爽「幼馴染理解度勝負だ!」 誓子「望むところよ!」 (99)


爽「はあ……」

誓子「なに黄昏れてるの?」

爽「いや、新学期始まってしまったな、と思って」

誓子「そうね、本格的に受験勉強しなきゃね」

爽「え、チカ部活出ないの?」

誓子「出るわよ、毎日は行けないと思うけど。二人とも引退しちゃったら三麻しかできないもんね」

爽「そうだよな、うん。まだまだあいつらには私らがいてやらなきゃな」


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誓子「でもなるかったら、私が受験勉強に専念できるようにって、
   “私が部を支えます”なんて言うのよ」

爽「へー」

誓子「気が弱いくせに私のこととなると途端に強くなるんだから。昔からそう。
   私を喜ばせるのが上手いのね。ほんと最高の幼馴染よ」

爽「成香らしいな。そういえば揺杏がさ、全国大会終わってからちょくちょく牌譜のこととか、
  戦術論とか聞いてくるんだよね」

誓子「あら」

爽「きっと私がこれまで担ってきた部分を引き継ごうとしてるんだろうな。口にはしないけど。
  憎まれ口叩きながら私についてこようと頑張っちゃう、そういうヤツなんだよな」

誓子「えらいじゃない」

爽「幼馴染世界選手権があったら優勝は間違いないね、うん」


誓子「……そうかな、揺杏もいい子だけど、なるかには敵わないんじゃないかな」

爽「ん~、成香の健気なところは認めるけどさ、幼馴染としてはあと一歩ってところだろ」

誓子「はあ? 聞き捨てならないんだけど。風邪ひいたとき一週間毎日お見舞いに来てくれたことある?
   つきっきりでおかゆ食べさせたり、体拭いたりしてくれたことある?」

爽「なんだそれぐらい。揺杏なんかな、学校サボってまでポカリとか買ってきてくれたぞ。
  しかもそのまま一緒の部屋で寝たんだぞ。
  自分に風邪移してでも私に元気になってもらおうってことだろ。どうだよこの愛され具合」


誓子「なるかなんか一緒にケーキ食べにいったりすると、
   私が好きなもののときだけちょっと分けてくれるんだから。何も言わなくても通じてるの」

爽「そんなの基本中の基本だろ。揺杏だって寮でちょっと食べ足りないときおかず分けてくれるよ」

誓子「そんなの誰だってできるじゃない。幼馴染ならその上をいかないと」

爽「揺杏のさりげない気遣いがわからないのか?」

誓子「なるかの優しさにはどうあがいても勝てないわよ」

爽「そもそも小学校からで幼馴染って言うのか? やっぱ学校行く前からじゃないと弱いんじゃない?」

誓子「10年超えてるんだから、1年も2年も関係ないでしょ。年数しか自慢できないの?」

爽「……」

誓子「……」

爽「クイズやるぞ」

誓子「クイズ?」


爽「私らのことどれだけわかってるかのクイズだ。今日の部活の後に。その結果で雌雄を決する、どうだ?」

誓子「いいわよ、それならどっちが幼馴染として大事にされてるか、よりはっきりするでしょ」

爽「このこと直前まで知らせるなよ。あくまでもいつもどおり自然体で答えさせるんだ」

誓子「わかってる。爽こそ答え教えたり小細工しないでよ」

爽「必要ないね、そんなもの」

誓子「どうだか」

爽「幼馴染理解度勝負だ!」

誓子「望むところよ!」

―――――――――――――


揺杏「うっし、今日も打ったな~」

成香「夏休みの練習は夕方で切り上げてたから、この時間までやるの久々でしたね」

爽「さてと……」

誓子「揺杏、なるか、このあとなにか用事ある?」

揺杏「いや~別になにも」

なるか「私も大丈夫です」

爽「よし、じゃあテーブルの方に座ってくれ」

誓子「はい、これ取って。一人一枚」

揺杏「……ホワイトボード?」

成香「全国大会でいましたよね、いつもこれ持ってる人」

揺杏「あーいたいた、宮守のウィッシュアートね」

成香「まだあったんですねこれ」

揺杏「麻雀やり出す前はゲームで時々使ってたね、懐かしいな」

成香「でも、なにに使うんですか?」


爽「それではこれより“第一回・幼馴染のことこんなにわかっちゃってるんだよ選手権”を始めます!」

誓子「わ~~~!」

由暉子「わ~~~」

揺杏「……は?」

成香「え、え?」

爽「成香と揺杏は解答者だから、気楽に答えてくれな」

誓子「別に間違えても罰ゲームとかはないからね」

揺杏「なんでいきなり?」

爽「これはな、どっちが真の幼馴染かを決める戦いなんだ」

誓子「私となるかの幼馴染としての結束に並ぶ者はいない、そう言ったんだけど」

爽「それは間違いだ、私と揺杏には敵わないってことを証明してやろうとね」


誓子「そういうわけでユキ、あとはよろしくね」

由暉子「はい」

揺杏「え、ユキも一枚噛んでんの!?」

爽「二人が来るまでちょっとだけ時間あったからな、段取り説明しといた」

由暉子「それではここからは私、真屋由暉子が“コンダクター”を務めさせていただきます」

成香「コンダクターってなんですか?」

揺杏「指揮者……司会者ってことかな」

由暉子「これから私が問題を出すので、皆さんはその解答を各自のホワイトボードに書き込んでください。
    全員が書き終わったらペアごとに解答を見ていきます」


揺杏「ペア?」

由暉子「はい。例えば“一番好きな役満は?”という問題だったら、
    爽先輩と誓子先輩は自分の好きな役を書きます。そして、揺杏先輩は爽先輩、
    成香先輩は誓子先輩がなにを書いたかを当ててください」

揺杏「あー、それで“理解”ね」

由暉子「答えが一致していれば幼馴染のことをちゃんとわかってたということで、1ポイント入ります」

成香「難しそうです……」

誓子「問題はユキとある程度打ち合わせしたから、そんなに曖昧な答えになるようなものはないよ」

爽「幼馴染なら当然解ってるようなことばかりだから、1問でも間違えた方が一気に不利になるだろうな」

由暉子「なお、合図したり手元を見たりするのを防止するために、ペアは対面に座ってもらいます。
    また、答えを書いてる間は全員後ろを向いて、私が合図したら前を向いてください」

揺杏「念入りだねー」


由暉子「と、ここまで大丈夫ですか? ……では早速1問目いきましょう。後ろを向いてください。
    どれにしようかな……第1問“嫌いな食べ物は?”」

爽「あー、まずはジャブってとこだな」

誓子「サービス問題ね」

揺杏(……全然わかんねーぞ。ほら、成香もペン止まってる。まあてきとーに書いとこう)

由暉子「みなさん書けたようですね、前を向いてください。では、なるちかペアからいきましょう」

揺杏「なるちか?」

由暉子「え、誓子先輩がこう呼べって……」

誓子「ペア戦だからね。まとめて呼ぶと、より幼馴染感が出るじゃない」

成香「はあ……」

揺杏(成香ですらちょっと引いてるね)


由暉子「では同時に解答を出してください。なるちかペア、オープン!」


誓子『納豆』

成香『ジンギスカンキャラメル』


誓子「ちょっと! なるか!」

成香「ええ~、ちかちゃん好き嫌いないから、とりあえずと思って書いたんですけど……。
   昔から納豆食べてましたよね?」

誓子「高校入ってからなんか苦手になったのよ……言ったじゃない」

爽「あっれ~? いきなり不正解? こんな初歩の初歩でつまづくなんて、幼馴染としてどうなの~?」

誓子「……ちょっと緊張してるのね、なるか。
   大丈夫よ、ちゃんと考えれば私のことなんでもわかるでしょ?」

成香「あの……がんばります……」


由暉子「今度はさわゆあペアいきましょう」

揺杏「さわゆあ……」

爽「うん、良い響きだな」

由暉子「解答オープン!」


爽『グリーンピース』

揺杏『ゴーヤ』


爽「おい!」

揺杏「あら? あはは。でも緑ってところは合ってたね。惜しいじゃん」

爽「惜しくねーよ! いっつも食堂で残してんの見てるだろ!」

揺杏「そうだっけ? 人の皿まで見ないしなあ」


誓子「あら? いつも寮で一緒に食べてて間違えちゃうなんて、
   そんなに大事にされてないってことかな?」

爽「……深読みしすぎちゃったみたいだな。いいんだぞ揺杏、シンプルに考えれば」

由暉子「1問目は両ペアともポイントならずですね。では次にいきましょう。
    第2問“今一番行きたい国は?”」

爽「あ、これならド直球だな」

誓子「サービス問題ね」

爽「揺杏、わかってるな、あれだぞあれ」

揺杏「え~? どれだよ~」

由暉子「そこまで! シンキングタイム中の発言はローズと見なします」

誓子「ナイスよユキ」


由暉子「では今度はさわゆあペアからいきましょう」

揺杏(さっきよりは絞れたな。爽の性格からしてインドあたりも考えられたけど、直球でいくならこれだ)

由暉子「解答オープン!」


爽『アフリカ』

揺杏『アメリカ』


爽「ちょ、なにやってんの!」

揺杏「はは、一文字違いじゃん。惜しい惜しい」

爽「惜しくねーよもぉ~」

揺杏「よくアメリカンドリームだって言ってたじゃん。そもそもアフリカって国じゃなくて大陸だよね」

由暉子「はい。なのでアフリカ大陸のどこかの国なら正解と見なしたのですが」


誓子「あーあ、これじゃ勝負にならなそうね。ユキ、いきましょ」

由暉子「あ、はい。ではなるちかペア、オープン!」


誓子『ロシア』

成香『イギリス』


誓子「……」

成香「ああ……外れです」

誓子「なるか」

成香「だってちかちゃん、ウィンブルドン見に行きたいって言ってたから……」

誓子「それはそうだけど、一番ではないってわかるでしょ~」


揺杏「ねえ、ちょっと難しくない?」

爽「わかるよ普通。揺杏はフランスだろ。ミラノも良いけどやっぱパリだって言ってたしな」

揺杏「……ビンゴ」

誓子「なるかはイタリアでしょ。礼拝堂目当てなら正確にはバチカンかもしれないけど」

成香「正解です!」

爽「幼馴染なら日頃の会話でそのぐらいわかるもんだろ?」

誓子「そうよね。よく思い出して」

爽「次だ次! 揺杏、真面目にやれよ!」

揺杏「はあ……」

誓子「なるか、しっかりね!」

成香「はあ……」


由暉子「いきますよ、第3問“好きな色は?”」

揺杏(なんか面倒なことになってきたねー。爽はガキっぽいしチカセンは負けず嫌いだし、
   当てないとどんどん機嫌悪くなってくな。でもこいつ色なんてどーでもいいってスタンスだろーに)

成香(うう……ちかちゃん怖いです……)

揺杏(考えろ……。自分の名字気に入ってるから、獅子のたてがみで金……?
   ガメツイから金目のものって意味でもこれかな。いや、これ幼馴染勝負だろ。
   珍しく私の髪褒めてくれたことあったな……これでいくか)


由暉子「なるちかペア、オープン!」


誓子『赤』

成香『白』


誓子「……」

成香「ひっ……! だって、ちかちゃん私服も白多いし、タイツも白だし……」

誓子「白も好きだけどね。自分に似合わないから着てないだけで、一番は赤なの。
   言わなかったかなあ……」

成香「ひいっ!」


爽「こりゃ勝負あったかなー」

由暉子「続いてさわゆあペア、オープン!」


爽『金』

揺杏『青』


爽「……ふう~~」

揺杏「そっちかー。いや、最初はそっちにしてたんだよ、マジで」

爽「そりゃ青も好きだよ? 好きだけどさあ……」


揺杏(このままじゃやばい、マジやばい。アイコンタクト、いっくかー。
   おいユキ、なんとかしてくれ。この先輩方不機嫌オーラ強くなってきたぞ)

由暉子(幼馴染なんですから、ちゃんと当ててください)

揺杏(わかんねーってあんなの! このままじゃ共倒れだよ、頼むよ)

由暉子(仕方ないですね。なら、先輩たちが来る前に答えを聞いてあった問題を使って……)

由暉子「それでは第4問“一番好きなスポーツ”……あっ、間違えました。
    “一番好きな漫画は?”」

爽「おいおい、それ言っちゃったら答え言ってるようなもんだろー」

誓子「まあまあ、ユキだって間違えることあるわよ。気にしないで」

由暉子「はい、すみません」


揺杏(ファインプレー! 漫画だと範囲広すぎるけどスポーツ漫画なら相当絞れる)

由暉子「さわゆあペア、オープン!」


爽『ピンポン』

揺杏『スラムダンク』


爽「……おい」

揺杏「だって! 爽ん家にあるスポーツ漫画スラダンだけじゃん!
   いっつも“ドリブルこそチビの生きる道”って熱く語ってくるじゃん!」

爽「そりゃスラダンも好きだけどさあ……」


由暉子「今度はなるちかペアいきましょう」

成香(ちかちゃんは漫画ほとんど読まないはず。スポーツものなら今は、
   “黒子のバスケ”か“弱虫ペダル”でしょうけど、全然知らなかった。
   そうなると、往年の名作系である可能性が大です!)

由暉子「解答オープン!」


誓子『タッチ』

成香『アタックNo.1』


誓子「うん、まあ……私あんまり漫画知らないしね……」

成香「ご、ごめんなさい……!」


揺杏(なんとかならないのかユキ! 成香はもう瀕死だ!)

由暉子(こうなったら最後の手段です。確か……)

由暉子「では第5問“言われてみたいプロポーズのセリフは?”」

爽「おぉ、最高難度の問題来たか」

誓子「これはちょっと難しいかな」

爽「でもこれわかったら相当幼馴染ポイント高いよな」

誓子「そうね、これ正解したらもう優勝でいいわね」

揺杏(知らねーよ! あんたらそんな話無縁じゃん! おいユキ……ん)

由暉子(解答を書くのに後ろを向く隙をついて答えのメモを渡す。完全犯罪ですね)

成香(ユキちゃん……すてきです!)

揺杏(助かったよ、あとはメモが見えないように隠しながら書き写すだけ)


由暉子「それでは運命の螺旋を巡る解答タイムといきましょう。
    決着がつくかもしれません、一斉に……オープン・ザ・デスティニー!」


誓子『君がいないと人生の80%の時間が楽しめない』

成香『おまえ独り身だったらうちにいつでも嫁ぎにきていい……っていうか今から来い』


爽『おまえ独り身だったらうちにいつでも嫁ぎにきていい……っていうか今から来い!』

揺杏『君がいないと人生の80%の時間が楽しめない』


由暉子(あ、あれ? おかしいな……)

揺杏(逆じゃねーか!)

成香(ひぅっ! ごめんなさい! ごめんなさい!)

誓子「……どういうこと? どうもなるかの本来の力が出せてないと思ったら、脅してたでしょ」

爽「そんなことしてないよ。そっちこそ揺杏に裏取引でもしたのか?
  揺杏が私じゃなくてチカのおかしな嗜好を思い浮かべるなんてありえないもんな」

誓子「はあ? おかしいのはあなたでしょ。そんなセリフ当てられるのなんて私ぐらいよ」

爽「こっちだってチカの望むセリフぐらい聞く前からわかってたよ。それにロシア行きたいってのも、
  北海道より雪すごいとこ見たいってくだらない理由だろ? すぐわかったよ」

誓子「アフリカってどうせ獅子原にちなんで本場のライオン見に行くってところでしょ。お見通しなのよ」


爽「おまえなあ、タッチだって1年のとき私がキャッチボール誘ってからだろ、好きになったの。
  すぐ影響されるんだよなー底が浅いっていうかさ」

誓子「それを言ったらピンポンはどうなのよ。
   私と卓球勝負にのめり込んでた時期あったよね。その影響でしょ?」

爽「ちっ……修学旅行の朝、代わりに納豆食べてやった恩を忘れたか?」

誓子「カレーのときグリーンピース食べてあげたでしょ」

爽「……」

誓子「……」


爽「いいか、私にとっちゃチカの単純な思考を見抜くぐらい朝飯前なんだよ。
  ジブリならトトロ、絵画ならフェルメール、プログレならイエスだろ」

誓子「そう言う爽はナウシカ、ダリ、フロイドでしょ」

爽「ぐっ……高校入ってすぐのころ観に行った“花とアリス”がベストムービーのくせに!
  あんなんで感動してグズグズ泣いて袖引いてくるから一緒にいて恥ずかしかったっつーの」

誓子「なっ……! うちに泊まりに来るたびに“時をかける少女”観て、
   タイムリープジャンプしてたの誰だっけ。恥ずかしい人だよね~」

爽「この……」

誓子「うぅ~~」


揺杏「……幼馴染選手権優勝は、さわちかペア~」

成香「わ~~」

由暉子「わ~~」

揺杏「……帰ろっか」

成香「そうですね、こうなるとしばらくやってますし」

揺杏「ユキもつき合わせて悪かったね」

由暉子「おもしろかったですよ」

揺杏「行こう。帰りになんか奢るよ」

由暉子「いえ、そんな」

揺杏「不始末をフォローするのも幼馴染の役目さ。な、成香」

成香「はい。ちかちゃん時々ああなっちゃうから、幼馴染としてお詫びします」

由暉子「ならお言葉に甘えて」


由暉子「あ、そういえばお二人が部室に来る前に少し昔のこと聞いたんですけど、
    なんだかんだとても大事に思ってるんですね」

揺杏「え~、どんなこと言ってた?」

由暉子「えっと、風邪をひいたときに学校サボってまでお見舞いに来て、
    一緒に寝て自分に移してくれたとか」

揺杏「……美談になってて心が痛い」

由暉子「違うんですか?」

揺杏「中学のとき学校でちょっとトラブったからばっくれて、
   帰りづらいから時間つぶししようと爽のとこ行ってさ、
   漫画読んでたらそのままコタツで寝ちゃったんだよね」

成香「風邪ひくわけですね」

由暉子「他にも、好きなケーキだと何も言わなくても分けてくれるとか」

成香「それは、ちかちゃんすぐ顔にでちゃうんです。
   見ないようにしてるつもりで凝視してるからいたたまれなくて……」

揺杏「それでも分けるのがえらいよなー。私なんか嫌いなおかず押しつけてばっかりだわ」

由暉子「……知らぬが仏、ですね」


爽「絶対私の方がチカのこと知りつくしてる!」

誓子「私の方が爽のこと何でも知ってるから!」

爽「こうなったらなぁ」

誓子「なによ」

爽「幼馴染理解度勝負だ!」

誓子「望むところよ!」

東場終わり。
なるちかとさわゆあの皮をかぶった無意識さわちか。
温かい目で見守る後輩たち。
有珠山の人間関係パターンの多さは妄想が捗る。

南場「新部長決め編」は作成中。
ありがとうございました。

爽「世界の中心で愛を叫んだ幼馴染」

誓子「吾輩は幼馴染である」

爽「限りなく透明に近い幼馴染」

誓子「幼馴染よ こんにちは」

爽「くっ……まいりました」


爽「小説じゃチカには勝てないな。じゃあ次、世界はそれを幼馴染と呼ぶんだぜ」

誓子「曲名か……フライ・ミー・トゥー・ザ・幼馴染」

爽「この素晴らしき幼馴染(ホワット・ア・ワンダフル・幼馴染)」

誓子「わわっ……。愛のままにわがままに 僕は幼馴染だけを傷つけない」

爽「やるね。クリムゾン・キングの幼馴染」

誓子「なにそれ、意味通じないからだめ」

爽「なら、ポセイドンの幼馴染」

誓子「それもだめでしょ。幼馴染のめざめ、のほうがまだマシ」

爽「判定厳しいなー。あ、これどうだ。吹けよ風、呼べよ幼馴染」

誓子「うっ……オール・ユー・ニード・イズ・幼馴染」

爽「ホワイル・マイ・幼馴染・ジェントリー・ウィープス」

誓子「ああ! なんて甘美な響きなの……負けたわ」


誓子「振り返れば幼馴染がいる」

爽「げえっ! 降参!」



爽「最終兵器幼馴染」

誓子「ひゃあ! やられた!」



爽「やっぱり手ごわいなーチカは」

誓子「わけわかんないゲームで勝ってもうれしくない……」


爽「麻雀じゃ負けないからな。あ、今日も出るでしょ?」

誓子「うん。来週は部長会議で出られない日あるし、今のうちに出とく」

爽「そっか……あ!」

誓子「え?」

爽「部長引き継いでないじゃん!」

誓子「……あ! そっか、もう代替わりだもんね。私が部長会議出ちゃだめだよね」

爽「やっべー、今日中に決めちゃおう」

誓子「え、私たちで決めるの? あの子たちじゃなくて?」

爽「そりゃそうだろ」

誓子「私たちのときは二人で話して決めたじゃない」

爽「あれは先輩らが部活来てなくて、好きに決めろって言われたからだよ。
  普通は顧問なり先輩なりが任命するんだよ。変なところで抜けてるんだよなーチカは」


誓子「先生は形だけの顧問だから勝手にしろって言ってたよね……また二人で決めるのかあ」

爽「昼休み中に決めて、部活のときに引き継ぎだな。でも決めるのあのときより難易度高いぞ~」

誓子「うん、そうね。揺杏かなるかだもんね……」

爽「二人とも頼りねー! 部長似合わねー!」

誓子「うーん、正直そうよね。なるかなんて気弱だし、あがり症だからなあ……。
   末っ子気質だし、会議とかまとめ役ってどう考えても力不足よ。
   まったく、いつまでも甘えんぼなんだから」

爽「揺杏だってあのいいかげんな調子じゃなー。ヘラヘラして威厳はないし、教師ウケも良くない。
  昔からメリハリがないんだよなー。形だけでも真剣味が出せればなあ……」


誓子「はあ、困ったわね」

爽「実力でいったらユキで即決なんだけどな。もう1年生部長にしちゃうか」

誓子「あはは、それもいいかもね」

爽「なんて、そうは言ってもユキに全部背負わせるわけにもいかないんだよな」

誓子「うん、ちょっとは上級生の威厳を見せてもらわないとね」

爽「まあ、なんだかんだ言っても部長はあいつだろうな」

誓子「そうね、あの子で決まりかな」


爽「揺杏だな」
誓子「なるかよね」


爽「……え?」

誓子「……はい?」

爽「ちょっと待って、揺杏だよね」

誓子「なに言ってんの、なるかでしょ」

爽「はあ? 揺杏なら要領良いから、やろうと思えば部長としての振る舞いなんてすぐ身につけられるから」

誓子「一朝一夕にどうにかなるものじゃないの。なるかなら本質的に優しいし、部員に安心感与えるわ」

爽「優しいだけじゃだめでしょー。会議なんかじゃ押しも必要なんだから、
  私仕込みの交渉術が冴え渡るだろうな」

誓子「そういう駆け引きもあって損はないけど、他の部だって同じ学校の仲間なんだから、
   結局は人間性がモノを言うのよ」

爽「揺杏は友達多いし、コミュニケーションって意味でもそこはばっちりだよ」

誓子「相手にするのは同級生だけじゃないから。上級生とか先生にも信用もらえなきゃ務まらないの」


爽「そんなのは立場が人をつくるよ。揺杏だ」

誓子「なるかよ」

爽「……」

誓子「……」

爽「面接するぞ」

誓子「面接?」


爽「部長選考面接だ。私らで一人ずつ面接する。今日の部活の後に。その結果で決める、どうだ?」

誓子「いいわよ、それならどっちが部長にふさわしいか、はっきりするでしょ」

爽「面接のこと直前まで知らせるなよ。あくまでも本人のありのままの姿で答えさせるんだ」

誓子「わかってる。爽こそ模範解答教えたり小細工しないでよ」

爽「必要ないね、そんなもの」

誓子「どうだか」

爽「勝ち目ないからって圧迫面接するなよ?」

誓子「そっちこそ!」

―――――――――――――


揺杏「うっし、今日も打ったな~」

成香「いつもよりは30分早いですけどね」

爽「さてと……」

誓子「揺杏、なるか、このあとなにか用事ある?」

揺杏「いや~別になにも」

成香「私も大丈夫です」

由暉子「いつもより早く部活切り上げて、また何か催し物ですか?」

爽「ごめんな、今日はユキは特に役目ないんだ。帰ってもいいよ」

誓子「近頃物騒だから、できれば待っててほしいな。終わったら一緒に帰ろ」

由暉子「はい、それはありがたいですけど……」


揺杏「んで、何があるの?」

爽「揺杏は悪いんだけどちょっと席外してくんない?
  10分ぐらいしたら呼ぶから、クラスかどっかで時間潰しててよ」

揺杏「はあ? 別にいいけど何やるかだけ教えてよ」

誓子「今はまだだめなの。公平性が保てなくなっちゃうから、後でね」

成香「なんだか怖いです……」

揺杏「……わかったよ。んじゃ終わったら電話して」

爽「はいよ」

由暉子「……行っちゃいましたね。ちょっと怒ってませんでしたか?」

爽「大丈夫だって、そんなヤワじゃないよ。それにこれは必要な措置なんだよ」


誓子「よし、じゃあなるか、テーブルの方に座って」

成香「はい。またちかちゃんが対面ですか?」

爽「いや、今日は私ら二人とも対面だ」

誓子「ユキもすることなかったら後ろで見ててもいいからね」

由暉子「あ、じゃあそうします」

爽「ただ、できるだけ口を挟まないでくれるか。ここは私ら3年が責任を持って成し遂げるからな」

誓子「うん。よし、準備いいかな。それではこれから、部長選考面接を始めます」

成香「……はい?」

爽「私らこれからも部活は出るけど、もう2年生中心でやってかないとな」

誓子「そう。そういうわけでなるかか揺杏に部長職を引き継ぐために、
   二人に面接して部長を決めようと思うの」

爽「来週の部長会議にも早速出てもらうことになる。
  今日、どちらがそれにふさわしいかカタをつけるんだよ」


誓子「ではなるかさん、あなたは部長になったらどんな部にしたいですか?」

成香「え、えっと……その」

爽「あれあれ~? 部のことに責任持ってればいつでもすぐ答えられるよね~?
  部長はやりたくないってことかな~?」

成香「あぅ……」

誓子「なるか、大丈夫よ。落ち着いて。部を支えたいって言ってたでしょう?」

成香「それはそうなんですけど、部長なら揺杏ちゃんの方が向いてるというか……」

爽「あら~これはもう面接するまでもないかな~? 意欲がないなら無理してやることないしね~」

誓子「部長になれば私の二代目になるわけだから、契りを結んだ姉妹も同然よ。
   その重み、なるかならわかるでしょう?」

成香「は、はい。けど私」

誓子「なるか」

成香「ひいっ……!」


誓子「やりたいわね?」

成香「はい! やらせていただきたいですぅ!」

誓子「そうよね、なるかならそう言うと思ったわ」

爽「桧森さん、誘導尋問じゃないですかねえ?」

誓子「獅子原さんこそ高圧的すぎませんか?」

爽「……」

誓子「……」

由暉子(なるほど、お互い自分の幼馴染を部長に祭り上げたい。しかし本人は消極的。
    揺杏先輩も面倒くさがるでしょうし。となればいかに相手の幼馴染を叩き、
    自分の幼馴染を持ち上げるか。これは言わば幼馴染代理戦争……っ!)


爽「じゃあさっきの質問に答えてよ」

成香「はい。私が部長になったら、みんなが楽しく過ごせるアットホームな今の環境を守りたいです。
   その上でえっと、真剣にやるときは厳しさも持って、メリハリのある部にしたいです」

誓子「うん、素晴らしいわね。部員を第一に考えた、立場のある者にふさわしい目線だわ」

爽「んーどうかな、ありきたりで具体性がないよね。
  そこらへんは今だって充分実現してるんだしさあ、ちょっと保守的じゃない?」

誓子「……まあ、今のは一番大切な基本理念だものね。
   それでは、今の部に足りないものがあるとしたら何だと思いますか?」

成香「え、足りないものですか……うーん、全国大会で準決勝まで行ったチームとして考えると、
   実力の偏りは否めません。特に私なんですけど。
   これからは、より強さを求める貪欲さが必要になるかもしれません……」

誓子「なるほど。部を、ひいては学校の名を背負った責任ある考えね。
   何より謙虚に自己の弱さと向き合う精神力。これぞ“弱さは強さ”!」

爽「だからさあ、強くなろうって気概は立派だけど、そのためのプランが見えないわけよ。
  実力で劣ってて、部員を引っ張れるモノがあんのかって」

由暉子(おそらく爽先輩は具体的なことを提示されれば“目先のことに囚われて大局が見えていない”
     とでも言うでしょう。さすが難癖つけたら有珠山一、雷怨キングの異名を持つ獅子原爽!)


誓子「それじゃあ全国大会に出場した感想を聞こうかな」

成香「はい。やっぱり立ち回りでは全然太刀打ちできなかったんですけど、
   各校のエースの人と直接対局できてとても良い経験になりました。
   爽先輩の分析を聞いてからだったから、より強豪校の戦略を体感できた気がします」

誓子「そうね、なるかも揺杏も大変な役回りだったと思うけどよくやってくれたわ。
   その経験は新入部員にも説得力として映るはずよ」

爽「……まあ、そうだな。全国のことに関しては、収支だけが糧じゃないんだし、
  自信持っていいんじゃないの」

由暉子(これは誓子先輩のファインプレー! 正直成香先輩も揺杏先輩も実績では五十歩百歩。
     しかし経験となればエースポジションの成香先輩に軍配が上がる。
     ここで叩いてしまうと後で倍返しをくらうから、さすがの爽先輩も攻め込めない)


誓子「全国で対戦した人の中で一番印象に残ったのは誰ですか?」

成香「やっぱり辻垣内さんです。全国3位はダテじゃなかったです。
   すごい迫力で、私なんかいいように使われちゃいましたけど、
   後で牌譜を見て実感として残りました。あの時は怖かったけど、2回も打てて本当に得した気分です。

誓子「うんうん、そうよねぇ。あのクラスとそんなに打てたのって全国でも指折りよね。
   部長にとって大事な経験で言ったら、なるかは全国トップレベルってことよ」

爽「まあな。良い経験したな」

誓子「え、いいの? それだけでいいの? 次の質問いっちゃうよ。ホントにいいの?」

爽「うっさいな。早くいけばいいじゃん」

由暉子(ここぞとばかりにたたみかけた! これは否定できないし、
     揺杏先輩の対戦相手にあそこまでの猛者はいなかった。ポイントの稼ぎどころですね。
     誓子先輩は優しい顔して意外と負けず嫌いで、時に人を無邪気に煽って火をつけるんですよね。
     一部ではそれを桧森ならぬ火盛マジックと呼んでいるとか)


誓子「麻雀を始めてもうすぐ1年になるわね。部活を通してどんなことが身についたと思いますか?」

成香「むずかしいです……恥ずかしいんですけど、一番は仲間のありがたみというか、
   チームのとしての意識が感じられるようになったことだと思います」

誓子「へー……」

成香「少しでも後のみんなのためにって考えたり、逆にみんなが後ろに控えてるから落ち着けたり、
   今までの練習とか作戦会議とかも全部が後押ししてくれる気がしてました」

爽「おお……」

成香「私も実力不足の面は雑用でもなんでもして補って、
   いろんな面で後輩のみんなを安心させたり支えたりできるようになりたいです!」

由暉子(決まった……成香先輩、輝いてますよ)


誓子「立派になったわね……もう資格充分じゃない?」

爽「……いーや、部長が雑用で支えるなんてなあ、なめられて逆に結束弱くなるんだよ」

誓子「そんなことないわよ。どこかの県では個人戦1位のキャプテンが雑用でもトップらしいわ」

爽「部内ではそれでよくても、他の部に足下見られるんだよ。威厳がないってな」

誓子「そんなの大した影響ないわよ」

爽「吹奏楽部に部室狙われてるの知ってるだろ? 毅然と断れるのか?」

誓子「できるわ。成香だってやるときはやるんだから」

爽「じゃあ見せてもらおうか。私が吹奏楽部部長役やるから、成香はちゃんと断ってみせるんだぞ」

成香「え? あ、はい……」

由暉子(うーん、泥臭く沼に引きずり込む手腕、尊敬します)


爽「えー、次の議題なんですけどぉ、麻雀部って実質三人じゃないですかぁ。
  それであの部室はもったいないっていうかぁ。ウチらパート練でいろんな教室借りても足りないんで、
  半分使わせてほしいんですけどー」

由暉子(なぜチャラいキャラに。これはウザい……吹奏楽部の人が見たら怒りますね。
     これを相手に冷静に論じるのは至難の業)

成香「でも、私たちも落ち着いて練習できる環境が必要ですし、
   全国大会にも出場したので来年は部員が増えるはずです!」

爽「校庭からソフト部の声とか聞こえんじゃーん。楽器も変わんなくね?
  それに今は三人でしょ? じゃあ増えるまではいいってことだよね?」

成香「うう……窓越しの掛け声と至近距離の楽器じゃ全然違います。
   それに、まだ先輩たちもいるから五人です」

爽「三人も五人も変わんないっしょー。むしろ理科準備室とかに雀卓持ってけばいいんじゃね?
  んでウチらがここ全部使うってのは? そっちの方がスペース効率的に使えね?」

成香「えっと……」


誓子「獅子原部長、雀卓は精密機械なので薬品類の蔓延する環境は危険です」

爽「はあ? なんなのアンタ」

誓子「生徒会長の桧森です。雀卓は高価なものですから、丁寧に扱っていただきたい」

由暉子(進化するロールプレイ。まざりたい……)

成香「そ、そうです。あの雀卓はユキちゃんのお家からいただいたものですから、
   長く使う義務があるんです。それにダメにしちゃったら保護者の印象を悪くします!)

誓子「昨今の保護者事情からして、それは得策ではありませんね」

爽「う……わかったよ。でも部室の半分ならいいっしょ?
  雀卓一つ分のスペースあれば活動できんだからさー」

成香「それは違います! 物理的には雀卓一つのスペースでも、精神的にはその何倍も広がるんです。
   爽先輩ほどのエース中のエースだと部室一杯に影響を及ぼしますから、
   雀圧慣れしてない吹奏楽部員の体調まで責任持てないんです!」

由暉子(なんですか雀圧って……)


爽「ん、まあそれを言われちゃあしょーがねーかな。そっか、私ぐらい強いとそうだよな、ふふ……」

由暉子(成香先輩の天然持ち上げがカウンターでヒットしましたね。
     褒められ慣れてない爽先輩の満更でもない緩んだ顔……カワイイです)

誓子「さすがね。見事吹奏楽部の魔の手を退けたわ。完全に部長の器ね」

爽「……いや、待てよ。チカの援護がなければ丸め込まれてたんじゃないの? 手助けはズルいだろ」

誓子「実際の会議でも他の出席者が意見出すことあるんだから、何もおかしなことないと思うけど」

爽「あーはいはい。そうですか、わかったよ」

誓子「そろそろ時間かな。じゃあ最後に、部員一人一人への思いの丈をどうぞ」

成香「えっ……えっ! だって、目の前でそんな、恥ずかしいです……」


爽「なに言ってるんだよ。リーダーたるもの、出し惜しみしてると信頼を得られないぞ」

誓子「そうよ。特に後輩っていう立場からしたら、大事に思ってるのはわかりきってても
   やっぱり不安になるから、時にははっきり言葉にしてほしいものよ」

由暉子(私は別に……というか自分のことですよね。人をダシに使って……。
     もしかして部長面接は口実で、これを聞くのがメインだったり……)

成香「わかりました……。えっと、じゃあまずユキちゃんは、頑張り屋さんで素直でかわいくて、
   麻雀も強くて、私の方が後輩みたいで情けない限りなんですけど、偉ぶらないし、
   初心者の私にも優しく教えてくれますし、もう最高の後輩、というよりお友達だと思ってます」

由暉子「いえ、そんな……恐縮です」

誓子「あら~よかったわね~ユキ」

爽「おや~? なにニヤニヤしてるのかな~クールなユキちゃんは」

由暉子(これはっ……予想外のうれしさっ……!)


成香「爽さんは最初は怖かったんですけど、いつも気にかけてくれて、すっごく頼りになります。
   行動力があって、なんていうか世界を広げてくれたっていうか……。
   とにかく、こんなに充実した学校生活になったのは爽さんのおかげだと思ってます」

爽「おお……照れるね」

誓子「さすがなるか、ちゃんとわかってるわね」

成香「それで、ちかちゃんなんですけど……。優しくて頼りになって理想のお姉さんっていう感じで、
   小学生のときからずっと一緒にいるから、本当のお姉ちゃんみたいに思ってました」

誓子「……」

成香「そばにいるのが当たり前で、もう離れるのが考えられないんですけど、半年後には卒業しちゃうから、
   ちかちゃんがいなくても大丈夫って安心してもらえるように、頑張ります!」

爽「んん~、最初に会ったときチカの後ろに隠れてたのを思うと、強くなったな~」

誓子「なるか~~! 私も妹だと思ってるからぁ~~! 離れたりしないからぁ~~!」

爽「留年する気かよ」

由暉子(大丈夫じゃないのは誓子先輩の方ですよね)


誓子「もう安心して部長任せられるわ……」

爽「揺杏の方も面接してからだぞ」

成香「あ、揺杏ちゃんもですよね。揺杏ちゃんは、その……ちょっと特別なんです」

誓子「ん?」

成香「部で唯一の同い年っていうのもあるんですけど、私にとって憧れの人なんです」

爽「え、あれが?」

成香「はい。人付き合いが上手くて友達多いですし、いろいろなことを器用にこなしますし、
   背は高くて美人さんですし、何から何まで私とは正反対で……」

由暉子(言われてみればそうですね)

成香「それなのに、すごく仲良くしてくれるんですよ。
   1年生のとき私、クラスの友達とケンカしちゃってちょっと孤立したことがあって」

誓子「なにそれ、聞いてない!」


成香「心配させちゃうと思って言えなかったんです。そんなに深刻なものでもなかったですし。
   その時期に揺杏ちゃんがなにかと私のクラスに来てくれて、まわりの子ともお喋りしたりして、
   そのうち自然とまたクラスに溶け込めるようになって……」

爽「ふむふむ」

成香「その頃には揺杏ちゃん、もうほとんどクラスに来なくなってて、気づいたんです。
   私が孤立してるの知って助けてくれたんだって。でもお礼言ってもはぐらかされるんですよ」

爽「あー、からかってうやむやにしそうだな、あいつなら」

成香「だからほんとに感謝してるんです。それで、憧れてるんです。
   私もあんなふうに、さりげなく人を助けられるようになれたらなあって」

由暉子(もう人助けしてますけどね、成香先輩を見てると癒やされるから)

成香「2年生で同じクラスになってから一緒にいることが多くなって、
   やっぱり気配り上手だなあって、ますます尊敬するようになりました。
   よくからかわれちゃいますけど、全然イヤな感じしないんですよね」

誓子「……そう。ずいぶん揺杏のこと、その、好き、なのね……」

成香「はい!」

―――――――――――――


爽「では、部長選考面接を始めます」

揺杏「やっぱそういうことかー」

誓子「あれ、その気だったの?」

揺杏「いやいや、どう考えても向いてないっしょ。成香とじっくり話してたんでしょ? 成香でいいじゃん」

誓子「あら~本人が辞退するっていうならしょうがないんじゃないかな」

爽「……揺杏、それでいいのか」

揺杏「うん。めんどいし」

由暉子(さすが揺杏先輩、言いにくいことをばっさりと)

誓子「ほら、無理にやらせることは」

爽「おまえの部への思いはそんなもんか!」


揺杏「ちょ、なんだよいきなり」

爽「部長っていうのはな、決めるものじゃなくて決まるものなんだ。
  これから部を支えていく者たちが、部への思いや部員への思いをさらけ出して、
  みんなで最善の答えを見つけるものなんだ」

由暉子(断言します。これは100%演技です)

爽「成香だって本心では無理だと思いつつも、正々堂々揺杏とぶつかりたい、
  最初から人任せでは揺杏に失礼だ、その思いでたどたどしくも最後まで受けたんだよ」

揺杏「えーっと……」

爽「そんな成香の思いを踏みにじるのか? 何より私はおまえに、
  私らで作り上げた新生麻雀部を受け継いで、守ってほしいんだよ……」

揺杏「……」

由暉子(断言します。揺杏先輩は9割方演技だろうと見抜いてます)

揺杏「わかったよ。やってやろうじゃんか」

由暉子(でも、なんだかんだお人好しなので乗っかっちゃいます。
     それにできれば逃げたいけど、自分が適任と判断されたならやるしかないと思ってますね)


誓子「……まあ、なるかもちゃんと競った上で選ばれた方がすっきりするかもしれないわね。
   いいでしょう、面接を続けましょう。
   でもね揺杏、仮にも大事な面接でその言葉遣いはどうなのかしら?」

揺杏「え、いや」

誓子「いくら幼馴染といっても、場面によって使い分けられないと部長職は務まらないと思うけどな。
   なるかならその点は常日頃から問題ないけどね」

爽「……うん、まあくだけた話し方は下級生に安心感を与えるけど、今は少し形式的にいくか。
  揺杏だっていつもは親しみを出してるだけで、その気になればちゃんと敬語使えるもんな」

揺杏「うん、あ、はい。大丈夫デス」

誓子「本当に大丈夫? ふふ……」

由暉子(いきなり来ましたね。揺杏先輩は成香先輩よりも頭の回転が速く、弁も立つ。
     そこで最初から不利な土俵に引きずり込むとは、ダテに爽先輩と長年張り合ってませんね)


爽「さて、じゃあ揺杏くん、麻雀部は楽しいかい?」

揺杏「そりゃ楽しいですよ。元々麻雀好きだし、なんか思いがけなく良いところまでいっちゃうし、
   面子は少数精鋭で最高だし、現状文句なしじゃないですかねー。下手の横好きですけどねー」

爽「うんうん。之れを知る者は之れを好む者に如かず。之れを好む者は之れを楽しむ者に如かず。
  何より楽しめることが大事だよな。リーダーが楽しんでると部の雰囲気も良くなるというものだ」

由暉子(爽先輩の切り返しもみごと。ポジティブな気持ちの面から小出しすれば、
    つつかれる隙もなく後への流れを作れる)

誓子「そうね、まったくもって同感だわ。楽しむとふざけるの違いさえわかってればね」

由暉子(おおーっと、全面肯定しながらチクリと皮肉を入れる高等技術!)

爽「揺杏はよく私のおふざけにつきあってくれるよな。空気が読めるというか、状況判断が上手いというか。
  こういうユーモアがあると部の人間関係も円滑になるってもんだよなあ」

誓子「どうかしら。全国出たってことは、来年はそれなりに腕に自信のある子が集まるかもしれないのよ。
   なるかみたいな優しげな雰囲気ならいいけど、軽いノリはむしろ拒否反応が出るんじゃない?」


爽「そこは神のみぞ知る、だな。じゃあ今後の麻雀部の目標は?」

揺杏「んー……全国大会出場! ホントは今年と同じベスト8以上って言いたいけど、
   正直二人の抜ける穴は大きいからね、コツコツチーム仕上げていきたいですね」

爽「そうか、私らの思いをつないでくれるんだな。現実的でちょうどいいところじゃないか。
  やっぱり志のあるリーダーがチームに与える影響は軽視できないね」

由暉子(ここは爽先輩に技術点をあげたいですね。ノリの軽さを批判されたところで、
    ちゃんと高みを見てることを示す。すると軽さもそのための技術に映ります)

誓子「立派だわ揺杏、ちゃんと考えてるのね。
   大好きな衣装作りを我慢するのは大変だろうけど、練習頑張ってね」

揺杏「え、いや練習は頑張りますけど……」

誓子「立派な目標掲げた部長が試合では後輩頼みってわけにはいかないもんね。
   私も時間あるときは特訓つきあうわ」

揺杏「……」

由暉子(麻雀部は私のアイドル化計画が根底にあるので、衣装作りは本来なら正当な行為。
     でも部長として目標を掲げたからには、それも犠牲にせざるを得ない。
     部長職への嫌悪感を作り出す反則スレスレの一手! 誓子先輩、未だ底が知れません)


爽「いやあ、そこまで断ち切ることはないでしょ。ユキもいくらか有名になったけど、
  もっともっと露出していかなきゃ。初心は忘れないでほしいな」

誓子「衣装ならもうあるでしょ」

爽「毎回同じってわけにはいかないからな。常に話題を振りまかないとさ」

誓子「でも上に行かないと注目されないでしょう? 全国大会でこれまでの衣装着るのと、
   地方大会で新しい衣装着るのではどっちがメディア効果あるか明白よね」

由暉子(この怒濤の攻め口、私は認識を誤っていましたね。
     爽先輩は攻撃型で誓子先輩は守備型だと思ってたけど、誓子先輩も超攻撃型でした。
     チャンピオンの連続和了りのような、恐るべきたたみかけです)

揺杏「でもなー、ライフワークだからやめらんないかな。ホントに必要になれば他の時間削りますよ。
   早風呂するとか早弁して昼休み使うとか」

爽「そこまで部に懸けるんだな、えらいぞ。全国で新しい衣装がベストだもんな。
  妥協しないで自分を追い込むストイックな精神を部長自ら体現すれば、部員もついてくるに違いない」

誓子「そこまでの覚悟があるなら何も言わないわ。ホントにできるんならね」

由暉子(あの揺杏先輩がここまで考えてるとは、人は予想を超えてくる……。
     しかし誓子先輩は、まさかのドラ切りで親を流されたようなショックにも動じませんね)


爽「では、部長を務めるにあたって、最も大切だと思うことは?」

揺杏「えー、難しいな……責任感……決断力、違うな……あ、驕らない心かな」

誓子「ふうん……」

揺杏「結局一人ができることなんて限られてるんだから、いかに部員と協力し合えるか。
   立場持ったからって権力的にならないで、謙虚に務められるかってところですかねー」

誓子「なんだか頼りなく感じられるけど」

爽「そんなことないっしょ。そういう姿勢は部員にとって信頼の証として映るよ」

由暉子(お二人とも成香先輩のときとはまったく逆のこと言ってますね。
    これぞ幼馴染ダブルスタンダード。脱帽です)

揺杏「そうそう、良いお手本を間近で見てきたしね」

誓子「……まあいいわ、次いきましょ」


爽「それじゃあね、新入部員がなかなか勝てなくてむくれてたらどうする?」

揺杏「えー、そんなのその子の性格によって違うじゃないすか」

爽「そこまで細かく考えなくていいよ、直感で」

揺杏「そうだなー、とりあえず爽が前に言ってた、1万局打ったら8千局近くは和了れないって話するか」

爽「お、いいねいいね」

揺杏「あとは勝ち負けだけじゃなくて、当たり牌止めたとか安手で流せたとか、
   そういう楽しみ方を伝えるかな」

爽「いやーちゃんと先輩の教えを受け継いでくれてるね。これは新年度も期待できるぞ。なあチカ」

誓子「……言うは易し、行うは難し。
   それをヘラヘラ冗談めかして言うんじゃなくて、ちゃんと伝えられるの?」

爽「おまえなー、揺杏だっていつもいつもそんな調子じゃないの知ってるだろ」

誓子「どうかしら、ユキにだっていつもおふざけしてばっかりじゃない」

爽「それはチカが一部しか見てないからだよ」

誓子「じゃあやって見せてよ。私が新入部員役やるから、モチベーションを取り戻させるのよ」

揺杏「ええ!? 自分より上手い先輩相手じゃやりづらいんですけど……」

由暉子(うーん、敵もさるもの。泥仕合と化してますね)


誓子「またラスかよ、つまんねー。麻雀なんて運ゲーじゃないっすか。クソゲーっすよ」

由暉子(だからなんでキャラ変えてくるんですか。優等生が不良ぶってるみたいでカワイイですけど)

揺杏「うん、まあそーだね、運の要素も大きいよね。
   でもその運をどれだけ活用できるかは技術として身につくもんだよ」

誓子「そんなん言ったって、天和和了られたらどうしようもねーじゃねーっすか」

揺杏「あはは……どうあがいてもムダなときはあるよ。それでも、いつかはチャンスがやってくる。
   四人で打ってれば、平均すればだいたい4回に1回チャンスが来る。
   逆に言えば4回のうち3回はじっと耐える時間帯なんだ」

誓子「やっぱクソゲーじゃないすか」

揺杏「そう? 例えば釣りなんかだと、釣れなくてあーだこーだ試行錯誤してるときもワクワクしない?
   今度こそ釣れるかもって」

誓子「入れ食い状態の方が楽しいっすよ」

由暉子(これは一発はたいた方がむしろ部長としての適切な振る舞いなのでは……)


爽「それは違うな」

誓子「なによアンタ」

爽「久々に顔を出してみれば、ヤンチャな子が入ったね。OGの獅子原だよ」

由暉子(やっぱり入ってくるんですね。私もまざりたい……)

爽「キミは毎回天和を和了れたとして、それで楽しいか?」

誓子「そりゃ楽しいっすよ。毎回みんなハコらせて、最高じゃないっすか」

爽「最初はそうかもしれない。でもいつしかそれは、
  自分の技術がまったく関係ない退屈な作業になるんだよ」

揺杏「そうそう。麻雀は運ゲーで、競技として欠陥って言う人がいるけど、
   選択の余地がない方がもっと欠陥だよね」

爽「セオリーどおりにいくのか外してみるのか、押すか引くか。
  ひとつひとつの選択に一喜一憂する、それが麻雀の醍醐味なんだよな」

揺杏「うん、良い方にも悪い方にも思ったとおりにいかないのがおもしろいんだよね。
   ほら、東パツの桧森さんの倍ツモ、あれこそ麻雀って感じだったよ」


誓子「ああ、あれは気持ち良かったわ……」

由暉子(あ、インハイの会心の和了りに浸ってますね)

爽「よし、これで練習再開。いいね揺杏、すでに部長の貫禄だよ」

誓子「……はっ! いやいや、都合良く爽がいるのおかしいでしょ」

爽「私がいなくても、実際は成香もユキもいるんだから助け船出すだろ。
  ほら、さっきも言ってたろ、部長っていっても驕らずみんなと協力していくもんだって」

誓子「うーん、まあいいわ、わかりました」

爽「よーし、それじゃ最後に部員一人一人への思いの丈を吐き出してもらおうかな」

揺杏「え……全員?」

誓子「そうよ。四人しかいないじゃない」

揺杏「本人の目の前で?」


爽「あのな、ストレートに思いをぶちまけられるぐらいじゃないと部長は務まらないぞ」

誓子「揺杏ってぱっと見だとちょっと怖い雰囲気あるから、私たちはともかく、
   年下の子に安心感持ってもらうには素直に言えなきゃ」

由暉子(待ってましたよこの時を)

揺杏「はあ……わかりましたよ。出血大サービスね。まずはユキ! ユキはねー、いい子だよね。
   ただおりこうさんってわけじゃなくて、思ったことちゃんと言うし、でも先輩を立ててくれるし。
   くだらない冗談にも対応してくれるしさ、もうね、妹に欲しいぐらいだよね」

由暉子「そんな……私なんか……」

爽「うわ~この緩みきった顔」

誓子「お姉ちゃんって呼んでもいいのよ?」

由暉子(揺杏お姉ちゃん……ゆあ姉の方がいいかな……)


揺杏「そんでもって誓子先輩は一目置いてるんだよね、実は。人当たりが良いけど締めるとこは締めるし。
   けど先輩風みたいなのは感じなくて、優しく話聞いてくれるし。
   包容力があるっていうか、一緒にいると安心感があるんだよね」

誓子「ふふ……揺杏にそう言ってもらえるとうれしいな」

爽「後輩には甘いからなーチカは。私には厳しいのに」

揺杏「それでまあ、爽か……。正直つきあい長すぎて今さらって感じするけど、
   かけがえのない相棒だと思ってるよ、私は」

爽「おお……」

揺杏「どんだけ一緒にいても飽きないし、こんなに気が合うヤツこれからも出てこないと思う。
   いくつになっても当たり前につながりがある気がしてるよ。というかそうあってほしい」

誓子「よかったじゃない爽。見捨てられずに済みそうよ」

爽「ふ、ふふふ、当たり前だろ。私の高尚な思考回路について来られるのなんて
  おまえぐらいのもんなんだから、勝手に離れるんじゃないぞ」

由暉子(うわー強気な物言いのわりにこの照れ顔。見てられませんね)


揺杏「最後に成香ね。んー、成香っておもしろいよね」

誓子「おもしろい?」

揺杏「いや、今までまわりにいたことないタイプだから新鮮だったんだよなー」

爽「新鮮ねえ」

揺杏「ほら、あいつほんと裏表がないっていうか、なんでも素直に受け止めるじゃない。
   そんで気持ちのまんまに行動するし、思ったまんま言葉にするし」

誓子「うん、そうね」

揺杏「それがあまりに自然で……私さ、あいつのことなんていうか、崇拝してるとこあるんだよね」

爽「え、なんだそれ」

揺杏「元を辿ると1年のときからなんだ。これ成香には内緒にしてよ。
   最初はあんまり良く思ってなかったんだよ」

誓子「……」

由暉子(おっと、これは誓子先輩は冷静でいられるのでしょうか)


揺杏「1年のときあいつがちょっと困ってるようなことがあってさ。私にはなにも言わなかったけどね。
   それをちょっと手助けしてやったら急激に懐かれて面食らったよ」

爽「あ、もしかしてクラスで孤立してたってやつ?」

揺杏「聞いたんだ。そうそれ。助けたのなんてほんの気まぐれだったからさ、始めは正直チョロいなーとか、
   懐いてくるのウザいなーとか、トロくてハブられるのもわかるなーとか思ってたよ」

誓子「……ふーん」

揺杏「でもあいつといるとさ、あまりに打算が感じられないからだんだん凄いヤツなんじゃないかと
   思えてきて。あんな純真さ私にはないから、今じゃマジで尊敬してるよ」

爽「なるほどなー」

揺杏「決定的だったのはね、それからちょっとして私が3年生にからまれたことあってさ。
   なんか知らないけど生意気だって廊下でインネンつけてきたんだよ」

由暉子(なんだかそういう場面が似合う気がしてしまいました)

揺杏「そしたら成香がすっ飛んできて“揺杏ちゃんはいい人なんです~”ってかばうわけよ、涙目で。
   そいつらが白けて去ってく間の成香の祈るようなポーズが神々しく見えたね」


誓子「そんなことがあったんだ……」

爽「いや知らなかったな、成香のことそんな風に思ってたなんて。いつもからかってるくせに」

揺杏「まあね。いくらからかっても怒らない成香を見て、
   やっぱこいつ神の使いなんじゃないのって再確認してるんだよ、なんつって」

爽「……それってさ、好きな子にはちょっかい出しちゃうってやつ、だったりして」

揺杏「あは、そーかもね」

誓子「え、なに、好きなの、なるかのこと」

揺杏「そりゃ好きですよー」

―――――――――――――


揺杏「成香~、鞄持ってきたよ~」

由暉子「2年生の教室って少し緊張します」

成香「あ、揺杏ちゃんも終わったんですね。どっちが部長か決まったんですか?」

揺杏「まだだよ。それがさ、首脳会議があるから先帰ってろって。
   やけに神妙な様子だったから、思わず鞄引っ掴んで部室出てきたよ」

成香「そんなに深刻なことなんでしょうか……そういえば私のときも面接終わったとき、
   ちかちゃんがちょっと元気なかったような気がします」

揺杏「ふーん、なんだろね。ユキなんかわかる~?」

由暉子「……たぶん、ですけど」

揺杏「え、なに、教えてよ」

由暉子「おそらく爽先輩と誓子先輩は、お二人が相思相愛の仲だと思ってます」


成香「…………はい?」

揺杏「……なにいってんの?」

由暉子「成香先輩、聞かれましたよね、揺杏先輩のこと好きなのかって。それで“はい”って」

成香「だってそれ、お友達としてですよね」

由暉子「はい。もちろんそうです。揺杏先輩は成香先輩のこと好きって言ってましたね」

揺杏「面接の最後で言ったね。でもあれどう考えても友達としてってニュアンスだろー」

由暉子「はい。どう考えてもそうです。ところが、幼馴染フィルターがかかってしまったんです。
     今あのお二人は大事な妹の姉離れ、いえ、
     言うなれば一人娘の結婚式前夜のお父さんの心境なのです」

揺杏「……」

成香「……」


揺杏「それがマジだったら、相変わらずバカだね~二人とも」

成香「心配してくれるのはうれしいけど、ちょっと行きすぎちゃうんですよね」

揺杏「様子見に行くか。暴走しそうだったら誤解を解かなきゃな」

成香「でも今言っても聞く耳持たないんじゃないですか、今までのパターンからすると」

由暉子「とりあえずこっそり部室に戻って廊下で聞き耳立てましょう」

揺杏「楽しんでるだろ」



成香「……どうですか?」

揺杏「予想的中」

由暉子「お通夜状態ですね」


誓子「……だって10年よ、10年。10年も一番近くで見守ってきたのに……」

爽「私だってそうだよ。はあ……あいつに限って、ってのがそもそも間違いだったんだよなぁ」

誓子「いや、なにか勘違いしてるだけかも。だって今までそんな素振りあった!?」

爽「あいつらも隠し事ぐらいするだろ、いつまでも子どもじゃないんだよ」

誓子「このまま指をくわえて見てろっていうの?」

爽「あいつらのためを思うなら、受け入れて応援してやるべきなんじゃないのか?」

誓子「……やっぱり爽は強いわ。私はだめね、いざとなると取り乱しちゃって」

爽「そんなことないさ、私だって強がってるだけだよ」

誓子「やっぱりさ、私より爽が部長やるべきだったよね」


爽「また言ってんのか。何度目だよ」

誓子「だって爽の方が決断力あるし頭も良いし、リーダーシップあるし……」

爽「そういう力を発揮できたのも、チカが矢面に立ってくれてたからだろ」

誓子「確かに会議なんかは私が出てたけど、事前に根回ししてくれてたじゃない。知ってるんだから」

爽「だからさ、そういうのも代表者がチカだからこそ効果あるんだよ。私じゃ敵ばっかり作ってたよ」

誓子「爽っていう強力な後ろ盾がいてくれたから自信持って前に出られたの。
   あなたなしじゃ私なんかなにもできなかったわよ」

爽「それはこっちのセリフだよ。私の思いつきをチカが受け止めてくれてたから、
  安心してやりたいことやれてたんだ。感謝してるんだよ」

誓子「感謝してもされる覚えはないんだけどなあ。でも、ありがと」

爽「……久々にチェスでもやろうか」

誓子「いいわね。たまには1年生のときみたいに二人で……」


揺杏「……帰ろっか」

成香「そうですね、なんか良い雰囲気ですし」

揺杏「いっつもそうだよなー。私らに構って暴走して、最後は二人でわかり合ってんの」

成香「まわりが見えなくなっちゃうんですよね」

由暉子「いいじゃないですか、それだけ大事にされてるってことです。
     ……そういえば結局部長は決まりませんでしたね」

揺杏「そうだね……ユキはどっちがいい?」

由暉子「え、そんな、私にそんな権限は」

揺杏「だってさ、あの二人は私らに一票ずつ入れてるわけだろ。
   んで私らはお互い相手の方がいいと思ってる。そうなるとあとはユキの一票だ」

成香「あの調子だといつまでも決まらないから、こっちで決めて承諾をもらう方がいいかもしれませんね」

揺杏「考えてみれば一番影響受けるのは部員のユキなんだから、意見は尊重するべきだよな」

成香「別に決定権ってわけじゃなくて、あくまでも参考に、ならどうですか?」

由暉子「それならまあ。でも、正直言ってどちらでも大きな変わりはありません」


揺杏「あら手厳しい」

由暉子「いえ、悪い意味じゃないです。どちらかが部長になれば、
    もう一方はそのサポートに回るわけですよね」

成香「そうなりますね」

由暉子「私はお二人についていきますから、部長がどちらでも変わりはないんです。
     今日、思いを聞けてうれしかったですし……」

揺杏「そう? そう言ってくれるとありがたいけど」

由暉子「……人数少なくても副部長はいるんですか?」

成香「はい。部には必ずいなきゃいけないはずです」

揺杏「今は一応爽が副部長なんだよね。もしものときは部長の代理になるんだって」

由暉子「それなら、それぞれ幼馴染から職を引き継いではどうでしょう。一意見ですけど……」

成香「そうなると私が部長ですか……うん、ちかちゃんとも約束しましたし、
   私でよければがんばりたいです!」

揺杏「もしそれで決まっても、任せっきりにしないで私もいろいろ働くからさ。よろしくね」

由暉子(やっぱりみなさんに出会えてよかった……私も先輩たちのためにがんばらないと……!)

―――――――――――――


由暉子「成香先輩、生徒会が探してましたよ、会議始まってるって」

成香「部長会議怖いです……」

揺杏「腹くくって早く行きなよ。吹奏楽部の圧力に負けんなよー」

由暉子「麻雀部の顔なんですから、しっかりしてください」

成香「うう……行ってきます」

揺杏「あっはっは、部室取られないといいけど」

由暉子「……」


由暉子「先輩、この前お願いした牌譜、どうなりましたか?」

揺杏「ん~、なんだっけそれ」

由暉子「県予選のときの、先輩が持ってるって」

揺杏「あ、やっべ! ごめんごめん、持ってくるの忘れてた。
   いや毎日思い出してはいたんだよマジで。寮から取ってくるから。すぐ戻るよ」

由暉子「……」


爽「おっすー。あれ、ユキだけ? どうだー新生麻雀部は」

誓子「なるか、なんだかんだ頼りになるでしょ。ああやって責任あるポジションに就くと見違えるのよ」

爽「揺杏もやるときゃやるヤツだからな、後輩の頼みは無碍にはしないはずだよ。どんどん頼れ」

由暉子「……そうですね。先輩方は幼馴染のことをなんでも知ってるんですよね」

爽「え? まあね」

誓子「なるかのことなら知らないことはないわ」

由暉子「幼馴染理解度勝負しましょう。○×で答えてください」

爽「お、やるか」

誓子「どうしたの、いいけど」


由暉子「第1問、幼馴染は最高だ」

爽「あはは、○」

由暉子「第2問、幼馴染は一日にして成らず」

誓子「○ね」

由暉子「第3問、幼馴染は盲目」

爽「え……○?」

由暉子「第4問、ノー幼馴染ノーライフ」

誓子「……」

由暉子「第5問、はじめに幼馴染があった」

爽「やべえ、ユキが壊れた」


由暉子「善人なほもつて往生をとぐ、いはんや幼馴染をや」

誓子「ユキー、帰ってきてー」

由暉子「天は幼馴染の上に人を造らず。すべての道は幼馴染に通ず」

爽「……」

由暉子「隣の幼馴染は青い」

誓子「……」

由暉子「すっぱい幼馴染」

誓子「ユキ、もしかして……」

爽「第6問、私も幼馴染がほしかった」

由暉子「……まる」



おしまい

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