【艦隊これくしょん】響「こんにちは。不死鳥ラジオの時間だよ」 (55)

響「記念すべき第一回は、司令室特別スタジオからお送りするよ」

提督「なんで俺が仕事中なのに秘書艦がそういうこと始めるの?」

響「パーソナリティは私、鎮守府の白き不死鳥、響と」

暁「鎮守府ナンバーワンレディ、暁よ。よろしくね」

提督「話を聞いてくれませんかね」

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提督(まあ、ラジオごっこなんて可愛いもんか…)

響「ちなみに、遊びじゃないからね」

提督「え?」

暁「明石さんと夕張さんが暇つぶしに開発したこの機材、なんと本物!」

響「鎮守府全域に放送されてるよ」

提督「開発担当が暇になるほど平和だったかなあ、この辺…」

響「さっそく始めよう。といっても、勢いだけで始めたからね、なにをすればいいかよくわからない」

響「というわけで、リスナーの言葉を適当に拾っていこう。お便りもたくさん届いてるしね」

提督「一回目なのに?」

暁「細かいことはいいじゃない」

響「記念すべき最初のお便りは、この人だね」

響「ラジオネーム、なのですさん」

提督「ちょっとは正体を隠そうという気概を見せろよ」

響「お姉ちゃんがなかなかピーマンを食べてくれないのです。どうすればいいですか?」

響「だそうだよ、暁」

暁「べ、別に私と決まったわけじゃないじゃない!」

響「じゃあ、食べられるのかい?」

暁「うっ…」

暁「…」

暁「………たっ、食べられるわよ!」

響「そう言うと思って用意しておいたよ」

暁「えっ」

響「司令官、例のものを」

提督「なんで仕事中の俺がウェイターの真似事を…」



響「調理済みのものがこちら」

暁「…」

暁「なにこれ」

響「ピーマン炒め」

暁「ほんとにピーマンしかないじゃない! 普通お肉とかも一緒に入れるでしょ!?」

響「ピーマン大好きな大人のレディなら、これくらい食べられるはず」

暁「!」

暁「…」

暁「い、いいわ! やってやろうじゃない!」

提督「とうとう暁が大人の階段を上るのか…」

響「あ、そうだ。司令官」

響「暁がピーマンを食べる様子を実況してくれないか?」

提督「どういうことだよ」

響「これ、ラジオだから。音声だけだと、暁の勇姿がみんなに伝わらないからね」

提督「仕方ないな…あとで仕事手伝ってくれよ」

響「もちろん。往年の古舘さん的な実況をよろしく」

提督「お前は俺に何を求めているんだ」

響「不死鳥ラジオ、緊急特別企画」

響「暁、ピーマンを食べる。スタート」

暁「…」

提督「震える手で箸を取った暁…おっと、箸をこぼしてしまった!」

提督「宿敵を目の前に、それほど緊張しているということでしょうか!」

響「苦手なだけだよ、箸」

暁「…」

提督「ヤジにも反撃できない! 額に浮かんだ汗が、彼女が極限状態にあることを教えてくれます!」

響「意外とノリノリだね、司令官」

提督「おっと、目を皿のようにして、暁、なにかを探している!」

提督「現実から目をそむけるな! その皿には、ピーマン以外のものはないぞ!」

響「…いや、違う。あれは」

暁「…」

暁「!」

提督「意を決したか、暁! いまゆっくりと箸を…おおっと、あれは!」

提督「小さい! つまみ上げたピーマンは、わずか数センチの極小サイズだー!」

響「小さいのを探していたようだね」

暁「…」

提督「小さな敵とにらみ合う暁! だが、私の気のせいでしょうか! 暁、顔が引きつっているぞ!」

響「ピーマンは強敵ということだね」

暁「…」

提督「さあ、勝負の時! ゆっくりと、慎重に箸を口に近づけ…」

暁「やっぱり無理いいいいい!」

提督「あーっと! 暁、敵前逃亡! 宿敵の匂いに気圧されたか!」

提督「無念! これは無念です! 箸を投げ捨て、椅子をひっくり返した暁、一目散に部屋から逃げ出しました!」

響「壁にぶつかってたけど大丈夫かな」

響「そういえば、なのですさんのお便りに答えてなかったね」

響「今のように、苦手な人は見た目とか匂いだけでも拒絶反応を起こすからね」

響「定石ではあるけど、細かく刻んでほかの料理に混ぜてあげるとか、そういうのがいいかもしれない」

提督「あーあ、椅子ちょっと欠けちゃったなあ…響、気は済んだか?」

提督「パーソナリティが片方いなくなったんじゃ、続けられないだろ」

響「そんなことはないさ。そもそも、相方は毎回変えるつもりだったし」

提督「第二回以降もやる気なのか…」

響「それに、ゲストも呼んでるしね。予定より早いけど、出てきてもらおうかな」

響「今日のゲストはこの方。年末年始で完全にデレたと話題の」

響「曙」

曙「ちょっ、誰がデレたのよ、誰が!」

提督「ほう、曙がゲストか」

曙「なによ、文句あるの? クソ提督!」

提督「いや、こういうのは金剛とか那珂とかがいの一番に名乗りを上げるイメージだったからな」

響「司令官は、こういう遊び心がわかる曙は素敵だ、と言っているよ」

曙「なっ…」

提督「え? いや、そこまでは…」

曙「ふ、ふん! ご機嫌とろうったって、そうはいかないんだから!」

曙「クソ提督!」

提督「ほら、軽率な発言じゃ彼女の機嫌を損ねるだけだぞ」

響「司令官は、戦況だけじゃなくて女心を読む勉強もするべきだね」

響「曙にも、たくさんお便りが届いているよ」

提督「人気者なんだな」

曙「そ、そんなことないと思うけど…」

響「ラジオネーム、提督と紅茶LOVEさん」

提督「もう本名でいいよ」

響「あなたは提督のことが大好きなのに、どうしてあんな態度をとるんですか? 私にはよくわかりません。教えてください」

提督「活字だと流暢だなあいつ!」

響「むしろ、活字で片言になるはずないと思うけど」

響「で、どうなんだい?」

曙「だ、誰が大好きですって!?」

曙「そんなわけないじゃない!」

提督「そりゃそうだろう。まったく、金ご…提督と紅茶LOVEは何を考えて」

曙「…」ゲシッ

提督「痛っ!? 蹴るな蹴るな!」

響「まあ、司令官のこれは仕方ないとして…」

響「曙、提督と紅茶LOVEさんに答えてあげてくれないかな」

曙「だ、だからそういうのじゃないって…」


「ヘーイ! 聞き捨てなりまセーン!」バーン


提督「おおっとぉ! 金剛が扉を粉砕してのダイナミックな登場だー!」

提督「…ってなにやってんだ!」

金剛「テイトク! さっきの実況、very goodネー!」

提督「どうでもいいわ!」

金剛「ボノボノー、素直になった方が自分のためですヨー」

曙「ぼ、ぼのぼの?」

曙「い、いや、だから私は別に…」

金剛「じゃあ、テイトクのこと、嫌いデース?」

曙「…」

曙「ずるいじゃない、そんな聞き方。首を縦に振る奴、この鎮守府にはいないわ」

金剛「私もそう思いマース! さあ、ボノボノ! テイトクLOVE勢として、いっしょに頑張りまショー!」

曙「ら、ラブ…!?」

金剛「ボノボノをティーパーティーに招待デース! さあ、レッツゴー!」






響「さて、ゲストが勝手に帰ってしまったし、第一回はここまでにしておこうか」

提督「第二回はいつやるんだ?」

響「私の気が向いたら、かな。不死鳥は自由なんだ」

提督「その理屈はよくわからんな…」

響「気が向かなかったら、今日が最終回になるかもしれない」

提督「自由すぎないか」

響「聞いてくれてありがとう。次回があれば、また会おうね」

響「さて、司令官。約束通り、仕事を手伝うよ」

提督「そうだな。まず…」






提督「扉、直すか」

響「そうだね」

響「こんばんは。不死鳥ラジオの時間だよ」

提督「不死鳥ラジオの時間は昼なんじゃないのか」

響「言ったじゃないか、不死鳥は自由。気が向けば、朝でも昼でも夜でも、世紀末でも不死鳥ラジオの時間さ」

響「今日も司令室特別スタジオから、鎮守府の白き不死鳥、響と」

雷「鎮守府の母、雷がお送りするわ! よろしくね!」

提督「今回もここでやるのか? 俺が仕事中なのに?」

響「金剛さんたちからのリクエストでね。曰く…」


「テートクの声が聞けて、very happyデース! 今後も期待してマース!」


響「だって」

雷「同じようなリクエストがたくさんあったみたいよ。人気者ね、司令官!」

提督「お、おう…」

響「ところで、前回の放送で苦情が来ていてね」

雷「あら、そうなの?」

響「ラジオネーム、メシウマさんから」

提督「苦情もラジオネームで受け付けてるのか…」

響「我らのアイドル、ボノボノの出番が少ない。訴訟」

雷「たしかに、出番短かったわよね」

響「ノープランで臨んでたからね。反省点かな」

提督「いや、あれ金剛のせいだろ」

響「というわけで、今日はコーナーをちゃんと考えて来たよ。第六駆逐隊のみんなと一緒にね」

雷「暁はピーマンのせいで寝込んでたけどね」

提督「そんなに深刻なダメージが…」

響「まずは、いわゆる『ふつおた』のコーナー。リスナーのみんなから寄せられたメッセージに答えていくよ」

雷「近況報告とか、お悩み相談とかね」

響「あと、司令官への文句とか」

提督「なんでだよ」

響「ちなみに、このコーナーに限らず、読むお便りは二通厳守で行くよ」

雷「あら、どうして?」

響「1通だと少ないけど、3通だとダレる」

響「気がする」

響「まず一通目。ラジオネーム、猫じゃないにゃさん」

響「散歩していたら、猫じゃらしを振り回す子供たちに絡まれたにゃ。笑顔で走り回る強敵だったにゃ」

響「でも、日が暮れるまで粘ってたら逃げるように帰って行ったにゃ。子供がこのタマを手なずけようなんて100年早いにゃ」

提督「たまの休暇に何やってんだこの猫」

雷「真顔でにゃって言う響はシュールね」

雷「ところで司令官、今のって、たまとたまをかけたギャグなの?」

提督「たまたまだよ!」

響「たまだけにね」

提督「うるせえ!」

響「2通目。ラジオネーム、ウサギさん」

響「虫を捕まえるために罠を張ったら、司令官が引っ掛かったっぴょん! 大爆笑ぴょん!」

提督「あれあいつかよ!」

雷「なんで虫の罠に人がかかるの?」

提督「外歩いてたら、突然上からバカでかい籠が降ってきて閉じ込められたんだよ」

響「その時のびっくりした司令官の写真がこちら」

提督「ま た 青 葉 か」

響「欲しい方は響まで。格安で提供するよ」

響「じゃあ、今日のゲストに登場してもらおう」

雷「どうぞー!」

山城「はあ…姉さまと静かにお茶を飲む時間なのに、どうして私はこんなところに」

山城「不幸だわ…」

提督「と言いつつ付き合ってやるのか」

山城「駆逐艦の子のお願いを断るような、器の小さい女じゃないの」

山城「はあ…」

提督「でも、露骨な溜息はどうかと思う」

山城「そもそも、おしゃべりは得意じゃないのよ。姉さまと二人きりならともかく…」

響「改めて、今日のゲストは」

雷「改二実装で大活躍! 航空戦艦の時代をけん引するのは、間違いなくこの人!」

雷「山城さんよ!」

山城「よろしくおねがいします。はあ、空はあんなに…」

山城「今、夜だったわ。姉さまのセリフをパクってお茶を濁すことも許されないなんて、不幸だわ…」

提督「愛しの姉さまの扱いが雑だぞ」

響「さあ、今日は何をするかをちゃんと考えてるからね。山城さんには、たくさん喋ってもらうよ」

山城「視聴率がガタ落ちしても、責任はとれないわよ…」

響「まずは、こちら。ゲストのトークコーナー」

響「山城さんにはこれを振ってもらって、お題に沿った話をしてもらうよ」

山城「サイコロ…?」

提督「熱心に仕事してるかと思ったら、これ作ってたのか」

雷「響、工作上手なのね! よくできてるわ!」

響「自信作だよ」

山城「それはいいけど、苦情が来ないかしら。最近、パクリとかヤラセに厳しいけど…」

提督「まあ、鎮守府内限定の放送だし、それは大丈夫だろ」

響「今日のテーマは、この6つだよ」

雷「テーレレ、テッテン!」

山城「効果音もセルフなのね」


・不幸な話

・胃に穴が開きそうになった話

・心が痛くなった話

・テンションが下がる話

・笑えない話

・今日の当たり目


山城「不幸だわ…」

提督「ギャグを通り越して悪意すら感じるラインナップだな…」

響(案ずることはないよ、司令官)

提督(なに?)

響(実は、このサイコロには細工がしてあってね)

響(当たり目が出るようになっている)

雷(そ、それってヤラセなんじゃ…)

提督(いや、こういう場でくらい、山城にいい思いをさせてやってもいいだろう。ナイスだ、響)


響「じゃあ、山城さん。サイコロを」

山城「わかったわ…」

響「なにが出るかな、なにが出るかな」

提督「歌う時も真顔なのか」

雷「テレレレッテ、テレレレン」

山城「…」


コロコロ


提督(って、サイコロの動きが不自然すぎる!)

雷(あれじゃあさすがにバレ…)

山城「…」

雷(目が虚ろだー!? サイコロが視界に入ってない!?)

提督(今まで、くじとかでいい思いをしたことがないんだろうな…)

響「司令官、実況。リスナーのみんなは、今ぽかーんとしているよ」

提督「おっと、そうだな」

雷「司令官は実況というポジションを受け入れているのね…」

提督「さあ、徐々にさいころが減速してきました! 狙うは当然6分の1、当たり目!」

雷「あ、いけそう! 山城さん、当たりが出るかも!」

山城「え…?」

提督「最後の力を振り絞って、サイコロがゆっくりと前転する! 1回…2回…」

響「もう1回転がれば…」

山城「当たり…? 私が…?」

雷「いけ! そこよ!」

提督「3回………止まったあ! 山城、引いたのは…」

山城「姉さま、やりま」


パリーン


響「!?」

雷「!?」

山城「!?」

提督「!?」

雷「え? え? なに!?」

提督「…なぜか窓ガラスをぶち破って飛来したサッカーボールがサイコロに直撃」

提督「出目を変えてしまった…」

山城「不幸だわ…」

提督「っていうか誰だよ、こんな時間にサッカーやってんの!」

響「ノーカン、かな?」

山城「いえ、いいわ。これが私の宿命だというのなら」

山城「私は受け入れる、扶桑型の妹の方として…!」

雷「山城さん…!」



提督「いや、感動するところじゃ…っておい、武蔵! 大和! 部屋に戻れ!」

「出撃させてもらえないのだから、こうしてストレスを発散しているんじゃないか」

提督「夜9時に艦娘がサッカーやってる鎮守府とか、俺の沽券に係わるんだよ!」

響「山城さんがそう言うなら…お題はこちら」


・不幸な話


山城「ふふ…これを引くのも、ある意味必然」

雷「今のくだりが、すでに不幸な話として成立してるんだけど…」

山城「いえ、話すわ。そうね…」

山城「あれは、先月。提督にお休みをもらって、一人で街に出かけた時のことよ」

山城「財布を落としたの」

雷「えっ? もうオチ?」

山城「いえ、これは序章…途方に暮れて公園のブランコで佇んでいると」

山城「ある男性が声をかけてきたの。スーツを着た…二十代くらいの人かしら」

山城「この財布、あなたのですかって」

響「よかったじゃないか」

雷「いい人がいるのね!」

山城「ええ、私もそう思ったわ。事実、その人はいい人だったし」

山城「でも、私はやっぱり不幸だったわ…」

山城「よく見ると、中身がないのよ。残ってたのは小銭だけ」

雷「えっ」

響「それは…」

山城「そのあとも、2階のベランダからじょうろが落ちてくるし、顔面にハエが激突するし」

山城「ヒールが折れるし、通行人とぶつかってどぶに落ちるし」

山城「コーヒーのボタンを押したはずなのにコーンスープが出てくるし、にわか雨だし…」

山城「ああ、私ってやっぱり不幸だわ…!」

提督「彼女の心の闇はここまで深かったのか…」

雷「ちょっと響、どう収拾つければいいの!?」

響「計画が失敗したときのことは考えてなかったな…」

響「…おや」

響「お便りだね。ラジオネーム…書いてないな。名前を読み上げろということかな」

響「扶桑さんから」

山城「! 姉さま…?」

響「ごめんなさいね、山城。私は自分の不幸をあなたに愚痴るばかりで、あなたの話をあまり聞いてあげていなかったわ」

山城「そ、そんなこと…! 私だって、姉さまに」

響「でも、安心して。私は不幸だけど、あなたがいるから、大丈夫なの」

山城「!」

響「だから、山城ももっと私に頼っていいのよ」

雷「私のセリフ!」

山城「ね、姉さまあ…」




「山城!」バーン!



提督「おおっとぉ! 扶桑が扉を粉砕してのダイナミックな登場だー!」

提督「…ってお前もか!」

扶桑「山城、大丈夫よ。さあ、いっしょに帰りましょう」

山城「姉さま…姉さまあ………!」



響「…」

響「こうしてまた、一人の少女の心が救われたのだ…」

提督「発端は誰だと思ってんだ」

雷「私知ってるわ! こういうの、テンプレっていうんでしょ?」

提督「戦艦が扉壊してゲストを連れ去るのが?」

提督「そうなのか?」

響「…」

響「…」

響「もちろんさ。計算通りだよ」

雷「さすが響ね!」

提督「もしかして、第六駆逐隊ってツッコミいないの?」

響「じゃあ、ゲストも帰ったし、今日はここまでだね」

響「次回があればまた会おう」

雷「お疲れ様! 司令官、仕事が残ってるなら手伝うわ!」

提督「そうか、助かるよ。なら…」





提督「扉とガラスと床を直すか」

響「大和型の脚力は伊達じゃないね」

雷「扶桑型の腕力もね」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月06日 (月) 00:54:27   ID: MH0MNxj8

ラジオか。いい響きだな、嫌いじゃない。

2 :  SS好きの774さん   2015年04月06日 (月) 11:04:25   ID: XTkSLvHR

響はちょっとバカっぽい方が好き

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