巫女「また来るね」 悪魔「二度と来るなブス」 (289)

巫女「明日はクッキー焼いてきてあげる」

悪魔「お前の料理なんか汚泥以下だからいらないよ」

巫女「野いちごがいっぱい採れたから、ジャムも作ってあげようか?」

悪魔「うっせーな、早く帰れって」

巫女「じゃあ塔の鍵を開けてくれないかな?」

悪魔「…」

巫女「開かないと帰れないんですけども」

悪魔「じゃあ窓から飛び降りろよ」

巫女「ぐちゃみそになっちゃうよ…」

悪魔「これだから人間は…」カチャ

巫女「どーもね。また明日ね」

悪魔「二度と来るなブス」

悪魔「…」

巫女「じゃあねー」フリフリ

悪魔「死ねブス」フリフリ

巫女「あはは」

悪魔「…」

悪魔「…行ったか」

悪魔「全くいつまでここでダベるつもりだ」

悪魔「迷惑極まりないぞ」バサバサ

>>3
これは早々にお引取りいただきたい

巫女「ただいま帰りました」

叔母「あっ…!遅いじゃない、何やってたのよ!」

巫女「すみません叔母さん、途中雨が降って…」

叔母「言い訳はよして頂戴。まさか寄り道してたんじゃ…」

巫女「いいえ。この通り、言いつけの薬草は全部採って来ました」

叔母「…ふーん」

巫女「遅くなってごめんなさい。今すぐ家事を済ませますね」

叔母「ふん。早くなさいね」

巫女「はい!」ニコ

叔母「…魔女の子が。へらへら媚びるんじゃないよ」ボソ

少年「でね、今日学校でねー」

叔母「あらそうなの…。ちゃんとお勉強していて偉いわね」

少年「えへへ」

叔父「明日は大事な筆記試験の日だろう?しっかりやるんだぞ」

少年「うん、分かってるよ」

巫女「…」カチャカチャ

叔母「あら。食事が来たわよ」

巫女「今日はお魚が入ったのでムニエルにしてみましたよー」ニコ

叔父「…焦げ臭くないか?」

叔母「あら、本当。ここ、焦がしてるんじゃない?」

巫女「いいえ、そんなことはありません。大丈夫ですよ」

叔母「口答えばっかり」カチャ

巫女「心をこめてお作りしたんですよ」

叔母「いいからさっさと配膳して下がりなさい。仕事がまだあるでしょう」

巫女「はい、叔母さん」

巫女「…」カチャカチャ

少年「…」

巫女「あ、少年さん。お皿はそこに置いてくれれば結構ですよ」

少年「ん」ガチャ

巫女「明日の筆記試験、頑張ってくださいね。お夜食でも作りましょうか?」

少年「いい。いらない」

巫女「そうですか」

少年「…」

バタン

巫女「…学校かー」カチャカチャ

巫女(水、つめてー)カチャカチャ

叔母「ちょっと、巫女」

巫女「はい、何でしょうか叔母さん」

叔母「手紙が届いているわよ」ポイ

巫女「あっ。ありがとうございます!」

叔母「読むのは家事を終わらせた後にしなさいね」

巫女「はいっ。勿論ですっ」

叔母「…」

巫女「お洗濯してきますね」

叔母「今から寝るから、静かになさいよ」

巫女「はーい」タタタ

巫女「ふんふん」ジャブジャブ

巫女「ふふ」ギュッ

巫女「さて、今日のお仕事お終い」

巫女「…」タタタ

巫女「…やっぱり。お婆ちゃんからだ」

巫女「どれどれ」ビリ

巫女「…巫女へ。叔母との暮らしはどうですか。何か不自由はしていませんか…」

「あなたの母親が亡くなって、叔母のところに引き取られて6年あまりが経とうとしていますね。

 塔の魔物はお元気ですか。何か悪さをしていなければいけれど。

 病気さえなければ、私が巫女として残れたのですが…。

 巫女、本当に苦労をかけます。お婆ちゃんもすぐ良くなるよう頑張るつもりです」

巫女「お婆ちゃん、大丈夫かな」

巫女「お見舞い…叔母さん、行かしてくれるかなぁ」

巫女「明日頼んでみようっと」

巫女「…えっと。返事はどう書こうかな」

巫女「…お婆ちゃんへ。私はとても元気に暮らしています」

「叔母さん家族は相変わらずとても優しいです。学校も楽しいですし、新学期になって友達も増えました。

 巫女の仕事も順調です。塔の魔物とも上手くやっています。

 お婆ちゃんは私の事なんか心配せず、ゆっくり養生してくださいね。

 近いうちにお見舞いに行きます。」

巫女「…うん」

巫女「よし」コクン

巫女「…ふあ」

巫女「げ、もう2時か」

巫女「早く寝なきゃ…。寝坊したらまた大目玉だ」

巫女「…よいしょっと」バサ

巫女「おやすみなさい」

……


叔母「…巫女っ!!」

巫女「は、はい!」

叔母「いつまで寝てるつもり!?起きなさい!」

巫女「え、え?」

巫女「…まだ5時ですよね。いつもなら6時で…」

叔母「今日は少年の筆記試験の日なのよ!?早く起きて弁当と準備をしなさいって言ったわよね!?」

巫女「…」

巫女「えーと」

叔母「言ったわよね!?」

巫女「はい。すみません、叔母さん。私がグズでした」

叔母「まぁあ!なんて子なの!?少年が学校に遅れて試験が受けられなくなったらどうするつもり!?」

少年「お母さん、朝ごはんまだー?」

叔母「ごめんなさいねぇ、この子が今起きたばっかりで…」

少年「はぁ?遅刻したらどうすんだよ」

巫女「ごめんなさいっ。今すぐ準備しますね」バタバタ

叔母「…ったく、使えやしない」

少年「…はぁ」

少年「いってきまーす」

叔母「しっかりねー」

巫女「頑張ってくださいねー」フリフリ

叔母「…あんたは朝の家事を早く済ませなさいよ」

巫女「あ、あの。その前にちょっとお願いが」

叔母「何よ」

巫女「切手と…封筒が欲しいんです。お婆ちゃんにお手紙の返事をしなきゃ」

叔母「ああ、昨日の手紙…母さんからだったの」

叔母「手紙を貸しなさい。出しておくわ」

巫女「ありがとうございます!」

叔母「…変なこと書いてないでしょうね?」

巫女「変なこと?」

叔母「…ふん。なんでもないわ」

巫女「ふんふん」フキフキ

叔母「あ、あなた。途中でこれを投函してきてくれない?」

叔父「…なんだこれは」

叔母「あの娘が書いた手紙ですよ。内容も無いのに、紙が勿体無いけど…」

叔父「あー、あいつの」

叔母「お手数おかけします。お願いしますね」

叔父「ん、分かった」

叔母「いってらっしゃい、あなた」

巫女「いってらっしゃいませー」ペコ

叔母「巫女」

巫女「はい」

叔母「使いに行って頂戴。これ、買い物のメモ」ポイ

巫女「了解しました」

叔母「…用が済んだらさっさと帰ってきなさいね。寄り道するんじゃないよ」

巫女「はい!」



巫女「…ふぅ」

店主「あ、こんにちは巫女ちゃん」

巫女「こんにちはー」ニコ

巫女「今日はこれをお願いします」

店主「相変わらず大きい買い物するね…。重いよ?」

巫女「構いません。私、力ありますから」

店主「そうかい…。あ、…この薬味は入荷してないよ」

巫女「え」

店主「ごめんねぇ。旬じゃないんだ」

巫女「…そうですか」

巫女「はぁ、はぁ」ヨロヨロ

巫女「…おっも」ドサ

巫女「…よい、しょ」

コンコン

巫女「私です。開けてください」

「…誰」

巫女「私です、巫女です」

「みこ?そんな名前の女は知らん」

巫女「あ、じゃあ…。帰ろうかな」

「開いてるから、入りたきゃ勝手にしろ」

巫女「はーい」

巫女「ふう、ふう」

悪魔「何だその大荷物」

巫女「買い物の途中で寄ったんです。ああ重い」

悪魔「まともに持てないのか。よわっちいヤツ」

巫女「そりゃあ女の子ですし」

悪魔「おんなのこ?その顔でか?」

巫女「女の子であることに顔は関係ないですよ」

悪魔「黙れ顔面爆弾岩」

巫女「うわ」

悪魔「んで」

巫女「はい?」

悪魔「土産は」

巫女「あ…。クッキーとジャムですか。忘れてました」

悪魔「死ね」

巫女「直球ですねー。でも、いらないって言ってたんじゃ」

悪魔「食事の手間が省けると思っただけだ。味には期待してない」

巫女「あら。ごめんなさい」

悪魔「…チッ」

巫女「昨日は遅くまで起きていて、作る暇もなかったんですよ」

悪魔「ごちゃごちゃうっせーな」

巫女「あーあー。またこんなに散らかして」

悪魔「…」

巫女「いい加減一人で片付けくらいしてください」

悪魔「俺は悪魔だ。片付けなんてしない」

巫女「謎理論」

悪魔「部屋が散らかろうがどうでもいいんだ」

巫女「病気になっちゃいますよ」

悪魔「人間じゃあるまいし。病気なんてかからん」

巫女「はいはい。じゃあ、片付けますね」

悪魔「勝手にしろ」バサバサ


巫女「…ふう」

悪魔「おーおー、綺麗になるもんだな」

巫女「でしょう?」

悪魔「逆に居心地が悪いがな」

巫女「…」

巫女「…げ。もうお昼か」

悪魔「お、ようやく帰ってくれるのか」

巫女「でもまだあなたのご飯作ってません」

悪魔「ほんっと要領わりぃ女だなぁ」

巫女「すみません…」

悪魔「…何時までに帰ればいいんだよ」

巫女「多分、2時です」

悪魔「送ってってやるから、さっさと済ませろ」

巫女「マジか!やった!」

悪魔「お前最初からこれ狙ってただろ…」

巫女「い、いいえ滅相もない」

悪魔「あーあー面倒くさ」ゴロン

巫女「…じゃあ、急いで作りますね」

悪魔「相変わらずクソマズイな。辛うじて飲み込めるレベルだ」カチャカチャ

巫女「うーん、お口に合わなくてごめんなさい」

悪魔「お前、昼飯は?」

巫女「あ、そういえば朝も食べてません」

悪魔「…」

悪魔「なんか腹がいたい」

巫女「え!?」

悪魔「テメーの料理が不味すぎるせいだぞ!もう食えねぇ!」ドン

巫女「そんな、でもちゃんと火通して」

悪魔「ガタガタうるせぇ!もういい、これお前が全部処理しろ!」

巫女「ええ!?でも」

悪魔「おえ…マジ気持ち悪…」バサバサ

巫女「ああ…。すみません…」

巫女「…」モグモグ

悪魔「辛気臭ぇ顔して食べるんじゃねえよ」

巫女「いや、私ってだめだなぁって思って」

悪魔「え、今更?」

巫女「はい」モグモグ

悪魔「そうだなー。お前は顔も酷いし背もチビだし頭も悪いし、いっつもヘラヘラしてて不快だしな」

悪魔「こう…人間の負の部分を凝縮したかんじだよな、お前」

巫女「そうかもしれませんねー」クスクス

悪魔「…」

巫女「ごちそうさまでした。今度は、ちゃんと作ります」

悪魔「あっそ」

巫女「迷惑かけます」ペコ

悪魔「ほんっとにな」

悪魔「おい、いつまでダラダラしてんだ。帰れよ」

巫女「あ、本当だ。大変!」バタバタ

悪魔「…どんくさ」

巫女「あはは」バタバタ

巫女「あ、ところで悪魔さん」

悪魔「何」

巫女「封印の調子はどうですか?苦しくありませんか?」

悪魔「相変わらず最低だ。今すぐ解いてほしいな」

巫女「それはできません」

悪魔「クソアマが。早く術習得しろボケ」

巫女「お婆ちゃんが良くなれば…。できるんですけど」

悪魔「おっ、ババア死んだか」

巫女「最近ちょっと具合がよろしくないみたいです。前にもまして」

悪魔「生きてんのか。残念」

悪魔「よし、早く乗れ」

巫女「えーっと、荷物重くないですか?」

悪魔「お前が一番重いんだよ、ブタ」

巫女「あー。ダイエットがんばりますね」

悪魔「また三日坊主だろ、どうせ」バサッ

巫女「そんなことないですよー」

悪魔「黙れ。しっかり掴ってろって」バサバサ

巫女「はーい」

悪魔「まぁ振り落とされて死んでくれれば、面倒もないけどな」

巫女「ひどいなぁ」

悪魔「お前が生きてる限り、俺はこの土地に縛られたままなんだよ!」バサバサ

巫女「うーん、ごめんなさい。妥協して生きていきましょう」

悪魔「殺してやろうか」

巫女「怖いです」

悪魔「ケッ」バサバサ

悪魔「おら、早く降りろブタ。暑苦しい」

巫女「あ、はい。よいしょ…うわ」グラ

悪魔「うお」

巫女「うわああ」ドサドサ

悪魔「…何やってんだよ!グズ!」

巫女「ごめんなさい!ごめんなさい!」

悪魔「…チッ。ほら、しっかり持て」ドサ

巫女「う。ありがとうござい、ます」ヨタヨタ

悪魔「…はぁ」

巫女「それでは。また、明日」

悪魔「だからもう来るなって言ってんだろうが、死ね」

巫女「あ、送ってくれてありがとうございました!嬉しかったです!」ペコ

悪魔「…」

悪魔「あっそう」バサ

悪魔「…」バサバサ

悪魔「よっと」トン



悪魔「…はー、疲れた」

悪魔「あのデブ本当に重いわ。腰骨イカれるかと思ったわ」

黒猫「よっす」

悪魔「うおお!」ビク

黒猫「久しぶり。元気してた?」

悪魔「お前こそ。今までどこ行ってたんだよ」

黒猫「ちょっと狩人から追っ手がかかってた。上手く撒いたけどね」

悪魔「いいねぇ自由に外をほっつき歩ける悪魔は」

黒猫「言うねぇ。女の子に養ってもらってるヒモ悪魔が」

悪魔「はあ?」

黒猫「なんでもない」クスクス

黒猫「あの子は?帰ったの?」

悪魔「おー。さっき町の外まで引きずっていった」

黒猫「なあんだ、残念。あの子に会いたかったのにな」

悪魔「物好きなもんだな」

黒猫「なーにが!首都にまで行ったけど、あんな花の咲いたような可憐な乙女はいなかったよ」

悪魔「人間のレベルも地に落ちたな」

黒猫「はぁ…。あの黒髪、憂いある瞳、悩ましげな唇…。あといい匂いするし…」

悪魔「病院行った方がいいな」

黒猫「あの子、まだ毎日お前の世話してくれんの?」

悪魔「そうだ。それが契約だからな」

黒猫「ああああああ羨ましい」

黒猫「僕も美少女と契約してにゃんにゃんしてぇええ」ゴロゴロゴロ

黒猫「なんでお前みたいなちんちくりんがあの子とおおおお」ゴロゴロゴロゴロ

悪魔「あんなやつ、家政婦みたいなもんだ」フン

黒猫「…家政婦ねー。あの子も血の呪いさえなければ、自由に遊べる歳なのにね」

悪魔「知るか。自己主張しないあいつが悪いんだ」

黒猫「ほう?」

悪魔「あいつ家でもヘコヘコしてんだぜ。こき使われてさぁ」

黒猫「何で知ってるの?」

悪魔「…」

黒猫「覗き?」

悪魔「…」

黒猫「僕があげた水晶玉を、そんなイカガワシイことに使うなんて…」

悪魔「いや誤解だ。今のは想像しただけだ」

黒猫「ストーカーじゃん…こっわ…」

悪魔「だから違うって!」

黒猫「…はぁ。まあいいや。僕疲れたから寝る」ゴロン

悪魔「おー勝手にしろ」

黒猫「覗きはだめだよ」

悪魔「窓から逆さ吊りにしてやろうか」

黒猫「あーんごめんなさい」



叔母「どういうことなの!?」

巫女「ご、ごめんなさい」

叔母「あの調味料がないと困るのよ!?忘れるなんてありえないわ!」

巫女「あの、忘れたんじゃなくて入荷してなくって」

叔母「嘘をつくなっ!」ダン

巫女「…う」

叔母「しんっじられないわ…。姑息なことして!」

巫女「ごめんなさい。明日必ず…」

叔母「そういう問題じゃないでしょ!」

ガチャ

少年「…」

叔母「あら、少年…。早かったじゃないの」

少年「…筆記試験、落ちたよ」

叔母「!?」

巫女「え…」

少年「ぐすっ…。あんまりだ…。都の学校に行けるかもしれない大事な試験だったのに…」

巫女「だ、大丈夫です少年さん!まだ二次が…」

少年「あんたのせいだよっ!」

巫女「…え」

少年「朝あんたが寝坊しなければ、単語の見直しができる時間があったのに!あんたのせいだ!」

叔母「…巫女っ…」ギリ

巫女「そん、な。ごめんなさい、私…」

叔母「…っ!」

バシッ!!

悪魔「う、お」

黒猫「んー?どしたのー?」

悪魔「な、なんでもねぇ」

黒猫「何、何隠したの?ねえ?」

悪魔「だからなんでもねぇって!」

黒猫「ふーん。なんか丸い透明なもののようだったけど…」

悪魔「錯覚だろ」

黒猫「覗きはだめだよー?」

悪魔「…」ガッ

黒猫「あ、嘘ですすいません、だからシッポ離して」ジタバタ

悪魔「おい、お前打ち身に効く薬草とか持ってないか?」

黒猫「都で手に入れたヤツならいくつか。どして?」

悪魔「む、いや。なんでもねぇ」

黒猫「ほーん」

巫女「…あ」

叔母「このクズ!穀潰しが!」

バシッ バシッ

巫女「…」

パタタ

巫女(うお。鼻血…)

少年「ぐすっ、うう。あいつの…あいつのせいでぇ…」

巫女「ごめんなさい、少年さん…。本当に、私…」

叔母「少年に触るな!この魔性が!汚らわしい!」

巫女「あ、っ…」ドサ

叔母「泣かないで、少年。まだ二次があるわ。かわいそうに…大丈夫よ」ナデナデ

少年「うう…」

巫女「…」

叔母「はあ?外に出たい?」

巫女「はい、塔の様子が気になるので…」

叔母「あんた、昨日あれだけの失態を晒しておいてよくそんなこと言えるわね」

巫女「…」

叔母「ふざけてるの?駄目よ。どうせ外でサボってるんでしょう」

巫女「けど、塔の封印は一日に一回様子を見に行かないと…」

叔母「うるっさいわね!」ダン

叔母「バカ正直に母さんの言いつけばっかり守って!やることもやらないグズのくせに!」

巫女「大事なことなんです。魔物の機嫌が損なわれると取り返しがつきません」

叔母「…ふん。な、なにが魔物よ」

叔母「そんなに行きたいなら、行けばいいじゃない」

巫女「い、いいんですか」

叔母「ただし食事は用意しないからね。勝手になさい」

巫女「ありがとうございます!ありがとうございます!」ペコペコ

叔母「…気味の悪い。魔物の手がつけられた女なんて。おお、汚らわしい…」

巫女「…はあ、はあ」フラフラ

巫女「…」コンコン

黒猫「やっほー、巫女ちゃん」

巫女「あ、黒猫さん!帰ってきてたの?」

黒猫「えへへ。無事帰ってきましたよ」

巫女「良かったー…。狩人に捕まってなくて」ナデナデ

黒猫「僕はそんなヘマしないよ。あの性悪と違って」

「余計なこと言ってないで、早く連れて来い!」

黒猫「うひゃ。怖」

黒猫「塔登るの辛いでしょ?手伝うよ」

巫女「あ、ごめんなさい。ありがと」ヨロ

巫女「こんにちは、悪魔さん」

悪魔「性懲りも無くまた来たか」

巫女「今、掃除…」

巫女「あれ」

巫女「今日、お部屋綺麗ですね」

悪魔「おー」

黒猫「せっせと片付けしてたもんね」

悪魔「違う。魔法書を探すついでに少し整理しただけだ」

巫女「じゃあ、食事を…」

黒猫「僕がパシられて、買ってきたんだー。いらないよ」

巫女「え…」

悪魔「お前のゲロ以下の飯より、買ってきたものが食べたい気分だったからな」

巫女「じゃあ、えっと。私何したら」

悪魔「邪魔だから何もすんな、鬱陶しい」

巫女「…」

巫女「でも、仕事しなきゃ」

黒猫「まあ塔の主がこういってるんだし、そうしなよ」

巫女「…サボりだし」

悪魔「あーうっせーな。そんなに働きたいのかこのマゾ女」

巫女「ま、まぞ?」

黒猫「素直じゃないよねえ…」

巫女「う、ん??」

悪魔「いいから座ってろ!!殺すぞ!!」

巫女「え、あ、うん」

悪魔「…顔色悪い女にうろちょろされても迷惑なんだよ」

巫女「顔色?そうかな」

黒猫「うん。ってかほっぺ腫れてる」

巫女「あ。…ちょっと草でかぶれたかなぁ。あはは」

黒猫「はい、これが腫れに効く草。こっちが痛み止め」

巫女「え、いいよ薬なんて。大げさな」

悪魔「いいから貰っとけっての。顔パンパンなんだよブス」

巫女「えー。悪いねえ。ありがとう」

黒猫「いいってことよ」

巫女「…と」フラ

悪魔「お、っと」ガシ

巫女「あー、ごめんなさい。くらくらする」

悪魔「体調管理もできねーのか?」

巫女「あはは。だめですねぇ、私」

悪魔「床で寝てもいいぞ。特別に許可してやる」

黒猫「悪魔…」

悪魔「ああ、うっさい!ソファで横になってろ!邪魔!」ドン

巫女「は、はい」ボフ

悪魔「手間のかかる…」ブツブツ

巫女(そういえば、昨日寝てないや。夜まで説教くってたし)

巫女(ありがたい…)スゥ

巫女「…」スゥスゥ

悪魔「赤ん坊かよ。寝つきすげえな」

黒猫「んー、疲れてたみたいね」

悪魔「ったく…。しっかり我を通せないからこうなるんだよ」

黒猫「は?」

悪魔「いや、なんでもない」ゴソゴソ

黒猫「あれ、それ何?」

悪魔「何でもいいだろ」

黒猫「…うわー。それ今手に入りにくい調味料じゃん。どしたの」

悪魔「うるせーな、豚が起きるだろが」ゴソゴソ

黒猫「プレゼントするなら直接渡せばいいのに」

悪魔「プレ…じゃねーよ。ゴミを押し付けてやるだけだ」

黒猫「ほーん」

悪魔「それだけだ」ムス

巫女「…ふ」モゾ

黒猫「…」スピースピー

悪魔「…」カクン

巫女「…ふああ…」

悪魔「ん」

巫女「あ、おはようございます」

悪魔「図々しいヤツだな。どんだけ寝れば気が済むんだ」

巫女「ふみまへん、つかれてて…ふあ。良く寝た」ゴシゴシ

悪魔「…」

巫女「そろそろ帰らなきゃ…」

悪魔「あっそ」

巫女「…」フラ

悪魔「待て。ちょっとこっち来い」

巫女「はい?」

悪魔「いいから早く来いグズ」グイ

巫女「うわ!」

巫女「なんですか、これ。…ドア?」

巫女「…ってこんなのありましたっけ」

悪魔「これは魔法の抜け道だ」

巫女「まほうのぬけみち??」

悪魔「字面で察しろ、マヌケ!つまり、こうだ」ドン

巫女「うわああ!?」ゴロン

巫女「…痛いよぉ…」ムク

叔母「…ぐがー」

巫女「は!?」ズザッ

悪魔「黙れ。ババアが起きる」グイ

巫女「え、なんで。ちょ」

バタン

巫女「ええ!あれ、私の家のリビングでしたよね!すごい!」

悪魔「だから抜け道だ。お前が汗だくで塔まで来るのが見苦しいから、使わせてやる」

巫女「うわああ…。ありがとうございます!すっごく便利です!」

悪魔「む。そうか」

巫女「悪魔さんってやっぱり魔法も使えるんですね!見直しました!」

悪魔「殺すぞ」

巫女「うわ」

巫女「じゃあ、これからはここを通って通いますね!」

悪魔「まあ何回も言うようだが二度と来るな」

黒猫「抜け道作っといて来るなとか言う矛盾」

悪魔「うおっ!?」

黒猫「朝せっせと魔方陣組んでたのはこれのためかー」

悪魔「猫って鍋にしたら美味しいのか?」

巫女「さあ…食べたことないので」

黒猫「おファッ!!!?」


巫女「さようなら~。また明日」

悪魔「おう、死ね」

黒猫「ばいばい~」

バタン

悪魔「…ふー」

黒猫「ほんっと君の性格は難儀だねぇ」

悪魔「何が?」イラ

巫女「…」

叔母「あ、いつのまに帰ってたの。まあいいわ。早く掃除を…」

巫女「あ、はい」

コロン

叔母「?なによ、これ…」

叔母「…!昨日頼んでた調味料」

巫女「え?」

叔母「ふん。何よ、買ってたんなら言いなさいよ!ちょろまかすつもりだったの?」

巫女「え、えと。はあ…」

叔母「まあいいわ。早く家事しなさい」

巫女「わ、分かりました」タタタ

巫女(おかしいな…。変なの)



悪魔「手がかかるな、ほんと」ボソ

黒猫「うんうん、そうだねえ~」

悪魔「うおおお!?」ビク

黒猫「しかしこう、かわいこちゃんが努力する姿っていいよね~」

悪魔「何時から見てたんだ!えぇ!?」ガクガク

黒猫「おぶっ。ごめんなさっ、ちょ、悪気はないっ」

黒猫「おえっ…。やっぱり覗いてたじゃないか」

悪魔「語弊があるな。監視だ」

黒猫「かんし?」

悪魔「そうだ。あの女がいつ俺を狩人に売るか分からないしな」

黒猫「…ええー。ないない。絶対ない」

悪魔「分からないだろ、そんなこと」

黒猫「ふんー。ほんっと天邪鬼」

悪魔「うるせえな。…お」

黒猫「おお!?」

「じゃあ、お湯を貰ってきます」

黒猫「うほおおおおお!キタコレェエエエ!」

悪魔「…」バサ

黒猫「ちょ、何やってんすかあんたぁあああ!」

悪魔「見たくもない。おぞましい」

黒猫「今メッチャいいところだったのに!退けろ!この布!」

黒猫「ああ…勿体無いことを…」

悪魔「風呂まで監視してどうする?」

黒猫「え、いつも見てないの?」

悪魔「誰が見るか!目が腐る!」

黒猫「…」アングリ

黒猫「まさかあんた、ソッチ系だったの…?」ゾッ

悪魔「違う!アホか!」

黒猫「えぇー!僕なら見ちゃう!絶対見ちゃう!ってか、そこしか見ない!」

悪魔「色魔め。これだからお前は駄目なんだ!」

黒猫「いやぁああああ!あんたそれでも男なのぉおお!?」

悪魔「うるせえ!死ね!!」

黒猫「…案外ピュアなんだね」ブフッ

悪魔「…」

黒猫「あ、マジ今の撤回します。殺さないでください生きたい」

黒猫「…ってかさー。薄々思ってたんだけど」

黒猫「やっぱあの子、家庭に問題アリだね」

悪魔「家庭?はん、あんなのを家族って言うのか。謎だね」

黒猫「あの子、親はいないんだよね?」

悪魔「ああ。先代の塔の巫女である母は死んだ」

黒猫「ははあ…。んで、先々代のおばあちゃんは病気で引退か」

悪魔「もはや封印の血を受け継いでるのはあいつだけだ」

悪魔「あいつの性悪い叔母、あれは駄目だね。魔物を封じる力なんてない」

黒猫「はああ、難儀だねぇ。あんな若い子に封印の巫女をやらせるなんて」

悪魔「それがしきたりだからな。しょうがないだろう」

黒猫「…悪魔がこの土地に縛られてなければ、あの子も自由なのに」

悪魔「しょうがない。あの女の祖先の過失だからな」

黒猫「迷惑極まりないねぇ」

叔母さんは血を引いてないのね

>>64 家系的な血はあるけど、才能がない設定っす

黒猫「けど、ここに来るだけマシなのかも」

悪魔「は?」

黒猫「だってそうじゃん。あの子学校も行ってないし、友達もいないしさぁ」

黒猫「ここで悪魔と僕がかまってあげるだけで、救いなのかもなーって」

悪魔「…馬鹿らしい」

悪魔「はん、お前は子守でもしてやってる感覚なんだな。お人よしだな」

悪魔「俺は違うね。あいつがどうなろうと知ったこっちゃないが、世話人を手放してしまうのは惜しい」

黒猫「む…」

悪魔「それに、あいつが死ねば塔の封印は解ける。晴れて自由ではあるが…」

悪魔「逆に狩人から身を守るすべが無くなる。そうだろ?」

黒猫「まあ僕はここの封印の対象じゃないからなんともいえないけど」

悪魔「ここは俺にとっちゃシェルターみたいなもんだ。失うのは得策じゃないね」

黒猫「…ふーん」

悪魔「せいぜい明日もコキ使ってやるぜ」

「…ごめんなさい、ごめんなさい」

悪魔「…」

悪魔「うだつの上がらない奴。イライラするぜ」

巫女「…あ!」

巫女「手紙、来てる!」

巫女「おばあちゃんからだ…。あれ、でもこれ…。あて先が私じゃない」

巫女「…う。お返事書いてくれなかったのかな」

叔父「おい、何してる!早くもってこい!」

巫女「あ、はい!」タタタ

叔父「…何だ。また義母さんからか」ビリ

巫女「…」

叔母「何て書いてるんです?」

叔父「…むう。危篤状態だそうだ」

叔母「え!?」

ガシャン!

巫女「……」

叔母「み、巫女!何やってるの!皿が割れたわよ!」

巫女「おばあちゃんが、危篤…?」

叔母「巫女っ!聞いてるの!?」

巫女「そ、その手紙見せてくださいっ」バッ

叔父「うおっ!?」

巫女「…っ」

巫女(お婆ちゃんが危篤…。今すぐ行かなきゃ…)

少年「どうしたの、騒々しい」

叔母「あ、少年。…実はお婆ちゃまが危篤だそうで…」

少年「は?お婆ちゃんって、あの塔の巫女だった?」

少年「…マジかよー。勘弁してよ、もうすぐ二次試験なのに。最悪のタイミングだよ…」

叔父「そうか、二次が…」

叔母「そうよねぇ…。今すぐ病院に、ってのは」

巫女「ど、どうしてっ!」

巫女「お婆ちゃんが、大変なんですよ!?行かなきゃ!」

叔母「大声出さないで頂戴!うるさいわね!」

巫女「だって、お婆ちゃんがっ!死んじゃうかもしれないのに…っ」

少年「…ぶっちゃけさ」

少年「僕、お婆ちゃんに会ったことないし…。二次試験もあるし」

叔父「そうだな。うーん…」

叔母「いいのよ、少年。心配しないで。いく必要はないわ」

巫女「!?」

叔母「やっとくたばるのね、あの女…」

巫女「…え」

叔母「ああ、せいせいするわ。悪魔の巫女が母だなんて、世間体が悪かった。やっと死ぬのね」

巫女「…」

叔母「ほんっとに嫌だったわ。葬式だけ執り行いましょう。遺産問題もあるし…」

巫女「…っ」

叔母「何よ、その目」

巫女「……」ギュ

叔母「だあって、本当のことじゃない!私だけ巫女の力が無いだの爪弾きにして、妹だけちやほやして」

巫女「…」

叔母「憎たらしいったらありゃしない。その妹の子どもにも汚い血が流れてるなんて。ぞっとする」

巫女「…」

少年「くす。そうだった、君も巫女だったっけ。あはは、おかしいな」

叔母「とにかく看取りは行かないわ。誰が行くもんですか」

巫女「…せめて、私だけでも」

叔母「嫌よ。都に行くだけでいくらかかると思ってるの?居候のあんたにそんな大金使えないわ」

巫女「…そん、な」

叔父「まあ諦めろ。子どもは黙ってるんだ」

巫女「……」

叔母「そんなことより、早く洗濯を終わらせなさいよ!いい加減にして!」

巫女「…」

バタン

悪魔「お、また来た」

巫女「…」スタスタ

悪魔「おい?無視か」

巫女「……」ザッザッ

黒猫「あやや、今日もあの悪魔が掃除はしてたんだよ」

巫女「…」

悪魔「ああ、だから今日もすることは特にねーんだよ」

巫女「…じゃあ、帰ります」

悪魔「は?おい、何だよその態度」

巫女「…」スタスタ

悪魔「待てっての!」グイ

巫女「…っ」

悪魔「なんだ、お前…」

悪魔「泣いてる、のか」

巫女「…っ」ポロポロ

黒猫「あー。悪魔があんまり酷いこと言うから泣いちゃった」

悪魔「は?お、俺か?」

黒猫「絶対そうでしょー。かわいそうに」

悪魔「おい、そ、そうなのか?」

巫女「…」フルフル

悪魔「ちげーじゃねーか!適当抜かすな!」

黒猫「ありゃ。じゃあどうしたの?」

巫女「…ばあちゃんが、」

悪魔「は?ババアが?」

巫女「…死んじゃうううう…!!」ポロポロ

悪魔「はぁあ?」

悪魔「…そうか」

巫女「…っ。あん、まり、だよ…」ヒックヒック

黒猫「わぁお…。魔物の僕たちもドン引きなんですけど」

巫女「嫌だっ…。私、どうしても会いたい、のにっ…」

黒猫「うーん、僕は見ての通り猫のフォルムなわけだし。連れていこうにも、ねえ」チラ

悪魔「…」

巫女「…っ、お婆ちゃんっ…」ポロポロ

悪魔「あー!うっせえ!泣くな!」ダン

黒猫「お、お?」

悪魔「ビービー泣いてるんじゃねぇよ!連れて行きゃいんだろ、連れてきゃ!」

巫女「…!い、いいの?」

悪魔「都なんて…すぐだ、すぐ!俺の羽だったら!」

黒猫「えー悪魔くん、そんな長距離飛べるのー?」

悪魔「余裕じゃボケ!」

巫女「…本当にいいの?」

悪魔「しょうがねえからな!これ貸しだぞ!」

巫女「…ありがとう。悪魔さん!」

巫女「今日は少年さんの二次試験があるから、家の人は出払ってるの」

悪魔「ほお」

巫女「だから、一日空けても大丈夫…なはず」

悪魔「バレたらやばいんじゃねえの、それ」

巫女「…怒られてもいい。命の方が大事」

悪魔「はあ、立派なことだねぇ」

黒猫「ちょいちょい、悪魔」

悪魔「…んだよ」

黒猫「今、都には他の魔物がいっぱいまぎれてるよ。注意しなきゃ」

悪魔「マジかよ。何でだ」

黒猫「最近狩人が活発なんだよね。地方のも身を隠したり情報交換するために、都に集まってるんだよ」

悪魔「…だる」

黒猫「あの子のためだとはいえ、危険だから。気をつけて」

悪魔「はあ?狩人や他の魔物を俺が怖がるわけねえだろ」

黒猫「ま、そうだよね」

バサッ

悪魔「あーあ、事前に言えば通路を作ったのによお」

巫女「ごめんなさい。迷惑かけて」

黒猫「いいのいいの。どうせこいつ暇なんだし」

悪魔「お前途中落ちてもしらねえからな」

黒猫「ぼ、僕たち親友でしょ!?」

悪魔「奴隷と下僕だろ。行くぞ、つかまれ」バサ

巫女「はいっ!」

黒猫「え、ちょ、待」

ビュッ!

悪魔「…っと」ヒュン

巫女「うわ、やっぱり早いですね!」

黒猫「ごめん、ちょっと失礼しまおぼろぅうおおうええ」ビチャビチャ

巫女「黒猫さん!?大丈夫!?」

悪魔「チッ、貧弱な奴」

巫女「あ、悪魔さん。できるだけ早く帰ってきますんで、門の外で…」

悪魔「はあ?何で俺が都の外で待ちぼうけ食うわけ?」

巫女「で、でもその恰好じゃ…」

悪魔「用は角と翼とシッポ隠せばいいんだろ」シュウウ

黒猫「あとその悪人面どうにかしなよ」

悪魔「…」ドゴッ

巫女「暴力はだめです!やめて!!」

黒猫「おえええええええええ」キラキラ

悪魔「おら、さっさと行くぞ無能どもが!俺は早く帰りたいんだよ!!」

ザワザワ

巫女「やっぱり、首都は違いますね…」

悪魔「きょろきょろすんなよ、田舎くせぇぞ」

巫女「う、は、はい」

黒猫「…」クンクン

黒猫(人も多いけど、違うのも多いね)

悪魔(それぐらい分かる)

黒猫(気をつけて、巫女ちゃんの力に群がるのもいるかも)

悪魔(ほんっと、手がかかる奴だな…)

黒猫(紳士はレディを守るものでしょ!)

巫女「…あ、ここです。都立病院」

悪魔「おー、ババアのツラも久しぶりに拝むな」

巫女「…」ギュ

黒猫「大丈夫だよ、あの人結構しぶといし」

巫女「…うん」

看護婦「ここです」キィ

巫女「は、はい。ありがとうございます」

悪魔「そう緊張すんなって」

巫女「う、うん。わかってる」

ガチャ

祖母「…」

巫女「…お婆ちゃんっ!」タッ

祖母「…うん?」

巫女「お婆ちゃん、分かる!?私よ!」ギュウ

祖母「おお、巫女か…」

巫女「いいの、そのままで!体に障るわ」

祖母「来てくれたのかい…。ありがとうねぇ…」

巫女「ううん、ううん…。今までお見舞いできなくてごめんね…」フルフル

黒猫「…やっぱ、ちょっとピンチっぽい?」ボソ

悪魔「ああ。生気が薄い。そろそろだな」

黒猫「…あの子、独りぼっちになっちゃうよ」

悪魔「…」

巫女「お婆ちゃん、私ね、話したいこといっぱいあるの…」

祖母「そうかい…。おや、そこにいるのは…」

悪魔「よお耄碌ババア。ついに目までやられたか」

祖母「その憎たらしい声。悪魔だね」

黒猫「可愛い担当黒猫もいまーす」

祖母「おお、おお。まさか魔物に見舞われるとは」クックッ

巫女「あのね、悪魔にここまで送ってもらったんだよ」

祖母「ほおー。随分丸くなったものだね」

悪魔「…うっせーなババア」

悪魔「…どうなんだよ、体は」

祖母「ふふふ、医者の言うことなんざ信用しないさ。なぁにが危篤だよ」

黒猫「…」

巫女「そうなの?大丈夫なの?」

祖母「ああ、勿論。こんなところでくたばるかね」

巫女「…っ。お婆ちゃん…」ギュ

悪魔「…外すぞ」グイ

黒猫「う、にゃあ!」



巫女「それでね、私…」

祖母「そうかい。ふふふ…」

悪魔「…駄目だな。ババアは死ぬ」

黒猫「残酷なこと言うねぇ」

悪魔「事実は何ら変わらない。今夜が山だ」

黒猫「そう…」

悪魔「くだらない…人間の耐久力の無さにはヘドが出る」

黒猫「でもあの子、お婆ちゃんの言葉を信じきっちゃってるよ」

悪魔「アホだからな。祖母ともども」

黒猫「…あの子の支えだったのに」

悪魔「…」

黒猫「嫌だなあ。長生きなんかするものじゃないよ。人の死に目なんか見たくない」

悪魔「事実は、変えられん」

黒猫「…僕」

悪魔「甘いな。お前はそれでも魔物のはしくれなのか」

黒猫「残念なことにね。そうみたい」

悪魔「…はん」

黒猫「せめて、今だけは…。二人きりの時間にしてあげてるんだね、悪魔」

悪魔「違う」ムス

黒猫「…そ」

祖母「…叔母たちの姿がないようだが」

巫女「あ、後で合流する約束なの」

祖母「そうかい。ところで、封印はどうだい?」

巫女「…んー、順調、なのかな」

祖母「順調じゃないか。悪魔の吐く暴言の数だけ、あんたは奴と近しいのさ」

巫女「あの人、やっぱり変。本当に魔物なの?」

祖母「そうさ。魔物さ。ご先祖様が塔に封じるまでは、とんでもないワルだったそうだよ」

巫女「ふーん…」

祖母「けどね、あいつは本当は寂しいだけなんだよ。傍に巫女がついているから、ああやって角がとれたのさ」

巫女「そっか」

祖母「…ん」

巫女「私、都に住みたいな」

祖母「どうしてだい?」

巫女「だって、お婆ちゃんと一緒にずっといられるから」

祖母「…町にいるのは辛いかい?」

巫女「ううん、全然!楽しいよ!けど、お婆ちゃんだけがいないと心に穴が開いてるみたいなの」

祖母「そうかい…。すまんねえ巫女」

巫女「いいのよ。それより、早く良くなってね」

祖母「それより、腹が減ったろう。もう夜中だ、食堂で何かおあがり」

巫女「え、もうそんな時間なの」

祖母「ほら。お小遣いをあげるから、あの口の悪い悪魔どもを連れて行っておやり」

巫女「ありがとう!」

ガチャ

黒猫「だーかーら、ナースの魅力はあのスカートの短さあってのものなんだって」

悪魔「…はぁ」

巫女「二人ともっ。ご飯食べに行こう」

悪魔「お、病床のババアから金巻き上げるなんて、お前もやるな」

巫女「お小遣いだってば…」

黒猫「あー僕お腹ぺっこぺこ。魚料理くいてー」

黒猫「にゃぐにゃぐ」ガツガツ

巫女「…ほんっとに、安心した」

悪魔「…ほお」

巫女「てっきり私…もうお話も出来ないくらい衰弱してるのかと思った」

悪魔「目は弱ってるようだが、口は達者だな」

巫女「そうなの。お婆ちゃん、やっぱり元気だ」

悪魔「…」モグ

巫女「町の病院に移ってくれたら…いいのにね」

悪魔「はあ?ババアが巫女になるってことかよ、マジ勘弁だ」

黒猫「それ猛烈に反対」

悪魔「てめーは部外者だろうが!」

黒猫「婆ちゃんはいい人だけど、目の保養にはならないもの」

巫女「そ、それどういう意味」

黒猫「うふふー」

悪魔「…」

悪魔「…」ピク

黒猫「あ」ピク

巫女「ん、どうしたの二人とも」

黒猫(…今のかんじ、分かる?)

悪魔(ああ)

バタバタ

看護婦「…ここにいましたか!巫女さん、ですね!」

巫女「は、はい」

看護婦「祖母さんの容態が急変しました!急いで病室まで来てください!」

巫女「…!」

黒猫「…」

悪魔「行くぞ」

巫女「うそ、なんで。どうして…」

医師「祖母さん、祖母さん聞こえますか?」

巫女「…っ、お婆ちゃんっ!」

祖母「…」

巫女「お婆ちゃん大丈夫!?ねえ、どうしちゃったの!?」

医師「大声を出さないでください。冷静に」

巫女「せ、先生…っ。お婆ちゃん、どうして」

医師「強い発作が起こっています。危険な状態です」

巫女「そ、それ。それって」

医師「…もう手は尽くしました」

巫女「…」

巫女「うそ、ですよね」

医師「…申し訳ありません。もう」

巫女「…」ポロ

巫女「嫌。そんなの、いや…」フルフル

医師「…」

巫女「お願いです、もっと治療を…」

医師「できません。患者を苦しめるだけです」

巫女「…っ」

医師「どうぞ、傍にいてあげてください」

巫女「…おばあ、ちゃんっ…」ギュ

巫女「いやぁ…。死んじゃ、いやだよお…」ポロポロ



黒猫「…どうするの」

悪魔「…」

黒猫「…もうやだ。人って何でこう簡単に死ぬの」

悪魔「…」

黒猫「あの子の泣く声、聞きたくないよ…」

悪魔「…」

黒猫「悪魔?」

悪魔「黙ってろ。今考えてんだ」

巫女「…お願い。死なないで。一人にしないで…」ギュ

祖母「…」

看護婦「心拍が低下しています…!」

医師「…」

巫女「嘘。嘘だ。いやっ…」

医師「…お孫さん、もう」

巫女「…あ」

看護婦「…心音がありません」

医師「ご臨終です」

巫女「…」

巫女「…は」

巫女「…おばあ、ちゃ…」



「い」

「おい」



「おいっ!!聞こえてんだろうが耄碌ババア!!」

「ああ、もう耄碌とかそんなレベルじゃねえな。お前は死んだんだからよ!」

「孫を置いて逝く気分はどうだ?自分の仕事を押し付けたままよ」

「え?おい、ババア!あいつが幸せな家庭で暮らしてるとでも思ってたか!?」

「残念、真逆だ!家ではあんたのひん曲がった娘一家にイビられて」

「塔では意地悪な魔物の小間使いだ!こんなの地獄だろうがよ!」

「あいつをこんな風にしたのもお前の責任だろうがよ、クソババア!逃げてんじゃねぇ!」

「あいつには…」

「あいつにはな、もうお前しか支えがねぇんだよ!」

「残酷なことをするな!今逝ってみろ、あいつはどうなる?」



「どうにもならねぇ、か。はん。人間ってのは無力なもんだ」

「お前にどうしようもねぇなら、俺がどうかしてやるよ」

「勘違いすんな。これはあいつのためでも、お前のためでもない」

「俺のためだ」

悪魔「…」

黒猫「…」ソワソワ

悪魔「…チッ。だる」

黒猫「うおお!戻ってきた、よかった!」

悪魔「たりめーだ。俺を誰だと思ってんだ」

黒猫「あ、あんたねぇ!これって結構ヤバいんじゃないの?」

悪魔「一度離れた魂は悪魔か天使のモンだ。俺のほうがひっつかむのが早かった。それだけだ」ムク

黒猫「なんちゅー理屈だよお…。で、上手くいったの?」

悪魔「さあ。どうだろうな」

ガチャ

巫女「…」フラ

悪魔「おう、ババアどうだよ」

巫女「…んだ」

悪魔「あ?」

巫女「死んだ」

黒猫「…!」バッ

黒猫(だだだだだ駄目じゃん!あんたどうすんの!?)

悪魔「…」

悪魔「本当にそうか?もっかい確認してこいよ」

巫女「…ふざけないで」

悪魔「あ?ふざけてねーよ。ババアしぶといからな、生き返ってるかもしんねーだろ」

巫女「…っ」ギリ

悪魔「マジで」

黒猫「悪魔っ!いい加減に…」

「うわああああああ!?」

巫女「!」ビク

黒猫「…病室から、悲鳴?」

悪魔「…」

巫女「…っ、どうしたんですか?!」ガチャ

医師「は、そ、そんな。そんな…」

祖母「…ふぃー。死ぬかと思ったわ」

巫女「」

黒猫「」

悪魔「よお、お帰りババア」

祖母「ただいま、悪魔」ニタリ

医師「ど、どうして。確実に脈も止まって…」

悪魔「勘違いだったんじゃないスかねー」

医師「し、しかし…」

巫女「…」

悪魔「おう、ババア帰ってきたぞ。良かったなブス」バシッ

巫女「…」

悪魔「呆けてねぇで、再会のハグでもしろよ」

巫女「…おばあ、ちゃん」

祖母「あはは、あんたを置いて行けないものねぇ。ごめんね、心配かけて」

巫女「…っ」ギュウ

巫女「…ふっ…」

祖母「よしよし。駄目なババアでごめんよ」

巫女「うわぁあああ……っ」ポロポロ

黒猫「…」グシ

悪魔「みっともねーな、何が泣けるんだか」

黒猫「おまっ…お前、マジ…これで泣かないとか…」グシグシ

悪魔「はん」

祖母「…悪魔よ」

悪魔「あんだよ死に損ない」

祖母「ありがとよ。心から感謝する」

悪魔「…」

悪魔「何言ってんのババア。頭のほうは治ってねーな」

祖母「…」ニヤリ

悪魔「ふん。せいぜい養生せーよ」

黒猫「…か」

黒猫(かっけええええええええええええええええ)

悪魔「あー、疲れた」

黒猫「あんたと親友でよかった。感動と興奮をありがとう」

悪魔「は?」

……


巫女「えっと、結局昨日の臨死が何だったかは分からずじまいなんだけど」

悪魔「へー不思議なこともあるもんだなー」

巫女「精密検査が必要だから、しばらくは入院しなきゃいけないんだって」

黒猫「ありゃ。退院はできないのか」

巫女「そうらしいの。けど、十分よ。生きてるだけでいいの」ニコ

黒猫「ええ子や…」ホロリ

悪魔「けっ、ブリっ子が」

黒猫「あんたもな…」ポン

悪魔「だから何が?」

巫女「二人とも、長くつき合わせちゃってごめんね。疲れたでしょ」

悪魔「尋常じゃないくらいな」

巫女「私、飲み物買ってくるね。ちょっと待ってて」タタタ

黒猫「はぁ。どうなるかと思ったけど、結果オーライだね」

悪魔「ん」

「ありがとうございましたー」

巫女「あちち」タタタ

ドンッ

巫女「う、わ!?」

男「…」

巫女「すすすすみません!こ、零しちゃいましたか!?」

男「いや、こちらこそぶつかってすまない」

巫女「私が走ってたのが悪いんです!ごめんなさい…」

男「怪我は?」

巫女「無いです!」

男「…」ジッ

巫女「あ、あの」

男「ここは人通りが多い。気をつけていくんだよ」

巫女「はい。ありがとうございます。では」ペコ

男「…」

悪魔「遅い」ズズズ

巫女「ごめんなさい、コーヒーショップが混んでて…」

悪魔「言い訳はいいんだよ。ってか何だこの苦い汁は。砂糖とミルクは?」

巫女「ええ、っと。すみません忘れました」

悪魔「うわ、ありえねええ!この無能女!」

黒猫「…甘党だったんだ」ペロペロ

悪魔「いやそんなことはない」ズズズ

悪魔「…」グッ

巫女(あ、苦そうな顔してる…)

悪魔「それよりお前、結局病院に泊まったけど、よかったのかよ」

巫女「え?」

黒猫「叔母さん怒らないかなって」

巫女「…」

巫女「あああああああ!!」

悪魔「バッカだなー」

巫女「どうしましょう、絶対怒られる…」

悪魔「ざまあみろグズが。天罰だな」

巫女「い、急いで帰りましょう!ね!」

悪魔「こき使うなぁ」コキコキ

巫女「は、早く早く!」


バサッ バサッ

巫女「…ふふ、気持ちいい」

悪魔「あっそ」

黒猫「下は見ない見てはいけない見たら駄目だ」ブツブツ

悪魔「…」クン

巫女「うひゃー、たかいー」

悪魔(ん、何だこの匂い)

悪魔「おい、何か匂わないか」コソ

黒猫「え、まさか僕の…なんでもない。何もしてないよ僕」

悪魔「なんか、悪いにおいだ。魔物みたいな」

黒猫「それお風呂入ってないあんたの」

悪魔「…」

黒猫「あ、もう…。いい子にしてますから、安全運転でお願いします」

バサバサ

悪魔「んで、大丈夫なのかよ」

巫女「う、大丈夫ではありませんけど」

黒猫「僕が上手いことやってみようか?叔母の頭に花瓶落とすとか」

巫女「駄目ですよ!…私、本当に平気です。慣れてますし」

悪魔「ほお」

巫女「送ってくれてありがとうございました。じゃあ、また明日」タタタ

黒猫「ばいばーい」フリフリ

悪魔「…ふう」

黒猫「お疲れダークヒーロー」

悪魔「その呼び方今度したら、追い出すからな。さっさと帰るぞ」

黒猫「はーい」

巫女「…」

巫女「ファイト…」

ガチャ

叔母「!」

巫女「た、ただいま帰りました…」

叔母「何処に行ってたのよ!あんた!」

巫女「う、その。あの」

叔母「…っ」

ギュ

巫女「え」

叔母「心配かけて…!帰ってこなかったらもう、私どうしたらいいか…っ!」

巫女「…」

叔母「どこにいたのよ?もう、答えて!」

巫女「お、お婆ちゃんの病院にいました」

叔母「そう…。ああ良かった、帰ってきてくれて…」

巫女(な、なんなのだ)

叔父「おお巫女!心配したぞ!」

少年「巫女、おかえり!」

巫女(えええ…?)

黒猫「うわ、きっしょ」

悪魔「…」ペラ

黒猫「なあにあの家族、手のひら返しちゃってさ」

黒猫「変なのー。て、聞いてる?」

悪魔「ああ」ペラ

黒猫「あ、新聞だー。都で手に入れたの?」

悪魔「おう。狩人の状況が載ってないかと思ってな」

黒猫「シェルター持ちでも心配なのね…。ああ、僕これからどうしよう」

悪魔「そろそろ魔女サバトの時期だろ。移動しなくていいのか」

黒猫「うえー。そっかそんな時期かー。やだな、僕もうちょっとここにいたい」

悪魔「大迷惑だな」

黒猫「だよねえ。二人っきりになりたいもんねえ」

悪魔「殺すぞ」

黒猫「わおストレート」

悪魔「…狩人の活動はここ最近派手じゃないようだぞ」

黒猫「そりゃ都市部に集中してるからね」

悪魔「腑抜けが多いからだ。魔物に挑もうとする男なんか、中々居ないってことだ」

黒猫「うわほんとひで」

悪魔「…反対に、北方の魔物は調子にのってるようだな」

黒猫「ああ、人攫いが多いらしいね」

悪魔「はん、人間なんて攫って何になるんだか」

黒猫「そりゃあ、ほら。色々だよ。ピュアなあんたには分からない…」

悪魔「…目障りだな」バサ

黒猫「もはや聞いてくれない」

黒猫「てかねてかね、あんたの水晶見てたら、すっげー気色悪い光景が見えたんだけど」

悪魔「おい、風呂と着替えの覗きはしねぇ約束だろうが!」

黒猫「違う!見てよほら!」

悪魔「…あ?」

「巫女、洋服を買ってきたわよ」

「巫女、今日は私が庭掃除をしよう」

「巫女、勉強教えてあげようか?」

悪魔「んじゃこりゃ、きもちわりぃ」

黒猫「ねぇ?猫なで声で、みこみこ~。なにこれ」

悪魔「目が覚めたんじゃねぇの、あいつが消えて」

黒猫「えええ!そうかなあ」

悪魔「良かったんじゃねーの?ババアも生き返ったし、叔母は改心したし」

悪魔「面倒ごとが少なくなって万々歳じゃねーか」

黒猫「なんっか怪しい」

悪魔「勝手に疑ってろよ。俺はもう眠い」ゴロン

黒猫「あ、僕も昼寝するー」ゴロン



巫女(…おかしい、これはおかしい)

叔母「巫女~」

巫女「は、はい」

叔母「今日のご飯はビーフシチューよ~。好きでしょう?」

巫女「えっと、まあ…」

叔母「おほほほ、たくさん食べなさいね」

巫女「はい…」ニコ

叔父「お、今日の夕飯はビーフシチューか」

叔母「巫女の好物なのよ、あなた」

叔父「おおそうだったな。巫女、よかったな」

巫女「は、はい」

少年「はい、お皿」カチャ

巫女「あ、配膳は私が…」

叔母「いいのよ。あなたは座ってなさい」

巫女「で、でも私はいつも通り後で食べ…」

叔父「なぁに言ってるんだ!家族なんだから同じ食卓を囲まなきゃな!」

叔母「そうよそうよ!」

巫女「…」

巫女(…おいしい)

叔母「ほら、このトマトも美味しいわよ。今朝市で買ってきたの」

巫女「ありがとうございますっ」

巫女(…美味しい。楽しい)

巫女(皆でご飯食べるのって、こんなに楽しいんだ。嬉しいんだ)ギュ

叔母「ふふふ、たくさん食べなさいね、巫女」

巫女「はい!」ニコ

巫女(…かぞく)

巫女(家族って、いいな。あったかいな…)


巫女「…ふー」

叔母「巫女、お風呂はどうだった?」

巫女「あ、すごく気持ちよかったです。ありがとうございます」

叔母「そう。じゃあ、少し私達とお話をしましょうよ」

叔父「…」ニコ

巫女「はい!」

叔母「思えば、私達はあなたにキツく当たりすぎていたのね」

叔父「そうだなあ。情けないことだ」

巫女「いえ。そんなことないです」

叔母「こんなにいい子なのにねぇ…。ごめんね、今まで」

巫女「いいんです!私、逆に迷惑かけてばかりで」

叔母「まあ。ふふふ」

巫女「うふふ」

叔母「…でも、もうそんな迷惑も終わるわ」

巫女「…え」

叔母「昼頃ね、政府からあなた宛に手紙が届いたの。読んで頂戴」スッ

巫女「せいふ、手紙?」

叔父「いいから読むんだ」

巫女「…」ピラ

巫女「…拝啓、巫女の保護者殿」

巫女「…北の城に住む魔物が、巫女を嫁取りに指名しました」

巫女「…え?」

叔母「分かるわね、巫女」

巫女「わかんない、です」

叔父「かいつまんで説明すると、北の魔物が町でお前を見初めたそうでな」

叔父「政府にお前を嫁として差し出すよう、書状をよこしたそうだ」

叔母「北の魔物は強力でね、政府も是非私達に要求を呑んでほしいと言ってきたの」

巫女「よ、め?でも、私まだ」

叔母「17歳でしょう!何も問題はないわよぉ」

叔父「そうだぞ!政府からの要求を断るのか?」

巫女「…」

巫女「そ、そんな。ちょっと待ってください」

叔母「何、嫌なの?」

巫女「だって私…無理です!」

叔父「お前に拒否権があるのか?」

巫女「…!」

叔母「ああ巫女、あなたが行ってしまうなんて寂しいわ。けどこれは政府からの達し。しょうがないことなのよ」

巫女「塔の封印の仕事があります!嫁になんて行けません!」

叔母「塔?ああいいのよ、お母さんが回復してるらしいじゃない?お母さんに任せましょう」

巫女「そん、な」

叔母「とにかく政府には同意の手紙を出しておいたわ。っていうか、それしかないじゃない」

叔父「国のためだと思って、しっかりお役に立つんだぞ」

叔母「詳しいことはまた明日説明するわね。じゃ、おやすみ」

バタン

巫女「…」

巫女「…」

巫女「…何かの、間違いよ」ピラ

巫女「…あ」ペラ

巫女「…そっか」

巫女「私がお嫁に行ったら…少年さんは、試験に合格できるよう手配されるのね」

巫女「叔父さんは…昇進できるんだ」

巫女「お金もこんなに、もらえるのね」

巫女「…」

巫女「皆、幸せになるんだね…」

巫女「…」ポロ

巫女「…」ゴシ

巫女「…っ」

ガチャ

悪魔「…ぐごー」

黒猫「…」スピスピ

「…」

悪魔「誰だ」

巫女「ひっ…」ビク

悪魔「ああなんだ、お前か。どうしたこんな夜中に。迷惑なんだが」

巫女「え、えへへ。ごめんなさい!ちょっと会いたくなっちゃって」

悪魔「はぁ?」

巫女「あはは、変だよね。ごめんなさい」

悪魔「お前が変なのは通常通りだろうがよ。馬鹿か」

巫女「うん…」

悪魔「で、何」

巫女「なんでもないの。本当」

悪魔「…」

巫女「あの、さ」

悪魔「何だよ」

巫女「悪魔さんは、北の魔物に会ったことある?」

悪魔「ん。ああ、あるな」

巫女「そうなんだ…」

悪魔「しかし北といっても範囲は広いぞ。色々なモンがいるな」

巫女「城に…住んでる魔物は?」

悪魔「ああ、知ってる。ジンのことか」

巫女「どんな魔物なの?」

悪魔「はん。頭の悪い低俗な魔物だよ。いけ好かない奴だね」

巫女「そう…」

悪魔「あいつのねぐらは古城なんだが、まあ清潔とは程遠いな。俺は入りたくもないな」

巫女「…」

悪魔「それがどうかしたか?」

巫女「ううん、なんでもない」

巫女「…」

悪魔「暗くてよく見えないが、お前」

悪魔「また泣いてたりするか?」

巫女「ううん、全然」

悪魔「ほお。ならいいんだが」

巫女「あはは、私ね、叔母さんたちにすっごくちやほやされたんだよ。嬉しいくらい」

悪魔「ガキだな。んなもん裏があるに決まってるだろうが」

巫女「…」

悪魔「おい、どうした?」

巫女「…私、今日はここで寝る」

悪魔「はあ?おいふざけんな。場所がねぇよ」

巫女「床でいい。ここで寝ます」

悪魔「おい、ちょ、馬鹿」

悪魔「…チッ。おい黒猫、ちょっと詰めろ!」

黒猫「え?かつおぶし?」

悪魔「放り出すぞこの汚猫!おら、どけ!」

黒猫「うー…」

悪魔「ほら、このせっまい隙間で良かったら寝ろよ。床にいられても歩行の邪魔だ」

巫女「…ありがと」

巫女「…黒猫さんが居た所、あったかい」

悪魔「馬鹿は体温が高いからな」

巫女「ふふ。悪魔さんもあったかいよ」

悪魔「ああん?」

巫女「…私、家族とかでこうやって固まって寝てみたかったの」

悪魔「お前…家族どころか他人の魔物だぞ」

巫女「いいの。私にとっては家族みたいなものだもの」

悪魔「…」

悪魔「心外だな」ムス

巫女「おやすみなさい、悪魔さん」

悪魔「眠るように死んでくれ、小娘」

巫女「ふふ。…」ポフ

悪魔「…」

巫女「…」スゥ

悪魔「寝んの早…」

黒猫「はよー」ゴシ

悪魔「おお」

黒猫「なんだろう、昨日すっごく…いい夢を見た」

黒猫「美少女の胸に抱かれて眠る夢…。すっげえリアルだった…」

悪魔「あーそう」

黒猫「心なしか良い匂いまでしたし…なんだったんだろうあれ…」ポワーン

悪魔「…」



ガチャ

巫女「こんにちはー!」

黒猫「おお、こんちはー。ハイテンションだね」

悪魔「うっざ」

巫女「さあ、今日もお掃除しますね!」

巫女「他にやることあったら、ばんばん言ってくださいね!」

悪魔「…」

巫女「ふんふん」カチャカチャ

黒猫「どうしたんだろうね、彼女」

悪魔「さあ?いいことでもあったんだろ」

黒猫「そうみたいね」

巫女「ふんふーん」フキフキ

悪魔「…」

黒猫「でもなんか、ちょっとザワザワする」

悪魔「…」

悪魔「ああ」

巫女「…っと、家事全部終わりです!」

黒猫「おつかれー」

悪魔「…」

巫女「…えっと、皆さんちょっといいですか?」

黒猫「お、なになに」

巫女「大事なお知らせがあります。しっかり聞いてください!」

悪魔「大事なお知らせぇ?」

悪魔「はん、まさかもうここには来ないとかか」

巫女「正解です、悪魔さん!流石鋭いねぇ」

悪魔「は」

黒猫「え」

巫女「諸事情により、私の巫女のお勤めは今日までです!お世話になりました」ペコ

悪魔「は、いや、何言ってんだ。お前が居ないと封印にならねえだろ」

巫女「そこで登場するのが回復お婆ちゃんです!引継ぎは来週あたりになりますけど」

悪魔「マジで言ってるのか?は?」

黒猫「え、ちょ。チェーンジ!ババアチェーンジ!」

巫女「すみません、本当です」

悪魔「何でだよ!何の前触れも無く辞めるとか良い度胸してんなコラ」

巫女「…えっとです、ね」

巫女「私、北の地方に行くことになりまして」

黒猫「北ぁ?こりゃまたどうして」

巫女「諸事情、です」ニコ

悪魔「北…?」

悪魔「…」

悪魔「はん」

巫女「ど、どうかしましたか悪魔さん」

悪魔「嫁取りだろ」

巫女「!」

悪魔「よりにもよってお前が、あのジンの嫁になっちまうとはなぁ。傑作だぜ」

黒猫「ジ、ジン?ジンってあのジン?え??」

悪魔「そうそのジン。聞けよ、こいつジンの…嫁になるんだってよ!あーはっはっは!」ドンドン

黒猫「わらえねえええええ!巫女ちゃん駄目!ジンは駄目だ!」

悪魔「くひゃひゃひゃひゃ!!」ドンドン

黒猫「あんた怖い!笑い方めっちゃきもい!」

巫女「…何かおかしいですか?」

悪魔「お前みたいなガキが一丁前に魔物の嫁に行くなんてよお…。マジ傑作」ニヤニヤ

巫女「私、ガキじゃないです。17歳です」

悪魔「ガキだガキ。俺らからすりゃあ、赤ん坊同然だ」

巫女「…」

悪魔「お前にゃ荷が重過ぎるよ。やめとけあめとけ。あー、おっかしー」

巫女「決定事項ですから」

悪魔「はあ?」

巫女「もう政府にも返事を書きましたし、明日の昼には出発します」

黒猫「オーマイガ…」

悪魔「それ、本当か?」

巫女「はい。もう花嫁衣装もあります」

悪魔「…断れ」

巫女「どうして?」

悪魔「言っただろうが。お前に魔物の嫁なんざできっこない」

巫女「どうして言い切れるんですか?」

悪魔「お前の性格上、そう思うんだ。無理無理」

巫女「…」

巫女「嫁取りなんかしたことないくせに、あなたには分かりませんよ」

黒猫「わお」

悪魔「ああ!?んだとこの女!」

巫女「とにかく私は行きます。今までありがとうございました」

悪魔「て、めえ…」

黒猫「駄目だよ巫女ちゃん!本当に納得したの!?」

巫女「…うん」

巫女「家から出たいなって思ってたし。丁度いいの。これで」

悪魔「おい待て、今からでも断っ…」

巫女「さようなら、二人とも。今まで本当に楽しかった」ガチャ

悪魔「お、い…」

バタン

黒猫「…あーあ」

悪魔「…」

悪魔「黒猫、水晶!」

黒猫「合点!」サッ

悪魔「何が納得だ!あの女ふざけやがって!」

「…巫女、準備をしておきなさいね」

「はい、叔母さん」

バタン

「…っ」

「ぐすっ…ひっ…」

悪魔「ほおおおおおら!やっぱ泣いてんじゃねーか!面倒くっさ!」バンバン

黒猫「うわあ可哀相、もはや人身御供だよ」

悪魔「だから言ったんだよ!魔物の嫁取りなんて成功するはずねーだろ!」

悪魔「幸せなはずねーだろ!馬鹿かあの脳内花畑は」イライラ

黒猫「何か今日…いつにも増してイライラしてますね」

悪魔「うっせえ!」

「…巫女は?」

「準備してます。ふん、大人しくなったものね」

「流石に覚悟を決めたんだろうさ、ははは」

「けど政府の出してきた報酬…。あんなに貰っていいのかしらねぇ」

「ははは、あれで都に家でも買うか!少年も晴れて都の学校通いだもんな!」

悪魔「…なるほど。大人の黒い陰謀が渦巻いてるってか」

黒猫「うわあ、吐きそう。こいつら魔物より魔物っぽい」

黒猫「んで、どうする?」

悪魔「…」

巫女「…っ。ぐすっ…」

巫女「悪魔…黒猫…婆ちゃんに会えなくなるなんて、やだよ…」

黒猫「ちょっとこれは…ねぇ」

悪魔「あいつがいなくなったら、ババアの封印に逆戻りだ」

悪魔「ババアの魔力なんざ信用できねー。これは全力で阻止するしかねぇな」

黒猫「なんか、一生懸命理由探してない?」

悪魔「行くぞ!」グイ

黒猫「あっ、待って心の準備ができてない!アッ!」

バサッ

黒猫「アッーーーーーーーーーーーーーー!!!?」

今日はここまでにしときます!
お付き合いありがとう

=北の地 古城

黒猫「うううぉえれおおあおあ」キラキラ

悪魔「きったねえ!外に出すな、飲み込め!」

黒猫「無茶いうなおうろろろろ」ビタビタ

悪魔「ったく、早くしろっての」

黒猫「ふう、スッキリした」ゴシ

悪魔「ほんじゃ、行くぞ」

ギィイ…

骸骨「おい、待ちな!」

インプ「お前は誰だ!何勝手に入ってる!」

悪魔「俺は悪魔だ。ここのボスと知り合いなんだが」

黒猫「そうそう。入れてくださいな」

骸骨「あくま…?」

インプ「悪魔って、あの塔に封印されてる…?」

悪魔「そうだ」

骸骨「お、お通りください!」

インプ「失礼しましたぁ!」

黒猫「お~…流石キャリアは違うね」

悪魔「当たり前だ。何年生きてると思ってるんだ」

ジン「おお、悪魔に黒猫ぉ!」

黒猫「やっほージン、久しぶり」

悪魔「よお」

ジン「どうしたんだ急に!ええ?懐かしいなぁ、200年振りくらいかぁ!」

悪魔「まあそんくらいだな。暫く見ない間にすっかり偉くなったもんだな」

ジン「へへへ、今じゃ俺っちも一城の主よぉ。部下も増えたんだぜぇ」

黒猫「へぇえ…僕らが塔でニートしてる間に、そんなことが」

ジン「お前らはどうなんだよぉ?最近、何かやったかぁ?」

悪魔「何か?」

ジン「町を襲ったり、災害を起こしたりだよぉ。やらないのかぁ?」

黒猫「まあやろうと思えばできるけど」

悪魔「疲れるからやりたくはないな」

ジン「ぶははは!悪魔さんもすっかり丸くなったもんだな!塔暮らしで牙が折れたか!」

悪魔「…」ピキ

黒猫「深呼吸、悪魔、深呼吸」

ジン「俺っちも最近嬉しいことがあってなぁ」ニヤニヤ

悪魔「おう、知ってるぜ」

ジン「なら話は早い!俺っち、お嫁さんを迎えることになったんだぜぇ!」

黒猫「…1239人目のね」ボソ

ジン「いやぁ、多くのお嫁さんを迎えてきたが、あの子以上に素敵な女の子はいないぜぇ!」

ジン「俺っちはもうメロメロよ。もうあの子一人だけを愛すつもりだぜぇ」ウットリ

悪魔「ほお。そいつをどこで見初めたんだ?」

ジン「都よぉ!しかも2日前だぜぇ。人ごみの中あの子とぶつかったんだ。はあ…運命的な出会いだったぜぇ」

悪魔「ほお」

ジン「もう一目ぼれよ。急いで政府に書状を出したら、あいつらビビってすぐ娘を寄越すって言ってくれたんだぜぇ」

黒猫「そいつは羨ましい」

ジン「お前らも長く生きてるんだぁ、そろそろ嫁を取ってみろよ!女はいいぜぇ」

黒猫「珍しく同意。女の子ほど良いものはないよね」ウンウン

悪魔「意味不明だな。邪魔なだけだ」

黒猫「無理しちゃって」

ジン「はふぅ…。もう胸が張り裂けそうだ」

黒猫「ほうほう」

ジン「あの子がいれば、俺っちはなーんもいらない。ああ…待ち遠しいぜぇ」

ジン「もう式の準備も整えてあるんだぞぉ。お前らも来るか?」

黒猫「ん、いや、まぁー」

悪魔「…」

黒猫(どうすんの悪魔、あいつ今までにない執着具合だけど)

悪魔(まあ話してみるしかねぇだろ)

黒猫(交渉に応じてくれる頭があるとは思えないけどぉ?恋は盲目だよ?)

悪魔(まあ待てって。普段どおりにしてろ)

黒猫(うーん、分かった)

悪魔「そんなにその女のことが恋しいのか」

ジン「ああ好きさ!ぐふふ」

悪魔「しかしジンよ、お前が娶ってきた女はわりかし早く死ぬな」

ジン「そらそうよぉ。俺っちの魔法をかけるからなぁ」

悪魔「ほお。魔法?」

ジン「ほら、人間って早く歳をとって醜くまっちまうだろ?俺っちはそれが許せんのさぁ」

ジン「花嫁を長く美しくするためには、魔法をかけてやるのが一番なのさぁ」

黒猫「げ…。それってまさか、一番綺麗な時に体内時計を止めちゃうってこと?」

ジン「その通りさぁ。ババアになったら元も子もないしなぁ」

悪魔「しかしそれは人間の体には負担が大きすぎるんじゃないのか?」

ジン「そうさな。もって10年ちょいだなぁ」

黒猫「オウ…まじかよ…」

悪魔「…」

ジン「その10年の間に、色々…ぐふふ…するんだよ。短い間だがな、とーっても楽しいぞ」

黒猫「こ、これは…」

悪魔「そうか。ふん、お前らしいな」

ジン「ぐふふ。今度の嫁は魔力があるから20年は耐えれるだろうよぉ。楽しみ楽しみ」

悪魔「…」

黒猫(予想してたよりずっと酷いや)

黒猫(あの魔法はヤバいよ~。死ぬ時なんか見てらんない。酷い物だ)

悪魔(そうだな。並みの苦しみじゃないと聞く)

黒猫(しかも20年、苦しい魔法に縛られて、外にも出れない、毎晩毎晩魔物の相手…って)

悪魔(…)

黒猫(あんまりだねぇ)

悪魔「なあ、ジンよ」

ジン「なんだぁ、悪魔?」

悪魔「ちょっと話があるんだが」

ジン「おぉ?なんだぃ改まって」

黒猫「えへへ、大事な話なんだ」

悪魔「…少し頼みごとがあってな」

ジン「お前が頼みごとぉ?珍しいこともあるもんだなぁ」

悪魔「ああ。単刀直入に言う」

黒猫「え」

悪魔「嫁取りを中止しろ。今すぐにだ」

ジン「ふぁ?」

黒猫「出たよお得意の悪魔節!ネゴシエーションスキルが無さ過ぎる!」

ジン「何を言ってるんだぁ。やめねぇぞぉ」

悪魔「駄目だ、やめろ」

黒猫「あわわ、悪魔ぁ!頼み方がおかしいよぉ!」

ジン「何だお前…ちょっと生意気だぞぉ…」

悪魔「だからこうやって下手に出てやってる。嫁取りをやめろ」

黒猫「下手に出る(下手に出るとは言ってない)」

ジン「……ほぉおお?」

ジン「俺っちの恋路を邪魔しようってのかぁ?許さんぞぉ」

悪魔「はん、恋だぁ?笑っちゃうね、女の意思は無視なくせに」

ジン「俺っちみたいな大魔物の嫁になれるんだぞぉ!光栄じゃないかぁ!」

悪魔「俺が女なら舌を噛み切ってやるね」

悪魔「醜悪で、下品で、力でねじ伏せることしかできない脳筋野郎に、だれが嫁ぎたいと思うんだ?なぁ?」

黒猫「だめだこいつ…もはや交渉ではなく喧嘩売ってる」

ジン「なんだとぉ、貴様ぁあ!」ダン

黒猫「うわわわ、ジン!落ち着いてよ!」

悪魔「やんのか、三下」ズイ

黒猫「お前ぶん殴るぞゴルァアアアア!!!黙ってろぉおお!」

ジン「悪魔…!無礼だぞぉ、許さん!」

黒猫「待ってってばジン!これには深い事情があんだよぉ!」

ジン「…事情?」

黒猫「じ、実はあんたが嫁にしようとしてる女の子は、こいつの封印を司る巫女なんだ!」

ジン「へ?悪魔の?」

黒猫「そう。あの子がいなくなったら色々不都合が生じるというか、なんというか」

ジン「そうなのか?」

悪魔「ああ。あいつがいないと封印が曖昧になる。俺の体にダメージが来ちまう」

ジン「…」

黒猫「だから、嫁取りは中止にして欲しいんだ…。この通り!」ペコ

悪魔「…頼む」

ジン「…」

ジン「そうか、あの匂いはお前だったんだなぁ」

悪魔「は?」

ジン「あの子の体に纏わりついてた魔物の匂い…お前のとそっくりだった」

ジン「そうか、お前が…」

黒猫「…あ、なんか」



ジン「あの子をたぶらかした魔物だったんだなぁああああああああ!?」ドン

黒猫「ええええええええええええええええ」

悪魔「どうしてそうなる」

ジン「ふざけるなぁあ!俺っちの嫁だぞぉおお!」ブン

黒猫「いやぁああ!?落ち着いてジン!誤解だ!こいつは何もしてない!」

ジン「あの子の純潔は俺っちのもんだぁああ!!死ねぇええ!」ドゴッ

悪魔「うお。おいジン、気持ち悪い想像はよせ」

ジン「うおおおおおおおおおっ!殺す!殺すぅう!」ブンブン

黒猫「ヤバイって悪魔、逃げよう!こいつメンヘラばりの被害妄想してる!」

悪魔「馬鹿だな、お前は」

黒猫「へ?」

ジン「死ね悪魔ぁあああああ!」ブン

黒猫「悪魔っ!あぶな…」

ドゴッ

悪魔「…」

悪魔「先に手を出してきたのは、お前のほうだからな」

黒猫「…あ」

黒猫「ああ、そういうことね」

……


ギャァアアアアアア!!?

骸骨「ん」カクン

インプ「おい、今何か聞こえなかったか?」

骸骨「やっべ、寝てたわ」

インプ「ボスの部屋からだぞ。何かあったんだろうか?」

骸骨「さぁ…?」

ガチャ

悪魔「…ふんふーん」スタスタ

黒猫「ああ、久々に良い運動したー」

骸骨「お、お帰りですかっ!」ビシッ

黒猫「はい、お邪魔しました~」

インプ「お気をつけて!」ビシッ

悪魔「あ、おい。ボスがお前たちを呼んでたぞ」

黒猫「行ったほうがいいよ。できるだけ早めに」

骸骨「は、はっ!」

ギィイ…

骸骨「ボスが呼んでるんだとさ」

インプ「あーだりぃー。行こうぜ」

ガチャ

骸骨「ボスー?何かご用…」

インプ「…ひっ」





ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!?

悪魔「よし、全速力で逃げるぞ」

黒猫「アイアイキャプテン!」

ジン「」

骸骨「どうしたんですかボス!?生きてますか!?ボスゥウ!」ガクガク

インプ「落ち着け!息はしてる!早く回復役を呼べ!」

骸骨「わ、分かった!」バタバタ

ジン「…」コヒューコヒュー

インプ「う、動いちゃだめです!」

ジン「…ろ」

インプ「え?な、なんです?」

ジン「…いましゅぐ…ちゅうし、しろ」コヒューコヒュー

インプ「ちゅ、中止?何をですか?」

ジン「…よめ、とりだ…!」

ジン「」カクッ

インプ「ボス!?ボスーーーーーーーーーー!!!」

>>1
前にスレ立てたことある?

>>176 SSはちょこちょこ書いてたりするよ

巫女「…」

「えええええ!?」

巫女「!」ビク

叔母「ちょ、何かの間違いでしょ!どうしてよ!」

叔父「なんてことだ…」

巫女「あ、あの…?」

叔母「巫女!…チッ、残念ね嫁取りは中止よ」

巫女「は?」

叔母「北の魔物が襲撃されたんですって。その影響で嫁取りは無しよ」

巫女「…ほ、本当ですか」

叔母「なんてこと…っ。少年の進学はどうなるのよっ」

叔父「政府め…!昇進も取り消すって言っているぞ」

巫女「…」

叔母「何を突っ立ってるのよ!あっちへお行き!忌々しい!」

巫女「は、はい」

「北の古城の魔物、何者かから襲撃」

「昨日未明、北の古城に住む魔物が何者かに襲撃される事件が発生」

「魔物はこれに影響され、嫁取りを中止。なお、襲撃者の顔は覚えていないと話す」

悪魔「…新聞沙汰になったか」

黒猫「まあしょうがないね。狩人かなにかと勘違いしてくれると嬉しいんだけど」

悪魔「まああいつも懲りたろ。どっちが上かすら忘れていたからな」ピラ

巫女「悪魔さん!黒猫さん!」

黒猫「おやおや、救われた少女登場」

悪魔「おう何だおめー。嫁入りしたんじゃなかったのかよ」

巫女「それが破談になったんです!北の魔物が大怪我をしたとかで」

悪魔「ほおーん。そりゃあ良かったな。魔物もこんな地雷ブス踏まなくて済んだわけだ」

巫女「あはは、これからもよろしくお願いします」ペコ

黒猫「うんうん、良かった良かった」

巫女「それにしても、魔物を襲った人は誰なんでしょうか。狩人ならきっと止めを刺すのに…」

悪魔「アレじゃね、本当は自分で階段から落ちただけだったとか」

黒猫「あーそうだね多分それだ」

巫女「…?」

少年「え、進学取り消し…?」

叔母「え、ええ」

少年「…けど二次試験の結果がまだあるでしょ?」

叔母「それが、その」

少年「…まさか」

叔母「落ちてたのよ…」

少年「そ、そんな!嘘だ!」

叔母「ごめんなさい、あの子娘…っ。きっと何か機転を利かせたに違いないわ」

叔母「そうよ!全部あの魔性が悪い!!貧乏神めっ…」

少年「ぼ、僕…。どうしたら…」

叔母「大丈夫よ、少年。ママが何とかしてあげるからね」

少年「ママぁ…」

叔母「そうよ、あいつさえ大人しく魔物のモノになったら…。皆幸せになれるのよ!」

巫女「おはようございます」

叔母「巫女、こっちへいらっしゃい」ニコ

巫女「な、なにか?」

叔父「これを見てみなさい」

巫女「…政府からの、手紙ですか」

叔母「前回の嫁取りの破談、あれは残念だったわねぇ」

巫女「え、と」

叔母「けど大丈夫よぉ。私がかけあって、こんなに嫁取りの募集を集めてきたの」

巫女「…!」

叔父「こんなにあるんだから、きっともう前回のような不幸は起こるまいよ」

巫女「わ、私…」

少年「行けよ!」

巫女「し、少年、さん?」

少年「あんたがこの家にいるから皆不幸なんだ!あんたなんかさっさと魔物の奴隷になってしまえ!」

叔母「そうよ」

叔父「うむ、そっちのほうが巫女として幸せなんじゃないのか?」

叔母「結局巫女なんて魔物のための奴隷。人並みな人生なんて歩めないわ」

叔母「だからせめて、良い魔物をあてがってあげる。ね?」

巫女「…」

叔母「私って親切でしょう?あなたは政府の、私達の役に立てるのよ?」

巫女「…私」

巫女(わたし、って)

巫女「…なんなんだろう」ボソ

叔母「さぁ、この書状に目を通していきましょう。選び放題じゃない!」

巫女「……」

悪魔「…100通以上?」

黒猫「これはまずい。まさか人間側が巫女ちゃんを積極的に売りに出すとは思わなかった」

悪魔「おいおい、あの叔母とかいうやつか」

黒猫「そう。北のほうが破談になっちゃった!息子たんの進学、夫の昇級、政府からの官舎金がチャラになった!」

黒猫「あ、そうだ!他の魔物にあてがっちゃえば良いんだわ!厄介払いもできてホクホクね!」

悪魔「…」

黒猫「おっそろしい頭だよ」

悪魔「つくづくあいつも嫌な親戚を持ったものだな」

黒猫「…で、どうする」

悪魔「100以上、か。…」

黒猫「いちいち回りこんで潰すってのも、さあ」

悪魔「不可能ではない。…リスクが甚大なだけで」

黒猫「だよねええ!僕たち他の魔物から白い目で見られちゃうよ」

悪魔「…なにしろ派手なことばかりしたら狩人に目をつけられる」

黒猫「これもうお手上げ状態じゃない?詰みだよ詰み」

悪魔「…大体な」

悪魔「あのブスが一言嫌です、って言えば済む問題じゃないのか?」

黒猫「そんなんで今更解決しないさ」

悪魔「やってみなきゃ分かんねえだろうが」

黒猫「でも」

悪魔「あいつは無抵抗すぎる。自分の人生を自分でコントロールできないんだ」

黒猫「環境が悪すぎるもの」

悪魔「はあ?環境ぉ?全部自分の生い立ちのせいにして、メソメソ泣いて解決すらしようとしないのか?」

悪魔「立派なこったねー!まるでお姫様みたいだね」

黒猫「悪魔っ。何言ってるんだよっ」

悪魔「知るか!面倒くせぇ、俺は愛想が尽きた」

黒猫「ええ!?」

悪魔「何であんな根暗のために俺たち魔物が尽力してんだ?馬鹿らしい」

黒猫「い、いやだってそれは」

悪魔「お前はあいつに気があるんだろうがよー。俺は全く興味がないんだよ」

黒猫「…は?」

悪魔「…俺は悪魔だ!人間のメスガキのお守り係じゃねぇ」

黒猫「じゃあ何、放っておくわけ?」

悪魔「あいつがそれを望んでるんだろうがよ!抵抗しねぇってことは」

黒猫「そんな訳ないじゃん!冷静になってよ悪魔!僕たちしかあの子を助けられない!」

悪魔「うっわ、きっしょ…」

悪魔「お前は本当に優しいお猫ちゃんだねー。そんなにあいつを助けたいんなら、一人でやったら?」

黒猫「…っ」

悪魔「ほんっともう無理。だるい。俺は関係ない」ゴロン

黒猫「あんた、マジで言ってるの?」

悪魔「俺は何時だって本気だ」

黒猫「…そ」

黒猫「じゃあ僕がどうにかする」

悪魔「おー立派立派」

黒猫「もうここには戻ってこないかもしれないけど、一つ言わせて」

悪魔「なんだよ子猫ちゃん?」

黒猫「…この捻くれ悪魔っ!そうやって一生塔の中でうじうじしてろ!」ピョン

悪魔「…」

黒猫「死ね!!!」タタタ

悪魔「そっちがな!!」

悪魔「…ふん」

悪魔「いい子ぶりやがって、馬鹿じゃねぇの」

悪魔「…」

「…私、行きます」

「今まで迷惑かけてごめんなさい。幸せになってください」

悪魔「おい、お前」

悪魔「俺はな、言いたいことも言えない弱虫なんか大嫌いだ」

悪魔「お前にはヘドが出そうになる。他人の幸せばっかり願いやがって。気色悪い」

「…っ。少年さん、お勉強頑張ってね」

悪魔「どうして笑える?相手はお前を地獄に送ろうとしてんだぞ?」

「…」

悪魔「…馬鹿だな」

黒猫「はぁ、はあ…」タタタ

黒猫「よし、これで12匹目…」

黒猫「あ、あはは。案外僕一人でなんとかなるじゃん」

黒猫「あの天邪鬼がいなくても、全然平気だ」ヨタ

黒猫「…早くしなきゃ。巫女ちゃん、待っててね」タタタ

ヨロ

黒猫「…」ハァ

黒猫「…っ」

ドサ

悪魔「…」ムク

悪魔「ふぁ…」

悪魔(うおー、久しぶりに良く寝たぜ。3日は寝てたな)

悪魔(…巫女は来てないか。嫁入り準備かっこ笑いが忙しいからか?)

悪魔(黒猫は…いないか。ふん、すぐ音を上げるだろ)

悪魔「…っと」ノビー

悪魔「で、黒猫の成果はどうなってんだー?」ヒョイ

「…巫女!準備できたの!」

「はい、叔母様」

悪魔「…」

悪魔「ん?」

悪魔「何であいつ花嫁衣裳着てんの?似合わないな」

「南の神殿の魔物は大人しい娘が好みなのよ、余計なこと喋らないで黙って輿に乗りなさいね!」

「はい」

悪魔「…黒猫め。グズが」

悪魔「あーあーあー。どいつもこいつも俺が居ないと何もできないんだな」

悪魔「…お。輿に乗るみたいだな。出荷される豚みてぇ」

「…」

悪魔「南、ってことは塔の近くを通るんだな」

悪魔「はん、ガキの最後の晴れ舞台でも冷やかしてやるか。お可哀相に」バサッ



巫女「…ん」

巫女(塔が見える…。こことももうお別れなんだ)

巫女(最後にお別れ…言いたかったな。けど、叔母さんが外に出してくれなかったし)

巫女(…ごめんね、二人とも。ばいばい)

巫女(南の神殿には、あの二人のような優しい魔物はいるのかしら)

巫女(…それともやっぱり、あの二人は特別なのかな)

ギシ 

巫女(…あの入り口。小さい頃は汗だくで上ったな)

巫女(鍵を開けてくれなくて、何時間も外で待ってたこともあったし)

巫女(…けど、悪魔は私が本当に疲れてるときは、おぶって上まで運んでくれた)

巫女(もう来るな、なんていうけど、ちゃんと送り届けてくれた)

巫女「…」ポロ

巫女「…あ」

バサッ

巫女(塔の頂上から、何か飛んでくる…?)

巫女(…まさ、か)

バサッバサッ

悪魔「…」バサッ

巫女「…悪魔っ!?」

御者「うわぁああ!ま、魔物だぁ!?」

護衛「ひ、こっちに来るぞ!」

悪魔「…っ」スタッ

悪魔「はいそこの輿、ちょっと待った」

護衛「ひぃいいいい!?あ、悪魔だぁああ!」

御者「来るな、来るなぁああ!」ブンブン

悪魔「うっせーな野郎には用はねーんだよ。どけ!」ドン

護衛「う、おっ…!」ゴロ

巫女「…!」

ギシ

悪魔「よお花嫁ちゃん。出荷される気分はどうだ?」ギシ

巫女「…な、なんですかそれ」

悪魔「塔から見てるとよ、精肉場に連れてかれる家畜みたいに見えんだよ」ニヤ

巫女「出荷、ね」

巫女「ふふ、そうかもしれない」クス

悪魔「で、今度はどこの嫁になるわけ?」

巫女「南の海にいる魔物。深海に神殿があるんですって」

悪魔「ほーん。豚からジュゴンに格上げされるのか」

巫女「…うん、そう。今度こそさよならだよ」

悪魔「おお、そうかそうか。清々するぜ」

巫女「…輿から降りて。時間に遅れちゃうわ」

悪魔「そう焦るなよ、ブス」ギシ

巫女「ちょ、っと。何っ…」

悪魔「お前、本当にこれでいいのか?」

巫女「…え」

悪魔「知ってるだろ?お前の叔母一家は金と地位と引き換えに、あんたをドナドナすんだぜ」

巫女「…」

悪魔「お前はそれでいいの?幸せなの?」

巫女「私に幸せになる資格なんてない」

悪魔「何言ってんだ、このマゾ豚はぁ?」

巫女「だって、そうでしょう?」

巫女「私に…決定権なんて無いの。いつだってそうよ」

巫女「私、家から出れるだけでも幸せ。それであの人たちが救われるなら、それでいい」

悪魔「…自己犠牲、ってやつか。寒すぎて鳥肌立つぜ」

悪魔「お前はいっつもそうだな」

巫女「そうね」

悪魔「本当の気持ちを誰にも言わないんだ。かわいくねぇ女」

巫女「あなたに言われたくない」

悪魔「…」

巫女「あなただって、そうでしょ」

悪魔「じゃあ俺が素直になってやろうか」

巫女「…は?」

悪魔「だからお前も素直になるんだ。自分の言いたいことを言え。やりたいことをやってみろ」バサッ

巫女「なに、言って」

悪魔「…」スゥー

悪魔「行くな!!!巫女!!!」

巫女「…!」

巫女「ち、ちょっと何。どうしたの」

悪魔「行くな!!嫁になんか行くな!!」

巫女「ねぇ、悪魔!?」

悪魔「ここにいろ!行くな!!」

巫女「…う」

悪魔「…これが俺の純粋な気持ちなんだが、どう?」

巫女「どう、って」

悪魔「はい次はお前の番」

巫女「…」



あの魔物はねぇ、素直じゃないの。けど、人一倍優しい心の持ち主なんだよ

そうなの、お婆ちゃん?

そう。だから巫女、案外人間より悪魔のほうが頼りになるのよ



悪魔「おい、どうなんだ」

巫女「…私は」

つらい時は、悪魔のところにお行き

巫女「…」

あいつがきっと、あんたの助けになる

悪魔「…」

人に言えないことも、悪魔になら言ってみなさい。悪魔はあんたを見捨てない。きっと、見捨てない

巫女「…私」

悪魔「おう」

巫女「…たくない」

悪魔「あー?聞こえねぇよ!でけぇ声で言え!」

巫女「…っ」ギュ



巫女「行きたくない!!助けて、悪魔っ…!」ポロポロ

悪魔「…」

悪魔「おう」バサッ

護衛「は、花嫁が…!」

御者「お、おい何とかしろ!あの悪魔を追い払ってくれ!!」

悪魔「…手出せ!掴れ!」バサッ

巫女「う、うん!」ギュッ

悪魔「…っ、おらぁ!」

ドガッ

御者「ひっ、こ、輿が…!」

護衛「まずい、逃げるぞ!花嫁が攫われる!!」

悪魔「うるせぇ!もうこいつは花嫁でも何でもねーよ!ただのブスだ!」バサッ

巫女「あははは!すごい、悪魔すごいっ」

悪魔「おめぇは笑ってないでちゃんと掴れ!落ちるぞ!」

巫女「ひゃー!高いよー!あはは!」ケラケラ

悪魔「さっきまで鼻水垂らして泣いてたくせに!」

巫女「あははっ、あははは!」

悪魔「ちゃんと首に手回せ!速度上げるぞ!」

巫女「ねぇ、これから何処行くのー?」

悪魔「お前の家!」

巫女「ええ!?」

悪魔「てめぇのイカれた保護者どもに説教垂れてやる!」

巫女「ちょ、それは困るんだけど!」

悪魔「知るかぁああ!お前は悪魔に助けを求めたんだ!俺の好きなようにやる!」

巫女「えええええ!」


バサッ

悪魔「ここですかー!魔物に娘を売ったキチガイ一家のいるお宅はー!」

ガシャン!

巫女「うわわわ!」

叔母「ぎ、ぎゃあああ!?魔物、魔物よおおお!」

叔父「ひ、ひっ…!?」

少年「マ、ママぁあああ!」ガタガタ

悪魔「言いたいことは色々あるがー…。俺は虫ケラとは意思疎通してやれないほど高尚な魔物なんで」

悪魔「実力行使で制裁を加えてやるわ!!おら、そこのババア来い!」グイッ

叔母「いやぁあああ!?」

巫女「お、お願い悪魔!穏便に!」

悪魔「ブスは喋るな!おいババア、こいつが厄介払いできてさぞ嬉しいだろうな!」

叔母「ひ、ひっ…」

悪魔「政府からの汚い金で都でマダムライフを送ろうって魂胆か!ヘドが出る!」

叔母「ゆ、ゆる…許して…」

悪魔「いーや許さないね!!俺はてめぇみたいなクソ女が大大大…っ嫌いなんだよ!」

悪魔「シケた一家だぜ!くだらねぇ、お前らごときが幸せになれると思うなよ!」

叔父「ひ、ひぇ…」

悪魔「いいか、今すぐすべての縁談の書状を燃やせ!さもないと俺がこの家に火をつけてやる!」

叔母「わ、わかりましたぁ…!あなた、はや、早くして!」

叔父「う、うう…」

叔母「早くしなさいよっ!!」

悪魔「そこのクソガキ!」

少年「ひっ」ビク

悪魔「親に似てひでぇツラだな!育ちの悪さと品の無さがにじみ出てるぜ!」

少年「…あ、あ…」

悪魔「いいか、この先不正をしてエリート街道が歩めると思うなよ?お前みたいなズルだけが特技の奴なんざ…」ガシ

少年「ぎゃああああああああ!!」

悪魔「あー…」アグ

叔母「少年!いやああ!食べないでぇええ!!」

悪魔「…ひひっ。こうやって魔物のエサになるのがオチだぞ。分かったか?」ガチン

少年「ひ、あ、…」ヘナヘナ

悪魔「んでダメ親父!書状は全部燃やしたか!?」

叔父「だ、暖炉に全て入れましたぁ!!」

悪魔「あっそ。んじゃあ、ご褒美にこれをくれてやるよ」ポイ

叔父「え、あ…」

悪魔「拾え」

叔父「は、はいい!」バッ

悪魔「…っ」ダン

叔父「い、ぎゃあああ!痛い!痛いぃい!」

巫女「や、やめて悪魔!足をどけて!」

悪魔「おい、痛いか?ん?」ギリギリ

叔父「い、だ…い!痛い!」

悪魔「あいつはその何っ倍も痛い、苦しい思いをして生きてきた!こんなの屁でもねぇ!」ギリギリ

巫女「…!」

悪魔「お前の手の中にある手紙。読んでみろ」スッ

叔父「は、ひぃ…!はいぃ…!」

叔父「よ、嫁取り…。悪魔の嫁に、巫女を選ぶ…っ」

巫女「え」

悪魔「そういうわけだ!これを政府に送りつけろ!んでお前らは汚ねぇ感謝金でワイワイ暮らせ!」

悪魔「代わりにこいつは俺が貰っていく。二度とこいつに近寄るんじゃねぇ。破ったら…分かるな?」

叔父「はいっ…!」

悪魔「おお、いい返事だ。負け犬らしくていいねぇ」

悪魔「それじゃあ皆さん、邪魔したな。精々後ろめたい余生を這いつくばって過ごすんだな」

悪魔「巫女、行くぞ」グイ

巫女「う、うん」

バタン

叔父「…」

叔母「…」

少年「うっ、ううっ…」ジョワァア…

バサッ バサッ

巫女「…あの」

悪魔「んだよ」

巫女「…えっと」

悪魔「用件は手短に言え!俺は久々の大立ち回りで疲れてんだ!」

巫女「…」

悪魔「めんどくせ…何だよもう」

巫女「わ、私今日から塔に住むの?」

悪魔「他に行く所ねーだろ。そうだ」

巫女「…よ、よめ…」

悪魔「あぁん!?」

巫女「な、なんでもない」

悪魔「チッ…」

巫女「…」

バサッ

悪魔「はい到着ー。ドナドナ娘の新居でーす」ポイ

巫女「うわ、う」ドサ

黒猫「ぶみゃっ!!?」

巫女「ひっ!黒猫さん!ごめんなさい!」

悪魔「おー黒猫。帰ってきてたのか」

黒猫「ごほごほ…。う、そうだよ」

悪魔「んで、何処行ってたんだ?」

黒猫「嫁取りの魔物の所を一軒一軒回って、交渉してたんだよっ」

黒猫「で、でもあと一匹のところで力尽きて休息をとるために…その」

悪魔「嘘つけ。お前の力じゃ20がいいところだろ」

黒猫「う、うるさいっ!僕はもともと戦闘特化型じゃないもん!」

巫女「…何の話?」

黒猫「…巫女ちゃん!?無事だったの?え?」

悪魔「もう嫁取りうんぬんは心配しなくてもいいぞ。ご苦労だったな子猫」

黒猫「え??」

黒猫「どういうこと?巫女ちゃん」

巫女「…」

悪魔「…あー」

黒猫「え、限りなく悪い予感がする。まさか、まさか」

悪魔「俺が嫁取りした、んだよ」

黒猫「」

悪魔「い、いやでも苦肉の策っつーか」

黒猫「ごめんちょっと頭が追いつかない」

悪魔「形だけだ!誰がこんなブス嫁にするか!ってか、嫁なぞいらん!」

悪魔「こいつのババアが回復したら、こっちに越してもらって面倒見させりゃいいだろ」

黒猫「ああ、つまり偽装結婚で巫女ちゃんを叔母からはぎとった訳か」

悪魔「そういうこった」

巫女「そ、そうなの?」

悪魔「あったりめーだろ!殺すぞ!」

黒猫「なんだ、安心したぁー」

巫女「…」

黒猫「だよねぇ、こんな畜生の嫁になるんなら、まだジンのほうが」

グシャ

黒猫「あぎゃああああ!!」

黒猫「まあ何はともあれ良かった良かった」

悪魔「おー」

黒猫「…安心した。じゃあ、僕は行くね」

巫女「え?ど、どこに?」

悪魔「あー。サバトか。準備があるもんな」

黒猫「そうなのー。今年は不参加かなって思ってたけど、巫女ちゃん問題も解決したし」

黒猫「今すぐ都に向かって合流するよ!んじゃあね」

巫女「大丈夫なの?」

黒猫「大丈夫大丈夫!すぐ帰ってくる!」ピョン

悪魔「二度と帰ってくるな」

黒猫「…あ、そうそう。塔で二人っきりだからって変なことすんなよ、悪魔」

悪魔「オラァアア!」ブン

黒猫「うおおお!あぶねっ!逃げろぉおお!」ダダダ

悪魔「はぁ、はぁ…。脳みそあんのかあいつ…」

巫女「あはは、仲良しですね」

悪魔「はあ?どこがぁ?」

悪魔「…ったく」

巫女「悪魔さん」

悪魔「なんだよ」

巫女「本当に、ありがとうございました」ペコ

悪魔「…何だよ改まって。きもちわる」

巫女「私、ちょっと自信つきました!これからは言いたいこと、ちゃんと伝えますね」

悪魔「…あっそ」

巫女「悪魔さん、ありがとう」ニコ

悪魔「…」フイ

巫女「ふふ」

悪魔「…お、おお。まぁ、良かったな」

巫女「はい!」

ちょいおちます

巫女「…んーっ」ノビ

悪魔(…勢いでここまでつれてきたのはいいものの)

悪魔(俺はとんでもないことをしてしまったのかもしれん)

巫女「どうしたんですか、悪魔さん?水、きもちいいですよ」パシャ

悪魔「おめーは遊びに来たんじゃなくて洗濯しに来たんだろがよ」

巫女「ち、ちょっとくらいいいじゃないですか」

悪魔「何か調子に乗っているようだが、お前が奴隷であることに変わりはねぇんだぞ」

巫女「む。奴隷じゃないです、私は巫女です」

悪魔「はん。物は言い様だな」バシャ

巫女「うわっぷ。ちょ、何するんですかっ」

悪魔「あひゃひゃひゃ!無様無様!」

巫女「このっ」バシャ

悪魔「おおおお!?お前、羽はやめろ!飛べなくなるだろうが!」

巫女「先に仕掛けてきたのはそっちです!」バシャ

悪魔「てんめえええええ」バシャバシャ

巫女「あはははっ!つめたいっ」

悪魔(…あいつ、あんな大きな声で笑えるんだな)

巫女「…ねえ、悪魔さん」

悪魔「…んだよ」ビショ

巫女「悪魔さんって、どうして塔の中にいるの?」

悪魔「は?んなもん、説明したろ。お前のクソ祖先のせいなんだって」バチャ

悪魔「おー…やっと乾いてきた。お前あとで覚えとけよ」バサ

巫女「じゃあ、どうして祖先に封印されちゃったんですか?」

悪魔「…嫌なこと聞くな、お前」

巫女「嫌なことなんですか?」

悪魔「ああ、思い出したくもねぇ」

巫女「…」

悪魔「やめろ、目をキラキラせせてんじゃねーよ」

巫女「聞きたいですっ。お願いしますっ」

悪魔「だー、分かった。ちょっと長い話になるぞ」

巫女「はい!構いません!」ニコ

悪魔「…ずっと昔の話だ。お前のひいひいひい……ばあさんの代の話」

悪魔「その当時俺は、純粋な悪魔だった」

巫女「純粋な、悪魔?」

悪魔「ああ。他の魔物と一緒だ。災害を起こし、村は襲った。わりかし有名な悪だった」

巫女「想像もつきませんね」

悪魔「そうか?…俺はそうやることが楽しいと思ってた。身に余る力を抑えることができなかった」

悪魔「ある日、なんとなく強い魔力に惹かれてこの地域にたどり着いた」

悪魔「絶大な力を持つ、巫女が守る地域だった。俺は決めた」

巫女「…なにを?」

悪魔「巫女を食おう、と」

巫女「…え」

悪魔「あの力を取り込めば、俺はもっと強くなれるはずだったからな」

悪魔「巫女を食らい、力を奪って、そこの地域すら手中にしようと思った。実際、たやすいことだった」

巫女「ひえ…」

悪魔「俺は巫女のもとに行った。よぼよぼのばあさんだったがな」

巫女「私の、ご先祖様?」

悪魔「ああ。お前には似ず優秀なババアだったがな」

……


悪魔「やい、ババア!」

先祖「…」

悪魔「俺は先週西の大地を凶作にしてやった悪魔だ!へっへっへ、怖いか!」

先祖「なんだいこのチビは」

悪魔「…チ」

先祖「悪魔だぁ?あはは、気配が薄すぎて気づかなかったよ。どこぞのガキかと思ったね」

悪魔「なんだとぉお!?」

先祖「んで小悪魔、何か用かい?」

悪魔「ふ、ふはは。ここに来たのは言うまでもない。お前を食らい、俺の血肉とするためよ!!」

先祖「ババアなんか食っても美味しくはないよ。どっかよそへお行き」

悪魔「そうはいかねぇ!お前を殺し、俺は一層強くなってやる!」

悪魔「覚悟せよ人の子!あーっはっはっは!」バサッ

先祖「…」ブン

バキィ

悪魔「い、いだぁああ!!」

先祖「何てこったい、伸張したハエたたきが折れちまった」

悪魔「目が!目がぁあああ!」

悪魔「こんのババアあああ!」バッ

先祖「こらこら、およし!」ブン

バシッ

悪魔「うぎゃああ!!?」ゴロゴロ

先祖「あんた…何やってんだい。こんなんじゃ私はくたばらないよ」

悪魔「ぜぇ、ぜぇ…!」

先祖「早くどこかお行き。大丈夫、水に流してやるから」

悪魔「…こんのぉおお!」

先祖「…ったく、面倒だね」スッ

バチィ

悪魔「」

先祖「ふぅ、結界なんて張ったのは久しぶりだね」パンパン

悪魔(…ころす。ぜったい、ころしてやる…)ガク

悪魔「…俺は驚愕したね。あんな鶏がらに負けるなんて思わなかったからな」

巫女「悪魔さんも弱かった時期があったんですね」

悪魔「俺が弱かったんじゃねぇ!てめぇの先祖がめちゃくちゃだっただけだ!」

巫女「そうなんですか?」

悪魔「そうだっ!…俺は最終的に結界で家から追い出された」

悪魔「その後もババアを付けねらっていたが、奴は全く隙が無かった」

悪魔「奇襲をかけてみても返り討ちにされるだけだったな」

巫女「…」

悪魔「何ニヤニヤしてんだ?殺すぞ」

巫女「し、してませんよ!続きをどうぞ!」

悪魔「…チッ。長い間ねばったが、ババアを食うことはできなかった。それよか、最悪の事態がおこったんだ」

悪魔「村の住人が狩人に俺の存在をチクりやがった」

巫女「え、ええ!狩人に!」

悪魔「一応懸賞金も出てた悪魔だったからな、奴らは飛びついてきた」

悪魔「やいババア、今日こそ…」

ガサッ

悪魔「…」

悪魔「誰だ、お前?」

悪魔「出て来い!俺に何の用だ!」

ザザザッ

狩人「…」

狩人「お前が悪魔か」チャキ

悪魔「…か、狩人…!」

狩人「政府からお前の討伐命令が下った。大人しく死ね」

悪魔「…っ!」バッ

狩人「逃がすかっ」チャキ

ドン!

悪魔「…がっ…!」ドサ

先祖「…なんだい、うるさいねぇ」

悪魔「…う」

狩人「この土地の巫女か。丁度良い、止めの結界を張ってはくれないか」

先祖「はぁ?何私に命令してんだい、あんたは…」

先祖「はん、狩人か。政府の回し者が、ここぞとばかりにデカい顔しおって」

狩人「早くしろ。この悪魔は害ある魔物だ。駆除しなければならない」

悪魔「…っ、ぐ…」

先祖「…」

先祖「ふん、こんなガキを討ったって寝覚めが悪いだけだね」バッ

狩人「なっ、…!」

先祖「あんたが出て行きな!汚い足で巫女の聖域を汚すんじゃないよ!」

狩人「ぐっ、正気か!?」

先祖「でてけぇええええ!!」

悪魔「…」

先祖「腕がやられてるようだね。情けない」

悪魔「…やめろ。さわる、な」

先祖「黙れ!あんたの血で庭が汚れるんだよ!」パァ

悪魔「…。悪魔の俺に回復魔法なんかかけて、どうする」

先祖「いいからお黙り」

悪魔「何で助けた」

先祖「さぁ、何でだろうねぇ」

悪魔「俺は…あんな狩人ごときに」

先祖「ボコボコにやられてたくせに、よく言うよ!来な!」グイ

悪魔「お、おいちょっと!」



先祖「…この塔にいれば安全だよ。しばらくここに留まりなさい」

悪魔「…嫌だと言ったら?」

先祖「あんたに拒否権なんかないよ!狩人の目がなくなるまで、ここにいなさい!」

先祖「でなきゃあんた、次は間違いなく死ぬよ」

悪魔「…」

先祖「いいね、私が塔に魔力を注いで結界を張る」

悪魔「ふん。いらない」

先祖「この地域さえ出なきゃ、あんたは安全だ。いわば封印だね」

悪魔「な、なんだと!やめろ!俺は…」

先祖「お黙りっ!はっ!」

悪魔「やめろぉおおおおおお!」


先祖「どうだい、ここの居心地は」

悪魔「…最低だ」

先祖「はん、敵が防げて寝食ができる場所があるだけでも、上等さ」


先祖「…今日はいい天気だね」

悪魔「お前は何で毎日来るんだよ。めざわりだ」

先祖「おや、だって一人ぼっちは退屈だろうし。第一お前の世話をしてやらないといけない」

悪魔「二度と来るな、ババア!!!」

悪魔「…狩人の様子はどうなんだよ」

先祖「さあ?まだいるんじゃないかねぇ」

悪魔「早くこの忌々しい土地から出て行きたいもんだぜ」


先祖「…ふう、ふう」

悪魔「ババア、階段がキツいならもう来るなよ」

先祖「そういうわけにはいかん。結界が緩む」

悪魔「あれから3年は経ってるぞ!もういいだろうが!」


悪魔「…ババア、大丈夫か」

先祖「ふん。あんたに心配されちゃ終わりだね」

悪魔「お前も老体なんだし、もう塔通いはやめろ。体を壊す」

先祖「私を心配してるのかい?」

悪魔「ちがっ…。俺は早くここを出たいだけだ」

悪魔「…ババア」

先祖「おお、悪魔か…」

悪魔「4日も来ねぇからどうしたもんかと思えば」

先祖「ふふ…」

悪魔「死ぬのか」

先祖「そうだねぇ。今夜が山だとさ」

悪魔「…俺は、寿命に関する魔法は知らない。残念だがお前はこのまま死ぬ」

先祖「ははは、悪魔の手を借りなくとも、いいさ」

悪魔「…」

先祖「結局…あんたを塔に10年も封じ込めていたねぇ」

悪魔「ああ。最低だ」

先祖「その間にあんたは、大分良くなった。力を抑えられる、冷静な悪魔になった」

悪魔「…」

先祖「げほっ、げほっ…」

悪魔「む、無理をするな。老いぼれ」

先祖「…本当はね」

悪魔「ああ」

先祖「狩人なんか、1年ほどでいなくなっていたんだよ」

悪魔「それくらい知っている。…どうして術を解かなかった」

先祖「…あんたを初めて見たとき」

先祖「ああ、こいつは良い守り手となるだろう、って思ったのさ」

悪魔「はぁ?」

先祖「老いぼれた目に見えたのさ。あんたが…ここで幸せに、ある者と寄り添いながら暮らすのがね」

悪魔「おいおい俺がぁ?馬鹿らしいね」

先祖「その時は遠く…あんたはそれまで待たなければいけない」

悪魔「…」

先祖「だが、もういいのさ。縛り付けて悪かったね、どこへなりともお行き」

悪魔「…」

悪魔「おいおい、随分勝手がすぎるんじゃねーか」

悪魔と巫女はこんな感じ?
http://i.imgur.com/inrPXa8.jpg

>>231
ハレンチな

悪魔「そっちの都合で勝手に封じ込めておいて」

悪魔「自分が死ぬ時はあっさりさようならか。はん、何て無責任な」

先祖「そうだね…」

悪魔「俺はあんたが憎い」

先祖「…」

悪魔「俺ほど力がある悪魔を、この土地に縛り付けたあんたが憎い」

悪魔「例えそれが…。俺を守るためだったとしても、許せることはない」

悪魔「だから俺は、呪いをかけてやる」

先祖「のろ、い?」

悪魔「そうだ。お前の血筋の者たちは塔を守る巫女となり、死ぬまで俺の世話をするんだ」

先祖「…ふふ」

悪魔「何がおかしい」

先祖「ふとね、思ったのさ」

先祖「あんたが来てここ10年、この土地は平和だったなって」

悪魔「…」

先祖「守られていたのはあんたじゃない。私達のほうだったのかもね」

悪魔「妄想も大概にしろ」

先祖「あんたがそこまでして、ここを守りたいのなら、いいさ。呪いをかけなさい」

先祖「そして…お願いね。この土地と、私の可愛い血筋たちを。任せたよ」

悪魔「…」

先祖「優しい悪魔、私の友人」

悪魔「ああ」

先祖「…」

悪魔「…」

巫女「…」

悪魔「ババアはこの土地のこと全てを俺に押し付けて死にやがった」

悪魔「お陰で俺は何百年も塔に縛り付けられたままだ。泣けるぜ」

巫女「でもそれって、悪魔さんが望んだことですよね?」

悪魔「断じて違う。俺がわざわざ封印を選んだのはー…その」

悪魔「この土地の魔力が、俺の肌に合っているからだ!」

巫女「…くす」

悪魔「何がおかしい!笑うな!」

巫女「本当に素直じゃないんですね、あはは。おっかしい」

悪魔「素直もなにも、本心だ!」

巫女「あはは、面白い」

悪魔「…クソ。湖に沈められたいのか」

巫女「や、そんなわけじゃ…うわ!」ガッ

悪魔「うお」

巫女「きゃっ!!」ドサ

悪魔「お、おい何してんだグズ!!」

巫女「ごごごごめ、ごめんなさい!」

悪魔「謝る暇あったら退け!重い!」

巫女「…っ」

巫女「…」

悪魔「何やってんだ豚、早く退けっ」

巫女「あ、悪魔さんって」

悪魔「だから早く退けって」

巫女「温かいですよね、うん」

悪魔「気色悪いこと言ってないで…」

巫女「わ、私ですね。…あの、ずっと思ってたんですけど」

悪魔「…もう嫌だ。言葉が通じないのか」

巫女「私、悪魔さんのこと好きです」

悪魔「は」

巫女「うん、好きです。今のお話で確信しました」

悪魔「…」

巫女「好きです」

悪魔「お前…ア、アホか。気でも狂ったか」

巫女「いいえ。好きなんです。…友達としてとかじゃなく、あの。分かりますよね?」

悪魔「い、いや。分からん。全く分からん」

巫女「分からないって、そんな訳ないですよね?」

悪魔「…」

巫女「わ、私嫁取りも悪魔さんとだったら良いなって思います」

悪魔「な、なにが」

巫女「先祖が見た、悪魔さんが寄り添う人って…私なんじゃないかって思います」

悪魔「…」

巫女「へ、変ですか?」

悪魔「あ、ああ。変だ。イ、イカレてるとしか言いようがない」

巫女「…」

悪魔「お、俺は悪魔だぞ。人間となんか相容れるわけないだろう。ましてや、れ、恋愛など」

悪魔「お前は…俺を妄信しているだけだ。俺は優しくもなんともないし、お前のことなんか何とも思ってない」

巫女「う、嘘ですよね」

悪魔「嘘じゃないっ。退けっ」

巫女「嫌です!退きません!本当のこと言ってくれるまで、どきません!」

悪魔「…っ」

悪魔「お前は馬鹿だ」

悪魔「魔物にこういう劣情を抱くなんて、どうかしてる」

巫女「どうして?人間より悪魔さんのほうがずっと綺麗な心をしてる。私は」

悪魔「…退けっ」ドン

巫女「わ、っ…」ドサ

巫女「…っ」

悪魔「頭を冷やせ。今のは聞かなかったことにしてやるから」

巫女「私は本気です!」

悪魔「…俺はお前のババアから、お前の将来を頼まれてんだ!!」

悪魔「お前は人生一番の不幸から解き放たれた!次はどっか適当な男を引っ掛けて、家庭をもつんだ!」

悪魔「俺なんかお前の幸せにおいて、障害物でしかないことに気づけ!」

悪魔「利用できる期間は過ぎたんだ、もういいかげん捨てなければいけない!」

巫女「私はあなたを物だと思ったことはありません!」

悪魔「モノなんだよ!お前はガキだ、俺といつまでも一緒にいたって幸せになんてなれない!」

巫女「違います!私はあなたと一緒が良い!」

悪魔「…殴るぞ」

巫女「どうぞ!そんなことで嫌いになりはしません!残念でしたっ」

悪魔「…」

悪魔「…」ギュ

巫女「何を怖がっているんですか、悪魔さん」

悪魔「お、俺が。何を」

巫女「どうして自分に自信を持てないんですか?散々人に説教しておいて」

巫女「自己犠牲で他人のことしか考えてないのは、あなたの方だわ」

悪魔「黙れ!」

巫女「好きです!今度は私が、あなたと寄り添います!幸せにします!」

悪魔「…」

巫女「あなたに救われた人生です、あなたに捧げます」

悪魔「臭いセリフばっかり…並べやがって」

悪魔「もう懲り懲りだ、お前のお守りは。話にならん」

巫女「どこ行くんですか」

悪魔「帰る。気分が悪い」

巫女「返事を聞いていません」

悪魔「返事などない。お前とはもう縁切りだ」バサ

巫女「そうやって、また…」

悪魔「…」バサッ

巫女「待って、悪魔!話を聞いてよ!」ダッ

巫女「お願い、悪魔!」

悪魔「ついてくるな!しつけぇんだよ!」

巫女「おねが…」グラ

巫女「きゃっ!」ドサ

悪魔「!」

巫女「…っ。痛っ…」

悪魔「よせ、動くな!そこの足場は脆…」

ガラッ

巫女「…あ」

悪魔「くそ、巫女っ!」バサッ

ガシ

巫女「…び、び、びっくり、した…」

悪魔「馬鹿か!こんな所から落ちたら、間違いなく死ぬんだぞ!」

巫女「す、すみません…」

巫女「助けてくれて、ありがとうございます」

悪魔「…あ」

悪魔「違う。助けたわけじゃ」

巫女「…」ギュ

悪魔「!」

巫女「私、あなたがいなきゃ駄目でしょう?」

悪魔「や、やめろ。離せ」

巫女「…お願いです。傍に、傍にいて。一緒にいさせて」ギュ

巫女「突き放さないで。…悪魔」

悪魔「…」

巫女「…っ。ひ、っく…」

悪魔「…はぁ」

悪魔「お、お前は」

悪魔「…そうだな。俺がいないと駄目みたいだな」

巫女「…はい」

悪魔「後悔しないんだな」

巫女「するはずないです」

悪魔「…そうか」

巫女「…私を、お嫁さんにしてください」

悪魔「…」

悪魔「そこまで言うなら、…いいぞ」

巫女「ふふ。ありがとうございます」ギュ

悪魔「む。お、おう」

=一週間後

黒猫「だーから、違うって!そこの鍋には毒消しの薬草!いい加減覚えてよ!」

魔女「えー。ややこしいし」

黒猫「あんたそれでも魔女なのぉ!?サバト始まっちゃうよ、どうすんの!?」

バサッ

鴉「おい黒猫、郵便だよ」

黒猫「あんね、僕今、最高に忙しいんで後に…」

黒猫「あれ?このきったない字…。悪魔?」

鴉「そうみたいだぜ。急用らしい」

黒猫「分かった、そこの馬鹿、調合くらい一人でしとけよ!」

魔女「待ってください、せんせぇー!」

黒猫「ご苦労様」タタタ

黒猫「それにしてもあいつが急用の手紙なんて…珍しいこともあるもんだ」

黒猫「ふむふむ」ピラ





黒猫「えええええええええええええええええええええええええええええええ」

巫女「黒猫さんに手紙届いたでしょうか」

悪魔「さぁ?」ピラ

巫女「きっと驚くでしょうね」

悪魔「んー」ピラ

巫女「…」

悪魔「…」ピラ

巫女「あの、何読んでるんですか?」

悪魔「何でもいいだろ」

巫女「私にも見せてください」

悪魔「…読書の邪魔だ。あっち行ってろ」

巫女「な、なんでですか!」

悪魔「お前が居ると集中できん。邪魔」シッシッ

巫女「!な、…もういいです」

悪魔「…」ピラ

巫女(な、なんなんだ!)

巫女(あ、あれから一週間は経ったけど)

巫女(悪魔さんの態度は全く変わらないし、何なの)

巫女(…自分の言ったこと覚えてるのかしら)

巫女「…」チラ

悪魔「…」ペラ

巫女(ああやって一日中何か読んでばっかりだし。私は一体…)

巫女(…お嫁さんになったはずじゃないのか)

巫女(それなのに前よりぎこちなくなるなんて、おかしいじゃない)

巫女「…あ、の悪魔さん」

悪魔「おう」

巫女「食事できましたけど、どう…」

悪魔「悪い、今からちょっと出てくる」バサッ

巫女「…あ、はい」

巫女「…」ドサ

巫女(魔物の結婚の概念って、一体何なんだ)

巫女(…あーあ)

巫女(やっぱり、子ども扱いか)

巫女「…」

巫女「…はぁ」


悪魔「よお」

黒猫「殺してやるううううううううううううう!」バッ

悪魔「へっへっへ、サバト準備で疲れてると思いきや、威勢がいいこったね」

黒猫「あの手紙、あの手紙のことは本当なの!?」

悪魔「ああ、本当だ」

黒猫「…おお、ジーザス」

黒猫「よりによってこんな…こんな野郎に巫女ちゃんが…」

悪魔「あいつが望んだことだからな」

黒猫「マジで…殺してやる…」

悪魔「まぁとにかく相談なんだが」

黒猫「あんたとは絶交だ!顔も見たくない!」

悪魔「そう言うな。実はな、これを用意してもらいたいんだ」

黒猫「…人の話聞けよ。てか、なにこれ」

悪魔「見りゃ分かんだろ。都でこれを手に入れたい」

黒猫「…僕をパシろうってわけ」

悪魔「俺は都のことなんてよう知らん。お前に頼んだ方が確実だ」

黒猫「あのねぇ、僕は忙しい…」

悪魔「頼んだぞ。巫女のためだ」

黒猫「…」

黒猫「くそっ、準備する!準備すりゃいいんだろ!」

悪魔「へへ、よろしく」

黒猫「…ところでさ」

悪魔「おう」

黒猫「その、もうあんたらは夫婦っていう認識でいいんでしょ。ってことはさ」

黒猫「…やっぱしたの?」

悪魔「は?」

悪魔「した?何をだ」

黒猫「うっわぁああ…。マジで聞いてるとしたらあんたはどうかしてる」

悪魔「はっきり言えよ」

黒猫「だからー…夫婦がすることだよ」

悪魔「…」

黒猫「だーかーら、巫女ちゃんと寝たのかってこと!」

悪魔「はぁ?何で俺があいつと寝るんだ。部屋は別々だぞ」

黒猫「その反応…。まだ分かってないな。だから、メイクラブしたのかってこと」

悪魔「めいくらぶ?なんだそのクラブは」

黒猫「…」

黒猫「あんたは…最低だな…」

悪魔「は?」

黒猫「巫女ちゃんの将来が思いやられるよ。一体こんな鈍感野郎のどこがいいんだか…」

悪魔「…なんでもいいけどよ、頼んだぞ」バサ

黒猫「爆発しろ」

悪魔「何怒ってるんだ、意味分からん」

黒猫「消えろぉおおお!」

悪魔(…あいつに頼んでおけば質のいい物が届くな)

悪魔(しかし黒猫はわけが分からんな)

悪魔(何が気に障ったってんだ。はぁ)

悪魔(…うーん、分からん)

バサッ

悪魔「おい、帰ったぞ」

悪魔「…暗いな。おい馬鹿、もう寝てるのか?赤ん坊かてめぇは」



悪魔「チッ、もういい」ガチャ

バタン

巫女「…」

悪魔「うおおおおおおおおおおおおお!?何しているお前、ここは俺の部屋だぞ!?」

巫女「お、おかえりなさい」

悪魔「何してる。そこは俺のベッドだ、退け」

巫女「…」

悪魔「人のベッドで正座をするな。降りろ!…電気つけるぞ」パチ

巫女「あ、ちょ、待っ」

悪魔「…」

巫女「つ、点けないでぇ…」

悪魔「一つ聞こう」

巫女「…」



悪魔「お前は何故下着しかつけていない?」

巫女「…」

悪魔「理解不能だな。今日は冷えるほうだが、風邪をひきたいのか」

巫女「…!」

悪魔「はよ退け。俺はやることがあるんだ、変態め」シッシッ

巫女「あ、あなた…」

巫女「ば、馬鹿ですか!?」

悪魔「はぁ?馬鹿はお前だろ、半裸で人の寝床に座るなんてキチガイか」

巫女「~~っ」カァ

悪魔「出て行…」

巫女「さ、さそっているのですが!?」

悪魔「は?」

巫女「だから、さそ、さそっているのですが!!」

悪魔「…さそっているのですが?」

巫女「…」コクコクコクコク

悪魔「…」

巫女「ふ、普通気づくでしょ!」

悪魔「…」

巫女「わ、私は、あなたのお嫁さんに、なったんだから」

巫女「こういう…こういうこと、するでしょ!?」

悪魔「…」

「だからさー…夫婦がすることだよ」

悪魔「…え」

巫女「……っ」カァア

悪魔「…」



悪魔「お、お…?」カァア

巫女「あ、赤くなりましたね!意味が分かっていただけて、さ、幸いです!」

悪魔「わ、わるい冗談はよせ!服を着ろ、そして自分の部屋に行け!」

巫女「嫌です!こ、ここまで来たんですから引けません!」

悪魔「こ、こういうことはしない!駄目だ!」

巫女「は、はぁあああ!?何言ってるんですか!」

悪魔「じ、自分を大事に!しろ!馬鹿か!」バサッ

巫女「うっぷ、バスタオルなんていりません!」ポイ

巫女「悪魔さん!そ、それでも男ですか!?」

悪魔「じゃかあしい!お前も節操のない!それでも女か!?」

巫女「…っ」カァア

巫女「だ、だって。だって!」

巫女「あなたが…あなたが何もしてこないからじゃないですかぁ!」

悪魔「な、なにを!」

巫女「…っ」

巫女「私達は何ですか!?」

悪魔「ぐ…」

巫女「私は、あなたの何なんですかぁ!?」

悪魔「…」

巫女「…っ。私の事、何とも思ってないんですね…」

悪魔「な、何故泣く!」

巫女「私が…悪いんですかぁ?何か気に入らないことでもあるんですか…?」

悪魔「何もない、何もない!被害妄想だ!」

巫女「…っ」

悪魔「…お、俺が。俺が悪かった。すまない」

悪魔「たしかに、俺はお前を…その、貰った。そのせいでぎこちなくなっていたのは、謝る。すまん」

巫女「…」

悪魔「しかし、俺は…。こ、こういうのは…」

巫女「…私は、あなたがいいんですけど」

悪魔「…」

巫女「…っ」スルッ

悪魔「ぬ、脱ぐな!!」

巫女「…」ポイ

悪魔「…や、やめ…」

巫女「こっち見ろ!弱虫!!」

悪魔「!?」

巫女「…このっ」バッ

悪魔「うわあああああ!」ゴロン

巫女「…は、はっはっは。ど、どうですか、私に跨られる気分は」

悪魔「…」

巫女「何目ぇ閉じてんですか!開けてください!」

悪魔「…」

巫女「…私じゃ嫌ですか」

悪魔「…い」

悪魔「い、嫌じゃない」

巫女「私のことどう思ってますか」

悪魔「…」

巫女「す、好きですか?」

悪魔「…好きじゃなければ、嫁にはもらわん」

巫女「そ、そうですか」

巫女「…それ、聞きたかったです。ずっと」

悪魔「…そうか」

巫女「…私もあなたのこと大好きです」

悪魔「む。あ、ああ」

巫女「…どうぞ」

悪魔「…」

巫女「どうぞ」ギュ

悪魔「わ、わかっ…分かった。だから、少し準備をさせてくれ」

巫女「準備、って?」

悪魔「…お前は塔で水浴びなり何なりしただろうが、俺は帰ってきたばかりだろ」

巫女「そ、そうですね」

悪魔「に、逃げたりはしない。だから準備だけさせてくれ」

巫女「約束ですよ」スッ

悪魔「…っ」ダダダダ

ガチャ バタン!!

巫女「…」

巫女「はぁ…」ヘナヘナ

巫女(き、緊張、した…)

巫女(い、いや。これくらいで疲れてちゃだめだ)パシン

……


巫女(…遅い)

巫女「…はっきしゅっ」

巫女「さむ…。早くしてよ、もう…」

ガチャ

青年「…」

巫女「え、え?」

青年「よ、よぉ」

巫女「あの、ど、どちら様ですか」

青年「は、はっはっは。変化の術もなかなか大変だな。…あ、悪魔だけど、分かるか?」

巫女「…」ポカン

青年「み、都で見た男をコピーしてみたが、どうだ。見てくれは」

巫女「…」

青年「その、女はこういう顔立ちの男が好きなのだろ。どうだ?」

巫女「あの、確かにハンサムですけど、あの」

青年「じゃ、じゃあ」

巫女「待て待て待て待て」

巫女「戻ってもらっていいですか?」

青年「断る!お前もこっちのほうがいいだろ!」

巫女「はぁあ?!何を」

青年「それとももっとガタイが良いほうが好みか?希望を言ってくれれば、術を掛けなおすが」

巫女「悪魔さん、そんなことしなくていいです。そのままでいいんですけど」

青年「ア、アホ抜かすな!俺は…」

青年「人間と違う所が多いだろ!翼だってあるし、シッポも、牙だってあるんだぞ」

巫女「ええ」

青年「肌だってこんなに滑らかではない!俺は、魔物なんだぞ!」

巫女「そうですね」

青年「お前は…お前だって、嫌だろうが…」

巫女「…」

巫女「術を解いてください」

青年「…」

巫女「じゃあ、もうやめます。そのままの悪魔さんじゃないと、意味がありません」

青年「い、いいのか」

巫女「当たり前でしょ!」

青年「…」クル

悪魔「…」シュウ

悪魔「…お前も、物好きだな」

巫女「そうですか?」

悪魔「俺は、醜いだろうが」

巫女「どこがですか?」

悪魔「…全て、全てだ」

巫女「…私の好きな人の悪口を言わないでください!」

悪魔「!…う」

巫女「私はこのままの悪魔さんが好きです」

悪魔「…そうか」

巫女「だ、だから」

悪魔「…っ」バッ

巫女「!う、うわ。ちょ」

悪魔「巫女。…巫女…」

巫女「う、あ……っ!」



……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年08月24日 (月) 22:48:11   ID: wwVg26Jr

最高だ感動した

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