜みたいな濃い色をした金髪は緩やかに波打ち、その少女を飾りたてているようでした。


 小さなベッドと小さな机と樫のタンスがあるだけの小部屋ですが、これよりも美しい光景を僕は見たことがありません。

 僕に絵の才能があればこの光景を絵にしたいですし、もしも神様だったら、時間を止めて独り占めしたくなってしまうような光景でした。

 魔女は、本当に綺麗な少女なんです。 多分都のお姫様だって魔女より綺麗じゃありません。



 起こしてしまうのが勿体ないような気がしました。

 この光景を崩すなんてとんでもないです。

 でも、眠っている魔女とはお喋りできません。


少年「魔女、花を持ってきたよ」

 魔女の寝ているベッドの脇に立ち、声をかけます。


魔女「……んぅ……」

 魔女は僅かに声を上げて寝返りをうちました。 肩まですっぽりと隠していたシーツがめくりあがります。


少年「……ぁ」



 シーツに隠れていた部分が露わになってしまいました。



少年「何なんだろう……コレ?」

魔女「……」


 魔女の背中一面の紋様は魔女の白い華奢な背中には似合いませんよね。

 魔法に関係あるのかもしれませんが、みているだけでなんだか不安な、悲しい気持ちになります。
魔女「……」

魔女「……」

 大変なことに気が付きました。


少年「もしかして、魔女、起きてる?」


魔女「もしまだ寝ていたら、君は僕の身体にいったいどんな事をするつもりかな?」


 魔女はいつの間にか起きていました。


少年「え、あの、そーいうつもりじゃ」


魔女「じゃあ、無遠慮に淑女の寝室に上がり込んだあげくに、何の許可もなく肌に触れ、あまつさえ、起きたことにも気が付かずに僕の無防備な肢体を舐め回すかのように見たのはどういうつもりなんだい?」


少年「ごめんなさい」

魔女「謝ると言うことは、だ。 なんらかの邪な考えがあったと認めると言うことかい? それとも、怒りを露わにしている僕をどうにかなだめようという安易な考えから口に出した意味のない音の羅列かい?」


 魔女は怒っています。 それもかなり。

 怒り過ぎているせいか、いつもより頬が赤いです。


少年「えと、あんまりにも魔女が、その」


魔女「なんだい? 聞くに値するだけの言い訳でなければ……そうだな」

 魔女は手をかざして何か呟きました。

 魔女の手の周りに次々と小さな火の玉が現れます。

 それは、魔女の手のひらに向かって集まっていき、最後には僕の頭くらいの大きさになりました。

魔女「さて、いま僕の手のひらにあるのは、自然界の中でも最も気性の荒い火の精霊だ。 これは僕の言葉に従い、お痛をした少年にお灸を据えてくれる可愛い奴でね」


 火の玉は魔女の手のひらで徐々に形を変え蜥蜴のような形になりました。

 チロチロと舌を出し、魔女に甘えているようにも見えます。

 僕には可愛い要素が見あたりませんでした。


魔女「さぁ、言い訳をしてごらんよ。 安心して良いよ? 大火傷はするけどもその後しっかりと傷は治してあげるから。 すっごい痛いだけで許してあげるから、さぁ、言い訳してごらん?」


 魔女がこんなにも饒舌なのは初めてです。

 火の照り返しで魔女の顔は真っ赤に見えています。

 痛いのは嫌だなぁ。

 でも、しっかりと治してくれるなんて、魔女は優しいなぁ。

少年「ごめんなさい、魔女があまりにも綺麗だからつい見とれちゃったんだ。 ほんとはすぐ起こすつもりだったんだよ」

魔女「……え、ぁ?」

 魔女は変な声を上げました。


今日の更新は以上となります。

今日、明日とダラダラと更新したいと思います。

話が急展開を迎える予定ですので、ご了承ください(`・ω・´)



 魔女は口をパクパクと動かして何か言おうとしていますが上手く声がでないようです。

 かざしていた手のひらに居た火の蜥蜴が小さく音を立てて消えてしまいました。

少年「魔女?」


 魔女はうなだれるようにため息を付くとベッドに腰掛けました。

魔女「はぁ、なんて言うかと思ったら」

 なんだか分からないけど、許してもらえたみたいです。

 その証拠に魔女から凄みのような物が消えていますもの。

魔女「君は卑怯だ」


 魔女は僕をじっと見つめて言いました。


 僕は魔女と視線を合わせるのが恥ずかしいので適当に視線をずらします。

魔女「そんな分かりやすい言葉で褒められたら怒る気にもなれないじゃないか」

 魔女の声は、いつものように深くて静かな井戸の底のような調子に戻っていました。

 安心しました。 丸焦げは怖いですもんね。



少年「ねぇ魔女、聞いても良い?」


魔女「質問によるね」


 魔女はいつもの夕闇色の服を着て、安楽椅子に体を預けて言いました。


少年「背中の入れ墨についてなんだけど」


 魔女は少しの間悩みます。


魔女「これは、魔女と呼ばれる由縁かな」

 魔女は愛おしそうな、悲しそうな、そんな目をしてそう言いました。



少年「それ以上の事は聞かない方が良いの?」


魔女「何日もかかるし、まず信じないと思うよ?」


 魔女ははぐらかすように応えました。


少年「それでも聞きたい!」

魔女「君は、物好きだね。 それに意外と厚かましい」



 そう言うと魔女は紅茶をティーカップをニつ用意して、静かに語り出しました。



 魔女は紅茶を一口飲むと、窓辺に飾られた花を見ながら話し出しました。


魔女「君は最初に僕がいつからここに居るかを聞いたね」

 夕闇色の瞳が僕を見据えます。

少年「たしか、僕のお祖父ちゃんのお祖父ちゃんが生まれた時位には居るって」


魔女「そう、だいたい二百年くらい前だ。 その頃の事は何か知ってる?」


 僕はまだ十年くらいしか生きていないので、さっぱりです。


少年「わからない」


魔女「魔王、魔物、勇者。 これだけ言えば何となくは勘付いてくれないかな」


少年「昔話で聞いたことがある」

 お祖父ちゃんが、話してくれた、昔話を思い出します。


 その昔、世界は魔王に支配されていて、魔物が溢れかえり、常に厚い雲に覆われていて、それを勇者が倒して世界に平和を取り戻したっていう話でした。


魔女「僕はその頃から人間を止めたんだ。 この入れ墨はその烙印、人を止め、太陽に背を向けた者への戒めだよ」


 やっぱり、良くないモノでした。

 でも知りたいのは入れ墨が何なのかではなく、何故そんな事をしたのか、です。


少年「なんで」

 僕は魔女に聞こうと思いましたが、結局聞けませんでした。

魔女「これ以上を話す気は無いんだ。 ごめんね」

 そう言った魔女の目が、あまりにも優しくて、泣きそうなくらい悲しい目だったからです。

 魔女はたまに、そんな目をします。

 何もかもを諦めているような、何もかもを拒絶したような、何もかもを許したような。

 いったいどんな物をその瞳に写したら、こんなに美しくて、悲しい瞳になるのか僕には想像も付きません。

 だけど、いつかそんな魔女の悲しみを和らげてあげたいと思いました。



魔女「花を、持ってきてくれたんだね」

 魔女は飾ってある花を見て言いました。

少年「魔女が喜んでくれるなら持ってきて良かった」


 本当にそう思います。


魔女「ただ、この花をどこで摘んだのかは知らないけど、良くないモノがついているね」


 魔女が指を動かして、花を浮かべます。

魔女「~~」

 よく聞き取れない言葉を鼻歌のように口にすると、花から黒い靄のような物が出てきました。


 もの凄く嫌な感じがします。



少年「なにこれ?」

魔女「人の悪意かな」

 魔女はそう答えると空いている手から紅い靄のような物をだしました。

 それは次第に形を変えて、大きな狼の顎になり、唸り声をあげています。


魔女「喰らえ」

 魔女が一言そう呟くと狼の顎は黒い靄を一口で平らげてしまいました。

 絶対に美味しくなさそうなんですが、狼の顎は満足げです。

 もしかしたら、美味しいのかもしれません。

 食べたくはありませんけど。


少年「いまの、なに?」

魔女「せっかくの花に虫が付いていたら長く飾れないだろう?」


 魔女いわく、黒い靄は人の悪意が形を持った物らしく、あそこまで濃い物は珍しいらしいです。


魔女「あんなにしっかりと形ができる奴は、普通なら戦場くらいでしかお目にかかれないよ」


少年「ここは、戦場じゃなくてただの森なのに」

 戦場で花を摘んだ覚えはありません。

 まぁ、人は埋まっているんでしょうけど。

魔女「ただの森、ではないけどね」

少年「え?」


魔女「ただの森なら僕はここに居ないさ」


 すっかり冷めてしまった紅茶を一口飲んで魔女は言いました。



少年「何故魔女はこの森に?」

魔女「魔女だから、かな」



 魔女はこれ以上は何も言いません。

 いつものように本を読み始めました。

 静かな空気は居心地が良いはずなのですが、なんだか今日は寂しいです。


少年「なにか、話をしよう」

魔女「いいよ。 まずは君から」

 魔女は優しい声で言いました。

少年「何か話すことあるかな」


魔女「そうだな、君の事を知りたいな」

 魔女はもう一度、優しい声で言いました。


 それから、他愛もない話をしました。

 本当に、退屈でどこにでもあるような他愛のない話です。


 きっと僕以外にもこんな話をする人はいっぱい居るはずです。

 魔女はそれを、優しく頷きながら聞いてくれました。

 僕は、話し終わる頃には泣いてしまいました。


 そんな僕を見て魔女は、「大変だったね」と言ってくれました。

 なぜ、魔女はこんなに優しくできるのでしょうね。




少年「ごめんね、こんな話じゃ魔女はつまらなかったんじゃないかな」


 いつの間にか、日は暮れていました。

 部屋の壁が蛍火のように、冷たい光を発しています。

魔女「いや、そんなことはないよ」

 魔女は頭を撫でてくれました。

 子供扱いされるのは好きではありませんが、魔女の手が優しいので思わず頬が緩みます。

少年「子供扱いはあまり好きじゃないよ」

 見られたくはないので、顔を背けました。 恥ずかしいですから。

魔女「もう少し子供らしくしても良いよ?」

 今日の魔女はなんだか優しくて嬉しくなりました。

再開します。



少年「じゃあ、僕はそろそろ帰るよ」

魔女「君の寝具も用意しようか? 帰ったところで君には」

 魔女が心配そうに言いました。

少年「そうも行かないよ、お母さんも心配するし」

魔女「……」

 魔女は少し悲しそうな顔をしてうなずきました。


 塔をでて森を歩きます。

 今朝よりも、もっと嫌な感じが肌に纏わりつきます。


 木々の影がまるでニタニタと笑いながら僕を見ているように感じました。

 早く森を出たくて駆け出します。

 途中、流れる景色に、森の獣のように恐ろしく、人間みたいに不気味な生き物が見えた気がしました。


 村に帰りました。

 みんな居るはずなのに、誰もいないみたいに静まりかえっています。

 家の前まで行くと、パン屋のおじさんが立っていました。


少年「何かよう?」

おじさん「……」


 おじさんは何も喋りません。

 気味が悪いです。

 おじさんも気味悪がっているみたいです。

 まるで、化け物でも見るような目で僕の方を見ていました。


少年「何かようなの?」


おじさん「あの時の復讐か……?」

 おじさんはブルブルと小刻みに震えながら呟き僕を睨みつけます。

 怖がっているというより、怒りで震えているみたいです。


少年「何の話? よくわかんないよ」

おじさん「確かに、二年前にした事は俺たちが悪い、だからといって娘が何をしたって言うんだ?」

 おじさんはよく分からない事を言いながら僕の肩を掴み揺さぶりました。

 目が血走って、かなり興奮しているみたいです。

 殺されちゃいそうです。


少年「今度は僕の事を殺すの? あの時したみたいに?」


 思ってもない筈の言葉が口から出てしまいました。

 さっき魔女にあんな話をしたせいですね。


おじさん「あれはっ……」

 おじさんは黙ってしまいました。


少年「殺すの? それとも殺さないの? 殺さないなら手を離してよ」

 本当に、早くしてほしいです。 早くお家に入らないとお母さんが心配しちゃいます。



おじさん「本当に気味の悪い餓鬼だ、そこまで言うならお望み通り……」

 おじさんの大きな手が僕の首にかかりました。

 死ぬのは嫌ですが、人生なんてこんな物なのかもしれません。



 そう思っている筈なんですが。

 いざ死ぬとなると、なんだか無性に悲しくなりました。



おじさん「娘の仇を討たせてもらうぞ」

 喉が潰れそうです。 息が苦しくなって目が飛び出してしまいそうです。

 その時でした。



おじさん「くっ!!」


少年「お母さん?」

 お家からお母さんが出てきて、おじさんの腕に噛み付きました。

 おじさんの手が、僕の首から離れます。

おじさん「なんだこの野良犬は!?」

 おじさんはお母さんを振りほどこうと必死に腕を振り回します。

少年「お母さん、ありがとう。 でも駄目だよ……」


 小さなお母さんの身体では、おじさんにかなう訳もなく呆気なく振りほどかれてしまいました。


おじさん「この糞犬が」

 おじさんは振りほどいたお母さんのお腹を蹴り上げました。

 このままじゃまたお母さんが殺されちゃいます。

 また、独りきりの家に帰る事になります。

 それは嫌です。 おじさんに何回も家族を殺されたくないです。


少年「うわぁぁぁっ」

 おじさんの背中に思いっきり体当たりをします。

おじさん「この糞餓鬼っ!!」

 おじさんは、僕の頬を思いっきり殴りつけました。

 骨の軋む嫌な音が頭の中から聞こえます。

 視界が霞んできました。


 お母さんの吠える声が段々小さく聞こえてきました。


 そのうち、何も見えなくなりました。 何も聞こえなくなりました。

 僕は、気を失ったみたいです。

多分今日はここまでとなります。

そろそろクライマックスに近づいてきました。



 …………。

 ……。

 気が付きました。

 まだ夜は明けてません。

 あと一日も経てば、完全になる月が真上で濁った黄色に輝いています。


少年「……お母さん」

 僕の近くには、お母さんが死んでいました。 その横には姉さんも死んでいます。

 暖かくて柔らかかった毛皮は血で汚れて傷ついています。 優しげな瞳が僕を見つめる事はもうないでしょう。

青年「大丈夫か?」

 青年さんが近くに居た事に、声をかけられて初めて気が付きました。


少年「……」


青年「パン屋のおじさんには帰ってもらったよ。 なんの証拠も無いのに娘を殺した犯人扱いしやがって」

少年「……」


青年「娘が居なくなってからおじさんはおかしいんだ。 それに村の連中も」


少年「……」

青年「正直な話、村のみんなはパン屋の娘を殺したのはお前だと思ってる」

少年「……」


青年「俺はお前のことを信じてるけど、庇いきれなくなりそうだ」

 何か話してますね。 いったい何を話してるんでしょう?

青年「こう言っちゃなんだが、お前には身よりも居ない。 これを気に村を出たらどうだ?」


 誰に向けた言葉なんでしょうか? 青年さんの言葉には何一つ本当の気持ちがないみたいです。


青年「なぁ、確かに飼い犬が殺されて悲しいのは分かるが、このままだとお前まで殺されちまうぞ?」

少年「……」



少年「娘さんを殺したのは青年さんでしょう? この前くれた綺麗な花が咲いている場所に埋めたんだよね」


 我慢の限界です。

 この人の言葉のひとつ一つが不愉快でしょうがありません。


青年「……何言ってんだよ。 俺はお前の事を思って言ってやってるのに笑えない冗談だ」


少年「青年さんが、自分の事しか考えてない事くらいわかるよ。 それに見たんだ、青年さんが森で死体を運んでいるところを」


青年「……ふーん」



 青年さんの顔は月明かりの逆光で見えません。

 でも、分かります。


 青年さんは嗤っています。

 三日月みたいに口を歪めて、青年さんの中身を包み隠す事なく。
 この濁った月の光に本来の自分を晒して、青年さんは嗤っています。


青年「で?」


 青年さんの事を初めて人間らしいと思いました。

 自分のことを包み隠さずに晒してくれた方が、僕は好きです。

 青年さんは好きになれませんけど。


青年「良くわかんねー疫病で、家族全員死んじまって」

 青年さんが近づいてきました。
青年「村の端っこのボロ小屋に野良犬何匹かと暮らしてる」

 青年さんは僕の頭を撫でました。 吐き気がします。

青年「おまけに犬共を、お母さんだとか、お父さんだとか呼んでいる薄気味悪い糞餓鬼が何言ったって」

 ここまで言って、青年さんはいつもの張り付けたように嘘臭い爽やかな笑顔に戻ってしまいました。


青年「村の連中が信じてくれる訳ねーだろ? お前は殺されずにすむ、俺は疑われない。 最高じゃねーか」


少年「……」


青年「村の連中はどいつもこいつもなんか悪いモンにでも取り憑かれたみたいに殺気立ってやがる。 村をでるなら早い方が良いぜ?」

 ……なぜこうなってしまったかは、わかりません。

 ただ、お母さんやみんなが死んでしまったのが悲しいです。

 この犬たちが居ないと寒くて眠れません。

 いくら毛布を被ろうと、夜になって一人で眠ると奥歯がガチガチと震えるんです。


 疫病にかかってしまい、「村を守るため」と言う理由でいきなり殺されてしまったり。

 僕を助けようとして、撲殺されてしまったり。

 なぜ、僕と縁が深くなるとみんな死んでしまうのでしょうか?

 僕のせいなんでしょうか?


 そのうち魔女も、死んでしまうのでしょうか?


 気が付いたら泣いていました。
 『夜に大声は出したらだめなのよ?』というお母さんの言葉を守るために、下唇を思いっきり噛みます。


 世界って、どうしてこんなに優しくないのでしょうか?


そろそろ訳分からないような感じかもしれないので、登場人物の整理をしておきます。

魔女:塔にいる魔女。
見た目は12~15歳くらい
金髪

少年:魔女に会った主人公
見た目は10~12歳くらい
多少変人

青年:良く出てくる人
見た目は25~28くらい
爽やかな振りをしている人
パン屋の娘を森に埋めた
ちなみにパン屋の娘以外にしっかりと嫁もいる。

娘:パン屋の娘
見た目は17~20くらい
パン屋の店番をしていた娘
青年に埋められた

おじさん:パン屋の親父
見た目は40~45くらい
少し病んでいる。

お母さん等
少年の回想のセリフは本当の肉親。
現在家に居たのは野良犬。
どちらもおじさんに殺されている。

とまぁ、こんな感じです。

なにかご不明な点があれば気軽にどうぞ。

再開します。

視点が少しの間、魔女に変わります。



 塔――。

 近い。 澱んだ月は、もう止まらないところまで事態が進んでしまっている事を示している。

魔女「だというのに、僕は何をしているんだろうな……」


 先程までこの空間にいた少年を思い出し、溜め息を吐いた。


 あの少年は、まるで硝子細工のようだと思う。

 強く触れるだけで、簡単に音を立てて崩れてしまいそうな、繊細さ。

 そして、そんな自分が壊れないように自らを殻で包んでしまっている。

魔女「僕らしくない、ね」


 よく似ている。

 僕は知らぬ内に、彼に昔の自分を投影して、同情していたのかと自嘲気味に笑ってしまった。


 先程聞いた少年の話は、まぁ、良くある話だと思う。

 疫病を患った家族を、蔓延を恐れた周囲の人間に殺される。

 小さな村の、歪んだ価値観では、それを正当な行為であると信じて疑わない。

 歪んでいない少年にとって、それはこの世の全てを呪う程の出来事ですらあるというのに。

魔女「君は、僕みたいになってはいけないよ?」

 優し過ぎる君に、世界という物は一切の慈悲すら見せてはくれないのだから。


魔女「さて、半世紀ぶりの仕事のだ。 しっかりと準備をしようかな」


 寝室のクローゼットから愛用の杖を取り出し、外套を羽織る。

 次に、この日の為に日々作り続けていた霊薬を数種、胃に流し込む。

 魔力の限界値を増やす為だが、酷い味だ。

魔女「やはり僕には料理の才は皆無らしい」

 塔を後にする。

 眼前に広がる森に、蠢く影。

 今でこそお伽話の中の存在だが、二百年前までは彼等も又、紛れもなくこの世界の住人だった。

 彼等は、幼子の寝物語に語られる勇者達に滅ぼされた筈の、魔王の従僕。

 魔物と呼ばれ、忌み嫌われる者達がそこには居た。



獣鬼の群れ「グルルル」

 まずは、牛のような頭部に、筋骨隆々の毛深い人間のような胴体の、昔馴染みに挨拶をするとしよう。


魔女「~~」

 呪文を唱え、獣鬼の群れに魔法を放つ。

 放ったのは、家が一つ吹き飛ぶ程度の爆発を起こす火球を飛ばす魔法だ。

獣鬼の群れ「グギャアァァア」

 閃光と爆炎に包まれた獣鬼の群れの断末魔を聞くと、昔の事を思い出すようで、あまり好きではない。

 だから。

魔女「~~~」

 それを振り払うように今度は、骸骨の騎士達に、周囲を焼き払う規模の火焔の魔法を放った。

 月はやっと頭上まで昇るかどうかといったところだというのに。

魔女「まったく、長い夜になりそうだ」


 ―――。

本日の更新は以上となります。



少年「もう、朝になっちゃったんだ」

 立ち尽くしている内に、朝になってしまったみたいです。

 村は静かです。 人の気配すら感じません。


 魔女に会いたいです。

 会って、ひとりぼっちじゃないって安心したいです。


村人「うあ゛あ゛あ゛」

少年「!?」

 村の人がいきなり襲いかかってきました。

ごめんなさい。
今日の更新は以上となります。
完結の目処は200~250の間だと思います。

それまで、宜しければお付き合い頂ければ嬉しく思います。

魔女「更新するよ」


魔女「……まぁ、僕なんかを待ってる物好きなんて居るかは分かんないけど」

魔女「でも、待ってる人が居てくれるなら素直に嬉しいな」


 村人のおばさんは、どうにも正気ではないみたいです。

 言葉らしい言葉を話す訳でもありませんし、目つきも虚ろな感じがします。

 おばさんの手に持っている鉈が真っ赤な血で汚れている所を見ると、きっと使用済みでしょうね。

 いったい何に使ったんでしょうか?


 何に使ったにせよ、僕に鉈を使う理由が分からないので、やめてほしいです。


村人2「あああああっ」

村人3「おおおぉぉぉっ」


 たくさん集まってきました。


 みんな正気とは思えません。


 このままだと殺されちゃいそうなので、逃げます。 もう一度魔女に会いたいから死にたくないですもん。


 村の出口まで走ります。

 途中、なにやら赤黒い塊が何個も転がってました。

 人は生きているから人なんです。

 死んでしまったらそれはもうその大きさの肉の塊だと僕は思います。

 だって、そうでなければ悲しすぎませんか?


 大切な人がだんだんと腐っていくなんて。

 だから、身体から魂は離れ、別の場所に行くんです。

 そう、思いたいんです。

少年「なんでこんな風になっちゃったんだろう? 魔女なら分かるかな」

 村を抜け、魔女の元まで走ります。

 森はまるで戦争でもしたみたいに焼けたり弾けたり抉れたりしていました。


魔女「今日は以上だよ」

魔女「おやすみなさい」

更新します。


少年「魔女!」

 扉を開けます。 


魔女「騒々しいね、どうしたんだい?」


 魔女は、いつものように安楽椅子に身体を預け、本を読んでいました。

少年「魔女に会いたくて」


魔女「随分と使い古された口説き文句だね」


 魔女はいつものように、全部お見通しの深紫の瞳を僕に向けました。

 でも、なんだか顔色が良くないように見えます。



少年「魔女、なんだか体調が悪そうだね」

魔女「けして良くはないね」


 魔女は笑いました。

 僕は悲しくなりました。


少年「魔女は何を隠そうとして、そんな顔で笑ったの?」

 魔女の笑顔は、何かを誤魔化そうとして浮かべている笑いだってすぐに分かってしまったからです。


 魔女にはそんな不細工な笑い顔は似合いません。

魔女「変に鋭いよね、君って奴は」

少年「普段の魔女の笑顔の方が僕は好きだよ。 何かあったんだよね?」


 もしかしたら、村の異変と関係があるのかもしれないです。

 魔女にまで迷惑をかける人達だったなんて、余計に村の人たちが嫌いになりそうです。

魔女「君には嘘は通用しそうにないね……。 でも、話した所で意味もない。 さて、どうしたものか」


 なんだか、大変な話みたいです。


少年「僕なんかに話しても何にもならないけど。 それでも、魔女が辛い思いをしているなら知りたいな」

 これは、僕の我が儘なんでしょうね。

 それでも、魔女の事を少しでも理解したいんです。


 魔女も、きっと一人ぼっちだと思うから。

 一人ぼっちって、すっごく辛いから。


魔女「うん、君ならそう言うと思ったよ」


少年「話してくれるの?」


魔女「あぁ、なにから話そうかな」

 魔女が微笑みました。

 今度の笑みは素敵です。

 ただ、やっぱり魔女の笑みは悲しそうな笑みでした。


少年「魔女の話しやすいことからでいいよ」

魔女「そうか、じゃあ」


少年「うわっ!?」

魔女「ッ!?」


 魔女が口を開こうとした瞬間、塔が激しく揺れました。

以上です。

多少更新しようと思います。



 まるで大きな岩が塔にぶつかったような衝撃でした。

少年「今のはなに?」

魔女「……」

 魔女が険しい顔になったような気がします。

 普段から無表情ではあるんですがね。


魔女「少年、君にお願いしたいことがある」

少年「なに?」

 魔女はそういうと小さな手で僕の頬を挟みました。


 すぐ近くに魔女の顔があります。

 やっぱりすごくきれいです。




魔女「君に留守番を頼みたいんだ。 この塔から出ないで、僕の帰りを待っていてくれないか?」


少年「別に良いけど……。 魔女はどこかに出かけるつもりなの?」

魔女「さて、ね。 もちろんお駄賃はあげるよ?」


魔女「しかも先払いで、ん……」


 唇に違和感が起こりました。

 柔らかい感触が押し当てられているようです。

 魔女の顔は凄く近いです。

少年「!!??」

 魔女が僕に何をしているのか理解した瞬間、思わず叫びそうになっちゃいました。



 それは、いわゆるキスというものでした。

 僕の唇に魔女の唇が触れています。

 驚きすぎて、頭がどうにかなりそうです。 

 でも、嫌じゃないです。

少年「痛ぅ!?」

 唇に鋭い痛みが走りました。

 血が滴ります。

 魔女の八重歯が僕の唇に傷を付けたんでしょう。

魔女「これが一番手っ取り早いからね」

 魔女は唇を拭いながら言いました。


 よく見ると魔女の唇にも傷が付いています。


魔女「君が聞きたかった事はこれでわかるよ。 おやすみ」


 魔女が微笑みます。

 やっぱり寂しそうなその笑みをみながら、僕は気を失っていきました。

とりあえず今日の更新は以上となります。

更新します。

魔女視点になります。




 塔の外――。


魔女「やれやれ、本格的に復活するつもりなのかい? こんなに障気を振り撒くなんて」


 豊かな緑に包まれていた深い森は、見る影もなかった。

 草木は噴き出す障気に充てられて、枯れ果てている。

 運悪く障気に適合してしまった樹木は植物である事を辞めて、醜悪な巨躯を揺らしながら獲物を探して彷徨いていた。

 目の前の光景に落胆はしたが、予想通りでもありなんだか複雑な心境だ。

 局所的にではあるが、顕現されてしまったのであろう。

魔女「二百年ぶりだね、この光景は」


 魔王と呼ばれ、世界を恐怖に陥れていた者が住まう魔の聖域。

魔女「魔界を一人で攻略なんてまったく無茶な話だよ」

 小さなポーチにありったけ詰めて来た魔術具の中から、毒々しい液体の詰まった小瓶を取り出す。


魔女「これを作った自分自身の美的センスを疑いたくなるね」

 この毒々しい液体の効果は、簡単に説明するならば魔力のドーピング。

 もちろん身体に良い訳ないけど気にする必要はない。

 むしろこの身体に何らかのダメージを残せるならば喜ばしいくらいだ。


魔女「うぇ、やっぱり不味い。 戦士が作ったシチューの次に不味い」

 だが、魔力は満ちていく。

 全身を引き裂くような痛みは気にしない。

 どーせ死にはしないんだ。

魔女「景気付けに一発キツいのをお見舞いしちゃおうかな?」

 いつの間にか塔を取り囲んでいる多種の魔物の群れ。

 どいつもこいつも一度は見たことがある種族。

 奥に居るあの魔物なんて数体で小さな国は滅ぼすような凶悪な種の筈だ。

 空から僕を睨んでいるあの魔物は、龍の近種だった気がする。

 おとぎ話なら各山場に登場するような魔物ばかりだ。


 まったく……。


魔女「雑魚はお呼びじゃないんだ、退場願おうか」


魔女「~~」

 使うのは、否応無しに対象を死の淵へと引きずり込む亡霊を使役する魔法。

 障気は亡者にとってはそれは心地いいのだろう。

 群れを一掃するには多すぎる程の亡者が呼び出しに応じ、魔物の魂を食い荒らしていく。


魔女「僧侶はこの魔法が嫌いだったんだよな」


 昔、肩を並べて闘った仲間の事を思い出して、苦笑いしてしまう。

魔女「僕が僧侶に怒られたら君たちの所為だからね?」

 なんとなく言い訳をすると、森だった場所の奥へと進む。

魔女「少年が起きる頃までにすべてを終わらせる事ができると良いんだけどな」

更新は以上です。

魔女視点終了です。

次の更新からは少年視点になります。

ちょっとだけ更新します。

250までに終わるか、少々怪しくなってきました。




 夢を見ました。


 悲しい、悲しい夢でした。


 魔女は長い永い間、ひとりぼっちだったようです。

 彼女は――。
 魔王を倒した勇者の仲間でした。

 彼女は――。
 とても優しい‘人間’でした。
 彼女は――。
 ‘人間’である事を辞めてまで仲間の幸せを願いました。


 そうして、止まってしまった時の中で、魔王の墓標であるこの塔で独り墓守を続けてきたのです。


少年「魔女……」

 外は完全な形の月が空に浮かんでいます。

 腐った血のように濁った赤です。

少年「痛っ」

 頭に鋭い痛みを感じて思わず目を瞑ります。

 瞼に浮かんだのは、魔女の姿でした。

 魔女は村に居て、村人たちが魔女に詰め寄っています。

 魔女は疲れきっていました。

少年「魔女を……助けなきゃ!」
 僕は塔を飛び出しました。

以上です。

遅れてすいません。

更新します。

魔女視点となります。





 さて、どうしようか。

魔女「村も壊滅、か」

 村には人間はもう数えるほどしかいなかった。

村人「あぁああああっ」

魔女「~~」

 指先から爆発を起こす光球を飛ばす。

 村人の頭部が抉れて吹き飛ぶ。

魔女「まだうごくのか、面倒な魔物になったものだね」


 村の中に人間はもう数えるほどしか居ないだろう。


 その数人を犠牲にしてあたり一面を焦土に変えてしまえばどれ程楽だろうか?

魔女「~~」

 指先に魔力を込める。

 結局、僕の指から放たれるのは、先程と同じ小さな爆発を起こす簡素な魔法。

魔女「なんだかんだ甘いね僕も」

 脳裏に過ぎるのは遠い昔に交わした約束。

 力の使い道が分からなかった僕に、この力は護る為の力だと言ってくれた仲間。

魔女「さて、各個撃破といこうか」


 村を歩き回り、遭遇する魔物を一体ずつ倒す。

 魔力は無駄になるが、他にやりようがないので仕方ない。


魔女「やっとこれで十か……正直疲れたな」


 魔力にはまだ余力はある。

 問題なのは体力だ。

魔女「鍛錬しなきゃ駄目だ。 今度から階段でもはしろうかな」


 暗く迷路のような家々の間を歩きながらぼやく。


村人「うあぁああああ」

魔女「~~」

 向かってきた村人だった存在に爆発する光球を飛ばす。

 肉がはぜ、崩れ落ちる。

魔女「何体いるやら」

村人「いぃいぃああ」

魔女「ッッ!?」

 油断した。 

 目の前に気を取られすぎて、後ろの奴に気がつかなかった。


魔女「~んぅっ!?」

 村人の手が伸び、口を押さえつけられた。


 途方もなく不快なその感触。

 まずい。 呪文が使えなければなにもできない。

村人「あぁうっうっうぅえかかかかか」


 耳慣れない奇声。

 仲間を呼んでいる?

村人「えぅえぅぇ」

 長く延びた舌が頬をなぞる。

 空いているもう片方の手が無遠慮に僕の体を弄る。

 嫌だ。 気持ち悪い。 

 外套の中に手が入ってくる。

 直に脇腹、大腿部などを粘着質な粘液まみれの指が這う。


 嫌だ、嫌だ、気色悪い。

魔女「やめ…んぐぅ」

 口を塞がれて呪文も使えない。

村人「えぅえぅぇ」

村人「うっうぅえかかかかか」

村人「おぉあぁあぁあああ」

 絶望が歩いてきた。

 なんとなく、この後自分がどうなるかわかる。

 諦める訳にはいかないが、チャンスが来るまで僕は正気を保つ事はできるだろうか?

 他人ごとのように自分の置かれた状況を考えたところで僕は、心のスイッチを切ることにした。

以上です。

更新再開します。引き続き魔女視点となりますが、性的な描写がありますので苦手な方はご注意下さい。



魔女「……」

 ざっと10人は居る、か。

 どいつもこいつも醜悪な顔をしてる。

 拘束はゆるむ気配もない。

村人「ぐけけけ」

魔女「んうっ!」

 外套が引き裂かれて、肌が露わにされた。

 衆目に晒せるほど、自信のある肉体はしていないというのに。

 無遠慮に、肌に触れられているのが不快だ。

 済ますのならば早くしてくれ。


村人「うぅううぅぅ」

 男性器を露出させ、雄叫びをあげている。

 意志があるようにグネグネと蠢くそれは、僕の大腿部に近い太さだ。

魔女「ッ」


 これから行われるであろう行為に怖気がする。

 初めての男女の営みには痛みが付き物というのは通説だが、これはその範疇では済まない痛みだろう。

 いっそ殺害衝動だけある方がまだましだったろうに……

 そうではないのが人間だった名残だというのは、なんとも悲しい話だ。


村人「えぃうぅああああ」

村人「おぉうぃあ」

 脚に巻きついた触手が無理矢理に広げさせらる。

 ドロワーズ越しに、陰部をさすられる。

 愛撫のつもりだろうか?

 反吐が出る。

 手持ち無沙汰な他の村人がその凶悪な男性器を身体の至る所に押しつけてくる。

 熱く脈打つソレを、グリグリと直に押し付けられる。

 生臭い。 気持ち悪い。


村人「えぁああいぃうう」

 ドロワーズが破かれる。

 とうとう、その瞬間か。


 別に純潔を守りたかったわけではないが、なんだかんだで二百余年も守り続けた物がこうもあっさりと奪われるのは悔しい。

 勇者にでもくれてやれば良かったか。


 不意に、級友の顔を思い出してしまったせいか、涙が頬を伝った。


 あぁ、やっぱり嫌だ。

 誰か……助けてよ。












少年「魔女ぉぉ!!」


 あぁ、夢かな?

 彼なら塔でお留守番を頼んでいたはずだもの。

少年「助けにきたよ、魔女!」
 夢でも良い。

 こんなにうれしいのは随分と久々なんだから。

以上です。

支援感謝です。再開します。
少年視点になります




 村につきます。

 走り続けたせいで心臓や肺が抗議の痛みを発しています。

 ちょっと黙っていて欲しいです。

 身体の痛みなんかより、ずっと心が痛いんです。


 心も身体もう少し持ち主の意志を尊重して欲しいですよね。


少年「魔女! どこにいるの!」

 魔女に何かあったら。


 考えるだけでも嫌です。

 だから、今は村をひたすら走ります。


少年「魔女!」

 村のはずれに魔女は居ました。

 なにやら魔物に襲われています。

村人「うぃあああああ」

 怖くはないです。


 魔女に何かあったりした方がよっぽと怖いです。



少年「うおぉぉ!!」

 魔女に酷いことをする奴なんて許せません。

 だから。


村人「うげぇえお」


 思い切り体当たり。

 魔女に嫌なことをしようとしていた奴を押し倒します。

 いきなりの出来事で魔物も驚いています。

 知ったこっちゃないです。

少年「うあああああ!」

 地面の石を掴むとそのまま魔物の頭に振り下ろしました。


村人「うあああああ」

村人「うぃあああああ」

少年「ごぇっ」

 お腹で何か爆発したみたいな衝撃でした。

 何メートルも吹き飛ばされて、自分が触手に殴られたということに気がつきます。


魔女「んー!んー!」


 魔女が何か叫んでます。

少年「待っててね、い……ま、たすけるから」

 なにやら、お腹の辺りの感覚がありません。

 触ってみるとどうやら折れたりなんだりと大変みたいです。


 でも、まだ身体は動きます。



 痛みなんて痛いだけです。


少年「魔女を……離せ!」



 次は腕に激痛。

 触手に横薙ぎにされて、吹き飛ばされました。

 左腕がおかしな方向にひしゃげてます。

 でも身体はまだ動きます。

魔女「んんー!」

 魔女の瞳と頬が濡れています。

 魔女を泣かせてしまいました。
 『女は、泣かせるもんじゃなくて笑わせるもんだ』というお兄ちゃんの言葉を守れませんでした。


 でも――。

 『本当に大切な物は何があっても守りなさい。 貴方の大切な物を守ることができるのは貴方だけよ?』

 母さんの言葉、これだけは破る訳にはいきません。


 家族を守れなかった僕だから。

村人「うぇあぅあぁあああ」


少年「うぁっ」


 また触手に吹き飛ばされました。

 もう、全身痛いです。 痛くないところがわからない程です。

 でも、身体はまだ進めます。


 身体を動かしているのは僕の意志です。 全身の抗議の痛みは今回も無視です。


村人「うぇあぅあぁあああ」

魔女「んんー!んんー!」


 早く魔女の涙を止めなくちゃ。

 魔女は泣いているべきじゃないです。

 辛い過去の分笑っていなくちゃ駄目なんです。


 だから。

少年「魔……女ぉ」


村人「ぅあぇえ」

 吹き飛ばされないように、精一杯地面を踏みしめて。


村人「あぁうあああ」

少年「んぅっ」

 心配かけないように歯を食いしばって声を我慢します。


 一歩、一歩と歩みを進めます。

 視界がぼんやりとしてきます。
 意識が今にも飛んでしまいそうです。


 だけど、魔女の顔だけははっきり見えます。 見えているから進めます。


少年「……けるから」

魔女「んぅう!んー!」


 だからそんな顔しないでよ。

少年「絶対…助けるから」



村人「ぅあぇえ」

 魔女の口を塞いでいる魔物が触手で僕を叩きます。

 口の中が鉄の味です。

 でも、あと五歩。


少年「魔女……助けに、来たよ!」


 あれ?

 おかしいな。 なんで僕は魔女を見上げているんでしょう?

 進みたいのに身体の感覚が無いです。


少年「うぁ」

 魔女の拘束をしていた触手が僕の身体に力いっぱい叩きつけられました。


 魔女……ごめんね


魔女「少年っ!」


 あぁ、でも魔女の口の拘束が外れたみたいだしいいか。


魔女「~~~~~~」


 魔女が歌を口ずさむような、それでいて、凄く力強いような、そんな口調で呪文を唱えました。

 心臓の辺りがポカポカしてきたのを感じました。

今回の更新は以上となります。

支援ありがとうございます。

更新します

後数回の更新で終了です。

次は魔女視点となります


 この少年はなぜここまでしてくれるのだろう?

 僕はこんな事をして貰える覚えなんてないのに。

魔女「んー!」

 彼の真っ直ぐな濃褐色の瞳が私に向けられると悲しくなる。

 僕なんかが向けられていい瞳じゃないんだ。


少年「魔女ぉ」

 いったいその小さな身体のどこにそんな力があるのだろうか?



 何度も打ち据えられ、それでも尚、徐々に進む少年。

 なぜ僕はこんなにも無力なんだろう?


 あと一歩で届く。

 そこで少年はついに倒れた。


 倒れた少年に容赦なく振り下ろされる触手。


 それは僕の口を塞いでいた触手だった。

魔女「~~~~」


 急いで呪文を唱える。

 ありったけの肉体強化の呪文を少年に。

少年視点になります



 熱いです。 ポカポカとしていた心臓は今は沸騰しているみたいに熱いです。

 そこから全身に熱さが広がります。

 身体は軽く、さっきまでの激痛もいくらか和らいでいるみたいです。

 魔物の触手も避けられます。


少年「魔女を離せ!」


 目の前にいる魔物からついに、魔女を助け出せました。


 本当に大切な物を、今度は守れました。


魔女「君は無茶をする」

少年「男は無茶をする物だって、父さんが言ってたよ」

 腕の中の魔女はやっぱり小さいんです。

 助け出せて、良かったです。


魔女「無茶ついでに、少し頼んで良いかい?」

少年「?」

魔女「いいかい? 魔女、そして魔法使いの正しい使い方を教えてあげるよ」

 魔物の群が集まってきました。

 目の前を埋め尽くす魔物の赤い眼光は少し前なら絶望以外の表現ができなかった事でしょう。

魔女「僕たち魔の法を闘う術とする者の正しい運用方法は‘固定砲台’なんだ。 君には砲台を守る盾の役を果たしてもらおう」


 魔女の眼をみて感じました。 僕の事を信頼してくれている事を。

少年「これに応えられなきゃ男じゃない、よね」

魔女「言うようになったね。 君も」

 魔女は目を細めて言いました。

 なんだか嬉しそうです。


魔女「これを武器に使えばいいよ。 霊樹の幹を切り出した大杖だ。 そんじょそこらのナマクラなんかよりよっぽど効くよ?」


少年「じゃあ、ちょっとの間任せてもらおうかな」

魔女「あぁ、期待しているよ」


 杖は握ると手に馴染み、仄かに拍動しているようでした。


魔女「~~~~」


 魔女は祈るように、謳うように、呪文を紡いでいます。


 無防備に詠唱を続ける魔女に、指一本触れさせるわけにはいきません。


少年「うおぉぉぉおお!」

 突撃します。 身体は軽く、今なら何でもできそうです。


 守りたい物があると人間は強くなれる。

 人間ってそんなものです。

魔女視点となります。


 少年には、悪いことをした。

 いくら、補助魔法をかけたとしても彼はまだ年端も行かない只の人間だというのに。


 でも、そんな只の人間が、全てを振り絞って僕なんかを助けに来てくれた。

魔女「少年のあの眼、まるで勇者みたいに真っ直ぐで力強かったな」


 今も眼前で、獅子吼をあげ奮戦している少年。

 彼が相手にしているのは、王国の騎士団さえ後込みするほどの凶悪な魔物達だというのに。

 今の少年は、きっと大丈夫だとなぜか思えてしまう。

 小さな背中がどんどん大きく見えてくる。

 優しいだけで人間はこうも強くなれるんだと僕は忘れていたようだ。



 胸に手をかざす。

 空想する。 僕の中に確かに存在すると確信できるほどに。

 心の中にハッキリと浮かび上がったソレを、現実に引き出す。

 かざした手に握られているのは杖の形をした光。

 魔力を練って作り出した僕だけの為の杖。

 ソレを媒介に呪文を紡ぐ。

魔女「~~~~」

 呼び寄せ、破壊する想像。

 森羅万象の摂理をねじ曲げて事象を引き起こすために。


 なにが起きるかわからない筈の呪文を、魔力で強制的に効果を特定の物にする。

魔女「~~~~」

 神経が焼け付くような痛みを押し殺す。

魔女「~~~~!」

 魔法は、成功。

魔女「少年、ご苦労様。 後は僕の側にいて巻き添えにならないようにしてくれれば終わるよ」

少年「え?」

 少年を引き寄せると同時に発動させる。


魔女「ほら、今から星空が降ってくるよ。 願い事でもいう準備をしたらいい」


少年を抱き寄せて、魔物の群れに目をやる。

 次の瞬間。

 天空から流星が降り注いだ。

少年視点となります。


少年「凄いや」

 魔物の群れに次々と流星が降り注ぎます。

 魔物達は為す術もなく、次々と消し飛んでいきました。

 しかも、全ての流星は魔物以外には当たらず、周りには何の影響もないのです。

魔女「これは少し疲れるから、君が居てくれて助かったよ」


 辺りはすぐに静まり返りました。

 遠くの森まで流星が降り注いだ所をみると、きっと辺りに魔物は居ないのでしょう。


少年「……っ!?」


 大変な事に気がつきました。 ゆゆしき事態と言う奴です。



魔女「どうしたんだ……なる程、そういった所も君はもう男な訳だ」

 思わず目を逸らします。

 魔女の格好は、年頃の女の子がして良いような格好ではありません。

 月光のように白い肌も、もっと見えちゃいけない物まで丸見えなんです。


少年「あ……と、その、これ着てよ」

 とりあえず服を脱いで魔女に渡しました。

魔女「ん、ありがとう」

 目を逸らして必死に見ないようにします。

 別に見たくなんてないですよ?

 本当に本当です。 神様に誓います。


魔女「少年、こっちを見てくれ」

少年「え……!?」

 せっかく渡した服を着ずに魔女は意地悪そうな顔でほくそ笑んでました。

魔女「これは、ほんのお礼だ、受け取ってくれ」

 そういってそのまま僕は抱きしめられました。

 魔女の身体は、見た目よりもずっと柔らかくて小さくて。

 どんどん顔が熱くなってきます。

 こんな時どうすればいいのか、誰にも教えてもらってないです。


魔女「随分と鼓動が激しいね? 僕なんかの貧相な身体でも興奮してくれるのかい」

 魔女の声の調子は、普段より意地悪そうでした。

 でも、よく見たら、魔女の蜂蜜色の濃い金髪から覗いている形の良い耳も、真っ赤になっています。


少年「魔女……もしかして顔赤くない?」

魔女「淑女にいう言葉じゃないよ?」

少年「否定はしないんだね、て痛っ」


 わき腹に魔女の爪が食い込みました。


魔女「あぁ、確かに顔は赤いさ。 助けに来てくれて嬉しいやら、裸を見られて恥ずかしいやらでどうしようか困っている」


少年「え…と」

魔女「だからといって、君にそれを見られるのも癪だ。 だから」

 魔女は僕の胸から顔を離しません。

魔女「顔の赤みが治まるまでこのままじゃ……駄目かい?」


 やはり、魔女は狡いです。

 こんな風にお願いされたら、どうかえしたら良いかわかりませんもの。

今回の更新は以上になるかと思われます。

更新します。
あと数回、お付き合い頂ければ幸いです。


 しばらくの間、魔女は動きませんでした。

少年「魔女?」

魔女「人の温もりが久々すぎてつい、ね」


 いつのもの魔女です。

 でも笑顔は柔らかです。


少年「そっか」

 これ以上何か言うと、魔女に無粋だと怒られそうですから。


魔女「できることならもう少しこうしていたいんだけど、そうもいかないみたいだね」

 魔女が森の方を睨みました。


青年「よぉ、無事だったのか」
 嫌いな人が来ました。

 死んでないのは良い事だと思いますが、できれば会いたくない相手です。


少年「そっちもね」

魔女「……」


 魔女は、僕でも感じる事ができるほど青年に敵意を剥き出しにしていました。


青年「そちらのお嬢ちゃんはなんでまたそんな眼で俺をみてるんだ?」


少年「まともな人間で青年さんの本性がわかる人なら普通の反応じゃないかな?」


青年「は、言うようになったなぁ」

 何か異質な感じがしました。



魔女「いつまで茶番を続けるつもり?」

少年「?」

青年「はぁ?」

魔女「そんなチンケな人間の中に居るだけで僕の目を誤魔化せるとでも?」


 魔女は、今までみた事がないくらいの鋭い目で青年さんを睨んでいました。

青年「随分と訳の分かんないことを言うお嬢ちゃんだな」

少年「魔女?」


魔女「徐々に浸食して同化して、自我は乗っ取らずにいる」


魔女「相も変わらず下衆な手口だね、魔王」


青年「……はぁ?」


魔女「自分の所為で歪んでいく宿主をほくそ笑んで見てるんだろう? 吐き気がする程悪趣味だ」

青年「……」


青年「なんのことだか」


魔女「~~~」

 魔女が呪文を唱え、手をかざしました。

 氷塊が青年さんに降り注ぎました。


少年「魔女!?」

魔女「これくらいでどうにかなる相手じゃないよ」

青年「……」


 青年さんには水滴ひとつ付いていませんでした。


青年「小娘……」

 空気が変わっていきます。

 肌に突き刺さるような緊張感と、指一本動かす事さえできない重苦しさ。


 そして、今まで経験した事がないくらい、ハッキリと。

 ソレは死を連想させました。

少年「……魔女」

魔女「アレの前で生きていて、しかも正気を保てているなんて誇って良いよ」


 ゆっくりと歩いてくる青年さん。

 いえ、あれは青年さんの姿形をした別の何かです。
 世界中の嫌な物、怖い物を一つに集めて固めたら、あんな雰囲気になるんでしょうか?


魔女「随分と調子が良さそうだね? 現世に出るには随分と貧相な依代に見えるけど」

青年「貴様を消すくらいならこの人間を依代にしてもできるからな」

青年「その後、ゆっくりと復活させてもらうよ」


魔女「二百年も良いようにされていた死に損ないとは思えない強気な言葉だ」


青年「今回は別だ」

青年「なぁ、そこの少年」

 青年さんは、いや、魔王は唇だけを歪めて僕を見ました。

 なんだか魔女みたいな笑い方です。 その表情の奥にある物がなにも見えません。


青年「この付近の人間は実に素晴らしいな」


少年「え?」

魔女「……」

青年「いったいどうすればここまで醜悪な精神になるんだ? 特にこの男は酷い」


魔女「人の負の感情の塊が何を偉そうに」

 魔女は汚い物を見る目で魔王に言いました。

青年「あぁ、人と云う物があればこその私だ」


 魔王は言いました。

青年「なぁ、少年。 人と云う生き物は何とも愚かしく、愛おしいものだな」


 僕もそう思います。 ただ、魔王の考えとは真逆ですが。


魔女「無駄話はそろそろ止めないかい? 親しく話すような仲でもないだろう」

青年「確かに、そうであるな」

 二人は楽しそうでもあり、凄く不愉快そうでもありました。

魔女「少年、巻き添えにならないようにした方がいいよ?」


少年「え?」


魔女「周りを気にしてちゃコイツは倒せないから」


 それから、魔女は魔王に向けいくつもの魔法を撃ちました。

 夜空に届きそうな程の火柱。

 辺り一面を埋め尽くす氷河。

 全てを引き裂くように吹き荒れる豪風。

 でも。

青年「効かないな」


青年「~~~~」

 そのどれもが、同じような魔法で打ち消されてしまいます。

魔女「それはお互い様だろう?」

魔女「~~~~」

 魔王の撃った大量の火球を、今度は魔女が、大量の火球で撃ち落とします。

 互いに互いの魔法を打ち消す闘いがもう一刻以上続いていました。


少年「魔女? 大丈夫なの?」

 魔女は明らかに疲れてきていました。

魔女「あぁ、大丈夫だよ」


 魔女は一瞬だけこちらを見ました。

 燃えるような輝きを湛えている、暁のように深い美しい紫色。

 その瞳は、ひたすらに力強く、真っ直ぐな瞳でした。


魔女「守るべき物があると、どこまでも強くなれるんだ」


 魔女はにっこりと笑いました。

青年「茶番だな」

魔女「そう見えるかい?」

青年「あぁ、興醒めだ。 死ね」

 魔王は手を振りかざしました。
少年「あ……あぁ」

 恐ろしくなりました。 絶望、という物が形をなしたようです。

 地面が無くなったみたいに、足に感覚がありません。

 涙が溢れてきます。 奥歯はガチガチと震えて、情けなく空気が漏れます。

青年「~~~~~~~」

 魔王は手をかざして呪文を唱えてます。

少年「魔女……怖いよ」

魔女「あぁ、全く嫌になるね」
 魔女も震えていました。


魔女「逃げ出したいくらいだよ」

 魔女が手を差し出しました。

魔女「だから逃げないように、手を握ってくれないかな?」



少年「……うん!」

 魔女の手を握ります。



 もう、震えは止まっていました。


青年「~~~~~~」

魔女「さて、こちらもとっておきを使おうか」

 魔女はつないだ手を前に突き出します。

魔女「君はアイツから眼をそらさないで。 君が狙いをつけるんだ」

 魔女の声はこんな時でさえ、井戸の底みたいに澄んでいました。 でも、前みたいに冷たくはありません。

 陽向みたいに暖かくて、優しい声です。

魔女「僕は君を信じてる。 君は?」

 もちろん答えなんか決まってます。

少年「僕も魔女を信じてるよ」

魔女「ありがとう。 二人でやっつけよう」

 魔女は僕の手を強く握りしめて、目を瞑りました。


青年「~~~~……死ね」


 夜の闇よりも深い漆黒の塊が飛んできました。
 でも、僕は魔女を信じています。

 十メートル。

 五メートル。

 あと瞬きをするくらいの時間で二人とも直撃です。

 怖くなんてありません。

 誓ったって良いです。

 居るか居ないかわかんない神様じゃなくて、僕自身にかけて違います。

少年「魔女を信じてるから怖くなんてない!」

 一メートル。

 目は逸らしません。

 次の瞬間、目の前が真っ白になりました。

 眩い閃光は魔女と僕の手から放たれた物でした。

 その光の奔流は、目の前の魔法をかき消しても、一切衰えずに魔王へ一直線に向かいます。
青年「~~~~!」

青年「~~~~!」

 魔王がそれを防ごうと幾つもの魔法を撃ちました。

青年「~~!」

 しかし、効きません。

青年「小ぉ娘ぇぇぇえええっ!!」

 魔王は光に飲まれて消えていきました。

少年「魔女やっ……魔女?」

 繋いだ手から力が抜けていくのを感じました。

魔女「」

 魔女がその場で力なく倒れます。

少年「魔女!?魔女!?」

 魔女は返事をしませんでした。

今回の更新は以上となります。

更新します



少年「ねぇ、魔女?」

 返事はありません。


少年「こんな所にいると、風邪引いちゃうよ?」

 返事はありません。


少年「僕、帰る所がなくなっちゃったんだ」

少年「魔女は僕の居場所になってくれないの?」

 返事はありません。


少年「ねぇ……魔女」


 返事は……ありませんでした。





魔女「君は意外と泣き虫だよね」



 森を抜け、街道沿いを歩きます。

 良いお天気は足取りも軽くなってしまいますよね。


 僕は一人で歩きます。 歩いていきます。


少年「魔女……君はやっぱりズルいよ」


 返事はありません。

 あるわけない、ですよね。


少年「魔女……君はお別れの時、笑ってたのかな?」

 いったいどんな想いを持ってお別れしたんでしょうか。

少年「先に行っちゃうなんてね」

 少しだけ悲しくなってきました。

 一人でも平気だと思っていたんですけど、どうやら心が弱くなっちゃったみたいです


少年「あっ、見えた」

 見えてきたのは王都です。

 大きな門は開かれていて、色々な人、馬車、牛車なんかが行き来していました。


 つい、周りをキョロキョロと見渡してしまいます。

 田舎者と思われちゃいます。

 でもしょうがないです。

 人を捜しているんです。

少年「居た、おーい」

 見つけました。 周りから浮いているのですぐわかりました。

 太陽の下にいるとその髪はより一層輝いていて、眩しいくらいです。


少年「馬車で行くなんてズルいよ魔女!」


魔女「僕は体力がない、それにまだ本調子じゃないんだ」


 魔女が魔王を倒した時に放った魔法は、自分の全魔力を相手にぶつける魔法でした。

 もともと体力のない魔女は、魔力で補ってたのです。

 結果、三日三晩も寝込む事になったのです。


少年「でも起きた途端いきなり王都に行こうだなんて驚いたよ」

 魔女と市街地を歩きます。

 王都はとっても綺麗です。

魔女「僕はその後の君の発言に驚いたけどね」

 魔女は思い出したかのように、眉間に皺を寄せて僕を睨みました。


魔女「知り合いに会いに行くと言った僕に君はなんて言ったんだっけ?」

少年「…………」

 僕は魔女に知り合いが居た事に驚いて、つい「魔女に知り合いなんて居たの?」て言ってしまいました。

魔女「人に社交性が無いと決めつけた君の思考に驚きだよ」


 魔女は案外根に持つタイプらしいです。

少年「で?話を戻すけど、知り合いってどこにいるの」

魔女「ん、あそこに居る」


 魔女が指差した所は、いわゆるお城という建物でした。

 国の偉い人が住む立派な建物です。

少年「えぇ!?」

魔女「驚きすぎだ、少年」

 冗談かと思いましたが、魔女は何の躊躇もなくお城の前まで歩きます。

門番「止まりなさい。 ここは王城。 どのような用件でここに?」

少年「魔女……?」

魔女「あ、忘れてた」

 魔女は僕の手を引いて物陰に隠れました。


少年「どういうこと?」

魔女「~~」

 魔女が呪文を唱えます。

少年「魔女? ……!?」

魔女「驚きすぎだ、少年」

 目の前にいたのは、気品と妖艶さを纏った妙齢の女性でした。

魔女「んふふ、どーだ?」

 魔女は艶めかしく微笑みます。

 僕は、驚きすぎて声がでませんでした。


魔女「私よ。 コレは私の従僕、もちろん、通してくれるわよねぇ?」

門番「貴女は……!?」


 魔女は門番の前に立つと高慢とも思える態度で言いました。

門番「深森の塔の魔女。 貴女が王城に訪れるなんていったい何事でしょうか?」


 門番さんは緊張した面持ちで跪くと恐る恐る聞いてきました。


魔女「只の野暮用よ、詮索する程の物ではないわ」

 魔女はそれだけいうと自分の家にでも帰るようにお城に入っていきました。


少年「えーと」

 とんでもない事が起きてます。
 魔女「やぁ、久々だね四代目。 前に会ったのは戴冠の儀以来かな?」

女王「わざわざご足労頂くとは何事でしょうか?」

 目の前にいるのは、この国で一番偉い人です。
 ただの上品なオバサンではなく、この国を統べる女王様が、目の前に居るんです。


魔女「それよりも、何故僕が城に入る時は変身しなくちゃならないんだい?」

女王「救国の賢者たる貴女がちんちくりんの少女じゃ格好がつかないでしょうから」

魔女「格好ばかり気にしているならいっそ、魔神にでも化けて空から降ってこようか?」

 女王様と普通にお話している魔女はただ者ではないみたいです。


女王「世間話とお茶の為にわざわざ塔から来た訳ではないですよね?」

 魔女「報告が一つ、頼み事が一つ」

 魔女はテーブルに置かれた紅茶を飲み干すと、カップを弄りながら言いました。

女王「それは?」

魔女「先ずは報告、塔に封印中の魔王が目覚めて、それに伴い周囲が魔境と化した」


女王「して、その対処は?」


魔女「魔境と化した周囲と現れた魔物を殲滅、魔王の復活を阻止したが、現状を鑑みるに楽観視は出来ない」

女王「ふむ……、封印自体が脆くなっている、か。 被害は?」

魔女「近隣に存在する村一つが壊滅状態。 生存者はこの少年の他に存在しないと思われる」


女王「貴女の力を以てしても防げぬ程事態は深刻であったという事ですか」


魔女「あぁ、間違い無く魔王が完全に復活する日が近づいている。 それも近い内にだ」


少年「」

 真面目な話をしているせいでついていけません。

 うん、とりあえず紅茶が美味しくてソファがふかふかです。



魔女「早急に、とは言わないが国家間での対策を協議する段階だと頭に入れといてくれ」

女王「わかりました。 騎士団の方達にもより一層鍛錬を励むようにも言っておきます」


 話が終わったみたいです。


女王「で? 貴女が頼み事なんて言い方をするのはいったいどんな話なの」

 終わってませんでした。


魔女「そこの少年に人よりも少し幸せな人生を送れるように努力を惜しむな」

 え?

女王「……はぁ、具体的には?」

魔女「貴族の地位と、暖かな家庭をこの国で与えてやってくれ」


 待って……。 何を言ってるの?


女王「無茶を言いますね。 どちらもそう簡単に出来るものではないですよ」

魔女「僕の頼み事と、この国の既存兵力で僕を討ち取る事はどちらが難しい?」

女王「それは……」

魔女「この頼みを聞かなければ、僕は君の国に対して宣戦布告をし、一晩で滅ぼして見せよう」

女王「恐ろしい事を平然と言いますね。 そしてそれを可能とする実力があるという事も」


魔女「承諾したと受け取って良いのかな?」

女王「国は守らなければなりませんから」

魔女「良い心がけだ」


 僕はどうなるの? もう魔女と居れないの?

今回の更新は以上となります。
次の更新で最後……かなぁ

更新いたします。長らくお付き合いして下さりありがとうございました。この更新にて本編を終了とさせていただきます。


少年「まって!」

魔女「?」

女王「?」

少年「今の話って、僕の事だよね?」

魔女「あぁ、君にはもう帰る場所もないだろう?」

 魔女は僕の事が嫌になってしまったのでしょうか?

少年「一緒に居てくれないの?」

魔女「君は困った奴だな、せっかく幸せな人生を約束して貰えるというのに」

 魔女は何にもわかってないです。


少年「僕の幸せはそんなんじゃないよ……」


魔女「わがままだな、じゃあいっそのこと王族にねじ込んであげれば満足かい? なぁ女王、君の所の一人娘の婿はこの少年にしてくれ」


女王「私は娘の婿を決めるような権限はありませんよ」

少年「僕は!」


 魔女はまったくわかってないです!

 僕の幸せは――。


少年「僕は魔女と一緒居る事が幸せなんだ!」

魔女「え、あ……と」


女王「あらあら、うふふ」

魔女「君は真顔でとんでも無いことを言うね」

 魔女は被っている山高帽を深く被り直しながら言いました。


少年「駄目かな?」


魔女「いや……駄目じゃないけど」

魔女「あぁー、もう」


魔女「~~」

 魔女が呪文を唱えます。

 次の瞬間目の前から消えてしまいました。


少年「あ、魔女!?」

女王「さて、どうするのかしら?」


少年「追いかけます!」


女王「出口はあっちよ?」

少年「ありがとうございました」

女王「さて、これを持って行きなさい。 森の方面へ行く馬車の券よ」

 女王様がくれた券を受け取り部屋から飛び出ます。


王女「ふぇっ!?」

少年「うわっ!?」

 すんでのところでぶつかりそうになりソレを避けたまま馬車乗り場まで走りました。



女王「若いって良いわねぇ」

王女「ママ、今の人だぁれ?」

女王「さてね、縁があればまた会う事もあるでしょう」

王女「どーいうこと?」

女王「貴女が勇者として旅立つことがあれば、きっと彼らを頼る事になるわ」

王女「へぇー、そーなんだ」


 馬車がガタゴトと音を立てて走ります。

 太陽の光が優しく、なんとも気持ちが良いですね。


 不意にお母さんが言っていた言葉を思い出しました。


『世界っていうのはとても美しいものよ』

『何故かって? 秘密。 でも、貴方もそう感じる時がくるわ』


 うん、世界は美しいと思います。



 村の近くにある古びた塔。
 そこのてっぺんには怖い怖い魔女が住んでいるという噂でした。

少年「良かった、やっぱり居たんだ」

 魔女は居ました。
 絵本に出てくるような格好は、まさに魔女だと思います。
 魔女は夕闇のような濃い紫の瞳を細めて、僕を見ています。


魔女「まさかそれを確かめるだけにわざわざ僕の家まできたのかい?」

 魔女の声は何というか、陽向のように暖かく包んでくれて、でも井戸の水のような透明な声で、ドキッとします。

少年「魔女に会いに来たんだ」

魔女「なぜ僕に会いに?」

 魔女が、安楽椅子から降りて近づいてきます。
 身長はお姉ちゃんよりも小さくて、僕より頭ひとつ違うくらい。
 僕は、魔女って案外小さいんだなぁと思いました。

 ちょっと困ったような、でも嬉しそうな顔をして僕を見ました。


少年「ここに居ても良いかな?」

魔女「君はズルいね。 断らないと確信したうえで言っているだろう」

少年「そんな事思ってないよ」
魔女「僕はこわーい塔の魔女だよ? 食べられちゃうかもしれないよ?」

少年「それは怖いね、どこにいるんだろう?」

魔女「目の前に居るじゃないか」

少年「おかしいな。 僕の前に居るのは誰よりも優しくて頼りになる女の子だよ?」

少年「それに塔の魔女は世界を守っている優しい魔女だ」


魔女「うぅ~、君は口が達者になり過ぎじゃないか?」

 魔女は容姿に合った、可愛らしく拗ねたような顔で僕を睨みました。


少年「あなたが塔の魔女?」

魔女「いかにも、僕が塔の魔女だよ」


少年「ただいま」

 僕は嬉しくなって思わず笑いました。

魔女「おかえり」


 魔女もにっこり笑いました。




少年「あなたが塔の魔女?」




以上で

少年「あなたが塔の魔女?」

終了となります。

読んで下さった方ありがとうございました。

質問とうありましたらお答えします。


勇者→建国。

僧侶→神官。

戦士→旅にでる。

です。

それぞれのssのプロットを練っている段階です、そのうち書こうかと思っています。

お疲れ様でした。
文体が素晴らしかった。

少年の生い立ちに関して伺いたいです。
犬に育てられてたけど殺された?

>>318

普通に家族と暮らしていたした。

家族が疫病になり、村に疫病が蔓延することを恐れた村人達に家族を殺され、それ以降は寂しさを紛らわす為に野良犬と暮らしていました。

魔女「果ても無き世界の果てならば」

が続編?過去編となります。

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