アーニャ「早春の息吹身に染む今日此頃」モバP「どうしたアーニャ、言葉遣いが変だぞ!?」 (41)

※当SSはロシア語の初歩をちょっとまじめに、楽しく勉強しようという趣旨のSSです。
※目安のためにロシア語にはカタカナ表記をつけています。大体伸ばし棒(ー)のついている部分にアクセントがあります。
例:Анаста́сия → Анастасия(アナスターシヤ)



アーニャ「藪から棒な話で恐縮なのですが、実はですね」

P「はぁ」

アーニャ「ロシア語を忘れてしまいまして」

P「」

アーニャ「まさしく青天の霹靂ですね」

P「いやいや」

アーニャ「プロデューサーとしては寝耳に水な話かもしれませんが」

P「いやいやいやいやいやいやいやいや」

P「……美波?」

美波「ビクッ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1427797579

美波「すいません!プロデューサーさん、わたしが悪いんですっ」

P「いやぁ……、なにをどうしたらこんなことになるんだ?」

美波「実は昨日、アーニャちゃんと日本語の勉強をしていて……」

P「勉強しすぎてロシア語を忘れたって?」

美波「はい……」

P「マジかよ……」

美波「アーニャちゃんってすごく物覚えがいいから、すぐ色々覚えちゃって」

アーニャ「美波の教え方がうまいんですよ。孟母三遷の教えですね」

美波「いやいや、まさに矯めるなら若木のうちというように」

P「美波、うつってる! うつってるぞ!」

美波「ああっ! つい!」

美波「すいません、私も一緒に勉強していたものですから」

P「う~~~ん、しかし、それは困ったなぁ」

アーニャ「そうですか? 私としては日本語が上手になって非常に喜ばしいのですが……」

P「確かに日本語が上達するのは嬉しいけど……、今やっとロシア語キャラが定着してきたところだからな」

美波「キャラは大事にしたい、ってことですか」

P「たとえばラジオで『情熱的に愛の告白をお願いします』ってリクエストがきたとして、『月が綺麗ですね』とか答えるわけにもいかな

いだろうよ」

アーニャ「その日本語、とても美しいですね。今度使ってみます」

P「覚えるな覚えるな!」

美波「急に日本語が上手くなったら『これまでのキャラは嘘だったのか!』ってなりますよね」

P「そうだな。さすがにそれは避けたい」

アーニャ「キャラというのは難しいものなのですね……」

美波「アーニャちゃんはキャラなんて意識してなさそうだもんね」

P「ん、逆に美波は意識してるのか?」

美波「えっ? わ、私はいつも自然体ですよっ」

P「ふ~ん、アーニャ的にはどうなの?」

アーニャ「キャラと言っていいかどうかわかりませんが、ときどき美波がおかしなことをする時はありますね。昨日なんか」

美波「ぎゃーっ! 流暢な日本語でそれ以上喋らないで、アーニャちゃん!」

P(な、なにがあったんだ!?)ドキドキ

P「ま、まぁ、とにかく」

アーニャ・美波「「はい」」

P「アーニャにはロシア語を勉強し直してもらおう」

アーニャ「そうなりますか」

美波「でも、今度は誰も教えられませんね」

P「そんなこともあろうかと!」バッ

アーニャ・美波「!?」

P「実はこっそりロシア語を自主的に勉強していたのだッ!」ドサドサ

アーニャ「ロシア語の教科書がたくさん……」

美波「なんで勉強してたんですか?」

P「最初アーニャに『貴方ロシア語分からないんですか? 私に声かけたのに?』って言われたのが悔しくて……」

美波「……」

アーニャ「遺憾です」

――その日の午後

P「アーニャと学ぶ」

美波「ロシア語講座!」

アーニャ「第一課でございます」

P「アーニャ、そこはロシア語でУрок один(ウローク アジーン)だろう……」

アーニャ「すいません、つい」

P「とりあえず会議室を借りてみたんだが」

P「美波も一緒に勉強するんだな?」

美波「はい、私も一度ロシア語を勉強してみたかったんですよ。それに、私はアーニャちゃんと一緒の仕事が多いですから」

P「アーニャがオフのときは美波もオフってことか」

アーニャ「美波と私は一心同体、刎頸の交わりなのです」

美波「そう、交わっているんです」

P「……あえてつっこまないでおこう。それじゃ、テキストを開いてくれ」

アーニャ・美波「「はい」」

АБВГДЕЁЖЗИЙКЛМНОПРСТУФХЦЧШЩЪЫЬЭЮЯ
абвгдеёжзииклмнопрстуфхцчшщъыьэюя

P「まぁ、とりあえずこれがロシアで使われてるアルファベット、キリル文字だ。なにはともあれこれを読めるようになってもらおう」

美波「うわぁ……、全然読める気がしないです」

アーニャ「アー、ベー、ヴェー……」

P「お、少しは思い出したか? アーニャ」

アーニャ「そうですね。Алфавит(アルファヴィート)……、文字くらいなら、読めそうです」

美波「ロシア語を思い出したら少しカタコトに戻りましたね」

P「日本語はまた忘れるのか……まぁそれでいいんだけど」

P「一応、読み方はこんな感じだ。順番通り暗記しておくと辞書を引いたりするときに便利だぞ」

Аа:アー Бб:ベー Вв:ヴェー Гг:ゲー Дд:デー Ее:イェー

Ёё:ヨー Жж:ジェー Зз:ゼー Ии:イー Йй:イークラートカエ

Кк:カー Лл:エル Мм:エム Нн:エヌ Оо:オー Пп:ぺー

Рр:エル Сс:エス Тт:テー Уу:ウー Фф:エフ Хх:ハー

Цц:ツェー Чч:チェー Шш:シャー Щщ:シシャー Ъъ:トヴョールドゥイ・ズナーク(硬音記号)

Ыы:ゥイ Ьь:ミャーフキー・ズナーク(軟音記号) Ээ:エー Юю:ユー Яя:ヤー

美波「プロデューサーさん」

P「先生と呼んでくれ」

美波「……先生、この『硬音記号』と『軟音記号』ってのはなんなんですか?」

P「この二つは他の文字と違って特殊な使い方をするんだ。とりあえず硬音と軟音という概念をマスターしてからまた後で解説しよう」

P「まずは母音だ。АОУЫЭの五つを『硬母音字』という。アーニャ、お手本を頼む」

アーニャ「はい。アー、オー、ウー、ゥイ、エー」

P「Ыだけちょっと難しいな。これはイとウの中間の音で、ドイツ語でいう『ü(ウーウムラウト)』に似てるかもしれない」

美波「いー、ういー、う、うぃー……、難しいですね」

P「まぁ『うぃー』でも通じることは通じるし、今のところはそれで大丈夫だ。ほんでЯЁЮИЕの五つは『軟母音字』と呼ばれている」

アーニャ「読みますね。ヤー、ヨー、ユー、イー、イェー」

P「これらは硬母音字の頭に短いイをくっつけて発音したものだ。基本的に軟音=短いイがくっついているもので、硬音=そうでない

ものという分け方だ」

美波「アーよりヤー、オーよりヨーのほうがやわらかいわけですね」

P「まぁそんな感じ。子音にも硬子音と軟子音があるので、おいおい説明しよう」

アーニャ「『オイオイ』……、新宿に、そんな名前のУнивермаг(ウニヴィルマーク)……百貨店がありますね」

P「アーニャ、それは『マルイ』だ」

P「あとЙ(イークラートカエ)は半母音といって、要するに短いИだな。айで『アイ』、ойで『オイ』みたいに発音する」

アーニャ「アイ……、覚えていますか……」

美波「アーニャちゃんったら、それじゃ初代マクロスの劇場版じゃないの」

P「え、美波はマクロス知ってるのか?」

美波「はっ! いえ、違うんですよ。ラクロスと発音が似てたから手に取ってみただけで」アセアセ

アーニャ「ヤック、デカルチャー」

P「アーニャに布教してんじゃねぇか!」

美波「あうあうあう……」

P「まぁいいや……、んじゃ次は子音ね。子音は無声子音と有声子音の二種類があって、ПТКСФが無声で、БДГВЗが有声」

アーニャ「ペー、テー、カー、エフ、エス、ベー、デー、ゲー、ヴェー、ゼー……、日本語でいう、『か』と『が』、のような違いですね」

美波「確かに蚊はプ~ンって感じで、蛾はバサバサとかモゾモゾって感じですね」

P「……俺はつっこまないぞ。大体発音は英語と同じだが、ДとТは舌を前歯の先につけて発音する子音で、ДиやДеは『ジー』『ジェー』って感じの発音になる」

美波「じー、ぢー……、つい『ディー』と発音したくなりますね」

P「通じることには通じると思うが、一応正しい発音は知っておいたほうがいいな」

美波「ちなみに先生、無声・有声の違いに意味はあるんですか?」

P「これも後で教えるけど、無声化・有声化という現象があるから、できれば覚えてほしい。それが起きない子音に関しては気にしなくてもいいけどな」

アーニャ「美波は○クロスの最中によく声を出してますが、私は気にしてませんよ」

美波「もちろん伏字の中身はマ、じゃなかった、ラクロスです!」

P(つっこまない、つっこまない……)

P「……えーと、あと残りの子音ね。一応ХМНは無声で、ЛРは有声だ」

アーニャ「ハー、エム、エヌ、エル、エル」

P「Хは日本語の『は』とは違う音で、ドイツ語の『ch』に近いな。喉の奥をかすらせるような音で、『ク』を発音する位置に息を通す感じだ」

美波「ハァー……、実際に発音を聞いてみるとわかりやすいですね」

P「うむ。ハーはハーでも、和田アキ子の『ハーッ!』みたいな」

美波「え?」

P「すまんなんでもない」

美波「そういえばロシア語に、日本語の『は』に当たる子音はないんですね」

P「最近は『は』の音はХを使って表すことが多いが、たとえば横浜なんかはロシア語で『Иокогама(イオコガーマ)』というそうだ」

アーニャ「『ワ』の音も、ありません。代わりにВ(ヴェー)を、使います」

美波「珠美ちゃんの苗字が『Вакияма(ヴァキヤマ)』になったりするんですね」

P「なんか蘭子が喜びそうだな……」

P「Лは英語のLとほぼ同じで、Рはいわゆる巻き舌だ。結構巻き舌ができない人はいるらしいから、そういう人は日本語の『ら』行と同じ発音で構わない。Лと区別することが大切だ」

美波「大丈夫です、こう見えても英検一級ですからね!」

P「まず巻き舌の努力をしろよ!」

美波「……できないんですもん、巻き舌。

P「アーニャはよく巻き舌で人を呼んでいるな」

アーニャ「ルァンコ、プルォデューサー……、つい巻き舌に、なってしまいます」

美波「私は名前に『ら』行がないから大丈夫なんです!」フフン

P「なにを誇らしげに……」

P「まだまだ子音はあるぞ。次はШЖЧЩЦだ。Жだけ有声ね」

アーニャ「シャー、ジェー、チェー、シシャー、ツェー」

美波「しゃー、ししゃー……、この二つの違いは少しわかりづらいですね」

P「Шは英語のshに似た音で、Щは静かにしてほしいときに言う『しーっ!』と同じ音だと言われている」

美波「プロデューサーさんがなにか後ろ暗い事実を隠しておきたいときに言うやつですか」

P「なんでそのイメージなんだよ! ……まぁそれはさておき、軟母音字もしくは軟音記号の前に書かれているとき、子音は『イ』の音を帯びた『軟子音』と呼ばれる。それ以外の、なんの変哲もない子音は『硬子音』だ」

美波「ちなみに先生、軟音記号のついた子音はどんな発音になるんですか?」

P「笑顔、です(低音)」

美波「は?」

P「ふつう子音だけの発音って『トゥ』とか『ク』みたいに『ウ』の口になるけど、軟子音は『イ』の口で発音するんだ。イーって口を開く、だから笑顔、ね」

美波「あー、なるほど……一体何を言い出したのかと思っちゃいました」

P(最近美波が俺に厳しい)

P「Пять(ピャーチ)は数字の5という意味だが、チの部分は軟子音だ」

美波「ぴゃーち、ち、ち……、英語と同じで、声帯を震わせない無声音ですね」

P「そうだな、тиとかчиにならないように注意。ほんで最後に、硬音記号と軟音記号だ」

アーニャ「トヴョールドゥイ・ズナーク、ミャーフキー・ズナーク……、かたい記号、やわらかい記号、という意味です」

P「うむ。既に説明したように、軟らかい音というのはイの音色を帯びた発音のことだ。ьは子音文字のあとに添えてその子音が軟らかい音であることを、ъは硬い音であることを示している」

P「あとьとъはどちらも後続の母音と発音を分離する役割も果たしていて、分離記号とも呼ばれている」

アーニャ「Сесть(シエスチ)は、座る、という意味で、Съесть(スイェスチ)は、食べる、という意味です」

美波「ъのある場所でсとестьを区切って発音するわけですね」

P「うーむ、ようやく硬音と軟音はマスターできたかな。あとロシア語には正書法という規則があって、гкхжчшщというの直後にыюяを書くことはなく、代わりにиуаを使うんだ」

アーニャ「おなじ、シャー、という音でも、шя、ではなく、ша、と書かなければ、いけません」

美波「ううーん、なんか脳の容量がパンクしそうです……」

P「とりあえず今はなんとなくそんなのがあるってことだけ知っといてくれ。さーて、そろそろ実際に単語を発音してみるとするか」

美波「やっと本番ですね!」

P「読み方の規則もたくさんあるから、そっちも一つずつ説明していくぞ」

美波「まだあるんですか……」

P「まず一番重要なのがアクセントだ。アクセントのある母音は強く長めに発音される。単語を覚える際にはアクセントもセットで覚えるように」

アーニャ「Ма́ма(マーマ)、Му́зыка(ムーズィカ)……、『お母さん』、『音楽』、という意味ですね」

美波「マーマ、お母さん……、ムーズィカ、音楽……」

アーニャ「Да́йте(ダーイテ)、これは『○○をください』という、意味です」

美波「ダーイテ……ください……、だいてください……」

P「その覚え方はあまり口に出さないようにな……。ちなみにЁ(ヨー)という母音には必ずアクセントがついている」

アーニャ「たとえばМатрёшка(マトリョーシカ)、などですね」

美波「それじゃ、Ёがある場合はアクセントを覚えなくて済むんですね!」ウキウキ

P「だけど教科書とか辞書以外だとふつう上の点(¨)は省略されちゃうから、結局Еと区別がつかないんだよね」

美波「えぇぇー……なんでそんなことを……」ガックシ

P「実際色々と弊害があるみたいで、最近になってこの『¨』を表記しようって動きもあるらしいが……とりあえず『Ё』が出てきたときはむしろ要注意だな」

美波「覚えなきゃいけないことがまた増えた……」

P「ま、地道に行こう。母音の弱化という現象もあって、アクセントのない母音は発音が変わるんだ。たとえばアクセントのないОはАとして発音する」

アーニャ「Хорошо́(ハラショー)……、アクセントは最後のОにだけ、ついていますね」

美波「大体のことはハラショーって言ってれば大丈夫だって聞きました」

P「Ве́рный(ヴェールヌイ)に改名されるぞ」

P「あとアクセントのないЯとЕも『イ』っぽい発音になるが、語末では『ヤ』、『イェ』のままだ」

アーニャ「Япо́ния(イポーニヤ)、Евро́па(イヴローパ)、Ко́фе(コーフェ)……」

美波「イポーニヤが日本で、イヴローパがヨーロッパ……」

P「そう、それでコーフェはコーヒーね」

美波「お茶とはコラボしましたが、コーヒーはまだですね」

アーニャ「Чай(チャーイ)……紅茶も、おいしいですよ」

P「アーニャならどんな飲み物のCMでもいけそうだな。そして一方の子音だが、以前説明したとおり無声化、有声化という現象が起きる」

美波「無声子音と、有声子音ですね」

P「うむ。まずБВДЗЖГとПФТСШКが対応関係にあることを覚えといてほしい」

美波「ベーヴェーデー……のほうが有声で、ペーエフテー……のほうが無声ですか」

P「そうそう、よく覚えてるな。まず無声化だが、有声子音であるБВДЗЖГは語末にあるときと、無声子音の直前にあるときは対応する無声子音として発音される。БはПに、ВはФに……って具合にだ」

アーニャ「Слов(スローフ)、Водка(ヴォートカ)……それぞれ『単語』、『ウォッカ』、という意味ですね」

美波「Словは末尾のВがФに、ВодкаはКの前のДがТに変わってるわけですね」

P「軟音記号がついていても関係ないという点に注意だな。『愛』って意味のЛюбовь(リュボーフィ)とか」

アーニャ「Любовь……、覚えていますか……」

P「初出単語だから!」

P「あと有声子音が重なってる場合、後ろのほうが無声化したらもう片方も無声化する。Дождь(ドーシュチ)とかはパッと見で分かりづらいから要注意だ」

アーニャ「Дождьは、あめ、です。I'm singin' in the rain……♪」

美波「降るほうの『雨』だね!」

アーニャ「日本語もときどき、分かりづらい……、ですね」

P「日本人同士でも話通じない人とかいるからなぁ。某レコード会社のあの人とか、某プロダクションのあいつとか……」

美波「……プロデューサーさん、教師に戻ってください」

P「おっとすまん、つい愚痴が……。さて、有声化はもうちょっと簡単で、無声子音であるТСКがВを除く有声子音、つまりБДЗЖГの前にあるとき、対応する有声子音に変わるっていうだけだ」

アーニャ「Футбол(フドボール)……、サッカーですね。Свободный(スヴァボードヌイ)……こちらは『自由な』、という形容詞です」

美波「ФутболではБの前のТがДになってるけど、СвободныйのВの前のСはそのままなんですね。なんでВだけ仲間はずれなんですか?」

P「千年以上前の古いロシア語文法の名残らしいってグーグル大先生が言ってた」

美波「千年前から仲間はずれだと」

P「そんな言い方してやるなよ……」

アーニャ「イジメはНельзя(ニリジャー)……いけません」

P「さてそろそろアーニャもだいぶロシア語を思い出せただろう。テキスト通りでいいから、ロシア語で自己紹介をしてもらおうか」

アーニャ「いえいえそんな滅相もございません! 何卒ご勘弁を」

P「そういう日本風の謙遜文化とか今はちょっと忘れてくれ!」

アーニャ「あっ、Извините(イズヴィニーチェ)……すいません。きのう、練習した言葉が……」

P「どんな練習してたんだよ!?」

美波「今の言葉は『ソリの合わない上司とうまくやっていく7つの方法』っていう本に載っていました」

P「そういう中間管理職の処世術的なのはもっと大人になってからでいいから! ……と、とにかく。アーニャ、自己紹介を頼む」

アーニャ「はい。読みますね」

アーニャ「Здравствуйте.(ズドラーストヴィチェ)
Меня зовут Анастасия.(ミニャー ザヴート アナスターシヤ)
Я люблю смотреть на звёзды.(ヤー リュブリュー スマトリェーチ ナ ズヴョーズドゥイ)
Я из Хоккайдо.(ヤー イズ ホッカイドー)
Я и русская, и японка.(ヤー イ ルースカヤ イ イポーンカ)」

アーニャ「Очень приятно.(オーチン プリヤートナ)」ペコリ

美波「わぁ~! アーニャちゃん、スゴイ!」

アーニャ「Спосибо(スパシーバ)……ありがとう、美波」

美波「どういたしまして……はロシア語でなんていうんだろう?」

P「Пожалуйста(パジャールスタ)だよ。ちなみにこの言葉には『~して下さい』とか『~をお願いします』みたいな、英語でいうpleaseっぽい意味もある」

美波「ぱじゃーるすた……。それにしてもアーニャちゃんの言ったこと、全然わからないですよぉ」

P「ほんじゃ、ひとつずつ解説していこう」

P「最初のЗдравствуйте(ズドラーストヴィチェ)はあいさつの『こんにちは』で、一番ポピュラーな挨拶だ。встのВは読まないってとこに注意だな」

美波「ずどらーすとびちぇ……ポピュラーっていう割に長くないですか?」

P「まぁ丁寧な挨拶ではあるかな。Привет(プリヴィエート)はもっと親しい間柄での挨拶で、『やぁ』って感じ」

美波「アーニャちゃんはよくプリヴェートって挨拶してるよね」

アーニャ「みんな、私のДруг(ドゥルーク)……ともだち、ですから」

P「時間帯を考慮するなら、Доброе утро(ドーブラエ ウートラ)は『おはよう』、Добрый день (ドーブルイ ジン)が『こんにちは』、Добрый ночь(ドーブルイ ノーチ)が『こんばんは』ってなもんで、フラットに使えると思う」

美波「最初のだけ形が違いますね」

P「Добрыйは『良い』って意味の形容詞なんだが、形容詞は後ろにくっつく名詞の性別によって形が変わるんだ。昼と夜、つまりДеньとНочьは男性で、朝のУтроだけ中性だから違う形になってるってわけ」

美波「朝とか夜に性別があるんですか! 男、男、中性……女の子不在だなんて、中性的な美少年を屈強な男2人が取り合っているみたいな……」ハァハァ

P「み、美波?」

美波「はっ!? すいません、柄にもなく変な想像を……」

アーニャ「『ホモが嫌いな女子なんていません!』……と、由里子が言っていました」

P(アーニャの交友関係が広がるのも考え物だな……)

P「Меня зовут Анастасия(ミニャー ザブート アナスターシヤ)はもちろん『私はアナスタシアという名前です』だ。МеняはЯ、つまり『私』の活用形で、直訳すれば『私はアナスタシアと呼ばれています』って意味になる」

美波「活用というのは、英語でいうあいまいみーまいんみたいなやつですか?」

P「そうだな、ロシア語ではその活用変化がほぼ全ての名詞、動詞、形容詞やらに起こるんだ」

美波「ええーっ!?」

P「もちろんちゃんと法則があるから、いちいち全部暗記する必要はないぞ」

美波「あーよかった……、驚かさないでくださいよ」

P「大丈夫。いったんハードルを上げることで、難易度を誤魔化すっていう作戦だから」

美波「……ってことは、本当はやっぱり大変なんじゃないですか!」

アーニャ「Давай(ダヴァーイ)……、頑張りましょう」

P「ちなみにロシア語では現在形のBe動詞は使わないので、もっとシンプルに言う場合はЯ Анастасияだけで十分だ」

美波「でもなんか、ミニャーザヴート……って言いたくなりますね」

P「……気持ちはわかる」

アーニャ「Я Аня(ヤー アーニャ)が、一番楽です」

P「Я люблю смотреть на звёзды(ヤー リュブリュー スマトリェーチ ナ ズヴョーズドゥイ)は少し複雑だが、『私は星を見るのが好きです』って意味だ。люблюはЛюбить(リュビーチ)の活用形で、『好きです』という動詞。Смотреть наで『~を見る』、звёздыは『星』という意味の単語、Звезда(ズヴィズダー)の複数形ね」

美波「英訳するなら『I like to look at stars』というところですか」

P「そんなとこだ。Люблюは後ろに直接目的語が来ても構わない。Я люблю зв ёздыだろうがЗвёзды люблю яだろうが大丈夫だ」

美波「語順はなんでもいいんですか?」

P「люблюという形になっている時点で一人称の話だってことはわかっているから、結構自由だよ。主語のЯも省略可能。意味合いとしては、語順がうしろの単語がより強調されるそうだが」

美波「Яを後ろに置くと『星を好きなのは私だ』みたいなニュアンスになるんですね」

アーニャ「Я люблю тебя(ヤー リュブリュー ティビャー)とЯ тебя люблю(ヤー ティビャー リュブリュー)……同じI love youでも、ちょっと違います」

美波「微妙な差なんでしょうね、友達以上恋人未満みたいな」

P「そのたとえは多分間違ってるぞ……」

P「Я из Хоккайдо(ヤー イズ ホッカイドー)は『私は北海道出身です』だな、アイムフロムホッカイドー。北海道はロシア語風に言うと『ハッカイーダ』とかいうらしいが」

アーニャ「私はКонечно(カニェーシュナ)……もちろん、ホッカイドーと読める。けどロシア語っぽく言うと……そうなるみたい、ですね」

P「なんかハカイダーみたいでヤだな」

美波「よくわかりませんが、ヤですね」

P「……まぁ伝わらないことはわかっていたよ、うん。Я и русская, и японка(ヤー イ ルースカヤ イ イポーンカ)は『私はロシア人でもあり、日本人でもあります』って感じか。и ○, и △で『○でもあり△でもある』という意味で、РусскаяとЯпонкаは『ロシア人』『日本人』を意味するРусский(ルースキー)とЯпонец(イポーニツ)の女性形だ」

美波「アーニャちゃんはハーフだもんね」

アーニャ「うん……中身は少し、日本人ですけど」

P「そして最後に付け足したОчень приятно(オーチン プリヤートナ)は『はじめまして』とか『どうぞよろしく』みたいな意味だな」

美波「これもアーニャちゃんが時々言ってますね。おーちんぷりやーとな……不思議な響きです」

アーニャ「Оченьは『とても』、Приятноは『楽しい、気持ちいい』という、意味です」

美波「あなたに出会えて嬉しい……英語でいうNice to meet youですね」

P「さて、美波」

美波「はい?」

P「美波も自己紹介してみるか」

美波「えー! まだ無理ですよ!」

P「ダイジョーブダイジョーブ。医学の進歩、発達ノタメニハ犠牲ガツキモノデース」

美波「人体実験でもするんですかっ!?」

P「まぁそれは冗談として、もうアクセントさえ振ってあれば、大体ロシア語の文章は読めるようになってるはずだ。たとえばこの文章を読んでみてくれ」

Я люблю́ игра́ть в лакро́сс.

美波「えーっと……やーりゅぶりゅー、いぐらーち、ゔ、らくるぉーす……ああっほんとだ、読めます!」

P「そうだろうそうだろう! ちなみにこれは『私はラクロスをするのが好きです』という意味だ」

美波「えーっとじゃあ、最初はみにゃーざゔーとみなみで、北海道は広島に変えればよくて……」

P「五つ目の文章は、美波の場合はЯ японкаだけで十分だ。どうだ、いけそうだろう?」

美波「とりあえず、やってみますねっ」

美波「ず……Здравствуйте.(ズドラーストヴィチェ)
Меня зовут Минами.(ミニャー ザヴート ミナミ)
Я люблю играть лакросс.(ヤー リュブリュー イグラーチ ラクロース)
Я из Хирошима.(ヤー イズ ヒロシマ)
Я японка.(ヤー イポーンカ)
Очень приятно(オーチン プリヤートナ)……」

美波「やったぁ! 言えました!」

アーニャ「Прекрасно(プリクラースナ)……素晴らしいです!」

P「発音もカンペキだ……さすがに飲み込みが早いな」

美波「これも一重に、アーニャちゃんのおかげだね。アーニャちゃん、Спосибо(スパシーバ)」ガシッ

アーニャ「Пожалуйста(パジャールスタ)、美波。だけどこれは、美波自身のおかげ、ですよ」ニギッ

P「あ、そういう感じ? 俺そっちのけで友情を育んでいくスタイル?」

P「さて、仲睦まじいところ申し訳ありませんが」

P「ここで皆さんに悲しいお知らせが」

美波「会議室の利用時間がケツカッチンなんですね?」

P「アイドルはそういう業界用語使わなくていいから……」

アーニャ「もうКонец(カニェーツ)……終わり、ですか?」

P「とりあえずアーニャがロシア語を思い出すっていう目標は達成できたし、今日のところはこの辺で撤収しよう。俺もこれから用事あるしな」

アーニャ「そうですか、しかたないですね……。楽しかった、ですよ」

美波「…………」

美波「先生……いや、プロデューサーさん」

P「ん?」

美波「今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。私が起こした問題なのに、色々と手助けしていただいて……」

P「いやいやいいってことよそんなもんは。なんせ俺はお前らのプロデューサーなんだからさ」キリッ

美波「というわけで、ロシア語のテキストお借りします!」

P「え?」

美波「アーニャちゃん、私ロシア語もっとうまくなりたい!」

アーニャ「Хорошо(ハラショー)……いいですね。それなら今夜、一緒に勉強しましょう」

美波「ほんとに? やったー!」

P「いやいや」

美波「それじゃプロデューサーさん、ありがとうございました。私たちはこれから寮に行きますので」

アーニャ「プロデューサー、Большое спосибо(バリショーエ スパシーバ)。本当に、感謝しています」

P「あーお別れの空気出してく?」

美波「それじゃ、お疲れ様です!」

アーニャ「До свидания(ダスヴィダーニャ)!」

美波「今の『だすびだーにゃ』は『さようなら』?」スタスタ

アーニャ「そうですよ、『再会のときまで』という意味で……」スタスタ

美波「へー、『だーにゃ』ってなんかかわいいね……」スタスタ

P「俺抜きで二次会的な?」

P「…………」


P「……Ураааааааааааааа(ウラー)!!!」

――翌日

P「アーニャ、おはよう」

アーニャ「Доброе утро(ドーブラエ ウートラ)……おはようございます」

P「すっかり元通りみたいだな、よかった」

アーニャ「そうですね。昨日、美波とたくさん練習しました、から」

P「なにはともあれ一件落着か」

アーニャ「そうなんですが、ひとつВопрос(ヴァプロース)……問題が」

P「問題?」

美波「…………」スタスタ

P「お、噂をすれば美波じゃないか」

美波「プルォデューサーさん」

P「!?」

美波「とてもУдивительно(ウディヴィーティリナ)……驚くべきことなんですけど」

P「まさか、昨日アーニャとロシア語を勉強してて……」

美波「日本語を、Забыла(ザブィーラ)……忘れてしまいましたっ!」

P「」

美波「あ、ルァンコちゃん。Доброе утро(ドーブラエ ウートラ)!」

蘭子「煩わしい太陽……えっ、ええっ!?」ビクッ

アーニャ「Язык(イズィーク)……言語を学ぶのは、大変ですね」

P「もう勝手にしてくれ……」

Конец おわり

拙作ですが、読んで頂きありがとうございました。

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