比企谷 「やはりとある魔術の友達が少ないソードアートオンラインは間違っている?」 (319)

やはり俺の青春ラブコメは間違っている、とある魔術の禁書目録、僕は友達が少ない、ソードアートオンラインの
クロスオーバーです。

※注意
・初投稿です
・地の文大量発生
・不定期更新(遅)
・キャラ崩壊
・原作知識がほとんどない
・勝手がわかっていない
・捏造多数
・舞台がSAOなので超能力、魔術の類は出ません


まあ、ゆっくりのんびりやっていきたいと思います。誤字脱字、その他至らない点があったらご教授願います。

とりあえず途中から地の文が消えていくように努力します。


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とうこうしていきま

ごった煮w

立て逃げじゃないなら応援するわ

第三次世界大戦は終了し、さらに世界を狂乱の渦に巻き込んだ
『グレムリン事件』はその傷跡を諸所に残しながらも、人々の記
憶から消え去って行った。

そんな中……


聖クロニカ学園と呼ばれる西洋風の学校では相変わらずのよう
に友達作りを目標におかしな毎日を送る隣人部という部があった



千葉県にある総武高校と呼ばれる学校では他人を手伝うという
目的をかざした奉仕部という名の部があった。



東京西部に位置する巨大な自治都市、学園都市の第七学区にあ
る公園ではツンツン頭の少年と茶髪の少女が夫婦喧嘩にも見える
言い争いをしていた。



埼玉県に住む少し長い黒髪の少年はパソコンに映る新ゲーム開
発の情報や雑誌を見ながらひとりの科学者に興味・関心を持って
いた。


それぞれの場所で全く違った活動をする少年少女たち。それら
の人物たちは一人一人が個性を持ちつつも互いに協力できる仲で
あった。

オレンジ色の照明のみが申し訳なさそうに光源となっている薄暗い一室の中央で、巨大なビーカーの中に人間がさかさまに入ったような状態で水の中を浮遊している聖人にも罪人にも、大人にも子供にも、男性にも女性にも見える『人間』がいた。

隠世と呼ばれる漆黒の世界にいた魔神はその『人間』をアレイスター・クロウリーと呼称した。

そしてアレイスターは目の前に現れているSoundOnlyと表示されたホログラムを眺めながら、ホログラムの画面の向こう側にいるであろう人物達と話し合う。

ホログラムは合計四つ表示されていた。

そのうちの一つから低く無機質な声が聞こえてくる。

「それでは、手筈通りでよいかな? アレイスター君」

「私は構わないさ。しかし、他の者たちこそ良いのかね? これはイチかバチかの勝負でもあるのだよ」

 今度は別のホログラムから野太く活気ある誠実そうな声が聞こえてきた。

「私は娘と友人の息子の中を深めてくれさえすれば十分だ」

「いざというときは私がでどうにかしよう。おそらくは私の助けなく彼らは成長を果たすと思うがね」

 その言葉に三つめのホログラムから活発で建気な女性の声が聞こえてくる。

「そう簡単に変わってくれるかはわからんぞ。特にうちの生徒の比企谷は手こずるかもしれんな」

「それぞれが干渉しあえば別の結果が生まれる。我々はそれを確認するためにこうして集まっている」

「……」

四つ目のホログラムからは終始無言で何も聞こえてこなかったがアレイスターの言葉に全員が賛同したのは確かだった。

利害の一致という名目での協力関係。互いに何を考えているかはわからない。

それでも干渉しあった先に何が生まれるのか。

まだだれもわからないその結果を追い求める四人は、互いを利用しあって自分たちの観察対象にとっての最適な環境を整え始めるのだった。

 三つのホログラムが消え去ってからしばらくした時。

「……」

 四つ目のホログラムにむけアレイスターは告げる。

「頼んだよ。観測者《オブサーバー》」

「……」

 返事はなかった。

プツンッとアレイスターの目の前からホログラムの画面が消え去る。

それを確認してか、アレイスターは告げる。

「さあ、楽しい楽しいゲームの始まりだ」                      

 隣人部部室にて。

「あー。ゲームの中に入れたらいいのになー」

「またそんなことを言っているのか。いい加減現実を見てみろ。ゲームに入れる技術などあるはずがなかろう。所詮肉は肉のままか」

「ありますよ?」

 夜空の言葉に、これまた不意に理科が反応する。

「え、あるの? ゲームの中に入れるのっ―――?」

 急に星奈の目がキラキラと光りだす。

じりじりと寄り添ってくる星奈に苦笑いしつつも理科はそのゲームに入れる技術について説明する。

「私が研究開発をお手伝いしていたゲーム機でつい先日にベータテストの実施がされたんですよ。タイトルは『ソードアートオンライン』と言って結構話題になっているんですよ?」

「「「「?」」」」

隣人部一同は揃って首を傾げた。

一同といっても小鳩とマリアは現在はいない。それぞれ用事があるらしい。  

 首を傾げた組一同を代表して小鷹が理科に告げる。

「その、ソードアートオンラインってなんだ?」

 一瞬。

ほんの一瞬、天才科学者であるはずの理科の思考が停止した。

しかし、すぐに立ち直ってみせると早口で説明する。

「VRMMORPGという新ジャンルのゲームなんですよ。仮想現実といって、疑似的にゲームの世界を楽しめるゲームなのです。いまや、ネットでもニュースでも話題の種ですよ?」
 
理科のその言葉に星奈が先ほどにも勝る勢いで目をキラキラさせていた。

「そのゲーム。どこで売ってるの? 教えて。早く。教えなさい!!」

「いえ、流石にもう完売してると思いますよ?」

 理科は少しいいずらそうに言葉を並べていく。

そこで、新しい携帯に変えて機種をスマホにした小鷹がネット検索であるニュースを見つける。

『昨日発売された期待の超大作VRMMORPGソードアートオンラインですが、何と既にどの店でも完売。早いところでは開始一五秒で無くなったそうです。先行販売の一万部は売り切れ、ネットでも出回っていません。また、今後の追加販売はさらに先に
なるようで、ゲットできなかった人たちは悔し涙を浮かべております。あ~、わたしもほしかったなー―――!!』

 そのニュースを聞いてか、部屋中が静かになり、星奈がその場にぺたんと座り込む。

「ま、諦めろ」

 

「そうだ。パパに頼めば何とかなるわ。ついでに小鷹のもねだっておいてあげる」

 そういうと星奈は部室から一度出ていく。

そして、しばらくして肩を落とし絶望の表情に満ちた状態で部屋に入ってくる。

この分だと入手するのは不可能と言われたのだろう。    

「どうだったんですか? せいなのあねご?」

 幸村が訪ねるがまるで反応がない。ただの屍のようだ……。

 星奈は椅子に座るとはぁーと長いため息をついて先ほどの幸村の質問に答えた。

「ダメだって。もうどこも売り切れてるから手の出しようがないらしいわ」

 星奈は再度ため息をつくと椅子に体を預け、魂の抜けたような状態になった。

 そこに夜空が追撃をくらわす。

「いさぎよく諦めろ。肉は大人しくエロゲーをしていればよいのだ。仮想世界など、所詮はリア充空間にすぎん」

 その言葉にプツリッと何かが切れた音がした。                                   
「はぁ? 何言ってんのバカ夜空? 別に『ソードアートオンライン』なんて興味ないし。私は美少女達とキャッキャッウフフできればゲームなんてどうでもいいし。仮想現実? そんなんどうせポリゴンがカクカク動くだけのクソゲーよ!!」

 その瞬間、夜空と理科が目を合わせ意思疎通を図った。 

 ひたすら叫ぶように夜空の言葉を否定した星奈は気持ちが高まっているせいか気づかなかったが、はたから見ていた小鷹と幸村は気づいていた。

 夜空のと理科の口元がニヤリッと一瞬だが明確に歪んだことに。

「そうか。つまり肉は『ソードアートオンライン』には、仮想現実には、まっっったく興味が無いと?」

「そうよ!」

 即答する星奈。
 
 夜空に続くように理科も星奈へと尋ねる。

「もし私が『ソードアートオンライン』と専用ハードのナーヴギア一式を五人分取り揃えていてみんなで一緒にプレイしようと思っていても、星奈先輩は興味が無いから関係ないと?」

「そうよ!! て、え、あれ?」

 またしても夜空と理科が微笑む。

「そうか。そうだったか肉よ! しかし、アレだな。せっかく理科がカセットとハードをそろえてくれたのだ。みんなでプレイしようではないか、まっっっっっったく興味が無い肉はやらなくてもいいよな」

「そうですね。小鳩ちゃんかマリアさんにあげますか」

 その二人の言葉を聞いて星奈が慌てたように言う。

「ちょ! ちょっと待ってよ!! さっき夜空もリア充空間だとかどうとかいっていたじゃない!!!!!!」

 焦りのあまり言葉を言い切ってからハァハァと息をつく星奈に夜空は冷静に返答する。

「確かにリア充空間だとは言ったが」
 

「なあ小鷹」

「ん?ああ、なんだ?」

 あまりにも二人の悪意が見え透けてしまっていたため、いきなり話しかけられて少し驚く小鷹。

「もし、友達ができて誤ってそいつとリア充空間に行ってしまったとして、その時にキョドらないためにも練習は必要だとは思わないか?」

「まあ、それもそうだな」

「その時のために『ソードアートオンライン』は良い環境だと思はないか?」


「それはどうかわからんが確かにやってみるのはいい事じゃないか? ネトゲとかオンラインゲームで交友が広がるって話もあるし。友達を作るのに対しても良い環境であるのは間違えないだろうな」

 小鷹の言うとうりオンラインゲームなどで友達を作れたりする場合もよくあることだ。であるならば『ソードアートオンライン』をプレイしてみるのも部活としては良いだろう。

「な! 小鷹まで……」

 小鷹の言葉を聞いた理科は「ナーヴギアと『ソードアートオンライン』を持ってまいります!」と言い残して機材を取りに行ってしまった。

 幸村もお手伝いということで理科に付き添って行ってしまう。

 自分だけはぶられてる感を実感したのか星奈は目に涙を浮かべると、
「うわあああああああああああああああん!!!!!! 夜空のバカアホしんじゃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
と何故か夜空にだけ文句を言ってどこかへ行ってしまう。

 日常風景になりつつあるこの場面は小鷹としても苦笑いしかできなかった。

訂正

「それはどうかわからんが確かにやってみるのはいい事じゃないか? ネトゲとかオンラインゲームで交友が広がるって話もあるし。友達を作るのに対しても良い環境であるのは間違いないだろうな」

です。いきなりすみません。

 数分後。

 
 案外すんなり戻ってきた星奈だった。

 
 星奈と途中で合流したという理科と幸村は持ってきた機材を各々に配り終え―――星奈の分もちゃんとある―――彼らはナーヴギアを装着する。
 
 その寸前。

 理科が今思い出したの如く告げる。

「あ、キャリブレーションという機能があるんですけど、これいろいろと面倒ですから家に帰ってから各自ゲームを起動することにしましょう」

 小鷹も今までの騒ぎのせいなのか、いまさらのように着信があることに気づく。

 どうやら小鳩のメールだったらしく、内容は厨二すぎて読み取りずらいが早く帰ってこいとのことだった。

「そうだな。ゲームプレイは後にするか」

 夜空も理科の意見に賛同したのか帰り支度を始め、それにつられるように幸村、小鷹、星奈と一様に帰り支度を始める。
 
 隣人部の今日の活動はここで終了となった。

 

 

今日はここまでにします。

これで隣人部(小鷹、星奈、夜空、理科、幸村のSAO参加は決まったはず!

はてしなくエタりそうな予感
まあ続く限りは応援するよ

よく似た組み合わせのクロスがエタってたな
期待したい

凄く期待してます!頑張ってください!

アレイスターと同等とかペガサスと平塚先生何者だよ(笑)
がんばってくれ

日付も変わったのでちょっとだけ投下

 学園都市第七学区・常盤台中学学生寮内にて

「やったああああああああああああああああああああああああ」

 とは流石に叫ぶことはできないので学生寮全体に響くような声を小さなガッツポーズのみで表現する学園都市レベル5第三位の超能力者、御坂美琴。

なぜ彼女がこんなにも喜んでいるのか、その理由は昨日の朝までさかのぼる。




とある朝、上条当麻と御坂美琴はいつものように、いつもの公園で、いつものごとく喧嘩をしていた。

「だからぁぁぁぁ、私の名前は御坂美琴だつってんでしょ!! いい加減に覚えろやコラァァァァァ!!!!」

 こうなっているのは例のごとく、上条が美琴を『ビリビリ』呼ばわりしたからだ。

「うわっ。やばい!!」


 美琴から電撃が放たれそうになるが寸でのところで上条はそれを制止する。

 厳密には幻想殺しの宿る右手で美琴の頭をナデナデして……。

「ふにゃー///」

 いい加減美琴の扱い方も分かってきたかのようになで続ける上条。

 美琴が怒ると色々と危険なので頭を右手でタッチし無力化するのが一番簡単なのだが、そうすると美琴が幸せそうな顔をする。

 幸せならなでても問題ないなということで上条は毎日のように喧嘩を吹っかけてくる美琴に対してなでるという選択肢は最も有効な手段としていた。

 暇があれば喧嘩相手? をしてあげなくもないのだが今日はわけが違った。

「ん? アンタその手に持っている袋って何?」フニャー///

「ああ、これですか」ナデナデ

 なでつつも器用に袋を指し示す上条。

「これはナーヴギアとソードアートオンラインというゲームなのですよ」ナデナデ

「ゲーム?」フニャー///

「そそ。何でもVRMMORPGっていってすごい人気らしい。これはそのゲームソフトとハード」ナデナデ

「VRMMORPGねぇ」フニャー

 なぜ上条がこれを持っているのかはいつものように土御門元春の仕業だ。

 土御門曰く、

「いい加減上やんにも休暇があってもいいってことらしいぜよ。詳しいことはわからんがどうも統括理事会の意向らしい。ま、またなんか企んでるんだろうけど上やんなら心配ないにゃー」

 らしい。

 

>>3 >>12 >>13 >>14
ありがとうございます。エタらないように頑張ります!

>>16
ですよね(笑)

間違いました。
>>15
ですよね(笑)
>>16はギリギリ日づけが変更していなかった……

プロローグ的なのよりSAOにいきなり凸でよくね?
此処に来てる人らは大概がメインキャラを把握してるだろうし

>>20
かもですね。でもいちよう途中まで上げてしまったのでプロローグ的なのは最後までやっておきます。
ご指摘ありがとうございました。

では、投下。

美琴は放課後になるとすぐさま寮に戻った。

 そして、VRMMORPGなるものについて調べる、といっても話題の物の情報なんてビックリするぐらい簡単かつ大量に手に入る。

 美琴はそこに発売日と発売するお店について調べ始めた。

 幸いなことに学園都市にも発売するお店がいくつかあり、次の日朝に店頭に並んだ。

 学園都市では完全下校時刻というものがあるため、前の日から店前で並んでいるということはできない。

 しかし、朝の五時だというのにすでに行列はできていた。
 
 先行販売の一万部のうち100部は学園都市内で販売されるようになっている。

 その100部をゲットできるなどいくらレベル5の力を持っていたとしても困難すぎた。

 だから、ここはパートナーに頼るしかないと美琴は決断する。

「もしもし、黒子? 実は頼みたいことがあるんだけど……」

そして時は現在に戻る。

 白井黒子の能力、空間転移《テレポート》のおかげで運よくソードアートオンラインとそのハードであるナーヴギアを手に入れた美琴はキャリブレーションを済まし、上条と一緒にログインしようと約束を交わす。
 
 まあ、約束を交わすのに一時間もメールの文句を考えていた美琴を見て発狂したのはいつものことだろう。

 しかし美琴も上条も見落としていた点があった。

 何故、上条は発売日より早く土御門からソードアートオンラインのゲームソフトをもらっていたのか。

 だがその目的を学園都市内で知るのは統括理事長のアレイスターのみだった。

 千葉県総武高校奉仕部部室にて

「……」
 
「……」

「……」

 沈黙する三人がいた。

 沈黙した理由はこの人、平塚静先生だ。

「何故沈黙する。いつも通りの依頼だろう。難なくこなせるはずさね」

 本人はハッハッハッと笑っているがこの三人としてはたまったもんじゃない。

「平塚先生」

「ん?どうした雪ノ下」

 沈黙した三人を代表して雪ノ下雪乃が平塚先生に問う。

「なぜ、私たちがこんなものをやらなければならないのでしょうか」
 
「いや、そこじゃないでしょ」

 雪ノ下の言葉にツッコミを入れる少年、比企谷八幡。

「平塚先生。これ、今話題のナーヴギアとソードアートオンラインですよね? なぜこれ持ってるんですか? 普通の教職員だったら手に入れるのは難しいと思いますよ。それに三つも」

「ヒッキー……」

 平塚先生をにらむ八幡を見て不安そうにする少女、由比ヶ浜唯。

 彼らはこの学校で奉仕部という部活を行っているが今回平塚静から受けた依頼の内容はこうだ。

『話題のゲームを手に入れたのだが一度プレイしてみてゲームの評価をしてほしい』

 たったそれだけだが比企谷八幡という男は疑い深い。

「確かに俺はゲームが好きだし由比ヶ浜も一緒でしょう。でも、俺が気になっているのはそこじゃない。何故、売り切れ続出しかも、限定一万本のゲームソフトをなぜあなたが持っているのか、もしかして昨日休んだ理由って『それを買いに行くため』じゃないですよね?」

「うぐッ―――」

 比企谷の言葉とともに浴びせられた三人の視線により平塚先生が言葉に詰まる。

「ま、まあ、それはなんだ。あれだよ。ともかく頑張ってくれ!!」

 バタンッとドアを開閉して部室から一瞬にして逃げ去っていく。

「比企谷君が脅すから平塚先生が逃げてしまったじゃない」

「あれを脅しとは言わんだろう」
 
「でもヒッキーすっごい怖かったよ。特に目」

「由比ヶ浜さん。比企谷君の目が怖いのはいつものことよ。目が腐っているのだから」ニコ
  
「絶対お前の目の方が怖かったよな」

「何か?」ニコ

「なんでも。それよりどうすんだ、これ」

 比企谷が言うと雪ノ下は顎に手を当てて真剣に考え始める。

「平塚先生の依頼だし受けたらいいんじゃないかな」

「そうね。ゲームをやらされるっていうのが少し癪だけど、技術的には興味があるから、まあ、やってもいいかしら」

(もしもし、雪ノ下さん? 最近由比ヶ浜さんに優しすぎじゃないですか?)

「これ、どうやって使うのかしら?」

 比企谷の心の声をよそに雪ノ下はナーヴギアを下からのぞきこんでみたりポカンッと叩いたりしてみるがなにも反応しないことに少し不機嫌になる。

「これ被ってみるんじゃないかな。こんな感じで」

 試しに由比ヶ浜がナーヴギアを装着してみる。

「お、ちょうどいいんじゃねえの?」

 比企谷がそう言った瞬間、バタバタと廊下から足音が聞こえてきた。

「言い忘れていた。そいつを使うのは家に帰ってからにしておきたまへ、今日はもう帰っていいから」

 平塚先生がものすごい速度で言い終えたかと思うとさらにすごい速度でまたどこかへ逃げていった。

 比企谷たちは平塚先生の言うとおりにそれぞれの帰路につく。

埼玉県とある家の人室にて

 髪の長めなその少年は自分を魅了したその人物についての雑誌とニュースを眺める。

 VRMMORPGソードアートオンラインを作った張本人、茅場明彦についての雑誌やニュースばかりだった。

 中性的な顔に少し長めの黒髪。

 遠目から見れば女性にも見えてしまうその少年、桐ケ谷和人はパソコンの電源を消し、そしてナーヴギアと呼ばれるヘッドギアのようなものを被り、楽な姿勢になるようにベッドに横たわる。





 学生寮の一室で。

 それぞれの家で。

 それぞれの目的で。 

 彼らは一様に、そして同時にこう告げる。


「「「「「「「「「「「リンクスタート!!」」」」」」」」」」」

今日はここまでにします。
明日からは夜更新になると思います。

訂正です。
由比ヶ浜さんの「ゆい」は唯ではなく結衣でした。
また、失敗……ほんとすみません

今日は寒かったですね。朝起きたら雪が降りまくっててビックリ!
 
家は片田舎なのですが一面真っ白になってしまいました。皆さんはどうでしょうか?

それでは投稿していきま

隣人部の部室から家に帰り、小鳩の夕食を作り風呂に入ったすぐあとに羽瀬川小鷹はナーヴギアを起動させキャリブレーションを終え、ソードアートオンラインのソフトを立ち上げた。

 目まぐるしい彩度変化が終り、一面真っ白な世界が訪れる。

『Welcome to Sword Art Online』

 そんな簡素な表示が目の前に現れ、現れたホログラムをタッチする。

『プレイヤーネームを入力してください。』

「名前か……。みんなにわかりやすいようにKodakaでいいか」

 慣れないホログラムに対してゆっくりと名前を記入していく。
 
 プレイヤーネームを入力し終え、〇の表示をタッチする。

『初期装備を選んでください』

「…………」

 小鷹は表示されたホログラムの中を懸命に見据えて初期装備を何にするか考える。

 そして、しばらく経ったのちにホログラムに表示されたカテゴリの中の一つを選んだ。

『片手剣でよろしいですね?』

 小鷹は最後の迷いを振り切るように〇の表示をタッチした。

 その後もいくつかの操作を終えて最後のシステムメッセージが表示される

『始まりの街に転送されます』


 小鷹がその文句を確認した刹那、体が青白い光に包まれて視界がアウトする。

目をゆっくりとあけるとそこは小鷹がさきほどまでいた真っ白な世界ではなかった。

 小鷹がきょろきょろと周りを見渡していると聞きなれた声が後方から聞こえてくる。

「もう、遅いわよ小鷹。この私を待たせるんじゃないわよ」

「星奈。ログインするの早いな。他のみんなは?」

「みんなもう来てるわよ。ま、私がいっちばん最初だったけどね」

「おまえ……そんな楽しみだったのか」

「ちょ、違うわよ!! 私はただ早く家についただけだから……」

「お、あれか? おーい、て、大丈夫か夜空、理科!?」

 小鷹と星奈は他のメンバーに駆け寄る。

「だめだ。人が多すぎる。もう落ちる。マジで落ちる」

「同じくです……」

 夜空と理科の二人はそれぞれ幸村に片肩ずつ支えてもらっているが、すでにギブアップ寸前だった。

「あにき、どうしましょう?」

 二人を支える幸村は困り果てた顔で小鷹に尋ねる。

「とりあえず一度ログアウトさせるか。で、ログアウトってどうやるんだ?」

 小鷹が星奈に尋ねる。

「小鷹そんなのも知らないの? こう、人差し指と中指を合わせながら右手を縦に振ってみて」

 小鷹は星奈の言われた通り右手を縦に振る。
 
 すると半透明のホログラムが現れ、ゲーム機で言うスタートボタンを押した時のようにメインメニューが開かれる。

 星奈の説明のままによく設定で使われる歯車のようなアイコンをタッチする。 

「それで、設定のところの一番下に……あれ?」

 星奈の言葉が途中で途切れたため、その原因であろう設定の一番下を見る。

 が。

 本来なら設定の一番下にあるはずのログアウトボタンがなかった。

「お、あれか? おーい、て、大丈夫か夜空、理科!?」

 小鷹と星奈は他のメンバーに駆け寄る。

「だめだ。人が多すぎる。もう落ちる。マジで落ちる」

「同じくです……」

 夜空と理科の二人はそれぞれ幸村に片肩ずつ支えてもらっているが、すでにギブアップ寸前だった。

「あにき、どうしましょう?」

 二人を支える幸村は困り果てた顔で小鷹に尋ねる。

「とりあえず一度ログアウトさせるか。で、ログアウトってどうやるんだ?」

 小鷹が星奈に尋ねる。

「小鷹そんなのも知らないの? こう、人差し指と中指を合わせながら右手を縦に振ってみて」

 小鷹は星奈の言われた通り右手を縦に振る。
 
 すると半透明のホログラムが現れ、ゲーム機で言うスタートボタンを押した時のようにメインメニューが開かれる。

 星奈の説明のままによく設定で使われる歯車のようなアイコンをタッチする。 

「それで、設定のところの一番下に……あれ?」

 星奈の言葉が途中で途切れたため、その原因であろう設定の一番下を見る。

 が。

 本来なら設定の一番下にあるはずのログアウトボタンがなかった。

最初は見間違いかと思って小鷹も星奈も目をこするが、表示は変わらない。

「なんで、ログアウトボタンがないのよ! ちょっとバカ夜空、あんたたちの方は!?」

「うるさいぞ肉。ただでさえ頭が痛いというのにこれ以上悪化させるな肉。ログアウトボタン? そんなのないぞ」

「そんな……」


 そして、ガーンゴーンガーンゴーンと思い鐘の音が響き渡る。

 周りに小鷹が始まりの街に転送された時と同じエフェクトが発生し一万人近い人々が広場に強制転移される。

 最初は何がなんだかわかっている様子ではなかったが「どうせ運営のパフォーマンスだろう」という意見が多い。

 ピコンという音とともにみな一様に音源であろう何もないはずの空のある一ヶ所を見上げた。

 小鷹たちも同じようにある一ヶ所を見上げる。

『WARNING』

 この表示が点滅を繰り返し、やがて天井のように広がって広場一帯を多い尽くす。

 表示の隙間から血のような液体が流れ出て、巨大な赤ローブのアバターを形造る。
 
「なんだ、アレ……?」

 呟く小鷹と同様に広場に集められた人たちが口々に不安の声を募らせる。

「なによあれ?」
  
「ゲームマスター?」

「何であんなでかいんだ?」

「何で顔がないの?」

「怖い……」

「まて、俺はいきなり小動物っぽくなった御坂さんがこわ……ガフッ!? おい!! 圏内じゃなかったら今のダメージ食らってたぞ!?」

「おい、そこ二人。なんで俺の後ろに隠れる?」

「「なんか、あの巨大なローブアバターが比企谷君(ヒッキー)と同類に感じたから」」

「まて、俺ほどボッチを極めた人間がそう簡単にいてたまるか」

 巨大な赤ローブ姿のアバターは両手を広げながら自分を誇示するように告げる。

『プレイヤーの諸君。私の世界にようこそ』

「私の世界?」

 現実とはかけ離れたいかにも勇者のようなアバターのキリトという名のプレイヤーが問うように反唱するが、それを無視して赤ローブのアバターは自らを名乗る。

「私の名は茅場明彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」

 「……なっ」
 
 キリトは自室で読んだ雑誌やニュースを思い出す。

 茅場明彦、学園都市や志熊理科の助力を得てナーヴギアとソードアートオンラインを創りだした天才科学者。


 その宣言に驚くように数多のプレイヤーが口々に言う。

「本物かよ」

「随分手混んでるな」

「早く終ってくれ。この人だかりはきつい」

 またしても人々の声を無視して赤ローブのアバター、茅場明彦と名乗る赤ローブのアバターは告げる。

「プレイヤー諸君はすでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない。繰り返す。これはゲームの不具合ではなくソードアートオンライン本来の仕様である」

「し、仕様?」

 先ほどまでキリトと行動を共にしていた男性プレイヤーのクラインが不思議そうに言う。

 仕様。つまりはそれ自体、ログアウトできないことが遊び方として正しいということだ。

 赤ローブのアバターは続ける。

「諸君は自発的にログアウトできない。また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止解除もあり得ない。もし、それらが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」

 その言葉を認めたくないのか。

 それとも認めていながらもそんなことは不可能だと決め込んでいるのかは分からないが、広場に集められたプレイヤーたちは口々に非難の声を発する。

「どうゆうことですか、あにき?」

「多分盛り上げるための演出だろ」

「ちょ、夜空と理科の顔がさらに青くなってるわよ!?」

「御坂、マイクロウェーブってなんだ?」

「マイクロ波のことね。電波の周波数による分類の一つで電子レンジとかに使われてるアレ」


「早く終わってくれないかしら」

「もう行っちゃっていいんじゃないかな?」

 由比ヶ浜の言葉に従うように、周りにいたプレイヤーたちも広場から出ようとする。

しかし、

「あてっ」

「どした?」

「何これ? 見えない……壁……?」

 由比ヶ浜が広場から出ようとすると空間に水質性の波紋が広がる。

 比企谷も広場の向こう側と思われる部分に手を伸ばすが、先ほどの由比ヶ浜のように広場内の空間に波紋が広がるだけで、その先の空間には手が届かない。
  
 まるで、透明な水の壁に閉じ込められているているかのような状況である。


「何ってんだあいつ。頭おかしんじゃねえ? なあ、キリト?」 

クラインが隣りにいたキリトに同意を求める。

が、

「信号素子のマイクロウェーブは確かに電子レンジと同じだ。リミッターさえ外せば、脳を焼くことも……!!」

 御坂にキリトがいった話と同じような話を聞かされた上条は一つの提案を出す。

「じゃあ、電源を落とせば……」

「無理ね。内臓バッテリが入ってるって取扱説明書に書いてあったわ。そっちを使われたらアウト」

「お、上条さんひらめいちゃいましたよ!!」

「?」

「御坂が電気を操ればいいんだよ。現実の方で」

「悪いけど無理な相談ね。現実の体は指一本動かせない状況なのよ。そんな状況で能力が使えるはずがないじゃない。そもそも、演算できたとしても……」

「……ナーヴギアはここで脳から発生される電気信号をストップさせてそれをこっち側の運動だのなんだのに反映させている」

 夜空はそう言って自分の後頭部より少し下のうなじら辺を指し示す。

 そして、まるで会話がつながっているかのように別の場所で雪ノ下が告げる。

「今現在、正確にはここからログアウトしない限り、私たちは現実の体を動かせない。そしてログアウトすることは不可能」 
 赤ローブのアバターは話を続ける。

「残念ながら、現時点でプレイヤーの家族、友人などが警告を無視し、ナーヴギアを強制的に解除しようとした例が少なからずあり、その結果、213名のプレイヤーがアインクラッド及び現実世界からも永久退場している。

「213人も……!?」

 キリトは信じられないように言う。

 クラインは、

「しんじねぇ。信じねぇぞ!俺は!!」

 と大きく横に首を振る。

 だが、赤ローブのアバターがその巨大な片腕を持ち上げると証拠を提示するようにいくつものニュース、新聞、ネットなどの情報が、永久退場したプレイヤーたちの情報がホログラムによって多数表示された。

「ご覧のように多数の死者ことを含め、この状況をあらゆるメディアが繰り返し報道している」

 ホログラムに表示される記事には、

『オンラインゲーム事件 被害者続々と』

『埼玉でも犠牲者が!』

『千葉県総武高校でも被害者が3人』

『学園都市 オンラインゲーム事件被害者90人以上!?』

『有名校、あの聖クロニカ学園の理事長の娘と一部の部活メンバーがオンラインゲームに幽閉!!』

 など様々な文句や被害者の写真が報じられていた。

「よって、すでにナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっているといってよかろう」

 一つの画面では犠牲者の家族らしき少女が泣いているのがわかる。

「諸君らは安心してゲーム攻略に励んでほしい」

「ゲーム攻略……?」

「どうしたの。ゆきのん?」

「……いえ、何でもないわ……」
 
 そして、赤ローブは声を少し大きくして告げる。

 まるで、これが最重要項目というように。

「しかし、十分に留意してもらいたい。今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントが0になった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に……」

 決定的で、信じたくなくて、それでもこれが現実であると突きつけるように赤ローブの巨大アバター、茅場明彦は言う。

「諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される」

今日はここまでにします。

見てお分かりの通り、基本的にはソードアートオンラインのアニメと同じような流れで行きたいと思います。

が、キリトくんのフラグ立てイベント、アニメで言う3,4,5,6,7,8話は書かないでオリジナルイベントを入れていきたいと思います。

投下します。

あと、一応ですが、ソードアートオンラインの原作の様に話がとびとびになります。特にレベルとかが変わってることが多いのでその都度報告します

その瞬間、キリトは自分がベータテストで何回も死んだことを思い出す。

 その瞬間、上条当麻はとある魔神との戦いや第三次世界大戦で自分が今も生き残ってきた奇跡が、この世界では全く通用しないことに気づく。

 その瞬間、小鷹は星奈や夜空、幸村、理科を守らなくてはいけないという使命感に追われ、同時に現実に残してきた小鳩やマリア、ケイトなどの色々な人々を思い出した。

 その瞬間、比企谷は何も感じていなかったが、ふと現実に残してきた戸塚彩香の泣き顔を思い浮かべ、何としてでも生き残るとの決意をする。

 1万人のプレイヤーが唖然とする中、赤いローブのアバターは平然と言葉をつづける。

「諸君らが解放される条件はただ一つ。このゲームをクリアすればよい」
 
 巨大なアバターはメインメニューを出現させるとホログラムで構成されたアインクラッドの3Dマップを表示する。

「現在君たちがいるのはアインクラッドの最下層、第1層である。各フロアの迷宮⑨を攻略し、フロアボスを倒せば上の階に進める。第100層にいる最終ボスを倒せばクリアだ」

「クリア?」

「どういうことだ?」

「て、適当なこと言わないでよ!!」

 クラインは先ほどキリトに言われた時のことを思い出し、赤いローブのアバターに向け大声で叫ぶ。

「クリア? 第100層だと? できるわけねえだろうが。 ベータテストじゃろくに上がれなかったんだろ!!」


しかし、万民の声は赤いローブのアバターには届かない。

「それでは最後に。諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ」

 その言葉を聞いて、小鷹はメインメニューを出現させ、まだ空っぽであるはずのアイテムストレージを確認する。

 それと同様に他の人々もアイテムストレージを確認し始めた。

「手鏡?」

 美琴がその意図の分からないアイテム名を呟きながら、指の先でタッチし、オブジェクト化する。

 上条も同じように美琴の動作をまねして手鏡をオブジェクト化する。

 何の変哲もない手鏡。

 映るのは現実とは遥かに違うファンタジーめいた自分たちのアバターの顔のみ。

 プレイヤーたちがそう思ったところで、転移エフェクトと同じような青白い光が瞬く間に体を包み込む。

圧倒的光量で視界がアウトしたのち、また少しずつ視界がクリアになっていく。

「……おう、キリト……大丈夫か?」

「あ、ああ」

 だが、キリトはそこで違和感を覚える。

「あれ、お前誰?」

「オメェーこそ誰だよ?」

 再度手鏡を覗き込むキリト。

 そこに映るのはファンタジーめいた顔ではなく、線が細く、中性的な現実と全く一緒の自分の顔だった。

その周りでもプレイヤーたちがざわざわと自分の姿に気づき始める。

「あら、比企谷君。相変わらず腐った目ね」

「ほっとけ。お前こそなんで現実と同じ姿になってんだ? さっきまでファンタジー風の格好だったじゃん」

「ヒッキー。なんか、その顔で短剣持ってるって犯罪者にしか見えないね」

「お前こそ。それで曲刀持ってるのおかしくね。どっちかつうと片手剣の方が似合うぞ」

「そうかなぁ?」

 別の場所でも。

「小鷹、大丈夫?」

「ああ」

「なんで現実の背格好になっているんでしょうか?」

「やっぱりか。まあ、モン狩とかこの前理科が使わせてくれたゲーム機みたいな感じよりは服装が合うからいっかな」

「「早く、この場から、出してください……」」

 夜空と理科は周りのプレイヤーの顔がよりリアルになったことでさらに病状悪化状態になっていた。

 そしてもちろんこっちでも……。

「あれ、御坂? なんで現実の背格好?」

「アンタこそ。やっぱ、さっきの手鏡が原因っぽい?」

 中には……、

「あんた男かよ」

「十代なんて嘘かよ」

という声まで聞こえてくる。


 そこまで聞いてキリトは気づく。

「てことは?」

「「お前(オメェ―)がクライン(キリト)か!?」


 キリトとクラインは互いに指を差し合った。

「え、でも、なんで?」

「スキャン。ナーヴギアは高密度の信号素子で顔をすっぽりと覆っている。だから顔全体の構造を把握できるんだ」

「でも御坂。なんで身長や体格まで現実と同じになってんだ?」

「キャリブレーションってやつじゃないの? ほら、アンタもやったでしょ。体をペタペタさわるやつ」

「ああ、あれか」

「でも、どうしてこんなことをするのかしら」

「当然の疑問だな、雪ノ下。ま、どうせすぐに答えてくれる」

 比企谷の言うとうり、赤ローブのアバターは告げる。

「諸君は今、なぜ? と思っているだろう。なぜ、ソードアートオンライン及びナーヴギア開発者の茅場明彦はこんなことをしたのかと」

 そして少し間を空けてから言う。

「私の目的はすでに達せられている。この世界を創りだし、鑑賞するためにのみ、私はソードアートオンラインを作った。」

「茅場……!」

「そして今、全ては達成せしめられた。以上でソードアートオンライン正式サービスのチュートリアルを終了する」

 赤ローブのアバターは最後に、

「プレイヤー諸君の健闘を祈る」

と告げてから、次第に透明になり消えていく。

 そして、広場を覆っていた透明な壁は消え去り、夕日が照る普通の巨大な広場へと変異する。

 たくさんのプレイヤーが唖然とする中。

 現実をきちんと認識していたプレイヤーがいた。

(これは現実だ。彼に魅了されていた俺だからわかる。彼の宣言はすべて真実だ。この世界で死ねば俺は本当に死ぬ!!)

 キリトは覚悟を決める。

 拳を強く握りしめる。

やがて唖然としていたプレイヤーたちは小さな甲高い悲鳴とともにパニック状態に陥り、この世界から出すようにこの世界の神、茅場明彦に請願し始めた。

「ざっけんなよ!! 出せ!! ここから出せよ!!」

「こんなの困る。この後約束があるんだよ!!」

「何考えてんだ!!」

「出してくれよ!!」

「嘘だっといえよ!!」


 罵声、憤怒、絶望、請願。 


 1万人近くに及ぶプレイやたちがパニック状態になっているなか、明らかに全く別の行動を起こしているグループが4つあった。

 一つ目のグループはキリトとクライン。

「クラインちょっとこっちにこい」

「え、うわぁ!?」

 半ば引きずられるようにクラインはキリトとともに人通りの少ない誰にも見つからないように路地裏のような場所に入り込む。

 二つ目のグループは小鷹と星奈、夜空、理科、幸村の五人だ。

「とりあえず、夜空と理科を人が少ない宿かどこかに連れて行こう。話はあとだ」

 小鷹が夜空を幸村が理科を抱えて宿を探し始める。だが、なぜここまで冷静でいられたのか。もしかしたら冷静になってる風で実は冷静になっていなかったのかもしれない。

 三つめのグループは比企谷、雪ノ下、由比ヶ浜たち三人だった。

「ちょっと。どこに行くのヒッキー。あ、ゆきのんまで!!」

 頭が状況についていっていなかった由比ヶ浜はパニック状態で突然歩き出した比企谷と雪ノ下を追う。

 四つ目のグループは上条と美琴。

「行くわよ」

「行くってどこに?」

「ちょっと、こっち来なさい!!」

 そう言うと美琴は上条を引っ張って走り出した。


今日は以上にします。

ようやくのごとく第1話が終る……。

あと、地の文が全然減らなくてすみません。

おもひろい
期待

きらいじゃない
待ってる

>>46 彩加な あと迷宮⑨
なんにせよ完走まで頑張れ

どうでもいいけどホモ翌要素はありますか?┌(┌^o^)┐

八幡が思い出すのは小町のがそれっぽくてよかったかな
まあなんにしても完走まで頑張ってくれ
急がんでもいいからモチベを保つ努力を

>>55
ご指摘ありがとうございます。次からは気を付けます。(気をつけてもできないのが私だけどな!!)

>>56
ホモは今のところ考えてないですね。

>>57
確かにですね。そこはもう少し考えて書くべきでした。参考にさせていただきたいと思います。

>>53 >>54 >>55 >>56 >>57
コメありがとうです。今後の励みにさせていただきたいと思います。(ホモかぁ~)

訂正+a

その瞬間、比企谷は何も感じていなかったが、ふと、現実に残してきた戸塚彩加の泣き顔とそして、先ほど赤ローブのアバターが提示したニュースの一つに映っていて家の前で泣いていた少女、妹の小町を思い浮かべ、何としてでも生き残るとの決意をする。

と、


「現在君たちがいるのはアインクラッドの最下層、第1層である。各フロアの迷宮区を攻略し、フロアボスを倒せば上の階に進める。第100層にいる最終ボスを倒せばクリアだ」

です。本当に失礼いたしました。

ちょっとだけ投下

 一万人もの人々がパニック状態に陥る中。明らかに別途の行動をとるものたち。
 
 果たしてそれが何を示すのか。
 
 なぜ、パニックにならないのか。

 それを知るのは本人たちだけだろう。

とある路地裏

「よく聞けクライン。俺はすぐ別の村に向かう。お前も一緒にこい」


「え?」




とある宿屋

「星奈。夜空と理科は?」

「大丈夫みたい。今は落ち着いてるわ。幸村さんもそばについていてくれているし」

 それを聞いた小鷹は一安心する間もなく、先ほどの出来事について話し始める。

「もしあいつの言葉が本当なら……」

「?」




とある道

「ヒッキーにゆきのん。どうしたの。二人とも」

 由比ヶ浜のその言葉に二人が足を止める。

 そして、まず雪ノ下が由比ヶ浜の方に振り向いて言う。

「いい、由比ヶ浜さんもしさっきの言葉が本当ならこの世界で生き残るためにはひたすら経験値とお金を稼がなくてはいけないわ」

 雪ノ下のその言葉に由比ヶ浜は先ほどの宣言を思い出し、あくまでもそれを否定しようとする。

「でも、それが本当かどうかは分からない、じゃん。ちょっとしたドッキリかもしれないし」

 由比ヶ浜は苦笑いを浮かべながらそう言った。

「ちがうな」

 だが、それを比企谷は即否定する。

「なんで……なんで、ヒッキーはそう言えるの?」

「大体わかってくるんだよ。俺は日ごろから人間観察ばっかしてるんだ。そしたらいやでもそいつが言っていることが嘘か本当かなんて察しが付く」

「ま、比企谷君だからこそという感じね」

「ゆきのんは? もしかしてゆきのんもヒッキーと一緒で?」

「私は……そうね。ぐちぐちと変えられない事実に反論するならいち早くクリアして評価を書いて使命を全うすべきだと思うわ。あのホログラムに映っていた記事も全て本物だろうし、仮にさっきの発言が嘘だとしてもゲームをプレイして評価をするというのは変わらないわけだし」

「うわぁ。私はさすがに依頼ひとつにいのちはかけられないなぁ」

「ま、ついてくるかは自分で決めろ」

「え、ヒッキーこの街から離れるの?」

「多分俺だけじゃないぞ」

「ゆきのんも!?」

「まあ、そうなるわね……」

「どうしていきなり?」

「それは……」

 とあるショップの前

「で、御坂。街をいきなり離れるってどういうことだ?」

「まず、どのゲームにおいてもそうなんだけど基本的に手に入れられる経験値とお金の量には限度があるのよ。そしてそれらは均等に分配されるわけじゃない。これだけ言えばわかるでしょ」

「なるほど。すぐにでも始まりの街周辺が殺伐化してポップ争いになるてことか」

「要はそうゆうこと。アンタってそんなひらめき良かったけ?」

「上条さんも今のは少しびっくりです。まあ、伊達に世界と戦ったわけじゃないからな……」

 急に目が遠くなる上条。

「ほら、さっさとポーションを買って次の街に移動するわよ!!」

 目が遠くなった上条を連れてショップに入り買えるだけポーションを買う。

 といっても最初の所持金は基本的に低いためそんなには買えなかったが。



とある路地裏

「俺は敵も安全な道も知っているから安全に次の村にたどり着ける」

「でも、でもよぉ。俺、他のゲームでダチだったやつらと徹夜で並んでこのソフトを買ったんだ。あいつら、広場にいるはずなんだ。おいてはいけねぇ」

(クラインだけなら……。だが、あと二人、いや一人増えたら……)

 
「わりぃ。オメェにはこれ以上世話にはなれねぇよな。だから、気にしねぇで次の村へ行ってくれ」

「っ―――」

「俺だって前のゲームじゃあギルドの頭張ってたからな。オメェに教わったテクで何とかしてやらぁ!」

「そっか。なら、ここで別れよう。何かあったら、メッセージとばしてくれ」

「おう!!」

 少し間を開けて、クラインは今にも泣きそうな声でキリトを呼び止める。

「……キリトぉ!!」

「……」

「おい、キリトよ。オメェ、ホントは案外かわいい顔してやがんな。結構好みだぜ」

「お前もその野武士ずらの方が10倍に合ってるよ!」

 そう言ってキリトは走り出す。

 しばらく走って、後ろを振り返って、誰もいないことを確認する。





 キリトは一人、走って次の西の村を目指す。

 小鷹とその一行は宿屋で休憩し、現在動ける小鷹と星奈、幸村だけが始まりの街周辺で探索を行う。

 比企谷と雪ノ下、由比ヶ浜は街を出て、キリトたちとは反対の東の村へと向かう。

 上条と美琴はポーションをアイテムストレージに収納し、剣の耐久度を確認するなど、入念な準備をしたのちに北の村へと向かった。

本日はここまでにします。

とりあえず第一話終了でいいのかな?

ちょっとだけ投下

 キリト、比企谷、上条達がそれぞれ東、西、北の村に向かってからしばらく経った頃。
 
 宿屋で夜空と理科を休ませた小鷹と星奈、幸村は始まりの街周辺のフィールドを訪れていた。

 

「ここがいいんじゃない?」

 星奈が小鷹に声をかける。

 見つけたのは初期モンスターであるワイルドボアが群がる場所。いまだ行動を起こしている者たちは少なく、フィールド周囲にはまるでひと気がなかった。

「ねえ小鷹」

「どうした星奈」

「あのボアってどれぐらい強いのかしら」

「知らんがあれ全部倒すのはどう考えても無理だろ。いきなり命かけるのはちょっとな」

「命がけのゲームってより現実味があっていいじゃない。この私にぴったりだわ!」

「いや、やっぱり命かけるのはどうかと思うぞ。流石に」

「なによ。この私が簡単に倒されるはずないじゃない」

「でも、幸村だっているし……」

「私は大丈夫です。あにきの命令であればこの幸村、モンスターの10体や100体、天国におくって見せましょう」

「じゃあ、ソードスキルってやつの練習がてらやるか」

「やったぁ!!」

ソードスキル。

 システムのアシストによって放つ剣技。

 SAO(ソードアートオンライン)に設定された最大の攻撃システムで一定の予備動作を行うと発動できる。

 魔法系のゲームでいうMPがこの世界には存在しないため、ソードスキルにはスキルディレイとリキャストタイムが設定されている。

 ディレイはソードスキルを発動した直後に訪れる硬直時間のことでリキャストは一度使用したソードスキルの再使用までの準備時間とでもいえばわかりやすいだろうか。

 ソードスキルは武器ごとに設定されているが大技であるほどディレイとリキャストが長くなる。

「えっと使えるソードスキルは……まだ二つしかないな」

 武器の熟練度が上がることでソードスキルは攻撃力とその種類を増やしていくが小鷹の熟練度はまだ100。
 

 バリッバリの初期値である。
 
 よって、使えるソードスキルはまだ二つ。

「星奈の方はどうだ?」

「私も二つね」

「幸村は?」

「私は一つだけですね」

「そうか。じゃあ、物は試しだ。やるだけやってみるか」

 そう言って小鷹はワイルドボアの一体に突っ込んでいく。

 そして、敵がこちらに気づく前にソードスキルを発動。

 小鷹の持つ片手剣が淡いオレンジ色に発光する。

「はぁッ!!」

 片手剣単発ソードスキル、レイジスパイク。

 突進とともに突きを繰り出すその技は小鷹の体をシステムアシストで動かし、ものすごい勢いでワイルドボアを攻撃、消滅させる。



 バリンッ!!


 ワイルドボアは光の欠片となり、散っていく。

「うぁぁぁぁぁぁ~」

「お見事です。あにき」

 その加速感、敵を倒した優越感で小鷹は少しうれしくなった。
 いまだに手に纏わる熱は一向に冷める様子がなく、小鷹はそのまま次の標的へと攻撃を開始する。


「私も行くわよ!!」

 ワイルドボアを一撃で撃破した小鷹をみて星奈も闘志を燃やし始める。

 星奈はやはり要領を掴むのがうまいのか。

 あっという間にソードスキル発動のコツをつかみワイルドボアを駆逐していく。

 数分後

 先ほどまでいたワイルドボアを狩りつくしたので小鷹と星奈、幸村は一度宿に戻ろうとする。


「ねえ小鷹」

「ん?」

「その、これからどうするの? このまま始まりの街の周囲を倒してある程度レベルアップするか、他の街に移動するか」

「そこら辺は夜空たちと相談しないとな。一応隣人部の部活動出し」

「こんな緊急事態は初めてだけどね……」

「だな……」



 とある宿屋

「で、どうする。夜空」

 小鷹と星奈、幸村が宿屋に帰ってきて人酔いから回復した二人と5人で作戦会議を始める。

「うむ……。なるほど。私の目が回っていた時にそんなことがあったのか」

「ちょ、もしかしてあんたたち話聞いていなかったの?」

「聞くも何も今こうして小鷹から詳細に教えてもらったではないか。ヒットポイントがなくなったら現実でも死ぬ、か」

「これからどうしましょう? 夜空のあねご」

「移動するぞ」

「え?」

「理科。お前ももう大丈夫だろう?」

「全く問題ないですよ」

「だったらさっさと街を出て次の街に行くぞ。肉は置いておいて」

「ちょっとバカ夜空!! なんで私を置いていくのよ!! このパーティー内だと一番強いのよ私!!」

「ほー、そうか。では、次の街までの道は肉に壁になってもらおうとするか。文字通り肉の壁にな。それでは善は急げだ。出発するとしよう」

「この状況下でも冷静に判断を下すその器量、流石夜空のあねごです」

「私を盾にしようとしているやつよ!? どこが冷静なのよ!!」

「でも、流石夜空って感じがするよな。なんでみんなそんなに冷静でいられるんだ?」

「冷静というか、認めてしまったら負けって感じですよ小鷹先輩」

「自分は絶対に死なない、ヒットポイントが0になることはないと思っていれば問題はありません。それに、あにきもいますし」

「ま、そういうことだ。別に死ぬのが怖いというわけではないが自分が死ぬことはないと信じ続ければ、最低でもそういう心さえ持ち合わせていなければ生きていくのは不可能だ」

「現実に……その、未練とかないのか?」

「愚問だな小鷹。私たちはリアルで友達もいなかったものたちの集まりだぞ。確かに未練がないというわけではないが……」

「未練があるのならささっとクリアしちゃえばいいんですよ。誰も死なずに、ね?」

「おい理科!? いいとこだけ持っていくな!! コホンッ!! そういうことだ小鷹。お前も現実に残してきた人たちに未練を感じているなら、ささっとこのゲームをクリアするぞ!!」

「お、おう!!」

「話は済んだみたいね。そしたらさっさとしなさい。この私の力、あなたたちにも見せてあげるわよ!!」

 他の3グループに比べれば遅かったが始まりの街を出て小鷹たちは西の村へと向かう。
 
 ようやくのように始まった第1層の攻略。



 そして、約一か月が過ぎようとしている中、始まりの街にある黒鉄宮に設置されている碑にはいくつものプレイヤーたちの名が刻まれており、そのうちの2割が横線を引かれ、その輝きを失っていた。

今日はここまでにします。

次回からはソードアートオンライン第2話をお送りします。

少しだけ投下します。

 ソードアートオンラインが始まってから一か月が過ぎ、その間に二千人が死んだ。

 だが、まだだれも第1層を突破できていない。

 ベータテスターであるキリトでさえ、ボスの部屋の前にさえ到達できていなかった。 

 そして今日、ようやく第1層のボス攻略会議が行われる。 

 

半円状のスタジアムのような場所でボス攻略会議がはじめられた。

 数十人のプレイヤーたちが集まり、やがて一人の男性プレイヤーが舞台に立って他のプレイヤーたちを取りまとめる。

「はーい。それじゃーそろそろ、はじめさせてもらいたいと思いまーす」

 その掛け声に合わせてその場に来ていたキリト、小鷹、星奈、比企谷、雪ノ下、由比ヶ浜、上条、美琴もそれぞれ階段状の席に座る。

「今日は、俺の呼びかけに応じてくれてありがとう。俺はディアベル。職業は気持ち的に、ナイトやっています」

 コミニュケーション能力が高いのか、この攻略会議の開催を呼びかけた張本人である男プレイヤーは一言ボケて、この場の空気を和ませようとする。

 そのボケに周りの人々は、

「ジョブシステムなんてねぇだろ」ハハハ

「会議も冗談てか?」ハハハ

 と結構反応は良いようだが、流石に収拾がつかなくなるわけにもいかないということでディアベルはそっと手でプレイヤーたちに静まるように促す。

 そして、先ほどまでの人物とはまるで思えない真剣な表情になる。

「今日、俺たちのパーティーがあの塔の最上階でボスの部屋を発見した」

 その言葉に周囲のプレイヤーたちが一斉にどよめく。

 あの塔とはもちろん次の層に上がるための迷宮区のことだ。

「俺たちはボスを倒し、第2層へ到達して、このデスゲームも、いつかきっとクリアできるってことを始まりの街で待っているみんなに伝えなくちゃぁならない。それが、今この場にいる俺たちの義務なんだ。そうだろ、みんな!!」

 その言葉に心を打たれたのか、攻略会議に集まったプレイヤーたちはディアベルに向かって賞賛の拍手を送る。

席の隅っこに座っているツンツン頭のこの男もディアベルに対して好感を抱く。

「あいついいやつだな」

「そうね。いかにもリーダ性があるって感じ」

 美琴も結構高評価である。

「あいつ、友達たくさんいそうだな……」

「そうね……」

 目立ちたがり屋の星奈だが、今回ばかりはわがままを言っていられなかった。

 自分が出ていってしまえばこの場が攻略会議どころではなくなってしまうため、少し自重したのだ。

「なんか、葉山君に似てない?」

「気のせいだ。あんな、カリスマ性を持っているやつが何人もいたら困る」


 どうやら比企谷はディアベルに好感を持つことはできないらしい。

 いや、できるはずもないのだが。

 スタジアムの上方の席にいるキリトもディアベルの言葉に少し心が動かされていた。

 彼のようなプレイヤーがいるのなら攻略も閉鎖的にならなくてすむだろう、と。

「それじゃあ、さっそくだけどこれから攻略会議を始めたいと思う。まずは、10人のパーティになってみてくれ」

「……っ!?」

 そこでキリトの額に冷や汗が流れる。

 この男、キリトは現実で半引きこもり状態のゲーマーであるためか、もちろんのごとく現実的なコミニュケーション能力を合わせ持っているはずがない。

 よって、すでに周りでは続々とパーティ結成が行われているが一人だけ残されている雰囲気が出ている。

 キリトは周りを必死に見渡し、自分と同類、つまり、あぶれ者を探す。

 そして、一人のプレイヤーを見つけた。

 フード付きマントで顔と体を隠していて武装や性別がはっきりしないがそれでも今のキリトにとっては願ったりかなったりだ。

 ちなみにこのゲームは女性プレイヤーが圧倒的に少ないため、女性プレイヤーは自分の性別を隠せるようにこの様な格好を好んだりする。

「あんたもあぶれたのか?」

「あぶれてない。周りがみんな、お仲間同士だったみたいだから遠慮しただけ」

「ソロプレイヤーか。なら、俺と組まないか?」

「ボスは一人じゃ攻略できない。レイドを組んで戦うのが一般的なんだ」

 レイド。

 つまりはパーティをさらに束ねて作られた数十人規模の巨大なチームだ。

「もちろん、今回だけの暫定だ」

 キリトのその言葉を聞いて、フード付きマントのプレイヤーはようやくコクリと頷く。

 キリトがパーティー申請を出し、声からおそらく女性であろうプレイヤーが承諾のボタンを押す。

(ア、ス、ナ……?)

 視界の左端、新たに出現したHPバーをみてキリトは彼女がベータテスターではないと悟る。

「よーし。そろそろ組み終わったかな? じゃあ……」

「ちょお、まってんか!」

 ディアベルが話し始めようとしたところで階段状の席の一番上からそれを制止する怒鳴り声が聞こえてくる。

 周囲のプレイヤーたちが上方を見るとそこには一人の男性プレイヤーが立ていた。

 彼は階段を飛ばし飛ばしにして降りてくるとディアベルの目の前に立ち、数多のプレイヤーたちに呼びかけるように言う。

「ワイはキバオウってもんや。ボスと戦う前に、言わせてもらいたいことがある」

 キリトはこの時、大体の察しがついた。

 キバオウが何を言いたがっているのかを。

 アスナと同じようにフード付きのロングコートで体を覆っている美琴はキバオウが何を考えているかは全くが察しがつかず、むしろバカにしているようだった。

「あの髪型。アンタより……ふふ……」

「だめだ御坂。笑っちゃ……クッ……」

「なんや!!」

「「いえ、何でもないです」」

「いいか、話を続けるで。こんなかに、今まで死んでいった二千人に詫びいれなアカンやつらがおるはずや!!」

 キバオウは適当なプレイヤーたちに指を差し向ける。

 ざわざわとプレイヤー間でどよめきが生まれる。

 どういう意味か分かりかねている者もいるのでディアベルが代表してキバオウに尋ねた。

「キバオウさん。君の言うやつらとはつまり、元ベータテスターの人たちの事、かな?」

「決まっているやないか!!」

 キバオウは即答する。

 そして続けざまに言った。

「ベータ上がりどもは、このクソゲームが始まったその日にビーナーを見捨てて消えおった! やつらはうまい狩場やらボロイクエストを一人占めして、自分らだけポンポン強なってそのあともずーと知らんぷりや。こんなかにもいるはずやで、ベータ上がりのやつらどもが!!」

 キバオウは再び周囲に指をさし、プレイヤーたちに告げる。

「そいつらに土下座させて、ため込んだ金やアイテムを吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして預けられへんし、預かれん!!」

 スタジアム内に響くキバオウの言葉がキリトの心に突き刺さる。

他の女性陣と違って、フードやマントなどを身に着けずにいる由比ヶ浜は頬をふくらましながら呟く。

「ちょっとやな感じ。それじゃーまるで、ベータテスターの人達みんながみんな悪者みたいじゃん」

「まあ、まて由比ヶ浜」

 由比ヶ浜が立ってキバオウに反論しようとしたことに気づいた比企谷は手を横に伸ばし由比ヶ浜に制止を促す。

「発言いいか?」

 一人のプレイヤーが手をあげ立ち上がる。

 黒人系のスキンヘッドが特徴的なその巨漢はキバオウの目の前に来て尋ねる。

「俺の名前はエギルだ。キバオウさんアンタの言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ。謝罪賠償しろ。そういうことだな?」

「そ、そうや」

 キバオウがそう答えるとエギルはポケットから革製のメモ帳のようなものを取り出した。 

 そしてそれを掲示して言う。

「このガイドブック。アンタももらっただろう? 道具屋で無料配布されているからな」

「も、もらたで。それがなんや」

 そのやり取りを見て、小鷹はささやき声で星奈に尋ねた。

「あんなの貰ったけ?」

「夜空のバカが配ってくれたじゃない。もしかしてなくしたの?」

「……すまん」


 そして、エギルはキバオウに告げる。

 先ほどのキバオウの言葉を否定するように。

「配布していったのは……元ベータテスターたちだ」

「……ッ!!」

 巨漢のプレイヤー、エギルは続ける。

「いいか、情報は誰にでも手に入れられたんだ。なのにたくさんのプレイヤーが死んだ。その失敗を踏まえて、俺たちはどうボスに挑むべきなのか、それがこの場で論議されると、俺は思っていたんだがな」

「そ、そうだな」

「そのとおりだ」

 会場内にエギルの言葉への賛成の声があがる。

「~~~~。フンッ!」

 キバオウは大人しく地下場の階段状の席に座る。

 どうやら言いたいことはもうないようだ。

 エギルもキバオウの隣に座るとディアベルが話を再開する。

「ボスの情報だが。実は先ほど、例のガイドブックの最新版が配布された」

 その発言にまたしてもざわめきが起きる。

「それによるとボスの名前は、イルファング・ザ・コボルトロード。それと、ルイン・コボルト・センチネルという取り巻きがいる。ボスの武器は斧とバックラー、四段あるHPバーの最後の一段が赤くなると曲刀カテゴリのタルワールに武器を持ち変える」

「攻撃パターンも変化するということね」

 雪ノ下が補足するように呟いた。

 ディアベルはガイドブックを閉じるとチームの編成に移ろうとする。

「アイテム分配についてだが金は全員で自動均等割り。経験値はモンスターを倒したパーティーのもの。アイテムはゲットした人のものとする。異論はないかな? では、チームの役割と班号を決めるから、それぞれパーティーごとに集まってくれ」

 

 数分後

 それぞれのパーティーA,B,C……と班号が決められていく。

 同時にディアベルはパーティー単位で役割を決めていく。

 その手際の良さでディアベルはあっという間に主なパーティーに役割を振り分けていった。

 そしてキリトたちの元へとくる。

「えっと君たちはE班なんだが、メンバーは二人だけなのか?」

「ああ、そうみたいだ」

「そうか。では、他の班と合併してもらおう。たしか、F班とD班、G班が三人、二人、二人だったからそこと一緒のパーティになってもらおう」

 キリトがその言葉を聞いて苦虫を噛み潰したような表情になる。
 
 二人ならまだしもそこまで大勢の人と連携を組むのはソロであるキリトにとってはつらいことなのだ。

「どうも、トウマです。イヤー、キョウハナントモイイオテンキデスネ」

「何萎縮してるのよ。私はミコト。よろしくね」

 そしてもう一組が彼らに合流する。

「えっと、コダカです。まだまだ未熟者ですがよろしくお願いします」

 最後に小鷹は笑顔を浮かべようとする。

 が、それが失敗だった。

「……っ!」ビクリッ

 美琴が上条の後ろにスッと隠れてしまう。

 美琴としてもこの世界では結構強い方のつもりなのだが、能力のあった時に比べると少しばかり上条に頼りすぎになっていたりする。

「小鷹、そんな顔するから怯えられるのよ。私はセナ。まあ、この私とパーティーが組めることを心から喜ぶといいわ!!」

「……」

「……」

「……」

「……」

「ちょっと小鷹ぁ!」

「すまん。俺にはどうすることもできない……」

 互いに友達が作れない理由を再認識するのであった。

 ちなみになぜこの二人のみしかこの場にいないのかというと、夜空と理科は人が多いところにいきたくないらしく、幸村はまだレベルがあまり上がっていないからだ。

 幸村のレベルがなかなか上がらないのはいつもみたいにヒツジorメイドばかりやってしまっているからだったりする。

さらにもう一組、新たなメンバーがパーティーに加わる。

「あ、えっと、元F班のガハマです。えっと……、よろしく?」

 何故か最後が疑問形になる由比ヶ浜だった。
 
 雪ノ下も由比ヶ浜に続いて自己紹介をする。

「ユキノよ。短い間だけどよろしく頼むわ」

 そして比企谷も続いて……、続かなかった。

「ちょっとヒッキー。みんなに自己紹介しなよ。パーティー組むんだから」

「比企谷君。せめて自己紹介をするぐらいの義務はあるんじゃないのかしら?」

「ちっ、せっかく誰にも迷惑をかけないように隅っこで座っていたのに」

 というのは建前で実際は一人でいた方がこの場をやり過ごせそうだったからだ。

「えっと、ヒキガヤです。ボス攻略の時は、まあ、基本後ろにいるので、何というか、その、よろしく」

 比企谷が自己紹介を終えると美琴がある提案を出す。

「えっと、そのフレンド登録しませんか? 今後もボス攻略とかでいろいろあると思いますし……」

「「いいのか(いいの)!?」」

 美琴の提案にいち早く反応したのはこの二人、小鷹と星奈だ。

 理由は言わずもがな。

「こ、これ。どうやってフレンド登録するんだ?」

「こ、こうかしら? あ、あれ、フレンド申請を送るの? 受け取るの?」

 あわあわしながら二人はフレンド申請をパーティーメンバー全員に送る。

「お、きた」

「……」

「その、悪いのだけれど私は……」

「ゆきのん。多分こういうのは承諾しておいた方がいいと思うよ。安全にもつながるしね」

「由比ヶ浜さんがそういうのなら……」

「だから、なんでそんな最近由比ヶ浜に優しいんだよ」

「「?」」

「なんでもない」

 そのやり取りを横目で見ていたキリトも少し悩んだ末、フレンド申請を許可し、他のメンバーへと申請を送った。

 顔の表情はわからないがアスナもまるで仕方なさそうに指を動かす。

「これで全員かしら?」


 それぞれがフレンド登録を済ますとディアベルが何の用か、また話しかけてくる。

「ちょっといいかい?」

「?」

「伝え忘れていたんだが、君たちE班は前衛の補助、つまりセンチネルを集中的に倒してくれ」

「了解」

 メンバーを代表してキリトが受け応えをする。

 ディアベルがまた遠くに行くと、比企谷が皮肉そうに言う。

「前衛の補助、ねぇ……」

 だが、この場にいる由比ヶ浜以外のメンバーはその言葉を理解していた。

今日はここまでにします。

次回からはしゃべる人が様々切り替わるのでセリフの前に名前を書いてお送りします。

また、ソードスキル、武器、道具はソードアートオンライン・ホロウ・フラグメント、ロスト・ソングのほうから借用したいと思います。

一応補足。

キリト……片手剣

アスナ……細剣

御坂美琴、ミコト……片手剣

上条当麻、トウマ……体術(途中から)、短剣

比企谷八幡、ヒキガヤ……短剣

雪ノ下雪乃、ユキノ……槍

由比ヶ浜結衣、ガハマ……曲刀、刀(途中から)

小鷹、コダカ……片手剣

星奈、セナ……細剣


これで行きたいと思っております。



この世界では星奈とガハマさんのおっぱいはどうなっているの?

>>86
アスナさんも見る限り現実と変わらないと思うのでそこは一緒だと思いますよ。また美琴さんがムサシノ牛乳を飲み始めるだけの影響力は持つんじゃないんでしょうか?

さて、夜空と理科と幸村の武器はどうしましょうか……。

アスナと初対面ってことはプログレッシブ読んでないのか。

ガハマさん、自分でガハマさんって
言っちゃうのか

普通に考えて登録名なんだろうけど
既存で弾かれて仕方なくガハマにしたのかな

ユイだとアレが居るからなぁ

>>88
すみません。自分はプログレッシブ読んでいないのです。

>>89 >>90
ガハマさんの場合ユイだと後々かぶってしまうためです。また、ユイガハマで採用しなかったのは言いずらいためです。あと、変換が被るので。(小鷹はもう手遅れだったのです)

他に何かいい案があればできるだけ反映したいと思います。

ちょっとだけ投下

だが、この場にいる由比ヶ浜以外のメンバーはその言葉を理解していた。

雪ノ下「つまり、ボス攻略の邪魔をするな、ということね」

キリト「ああ、多分俺たちを集めたのも厄介者は一まとまりにした方がいいとか、そういうことじゃないのか?」

星奈「キリトの言うとおりね。ま、仕方ないんじゃない?」

美琴「それじゃあここでいったん解散でいいのかしら?」

小鷹「そうだな。詳しくは明日で」

 9人は互いに挨拶をかわすとそれぞれ想い想いの方向に歩みを進める。

 

 2022年12月2日 とある主人公たちが初めて交差した日だった。

 翌日2022年12月3日 第1層・森フィールド

キリト「確認するぞ。お邪魔組の俺たちの担当はルイン・コボルト・センチネルっていうボスの取り巻きだ」

アスナ「分かってる」

美琴「最初に片手剣装備の私、キリト、コダカの三人が前衛で、やつらのポールアックスをソードスキルで跳ね上げさせるから、後衛のメンバーがすかさずスイッチして攻撃を浴びせる」

上条「そうだな」

小鷹「で、そのあと、さらに後衛にいるユキノ、ハチマン 、トウマがスイッチ」

星奈「そして、それを繰り返していく」

雪ノ下「誰かがダメージを受けて後退しなくてはいけなくなったら一つ後ろのメンバーがカバーする」

由比ヶ浜「そのうちにHPを回復させて戦闘復帰」

比企谷「ま、大体それであってるな」

そうこうしているうちに迷宮区のボス部屋前に到着する。

ディアベル「聞いてくれみんな。俺から言うことはたった一つだ。……勝とうぜ!!」

 その言葉とともにプレイヤーたちの表情が真剣なものに変わる。

ディアベル「行くぞ!!」

 ボス部屋の扉を開けるとその中は真っ暗だった。

「グルルルルルルルルルル……」

 そしてその奥に赤い交点が二つ。

 ディアベルが先頭に立ち、一定距離まで歩を進めると、急激に視界が明るくなり、部屋の様子が見て取れるようになる。

 そして、ボスであると思われる巨大な人型の牛? がすさまじい勢いで飛び込んでくる。

『Illfang The Kobold Lord』

 ボスの名の表示が現れる。

 

 そして、それが合図なのか。

 その表示の出現とともに先ほどまで何もなかった場所に兜を身に着けた小型のモンスター、センチネルが出現した。

ディアベル「戦闘開始ィ!!」

 ディアベルの合図とともに数多のプレイヤーが敵に向かって突っ込んでいく。

 

今日は少ないです。すいません。明日辺りに大目に投下したいと思います。

 戦闘開始からしばらく経った頃。

 どうもプレイヤー側が圧倒的優勢の状況になっていた。

 おそらくはディアベルの的確な指示があったからだろう。

ディアベル「A班、C班スイッチ! 来るぞ、B班ブロック!!」

エギル「くうっ!!」

キバオウ「おらぁぁぁ!!」

ディアベル「C班ガードしつつスイッチの準備。今だ! 後退しつつ、側面を突く用意。D,E,F,G班、センチネルを近づけるな!


キリト・美琴・小鷹「「「了解!!」」」

 そう答えて、三人はそれぞれセンチネルの懐に飛び込み、わざとポールアックスを振らせ、それをソードスキルで跳ね上げる。

キリト・美琴・小鷹「「「スイッチ!!」」」

 全くブレのない合図だった。

 その合図に合わせて後衛三人がスイッチを行う。

  
 まずはキリトとアスナ。

 アスナの武器は細剣だ。

 感覚的には片手剣をより細くし、貫通力と連撃に特化させたものとでもいえばよいのだろうか。

 
 キリトのソードスキルによって怯んだセンチネルに対し、アスナは細剣カテゴリのソードスキル、リニア―を使用する。

 リニアーは細剣のソードスキルでも、最初から習得されている基本中の基本技だ。

 だが、その速度が異常だった。

 後方で2度目のスイッチの用意をしている上条や雪ノ下でさえ驚くほどの速度。

 それは早すぎて剣先が見えないほどだった。

次に美琴と由比ヶ浜のスイッチ。

由比ヶ浜「―――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」


 由比ヶ浜は美琴の交代と同時に曲刀カテゴリのソードスキル、フェル・クレセントを発動する。

 昨日会ったばかりの関係だというのにすさまじい連携だった。

「グギャァァァァァァァッッ!」 

 由比ヶ浜の一撃がヒットし、見事敵のHPを跡形もなく消滅させる。

 バリンッという甲高い音が響き、センチネルが消滅した。

 

 そして、小鷹と星奈。

 この二人もまた、見事な連携を行っていた。

小鷹「ふッ―――!!」

星奈「―――はぁッッッ!!」

 伊達に一か月もパーティーを組んでいないのだ、といいたいところだが普段のパーティーでは街にいる三人も参加している。

 そしてたいていの場合は、

夜空「おい肉!! さっさとスイッチせんか!! そして食われろ!!」

星奈「はぁぁぁぁ!? あんたとスイッチなんてお断りよ、バカ夜空!!」

小鷹「やめろ、二人とも。こんなところに来てまで争ってんじゃねえよ」

理科「小鷹先輩。お二人は置いておいてあちらで私と二人っきりの連携プレイを行いましょう!!」

幸村「あにき。あにきの命令ならばこの幸村、この二人を切ってでも止めて見せま……」

小鷹「やめろ幸村!! それはシャレにならんぞ!!」


 とまあ、こんな感じで命の危機があろうがいつも通りなのである。

 これが優いつの心の支えであったりもするのだが……。

 ともかく夜空との連携ならばともかく星奈は基本的にスペックが良いため、相手が小鷹のような奴なら特に問題が起きることはない、はずなのだった。

(グッジョブ!! 初心者ばかりだと思っていたけどかなりの手練ればかりだ!!)

 そう思ったのはキリトだけではないだろう。

 
 各自スイッチがうまくいったのを見はからって雪ノ下、上条、比企谷がスイッチの準備態勢に入る。

 が、その時だった。

 ガツンッ!! と、固い床に金属が落ちる音が響き、彼らの足元に微弱な振動を与える。

 9人が音源の方向をみると、先ほどまでボスの武器であった斧とバックラーが床に落ちていた。

つまり、それは。

キバオウ「情報通り見たいやな」

 ボスのHPバーの最後の一本が赤くなっていた。

 残り少し。

 (全員で囲めば勝てる!!)

 キリトがそう思った矢先、不可解な行動をとったものがいた。

 先ほどまで指揮を執っていたディアベルだ。

ディアベル「下がれ。俺が出る!!」

 ディアベルの顔に笑みが浮かぶ。

 
 キュインンンンンンンンンンンッッッ

 システムに認識されて、ソードスキルが発動する。

 ディアベルが強力な一撃を撃ち込もうとしているのは誰の目にも見えていた。

 しかし、元ベータテスターであるキリトは、キリトだけはいち早く気づいた。

 ボスが手に取った武器がベータテストのものと明らかに異形の形をとっていたことに。

(タルワールじゃなくて、野太刀! ベータテストの時と違う!!)

キリト「ダメだ!! 全力で後ろに跳べ!!」

 キリトは自分が相手をしていたセンチネルを吹っ飛ばして大声で叫んだ。
 
 上条や小鷹、比企谷たちも何があったのかとそちらに注目する。

 が、届かなかった。

 言葉は聞き入れられなかった。

ボスであるイルファング・ザ・コボルトロードは大きくジャンプすると、ボス部屋フィールドの端にある巨大な柱を巧みに高速で移動し、頭の上からディアベルを襲う。

ディアベル「ぐわぁぁぁぁぁぁ!?」

 もちろん、ソードスキルを発動しようとしていたディアベルはその攻撃を避けることはできなかった。

 刀カテゴリソードスキル、旋車。

 上段撃ち下しのその攻撃はディアベルの左肩から斜め下の右わき腹にかけて命中する。
 
 ボスはその勢いを維持したまま吹き飛ばされたディアベルを再度襲う。

 2撃目のソードスキルは浮船。

 これもまた刀カテゴリのソードスキルの中では基本中の基本だが、その巨体の全体重がかかりったその一撃はディアベルのHPを容赦なく削り取る。

キバオウ「ディアベルはん!!」

 
 グガァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!

 いつの間にか前衛に出ていたキバオウたちの班の真後ろにもボスがジャンプして回り込んでくる。

キバオウ「くっ……」

 キバオウはそちらの相手をしなくてはならず、ディアベルのもとに駆け寄ることができなかった

キリト「ディアベル!!」

 キバオウの代わりにキリトがボスにふっとばされたディアベルのもとに駆けよる。

 彼のHPは少しずつ減っているがまだ体が消滅はしていないことからポーションさえ飲んで回復すればまだ助かることはわかった。

キリト「何故一人で……?」

 キリトが質問しつつ、ポーションをポーチから取り出し、ディアベルに与えようとするが、ディアベルはそれを手をかざして拒否する。

ディアベル「……お前も、ベータテスターなら、わかるだろう……?」

 ディアベルのその言葉でキリトは気づく。

 ディアベルの行動にある、その真意を。

キリト「ラストアッタクボーナスによる、レアアイテム狙い……。お前も、ベータ上がりだったのか……?」

 ディアベルの顔が小さく、だが確実に縦に頷く。

 ラストアッタクボーナスはボスモンスターに最後の一撃を、とどめを刺した者にアイテムが与えられるというシステムのことだ。

 そして、そのアイテムは必ずといってもいいほど一般には出回らない、つまりレアアイテムなのだ。

 ディアベルはそれを狙って一人で突っ込んだ。

 そして返り討ちに合ってしまった。

ディアベル「頼む。ボスを……ボスを倒してくれ。みんなのために……」

 その言葉を最後にして、バリンッという音が鳴り響き、ディアベルの体がガラスのようなエフェクトとなって砕け散る。

キリト(このデスゲームが始まった時、俺は自分が生き残ることしか考えていなかった)

 キリトの脳裏に一か月前、クラインを置いて行ってしまったことが浮かびあがる。

 
キリト(だがディアベル。あんたはベータテスターなのに他のプレイヤーたちを見捨てなかった。みんなを率いて戦った。俺ができなかったことをあんたはやろうとしたんだ)


 
 キリトはその場で静かに立ち上がる。

 視線を今も前衛で戦っているプレイヤーたちと強大なボスに移す。

 拳を、右手に持った片手剣アニールブレードを握りしめる。

アスナ「わたしも」

 フード付きのマントで顔を隠した少女がキリトの隣に並ぶ。

キリト「頼む」

 2人は同時に硬質な地面を思いっきり蹴り、駆け出した。

キリト「手順はセンチネルと同じだ!」

アスナ「分かった」

 いきなり駆け込んできた二人に対しボスは周りのプレイヤーを蹴散らし、ソードスキルを発動して迎撃の態勢をとる。

キリト「―――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 キリトもソードスキルを発動した。

 イルファング・ザ・コボルトロードの野太刀とキリトのアニールブレードが交差する。

キリト「スイッチッッ!!」

 キリトが後ろに吹き飛ばされながらも大声で叫ぶと同時にアスナがキリトと同じく後ろにのけ反っているボスに突っ込んでいく。

 が、そこでキリトはボスの目の色が変わることに気づく。

 そして、それがなにかを狙っている予兆だと。

キリト「アスナ!!」

 その言葉にアスナが瞬時に身をかがめる。

 身にまとっていたマントがボスの刀に引き裂かれその姿があらわになる。

アスナ「せああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 巨体のはずのボスがアスナのソードスキルによって吹っ飛ばされる。

 そしてキリトはその姿に見とれてしまった。

 ボスを吹っ飛ばした姿ではなく、あらわになったその姿に。

 長い茶髪にどこからそんな力が発生するのかわからない華奢な体。

 凛とした顔つきに色白い美しい肌。

 キラキラと光るマントの破散エフェクトがきらびやかに彼女をプロデュースする。

 グルラァァァァァァァァッッ

キリト「次来るぞ!!」

 キリトはボスの雄叫びを聞いて床から立ち上がるとまたしてもボスの攻撃を弾き、そこにアスナが強力な一撃を加える。

 ボスも反撃に出るがキリトがそれを受け止める。

 ボスの刀が光だし、キリトもそれを迎撃しようとソードスキルを発動した。

 片手剣ソードスキル、バーチカル。

 若干水平の斜め下から斜め上に向けての軌道を描く剣技。

 対してボスの刀は上段からの斬り下し。

 この位置関係なら容易に迎撃できるはずだった。

 しかし、

キリト「なっ―――!?」

 ボスの刀がキリトの剣を避けるように切り返して下段からの切り上げ攻撃に変化する。

キリト(しまった!?)

 キリトの体にその巨大な刀が直撃する。

 その寸前。

 一つの影がキリトの目の前に、ボスの斬撃を阻むように現れる。

 ガギンッッ

 その影はキリトの片手剣とは比較にならないほど小さな短剣でボスの巨大な刀を受け止めていた。

 ピコンピコンと左右に揺れる電波塔のようなアホ毛。

 横からでもわかるぐらい腐った目。

キリト「ヒキガヤ……?」

比企谷「こういうのって大体パターンを先に読んだ方の勝ちだよな……とっ!」

 そう言って比企谷はボスの刀を弾く。

 ボスの体が少しひるんだ瞬間を見て、後ろに回り込んだ雪ノ下が背後から槍カテゴリソードスキル、ソニック・チャージの強力な一撃を浴びさせる。

 グガァァァァァァァァ

 ボスが雄叫びを上げる。

 その刀から淡い光が発生し、比企谷に向け振りかぶる。

比企谷「……ッ!?」

 さしもの比企谷もこの攻撃は受け止めることができなかった。

 さきほどの一撃よりはるかに重い一撃。

 比企谷はその斬撃をまともに食らって吹っ飛ばされてしまう。

由比ヶ浜「―――ヒッキー!!」

 何とかして由比ヶ浜が比企谷を受け止めるがそのまま倒れ込んで身動きが取れなくなってしまった。

グルルルルルルルルルル!!

由比ヶ浜「くっ……」

 その二人に追撃をくらわそうとボスが巨大な刀を大きく振りかぶる。 

エギル「おおおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ガギンッッ!!

 後方にいたはずの色黒の巨漢、エギルが両手斧でボスの一撃を弾き飛ばした。

 そして。

プレイヤー「おらぁぁ!!」

プレイヤー「行くぞ!!」

プレイヤー「とりゃー!!」

 ディアベルの指揮がなくなりボスにおびえていたはずのプレイヤーが我先にとボスへと突っ込んでいく。

 そしてエギルが告げる。

エギル「回復するまで、俺たちが支えるぜ!!」

比企谷「お前……」

 しかし、ボスもそう簡単にやられてはくれない。

 ガギンッガンッキンッカンッ

 数多のプレイヤーがソードスキルを発動し、ボスを攻撃するがボスはまとめて周囲のプレイヤーたちを弾き飛ばすと、再度、跳躍して上空からソードスキル、旋車の撃ち下しを発動しようとする。

美琴「私らを忘れてんじゃないわよ!!」

 美琴もソードスキルを発動し、システムアシストと鍛え上げたパラメータにものを言わせて大きく跳躍しボスの斬撃を上空で迎撃、その巨体ごと地面に撃ち落とす。

 美琴はそのまま受け身を取り勢いよく立ち上がって走り出した。

 ボスもそれを見て美琴に向け刀を横薙ぎに振る。

 美琴はそれを見た瞬間ソードスキルを発動する。

 とてつもないスピードでもってボスに突進する。

 バギンッッッ!!

 と、甲高い音が鳴り響き美琴が後ろに押し返され、ボスの体が後方に少しだけのけ反る。

 そして美琴は大声で叫んだ。

美琴「スイッチッッ!!」

 その合図とともに後ろにいるツンツン頭の誰かさんが全速力で突っ込んでくる。

上条「うおおおおおおおおおおォォォォォォ!!」

 上条が短剣ソードスキル、ラビットバイトを発動する。

 ボスの体が容赦なく縦に2度、斬りつけられる。

上条「……あと頼む!!」

 上条はそう言って一度後方に下がる。

小鷹「―――任せろ!! 星奈!!」

星奈「分かってるわ!!」

 小鷹がボスに突っ込み二回、×印を描くように斬り刻む。

 そこに続くように星奈が細剣ソードスキル、ストリークを叩き込む。

 つまりは小鷹が見極めたおおよそのボスの弱点を×印で斬り刻み、星奈がそこにソードスキルの強力な一撃を叩き込んで少しでも効率的に敵を倒そうとするということだ。

小鷹「キリト!! ここだ!!」

 小鷹がボスのある一点に×印を刻む。

 その声を聴いて、キリトが全速力でボスに突っ込んでいく。

キリト「アスナ! 最後の攻撃、一緒に頼む!!」

アスナ「了解」

 グルガァァァァァァァァァァァッッ

 ボスの勇ましい雄叫びがフィールド全体を揺るがす。

 しかし。

キリト・アスナ「―――せああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 キリトもアスナもそれに負けないぐらいの大声で叫ぶ。

 ボスの刀が振り下ろされる。

キリト「てあぁぁぁッッ!!」 

 ガギンッッ

 キリトがボスの一撃を弾き飛ばし、

アスナ「せいッッ!!」

 アスナがそこに更なる一撃を加え、

キリト「せああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 キリトが片手剣ソードスキルバーチカル・アークの2連撃でボスを縦断する。

 ボスのHPバーは既に消えていた。

 ボスは光り輝き、フリーズするとバリンッというガラスが割れるような音を響かせて消滅する。

 そして、しばらくの静寂がフィールドを包んだのちに、システムメッセージが大きく表示される。

『Congratulations』

 と。

今日はここまでにします。
これから更新が少しずつになると思いますがすみません。

訂正です

 これもまた刀カテゴリのソードスキルの中では基本中の基本だが、その巨体の全体重がかかった一撃はディアベルのHPを容赦なく削り取る。

です。度々すいません。

プレイヤー「や、やったー!」

 その言葉につられるように数多のプレイヤーが喜びの声をあげた。

キリト「はぁ、はぁ……」

 キリトも息を切らしながらウィンドウを操作する。

『You got the last attacking bonus!』

 ラストアッタクボーナス。

 身体装備・コートオブミッドナイト。

 ボスからドロップしたレアアイテムだった。

 座り込んでいるキリトに複数の足音が近づいてくる。

アスナ「お疲れ様」

エギル「見事な剣技だった。コングラッチレーション。この勝利はあんたのものだ」

キリト「いや……」

小鷹「そうだな。キリトこれはお前の勝利かもしれない」

星奈「この私が手伝ってあげたんだから当たり前の結果ね!」

美琴「ま、いいんじゃない? 第1層攻略で早くも英雄誕生ってね」

上条「いやー、上条さんの出番全然なかったのですよ。それはそうとキリト、おめでとう」

比企谷「ま、そういうことだな」

雪ノ下「そうね。客観的に見なくてもあなたの実力で勝利が勝ち取れたのは事実であるのだし」

由比ヶ浜「はあ……。何か私は出番少なかったね。でも、おめでとうキリトくん!」

 口々に周囲のプレイヤーたちがキリトに賞賛を送る。

キリト「いや、俺は何もしてないよ。みんなの援護があったからボスを倒せたんだ」

キリトがそこまで言って、ある男の声が響き渡った。

キバオウ「何でや!!」

 先ほどまで称賛の拍手やらなんやらでガヤガヤとしていたフィールドがその一言ともに静まり返った。

キバオウ「なんで、なんでディアベルはんを見殺しにしたんや!」

キリト「……見殺し?」

 キリトが尋ねるとキバオウは目に涙を浮かべてさらに勢いよく大声で叫ぶ。

キバオウ「……そうやろうが!! 自分はボスの使う技知っとたやないか!! 最初からあの情報伝えとったら、ディアベルはんは死なずにすんだんや!!」

 プレイヤー間に嫌な雰囲気が流れる。

 そして、キバオウと同じパーティーのプレイヤーが言う。

プレイヤー「きっとあいつ、元ベータテスターなんだ。だからボスの攻撃パターンも全部知ってたんだ。知ってて隠してたんだ」

 キリトはそこで気づく。

 このままだと全てのベータテスターが孤立し憎しみを買ってしまうと。

 自分一人のせいで。

 さらに空気が重たく冷たくなっていく。

 だけど、しかし。

 雪ノ下雪乃はそれでも前に進んだ。

 この静まり返った嫌な空気の中で冷静に、いつも通りのテンションで雪ノ下は告げる。

雪ノ下「……仮に彼がベータテスターだとして、それが何だというのかしら?」

キバオウ「なんやとぉ!?」

 キバオウが雪ノ下を睨み付けて威嚇するが逆ににらみ返される。

雪ノ下「……彼がベータテスターでボスの技を知っていたとして、彼は隠していたのではなく言い出せなかったのではないかしら。そうね。例えば昨日、あなたがベータテスターに対して変な言い分をつけなければ彼は安心して情報提供ができたのではないのかしらね。あなたがベータテスターに土下座させてお金やアイテムを吐き出させるなんて言い出すから彼は自分がベータテスターであることを隠し、このような結果を招いてしまった。……つまり、原因の一端はあなたにあるのではなくて? キバオウさん?」

キバオウ「……っ!!」

 キバオウが雪ノ下の迫力に威圧され押し黙ってしまう。

由比ヶ浜「……ゆきのん。その辺でいいんじゃないかな……?

雪ノ下「そうね。度を過ぎて責めても私たちには何の利益があるわけではないし……」

キバオウ「ちょおまてや!!」

雪ノ下「まだ何か?」

キバオウ「納得いかへんのや!! そいつがベータテスターであるなら、知ってる情報を洗いざらいはいてもらわんとなぁ!!」

 キバオウは開き直ったのか如くキリトに指をさし、あくまでも批判し続ける。

 そこで、雪ノ下の後ろで話を聞いていた比企谷は感じた。

比企谷(なるほど。……ベータテスターが一般プレイヤーにとっては憎しみを生む根源の一つってこと、か……。その主な理由は情報の独占。今この場では雪ノ下はキバオウを黙らせることぐらいはできるが、それじゃあ今後のベータテスターの状況は酷くなるだけだ。ならどうする? 俺らしく、俺のみができる解決方法はないのか?)

 雪ノ下とキバオウはいまだ言い争いを続けている。

 だが、雪ノ下がこの場を退けられるようにキバオウを論破しても今後の解決にならないことは比企谷にはわかっていた。

 ……だから。

比企谷(ベータテスターが一般プレイヤーに恨まれず、ともに攻略を進められるようにする。なら、やるしかないか……)

由比ヶ浜「どうしようヒッキー。このままだとゆきのんがみんなの反感かっちゃうかも……」

比企谷「なんだ、そんなことか。大丈夫だ。何とかしてやる」

由比ヶ浜「何とかって、もしかして……前みたいなこと、しないよね?」

 だったらなんだ、と口には出さずに比企谷は一歩、二歩と前に出る。

比企谷(雪ノ下は雪ノ下らしく戦った。なら、俺もそうするのが妥当だ)

比企谷「おい、キバオウさん」

キバオウ「なんや!!」

比企谷「お前、何か勘違いしてないか? 何故、キリトが情報を隠し持っていると思う?」

キリト「お、おいヒキガヤ?」

比企谷「いいからお前は黙ってろ」

キバオウ「?」

比企谷「あれは俺が言ったんだよ。ディアベル、全力で後ろに避けろってな」

キバオウ「んなわけあるか!! ちゃんとワイは見ていたし聞いていたはずやで!!」

比企谷「だったら気づけよ。それは俺が言った言葉だってな」

キバオウ「どういう……ことや?」

比企谷「いいか。キリトは確かにベータテスターだが、別にベータテスターがアンタたちより強いという証拠なんてない。そもそも俺以外のベータテスターはレベリングのやり方すら知らなかったんだぞ。そんな奴らがあんたの言う、情報を持っていると思うか?」

キバオウ「……そんなわけあるか!! ベータテスターはソロで戦っても生き残れるような連中やぞ!! そいつらがそんなビギナーにすら劣るはずあらへん野郎が!!」

 比企谷はその言葉を聞いてニヤリっと笑う。

比企谷「だがもし、その情報のすべてが俺がばらまいたものだとしたら?」

キバオウ「なん、やと……?」

比企谷「ベータテストの時はそりゃひどかった。モンスターが襲ってくるって恐怖だけを実感してしまってそこらのボアにもやられるような奴がわんさかいたもんだ。だから俺は元ベータテスターであるやつらにこのゲームの正式サービスが始まってから声をかけて、色々な情報を与えてやった。何せ他のベータテスターがひどかったもんだから俺はベータテスト時にたった一人でだれも到達できない層まで行った。さっきのボスの刀の攻撃を見切れたのもそのためだな。そして極めつけはこれだ」

 比企谷は長々としゃべっていたのをいったん区切るとウィンドウを操作してとあるアイテムをオブジェクト化した。

 それはおおよそ1センチ程度の、はたから見れば少し大きめの豆にしか見えなかった。

 だが比企谷は得意げに、かつ相手がわざと激昂してくれるように計らって言う。

比企谷「これは音声を変質させることのできるアイテムだ。もちろん既存の音声を登録してそれでしゃべることもできる。ついでに言うとこいつは第1層のある森でしか手に入れられない。他のベータテスターも知らないだろうなこんなアイテム。他にも知ってるぞ。そこらの情報屋なんて問題にならないほどにな」

 シンッとした静寂の中、キバオウが我慢ならないように比企谷に向けて叫ぶ。

キバオウ「な、なんやそれ……。そんなんもうベータテスターどころじゃないやないか。もう、チートやチータやないか!!」

 キバオウの叫びとともに先ほどまで黙りきっていたプレイヤーたちが口々に言い始める。

プレイヤー「そうだ! そうだ!」

プレイヤー「そいつチーターだ!」

プレイヤー「ベータのチーター……、だから、ビーターだ!!」

 比企谷は先ほどにも勝るほどニヤリっと大きく笑った。

 そして、言う。

比企谷「……ビーター。いい名前だなそれ」

 そこまで言ってまたしてもメニューウィンドウを操作する比企谷。

 一センチ程度の豆のようなものをアイテムストレージにしまうと、さらにウィンドウを操作しどこで手に入れたのか一緒に行動していた者たちもわからない黒いマントを装備する。

比企谷「そうだ。俺はビーターだ。元テスターごときと一緒にしないでくれ」

キバオウ「な……」

 比企谷はさきほど装備したマントのフードを被るとそくさくと次の階層に続いているのであろう階段を上って行ってしまう。

そういえば言い忘れていましたがディアベルがパーティーを組んでくれといった時の人数は6人でした。

このssでは都合上10人とさせてもらいました。

乙、面白い。
どうでもいいけどなんでsage進行なんだ?

俺ガイルクロスだと大体キリト役を比企谷がやる。←これ
こういう時に何もしないで一般に紛れるのが八幡なんだよなぁ。

読者様がなんか仰ってますよ

コメありがとうございます。

>>115
シャイなものでして(笑)

>>116
ヒッキーってそういうものなのでしょうか? そういうイメージはありませんでした。

 

>>116
この八幡『ビーターだ』展開多いよな。
そして大体エタってる。
>>117
読者様( )って煽りやめたほうがいいよ。内容無いし、ガキっぽい。

キバオウ「ちょ、待てや!!」

小鷹「たくっ。……仕方ねえなぁ」

 キバオウが比企谷を追いかけようと走りだそうとするが、その目の前に小鷹が立ちふさがる。

キバオウ「なんやお前!! そこどいてくれへんか!!」

 その強気な姿勢に小鷹は多少怯むがすぐに持ち直して自分の頭にオブジェクト化した回復ポーションをぶっかけた。

 そして手で髪をオールバックになるように後ろにあげてからできる限り険しい声でキバオウに告げる。

小鷹「ここは俺の顔に免じて手を引いてくれねえかな。キバオウさん?」

 誰が見ても泣く子はもっと泣き叫ぶようなヤンキー顔負けの姿に周りにいたプレイヤーたちまでもが後ずさる。

キバオウ「分かったわ。もうアンタらには何もいわへん!! それでええやろ!!」

小鷹「悪いな」

 小鷹はそう言って美琴、上条、雪ノ下、由比ヶ浜、星奈、キリト、アスナと合流し、比企谷の後を追う。


 迷宮区、第2層にて


上条「これでアクティベート? ってやつが終ったのか?」

キリト「ああ、そのはずだ」

美琴「これでようやく第2層の攻略かぁ。この先が思いやられる

わね」

アスナ「それでもいつかは100層に到達できるはずよ。諦めさえ

しなければね」

小鷹「そんじゃあ、俺たちはそろそろ戻らしてもらう。仲間が

1層で待ってるから報告してくるわ」

星奈「ちょ、置いてかないでよ小鷹ぁ!!」

エギル「さて、俺たちも解散するかね」

美琴「そうですね。あっちはあっちで任せましょう」

 そう言って彼らある方向を一斉に向いた。

 第2層の街のとある路地。

 ドンッ!

比企谷「ッ……!?」

 比企谷が一人歩いているといきなり背中になにかが衝突した



 とても暖かい何かが。

由比ヶ浜「ヒッキー……」

比企谷「由比ヶ浜か。どうしたんだ?」

 比企谷が後ろを振り向く。

比企谷「……ッ!!」

 そして気づいた。

 由比ヶ浜が泣いていることに。

 由比ヶ浜は比企谷の黒いマントに隠れた薄地のシャツをギュ

っと掴む。

由比ヶ浜「……何でヒッキーはいつもそうやって解決しようと

するの? 意味ないじゃん、自分自身が傷ついちゃったら……

」 

比企谷「意味はある。それに俺は傷つくことに慣れてる。それ

ぐらいお前もわかるだろ?」
 
由比ヶ浜「分かるよ。分かってるよ。だからだよ! だからヒ

ッキーにはこれ以上つらい思いしてほしくないって思ってんじ

ゃん! 誰かを助けるために自分を犠牲にしていいことなんて

ないって言ってんじゃん!! 傷ついたヒッキーを見てるこっち

の身にもなってよ!!」

 突然の激昂に比企谷は体を硬直させる。

 あれぐらいのことはいつもやってきたつもりだった。

 いや、いつもやっているからこそ、由比ヶ浜は比企谷が傷つ

くことをこれ以上よしとはしたくなかったのだ。
   
比企谷「……その、なんだ。すまん」

 由比ヶ浜は比企谷の服を引っ張る強さをさらに強くする。
 
由比ヶ浜「あやまるなら、もう絶対にしないでよ。傷ついたヒ

ッキーを見てると私までつらくなっちゃうから……」

 比企谷の胸に、ポリゴンで生成されているとはいえ現実そっ

くりの比企谷の心臓辺りに由比ヶ浜はうつむきながら頭をポン

と寄りかからせる。

 そしてそれを近くの家の影からこっそりと見聞きしていた者

がいた。

???「そろそろいいかしら」

 しばらくしても由比ヶ浜と比企谷がはなれようとしなかった

のでその少女は声をかける。

 
由比ヶ浜「―――ゆ、ゆきのん!?」

 突然、家の影から現れた雪ノ下に対して由比ヶ浜は大きく声

をあげ、自分の状況を確認してからようやく比企谷と離れる。

雪ノ下「こんにちは、由比ヶ浜さん」

由比ヶ浜「い、いつからそこにいたの!? 全く気付かなかった

よ!!」

雪ノ下「さっき来たのよ。2層の新しい宿を買ったから探してい

たの。あなたたちもつかれているだろうし今日は早めに休んだ

方がいいわ」

比企谷「……」

 比企谷は雪ノ下を見つめていた。

 不思議そうに、その腐った目で。

雪ノ下「比企谷君。私の顔になにかついているのかしら?」

比企谷「いや。なんでもない」

雪ノ下「そう。それならはやく宿に行きましょうか」

由比ヶ浜「うん。そうだね。そうしよー!」

比企谷「相変わらず元気だなお前は……」

由比ヶ浜「いや、結構疲れてたりします……」

 フラッっと由比ヶ浜の体が傾く。

比企谷「おいおい。大丈夫か? なんならおぶってくぞ?」

 そう言って比企谷は由比ヶ浜の目前で座り込み、背中に乗る

ように促した。

由比ヶ浜「うわっ!! ヒッキーが人に親切にしてる!! なんか

キモイ!!」

 若干マジで後ずさる由比ヶ浜。

比企谷「おい。人の厚意を罵倒してんじゃねえ。そして何気に

俺が普段親切じゃないみたいなこと言うな」

由比ヶ浜「いやー。あまりにもちょっと……ねえ?」

比企谷「それだけ元気があればおぶらなくても大丈夫だな」

由比ヶ浜「……やっぱ疲れたから、おんぶしてくれると助かり

ます」

比企谷「どっちなんだよ……」

雪ノ下「……」

比企谷「ん? 雪ノ下。俺の顔になにかついてるのか?」

雪ノ下「いえ、何も。強いてあげるとすれば顔そのものがこの

世に存在しているのが不思議なくらいに腐っていたわね。それ

だけよ」

比企谷「それだけって言いながら人の顔けなすの止めてくれな

い?」

由比ヶ浜「大丈夫だよ。ヒッキー顔は結構いい方だと思うよ…

…多分」

比企谷「最後の多分で俺の心があげて落とされた状態になった

からな。まぁ、由比ヶ浜もそこそこ高スペックだと思うぞ。頭

以外は」

由比ヶ浜「ちょ。ヒッキー!!」

 由比ヶ浜は残った体力を使って比企谷の上で暴れまくる

比企谷「ちょっとまて! 暴れるな! やめろ、ビッチ!!」

由比ヶ浜「誰がビッチだぁぁぁぁぁ!!」

比企谷(そのいろいろと俺の背中にあったてる二つのメロンの

ことだ!!)

雪ノ下「……」

 そうこうしているうちに宿へとたどり着く。

 


 現時点死亡者約2000人。攻略進度第2層。

 ゲームクリアまではまだはるか先。

 それでも、みな一様にその日が来ることを、自分たちで迎え

に行くことを胸に抱いて、明日からの攻略に備えるのであった



そして、比企谷は由比ヶ浜を無事宿まで送り届けた後、メッセ

ージによってとある人に呼び出された。

比企谷「えっと、キリトだっけか? 何の用だ」

キリト「何であそこで俺をかばった?」

比企谷「……」

 少し間をあけてから、比企谷は口を開ける。

比企谷「別に、お前を助けたわけじゃない。確かに俺がベータ

テスターであるというのは嘘だが、俺が助けたのは俺自身だ。

俺は今後あいつらとボス攻略にいける自信もないし、行く気も

ない。だったらあそこで俺がああいっってしまえばあちらから

も接触はしてこないだろうし、勝手に攻略を進めていくだろう

な。だったら俺ははたらかなくて済むようになるんだからあそ

こではあれが正解だろ」


キリト「その『自分がやらなくても勝手にあいつらがやってく

れる』っていうのは建前だろう? 確かにビーターと名乗った

お前に対抗意識を燃やして攻略を頑張って進めようとするだろ

うが……」

比企谷「はあ……」

キリト「?」

比企谷「もういいだろ。俺はただ単に孤高のボッチが好きなだけだ。さっき言ったこと以外に俺がビーターになった理由はない」

 そう言って比企谷はどこかへあるいていってしまった。

次回からは少しだけオリキャラを混ぜていきたいと思います。

次回は第三話ぐらい? キリトさんがサチさんとキャッキャッウフフしてる間の物語です。

最近平日が忙しく、ストックがたまりにくいので多分次からは土日更新となります。

本当に申し訳ありません。あと、みんながキャラ崩壊している件でも……

なんか文が変なとこで切れてる
ケータイだからか?

>>129
単純に私のミスです。

すみません。

FROM アリス


 日時  2022年  12月3日   


 報告     

 第1層がクリアされました。ラストアタックはプレイヤー名キリト。パーティーメンバー、キリト、アスナ、コダカ、セナ、ミコト、トウマ、ヒキガヤ、ユキノ、ガハマの9人。観察対象は依然として表立ったエラーは確認されていません。以上。

 To アレイスター・クロウリー




 (観察)日記




観察対象・ヒキガヤ、ユキノ、ガハマ





 
 昨日は見事に雪が降り積もってイルミネーションがより輝いていました。

 そして今日はその次の日、2023年12月25日、クリスマス。

 いまだ雪が降り積もるなか、第49層・ミュージエンでは三人の少年少女が話し合っていました。 
 
比企谷「いや、だからさ。何もあれはなかったんじゃないか?」


由比ヶ浜「私もさすがにあれはなー」

雪ノ下「その、いや、悪いとは思っているわ。でもいくらゲームだからって猫を殺すのは私にはできないの。ごめんなさい、由比ヶ浜さん」

比企谷「おい、俺には謝るないのか」

雪ノ下「……なぜあなたに謝らないといけないのかしら。あなたは逆に謝る方の立場だと思うのだけれど」

比企谷「何で俺が謝ることになってんだ。つか、そんな謝るような迷惑かけてないだろ。なに、俺が悪いみたいな方向に流そうとしてんだよ」

由比ヶ浜「まあまあ……」

 かれらがこうなった理由はつい一時間ほど前になります。

 第49層フィールドダンジョンは雪が積もっていて足場が悪いダンジョンとなっていました。

 そんなときに彼らはとある情報を手に入れました。

比企谷「で、そのダンジョンはどこにあるんだ?」

雪ノ下「NPCの情報によるとこの辺のはずなのだけれど……」

由比ヶ浜「あ、あれじゃない? あの少しくぼんでいるところ」

 ガハマが指をさして示した場所には巨大なくぼみがありました。

 そのクマの冬眠場所としては適任かもしれない場所には巨大なダンジョンの入り口となっていました。

比企谷「結構続くな」

 かれらはダンジョンを進み続けました。

 その巨大なダンジョンであるとは裏腹にモンスターは一切というほどに出てきませんでした。

 かれらがダンジョンに侵入してからおよそ30分後。

 迷宮区の扉と同等ほどの巨大な扉が彼らの行く道をふさぎました。

比企谷「……どうすんだこれ」

雪ノ下「とりあえず開けてみましょう。警戒は怠らないように」

由比ヶ浜「分かった」

 ギギギギッと重い音が響きます。

 三人がドアを開けるとそこにいたのは一匹の猫でした。

  
雪ノ下「猫……!!」

 一番早く反応したのはこの少女、現実ではユキペディ……こほんっ、といわれているとかどうとかの少女。

 ユキノでした。
 

 とても小さなその猫にももちろんHPバーが表示されています。
 
 ですが三人が驚いたのはそこではありませんでした。

 いたのです。

 子猫の後ろ、およそ三メートル離れたその場所に、質量、体積ともに三人の5倍増しぐらいにした巨大な猫が。

 HPバーが5本表示されました。

 ボス級モンスターであることの証です。

 伊達にこの世界を戦い抜いてきたわけではないい三人はすぐさま戦闘態勢を整えました。

 そして戦闘が開始されます。

比企谷「……ッ―――!!」

 基本的に近接戦闘しか行えないこのソードアートオンラインですが、その中で最も困るのは遠距離から攻撃してくる敵だと三人は思っていました。

 しかし、事実ではそれとは異なる結果が生まれます。

 そもそもこのゲームにも弓矢などの武器を持った敵はいますがあくまで単発の攻撃などでいくらでも避けることは可能なのです。

 そう考えたらもっとも戦闘がしにくい敵といえば近接戦闘に特化した超高速移動をするモンスターです。

 そして今まさにそれが証明されていました。

 巨大な右前足がヒキガヤに襲い掛かります。

 それもものすごそくどでした。
 
 ヒキガヤは鼻先すれすれでそれを回避しソードスキルを発動します。

 キュインンンンンッ

 光が剣を包みシステムアシストによってヒキガヤの体が半ば強制的に動かされます。


 しかし、巨大な猫はそれさえも躱しました。

由比ヶ浜「ヒッキー下がって!!」

 ガハマが前に出て、更なる一撃を浴びせようとしますが巨大猫は一瞬にしてガハマの前方から消え、横脇に出現すると30センチぐらいありそうな鉤爪でガハマに襲い掛かります。

 ズシャァァァッという効果音が響きました。

 どうやらそれは刀での防御が間に合わず、ガハマが身にまとっていたアーマーが切り裂かれた音でした。

比企谷「由比ヶ浜下がってろ。……つか、雪ノ下、お前何してんだ!?」

雪ノ下「悪いのだけれど私は例えモンスターでも猫は傷つけることはできないの」

比企谷「んな悠長なこと言っている場合かよ……」

 ヒキガヤは巨大猫の前足による横薙ぎをかがんで躱します。

 しかし、巨大猫も猫でその巨体とは合わないすごい速度でヒキガヤを攻撃します。

 ヒキガヤも何とかかわしますが少しかする度にそのHPが少しずつ減少していきます。


比企谷(……まずいな。このままだとHPが持たない......)

由比ヶ浜「ヒッキー! 脱出しようよ!」

比企谷「分かってる!!」

 ヒキガヤとガハマ、ユキノは脱出を試みるのですがもちろん巨大猫はそれをさせまいと扉の方に先回りしました。

比企谷「おい由比ヶ浜。お前転移結晶は持ってるか?」

由比ヶ浜「持ってるけど……。ゆきのんは?」

雪ノ下「私も持っているわ」

 

 そう言って三人は転移結晶と呼ばれる青色の長方形の形をしたクリスタルをポーチから取り出しました

 ソードアートオンライン内ではとても重要なアイテムです。

 瞬時にその場から離脱でき、使用者が告げた街に移動するという代物なのです。

 そのため、アインクラッド攻略初期ではかなりの高値で売買されていました。

 というより、クリスタル系統のアイテムはとても高かったりするのです。

 回復ポーションは一般的に何秒間に何ポイント回復という徐々に回復するタイプですが、クリスタルの中で代表的な回復結晶は瞬時に自分の最大HPの何パーセントを回復させるものなのです。

 よって、ヒキガヤたちもまだ転移結晶は少ししか持ち合わせていませんでした。

比企谷「…………」

由比ヶ浜「ヒッキー!」

 少し使うのを渋っていたヒキガヤでしたが。

比企谷(仕方ないよな……)

比企谷・由比ヶ浜・雪ノ下「「「転移、ミュージエン!!」」」




 そして、時は戻り今に至ります。

雪ノ下「本当に悪かったわ。私のせいでわざわざ貴重なアイテムを使用させてしまって……」

由比ヶ浜「別に、大丈夫だよ!! ほら、無くなったならまた補充すればいいだけだし!!」

比企谷「補充てどうやってやんの?」

由比ヶ浜「えっと、どうやってやるんだろう……」

雪ノ下「……またどこかで拾うか、プレイヤー商人から買うしかなさそうね」

由比ヶ浜「だねぇー」


由比ヶ浜「で、あのねこってどうしようか?」

比企谷「いいんじゃねぇの。適当に他のプレイヤーたちに任せておいて」

雪ノ下「それは……その……」

比企谷「んじゃ、知り合いに頼むか」

由比ヶ浜「知り合い?」

比企谷「いただろ。ほら、第1層ら辺で一緒に攻略した、何とかさんたち」

由比ヶ浜「それって知り合いっていうのかなー?」

雪ノ下「比企谷君に友達がいないのはいいとして、ミコトさんたちに頼んでみるのはいい案だと思うわ。巨大猫……仕方がないけど割り切るしかないわね。ただし小さい方は保護していくわ」

由比ヶ浜「あ、それじゃー私の方からセナさんに頼んでみるね!!」


比企谷「ん? お前らあいつらとまだ付き合っていたのか?」

由比ヶ浜「ていうかヒッキーだけだよ、みんなでパーティー組もうとしなかったの」

比企谷「んな話聞いてねえぞ。なに? みんなで俺を省るの? 中学校時代の様に?」

由比ヶ浜「あれ? ゆきのんがたしか伝えたっていってたような……?」

雪ノ下「……ごめんなさい。すっかり忘れていたわ」

比企谷「ほぅ。雪ノ下でも忘れることがあるんだな」

雪ノ下「私も等しく人間なのだし当り前よ。まあ、その点比企谷君は心配しなくてよいからいいわよね」

比企谷「ほめてるように見せかけて実はさしに来てるだろお前」

雪ノ下「あなたは見る限り弱いモンスターにしか見えないのだけれど」

比企谷「弱いってわかってるならいたぶるのは止めろ」


由比ヶ浜「そうだよゆきのん!! ヒッキーがこの中で一番レベルが下だからってあんまいじめちゃだめだよ!!

比企谷「由比ヶ浜……」

雪ノ下「由比ヶ浜さん……」

由比ヶ浜「あれ? もしかして私すごく失礼なこと言っちゃった!?」

比企谷「多分気のせいだろ」

雪ノ下「そうね。ビーターであるあなたが私たちよりレベルが低いはずないものね」

比企谷(なるほど。二人で俺を潰しに来てるんですね。分かります)

比企谷「で、どうなんだ」

 比企谷は話をもとの路線に戻します。

由比ヶ浜「あ、うん。キリトさんとアスナさんは無理だって。セナさんたちは大丈夫そう」

雪ノ下「ミコトさんたちも大丈夫みたいね」

今日はここまでです。

また来週の土日に投下したいと思いますので。

投下します

 そして、数分後、パーティメンバーは続々と集まってきました。

 観察対象変更、ヒキガヤ、ユキノ、ガハマ、セナ、コダカ、リカ、ソラ、ユキムラ、ミコト、トウマ。



 場所はミュージエン転移門前広場に移ります。 

美琴「あ、ガハマさん、ユキノさんこんにちは」

由比ヶ浜「やっはろ~ミコトちゃん!! トウマ君!!」

雪ノ下「こんにちは二人とも」

上条「なんか悪いな。待たせちまったみたいで」

比企谷「別にそんな時間かかってねえぞ」

上条「お、ヒキガヤもいたのか」

比企谷「さっきからいたよ……」

上条「いや、今日は来たんだなって意味。いつもお前だけ来ないだろ?」

比企谷「ああ。雪ノ下が俺に伝え忘れてたんだとさ」

上条「雪ノ下? ああ、ユキノさんのことか」

雪ノ下「比企谷君。リアルの名前で呼ぶのは人前ではやめてほしいのだけれど?」

上条「いや、俺もミコトのことを御坂って呼んでるから気にしなくていい。名前なんてどうせみんなもじりだったりそのままだったりするんだろ?」

 トウマの予想は当たっていました。

 ほとんどこのメンバーに限って言えば、全員が本名といっても差支えないほどなのです。

 そこで転移門から新たな人影が五つ現れました。

小鷹「すまん待たせちまったか?」

雪ノ下「特に問題ないわ。むしろ悪いわね。急に呼び立ててしまって」

夜空「ふむ。貴様らが小鷹と肉が言っていた、いわゆる『フレンド』たちか」

比企谷(……え、だれ?)

 この場でそう思ったメンバーは比企谷以外にもたくさんいました。

小鷹「あ、ああ。すまん。今日はこの三人もつれてきたんだ。いつまでも引きこもっていられたら困るしな」

夜空「そうだなまずは自己紹介からか。私はソラだ。武器は槍だ。レベル的にはかなり低いがよろしく頼む」

星奈「このバカ狐はほっておいて次行きましょう!!」

夜空「おい肉。貴様、後ろから肉塊にされるかもしれないな。あと30分後ぐらいに」

比企谷(ないそれ、超怖いんですけど。てか、雪ノ下ぐらい冷たくないかコイツ)

 とりあえず個人個人の感想はほっておいて次に自己紹介したのはこのゲームでは珍しくメガネをかけた少女でした。

理科「どうもこんにちは! リカって言います!! 武器は短剣のクロスダガーです。みなさんよろしくです!!」

 いつもなら人が多いとぶっ倒れてしまうこの二人ですがコダカたちの『フレンド』ということで大丈夫みたいです。

 転移門前広場といっても今は別の広場でイベントを催しているようなので周囲に人はあまりいません。

 そのため今までぶっ倒れ続けてきたこの二人でもこの場にいること自体は大丈夫ということなのです。

幸村「私はユキムラです。あにきの舎弟として真の男としての修行のみでございますが、どうぞよろしくお願いいたします」

美琴「えっと……男?」

夜空「性別的には女なのだ」

比企谷(あれ、戸塚的なあれじゃないんだ……)

雪ノ下「それでは自己紹介も終わったことだし出発しましょうか」

夜空「そうだな。とりあえずメッセージに書いてあった例のダンジョンまでは肉に壁になってもらおうか」

星奈「だから壁なんかにならないって言ってるでしょバカ夜空!!」

小鷹「落ち着け星奈。夜空もあまり言ってやるな。これは命のかかったゲームなんだぞ」 

夜空「…………分かっている。ちょっとからかっただけだ……」

 ヒキガヤとリカは短剣を、ガハマとユキムラは刀を、ユキノとソラは槍を、コダカは片手剣を、セナは細剣を、ミコトは両手剣を、トウマはその拳を。 


 一同はそれぞれ自分の武器を手にし、フィールドにでて巨大猫の待ち受けるダンジョンへと進んでいきます。

比企谷「ここだな」

 およそ30分ぐらいして巨大猫の待つ扉の前につきました。

星奈「腕が鳴るわね!!」

理科「少しワクワクしてきました!」

幸村「初のボス級モンスターとの戦い……緊張します」

比企谷(……え、マジですか)

由比ヶ浜「大丈夫だよ。結構何とかなるもんだし!」

雪ノ下「10人もいれば十分というほどの安全性よ。確実ではないにしろやられる確率が低いのは確かだから、そんなに緊張しなくてもよいのではないのかしら」

 その言葉に彼らは頷き、先頭の二人が声をかけます。

小鷹・上条「開けるぞ」

 扉が開き、フィールドが現れます。

 そして前回と同様に、小さな猫も。

比企谷「雪ノ下。お前はあのネコをさっさと拾ってこい。由比ヶ浜は猫を保護した雪ノ下を護衛しろ」

由比ヶ浜「え、でも……」

比企谷「さっき雪ノ下もいっただろ。安全性は高いんだ。それに足元をネコにうろちょろされても困るだろ」

雪ノ下「それもそうね。じゃあ巨大猫の方は任せるわ」

上条「任せとけ」

星奈「私の力、とくと見せつけてやるんだからクソアホムシバカ夜空!!」

夜空「いいだろう。私も最近身に着けた剣術を試してみたいと思っていたところだ!!」

 二人は互いに言い合いながら現れた巨大猫に突っ込んでいきます。

小鷹「おい、足並みを合わせた方がよくないか!?」

 コダカが何かを叫びますが突っ込んでいった二人には全く聞こえていませんでした。

星奈「せいあああああああァァァァァァァ!!」

夜空「はああァァァァァ!!」

 ですがヒキガヤたちは一つ伝え忘れていました。

 巨大猫の特徴である高速移動のことを。

星奈・夜空「な……!!」

 その瞬間、何があったか彼女たちは理解できませんでした。

 一瞬にして巨大猫が消えたと思ったらそのうちに二人のHPを半分削り取ってしまったのです。

 おそらくそれを認識できたのはある程度現実で戦闘慣れしていたらしい、本人たちの動体視力が良いトウマとミコトだけでしょう。

小鷹「おい、二人ともどうしたんだ!?」

上条「見えてなかったのかコダカは?」

雪ノ下「あなたは見えていたの?」

上条「ある程度はな」

美琴「さっきのは爪でいいのよね。いくらなんでも大きすぎじゃないかしら!!」

 ネコの抓めはとても大きいだけではなく、アーマーを貫通、切り裂くほどの破壊力を兼ね備えていました。

比企谷「で、結局どうしたんだ?」

美琴「爪で胸部二人のアーマーを切り裂いたってのは大体わかるけど、それも3連撃で」

上条「体術スキルと似た感じだったな」

星奈「ちょ、何なのよこの格好!?」

夜空「な……」

 二人の少女はようやく気づきました。

 自分らの装備していたアーマーだけではなく、シャツまでもがズタズタに切り裂かれていることに。

 つまりはちょっと肌色率が上がっていたのです

夜空「くっ……こういうのは肉だけで十分のはずだ!!」

星奈「何それ!? まるで私がお色気担当みたいじゃない!!」

夜空「だからそうだといっているだろうが!!」

 二人がごちゃごちゃ言っている間も他のメンバーはスピード、攻撃力ともに圧倒している巨大猫と戦闘を続けます。

 どうやら二人の肌色状態をのんびり見ていられるほど優しい状況ではないようです。

上条「くっ……このっ!!」

 トウマは巨大な前足の横薙ぎ攻撃をかがんで避け、右こぶしを握り締め、短剣の代わりに使用している体術スキルを発動します、が。

 スカッ

 やはり当たりませんでした。

 どうやってもこの巨大猫に攻撃を当てることができなかったのです。

 ここでひらめいたのはヒキガヤでした。

比企谷(要はあの厄介なスピードをどうにかすれば勝てる。いや、違うか)

比企谷「おい、えっとコダカ。お前少し右に寄ってろ。俺が合図したら全力で前に突っ走れ」

小鷹「?」

比企谷「ミコト? は両手剣だったか。それで敵に最初に突っ込め。できれば縦斬の左寄りの攻撃で」

美琴「分かったけど……」

 ミコトもコダカも特に何も言わず言われた通りに行動し始めました。

 いちいち理由を聞いているような余裕はなかったのでしょう。

美琴「たあああああああぁぁぁッ!!」

 最初にミコトが、両手剣ソードスキル、テンペストを発動しました。

 このミコトが使用している両手剣スキルですが実はエクストラスキルと呼ばれる特殊なものなのです。

 これはガハマやユキムラの刀スキル、トウマの体術スキルも同様です。

 ミコトの場合は片手剣を、ガハマやユキムラは曲刀をそれぞれ一定値の熟練度まで使用すると解放されるものなのです。

 トウマはとあるクエストをクリアすると獲得できるというものでした。

 さて、ミコトが放った両手剣ソードスキル、テンペストですが、これもものの見事に避けられてしまいました。

 しかし。

小鷹「―――ッ!?」

 コダカは自分で自分の行動について驚きました。

 先ほどヒキガヤに言われた通り右によって突進した結果、ミコトの斬撃を避けた巨大猫がコダカの目の前に飛び込んできたのです。

 コダカはすぐにヒキガヤの意図について察しました。

小鷹「はあああああああぁぁぁッ!!」

 そして現在コダカが持っているソードスキルの中で一番強いであろう片手剣ソードスキル四連撃、バーチカル・スクエアを放ちました。

 ザシュッザシュッザシュッザシュッッッ

 ひし形を描くようにそのすべての攻撃が巨大猫に命中しました。

 巨大猫のHPも相当に減っています。

雪ノ下「どうやら攻撃力や敏捷力に特化している代わりに、防御力が貧弱のようね」

由比ヶ浜「ヒッキー!! 私も行くよ!!」

 ヒキガヤの作戦はこうでした。
 
 まず誰かが斬りかかり、任意の方向に相手を避けさせる。

 そして、その場所に誰かが先回りしておいて仕留める、と。

 例えどんなに敏捷力に優れていたとしても空中に体が浮いてしまっている状態、つまり避けた瞬間は次の動作ができません。

 地面に足がつかなければ移動することは不可能なのですから。

比企谷(まあ、その任意の方向に避けさせるっていうのが肝だったんだがな……)

 しかし、この無駄に強い巨大猫の攻略法が分かったのもまた事実。

 10人はその方法をとり、巨大猫に次々とダメージを与えさせるのでした。

 星奈と夜空も戦闘に参加したいのはやまやまなのですが、今の肌色率では色々と危険です。

 そして着替えようとしても装備を一度外して下着にならないといけないということがあるので、男性陣がいるこの場ではそんな大胆な行動はできません。

 よって二人だけは置いてけぼりとなってしまいました。

美琴「とりゃああああああああぁぁぁぁぁ!!」

 またしてもミコトがテンペストを放ち、それを左に避けた巨大猫ですがその宙に浮いているすきにトウマとガハマが攻撃を仕掛けました。

比企谷(やっぱり。あの巨大猫型モンスターは縦斬の攻撃を横に跳んで避けるというアルゴリズムを持っている。距離はおよそ4~5メートルの一定間隔。スピードは速いが先読みさえできればこちらが勝てるはずだ……)

 ヒキガヤの思考通りに、次々と巨大猫のHPが減っていきます。

雪ノ下「…………」

 ユキノは沈黙していましたが、しっかりとその戦いを見つめ続けていました。
 
 両手で小さな子猫を抱きかかえるようにして。

幸村「とりゃあー」

由比ヶ浜「せいっ!」

理科「とう!」

小鷹「そこだ!」

 コダカは何かに気づいて、巨大猫に単身突っ込んでいきます。

理科「ちょっ、小鷹先輩!?」

 コダカの声を無視してコダカは突進します。

 そして、巨大猫の爪の一撃がコダカを襲いました。

 コダカはそれを片手剣を少し擦るようにして軌道を逸らし、回避したのちにスライディングをしました。

 巨大猫の真下、懐に入り込んだコダカですが狙いは巨大猫のお腹ではありません。

 仰向けになっていた状態から転がるように一回転すると、片手剣をそのまま遠心力を利用して猫の首を真横から切り裂きました。

 巨大猫のHPがさらに目に見えて減少します。
 
 おそらくウィークポイントに設定されていたのでしょう。

 基本的に既存の動物をモチーフにしている場合は顔面や首への攻撃が最も有効であります。

 そこへ、

美琴「てああああぁぁぁ!!」

幸村「はぁ!!」

比企谷「……ッ!!」

由比ヶ浜「せいあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

上条「おうりゃあああああああああァァァァァァァ!!」

 ドゴッザシュッカンッキュィィィィンッガンッ!!!!!!
 

そして何十回目かの攻撃を終えて、ようやくのごとく巨大猫のHPが空になりました。

 バリンッと聞きなれた破砕音が耳に響くと同時に、目の前に報酬ウィンドウが表示されます。

由比ヶ浜「なにこれ!!」

美琴「随分と多いわね……いや、むしろありがたいけれども」

上条「ほんとにこれ俺のデータか? もしかしてこの後いきなりアイテムとかお金とかがバグによって消えちゃいましたーとかやめてくださいよ!?」

 みな一様に驚きました。

 その巨大猫を倒した報酬がものすごい豪華だったのです。

星奈「なんかずるいわね私たち」

夜空「何を言っているんだ肉。もらえるものはもらっておくのが常識ではないか」

 この二人は早々にリタイアしていたのですが、不幸か幸か、パーティーを組んでいた場合はパーティーメンバー全員に自動均等割りされてしまうのでした。

小鷹「結構きつかったな」

幸村「申し訳ありません。あにきのお役に立てず……」

理科「幸村君はよくやりましたよ。小鷹先輩はもうちょっと頑張ってください。私と二人だけの家を買うために!!」

小鷹「はぁ!?」

 リカのいう家ですが、これは結構高かったりします。

 なので、お金がたまるまでは基本的に宿生活を行うのが一般的です。

 また、例外的ではあるものの無料でマイホームが手に入るというときもあります。

 これは高難易度のクエストでの報酬であったりするのです。

 
上条「でもこれだけあれば結構防具とかもいいのそろえられるぞ?」

美琴「私はとりあえず新しい武器が欲しいわね。でも、それだったらモンスタードロップの方がいいかな?」

 また、こちらでも報酬の使い道について話し合っているグループがいました。

由比ヶ浜「ゆきのんは何に使う? やっぱりお洋服?」

雪ノ下「私はこの猫の飼育に使うことにするわ。まだとくにはほしい武器も防具もないわけだし」

 使い道こそはいろいろありますがそれは個人の好き勝手なので特に言及することはありません。

理科「あ、小鷹先輩。どうせならみんなで儲けたお金を使ってギルド作りましょうよ。それで、ギルドハウスを買ってそこをみんなのプレイヤーホームにしましょう!!」

小鷹「でもいいのか? 夜空や理科って人が多いところ苦手じゃなかったか?」

夜空「このメンバーであるならもうある程度慣れた。でないとここに来ることさえできていないだろう」

小鷹「……まあ、確かに」

美琴「いいわねそれ。私たちもギルド作っちゃってみる?」

上条「でも二人しかいないだろ。それってギルドって言えるのか上条さんは不安ですことよ」

比企谷「だったら、もうこの面子でギルド組めばいいんじゃねえの?」

星奈「そうね。この私が他のギルドに入れば最強確定だけど加入希望者が増えすぎちゃうかもしれないし……」

夜空「貴様程度で大騒ぎになっていたらどこもかしこも英雄だらけになってしまうだろうが。とりあえず肉はほっておいて私たちだけでギルドを組もうではないか」

星奈「ちょっと、なんで私だけ省かれるのよ!!」

夜空「肉が入ったギルドは加入希望者が続出してしまうのだろう? 生憎と、私も理科も人が多いのは苦手でな。そういうのは御免なのだ」

理科「星奈先輩を省くわけではないですけれど、人がたくさん入ってくるのは、ちょっと……」

夜空「だそうだが?」

小鷹「おい、お前ら止めてやれよ……」

星奈「小鷹ぁ」

小鷹「はぁ……」

上条「小鷹たちは全員入るとして、お前らはどうなんだ?」

比企谷・雪ノ下「パス(断るわ)」

由比ヶ浜「即答!?」

美琴「えっと、どうして……?」

比企谷「ギルドとか言っているが、それは別に絶対入んなきゃいけないってわけでもねえだろ。むしろパーティーは組んでもギルドには入っていない人の方が多い。それぞれの人間関係、アイテムや金とか色々なことで騒動が起きることもあるしな。それらを考えたらギルドに入るメリットの方が少ないだろ」

星奈「とか言ってるけどさー。ほんとはビーターである自分がギルドに入ることで周囲に迷惑をかけたくないだけなんじゃないの?」

比企谷「俺の話聞いてたか……? だから……」

星奈「あ、私ちょっと着替えてくるね。そっちの影で。絶対覗くんじゃないわよ?」

夜空「私もこのままではいられないな。少し着替えてくる。あと肉は除いておいてくれても構わない。ギルドからな」

星奈「ちょっと、このバカ夜空!!」

雪ノ下「比企谷君の意見もあるのだけれど一番の理由は他のギルドににらまれる可能性があるというところね。何せビーターもいるわけだし」

比企谷「だったら俺らは既に他のギルドに目をつけられてんじゃないのか? 結構パーティー組むだろ。由比ヶ浜とかは」

雪ノ下「あなた一人なら問題はないのだけれど。聞いた話ではあなたをビーター呼ばわりしたあのへんな頭の男。軍の幹部プレイヤーになったらしいから、おそらくあそこでキリトくんを庇った私たちもすでに目をつけられていると考えていいのではないかしら?」

 軍というのはとあるギルドのことです。

 いや、ギルドというのはやや語弊がありますね。

 彼らは単一のギルドではなく、このアインクラッドの中でも大きいギルドが集まり、連合を組んでさらに肥大化したといった感じ、とでも言った方が良いでしょうか。

 
比企谷(目をつけられているかどうか以前に、俺の存在そのものがプレイヤーたち全員の敵みたいなものだからな。ギルドを作ったら抗争とかになりかねるかもしれんぞ……)

雪ノ下「比企谷君。あなたがプレイヤー全員に認識され忌み嫌われているなんて考えないでちょうだいね。そんなのは自意識過剰だわ」

比企谷「え、なに。お前エスパーなの? 心読めるの!?」

小鷹「ヒキガヤ。ここはゲームの中だぞ。しかもデスゲームだ。そんな学園都市みたいにおいそれと超能力者がいるわけないだろ。もしいたら助かってそうだし」

美琴「……」

上条「……気にするな」

美琴「いいわよ。レベル5《ファイブ》になったからってできないことぐらいあるのは最初からわかってることだし」

 ちょっと離れたところで話をしている学園都市出身者たちでした。

比企谷「じゃあそういうスキルか? 人の心読めるとかどんなチートだよ。なに? もしかしてアレですか。ビーターってやつですか?」

雪ノ下「そんなスキルも超能力も生憎と持ち合わせていないわ。それに、ビーターはあなたではなかったかしら。あなたみたいなのと一緒にしないでもらえる。ヒキズルヤ君」

比企谷「何引きずってるんだよ俺……」

雪ノ下「勘違いしないでもらえるかしら。今のは比企なんとかくんとチート、つまりずるを掛け合わしたものなのだけれど。あなたみたいな低能な人間だと人の言葉も理解不可能になるのかしら?」

上条「比企……何とかさん……」

美琴「……気にしたら負けよ」

比企谷「あのさ、比企何とかとか言ってるけどさっき比企谷のヤはわかってたよな? あと、何で人間が人の言葉を理解不能になるんだよ。いくら低能でも聞き取ることぐらいはできるだろ」

理科「あの、ガハマさん」

由比ヶ浜「なに?」

理科「リアルのことを聞くのはマナー違反ですけどぶっちゃけどうなんです? あの二人ってリアルでもいつもあんな感じだったんですか?」

由比ヶ浜「あー。うん、まあ……いつもあんな感じなのかなぁ。二人の話していることはいつも私には分からないことばっかだからよくわからないかな」


 リカは何故、アインクラッド内ではなくリアルのことを聞いたのか。

 それは、アインクラッドでの生活がプレイヤーたちの精神面にまで影響していると考えているからだと思われます。

 このゲームにとらわれた人は性格が様変わりしてしまうのです。

 性格が変わってしまう理由はまあ、多々ありますが大体自分の頭に浮かんでくることは正解であると判断してくださると助かりますね。

上条「結構仲いいよなあいつら」

幸村「ユキノのあねきにいじめられるけどそれでもくじけずにいるとは。流石です。ヒキガヤのあにき」

小鷹「幸村。いつから二人をあにき、あねき呼ばわりするようになったんだ……」

星奈「ていうか比企谷って友達いんの? リアルで」

小鷹「いや、俺たちが言えたことじゃないだろ。ていうか、リアルの話タブーな」

上条「お、着替え終わったのか」

夜空「ああ、だから一度街に戻らないか? 話はそれからのほうがいいだろう」

幸村「転移結晶をつかうのですか?」

夜空「いや、いつも自慢してくるぐらい肉は稼いでいるはずだ。転移結晶は肉のやつを使おう」

星奈「ちょっと夜空!! 何シレっと決めてるのよ!! 私がそんなにいっぱい転移結晶持ってるはずないじゃない!!」

夜空「ほう、そうか。じゃあいつも言ってることは嘘だということだな?」

星奈「それは、その……」

夜空「言葉も出んのか。この嘘つき肉め。街に戻ったらNPCにおいしく料理されるんだな!」

理科「はい! はい!! 理科は肉料理ならビーフシチューがいいです!! あの、ドロッドロ感がこっちでも再現できるかスゴイ楽しみです!!」

小鷹「肉料理って……」

美琴「いや、もういいから帰りましょうよ……」

比企谷「だな。それが一番いい」

雪ノ下「そうね。ここで言い合っていても何にもならないし。一度街に戻ってから。話はそこでしましょうか」

比企谷「ギルドについてか?」

雪ノ下「他に何かあるのかしら?」

由比ヶ浜「ゆきのんの笑顔がなんか怖い!」

上条「なんだろう。この命掛けのゲームなのにまったくそんな感じがしないほんわか感。やっぱり御坂か? 御坂が原因なのか? 冬のおでん屋台ちゃんなのか?」

美琴「誰が冬のおでん屋台ちゃんよ!! あんまなめてると本気で斬り刻むわよ!?」

上条「なんかさ、アレだよな。今の御坂より前の御坂の方が強かったような変な違和感があるよな」

美琴「こっちじゃ能力使えないんだから当たり前でしょうが!! あ~もぉ!! いいからさっさと戻るわよ!!」

 

 こうしてようやく彼らは街に戻るのでした。



 
 第49層・ミュージエン

 彼らは結局、ギルドを組むことにしました。

 もちろんヒキガヤとユキノは多数決により強制参加です。

 そして、アインクラッドに新たなギルド『WAFV』が作られました。
 
 ちなみにこれはWe aim for victory、勝利を目指す者の略称らしいです。

雪ノ下「さて、この猫の名前はどうしたものかしら」


今日はここで終了です。

今回は第三話をお送りしました。

次回はみんながギルドを組んだ後の第四話です。

今回登場したオリキャラのアリスですがソードアートオンライン9巻以降に登場するアリスと同じような容姿のイメージです。ただし、性格は改変して普通の女の子にさせていただいています。

また、次回予告とさせていただくと今回とほとんど時系列は変わらない、四話、五話にわたって年明けオリジナルイベントをやりたいと思っています。

また来週の土日に投下したいと思います。

すみません間違えました。

年明けイベントではなく年末年始イベントです

なんで途中から童話みたいな
地の文になってんの?

>>155

アリス視点なので。


 2023年 12月29日 第52層・ランゲージ

 


 ついにこの世界で二度目の年末になった。

 これは現実と一緒でやはりというか何かで商人プレイヤーたちやNPCまでもが年末年始セールをやってくれている。

 攻略優先の人たちもまた、これによりまとめ買いなど財布のひもを緩めるのだった。

 そしてここにも財布のひもを緩めて買い物をしているプレイヤーたちがいた。

比企谷「年末セールとかゲームの中でもこの雰囲気を味わうのかよ」

由比ヶ浜「いいじゃん! 安いに越したことはないよ。ねえ、ゆきのん?」

雪ノ下「ええ、そうね。この際結晶類もまとめ買いしてしまおうかしら?」

比企谷「俺あんま金使いたくないんだけど」

美琴「あー。ギルドハウス兼プレイヤーホーム買うときに結構使っちゃったもんね。いくらかかったけ?」

上条「5億コルだっけか? 上条さんは頭悪いので覚えてませんことよ」

雪ノ下「7千万コルね。どうしたら桁が一つ買わるのかしら」

小鷹「けど、確かにたくさん使ったよな。内装も合わせてだっけ?」

星奈「そうじゃなかったかしら。あれでこの前の巨大猫でもらった報酬とプラスαで一気にお金が無くなったわ」

夜空「まあ、仕方なかっただろう。10人で住もうと思えばそこそこ大きな家が必要となるからな」

 はぁ~、と揃ってため息をつく8人だった。  

 この場にいない理科と幸村だが、二人は情報収集ということで年末年始になにか大きなイベントがないか調査中である。

 理科のほうはNPC相手なら多少の人数も大丈夫になったらしい。

比企谷「で、どうすんだよ? 特に買いたいものも何もないぞ」

夜空「その通りだな。私も武器防具はついこの間残った金で新しくしたし」

美琴「私も。オーダーメイドって結構かかるのね。この前アスナさんに教えてもらった鍛冶屋で新しい両手剣作ってもらったんだけど結構お金かかったわ」

小鷹「その点トウマはいいよな。武器代いらないだろ?」

上条「ああ。でも結構防具とかで金かかってるんだよ。何か知らないけど盗賊イベントで金がむしりとられたりするし」

星奈「むしりとるってどうやって?」

上条「相手に触れられたら何コルずつマイナスってやつでさ。んで上条さんはほかのみんなと違ってリーチが短いから触れられまくって……ああ、不幸だ」

美琴「なんか、ご愁傷様……」

雪ノ下「では一度家に戻りましょう。みんな買うものがなければこんなところにいても意味がないわ」

由比ヶ浜「何もないんだったらフィールド行こう!! ほら、お金も溜めないとだし!!」

夜空「それもいいが理科や幸村と合流する時にちょっと時間がかかる。普通に家に帰っていた方が良いのではないか?」

由比ヶ浜「う~。でも、それもそうだね……」

比企谷「おい、落ち込むな由比ヶ浜。金ならまたあとで溜めればいいだろ」

由比ヶ浜「そうだけど今欲しい武器があって……あ、そうだ!! ヒッキー今度お金溜めるのに手伝ってよ」

比企谷「ああ、適当にそのうちな」

 こうして彼らはギルドハウス兼プレイヤーホームに帰ってしまう。

 第22層・コラルの村周辺

 この層のほとんどは草木でおおわれていた。

 そして主街区であるコラルの村も名前の通り小さな村だ。

 そこから少し離れた道もしっかり整備されている森の中に一軒の大きなログハウスがある。

 もちろんそこが彼ら、ギルド『WAFV』のホームである、いわゆるギルドハウスだ。

 つまりは全員このログハウスに住んでいる。

「「「「「「「「ただいま」」」」」」」」

 一同揃って家の中にはいった。

ニャー

 リビングで先日のクエストで雪ノ下が保護した猫が出迎えてくれる。

美琴「お留守番ありがとね」

 猫好きな雪ノ下と美琴は猫を撫でまくってじゃれついたりする。

 雪ノ下も美琴もいろいろな事情があって大好きな猫と遊ぶことができなかったのでこの猫が彼らのペットとなった今は思う存分二人が猫とじゃれついていた。

 その大きなリビングからはいくつかの部屋に行けるように廊下があったりする。

 もちろん人数分の部屋はあるし、お風呂場や洗面所に加えて玄関の裏手には広大な整備された庭が広がっている。

 ログハウスといえばアメリカ合衆国の森林部にあるような一軒家を想像するのだが、このログハウスはそれの3倍以上の大きさがあった。

比企谷「俺ちょっと自分の部屋行ってるわ」

雪ノ下「そうね。私も武器の手入れとかをしたいし」

由比ヶ浜「そうだね。私はお料理をするよ。リカちゃんやユキムラ君が帰ってきたときに疲れてるかもしれないから!!」

比企谷・雪ノ下「―――ッ!?」

 比企谷と雪ノ下は同時に現実の由比ヶ浜が料理をした時のことを思い出す。


 比企谷が食べたなんか潰れている和風ハンバーグや焦げて木炭みたいになったクッキーなどなど……。

雪ノ下「ゆ、由比ヶ浜さん。 私も手伝うわ」

由比ヶ浜「え、いいよゆきのん。武器のお手入れとかしないといけないんでしょ?」

雪ノ下「気が変わったの。手入れなんていつでもできるのだし」
由比ヶ浜「うーん。じゃあ手伝ってもらっちゃおうかな」

比企谷(よかった。これで食材アイテムの死滅は退けられる……)

美琴「私も手伝います」

星奈「私もやりたい!! こっちの料理ってどういうのか見てみたいわ!!」

夜空「何を言っている。貴様は料理される方だろうが」

星奈「ハッ!! 料理されるのはあんたよ、ばか狐!! この細剣、アンサラーソードでぶっ潰してやるわ!!」

夜空「貴様こそ。その程度の細い剣で私を切り刻めると思うな、肉ふぜいめが!!」

小鷹「おい、喧嘩するな。この世界でもお前らは喧嘩し続けるのかよ……」

星奈「仕方ないじゃない! 小鳩ちゃんがいないからストレスがたまるのよ!!」

小鷹「―――ッ!!」

夜空「おい、肉!!」

星奈「あ……ごめん。小鷹……」

小鷹「いや、大丈夫だ」

 この世界では現実のことは基本タブーである。

 理由は簡単だ。

 現実に残してきたこと全てはその人の思い出であり、大切な時間であるのだ。

 死と生の境界線にあるような状態のこの世界ではそれは他人がとやかく言っていいものではなく、個人が心の中にしまい続けるべきものなのだ。

 よって、基本的にタブーである現実のことは口に出さないほうが良いのである。

 もちろん、オンラインゲームなんて基本的にタブーであるようなものなのだが。

上条「俺も特にやることないなぁ……」

美琴「アンタって料理スキル上げてる?」

上条「多少はな」

雪ノ下「なら、手伝ってくれないかしら? 私も多少は上げているのだけれどそこまで大したものは作れないの」

由比ヶ浜「へー。みんな、ちゃんと料理スキル上げてるんだぁ。私一ミリも上がってないよ?」

星奈「よくそれで料理しようなんて言い出せたわね。まあ、この私に任せなさい。この料理の神、かしわ……セナが手伝ってあげるんだから、最高傑作のものができるのは確実よ!!」

夜空「キーキーうるさいな。もうこいつを調理してやろうか」

小鷹「だからやめろって。あと、さっきと言っていること変わってないぞ夜空」

上条「正直、いまさら本名隠したところで意味ない気がするけど……まあ、いいよな」

 その瞬間、バタンッと玄関の扉が開いた。

 もちろんこの家に入ってこれるのはあと二人だけ。

 他の人たちは中の人が許可しない限り入ってこれないからだ。

 理科と幸村はつかれるはずのないこの世界でゼェゼェと息を吐きながら、全力疾走で家の中に飛び込んでくる。

小鷹「どうしたんだ二人とも。そんなに息切らし……」

幸村「大変なんです、あにき」

小鷹「?」

理科「新しいイベントクエストの情報を手に入れたんですけどその内容が……」

雪ノ下「落ち着いてちょうだい。その状態でしゃべってもらってもうまく聞き取れないわ。由比ヶ浜さん。二人に飲み物を出してもらえるかしら?」

由比ヶ浜「う、うん」




由比ヶ浜「はい」

 息を切らした二人は由比ヶ浜に手渡されたオレンジジュースのようなものを受け取って一気に飲み干し、ようやく落ち着きを取り戻す。

美琴「それで、どうしたんですか?」

理科「じ、実は年末から年始にかけてのクエストの一覧が上方やに公開されたんですけどそこにイベントクエストっていう特別なクエストがありまして」

幸村「私は主にプレイヤーたちの方に聞き込みをしていたんですが街中、いえ、おそらくアインクラッド中で話題になっているものと思われます」

上条「で、どんなクエストなんだ?」

理科「ボス襲撃イベントクエスト、その名前の通りボスが街に襲来するというものなんですけど、それがとても大変なんですよ」

雪ノ下「大変? いったい何がなのかしら?」

幸村「ボスの襲撃条件というか、クエスト条件なのです。もし負けたならその階層そのものが一度リセットされる。つまり、一度クリア階層が一層分下がるのです」

由比ヶ浜「それってどこの階層の?」

理科「確か第52層だったはずです。決戦場所は主街区のランゲージという場所です」

星奈「第52層って今の最前線じゃない!!」

夜空「そしてもし負けたら一つ階層が下がる。つまり、もう一度第51層の迷宮区を攻略しなければならなくなるのか」

小鷹「勝利条件と敗北条件は?」

理科「まだ分からないんですけど、明日、攻略会議ならぬ緊急の防衛会議があるみたいです」

上条「詳細はそちらを参照ってことか」

 

 次の日。11月30日

 第52層主街区ランゲージ中心部大型ホールで緊急の防衛会議が行われた。

アスナ「みなさん。今回は急な呼びかけに集まってもらってありがとうございます。私は血盟騎士団副団長のアスナといいます。今回の議題はほかでもなく、現在話題になっているボス襲撃イベントの事です。このイベントに敗北した場合ここ第52層そのものが乗っ取られたことになり、攻略が1層分下がってしまいます。これに対応するため今回は他の攻略会議と異なって攻略組のみではなく、大ギルドや商人ギルドにも集まってもらいました」

比企谷「あいつってお偉い様になってたんだな」

美琴「ヒキガヤは知らなかったのね。血盟騎士団は今やアインクラッドトップのギルドよ? その中でも副団長なんて役職問えるぐらいの実力を持っているんだからアスナさんは結構有名だったりするんだけど」

ヒースクリフ「こんにちは諸君。私は血盟騎士団団長のヒースクリフだ。では、これから例のイベントクエストについて話し合っていこう」

上条「誰だ?」

夜空「ヒースクリフ団長だ。血盟騎士団のギルドマスターでアインクラッド最強の人物と呼ばれているらしい。それにしても人多いな」

ヒースクリフ「今回のボス襲撃イベントだが、先ほど情報屋がNPCからいくつかの情報を手に入れたと報告があった。アスナ君」

 話を振られたアスナは国会の議会の様に半円状に広がっているこの場の最も注目が集まる中央部の壇上に小さな瓶のような青い結晶体を置いてスイッチらしき丸い部分を押す。

 そして現れたのはホログラムで生成された巨大な地図だった。

アスナ「私たちの防衛場所はこの第52層主街区ランゲージ。つまりはこの場です。情報によればモンスターの軍勢は北からの襲撃になるそうです」

 アスナが指をその場で動かして目の前にある小さなホログラムの画面を操るのと連動して巨大な地図にいくつもの赤い光点や青い交点が表示される。

星奈「青が味方で赤がモンスターね」

雪ノ下「それにしても赤が随分と多いわね」

小鷹「百は軽く超えてないか?」

美琴「500ね。赤い光点の数は」

上条「500!?」

ヒースクリフ「諸君も突然の事すぎて信じられないと思う。だが、受け止めてほしい。このマップに示されているのは全てが事実だ」

夜空「つまり、敵の数は情報だと500体ということになるのか……」

ヒースクリフ「諸君らに強制はしない。これは今までで一番つらい戦闘となるだろう。よってこの戦闘に参加するかは君らの意思で決定してほしい。負ければたくさんの犠牲と階層が一つ下がってしまう」

アスナ「そして勝てばたくさんの報酬と第52層のクリアです。ボスは迷宮区から降りてきて街を襲撃する。つまり、今までの攻略とは逆の構図となります」


 一同は黙ってしまう。

 メリット、デメッリトが頭の中で交差する中、比企谷は随分と冷静だった。

比企谷(これは勝っても負けてもおそらく犠牲となる数は変わらない。より犠牲を少なく、かつ簡単に勝てる方法はなくはないが難しすぎる。これはいろいろと厳しいぞ)

由比ヶ浜「どうしたのヒッキー? なんか怖い顔してるよ?」

比企谷「あ、いや、何でもない……」

雪ノ下「由比ヶ浜さん。比企谷君の顔が怖いのはいつもよ。それを批判してあげるのは比企谷君の存在を否定しているようなものだわ」

由比ヶ浜「え、あ! そっか!! ごめんねヒッキー」

比企谷「雪ノ下お前俺を潰しにきてるだろ。由比ヶ浜を使うなんて随分と悪質だな」

雪ノ下「あなたが素直に潰れてくれたら由比ヶ浜さんも巻き込まなくて済むのだけれど」

比企谷「……そうですね」




 少年は拳を握りしめた。

 彼の頭の中にあるこの方法は成功するかは微妙な線だ。

 だが、最も犠牲が少なくて、傷つく奴もいない。

 だから、それが間違っているなんて、絶対に言わせない。

アスナ「結構残りましたね」

 血盟騎士団副団長のアスナは壇上から半円状にそれを取り囲んでいるたくさんの席に座るプレイヤーたちを見渡す。

 彼女はもっと逃げてしまうと、もっと戦う気がない奴らがいると思っていた。

 しかし、違った。

 そこにあるのは決意した意思を滲み出させる目つきをした数多のプレイヤーたち。

ヒースクリフ「この緊急事態にこれだけの人々が残ってくれたことを心から感謝しよう。アスナ君それでは取り仕切ってくれ」

 
アスナ「分かりました」

 残ったメンバーは攻略組のメンバーが300人前後。

 その他の大型ギルドや高位ギルド、商人ギルドの代表が合わせて56人。

 元から国会みたいに馬鹿でかかったこのホールの席数を考えるとおおよそ8割が残ったといえる。

アスナ「それでは作戦会議を始めます。ボスは合計5体。そのうちフィールド級ボスが4体。階層級ボス、つまりこの52層のボスが1体です。モンスター総数は500。ここまでで質問がある人は?」

 アスナの問いかけに一人だけ手を挙げた。

 その人物は金髪巨乳の美少女、星奈だ。

 既に容姿を隠すようなマントは来ておらず、軽い装備を身に着けている程度である。

星奈「敵のボスだけど名前とかわからない?」

アスナ「残念ながら名前までは……」

星奈「そう……」

 星奈は大人しく席に座る。

小鷹「どうしてボスの名前を聞いたんだ?」

星奈「簡単な話よ。ボスの名前から特徴だのなんだのを推測しようと思っただけ。今までのボスでもいたでしょ? そういうの」

小鷹「たしかにそれもそうだな」

 小鷹は星奈のその目を見てあることを今さらのように改めて悟る。

 星奈はちゃんと攻略に真剣に向き合っていると。

 そして、彼女のわがままのせいで隣人部のみんながこのゲームに巻き込まれてしまっていることに彼女は責任を感じているのだと。

理科「あーたしかにそんな感じのネーミング多かったですね。52層は私の担当ではなかったのですけど」

小鷹「知ったような口だな」

理科「言いませんでしたっけ? 私がこのゲームを持っていた理由を」

夜空「確か、このゲームの製作の手伝いをしていたんだったな。それでこのゲームを持っていたのではなかったか?」

幸村「あにき。この戦いは負けられません」

小鷹「?」

幸村「先ほど街で聞いた話なのですがもし負けた場合、その後も定期的にボス襲撃イベントが行われるとのことです」

小鷹「それって?」

美琴「つまりは下手すると今までクリアしてきた階層がどんどん乗っ取られて再攻略しなければいけなくなるってことよ」

 横に座っていた美琴が小鷹の疑問に解答を出す。

雪ノ下「それ以前に、この戦いで敗北すれば文字通り終わりよ。攻略組は現在で総数が500人。そのうちの半数以上である300人が参加して勝てないのならずっと一緒だわ」

比企谷「まあ、確かにな。それに数の有利性では奴らの方にある。あいつらはあくまでデータの集合体なんだから簡単に数を作れる」

比企谷(そしてプレイヤー側は1万人という制限がされていて今や6000人後半しかいない。HPがなくなれば復活することなく本当に死んでしまうんだ。これほど不利な条件は無理ゲーすぎる)

幸村「はい。そしてそれが最も問題だと私は思うのです」

理科「もともとプレイヤー側は少ない敵をパーティによる多人数で狩るという安全マージンの取り方をしていました。ですがヒキガヤさんやユキノさんの言う通り、今回は数の有利性でモンスター側が勝っていますから入念な準備が必要です」

小鷹(入念な準備もなにも明日決戦だぞ!? どうすんだ、これ!!)


 彼らの会話をよそにアスナがすらすらと話を決めていく。

 そしてついに、最後の議題となった。

アスナ「では、最後に配置についての案議に移りたいと思います。大体の配置決めはこちらが行わせていただきました」

 そういってホログラムの巨大マップがランゲージの全図になって大きく分けて8つの場所に青い交点が浮かび上がる。

アスナ「まず、血盟騎士団、軍の部隊が前衛に」

 地図上に現れている街の全図のもっとも北、北門のすぐそばの二つの光点がより強く光った。

 おそらくこれが血盟騎士団と軍の部隊なのだろう。

アスナ「次に中衛にさきほどの前衛部隊に属しない攻略組部隊A~F班とギルド連合部隊G~L班が中衛」

 今度は街の中心部よりほんの少し北に横線を引くように青い交点が四つ強く光る。

 アスナの指示により西からA・B・C、D・E・F、G・H・I、
J・K・Lと割り当てられていく。

 比企谷、小鷹、上条たちのギルド『WAFV』はE班とされた。

アスナ「最後にポーションや回復結晶を補充用に多く持っていける部隊として後衛に一般プレイヤー有志部隊M、Nを配置します」

 マップの一番南に光点が二つ光輝いた。

 これが補充用の有志部隊なのは確実だ。

アスナ「配置はこの通りです。反対、または意見を申し出るものは挙手を」

 誰も手を挙げることはなかった。

 つまりはこれで最後の議題も可決ということである。

アスナ「ではこれにて会議を終了します。明日の時間は午後10時30分。それまでに先ほどの位置に配置についてください」

 こうして会議は終了となり、張り詰めた空気はその重たさを保ったまま空気に乗って塵尻になっていく。


 12月31日午前1時

22層にあるギルド『WAFV』のギルドハウスで、こんな時間だというのにベランダで会話している人物たちがいた。


比企谷「まだ起きてたのか」

雪ノ下「誰?」

比企谷「隣の部屋やつもわからないのか」

雪ノ下「暗くてよく見えなかっただけよ。ところであなたは誰かしら?」

比企谷「おい! 今さっき暗くて見えなかっただけって言っただろ」

雪ノ下「冗談よ。で、何の用かしら」

比企谷「べつに、ただ星を見たくなっただけだ」

 比企谷は空を見上げる。

 目前で満面に輝いている星たちだが実際はただのデータだ。

 そこにあるのは空なんかではなく巨大な壁のような冷たい天井である。

比企谷「お前はさっさと寝ろよ。明日の戦いに影響されても困る」

雪ノ下「問題ないわ。それに明日は午後10時半のはずでしょう? まだ寝る時間ぐらいは有り余っているわ」

比企谷「そういう問題か? まあ、いい。で、お前はここで何してんだよ?」

雪ノ下「あなたと同じよ。星を見ていただけ。あと多少の考え事ね」

比企谷(考え事?)

雪ノ下「実を言ってしまうとね。私、怖いのよ。自分が死んでしまうのが。みんなが死んでしまうのが……」

比企谷「死ぬのが怖いなんて当たり前だろ。むしろ怖くない奴なんていない」

雪ノ下「そうね。でも、今さらなのだけれど、本当に不安に思ってしまうのよ。今までいくらか危険なことはあったけれど、本当に明日は、明日だけはその危険が死に結び付いてしまうのではないか、と」

比企谷(雪ノ下は第1層から状況を理解して、みんなを守るため、自分を守るために戦ってきた。だが、本当に理解はできていなかったのかもしれない。人間が理解できるのは本当に自分に起きた出来事だけだ。いきなりHPがなくなれば本当に死ぬといわれても、HPがギリギリになるまでは実感も理解もできない。だから、今さらになってこんな不安がっている。今まで死ぬ寸前まで追い込まれたことがない雪ノ下雪乃が明日の戦いに明確な不安を抱いている)

比企谷「なあ、雪ノ下」

雪ノ下「何かしら?」

比企谷「明日の戦い、単独行動はするな。ギルドのやつらとまとまっていろ」

雪ノ下「そんなのわかりきっていることよ。あなたこそみんなの足を引っ張らないようにすることね」

比企谷「余計なお世話だ。まあ、任せておけとは言えないが俺は世で言うビーター様だ。そう簡単にくたばる気はない」

雪ノ下「あら、そうかしら。それならいいのだけれど」

比企谷「そういうことだ。わかったなら早く寝ろ」

雪ノ下「眠気が湧いてこないからこうしているのよ。あなたこそ早く寝たらいいのではないかしらヒキネムリ君」

比企谷「だから変なあだ名つけるの止めてくれません? 何ですか、アレですか。俺はずっと寝ないといけないんですか」

雪ノ下「おやすみなさい。良い永眠を」

比企谷「さりげなく死の宣告をしてんじゃねえ」





比企谷「……」

雪ノ下「……」




比企谷「そんじゃ、俺もう寝るから」

雪ノ下「え、ええ。おやすみなさい」


比企谷は窓を開けて部屋に入ると同時にこう思う。

比企谷(あの雪ノ下でさえ恐怖におびえていた。おそらくほかのやつらも一緒だ。みんな明日の決戦に不安を抱えている。だが、この戦いは勝たなくてはならない。確実に。だから、例えギリギリでもこの方法は間違っていないのだろう)


今日はここまでです。

投下します

窓のないビル


アレイスター「どうかね。茅場君」

茅場「順調、とは言えない。彼らが合流したのはいいがやはり私が設定した計画、進路とまるで違う方向をいっている」

「おい、茅場。どういうことだ?」

茅場「生徒を呼ぶときみたいな声色で呼ぶのは止めてくれないかな」

「いいから説明したまへ。君が計画したのと異なる、とはどうゆう意味か」

茅場「そのままの意味だ。そもそも私はいまのSAOを創りだした覚えはない」

「というと?」

アレイスター「それは私が説明しよう。このSAOは確かに茅場君が作ったが、今の状況は作りだしていないということだ。何者かの手で意図的に作り出したといえよう」

茅場「私は確かに一度はデスゲームを企画しようと、チュートリアルの音声を録音したりしたが、私は実行に移さず、データそのものを改竄したはずだった」

アレイスター「当初の計画は私と茅場君の二人だけで、仮想世界における幻想殺しの特異点を調べるはずだった。が、何者かによってデスゲームが開催されてしまった。もちろんその『失われたはずのプログラム』を早期発見し、対策として君らの生徒や娘とその部活仲間、幻想殺しを投入したというわけだ」

「なるほどな。だが、一度乗りかかった船だ。茅場君には彼らの安全を第一に行動してもらおう」

「それが一番か……。君は現実に帰ってこれないのか?」

茅場「マスターアカウントであるもののプログラム自体が書きかわっているため、ログアウトもできなくなっている」

アレイスター「外部からの介入が一番有力な線だろう。そこら辺は私が調べるとしよう。茅場君はそのまま仮想世界で『彼ら』を守ってくれたまえ。君ら二人には少し捜索を手伝ってもらおうか」

12月31日10時30分・第52層ランゲージ


 ついにこの時がやってきた。

 ボス襲撃イベント。

 その名の通りその階層のボスが街を襲撃するというものである。

 第52層主街区ランゲージを中心とするこの戦いはある意味、アインクラッド最大の戦いといえる。

 参加する勢力はたったの二つだけ。

 モンスター側とプレイヤー側。

 どちらが勝つかはまだ誰も知る由ではなかった。



 中衛F班



雪ノ下「いやな空気ね」

理科「それはもう、そのイベントによって天候とかも変えられていますから」

星奈「ま、安心しなさい。この私がいる限りモンスター側に勝利なんてないんだから!!」

夜空「いや、私たち中衛にモンスターが進行してきた時点で我々の負けといってもおかしくないからな」

由比ヶ浜「というと?」

夜空「戦力的に前衛に集中しすぎている。この作戦は。軍と血盟騎士団が前衛に張っているということは攻略組の面子のほとんどが前衛にいるということだからな」

雪ノ下「そうね。中衛は班こそは四つあるのだけれど数は前衛より少ないくらいよ。前衛が崩れた時点で負けも同然だわ」

美琴「じゃあ私たちがここにいるのってあまり意味ないんじゃあ……」

星奈「あー。なんかテンション下がるわね」

雪ノ下「そこまで悲観的になることはないわ。むしろ前衛が崩れない限りはこちらが勝っているということなのだから」

幸村「みなさん。あにきを知りませんか? 何故か見かけないのですが……」

由比ヶ浜「あれ、そういえばヒッキーもいないよね? どこ行ったんだろう」

星奈「トイレとかじゃなくて?」

夜空「トイレなどこの世界にはないはずだ」

美琴「アイツもいないわね。どこ行ったのかしら? こんな重要な時に」


 美琴がそう言った瞬間に前方、街の北からとんでもない音が聞こえてきた。


 ドガーーーーンッッッズガガガガガガッッッ!!!!!!

 果たしてその音が開戦の音だと、街の城壁が崩落する音だと気付かなかったものなどいたのだろうか。

 ヒキガヤこと比企谷八幡はゆっくりと身をひそめるようにして街の外周部から北に向かっていた。

比企谷(こっからならモンスターの軍勢の後方に回り込めるはずだ。ボスは合計5体。そいつらを倒せばこの戦いはいち早く終了する。それも犠牲が少なくな。そして前衛の部隊の負担を少しでも軽減するために敵の部隊を北から東か西に流す。 あとは前衛部隊に頑張ってもらって俺がひきつけた敵は後方部隊も含んだ残存戦力で叩きのめす。それだけだ)

比企谷(これが俺の長年の苦労によって見い出せたスキル・ステルスヒッキー)

 彼はこんなことを思っているが実際はそんなスキルはなく、ただ単にスキル熟練度が高い隠蔽スキルである。

 プラスαで彼のもともとのプレイヤーとしての影の薄さが効いている感じだろうか。
   
 ドンッと何かとぶつかる音がした。

 

 
 もしプレイヤーなら比企谷が見えていなかったはずので仕方がないだろう。

小鷹「あ、悪い」


 だが生憎にもぶつかった者同士は知り合いだった。

比企谷「おまえ、なんでこんなところに……」

小鷹「お前こそ。なんでこんなとこにいるんだよ」

二人が言い合っているとさらに近くの通路からツンツン頭の少年が現れる。

上条「おいおい、コダカ。もうちょっと慎重に進めよ。って、なんでヒキガヤがここにいるんだ?」

比企谷「それはこっちのセリフだっつーの」

小鷹「俺たちは二人でモンスターの裏を取って早々にボスを倒そうと思ってたんだよ」

比企谷(なんだ。こいつらもさして変わらないのかよ)

上条「お前もか? 考えることはみんな一緒ってわけだな」

比企谷「さっきすごい音がしたからもう戦闘は始まってると思う」

小鷹「だな」

上条「ボスモンスターのところまではまだ結構あるかもな。音がまだ遠いし」

小鷹「はぁ。結局こうなるのか」

上条「慎重に。かつ素早く回り込むぞ。準備はいいな?」

比企谷「分かってる」

小鷹「索敵なら任せとけ。多分俺が一番スキル上がってるから」


 三人はいずれも案外似た者同士だったのかもしれない。

 こうして一人が三人に増えてボスのもとへ向かった。

アリス「まずは東西南のフィールドボスからね」

 金髪の少女も比企谷より高い熟練度の隠蔽スキルを使って駆けていく。


 中衛F班

星奈「ねえ? なんか戦闘音が少しずつ近づいてきてない?」

夜空「気のせいだろう。なんだ? やはり貴様の耳はイカれていたか」

星奈「そんなわけないでしょバカ夜空!! ねえ? 本当に? なんか近づいてきてない?」

夜空「だから気のせいだと……」

 ズガァァァンッッッ

夜空・星奈「「………………」」

雪ノ下「確認してみるわ。何よこれ……。もうすぐそこまで進軍してきているじゃない」

 雪ノ下が索敵スキルをかけると自分たちの周囲には既に赤い点、モンスターがすぐそこまで迫ってきていた。

由比ヶ浜「どうしようゆきのん? まだヒッキーとか来てないけど」

理科「小鷹先輩もメッセージ送っても返信来てません」

美琴「アイツもよ」

幸村「ユキノのあねご……」

雪ノ下「分かっているわ。まずは役割を果たすとことから。とにかくここを突破させるわけにはいかないのだし」

星奈「小鷹帰ってきてないの? もう、私探してくるわ!!」

夜空「待て肉!! 単独行動をするな。ユキノが言ったとおり今はここを守ることが重要だ」

星奈「何よ!! 夜空は小鷹のことが心配じゃないの!?」

夜空「私だって心配だ!! だが今はここを守らなくてはもっとたくさんの命がなくなる羽目になるのだぞ!!」

星奈「夜空……」

雪ノ下「まずは前衛の状況把握とここの死守。ある程度かたずいたら三人を探しに行く。それで構わないかしら?」

 一同は雪ノ下の提案にコクリと頷く。







 比企谷・上条・小鷹の三人は少しずつ北に向かう。

 場所としてはそう遠くないはずなのだが、どうも緊張のせいでひたすらに距離が遠く感じてしまう。

小鷹「大丈夫だ。まだモンスター側は俺たちの存在に気づいてない、と思う」

比企谷(えらく曖昧だな……)

上条「いっかい森の方に出て大きく回り込まないか?」

 上条の提案に二人は静かに頷いた。

 この街、ランゲージは森の中にある巨大都市のようで、周囲を囲む城壁の外に出たらすぐさま深い森というのが現状である。

比企谷(俺の一人でやる計画そのものをことごとく潰してくれたなこいつら。だけど一番素早く犠牲が少なく済む方法だ。こいつらだってそれをわかって来てる。だから、誰にもこの方法が間違っているなんて言えないはずだ。もちろん俺自身も)

三人は再びひそひそと走り始めた。


 ガギンッカンッキンッッッ




美琴「くっそー! 30分もたってないってのになんでこんな内側まで攻められてんのよ!!」

 そういいながらも両手剣を巧みに扱いモンスターを次々と撃破していく美琴。

星奈「たくっ!。前衛の男どもは何してるのよ!!」

 モンスターはおおよそ2メートルぐらいの大きさの人型、いわゆるゴブリンかオーガのような奴が多かった。

 が、もちろん例外もある。

夜空「なんだこいつら。スライム?」

 彼女らの目線の先には青色、緑色、赤色の三色に分かれた物体のような何かがいた。

 定番の小さなあのスライムよりかなり大きく全長は1メートル80センチほどもある。

由比ヶ浜「なんかいやな予感しかしないんですけど!?」

星奈「こんなのにビビってんじゃないわよ! せいッ―――!!」

 由比ヶ浜が後ずさるが星奈は負けずスライムに突撃、細剣ソードスキル、アクセル・スタブを撃ち込む。

 突三連撃のこのソードスキルは現在星奈が扱えるソードスキルの中でも上位ランクに位置するものだ。

 光のような速度で三連撃が撃ち込まれるが……。

理科「星奈先輩!! スライム系モンスターに突型の攻撃は無効ですよ!!」

星奈「へ?」

 その通りであった。

 スライムはその液状の体から刺すや突くは効果が薄い。

 むしろ反撃を食らってしまう引き金になりかねないのだ。

幸村「待っててください、星奈のあねご。この幸村が今……」

 幸村が刀を振るいスライムたちを蹴散らしていくが数が多い。

 あっという間に囲まれてしまう。

美琴「ちょっ!? なにこれ? 防具が溶けてる!?」

 お約束か何かの様にスライムから吹きかけられる体液と接触した場所は少しずつだが鉄の防具だろうが布だろうが確実に溶かしていた。

 そして……。

夜空「おい! 上を見ろ!!」

 夜空が叫ぶと同時に上空に何本もの矢が宙を舞う。

理科「やばいです!! 多分これ、防御力を低下させて遠距離攻撃で仕留めるってはらですよ!!」

幸村「スライムが張り付いて、うまく動けません……」

由比ヶ浜「どうしよう。このままじゃ……」

 しかし、そこに壁になるかのように雪ノ下が前方をふさぐ。

 確実に他のみんなと矢の軌道を読んで、曲線状にある矢の軌道上に、だ。

雪ノ下「私が迎撃するわ。ソラさん、スライムの方をお願いしてもいいかしら?」

夜空「あ、ああ。了解した」

 この場で動けるのはこの二人だけだった。

 ともに槍を武器としているので他の人たちに比べリーチが長く、スライムに接近される前に撃破できたからだ。

 雪ノ下は大きく息を吸って、吐く。

 目つきが変わる。

 誰よりも鋭く、獲物をしとめる猫のような凶暴な眼に。

雪ノ下「……ッ―――!!」

 矢の嵐が降り注いだ。

 雪ノ下はその中でも後ろのみんなに直撃しそうなものに狙いを定め、迎撃していく。

 ガンッキンッバキッギンッッッ

 雪ノ下の武器、レーヴァテインは槍の中でも長槍のカテゴリに属する。

 そしてそのランクは8。

 つまり、10が最高のこのランク制度の中でも上級に位置する優れものだ。

 北欧神話の中でもほとんど正体不明のこの武器はそもそもにおいて、槍とすら定義はされておらず、また、剣とも定義されていない。

 しかし、枝の破滅としての別名を持つスルトの剣と同一視されるこの武器はその名からとある属性付加がされている。



 炎。


 破滅という言葉から炎の意味合いを持つこの武器はアインクラッド内においても同様の力を発揮する。

 つまりはその槍で、木製の矢を迎撃するのなんて簡単な話なのだ。

 矢は一般の剣では弾かなくてはいけないが雪ノ下の場合は槍に触れた瞬間に矢が焼却、消滅する。

 上空から落ちてくる矢の数と速度は凄まじいものだが、雪ノ下の器量をもってさえすれば一本一本を容易に迎撃できた。

 合計100本以上の矢を全て軌道を予測し、その軌道上に槍の一部分を重ね合わせる。

理科「……すごい」

由比ヶ浜「ゆきのん……」



 バンッガンッガシッキンッボウッ


雪ノ下「せいっ!!」

 ガツンッシュッ


 最後の一本を消しずみに変えると雪ノ下はその場にぺたりと座り込んでしまう。

由比ヶ浜「大丈夫、ゆきのん!?」

雪ノ下「ええ、問題ないわ。少し疲れただけよ」

 由比ヶ浜が雪ノ下に駆け寄ると同時に白と赤を基調とした服を着た栗色の髪を持つ少女が屋根の上から一回転する余裕さえ見して飛び降りてくる。

美琴「アスナさん!!」

理科「どうしてここに?」

アスナ「よかった。みんな無事みたいね」

 アスナはほっと胸をなでおろした。

星奈「アスナ。何でここに?」

アスナ「セナ。そうね。今はどうこう言っている場合ではないものね」

夜空「?」

アスナ「NPCの情報に齟齬があったの。北から500の軍勢っていう情報を得ていたんだけどそれは大きな間違いで。本当は東西南の三方向からそれぞれ100ずつ。北から200っていう配置だったのよモンスター側は」

星奈「なんですって!? それじゃあここまで一気に進軍されてるのは」

アスナ「ええ。おそらくどこか一角、いいえ。ほとんどすべての防衛線が突破されているわ」

幸村「そんな……。あにきたちもまだ帰ってきていないというのに」

アスナ「どういうこと?」

美琴「開始直前くらいからあいつらが、と、トウマとヒキガヤとコダカの三人が見当たらないんです」

アスナ「!?」

雪ノ下「あの三人だから逃げたとかいうのははあり得ないはずよ。比企谷君を除いて」

アスナ「ともかく私は後方の支援に向かうわ。みんなはここで防衛をお願い。三人を見つけたらメッセージを送るから」

由比ヶ浜「ありがとうございます」

アスナ「あなたたちも気をつけてね」

 アスナは最後に「キリトくんも探さないと」と小声でいって走って行ってしまう。

夜空「そういえばスライムは私が撃破したからいいとして矢の方はなんで追撃が来ないのだ?」

幸村「先ほど数人の影があちらの路地で走っていくのが見えました。おそらく別部隊の方が倒してくれたのかと」

星奈「ともかく。私たちはここを守らないと。中心部のタウンホールを潰されたらおしまいなのよね?」

雪ノ下「そのはずよ。そして一番そこに近い位置にいるのはおそらく私たち」

由比ヶ浜「そっか。じゃあここが突破されたらそのままタウンホールに? ……それってダメじゃん!!」

理科「そういえばこれっていつまで守ってればいいんです?」

雪ノ下「あなた話を聞いてなかったのかしら? 年明け。つまり、ピッタリ12時までよ」

星奈「あと一時間半以上!?」

夜空「なんだ肉。その程度でねを上げるのか?」

星奈「は、はぁ!? この程度で疲れるわけないじゃない。むしろ余裕よ!!」

夜空「そうか。だがそのお粗末で下品な胸は邪魔そうだな。よし、私が斬り落としてやる」

美琴・雪ノ下「胸……」

由比ヶ浜「ちょっとみなさん!! あんまりふざけあってる場合じゃないと思うんですけど!?」

 由比ヶ浜の声に彼女らは周囲を見渡す。

 屋根の上からも、狭い路地からも全ての位置から囲まれていた。

星奈「上等じゃない。バカ夜空!! どっちが多く倒せるか勝負よ!!」

夜空「いいだろう。望むところだ!!」

雪ノ下「ユキムラさん。リカさん。あなたたちで男3人を探しに行ってくれないかしら?」

幸村「ここは大丈夫なのでしょうか?」

雪ノ下「問題ないわ。それよりあなたたちの方が気を付けて頂戴。おそらくあの三人は北の方に向かっているはずよ」

由比ヶ浜「何でわかるの?」

雪ノ下「多分あの人たちのことだからボスをさっさと倒してしまえば勝利、なんて甘いことを考えてそうじゃないかしら?」

由比ヶ浜「あ、なんかありそう」

雪ノ下「とにかく二人にお願いするわ。見つけたらメッセージを送ってちょうだい」

理科「分かりました。この理科にお任せください」

幸村「理科さまの護衛をするのですね。この幸村。誠心誠意お守りさせていただきます」


 二人は一度雪ノ下たちの後ろから路地を使ってモンスターたちを避けるように迂回し北に向かった。

美琴「さて、じゃあ私たちはこっちを片づけるとしますか!!」

雪ノ下「そうね。生憎とここですべて一匹残らずモンスターたちを駆逐してあげるわ」

由比ヶ浜「なんかゆきのんの目が怖い!? よーし、私もがんばるぞ!!」

星奈「見てなさい。世界が憧れるこの私の力を見せつけてやるわ!!」

夜空「その程度で世界を語るとは、自惚れるなよこの肉ふぜいが!!」


 少女たちは再び武器を手にし、半溶した防具でありながらもモンスターたちを駆逐していく。


 北部モンスター軍後方

上条「あれか? あの宝箱に足生えたみたいなやつ」

小鷹「ザ・ミミック・オブ・ギミック。フィールド級ボスの一体だな」

比企谷「索敵スキルか?」

小鷹「ああ。でも相当スキル上げしてないと強い敵は情報が出ない。ま、俺もそこそこは上げてるしな」

比企谷(自慢ですか。そうですか)

上条「どうする? しかけるか?」

小鷹「あの足を集中攻撃だ。宝箱の部分は多分防御力が高い」

比企谷「そんなこともわかるのか」

小鷹「いや、ただのカンだ」

比企谷「さいですか……」

上条「それしかあてがないんだしいいだろ。それにぐずぐずしてると防衛線が突破されちまう」

比企谷「防衛戦が突破される前提なのか」

上条「経験からきた推測、か? 数で互角、そしたら作戦勝ちできる、なんていうのは甘い考えだ。いつの時代でも武力だけで勝つっていうのはそう珍しくない」

小鷹「だけど今回は相手さんの作戦でも武力でも勝ちみたいだな」

上条・比企谷「?」

 二人の視線の先で小鷹がウィンドウを操作していた。

小鷹「理科とか幸村がメッセを飛ばしてくれててな。さっき気づいてみてみたんだけど、どうもモンスター側は東西南北に分かれていたらしい。東西南にそれぞれ100ずつ。北に200らしい」

上条「数が少なくなってるのは好都合だな。東西南北でフィールド級ボスが1体ずつ。階層級ボスはここよりさらに北にいるってことか?」

比企谷「おい。もう攻撃始めちまうぞ」

小鷹「うまくあいつ一体だけをこっちに誘い込めないか? 取り巻きがいるときつい」

比企谷「やるだけやってみるが期待はするなよ」

 そういって比企谷は腰のポーチについている携帯用の小型アイスピックを一本抜きとる。

 指に挟んで飛ばせるタイプの針の湯に細長いアイスピックだがこれでも小型のモンスターには結構なダメージを与えることができる。

比企谷「ふっ―――ッ!!」

 比企谷はひじを曲げて振りかぶる姿勢をとると投擲スキルを発動させ音速にも迫る勢いで小さな針を投げる。

 グギャァァァァァァァ

 幸いなことにか比較的防御力の低い足に当たってくれたためすごい勢いでこちらに走ってきてくれた。

 そう。

 他の取り巻きのモンスターを置いて。

上条「お前スゴイな。あの距離から当てるのかよ」

比企谷「暇なときに的当てしてただけだ。結構的高かったけどな」

小鷹「そんなのんきに話してる場合か!! あいつかなり足速いぞ。蟹足だから横歩きだけと思ってたら普通に前向いて走ってくるし!!」

比企谷「ここらへんでいいんじゃないのか?」

上条「振り返ったら素早く周囲に散開だ。攻撃パターンがわかるまでは回避優先で!」

小鷹「分かってる!!」

 三人は勢いよく止まるとそれを追っていたギミックも急ブレーキをかけて滑るように止まる。

比企谷(足は八本。できれば一本ずつ切り取って動けなくなったところに総攻撃がいいが、一本一本潰してる時間がないな。さっき言ったコダカの話が本当なら街内は混戦状態のはずだ。この後に階層級ボスもいることを考えると10分以内ぐらいにはかたづけたい。12時までタウンホールを防衛できる見込みもないしな)

上条「行くぞ!!」

小鷹「おう!!」

比企谷「お、おう」

 三人は地面を強く蹴り飛ばす。周囲三方向からの突撃。

 ギミックは宝箱のようになっている巨大な口を開けるとまずは小鷹に向かって大きくジャンプし、上空から覆いかぶさるように捕食にかかる。

小鷹「なにっ!?」

上条「させるかァァァァァァァ!!」

 ドンッと低く鈍い原始的な音がした。

 上条が体術スキルを発動し真横からギミックに殴り込んだのである。

 空中をジャンプしてとんでいたギミックはバランスを崩して地面に落下。

 追撃をするように比企谷が短剣によって斬りかかる。

 ソードスキル、インフィニットを発動し、比企谷はギミックの直径1メートルぐらいある巨大な足の一本を五芒星を描くように5連撃をくらわせる。

 グギャァァァァァァァ!!

 ギミックは雄叫びのような機械音のような変な声をあげると巨大な口、宝箱の中から毒霧のような緑色のしぶきを噴射した。

上条「あ!!」

 その攻撃に対して上条は思わず右手を前にかざしてしまう。

 現実の時の防御行動がいまだに染みついているのだ。

小鷹「トウマ!!」

比企谷「くっ!!」

小鷹「ヒキガヤ!!」

 小鷹以外の二人が毒霧に直撃してしまう。

 ダメージこそは小さいが毒効果の付加によって継続的なダメージと体の反応が鈍くなるという厄介なハンデを背負ってしまう。

小鷹「なっ!!」

 そして、先ほど置いてけぼりになっていたギミックの取り巻きの人型モンスターであるゴブリンが数十体という規模で小鷹たちを取り囲むように現れた。

小鷹「囲まれた!?」

上条「すまん。ちゃんと避けれていれば」

アリス「さてはて、そんな簡単にあきらめてよいのですか。みなさん」

 一人の女性の声がした。

上条「だれだ?」

比企谷「俺が知るか」


 金髪に青い瞳を持った少女。

 その長い髪は後ろで束ねてあり長いおおきな三つ編みのようになっていて、その先端近くには大きめのリボンがついていた。

 青と空色を基調にしたロングスカートとマント。

 黄金に輝くいかにも騎士な鎧。
 
 小鷹や上条、比企谷はその少女のことは知らなくても、その隣に並んでいる人物達には見覚えが、いいや、見慣れているほどの顔ぶれがあった。

小鷹「星奈! 夜空! 理科に幸村!!」

上条「御坂まで、なんで……」

比企谷「由比ヶ浜……雪ノ下。お前ら防衛はどうしたんだよ」

雪ノ下「血盟騎士団と軍が中心になって体制は整ったから私たちがいなくても問題ないはずよ」

星奈「ってことで私たちはボスを潰しに来たってわけ」

夜空「他の班もいくつかの部隊に分かれて後方から一気に他の方角のボスをたたくように回り込んでいるはずだ」

美琴「だから私たちはバカみたいにたった3人で特攻を決め込んだバカどもの尻拭いに来たってこと」

小鷹「それでもこんな早く見つかるか普通?」

由比ヶ浜「リカさんとユキムラさんに探してくるように頼んでおいたらすぐさま見つかったって報告が来たんだよ。で、どうしてそんなに早く見つかったの? ってきいてみたら……」

理科「いやーびっくりしましたよ。フレンド登録してたら後をつけることも可能なんですよねこれが」

上条「?」

幸村「どうやらフレンド登録してある人物の足跡を追うことができる機能があったらしく、それを使ってあにきたちを追いかけてきました」

比企谷(それってプライバシー保護とかにひっかかりません?)

アリス「というわけで通りすがりの私が彼女たちに手助けしてここにきているわけです」

 グガァァァァァァァァァァァァァァァ!!

 そんな長話が終るのを待っていてくれたのかいまさらのようにギミックとゴブリンが小鷹たちに襲い掛かる。

アリス「そこでじっとしていなさい!!」

 アリスがそういった瞬間。

 ゴブリンたちの顔面を胸を、ギミックの八本の足を切り裂くように、音速並みの速度で剣や槍、大きければ戦斧までもが文字通り飛んでくる。

 グギャァァァァァァァ!! 

 ギミックの悲鳴にもにた雄叫びが聞こえる。

 降り注いだ謎の剣や槍によりゴブリンの大半はHPが全損して消滅。

 ギミックは八本の足全てが斬り落とされており、口を閉じ宝箱の状態で守りの態勢に入っている。

美琴「たくっ。ほら、解毒結晶」

 美琴が投げてきた二つのクリスタルを使って比企谷と上条は毒状態を解除し、回復ポーションをありったけのんでHPをフル回復させる。

アリス「いまならダメージは低くても総攻撃でどうにかできますが」

雪ノ下「了解したわ。全員突撃よ!!」

由比ヶ浜「おりゃぁぁぁぁぁ!!」

星奈「はああああぁぁぁぁぁぁ!!」

夜空「死ね!! 肉!!」

星奈「うっさい! 黙れバカアホクソ虫夜空ぁぁぁぁぁ!!」

理科「セェェェェェェェェェェェイ!!」

幸村「はっ!!」

 ガンッキンッバキッギンッガンッドンッキンッッッ―――

 キュルルルルルル

 全員の全身全霊をかけた総攻撃によってギミックのHPが明確な0へと変わった。

 バリンッという破砕音とともに各自の目の前に報酬ウィンドウが現れる。

上条「はあ。危なかった」

美琴「ほんとよ!! 3人で突っ込むとか何考えてんのよ!!」

上条「すまん……」

比企谷「で、そちらの人は?」

アリス「紹介が遅れましたね。私はアリス。通りすがりの騎士とでも言いましょうか」

比企谷(眩しい。眩しい)

理科「私と幸村君が小鷹先輩たちの後を追っていたら出会いまして」

幸村「わたくしたちがあにきたちを探しているというと快く協力してくれました」

比企谷「なるほどな。で、お前、何が目的だ?」

アリス「そんな睨まないでください。私はただ手助けにきただけなので」

比企谷「そりゃどうも。だがさっきのは何だ? あんなスキル見たことないぞ」

雪ノ下「そうね。私たちにも説明していただけると助かるわ」

アリス「スキルを教えるのは少々癪ですが、まああなたたちなら信用に足ると思うので良いでしょう。ただし、一つだけ条件を出させていただきます」

上条「条件?」

アリス「はい。私とフレンド登録してください」

星奈「まあ、それなら別にかまわないけど」

小鷹「そんなんでいいのか?」

アリス「お気になさらず。これで完了っと」

比企谷「で、さっきのは?」

アリス「これはエクストラスキル、サウザントというものです。スロットに登録した武具を高速射出するというものですね。登録されている武具が強力なほど攻撃力も上がります。ただし、一つ撃てば一つスロットが空になってしまうので弾代がアレですけど」

小鷹「すげーな、そりゃあ。それって他にもいるのか? そのスキル持っているやつ」

アリス「おそらく私一人だけでしょうね。いうなればユニークスキルというやつです」

星奈「いいなー。ねぇ、そのスキル私に譲らない!?」

理科「そんな機能は備わっていないはずだと思いますけど……」

夜空「ふむ。さっき連射していたがいくつまで撃てるんだ?」

アリス「スロット数は150ですね。だから一発ずつなら最大連射数は150ということになります。ただし展開数は合計30ですので同時撃ちなら5回が限界です。まあ、弾丸一発のみの拳銃が150個あると考えていいかと」

上条「なるほどなぁ。ん?」

 上条は何かに気づく。

 ドンッドンッドンッと太鼓の様に野太い足音が聞こえてくる。

 それも少しずつ近づいてきているのだ。

 そして、外周部からモンスターたちの後ろをまわったはずの彼らのさらに後ろから四本の腕の多椀型の巨大なモンスターが出現する。

 グギャガァァァァァァァァァァァァァァァァァ

美琴「なッ?」

上条「階層級ボス!?」

雪ノ下「なぜここに!?」

アリス「一度後退しましょう。ここで前進してきたということは街の方も大体の敵を潰せているはずです」

 彼らは全力で走り出す。

 南に向かって。

星奈「街に誘き寄せて他の班と一緒に倒すってこと?」

アリス「できれば、ですけどね」

理科「この先の路地を使いましょう。あの巨体ならこっちに地の利が回ってくるはずです」

夜空「理科の言うとおりだな。正直森の中じゃ木も障害物にすらなってくれない」

上条「小鷹、索敵で情報探れないか?」

小鷹「走ってる最中で、んな器用なことできるか!!」


 ボスの大きさはおおよそ4メートルの巨体に戦斧と片手剣を合わせたような武器。

 彼らは街の中に逃げ込みそれぞれコミュニケーションがとれる程度に散らばって路地に身をひそめる。

比企谷「どうだ。相手の情報少しはわかるか?」

小鷹「大体はでもちょっと時間がかかるかもだな」

アリス「私が時間を稼ぎます。皆さんはそれぞれ援護してください」

 別の路地にいた他のメンバーにメッセージを送る。

 それぞれアリスのメッセージを受けて大体のことは分かっているはずだ。

アリス「ふっ!!」

 アリスは大きく路地から飛び出し、大きめの通りにいるボスに真正面から攻撃を与えようとする。

アリス「今度は本気で行かせてもらいます!!」

 アリスの周囲に黄金の空間が歪んだ波紋のようなものが現れる。

 そしてそこから現れたのは数々の武具。

 展開された合計は17。

 足止めである以上一気に撃ち尽くすのは避けたいのだ。

 アリスが手を縦に振り攻撃の合図を出す。

 そして、展開された武具はそれにこたえるかのように音速でボスに突っ込んでいく。

 ガインッバシッガンッゴンッッッ

 しかし、合計7発余りの剣や槍は全てボスの体に当たると同時に粉々に砕け散るかそこらに弾かれてしまう。

 ボスには傷一つなく、HPも一切減っていない。

小鷹「わかった!! あいつの名前はフェイタルロード・アンビシウス。えっと、特性はランク6以下の武器による攻撃をすべて無効、ってチートかよ!!」

アリス「なるほど。そういうことですか。それならランク1、2が大半のこの攻撃じゃ効かないというわけですね。なら……」

 アリスが言い終えると展開していた黄金の波紋が一度消えて再び展開する。

 そしてそこから飛び出たのは黄金の槍。

 ボスはその攻撃を先ほどとは違い、四本腕のうちの一本が持っていた大剣で弾き飛ばした。

 大剣は腕一本一本に持っているため合計四本存在していた。 

アリス「私のスロットに登録してあるランク7以上の武器は合計15。これは私も分が悪いですね」

 グガアァァァァァァァ

 ボスが雄叫びをあげた瞬間、その懐に一つの影が入り込む。

星奈「こっち無視してんじゃないわよ!!」

 細剣カテゴリ上級ソードスキル、ペネトレイト。

 神速の三連撃がボスの巨体に直撃する。
 
理科「ダメです!! 星奈先輩!!」

星奈「なっ!?」

 その直前。

 何が起きたのかは理解できなかったが。

 目の前で起きたことをはっきりというのなら。

 ボスは後ろに体をのけ反らして上に向けての星奈の攻撃を躱した。

 たったそれだけだった。

 グルガァァァァァァァァァァァァァァ

小鷹「アイツ‼」

上条「おい!! 飛び出るな!!」

 ソードスキルを外してスキルディレイを受けている星奈を助けるために飛び出た小鷹を呼び止めるために飛び出た上条という不本意な形でボスの目の前に出て行ってしまう。

美琴「あんの、バカども!!」

 そして別の路地で待機していた美琴が飛び出て今にも上条達を攻撃しようとしていたボスの大剣を両手剣で防ぐ。

 しかし、美琴の使用している両手剣、アンフィニエクディキスは一般的な両手剣と違って刀身が極端に細い。

 ランクは9でボスにダメージを与えることはできるものの四本同時の大剣による攻撃は防ぎきれるはずがなかった。

美琴「がはっ!!」

 大剣の重さに負けて、美琴は吹き飛ばされてしまい、壁に体を強く打ちつけてしまう。

小鷹「ミコト!?」

上条「セナ!! 一度下がってろ!!」

星奈「え、わかった」

比企谷「雪ノ下、ソラ。お前らのリーチであの大剣に勝てるか?」

雪ノ下「無理ね。リーチは勝てても重さが違いすぎるわ」

夜空「同感だ。攻撃すれば逆に弾かれてこっちの武器が潰されてしまうかもしれないな」

比企谷「いや、リーチが長い。それだけ分かれば十分だ」

比企谷(この路地の狭さじゃあの巨体はさすがに入ってこれない。大剣ならギリギリ入るんだろうがリーチが長い二人の槍ならこっちは無傷でダメージを与えられる。周りが茶々入れさえしなければヘイトも任意の方向に向けたままで入れるはずだ)

比企谷「いいか。二人はここにいて槍がギリギリ届く位置まで下がってろ。ボスがこの目の前に来たら一気に攻撃しろ。そうすれば簡単に終わるはずだ」

雪ノ下「なるほど。そういうことね」

夜空「わかった」

比企谷(ホントおまえら理解力早くて助かるよ。あとは俺がこっちまで誘導できるかだな)

比企谷「おい、えっと……、アリシア!!」

アリス「アリスです!!」

比企谷「いいからこっちの路地までそいつを引き寄せろ」

比企谷(今一番ヘイト値が高いのはコイツのはずだ。誘導させるにはこっちの方がいいはず)

 比企谷の指示を聞いてアリスはサウザントによる遠距離攻撃を仕掛けつつ後退していく。

 だが……

 グルガァァァァァァァァァァァァァァ

 ボスはアリスに向かって突進し始めた。

比企谷(こいつ。俺たちの狙いがわかっているのか!?)

アリス「くっ!!」

 引きつけるどころかアリスはそのまま突進を食らって押し流されてしまう。

雪ノ下「ここにいても意味がなくなってしまったわね。ソラさん。私たちも行くわよ!!」

夜空「わかっている」

小鷹「幸村!! 屋根の上から一撃、入れられるか?」

幸村「お任せください。あにき」

 幸村は家の屋根の上に上るとそこから一気にソードスキル旋車による上段撃ち下しをボスの体にめがけて行う。

 だが、これが多椀型の最大の強みだというかのように、ボスは一本の腕が持っている大剣を逆手にもって背中に回し、ちょうど幸村の斬ろうとした位置をカバーするように大剣で防御する。

幸村「くっ……」

上条「アリス!! 大丈夫か!?」

アリス「心配は無用です」

 その時。

 ボスの腹部に巨大な槍が突き刺さる。

 勢い余って貫通するほどの威力で。

雪ノ下「生憎と槍は投げることもできるのよ」

比企谷(今の投擲見たらむしろ投げるのが正しいように見えるよ?)

由比ヶ浜「すごい!! ボスのHPが一気に減ってる!!」

 今の一撃だけでボスのHPは一気に2割減っていた。

 もちろん5本あるHPバーの最初の一本目だが。

夜空「うかうかするな! 反撃を食らうぞ!!」

美琴「こんのォォォォォォォォォ!!」

 ボスが再び動き出そうとしたのを見た美琴がボスの足を両手剣を思いっきり振って切り裂こうとする。

 もちろんそう簡単にやられるわけがない。

 ボスは大きくジャンプしてその一撃を躱す。

上条「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 ボスが着地した直後に上条が右手で殴り込もうとした。

 今までと同じ、一撃で敵を仕留める渾身の一撃。

 さらにそれにシステムアシストが乗った攻撃。

 ボスの体に吸い込まれたそれは、ある意味では大戦を止めてしまうほどの一撃だった。

 現実世界であれば。

 ゴスンッと、鈍い音がした。

上条「なっ!?」

 ボスの体にめり込んでいる上条の拳。

 しかし、その腕は同時に、四本の剛腕に掴まれていた。

上条「ぐあああああぁぁぁぁぁぁ!?」

 ボスは上条を持ち上げると、砲丸投げのようにくるくると回って、水平方向に勢いよく投げる。

 そして、自らの巨体に刺さっている雪ノ下の槍、レーヴァテインをその怪力で持って体から抜き、雪ノ下にお返しといわんばかりに投擲する。

由比ヶ浜「ゆきのん!!」

 ゴウッッッと空気を切り裂く音が鳴り、雪ノ下にむかってレーヴァテインが勢いよく向かってくる。

 が、雪ノ下は体を横にそらし、それを難なく躱した。

 そして自分を通り過ぎようとしている槍をつかみ取る。

比企谷(あいつ。この世界だったら無敵じゃね?)

理科「あ、みなさん避けてください!!」

 雪ノ下、由比ヶ浜、比企谷、夜空の真上からボスの大剣が降ってきた。

 おそらくジャンプした時に空高く投げたのであろう。

 彼らはギリギリその攻撃を回避する。

小鷹「誰かスイッチ頼む!!」

 小鷹はボスの一撃と自分のソードスキルを打ち合わせる。

 ボスの怯んだところに誰か攻撃してくれないかと思ったのだが……

星奈・夜空「「任せて(任せろ)」」

 ドシンッ

 二人同時に突っ込んでこられると連携も何もない。

星奈「ちょっと夜空!! アンタは突っ込んでこないでよ!」

夜空「貴様こそ何のつもりだ!! 自分がいて邪魔になると分からんのか!!」

星奈「そんなことないわよ!! この私よ!? アインクラッドでもトップレベルのこの私が邪魔になるなんて……」

夜空「何を言っている。貴様はさっきバカ正直に突っ込んでやられそうになっていたではないか。現に今だって足を引っ張っている!!」

星奈「うぐっ……!? でも今回はあんたが突っ込んでこなければよかったんでしょうが!!」

 
 ぐぬぬぬぬ、といってにらみ合っている二人だがもう周りのメンバーも止める気はないらしい。

 ボスの相手だけで手いっぱいなのだ。

美琴「コダカ!! 一回下がって!!」

小鷹「お、おう!!」

雪ノ下「比企谷君なんかいい案ないかしら? このままだとらちがあかないわ」

比企谷「そう言われても困る」

比企谷(実際こっちが手を討ったところで意味はなさそうだしな。剛腕、破壊力、手数、街さえも壁になってくれなさそうなチート属性に加えて、人間のように思考する……人間のように?)

比企谷「そういうことか」

雪ノ下「どうかしたのかしら比企谷君?」

比企谷「いや、ちょっとな。全員一回撤退しろ。こいつを街の外までおびき出す」

由比ヶ浜「な、なんで!? せっかく街の中までこっちが誘たのに。ついにヒッキーが壊れちゃった!?」

比企谷「誰が壊れてるだって? いいから外までおびき出すぞ。北じゃなくて東の門の外まで」

星奈「どうしたのよ急に?」

夜空「仕方がない。よくわからんがしたがってやろう」

理科「確かにここにいても意味はないですしね」

小鷹(ヒキガヤは何も意味のないことをするような奴じゃない。ここはアイツを信じるしかないな)

幸村「あにきが従うのであればわたくしもお供させていただきます」

上条「御坂!!」

美琴「わかってるわよ。たくっ、しょうがないわね」

雪ノ下「ユキムラ君、リカさん。側面から回り込んで頂戴。敵の視点をそっちに向けさせて私が正面からさらに追い打ちをかけるわ」

アリス「仕方がありませんフルで私のサウザントを撃ちまくってあげます」

 比企谷の指示に従ってボスに攻撃を加えてはヘイトを稼ぎ、それを交互にしあって誰か一人に攻撃が集中しないようにし、ボスを東の門まで誘導する。

 そして門をこえて森の中まで。

由比ヶ浜「って、たくさんモンスターがいるじゃん!!」

雪ノ下「こっちの部隊の方はまだ街で戦っているのね。だからこんなに森の方にモンスターがいるんだと思うわ」

上条「で、どうするんだヒキガヤ? ここまで誘ったが森の中だと最初と変わらないぞ」

比企谷「ああ、そのままでいい。特に何も変更なしだ」

美琴「はぁ!? 何言って……」

 美琴は敵のモンスターと鍔迫り合いをしながら比企谷の方へ叫んだ。

星奈「ちょ、ミコト危ない!!」

美琴「しまっ!?」

 美琴の側面からボスの大剣が襲い掛かる。

 しかし。

 あたることはなかった。

 ボスは美琴に当たる直前で大剣を止め、ジャンプして距離をとる。

理科「どういうことでしょうか?」

夜空「なるほど。ヒキガヤが何を狙っていたのかわかったぞ」

小鷹「どういうことだ?」

比企谷「簡単な話だろ。ボスは人間の様に思考するタイプ。つまりAIをつんでる可能性が高い。だから俺らの狙いに気づいて突っ込んでいったり、雪ノ下の投擲を真似して投げ返したんだ。んで、人間の思考を持っているってことは比較的、人間に近いってことだろ。お前だったら味方ごと大剣で敵を切り裂く自信はあるか?」

雪ノ下「敵の味方を利用した壁ってことね」

比企谷「ああ。どんな時も一番邪魔になるのは味方だろ? ソースは俺」

美琴「そんな自慢して言われても……」

上条「ソース? なんかかけられたのか?」

理科「かけられた!? ヒキガヤさん誰にかけられたんですか? トウマさんですか? まさか、小鷹先輩ですか!?」

比企谷(どうしたんだこいつ?)

雪ノ下「それはsauceね。sourceは源泉とか源って意味よ」

比企谷「俺たちは敵を簡単に斬れる。けど、敵は味方ごと斬るなんてことはできない。これ以上にないハンデを手に入れたってわけだ」

 ボスは攻撃を仕掛けるが味方が邪魔をする。

 上条達は攻撃を加え、反撃に出ようとしたボスに対して他のモンスターを壁に使う。

幸村「せあっ!!」

理科「ハッ!!」

星奈「せいっ!!」

夜空「おい肉!! 私の邪魔をするな!!」

星奈「だから、アンタが邪魔なのよこのバカ狐!!」

小鷹「だから、お前らはこんな時まで喧嘩をするなぁ!!」

美琴「スイッチ!!」

上条「了解!!」

由比ヶ浜「うわ!?」

雪ノ下「由比ヶ浜さん。周りのモンスターにも気を付けて頂戴。敵であることは変わらないんだから」

由比ヶ浜「ご、ごめん。ゆきのん」

 グルガァァァァァァァァァァァァァァ!!

 ボスが雄叫びを上げた。

アリス「残りHPバーあと一本!!」

 アリスがサウザントの残弾をすべて展開し、射出する。

 多くは弾かれるが、その弾幕の中に混ぜた本名、ランク7以上の武器がボスの体に突き刺さっていく。

 グシャァッガンッゴグシャァァァッ

上条「残り三割!!」

理科「今ならチャンスです!!」

星奈「一気に行くわよ!!」

 キンッガシュッガンッドンッバキッッッ

 現実ではありえないような原始的な音が鳴り響く。

雪ノ下「―――ッ!!」

 雪ノ下は槍を投擲した。

 全くさきほどと同じ攻撃だが今のボスにその攻撃を避けるほどの体力は残っていなかった。

 グシャァァァァァァッ

 レーヴァテインの先端が貫通すると同時にボスのHPバーが明確なゼロになり、ボスの巨体がフリーズする。

 バリンッ

 そして砕け散った。

 キラキラと光るそれはとても美しかった。

今日はここまでです。

アリスのユニークスキル、サウザントはソードアートオンライン・ロストソングのレインのOSS・サウザントレインとFATEにでてくるギルさんを基とさせていただきました。

また、ボスはバーサーカーの能力を基とさせていただいています。

ちょっとだけ投下

上条「で、なんで御坂たちはそんな服でなんだ?」

 今さらのように上条が言う。

 ずっと気になってはいたが、スライムと戦った時から防具を変えている時間はなかった。

 つまり……

美琴「うぎゃあああああああああああああああああ?!」

上条「おふぶっ!?」

 容赦なく鉄拳が振るわれる。

雪ノ下「あら、比企谷君。あまりこっちを見ないでくれるかしら? 私まで腐った目の種族になりそうで怖いわ」

比企谷「そんな種族はないだろ。それより、ボスドロップ、ラストアタックボーナスは出なかったのか?」

雪ノ下「残念ながら小判という名の使えそうにない金貨と変なマントだけね。私のこのみではないし、あなたにあげるわ。このマント」

比企谷「そりゃどうも」

 雪ノ下はトレードウィンドウを表示すると比企谷に先ほどドロップした黒いローブのようなマントのようなものをプレゼントする。

夜空「ん? 肉はどこへ行った?」

小鷹「そこらへんの岩の影で着替えてんじゃないか?」

理科「それよりヒキガヤさん。さっきのかけられたとは果たしてどういう……」

小鷹「お前はそこから離れてくれ。頼むから……」

雪ノ下「はぁ。もうここにいても仕方ないわ。移動しましょう」

比企谷「俺もう家帰っていいよな」

雪ノ下「何を言っているのかしら。残りのモンスターを掃討するでしょう?」

比企谷「いや、俺いなくても問題ないだろ」

雪ノ下「あなたは必要不可欠な存在よ。主に私にとって」

比企谷(え? どうしたの雪ノ下さん? なんか気持ち悪いぞ)

比企谷「おまえ、なんか変なもの食ったのか?」

雪ノ下「何を言っているのかしら? あなたがいた方が私は断然やる気が出るわ。本当よ」

由比ヶ浜「うわ!! なんか着替え終わったから来てみたらなんかゆきのんがおかしくなってる!?」
 
雪ノ下「酷いわ由比ヶ浜さん。私はいたって普通よ。強いてあげるなら、今はスゴイ気分がいいわ」

上条「なんか、もう別人じゃないか?」

幸村「どうしたのでしょうか? ユキノのあねご」

星奈「なんか、変なもの食べたんじゃないのかしら?」

夜空「貴様じゃないのだからそんなわけがあるか。肉とユキノを一緒にするな」

小鷹「だから喧嘩腰は止めろよ。で、どうしたんだユキノは?」

理科「あー。多分これは酔っちゃってますね」

美琴「酔った、て、どうして?」

理科「多分これかと……」

上条「ポーション?」

理科「に見えるのですが、実はこれ……」

 理科がそっと手に持った瓶のふたを開ける。

 そこから匂ってきたのは…………

小鷹「うわっ!? 酒臭いなこれ」

夜空「これは確実に酒だな。ユキノはこれを飲んだということか?」

理科「はい。先ほど私がユキノさんにポーションと間違って渡してしまったんです」

比企谷「それで今の状況か」

雪ノ下「比企谷君。早くモンスターを狩りに行きましょう」

比企谷「待て待て待て。なぜ俺一人なんだ?」

雪ノ下「じゃあ、金ぴかさんも一緒に?」

アリス「金ぴか!?」

雪ノ下「いいじゃない、八幡。いっしょに行きましょ」

比企谷(顔赤いな。つか、近い近い)

雪ノ下「八幡ー」

比企谷「抱き付いてくるな。マジでお前誰だ状態だから。俺の頭の処理能力が限界迎えてきているから!!」

上条「御坂」

美琴「……なによ」

 上条は美琴の方へ向き直ると頭を撫でる。

美琴「ふにゃふにゃー」

上条「似てるな」

美琴「何がだー!?」

星奈「それっていつまで効くの?」

理科「これですか? 単にお酒飲んでるのと同じ感覚になるだけなので個人によって差が出ると思いますよ」

小鷹「ユキノは酒に弱いんだな。戦場でこんな状態になるとか……」

夜空「これはもう、ヒキガヤとユキノを二人っきりにした方がいいかもしれないな」

比企谷「どっからその思考が出てきた」

比企谷(こんな雪ノ下相手だと俺のメンタルがいろいろとやばい。主に精神衛生上の問題で)

雪ノ下「ひkにはtmん」

上条「もう言葉の原型がないな」

小鷹「もういっそのことヒキガヤとユキノは帰ったらどうだ?」

美琴「そのとおりね」

比企谷「はぶられてる感があるが俺も帰りたかったし、まあ、ついでがてら連れてく」

幸村「ヒキガヤのあにき。これを」

 幸村は比企谷に青色のクリスタルを渡す。

比企谷「流石の俺でも転移結晶持ってるぞ? むしろたくさん」

幸村「ユキノのあねごの分です。どうぞ使ってください」

比企谷(あ、そういうこと)

夜空「私たちは街に入って残りのモンスターの始末だ」

アリス「ここは三方向に分かれた方がいいんじゃないでしょうか?」

星奈「そうね。じゃあ……」

夜空「私と小鷹が北門、トウマとミコトが東門、ガハマと理科と幸村で南門だ」

星奈「ちょっとバカ夜空!! この私はどこ行けばいいのよ!!」

夜空「ここで待機でもしていろ」

星奈「はぁぁぁぁぁ!!!!!!? ここにもうモンスターはいないんだから私いても仕方ないでしょうが!!」

夜空「だからここにいろといっているのだ。正直貴様がいると邪魔になる」

星奈「誰が邪魔よ!!」

夜空「そうだな。主にその胸部についている肉が邪魔だな」


 そんな二人の喧嘩はやはりスルーされ、少し離れたところで上条達が話し合う。

上条「俺とユキムラは東門、多分一番近い北門はアリスとコダカ 御坂とガハマとリカは南門。これでいいか?」

小鷹「分かった」

美琴「戦闘終了後に転移門前集合で」

幸村「皆さんおきをつけて」

理科「頑張っていきましょう!!」

由比ヶ浜「おーーー!!」

 二人を置いて残りのメンバーは各々の方角へと向かう。

 一方、比企谷と雪ノ下は第22層の自分たちの家に帰ってきていた。

「みゃー」

 猫のお出迎えを受けて自分ちのような気分に陥るも現実を認識し、リビングのソファに雪ノ下をねかす。

 比企谷もゆっくりと反対ののソファに腰掛ける。

比企谷(本当に、なんでこんなことになっているんだろうな)

 自分が現実に残してきたもの。

 思い出とまではいかないが、それでも比企谷自身にだって守りたかったもの、無くしたくないものがあった。

 それらを一瞬ですべて手放してしまう可能性があるこのデスゲーム。

 果たしていつ終わるのだろうか、と。

 いつも、いつまでも、この仮想世界が終焉を迎えるまで、比企谷の頭の中でうずめきまくのだった。




一月一日 6時

 戦闘が終了したのは戦闘開始一時間後の一一時だった。

 敵を殲滅し、ボス襲撃イベントを切り抜けたものの犠牲者は約80人。

 そのほとんどが有志による補給部隊の人々だった。

 そして、結果。情報屋による新聞記事の表紙を飾るのは機能の出来事ばかり。


『NPCの情報に齟齬が!? 有志部隊壊滅、死者合計80人以上!! さらに、5体のボス中、階層級ボスとフィールド級ボスを倒したのは無名のギルド!? 血盟騎士団団長の判断により、情報齟齬に早急に対応。しかし軍、信用ガタ落ち』


比企谷「結局カウントダウンも何もなしだったのかよ」

 ソファに座って新聞を読んでいた比企谷が呟く。

由比ヶ浜「仕方ないよ。あれだけのことがあったんだもん。みんな、祝うなんてできないよ」

雪ノ下「そうね。私も寝ていまっていたのだし」

比企谷「そうだ。お前は寝ていた。それ以外はなにもなかったうん。それでいい」

雪ノ下「なぜ、そんな言い方なのかしら。私のことを洗脳するつもり? 気色悪いわね、変態谷君」

比企谷「いい加減人の名前覚えてくれません?」

美琴「うっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

比企谷(え、なに? 俺なんかした?)

 いきなりの美琴の雄叫びに思わず比企谷はビクッと肩を震わす。

小鷹「ど、どうしたんだ?」

美琴「フフフっ。聞いて驚きなさい!! はい、ドーン!!」

 美琴はウィンドウを操作して『あるもの』をオブジェクト化した。

夜空・上条「肉?」

比企谷(……今の二人の言葉にかなりの誤差があるのは気のせいだろうか)

理科「どうしたんです、これ?」

雪ノ下「それにしても……、随分とテンションが高いわね」

美琴「さっき、他の層の森で狩りをしていたんですけど、そこで運よくこの食材を手に入れることができました!!」

由比ヶ浜「えーと、なになに?」

 由比ヶ浜がオブジェクト化された肉をタッチして情報を確認する。

由比ヶ浜「ラグー・ラビットの肉?」

雪ノ下「由比ヶ浜さん。それは本当かしら?」

由比ヶ浜「え、あ、うん」

 由比ヶ浜と同じ動作を行い、情報を確認する。

雪ノ下「ミコトさん。これ、S級食材ではなかったかしら?」

幸村「あにき。S級食材とは何でしょうか?」

小鷹「俺もよくわからん」

夜空「S級食材か。これは随分とすごいのを持ってきたな」

星奈「すごいものなの?」

理科「皆さん知らないんですか!? 1年間もこの世界にいたら普通知ってると思うんですけど?」

雪ノ下「S級食材はこのゲームの中で最も価値の高い食材の事よ。味のおいしさもかなりのものらしいわ」

美琴「そしてさらに!! はい、ドーン!!」

 美琴はさらにオブジェクトをその場に出現させる。

理科「これはヒドゥンバイソンの肉ですか!?」

夜空「これもS級食材だな」

星奈「ってことはこのお肉もおいしいの?」

雪ノ下「見事にお肉系のS級食材が揃ったわね」

由比ヶ浜「ミコトちゃん!! これ、一緒にお料理しようよ!!」

美琴「もちろんです!!」

 二人はガシッと強く握手を交わす。

上条「なんで御坂はあんなにテンション高いんだ?」

比企谷「まぁ、この世界の食事のおいしさなんてある程度知れているしな。自分らで作った方が自由性は高くて面白いんだろ」

小鷹「そんなもんなのか?」

雪ノ下「ミコトさん。もし、食材が余るようなら私にも少し料理させてもらえないかしら」

美琴「わかりました。夜空さんたちはどうです?」

星奈「え、いいの!?」

由比ヶ浜「みんなでやった方が楽しいと思うよ!!」

星奈「そ、そうね。その方が楽しいもんね。いいわ! この私もやってやろうじゃない!!」

夜空「それならば私も参加させてもらおう」

理科「もちろん私もです!!」

幸村「わたくしもやってみたいですね。料理……」

比企谷「お前らって料理スキル上げてたか?」

美琴「私はそこそこあげたし、スキル持っている人が手伝ってあげれば基本問題ないんじゃない?」

上条「じゃあ俺たちも何かつく……」

星奈「何言ってんのよ。アンタたちは味見役に決まってるじゃない」

小鷹「味見?」

星奈「そうよ。大抵はそうなんじゃないの?」

比企谷(いったい何を基準に大抵って言っているんだろうか……)

小鷹「どうする? トウマ、ヒキガヤ」

比企谷「いいんじゃねぇの。俺はあんま動きたくないし」

雪ノ下「将来が心配ね」

比企谷「休めるときに休むのは基本だろうが。はい、ここ重要。テストに出るからね」

由比ヶ浜「え!! そうなの!?」

上条「いやいや冗談だから。多分……」

由比ヶ浜「なんか最後の一言で心配になってきたし!?」

小鷹「いや……どう考えてもテストには出ないだろ」




雪ノ下「では、さっそく料理に移りましょうか」

美琴「で、結局、男どもに判定してもらうことになったんでしょ?」

理科「そうですね。3人には一人あたり、10点満点中何点か得点を付けてもらいます」

幸村「ということは、合計で30点満点ということでしょうか?」

夜空「まぁ、そうなるな」

星奈「いいわね、それ。もちろん優勝はこの私できまりね!!」

由比ヶ浜「ムッ、私だって負けないし!!」

 こうして美琴がS級食材を手に入れたのを理由に、女子全員+幸村で料理を作ることになった。

今日はここまでです

幸村って女じゃなかった?

>>207
すいません間違えました。幸村の認識がいつの間にか逆転していました。



では、投下します。

 しばらく経って。


理科「はいっ!! ではまず一番。雪ノ下さんの料理です!!」

小鷹「何で実況してるんだ?」

上条「ノリみたいなものだろ」

比企谷(雪ノ下の料理なら安心できそうだが、ゲームと現実は違うからな)

雪ノ下「無難にラグーラビットのガーリックステーキとヒドゥンバイソンのコールドローストビーフよ」

小鷹「どっちもうまそうだな」

上条「じゃあ、さっそくいただきます。うまいなこれ!!」モグモグ
比企谷「……」モグモグ

雪ノ下「どうかしら? 比企谷君」

比企谷(そこでなぜ俺に聞く)

比企谷「まあ、ふつうにうまいな」

雪ノ下「そう……。良かったわ」

比企谷(良かったのか悪かったのか。雪ノ下が現実と同じスペックだと由比ヶ浜がどうなるのか怖いな……)

小鷹「なんかもう、これだけで十分な気が……」モグモグ

理科「では採点を!!」

上条「8点」

小鷹「8点」

比企谷「9点」

理科「おお、これはいきなり高得点です!!」

雪ノ下「まあまあってところかしら」

理科「ハイ!! じゃあ次の人です!!」

美琴「ロース肉のハーブ焼きよ。まあ常盤台で習った程度のものだけど」

上条「お、次は御坂の料理なのか」

小鷹「常盤台ってどっかで聞いたことがあるような……」

比企谷「うむ」モグモグ

上条「俺もいただきます」パクッ゙

小鷹「いただきます」パクッ

比企谷「あれだな。どっかの一流料理店の料理を複製したら本家よりうまくなっちゃった感じのやつ」

小鷹「ああ。本家も涙目のあの感じだな」

美琴「あの感じってどういう感じよ……」

上条「さすが御坂だな。インデックスもこれぐらい自分で料理できてくれたらいいんだけどなぁ」

理科「では採点結果は!?」

上条「8点」

小鷹「8点」

比企谷「8点」

理科「またしても高得点ですねー。早くも高レベルバトルです!!」

美琴「これは高評価でいいのかしら? なんか自分にコメント貰っている気がしないんだけど……」

理科「はい。では次の方!!」

星奈「ふふふっ。この私の料理よ! 心して食べるといいわ!!」

小鷹「次は星奈か。これはシチューか?」

比企谷(何人分とってきたんだよ。ミコトのやつ)

上条「なんか、あれだな。みんなまともな料理が出てきて上条さんは安心ですよ」

星奈「まあ、料理スキルがあれば現実で料理できない人も簡単にできちゃうもの」

星奈「で、どう? 小鷹」
 
小鷹「おお、うまい!! 本当においしいぞ!!」

星奈「そ、そう。ま、私の作る料理だし。当然ね!!」

比企谷「レベル高いな」

比企谷(前半三人がこの具合だと、後ろのやつらは結構評価が厳しくなるかもな)

上条「どうしたヒキガヤ?」

比企谷「いや、何でもない」

理科「はいは~い。では採点です!!」

上条「8点」

小鷹「9点」

比企谷「7点」

星奈「ちょ、7点ってどういうことよヒキガヤ!?」

比企谷「これ、野菜が少ないからな。バランスの問題だ」

星奈「なっ!?」

理科「では次いきますよ」

夜空「次は私だな。煮込みハンバーグを作ってみた」

小鷹「おお。これもうまそうだな」

上条「ウサギとバイソンの肉でハンバーグ作れるんだな」

比企谷「……」モグモグ

小鷹「……」モグモグ

上条「おお、うまいな」モグモグ 

小鷹「ここまで西洋料理が多かったからな。なんかこれぞ和風て感じがする」

比企谷「これはご飯が欲しくなってくるな」

夜空「どうだ小鷹! 私の方が肉のよりもうまかっただろう?」

星奈「はあ!? 私の方がおいしかったに決まってるでしょうが!!」

小鷹「いや、まだ判定の時間じゃないから!!」

理科「では判定に移ります」

上条「8点」

小鷹「9点」

比企谷「ハンバーグの横にブロッコリーとかにんじんとかポテトフライがなかったので7点」

夜空「くっ、肉と同点か……ッ」

星奈「ヒキガヤは野菜のバランスも見てるのね」

理科「ではでは次の人」

幸村「あにき……」

小鷹「幸村の料理か」

上条「おお、うまそう」

比企谷「ステーキ……でいいんだよな? これ」

幸村「はい。和風ソースをかけてお召し上がりください」

小鷹「これはまたうまいな」モグモグ

上条「このソースがサッパリ感を出してていいな」モグモグ

比企谷「この和風ソースは何で作ってるんだ?」モグモグ

幸村「大根おろし、大葉、醤油、お酢、酒、みりん、そして砂糖を使っています」

小鷹「この世界にそんなに調味料があるのか?」

幸村「いえ、それに似た風味、味をしたものを使用しているのです」

雪ノ下「私たちも同じよ。調味料は全てリカさんが用意してくれたものを使っているわ」

上条「どうやって作ったんだ? この世界でそんな現実のような味の調味料をたくさん揃ることはできないだろ?」

理科「フフフッ。私も何分戦いばかりではつまらなかったので、この世界が作り出した味覚エンジンをすべて解析し、調味料を自家合成したのです!!」

理科「コホンッ。それでは採点結果に移りましょうか」

上条「8点」

小鷹「10点」

比企谷「8点」

理科「おお!! またしても高得点です!!」

幸村「お粗末様でした」

理科「ではラスト2番です!!」

由比ヶ浜「ひ、ヒッキー……」

比企谷「ん? どうしたんだ?」 

由比ヶ浜「それが……」

 由比ヶ浜が丼のようなものを並べる。

 男三人は上にかぶせられている蓋を取り中を見てみると。

上条「これは……」

小鷹「えっと……」

比企谷(これは果たして牛丼なのか豚丼なのか。いや、それよりも……)

 ご飯の上にのっているベッチャリとしたものは何なのか。

由比ヶ浜「牛丼作ろうと思ったんだけど、水の量間違えちゃって」

小鷹「なるほど。肉に味をつけるために煮込んでたら水の量が多すぎてべっちゃりと……」

上条「これはこれでゲームでしか再現不能な料理だな……」

由比ヶ浜「うう、ごめん……」

比企谷(やっぱりこうなったか)

由比ヶ浜「ヒッキー。その、無理して食べなくてもいいよ。おいしくないと思うし……」

 目尻に涙を浮かべる由比ヶ浜。

比企谷「はぁ」

 そこで比企谷は一息し、そして。

 丼を持って一気にご飯も上にのったベッチャリしたものを口の中にかきこむ。

由比ヶ浜「ヒッキー……」

 空になった丼をテーブルに置き、口の中にあるものをすべて飲み込んでから、言う。

比企谷「その、なんだ。頑張れば、男ならいけなくもない」

由比ヶ浜「やっぱりコメントが微妙!?」

上条「男なら……」

小鷹「いけなくもない……」

 二人がそうつぶやいたのを聞いて比企谷はにやりと笑う。

 そして。

 上条と小鷹も、比企谷と同じように料理を口の中にかきこむ。

上条「そう、だな。男なら、いけるな、これは」

小鷹「むしろ、う、うまいだろ」

 明らかに無理しているの見え見えだった。

由比ヶ浜「二人まで……」

理科「では採点行きますよ!!」

上条「10点」

小鷹「10点」

比企谷「10点」

理科「ここにきてついに30点満点です!!」

比企谷「これで要所は乗り越えたはずだ」

小鷹「ああ、これ以上のものはもう無理だしな」

上条「こっから先は安全地帯だよな?」

理科「ではラスト。この私の料理です!!」

 その料理を見て。

 三人は愕然とした。

上条「」

小鷹「」

比企谷「」

 ご飯ではない、皿にのっている白いドロリとしたもの。

 あまりの異様さに、三人のみにならず、周りの女性陣までもが言葉を失う。

理科「さあさあ、お召し上がりください! ちなみに食べるときは三人で食べさせあいながらでないとだめですよ。味覚エンジンが与える味の全てを解析し、どれをどう調合したらどのようなものができるか知り尽くしている私の最高傑作ですよ!!フフフフフフフッ」

上条「0点」

小鷹「0点」

比企谷「0点」

理科「なッ、まだ三人とも食べてないですよね!? ていうか星奈先輩、夜空先輩、腕掴まないでください!!」

夜空「少しばかり説教しなくてはな」

星奈「どんなものができるか期待していたけど、私たちの戦いを汚さないでちょうだい!!」

小鷹(やっぱり理科は理科なんだな……)

上条「それじゃあ結果優勝はガハマでいいのか?」

比企谷「ま、そうだろうな」

雪ノ下「おめでとう。由比ヶ浜さん」

美琴「まあ、あれを見せられたらね」

幸村「さすがです。ガハマ殿」

由比ヶ浜「あ、ありがとー。でもいいのかな? 私よりすごい料理みんな作ってたし」

小鷹「もう全員優勝でいいだろ」

上条「そもそも優劣をつけようとするから悪いんだろ。みんなおいしかった。それでいいんじゃないのか?」

美琴「じゃあ、みんなの料理を作った全員で食べましょうか」

雪ノ下「そうね。私もみんなが作った料理の味に興味があるわ」

由比ヶ浜「あ、私もゆきのんの食べてみたい!!」

幸村「ではわたくしはまず、夜空のあねごの煮込みハンバーグからいただきます」

 そこに夜空と星奈、理科が戻ってくる。

理科「うう、すいませんでした」

小鷹「三人早く来て食べたらどうだ? こんな食材もう手に入らないかもしれないんだろ?」

上条「これで一件落着だな」

 全員でテーブルに並んだ料理を食べ始める。

美琴「セナさんの料理もおいしいですね」

星奈「ミコトのもとてもおいしいわよ」

夜空「おい理科!! それは私の分だ!!」

理科「何を言っているんですか!! こういうのは早い者勝ちなんですよ!!」

由比ヶ浜「ゆきのんおやっぱおいしいね!!」

雪ノ下「そうかしら? そこまででもないと思うのだけれど」
 
 その微笑ましい光景をソファに座ってみていた比企谷に。

 ピロリンと、メッセージが届く。

 そのメッセージ見てみると。

比企谷「アリスってやつからか。どうしたんだ?」

今日はここまでです。

おつ

白いドロッとしたヤツはヨーグルトですか?

>>217
そうですね。ヨーグルトと信じたいですね。


 しばらくも経たないうちに黄金の鎧をまとわず、普通の一般的な日常用の服装のアリスが『WAFV』のギルドハウスに来ていた。

理科「それにしてもアリスさんも私たちのギルドハウス知っていたんですね」

アリス「いえ、ヒキガヤさんに教えてもらってきました」

美琴「で、どうしたの? もしかして何かあった?」

アリス「いえ、単に遊びに来たかっただけです。それよりも……」

 アリスはテーブルの方を、正確にはその上に並ぶものを見て目をキラキラさせた。

アリス「あれは何ですか? もしかして今日は誰かの特別な人とかだったんでしょうか?」

上条「あ、ああ。あれは御坂がS級食材がドロップしたって言ったからみんなで料理作ろうぜって話になって、結果的に完成した数々だ」

夜空「まあ、色とか形とかいろいろ気になるものもあるが気にしないでいてくれると助かるな」

星奈「あれ、アリスちゃん!! アリスちゃんも一緒に食べない? とってもおいしいわよ!!」

小鷹「アリスにはやけに優しいな」

星奈「当たり前じゃない。世界には二つの種類の女の子しかいないのよ。一つはこの私と仲良くできる子。もう一つはこの私と仲良くできない子。持ちろんアリスちゃんは前者の方よ」

幸村「椅子をもう一つ持ってまいりました」

アリス「いいんでしょうか?」

美琴「いいんじゃない? 厚意は受っとっておくものだし、どうせならアリスちゃんもなんか作ってみる? 少しだけだけどまだ食材も残ってるわ」

アリス「それでは少しだけ……。S級食材を調理するのがどのようなものか経験させてもらうとします」

 アリスと美琴が厨房に向かう。

 しばらくすると二人は戻って来て、お皿をテーブルに置いた。  

雪ノ下「これは……」

 あまりのその美しさにその場にいるアリス以外の全員が息をのむ。

理科「アリスさん。料理スキルいくつですか?」

アリス「既にコンプリート済みなんですが……」

美琴「コンプリート!? いや、確かにさっき見てた時の手際はすごかったけど」

星奈「コンプリートってどれぐらいなの?」

小鷹「熟練度1000でコンプリートだな。俺らでもまだ片手剣スキルは800ぐらいだから」

星奈「せ、1000!?」

比企谷「いただきます」

上条「うむ」モグモグ

小鷹「いただきます」モグモグ

アリス「どうでしょう」

比企谷「熟練度にちなんで1000点」

上条「1000点」

小鷹「1000点」

由比ヶ浜「圧倒的大差で負けた!?」

理科「この理科が料理で3000点差で負けるなんてッッッ!!」

夜空「いや、理科は論外だろ」

星奈「さすがに0点はね……」

幸村「……」

理科「そんな悲しい眼で理科を見ないでください!!」

 結果、優勝は飛び込み参戦のアリスとなった。

アリス「あ、すいません。メッセ入りました。戻りますね」

 嵐のように彼女は去っていく。

比企谷「ん? またメッセージが来たか」

上条「あ、俺にも来たな」

小鷹「あ、俺もだ」

1月2日第53層迷宮区前フィールド


比企谷「で、呼ばれたから来てみたものの、なんなんだこれ……?」

 比企谷たちギルド『WAFV』は53層のフィールドに来ていた。

 理由はアスナからのヒースクリフの伝言メールである。

『諸君らギルド「WAFV」の活躍はこちらも耳にしている。突然ですまないのだが明日、第53層のフィールドに来てほしい。我々だけではどうにも突破できない壁があるのでその攻略に参加してほしいのだ』

 どうにもこうにも『絶対来いよ‼』という文に見えてしまうのは比企谷だけなのだろうか。

上条「それにしても人がいっぱいいるなー」

御坂「これ、攻略組の主要面子がほとんど集まってるんじゃないの?」

理科「あれじゃないですか? あの人だかり」

 彼らは遺跡のような建築物の門の前にある人だかりに向かう。

夜空「おい。どうしたのだ? 何かあったのかアリス?」

アリス「ああ。皆さん来てたのですか」

比企谷(いや、ほとんど来いって感じだったろ…………)

アリス「どうもこの扉があかないようなんですよ。攻略組の人たちにもそれらしきアイテムで試してもらっているんですが、ご覧のとおりです」

星奈「なんかヒントとかないの? 暗号みたいなの」

幸村「それさえあれば、確かに糸口だけでもつかまりそうですね」

雪ノ下「そこの石版じゃないかしら」

 雪ノ下が指をさした方向を見ると、扉の横に石板があった。

 どうやら何かしらの文字が書いてある、のだが。

小鷹「これ何語だよ……」

星奈「英語じゃないわね。ていうか地球上にこんな言語あったかしら?」

由比ヶ浜「もしかして未知の文字!? それってダメじゃん!!」

比企谷「落ち着け由比ヶ浜。これが日本で発売したゲームである以上、日本人が解読できないようには作っていないはずだろ」

由比ヶ浜「でも全く読めないし……」

美琴「フランス語、イタリア語、ドイツ語、イギリス英語、アメリカ英語、韓国語、中国語、ロシア語……私が知っている言語を掛け合わせてみても全く分からないわね」

上条「インデックスならこういうの専門なんだろうけど、ここにはいないしな」

理科「理科もさっぱりです。古代ローマ文字とかギリシャ文字とかの分類なのでしょうか?」

比企谷「雪ノ下は分からないのか?」

雪ノ下「なぜ私に尋ねたのかは知らないけれど、残念ながらこんな文字は見たこともないわ」

由比ヶ浜「ゆきのんでもダメか―」

 あまりの高難易度さに肩を下げる。

 星奈、美琴、雪ノ下がお手上げとなるともはやこれは誰にも読めないのではないだろうか。

アリス「暗号なら大丈夫ですよ。もう解読してありますので」

一同「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」

アリス「おそらく地球上の歴史に存在しない、架空文字でしょうね。それでもある程度は理解できます。ベースは神話。それも北欧、ギリシャ、クトゥルフ、ケルト……。クエスト生成の際に集めた資料からルーンや記号を解析してこの文字を作ったのでしょう。神話の合成文字って感じでしょうか」

上条「話が難しすぎて全く理解できないんだけど。御坂は?」

美琴「私の脳もさすがに悲鳴を上げてるわよ。そもそも存在しない文字とか、そりゃ解読できるはずないわよ」

夜空「それ以前になぜアリスはそんなことを知っている?」

アリス「なんというか、私も少なからずこのゲームの根幹にかかわっているので」

雪ノ下「アリスさんの話はひとまず置いておきましょう。それで、一体なんて書いてあったのかしら?」

アリス『この扉は王の扉である。入りたくば、王への供物として、胸に大きな文様を持つケット・シーと金貨を捧げよ』

比企谷「『金貨』?」

雪ノ下「もしかしてこれの事かしら?」

 雪ノ下はウィンドウを操作し一昨日の戦闘で階層級ボスからドロップしたアイテムの一つ、『金貨』をオブジェクト化する。

小鷹「この文の金貨っていうのがユキノのそれだとして、『胸に大きな文様を持つケット・シー』って何だ?」

上条「そもそもケット・シーって?」

夜空「神話や伝説に出てくる妖精だな。確か……」

理科「猫ですよ!! ケット・シーって言うのは猫妖精の事です!!」

幸村「となると、胸に大きな文様を持つ猫を捧げるということでしょうか?」

由比ヶ浜「胸に大きな紋章を持つ猫かー。そんな猫いるのかな?」

比企谷「いや、案外近くにいるかもしれないぞ」

由比ヶ浜「?」

比企谷「今現在はいないが、だが俺らは毎日のように会っている」

美琴「そっか!! もしかしてあの猫ね」

 彼らは自分らのギルドホームでお留守番をしているであろう猫を思い浮かべる。

 よくじゃれあっていた美琴はその胸に大きな文様があったのを覚えているし、世話係として比企谷も接していたため、その胸に文様が描かれていることに気づけた。

 どうも雪ノ下の方は気づいていなかったらしいが。

雪ノ下「じゃあ、あの猫を供物に捧げるってことになるということ?」

比企谷「まあ、そうなるな」

雪ノ下「……………」

幸村「気を落とさないでください。ユキノのあねご」

小鷹「そういえば理科と夜空はこんな人多いところ大丈夫なのか?」

夜空「大丈夫なわけないだろう。だが、慣れっというものもあるし、彼らが非現実的な服装を着ているから何とか耐えられているのだ」

理科「堪えていると言ってもあてはまるかもしれませんね」

星奈「で、結局は今私たちの家にいる猫を連れてくればいいってこと?」

上条「そうなるのか?」

美琴「まあ、仕方ないわよね……」

 猫好きの雪ノ下と美琴は肩を落とすしかなかった。

 この扉を開けるには胸に大きな文様を持つ猫が必要なわけであり、その猫が自分たちのペットであったわけで、この石板に『供物』と書かれている以上、その猫が帰ってくる保証はどこにもない。

幸村「それではわたくしが猫を連れてまいるので、しばしの間お待ちください」

 そういうと幸村はさっさと街の転移門へと向かう。


 しばらく経って。

 幸村が帰ってきた。

幸村「連れてまいりました」

理科「それでどうするんです?」

アリス「そこの台座にのせてください」

 アリスに言われた通りに、『金貨』と『胸に大きな文様を持つん猫』を扉の近くの台座にのせる。


 その瞬間、台座が光り輝き、猫と金貨が消滅した。

 そして、ギギギッと重い音を立てて扉が開かれる。

雪ノ下「どうやら開いたようね……」

小鷹「これで攻略が進められるな」

 開いた扉から遺跡の中に次々と攻略組のプレイヤーたちが入っていく。

由比ヶ浜「どうするの? このまま私たちもダンジョン攻略に参加する?」

夜空「私はできればパスしたい。流石に辛くなってきた……」

理科「理科もです。長い間この人ごみにいるのはやっぱりまだ無理っぽかったですし」

小鷹「これはいいかい戻った方がよさそうだな」

上条「俺はまだ残って何体かモンスターを倒してから帰るよ。少しレベルも上げねえとだし」

美琴「私もそうするわ。こっちで情報をいくつか拾っておきたいし。みんなは先に戻っていてちょうだい」

雪ノ下「……わかったわ。それじゃあ戻りましょう」

比企谷「……そうだな」

今日アここまでです

間違えました。今日はここまでです。

 2024年1月15日

 隣人部活動記録

 ついにデスゲームが開始されて、二年目になる。

 現在の最前線は53層。

 1年半前のあの日からすれば、かなりの進歩だった。

 だが、ゲーム開始から半年近く経って落ち着いてきていたはずの死亡率がここに来て再度上がり始めた。

 理由は簡単。モンスターの強力さが増してきたのだ。

 当初、このゲームで死なないためには、ある程度の戦闘のコツと何時でも回復できるようにポーションや転移結晶を持つことになっていたはず。

 しかし、最近ではそのスタイルではモンスターに勝てなくなってきている。

 初期よりはるかにHP総量が上がった今では結晶や最初より高価なポーションを使わないとある程度回復できないし、それらが高価である以上、数も安定しない。

 ましてや武器なんてものはいつしかから『モンスターに対抗できるだけの装備がいい』から『あいつの装備には負けたくない』という意欲まで出てきてしまい、見栄えを気にしてステータスを考えなくなってしまっている傾向がある。

 そして、ゲーム開始初期では最も死亡率を下げるために有効な転移結晶にも少しずつ欠陥が生まれてきていた。

 いわゆる結晶無効化エリアである。

 そのエリア内においてあらゆる結晶アイテムを使用不可にされるので、もちろん転移結晶も使えなくなった。

 その結晶無効化エリアが最近では少しずつ増えているようである。


 今日はその結晶無効化エリアで行われる、第53層ボス攻略だ。

夜空「確認するぞ。今回は初の結晶無効化エリアでのボス戦だ。これまでと違って転移結晶も回復結晶も使用できない。小鷹。ボスの名前は覚えているな?」

小鷹「ん? あ、ああ。確か、ザ・グラフィックス・ビーだろ? 蜂みたいなのって言っていなかったけか?」

夜空「そうだ。そのでかい蜂だが、どうにもその尻にある針の攻撃を受けると毒状態になるらしくてな。解毒結晶を使えない私たちからすると致死性のものだ。気をつけてくれ」

星奈「ちょっと!! なんであんたがリーダーみたいになってるのよ!!」

夜空「なんだ。なら貴様がリーダーを務めるのか?」

星奈「へ? あ、は。そ、そうよ!! 私だってリーダーぐらい務められるわ!!」

小鷹(実際どうなるのだろうか)

幸村「それではミコト殿がテンペストの一撃を放った後ろからわたくしが緋扇を続けて放つことで効率的に相手にダーメジを与えると?」

美琴「そういうこと。私の剣は細いけど一応両手剣だから相手をひるませるぐらいの重さは持っているの。そこにユキムラくんのソードスキル緋扇で相手に出血状態を負わせて継続ダメージを与える。そうすれば少しは効率良く相手にダメージを与えられるはずよ」

由比ヶ浜「ミコトちゃん! 私もそれ試してみていい!?」

美琴「わかりました。私がスイッチの合図をしたら二人が両サイドから突撃してください」

雪ノ下「案外チームワークがいいのね」

比企谷「そう見えますかねぇ」

比企谷「チームワークがあるなら少なくとも一番後列を歩いている俺に声をかけてくれてもいいんじゃないか……」

雪ノ下「だからこうして私が話しかけてあげているのだけれど」

比企谷「そりゃどーも」

 『WAFV』を合わせて50人程のメンバーが、巨大な扉の目の前に到着する。

上条「ここがこの層のボス部屋だな」

小鷹「そういえば理科の担当したプログラミングってどういうとこなんだ?」

理科「あまりに範囲が狭くて理科自身も何を作ったのかわからないんですけど、どうもクエスト試験用フィールドの作成をお手伝いしたらしいんですよね。あくまで仲介の人に聞いた範疇なんですけど」

小鷹「何も知らないで手伝っていたのか」

理科「ただ依頼に答えただけですよ」

星奈「で、結局その蜂を倒せばいいだけなんでしょ。なんであんたみたいバカ狐の言うことを聞かないといけないのかしら!!」

夜空「うるさい奴め。おい、小鷹。この肉をパーティーから追放してくれないか」

小鷹「なんでボス部屋寸前でそんなことしなきゃならないんだよ」

雪ノ下「ドアが開くわよ」

 雪ノ下の声と同時に重い音が響く。

 だが、重い音とは裏腹にスムーズに扉は開く。

上条「構えろ」

美琴「さっさとかたずけて54層に到達するわよ!」

 扉が完全に開ききり、ボスの姿が視界に映る。

 

 戦いが始まる。



 総員が突撃を開始する。

 その最前列、血盟騎士団の団長であるヒースクリフが指揮をとる。

ヒースクリフ「散開しろ! 距離をとるんだ!!」

 巨大な蜂、第53層ボスのザ・グラフィックス・ビーがプレイヤーたちに襲い掛かる。

 その巨体と同等以上にのびる羽が秒間何百回という速度で動く。

 お尻には細長く伸びた鋭利な針が。

 足は6本。そのうちの上腹部の二本の先端はドリルの様になっている。 

 黄色と黒の縞模様はいかにもな蜂の姿だ。 

 その姿は正直、見るだけで嫌気がさしてくる。

美琴「いくわよ!!」

 最初に動き出したのは美琴だった。

 握りしめた両手剣が光り輝く。

 ソードスキルの発動を示していることはもう誰もが理解できるだろう。

美琴「ユキムラくん!! ガハマさん!! さっき言った通りで!!」

由比ヶ浜「わかった!!」

幸村「承りました」

 美琴の後方から二人が走り込む。

美琴「せいっ!!」

 美琴のパラメータをフルに活かした両手剣ソードスキルテンペストがボスへと直撃する。

美琴(とらえた!!)

 美琴はその手に明確な手ごたえを感じた。

 ここ一年半で慣れ親しんだ斬撃の感触。

 確実にボスのHPが少しばかり目に見えて減少する。

 その後方右側から由比ヶ浜が、左側から幸村が同時に刀ソードスキル緋扇を発動して斬りかかった。

由比ヶ浜「はあっ!!」

幸村「ふっ!!」

 さらにボスのHPが減少する。

上条「俺らも行くぞ!!」

小鷹「おう!!」

星奈「あーもう!! あんたとの話はまた後よバカ夜空!!」

夜空「同感だ。せめてボス戦ぐらいは足を引っ張るなよ、この肉がっ!!」

星奈「なんですって―――!?」

理科「私たちも行きましょう」

雪ノ下「少し足並みをそろえるべきよ。闇雲に突撃してもタイミングや連携を壊すだけだわ。他のプレイヤーたちもいるのだから周りの動きを見て行動しないと」

比企谷「まったくだな。だが、その点俺はちゃんと協調性というものを知っているし実行できているからな」

雪ノ下「あなたのはただ単に人任せをしているだけよ」

比企谷(いや、考えて行動するだけあいつらよりはましだと思うのですが……)

理科「小鷹先輩!! スイッチです!!」

小鷹「おう!!」

由比ヶ浜「ヒッキーも早く参戦してよ!!」

比企谷「わ、わかった……」

雪ノ下「ふっ!!」

 雪ノ下がレーヴァテインを投擲する。

 ボスの腹部を貫通、直撃し、さらにHPが減少する。

上条「おりゃああああああああ!!」

 上条の右こぶしが追撃をかける。

美琴「スイッチ!」

由比ヶ浜「了解!!」

幸村「たぁ」

 美琴の水平斬りがボスの体を怯まして、由比ヶ浜と幸村の刀が第二撃を与え、HPの減少を継続化させる。 

夜空「このままいけば二十分後にはボスのHPが消しとぶな」

星奈「ふんっ! このぐらい当然だわ」

夜空「いや、貴様はまだ何もしてないだろう」

星奈「な、何ですって!! 私だってちゃんと攻撃してるわよ」

夜空「嘘を言うな。まだ一回も攻撃してないではないか」

星奈「そ、それは。だって、みんな攻撃してるところに邪魔してはいっちゃいそうだし……」

小鷹「大丈夫だって。誰も星奈のことを責めたりしないだろ……」

星奈「そ、そうかしら」

 三人が会話をしている間も戦闘は続く。

 既にボスのHPバーは残り二本だ。

 防御力、攻撃力ともにさしてたいしたことのないためか、恐ろしいほどにスムーズにプレイヤー側が優勢になっている。

比企谷(……おかしい。この強さだとボスという感じがしない。あってもフィールド級のボス程度の強さだ。結晶無効化エリアであるからってボスが弱く設定されているのか? それとも……)

 ボスのHPバーがついに残り一本になった。

 それと同時に、比企谷は見た。

 ボスの目に当たる部位が赤く光りだしたことに、唯一気づく。

 他のプレイヤーたちはどうにも戦闘に夢中で気づいていないらしい。

 だがわかる。

 目の色が変わった理由。

 攻撃パターンの変化を。

比企谷(まさか……)

 比企谷は何かを察すると同時に大声で叫ぶ。

比企谷「今すぐボスの周囲から離れろ!! 今すぐだ!!」

 現実にいたら絶対に出すことのないであろう大声でプレイヤーたちに呼びかける。

 それにいち早く反応したのはヒースクリフだった。

 彼が攻撃を中断し、後方にジャンプすると他の面々もボスの周囲から離脱していく。

美琴「ちょっと!? どういうつもりよヒキガヤ!!」

比企谷「いちいち叫ばないでくれ。見てればわかる」

 彼の言葉と同時にボスが動きを停止した。

 上腹部にある2本のドリルのような腕が変化する。

 いや、その二本だけではなく残りの4本も。

 大きさを変え、形を変え、長さを変え、ドリルとしての影も形もなくなる。

理科「どこまで形を変えるんですか。あれ?」

 そして明確な、誰もが一目見てわかる形に変わった。

幸村「刀……。いえ、他の足についているのは……」

 その六本の足はそれぞれ違う形になっていた。

 一本は幸村と同じ刀に。

 一本は小鷹と同じ片手剣に。

 一本は美琴と同じ両手剣に。

 一本は星奈と同じ細剣に。

 一本は理科と同じ短剣に。

 一本は雪ノ下と同じ槍に。

 まさに戦力過剰。

 すべての状況に対応できる六本の武具。

 そのすべてを使って、ボスは自分のHPの残量を無視して、自らプレイヤーたちへと突進する。

 まさにそれは地獄絵図だった。

 あまりの切れ味と手数に盾を持ったプレイヤーでさえ押し切られ、盾の耐久値を削りきられてラッシュをくらう。

美琴「こんのおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」

 両手剣を握りしめ、後方から一気に前進する。

 その勢いを利用してソードスキル、アバランシュの重い一撃をボスへと放つ。  

 もしもそれが人間だったら、美琴の一撃を受けきれず、頭から腰までを両断されていただろう。

 ただしこいつは人間ではなく、プログラムの明確な数値で表出されたモンスターでしかない。

 そのボスのパラメータ数値が美琴を上回っているとしたら、たとえソードスキルを発動した両手剣だったとしても、一本が美琴の筋力パラメータを越えていてそれが6本連なって防御態勢に入ったとしたら。

 美琴の一撃を受け止めるなんて、造作もなかった。

 ガギィィィィィィィィィィィィィィィンッッッ!!


 と、フィールド全体に甲高い音が響いた。

 きっとこの場のプレイヤーの中では美琴のSTR(筋力値)が最も高かっただろう。

 だが、その一撃が軽々しく受け止められた。

 誰もが唖然とする。
 
ヒースクリフ「下がれ!!」

 ヒースクリフの一声でようやく周りのプレイヤーたちも思考を回復する。

 美琴はヒースクリフに従って後方に撤退しようと試みる、が。

 それよりもボスの動きの方が迅速だった。

 背中に生えた羽が戦車のエンジンかのごとく低くうなる。

今日はここまでです。今回は実際にはもっと後であろう結晶無効化エリアでのボス戦を入れさせてもらっています。


 グシャァッッッ!!

美琴「え……っ?」

 理解が追い付かない。

 体に受けるダメージが明確なHPという名の数値で表せられるこの世界だが、美琴もそれに順応してきたつもりだった。

 それでも、体中に、ボスの持つ六つの武器が貫いた感覚にはどうも思考を停止せざるおえなかった。

上条「御坂―――っっっ!!」

 それを見ていた上条も思わず唖然としてしまう。
 
 彼の目に映るのは、両手両足をそれぞれ刀、片手剣、短剣、細剣で貫かれ、胸を両手剣と槍で貫かれた美琴の姿。

 目の前でこれまで戦ってきた少女のHPが0に近づく。

 それはあまりにも絶望的で、現実であってほしくないと願ってしまう。

上条「うおおおおおおおおおあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 上条は叫びながら突進する。

 途中で比企谷や小鷹が何かしら言ったのだが、それすらも無視して、ただひたすらに突進する。

 上条があと一歩で拳を当てられる距離まで来た瞬間。

 美琴がうっすらと笑った。

 そして……

 バリンッと。

 聞きなれてるアイテムの破砕音と少し変わった音が、上条のの耳に、鼓膜に響いた。

上条「う……あぁ……うあ……うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 上条の雄叫びが響き渡ると同時に。

「いい加減起きろやゴラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 後頭部にゴグシャァと痛みではなく痺れが走る。

上条「うおぁ!?」

 思わず上条は『飛び起きた』。

上条「あれ? ここは……」

美琴「たくっ。ようやく起きたかこのウニ頭め。戦闘中に寝てんじゃないわよ。まあ、『仕方ないけど』」

上条「御坂……。おまえ、生きてたのか。よかったぁぁ」

 ほっと胸をなでおろす上条に美琴は首を傾げながら呆れた顔で言う。

美琴「いったいどんな夢を見させられていたかは知らないけど、私の名前が出てくるってなんか怖いわね」

上条「でもなんで……なっ!?」

 上条は周りを見渡してようやく気づいた。

 周りの全ての人がその場で倒れていた。

 比企谷や小鷹たちもだ。

上条「何があったんだ? HPは減っていないみたいだけど……」

 謎の光景に眉をひそめる。

美琴「覚えていないのか。まずはボスのHPがのこち一本になった時のことを思い出して」

 上条は腕を組んでウンウンとうなり始めるが。

上条「すまん。さっぱりだ……」

 すぐに根を上げる。

美琴「はあ。いい?……」

 美琴は会場に現状と何が起きたのかを話し始める。

 ほんの数分前。

 ボスのHPが残り一本になった時だった。

比企谷「ッッッ!?」

 比企谷が急に倒れてしまった。

雪ノ下「比企谷君!? いったい何が……」

 さらに雪ノ下までもが倒れ。

夜空「これは……霧か?」

 彼らの周りにはいつの間にか霧が漂っていた。

理科「多分これ、ボスの攻撃です!! すっちゃだめですよ! これ吸ったらたおれぇ……」

 次々とプレイヤーたちが倒れていく。

小鷹「おい理科!? くっ!! 星奈、いったんみんなを避難させないと」

星奈「……」

 小鷹がそちらを見るとすでに星奈も倒れてしまっていた。

小鷹「星奈!? 大丈夫かぁ……」

 ついに小鷹までもが倒れてしまう。

 その場で動けたものは誰もいなかった。

 いや、一人だけ。

 ヒースクリフ。

 アインクラッドのトップギルド血盟騎士団の団長、ヒースクリフは依然としてその場に立っていた。

 美琴も少しずつ目の前がブラックアウトしていく。

 そして、ドサリッと。

 フィールドに新たな横倒れのプレイヤーが追加された。

 時は現在に戻る。

上条「そうか。じゃあボスはどこへ?」

 上条の質問に美琴は遠保に指をさして答える。

 そこにはHPがフル回復したボスとヒースクリフが戦闘を繰り広げていた。

 しかしヒースクリフはあくまで周りの倒れているプレイヤーたちから遠ざけさせるようにわざと受け身になっていた。

上条「俺たちも行かないと……ッ!?」

 立ち上がろうとした上条の体にダメージを受けた時のような痺れが継続的にはしる。

 もちろんHPは一切として減っていない。

美琴「しばらくは動けないわよ。HPバーの横に状態以上マークが出てるでしょ? あと数分は身動きが取れないわ」

上条「でもなんで……。っていうか御坂はボスの攻撃食らわなかったのか?」

美琴「もちろん私も眠っちゃったわよ。なんか変な夢も見せられたし。ヒースクリフの話では対眠用のポーションが一つだけあったから私に使ってくれたらしいのよ」

上条「なんで御坂に……?」

美琴「そりゃあ、一番近くにいたからじゃない? おそらくだけれど」

上条「それでヒースクリフがボスの気を引いているうちに御坂が他のやつを起こすってことか」

美琴「そうだけど。でも他のみんなは呼びかけても反応しないのよね。アンタはこの剣の柄で頭を思いっきり殴ったら目が覚めたけど、他のみんなにそんなことはしたくないし」

上条「なんか今すっげぇー不穏な言葉が聞こえたんだけど!? 気のせいだよね? 気のせいですよね!?」

美琴「いいから行くわよ」

上条「行くってどこに?」

美琴「起こすことはできないなら他にやることは決まっているでしょ」

 二人は今もなお戦っているボスとヒースクリフを見据える。

 どうやら上条の夢もあながち間違ってはいなく、その6本の足がもれなく戦力過剰の武具に代わっていた。

 いくらアインクラッド最強といわれているヒースクリフでもあの攻撃を受け止め続けるのはかなり厳しいだろう。

 上条は立ち上がる。

 どうやら麻痺効果も消えてくれたので少しずつ体の感覚を戻していく。

上条「行くぞ」

美琴「任せて」

 40人以上のレイドで挑むべきボスにたった3人で挑む。

 しかもなぜかは分からないがボスのHPは少しずつ回復するらしく、いまはHP満タンの状態である。  





 なぜ上条は御坂がボスにやられる光景を見たのか。

 それだけ上条はどうにも腑に落ちなかった。 

 上条の知る由もないことなのだが、そもそもこのナーヴギアは脳に信号を送ることで視覚、味覚、聴覚、嗅覚、触覚。

 五感に任意の情報を与えるというものだ。

 それならばプレイヤーに幻覚を見せることなど容易。

 だからもちろん。

 他の倒れている人々も、幻覚という名の人工的な『夢』を見ていた。

今日はここまでです。

現実世界・学園都市窓のないビル


 学園都市統括理事長であるアレイスターの目の前にはホログラムパネルが二つ展開していた。

アレイスター「では、報告を聞かせてもらおうか」

 アレイスターの呼びかけとともに二つのホログラムパネルから声が発せられる。

「犯人は須郷信之。この人物が『失われたはずのプログラム』を再びインストールした張本人であるな」

 一人は柏崎天馬。柏崎星奈の父親である。

「そして事情聴取してみた結果、挙句の果てには僕は悪くないしか言わないぐらいに壊れてしまったよ」

 もう一人は平塚静。比企谷八幡たち奉仕部の顧問であり学校の教師である(現役独身者)。

アレイスター「それはめぼしい情報が得られなかったということかね?」

平塚「そう早まるな。その須郷に協力していた研究者たちにも聴取した結果、重大なことが分かった」

アレイスター「ほう?」

柏崎「須郷信之は『失われたはずのプログラム』をインストールする際にもう一つ、あるものを仕込んだ」

平塚「単純に言えばAIプログラム。人工知能を搭載したプログラムをカーディナルシステム上にインストールした。そして一番問題視しなくてはならないのが……」

柏崎「そのAIプログラムによってカーディナルシステム上のほぼ全ての権限が乗っ取られているという点だ」

アレイスター「そうか。では私はそれに対しての対策を講じるとしよう」

平塚「対策?」

アレイスター「仮にも私は学園都市の統括理事長なのでね。科学技術は科学技術で相殺するべきだろう?」

柏崎「そうか。では、そのように頼むとしよう」

 二つのホログラムが消える。

 そしてまた、新たなホログラムパネルがアレイスターの目の前へと出現する。

アレイスター「『観測者』《オブサーバー》の調子はどうかね」

「ふむ。報告は毎日そちらに提出しているはずなのじゃがな」

 ホログラムパネルから発せられるのは少女のような声。
 
「すでに上条当麻、羽瀬川小鷹、比企谷八幡もAliceと合流した。これで『奴』を倒す駒は全て揃ったと言えよう」

アレイスター「わたしが君に学園都市の最高峰AI、ACNHCP‐0000‐Aliceを送り付けたことには既に『彼女』にもばれているだろう。『彼女』も『彼女』で対策を練ってきそうだがね」

「現在進行形でな。どうやら『奴』は第53層のボスにある施しを行ったらしい」

アレイスター「精神攻撃。プレイヤーの脳に直接干渉し記憶領域に保存されてるデータから幻覚を創りだす。ある意味においては最も悪質な攻撃といえよう」

「こちらも対策は施した。『奴』が施したことにより発生する幻覚内に異物を混入させる。精神攻撃であられてしまうのであれば、その異物によって精神状態をやられないほど強固なものにする。わしにもそれぐらいの余力は残っておるのでな」

アレイスター「そうか。ここで幻想殺しが潰れることはないだろうが、他の者たちが壊れてしまうのも幻想殺しの今後のことを考えれば影響は著しい。ここは君に頼らさせてもらうとしよう」

「八幡。はちまんっ!!」

比企谷「……っっっ?」

 比企谷八幡はその声によって目を覚ました。

 目の前には同じクラスのはたから見れば女の子、しかし男の子の戸塚彩加が不安そうな顔をしていた。

比企谷「ああ……。えっと、何だっけ?」

戸塚「もー。だからね、学園都市の見学会なんだけど班はもう決めたの?」

比企谷「見学会? そんなものあったか?」

 比企谷は自分の記憶の隅まで検索をかける。

 学園都市という単語は知っているが、どうにも先輩とかに聞いたこともないイベントだ。

比企谷「で、今は班決め中なのか……」

戸塚「そうだよ。三人一組を班を作れって平塚先生も行っていたし」

比企谷「戸塚は? もう決めたのか?」

 何かが引っ掛かった。

 記憶の片隅。

 先ほど自分で検索をかけたからか知らないが、何故か何かが引っ掛かった。

 だが、それが何かは全く持ってわからない。

 とりあえずもやもやした気持ちを抱えながらも比企谷は目の前の話に集中する。

 一般の高校生ならどうかは知らないが、比企谷にとっては班のメンバーについてはかなり重要なことである。

戸塚「僕? えっとね、それなんだけれど……」

比企谷「?」

戸塚「八幡、と一緒の班にしようかなって……」

比企谷(やめてくれ。戸塚のそんなキラキラした目を見るとなんかいろいろなねじが飛びそうになるっっっ!!)

戸塚「ど、どうしたの八幡?」

比企谷「いや、何でもない……」

 二人が話していると教室に平塚先生が入ってくる。

平塚「班決めは終わったかね?」

比企谷(そう簡単に決まるはずないだろ。俺がいるんだし)

戸塚「あと一人どうしよっか?」

比企谷「『あいつら』誘えばいいんじゃないのか? ええっと。あれ?」

 すぐそこまで出かかっているのに、なぜか言葉が浮かんでこない。

 何か大切なことを忘れている気がした。

戸塚「あいつら? あいつらって誰なの八幡?」

 しかし、出かかっていたなにかも戸塚の質問とともに消え失せてしまう。

比企谷「いや、気のせい……だな。すまん、なんでもない」

平塚「なんだ。まだ比企谷のところは決まっていないのか。呆れるのも180度回って考えるのもやめたくなるな」

比企谷「呆れを180度回ったら尊敬しません? 普通」

平塚「変なことを言っていないで、さっさと班のメンバーをそろえろ。あと一人だけなのだろう?」

比企谷「そうですけど……」

 比企谷はクラス中を見渡す。

 葉山や戸部たち三人組はすでに班を結成したのだろう。

 由美子や海老名も近くにいるし、人数にしてはちょうどだ。

 だけれど。

 やっぱり。

比企谷(何かが足りない。そんな気がする。いや、そもそも俺に友達と呼べる存在はいなかったはずだ。だとしたら足りないも何も、最初から無いのではないのだろうか。だが、それなら、このもやもやした霧がかかったような感情はいったい何なのだろう。足りているようで足りない。そもそもなんで学園都市見学会なんてイベントを俺は知らなかったんだ? さっき戸塚の声で起きるまで俺はいったい何をしていた? 俺はいったいなんでこんなにも考え込んでいる?)

 どうしても抑えきれない。

 自分の求めているものを、何かを手に入れられそうな気がして、それに手を伸ばした。

 けど、まるで、手が届く前にそれが離れてしまい、記憶から抜け落ちてしまったような、この感覚は?

戸塚「八幡? やっぱりどうしたの? 今日の八幡なんかちょっと、おかしいよ?」
 
 いつもなら聞き入るような戸塚の声にも反応しない。

 比企谷はひたすらに考えて、そして……。


比企谷「先生。班のメンバーのこと、明日まで待ってくれませんか?」

平塚「どうしたんだ急に?」

戸塚「八幡?」

比企谷「いえ、まあ、アテが見つかっただけですよ」

平塚「ふむ。では明日まで待とうか」

 適当な理由をつけて間を長引かせ、すぐそこまで出かかっている『何か』を思い出そうとする。

 その日の放課後。

 比企谷はある場所を訪れていた。

 机も椅子も、何もない空の教室。
 
 クラスを表示するプレートも無く、広く静まり返った一つの部屋。
 
 自分ですらなぜこの場に来たのかもわからない。

 何か見つけられる、何か思い出せると思ったのだが……。

比企谷「帰るか……」

 芳しい結果は得られなかった。

比企谷「ただいま」

 比企谷は自分の家へと帰宅した。
 
 家のリビングから一人の少女が玄関へとあらわれる。。

小町「ああ、お兄ちゃん。おかえり」

 相変わらず家の中だと、それで外いったら確実にヤバいというような格好をしている比企谷八幡の妹である比企谷小町。

小町「どうしたの? なんか浮かない顔だけど」
  
 そういいながら小町は比企谷のうつむいた顔に自分の顔を近づける。

比企谷「いや、何でもない」

 比企谷は素っ気なく応えると小町は頬を膨らましてリビングに戻った。

小町「何にもないならいいんだけどさ……。お兄ちゃん、そういう顔しているときはなんか悩んでいるときだし」

比企谷「なに? あなたエスパーなの? 俺の心読めちゃうの?」

小町「いやー、小町は学園都市で超能力開発なんて受けてないから。でも、やっぱり図星なんでしょ?」

比企谷「……」

小町「はーい! 沈黙は肯定とみなしまーす!!」

 比企谷はリビングの椅子に座る。

 小町もちょうど真正面の椅子に座った。

小町「で、何に悩んでるの?」

比企谷(小町に言うべきなのだろうか? これは自己の問題で、俺の問題だ。それを小町に言って、解決できるものなのだろうか)

小町「あのさー。小町は仮にもお兄ちゃんの妹なんだよ? 兄妹なんだよ? ある意味では最も信頼できる立ち位置にいるんだからさ……、相談にものれるんだよ?」

比企谷(それぐらいはわかっている。他のやつらにしゃべりたくないことがあっても、小町にだけなら話すことはできる)

 比企谷の中で、自分が求めている答えを出すために最も必要だと思われる道筋を立てる。

 そして結論に達した。

 小町に相談するのが最も早いと。

比企谷「思い……出せないんだ」

小町「?」

 比企谷は全てを話した。

 授業中、戸塚に起こしてもらうまで、寝てしまう前、自分が何をしていたのか忘れていた事。

 何か自分の生活に、空白が存在すること。

 何らかの違和感があること。

 きっとそれらは自分にとって大切な存在であったこと。

小町「……」

 小町は比企谷が話を終えるまで、無言でいた。


 そして言い放った。   

小町「なんだ。もうわかってるじゃん」

比企谷「どういうことだ?」

小町「自分にとって大切なものが存在しないって、もうわかっているんでしょ? だったらそれが答えになるんじゃない? いつもなら小町が一番大切とか言っているのに。あ、今の小町てきにポイント高い!!」

比企谷「……」

小町「こほん……。小町がいるのに、存在しているのにそれでも何か大切なものが抜けているってわかるってことはもうそれが答えじゃん。人って結構単純でね、記憶には二つあるんだよ。一つはデータ的な脳に保管された記憶。そしてもう一つが体の記憶。記憶になくても体に身についてしまって同じことを繰り返してしまうっていうのはよくあるもんだよ。そして自分がたどり着いたはずなのに何もないって場所はお兄ちゃんのなかの空白と結びついた関係であることを表している。これで小町が言えることは全部かな!」

比企谷「―――ッ!!」

 比企谷は家を出て自転車に乗って学校へと向かう。

 既に暗くなっていて夜道というのにライトもつけず、全力でスピードを出す。

 夜の学校というのは怖いモノなはずなのだが、それも無視して比企谷は夜の学校へと降り立つ。

 警報やらなんやらが鳴らないのはまだ学校に残っている先生がいるからだろう。

 もしくはそういった機能を『比企谷自身が経験していなく、記憶に残っていない』からか。

 少年は階段を上り、ある教室へとたどり着く。

放課後に訪れたはずの、空の教室。

 そして、何より本来なら『比企谷が所属している部の部室』であった場所。 

 比企谷はそこで確信した。

 自分が何を忘れていたのか。

 いや、何を忘れさせられていたのかを。

比企谷「……」

 無言のまま、空の教室に踏み入る。

 一瞬、目の前がぶれた気がしたが構わず歩を進める。

 二歩目。

 床を踏みしめた瞬間、やはり目の前がブレた。

 いや、それにとどまらず、壁に亀裂が入る。

 三歩目。

 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッッッと壊れたラジオのような音が鳴り、目前の景色が砂嵐の様に切り替わる。

 比企谷の右手に一本の短剣が現れる。

比企谷(人間は基本的に自分を最も愛する生物だ。だから、この生活を送ることもできるかもしれない。だが、やはり俺は満足できない。きっと俺は『あいつら』に何かを求めすぎているかもしれない。だけどやっぱり俺は、『本物』がほしい)

 そして言った。

 昔の比企谷八幡なら確実に言わなかった、言えなかった言葉。
 
 彼自身の柄に合っていなく、彼も考え付くはずのなかった言葉。

比企谷「―――返してもらうぞ!! 俺の求めた本物を―――!!」

 直後に、色が、景色が反転し、目の前が真っ暗になった。


少し復習します。


キリト……片手剣

SAOでもトップクラスの剣士。通称黒の剣士。後々EXスキル『二刀流』を身に着ける。

本名・桐ケ谷和人

所属ギルド・月夜の黒猫団→無し→血盟騎士団→無し



アスナ……細剣

SAOでもトップクラスの剣士。通称閃光のアスナ。攻撃力よりスピード重視の細剣使い。

本名・結城明日奈

所属ギルド・血盟騎士団

ミコト……両手剣

SAO内でも『攻略組』に入れるほどの力を持つ。現実同様の運動神経の持ち主なのでそもそもの基本スペックが高い。

学園都市第三位の超能力者、『電撃使い』だがSAO内では使用できない模様。

本名・御坂美琴

ステータス・STR-AGI型

所属ギルド・WAFV



トウマ……体術、短剣

SAOでもトップクラスの実力を持つ『攻略組』に入れるほどの実力を持つ。右手に『幻想殺し』という超能力や魔術を無効化できる力を持つがSAO内で利用することは不可。基本的な身体能力が一般人とは段違い。

学園都市に住む学生。学園都市では最も低いレベル0に位置する。

本名・上条当麻

ステータス・STR-DEX型

所属ギルド・WAFV

ヒキガヤ……短剣

SAO内では中の上ぐらいの実力。他の者たちに比べれば低いステータスだが敵の攻撃を先読みした戦闘スタイルなためある程度の戦力差でもモンスターに勝つことが可能。

千葉県総武高校に所属する学生。国語はできるが理数系が壊滅する程度の学力を持つ。奉仕部メンバーの一人。

本名・比企谷八幡
 
ステータス・AGI-DEX型



ユキノ……槍

SAOでも数少ない……はずの女性プレイヤーの一人。ステータスはそこまででもないものの使用するランク8武器・レーヴァテインのステータス補正によって圧倒的戦闘力を持つ。さらに槍を投擲することによる一撃必殺の遠距離攻撃を使う。

千葉県総武高校に所属する学生。学力、財力、運動能力、あらゆる面において万能を誇る。しかし、体力だけは無く、本人もそれを認識している。

本名・雪ノ下雪乃

ステータス・DEX-AGI型

所属ギルド・WAFV



ガハマ……刀

SAOの雰囲気にのまれることのないいつでも明るいプレイヤー。曲刀スキルからの派生であるEXスキル『刀スキル』を持っている。

千葉県総武高校に所属する学生。学力はどうしてこの高校に入れた!? と問いたくなるほど。いつでも明るく、人に合わせることが上手である。

本名・由比ヶ浜結衣

ステータス・STR-DEX型

所属ギルド・WAFV

コダカ……片手剣

SAOトップクラスの戦闘力を持つ。索敵スキルの熟練度が高く索敵能力に長けている。そのため敵の弱点を狙った効率的な戦闘スタイルをとる。

聖クロニカ学園に所属する学生。転校初日から遅刻し、自己紹介に失敗。顔が怖いなどのことで浮いてしまう。隣人部メンバーの一人。

本名・羽瀬川小鷹

ステータス・AGI-STR型

所属ギルド・WAFV



セナ……細剣

SAOトップの女性剣士プレイヤー。連続攻撃力に長けておりアスナと張り合うことができる程の戦闘力を持つ。ただ状況判断能力が低いというか感情に任せやすいためいつも何かしら小鷹にフォローしてもらう。

聖クロニカ学園に所属する学生。隣人部メンバーの一人。ゲーマーで打倒夜空を目指している少女。ただし上から目線のためか隣人部以外の学生たちと馴染むことができない。小鷹の妹である小鳩を溺愛する。

本名・柏崎星奈

ステータス・AGI-STR型

所属ギルド・WAFV



ソラ……槍

SAO内でもトップの槍使い。ステータスは雪ノ下を上回る。攻撃力に特化しているため一撃一撃の重さがかなりのもの。あらゆる状況において冷静である。

聖クロニカ学園に所属する学生。隣人部メンバーの一人。星奈とは犬猿の仲。冷静沈着だが一人でいるときは『エア友達』のトモちゃんとしゃべっている。

本名・三日月夜空

ステータス・AGI-DEX型

所属ギルド・WAFV

リカ……短剣

SAO内では一般的な戦闘能力。ステータスもWAFVメンバーの中ではかなり低いのであまり戦闘には向かない。ただしSAO内の情報集めによってポーションの錬成や独自調合した料理の調味料を販売しているため、そちらが主な収入源となっている模様。

聖クロニカ学園に所属する学生。隣人部メンバーの一人。SAO制作の際に茅場明彦に協力した天才。世界が欲しがる人材なので理科室と引き換えに聖クロニカ学園に在籍している。

本名・志熊理科

ステータス・DEX-AGI型

所属ギルド・WAFV



 
ユキムラ……刀

SAO内でもトップクラスの剣士というか武士というか。ステータスでは由比ヶ浜を上回る。主に護衛や援護をするため敵にダメージを与えるより、敵の攻撃を防ぐ方が多い。

聖クロニカ学園に所属する学生。隣人部メンバーの一人。美少女に見える男の子。武士の魂のようなものを持っており、隣人部ではなぜかメイドやら執事のような立ち位置になっている。

本名・楠幸村

ステータス・AGI-VIT型



アリス……不明

SAO内でもトップの実力者プレイヤーであるにかかわらず、その存在が第50層付近になるまで知られなかった金髪の美少女プレイヤー。あらゆるステータスにおいて他プレイヤーを圧倒する。EXスキルの中でも一人しか使えないユニークスキル『サウザント』のスキル保持者。雪ノ下雪乃を含めなければ唯一の正式な遠距離攻撃戦闘可能者。戦闘時は金ぴかの騎士風鎧を着用。

本名・不明

ステータス・STR-AGI型

今日はここまでです。

修正として、ユキムラの所属ギルド・WAFVです。

おつ

もう出ないとおもうけど三浦は優美子な

>>265

ご指摘ありがとうございます。そうですね。もう出ないと思いますが今後は他のメンバーの名前を間違えないように気をつけたいと思います

小鷹は『そこ』に立っていた。

 『そこ』といっても別にいつも通り隣人部の部室でいつも通りのメンバーで。

 何一つ変わりのない景色。

理科「さぁー、星奈先輩!! 次に行きましょう!!」

星奈「ちょ、夜空!! 私の足を引っ張らないでくれる!?」

夜空「足を引っ張っているのは貴様だろうが!!」

幸村「では、まいりましょう」

小鳩「クックックッ。これで勝ちは確定じゃのう!!」 

マリア「くっそー!! この二人は使えなさ過ぎてクソなのだ!!」

夜空・星奈「ああッッッ!?」

マリア「う……何でもないのだ」

小鷹「……」

 認識が追い付かなかった。

 小鷹は自分が先ほどまで何をしていたのかは覚えている。

 第53層迷宮区ボス、ザ・グラフィックス・ビーとの戦闘を繰り広げていた。

 その途中でボスの特殊攻撃で倒れてしまった。

 それぐらいはわかっていた。

 理解していた。

 だから、先ほどまで一緒に戦っていた夜空と星奈と理科に幸村がこうしてゲームを握り、現実に置いてきてしまった大切な家族の小鳩に大切な仲間であり友達のマリアがこうして、談笑している光景が信じられなかった。

小鷹(俺はもしかしてボスの一撃を受けて死んだのか? 星奈や夜空たちも? でも、それだと小鳩たちがいる理由が……)

 だが、小鷹が結論を出すよりも先に、あることに気づいてしまった。

星奈「ほら!! 次いくわよ!!」

夜空「くっ、今度はこの装備で……」

 普通ならこの場に小鷹がいることに誰もが気づくはず。

 しかし。

小鷹「おい夜空。これはどういうことだ? なんでお前ら……」

夜空「では次は肉と私の番だな。足を引っ張るなよ脆弱な豚が」

星奈「なッッッ!! こっちのセリフよ!!」

 小鷹の言葉は届かない。

 無視ともシカトとも違う。

 最初から聞こえていないようなその素振りに、小鷹は確信を持つ。

 きっとこの世界、この学園、この場に、羽瀬川小鷹という個人は存在しないのだと。

 小鷹自身としては今までこういうのは慣れっこだと思ってきた。

 友達もいなかったし、まともに話せる人すらいなかった。

 自分はこの場にいてもいなくても変わらないと思っていたことだってあった。

 だが、いざ本気で自分という存在が認識されなくなるとかなり心に来るものがある。

 加えて以前とは違い、隣人部のメンバーとはかなり親しくなっていた。

 だからそれが余計に心にダメージを与えた。

「気づいた?」

 女の声がした。

 甘く、妖艶で、蜜のような響き。

 小鷹は音源の方向、つまり後方を振り返る。

小鷹「……だれだ」  

 そこに立っていたのは白く薄い布だけを纏った銀髪の少女。

 腰まで伸びる銀髪は美しく世界を照らし、透き通るような白い肌は日の光を浴びて光り輝く。

「明確な名など持たないわ。だが、そうね。とりあえずアドミニストレータでどうかしら?」

小鷹「星奈たちになにをした。返答によっては俺はあんたを倒さなきゃならない」 

アドミニストレータ「あら。いきなり好戦的ね。SAOの中に長らくいた影響かしら。まあ、別にこれといった手ほどきはしてないわ。ただ、見たままを受け止めなさい」

小鷹「……」

 もう一度小鷹は星奈たちに目を向ける。

星奈「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

夜空「ふんッ!!」

マリア「このッこのッ!!」

小鳩「クックックッ。これで終わりじゃ。汚れた聖職者め!!」

理科「ああ、幸村君。お茶入れてもらってもいいですか?」

幸村「かしこまりました」

 楽しそうにはなし、楽しそうに遊ぶ。

 たとえ小鷹がいようがいまいが関係はないかのように。

アドミニストレータ「人間とは愚かよね。わざわざ自分と関わる必要のない人間とまで関わり、相手を自分が必要とされているとぬか喜びさせておきながら本当はどうでもいいと切り捨てる。結局、負の感情しか生み出せない」

アドミニストレータ「あなたもこの子たちのことを相当信頼していたみたいだけど、いざとなればこんなもの。あなた一人が人の心に与えた影響はほんの些細なものなの」

 いつの間にかアドミニストレータは小鷹の真後ろにいた。

 そして、彼に抱き付くようにして、耳元でささやく。

アドミニストレータ「ねえ。本当にこんな世界が必要なの? こんな上っ面しか無い醜く腐りきった世界があなたは本当に必要なの?」

 優しく、その銀髪から甘く香りをふりまくように彼女は言った。

小鷹「確かに、こんな世界は必要ないかもしれない」

 その言葉を聞いて、アドミニストレータの口元がかすかに微笑んだ気がした。

小鷹「でも俺の世界はここじゃない。そう、この世界は俺の世界じゃないんだよ。きっとお前が見せている偽物みたいなものなんだろう?」

 その瞬間、アドミニストレータの顔からあらゆる表情が消えた。

アドミニストレータ「…………どこで気づいた?」

小鷹「ほう。貴様こそいい加減気づいたらどうじゃ」

アドミニストレータ「……どういうことかしら?」

 小鷹の体がブレた気がした。

 いや、それにとどまらず半透明になり、やがて一人の賢者めいたローブを纏った少女に形を変える。

アドミニストレータ「なるほど。あなたがすり替わっていたということね。カーディナルのおちびちゃん」

カーディナル「相変わらず理解が早いな。本物のコダカはすでに目覚めているだろう。そもそもコダカ自身にこの精神攻撃が効くかは謎だがな。それよりも、本来行ってはいけないはずのプレイヤーへの直接干渉。罰は受けてもらうぞ」

アドミニストレータ「罰? ふふふっ。誰が私に罰を課すのかしらね? この世界の神であるはずの私に」

 アドミニストレータの周囲にいくつもの武具が形成される。

 あるものは剣の形をとり、あるものは槍の形をとり、あるものは戦斧の形をとる。

 驚くべきはそのすべてが最高ランクの武具であることか。

 もしくは数の概念を通り越して無数に展開するその有様か。

 アリスのサウザントに似ているがそれをはるかに上回る圧倒的力。

カーディナル「ふむ。わしの今の権限では貴様を倒すことは不可能じゃろうな。だが、この場は引いてもらおう」

アドミニストレータ「……なに?」

 直後だった。

 唐突に、『夢』の世界が崩壊した。

 カキンッッッガンッガインッッッ!!

 何かがぶつかり合う、金属質の甲高い音が響いた。

 小鷹はそっと目を開ける。

小鷹「ヒキガヤ」

 目の前には比企谷が突っ立っていた。

比企谷「目が覚めたのか。で、『夢』の心地はどうだった?」

小鷹「『夢』?」

 もちろん小鷹に『夢』を見た覚えなど一切ない。

小鷹「それより、ヒキガヤは何をしているんだ?」

比企谷「何をしているって、覚えているだろ?」

小鷹「ボス、そうだ、ボスは!?」

 比企谷の目線を追っていき、そこに映る光景を目撃する。

小鷹「俺らも行かないと! ―――ッッッ!?」

 小鷹が立ち上がろうとすると謎の痺れが体中を襲った。

比企谷「無駄だと思うぞ。しばらくは動けなくなるらしいから」

小鷹「?」

 よく意味の分からない言葉だったが、小鷹が疑問をぶつける前に比企谷はボスへと突撃していく。

 先ほどは多少混乱していて気付けなかったが、美琴と上条、ヒースクリフがボスと混戦状態になっていた。

 小鷹も無理やり体を動かそうと全身に力を込める。

 片手剣を杖の様にしてようやく立ち上がることに成功する。

 これで総勢は5人。

 ヒースクリフ、上条、美琴、比企谷、小鷹。

今日はここまでです。

アドミニストレータですが原作とだいたい同じような容姿・性格です。

比企谷や小鷹に上条さんと似た経験をさせてみたいなーと思って書いたのですが結果的に小鷹はノーダメージになってしまいました。

何と言うかこれSAOのアインクラッドよりもアリシゼーション寄りっぽいな。
『アリス』もそうだし『アドミニストレータ』も『カーディナル』もそうだし。
まぁ面白いから全然いいけどさ。

ついに今季アニメも終わってしまったか……。

それでは投下します。

 当初このボス攻略に参加した人数のおよそ1割程度まで減少した戦力だがそれでも一人一人のスペックが高いため少しずつだが確実にボスのHPを削っていく。

美琴「こんのぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 美琴の両手剣がボスを水平から襲い掛かる。

 ボスはその一撃を左三本の武具と化した腕で受け止める。

比企谷「ふっ!!」

 後ろから比企谷が短剣を振るい、ボスの羽の部分に一撃を入れた。

ヒースクリフ「―――ッッッ!!」

 ボスの右半身三本の武具はヒースクリフが盾で受け止める。

上条「おお。コダカ動けるのか?」

小鷹「ああ。何とかな」

 小鷹はボスを見据える。

 小鷹の索敵スキルならば見据えるだけでそのモンスターの詳細な情報や弱点が見えてくる。

 もちろんすべてのモンスターに対してではなく、自分とレベルが近い、プラス10レベルぐらいまでだろうか。

美琴「スイッチ!!」

 美琴の掛け声とともにヒースクリフと比企谷が同時に斬りかかる。

 幸いなことにか、ボスは羽を持っていて空中を浮いているが攻撃が届かない位置まで上昇するということはなかった。

美琴「たくっ。人数がいないとここまで不利になるものなのね」

 どうにかしてボスの攻撃を躱し、美琴は態勢を立て直す。

上条「小鷹!! 早速で悪いけど相手の弱点とかわからないか? このままじゃこっちが先に力尽きちまう!!」

小鷹「ちょっと待ってろ!!」

 小鷹はいまだ痺れかけていた腕を半ば無理矢理に動かしていくつもウィンドウを展開する。

小鷹「おい! 分かったぞ!!」

比企谷「何がわかったんだ?」

小鷹「アイツの弱点は首の部分。要は胴体と頭の付け根だな」

比企谷「わかった。前の連中に伝えてくる。コダカは突っ込む準備をしといてくれ」

 小鷹は片手剣をオブジェクト化し比企谷の後を追う。

 比企谷の指示を聞いてか、美琴は一度ボスから距離をとる。

 上条はというと、ギリギリの間合いでボスの攻撃を躱し続けている。

 これはヘイトコントロールというやつだろう。

 モンスターは基本的に自分へ現状最も攻撃を与えてくる敵を優先して攻撃するようになっている。

 例え本物の命が懸っていようとあくまでゲーム。

 こういうところにゲームらしさがあるのだ。

 上条がボスの気を引いている間に、後方から美琴が勢いよく走りだした。

 彼女自身のステータスは主に筋力値優先だが、それでも敏捷値は驚くほどのもの。

 現実世界の数倍という速度で勢いよくボスに突っ込む。

 と、後方で見ていた小鷹は思っていた。

 だが、美琴が走る線路上。

 ボスと美琴の中間にヒースクリフが現れると美琴は勢いを殺さず軽くジャンプし、ヒースクリフが構えていた盾を踏み台にする。

ヒースクリフ「ふんッッッ!!」

 勇ましい声とともに美琴の体が宙を舞った。

 そして、最高到達点に達すると同時に美琴は体を捻り、頭から地面に向かって高速で落ちてい行く。

 そう、ボスの真上からだ。

美琴「せあああああああああああああああああああああッッッ!!」

 ボスも美琴が真上から突っ込んでくることには気づいていた。

 だが対処はできなかった。

 これが比企谷の狙い目。

 ボスは6本の足を各種の武具にしたが、そこにも死角はある。

 真上からの攻撃。

 ボスはたとへ宙を浮いて羽を使って移動しているとしてもそれはあくまでプレイヤーの攻撃が届く範囲の移動に限られる。

 もしそうでなければこのゲームは無理ゲーになってしまう。

 この世界を創造した茅場明彦はあくまでプレイヤーが勝てる条件を提示している。
 
 それがいくら高難度でも、必ずいつかは勝てるようにしてあるのだ。
 
 であれば、ボスが無理ゲーになるようなプログラムは仕組まれていないはずである。

 羽での移動は横移動に限られ、上に行くことはできないのだ。

 ならば体を傾けるような機能も付いていないだろう。

 プレイヤーと水平にいるのなら傾ける必要はないのだから。

 だからボスは真上からの美琴の攻撃を防ぐことができなかった。

 だが実は防げなかった理由はもう一つある。

 その六本の武具で防げない。

 それは美琴が真上からの攻撃を敢行したから。

 もしその武具で美琴の攻撃を防ごうとしたら自分の頭部と胸部の境目、弱点部分を切り飛ばしかねない。

 けれど結局は同じ結末だった。

 美琴は両手剣を思いっきり水平に振る。

 ソードスキルが発動していなかったとしても遠心力と重さ、そしてボスの弱点部分であるだけあって一閃でその頭部が体から離れた。

 ボスのHPが一瞬でレットゾーンまで落ちる。

 だが0ではない。

美琴「なッ!?」

 思わず美琴は声をあげてしまう。

 現実でもそうなのだが、虫というものは意外に生命力が強く、頭部と体が離れても死なないものなどもいたりする。

 そして目の前にいるボスはその特性を持っていた。

 だから。

小鷹「シッ!!」

 鋭い剣戟が一瞬でボスの残ったHPを消し飛ばした。

 小鷹は別にボスのHPが消え去らないことを予知していたわけではない。

 ただ比企谷の指示に従って間髪入れず攻撃をしただけ。

 結果的にそれがラストアタックになったわけだ。

 つまり。

小鷹「ヒキガヤ。お前これを見越して……」

比企谷「さあな。俺は単に念には念をって言っただけだ。お前が倒したことには変わりはない」 

由比ヶ浜「あれ……?」


 小鷹たちが振り返ると後ろに倒れていたプレイヤーたちが次々と目覚め始めていた。

 そして彼らが目を覚まして一番最初に目にしたのは。

『Congratulations』

 とても簡素で、けれども重みを持つ一つの単語。

星奈「ちょっとどうなってるのよ小鷹!!」

夜空「おい小鷹。現状を説明をしろ!」

理科「あれ? いつの間に理科は倒れていたんでしょうか?」

幸村「あにき。御無事で何よりです」

小鷹「ちょっとまて。いきなり大勢で来られても、わぷっ!?」

 押し寄せる人の波に飲まれてしまう。

 そんな光景を自分たちとは関係なさそうにはたから眺めていた比企谷に由比ヶ浜と雪ノ下が駆け寄る。

由比ヶ浜「ヒッキー。これどうなってるの?」

雪ノ下「比企谷君、説明してくれないかしら?」

比企谷「ん? ああ、まあ。あれだ。まだまだ気は抜けないなって話だ」

雪ノ下・由比ヶ浜「「?」」

 二人は首をかしげる。

比企谷(これで53層攻略は完了か。おおよそ半分って感じだな)

由比ヶ浜「あ、そーだヒッキー」

比企谷「ん。どした?」
 
由比ヶ浜「あまりゆきのんを責めないでよ。ゆきのんだって悪気があったわけじゃないんだし」

比企谷(何の夢を見たか知らないが雪ノ下の名前が出ると妙に怖いな……」

雪ノ下「誰が怖いですって?」

比企谷「いえなんでも。由比ヶ浜、どんな状況だったかは聞かないでおくが、おそらくそいつは『夢』だ」

由比ヶ浜「え、でもあんなリアルな夢なんて無くない? ほっぺたつねってもいたかったの覚えてるし」

比企谷「頼むから夢で終わらせてください。怖いから」

雪ノ下「そうだ比企谷君。私も一つ言いたいことがあったの」

比企谷「今度は何ですか……」

雪ノ下「またよろしく頼むわ。それだけよ」

比企谷「ちょっと待て。なんか怖いから。詳細を話してくれません?」

雪ノ下「気にしなくてもいいわ。さっきのあなたと由比ヶ浜さんの会話からして私の見ていたのは全て『夢』だと理解できるから」

比企谷「お、おう……」

 戦闘が終了しても由比ヶ浜と雪ノ下の言葉のせいでいっこうに気が抜けない比企谷だった。

今日はここまでです。

>>275さんの言う通りでアリシゼーションから色々ととってきていますが原作アリシゼーションの設定は基本無視していく感じです。
 
 容姿や名前はイメージ持ちやすく一緒にしますが原作未読の方には伝わりずらいようですね。それはおそらく私の文章伝達力が低いためだと思われるのでご勘弁いただけると幸いです。

 できるだけ皆様がイメージを浮かべられるように努めていきます。

8月10日・第65層

 
 ―――正直に言おう。

 海というのは春を迎えたものたちが青春を謳歌し、その思い出の一部として飾るためにあるといえる。

 海や砂浜がデートスポットというのなら、春を迎えたものたちはそれらを使用できるようにした者たちに敬意を払うべきであり、ましてや使用できるようにするために奮闘した春を迎えていない者の目の前でそのバカップルぶりを見せつけるものではないのである。

 つまり、今俺の目の前に広がっているバッカプルの群れたちよ。

 土に帰れ―――

比企谷たち『WAFV』メンバーはとある砂浜に来ていた。

 砂浜というかもはやフィールドといってもいい広さなのだが、モンスターなどいなく小さめの魚がいるぐらいである。

 アインクラッドでも特段大きな観光スポットとなっているこの場所は珍しく海もあり、そこで泳げるという楽しさもある。

 しかしもちろんアインクラッド内なので海にも限りがあるのだが。

 それでもこの第65層のほとんどを占める大きさはまるで海だった。

 砂浜でワイワイと遊ぶ他の者たちとは違い、比企谷は大きめのパラソルの近くでどっしりと座っていた。

 隣にはツンツン頭の上条も。

上条「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

比企谷「どした?」

上条「いやぁ。たまに息抜きするのもいいなって思ってきたけど、こう、なんか安らぎを感じられないというか」

比企谷「ああ。人が多すぎてむしろ気疲れする。だから俺は行きたくないといったんだ……」

上条「何故か女性陣の力がカンストしてるんだよなぁ。どんなに頑張って抵抗しても強制的に連れてこられるじゃん?」

由比ヶ浜「お待たせヒッキー。って、ヒッキーたち泳ぎに行かないの?」

比企谷「あの人ごみに突っ込む勇気が俺にあるとでも思うんですか?」

由比ヶ浜「まあ、ヒッキーだしねぇ。それより、これ、どう?」

比企谷「俺のことはそれよりで片づけちゃいますかそうですか。まあ、あれだな。悪くは無いと思う」

由比ヶ浜「むー。なんか微妙な反応……」

比企谷(いかんいかん。仮想世界とはいえ目がどうしても由比ヶ浜に引き寄せられてしまう)

雪ノ下「あら、そんないやらしい眼で由比ヶ浜さんを見ないでくれるかしら。変態谷くん」

比企谷「誰、変態谷くん。ていうかいやらしい眼なんてしてないだろ」

雪ノ下「いえ、いやらしいわね。主に頭のてっぺんから足の先ぐらいまでが。ついでに心も」

比企谷「なんでいきなり俺の存在全体をいやらしいみたいに言ってるんだよ……」

雪ノ下「あら、理解が早くて助かるわね」

 そんな二人のやり取りを見ていた上条が、由比ヶ浜と雪ノ下に聞こえないように小さな声で上条に問いかける。

上条「お前、雪ノ下と由比ヶ浜で反応違い過ぎないか?」

雪ノ下「何かしら?」

 雪ノ下が怪訝な顔をする。

比企谷「いや、単に雪ノ下は雪ノ下だなと。こう、俺の心の衛生上的に由比ヶ浜は少しよろしくない」

雪ノ下「?」

 最初は顎に手を当てて何のことかを考えていた雪ノ下だが、由比ヶ浜の水着姿を見て、ようやく理解する。

 そして自分の胸部を押さえながら。

雪ノ下「これは別にその……。そもそもこういうのは身長、体重、それらに比重した相対的な見栄えこそが………………」

 途中で俯いて言葉を失う雪ノ下。

 それを見た由比ヶ浜が雪ノ下を励まそうとするが。

由比ヶ浜「大丈夫だよゆきのん!! まだ、結婚とか余裕あるし、それまでにはきっと大きくなるって!!」

比企谷(由比ヶ浜さん由比ヶ浜さん!? それは雪ノ下さんに追撃加えているようなものだからね!?)

雪ノ下「その、やっぱり比企谷君も大きい方が好みなのかしら?」

比企谷「いや、そこでなんで俺に訊くの? 何を言わせようとしてるの? 誘導尋問?」

 と、そこでいくつかの人影が比企谷たちがいるパラソルに近ずく。

小鷹「カミジョウ、ヒキガヤ。これ準備するから手伝ってくれないか?」

上条「了解」

比企谷「ああ」

 二人はよっこいしょと重い腰を上げる。

由比ヶ浜「ねぇ。それ何?」

 先ほど来たばかりの由比ヶ浜が小鷹たちに尋ねる。

理科「焼肉セットです。なんか向こうでNPCの職人さんが貸し出しをしていたので借りてきました」

幸村「食材もたくさんあります」

雪ノ下「海に来て砂浜で焼肉というのはどうなのかしら?」

星奈「そうかしら? 私としては結構楽しみよ。こんな大勢で食事なんて初めてだし!!」

美琴「食材追加分持ってきたわよー」

 今度は美琴とアリスが合流する。

 美琴はオレンジの水着にパーカーを羽織り、アリスは黄色の水着を着ていた。

 そしてその両手には大量の食材が入った袋が。

 ストレージに入れればよいものだが、筋力値がバカ高い二人だと持っていても持っていなくてもさして変わらないのである。

 こう、女性比が多いとどうしても比べてしまうものがある。

美琴「…………」

雪ノ下「…………」

 なぜこの二人が黙っているのか。

 星奈や由比ヶ浜の体型を思い浮かべてみれば大体想像がつくだろう。

 格差社会とは怖いものだ。

 
幸村「お二人はどうなさったのでしょうか?」

アリス「さあ。私たちに関係があることなのでしょうか?」

 二人も正直慎ましいものなのだが、本人たちは気にしている様子はないらしい。

小鷹「なあ二人とも」

比企谷・上条「?」

小鷹「何で男性の方が多いはずのこの世界で、俺らのところだけ男女比が逆転してんだろうな?」

上条「ん? 確かに女性が多いけど……。というか、このビーチエリアに来ているのなんてほとんどカップルとか女性同士とかなんだから。俺らだけが男女比崩れているってわけじゃないだろ?」

比企谷「火の加減はこんなものでいいか。やっぱ、よくできてるよな」

比企谷(炭はいいな。なんかこう、パチパチしててかわいい気がする」

由比ヶ浜「うわっ。ヒッキー炭になりたいの?」

比企谷「いや、誰も炭になりたいとは言っていないから。てか口に出てたのか」

雪ノ下「もう食材を置いても大丈夫なのかしら?」

比企谷(微妙に雪ノ下の目がキラキラしているのは気のせいだろうか……)

 何気に星奈と雪ノ下は似た者同士なのかもしれない。

 性格は全く違うが。

小鷹「それじゃあのせるぞー」

 ジュウゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ

 香ばしい匂いと音が鳴る。

 こういうものであれば料理スキルが無くても大丈夫らしい。

 何の肉かは分からないというより知りたくもないのだが、とりあえず何枚もの肉を金網へとのせていく。

 それに加えピーマンや玉ねぎなどの野菜もドバドバと投入。
 
 あっという間に金網の上が隙間なく埋まってしまう。

小鷹「随分と肉の量、多いな」

美琴「11人もいるし食べれるでしょ」

比企谷「いやもうその肉を奪い合って争いが起きているんですが……」

 比企谷の視線の先には夜空と星奈が。

星奈「ちょっとバカ夜空。私の育てた肉を横取りしないでよ!!」

夜空「育てたかなんだかは知らんが先に箸を付けたのはこの私だぞ!!」

 二人は一枚の肉を互いの箸でもって引っ張り合っていた。

 こういうときもこの世界の筋力値補正が働きあうので一番肉と箸が悲惨なことになっている。

 何だろうか、この二人の争いをよそに隣にいる理科と幸村は平和に、悠々と肉を食べたいだけ食べている。

 一番得をするのは当事者たちではなく、はたで見ている第三者たちなのだ。

 なので、夜空と星奈以外は食べたいだけ肉を食べることに成功していた。

 もちろんこの二人の分を残すなんて考えていないが。

美琴「安かったからあんまりおいしくないと思ったんだけど、中々いけるわね」モグモグ

上条「いやいや、上条さんからしたらこの肉はかなり高級品の味に感じますよ?」モグモグ

比企谷「まあ、あれだな。ヒドゥンバイソンとかラグーラビットには敵わないけど、S級と比べちゃいけないよな」

雪ノ下「比企谷君。ちゃんと野菜も食べなさい」

比企谷「気を使ってるっぽいけど実は俺のこと毒殺しようとしてるの? なんかこのシイタケ半生っぽいし……」

雪ノ下「え、あ、ごめんなさい。私こうやって野外で食べたことないから、焼き加減がよくわからないの」

比企谷「お前さっきまで半生食ってたのか!? いや、仮想世界だから食べれなくもないか……。それよりほれ」

 比企谷は雪ノ下に手を差し伸べる。

雪ノ下「私のお箸が目当てなのかしら? また、堂々と変態行動に及ぶのね」

比企谷「ちげーよ。お前焼き加減分からないならまた半生のやつ取るだろ。だからよそってやるって言ってるんだ」

雪ノ下「そう。一応、お礼は言っておくわ。ありがとう」

比企谷(いざというときに状態以上発生して戦えませんっなんて言われても困るしな)

由比ヶ浜「あ、ならヒッキーにはこれ上げるね!!」

比企谷「いや、俺あんま食えないから……」

由比ヶ浜「ダメだよ!! ヒッキーだって男の子なんだし、しっかり食べないと!!」

比企谷「やめて!! 疑似的な満腹感だと分かっていても、だからって限界を超えることができるわけじゃないから!!」

 比企谷のSOSを無視して上条と美琴は近くに置いてある食材が入ったクーラーボックスの中を見る。

上条「なあ御坂。これ、なに?」

美琴「いや、私に聞かれても……」

アリス「ああ、それでしたらリカさんが入れているのを見ました。海鮮系の食材でしょうか?」

美琴「いやいや、いやいやいや。これを海鮮とはいわないでしょ。すごいエグイし……」

上条「見なかったことにしません? また上条さんになにか不幸が降りかかってきそうだしさ!!」

アリス「なんなら焼いてしまうのもありですが……」

上条「それ絶対有毒ガスみたいなの発生するパターンだから! そしてそのすべてがわたくしめに降りかかるから!! オッケー、アンダスタン?」

アリス「いえさすがにそれはありへないかと……」

上条「あれだな。俺のリアルを知らないからそんなこと言えるんだね!!」

美琴「いいから捨ててきましょう。せっかく楽しく焼肉しているってのに。食べる気失せちゃうじゃない」

アリス「見なかったことにしましょうか……」


幸村「これをどうぞあにき。この幸村。あにきのために一心を込めて育て上げたお肉です」

小鷹「ああ。ありがとな。幸村もちゃんと食べろよ?」

幸村「あにきに心配していただけるとは感激です」

理科「ああ!! だったら小鷹先輩! 私が育てたお肉も食べてみてくださいよ。 絶対に美味しいですから!!」

小鷹「まてまて。なんか色が……」

 彼らが楽しく焼肉を囲んで食しているとき。

 一瞬、世界がブレた。

 だが、だれもそれを知覚できていない。

 そして比企谷の近く、海の中では何か得体のしれないものが蠢いていた。

今日はここまでです。

 比企谷たちはもれなく危機に直面していた。

 いや、正確には比企谷、小鷹、上条の男性陣が。

アリス「それじゃあ、いきますよー」

 ボールを抱えたアリスが手を上げながら合図をする。

 そしてそのボールを空高く投げる。

 助走をつけて大きく踏み込む。

 金色の髪が(人工的な光の)太陽に照らされ輝き、揺れる。

アリス「せいっっっ!!」
 
 アリスのスパイクによって強烈な一撃が放たれる。

 正直な話、この世界のステータス補正によって放たれるそれは音速までも超えていたのかもしれない。

上条「………………」

 ズサァッ!! と、上条の横に人の顔と同じ大きさぐらいのボールが着弾する。

 まあ、お気づきかもしれないが、ようは『WAFV』メンバーでビーチバレーをやっていたのである。

 食後の後は運動!! といったぐあいに、この世界で何故か体型を気にする女性陣の強制的な意見によりビーチバレーを行っている。

 1チーム三人の編成だ。

 余った二人は交換で他のチームに入るようにしている。

雪ノ下「あら比企谷君。その程度で根を上げてしまうのかしら」

 雪ノ下が比企谷に向けて奇妙な笑顔を見せる。

 まるであざ笑っているかのように。

比企谷「いやぁ、どう考えてもあんなの食らったらひとたまりもないし。そもそもここって一般フィールドですよね? HP削られますよね?」

 今現在戦っているのは比企谷チーム対雪ノ下チームだ。

 比企谷は上条と小鷹が仲間で男性陣チームといったところ。

 たいして、雪ノ下の方はアリスと美琴が仲間で超高攻撃力チーム。

 何をどう考えたらこんなチームに勝てると錯覚できるのか。

 今度は美琴がサーブを打つ。

 やはりその速度はすさまじく、上条に向けて一直線に向かってくる。

 砂浜なので多少の動きずらさがあるが女性陣はお構いなし。

 一方、上条は向かってくる弾丸サーブをレシーブしようとするが……。

上条「がふっ……ッ!?」 
 
 砂浜のサラサラとした砂たちが上条の足をとる。


 そして動きが取れなくなったところに美琴の弾丸サーブが上条の顔に直撃。

上条「不幸だ……」

 その一言を残してぶっ倒れてしまう。

小鷹「おいおい……マジかよ……」

 敵チームの悪魔っぷりに小鷹は言葉を失う。

理科「あちゃぁ。完全に伸びてしまっていますね。トウマさん」

星奈「決着がついたなら次やらせなさいよ」

比企谷「そうだな。流石にこれはいったん引いた方が身のためだ……」

小鷹「おいおい、大丈夫か?」

上条「す、すまん……」

 小鷹と比企谷はそれぞれ肩を貸して上条をパラソルの近くまで運ぶ。

美琴「さすがにやりすぎたかしら?」

雪ノ下「これぐらいの柔らかさのボールだとダメージは発生しないと思うから大丈夫じゃないかしら。それにあれは自滅したようなものなのだし」

夜空「よし、では次は私たちの番だな。手加減はしないからな」

アリス「なるほど。面白い!!」

 どうやら次はアリス、美琴、雪ノ下チーム対夜空、星奈、由比ヶ浜らしい。

由比ヶ浜「それじゃあ、いくよー。それっ!!」

 由比ヶ浜が最初のサーブを行う。

 先ほどの美琴たちのサーブとは違い比較的ゆっくりで優しいサーブだ。

美琴「はいっ!」

アリス「せいっ」

 二人の見事な連携によってボールが宙を舞う。

 そして、その真下。

 雪ノ下が勢いよく後ろから助走をつけ、走り込み、大きくジャンプする。

 さすがといっていいほどステータス補正により、簡単にネットを越えた高さまで到達する。

雪ノ下「ふっ……ッッッ!!」

 バゴンッッッ!! と何かが破裂したような音が炸裂する。

 ボールはゲーム内ということもあってある程度の力では壊れることがないようになっているが、それでもあまりの威力に周囲の空気が震え、戦車砲のような威力をたたき出す。

夜空「肉ッッッ!!」

星奈「わかってるわよ!!」

 星奈はボールの勢いをできるだけ弱めて、ポーンと軽いレシーブを上げる。

夜空「ほっ」

 星奈が打ち上げたボールをさらに夜空がトスで上げる。

由比ヶ浜「セェェェェェェェェェェェイ!!」

 由比ヶ浜が声をあげてスパイク。

 これもこれでバケモノじみた威力のボールが放たれた。

美琴「任せて!!」

 今度は美琴がレシーブでボールを打ち上げる。


 そして、それを外から見ていた男性陣はというと……。

比企谷「バケモノですか……」

小鷹「あれでボールがつながっちまうあたり流石だよな……」

理科「大丈夫ですか?」

幸村「飲み物を持ってまいりました」

上条「お、おう。悪いな……」 

 そうして幸村が上条に飲料水を渡そうとしたところだった。

 ドパァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!

 一瞬の出来事。

 水上に巨大な『足』が何本も現れる。

由比ヶ浜「わぁっ! なになにっ!?」

雪ノ下「タコの足かしら? 随分と大きいわね」

夜空「ふむ。この吸盤。どう考えてもタコだな」

星奈「何悠長なこと言ってるのよ!! どう考えてもモンスターでしょ!!」

アリス「いや、でもこのフィールドはモンスターが出てくるはずないって情報屋たちも言ったいたはずですけど……きゃっ!?」

 タコの足。

 そう言ってしまえば8本足を浮かべるのだが、どうにもこうにも敵はタコではなくモンスターなので、そんな常識は通用しない。

 ゆうに20本はこえているであろう足が少女たちに纏わりつく。

美琴「このッッ……っ!!」

 美琴は咄嗟に両手剣をオブジェクト化する。

美琴(戦闘服になりたいんだけど水着の上に羽織るのは変だし、だからって水着を一度脱いで戦闘服に着替えるなんてこんなところでできないし……)

 他のメンバーも同じ理由から武器のみを装備して纏わりついてくる足を容赦なく斬り払う。

小鷹「せあ!!」

比企谷「ッッ!!」

 男性陣も参戦し、いくつもの足を斬るがきりがない。

 そのときだった。

 ズバァァァァァァ!!

 少し離れた洋上に巨大なタコの頭が出てくる。

 だが、タコとは明確に違う部分もあった。

 巨大な口。

 そこに並ぶ複数の巨大な牙。

 その中央の一点に異様なエネルギーが集結する。

 その刹那。

 一閃の光の閃光が砂浜を襲った。

今日はここまでです。

タコ型モンスターさんはイメージ的にパイレーツオブカリビアンに出てくるクラーケンです。

 白い雲に青い空。

 あくまで人工的に作られたそれらが比企谷八幡の視界いっぱいに広がっていた。

比企谷(なんなんだ。さっきの?)

 彼らがいた場所を襲ったいくつものタコ足と謎の閃光。

 正直何が何だか分からないのだが、一応生きていることだけは、HPが残っていることだけは確認できる。

比企谷(赤ゲージ。ギリギリセーフってところか……)


 比企谷は起き上がりポーションを口に含む。

 戦闘用服ではなく水着でいたことを含めればあの閃光はたいした攻撃力を持っていなかったのかもしれない。

 周囲には幾人もの人々が倒れているが単に気を失っているだけだろう。

上条「おお。比企谷。無事だったのか!」

 ツンツン頭の少年がそばに駆け寄ってくる。

比企谷「お前こそ。他の奴らも大丈夫なのか?」

上条「ヒキガヤの防御力で大丈夫だったてことは大丈夫じゃないのか?」

比企谷「さりげなく貶された気がするんですが……」

上条「?」

 二人にさらに近ずく人影。

アリス「おや、無事でしたか。ちょっと残念」

比企谷「『ちょっと残念』って聞こえたんですけど気のせい? ねえ、気のせい?」

雪ノ下「うるさいわ比企谷君。少し黙ってくれないかしら?」

比企谷「ん? お前も無事だったのか」

由比ヶ浜「ちょっとヒッキーそれは酷いよ。ここは無事でよかったとかいうところでしょぉ」

比企谷「由比ヶ浜もか。無事でよかった」

由比ヶ浜「私じゃなくてゆきのんにだよぅ」

美琴「で、さっきのは一体何だったのかしら?」

理科「んー。攻撃っていうより目くらまし程度でしたよね」

小鷹「多少HPは減るけど、防具来てたらほとんどノーダメージだったと思うしなぁ」

比企谷(言えない。俺はギリギリで耐えたなんて言えるはずがない……)

幸村「それで、先ほどのタコの足みたいなのはどこへ行ったのでしょうか?」

星奈「それが全く見つからないのよね」

夜空「まあ、いなくなったのなら好都合だ。周りに倒れているプレイヤーたちを救助するのが先だろう」

 そうして、各々が動き出そうとした瞬間だった。  


 ザバァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!

 

 再びタコの頭が洋上に姿を現す。

 そしてしっかりと横に5本のHPゲージが……。

上条「なあ、アリスさんや。確かNPCはなんて言っていたんだっけか?」

アリス「このフィールド一帯にはモンスターは出現しないと……」

小鷹「めちゃくちゃヤバいのが出てきてるじゃねえか!!」

美琴「ねぇ、もしかしてこれってこのまま水着でアレと戦わないといけないってことかしら?」

比企谷「かもな……」

夜空「ふむ。となると短期間に一気に敵を叩きのめした方がいいな。周りの倒れているやつらを巻き込まれても困るし、こっちも防御力低下というハンデを食らうわけだしな」

雪ノ下「そうはいっても相手は洋上にいるのだけれど。何か策はあるのかしら?」

 雪ノ下の一言でまさかの全員黙り込んでしまう。

理科「そうだ!! アリスさんの『サウザント』なら遠距離攻撃可能ですよね!!」

アリス「そういえばそうでしたね」

比企谷(忘れていたのかよ。案外抜けてたりするのか?)

アリス「それでは……」

 アリスは少しだけ海に入り、タコ頭の方へと体を向ける。

 そして……。

 合計30の、最大展開された『サウザント』がアリスの後方に出現し。

 いくつもの武器を高速射出していく。

 かなり離れた洋上にいる大型タコに届くかは不安なものだが、何とか飛来した武器たちはタコに直撃。

 そのHPを削り取っていく。

 そしてあっという間にHPが0になり、バリンッっとポリゴンが飛散する。

比企谷(あれ、こんな簡単に終っちゃっていいのか?)

 あまりにも速くタコ型モンスターがやられてくれたので少し不安な状態に陥る一同。

 いままでオーバーすぎる強敵と戦い続けていたのであまりのあっけなさに言葉すら失う。

上条「まあ、これはこれで……な?」

 結局、周りのプレイヤーたちもすぐに起きたので事件にすらならなかった。


 真実を知っている者たちは。

小鷹「結局何だったんだろうな、あれ」

 どうも腑に落ちないが、とりあえずほっておこうということになった。 

 ただ、上条はお気楽なもので。
   

上条「上条さんにはいつ春が来るのでしょうか……」

 何故か比企谷や小鷹を見て呟くツンツン頭の少年。

 しかし、今の発言は正直全国の男子が殴りかかってきそうなものである。

2024年 10月22日  第75層・コリニア 街中コロシアム




 何故こうなったのか。

 原因の発端はきっとアレにある。




比企谷「ん?」

 つい先日、比企谷八幡はあるものを拾った。

 拾ったというよりドロップしたの方が正しいがとりあえず、手に入れてしまったのだ。

 超レアアイテム、期間限定アイスクリームを。

 何故モンスターからのドロップで手に入るのか、それは分からずじまいだが、手に入れたのは一つ。

比企谷「なあ、これって何だと思う?」

 アイテム名が明らかにモンスタードロップではないことから他のメンバーについ見せてしまい、その結果理科が情報収集を行った。

 そして、とてもレアな期間限定アイスクリームということが分かった。

 どうも評判がよく、高値で売り買いもされるらしい。

 とはいってもあるのは比企谷の手に入れた一つだけ。

 もちろん、女性陣が黙ってはいない。

 
 ちゃっかり参戦したアリスの提案で、初撃決着デュエルをして一番強い人が食べる権利をいただくということになった。

   
 そして、ここ、コリニアのコロシアムにて、『WAFV』メンバーが最初の第一戦を始めようとしていた。

今日はここまでです。

モンスターからアイスクリームがドロップしたり、モンスターが出ないはずの場所にモンスターが出現したり、不可解な現象が多発。遂にアインクラッドも終末なわけで。


夏はしばらく溜めの作業に入ります。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月06日 (月) 23:32:09   ID: YyEEiQV2

タイトル長ぇし文になってねぇよ……

2 :  SS好きの774さん   2015年04月29日 (水) 14:26:49   ID: 2MrxJwnP

好きよ、頑張ってくや。

3 :  SS好きの774さん   2015年06月28日 (日) 16:19:25   ID: s4jwfmcN

アリスってsaoのアリス???

4 :  SS好きの774さん   2015年07月04日 (土) 02:33:54   ID: tEX3EwsK

文章力・・・

5 :  SS好きの774さん   2015年07月10日 (金) 21:58:38   ID: P99KuWJx

面白いとおもうから更新はよしてな。
こうゆうの普通にわいは好きからな。
頑張ってくれや。


6 :  SS好きの774さん   2015年08月01日 (土) 15:38:16   ID: RkEm8so3

最近増えたねえこいつが主役のSS
やっぱりキモオタの自己投影対象になってるのは間違ってないな

7 :  SS好きの774さん   2016年04月18日 (月) 19:13:43   ID: F11kVb-x

ゴミ糞過ぎてびっくり。
SAOが可哀想だ。八幡信者のオナニーなんかに利用されて。

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