絢瀬亜里沙「・・・犯人はあなたですよね?」 ver2.0 (120)

絢瀬亜里沙「・・・犯人はあなたですよね?」シリーズを書いた者です。

自分のSSを見直してみてオチを書き直したくなったので投稿したくなっただけ。

絢瀬亜里沙「・・・犯人はあなたですよね?」 と絢瀬亜里沙「犯人は…あなたですよね…?」くっつけて

文章を修正しただけです。

ラブライブで推理物がしたくなっただけ。

トリックは元ネタと同じ。

読みにくかったり矛盾点があったり誤字脱字があれば指摘よろしくです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1427639622

前回のラブライブ!!

なんやかんやあって無事にラブライブを優勝した私たち!!

それを祝して合宿旅行を企画した!

旅行先は真姫ちゃんの別荘である無人島!!

なんでもこの島は色々といわくつきなんだとか!

それでも関係ないよ!私たちは楽しむんだ!

無人島に着いたとき、私たちに新たな出会いが!!

穂乃果「雪穂!?どうしてここに!?」

絵里「亜里沙!?あなたもどうして!?」

雪穂「お姉ちゃんだけずるいんだよ!!私も行くもん!」

亜里沙「ハラショー・・・ここが無人島ですか・・・」

こうして優勝旅行は始まった!

真姫母「もしもし、お待たせしました。西木野です。
さっそくですが要件に入らせていただいてもよろしいですか?
いかがでしょうか、そちらは?」

弁護士「こんにちわ。さっそくですが良いニュースと悪いニュース、二つあるのですが、どちらにしますか?」

真姫母「嫌いな物は先に食べる方かしらね。」

弁護士「わかりました。
悪いニュースは先ほど相手が西木野総合病院を告発する準備に入ったということです。
今回のケースと類似した裁判を調べてみましたが原告が圧勝する判決が出されていました。
被告側も同じ内容で論戦しましたがダメでした。
結論から申し上げますと、このままに裁判に臨めば九分九厘負ける事は濃厚です。
その時の資料をお送りします。」

ファックスから届いた裁判の資料を見て頭を抱える真姫母。

真姫母「うちより有利な状況だったのに負けたのね・・・、
きっついなぁ・・・、あ、それでいいニュースは?」

弁護士「原告と接触しました。
改めて今回の事件を丁寧に説明し、こちらに謝罪の意思があることをお話ししました。」

真姫母「んで、結果は?」

弁護士「原告の出す条件を履行してくれれば告発は見送るそうです。
ご遺族の方もあまり大げさにはしたくないみたいで。」

そっちからふっかけてきたのによく言うわ・・・、 ただ金がほしいだけのくせにね・・・? 真姫母はそう愚痴りたくなるのを抑えて、

真姫母「その条件って?やっぱり金?」

弁護士「はい。和解金を望んでいます。
それも相応のです。
しかし、話してみた感じ、向こうも急いで金がほしいようですので多少の緩和は持って行けるかと思います。
ですがそれでも・・・」

真姫母「お金はたくさんあったほうがいいってことね・・・わかったわ、先生。
ありがとう、また何か進展があれば連絡してちょうだい。
はい、はい、失礼します。」

真姫母はそう言って電話を置いた。

と、同時に今まで椅子に黙って座っていたこの病院の幹部たちが真姫母に詰め寄る。

話の内容は幹部には聞こえてはいなかったが想像できているようだった。

幹部A「どうですか・・・?先生はなんと・・・?」

真姫母「簡単に言うと、金さえ積めば見逃してやるわって事みたいね。
後はそこだけを争点にすればいいみたい。」

西木野総合病院は、医療ミスで訴えられていたのだ。

医療ミスを論点にして争った場合、75%の確率で病院側が勝訴する。

これは弁護士が医療に詳しくない事や、証拠となるカルテを病院側が簡単に偽造できる、などが挙げられる。

しかし今回告訴してきた者は動きが綿密で素早かった。

医療ミスに詳しい弁護士と早々と手を組み、ボイスレコーダー等を使って確たる証拠をつかんでいたのだ。

まともに裁判をしたらミスをした病院側が負けるのが当たり前だ。

慰謝料を支払わなければいけない。

が、真姫母が気にしているのはそこではなかった。

真姫母は弁護士から聞いた内容を幹部達に話す。

幹部「しかし院長、弁護士の示した和解金の額があまりに大きいです。
とてもうちの金庫にそのようなお金は・・・」

真姫母「銀行に借りる・・・ないわね。銀行は絶対に勝てる所しか金は貸さないしね。」

正直三千万以内であれば西木野家ならば余裕とは言えないが払えるつもりだった。

しかし今回訴えられたのは、院長である真姫母の行った手術に対してなのだ。

まだ世間には公表されていないが、真姫母の医療ミスが暴露されれば裁判には敗訴し、莫大な財産を失う上で、業務上過失致死で良くて職をクビ、悪ければ逮捕されてしまう。

もちろん病院に対してのダメージは計り知れない。

院長による医療ミス。

マスコミはある事ない事を面白おかしく記事にするだろう。

話題性は十分だ。

告訴側もそれを知ってか、膨大な金を要求してきた。

その値段は世間から見ても金持ちの部類に入る真姫母から見ても、茫然としてしまう額だった。

職を失うのも逮捕されるのも真姫母としてはどちらも避けたい事態。

しかし、和解金を払う金もない。

幹部「・・・院長、我々が把握していないお金はありますか?
帳簿に載せられないお金です。」

真姫母「冗談はよしてちょうだいな、あるわけないわ。
そんなお金。」

幹部「ならば、金策が必要です!
XXXXX円ものお金がないと・・・なんとかなりませんか!?」

真姫母に詰め寄る幹部。

真姫母「落ち着きなさい、あなたたち。
お金なら私がなんとかする。
あなたたちは業務維持してちょうだい、お金を積めば大丈夫と向こうは言っているの。
大丈夫よ。
ここさえ乗り切れば大丈夫、あなたたちは黙ってみてなさいな。」

真姫母の言葉に幹部たちは子犬が怯えるような目で真姫母を見ていた。

『大丈夫』

その言葉にはまるで幹部にではなく、自分に向かって言い聞かせている様に聞こえたからだ・・・。

そしてそれは当たっていて、真姫母には金策に当てはなかった。

真姫母は幹部が部屋を退室したのを見届けた後ため息をつき、弁護士から送られてきた、被害者の資料を見る。

真姫母「・・・やってられないわねぇ、医者って。」

真姫母は資料を捨てる様にテーブルに投げ、飾ってある肖像画を見た。

そこには白髪の老人が移っていた。

真姫母「どうした物かしらねぇ・・・?
おじい様が隠した遺産が見つかれば・・・。
・・・いや、こんな与太話に頼るようじゃ、私もお終いかしらね・・・。」

先ほど投げ捨てられた資料、被害者の名前の欄には『矢沢』と書いてあった。

真姫母は暗雲とした気持ちで答えを求めて肖像画を見るが、もちろん何も答えてくれるはずも無く、途方に暮れるのだった。

○月×日 真姫家別荘

絵里「こら!ダメでしょ!勝手に来ちゃ!迷惑でしょ!!」

ラブライブを優勝した記念にμ’sで西木野家の別荘にお泊りにきていた。

場所は沖縄の本島から船で一時間の孤島である。

本来ならばメンバーだけのはずだったが・・・。

雪穂「だって前回もお姉ちゃんたちだけで行ったしずるいもん!私たちも別荘行きたい!」

亜里沙「黙ってついてきて、本当にごめんなさい!でも私たちもみなさんと旅行に行きたかったんです!!」

穂乃果「とは言っても・・・ねぇ・・・。」

穂乃果はため息をつく。

にこ「この二人誰なの?にこのファンかしら!?」

穂乃果「妹の雪穂だよ!」

絵里「同じく妹の亜里沙よ。私たちのファンらしいわ。」

花陽「この娘たち私たちのライブの時によく来てくれた娘じゃないかな?何回も見たことあるよ。」

ことり「雪穂ちゃん久しぶり!私は二人くらいいいと思うよ!」

真姫「私もそう思うわ。
二人くらい増えても大丈夫!そんな狭い家じゃないわ!
今から船に乗せて帰れなんて言えないわよ。」

凛「真姫ちゃん太っ腹にゃ~。」ダキッ

穂乃果「真姫ちゃん大好き~!」ダキッ

真姫「ヴぇええ!ちょっやめなさいよ!」

希「嫌がっている様に見えへんなぁ~。」

雪穂「ありがとうございます!μ’sの方々と一緒に旅行したかったんです!将来はお姉ちゃんと同じ高校に行きたいと思っています!」

亜里沙「私もです!ありがとうございます!

花陽「うれしそうですね。」

絵里「本当にいいの?迷惑じゃないかしら?」

真姫「未来の後輩の面倒を見るのも先輩の仕事でしょ?大丈夫よ、部屋ならいっぱいあるし、食糧もたんまりあるしね。」

にこ(先輩風吹かしちゃう真姫ちゃんかわいい)

海未「そうですよ。亜里沙、雪歩、一緒に遊びましょう。」

こうして11人は真姫の別荘で遊ぶ事になった。
雪穂と亜里沙はライブでは何回も見たことはあるが、実際にこうして直に話すのは初めてだ。

しかし、別荘まで歩いているうちに、メンバーと二人はすっかり意気投合していた。

穂乃果「一体何時から知っていたの?今回の旅行黙っていたのに。」

雪穂「そりゃ二日前からお泊りセットと服を旅行鞄に閉まっていたら何かあるなって思うじゃん。」

亜里沙「私はお姉ちゃんから聞きましたよ?
それを話したらお姉ちゃんの後をついて行こうって雪穂が・・・。」

雪穂「そしたら何か船に乗っているからさ!こりゃあますます面白そうと思って乗ってみたって訳。
いや~北の海に連れてかれるかと思ったよ。」

穂乃果「ドヤ顔で言わないの!連れてかれる、じゃないよ全く・・・。」

ことり「まぁまぁ・・・それにしてもきれいな庭だね!
雑草とか抜いてちゃんと整備してあるし・・・わ、カッコいいライオンの像がいっぱい・・・。」

真姫「最近親戚が泊まったらしくてね、その時に業者を呼んで整備してもらったんだって。
ライオンの像は、この別荘を建てたおじい様が指示して建てた物よ。」

凛「さすが金持ちだにゃ~。」

にこ「将来はここに住みたいわぁ・・・。」

海未「でも夜は明かりがほとんどなくて怖そうですね・・・最低限の明かりはありますが・・・」

真姫「だから夜はなるべく外にでちゃだめよ?整備してない所は森みたいになっているから。狼はいないけど、虫とかはたくさんいると思うわよ」

穂乃果「海未ちゃんは怖がりだからなぁ~。」

海未「違います!!」

それから別荘についたメンバー+@は海で時間の限りを遊び尽くした。

19:00 別荘

絵里「にこ、ごはん美味しかったわよ。

ありがと。」

ことり「ねーごはんおいしかったー」

にこ「最近のアイドルは料理もできないとダメよ。ま、にこは何でもできちゃうにっこにっこn」

絵里「明日の予定はどうしようかしら。
本島まで戻って遊ぶ?それとも海で遊ぶ?」
真姫「ところがね、さっき天気予報を見たら明日は大雨と激しい風らしいわよ?
ついてないわね。
昨日はテレビで言ってなかったのに・・・」

海未「あら・・・。」

亜里沙「しょうがないですよ!明日はライブの話とか聞かせてほしいです!」

穂乃果「全然いいよ!」

海未「あなたたち疲れてないのですか・・・ん?あれはなんですか?真姫・・・。」

食堂からリビングまで移動している最中、ホールを歩いていると、
そこにはデカイ肖像画が壁にかかっていて、その下には金色の大きい石の様な物が置いてあった。

周りにはライオンの像が置いてあり、肖像画と、大きい石を祀っている様に見えた。

真姫「それはおじい様の肖像画よ、何年も前に亡くなったけどね。
西木野総合病院を建てた人よ。」

ことり「へ~すごい人なんだね。」

肖像画はとても老人とは思えないほど若く描かれていた。

年齢で言えば20~30代くらいだろうか?

凛は石に近づき、手で触る。

凛「この石はとってもきれいにゃ~・・・あれ?何か書かれているよ?」

金色の石には文字が彫ってあった。

ことち「・・・うわ、いっぱい書いてあるよ、真姫ちゃんこれは?」

希「何か宝物の在処でも書いてありそうな感じやね。」

真姫「それは碑文よ。」

花陽「碑文?」

真姫「おじい様が言うにはそこに書いてある暗号を解けば莫大な黄金を頂けるらしいわ。」

メンバーは一斉に首をかしげた。

亜里沙「黄金・・・?」

真姫「詳しくは知らないけどね。
噂ではおじい様の遺産とか言われているけど・・・、西木野家の親戚も合わせて何人もこの碑文に挑戦したけど、いまだに解かれてはいないらしいわ。」

海未「碑文にはなんて書いてあるんですか?」

花陽「ええっとねぇ・・・」

碑文にはこう書いてあった。

『以下の碑文を解いたものに黄金を授ける。

火払いの印を志す王より命を承りし使い、川を三つ下ったその先に、二つの国有り。

一の国に三の村、二の国に四の村有り。

三の村に二十四の鍵、四の村に二十六の鍵有り。

使い、黄金に至る鍵を得る。

宮殿より古来から作られし鍵、

納殿の鍵、

庫理の鍵、

田の鍵。

これらを砕いて一つの鍵を作り、使い、黄金に至った。

鍵を一つにして二十の破片に砕き、三十七の欠片に分けよ。

六の欠片、九の欠片、十六の欠片、十八の欠片、三十六の欠片を引き抜いて鍵に合わせた者だけが黄金に至る。

Nishikino Laidourou 』

絵里「何これ・・・?」

海未「黄金・・・?」

雪穂「ほ~」

亜里沙「・・・これは・・・」

凛「意味がわからないにゃぁ~、下に書いてあるのは名前?にしきの・・・らいどうろう・・・?」

真姫「おじい様の名前よ。この人が戦後、すぐに西木野総合病院を建てて、日本の医療を支えたと言われているわ。」

穂乃果「偉大な人なんだね!でも戦後すぐになんてよく建てる事ができたね!その頃は日本ってとても貧乏だったんでしょ?」

戦後日本は敗戦し、身分制度が崩落したと共に政府から援助金すら出せなくなるほど疲弊していた。

その上GHQにより様々な課税がつき、生活に困って屋敷を売っぱらったという話も珍しくない。

元皇族の邸宅が現在のプリンスホテルとなった話はあまりにも有名だ。

そんな中で病院を一個人が一から作るのは容易ではない。

凛「穂乃果ちゃんの言う通りにゃ~、どんな悪どい事をしたのかにゃ?」

花陽「り、凛ちゃん!」

真姫「いいのよ。誰だって気になるわ。
おばあ様が言うにはね、戦後、少し経って日本が落ち着いた時に、
おじい様がおばあ様をある所に連れて行ったそうなのよ。
で、そしたらそこには、眩しい輝きをした黄金がびっしりとあったそうよ。」

絵里「信じられないわね・・・、でもそれが本当なら、この暗号の答えが
その真姫のおじい様が連れて行った場所って事なのよね。」

希「そういう事になるやろなぁ・・・、それで、そのお金を使って病院を建てたって事やろね・・・。」

真姫「多分そうでしょうね、
今でも病院を建てたお金の出所は明らかになっていないし。」

海未「・・・。」

真姫「その後、おじい様は死ぬ前にこの島と屋敷を買って、ホールにこの石・・・石碑と言えばいいのかしら?
石碑を建てさせて暗号を彫らせたわ。」

希「おじい様にはどういう意味か聞いたの?」

真姫「もちろんよ、そしたら、好きに解釈すると良い、の一点張り。
教えてはくれなかったわ。
でも内容を見てビックリしたわよ。
何せ黄金なんて単語が飛び交っているんですもの。
人間ならちょっとは期待しちゃうわ。」

海未「つまりこういう事ですか?
病院を建てた時の出所不明なお金の一部の在処がこの碑文に暗号として書かれている・・・と?」

真姫「私と親族はそう思ったみたいね。
でも結局誰も解けないままおじい様は亡くなった。
分からず仕舞いって訳よ。」

雪穂「なんだかロマンのある話ですね~。」

希「黄金・・・沖縄・・・。
この組み合わせの話を前に何処かで聞いたことがあるような・・・?」

絵里「あら?どこで聞いたの?希。」

希「思い出せへんのや、まぁ大した事やないと思う。」

真姫「ね、・・・ねぇ皆、皆なら何か思いつかないかしら?この暗号を見て。」

穂乃果「うーんどうだろ~宮殿とか古来とか書いてあるから昔の話なんじゃないかな?とは思うけど。」

花陽「この最初の行からして意味が解らないですね・・・。
なんでしょう・・・『火払いの印を志す王』って・・・。」

真姫「多分これが分からないと何も進まないと思うわ。」

絵里「亜里沙、どう思う?」

希「亜里沙ちゃんには分からないやろ~?」

絵里「こう見えて亜里沙は頭がいいわ。
推理小説とか好きだし、ドラマとか見てもすぐ解いちゃうのよ。」

穂乃果「へぇ~頭のキレなら海未ちゃんも引けをとらないよ!ね!?海未ちゃん!」

海未「そんな事ないですよ穂乃果、辞めてください。」

皆の注目が二人に集まる。亜里沙はずっとこの暗号を見ていた。

亜里沙「あっているか、自信は無いんですけど・・・」

真姫「全然いいわよ。読んだ感想を聞かせてくれないかしら。」

絵里「適当でいいのよ。こんなのお遊びなんだから。」

亜里沙は皆から変な事で注目を集めてしまったと後悔する。

・・・だがこれも旅行に参加した者として場を盛り上げる役を買って出る事にした。

亜里沙「まずこの暗号は三つに分かれていると思いました。」

希「どういうこと?」

亜里沙「そのままの意味です。
この暗号は三つのパーツになって分ける事ができると思います。最初の一つは、

『三の村に二十四の鍵、四の村に二十六の鍵有り。』までの3行。ここまでが鍵の在処を探した最初の部分。

そして『これらを砕いて一つの鍵を作り、使い、黄金に至った。』までが鍵は何を使って作るのか、を示した部分。

残りがその鍵をどうやって作るのか、を示した部分だと思う。」

ことり「なるほどね。在処、鍵のパーツ、そして鍵の作成方法の話の三つに区分けできるね!」

真姫「でも問題なのはその中身よ。パーツと鍵、そして鍵があるならドアもあるはずよ。それらが分からないと・・・。」

亜里沙「その通りです、でも最初に出てくる『火払いの印を志す王』とはどういう意味なのかな・・・?
普通に考えたら火に関係のある神・・・プロミネンスとか?」

絵里「神っていうだけでこの世には五万といるわよ?ギリシャとか・・・よく分からないけどいっぱいあるじゃない。
それが特定できないと・・・。」

希「おじい様は、何処かの宗派に属していたりとかは?」

真姫「いや、そんな話は聞いた事は無いわね・・・。」

海未「この手の暗号は作り手の何特徴のあるキーパーソンに従って考えている事が多いと聞きます。
例えば幼い頃の故郷の話とか・・・、経験談とか・・・。」

真姫「生まれは東京だったそうだけど多分東京じゃないわ・・・。
おじい様は病院を建てた後世界中を旅していたもの。台湾とか、後は沖縄とか・・・。」

亜里沙「そこに何か『川』が関係している物はないですか?
この暗号には川を三つ下っている。とありますよね?」

真姫「川・・・三・・・思いつかないわね・・・。」

凛「そもそも川だけで何個もあるにゃ・・・。」

絵里「それにそのおじい様が暗号に書いた時と今では区画整理などで地形も変わっているわ。調べるのは困難ね・・・。」

亜里沙「・・・多分、そういう話じゃないと思います。」

雪穂「どういう事!?」

亜里沙「『火払いの印を志す王より命を承りし使い、川を三つ下ったその先に、二つの国有り。』ここで一度改行されているの。

と、言うことはこれだけで何かが提示されているんじゃないかな?これを元に暗号を解いていくんだと思う。」

海未「何が提示されているんでしょう・・・?
でもこの行だけではっきりとした答えの一部、あるいはその解き方が出てくるとは思うんですが・・・。」

希「ひょっとして何かの比喩かもしれへんで?
最初の行の『王』とかもそのまんま火に関係している『王』じゃなくて何か別のかも。
『川』もそうじゃないかな?」

海未「『火払いの印を志す』、というのが非常に気になります・・・
ここだけ何か日本語というか、文法としておかしいですよね?
ここだけ無理やり暗号にした・・・

つまり『志す』という単語が文法を誤る原因になるにも関わらず残した。つまり何か重大なヒントになるのではないでしょうか?」

花陽「・・・?どういう事ですか?」

海未「例えばですが花陽、リンゴを答えとした時にあなたならどんな暗号を作りますか?」

花陽「えっ?うーん・・・赤い物体とか・・・赤い球体・・・とか・・・?」

海未「じゃあ、『リンゴナイフ』という全く関連性のない単語同士がくっついた言葉が答えだったとしたらどうでしょうか?
暗号を作るのが難しいと思いませんか?」

花陽「そう言われてみれば・・・」

海未「もし最初の1行が『リンゴナイフ』のように単語同士がくっついた単語が答えならば『火払いの印』+『志す』これで一つの単語として成り立つと思うんです。

もちろん、もともとの単語の意味が分からなければ意味は無いと思いますが・・・。」

亜里沙「私もそう思います。『火払い』の意味が解ればたぶん『志す』の意味も解りそうな気もしますね。

後は『川』で何をイメージするかですが・・・。」

穂乃果「『川』かぁ・・・私は小さい頃に遊んだ水の滑り台を思い出すなぁ・・・水が上から下に流れていてね!

そこを滑るとスピードで下って行くんだ!」

真姫「上から下に・・・流れる。」

真姫「・・・。」

希「真姫ちゃんどうしたん?」

真姫「いえ、な、なんでもないわ。」

ことり「他の行を二人はどう思うの?」

亜里沙「一の国に三の村、二の国に四の村有り。からの二行はさっぱりわかりません。これは多分火払いの~と連結している。最初の行が解ければ意味も解ると思います。」

雪穂「それが解けないかぎりこの二行を解こうとしても無駄って訳か~。」

にこ「結局『火払いの印を志す王』が解らないとどうしようも無いって訳ね。フンッ!時間を無駄にしたわね。」

凛「にこちゃんずっと寝てたにゃ~。」

にこ「うるさいわよ!!ちゃんと聞いてたわよ!」

にこ「川の話でしょ?そうね、私だったら船とかを連想するかしら。」

絵里「船?なんで?」

にこ「ほら、碑文?だっけ?を見てみると使いが王から命令を受けて何かを届けているように見えない?

それで川を下っている。ってことは下る乗り物が必要じゃないの?」

絵里「下る乗り物・・・」

真姫「下る・・・下り・・・下り・・・?乗り物・・・上がり・・・っ!上がったり下りたりするもの・・・川・・・。」

にこ「まぁだから何だって話だけどね。」

海未「いいえ、何かヒントになるかもしれません。
川から連想できる物、それくらいの抽象的なイメージの方が発想が柔軟になっていいと思います。」

ことり「そして川を三回下った先に二つの『国』の話がある。
そしてそこで鍵を手に入れて黄金を見つける。」

凛「意味が解らないにゃ。」

希「『使い、黄金に至る鍵を得る。』からの六行はどうなんや?何か思いつく?」

亜里沙と海未は碑文をじっと見つめた。その奥を透かし見ようと言わんばかりに・・・。

海未「・・・正直こっちから謎を解いていった方が早いかもしれないです。」

亜里沙「・・・そうですね。意味の解らない単語だとはいえ、解らないからこそ、比喩での難易度としては低いと思います。」

穂乃果「・・・どういうこと?意味が解らなければそれだけ難易度は高いと思うんだけど。」

海未「この暗号は、暗号の製作者だけが解るように作ったのではなく、不特定多数の人間にも解けるように作ったのだと思うんです。」

亜里沙「つまり、一見意味の解らない単語でも、製作者がこの暗号を誰でも解けるように作ったのならば、この意味の解らない単語がそのまま答えの一部に繋がるのかもです。」




絵里「なるほどね。意味の解らない単語の比喩表現なんて探したら製作者か身内しか解けないわね。」

穂乃果「つまり考えるだけ無駄ってことか・・・案外調べたら簡単に出てくるかもね。」

雪穂「へ~。」

穂乃果「雪穂もう飽きてきたでしょ。」

雪穂「お姉ちゃんもさっき欠伸してるの見たよ。」

ドッアッハッハッハッ

絵里「あはは・・・、じゃあ最後の三行はどうかしら?鍵を手に入れた後どうするかが、書かれているって事でいいのかしら?」

海未「そうですね・・・これを見てみると『鍵』は暗号とかキーワードの事を言っているように見えますね。
という事は上の四つの鍵を解っても黄金にはたどり着けない。」

亜里沙「最後のこの鍵、キーワードを使って何かするんでしょう。
でもそこまでは今の段階では・・・解りませんね。」

希「アナグラムって事やな・・・。」

凛「アナグラム?」

希「文字の順番を並び替えて、違う言葉にする文字遊びの事や。
国とか村とか出ているけどこれは別に地形の事を差しているんじゃなくて、一種のなぞなぞって事じゃないかなって。」

真姫「なるほどね。つまり最後の欠片がうんぬんってあるけど、欠片は文字の事で、上の暗号から出した言葉三十七文字の中から特定の文字を引き抜けって訳ね。」

穂乃果「そう考えると面白いね!ということはこの暗号の答えは五文字になる訳だ!」

海未「でもそうなるとこれは相当難しいです。その欠片が平仮名なのか漢字なのかローマ字なのか・・・」

それによっても変わってきます・・・。」

絵里「文字遊びは日本では子供の遊びって印象が強いけど、英語圏では頭のいい人のユーモアでもあるって聞くわ。

世界中を飛び回った真姫のおじい様も興味を持ったとしても考えられるわね。」

雪穂「zzz…」

ここで皆黙ってしまう。皆の話によりある程度の見解にたどる事は出来そうだが・・・後一歩でつまずいてしまう。

希「ま、今日はこんな所でいいやろ?続きは明日にしようや。」

絵里「そうね、気づいたら結構話し込んでしまったわ。もう寝ましょ?
明日もあるんだし。」

海未「・・・そうですね、明日もあるんですから。」

亜里沙「・・・うーん。」

真姫「・・・」

穂乃果「そうだね。ほら、雪穂、起きて!」

雪穂「眠いよぉ・・・。」
ここでメンバーは解散した。

真姫の別荘は広く三階建てだ。

なので多少人数が増えても、難なく一人につき一部屋支給された。

真姫「鍵はなくさないでよね?これ一個しかないんだから。」

ことり「はーい。
じゃ、また明日~お休み・・・亜里沙ちゃん、どうしたの?」

亜里沙は目を擦りながらも、じっと・・・暗号を見ていた。

亜里沙「いえ、何か解りそうな気がするんですが・・・。」

真姫「・・・。」

にこ「・・・あれ?なんで・・・だけ・・・なんだろ?」

真姫「え・・・?にこちゃん今なんて・・・。」

にこ「えっ?・・・あっゴメン私今寝ぼけていたみたい、何か言っていた?」

真姫「いや、その・・・。」

希「ほら、皆、明日も早いんやから、今日はもう寝るよ?」

希はそう言ってにこを連れて行く。

にこ「ちょ、希!?・・・そうねー、真姫ちゃんお休み~。」

真姫「あっ・・・。」

亜里沙「もう眠くて限界・・・寝ます。お休みなさい。」

とうとう亜里沙も帰ってしまう。

真姫「・・・。」

真姫だけは、この暗号を、碑文をずっと見ていた。

碑文を解いたら黄金が、莫大な資産がもらえる。

それは、西木野家では有名な話だ。

今真姫が、いや、西木野家にとって一番喉から手が出るほどほしい物・・・!

回想

真姫母「どうした物かしらねぇ・・・?おじい様が隠した遺産が見つかれば・・・こんなおとぎ話に頼るようじゃ、私もお終いかしらね・・・。」

真姫母が、途方に暮れていると、

バンッッ!

勢いよくドアが開く。

中に入ってきたのは、真姫だった。

真姫「ねぇ・・・今の会話どういうこと!?」

真姫母「真姫っ!あんたいつから・・・。」

真姫「ママが幹部の人たちと言い争いをしている所からよ!ねぇ!?裁判とか借金とか聞こえたんだけど、どういう事なの?全部話してよ!」

真姫母「あんたには関係ないわ。今すぐ出ていきなさい!」

真姫「ママ!」

真姫母「これは大人の問題よ。子供はひっこんでなさい、・・・大丈夫。なんでもないわ。解決できるから大丈夫よ。」

真姫「・・・ママ。」

それがやせ我慢な事は真姫母の手が震えている事からもよく分かった。

その後の真姫の行動は素早かった。

あの部屋にいた幹部に事情を半分脅すように聞いた。

そして分かった。

医療ミスで訴えられそうな事、和解金を積めばチャラになる事。

その和解金の額がぶっ飛んでいる事まで。

真姫「お金がいる・・・。」

真姫は考える。

真姫「莫大なお金が・・・、いる!」

しかし、小遣いをもらっている身分の今の自分では何も出来ない事くらい、真姫は分かっていた。

真姫「バイトでも・・・いや、だめだ。」

いつ告訴されるのか分からない以上、次の給料日まで、なんて待っていられる訳がない。

そもそもそんなバイトで稼げる様な金額なら、とっとと払っているだろうし・・・。

真姫「そういえば・・・、昔おばあ様から・・・。」

真姫は隠し遺産の話を思い出した。

沖縄の別荘には、祖父が残した隠し遺産の財宝の在処が暗号として書いてある石碑があるって・・・。

真姫「・・・次行く合宿の場所、まだ決まってなかったよね・・・。」

真姫「・・・もう、これしかない。」

その暗号にかけるしかない。

真姫は誓う。

必ずこの暗号を解いて、家を、守ってみせると・・・。

ホール

真姫は碑文を親の仇の様に見ている。

真姫自信、もう眠かった。

しかし貴重な時間を無駄にはできない。今日と明日しかもうないのだ。

睡魔と戦いながら、それでも少しずつ圧されていく真姫。

しかし寝る訳にはいかない。

西木野病院を救うのは私しかできない。

ここで負ければどうなるのか。

私たちは全てをはぎ取られてしまう。

高校にすらもう通えなくなるのかもしれない。

メンバーとももう会えなくなるのかもしれない。

そんな事は死んでもいやだった。

もうすぐそこ、そこに黄金にたどり着く扉があるのだ。

それさえ、鍵さえ開けば・・・

真姫「そうよ扉に・・・碑文を読むの。力いっぱい!」

目を凝らす。

黄金のある扉を力いっぱい。その奥を感じ取るように!

最初の行・・・『火払いの印を志す王』

真姫「火払いの印・・・を志す・・・王・・・火・・・そういえば昔おじいちゃんに・・・。」

それは真姫がまだ子供の頃、祖父に祭りに連れて行ってもらった時の事・・・。

ある演目をやっていて、それでその時に私は指を指して聞いたんだ・・・『あの形はなんだって・・・』

あの頃は幸せだったなぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの形・・・形・・・え・・・?」

真姫は眠気がぶっ飛ぶほど覚醒する。火払いの印ってもしかして・・・。

真姫「あの形は確かああ言う意味で、でもえっとって事は・・・だめだ『志す』とはつながらないでもこれあってるはず!」

考えろ!真姫は頭をフルで回転させた。

多分今が人生で一番集中しているかもしれない。

これフロー状態だ、と真姫は思った。

真姫「でもまだうろ覚えだ・・・そうよ、ここには書庫はあったはず・・・調べなければ・・・その『形』を・・・。」

真姫はふらつく足で書庫に向かった。

書庫

真姫母「・・・コホッコホッ!少し埃っぽいわね。」

書個室の本棚には、学校の本棚に置いてありそうな本が沢山つまれていた。

真姫「ネットが使えれば早かったんだけど・・・。」

この屋敷にはPCはあるが、ネットには繋がってはいない。

スマホでネットはできるが磁場と天気の影響で電波が途切れているので、読み込むのに時間がかかる。

だったら本で調べたほうが早い・・・。

真姫は内側から鍵を閉めて本棚を眺めた。

心臓がバクバクと飛び跳ねている。

だが同時に高揚感も生まれつつあった。

真姫「これなら載っているかしら・・・?」

真姫はある本を本棚から下すと、それを机に置いて広げ、見る。

・・・
・・・
  ・・・
真姫「やっぱりこれが・・・『火払いの印』!!!じゃ『志す』は・・・っ」

真姫は急いで違う本をパラパラめくる。それはある地域の歴史書だった。

真姫「海未達が言っていたわ!単語と単語をくっつけるって!!あっあぁっ・・・!これが・・・『火払いの印を志す王』!!!!」

なるほど、そういう意味か・・・。

でもこれだけわかっても次・・・川が解らない・・・川・・・川・・・。

真姫「にこちゃんが言っていたわ!・・・船が旅をするって・・・下る・・・上がる・・・あっ・・・。」

あった!!!

真姫「国・・・あった!村も!これも!これも!!これなんだ!!!」

真姫の頭の中でピースが組みあがっていく。

黄金の扉を開けるためのピースが。

真姫「鍵も解った!欠片も分かった!!これをこうして・・・できた・・・五文字!!」

でもこれが本当に答え・・・?

でてきた文字は何の脈絡もない文字・・・。

ここからどう発展させれば・・・?

そもそもこれを使ってどこに行き、何をすれば・・・。

真姫「くそっ!」

思わず悪態をついてしまう。

埃っぽい部屋にいたせいで髪はボサボサでとてもファンには見せられない。

真姫「ああああああ!!後少しなのよ!これがなんだっていうのよ!それともどっか間違っていたの!?」

真姫「文字遊び・・・そうだ文字遊びだ!」

真姫はその文字で色々試してみる。そして・・・。

真姫「これだ!!!これが黄金の扉への・・・鍵!!」

真姫「はぁはぁ・・・はぁ・・・。」

真姫はため息をついた。だがこれをどうすればいいのか・・・扉はどこにあるのか・・・。

真姫「にこちゃん・・・。」

思わず便りになる先輩の名前を呼んでみる。

あなたなら・・・、どうやって・・・。

真姫「・・・!ちょっと待って?さっきにこちゃんは、なんて言っていたっけ!?」

真姫は必至に、にこの言っていた事を思い出す。

にこはこう言っていたのだ。

にこ「・・・あれ?なんでXXXだけXXXXなんだろ?」

真姫はそれを思い出したと同時に、天啓めいた物を受ける。

真姫「!!!!そうか!そういう事だったんだ!!!」

真姫は書庫から走ってある場所に向かう。

・・・
 ・・・
  ・・・

真姫「・・・こっち?こっちよね?こいつが案内している・・・っ!!!」

そこにはポッカリと暗闇にまみれた穴があった。

この別荘には何度か来たけどでもこんな穴は・・・ない!!

その穴にゆっくりと入ってみる。

目を凝らすと明かりを付けるスイッチがあった。

それをつけるとそこには下りの螺旋階段があった。

カツンカツンカツン・・・降りていく。

何度か折り返していくと一つのドアがあった。

そこにはこう書いてあった。

六の欠片、九の欠片、十六の欠片、十八の欠片、三十六の欠片を引き抜いて鍵に合わせた者だけが黄金に至る。

真姫「正解だわ・・・!」

爆発寸前の心臓がさらに跳ねる。

間違いない。

これは黄金の扉なのだ。

真姫はドアを開けた。

ギイイイイイイイイイイイイイイイイ

真姫「こ、これは・・・」

想像では牢屋みたいな鉄でできた部屋かと思っていたが、とんでもない。

ベッドにソファ、テレビなどホテルにあるような家具が一式そろっていた。

そしてその奥に・・・

真姫「・・・えっ・・・っ!!!!」

真姫のその声はまるでテストでまさかの100点を取った時のような声だった。

だってこれを見たらそんな声しか出ないに決まっているのだ。

真姫「あった・・・本当だ・・・あった!!!!!!!おじい様の・・・黄金!!!」

黄金がそれはそれは高く、真姫の身長、いや絵里の身長よりずっと高く深く積み上げられていたのだ。

金、金、金、金金金金金金金金!!!!黄金のインゴットの山!!!

それはこの部屋のように美しく積まれていて、赤い高級そうな布が掛けられていた。

真姫「見るだけでお金が取れそうね・・・。」

これを見ていると、今の自分の悩みなんてどんだけちっぽけな事かと思えてくる。

この沢山あるうちの、ほんの十個あれば悩みは解決するのだ。

これがどこからどうやって作られたとか、経緯とか、もうそんな事はどうでもよかった。

インゴットを触ってみる。

触った後に素手で触った事を後悔したがこんなにいっぱいあるのだ。一つや二つ!!

真姫「重い・・・10kgはあるわね・・・。」

真姫はこの暗号を聞いた時、昔無意味な計算をしたことがある。

純金でできた黄金(インゴット)が1kgいくらなのか、という計算だ。

よくは覚えていないがこのインゴット一つで一千万以上はあった気がする!

あぁ!!計算しておいてよかった!!

そんなバカな事しか考えられないくらい頭の中は空っぽだった。

これ全部の値段を計算したら・・・

真姫「はぁ・・・はぁ・・・とにかくたくさんよたくさん!!!!」

真姫は動機を荒げながら、黄金を我が子の様に抱く。

もうまともに計算できない。

いや、そもそももう計算なんてする必要はないかもしれない。

現実の世界に物は有限だから数字が生まれた。

じゃあそれが無限にあるならば?もう計算なんてする必要はない!

もう真姫はお金の事で計算しなければいけない事なんて何も無いのだ。

だって、ここには無限に近い価値を持つ黄金があるのだから!

真姫「見つけたわ・・・私が見つけた!!見つけたよ!!ママ!!これで病院も救える!!!・・・フフッふふふっふふふふふふあっはっはっはっはっはっはっはぁっーッコフーーッコフーー」

真姫は黄金の山を前にして両手を上に広げて天上を見上げた。

下品な笑い声が部屋中を響き渡る。

真姫「はっはははははははははっ!!お金よりもこの世には素晴らしい物がある!!お金で買えない物なんていくらでもある!!そう思ってたわ!!

でも、そんなものは嘘だってはっきりわかったわ!!!そんなのはねぇ、持ってないやつの愚かな自分への言い訳だったのよ!」

真姫「この黄金を溶かす事で、この世のありとあらゆる幸せを得る事が、生み出す事ができる!!やったぁ!!やったぁ!!!うううううう!!!」

ギイイイイイイイイイイン

真姫「誰!?」

真姫はとっさに振り向く。

ドアが開かれる音がしたのだ。

するとそこには・・・、

真姫「XXXXXXX!?あなた何でここに・・・?」

??「・・・」

??「・・・・・・」

二日目 10:00

綾瀬絵里の朝は早い。

こんな時間に起きて何を言っているのか、という話だが今日くらいはいいだろう、と絵里は自分を甘やかす。

思えばラブライブが終わってすぐに受験勉強に入ったから、こうしてぐっすり眠った日はしばらく無かった様に思う。

後二か月ほどで私たち三年は卒業する。

寂しい気持ちはあるが後悔は無い。

ラブライブで優勝する事も出来たし、そのおかげで入学希望者が多く入ってきた。

理事長が言うにはこれが続けばしばらくは廃校の危機はないらしい。

一学生でありながら廃校をほぼ白紙に持っていく事が出来たのだ。

十分な成果だろう。

ふと窓を見ると昨日とは打って変わって天気は大雨。

風は窓を叩いていた。

どうやら天気予報は大当たりなようだ。

絵里「はぁ・・・」

まぁしょうがない。

今日は皆と室内でいっぱい遊ぶとしよう。

これからの事を思いながらリビングに向かって歩く。

絵里「あら・・・?」

リビングの扉の前には花陽がいた。

何やら途方にくれているようだった。

絵里「おはよう花陽。どうしたの?」

花陽「あっ、おはよう絵里ちゃん。
それが、リビングの扉が開かなくて・・・。」

絵里「えっ?リビングの扉が?おかしいわね、誰かしら・・・。」

中に誰かいるのかも?と絵里は思ったが、扉の向こう側は見えないし、

外でこうして騒いでいるのだから、気づかないはずは無い。

花陽「誰かが鍵をかけたって事かな?」

絵里「えぇ・・・!?
でも、そういう事よねぇ・・・。」

でも、メンバーしかいない中で、自分の部屋以外に鍵を閉める必要があるのかしら・・・?

絵里は疑問に思ったが、まぁ真姫の家はそうなのかもしれないと思ってあまり気にしない事にした。

絵里「まぁいいわ、十時にここ集合のはずだから皆もそろそろ来るはずよ。
真姫も来るはずだから事情を聞きましょ?」

昨日は二階のリビングに十時集合と決めた。時間はすでに十時を少し過ぎていた。

5分後、穂乃果と凛が降りてきた。

穂乃果「いやーごめん!少し遅れてきちゃった!いやでも勘違いしないでね?決して朝ごはんが出来る時間帯を狙ったとかそういうんじゃないからーー」

凛「そうにゃ!そうにゃ!」

絵里「はーい分かりました、分かりました。
たった今朝食の準備係が決まったわね、頼むわよ。
あんたたち。」

穂乃果「えーー!?」

凛「あんまりだにゃ・・・。」

亜里沙「スイマセン遅れました!!」

雪穂「スイマセーン!!決して朝食がd・・・」

絵里「はいもう二人朝食係追加よー。」

雪穂「えーーー!?」

亜里沙「そんなぁ!!」

穂乃果「でも皆どうして中に入らないの?」

絵里「鍵がかかっているのよ、真姫待ちよ。」

来ていないのは真姫、にこ、希、ことり、海未だ。

にこはともかく、他はメンバーの中でも真面目な方だ。

特に自分に厳しい海未なんて十分前には到着しているんじゃないかと絵里は思っていた。

絵里「うーん、どういうことかしら・・・。」

絵里は腕を組み直す。

その時、

にこ「皆遅れてごめん。」

真姫「・・・。」

穂乃果「二人とも遅刻だよ!!何してたのー?」

雪穂「お姉ちゃんも遅刻だったでしょ・・・。」

絵里「真姫!?どうしたの!?すごい顔よ!?」

真姫はにこに肩を貸してもらいながら歩いていて、顔も赤い。

凛「どうしのかにゃ?まさか昨日はお楽しみって事なのかにゃ?」

凛がからかい半分でジョークを言う。

いつもなら一言二言飛んでくる二人なのに、にこが凛を睨むだけで終わった。

どうやら本当に真姫は気分が悪そうだ。

にこ「さっきそこで会ったんだけど、真姫ちゃんちょっと調子が悪いみたい・・・。
部屋で休ませようと思っていたんだけど・・・。」

真姫「昨日あまり寝つけなかっただけよ、
朝食を食べたら少し寝るわ。
どうせこんな雨じゃ今日は別荘でカンヅメだし・・・?」

そういえば、と真姫は疑問に思う。

真姫「・・・ところでなんで入らないの?」

絵里「真姫じゃない・・・?じゃぁ誰が・・・。」

絵里はメンバーに事情を話した。

真姫はそれを聞いて戸惑っている様子だった。

真姫「そんなはずはないわ、鍵なんて閉めてないわよ。
・・・でもわかったわ、管理室に行って取りに行ってくるわね。」

亜里沙「私も行きます。」

にこ「私も行くわ。こんな真姫ちゃんほっとけないもの。」

真姫「・・・ありがと・・・。」

三人は管理室に向かった。

管理室

管理室とは名ばかりで実際は物置小屋の様だった。

亜里沙は中学校の体育倉庫を思い出した。

真姫「鍵は全部ここに入っているんだけど・・・、
えーと・・・。」

壁には部屋の鍵がかかっていた。
鍵はたくさんあったが、それぞれ何階のどこの鍵か書いてあるので、すぐに分かるのだが・・・。

真姫「あれ・・・?」

亜里沙「どうしたんですか?」

真姫「鍵がないのよね・・・。」

にこ「えっ?」

真姫「おっかしいわねぇ・・・?最初この別荘の部屋の鍵は全部閉まっていたんだけど、鍵を使って開けたから、昨日までは確かにあったのよね。」

にこ「私たちも鍵で開ける所は見たよね?」

亜里沙「はい、見ましたね。
その後鍵はどうしたんですか?」

真姫「管理室に戻したけど・・・。」

亜里沙「・・・?それだとおかしな事になりますよね?」

にこ「そうよねぇ・・・?誰かが持って行ったのかしら?
でも何のために・・・?」

亜里沙「最後に鍵を確認したのは、何時か覚えていますか?」

真姫「鍵を戻した時が最後よ、でも管理室には鍵がかかっていないから、誰でも鍵を撮ろうと思えば取れるのよね・・・。」

にこ「ちょっとぉ・・・、私達が盗んだって言いたいの~?」

真姫「そうじゃないわよ!誰かが何かの用事で鍵を借りたのかもしれないでしょ!
人聞きの悪いこと言わないで!」

亜里沙「まぁまぁ・・・、とりあえずこの事を穂乃果さん達に伝えに行きましょうよ。
もしかしたら、まだ起きていないメンバーの誰かが持っているかもしれませんよ?」

にこ「そうね、もう全員揃っているでしょうし、その時に聞きましょ?」

真姫「・・・そうね。」

亜里沙はこの場を諌めはしたが、この事態を少しおかしいと思っていた。
二階のリビングを最後に使ったのは、食事の時だ。

それまでメンバーは一緒に居たし、その後も、暗号の話をホールでして解散となった。

つまり、あの部屋の鍵をかける事が出来るのは、深夜という事になる。

深夜に鍵をかける程の用事って・・・?

亜里沙の疑問は尽きなかったが、とりあえず戻る事にした。

二階 リビング前
絵里「あ、お帰りなさい、鍵はあったの?」

にこ「それが・・・。」

亜里沙「鍵は無かったよ、お姉ちゃん。
それより他のメンバーはまだ来ていないの?」

海未、ことり、希はまだ来ていない様だった。

穂乃果「そうなんだよねー、
一人なら分かるんだけど三人かぁ。
何かあったのかな?」

花陽「靴はあったから外には出てないと思いますけど・・・そもそもこの雨ですしね。」

外は雨と風でどしゃぶりだ。

ドアを開ければ雨が玄関を勢いよく濡らすだろう。

しかし、さきほど管理室に向かった時、玄関をのぞいてみたがドアを開けた形跡は無かった。

絵里「しょうがないわね。呼びに行きますか。しょうがないわねー。」

絵里はアクセントを変えながら文句を言う。

メンバーは海未の部屋に向かった。

二階 海未の部屋前 10:30

絵里「海未、朝よー!海未ー!」

絵里がドアをノックする。

コンコン、コンコン。

返事はなかった。

耳を澄ましてみるが何も聞こえない。

ドアノブを捻ってみるがドアは開かなかった。

にこ「・・・?」

亜里沙「開きませんね・・・。」

絵里「うーん・・・。」

亜里沙「穂乃果さん、海未さんは何か持病とかありますか?」

穂乃果「聞いたことないなぁ・・・。でも何でそんな事を・・・?」

亜里沙「いえ・・・もしかしたら何かアクシデントがあって倒れているんじゃないかと思って・・・。」

花陽「もしそれが本当なら早く開けないと!」

亜里沙「落ち着いてください!まさかの話をしただけです。もしかしたらただ眠りが深いのかもしれません。」

絵里「そうね。とりあえず他の人の部屋も回ってみましょうか。」

その後、絵里達は希、ことりの部屋に行ってみたが返事は無く、鍵がかかっていた。

その後、他の空き部屋、メンバーの部屋も探してみたがどこにもいない。

メンバーの部屋の鍵は、解散する前にメンバーに渡してしまったから、開ける事は出来ない。

絵里「どういう事かしら・・・?さすがにあれだけ騒いだら目も覚めると思うし・・・。」

凛「そうだよね・・・。」

花陽「三人はどこに・・・?」

亜里沙「こうなると本格的に調べなければいけませんね・・・。真姫さん、ドアを開ける道具、例えば斧みたいな物はありますか?」

真姫「っ・・・!」

絵里「ちょっと待ってよ、まだそこまでする話じゃ・・・。」

にこ「いや、ドアを破るとかは別にして何か行動は起こした方が良いんじゃない?いくらなんでも変よ。私たちはこの屋敷の中を、鍵の閉まっている所以外は全て探したのよ?
靴は中にあるんだし、この別荘の中にいるのは明らかじゃない。」

しかし、それでも見つからない。

という事は、鍵のかかった部屋にしかいない・・・。

穂乃果「どうしよう・・・?真姫ちゃん。」

全員が真姫を見る。

真姫はメンバーの視線を感じ、答えを出した。

真姫「ドアを破りましょう。
管理室に斧がある。
それがあればドアを破る事は出来ると思う。」

にこ「真姫ちゃん・・・。」

花陽「いいの・・・?」

真姫「友達の命には代えられないわ!それに、もうお金に苦しむ事も無いんだし・・・。」

絵里「・・・?真姫?最後の所聞こえなかったんだけど、なんて言ったの?」

真姫「いやいや何でもないのよ?何でも。
私は斧を取ってくるわ。皆はリビングの前にいて!」

雪穂「何が起こっているのでしょう・・・?」

絵里「知らないわよ・・・。」

暗雲とした天気を眺めながら、不安そうに、メンバーは息を吐いた。

2F リビング

真姫が斧をリビングに持ってきた。

斧の大きさは真姫より少し小さい程度で、刃は光っていた。

下手に触ったら指が切れそうだ。

真姫「皆下がっていて!」

メンバーが下がるのを確認すると真姫は斧をドアに叩きつけた。

ガツンッ!ガツンッ!ガンッ!

三回目でドアの一部の木が砕けた。

真姫はその隙間から器用に手を入れて鍵に手を伸ばす。

ガチャンッ!

真姫「ドアが開いたわ!」

穂乃果「入ろう!」

雪穂「開けるよ!」

雪穂は一番にドアを開けて中に入る。

雨雲のせいか、扉の開いたリビングは真っ暗だった。

いや、テーブルの所だけ、電気がついている。

それは、この部屋の扉を開けた者が、最初に見る事になる位置で・・・。

「「きゃああああああああああああああああああああっ!!!!」」

先に声を上げたのは果たして誰だっただろうか?

誰かも分からない悲鳴が部屋を裂く。

中にはそのリビングの光景を見て絶句しているものもいた。

手を口に当てる者、一目散に部屋から出る者、動けない者、ただ悲鳴を上げる者!!

それはたった一つの光景を目にしたからだった。

亜里沙「これは・・・ひどい・・・!!」

穂乃果「あっあっ・・・」

一番後ろにいた穂乃果は運が良かっただろう。

何故なら、扉から一番離れていたおかげで、この光景を理解するのに、他のメンバーよりほんの一瞬だけ遅れたのだから・・・。

絵里「な、な、何よ・・・これは・・・。」

・・・こんな光景は今まで散々見てきた。

漫画やテレビ、アニメ、ドラマ!ただのそれが目の前に刺激的に現れただけの事だ。

それだけで・・・あぁあ・・・その緑の服は・・・あの髪の色は・・・ああああああああああああ!!!

絵里「ことり!?ことりなの!?」

まるで脚光を一人浴びるように、まるで一人で罪を受けるように、その者は血に染まったテーブルの上に倒れていた。

雪穂「・・・こ、ことり、ことりさん・・・っっ!?・・・っっ!?!?!?」

雪穂「いやああああああああああああああああああああああああ!!!!」

亜里沙「ど、どうしたの雪穂!?ゆっ・・・オエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」

雪穂が口に手を抑えて屈んでしまい、亜里沙は『それ』と、目があってしまう。

血みどろの沼に沈み、陥没した頭蓋から抜き出す様に生えた、眼球と・・・。

あぁ・・・私は初めて親友を恨んだのかもしれない。
雪穂がこれを見つけなかったのなら、私は直接見る事は無かったのかもしれないのに・・・。

倒れていたことりは・・・ひどい化粧が施されていた。

いや、化粧じゃない!これは『顔面を耕す』って表現の方がふさわしい!

顔面の半分だけご丁寧に粉砕され、ただ死んだだけならば、浮かばない、いや、浮かぶことのできない表情を作らされている。

目の位置も鼻の位置もわからない!!いやわかる!もう半分は残っているのだから!その対比が余りにも怖くて、生々しくて・・・

口も歯茎がむき出しになっている。でも前歯はバキバキになっていて、それを覆うほっぺもぐちゃぐちゃ!

旅行だからと張り切って美容院に行った髪だけきれいに残っていて、それが血に染まっていて・・・。

亜里沙「ひっひっひっ・・・はぁー・・・はぁっーおぶっ。」

ご丁寧に、テーブルには、コップや、スプーン、フォーク、皿など、ことりを囲む様にして、おいてある!

ことりを食材とした悪魔の晩餐会なのだと亜里沙が理解した時、猛烈な吐き気に襲われた。

穂乃果「ことりちゃあぁん・・・ことりちゃああああん!!」

亜里沙「穂乃果さん!?だめです!!!見ないで!!。」

穂乃果が部屋に入り、ことりに近づく。

部屋の入口からは、顔はきれいな方しか見えない。

つまり、もしかしたら倒れているだけかと思うのだ。

しかしそれは犯人の罠!!亜里沙は穂乃果がことりに駆け寄るのを止める事も出来ず、犯人の罠にまた一人かかってしまった・・・と思った。

穂乃果「ことりちゃ・・・あっあっあっああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

亜里沙「遅かった・・・。」

絵里「何!?どうしたの!?ことりは無事なの!?」

凛「ことりちゃんは!?ねぇ穂乃果ちゃん!」

亜里沙はとっさに自分の体を大の字にしてメンバーの前に立ちふさがった。

亜里沙「みなさん!!これ以上こないでください!!!!お願いします!!!」

もうこんな光景を見るのは私たちだけで十分だ・・・。

亜里沙は思った。

この殺し方はあまりに・・・ひどい!殺された側にとっては良い、悪いも無いのは分かってる!
それにしても・・・この殺し方は・・・死者への尊厳すら踏みにじっている。

穂乃果「ことりちゃんが何でぇぇ!?何をしたって言うの!?ことりちゃんは何も悪い事はしてないよ!?なのになんでこんな・・・こんな・・・。」

穂乃果「顔が・・・顔がないよ・・・ああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

雪穂「お姉ちゃん、これ以上見たらだめだよ!!ことりさんも自分のこんな姿を見せたいわけがない!!」

絵里「・・・。」

真姫「何で・・・どうして・・・?わた、私が・・・したのは・・・え・・・?なんで・・・?え・・・?夢?」

にこ「・・・。」

凛「悪魔にゃ・・・悪魔の仕業にゃ・・・。」

絵里「皆!落ち着いて!!ことりが・・・その・・・こんな状態ならこの部屋に入るのはだめよ!!早く!!亜里沙も早く出なさい!!」

亜里沙は絵里に連れられて部屋を出る。

穂乃果も雪穂に引っ張られるように部屋から出た。

亜里沙が最後にその部屋の中を見て確認したのは、まぎれもなく南ことりは死んでいる・・・という事実だった。

絵里「これは・・・?」

部屋から出て、ドアを閉めようとした時、絵里は気づいた。

リビング中の小さな机、そこに何かが落ちているのを。

絵里「これは・・・鍵?」

真姫「海未の部屋の鍵みたいね・・・。」

花陽「ねぇ・・・もしかしてなんだけど・・・。」

雪穂「え?何ですか?」

花陽「あの・・・他の部屋も・・・こんな事になっていないですよね!?」

真姫「!?」

他に開いていない部屋は後三つある。海未の部屋、希の部屋、ことりの部屋だ。

リビングにはことりの死体があった。

ならば他の部屋にも・・・。

皆がそう思うのも無理は無かった。

絵里「行きましょう!まだ間に合うかもしれない!」

何がどう間に合うのか・・・、それは言っている絵里にもわからない。

メンバーは海未の部屋に向かった。

鍵を開け、扉を開ける・・・。

ギイイイイイイイイイイ

扉をゆっくりと開ける。

ただ開けるだけなのにメンバーにとってそれは禁忌の様に思えた。

最初、海未の部屋はカーテンが閉じていて、天気の関係もあってか、真っ暗でよく分からなかった。

しかし、暗闇から生えてきたような足を見て、メンバーは無意識に足の生えている方へ視線を飛ばす。

そこには・・・。

絵里「あっあっあ・・・。」

真姫「えっ・・・えっ・・・いやああああああああああああああああああああああ!!!」

部屋の真ん中で、希がタロットカードに囲まれながら倒れていた。

真姫はそこで尻餅をついた。

にこ「真姫ちゃん!落ち着いて!」

花陽「希ちゃん・・・そんな・・・。」

雪穂「希さん・・・なの?」

亜里沙は部屋に入って近づき、希を見る。

他のメンバーは足が凍り付いているようにドアの前から動けなかった。

花陽「し、死んでいるの・・・?」

希の頭は血まみれで、目や頭の一部は陥没している。

頭を鈍器か何かで殴られて死亡したと見るのが妥当だろう。

亜里沙「はい・・・ダメみたいです。」

穂乃果「希ちゃん・・・どうして・・・。」

思えばμ'sが結成されてから希は影から何度も支えてくれた。

μ'sの名前を付けてくれたのも希だ。

メンバーにとっては一番お姉さん的なポジションだった。

嘘みたいだった。

その希はもう・・・死んだのだ・・・。

亜里沙「・・・?」

希の死体を見ながら、亜里沙は不思議に思う。


ことりの死体やその周りはスプラッタ映画のような有様だったが

希の死体やその周りはなんというか・・・ただ死体だけそこに持ってきたというか・・・。

亜里沙はさらに近づく。

希の死体をさらに観察し、脈を計る。

脈は確かになかった。が、

亜里沙「これは・・・おかしい・・・。」

絵里「こら!!いつまでも見ないの!!ほら!!」

絵里が亜里沙を引っ張り入口まで連れて行く。

真姫「何で・・・?どうして・・・希がここに・・・。」

にこ「・・・・・・。」

真姫の呟きを、にこだけが聞いていた。

雪穂「あれ・・・これは・・・。」

今度は雪穂が希の部屋の机に鍵があったのを見つける。

凛がそれを拾い、真姫に渡した。

真姫「え、えっと・・・希の部屋の・・・鍵だわ。」

メンバーは沈黙する。

正直言って、もう部屋を回りたくはなかった。

二つの扉を開いたら、二人死体が出てきたのだ。

行方の分からないメンバーは後一人。

その人がもしそこにいたら・・・、そして二人と同じ様になっているとしたら・・・。

穂乃果「行こう・・・。
無事を・・・確認しないと・・・。」

結局メンバーは鈍い足取りで希の部屋に向かった。

部屋を開ける。

ギイイイイイイイ

穂乃果「海未ちゃん!!あっあっ・・・。」

花陽と亜里沙はその声を聞いて、半ば諦めた様に部屋に入る。

海未が倒れていた。
海未にはどこにも外傷は見当たらなかったが、口から泡を吹いている。

毒を飲まされたのだろうか?

花陽「海未ちゃん・・・。」

真姫「もう何がなんだかわからない・・・。どういうこと?何で?どうして?」

雪穂「海未さん・・・。」

亜里沙「・・・。」

亜里沙は念のため脈をとってみた。

反応は無いが、体はまだ温かい。

海未が死んでから、あまり時間は経っていないようだ。

にこ「ちょっと亜里沙!?ダメでしょ!」

亜里沙「スイマセン、少し気になって・・・。」

亜里沙「・・・。」

にこ「また鍵が置いてあったわ。
多分ことりの部屋の鍵よね・・・?」

真姫「えぇ・・・。そうね。」

開いていない扉は後一つ、ことりの部屋だ。

しかしこれでメンバーは全員見つかった。

一体ことりの部屋には何が・・・?

メンバーはそれを確かめるために部屋を出た。

花陽「ん・・・?あれは・・・?」

花陽は部屋に何かコロコロと転がる物を見つけた。

花陽「あれは・・・。何でここに・・・?」

凛「かよちんいくにゃ~。」

凛が急かしたので花陽はひとまずそれを忘れる事にした。

メンバーはことりの部屋に行き、鍵を使って扉を開ける。

そこには死体は無かったが、リビングの鍵と手紙が置いてあった。

手紙に以下の内容が。

『悔い改めろ。この犯罪者。金を払えば済むと思うな。』

絵里「どういう事なの・・・?」

真姫「あっあっ・・・。」

にこ「真姫ちゃん・・?」

最悪の朝だった。

昨日まで楽しかったはずなのに・・・朝起きたら三人は死んでいた。もう会う機会は・・・二度とない・・・。

12:00 3F リビング

にこ「警察はどうだった?絵里・・・?」

絵里「とりあえずどこか安全な場所に、皆でいるように言われたわ。
しばらくはここで籠城ね。 」

穂乃果「しばらく・・・って・・・いつまでなの?」

穂乃果が呟く。

雪穂「えっ・・・?」

絵里「・・・今は風と雨が激しくて船もヘリも使えないそうよ・・・。
天気予報では明日の昼ごろには止むって言っていたけど・・・。」

穂乃果「明日!?明日まで私達はここにいなければいけないんだよ!?ことりちゃんと海未ちゃんと希ちゃんを殺した犯人と一緒に!!」

雪穂「お姉ちゃん・・・。」

穂乃果「私、絶対許したくない!!犯人を!!」

亜里沙「・・・・。」

警察は明日までやってこない。

自分の身は自分で守らなくてはいけない。

今この島は雨と風で隔離されている。

穂乃果たちが閉じ込められているように、犯人もそうなのだ。

穂乃果たちは昨夜この屋敷で寝泊まりし、朝起きたら三人もの人が死んでいた。

ということは穂乃果たちが寝ている間に犯人は殺人を犯したという事だ。

この別荘の戸締りは昨夜寝る前に確認したはず・・・。

にも関わらず別荘の中を殺人犯が出入りしていた・・・?

亜里沙(いや・・・十一人に見つからずに、痕跡を残さずに出入りするなんて、そんな事は不可能に近い・・・。)

亜里沙(私と雪穂はこの島に船に隠れて乗ってきた。
だから他の人にもできない事は無いのかもしれない。でも・・・。)

船は全員を下した後にすぐさま本島に帰ってしまった。

途中で下船して海から泳いできたのだろうか・・・?

亜里沙(いや、そんな手間をかけて殺されるほど私達に価値は無い。
それより可能性があるのは・・・。)

亜里沙(この中に犯人がいるって事になる・・・!)

亜里沙(でも誰が・・・。)

絵里たちはこの屋敷は広すぎて安全ではないと判断した。

殺人犯がもしこの屋敷に潜んでいるとしたらこの屋敷は危険地帯だ。

なので、一階と二階を捨てて、三階のリビングに鍵をかけて籠城する事にしたのだ。

穂乃果は改めて海未の遺体を一目見たいと言うが、にこの「警察が来るまでは、現場に入らない方が良い」という意見もあり、却下された。

そして現在に至る。

三階のリビングは他のリビングよりも広く、鍵は真姫が持っている。

つまり、籠城に向いているのだ。

中には犯人を探そうという意見も出たが、犯人を刺激しない事が一番だという結論に至った。

穂乃果たちはテレビを視たり、仮眠を取りながら、始まったばかりの一日に緊張と疲労の表情を見せるのだった。

花陽「あの・・・ちょっと良いですか?」

花陽が意見する。

凛「どうしたの?かよちん。」

花陽「あの・・・犯人はどうやってその・・・、殺したのかなって思って・・・。」

真姫「え・・・?それは・・・ことりちゃんは、刃物で・・・希は鈍器とか・・・。」

花陽「そうじゃなくて・・・、この三つの部屋には鍵がかかっていたんですよ?どうやって入ったんでしょうか・・・?」

雪穂「そういえば確かに・・・。」

犯行に使われた部屋は窓、扉、全て施錠されていた。

二階のリビングには海未の鍵、海未の部屋には希の鍵、希の部屋にはことりの鍵、ことりの部屋からは二階リビングの鍵がでてきた。

つまり、四つで一つの密室、という訳だ。

絵に書いてみると解りやすいが、これを何のトリックも無くやったら最後の部屋は外から鍵をかける事はできない。

この別荘の部屋の鍵は一個ずつしかない。

にも関わらずどうやって犯人は外に出たのだろうか?

亜里沙「扉を開くための鍵は隣の密室によって閉じ込められていましたよね・・・?」

花陽「そういう事です・・・。
一体犯人はどうやって犯行に及んだのでしょうか・・・?」

絵里「それは・・・。」

鍵自体は管理室にあり、鍵がかかっている訳でも無いので誰でも取れる。

鍵もどこの部屋の鍵か名前が書いてある。

外部犯でも鍵を手に入れて殺人を犯す事は可能だ。

もちろんこれは別荘に何の痕跡も残さずに進入した事を前提にした時の話だが・・・。

にこ「・・・トリックとかは別にして死んでいるのは確かよ。それにさっきから外部犯の犯行の様に皆言っているけどさ、

・・・私達の中に犯人はいないってどうして言える訳?」

「「「!?」」」

真姫「・・・!!!」

穂乃果「そんな!?私達の中にあんな事をしたやつがいるって言うの!?そんな人いるわけないよ!!」

凛「そうだよ!!私達仲間なんだよ!?」

にこ「私だってこんな事口にしたくないわよ!でもしょうがないでしょ!誰かが言わなくちゃいけないのよ!!

絵里「ちょっと待って、今仲間割れしてる場合じゃないわ!」

にこ「そう言って、あんたが犯人なんじゃないの!?昨日のアリバイは無いんでしょ!?」

絵里「はぁ?そういうにこはどうなのよ!?ある訳!?」

真姫「もうやめてぇ!!!!・・・はぁ・・・はぁ・・・。」

絵里「真姫・・・。」

にこ「真姫ちゃん・・・。」

真姫「今ここでそんな事・・・はぁ・・・はぁ・・・言って何になるの!?
急にそんな事言われてもアリバイなんてある訳ないじゃない!
外部犯の可能性もある!数分後には殺されるかもしれない!今私達がしなきゃいけない事は何!?こうやって仲間同士で疑いあって罵あう事なの!?違うでしょ!?」

穂乃果「・・・。」

にこ「・・・。」

真姫「今しなきゃいけないのは、警察が来るまで生きる事でしょ!違う!?」

絵里「そうね・・・その通りよ。
こんな時だからこそ一致団結しなきゃいけないのよね・・・。」

穂乃果「そう・・・だよね・・・ゴメン。私冷静じゃなかった。」

にこ「私こそゴメン。変な事言ったわ。」

真姫「そうよ・・・それでいいのよ・・・。」

そう言うと、真姫は苦しそうに蹲ってしまう。

にこ「真姫ちゃん大丈夫!?わっすごい熱!」

花陽「私、風邪薬あります!」

絵里「ありがと!それ飲んで休みなさい。」

真姫「そうさせてもらうわ・・・となりの部屋で休んでいるわね。」

絵里「となり・・・?真姫、危険じゃない?」

亜里沙「そうですよ!少し窮屈でも外は危険かもしれないんですよ!」

にこ「大丈夫よ。私も一緒に行くわ。」

雪穂「にこさん!?」

にこ「心配しないで。何かあれば大声を出すわ。電話もあるしね。」

穂乃果「そっか!じゃあ大丈夫だね。」

絵里「うーん・・・まぁ大丈夫かな・・・?」

真姫「別にいいわよ・・・風邪うつるわよ?にこちゃん。」

にこ「真姫ちゃんのなら大歓迎よ。さぁ、行くわよ?立ってるのもキツイんでしょ?」

真姫「ゴメン、にこちゃん・・・。」

絵里「隣部屋の鍵は下にあるのよ?本当に注意しなさいね?」

真姫「ハイハイ、行くわよ。」

にこ「じゃあ、少ししたらそっちの様子を見に行くわ。」

絵里「にこ、果物を持っていきなさい。
食べられる程元気が出たら真姫に食べさせてあげて。 」

絵里はそう言って、にこに果物の入っているバスケットを渡した。

にこ「わかったわ。」

真姫「花陽、薬ありがと。」

そう言って部屋から出て行った。

隣部屋

真姫「にこちゃん、本当にうつるから少ししたらあっちに行きなさいよ?」

にこは真姫が入るのを確認すると、ドアを閉めて施錠した。

にこ「うん、でもその前に真姫ちゃんに聞きたい事があるの。」

真姫「えっ?」

にこは果物を手でとり、皮を剥いてそれを食べる。

にこ「~っすっぱい。
ことりの死体を発見した時、私は確かに聞いたわ。
『どうしてことりが・・・?私はことりは殺してないのに・・・。』って。」

真姫「な、何を・・・。」

にこ「『ことりは』ってどういう事なのかしら・・・。詳しく聞かせてもらうわよ・・・?」

真姫「・・・。」

真姫「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

13:30 3F リビング

真姫たちが隣部屋に移ってから、穂乃果たちは緊張感も疲労により薄れてきた。

絵里「それにしても何もしないっていうのも結構疲れるのね・・・」

雪穂「そうですねー、何よりお腹すきましたよ。」

絵里達はまだ何も食べていない。

最初は緊張感と悲壮感で何も考えられなかったが、 こうして時間が経つにつれ、人間の三大欲求が頭をもげてきたようだ。

皆、まだ立ち直ってはいないが心の整理を始める準備ができたくらいには回復したらしい。

亜里沙「確かにお腹が減りましたね・・・でも食糧は一階ですよ?」

絵里「そうなのよねー、どうしましょ?」

食糧は1Fのリビングに大量に置いてある。

それは明日まで八人が暮らすには十分な量だった。

3Fのリビングには小さいキッチンがあり、ちょっとした物なら作る事ができる。

亜里沙「私は反対です。別に明日まで何も食べなくても死にはしません。水もありますし我慢するべきです。」

にこ「私は賛成よ。」

穂乃果「にこちゃん!?真姫ちゃんは大丈夫なの!?」

にこ「今ようやく薬が効いてきて眠っているわ。
それよりも食糧はやっぱり欲しいわね。
さっき持って行った果物があるにはあるけど、全員分は無いし、今日は長丁場になるわ。
あった方が良い。」

花陽「私も賛成です。これから何があるかわかりません。
それに、天気も良くないです。これ以上時間をおけばどんどん暗くなって危険です。」

凛「そうにゃ~今が一番安全にゃ!」

亜里沙「でも・・・」

にこ「それに、真姫ちゃんにも力がつく物を食べさせてあげたいしね。」

穂乃果「にこちゃん・・・そこまで真姫ちゃんの事を・・・。」

絵里「でも誰が行くの?」

穂乃果「穂乃果が・・・。」

凛「いや、ここは運動神経の良い私とそのパートナーのかよちんでいくにゃ!」

花陽「はい。任せてください。」

絵里「二人だけで大丈夫?」

凛「大丈夫だにゃ。ついでにとなりの部屋の鍵も取ってくるから待っててよ。」

亜里沙「でも・・・。」

花陽「大丈夫です、十分注意はします。
皆、考えてみて下さい。
これをたった一度だけ成功させたら、もう二度と私達はここをでなくて良いんです。」

絵里「・・・本当に行くの?・・・でも確かにそうね。
もし行くのならば、日の出ている今しか無いわ。」

花陽「それに真姫ちゃんは体調が悪いでしょ?空腹には出来ないよ・・・。」

絵里「わかったわ、十分に気を付けるのよ。」

凛「了解にゃ。
んじゃ、行ってくるにゃ~。」

バタン。凛と花陽はリュックサックを持って外に出てった。

にこ「じゃ、にこはまた真姫ちゃんの様子でも見ていようかしらね、じゃ。」

そう言って、にこも部屋から出て行った。

亜里沙「大丈夫なのでしょうか・・・?本当に・・・。」

14:00 3F リビング

凛と花陽が出て行って、三十分が経とうとしていた。

亜里沙「・・・。」

穂乃果と雪穂はテレビを見てはいるが、心はここにあらずと言った感じで、

絵里はコーヒーを飲みながら本を読んでいた。

あれから皆はトイレに行ったり、外の空気を吸いに少しだけ外に出ている。

それは五分だったり、十分だったり、まちまちだ。

亜里沙「・・・・・・。」

亜里沙(何かがおかしい・・・)

亜里沙はやる事も無いので今までの事件を思い出していた。

亜里沙(さっきからずっと感じているこの違和感、なんだろう・・・さっきの食糧の時もそうだ。)

亜里沙(確かに食糧はほしい・・・。
ほしいけど・・・まだ三人が襲われてから数時間も経過してないのに・・・、なのに凛さん達はリビングを出た。)

さすがに不用心だ。

なぜ彼女らは率先して食糧を取りに行ったのだろうか・・・?

亜里沙「あの!お二人は遅くないですか!?」

いくらなんでもそろそろ戻ってきてもいい頃だ。

絵里「そういえばそうね・・・、少し遅いわ・・・?」

その時扉を叩く音がする。

絵里が鍵を開けて扉を開けると、そこには真姫がいて、泣きそうになりながら、息を切らしていた。

真姫「ねぇ!にこちゃんそっち来ている!?」

真姫はまだ本調子ではないのか、息苦しそうだ。

絵里「にこ?にこなら真姫の所にさっき戻ったけど・・・戻っていないの?」

真姫「戻ってないわよ!ねぇ、にこちゃんはどこ!?にこちゃんは!?」

真姫は明らかに冷静さを失っていた。

先ほど啖呵を切った勇ましい真姫はどこに行ってしまったのか。

絵里「お、落ち着きなさいよ、真姫。トイレでも行ったんじゃないの?」

真姫「トイレにしては長すぎるわよ!」

真姫が言うには今から十二時三十分前に真姫が眠ってしまうまでは傍にいたのだと言う。

しかし一時三十分頃に起きてみると真姫がいない。

最初はトイレかと思ったが三十分経っても戻ってこない。

それでリビングへと様子を見に来た訳だ。

・・・しかしリビングには、にこの姿はない。

絵里たちがにこを見た最後の記憶。

それは、真姫の部屋に戻ると言ってこの部屋から出て行った、時間にすれば

一時三十分頃だ・・・。

しかし、その時間、真姫は起きていて、でも、にこをまだ見てはいなくて・・・。

亜里沙「・・・・・・・・・。」

亜里沙は自分の頭の中のサイレンが鳴るのを感じた。

真姫「ちょっと・・・どういう事・・・?そういえば何で花陽と凛もいないの!?トイレなの!?」

真姫が絵里につめよる。

絵里「お、落ち着きなさいよ、真姫。凛と花陽は食糧を取りに一階に向かったわ。」

真姫「一階に!?な、なんで!?一日くらい食べなくても死にはしないでしょ!?」

絵里「・・・皆で話し合って決めた事よ。今それを話してもしょうがないわ。」

真姫「それって何時頃なの!?」

亜里沙「今から三十分くらい前です・・・。」

真姫「三十分!?なんで三十分なのよ!?十分で帰って来れるじゃない!?
それであんた達は何でここでぼんやりとしているの!!?何かあったらどうするの!?」

穂乃果「真姫ちゃん落ち着いて・・・。」

真姫「落ち着ける訳ないでしょ!?早く向かわないと!!」

雪穂「でも今行ったら二次被害の可能性が・・・。」

亜里沙「いや、行くことに賛成だよ雪穂、確かめに行った方が良い。」

絵里「・・・そうね。荷物が大きくて手間取っているだけかもしれないし・・・。」

真姫「あなたたちが行かないなら私一人でも行くわ!」

真姫は近くにあったフライパンを構えて外に出る。

だいぶ興奮しているようだ。

もはやだれが引き止めても無駄だろう。

絵里「わかったわ、ただし全員で行きましょう!今ここで別れたら犯人の思うツボかもしれないわ!」

真姫は絵里の言葉を聞く前にすでに外に出ていた。

亜里沙たちは急いで真姫を追いかける。

そして真姫が二階に到着すると同時に悲鳴を上げて走っていく。

それを見て亜里沙は状況を見なくても大体の事が分かってしまった。

二階 通路 

真姫「にこちゃん!?花陽!?凛!?うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

絵里「まさか・・・。」

・・・メンバーは二階の通路で寄り添う様に死んでいるにこと花陽、希の部屋で同じく死んでいる凛を発見した。

花陽は撲殺。凛とにこは腹を刺されての刺殺と亜里沙は判断した。

真姫「にこちゃああああああああんんんんんんんん!!にこちゃあああああああんん!なんで!?どうして!!ううううう!!!」

真姫は護身用に持ってきたフライパンを投げ捨ててわんわんと泣いた。

穂乃果「凛ちゃんと花陽ちゃんまで・・・やだよぉ・・・こんなの・・・あんまりだよぉ・・・!」

絵里「そんな・・・こんなことって・・・。」

・・・ことり達の時と違い、顔が損壊していないから幸いとか、言える訳もない。

雪穂「・・・。」

真姫「私のせいだわ・・・私の・・・。」

亜里沙「・・・凛さん・・・花陽さん・・・にこさん・・・。」

絵里「もっと早く来ていればこんな事には・・・。」

二階はひどい有様だった。

血が飛び交っていて、お化け屋敷か何かを思わず想像してしまいそうだ。

そして現場には無くてはならない物が無かった。

亜里沙「海未さんの死体がありませんね・・・。」

雪穂「え!?あっ本当だ!!」

希の部屋には、海未の死体があったはず。

しかし、海未の代わりに凛の死体・・・。

代わりに手紙が置いてあった。

内容はこうだ。

『お前には死体すらも残してあげない、悔い改めろ。』

穂乃果「どういうことだろう・・・?」

真姫「そ、そんな・・・。」

絵里「でも・・・どうして花陽たちはこの部屋まで来たのかしら・・・?」

雪穂「どういう事ですか・・・?」

絵里「食糧は一階にあるのよ?バッグも膨らんでいないから、恐らく一階には行かずに、二階のこの部屋まで直接来たんでしょう。
何故なのかしら?」

雪穂「二階で犯人に襲われたからじゃないんですか?」

亜里沙「この別荘の階段は全部同じ位置にあるんだよ、雪穂。
階段を上がればすぐ次の階に上がる階段があるって事ね。
もし階段から降りた途中で襲われたなら三階に上がって助けを呼びに行くはずだし、
一階で襲われたなら一階に死体があるか、二階まで上がって来れたなら、そのまま三階に行けばいいだけ。各階に上がる階段は一つしかない。
つまり食糧を凛さんたちが補給する理由で外に出たのなら、
いかなる理由があってもこの通路、この部屋に立ち寄る理由は無いって事だよ。」

穂乃果「言われてみれば確かにそうかも・・・。
じゃあ凛ちゃん達は食糧を補給する目的で外に出た訳じゃないって事?」

亜里沙「もしくは・・・その・・・あまり言いたくはないのですが・・・。」

亜里沙は口を濁す。

これを言ったらまた荒れると思ったからだ。

そしてそれは犯人の思うツボになるのではないだろうか?

雪穂「何!?言ってよ亜里沙!もう一刻の猶予もないかもなんだよ!?」

穂乃果「言って亜里沙ちゃん!!」

亜里沙「・・・さっき立ち寄る理由がないと言ったのは、犯人が一人の時と仮定した時の話です。もし犯人が複数いるのなら、例えば一人が追いかけてもう一人が

三階に続く階段で挟み撃ちをする。
階段は一つしかありません。
そうすれば彼女らはこの通路を通るしかなくなる・・・。」

穂乃果「あっ・・・。」

穂乃果は怖気を感じた。この別荘には人を殺した、またはそれに協力した者が二人以上いるかもしれないのだ。

思えば最初の事件に際しても、いくら夜中とはいえ一人で三人も殺すのはさすがに手間だ。複数いると思った方が良いだろう。

亜里沙「どちらにしろ、今まで以上に警戒しないと・・・ん?」

亜里沙は花陽が何かを握っているのを見つけた。

亜里沙は指紋を付け無いように気を付けながらそれをハンカチで取る。

絵里「・・・え?これは・・・。」

それは、赤でちょいとセンスのある刺繍がしてあるハンカチだった。

見るからに高そうだ。

このハンカチに、メンバーは見覚えがある。

このハンカチは・・・、

真姫以外の視線が一致する。

全て真姫に向いていた。

このハンカチは・・・真姫のハンカチだった。

穂乃果「真姫ちゃん・・・これ・・・どういう事?」

真姫「はっ?し、知らないわよ!何でそのハンカチがここに・・・?この別荘で無くしたと思っていたんだけど・・・。」

真姫は戸惑いを隠せない様だ。

穂乃果「とぼけないでよ。」

穂乃果の顔は付き合いの長いメンバーでも初めて見る顔だった。

その顔はひどく冷めてはいるが、視線は一直線に真姫を刺していた。

穂乃果「なんでここに真姫ちゃんのハンカチがあるの?そして何でそれを花陽ちゃんが握っているの?」


真姫「知らないわよ。そんな事・・・。」

穂乃果「穂乃果気づいちゃったよ。それは、真姫ちゃんが犯人だからだよね!!!!」

真姫「は、はぁ?違うわよ!!何で花陽が私のハンカチを握りしめて死んでいるのか知らないけど、私は何もやっていないわよ!!!」

穂乃果「真姫ちゃん質問するね。
真姫ちゃんは、にこちゃんが出て行ってから何処で何をしていたの?」

真姫「隣部屋で寝た後、果物を食べていたわよ。」

穂乃果「嘘だ!!!これは花陽ちゃんが残したダイイングメッセージだ!!!思えばにこちゃんだって真姫ちゃんと一緒にいたよね!!!おかしいよね!!」

真姫「にこちゃんについては私が聞きたいわよ!!何でにこちゃんは私の部屋に戻ってこなかったの!?あなた達の誰かがやったんじゃないの!?」

雪穂「二人とも落ち着いてください!!」

絵里「そうよ!ここで争っても意味は無いわ!!」

穂乃果「真姫ちゃんが犯人だ!!!早く白状してよこの人殺し!!!よくもことりちゃんと海未ちゃんを・・・!!」

真姫「違う!!私はハメられたのよ!!そもそもこの二人もおかしいと思わない!?襲われた後なのに食糧を取りに行くように提案したんでしょ!?
何かあるんじゃないの!?犯人と今後について相談しに行ったとか、何かトリックを仕掛けたとか!」

穂乃果「二人は風邪気味の真姫ちゃんの事を思って食糧を取りに行こうって提案してくれたんだよ!何かお腹に入る物がないと薬も飲めないって!」

真姫「知らないわよそんな事!!!あの二人も犯人なんじゃないの!?」

穂乃果「きっとこうだ!真姫ちゃんはある理由から私達を皆殺しにしようと企んでいたんだ!私達が来る少し前に、真姫ちゃんが予め雇った人を別荘に呼んで隠れさせる!
ここは真姫ちゃんの島だもん!もしかしたら私達が知らない隠し部屋とかあるんじゃないの!?」

真姫「何アホな事言ってんのよ!?そんな事で犯人にされたらたまったもんじゃないわよ!!!」

穂乃果「うるさい!!ことりちゃんと海未ちゃんを返せ!!!返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

二人は取っ組み合いを始めた。

雪穂と絵里が必死に止める中、亜里沙はそれを茫然と見ていた。

もう訳が解らなかった。

何でここに真姫のハンカチがあるのか・・・?

凛たちは本当に食糧を取りに行ったのか・・・?

何故にこはここで死んでいるのか・・・?

最初の密室についても亜里沙はまだ何もわかっていない。

一体犯人はどうやって扉が閉まったまま部屋から出て行ったのか。

犯人は複数か、単数か。犯人はこの中にいるのか。

犯人の狙いは?動機は?手紙の意味は?私達は明日まで生き残れるのか?

分からない事だらけだった。

・・・親友を失った悲しみを押し付けあう真姫と穂乃果。

止めている雪穂と絵里。

そして半ば茫然としている亜里沙。

今日の朝までは楽しかった旅行なのに・・・どうしてこうなってしまったのだろうか・・・?

亜里沙「ん・・・?」

花陽がハンカチを持っていた手に何かが付着しているのが見えた。

亜里沙「赤・・・?いや、ピンク・・・?」

何やら塗料の様だ。

でも薄すぎる。

塗り立ての何かに触った感じじゃない。

まるで塗料が塗られていた物を強く握った時に付いたような・・・。

穂乃果「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!うわあああ!!」

突然の悲鳴に亜里沙の意識は覚醒した。

穂乃果は両手で目を覆いながら床にうずくまっていた。

それを、何をあったのか分からないと言わんばかりに雪穂と絵里、そして手から血を流した真姫が茫然としながら見下ろしている・・・。

絵里「だ、大丈夫!?穂乃果!?穂乃果!?」

雪穂「お姉ちゃん!?」

穂乃果「うわあああああああああああああぁぁぁイタイイタイいたいいたいイタイイタイいたいよォ・・・!!!

イタイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!うわあああああああああああああ!!!!!」

真姫「わ、私じゃない!!私じゃないわよ!!!穂乃果が急に突っ込んできて、私はただそれを止めようとして、つ、突き飛ばそうと・・・!

亜里沙「ちょっと・・・!!何があったんですか!?」

真姫と穂乃果が取っ組み合いになって、その時真姫の手が偶然穂乃果の目にあたり、

何かの拍子に爪でそのままえぐってしまったということなのか・・・?

よく分からないが穂乃果はイタイイタイと叫びながら床にうずくまっている。

絵里「おちついて穂乃果!!とりあえず消毒しましょう!!」

穂乃果「うウウウウう・・・!見えない!!何も見えない!!!」

雪穂「お姉ちゃん!!傷に響くからしゃべらないで!!」

穂乃果「くっそおおおおおおおおおお!!!!ことりちゃんと海未ちゃんの敵ぃ!!!!!!殺してやる!!!殺してやるうううう!」

真姫「私じゃ・・・私じゃないわよ!!!・・・ひっひっひ・・・私・・・私じゃない・・・。」

穂乃果は発狂しながらことりの、海未の敵と罵っている。

真姫は過失とはいえ、怪我を負わせてしまった事に動揺している様子だった。

真姫「・・・私じゃない私のせいじゃない穂乃果が私を乱暴したから悪いのよそうよ私のせいじゃない私じゃない・・・。」

真姫「それよりにこちゃんは誰が殺したのよ!?私を慰めてくれたにこちゃんを誰が殺したの?誰なのよ!?にこちゃ・・・にこちゃあああん!」

亜里沙「ちょ、待ってください真姫さん!!一人じゃ危険です!!!!」

真姫は自分の過失の罪に耐え切れなくなったのか、それとも混乱と怒りに身を任せたのか、

とにかく発狂しながら廊下を駆け出して行った。

亜里沙「お姉ちゃん、雪穂、穂乃果さんをよろしく!!!私は真姫さんを追いかける!!」

絵里「あ、ちょっと亜里沙!!」

穂乃果の容体も気になるが、今は真姫を追いかける事が先だ。

この状況で、真姫を一人にしたら次の標的にしてくれと言っている様な物である。

絵里たちは穂乃果を連れてリビングへ。

亜里沙は真姫を追った。

15:00 三階 リビング

絵里「穂乃果、目を擦ってはだめよ!!今応急手当をするからね!!」

絵里は洗面台に行き、タオルを水で濡らして穂乃果の目にあてる。

絵里「そのまま持っていて!」

そしてそのまま穂乃果の目に巻きつけた。

雪穂「お姉ちゃん大丈夫でしょうか・・・?」

絵里「わからないわ・・・でも今はこうする事しか・・・。」

もしかしたら角膜を傷つけたかもしれない。

失明の危険もあるし医者に見せる必要があるだろう。

絵里「傷が痛むかもだけど触っちゃだめよ。明日になったらすぐに眼科に行きましょう。」

穂乃果「・・・が・・・したんだ・・・。」

絵里「え?」

穂乃果「あいつが殺したんだよ!!!今もスキあれば殺す気だったんだ!!!絶対に真姫ちゃんが犯人だ!!間違いない!!」

絵里「違うわ!あれは事故よ!!真姫はそんな事しないわ!!」

穂乃果「事故じゃない!!あいつがメンバーを殺したんだ!よくも・・・よくも・・・。」

絵里「もしそうなら警察が調べればすぐにわかるわ!今の警察はすごいわよ。すぐに事件を解決させてくれるわよ。」

雪穂「そうだよお姉ちゃん。私達は誰かを疑う必要はないの。全部警察が解決してくれるよ。」

絵里「だから今は治療に専念しましょ・・・?私達もここにいるから。」

穂乃果「・・・分かったよ。」

穂乃果は怒りを隠せない様だったが、喋れば喋る程目を圧迫させて傷が痛む事に気づき、
二人の意見に従う事にした。

絵里「さて・・・今度は亜里沙と真姫が心配ね。
携帯は回線悪いから繋がりにくいだろうし、どうした物かしら。」

雪穂「うーん・・・どうしましょうか?」

絵里は亜里沙たちが戻ってくるか様子を見るために廊下に顔を出した。

絵里「・・・ん?っひっ!!!」

絵里は、目の前の光景を信じる事は出来なかった。

その人物の服はもちろん、XXな髪も今では赤黒く染まり、

その人物の持っているナイフからは、ハチミツの様にトロトロ、ネバネバとした、新鮮な血液が、まるで涎を垂らすように地面を赤く染めていた。

絵里「っ・・・!!」

絵里は最初、その人物が誰か分からなかった。

??「XXXXXXXXX?XXX、XXXXXXXXXXXXX,XX」

絵里「な、何を言って・・・。」

??「ククク・・・。」

絵里「や、やめてこないで!!こなっ・・・・。」

プシャアア・・・。

ドサッ!!

雪穂「絵里さん?どうしたんですか?」

雪穂はその時部屋にいて、穂乃果の容体を視ていた。

だから、絵里が外に出た時も、何かが飛び散り、何かが倒れた音がした時も特に気にしなかった。

雪穂「絵里・・・さん・・・?」

ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ

そして、扉が開く。

雪穂「・・・あ、あなたは・・・ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!」

そいつは返り血を全身に浴びていた。

そして両手にそれぞれある物を持っていた。片方は・・・絵里。

絵里は首から血を流して絶命していた。

クオーター特有の青い目玉がギロンと上を向いている。

もう片方はナイフだった。刃は真っ赤だった。一体その刃を何人の体に刺したのか。

穂乃果「何!?絵里ちゃん!?雪穂!?何がどうなってるの!?」

目を負傷している穂乃果には何も見えない。

声でしか状況がわからない。

ただ雪穂が悲鳴の聞くしかない!
??「XX、XXX、XXXXXXXXX、XXX、XXXXXXXXXXXXXXX?」

雪穂「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!
止めて!お願いやめてください!まだ死にたくない!!お願いします!見逃してください!!い、いやああああああああああ!!!」

穂乃果「雪穂!?どうしたの雪穂!!!!」

穂乃果は座って呼びかけるしかない。

声を聞く限りでは雪穂が何者かと対峙しているように聞こえる。

そして怯えている。

雪穂に今生命の危機が迫っている事は間違いなかった。

穂乃果「やめて!!雪穂に手を出さないで!!!お願い!!」

その穂乃果の言葉を聞いてか、その者の足音が穂乃果に聞こえてくる。

穂乃果に向かっているのだ。

さっきまで殺してやると連呼していた穂乃果。

しかし今その標的が目の前にいるのにも関わらず、

自分は目が見えないせいで、 戦う事はおろか逃げる事すらできない。

穂乃果は自分が今、まな板の上の鯉である事を自覚して恐怖した・・・。

カツカツカツ・・・

そして穂乃果の元に近づいた時、耳元で、

??「フフフ・・・クッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッ!!!アハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハ!!!!」

穂乃果「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」

穂乃果は恐怖でか細い悲鳴しか出なくなる。

それからすぐにその者はまた穂乃果から離れる。

本当は助けを大声で呼ぶのが正解だった。

しかしできなかった。

人は心のそこから恐怖した時、声が出なくなってしまうのだ・・・。

雪穂「いや・・・っ!こないでっ・・・やめて死にたくないやめて!!!!!」

??「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フフフ。」

雪穂「いやああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

ザシュザクグシャギュイグパアアアグシャグシャザシュザシュザシュグシャ!!!!

・・・まな板の上の鯉がその後どうなったかなど、言うまでも無いだろう。


15:20 2F リビング

亜里沙は真姫を見失っていた。

絵里たちがどこにいるのかもわからないので、それぞれの事件のあった部屋を見てみる事にした。

一人で歩き回るリスクはもちろん承知していた。

度重なる殺人で亜里沙の心はマヒしてしまったのかもしれない。

この島には、確かに昨日まで11人がいた。

しかし、二十四時間も経たないうちに、気づけば半分以上が殺されているのだ。

・・・もはや恐ろしいと言うより、訳が分からないという気持ちの方が強い。

警察は台風が止み次第、迎えに来てくれると言う。

昼のテレビでは、明日の九時には台風が止むと言っていた。

だが、仮に台風が止んで、迎えに来てくれるとしても、まだ十二時間以上もある。

そもそも今日の二十四時を迎えられるかどうかすら怪しいと言うのに・・・。

亜里沙は漠然と、生きてこの島からは出る事は出来ないと、悟りの様な物を開いていた。

ならせめてこの事件の真実が知りたいのだ。

まずはこの二階のリビング。

ことりが倒れていた、最初に死体を発見した部屋だ。思えばこの時から悪夢が始まったのだ。

亜里沙「うわ・・・っ相変わらずひどいね。」

改めて見るまでもなくひどい。

そういえば・・・最初に見つけた三人の死体の中でことりの死体は一番損壊が激しかった。

希や海未は、ことりの死体の様に、死体に特に手を加えてはいなかったと思う。

亜里沙「もしかして・・・メンバーの一人一人に対して恨みは違うのかも。」
この事件を何故犯人が犯したのかを考えると、メンバー全員に対する復讐と考えるのが妥当だと考えていた。

しかし、ことりの死体だけは明らかに他とは違う、犯人の明確な意志、殺意を感じる。

亜里沙「メンバー同士でのケンカとかは最近無かった様に思えるんだけど・・・。」

次に亜里沙は海未の部屋に向かった。

希が倒れていた場所だ。

亜里沙は一つ、気になる事があった。

亜里沙「やっぱりそうだ・・・。」

亜里沙が注目したのは希についていた血だった。

最初に現場で見たときも不思議に思っていた。

亜里沙「血が飛んでなさすぎる・・・。」

もし希がここで殺されたのなら多少は床なり机なりに血が付くはずだ。

だが、この部屋に希の血は全くと言っていい程、付着していなかった。

近くで視なければ死んでいるか分からないほどだ。

亜里沙「それに・・・希さんだけ明らかに死後硬直が早い・・・。」

死後硬直は一から四時間ほどで顎から始まり八時間程で四肢の関節が硬直する。

先ほどことりは四肢の関節が硬直していたのに対して

この希の死体は足指まで硬直している。

足指の硬直は十~十五時間。

つまり希は誰よりも早く殺された事になる。

亜里沙「どういう事なんだろ・・・。」

亜里沙「共犯者が殺したのかな・・・?」

様々な状況から共犯者がいるのは明らかだった。

しかしそうなると何処で殺したのか?という話になる。

亜里沙達はもう何度もこの屋敷中を出入りしている。

なのに誰一人、血痕が付いていたりだとか、荒らされた部屋を見つけてはいない。

・・・そもそも何で希と海未は他人の部屋で死んでいたのだろうか?

次に二階の通路に向かった。

ここは花陽とにこが死んでいた場所だ。

・・・何回も考えたことだが、何故二人は食糧を取りに行かずに二階の部屋に直接行ったのか。
先ほど一階に立ち寄ったが食糧のあるバッグは触られた形跡すらなかった。

やはり二階に降りた時、挟み撃ちにあって襲われたのだろう。

・・・しかしそうなるとおかしなことがある。

この屋敷は三階建てだ。

彼女らが一階に下りずに挟み撃ちを食らったのだとしたら、

三階の階段と一階の階段から挟み撃ちをしなくてはならない。

もし犯人が外部の者ならば、三階の廊下で私達に気付かれずに隠れて、それから

いつ外にでるかもわからない花陽と凛に気付かれないように後をつけて、挟み撃ちをしたことになる。

そんな忍者みたいな事が可能なのだろうか?凛たちだって馬鹿じゃない。

相当警戒したはずだ。

そう考えるよりは・・・この中の誰かが犯人で、なんらかの方法で二人を海未の死んでいる部屋まで連れて行き殺すか、 二人は最初から海未の死んでいた部屋を目的地として向かい、そこで背後を取られて殺された。

そう考える方が筋は通っている気がした・・・。

次に希の部屋に向かった。

海未の死体は消え、代わりに凛の死体がある。

・・・凶器が違う事から、最低でも犯人は二人いる事になる。

だが、

亜里沙「そもそもなんでにこさんは廊下で死んでいるの・・・?」

にこは一体何をしていたのか。

そして何故死んでいるのだろうか・・・。

犯人は三人を後ろからこっそりついていき、にこと花陽を殺害。

それに気づいた凛が通路から希の部屋に逃げ込み、殺された。

これなら一応筋が通る。しかしこれは凛たちが海未の部屋に向かったと仮定しての話だ。

何故彼女らは海未の部屋に向かったのか?

これが解らないとこの謎は解明されないだろう・・・。

亜里沙「そして・・・海未さん・・・。」

亜里沙が憧れていた女性。

しかし殺されただけではなく、その死体を犯人に持って行かれた。

亜里沙がふと思ったのは海未も犯人の一人なのではないか?という事だ。

最初の事件では、二人を殺した後に海未がここで死んだふりをすれば密室は完成する。

が、海未の脈を計ったのは他でもない亜里沙だ。

確かに脈は無かった。

素人でも脈があるか無いかくらいは計れる。

亜里沙「海未さん・・・今どこに・・・」

希の殺害現場と同様に、海未の死体も見つかってはいない。

外に出れば捨てる場所などいくらでもありそうだが開けた形跡はない。

亜里沙「そういえば・・・海未さんだけ何で毒殺なんだろう・・・?」

ぱっと見た限り、着衣に乱れはなかった。

無理やり押さえつけられて毒の注射を打たれたとは考えにくい。

毒のカプセルを飲み物に混ぜられて飲まされたと考える方が妥当だろう。

しかし海未の死体は他の死体と比べてなんというか・・・きれいすぎた気がする。

武器を使えばそれを振るうだけでいいが毒殺はそれに比べて手間がかかる。

他のメンバーの殺され方を考えても海未の死は扱いが丁寧な気がした。

顔を半壊させられたことりと丁寧に殺された海未。その対比はとても気になる・・・。

死因を含めてこの二人の死は多くの謎に包まれるだろう。調べようにも海未の死体はどこにあるのか・・・。

全ての遺体を調べ終わった亜里沙は絵里たちを探した。

もしかしたらもう戻っているかもしれないと三階のリビングに行くと、

亜里沙「お姉ちゃん!?雪穂!?嘘でしょ!!?穂乃果さんも・・・嘘・・・いやああああああああああああ!!!!!!」

絵里、穂乃果、雪穂が死体となって・・・倒れていた。

そしてまた、顔がことりほどではないにしろ、ナイフでグシャグシャになっていた。

それは検死の経験がない亜里沙でも死亡を宣告できるものだった。

亜里沙は泣いた。

こんな事をするやつがこの世にいるのかと罵った。

ひとしきり泣いた後、やはり私も殺されるのだろうとどこか諦めた気持ちになった。

そして尚更この事件の謎を暴きたいと思った。

たとえ死ぬとしても。

改めて絵里たちを調べてみた。

机には包帯やガーゼ、はさみが置いてあった。

穂乃果の顔には包帯がかかっていたから治療中に襲われたのだろう。

部屋に乱れは無かったが、床は血だらけだった。

廊下から血が垂れていて、その先には絵里が倒れている。

どうやら最初に絵里は殺されたみたいだ。

鋭利な刃物で首を切られている。

次に雪穂。

その死に顔は亜里沙が一度も見た事が無い程、恐怖で顔が引きつっていた。

腹や腕を複数回刺されている。

亜里沙「ゴメン雪穂。そばにいてあげられなくて。」

亜里沙は雪穂の目を優しく閉じた。

次は穂乃果だ。

死因は・・・腹を裂かれての出血死。

だが穂乃果はそれはもう沢山の切り傷がある。

この事件の犯人はそうとう趣味が悪いと亜里沙は思った。

犯人が目の見えない穂乃果をいたぶりながら悲鳴を聞いて舌なめずりをする所が容易に想像できる。

そして亜里沙は穂乃果の死体を見つけた事で真姫と亜里沙以外の全ての人物が死んだことを確認した。

生きている者から死んだ者を引いたら犯人が解る。なんて残酷な計算式なんだろうか。

この事件の中でメンバーの中にアリバイを証明できる者は殆ど、いない。

最初の事件は夜中のうちに起こったし、凛たちの事件の時も皆、十分くらい席を立っている。

一人で三人を十分で殺すのは骨が折れるが共犯者がいればできそうだった。

アリバイが不明だからこそ、皮肉な事だが、死体がでれば出るほど・・・その者の潔白は証明されるのだ・・・。

最後に亜里沙は真姫が寝ていた部屋を調べてみることにした。

亜里沙「うーん。特に目新しい物は無いなぁ・・・。」

他の客間と変わらない。亜里沙は血痕でもついていればと思って来たのだが・・・。

亜里沙「ないか・・・ん?」

亜里沙が見つけたのはゴミ箱だった。

中には果物の皮一枚だけ。

にこが持ってきた果物を真姫が食べたのだろう。

亜里沙「これだけかー。あれ・・・でもこの果物って・・・。」

亜里沙「・・・。」

亜里沙「・・・あぁ・・・そっかぁ・・・。」

亜里沙は何かを諦めた様子で、

亜里沙「そういうことかぁ・・・。」

亜里沙は確信した。

亜里沙「犯人は真姫さんだ。」

亜里沙「真姫さん・・・。」

真姫はあっさり見つかった。

一階のホールの中央に立っていた。

その姿は血で塗れている。

亜里沙「犯人は・・・あなたですよね・・・?」

亜里沙「真姫さん。」

真姫は祖父の肖像画を見ながら、ため息をつく。

真姫「あなた・・・生きていたのね。」

亜里沙「おかげ様で生き永らえましたよ。
お礼なんて言いませんけどね。」

真姫「フフフ・・・で、何で私って思ったの?」

亜里沙「簡単な話ですよ。私とあなた以外全員死んでいるからです。」

真姫「あら、そんな事で私が犯人って決めつけるの?疑わしきは、・・・罰せよ、て訳?」

亜里沙「あなた一人が犯人だなんて言いませんよ。にこさんも犯人です。」

真姫「・・・にこちゃんは・・・殺されたじゃない。
それにさっきあなたは死んだ人=被害者なのだから犯人じゃないみたいな言い方をしたわよね?」

亜里沙「確かに。でもにこさんは怪しい所が多すぎます。
食糧を取りに行くかどうかの時も食糧を取り行く方に誘導していた様に見えました。

真姫「・・・。」

亜里沙「そもそも凛さん達は殺人の方法が違う事や状況から見て、最低でも二人以上に殺されたんだと思います。

凛さんたちが食糧を取りに行っている間、私達はトイレに行ったり外の空気を吸いに行ったりしてアリバイの無い時間があります。

でも、私達の中で二人同時にアリバイが無くなった人はいません。」

真姫「なるほどね。だから二人同時にアリバイのない私達が怪しいと。
でもそれならあなた達の中の一人と、にこちゃんが手を組んで、 犯行に及んだのかもしれないじゃない?私は関係ないんじゃないの?」

亜里沙「確かにそうかもしれません。
しかし、あなたが犯人の一人な事には変わりありません。」

真姫「何故?」

亜里沙「あなたこんな事を言ったのを覚えていますか?」



>真姫「え・・・?それは・・・ことりちゃんは刃物で・・・希は鈍器とか・・・。」




真姫「それが何よ?間違った事を言ったかしら?」

亜里沙「いえ、間違っていないから問題なんです。
真姫さん、どうして希さんが鈍器で殺されたと発言したんですか?」

真姫「い、いやそれは私達で現場に入ったt」

亜里沙「いいえ!!希さんはドアから見える位置で確かに倒れていましたが、血も全く飛び散っていませんでしたし近づかないと頭から血が流れているかも解りませんでした!!」

亜里沙「あの時、希さんが撲殺だと知っているのは、希さんに近づいた私と、私を連れ戻したお姉ちゃんだけです!!花陽さんなんて希さんが死んでいるのかも分からなかった!」

真姫「え、えと・・・。」

亜里沙「なのに!どうしてあなたが希さんの死因を知っているのですか!?おかしいですよね!?」

真姫「・・・・・・・・・・・・。」

亜里沙「それと、もう一つ。あなたは花陽さんが殺されて、穂乃果さんが真姫は何をしていたのかを訪ねた時にこう答えていました。」



>真姫「隣部屋で寝た後、果物を食べていたわよ。」




亜里沙「確かにゴミ箱には果物の皮が一個分ありました。でもあなたがそれを食べる訳ないんです。」

真姫「な、なんでよ・・・。」

亜里沙「その果物は・・・みかんです。

真姫「・・・っ!」

亜里沙「、あなたはみかんが自分のプロフィールに書くほど嫌いなんですよね?他にも果物は沢山ありました。なのに、 わざわざ病人が自分の嫌いな食べ物を食べるでしょうか?おかしいとおもいませんか?」

真姫「ちが、違うのッ・・・。」

亜里沙「つまりあなたが物を食べながら寝ていたという話は嘘だという事です。
残念ながらそれだけでは証拠にはなりませんがね。」

亜里沙「悔しいですが全ての殺人についての証拠が見つかりませんでした。
でも!少なくとも希さんを殺したのは!!あなたですよね!!!!」

真姫「ち・・・っ・・・・クククククククク。」

亜里沙「・・・。」

真姫「・・・クククククククックククク。」

真姫「アヒャヒャヒャッヒャヒャッヒャクコキクコクコクコカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカアカハハハハアアアハハアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

真姫は石碑に手を付きながらおおらかに笑った。

真姫「そうよ!!!!あなたの言う通り希を殺したのはこの私!!!警察でもないのによくも見抜いたわねぇ!!!!いやぁ!!!すごいすごい!!!あひゃひゃひゃ!!!」

亜里沙「言いたいことはそれだけですか・・・よくもお姉ちゃんを・・・皆を!!!!」

真姫「皆・・・?穂乃果たちも死んだの・・・?っふーん。」

亜里沙「っ・・・お姉ちゃんたちを殺したのはあなたじゃないんですか!?」

真姫「違うわよぉ・・・ッククククククククククウクククククカハハハハハハハハハハハハカハハハハハ!!!!」

真姫は手を目に当てて、

真姫「そうかぁ・・・こりゃあいっぱい食わされたわぁ・・・。
やっぱり私は利用されていただけかぁ・・・悔しいなぁ・・・クククッ!!」

亜里沙「利用されたって・・・、っそれよりあなたの仲間は、誰なんですか!?やっぱりにこさんですか!?」

それを聞いて真姫は笑いが止まらない様子だった。」

真姫「ハハハハハハハハ・・・・はぁはぁ、悔しいから死んでも教えてあげなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい。
はぁはぁ・・・でも、そうかぁにこちゃん・・・そうかぁ、っグッ!」

プシャアアア!!!

真姫は口から血を吐きだして、そのまま崩れ落ちた。

亜里沙が急いで駆け寄り、触診を始める。

亜里沙「真姫さん!?どうしたんですか!?真姫さん・・・?これは血!?出血している!お腹からだ!」

亜里沙が服を捲ると真姫の腹は刺し傷があった。

服についていた血は返り血だと思っていたが、真姫自信の血だったのだ!

傷は深い。

こんな傷を負っていて、よく今まで立っていられる物だと亜里沙は関心した。

真姫「はぁはぁ・・・。思えば・・・あの時から・・・おかしくなったのよね・・・私が黄金を発見した時から・・・私があの時、・・・さえしなければ・・・全て私が・・・悪いの・・?」

亜里沙「!?黄金・・・!?黄金ってあの碑文にあった黄金の事ですか!?」

碑文に出てきた黄金という文字。

真姫の言葉を聞くにそれを解き、黄金を発見したのだ。

真姫「はぁはぁ・・・ママぁ・・・お金・・・いっぱいできた・・・よ。ほめてよ・・・。ママぁ・・・にこちゃん・・・。」

亜里沙「待ってください!あなたを刺したのは誰ですか!?もうこの別荘には私達しかいないはずです!!!真姫さん!真姫さん!!!・・・あっ。」

真姫は最後に何かを呟いた後、絶命した。

腹を刺されての出血死。

言葉を聞くに悔いがないとはとても言えない。

よく分からないが真姫も戦っていたのだろう。

真姫は絵里たちが死んでいた事を知らなかった。

あれが演技だとは思えない、と言うことは別に犯人がいるということ。

つまり、何もまだ解決していない。

亜里沙「どういう事なの・・・?」

この別荘で、あり得ない事が起きている。

亜里沙は犯人は真姫だと思っていた。

しかし、真姫の様子や、真姫自信が襲われた事から、少なくとも、絵里、穂乃果、雪穂は殺していないのだろう。

じゃあ、絵里たちを、そして、真姫を殺した人物は誰なのか?

亜里沙「もう、何がなんだか分からない!検討もつかない!でも!!」

亜里沙は殺された雪穂の顔を思いだす。

あんな無体な事をした犯人を、許せる訳はない。

亜里沙「必ず犯人を・・・探し出してやる。」

亜里沙は立ち上がった。

亜里沙「犯人は私が必ず見つけてみせるから、皆。必ず。」

??「その必要は、もうないんじゃない?」

トンッ

その声と共に、亜里沙は後ろから、誰かに軽く押された気がした。

亜里沙「・・・おっと。」

石碑に手をつく。

亜里沙「・・・ん?」

背中を動かす事が出来ない。

背中に手を回すと手はぬるぬるとしていた。

それを見ると、

亜里沙「えっ・・・。」

その手は血まみれだった。

真姫の血じゃない。

これは自分の血。

ぐりゅ!!!

その時自分の中から何かが抜かれるような感触がした。

亜里沙「あっ・・・。」

痛みは無かった。

だが、亜里沙から体の力が抜け、立っていられなくなった。

ドスン!!

亜里沙は思わずその場に倒れてしまう。

指に、足に力が入らない。

顔を動かすと、紅く、濃い液体が地を這う様に広がっていた。

亜里沙「くっ・・・。」

それが自分の血だと亜里沙は気づく。

カランカラン

音がした方向を見ると血で染まったナイフが落ちていた。

その横には、誰かの足がある。

それを見て亜里沙は自分がそれで刺されたのだと初めて知った。

亜里沙「く・・・。」

亜里沙は手を動かして、その者の足を掴み、首だけでもと、何とか後ろを振り返る。

もう瞼が重くなってきていたが、その顔ははっきりと見えた。

血に染まった、笑顔で笑う殺人鬼の顔を。

亜里沙「・・・あなたが犯人だったんですか・・・!よ・・・くも・・・。」

??「XXX!XxXxxxxxxxx!!!!

XXxX!!XXxX!!!XXXXX!!!XXXXX!!!

XXXXXXXXXXXXXXXXXXX!!!!!!」

その者の悲鳴を最後に、亜里沙の意識が遠くなる。

その目が再び開く事は無かった。

嵐が過ぎ去った、次の日の朝、あれだけ島を包んでいた雨と風は去り、島には光が戻りました。連絡を受けた警察が島に到着すると、あたりはひどい有様でした。

死体はめちゃくちゃで、どれもこれも判別すら不可能な状態でした。

ただちに現場検証が行われましたが、殆どが『吹き飛んで』発見できませんでした。

ただ、その残酷さ故に、11人の生存は絶望的でした。

辛うじて発見できたのは顎の一部。それは絢瀬亜里沙と断定されました。

一つも判別できなかった死体もあるのですから、その部分は貴重になるでしょう。

世間ではこれを音野木坂スクールアイドル連続殺人事件と呼ばれ、世間を騒がせました。

状況証拠と遺体を調べる事は不可能ですから、今日でも原因は解っていません。

数日後、警察官が、ある一本のメッセージボトルを発見しました。

内容は一目見ると連続殺人事件と関係のある内容でした。

事件から数年後、その文書が掲示板に流出してしまいました。

その時の文書の最後には、こう書いてありました。

『私、絢瀬亜里沙は何者かに命を狙われています。

何故、誰に、命をねらわれているのかはわかりません。

ですが碑文を解いたその日から、私の日常は狂い始めました。

どうしてこんなことなったのか、私にはわかりません。

これをあなたが読んだなら、その時、私は死んでいるでしょう。

・・・死体があるか、ないかの違いはあるでしょうが。

これを読んだあなた。

どうか真相を暴いてください。

それだけが私の望みです。

絢瀬亜里沙』

魔法の欠片 欠片番号1934348538938593942個目

亜里沙「ここは・・・?」

亜里沙はゆっくり目を覚ました。

周りを見渡すと全部真っ黒。

そこに白、赤、黄色ときれいな色の欠片が周りを周回している。

亜里沙「きれい・・・。」

まるで宇宙の中にいるようだ。

黒い女「あら・・・目が覚めたのね?とりあえずはお疲れさまと言っておきましょうか。」

ピンクの女「よくもまぁ一週目でここまで行けたものよねぇ?この子、結構優秀じゃないの?」

黒い、何もない空間に二人の女が浮いていた。

一人は黒い服を着た、猫みたいな女。

もう一人はピンクの服を着た、お菓子を食べている女。

二人は正反対な性格をしているな・・・と亜里沙は思った。

黒い女「まだどういう状況か理解していないようね。」

ピンクの女「まぁしょうがないわよぉ!人間には理解ができないわよね~。」

二人の女は浮きながら何もない場所からお菓子や紅茶を魔法のようにポンポンと出している。

亜里沙はここがそういう空間なのだと認識した。

亜里沙「あの、私は死んだはずですよね・・・?あなた達が生き返らせてくれたの・・・?」

黒い女「話が早くて助かるわ。
あなた達の世界がチェス盤の中だとしたら、ここはそのプレイヤー達の世界と言うべきかしら。さしずめあなたは、キングに打たれたポーンって所?」

黒い女が指を振ると丸い球体が出てきた。

その中にミニチュアでできた建物がある。

これはよく見ると・・・。

亜里沙「真姫さんの別荘だ・・・、なるほどね。あなた達は私達より上界の人たちなのね。神様なの?」

ピンクの女「神ではないけど認識はそれであっているわ。

本来ならば死ぬ所を私達がチェス盤からつまんで救い出したのだから感謝してよね!」

亜里沙「それはありがとうございます。
で、何で私をここに?話を聞くとここに人を招かれるのは珍しい事の様に聞こえましたけど。」

黒い女「あなた・・・自分が何で殺されたのか知りたくはない?」

亜里沙「・・・。」

亜里沙は黙った。

黒い女「そしてあなた、誰に殺されたのか覚えてる?」

亜里沙「・・・覚えていないです、何故だろう。」

確かに私はナイフで刺されて顔を見た・・・事は覚えているが肝心の顔だけは覚えていない。

亜里沙「くっ・・・何故覚えていないの!?」

ピンクの女「死んだ直後の事は覚えていないものよ。」

黒い女「知りたくはないかしら?自分や仲間を殺した犯人を、そしてその理由を。」

亜里沙「知りたいです。」

亜里沙は即答した。

あの時の気持ちは今でも心に残っている。

後少しだったのだ。

後少し知識があれば・・・。

黒い女「そこで、もう一度、あなた達の合宿を、事件をやり直させてあげるわ。

もちろん今までとは犯人も殺人のトリックも違うし、一週目の記憶は消させてもらう。

でも真犯人は変わらない。」

亜里沙「その事件を解けば、真犯人が解る・・・と?」

ピンクの女「それはあなた次第よ。
でも全てを解けば明らかになるわ。
全てよ?それは殺人を犯した方法や犯人だけじゃないわ、もう一つ。」

亜里沙「あの碑文の事ですか。」

ピンクの女「イエス!一周目は真姫しか真面目に解いていなかったけど、あれこそ、おっと。口が滑ったわ。
まぁ全てを解けばだいじょぶだいじょぶ!」

亜里沙「解りました、じゃぁさっそく行きますか。
あなた達が運んでくれるの?」

何のためらいも、そこには無かった。

ただひたすら真実を追い求める。

今はそれしか頭になかった。

黒い女「あら、早いのね。人間がここに来るのは久しぶりなのに・・・。」

ピンク「せっかちなのは嫌いじゃないわ!じゃぁ飛ばすわよ!!」

亜里沙「一つだけ聞いていい?何で私にこんな機会をくれたの?」

ピンクの女「え、それはね~まぁ言ってもいいか~。」

黒い女「そうね。賭けをしているの。」

亜里沙「賭け?」

ピンクの女「そ!あなたが殺される前に事件を解くかどうか!あなたが死ねば私の勝ち!あなたが解けばその黒い女の勝ち!」

亜里沙「・・・・・・そうですか。」

亜里沙は出来る事なら唾を顔に吐き掛けたい気持ちに駆られた。

こいつらは人の生死をサイコロの出目の数か何かにしか捉えてない。

でも考えてみれば当たり前の話なのかもしれない。

亜里沙は小さいころに蟻を一体一体踏みつぶして遊んだのを思い出した。

こいつら上位の存在にとって、人は蟻みたいなものなんだ。

黒い女「クスクスクスクスクスクスクスクスクスクス。」

ピンクの女「アハハハハハハハハハハハハハハ!!アハハハハハハハハ!!」

亜里沙「そう。早く始めましょう。」

ピンクの女「あら、怒らないのね。」

亜里沙「機会をくれただけでも感謝しているわ。そこにどの様な思惑があっても私には関係ない。」

黒い女「それでこそ私がチップを賭けるのに相応しい女。期待しているわ。」

ピンクの女「じゃあいくわよ。行ってらっしゃい!あなたが殺された日、○月×日にね!!」

亜里沙の前が黒から赤くなり緑になり眩しくなる。

亜里沙は思わず目をそむけた。

その時、ある者の悲鳴が聞こえた。

??「XXXX!?XX、XXXのXXXX・・・XXXXXXXXXXX!?」

??「そ、そんな、XXXXXX!!もうXX・・・XXXXXX・・・いやあああああああああああ!!!」

その者の悲鳴はすぐに収まった。

そして、視界が黒く染まる。

それと同時に自分の記憶が解れていく糸の様に消えていくのを感じた。

亜里沙は忘れていく事を受け入れながら一つの決意を胸に秘める。

亜里沙(今度こそ、今度こそ犯人を見つけてやる!!)

黒の女「行ったわね。」

ピンクの女「ええ、行ったわ。」

黒い女「次こそ事件を解いてもらわないとね。
私はすでにチップを払ってここに座っているのよ。
これ以上レートを上げるのは勘弁よ。」

ピンクの女「ねぇ、ベルン。次も解けなかったらどうするの?」

黒い女「奇跡は二回も起きない。
こんなにお膳立てしているのに解けないクズなんて必要ないわ。
忘却の欠片にぶち込んで永遠に不幸な人生を歩ませてやるわよ、ラムダ。」

ピンクの女「うわぁ・・・ひどぉい。ま、こっちも?もし解かれたら?楽し~~~~いお仕置きが待っているんだけどね。」

黒い女「・・・あんたのお仕置き本気で洒落にならないから気をつけなさいよ。」

ピンクの女「ま、」

黒い女「どちらにしても、」

ピンクの女「次はそれで楽しめばいいわ。」

黒い女「クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス!!!!」

ピンクの女「アハハハハハハハハハハハハ!!!」

彼女たちは無限の年月を生き、退屈を敵とする魔女。

それから逃れるためならば、彼女たちは何にでも手を汚すし、誰であろうと躊躇いも無く犠牲に出来るだろう。

亜里沙は神様か、と問うた。

確かに神なのかもしれない。

神は神でも、悪魔という名の神なのかもしれないが。

   

                  「クスクスクスアハハハアハハハハクスクスクスクスクスアハハハハ!!!!!!!!」


<キャスト>

絢瀬亜里沙 綾瀬絵里

矢沢にこ  東条希

高坂穂乃果 園田海未

南ことり  西木野真姫

星空凛   小泉花陽

高坂雪穂  黒い女

ピンクの女 真姫母

弁護士   幹部の皆さん
             

 





終わり

これ意味わかんねえとかって所は書き込んでくれるとうれしいです。


続き→絢瀬亜里沙「犯人は・・・あなたです。」ver2

外伝→ 綺羅ツバサ「本当の犯人は・・・誰なの!?」綺羅ツバサ「本当の犯人は・・・誰なの!?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1427645652/)

忘れてた HTML化は明日するのでそれまでにここ変じゃね?って所あれば指摘よろです。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月01日 (水) 01:23:52   ID: UFd0tRqE

続きってどこで見れるんですか?

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