京太郎「修羅場ラヴァーズ」憧「気が付いたら、目が合って」 (1000)

・京太郎スレ
・短編集的、オムニバス的な感じです
・安価もあるかもしれない
・ヤンデレとかあるかもしれない
・話によって京太郎が宮守にいたり臨界にいたりするのは仕様です
・ライブ感は大事
・ネリー可愛い
・揺杏いえーい

まとめ
http://www62.atwiki.jp/kyoshura/


前スレ
京太郎「修羅場ラヴァーズ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1400743823/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」 健夜「幸せな、お嫁さん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401090438/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」照「ずっとずっと、愛してる」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402195940/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」姫子「運命の、赤い糸」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403418602/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」明華「夢でも、あなたの横顔を」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1404137728/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」一「キミと一緒に、抱き合って」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405089598/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」小蒔「あなたしか見えなくなって」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407668440/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」 由暉子「誰よりも、何よりも」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410718540/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」 淡「あーいらーぶゆー」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1415203531/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」ネリー「大好きがいっぱい」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416300917/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」透華「永久に、美しく」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420958217/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」憩「ナイショのキモチ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422431613/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」久「もうちょっと、近づいて」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1423892840/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」揺杏「絶対無敵のラブラブラブ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1426519302/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1427647051

彼は、私の髪を弄るのが好き。

これは口から聞いたわけじゃなくて、二人で一緒にいるうちにわかったこと。


「~♪」


流行りの歌を口ずさみながら、彼が私の髪に触れた。

無意識にやっているみたいで、あまり優しくない手付き。

乙女の髪を――なんて、チカちゃんは怒るかもしれないけれど。

私は、この瞬間が好き。

髪を伸ばしていて良かったって、思えるから。


――成香さんと、一緒にいたい。



瞼を閉じると、今でも思い出せる。頰が熱くなる。

それは肌を重ねても、同じ。

大事で素敵な、私の思い出。


「大好き」

「俺もです」


【すてきです】

有珠山編は書き手としてもコンマに恵まれたと思います


唐突に小ネタ安価下3ー

偶然の出会いも、それが何度も重なって。

タイミングが良かったら、きっとそれは奇跡と呼べるのだろう。


「その人が、京ちゃんさんを誑かしたんすね」

「……モモ」


桃子の瞳に理性は無い。

宿したものは京太郎への独占欲と、揺杏への嫉妬心。

そして、その手に持つものは――


「さ、帰るっすよ。みんな待ってますから」

「揺杏、下がって」


桃子から揺杏を庇うように、京太郎は一歩前に踏み出す。

彼女だけは守る。

愛した彼女だけは、絶対に。

そう覚悟を決める京太郎の手を、揺杏はそっと握った。


「一人にしないって。ずっと一緒だって、言ったろ?」

「……揺杏」

「大丈夫だって。偉い人も言ってたし」


「愛は――無敵だって!」

有珠山でリアルファイト最強なのは誰だろう


小ネタ安価下2ー

この扉の向こう。

そこに、焦がれる程に求めた相手がいるのに。


「ごめんね」


宥は、心の底から申し訳なさそうに囁いた。

見下ろすのは、もう動かない友達だったもの。


「でも、京太郎くんだけは駄目なの」


寒そうに身を震わせて、宥は扉の向こうに消えていった。

その身を、心の底から温めてくれる人が待つ部屋に。


段々と冷たくなり始めた、肉の塊をそこに残して。

必殺仕事人ゆうちゃー


小ネタ安価下3ー

一目惚れが運命の出会いならば。

今こうして、二人きりでいるのも運命なのだろう。


「雨、止みませんねぇ……」

「そうだな」


軒下から見上げる景色は滝のような雨のカーテンに遮られている。

傘を持っていない以上、雨が止むか迎えに来るかを待つしかない。


「……」

「……」


会話が途切れると、途端に雨の音が大きくなる。

軒下に立つ、二人の距離。

もう一歩を踏み出せば触れあえるのに、そこには見えない壁がある。

それを退かす方法を、菫は知らない。


「……」


それが、酷くもどかしい。

「そういえば、部長は照さんと一年の頃から一緒なんですよね」


やがて、彼の方から口を開いた――かと思えば、出て来たのは別の女の名前。

止めろ、と叫びたくなる。

私以外の女を呼ぶな。私以外の女を見るな。

押し倒して刻み込みたくなるが、それは絶対的な壁が許さない。

菫は、表面上は全くの平静を装おって、頷いた。


「ああ」

「照さんって一年の頃はどんな感じだったんですか? 照さんに聞いてもよくわかんなくて」

「ふふ……全く、あいつは――」



雨は、勢いを増すばかり。

「あ、アレ」


彼が、指を指す方向。

黄色い傘を差して、こちらに歩いてくる白糸台の生徒。


「照さん!」

「これ」


噂をすれば影。

さっきまで、ちょうど話題の中心になっていた人物。

宮永照が、黒い傘を菫に差し出した。


「遅いから迎えに来た」

「あれ、傘足りないような」

「二人で一緒に入ればいい」


照が、彼に身を寄せる。

一つの傘に入りきれるように。

菫が踏み出せなかった一歩を、容易く踏み出して。


「――」


微かに歪んだ口の端。

それを、菫は見逃さなかった。

菫と、照の視線が交差する。

全く同じ相手への感情を抱いて、口を開く。


「……」


紡がれた言葉は雨音に掻き消されて、彼の耳には届かなかった。

今夜はここまででー
次は臨海だと思います。多分
臨海終わったらどうするかは考えてないです


それでは、お付き合いありがとうございました!

何気に清澄も小ネタだけだったような気が
咲さんと部長は個別で出番多いけど

臨海の後に何か書くとしたらかなり短くなると思います
最初に好感度判定みたいなのドバっとやって後はノリ
ちなみに小ネタ以外だと全国大会編より前の高校はノータッチ


>>44
清澄は>>1の宗教上の理由でヒッサ完勝ルートしか書けないので多分小ネタ以外だと書かないです

荒川さんと愉快な仲間たちとかは難しいかな?

ネリー可愛い

>>55
憩ちゃんともこは、前はえりさんとかこーこちゃんとかのアナ組と一緒にやる予定でした
利仙、藍子、絃はちょっと書けないと思いますが


というわけで臨海の続きやりますの

朝。

登校するべく玄関を出た瞬間に、京太郎は目を見開いて固まった。


「一緒に行こうか」


玄関の先で京太郎を待っていたらしい智葉が誘ってくる。

それはいい、何も問題はない。

だが、彼女の後ろに停まっている黒塗りの高級車は――


「ウチのやつらが送ると言うからな」

「……ぱねぇ」


何度かこの車に乗ることはあったが、登校時の送迎に使うのは流石に初めてである。

近所の婦人方の視線から逃れるように、京太郎は智葉に促されるままに車に乗り込んだ。

辻垣内智葉は有名人である。

日本で三番目に強い女子高生――ということに加えて、その家柄。


「じゃあ、また後でな」

「は、はい」


ならば、その智葉と一緒にいる男はどうか。

彼女と一緒に車を降りた途端に、集まる他の生徒たちの視線。

好奇心を多分に含んだそれは、間違いなく噂を広げることだろう。


「はー……」


智葉の告白にまだ答えが出せない自分が情けなくなって、京太郎は空を仰いだ。

智葉・告白済み。他のメンバーにも戦線布告済み
ハオ・京太郎まじいい匂い。実家にお持ち帰りしたい。智葉の戦線布告を受けて……
明華・夏休みに一緒にフランス行くことを約束。智葉の戦線布告を受けて……
メグ・京太郎のことをダーリンと呼びつつも他のメンバーよりは執着心は強くない。智葉の戦線布告を受けて……
ネリー・大好きな気持ちいっぱい……だけど。智葉の戦線布告を受けて……

ちょっとだけおさらいするとこんな感じ


というわけでキャラ安価下3ー
有珠山と同じく京太郎抜き安価アリです

ネリーはキョータローが欲しい。

サトハもキョータローが欲しい。

ミョンファも、ハオも、みんなそうだ。

たった一人の男の子を、みんなが欲しがっている。


「キョータロー……」


今朝の噂は、耳に届いている。

戦線布告の通り、サトハは京太郎を手に入れる為に動いている。


「……」


ネリーは目を閉じて想像する。

サトハとキョータローが一緒になる未来。

このままでは、きっとそのイメージ通りにキョータローが取られてしまう。

胸に染み出す不安に、ネリーは――


「ネリー、学食行こうぜ」

突然の想い人からの呼びかけに、イメージの世界から引き摺り下ろされる。

パチリと目を開くと、そこにはいつもと変わらない彼の顔があった。


「友達から券貰ってさ」

「え……」

「折角だしって……ネリー? どうかしたか?」

「ううん……いこ!」

「おし、席埋まらないうちにさっさと行くか」



判定直下ー
1~50 二人は幸せな時間を以下略
51~00 「京太郎、いるか?」

腹が減っては考え事も出来ない。

同じように智葉の告白のことで悩んでいた2人だが、それでも空腹に抗うことは出来ない。

2人で向かい合って学食の席に着くと、京太郎は箸を、ネリーはスプーンを手に取って食事を始めた。


「いただきます」


京太郎は箸を進めながら目の前のネリーに視線を送る。

智葉のことや、麻雀のこと。

考え込んで悩むことは色々ある。

けれど。


「ん……美味し♪」


小さな口にスプーンを運ぶネリーの姿を見ている、今だけは。

小難しい考えよりも、温かい何かが胸の中を満たした。

ギスギス回避コンマ

キャラ安価下3ー

一番の正解なんて、恋愛には存在しない。


「手が止まっていますよ」

「……ハオか」


休み時間中。

迫る大会に向けて、少ない時間を活かさなければならない。

女子に比べれば男子はレベルがそこまで高くないとはいえ、それでも自分はまだまだ弱いのだから。

少しでも一歩前に進めることが出来れば――そう考えて、以前ハオに譲り受けた教本を読んでいたのだが、彼女の指摘する通り、いつからか考えが逸れていたらしい。


「どんなに優れた本でも……モノにする気がないのであれば、意味はありません」

「ああ……悪い」


相変わらず、顔が近い。

意識すると吐息がかかりそうな距離にまで身を寄せてくるハオにも、既に慣れたものだ。

椅子を引いてちょっとだけ彼女と距離を取りつつ、京太郎は注意をしてくれたハオに詫びた。


「悩み事ですか」

「ちょっと、な」



ハオは、少しだけ目を細めた。

京太郎の考えている事、それは智葉の告白に関することだろうか。





郝慧宇判定直下ぁー
1~30 「忘れないで、ください」
31~60 「恋愛……ですね?」
61~98 「答えが出ないのは、経験が無いからでしょう」
ゾロ目 ???

宣戦布告では無く戦線布告なのは、既に攻めこんでますよ、という暗示だろうか。

「答えが出ないのは、経験が無いからでしょう」

「……そりゃー、なぁ」


先輩の家にお泊まりしたら、風呂場でニアミス。

そのまま先輩に迫られて、告白されて。

でも――心の中で何かが引っ掛かって、告白に返事ができないままでいる。

こんなこと、何度も経験する筈がない。


「……なら」

「ハオ?」


ハオが、京太郎の手の甲に手のひらを重ねる。

彼女の低めの体温が、指先から伝わってきた。


「私で、経験してみませんか」

「な……何を」

「ふふ……」



「私は、いつでも構いませんから」

今夜はここまで
ちょっとイベント的なの考えてます
ネリー可愛い



>>87
書いてる時は誤変換に気付かない
あるあるだと思います



それでは、お付き合いありがとうございました!

京太郎「揺太郎」

揺杏「杏太郎」

京太郎「揺京」

揺杏「京杏」


京太郎「うーむむ」

揺杏「ぬぬぬ……」

京太郎「お互いの名前から一文字ずつって結構難しいなぁ」

揺杏「中々しっくりこないねー……あ」

京太郎「ん?」

揺杏「杏をきょうって読めばー」

京太郎「杏太郎(きょうたろう)かー」


揺杏「……お!」

京太郎「お?」

揺杏「すげぇ! 今お腹けった! 触ってみ!?」

京太郎「まじか!……お、おお……!!」



揺杏「あー……なんかさ、すっごく幸せだわ今」

京太郎「だな」



揺杏「いえーい」

京太郎「いえい」

「俺、今日は彼女と入学祝いあるんで帰りますね」


なんて、ちょっとふざけたジョーク。

エイプリルフールの嘘のつもりだったのだが――


「そういうことですので。では」

「へ?」


由暉子が、京太郎の手を握る。

有無を言わさず京太郎の手を引いて部室から出て行こうとする彼女に、開いた口が塞がならない。


「待ちなよ」

「なんですか」

「勝手なこと、しないでもらえる?」


入口で通せんぼをする揺杏と誓子。

睨み合いで飛び散る火花が実に痛い。


「う、嘘ですよね……」

「がおー」


成香なんてプルプル震えてるし、爽に至っては意味不明だ。

「あ、咲」


そして携帯にメール。

機械音痴のポンコツ幼馴染のクセに、入学祝いでケータイを買って貰ったらしい。

案の定誤字脱字だらけのメールに頰が緩くなった、が。


「……咲?」

「知らない名前、ですね」

「もしかして、その子が」


うっかり忘れていたこの状況。

迫り来る女子部員の手。


「がおー」


もはや、訂正も撤退も不可能。

どうしてこうなった――と、京太郎は心の中で泣いた。


【ふぁいっ!】

揺杏「京太郎ー」

京太郎「揺杏ー」

揺杏「きらいー」

京太郎「俺も」


揺杏「え」

京太郎「嫌い」


揺杏「……京太郎」

京太郎「ん」

揺杏「うそ」

京太郎「うん」


揺杏「好き」

京太郎「俺も」

揺杏「キスして」

京太郎「ん」


揺杏「一回嘘ついたからもっかい」

京太郎「ん」


揺杏「京太郎」

京太郎「ん」

揺杏「大好き」

京太郎「俺も」


揺杏「いえーい」

京太郎「いえい」

「これ、俺の彼女なんだ」


ふざけたジョークのつもりで親に見せた写真。

ちょっとした縁で知り合った牌のおねえさんとのツーショット。

親の驚く顔を笑い、京太郎は寝床についた――のだが。



「おはよ」

「え」


翌朝。

目覚めた時には見知らぬ部屋で、隣には京太郎の腕を枕にする牌のおねえさん。

何とも――幸せそうな顔をしているではないか。


「よろしくね、旦那さま」


彼女に唇を奪われながら――これは夢なのだと、京太郎は意識を手放した。


色々忙しくなってきたので更新ペース落ちます
臨海終わったらスレ畳む可能性あるかも

揺杏「うりうり」

京太郎「手ェつめたっ……ホントに4月かよ……」

揺杏「ほれほれ、はやくあっためろー」

京太郎「はいよー」ぎゅー


揺杏「あー……ぬくい。めっちゃぬくい」

京太郎「あすなろ抱きだっけ、この体勢」

揺杏「どーでもいいわー。京太郎羽織さいこぉー」


京太郎「いぇーい」

揺杏「いえい」


爽「いえーい」

誓子「流行らせないでよ」

少しばかり、下品な話。

臨海高校1年、麻雀部所属。

須賀京太郎の、生活について。

15才というのは、まだまだ若さに溢れた年齢である。

小学生で遊び、中学生で部活に励み、そして始まった高校生活。


「……」


入学してから一週間ほど経過した、ある日の晩。

京太郎は自室のドアの鍵がかかっているのをしっかりと確認して、息を整えた。

正座した彼が向き合うものは、純白のティッシュ。


「ふ……」


これより彼が行うことは一種のガス抜きであり――普段の生活で、自分を抑えるための行為である。

臨海麻雀部三年、先鋒、辻垣内智葉。

格好良い佇まいの先輩であり、美人であり、時折可愛らしい仕草を見せる人。

そして胸が大きい。


臨海麻雀部一年、次鋒、郝慧宇。

無頓着なのか無自覚なのか、物理的な意味で距離が近いことの多い同級生。

中国美人の彼女に迫られる度に、京太郎の胸は弾む。

そして胸が大きい。


臨海麻雀部二年、中堅、雀明華。

彼女の靡く長い髪から漂う香りにドキドキさせられた回数は数え切れない。

勿論、胸が大きい。


「はぁ……」


さて。

そんな魅力的な彼女たちを身近に過ごして――果たして京太郎は、自分を抑え切れるのか。

15才という、多少なりとも知識をつけて、体力と若さに溢れた年齢の少年に。

その答えは、否である。

だからこそ暴発しないように、こうして定期的にガス抜きを行う必要があるのだ。

仕方ないことなのだと、ニヤける自分に言い訳をしながら、京太郎は目を閉じた。


「さて、今日は……」


妄想の中でなら自分は無敵だ。

どんな相手だろうと思いのまま。

知られたら軽蔑されるであろう内容も、外にさえ出さなければ問題はない。


「……そうだ」


数秒の思考の後に、京太郎は目を開いた。

今晩は少しばかり――趣向を変えてみようではないか、と。

『キョウタロー!』


脳裏に思い浮かべるは、ネリー・ヴィルサラーゼ。

同級生であり、少しばかり生意気なヤツ。

スタイルこそあの三人には惨敗であるが、黙っていれば凄く可愛い。

そんな彼女を、思うがままにできたのなら――


『……キョウタロ?』

「……アレ?」


――できたの、なら。

「おっかしーな……」


決して口には出来ないが、京太郎は中々にアブノーマルなプレイを数多く妄想してきた。

尊敬している先輩は勿論のこと、時には監督ですら相手にして。


『キョウ、タロ……?』


なのに。

妄想の中だというのに。

ネリーの幼い顔が涙に滲むのが、京太郎には我慢ならなかった。


「ちっくしょ……」


その夜、少年は。

罪悪感と虚無感を、覚えた。

さて、京太郎が理解できぬ罪悪感に囚われている一方で。

彼を想う女の一人、辻垣内智葉は鐔の無い日本刀を広い和室の真ん中で構えていた。


「――ッ」


呼吸を整え、虚空を切り裂く一閃。

切るべき相手は、自分の中の迷いの心。


「……ふぅ」


恋する乙女のイメージとは程遠い振る舞いだが、智葉にとって恋愛とは決して負けられぬ戦いである。

この方法が最も気合いが入るのだから仕方ない。

彼女は、気を引き締めて刀を鞘に収めた。

ベランダの柵に寄りかかり、夜風にあたりながら明華は歌を口ずさむ。

その音色は初めて彼に会った時と同じもの。


「……♪」


彼女が歌に乗せる想いは、あの時と変わらない。

しかし、それを彼に届けるには――少しばかり、邪魔なものが多過ぎる。


智葉、ハオ、そしてネリー。


この三人がいなければ――なんて、もしもの話に意味はない。

彼の心が自分に向けられていない。


その事実が――何よりも、明華を歯痒くさせた。

激甘な京淡が欲しいです
ひたすらイチャイチャする京淡が欲しいです

臨海編おさらい
詳しくはまとめで


【京太郎】

・休日にふらっと行った雀荘で咏さんと照と淡にボコされる

・悔しさから麻雀に対して真剣になる

・カピーは辻垣内家に預かってもらっている

・ネリーの家に行く約束をしたり明華の約束に行く約束をしたり智葉に告白されたりで揺れるママママインド


【ネリー】

・京太郎のこと好き好きでも揺れるママママインド

【智葉】

・京太郎に告白済みで恋敵共に宣戦布告済み

【ハオ】

・クンカー。隙あらば……

【明華】

・智葉の宣戦布告を受けたが、彼女が本当に警戒している相手は……

【ダヴァン】

・空気

【監督】

・濡れた


【照】

・憧れのおねーさん。ちょっと前に雀荘で再開した

【淡】

・雀荘で出会った女の子。ちょくちょくLINEでやり取りしてる

【咏】

・雀荘で京太郎をボッコボコにした人。京太郎の目標でもある



気力あれば今日に、なくても明日には更新したい……

アレクサンドラは、若い才能と熱意を好む。

そして、欲深い。

若者の持つ『何か』に揺さぶられた時、彼女はいつも我慢が効かなくなるのである。


彼――須賀京太郎を麻雀部にスカウトしたのも、それが理由だ。

ネリー・ヴィルサラーゼがよく話題に出していた少年。

話を聞けば、他の部員も彼を知っているという。

興味を引かれて彼を一目見れば――


「欲しいな、君」


――成る程、確かにこの少年は『何か』を持っている。

その直感がどこから来たものかは定かではないが、アレクサンドラ・ヴィントハイムが須賀京太郎に強く惹かれたことは事実だった。


起爆剤。

京太郎のことを、アレクサンドラはそう言った。

彼によって、アレクサンドラのみならず部員たち全員のモチベーションが上がったのは事実。

雀荘での敗北をきっかけがきっかけになったのか、本人の麻雀に対する熱意も高い。

今は弱くても――将来性という点においては、誰よりも楽しみにしている。


「……ふむ」


だからこそ。

彼女は、現状を良しとすることができない。

昼飯度の学食は、多くの生徒が利用する。

特に臨海の学食メニューは豊富であるため、利用者からの人気は高い。


「聞きましたよ」


多くの生徒たちが行き交う中。

ハオは、静かに飲みかけの紅茶の入った紙コップをテーブルに置いた。

白いコップの中で、赤褐色の表面に波紋が走る。


「何を?」


一方で、ハオの対面に座る智葉は緑茶の入ったコップを持ち上げて口付けた。

込み入った学食のざわめきの中でも、お互いの声ははっきりと相手に届いていた。

「彼に、迷惑をかけているそうですね」

「……」

「知っているでしょう。あなたが強気に出れば、逆らえない。京太郎はそう言う人だ」


淡々とした口調だが、ハオの言葉は智葉を非難するものだ。


「迷惑、か」


しかし智葉は、調子を崩さない。

ハオの瞳を真っ直ぐに見据えて、彼女は語気を強めて口を開いた。


「お前がそれを言うのか」

「何を」

「言った筈だぞ。私はアイツに告白したとな」

「……」


「だから本気でアイツにアプローチをしている。使えるものは何でも使っている」

「ですから、それが」

「思わせ振りな態度でただアイツを翻弄するだけのお前と――どっちが、マシだろうな」

「それに、な」


――すいません!


「アイツも――アイツにも、強いものはあるぞ」




ネリーは、部室で一人椅子に座って頬杖をつく。

いつもなら隣にいる京太郎の姿はない。

家の用事で休む、と彼からはそう聞いている。


「……」


小さく口を開くと、出て来るのは陰鬱な溜息。

ずっと、ネリーの胸の内を渦巻いている不安。

それが晴れるには、きっと――

ぼんやりと窓の外を眺めるネリーの背後で戸が開く。


「随分と、らしくない。何があったの?」

「……監督」


ネリーの次に部室に来たのは、アレクサンドラだった。

彼女が最初に口にしたのは挨拶ではなく、問い掛けの言葉。

そして――その声音は、ネリーを気遣うものではない。


「ここ最近、何というか……そう、中途半端なんだよ」

「……」

「はっきりと言えば――ネリー、弱くなってるよ。大会も近いのにね」


何を言っているのか、とネリーの眉間に皺が寄る。

ムッとして反論しようとも――それは、事実だった。

彼のことが気になって、麻雀も私生活も何もかもが中途半端になっている。

「悩むのはいい。けれど、考えないのは駄目だね」

「考える……」

「どうすればいいかって悩むだけ悩んで、そこから前に進もうとしない」


袋小路。

今のネリーが陥っている状態。


「お金のために麻雀を打っているあんたは強かった。勝つだけじゃなくて、どうすれば次の稼ぎに繋がるかまで考えていたし」

「……ソレとコレとは、話が違うから」


だが、その袋小路から抜け出すための方法がわからない。

今のネリーが欲しいものは、ただ欲しがるだけじゃ手に入らない。


「そう」

「そうって」

「それでもねぇ――まずは、動かないと。話は始まらないんだよ」

「ネリーの悩みは難しいものなんだろうけど。何もしないで自分一人で解決できるものかい?」

「それは……」


確かに、そうだ。

ネリーの欲しがっているものは、ただ欲しがるだけじゃ手に入らない。

けれど――ただ悩んでいるだけで手に入るのかと言えば、それは絶対に違う。


「誰にも相談できないなら、まずは動く。そこから答えを探っていくんだ」

「……」

「今のあんたにはソレが必要なんだってことを忘れないでね」

「……監督」


京太郎のことを、ネリーは好きになって。

でも――京太郎のことを好きなのは、ネリーだけじゃなくて。

いつからか、わからないが――ネリーは随分と、弱気になっていた。


「……そっかぁ」


本質的には、『コレ』はお金と変わらない。

慣れない感覚に胸が浮ついて、きっと一番大切なことを見落としていた。


「監督、なんかオトナみたい」

「……みたいじゃなくて、オトナだからね?」


奪われる前に、奪う。

与えられる前に、与える。

競争相手がいるなら、相手よりも先に動く。

それが一番、大切なこと。


自分から声を出さなければ、気付いてもらえることはない。

自分が与えなければ、等価交換は成り立たない。


ネリーは、漸く目を覚ませたような気がした。

やっぱり京揺がナンバーワン

臨海編更新、できたら今夜に
22時までに何も無かったら明日以降にやります

「それってさ、きょーたろーがその子のこと好きなんじゃないの?」


ふと言われた言葉に、京太郎は思わず牌を取り落とした。

休日、立ち寄った雀荘にて。

対面する相手は少し前に知り合った少女、大星淡。

左隣が幼馴染のお姉さん、宮永照。

右隣は――偶然その場に居合わせた名も知らぬ女子。何とも居心地が悪そうである。


「……俺、が?」

「うん。きょーたろーが」


落とした牌を拾うのも忘れて、京太郎は目を何度も瞬かせる。

一方で淡はマイペースに頬杖をついている。

照はじっと考え込むように河を見つめ――名も知らぬ女子は、早く進めて欲しいと言わんばかりにわざとらしい咳払いをした。

古今東西、女子は恋話が好きである――とは京太郎の勝手な思い込みであるが、淡は見事に食いついてきた。

照は何を考えているのかはわからないが、恐らく不愉快には感じていないはずだ。


「えーっと……その、何とかって人に告白されたんだっけ」

「あ、あぁ」

「で、きょーたろーはその何とかさんをフった」

「……いや、フってはないけどな?」


淡の言う何とかさんとは、辻垣内智葉のことであり。

フってはいないが――答えてもいない。


「ふーん?」

「な、なんだよ」

「なんか、ヒキョーな感じ。ずっこい」

「……」

「ま、それはどーでもいーんだけど」

「いいのかよ」

「いーの」


淡が身を乗り出して京太郎の目を覗き込む。

躊躇いなく相手の空間に踏み込む姿勢に、京太郎は思わず僅かにたじろいだ。


「なんてったっけ。もう一人の子」

「……ネリー」

「ああ、そうソレ」

「ソレって、お前な」

「きょーたろーは、その子が好きなんでしょ。何とかさんよりも」

「……」


「絶対そーじゃん。話しててもその子の話してる方が楽しそうだし」

「俺は……」


京太郎の手が止まる。

意識が目の前の卓から離れて、記憶の中のネリーを思い返す。

完全に対局が止まってしまうが、淡は特に気にした様子はなく欠伸をした。

照はじっと京太郎を見つめて、微かに口角を上げた。


見知らぬ女子は、気まずそうに三人の顔を見比べて――諦めるように、溜息を吐いた。

もしも、男女の価値観や立場が逆転した世界に気付かぬうちに迷い込んでいたとしたら。

そして、周囲の異性から病むほどの愛情を向けられていたとしたら――。

「ごめん。もう限界」

「え――?」


爽のその一言と共に、京太郎は保健室のベッドへと押し倒された。

一体なんなんだ、限界ってなんだよ――と言い返す間もなく、爽にマウントポジションを取られてしまう。


「気が気じゃないんだよね、こっちもさ」

「爽……?」

「どうしちゃったんだよ、京太郎」


それはこっちの台詞だと、京太郎は爽を押し退けようとして。

彼女の細身の身体からは考えられない程に強い力で押さえ付けられ、開けた口からは呻き声しか出すことができなかった。

「暑いからってそんな風にシャツ一枚になるとか――さぁ」

「さ、さぁ?」


爽の腕の震えからは彼女の態度が冗談ではないことが伝わってくる。

だからこそ、何故爽がここまで怒っているのか理解できない。

体育の後で身体が熱くなった為にシャツ一枚になるなんてのは、『いつものこと』である。


「私以外の女に肌を見せるようなマネ、するなよ」


意味がわからない。

爽の台詞も、この状況も。

出来ることは、ただ全力で爽に抵抗することだけだ。

「勘違いしてんのは、どっちだよ」


荒々しく開けられた保健室の引き戸。

爽に負けない怒気を含んだ声が、京太郎の救いの手となった――が。


「ゆ、ゆあ……んっ!?」


問題なのは、乱入者である揺杏の格好。

ワイシャツのボタンが大分開けられていて、ブラジャーが丸見え。


「京太郎は」

「私のだ」


だが、爽はまるでそれが当たり前かのように受け入れている。

目の前で容赦なく飛び散る火花と意味不明の状況に――京太郎の混乱は、深まるばかりだった。

某スレよりアレ的な小ネタ

次は臨海再開します
大将戦始まってネリー可愛い

もうちょい後で臨海再開します

「くぁ……」


込み上げてくる欠伸と目尻に溜まる涙。

気を抜くと寝落ちしてしまいそうな眠気を感じながら、京太郎は校門を跨いだ。

寝不足の原因はハッキリしている。

先日の雀荘で淡に言われた一言。


「ネリーを……俺が……」


じっくりと考えても答えは出ない。

智葉の告白のこともあるし、麻雀のこともある。

考えれば考えるほど、自分の中の答えが遠退くようで――


「キョウタロッ!!」

思考の底なし沼に嵌りかけていた京太郎を引っ張り上げた高い声。

今まさに、京太郎が最も強く頭の中に思い浮かべていた相手。


「お、おう……おはよう、ネリー」

「おはよっ」


やけにテンションの高い声音に戸惑いながら振り向くと、やはりそこにはネリーが立っていた。

悩み過ぎて寝不足の京太郎とは対照的に――ネリーは、どこか吹っ切れたように見える。


「えへ」


自信に満ちた笑みを浮かべて、ネリーは一歩踏み出す。

そのまま彼女は京太郎を見上げて、口角を上げながら小さな口を開いた。


「ね、キョウタロ。プレゼント上げる」

「プ、プレゼント……?」

「そ、いいものあげる」


思わず、復唱。

京太郎が女子に振り回されるのはいつものことだが、今回は特に混乱が大きい。

『あの』ネリーがプレゼントをくれるというのもそうだし、そもそも何でこんなにも上機嫌なのか――?




判定直下
1~50 「ホラ、ちょっと屈んでよ」
51~00 「……何をしているんだ、校門で」

「……何をしているんだ、校門で」


校門のど真ん中で独特の空間を築き上げていた二人の間に割って入った第三者。

呆れた視線をネリーと京太郎に向けながら、智葉が声を投げかけた。


「……ネリー、あまり京太郎を困らせるな」

「……」


ネリーはチラリと智葉に眼を向けて、しかしその言葉には返事をせずに、再び京太郎に向き直った。


「そっか。やっぱり、場所とか考えた方がいいよね」

「どういう意味だ」

「やっぱり内緒。また後で」


一方的に言い放つと、ネリーは京太郎に背を向けて駆け足で校舎の中に入っていった。

残された京太郎にはまるで訳がわからず、間抜けに口を開けて立ち尽くすばかり。

智葉も京太郎と同じような心境だが――どこか心の隅に、引っかかるものを感じていた。

また後で、と言い残したネリーだが。

朝のHRが終わった後も、授業の合間の休み時間も、昼休みの間も特に目立った行動を起こす事はなく。

あっという間に時間は過ぎて――いよいよ、放課後が訪れた。

「――さて、私からの話は以上だけど。他に何かある?」


全国大会が近付くにつれて、練習前のミーティングは重要性を増してくる。

机の上には他校の選手たちの牌譜。ホワイトボードにはこれからの方針。

いつもよりピリピリした様子で、アレクサンドラは部員たちを見渡した。

各々が思考を巡らせる中――いつものように京太郎の膝の上を陣取るネリーが、勢いよく挙手をした。


「ネリー、何かある?」

「一個だけ、だけど」


全員がネリーに注目する中で、ネリーはくるりと振り向いた。

大きな瞳には、京太郎だけが映されている。

「ね、キョウタロ。前に言ったよね」

「何を?」

「等価交換だって」

「ん?……あ、あぁ」


それは、大分前に冗談のつもりで口にした言葉。

あの時も今と同じように、膝の上にネリーを乗せていた。


「だからね、あげる」

「ネ、ネリー?」


しかし、今はミーティングの時間。

あの時の話と、今の状況が京太郎の中で結び付かず――。








「ネリーのぜんぶ。キョウタロにあげる」







カチン、と歯がぶつかる様な感覚がして。

ネリーにキスをされた、と気が付いたのは唇の痛みを感じてから。


「――」


みんなの、智葉の前で、ネリーとキスをしている。

少しずつ状況を把握するにつれて、体温が上昇していく。

頰に熱を感じて、心臓が痛いくらいに暴れて――それでも、ネリーを拒む気にはなれず。


「……」


ゆっくりと、京太郎はネリーの細く華奢な腰に腕を回した。

ただ唇を重ね合うだけの、色気もないキス。

一瞬のような、永遠のような――とにかく京太郎にとって酷く曖昧な時間が経過してから、ネリーが唇を離した。


「だから」


周りの部員が何かを言っているが、耳に入らない。

ネリーは京太郎だけを。

京太郎はネリーだけを。

お互いに、お互いだけを見ていた。



「キョウタローのぜんぶ――ネリーに、ちょうだい?」

今日はここまでー
臨海編、まだ続きますのよ
ネリー可愛い

ネリー・ヴィルサラーゼと須賀京太郎。

二人はきっと、お互い以外のものは見えていない。


「……敗けた、な」


智葉の口から零れ出た言葉。

それは、ハオと明華も同様に感じたもの。


だが――。

「――ッ!!」


広い和室に、一人。

虚空に向けて、智葉は袈裟懸けに刀を振り下ろした。


「……ふぅ」


額から流れ出た汗が頬を伝い、畳に染み込む。

花の女子高生とは程遠い姿であることは自覚しているが、智葉にとってはコレが日課だ。

――だから、振られたのかもな。


思わず、自嘲の笑みが浮かんだ。

あの場では、少なくとも智葉は恋愛において己が敗北したことを認めた。

おめでとう、と彼らを祝福する言葉をかけた。


「……」


判定直下
1~50 それで、いいじゃないか
51~00 本当、に?

――本当、に?

心のどこかから、そんな声が聞こえた気がした。


「……くっ」


見苦しい、と智葉は首を振った。

正々堂々、自分は真っ正面からネリーに敗けたのだ。

未練があるなら、諦め切れないなら――それは、己が未熟だからだ。


「……」


智葉は、再び刀を構え、上段から振り下ろす。

己の中の迷いを、未練を断ち切るように。


それが何の慰めにもならないことを、理解していながら。

「――」


ふと、京太郎は夜中に目を覚ました。

虫のしらせのような、何かが起こりそうな胸騒ぎ。


「……ん」


しかし。

そんな胸騒ぎも、すぐ隣にある幸せそうな寝顔を見ると吹き飛んでしまった。

ネリー・ヴィルサラーゼという彼女。

そして今は、彼女の暮らす部屋にお泊りしている状況。

幸せでない筈がないのだ。


「……へへ」


頬を緩めながら――ぺたり、と京太郎はネリーの首に人差し指を添えた。

寝汗のせいか、ちょっとだけ指が張り付くような感覚がした。


「……」


ベッドで眠る彼女は、目を覚ます気配がない。

ただ少しだけ、くすぐったそうに身動ぎをした。

智葉が部室の戸を開けた時、室内にいる部員は未だに京太郎一人だけだった。

その京太郎ですら、机に突っ伏すようにして眠っている。

智葉は一つ苦笑を浮かべ、静かに京太郎に歩み寄る。


「……やれやれ」


夜遅くまでネット麻雀でもしていたのか。

それとも遊んでいたのか。

どちらにせよ、いつまでも寝かしつけておくわけにはいかない。


判定直下
1~50 おはよう
51~00 ……これ、は?

そっと揺り動かすように手を伸ばすと、京太郎が微かに身動ぎをした。

智葉は反射的に手を引っ込めると同時に、彼のワイシャツの胸ポケットから何かが椅子の下に落ちたのを見つけた。


「……これ、は?」


白く細長い指が摘み上げたそれは、女性の髪留め。

それが、何故彼の胸ポケットから――などという疑問は、すぐに解決した。


「ふぁー……」


ちょうど、その髪留めの持ち主が暢気に欠伸をしながら部室にやって来たからだ。

続きは夜に

須賀京太郎とネリー・ヴィルサラーゼは恋仲である。

それは誰もが認める事実だ。

そして、智葉は誰よりも早くその事実を認め、彼らを祝福した。


「キョウタロッ」

「んー?」


その、筈なのに。

何故だろうか。

二人が触れ合う姿を見る度に――胸の内側が、苦しく締め付けられるような感覚を覚える。

「……やめろ」


ぎゅうっと、己の胸を抑えつけて。

己に言い聞かせるように、呟いた。


「サトハ? 何か言いまシタ?」

「何でもない」



「ただの、独り言だ」

波のように押し寄せる想いに、智葉の心は少しずつ削られていく。

内側から徐々に己を蝕む病。

いくら素振りをしようとも、断ち切ることは出来ない。

苦しみを誰にも打ち明けることが出来ないまま、ただイタズラに時間だけが過ぎて――。


「……ん? ネリーは、どうした?」

「あー……今日は、何か仕事というか試合があるみたいで」





1~40 「……そうか」
41~00 「……なら、久しぶりにうちに来ないか?」

「しかもちょっと遠出してて、明日まで帰って来ないんですよ」

「……なら、久しぶりにうちに来ないか?」

「え?」

「久しぶりに見てやるよ。お前の麻雀を」

「お、おぉ……」

「それに、カピーのヤツも寂しがっているだろうさ」


ネリーという彼女への義理。

麻雀の上達意欲。

この二つを比べれば、彼女への義理の方が重い。

しかし、カピーの存在と智葉への恩が加われば、京太郎の中の天秤の傾きは――。


「……じゃ、よろしくお願いします」

「ああ、任せろ」


無論、智葉とてネリーへの配慮がないわけではない。

この誘いは、先輩として後輩雀を気遣うもの。


「……ふふ」


何もおかしな事はない。

練習を見てやる事も、カピーに会わせてやる事も。


義務のようなものなのだから――そう、気に病むことは、何も無いのだ。

今日はここまで
次の更新時にサトハパート終了予定
ネリー可愛い

臨海続きやります

久しぶりのカピーとの触れ合いは京太郎の心を癒し。

智葉の指導は一切の容赦なく京太郎の心を削ぎ落とす。


「ぐぁー……」

「少し、休憩するか」


黒服のお兄さんたちを交えた麻雀の特訓は、色んな意味で疲れが溜まる。

外が暗くなった頃には、京太郎は大の字になって畳に倒れ込んだ。

汗が頬を伝い、畳に染み込む。


全力を出し尽くした様子に智葉は苦笑いを浮かべ、腰を上げた。


「……待ってろ。お茶を入れてくる」

台所で冷たいお茶の準備をしながら、智葉は口角を吊り上げた。

以前に比べて、京太郎は大分強くなった。


「……ふふ」


そして、その打ち筋は智葉に似ている。

京太郎が麻雀と向き合っている瞬間。

その時だけは――彼の心を占める女は、自分なのだ。


「さて」


冷たい麦茶を入れた二つのコップを盆に乗せて、智葉は台所を後にした。


広い和室に、男の寝息。

それは智葉の淹れたお茶が原因――ではなく、疲れ切った京太郎が寝落ちしたためである。

お陰で折角の冷たい麦茶が温くなってしまった。


「まったく」


しかも、ワイシャツの胸元が肌蹴ている。

仕方ないヤツだ、と智葉は大の字で眠る京太郎に手を伸ばし――。

ワイシャツの下から見えた、無数の赤い斑点と爪痕に、手を止めた。

智葉は、高揚していた胸の内側が冷めていくのを感じた。

下らない優越感に浸っていた己の無様さ。


「……」


智葉は――。


直下
1~30 鐔のない日本刀に、手をかけた。
31~00 鐔のない日本刀に、手をかけた。

「……んぁっ?」


びくりと身震いをして、京太郎は目を覚ました。

散らばる麻雀牌、皺だらけになったワイシャツ。

自分が意識を失う直前とほぼ同じ室内。


「……あれ」


ただ一つ。

智葉がいないことを、除けば。

時間は深夜零時を過ぎたころ。

終電から降りたネリーは、大きな溜息を一つ吐いた。

本来ならば翌朝になる筈だった帰宅を、無理を通して早く帰ってきたのだから疲れも一入である。


「――♪」


それでも、駅から出たネリーの足取りは軽い。

無理矢理早く帰ってきた分だけ、大好きな人に早く会えるのだから。



「……」

浮かれていた。

だから、気が付かなかった。


夜風に靡く、長い髪に。

抜き身の、長い刀身に。


「……え?」


ふと、気配を感じてネリーが振り向いた時。

空を切る音と、街灯を反射する刃が、彼女に向けて振り下ろされた。






「ネリーッ!!」




判定 下3までの平均
67以上で……

大好きな人の声が聞こえたかと思えば、肩を突き飛ばす強い力。

何が何だかわからずに、ネリーは固い歩道に思いっきり尻餅をついた。


「いったぁ……」


一体、何が起きたのか。

少しでも状況を把握しようと、ネリーは涙で滲む目を開けた。

「え?……?」


大好きな人の声がしたのに、大好きな人がいない。

周りを見渡して、ネリーは首を傾げた。


「うそ……?」


目の前には、長い髪の女とうつ伏せで倒れる男。

ネリーの大好きな人は、金髪の男子だ。

目の前で倒れている男のように、真っ赤な髪では、ない。

「ち……違うんだ……」


長い髪の女が、酷く狼狽した様子で刀を取り落とす。


「あ……」


銀色の刀身が、赤く染まる。

血溜まりが跳ねて、ネリーの靴下に赤い染みを付けた。

「ネ……リ……?」


赤い髪。

血で赤く染まった髪の男から、大好きな人の声がした。

嘘だ。信じたくない。

そうやって首を振っても、歩道に打ち付けた腰に走る痛みは現実のもので。

キョウタロー、と。

名前を呼んでも、返事は返ってこなかった。

判定直下
60以上なら……

いつも、温かさを与えてくれる指先が。

名前を呼んでくれる口が。


「キョウ、タロー」


動かない。

触れても、揺さぶっても。

二度と、動くことはない。


「……あ」


長い髪の女は、崩れるように座り込んだ。

彼女も、死んだように動かない。


「……」


ネリーは、ゆっくりと、静かに立ち上がる。

手を伸ばした先は、女の足元に落ちた、赤く染まった刀身で――。



サトハパート、バッドエンドでした
判定全部失敗したのはある意味凄い

コンティニューしますか?

ではコンティニューの方向で

とりあえず今夜はここまで
お付き合いありがとうございました

ネリー可愛い

幼馴染と付き合い始めたのが高校一年の夏。

進学の為に北海道から東京に移り住んだのが大学一年の春。

彼女との同棲を始めたのも、ちょうどその時期。


そして、今は――。

夕暮れ時。

鼻歌交じりにシチューの鍋をかき混ぜながら、京太郎は壁にかかった時計を眺めた。


「~♪」


幼馴染から恋仲へ、恋仲から夫婦へ。

順風満帆に段階を踏んで、愛する人と結ばれて。

専業主夫という今の立場にも不満はなく、何もかもが順調に進んでいる。

中学生の頃は、エプロン姿の新妻が出迎えてくれる妄想をよくしたものだが――。

「お? 誰だ?」


来客を告げるインターホンの音に、京太郎は火を止めてキッチンから出た。

この時間帯の来客は珍しく、エプロンをかけたまま玄関へと向かう。

首を傾げながら、ドアの施錠を解いて来客を出迎えると――。


「きちゃった」


随分と懐かしい顔が、そこにいた。

予想外の相手に京太郎は一瞬だけ固まった。

軽く目を見開いてから瞬きを数回、それから我に帰ると小さく微笑み、口を開く。


「おう、久しぶり。どうしたよ」

「たまたま仕事で近くを通りかかったから」

「へぇ」


来訪者――金髪の彼女は、京太郎の背後を覗き込む。

丸く大きな瞳は、かつての後輩の新婚生活に興味津津なようである。


「奥さんはいないの?」

「まだ仕事。多分そろそろ帰ってくる」

「ふーん」



「ねぇ、上がってもいい?」

リビングの真ん中で、彼女はくるりと部屋中を見渡した。

彼女の動きに追従して、肩で切り揃えられた金髪が揺れる。

昔は、彼女の髪はもっと長かったのだが――確か、高一の夏の終わり頃にイメチェンで短くしたのだ。


「ふーん?」

「どうよ、我が家の感想は」

「そうねぇ……」


唇に人差し指を当てて、考える素振りを見せる彼女。


「……幸せな感じ?」

「なんだそりゃ」

なんとなく、彼女らしくない感想。

具体性のない言葉に京太郎は苦笑を浮かべた。


「この匂いは……シチューでも作ってるの?」

「ああ。一緒に食ってくか? そろそろあいつも帰ってくるだろうし」

「んー……残念だけど、無理そう。この後予定があるから」

「そうか……」

「でも」



「お土産は、貰っていこうかな」

「たっだいまー!」


勢いよくドアを開けて、彼女は帰宅した。

長い黒髪を揺らして、早足にリビングへと向かう。

空きっ腹へのシチューの匂いは、その歩調をより一層速くする。

あっと言う間に玄関と廊下を通り過ぎて、彼女はリビングの扉を開いた。


「いぇーい。帰ったぞー……お?」

リビングの扉を開けた勢いは何処へやら。

愛する妻の帰宅にも関わらず、ぼんやりと突っ立っている旦那に、彼女は首を傾げた。


「おーい、もしもーし?」

「……」

「わっ!」

「っ!?」


顔の前で手を振っても反応ナシ。

耳元で大声を出すことで、ようやく京太郎は肩をビクリと震わせた。


「あ、あぁ……おかえり」

「大丈夫?」

「……あぁ」

微かに漂う香水の香りと、足元の金色の髪。

数十分前までいた他の女の痕跡に、彼女は気がつかなかった。


「……すぐ、夕飯の準備するから」

「変わろうか?」

「いや、大丈夫。座って待ってろって」

「……うん」


シチューはもう、冷めていた。

京有珠山短編集みたいなスレまだですか?


臨海編はまとまった時間が中々取れないのでもうちょっと待ってください

臨海、ちょっとだけ

焼け付くような痛みは意識を奪う。

愛しい人の名前を呼ぼうとしても、声は形にならない。

何も出来ないまま、彼は――。

「……ッ」


唐突に、目が覚めた。

心臓が破裂しそうなくらいに暴れている。

寝汗も酷く、喉が酷く乾いていた。


「……はぁ……」


散らばる麻雀牌、皺だらけになったワイシャツ。

智葉の指導の直後、自分が意識を失う前と同じ室内。

「起きたか」


背後で襖が開く音と、聴き馴染んだ智葉の声。

その一言で漸く京太郎は我に返り、右掌で額の汗を拭いながら振り向き――言葉を、失った。


「え……?」

「ん? どうした?」

「いや、どうした……って」


背中にかかるほど長かった彼女の黒髪。

それが今は、襟首にかかる程度の短さになっていた。

さらによく見ると、毛先が少し雑になっている。

恐らくは智葉が自分で切ったのだろう。

だが、何故そんなことを――?


「ああ、コレか?」

「……」

「……まぁ、イメチェンみたいなもんだよ」


勿論、そんな答えで納得いくわけがない。

しかし、智葉はこれ以上の追求は許さないと言わんばかりに京太郎に背を向けて。


「……送っていこう。もう、大分遅いからな」

釈然としない気持ちを抱えたまま、京太郎は夜道を歩く。

黒服の男性の運転する車で家の近くまで送ってもらったため、自宅までの距離は五分もないが――


「……あ」


道の先の街頭に照らされた、小さな影。

そのシルエットの正体は、考えるまでもなくわかる。

自然と早足になる歩調と、緩む頬。



「……!」


足音で、彼女も京太郎の存在に気が付いたのだろう。

振り向いた横顔は、彼の姿を見るなり満面の笑みを浮かべた。


17回目の誕生日。

もしかすれば、その日は揺杏にとって人生で一番楽しみにしていた日だったのかもしれない。

大好きな人――愛しの彼氏と、二人っきりで過ごす特別な日。

あんな事やこんな事、色んな事をやってみたい。

想いを巡らせるだけで、揺杏の頬は緩んでしまう。

爽には「気味悪い」と引かれ、誓子には「らしくない」と言われたが、そんなの彼女は気にしない。

恋する揺杏のメンタルは、絶対無敵であり――



京太郎「37.4……うん、もうちょい寝てないと駄目だな」

揺杏「うげぇ……」



――その勢いは、熱を出して寝込む程であった。

ベッドに寝込む揺杏と、その傍でリンゴの皮を剥く京太郎。

側から見れば病人と看護人。

揺杏の期待していた空気は全くない。


揺杏「ちっくしょー……」

京太郎「おいおい」


力なく手足をバタつかせる揺杏に、京太郎は呆れた視線を向ける。

そんな事をしても熱は上がるばかりだろうに。

京太郎は一つ溜息を吐くと、一口サイズにカットしたリンゴを指で摘んで揺杏の口に押し込んだ。


揺杏「むぐっ……」

京太郎「さっさと食ってさっさと寝とけって」

揺杏「むぐぐ……」


しゃりしゃり、ごくん。

リンゴ一切れを咀嚼しきると、揺杏は大人しくなった。


揺杏「ん」

京太郎「はいよ」


何も言わず口を開ける彼女に、京太郎は再びリンゴ一切れを摘む。

一つ摘んでは口の中へ、咀嚼して飲み込んだらまた次の一切れを。


「……♪」


側から見れば餌付けのような光景であるが、揺杏はそれなりに満足しているようであった。


リンゴを完食しきると、揺杏は大分大人しくなった。

瞼も半分降りかけて、今にも眠りにつきそうである――が。


揺杏「……なぁ、京太郎ー」

京太郎「んー?」

揺杏「抱いてー」

京太郎「んー」ぎゅっ


揺杏「いや違くて。コレも違わないけど」

京太郎「ん……?」

揺杏「ほら、アレ。えっちいことしよーぜ」

京太郎「んー……」


京太郎「風邪、治ったらな」

揺杏「あー……」



揺杏「……京太郎」

京太郎「うん?」

揺杏「あいらぶゆー」

京太郎「みーとぅー」


揺杏「……」

京太郎「……」


揺杏「……ねみぃ」

京太郎「寝とけって」

揺杏「んー……うん」


京太郎「揺杏」

揺杏「んー?」


京太郎「誕生日、おめでとう」

揺杏「おー……」


揺杏「いえーい」

京太郎「いえい」

遅れまくったけどゆあたんいぇい

臨海更新は出来れば今日に
出来なければ未定

ちょっとだけ臨海よ

人生で最も幸せな時期があるとするならば、それは間違いなく今だと断言できる。



「ん……」


昼の12時。

日曜日とはいえ、高校生の起床時刻としては大分遅い時間帯にネリーは目を覚ました。

肌に感じる温もりは布団とシーツのそれではなく、愛しい人の両腕。


「キョータロ」

「……zzz」


真正面にある寝顔は、ちょっと指で突っついたくらいじゃ起きる様子を見せない。

ネリーとしてはこのまま二度寝をするのも悪くはない、が。


「……お腹、すいた」


くぅくぅと鳴る腹の虫は、愛しさだけでは誤魔化せなかった。

「おきてってば」

「んー……」


ユサユサと彼の体を揺さぶってみる。

瞼がピクピクと動くが、起きる気配はなし。

何度か試してみても結果は同じで、余計にお腹が減るだけ。

ならば別の手段を――と、ネリーは眠る彼の鼻を摘んだ。


「えい」


呼吸を無理矢理に止められた彼は、たまらずに口を開ける。

鼻呼吸から息苦しそうな口呼吸へと変わるが、それでも未だに起きない。

さて、ならば次はと思考を巡らせ――


『ピンポーン』

唐突なチャイムの音で思考を中断。

二人の時間に割って入る無粋な来客。

折角の時間に水を差されたネリーの眉間にシワが寄る。


『ピンポーン』


再び鳴るチャイム。

家主である京太郎の両親は外出中。

その息子は目の前で熟睡中。


『ピンポーン』


『ピンポーン』


『ピンポーン』


「……うるっさいなぁ」


居留守を決め込もうとしたものの、チャイムの音は鳴り止まない。

しつこく粘る来客に、彼女の苛立ちが少しずつ大きくなる。


「むぅ」


一定の間隔で鳴り続けるチャイムの音を背景に、ネリーは京太郎

一定の間隔で鳴り続けるチャイムの音を背景に、ネリーは京太郎の両腕からするりと抜けて起き上がった。

そのままベッドの横に脱ぎ捨てていた彼のワイシャツを肌の上に羽織り、インターホンへと向かう。

来客を迎える気は全くないが、 ここまでしつこいとなると、逆にどんなヤツか顔を見たくなるのだ。

インターホンのカメラを通して覗き見た先。

そこには、よく見知った顔。


「……へぇ?」


恋敵の一人だった――雀明華が、柔らかな微笑を浮かべて立っていた。

ネリー可愛い今夜はここまでネリー可愛い


臨海の他にも大学生編とか義姉キャップとか別√有珠山とか色々書きたいけど時間と気力が無いので誰かおなしゃす

臨海やります

――さて、どうするべきなのか。

ネリーは考える。

このまま居留守を貫き通すか、それとも京太郎を起こすか。


『ピンポーン』


何度も何度もチャイムが鳴ってるにも関わらず、京太郎は一向に起きる様子を見せない。

明華の用件は不明だが、どうせロクなことじゃない。


「……」


鳴り続けるチャイムの音は耳触りだが、わざわざ出てやるのも癪だ。



ネリーは――
下3
1 居留守
2 迎撃
3 その他 自由安価

「んー……?」

「あ」


背後のベッドで彼が動く気配。

振り向けば、彼が薄眼を開けて上体を起こしていた。

気の毒なことにこの耳触りなチャイムの音が目覚ましになったらしい。


「誰だ……?」

「セールスみたい。ほっとこーよ」


しれっと嘘をつき、インターホンのカメラの映像を消す。

今は二人だけの時間であり、たとえ誰であろうと邪魔者である事には変わらないのだから。

居留守を貫き通すと決めれば、最早ネリーの頭の中には明華の顔は無い。

京太郎が起きた以上、インターホンなんてもうどうでもいい。

来客を出迎えるべく起き上がろうとする彼に思いっきり飛び付き、ベッドへと押し倒す。


『ピンポーン』

『ピンポーン』


「いくら何でもしつこ過ぎないか?」

「キョータロが出てったらずっと帰らないよ。絶対」


時は金なり、というのはネリーの好きな日本の諺の一つ。

時間はお金で買えないし、何より二人だけの時間を明華に盗られるのは絶対に許せない。



判定直下
1~50 チャイムの音が、鳴り止んだ。
51~00 一瞬だけ、外で強い風が吹く音がした。

チャイムの音を遮るように、京太郎の耳を塞ぐ。

何かを言おうとした口を、自分の口で塞ぐ。

これで彼が感じるのは自分だけ。


「――」


十秒か、二十秒か。

そうしてじっとしていると――やがて、彼の方から抱き締めてくる。


ネリーが求め、京太郎が返す。

いつものように、お互いだけを求め合い――いつの間にか、チャイムの音は鳴り止んでいた。

今夜はここまで
次から京太郎視点に戻ります

麻雀部で共有するべき事を日誌という形で残そう。

そういった目的で始まった筈だった新道寺麻雀部の交換日誌だが、今ではその役割を全くと言っていい程に果たしていない。


「……」

京太郎は無言で日誌を捲る。

昨日の日誌当番は花田煌。

基本的に真面目な彼女だが、その内容は――

7時02分、起床。

7時05分、二度寝。

7時09分、カピーにのしかかられて起床。
ベッドから起きる際に寝ぼけて少し躓く。
そのままトイレに足を運んで寝巻きのズボンを脱ぐと――

京太郎は、溜息を吐きながらページを飛ばした。

他のメンバーの書いたページを読み返しても、必ず自分の名前が書いてある。

いつ彼と話した、どこで彼と出会った、手をどこで繋いだ――など。

文字のクセやら文章の書き方での違いはあれど、内容はどれも似たり寄ったりだ。

姫子に至っては自分の痴態を詳細に記述していた。


「彼は私の手を錆びた鎖で荒々しく縛り上げ――って、俺がいつそんなことしたよ……」


諦めに近い思いで、京太郎は日誌を閉じる。

部員全員がこんな調子では、最早どうしようもない。

真面目(にストーキング)

本当に、最初はただの交代で書く日誌だったのだ。

内容も事務的な連絡やちょっとした漫画のような落書きばかり。

それが、今のような異常なものになってしまったきっかけを作ったのは――。


「……俺、なんだよなぁ……」

何の気なしに書いた一文。

自分の次の当番が煌だから付け加えてしまったもの。


『p.s. 花田先輩の。水族館のチケットを二枚もらったので、今度一緒に行きませんか?』


この一文で、全てが狂い出した。

翌日から、姫子や哩が積極的に京太郎に絡むようになり。

それに対抗するように、煌もよく声をかけてくるようになった。

気が付いた時には、もう誰にも止められない。

新道寺麻雀部は――まるで台風の目のように、京太郎だけを除いて狂い始めた。


京太郎は日誌を部室の戸棚にしまい、横目で練習風景に目を向けた。

楽しそうに談笑をしながら卓を囲む少女たち。

しか、京太郎は知っている。

彼女達が向かい合って笑いながらも、その意識の全ては京太郎に向けられていることを。

自分の挙動の全てが、見張られていることを。

姫子の座る椅子が、妙に湿っていることを。

姫子wwww

所で>>570の「花田先輩の」ってのは「花田先輩へ」の間違い?

「おーい。きょーたろー」


卓の方から、自分を呼ぶ声がする。


「はい、なんですか?」


日誌さえなければ――間違いなく、良い先輩たちなのだ。

ならば、部活の最中は、せめて自分も良い後輩でいよう。


そうやって、徐々に自らも狂い始めていることにすら気付かずに。

京太郎は、笑顔で振り向いた。


最初は表面上な和やかにしながらも日誌上では罵倒しあう新道寺日誌、みたいな話にしたかったのに


最近ちょっとスランプなので小ネタとか短編でリハビリしてくかもしれないです
臨海待ってる人はごめんなさい

昔は良かったなどど言うと、あまりに年寄り臭く聞こえてしまうが。

それでも、学生時代のことを思い出すと現状を重苦しく感じてしまう。

あの頃は、ただ直向きに麻雀と向き合えた。


だが、今は――。

「お疲れちゃーん!」

「いつっ!?」


仕事も終わり、帰り支度をしていた京太郎は、バシンと強めに背中を叩かれた。

文句の一つでも言ってやろうと振り向く前に、右腕を細く白い腕に絡み取られた。

尾鼻腔を擽る甘い香りと腕に伝わる柔らかな感触で、不満を漏らしかけた口は直ぐに閉ざされた。


「じゃ、今日はどこに食べにいこっかー?」

「はぁ……元気っすねぇ、こーこさん」

「フフン」


皮肉に対して、何故か得意げに鼻を鳴らす恒子。

高校時代から、彼女はいつもこうだった。

グイグイと強引に引っ張って来て、無理矢理ペースに乗せられてしまう。

別に、京太郎は彼女のことが嫌いなわけではない。

彼女の明るい性格は好ましいし、スタイルはストライクに近いレベルで好きだ。

それに、こんな美人に食事に誘われて心が弾まない男はいない。

勿論、京太郎もそんな男のうちの一人――だが。


「後輩相手にセクハラですか。いい加減にしなさい」


――ああ、やっぱり。

経験からこの後の展開が予想できた京太郎は、漏れかけた溜息を飲み込んだ。

キツイ声音で棘のある口調。

恒子は舌打ちと共に京太郎の腕を離して振り向いた。


「あーせんぱいおつかれさまっすー」


あまりの棒読みっぷりに京太郎も言葉が出ない。

後輩の露骨な態度に、声の主に――針生えりは、眉間に皺を寄せた。

「あーダメダメ。そんな顔したら朝のお化粧の時間増えちゃいますよー?」


もう若くないんだから。

わざとらしくふざけた口調で喋る恒子は、口元に浮かんだ嘲笑を隠そうともしない。


「……」


どこまでも憎たらしい口を利くきく後輩を前に、えりは何も言わない。

口から飛び出そうになる罵倒を必死に堪えている。

言い返してしまえば、自分が恒子と同格の存在だと認めることになるからだ。

言い返すことはできず、かと言って恒子のように下品なアプローチを仕掛けることもできない。

結果として、えりに出来ることは鋭い眼差しで恒子を睨み付けることだけになる。


恒子の優越感に満ちた視線と、えりの嫉妬が込められた視線。

その二つに挟まれた京太郎が思うことは、ただ一つ。


「お腹痛い……」

二人を何とか宥めて帰路に着いた頃にはすっかりと草臥れていた。

女性との人間関係で苦労するなんて、学生の頃は思ってもいなかった。


「はぁ……」


溜息と一緒に、懐から鍵を取り出す。

一人暮らしのため、借りているアパートの一室。

ここにさえ帰って来れば、後は明日に備えて休むだけ。

――の、筈だった。


「おかえりー。私を食べる? 私とお風呂? それとも私?」

「……選択肢がなさすぎる」


一人暮らしのために借りたアパートで、京太郎の帰りを待っていた女性。

その台詞に呆れてジト目を送ると、イタズラっぽくウィンクを返された。


負けた、と思った。

「部ち――」


発した言葉は、唇に立てられた人差し指に遮られた。

彼女のその行動が意味することは、一つしかない。


「……久さんは。もう夕飯は済ませたんですか?」

「まだ。せっかくなら一緒に食べたいじゃない?」


少し前から同棲を始めた相手、竹井久。

彼女の存在を、恒子たちは未だ知らない。

学生時代に色々とお世話になった元部長。

数日前に行き着けの店で偶然再会し、過去話や仕事の愚痴で大いに盛り上がり。

意識が飛ぶ程に酒も入り、気が付いた時には――。


『実は、ちょっと危ない日だったりして』

「え゛っ』


――自宅のベッドに彼女を連れ込み、致してしまった後だった。

勢いでヤってしまったとはいえ、責任は取るべきだ。

彼女が出来ました、と一言恒子たちに伝えられればいいのだが。

恒子の事だから詳細を根掘り葉掘り聞き出そうとしてくるだろうし、
勢いで致してしまった事がえりに知られたなら軽蔑というレベルでは済まない冷たい視線に晒されることだろう。

加えて、あの二人は仲が悪い。

上手い誤魔化し方を考えているうちに、毎度の如く喧嘩が始まってしまう。

あの空気の中で、『つい勢いでヤっちゃって彼女が出来ました。もしかしたらできちゃった婚するかもです』なんて事は知られたら――。

「食べないの? 冷めちゃうけど」

「あ、あぁ……いただきます」


極寒の妄想に身を震わせていたが、久の声で現実に引き戻される。

電子レンジで温められた惣菜が、目の前の皿の上に並んでいた。

全てがスーパーのタイムセール品。

器用そうに見える久だが、料理は苦手らしかった。


「……」


千切りキャベツに箸を伸ばしながら、京太郎は考える。

どうすればいいか。このままじゃ、いけない。

「あ、そうか」


答えは、わりとあっさり見付かった。


「ん?」


一人で誤魔化そうとするからダメなのだ。

だったら、もう一人に協力して貰えばいい。

目の前で、鶏の唐揚げを頬張る彼女に。


「なに?」

「いえまぁ、ちょっと協力してもらいたいことが」

「ふーん?」


愛の共同作業ね、と久が呟く。

あながち間違いではないのだが、ただ恒子たちを誤魔化すのを手伝ってもらうだけなのにそこまで言うか。

恒子「高校時代から、彼女はいつもこうだった。」
久「学生時代に色々とお世話になった元部長」
これって恒子と久は面識あるってこと?

ファミレスで向かい合って座る4人の男女。

並んで座る京太郎と久に、テーブルを挟んだ向かい側には恒子とえりが並ぶ。


「――というわけで。彼女とは少し前からお付き合いをしています」


向かい側に座る恒子とえりが爆発しないか、内心でビクビクしながら――京太郎は、隣に座る久を自慢気に紹介する。

『勢いでついヤってしまった』ということは隠しつつ、健全なお付き合いをしているという体で。

「ふぅーん?」


一番最初に反応したのは恒子だ。

頬杖をつき、訝し気に京太郎と久の顔を見比べる。


「キミと……京太郎が?」

「ええ、まぁ」

「……」


女子アナ二人の目力の強い瞳に睨まれても、久は怖気ずに微笑みを浮かべる。

ここまでは打ち合わせ通りだから、久も余裕の態度を崩さずにいられた。

恒子と久が言葉を交わしている側で、えりは何も言わない。

時折、何か思う事があるように意味あり気な視線を京太郎に送るだけだ。

もし事実が知られたら色々とキツイ言葉を刺してくるだろうが。


「随分と急じゃない?」

「そうですか? 前から付き合いはありましたし」


結婚を前提にした同棲生活をしていることは事実。

ようは、そのキッカケさえバレなければいいのである。

それさえ隠し通せばあとは何とかなる――というのが、京太郎の見込みである。

実際、眼前の女子アナ二人は大人しく話を聞いてくれている。

この様子なら、問題なく話を終えることが出来る筈だ。

彼女がいると知れば恒子が絡んでくることも減るだろう。

そうなれば、恒子とえりが言い争うこともなくなる。

京太郎の頭痛の種も消えるし、このまま事が運べば全てが上手くいく。


「……なんて、考えちゃってんだろうなぁ」

「え?」

「ううん、なんでもなーい」


――その全てが、恒子に読まれていることを除けば。

嘘は吐いてない。

が、本当のことも話していない。

恒子は直感と経験で、京太郎の演技を見抜いていた。


――それに。


京太郎に寄り添う彼女。

竹井久という女は、恒子もよく知っている。

彼女が初出場したインターハイで見せ牌をやらかしたこともハッキリ覚えている。


「じぃー……」

「ん、なんですか?」


恒子の視線に気が付いた久が、柔らかな微笑みを浮かべる。

京太郎と違い、焦りや態とらしさは見られない。


「……それが逆に、怪しいんだよなぁ……」

二人の女子アナから強い敵意をぶつけられて、それでも平然としている。

余裕のある態度は、こちらを嘲笑しているかのようにも感じる。


「……ありえねぇー……」


京太郎の口から語られる竹井久という人物と、目の前の女が結び付かない。

恒子は既に確信している。

彼女は間違いなく、こちら側と同類の――狂おしい程に彼を求めている女だ。


証拠はないが、恒子は確信していた。


――この女が、京太郎を嵌めたんだろうなぁ。

「……ま、ならしゃーないか。ハメを外しすぎんなよー?」

「ふふ、さてどうでしょうね?」


恒子と久が、微笑みを交わし合う。

表面上は和やかに、心の中では如何にして相手を貶めるかを考えながら。


「……ほっ」


目の前の光景しか見ていない京太郎は、上手くいったと胸を撫で下ろす。

これで明日からは、職場でのストレスが大分減るだろう。

京太郎は、女たちが笑みの裏側に隠しているものに気が付けない。

そして。


「……」


えりが、テーブルの下で握った拳には、誰も気が付けなかった。

久も恒子も、そして京太郎も。

程度の差はあれど、えりについては何も心配することは無いだろうと考えていた。


恒子の悪ノリが止まれば、彼女の苛立ちも収まる――そう京太郎は考えて。

生真面目なえりのことだから、京太郎に彼女がいると知れば何も手を出してこないだろう――と、久と恒子は考えた。


「……すみません。少し、お手洗いに」


そう言い残して、えりは席を立つ。

返事を待たず、京太郎たちに背を向けて女性用トイレへと向かった。

洗面器に向けて、えりは口内に溜まった物を吐き出す。

血と唾液と欠けた歯が、蛇口から勢いよく流れる水によって排水溝へと飲み込まれていく。


「……痛」


憤りを抑えるあまりに、噛み砕いてしまった奥歯。

白い洗面器に、流しきれずに残った血の跡。

それは、彼女の心の内側をそのままに表していた。


「……有り得ない……」


竹井久と須賀京太郎が結婚を前提とした交際をしている。

針生えりは、それを許すことが出来ない。


「……許せない」


久は、恒子と同じタイプの人間だ。

決して京太郎に良い影響を与えない。

見過ごすことなど、出来る筈がない。

ずっと、彼を見てきた。

清澄という、初心者育成には全く向いていない環境で雑用に励む彼を。

女子たちが華々しく活躍する裏で、地道に活躍する彼を。


「まもらないと……」


彼がようやく手に入れた、今の立場。

久や恒子によって、穢されないように。

保護しなければならない。


「……」


――だが、どうやって?

方法は、限られる。

一番の理想は彼を穢されぬように隔離し、えりの手によって保護していくことだ。

しかし、これは彼の社会的な立場を考えれば現実的な方法ではない。


――だったら。


「消そう」


ぽつりと口に出した言葉は、自分でも驚く程に落ち着いていた。

あの二人のことを思い浮かべると、腸が煮えくり返るような気持ちになるのに。


正しいことだと、心の底から信じているから。

感情のままに導き出した答えではなく、理性の全てが久と恒子を害悪だと訴えているからこそ。


「彼のために」


鏡に映るえりの顔には、もう怒りの色は無い。

純粋に、彼を想う1人の女としての顔が映っていた。

彼女――久の紹介を無事に終えた京太郎は、幾ばくか軽くなった足取りで帰路に着く。

問題はまだいくつか残っているとはいえ、明日からは抱えていた胃痛が無くなるのだ。

そう思えば、どんな辛い事でも乗り切れるような気がしてくる。


「改めてよろしくね、京太郎♪」


隣を歩く久が腕を絡めてくる。

この時期に密着して歩くと暑苦しいが、彼女の幸せそうな笑みには代えられないだろう。

照れや恥ずかしさもあり頰に熱が集まるのを感じる。


「あら、照れてたりする? あんな事までしといて」

「……もー」

あんな事――と久は言うが。

実のところ、京太郎に行為の最中の記憶はない。


(けどまぁ……ベッドに残ってたアレとか明らかになぁ……)


ただ状況的に久と致してしまったことは明らかだし、詳細を問い質すのは躊躇われた。

勢いのままに、人生の墓場まで一直線に突き進んでしまったが――。


(まぁ、大丈夫だろう。多分)


なんだかんだ言って久も美人だし、大事な場面ではしっかりした人だ。

それに彼女の笑顔を見ていると、つられて頰が緩む自分がいることも確かだ。

結婚しても、きっと後悔することはないだろう。

京太郎は微笑みながら、自分を納得させるように小さく頷いた。


「……ふふ」


その思考の全てが、久によって誘導されたものだとは知らずに。

恒子とえりが京太郎を諦めていないのと同じように。

久もまた、これで終わったとは考えていない。


「……ま。負けないけど」


少しずつだが、確実に。

京太郎の心には、久への愛情が芽生えている。

加えて、久にはあの女子アナ2人には無い大きなアドバンテージがある。

未だ京太郎にも話していない、一つの事実。


「楽しみ……ね」


空いた片手で、下腹部をさする。

コレを明かした時の女子アナ二人の顔を想像するだけで――久の背筋を、ゾクゾクするものが走った。

何を仕掛けられても、久には対処出来る自信がある。

知人の弁護士も協力してくれている。

あの二人が何かしようものなら、徹底的に叩き潰してやろう。

社会的な立場まで奪ってやる。


「ふふ……本当に、楽しみね♪」


街灯の明かりや、虫の鳴き声。

肌に感じる、想い人の温もり。

女子アナ二人の、あの目線ですら。


全てのものが自分たちを祝福しているような気がして――久は、心の底から微笑みを浮かべた。

俺たちの戦いはこれからだ


やっぱり京久はNo.1
次回から臨海再開予定です

それは、自販機に500円玉を投入してお茶のボタンに指を伸ばした時だった。


「……え?」


後ろで、誰かの驚いたような声と固い何かが床に落ちた音。

反射的に振り向くと、白い髪の女子が口を半開きにして立っていた。

その足元にはコーラの缶が転がっている。


京太郎「えっと……」


彼女には見覚えがある。

小瀬川白望。宮守女子の先鋒だ。

彼女と直接の面識はないが、二回戦で清澄とぶつかった相手として記憶に残っていた。

京太郎「あー……大丈夫、ですか?」


何となく気まずさを感じながら、京太郎は口を開く。

だが。


白望「あぁ……」

京太郎「……え?」


対する白望の反応は、言葉ではなく抱擁だった。

頬を染めて京太郎の背中へと手を回し、ぴったりとその身を寄せる。


京太郎「え? え、え?」


まるでワケのわからぬ状況に、口が上手く回らない。

直に伝わる彼女の柔らかさやら、鼻腔をくすぐる良い匂いやら。

普通ならすぐに彼女を引き剥がすべきなのだろうが、冷静な思考が吹き飛んだ京太郎はただ彼女のなすがままにされている。


白望「ん……♪」

京太郎(な、なんなんだぁ……?)

10分ほど時間が経ってから、彼女の方から名残惜しそうに身を離した。

天国のような地獄のような、わけのわからなかった時間が終わる。

京太郎は安心してホッと一息吐いて、彼女に疑問をぶつけようと口を開き――。


白望「ずっと、会いたかった」


彼女の口にした言葉に。



白望「おとうさん」



開けた口が、閉じられなくなった。



みたいなのを書きたい



臨海は今夜
できなかったら土曜日に

女二人が睨み合い、互いを罵倒しあう光景。

会話の端々に出て来る「彼」だとか「ビッチ」だとかの言葉を聞けば、詳細は分からずともそれが俗に言う修羅場と呼ばれるものであることは理解できる。


「なんやアンタ、さっきから――ストーカーか?」


長い黒髪と関西の訛りが特徴的な彼女。

スタイルも良く、顔立ちも整っているだけに、怒りを露わにしたその表情には強い威圧感がある。


「……それはあなたでしょう? 彼の、迷惑も考えないで」


だが、対峙する金髪の女も負けてはいない。

見開かれたオッドアイの瞳は怯むことなく長髪の女を睨み返す。

二人の主張は絶対に交わらない。

『自分こそが彼の恋人であり、お前は唯のストーカーだ』

話題の中心人物である「彼」はこの場にはおらず、言い争いは止まらない。

だが――。


「……ええわ。そこまで言うなら」

「直接、聞きましょうか」


彼女たちが言い争うこの場こそが、「彼」が住むアパートの廊下であり。

二人が同時に目を向けた薄いドアの向こう側が、「彼」の暮らしている部屋。


「……」


長髪の女が、人差し指でインターホンを押した。

呼び出し音が鳴ってから1分。

ドアは開かず、中からの返事も無い。

焦ったく感じて再びインターホンを鳴らすが、相変わらず中からの返事は無い。


「……お出かけ中?」

「いえ、それはないわ。彼は今日、風邪で大学も休んでる筈だから」


そんな事も知らないの?

と、金髪の女は嘲る様に笑う。

彼女を名乗る癖に何にも知らないのだな、と。


「……は」

「っ!」


そんな視線を鼻で笑うと、長髪の女は懐から小さな鍵を取り出す。

「彼」の部屋の合鍵。

彼女ならば持っていて当然だと言わんばかりの態度で、女はドアノブに手をかけた。

金髪の女は内心で爪を噛む。

彼という唯一無二の存在が暮らす部屋。

そこに自由に出入りする権利を、黒髪の女は持っているのだ。

優越感を滲ませた嘲笑を浮かべ、黒髪の女はドアを開き――。


「……ん?」

「あら?」


チェーンロックとU字ロック。

二人の女の知らぬ間に追加されていた防犯錠。

シンプルながらも頑丈な作り。

このロックが掛かっている限りは、女の力でドアが開くことはないだろう。


「用心深いなぁ~」

「そうね。彼はしっかりものだから」


道具でも、使わない限りは。

さてどうしたものか、と腕を組んだのは黒髪の女。

強固なロックは女の細腕では破れず。

かといって無理矢理こじ開けるような工具もない。


「京くん……」


内側からロックが掛かっている以上、彼はここにいる。

インターホンを鳴らしても携帯にかけても出られない、ということは。


「……」



――彼は今日、風邪で大学も休んでる筈だから。



本当に、ストーカー女の言葉が正しいのなら。

扉を打ち破ってでも、彼の元へ行かなければならない。

恋人が苦しんでいるのなら、手を差し伸べなければならない。



愛に勝る法律など、女の脳内には存在しないのだから。

「どいて」


金髪の女が黒髪の女を押し退ける。

ドアの前に立ち、バックの中から取り出したのは何の変哲も無い一本のゴム紐。

当然ながら、ロックを物理的に破壊することは出来ない。


「お前、何を――」


――するきだ、と黒髪の女が台詞を言い切る前に。

カチャリ、とロックが内側から解除される。

金髪の女は黒髪の女を無視して、室内へと踏み入る。

物理的な突破は無理だが、構造的な欠陥はどうにでもできる。

「彼」の為に毎日家事の腕を磨き生活の知恵を育む金髪の女にとって、この程度のロック解除は朝飯前だ。


「――て、待ちやっ!」

「っ」


一人置いてきぼりをされそうになった黒髪の女が、慌ててドアの間に足を差し込む。

その往生際の悪さに、金髪の女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

運命の出会いが、お互いにとって幸せなものだとは限らない。

女は「彼」のことを一生を添い遂げる相手として見ている。

では、「彼」にとっての「彼女たち」は――。

「――」


女たちが部屋の中を荒らし回っている間。

「彼」こと須賀京太郎は、全力でアパートから遠ざかっていた。

寝巻きの上にジャンパーを羽織り、ベランダ用サンダルを履いただけの格好。


「――」


金髪の女の言葉通り、風邪をひいているため体調は最悪。

頭は締め付けられるように痛み、喉の奥からは吐気が込み上げてくる。

それでも、京太郎は止まらない。

止まるわけにはいかない。


「……く、そ」


今の自分が女たちに見つかれば、何をされるのか。

想像もつかないし、出来ればしたくないが。

人としての尊厳が犯されることは、間違いなかった。

金髪の女――福路美穂子とは、高校からの付き合いだ。

高校の時は一言か二言か話した程度の関係だった。


――まぁ。やっぱり、そうなのね♪


彼女がおかしくなったのは、大学の麻雀サークルで知り合ってから。

元より世話焼きな美穂子だが、彼女の京太郎に対する振る舞いは一線を超えていた。

講義やゼミの時以外は常に三歩後ろを歩くような。

明らかに後輩への態度ではなく、困惑した京太郎が訪ねてみたところ――


「ごめんなさいね」


「あなたの妻として、出来る限りは尽くしてあげたいのだけれど――」


「こんなんじゃ、まだまだね……」


――まるで、話が通じなかった。

黒髪の女――清水谷竜華は、最初からおかしかった。


――なんや、こんなとこにいたんかぁ。


初対面の、第一声がコレである。

『トキが家で待ってる』だとか、『あの子がお腹空かせとるんよ?』だとか。

気味が悪く、距離を置いていたらいつの間に電話帳に竜華の名前が登録されていた。

挙げ句の果てには、どうやって作ったのか不明な合鍵。


最早、自宅ですら独りの場所ではなくなった。

正妻? ヒッサもネリーも揺杏も誕生日は先ですよ?(すっとぼけ)
京咲は聖杯にでも頼んどいてください

せんぱぁい(はぁと



こうはぁい(はぁと

になるのか

運命の出会いだとか、そんなものはいらなかった。

普通に出会い、普通に仲良くなって、普通に恋をしたかった。

美穂子も竜華も、容姿だけならば京太郎のストライクゾーンを射抜いているだけに――現状を呪わずにはいられない。


「う、ぁ……」


頭痛が走り、視界が歪む。

捕まりたくない。

その一心で、ベランダから抜け出し女たちから逃げ出してきたが、いよいよもって身体の限界が近づいて来た。

肉体の限界と精神的な焦り。

外と内から容赦なく攻め立てられ、京太郎は冗談抜きに命の危機を感じていた。


「大丈夫ですかー?」


幻覚すら見え始めている。

ナース服の女が心配そうに声をかけてくるという幻覚。


「あのー? もしもーし?」


この時期、この道のど真ん中で、妙に浮いた格好をした女。

それが自分を気遣うように話しかけてくるなんて――幻覚以外に、有り得るはずもなく。


「……好きに、しろよ」

「へ?」


――もう、どうにでもなればいい。

諦めと自嘲の笑みを浮かべ、ナース服の女にもたれかかるように。

京太郎は、意識を手放した。

「あらら」


自分に抱きつく様に倒れこんできた男を、ナース服の女は嫌な顔一つせずに抱き止めた。

病人の看護は嫌いではないし、それに。


「もしもーし?」

「……」

「……それじゃ、ま」


「好きにさせて、もらいますよーぅ?」


――その日。

運命に、出会った。

すこやん(京太郎の連絡を受けたこーこちゃんが引き取りに来る。別れ際に京太郎本人しか知らない事を笑顔で話しますが無害だと思います)
咲ちゃん(のどっちが引き取りにきます。京太郎の部屋の汚れ具合を知っていたり、食事のバランスや癖を注意したりするだけですので無害です)
てるてる(菫さんが迎えに来ます。京太郎本人すら把握していない人間関係で注意して、相談なら何時でも受けると助言するだけです)
のポンコツストーカー三重士で

おとうさん。

聞き間違えであってほしいが、確かに目の前の少女は京太郎のことをそう呼んだ。

親愛の込められた眼差しと、先程の抱擁は赤の他人に向けるソレではない。


「……おとうさん?」

「あ、えっと、その」


フリーズした京太郎に、小首を傾げる少女。

いつまでも固まっているわけにはいかず、京太郎は何とか必死に頭を回す。

京太郎は長野県生まれ長野県育ち。

岩手には一度たりとも足を運んだことはない。

つまるところ、少女……小瀬川白望との関係は有り得ない。

過去の記憶を辿っても白い髪の少女との出会いなんてのは無い。

よって、京太郎の出した結論は――


(人違いか……または、ちょっとアレな人かな……?)


出来れば前者であってほしい。

心を落ち着けるべく咳払いを一つして、京太郎は白望と向きあった。

「あの、ですね」

「?」

「人違い、じゃないですか? 初対面ですよ俺たち」

「え……」


白望は京太郎の言葉に大きなショックを受けているようだが、京太郎にとってはしったこっちゃない。

第一、まだ高校一年の自分に高校三年の娘などいてたまるか。


「そんな……」


捨てられた子犬のような眼差しがチクリと胸の内を刺す……が。

出来れば、早くこの場から逃げ出したいのが京太郎の本心である。

知り合いに見られたらきっと面倒なことになると、確信していた。

出来るだけさっさとクローズして戻ろう。

そう結論を下して京太郎は立ち去る為に口を開く――が。


「……認知……してくれないの?」

「いやちょっと待って」


その一撃は、シャレにならない。

今にも泣き出しそうな表情に加えて、その台詞。

凡そ全ての男の社会的立場をブチ殺すだけの破壊力。


(コレ……もしかして、ヤバイ……?)


適当にこの場を切り抜ける、という選択肢は今この瞬間において消え去ったのである。

>>682的なアレ
最後のやり取りだけを見ちゃって勘違いしちゃうインハイチャンプとかいるかもしれないけど続かない


日曜に臨海再開します

恋愛に勝ち負けは無いと、母は言っていた。

失恋に痛みはあっても後悔はなかった、とも言っていた。


……だったら。


今この瞬間、胸を絞める感情は、一体なんなんだろうか。




「~♪」


ネリー・ヴィルサラーゼはかつてないほど上機嫌だった。

想い人と結ばれ、触れ合う日々の幸せは何よりも彼女を満たす。

幸せで蕩けてしまいそうな錯覚すら覚える。


「よし♪」


身なりを鏡の前で整えて、部屋を出る。

京太郎と会えることを楽しみにして、彼女は登校する。

その足取りは、放っておけばスキップでも始めそうなほどに軽く弾んでいた。

ただ、一つ彼女は知らなかった。



恋は盲目という言葉があり。

今の自分が、正にそれにあたるということを。

好きな人、須賀京太郎が抱える気持ちを、真に理解しきれていないということを。



そして、それがどうなるかは――




「あの」辻垣内智葉が髪を切った。


京太郎が登校した時、クラスの話題はそれ一つだった。

見事で艶やかな長い黒髪が、襟首にかかる程度まで短くなっている。

一体、土日を挟んだ間に何があったのか――と、話好きのクラスメイトたちは好き勝手に噂する。


「……まぁ、そうだよなぁ」


――サトハが家の仕事で関わることでミスを犯した。小指を詰める代わりに髪を切ったのだ。

――人斬りとしての衝動を抑えるために自分で切った。

――いや、自分で切ったのではない。抗争の中で失ったのだ。


……などとまぁ、好き勝手に噂する声が聞こえる。

京太郎は予め知っていたので今更驚くことはなかったが、彼らの気持ちも理解できてしまう。

だからまぁ、尊敬する部長が好き勝手に噂されても、ちょっとイラつくだけで口に出して責める気にはなれなかった。

なんせ、京太郎自身も智葉が髪を切ったワケは知らないのだから。


……あまり、深く踏み込んではいけない部分のような気がして。

臨海本編更新ひさしぶりであまり感覚が掴めない

キャラ安価下3ー

「もしかして、前から知っていたのですか?」


休み時間の間に、ハオが問いかける。

その内容は、智葉の髪の件について。

噂に対して京太郎のリアクションが薄いからこそ、つい気になったのだという。


「まぁ、知っていたというか……何というか」

「ハッキリしないですね」


京太郎は、何となく次の質問の予想がついた。

ハオより先に口を開く。


「ちょっと前に智葉さんちで麻雀教わってさ」

「……ふむ」

「その時の……帰り際には、なんかもう短くなってた」

「……何ですか、ソレ」

「何なんだろうなぁ」


京太郎も、ちょうど彼女が髪を切った直後に立ち会ってはいるが何故切ったのかまでは知らない。

その点については好き勝手に噂する連中と同レベルだ。


そして、彼は自分のした失言に気付いていない。


判定直下
1~50 「行ったのですか。智葉の家に」
51~98 「……二人きりで?」
ゾロ目 ???

「……あと」

「ん?」

「行ったのですか。智葉の家に」

「え? まぁ」


急に話題の方向が変わる。

その声音に、小さな棘を感じた。


「……京太郎は、ネリーと付き合っているのでは?」

「あ、ああ……そういうことか」


何となく、ハオの言わんとしていることに気が付いて。

京太郎は頭を振ってその推測を否定する。


「確かに智葉さんとこに行ったけど『そんなん』じゃねえって」

「では」

「麻雀の指導だよ。ただの」


今の京太郎はネリー一筋。

誰かに邪推されるのは望むところではない。

だからそこはしっかりと否定する。

……そう言いながらも、突かれると若干の後ろめたさはあった。

ネリーという恋人がいながらも、智葉の家に一人で行ったことは確かだからだ。


「なるほど、なるほど」

「ん?」

「いえ。ネリーは幸せものですね」

「……まあ、な」


だから、京太郎は勘違いする。

ハオが棘を向けた、その相手を。

今日はここまで
ここからは臨海編は安価少なめで進むかもしれません

時間が癒せる傷がある。

時間で消えない痛みがある。

そして、私――小鍛治健夜が抱えているものは、後者だった。

「久しぶりですね、戒能プロ」

「えぇ」


二人きりで話がしたい。

そんな連絡を送ってきたのは、後輩のプロ雀士戒能良子。

彼女とは個人的にそこまで仲が良いわけではないが――昔、とあることで争いあった為に関係は深いとも言える。


「それで、話って?」


前置きやら何やらをすっ飛ばして本題を聞く。

個人的に彼女には苦手意識があり、出来るなら早く切り上げたかった。

それでも、彼女の呼び出しに応じたのは。



「これを」


そう言って戒能プロが取り出したのは一枚の写真。

一組の男女が抱き合っているシーンが映し出されている。

女性の名前は瑞原はやり。同じプロ雀士。

そして、男性の方は――。


「京太郎のことについて、です」

須賀京太郎。

私の――私『たち』の想い人で、昔に彼を巡って色々なことがあった。

最終的な結果は、語るまでもなくその写真を見ればわかるだろう。


「……それが、どうしたの?」

「フェニルエチルアミン、というものをご存知ですか?」

「ごめん、なにそれ」


異性に好意を持ったり、何かに集中しているときに脳内で分泌されるホルモン。

間脳の脳下垂体から分泌されて、脳内で性的興奮と快感に直接関係する神経伝達物質として機能する――というのが彼女の説明だった。


「……で、それが?」


小難しいことを言っているけれど。

ようは、恋愛をしていれば誰もが抱くものだろう。

そんな話をする為にわざわざ呼び出されたのではたまったものじゃない。


「ソレを。人工的に作れるとしたら」

「え」

「瑞原プロが――彼のフェニルエチルアミンを、意図的に作れるとしたら?」

恋愛ホルモンを狙って生み出せたら。

そんなことは有り得ない。けれど、もしも出来たら。


「瑞原プロが、彼を洗脳している」

「……」


言葉が出なかった。あまりに話が突飛すぎて。

それでも話を続けようとする彼女の言葉を遮るように、私は咳払いを一つした。


「だから、どうしたって言うんですか」


彼女に対して苛立ちを感じている自分がいる。

仮に。仮に彼女の言葉が正しかったとして。

私に、何が出来るというのか。


「出来るんですよ」

「なにが」

「同じことが」


「小鍛治プロ。あなたの協力があれば――瑞原プロと、同じことが出来るんですよ」

それが出来るとして。

それの意味するところは、つまり。

あまりにも、モラルに反していて。


「一緒に、彼を取り返しませんか」


それなのに。

私は、戒能プロの瞳に吸い寄せられたかのように、目線を外せなかった。

余裕があれば明日か明後日に臨海やります

恋は盲目。バカップル。

呼び方は様々であるが、彼らは麻雀牌が角砂糖にでも見えているのだろうか――とアレクサンドラは目の前の光景に対してそんな感想を抱いた。


「うりうり」

「このー♪」


ネリーを膝に乗せ、頬を突っつく京太郎。

語尾を楽しそうに弾ませ、されるがままのネリー。

付き合い始めたばかりの恋人たちがイチャついている。

まぁ、それ自体は何もおかしくはないだろう――ここが、部室でなければ。

「ん、ごほん」


わざとらしく、咳払いを一つ。

流石に第三者の存在に気付けば、この二人とて――。


「キョータロ……」

「……ネリー」


――まるで、効果がない。

というより、互いに夢中過ぎてアレクサンドラの存在に気付いてすらいなかった。

文字通り眼中にないようだ。


「……お手上げ、というのかなコレは」


脳内は砂糖漬け。視界はハチミツ塗れ。

スイーツに染まった思考回路。

想い人が目の前にいれば、そこが何処であろうと二人の世界を作り上げてしまう。


二人よりは長く人生経験を積んでいるアレクサンドラだが、その感覚はまるで理解できなかった。

コレで二人が実績を落とすようならアレクサンドラも注意した。

だがまあ、ネリーはむしろ調子を上げているし京太郎も目標に向かって走り続けている。

雀士としての本分を蔑ろにしていない以上は、監督としても問題は無い。

むしろ、推奨するまでだ。


「……待つか。サトハたちを」


バカップルは放置。部活の開始時間までまだ余裕はある。

アレクサンドラは椅子に腰掛け、本を開いて他の部員の到着を待つことにした。

非の打ち所がなく、理想的な恋人同士。

満たされ、何もかもが上手くいっている。

だから、二人は気づけない。見逃している。

恋は盲目。その恐ろしさを。



キャラ安価下3

昼休み。ランチタイムを告げるチャイムが鳴り響く。

ネリーが席を立って向かう先は食堂ではなく、京太郎のクラス。

その目的は、最早語るまでもなく。


「~♪」


鼻歌交じりにドアを覗き込めば、京太郎は――


判定直下
1~50 大きな包みを持って、席を立とうとしていた。
51~00 教本を片手に、ハオと話し合っていた。

「なあハオ、この注意書きなんて書いてあるんだ? 中国語だよな」

「あぁ、それは」



「……ム」


使い古された麻雀の教本を片手にハオと話し合っていた。

それは別にいい。京太郎も麻雀部員だし、うん。

ハオのお下がりの教本を使っているのも知っているし、その事で話し合うのも理解はできる。


「それは、次のページを……」

「あ、なるほど!」


……だが。

たかが麻雀の指導で、ピタリと身を寄せる必要はどこにある?

ハオのスキンシップはどう見ても過剰だ。

少なくとも、部員への、そして知人の恋人に対するそれでは無い。


「……ふ」

「!」


さらに悪い事に、ハオはネリーの存在に気付いている。

口元に浮かべた笑みは、どう見ても嘲りや挑発の類で――。



京太郎判定
1~50 ネリーに気付く
51~00 ネリーに気付かない

「あ、ごめん。ちょっと待って」


ハオの指が京太郎の手の甲に重なる直前。

唐突に会話を切り上げ、京太郎は教本を閉じた。

一言だけハオに断りを入れると、直ぐにネリーの元に向かう。


「早いな、チャイム鳴ってから一分経ってないし」

「……」

「……ネリー?」


……それは、ハオにとっても、ネリーにとっても、絶妙なタイミングだった。

狙いを付けた獲物が唐突に姿を消したような。

振り上げた拳を、どう下げていいか、わからなくなるような。


「……なんでもない。はやくいこ」

「お、おう」


繋いだ小さな手に、気持ち力を込めて。

ネリーは、京太郎を引っ張るようにその場を後にした。

キャラ安価下3

ゴロゴロと、ネリーはベッドの上を寝転がる。

大き目な枕に顔を埋めて呼吸をしてみれば、大好きな匂いがする――気がする。


『うちの息子ならちょっと前にお使いに出掛けたけど。直ぐに帰ってくるから、部屋で待ってたら?』


休日に恋人の家にお邪魔してみれば、タイミング悪く外出中。

キョウタロの母の言葉に甘えて、ネリーは自分の部屋以上に寛いで恋人を待つ事にした。


「まだかなー……」


判定直下
1~50 待っているうちに眠気が……
51~00 ぶるぶると、枕元で携帯が揺れた

手持ち無沙汰で、京太郎を待つ以外にする事がない。

時は金なりと、普段なら貴重な時間をもう少し有効に活用していたが。

想い人の温もりと匂いがする――恐らく錯覚だろうが――ベッドの魔力には争い難く。

実に容易く、ネリーは寝落ちした。


その直後に、枕元の携帯がメールの着信を知らせるべく振動したがそれは目覚ましにならず。

そのメールの件名と、差出人をネリーが知る事はなかった。

……ちなみに、であるが。

この日を境に、京太郎の携帯の待ち受けが牌のおねえさんのキメ顔から、小さな女の子の無防備な寝顔へと変わったことは、知る人ぞ知る。



キャラ安価下3

このままネリーENDワンチャン……?

京太郎と結ばれて、ネリーは幸せの真っ只中にいた。

胸の苦しみや不安に悩まされることもなく。

それはつまり、余裕があるということで――。


「というわけで。モデル料金ちょーだい♪」

「おいおい」


なんだかんだで、ネリーはお金が好きだった。

とてもイイ笑顔で両手のひらを差し出すネリーに、京太郎は苦笑した。

携帯の待ち受けを見た瞬間にコレである。


「久しぶりな気がするな、そのキャラ」

「え、そう?」


冗談めいてネリーは笑う。

実のところ、この態度は照れ隠しでもあった。

なんと言うか、無防備な寝顔が恋人の待ち受けになっているのが少し恥ずかしかったのだ。

いやまぁ、それ以上に恥ずかしい行為を散々にしてきているわけだが――ソレとコレとでは話が別だ。



「よし、それじゃあこうしよう」


京太郎選択肢 下3まで多数決
1 デートするか
2 今日一日、ネリーの言うことを聞く
3 その他。何かあれば

「デート、するか」

「……それ、いつもと変わらなくない?」

「いや、いつもよりちょっと遠くに行ってみようぜ。勿論費用は俺持ちで」

「……期待していいの?」


と、既に期待たっぷり満面の笑みを浮かべるネリーに頷く。

前は折角うちに来てくれたのに構ってやれなかったのもあるし、全力でイチャつこうと思う。

幸いにも貯金に余裕はある。

胸に飛び込んできたネリーを抱きとめ、京太郎は週末のスケジュールを頭の中で組み始めた。

わりとこのままネリーグッドエンドに行きそうである

というわけで今夜はここまで
お付き合いありがとうございました

余裕があれば明日臨海
このままネリーEND一直線かもしれませんが安価次第

――やっぱり、入って良かったなぁ。麻雀部。


帰宅して、眠りにつく直前。

ふと、そんな事を思った。


智葉やハオと知り合えたことや麻雀の楽しさを知れたこと。

それと同時に、途方もなく高い目標が出来てしまったが――ただ漠然と日々を過ごすよりはよっぽど充実しているだろう。

そして何より、ネリーと恋人同士になれた。


小っ恥ずかしくてとても口には出せないなと小さく笑って、京太郎は眠りについた。

須賀京太郎とネリー・ヴィルサラーゼは結ばれた。

このまま二人は当たり前の恋人らしく、時には喧嘩をして、時には触れあって。

このまま当たり前のように、恋は愛へと変わっていくのだろう。

そう。

このまま――このまま、何事も無ければ。



キャラ安価下3

翌日。

京太郎はベッドの上で寝っ転がりながら、携帯とにらめっこをしていた。

週末に予定しているデート。期待してくれと言った手前、半端は許されない。


「……どうすっかなぁ」


しかし実のところ、言ったはいいがノープランだったりする。

ベタに遊園地でもいけばいいか、と漠然と考えている程度だ。


「んー。何かいいところは……っと?」



ピコン、と。携帯にLINEの通知。

相手は大星淡。

暇だし遊ばない?という内容だが――


選択肢 多数決 下4まで
1 断る
2 雀荘に誘う
3 適当に喫茶店にでも誘う

確かに自分も暇だし、女子相手にデートの相談とかしてもいいかもしれない。


「でもなー……ネリーに悪いかなぁ……」


自意識過剰かもしれないが。

恋人に何の断りもなく女の子と遊びに行くのは、少し気が引けて。

何となく淡にも悪い気がするし。


「ゴメン、ちょっと行けない……っと」


そう返信して、京太郎はベッドから起き上がるとPCの前に座る。

電源を点けて、ネト麻のアカウントにログイン。

携帯を眺めてゴロゴロするよりは、気分転換になるだろう。


こうして――毒にも薬にもならないような1日が過ぎていった。

キャラ安価下3

以前より、反応が鈍くなった気がする。

郝慧宇は、教本を読み込む京太郎のうなじの匂いを嗅ぎながらそう思った。


「……」

「……」


部室にて二人っきりという状況だが、色気はまるで無い。

というのも、京太郎がハオの存在に気が付いていないからだ。

麻雀に対する熱意と、ネリーに対する愛情。

きっとこの二つは、余程のことがない限り揺るぎはしないと思う。


「……」


京太郎もハオも声を出さず、ページを捲る音と時計の針が進む音が目立つ。

ハオも、京太郎が好きだ。京太郎の匂いが好きだ。

しかし京太郎はネリーが好きで、ネリーも京太郎が好きだ。

二人の結び付きは強く、付け入る隙が無いわけでは無いが――


判定 下3までの平均
0~51 些か……趣味が悪いですね
51~99 ……少し、欲張ってみましょうか

――思えば。

ハオは彼に対して告白をしたわけでも無ければ、フラれたわけでもない。

……だったら。


「……少し、欲張ってみましょうか」


彼の麻雀に対する熱意は本物。

強くなれるチャンスがあるなら、もしかしたら飛びつくかもしれない。

智葉の家に、一人で行ったくらいなのだから。


「……」


彼が誘いを断るならそれでいい。

だが。

もしも、誘いに乗ったのなら――。

「新しい教本?」

「ええ。その著者が、新しい教本を書いたので」


以前にハオから譲りうけた教本。

その著者による新作が、つい先日出版されたのだという。


「私は一通り目を通したので。良ければ貸しましょうか」

「お、おお……いいのか?」

「はい。京太郎が読む価値はあるでしょうから」



この後、部屋に来てくれれば貸してくれるという。

今日のこの後の予定は特に無いし、教本の受け渡しくらいならすぐに終わる。

京太郎は、この誘いを――


判定 下3までの平均
67以上で……

間違いなくタメになる。

雀士として次のステップに進めるきっかけになるかもしれない。


「……うん。でも、また今度じゃダメか?」


断った理由は単純で、先日の淡の時と同じ。

何となく、ネリーに悪い気がしたから。


「そう……ですか」

「悪いな」


いえ、気にしないで下さいとハオは微笑んだ。

少しだけ、その微笑みが、寂しそうに見えた気がした。


今夜はここまでで
次回臨海エンディング

負けた、とは思いたく無い。

彼のことを好きな女は多く、自分もその一人。

負けた、とは認められない。


「……」


ぎゅう、と傘を持つ手に力が入る。


「……」


たとえ、彼が一人を選んだとしても。

それは、諦める理由には――。

「じゃあ、何で告白しなかったの?」


――。


「バカみたい」


――ああ。


「何で今更、そんな顔してるのさ」


――そうだ。

――私は、勝てない。

思わせ振りな誘惑をして。

それでも、彼は手を出さず。

だから、色々と計画を立てて。


『ネリーのぜんぶ。キョウタロにあげる』


全て、無駄になった。

色々考えたクセして――中途半端な私。


せめて、告白は彼からであってほしい。

彼から、私を求めてほしい。


悪女めいたクセして――中途半端に、乙女心を抱いていた私が。

全力で彼にぶつかっていったネリーに、勝てるわけがなかったのだ。

「……風神だなんて」


きっと私は。

いつまでも、この後悔を抱いていくのだろう。


「馬鹿、みたいですね」

臨海エンディングやります

がたんがたんと電車に揺られ、目的地へと向かう。

目当ての場所に近くにつれて、窓の外の景色は少しずつ自然に彩られていく――といえば聞こえはいいが、ようは田舎である。


「ふーん……?」


ネリーは興味深そうに窓の外の景色に目をやっている。

勿論、京太郎の膝の上に乗っかって。


二人きりでちょっとした旅行。

行き先は長野県で――京太郎の、故郷である。

彼女に自分の地元を紹介するワクワク。

ついでに地元の友人に彼女を自慢してやるぞという優越感。

そして――。


「キョウタロ、キョウタロ」

「ん?」


ちゅ、と唇に柔らかな感覚。


「お腹すいたから、つまみ食い」

「……俺は非常食か」


――膝の上の温もりに、京太郎の頬は緩みっぱなしだった。

田舎であることと時間帯のおかげで乗客は少ないが、それでも電車内という場所。

当然ながら京太郎たち以外にも乗客はいるわけだが、バカップルである二人には関係ない。

恋は盲目、という言葉をどこまでも引きずっていく。


「~♪」


ネリーは未知の期待を胸に、鼻歌を歌い。

京太郎は幸せな未来を想像して、頬を緩ませる。

当たり前のように、二人は寄り添う。

きっと、二人の恋は愛へと結ばれて。

京太郎の夢は、現実の前に折れる。


だが、そんな事は今の二人には関係ない。

今を全力で楽しむ。

お互いさえいれば、どんな場所だってデートスポットに変えられる。


「おし、着いたぞ!」

「♪」


ネリーの手を引いて、京太郎は立ち上がる。

彼女が出来たと紹介したら、果たしてあの幼馴染(ちんちくりん)はどんな反応を返すのやら。

期待を胸に、ネリーを連れて、京太郎は電車を降りた。




【これから】

というわけで臨海ネリーノーマルEND
どこまでもベタな恋人END
ネリーと結ばれた京太郎がグルジア代表になって咏に世界大会でリベンジするENDとか一瞬だけ考えたけど断念しました

次スレでこのシリーズも完結しますが半端に余ったこのスレどうしましょう

とりあえず小ネタ安価下2

10年という月日はあっという間に過ぎた。

果たして10年前の自分は予想出来ただろうか、今の自分を。


「よろしくお願いします」


ぺこり、と自動卓を挟んで対戦相手に頭を下げる。

日本、グルジア、中国、フランス――実に国際色豊かな雀卓。

コレ自体は高校時代も経験はある、が。



「それじゃあ、よろしくねい」



三尋木咏。日本代表チーム先鋒。

他の面子も錚々たる雀士が集う、この舞台。

高校時代とは規模がまるで違う、この雀卓。


男女混合世界大会――グルジア代表チーム先鋒として、京太郎は試合に挑んでいた。

高校時代、色々なものから逃げる為に恋人と駆け落ちをして。

日本国内を巡りに巡り、黒服のお兄さんやら風神やらの手の届かないグルジアに逃亡。

そのままグルジア国籍を取得し――。


「じぃー」


と、物思いに耽っていたら。

対面に座る三尋木プロからの視線に気付いた。


「えっと、何か?」

「いやー……どこかで、あったことあるような気がして……?」

「……あぁ」


京太郎にとっては忘れもしない、あの敗北の日。

三尋木咏にとっては忘れさった、日常の一部。

仕方もない。ずっと日本選抜であり続けている咏にしてみれば、あのつまらない日の出来事など忘れて当然だ。


「まぁ……打てば、わかりますよ」

「ほーお?」


強烈なプレッシャーが咏から放たれるが、京太郎は軽く受け流す。

この程度で躓くようでは、次に繋げられない。


「悪いですが、色んな意味で稼がないといけないんで。後ろで嫁が待ってるんでね」

「言うねい」


……そう。

大将戦の面子を考えれば、グルジアチームが集中狙いされるのは明らかであり。

自分と嫁の未来の為にも、無様な打ち方は出来ない。

かつてない強敵を前に、京太郎は笑ってみせた。


尚、大会後に咏に食事を誘われ一波乱起きるのだが、それはまた別のお話である。

小ネタ安価下3

「京太郎」


愛に濡れた唇が、耳元で囁く。

それに応えて、彼女を胸元に抱き締める。

艶やかな黒髪を撫でると、滑るように指が流れた。


「あぁ……」


恍惚に頬は染める彼女の顔。

閨で快楽に身を任せる表情は、自分以外の人間には、決して見せる事はないだろう。


『責任を、とってくれないか』


あの浴室での出来事から。

自分たちは、毎日のように身体を重ねていた。


――キョータロー?


何処からか聞こえる声に、滲むような胸の痛みに耐えながら。

今日も、彼女の愛に応え続ける。

それが決して、自分の内側から生まれたものではないと知りながら、それでもどうすることもできずに。


ただ――今日も、彼女に、与え続ける。

勢いに流されてヤッてしまうと誰も幸せにも不幸にもなれないENDになる

というわけで次スレにて最終スレ
京太郎「修羅場ラヴァーズ」爽「完全無欠のハッピーエンド!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455809179/)

このスレは埋めちゃってください
なにかネタあれば拾うかもしれません

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom