小梅「……平成二十七年!?」(24)

※『大正野球娘』ssです

大正十四年(1925年)

朝香中学との試合終了後

環「いやー今日は惜しかったな!だがこの調子でいけば勝てる日も近いのではないか?」

巴「へへっ、次はこの虎鉄で完膚なきまでに点を奪ってやるさ!」

小梅「ごめんねみんな、もうちょっとだったんだけど」

晶子「何を言ってますのよ?小梅さんが来てくださらなかったら試合すらできてませんでしたわ」

カートランド「そうデスよ?今回の試合のMVPは小梅さんデス!」

鏡子「えむぶいぴい?なんですかそれ?」

カートランド「most valuable player すなわち最優秀選手のことデスよ!」

雪「えむぶいぴいかー、なんだか素敵な響きね」

乃枝「これからも野球についてどんどん研究してどんどん強くなりましょ!」

静「ふふっ、しばらくはこの小等部のおチビさん達との試合ですけどね」

胡蝶「私、次は勝ちたい」

記子「でも素晴らしかったわ!絶対に良い記事を書くから!」

夕方 小梅の部屋

小梅(…春には朝香中に全然敵わなかったのに)

小梅(…あそこまで接戦にできるなんて)

小梅(…晶子さんも無事に連れ出せたし)

小梅(…そういえば松阪さんが壊した塀どうなったんだろう?)

小梅(…お父さんとお母さんが来てくれたのは嬉しかったなあ)

小梅(…あ!そうだ!お礼言わないと!)

三郎「旦那さん、明日の仕込み終わりました。では失礼します」

洋一郎「おう、気をつけて帰れよ」

ダダダッ

小梅「三郎さん!ちょっと良いですか?」

三郎「はい、何ですか?」

薄暗がり 近くの寺

小梅「三郎さん、今日は両親を連れてきて頂いて有難うございました」ペコリ

三郎「いえ…僕は旦那さんと女将さんが見るべきものを見せただけですよ」

小梅「でもとっても嬉しかったです!あの安打なんてお父さんが来たから打てたようなものですし!」

三郎「お嬢さんにそう言っていただければ何よりですよ」

小梅「小梅でいいですよ、負けちゃいましたけど三郎さんだから特別です」

三郎「えっと…じゃあ小梅さん、また明日」

小梅「はい♪」


夜 小梅の部屋

小梅(…今日は疲れたなあ)

小梅(…一日中走りっぱなしだったもんね)

小梅(…明日晶子さんの家に行ってちゃんと謝ろう)

小梅(…お父さんもお母さんも頑張れって言ってくれた)

小梅(…三郎さんとの距離も少し近くなった気がするし)

小梅(…多分明日は体中の筋肉が痛むだろうなあ)

小梅(…すぅすぅ)



小梅(…ムニャムニャ)

小梅(…あれ?なんか眩しいな?)

小梅(目を開けて…あれ?なんか視界がぼやけてる?)

小梅(あれ…体が凄く重くて起き上がれない?)

小梅(ん?なんで部屋が白いの?)

ピッピッピッピッ

小梅(あれ?この音は何?)

小梅「う…う…う…」

看護師「先生ー!21番の鈴川さん、意識レベル回復しましたー!」

小梅「あ…あれ…声がガラガラ…?」

ダダダッ

医師「鈴川さん、大丈夫ですか。今血圧を測りますからね」

看護師「バイタルサイン正常、動向は安定してます」

医師「鈴川さん、手術は無事に成功したみたいですね」

小梅「あ…あの…わたしは?」

医師「あなたは福祉施設内で脳溢血になり、緊急手術したんです」

小梅「え…施設ってなんのですか?」

医師「…すいませんが、あなたは『鈴川小梅』さんで間違いありませんか?」

小梅「はい、確かにそうです」

医師「…では、あなたが最後に覚えている事はなんですか?」

小梅「…私は昨日学校の皆と野球をして…家に帰って三郎さんと話をして…寝ました」

医師「…では、あなたは今何歳ですか?」

小梅「…私は十四歳です」

看護師「…先生」

医師「うむ、記憶喪失のようだな」

小梅「あの、先生?ここは何処ですか?お父さんとお母さんは?三郎さんは?」

医師「鈴川小梅さん、落ち着いて聞いてください、信じられないかもしれませんが」

小梅「あ…あの?」

医師「今は西暦2015年です」

小梅「え?西暦…2015年?だって大正十四年は西暦だと確か1925年…」

医師「はい、今は平成二十七年です」

小梅「平成…二十七年?平成ってなんですか?」

医師「大正の次が昭和で昭和の次が平成です」

小梅「え?だって私は…」

医師「鈴川小梅さん…あなたは御齢104歳です」

小梅「え?」

平成二十七年(2015年)

病室

ドア(ガラリ)

老人「お袋!」

老女「お義母さん!」

小梅「あの…あなたたちは?」

医師「鈴川さん、あなたの息子さんと義理の娘さんです」

小梅「そう…なんですか」

小梅(鏡を見せて貰って恐る恐る覗いたらそこにいたのはしわくちゃのお婆ちゃんだった…)

小梅「記憶喪失…か…私の九十年…」ボーゼン

しばらく経って

初老男性「お祖母ちゃん、今日はアルバムをメモリに入れて持ってきたよ」

小梅「あなたは…私のお孫さん?」

初老男性「ああ、実家の倉庫から探すの苦労したんだよ」

小梅「あの…私のお父さんとお母さんは?」

初老男性「えっと…曾祖父ちゃんと曾祖母ちゃんは空襲の時二人とも…」

小梅「空襲って何?」

小梅「そう…日本がアメリカと戦争をしたの…」プルプル

初老男性「お祖父ちゃんはそのとき出征してたから、岩崎家にしばらくお世話になってたんだと」

小梅「岩崎って…晶子さんの許婚の?」

初老男性「ああ、その時は既に岩崎晶子さんになっていたよ」

小梅「それにお祖父ちゃんって…私の旦那さん?」

初老男性「そうだよ、三郎祖父ちゃん。十五年前に亡くなっている」

小梅「そっか…私三郎さんと一緒になったんだ…」

初老男性「ちょっと待って、今ノートパソコン立ち上げるから」

小梅「何これ?」

初老男性「ああそうか、お祖母ちゃんは見るの初めてか」

小梅「凄いねこれ…持ち運べる映画館?乃枝ちゃんが喜びそう」

初老男性「これが昭和三十年のお祖母ちゃん」カチッ

小梅「鈴川洋食店…白髪交じりの三郎さんと一緒に写ってる…」

初老男性「焼け跡からだからさ、苦労したみたいだよ」

小梅「私もすっかりおばちゃんだなあ」

初老男性「お祖母ちゃんが44歳の頃だな、この翌々年に俺が産まれてる」

小梅「…そういえば他の皆は?」

初老男性「他の皆って?」

小梅「一緒に野球をしてた皆…」

またしばらく経って

女性「曾祖母ちゃん、お父さんに言われて調べてきましたよ」

小梅「あなたは…私の曾孫なのね?」

女性「そうですよ、もうちょっとで兄のお嫁さんが玄孫を産みます」

小梅「そっか…玄孫がねえ…」

女性「で、調べてみたんだけど殆ど亡くなってたわ」

小梅「そう…同い年でも104歳だもんね…」

女性「でも、岩崎さんの協力を得て一人だけ生きている友達がいることがわかったわ」

小梅「!その人は誰?」

女性「鏡子さんっていう人」

後日

医師「ではノートパソコンを使って良いですよ」

女性「曾祖母ちゃん、じゃあスカイプ繋ぐわよ」カチッ

小梅「相手の顔を見られる電話かぁ…科学の進歩って凄いね」

スカイプ『…(接続中)…』

鏡子(老婆)『…つながってますか?…』

小梅「…鏡子ちゃん、ごきげんよう」

鏡子『…ごきげんよう…何年ぶりかしらね…この挨拶するの…』

小梅「すっかりお婆ちゃんね、鏡子ちゃん」

鏡子『…それはお互い様ですよ…小梅さん、あなた記憶喪失で十四歳に戻ったって…』

小梅「ええ、櫻花會と朝香中の公式試合の直後から…」

鏡子『…そうですか…羨ましいです…』

小梅「え?羨ましいって…」

鏡子『…あの後世の中はどんどん暗くなっていって…不況になって…戦争があって…』

小梅「そう…」

鏡子『…巴さんも静さんも…ずいぶん昔に亡くなって…櫻花會のメンバーは今じゃ私と小梅さんだけ…』

小梅「ねえ鏡子ちゃん…今回私が連絡した訳は…」

鏡子『…わかってます…なにも言わなくてもわかってます…』

小梅「……」

鏡子『…今の私は…小梅さんより89歳も年上なんですよ?…』

小梅「鏡子ちゃん…」

鏡子『…小梅さん、私達櫻花會のメンバーは…いつも一緒で…』

鏡子『…どんなに世相が暗くても笑顔を絶やさず…』

鏡子『…皆それぞれが…かけがえのない青春を共有しました…』

鏡子『…そして何より…あなたはとても…幸せそうでしたよ…』

小梅「……」

小梅「あれ?あれれ?」ポロポロ

小梅「―――――」

医師「意識混濁!ICUの準備だ!」

女性「曾祖母ちゃん!」

ジリリリリリリリ

小梅「!」ガバッ

小梅「あれ?夢?」

八重「小梅ー!早く起きなさい!」

小梅「いたた…!筋肉痛…!」

小梅「あ…そうか、昨日朝香中と野球して…」

小梅「あれ?…どんな夢だったっけ?」

八重「小梅ー!今日はお父さんから贈り物があるからー!」

小梅「うわぁ…セーラー服…!」

八重「似合ってるわよ小梅」

小梅「ありがとお父さん!」

洋一郎「へっ、さっさと学校に行きやがれ!」

三郎「似合ってますよ、小梅お嬢さん」

小梅「へへ、ありがと。じゃあ行ってきます!」

学校

晶子「小梅さん、ごきげんよう」

小梅「ごきげんよう、晶子さん」

晶子「セーラー服似合ってますわよ」

小梅「ありがとう!」

小梅(…なんだかとても悲しい夢を見た気がするけど…)

小梅(まあいっか!これからも皆と野球頑張ろう!)

2015年 

病室

小梅「 」

医師「…ご臨終です」

女性「そうですか…でも大往生だったと思います」

初老男性「でもこんなに笑顔で…お祖母ちゃん間際に夢でも見てたんでしょうかね?」

老人「きっとお袋は友達と野球をしていた夢でも見てたんだろう」

老女「こんな安らかな笑顔で…お義母さんきっととても幸せな夢を見たのね」

女性「きっと最後に十四歳に戻ったのは…青春時代の夢を見るためだったのかもね…」

END

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom