アローンインマイプリズン (24)

「――それではメンテナンスを始めますね」

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 ガシャリガシャリと音を立てるのは俺の体。

「ありがとう――」

 前時代からは考えられない、まるで別世界というような空間。
 しかし夢でも幻でもない、これは現実。
 そんな未来的な一室で。
 見たこともない機器がひしめき合って不気味な光を発している。
 空間の中央に配置された椅子。
 なんでもリクライニングシートというらしい。
 そんな椅子に俺は座っている。

「――どうしました?」

 メンテナンス。
 俺はそう呼ばれる治療、作業を受けている。
 楽器の調律とでも言えば理解できるだろう。
 そう、俺の体は楽器…… 「モノ」だ。

――俺は人間じゃない。

「体調が優れないのですか――?」

 感傷的になる俺の様子を察して、目の前の女は作業をしながら俺に話しかけてくる。
 女は俺をメンテナンスする技師、俺という名の楽器を調律する技師だ。
 そんな彼女はカーキ色の和服…… 着物を纏い、そして袴を履いて、足にはブーツと呼ばれる外国伝来の靴を履いている。
 この姿は「明治スタイル」と呼ばれ昨今流行している格好のようだ。
 そしてこの「機関」の正装でもあるらしい。
 そこの人間を表す階級章もしっかりと着物に縫い付けられている。

「――いや、なんでもない」

 俺は人間じゃない。
 体の大半が機械化されている精密機械―― そう、「機械人形」だ。
 俺は人形。

「少し眠ってもいいか?」
「――ええ、お疲れですか?」
「ああ。失礼する」
「おやすみなさい――」

 女の微笑みと共に俺は目を閉じる。

 機械化された俺の体。
 どのような原理、どのような仕組みで出来ているのか当の俺でも不明であり、しかし人形になったこんな俺でも人間のように五感、欲、心を程度こそ違えど持ち合わせている。

 そうだ、俺は人間じゃない。 「元」人間だ。
 俺は人間から人形になった。
 どうしてこんなことになったのか…… 最近は人間の頃の記憶が徐々に薄らいできている。
 俺は遂に完全なる機械へと変わり果てるのか。
 暗闇の中を幾多の記憶がまばらに駆け抜ける。

 せめて悪夢は見ないように。
 それだけを願って、俺は夢の世界へ誘われてゆく――

 ここはとある世界。
 そんな世界、とある世界線。

――眠りの中、記憶は巡る。

 はじめに諸外国で産業革命と呼ばれる現象が起こった。
 人類は革命によって一気に文明化を果たした。
 飛行機、鉄道、無線、電話…… 様々な発明がなされて、人々の生活水準は一気に高まったのだ。
 
 瞬く間に変貌していく世界。
 そんな世界で、更なる革命が起こる。
 第二次産業革命。
 後にそう呼ばれることとなる現象が巻き起こる。
 それは人間の、人類の、世界の理を覆すようなものであった。

――人間の機械化、そして自律行動型機械の誕生。

 それはとある古代遺跡の発掘によってもたらされた。
 オーパーツ。
 そう呼ばれる遺産が発掘され、人々はその解析に努めた。
 その結果もたらされたのが人間を機械化する技術、そして完全自律行動型機械を生み出す技術だった。
 技術は様々な分野に応用されて第二の革命を引き起こす。
 
 全世界、この世界の水準は一気に跳ね上がった。


――人間は欲深き生物である。

 そして迎えたのは帝国主義時代。
 群雄割拠がひしめき合い領土を拡大する。
 列強が生まれ、弱者は植民地として支配される。
 帝国主義、資本主義、搾取の時代がやって来た。
 革命によってもたらされた新技術は軍事にも取り入れられ、いくつもの戦争が起こった。

 人間は欲のために動く。

 自律型兵器を作り出し、人間でさえも機械化、「サイボーグ」として戦の道具にした。
 全ては欲のため。
 富を持つ者、それによって無敵の兵士を数多く作り出せた者が世界を支配する。
 そんな時代になった。

 時代の激流は世界を吞み込んでいく。
 ここ、日本という国でも例外ではなかった。
 それまでの排外的な時代は流れに呑まれ崩壊する。
 
 列強に負けない国をつくり上げるため。我が国も文明化を。
 
 そう掲げた新政府側と、そして旧政府、それまでの政府…… いわゆる幕府側との戦争が勃発した。
 その戦は後に戊辰戦争と呼ばれる。
 いわゆる内戦という様相ではあったものの、その裏では列強各国の思惑が働いていたと言われている。一部では列強国の代理戦争であったのかもしれない。

 西側を代表する某大国の支援で装備を近代化した新政府軍。
 それまでの旧式装備で対抗した幕府軍。
 その差は歴然である。
 西から押し寄せる新政府軍に圧倒され東へ追い込まれる幕府軍。

――人間だった頃の俺はそんな幕府軍の一兵士だった。


 幕府側陣営についていたとある藩、その傘下の部隊に所属していた俺は迫り来る新政府軍と戦火を交えた。
 しかし奮闘虚しく新政府軍の猛攻に圧倒され敗走し、戦場は移り変わって…… 俺の故郷は灰燼と化した。

――そして俺は名前を失くした。

 戦友、家族、友人、恋人…… 戦争によって全部失った。
 もう何もかもおしまいだ。
 俺は何もかも失った。
 俺の部隊は故郷の脱出を試みたが、逃れようのない絶望、八方塞がりに希望を失った。

 そうして部隊は一斉自決。

 俺はそこで死んだのだ。

――死んだはずだった。

 死んだはずの俺。
 しかし目を覚ますと俺は生まれ変わっていた。

「――君は今日から機甲兵だ。サイボーグだ」

 目の前には謎の男。
 そして俺の体のほとんどが機械へ変わっていた。
 サイボーグ、機械兵士、機甲兵と呼ばれる殺戮兵器に変わっていた。

 俺は殺戮兵器。殺人機械。
 人間の名前はない。
 機械としての名前は番号、数字。それだけ。
 俺は完全なるモノへ変わったのだ。

 感情はほぼ無くなっていた。
 人間のように五感や欲はある程度あるものの、それ以外は全て機械だ。

――人形になった俺は人間に制御される。

 体は制御され、欲深き人間の思惑通りに動く。動かされる。
 殺しの味を覚えた者は二度と元の世界へ戻れない。
 俺の両手は人間の血で常に汚れ、その血は俺という存在をも汚していく。
 俺は政府の犬に変わっていた。

 政府直属の「機関」が抱える機甲兵になった俺は、政府の欲望に従い様々な戦場へ投入された。
 反政府組織撲滅、仮想敵国への工作活動、邪魔者の暗殺、粛清……

 俺に与えられた情報は人殺しに関するもの、それだけ。

 時代はいつしか明治と呼ばれるものに変わっていた。
 戦争に勝った新政府はそのまま日本を統治し、明治維新と呼ばれる革命を起こして一気に近代化した。やがて西洋の文化や技術もやって来る。
 その中にはもちろん機械化技術も含まれていた。
 富国強兵を掲げた新政府はその技術を積極的に吸収して国力を上げていく。

 俺が人間の頃からはまるで想像も出来ない世界へ一気に変わってしまった。
 町並みは西洋そのものというかのような。建物はレンガやコンクリートと呼ばれる材質のものへ変わり、舗装された道路には多くの自動車が行き来して、空には飛行機が飛ぶ。
 そしてそこへ加わるのはロボットやサイボーグと呼ばれる異質な存在。
 機械化技術によってもたらされ、時代をいくつも飛び越えたような存在がそこにはあった。
 それらは一方で人間の生活を豊かにし、一方で不幸にする。

 そんな時代の流れ。

 人々は幸福を追い求める。
 しかし俺という人形は流れに取り残された亡霊だ。

――俺の戦争は終わらない。

 愛する人は全て過去の世界の中。
 俺もそこに取り残されている。
 俺の戦争は終わっちゃいない。
 愛する者たちを守るために戦ったはずが、朝敵と罵られ、侮蔑され、誰からの賞賛一つもない。
 人間だった俺の名前はもう思い出せない。

 俺の記憶を全部かえせ。
 人間だった俺をかえせ。
 俺の故郷はどこだ。
 俺の愛する人はどこだ。
 俺の居場所は、俺の存在意義は。
 俺の名前は――!!

「大丈夫ですか――?」

 目が覚める。
 また悪夢を見た。
 僅かに残された人間の頃の記憶が見せた悪夢だ。
 技師である女の言葉で目を覚ます。

「ああ。大丈夫だ――」
「――メンテナンスが完了しました」
「そうか、ありがとう」

 謎の機具から伸びて俺に繋がれた幾つもの管は全て抜かれていた。
 調律は済んで、見た目では人間そのものの姿。

「なあ、一つ聞いてもいいか?」
「はい、何でしょう?」
「俺が人間だった頃の記憶を消してくれ――」

 機械になった俺であるが、完全なる機械になったわけではなく人間の面影を残している。
 人間のように眠ることもあるし、夢も見る。
 だから一層のこと記憶を消して完全な機械へ変われればと思った。
 もうあんな悪夢は見たくないから。

「――ごめんなさい」

 しかし女は苦い顔をしてそれを拒む。

「その技術はまだ開発されていないのです」
「どういうことだ? 完全に記憶を消すことはできないのか?」

 そもそもこのサイボーグという存在自体が謎である。

「はい、まだその技術は開発されていません」
「ということは他の機甲兵にも、俺のように過去の記憶を持つ者が存在するのか?」
「個体差はありますが、完全になくしている者もいればあなたのような者もいます」
「そうか―― それでは俺は何故機甲兵になったんだ? 誰がこんな姿にした?」
「――それは」

 二度目。
 女は再び困惑した表情を浮かべる。

「ごめんなさい。それはいわゆる国家機密の範疇でお答えできません」
「わかった――」

 所詮俺は政府の犬だ。
 そんな犬に必要以上の情報は与えないということか。

「――メンテナンス後に集合するように、と司令からの伝言です」
「わかった、ありがとう」

 また人殺しか。

 俺は犬。
 犬は飼い主の命令に従順でなければならない。

 俺は再び戦場へ赴く――

 帝都東京に潜む反政府組織の幹部を抹殺せよ。

 司令と呼ばれる人間の命令が俺たち機甲兵に下された。

「――ねえ01、今回は面白くなりそうだね!」

 作戦会議が終わり戦闘準備へ移る俺。
 そんな時に「01」と俺の名を呼ぶ女。
 機甲兵としての認識番号、俺の場合は「201」。それは生産順なのかどうかは分からないが、そんな俺は他の機甲兵から略して「01」、マルイチなどと呼ばれている。

「02、お前は人殺しが楽しいとでも言うのか?」

 俺に話しかける女。
 彼女も俺と同様機甲兵、サイボーグだ。
 彼女の認識番号は202。だから略して02、マルニと呼ばれている。
 長い黒髪、真白な肌、スラリと伸びた背、手足。そんな姿の02は和服を意識したような戦闘服を身に纏い、官憲や士官がぶら下げているようなサーベル、幾つもの弾納をぶら下げて片手には自動小銃を持っている。

「いや、楽しいとかじゃないけど…… それにしても最近はずっと小規模な任務ばっかりだったし」
「任務に楽しいも何もない。任務は任務に過ぎない」
「01は堅物だよねぇー、そんなんだから皆から敬遠されるんだよ?」
「黙れ。俺たちは人形だ―― ただ任務を遂行するのみ」

 僅かに残る人間性を必死に拭い去るように。
 それはまるで己に言い聞かせているようであった。
 俺は人形だ。
 人形に人間性は必要ない。

「そろそろ時間だ。行くぞ――」

 俺は今回の作戦で機甲兵一分隊を指揮する立場となった。
 実戦経験の豊富さ故なのか。
 司令から任命され、機甲兵の部隊を取りまとめる立場となった。
 嬉しくもなんともない。
 俺は人殺しを命令するのだ。

「――機関からの情報によれば、相手は港の廃倉庫をねぐらとしているようだ。
そこで現在は会合を開いている最中という情報を得た。
何もためらう必要はない、真正面から叩く。全員殺せ。
一班は正面口から、二班は裏口から。地図を見たから位置は分かるな?
いつも通りだ」

 商用車を装ったトラックの後部積載空間に詰め込まれる俺たち。
 作戦内容を改めて確認してから火蓋が切られるのを待つ。

――俺たちを乗せたトラックはやがて戦場へ到着する。

「――誰だ貴様らは」
「配達の者です」
「配達? そんなものは頼んでな――」

――プシュ!

 飛び散る鮮血。
 消音器を付けた拳銃の号令と共に戦いは始まる。

「――行け。二班は裏へ回れ! 作戦開始だ!」

 任務、簡単な任務だ。
 ただの人間など恐るるに足らず。
 相手が銃を抜く前に殺す。
 今までやってきたことだ。何のためらいもない。至って簡単な作業。
 被弾しても俺たちは機械だ。一発二発で命を落とすような人間よりかは遥かに耐久がある。

 そうして一方的な殺戮はあっという間に終焉を迎えた――

「政府の犬が――!!」

 仄暗い倉庫内。
 ぶら下がった裸電球が照らすのはさっきまで生きていた人間たち。
 鮮血と亡骸が覆い尽くす空間の中央。

「――これから幾つか質問をする」
「黙れ! 化物が――」

 倉庫内中央、俺の目の前には両手を上げて頭の後ろで組み、そして跪く一人の男。
 反政府組織の幹部、その一人。今回の標的だ。

「――やれ、03」
「了解」
「何をする!? やめろやめろやめてくれええええ!!」
「口答えするなら苦痛を与えてから殺す。いいな? 死にたくないなら正直に答えろ」

 立場上部下となる仲間の03に命令し、尋問の準備をさせる。
 03は小刀を抜き、男の首筋へ当てた。

「お前らの居場所を全て言え」
「ふざけるな!」
「――まずは手からだな」
「いてえええええええええ!! やめろ!!」
「もう一度言う。教えろ」
「クソったれ! この化物がっ!」
「見かけによらずしぶとい奴だな」
「ああああああああ!! やめろおおおおおお!!」

 苦痛を与えても口を割らない男。

「――クソ…… クソが! お前らは政府の犬のままでいいのか!?」

 挙句の果てには俺たちを扇動しようとする始末。

「質問に答えろ。死にたいのか?」
「この野朗…… 知ってるか? お前らの飼い主様がどんなにクソッたれか――」
「待て03。分かった、それじゃお前の言い分も少しは聞いてやろう」
「01! 任務外行動は――」

 この時の俺は…… もしかしたら僅かに残った人間性に突き動かされていたのかもしれない。
 02の制止を振り切る。

「――任務の範疇だ。言ってみろ人間」
「お前らの飼い主はやがてこの国の人間を全て殺す!」
「荒唐無稽な話だ」
「いいや、これは真実だ。お前らはその為に作られた捨て駒だ」
「――ほう、それで?」
「お前らは知らないだろうがな、お前らの飼い主は、実質的に政府を牛耳る飼い主は――
――お前らと同じ化物だ」
「なんだと……?」

 荒唐無稽な話だ。偽りそのものだ。
 俺たちを扇動しようとしているに違いない。
 しかし俺はその先を促していた……

「戊辰戦争の際に某帝国が秘密裏に新政府側に送り出したサイボーグ…… それがあんたらの飼い主だ。
奴は帝国に飼いならされた従順な飼い犬だ。
帝国はこの国をやがて支配しようとしている。その為に送り出されたのがあんたらの飼い主だ。奴が実権を握った以上、俺たちが決起しなければいずれこの国は滅びる。浄化されるだろう!」
「つまらない話だ。だとして、俺たちに不利益は一つもない」
「馬鹿を言うな! 奴はやがて帝国に戦争を仕掛けるだろう……!
見せかけの戦争だ。
わざと敗戦させるようにして、そうして帝国にこの国を支配させるだろう!
そうなれば俺たちは奴隷と同じ。
お前たちもただでは済まないだろうな!」
「――どういうことだ?」
「お前たちは捨て駒だ。戦争の道具だ。正当な理由付けの為に戦争に送られるだろうな。全責任を被ることになるだろう。
世界を欺く、その為だけの道具、ただの犬死にだ!」
「犬死にだと?」
「ああそうさ! お前らの飼い主様は帝国に戦争をしかける! その際にお前らはこき使われて、正義の戦争という題目を帝国に与える為の道具になるのさ!
もちろんお前らは全員死ぬ! 無駄死にだ!」

 傷ついた体を抑えながら、男は必死にまくし立てる。

「無駄死に――」
「そうだ…… 分かったか化物。
お前らにも人間だった時があるんだろう!?
どうして飼い慣らされる!? お前らにも人間の心が残っているのだろう!?」
「01、アカ野朗のプロパガンダだ。惑わされるな」
「アカ!! アカだと!? ハハハ! これは愉快だ!」
「01! 早くこいつを始末しよ!? もういい、任務は十分遂行してる!」

 無駄死に――

 俺は死が怖いのか?
 俺は機械だ、人形だ。
 人形に意志などない。
 それなのに……

「クソ――!!」
「01、どうした!?」
「01大丈夫!?」

 急に発せられる頭痛。
 人間でもなく機械そのものでもない出来損ないが!
 出来損ない…… 

「――まだ間に合う! 俺たちと一緒に来るんだ!」
「あんたは黙ってて!」
「このまま駒になって死ぬのか! お前らにも人間だった頃があったはずだ! 愛する者がいたはずだ!」
「愛する者――」
「そうだ、それを政府は奪った! お前らの体を強引に機械にして、人間の尊厳も、自由も何もかも奪った! 奴らはそういう外道どもだ!」
「――俺たちはどうしてこんな体になったんだ!!」

 やめろ。
 俺は機械だ。
 人間の感情など必要ない。

「かえしてくれよ!」
「01、アンタ一体――」
「さっさと命令を出してよ01! 何を言っているの!?」
「かえせよ…… 人間だった俺を! 俺の家族を、友人を、戦友を、恋人を、記憶を、名前を――!」
「お前らは政府に何もかも奪われた。お前らは名前を失くした亡霊だ。
前の戦争で生まれた難民、負傷者、孤児、身売り、被災者でさえも政府は秘密裏にさらってお前たちのような化物にしたのだ! お前たちはそんな存在だ」
「俺は――」

 あの時死んだはずの俺は死にきれなかったのか……!?
 それを新政府に拾われてこんな体に……!?

「さあ、こちらへ来るんだ! お前たちは飼い犬なんかじゃ――」

 ダン!

「――任務を遂行した。帰還するぞ」

 もう聞きたくなかった。
 俺は現実を受け入れたくなかったのだ。
 そう、これは奴の扇動、ただのプロパガンダ。
 俺たちを味方につけようとしていただけだ。
 騙されるものか。

 引き金を引き全てを終わらせる。
 銃声は男の言葉を遮って、そして男の頭を吹き飛ばした。
 飛び散る鮮血、脳しょう。
 ゆらめく紫煙。火薬の匂い。

「迎えが来る、帰るぞ――」

「――精神値が不安定です。何かあったのですか?」

 俺は機械だ。
 こうしてまた技師の女から調律を受ける…… そう、ただの機械。

「いや、なんでもない」
「――そうですか」

 俺は戦いの道具だ。
 一度でも殺しを覚えた手は血に染まり、そして二度と落とされることはない。

「なあ、俺の名前を教えてくれないか?」
「それは――」
「――いや、すまない。冗談だ」
「あなたは01です。それがあなたの名前です」
「そうだったな」

 そうだ、俺は01。
 認識番号201の機甲兵。サイボーグ。
 戦いの道具だ。

「これは――」

 それがどうだ。
 人間のように涙が流れるのだ。
 俺は未だ機械になりきれていない、そして人間でもない中途半端な出来損ないだ。

 俺は、俺は亡霊だ。
 あの男が言っていた通りだ。
 俺は名前を失くした亡霊――

「やはり精神値が不安定です」
「すまない、手間を掛けて」
「いえ、私は全然かまいません。それよりもあなたのことが心配なのです……」
「お前は、こんな俺を心配してくれるのか?」
「それは…… あなたも人の心を持っていますから」
「人の心か…… そんなもの無くなってしまえばいい」
「そんなこと言わないで下さい」

 俺の頭を撫でる女の手。
 どうしてだ? 俺はただの殺人機械なのに!
 やめてくれ!

「――少し眠る」
「はい。おやすみなさい――」

 そうしてまた眠りにつく。
 これでいい。
 目が覚めれば元通りだ。
 俺は完全な機械になるんだ。
 これでいい…… 目が覚めれば全てが終わっている。

 せめて悪夢を見ないように――

 それだけを願って、俺は暗闇の世界へ落ちていく。暗闇という名の、檻の中へ。

 名前を失くした男。
 名前を失くした亡霊。

 俺はそんな亡霊のように、これからもさまよい続けるのだ――










短編オリジナルでした
とある曲を聴いてそういう気分になったので勢いで
ありがとうございました
異なる世界線ということで、実際の歴史とは大幅に違ってまるで無理な設定になっていますがご了承下さい。

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