モバP「ウサミン星人のそつぎょうしき」 (70)


・関係あるSS

モバP「少女は星を望む」



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安部菜々『……あの、Pさん。その……驚かないで、聞いてほしいんです』




菜々『ナナは……アイドルを引退しようって、思うんです』





パラッ


P「やっぱり、どこも取り上げてるよな」


パラッパラッ


P「菜々……」



ガチャッ


千川ちひろ「お疲れ様です、プロデューサーさん」


P「……ああ、お疲れ様です、ちひろさん」


ちひろ「それで……どうですか?」


P「まだ全然です。俺自身、どうしていいのかさっぱりで」ハァ


ちひろ「ですよね……私もまだ、驚いてますから」


ちひろ「でも、どうしてアイドルを引退するなんて決めたんでしょう」


ちひろ「……何か、あったんでしょうか」


P「……まだ、分かりません」


P「でも、仕事で追い詰められていたとか、大きな失敗したとか」


P「思い詰めていた様には見えなかったんです」


ちひろ「そうですか……」


――――――――――――――――――――


P『引退って……冗談だよ、な?』


P『どうしたんだ、何かあったのか?』


菜々『……続けられなくなったから、ですかね』


P『続けられなく、なった……?』


菜々『その、地元に帰らなきゃいけなくって』


P『地元?』


菜々『はい……』



菜々『……ナナは、ウサミン星に帰らなきゃいけなくなったんです』



P『ウサミン星に……帰る……?』



P『……ウサミン星って千葉じゃなかったのか!?』


菜々『ち、千葉じゃないですよ!!?』


菜々『えー……コホン』


菜々『……本当は、もっとアイドルを続けていたかったんですけどね』


P『それって、どういうことなんだ』


菜々『帰ってこいって、言われたから』


菜々『……ごめんなさい、ナナにはどうしようもないんです』


P『菜々……』


菜々『せめて、最後にライブができたらなって』


菜々『……ごめん、なさい……こんな、わがままばかりで、ちゃんと言えなくて』


P『そうか』



P『……分かった。菜々が本気なら、俺も菜々のために出来ることをする』


P『ただ、今じゃなくていいから……どうしてなのか、辞めるまでにちゃんと教えてくれ』


菜々『……はい。ありがとうございます、Pさん』


――――――――――――――――――――


P「……」


池袋晶葉「おい、P。聞いてるのか」


P「ん、晶葉か」


P「えっと……すまん、何の話だ」


晶葉「ウサミンの話だが……やけに上の空だな?」


P「突然、引退するって言われたからな……俺もまだ、整理しきれていないんだ」


晶葉「……そうか」


P「晶葉から見て、菜々は何か変じゃなかったか?」


晶葉「全くだ。普段通りだったと思う」


晶葉「……いや、気になった点があったな」


P「本当か!?」


晶葉「ああ、大したことじゃないんだが……前まで貸してくれなかったものを、急に貸してくれたんだ」


P「それって、何なんだ?」


晶葉「口止めされているんだが……ウサミンが、宝物だって言っていたよ」


P「菜々の、宝物……」


P「……そうか」




晶葉「それで……ウサミン、本気なんだな?」


P「ああ。もう引き返せないしな」


晶葉「……彼女のアイドルとしての姿勢は、憧れだったんだ」


晶葉「あんな風になりたい、と思ったものさ」


P「……寂しくなるな」


晶葉「……そうだな」


晶葉「せめて、何かロボでも作ってあげたいものだよ」


P「そうしてあげてくれ。きっと菜々も喜ぶと思う」


晶葉「ああ。Pも手伝って……いや、君は仕事に専念してくれ」


P「?」


晶葉「少しでもウサミンに付いていてあげてほしいんだ」


晶葉「ウサミンは結構、繊細だからな」


P「……ありがとな、晶葉」


――――――――――――――――――――


「1、2、3、4!」パンッパンッ


菜々「っ!」タンッ スタッ


「安部! ステップ遅れてるぞ!」


菜々「はいっ!」バッ


「振りが遅い! もう休憩するか!?」


菜々「……だ、大丈夫ですっ!」ゼェゼェ




P(……それから、菜々はレッスンに仕事に、休む間もなく活動を続けた)


P(体力持つのは一時間、なんて言っていたはずなのに)


P(一度、本当に危ないと思って止めた事があったけれど……)


菜々『だ、大丈夫ですよ、Pさん……! ウサミン星人は、ナナは……こんなことではへこたれませんから!』


P(なんて、押し切られてしまった)


P「……大まかにはこんな感じだが、何かあるか?」


菜々「……」ボーッ……


P「菜々?」


菜々「わっ、な、ななな何でしょうかっ!?」ガバッ


P「いや、聞きたいのはこっちだが……聞いてたよな?」


菜々「は、はい! それで、えっと……あれ、何の話でしたっけ……」


P「……最後のライブだ。ひと通り説明はしたから、何かあるか聞きたかったんだが」


菜々「あー、そうでしたね……」アハハ


P「しっかりしろよ? ライブで倒れないか心配だぞ」ハハッ


菜々「……大丈夫です、Pさん」


菜々「ナナは、最後の最後まで……アイドルでいたいですから」


P「……そうだな」


P「……よし、菜々。いい時間だしどっか食べに行くか」


菜々「えっ、いいんですか?」


P「ああ。たまにはいいだろ」


P「どこでもいいぞ。もしお酒が飲みたいなら……」ニヤッ


菜々「な、ナナはまだ永遠の17歳ですからねっ!?」ブンブン


P「分かってるって」


菜々「そ、そうですよね……!」ホッ


菜々「……でも、嬉しいですけど、折角ですから」


P「?」


菜々「事務所の皆さんも一緒だったらなーって……ダメですか?」


P「お、おう……菜々がいいなら、それでいいけど」


菜々「ありがとうございます、Pさんっ!」


P「……ああ。それじゃ、今いるみんなに声かけて来るよ」




……バタンッ



菜々「……ごめんなさい、Pさん」



菜々「ナナに、勇気がなくて……」



――――――――――――――――――――


菜々「……これで最後だと思うと、や、やっぱり緊張しますね!」ガタガタ


P「菜々、手が震えてるぞ」


P「何ならこれが最後じゃなくてもいいんだけどな」


菜々「あ……」


菜々「あ、あはは、それもそうですよねっ」


菜々「……でも、ナナは決めましたから」


P「そう言うと思ったよ……ごめんな、笑えない冗談だった」


菜々「いえ……ナナも、悪いんですから」



「開演五分前です! 準備お願いします!」



菜々「はーいっ!」


菜々「……それじゃ、行ってきます。Pさん」スッ


P「ああ。楽しんでこい、菜々」スッ



コツンッ


『その時空から、不思議な光が降りてきたのです……!』


「あれは、誰だ、誰なんだーっ?」


『それは……ナナでーすっ♪』





P(……結局、理由は聞けなかった)


P(突然の事だったから、準備に追われていた事のもある)


P(でも……チャンスはあったのに、どうしても上手く切り出せなかった)



P(舞台の上の菜々は、楽しそうだった)


P(来てくれた皆を楽しませようと、一生懸命で)


P(晶葉が憧れていたのも……俺が、少しだけ、きっと少しだけ、惚れていたのも……頷けるくらい)


P(菜々は最後まで、アイドルだった)


菜々「えへへ……やっぱりライブって、アイドルって楽しいですねっ!」


菜々「……こんなに楽しい時間が、もっと、ずっと続けばいいのにって思います」


菜々「でも、ナナはもう、決めちゃいましたから……この楽しいステージも、アイドルも、今日で卒業です」



『菜々ちゃーんっ! やめないでーっ!!』


『菜々さーんっ!! まだ大丈夫だぞーっ!!』



菜々「……っ」


菜々「みなさん……ありがとうございますっ!」


菜々「もう少しで、ライブも終わって……皆さんとお別れになっちゃいますけど」


菜々「ナナは、ウサミン星は……永久に不滅ですからねっ!!」



菜々「それじゃあ、最後の曲、行きますよっ!」




P(もしかしたら、客席からも見えていたかもしれない)


P(あの時、菜々はきっと――)


――――――――――――――――――――


P「……お疲れ様、菜々」


菜々「はい……Pさんも、お疲れ様でした」


P「最後、よく我慢したな」


菜々「なっ、何のことですか?」


P「……何でもないよ」



P「いいステージだったな」


菜々「そうですね……今までで一番、楽しかったです」


P「もう、大丈夫か?」


菜々「……はい」


P「そっか」


P「……明日、事務所のみんなが予定を合わせてくれたから」


P「悔いの残らないようにな」


菜々「そう、ですね……」




菜々「……あの、Pさん」


P「どうした?」


菜々「ナナは、Pさんに感謝しているんです」


菜々「Pさんが、ナナにアイドルという夢をくれたから」


菜々「……この星の中で、ナナを見つけ出してくれたから」


P「……大げさだな」


菜々「いえ、本当のことですから……」


菜々「……あはは、やっぱりナナにはこんな話、似合いませんよねっ!」


菜々「帰りましょうか、Pさん……もう、遅いですし」


P「菜々……」



P「なあ、菜々。この後大丈夫か」


菜々「……っ」


P「このまま帰らなくても、誰も何も言わないさ」


P「……明日、ちゃんと菜々が出てくれれば」


P「菜々がアイドル辞めるまでに、理由を教えてくれるって言ったろ」


菜々「……はい」


P「アイドルは、今日限りだもんな」


菜々「!」


P「……嫌なら、もう聞かないことにするよ」


菜々「……いえ」


菜々「ナナも、ちゃんとお話します」


――――


ブロロロ……


P「……なあ、菜々」


菜々「何ですか?」


P「アイドル、楽しかったか?」


菜々「……はい。とても」


P「そうか」


P「……トップには届かなかったけど、結構有名になって」


P「仕事したりライブしたり、楽しかったよ」


菜々「……ナナもです」


菜々「Pさんやみんなと一緒にいられて、ずっと、楽しくて」


菜々「……なんだか、名残惜しいですね」


P「そうだな」


菜々「でも、もう決めたことですから」


P「……たまには事務所に顔出してくれると、皆喜ぶよ」


菜々「……」


P「っと、着いたぞ」


菜々「は、はいっ!」



バタンッ


菜々「わぁっ……」


P「事務所に星の好きな子が多いからな。俺も調べてたんだ」


菜々「……綺麗ですね」


P「だろ。晴れて良かったよ」


P「――ウサミン星は、ここから見えるのか?」


菜々「どうかな……見えるかもしれませんね」


P「ああして光ってる星は、ほとんど恒星だけどな」


菜々「……もしかしたら、見えるかもしれませんよ?」


P「そりゃ凄いな」


菜々「誰かが見つけてくれるのを、待っていますからね」


菜々「宇宙にはたくさん星があって……地球みたいに、人がいる星はそんなに珍しくはないんです」


P「そうなのか」


菜々「ずっとずっと、遠くにありますから」


菜々「今の技術では……まだまだ、届きませんけどね」


P「月に行くだけで精一杯なのに、他の星なんてもっと遠いもんな……」


菜々「ええ」


P「……なあ、菜々。どうしてアイドルを辞めることにしたんだ」


P「地元に帰らなきゃいけないって、地元ってどこなんだ」



菜々「……星に、帰らなきゃいけなくなったからです」


菜々「地球での任務を終えて、ナナはウサミン星に帰るんですよ」


P「……!」




P「……やっぱり、ウサミン星は実在するのか」


菜々「はい。ずっと遠く、何億光年も先の宇宙に……ウサミン星はあるんです」


菜々「ナナの作った設定だと、思ってました?」


P「……まあ、な」


菜々「ナナも……こっちに来てからは、地球があんまりにも楽しくて、忘れちゃいそうでしたから」


菜々「だから、ナナがナナであるために……ウサミン星からやってきたアイドルだって言ったんです」


P「そうか」


菜々「……Pさんは、信じてくれますか?」


P「いや……もう、何にも驚かないよ」


菜々「……ありがとうございます、Pさん」


P「長い付き合いだからな。嘘かどうかくらい分かるさ」


菜々「……だから、もうすぐナナは帰るんです」


菜々「帰って、地球は良い星だって、報告するんです……」


菜々「地球を侵略したりとか、映画みたいなことにはなりませんよ」


P「そうか。それは良かった」


菜々「でも……もう、こっちには来れないかもしれません」


P「……」


菜々「他の星の調査に行けるのは、一度だけ」


菜々「きっと、次に来るのは……ナナじゃない、別のウサミン星人です」


P「……菜々とは、もうお別れなのか」


菜々「……」



菜々「もしも奇跡が起こって……いつか、ナナが地球にまた来れたら」


菜々「Pさんは……あの時みたいに、ナナを見つけ出してくれますか?」


P「……当たり前だ、菜々」


菜々「あはは、ですよね……ありがとうございます」


菜々「……またいつか、帰ってきます」


菜々「Pさんに、みんなに……会いたいですから」


菜々「それじゃあ、そろそろ戻りましょ……」



P「……菜々っ!」


菜々「!」


ギュッ


P「……ちゃんと、また帰って来るんだよな」


菜々「……きっと、です」


P「必ずじゃ、駄目か……?」


菜々「!」


P「いつか、帰って来るよな……?」


菜々「……はい」グスッ


菜々「いつか、必ず……帰って、来ますから……!」ギュッ


――――


P(……次の日。菜々のお別れパーティーは、事務所総出の大規模なものになった)


P「すっかりちひろさん達に任せきりにしてたけど……すごいな」


晶葉「私も驚きだが……それだけ、ウサミンが皆にとって大きな存在だったんだろうな」


P「確かにな」


晶葉「……それで、ウサミンとはちゃんと、話せたのか?」


P「ああ。もう大丈夫だ」


晶葉「それは良かった」


P「そういえば、プレゼントは出来たのか?」


晶葉「……うむ。最新式のウサちゃんロボだ」


晶葉「山でも海でも……それこそ宇宙でだって動いてくれる最高のウサちゃんロボだ!」


P「!」


晶葉「まあ、宇宙での動作性は理論上だし、流石に宇宙に持ち出されることはないだろうけどな」ハハッ


P「そ、そうだな……」


晶葉「それじゃあ、ウサミンに渡してくるよ」


晶葉「……ちゃんと、ウサミン星まで持ち帰ってくれるといいな」


P「?」


晶葉「いや、なんでもない。行ってくる」


P「ああ、行ってらっしゃい」



P「……」


P「本当に、ウサミン星に帰ってしまうのか……」


P「菜々、大丈夫か」


菜々「はぁい、ナナは大丈夫ですよぉ……♪」ヒクッ


P(主役がこの有り様のため、パーティーはお開きとなった)


P(みんな、永遠の17歳じゃなくなったからって、遠慮がなさ過ぎだ)


P「家まで送って行くからな」


菜々「えへへぇ……ありがとうございますぅ……」


P「吐くなよ」


菜々「大丈夫ですからぁ……」ポワー


P「……不安だ」


菜々「ねぇ、Pさぁん……!」


P「どうした?」


菜々「Pさんはぁ、もっとナナと一緒にいたいですか……?」ヒクッ


P「そうだな。明日からさようなら、ってのは信じられん」


菜々「ナナも信じられませんからねぇー……」


P「帰らなきゃいいんじゃないのか」


菜々「……へっ?」


P「ずっと、地球にいればいいじゃないか」


菜々「プロデューサー、さん……」


P「それじゃ、駄目なのか」


菜々「約束、ですから……」


菜々「ナナはウサミン星の、みんなの期待を受けて……地球にやってきたんです」


菜々「やっぱり、ナナは、帰らなきゃ……」グスッ


P「そう、か。そうだよな」


P「……ほら。着いたよ」


菜々「はい……ありがとう、ございます」


P「ああ、待て。忘れ物だ」


菜々「……!」


菜々「晶葉ちゃんの、ウサちゃんロボ……」


P「晶葉、ウサミン星まで持ち帰って欲しいって言ってたぞ」


菜々「そうですね……ウサミン星と、地球の」


菜々「ナナと晶葉ちゃんとの、友好の証ですから……」



P「……それじゃあ、おやすみ」


菜々「はい。おやすみなさい、Pさん」


P「……いつでも、帰ってきていいんだからな」


菜々「……はい」




菜々「それじゃあ、Pさん。また……いつか」



菜々「……お元気で」




――――――――――――――――――――


P「さて、こんなものか……」カタカタ


P「……コーヒーでも飲むか」




ガラッ


P「あれ、こんなお茶あったか……?」


P「……そういえば、菜々が買ってきたんだっけ」


P「たまにはお茶にするか」




P「……なんか、違うな」ズズズッ


P「やっぱり、菜々がいないと……」


P「って、そんなこと言ってても仕方ないか」


P「もう3日も経つのにな」


ガチャッ


ちひろ「お疲れ様です、プロデューサーさん」


P「お疲れ様です」


ちひろ「あら、珍しいですね。お茶ですか」


P「ええ。菜々が買ってきたお茶があったので」


ちひろ「……菜々、さん?」


P「前に買ってきてくれたんですよ。安かったからって……」


ちひろ「えっと、プロデューサーさん……」


P「はい?」



ちひろ「その、菜々……さんって、どなたですか?」



P「えっ――」



P「やだなぁ、ちひろさん。何言ってるんですか」


P「菜々は菜々ですよ、安部菜々。何日か前に卒業ライブもしてたじゃないですか」


ちひろ「あ、あれ……そう、でしたっけ……?」パラパラ


ちひろ「その……そう、ですよね。菜々さん、ですよね……?」


P「……どうしたんですか、ちひろさん」


ちひろ「……」


ちひろ「悪い冗談じゃないですよね、プロデューサーさん?」


P「さっきからどうしたんですか、ちひろさん」


P「ほら、卒業ライブの写真だって、ちひろさん撮ってたじゃないですか……」


P「……ありましたよ、ほら!」


ちひろ「……プロデューサーさん、ごめんなさい」



ちひろ「プロデューサーさんの言う、この菜々さんという人に……私は心当りがないんです」



P「……ちひろ、さん?」


P「はは、何言ってるんですか。エイプリルフールはまだですよ」


P「菜々は確かにこの事務所でアイドルやってたんですよ」


P「ほら、写真だってある、ライブの書類だって、CDも……」


ちひろ「プロデューサーさん」


ちひろ「……私は、プロデューサーさんとは長い付き合いですから」


ちひろ「プロデューサーさんが嘘を付いていないことも、分かります」



ちひろ「でも……菜々さん、という方が、私には分からないんです」



P「ちひろさん……!?」


P「そんな、まさか……」


P「嘘ですよね、たった二三日で忘れるはずが、ないですよね……」


P「……どういうことだ」


P「菜々が忘れられたなんて、そんなはずが……」


P「誰か、誰か菜々を覚えている人はいないのか……!」




P(……俺は事務所にいたアイドル皆に、片っ端から聞いていった)


P(しかし……)


「ごめん、心当たりがないかな……」


「えっと……新しいアイドルの方ですか?」


「その、菜々ちゃん、ってアイドルなの? 見たことないなぁ」



P「……どうして」


P「どうして、みんな菜々を忘れてしまっているんだ……!」


P「駄目だ……誰もみんな、菜々のことを覚えていない……」


バタンッ


晶葉「おい、Pはいるか!」


P「……晶葉?」


晶葉「戻ってたのか……探したよ、P」ゼェゼェ


P「どうしたんだ、そんなに急いで……」


晶葉「君に、話がある」




晶葉「……ウサミンの事について、だ」


P「!」



――――


晶葉「おかしいと気付いたのは今朝だ」


晶葉「ふと私がウサミンの話題を出したんだが、皆が口を揃えてウサミンを知らないと言ったんだ」


P「……俺もだ」


P「ちひろさんが菜々のことをすっかり忘れていた」


P「おかしいと思って、事務所にいたアイドル達みんなに聞いて回ったんだが」


P「菜々の事を覚えている子は…誰も、いなかったんだ」


晶葉「そうか……」


晶葉「……こんな短時間に、皆がウサミンの事を突然忘れるはずがない」


晶葉「皆を疑いたくはないが……何か、あるのかもしれない」


P「っ!」


晶葉「とにかく、原因を探そう。今はそれしかない」



P「……菜々に、直接聞いてみるか」


P「晶葉、今すぐ支度してくれ!」


晶葉「分かった!」



ブロロロロ……


P「……そういえば、晶葉」


晶葉「どうした?」


P「菜々が本当に、ウサミン星って星から来た宇宙人だ、って言ったら」


P「晶葉は信じるか?」


晶葉「……君は前にも、そう聞いたことがあったな」


晶葉「ウサミンがウサミン星人だと言うんだから、信じるしかないさ」


P「そうか」


晶葉「現代の科学では、まだ宇宙人を信じられるレベルの発見は出来ていないが」


晶葉「宇宙人がいないことも、文明のある星が他に存在しないことも、証明できてはいない」


晶葉「……それに、ウサミンは嘘を付かないからな」


P「ああ」


晶葉「……少なくとも、私達を騙したり悲しませるような嘘は」


P「……そうだな」


――――


P「……着いた」


晶葉「ああ」




P「この階の……っ!」


晶葉「どうした?」


P「張り紙が……空家って、どういうことだ」


晶葉「そんな、もう引っ越したのか!?」


P「まさか……何日か前に来たけど、そんな様子じゃ……!」


ガチャッ


ガンッ!


P「鍵が……」


晶葉「どういうことだ、これは……!」


晶葉「P、電話は!?」


P「そうか!」ピッ



prrrr prrrr……


『お掛けになった電話番号は、現在使われて……』


P「……遅かったか」ピッ


晶葉「ウサミン……」



P「……帰ろうか、晶葉」


P「これ以上は、いても仕方ない」


晶葉「そう、だな……」


P「……」


晶葉「なあ、P」


晶葉「君は何か、知っているのか?」


晶葉「ウサミンは……どうして、消えてしまったんだ」


P「……」


晶葉「P、答えてくれ」


晶葉「何が起こっているんだ」



P「……俺にも、分からない」


P「ただ、俺は」


P「菜々との思い出を、菜々のことを」


P「このまま、忘れたくない……」


晶葉「……私もだよ」


晶葉「どうしてなんだ、ウサミン……」



――――


P(次の日から、俺も晶葉も少しずつ菜々の事を忘れていることに気付いた)


P(事務所に残っていたデータを見ては、思い出そうとしたけれど)


P(次第に、写真を見ても誰だか分からなくなってきていた……)




ちひろ「それで、どうだったんですか?」


P「何がですか?」


ちひろ「ほら、菜々さん……でしたっけ。何か分かったことはありましたか?」


P「……いえ」


ちひろ「そうですか……」


P「もしかしたら、菜々は本当はいなかったんじゃないか、って」


P「自分の記憶に、自信を持てないんです……」


ちひろ「プロデューサーさん……」


P「確かに俺がプロデュースしていたアイドルなのに……」


P「顔も、声も、段々思い出せなくなっている……」


P「……いつか、菜々の事を全部忘れてしまうんだろうか」



prrrr prrrr……


P「……晶葉?」ピッ


P「もしもし」


晶葉『P、今大丈夫か』


P「大丈夫だけど、どうした?」


晶葉『……君に見てもらいたいものがあるんだ』


P「見てもらいたいもの?」


晶葉『ああ。何故かは分からないが、それを見た時にとても大事なもののように思えたんだ』


晶葉『これは、Pにも伝えなきゃいけないって……そんな気がしたんだ』


P「……分かった」


P「……ちひろさん。ちょっと出掛けます」


ちひろ「どちらに?」


P「晶葉の所に」


ちひろ「……大事なこと、ですか?」


P「ええ、おそらく」


ちひろ「……そうですか。分かりました」


ちひろ「ほら、お仕事代わってあげますから早く行ってきてください」


P「……ありがとうございます」


ちひろ「いいんです。プロデューサーさん、久しぶりに真剣な顔してますから」


ちひろ「とても大事なことなんだって、分かりますよ?」


P「ちひろさん……借りは、返しますから」


ちひろ「ほら、晶葉ちゃん待ってますよ?」


P「……はい」


――――


晶葉「……すまないな、仕事中だったのに」


P「いや、大丈夫だ……それで、大事なものって」


晶葉「これだ」


P「!」




晶葉「君は、知っているかい」


P「金色の、レコード……」


晶葉「本来なら、ここにあるなんてあり得ない話なんだがな」


晶葉「どういう訳か、部屋から出てきたんだ」


P「それって、まさか」


晶葉「……なあ、P。教えてくれ。これはどうして私の部屋にあるんだ」


晶葉「どうして、このレコードを見ていると……懐かしいような気持ちになるんだ」


P「……」


『Pさんと会えたから、ナナはアイドルに変身できたんですよ!』


P「……」


『みんなを幸せにできるように……これからも、お仕事頑張っちゃいますね!』


P「菜々……」


『宇宙は広いから……独りじゃ寂しいですよね、Pさん』



『Pさんは、ナナの本当の姿を知っても……好きで、いてくれますか?』



P「……っ!」


晶葉「おい、P!?」


晶葉「何か分かったのか!?」


P「……このレコードは、きっと」



ピコーン



P「……ん?」


晶葉「この音は……?」


ピコーン


P「そのパソコンからじゃないか?」


晶葉「ああ、でもどうして……」


晶葉「……っ!」



P「晶葉?」


晶葉「P、車を出してくれ!」


P「どうしたんだ、いきなり」


晶葉「……ウサミンのことを忘れる前に、私が細工しておいたらしい」


晶葉「ウサちゃんロボが今どこにいるか、場所を出している」


晶葉「だが……今私の手元にいないウサちゃんロボは、あの一匹だけだ」


P「!」


晶葉「どうして私達は、忘れてしまっていたんだろうな」


晶葉「……P、行くぞ! ウサミンの所へ!」


P「……ああ!」


――――


ブロロロロ……


晶葉「……このレコードは、ウサミンから借りたんだった」


晶葉「それも、忘れているとはな」


P「……そうだな」


晶葉「やはり、ウサミンはウサミン星という星から来た、宇宙人なのか?」


晶葉「いきなり皆の記憶が消えるなんて、まるでファンタジーだ」


P「でも、菜々がやったとしたなら……きっと意図があるはずだ」


晶葉「そう信じたいな」


晶葉「……P、そこを左折してくれ」


P「分かった」


晶葉「……着いたな」


P「ここは……」


晶葉「ほう、随分と星が綺麗じゃないか」


P「ああ。初めて来た時に、俺もそう思ったよ」




P「……前に、菜々とここに来たことがあってな」


P「菜々に聞いたんだ。どうしてアイドルを辞めるのか」


P「そしたら、ウサミン星に帰るから、って言われてさ」


晶葉「……そうか」


晶葉「やはり、星に帰るんだな」


P「やっぱり、ウサミン星は実在するんだな」


晶葉「疑っていたのか?」


P「まさか」


P「……ん?」


晶葉「どうした?」


P「あれ、何だ……? ほら、あそこに」


晶葉「……線路じゃないか?」


P「空に架かってるな」


晶葉「確かにそうだな……」


P「まるで銀河鉄道だ」


晶葉「……電車で向かえば一時間、だったな」


P「確かに」



P「……行くか、晶葉?」


晶葉「もちろんだ」


菜々「……」


菜々「これでお別れ、ですね」


菜々「……それじゃあ、さようなら」




P「……菜々っ!」




菜々「!」


菜々「……あれ、おかしいな……Pさんの声が」


菜々「ナナも歳ですかねー……って、ナナは永遠の17歳ですからね!?」ビシッ


P「……菜々?」


菜々「……へっ?」


菜々「あ、あれっ……Pさん?」


P「……本当に、菜々なんだな!?」ガシッ


菜々「嘘、Pさん……どうして……」


晶葉「……やあ、ウサミン」


晶葉「ウサちゃんロボに、ちょっと細工させてもらったんだ」


菜々「晶葉ちゃん……」


晶葉「……疑うような真似をして、悪かったよ」


菜々「いえ、いいんです。何も言わずに帰ろうとした、ナナも悪いですから」


P「……なあ、菜々。どうして誰にも言わずに、帰ろうとしたんだ」


菜々「Pさん……」


菜々「……みんながナナの事を忘れちゃったら」


菜々「ナナも、みんなとお別れできるかなって。そう思ったんです」


P「菜々……」



P「……できるわけ、ないだろ」


P「忘れられるわけが、ないだろうが!!」


菜々「っ!」


P「……菜々をスカウトしてから、最後のライブまで」


P「ずっと、一緒にやってきたんだ」


P「失敗だって何回もしてきたし、その度二人で、みんなで乗り越えていっただろ」


P「……忘れられるわけが、ないだろう」


菜々「Pさん……」


P「俺は菜々の事を忘れない」


P「いつか必ず、菜々が帰ってくるって俺は信じているから……!」


菜々「……っ」グスッ




晶葉「……あー、いいか、二人とも」コホン


P「!」


菜々「あ、晶葉ちゃん?!」


晶葉「……二人でいい雰囲気になるのはいいんだがな」


晶葉「ウサミン、忘れ物だ」


菜々「忘れ物……?」


晶葉「ほら」


菜々「あっ……ナナの、宝物……!」


晶葉「……私には手に余るものだからな。ウサミンに返すよ」


菜々「そう、ですね……」


晶葉「……私も、ウサミンとまた会える日を楽しみにしているからな」


菜々「ありがとう、晶葉ちゃん……」


晶葉「何なら、ロケットでも作って会いに行こうじゃないか」


菜々「……ふふ、晶葉ちゃんらしいですね」


晶葉「最も、君が電車で来てくれた方が早いと思うがな」ハハハ


菜々「そうかもしれません」クスッ


菜々「……もうそろそろ、行かないと」


P「本当に、ウサミン星に帰るのか」


菜々「はい。地球の事を、ちゃんと伝えなきゃいけませんから」


P「……いつか、帰ってこれるのか」


菜々「……分かりません」


菜々「本来なら、ナナは地球上のみんなの記憶から消えていなきゃいけないんです」


菜々「地球はまだ、他の星との正式な関わりがありませんから……」


晶葉「私達の記憶は、消さなくていいのか?」


菜々「……一度は、消しましたからね」


菜々「それに、Pさんと晶葉ちゃんなら、悪いようにはしないと信じてます」


P「……ああ」


晶葉「ウサミンは、私の友人だからな」


菜々「……ありがとう、ございます」


菜々「それじゃあ……Pさん。晶葉ちゃん」



菜々「また、いつか」






P「……行っちゃったな」


晶葉「ああ。本当に、電車で向かえば一時間だったんだな」


P「……」


晶葉「P? どうした?」


P「……帰ろうか、晶葉」


晶葉「そうだな」




晶葉「なあ、P」



P「なんだ?」



晶葉「……また、会えるかな」



P「……」



P「ああ。いつかまた、会えるさ」




――――――――――――――――――――


晶葉「……やはり、ライブはいつまで経っても慣れないな」


P「緊張してるのか」


晶葉「少し、な。君はいつも通りそうだな」


P「晶葉を信じているからさ」


晶葉「そうか? そうか……ありがとう。なら、大丈夫だな」



「開演五分前です! 準備お願いします!」



晶葉「ん、もうそんな時間か。それじゃあ行ってくる」スッ


P「ああ。楽しんでこい、晶葉」スッ



コツンッ






晶葉「アー、アー……聞こえるか諸君!」



晶葉「今日は私のライブに来てくれてありがとう!」



晶葉「今日は大いに楽しんでいってくれっ!」


P(あれから、何年も経ったけれど)


P(俺は変わらずプロデューサーをしているし、晶葉もアイドルを続けている)


P(まだトップアイドルには程遠いけれど、晶葉は十分に名の知れたアイドルになった)




晶葉「……みんな、聞いてくれ! 私からの重大発表だ!」


P(……どうしたんだ、晶葉?)


晶葉「突然だが……私は、今年限りでアイドルを引退する!」


P「!」



『えぇーっ!?』


『晶葉ちゃん、辞めないでーっ!!』



晶葉「ふふ……ありがとう、みんな」


晶葉「……だが、もう決めてしまったことだからな」


晶葉「せめて悔いの残らないように、お互いにもっと、楽しもうじゃないか!!」




P「……やりやがったな、晶葉」クスッ


――――


晶葉「……お疲れ、P」


P「ああ、お疲れさん」


晶葉「その、すまなかったな」


P「やるなら前もって言ってくれ……ほら、汗拭いとけ」


晶葉「……ありがとう」


P「明日から忙しくなるぞ」


晶葉「そうだな……明日からもよろしく頼む」




P「……それで、どうするんだ?」


晶葉「アイドルを辞めて、か?」


晶葉「……勉強したい事が見つかったからな。進学するつもりだ」


P「そうか」


晶葉「……すまない」


P「いいんだ、気にするな。目標が出来たんだ、良いことじゃないか」


P「それで、何を勉強するんだ?」


P「やっぱりロボか?」


晶葉「いや、ロボはもう十分だ。学べるだけ学んだからな」


P「……流石だな」


晶葉「まあ、天才だからな。それでだ」



晶葉「何年も前から、興味を持っていたんだが……」


晶葉「宇宙について勉強しようと思ってな」


P「!」



晶葉「……君は、どう思う?」


P「いいと思うよ。晶葉が本当にやりたいと思ったんなら、俺は応援するだけさ」


晶葉「……ありがとう、P」


晶葉「……ウサミンは、私達の事を覚えてくれているかな」


P「……あの菜々が、忘れてると思うか?」


晶葉「いいや、全く想像出来ないな」


P「きっとそうだと思うぞ」



晶葉「……なあ、P」


晶葉「いつか私達から会いに行って、驚かせてあげような」


P「ああ」


晶葉「私より、君のほうがウサミンに会いたそうだしな。楽しみにしていたまえ」ハハッ


P「……うるさい。帰るぞ」




P「……待ってろよ、菜々」


P「いつか必ず、会いに行くからな」


以上で終わりです。
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