【咲-Saki-】玄「」 (57)


いまはむかし、たけとりのハギヨシというものありけり。

のやまにまじりてたけをとりつつ、よろずのことにつかいけり。


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スレタイ打ってる途中で立ててもうた……やらかした。
とりあえず続行します。


ある日、ハギヨシがいつものように山で竹を取っていると、根本が光る竹がありました。

放置すれば衣様に害を成すかもしれないと考えたハギヨシは、近くに寄って正体を確かめることにしました。

光る竹に近寄ると、竹の中からオマカセアレ オマカセアレ と鳴き声が聞こえます。

意を決してその竹を切ってみると、中から女の子が出てきました。

また、竹の近くには金銀財宝の入った黒い箱が置いてありました。

「捨て子ですね……このような捨て方をした理由は、おそらく、目立つため」

かつて仕えていた主にすっかり毒されたハギヨシは、そう考えてこの状況に納得しました。

目立つためで片づけるには色々問題のある状況だと思いますが、彼に常識はもはや通じないのでした。


「衣様、今日は珍しいことがありました」

「む、どうしたのだハギヨシ?」

ハギヨシは竹の中から出て来た女の子を連れ帰り、黒い箱も持ち帰りました。 戻ってすぐに、妻である衣に今日の出来事を話します。

「そうか……それはまことに奇奇怪怪。よほどの目立ちたがりの仕業に相違ない」

こっちも目立ちたいという理由でこの現象に説明をつけてしまいます。流石は透華の従姉妹です。

「しかし、こやつ、なかなか面白そうだ。衣の遊び相手が務まるやもしれん」

そう言って、衣はこの子を育てることにしたのでした。


竹から生まれた子は松実玄と名付けられ、三か月ほどで麻雀の強い女の子に成長しました。

その強さは都にまで知れ渡り、玄に挑む強者は後を絶たないのでした。


ある日、五人の貴族が玄に挑みます。


まず一人目、福島は裏磐梯出身、森合愛美。

彼女は玄に東風で挑み、ドラ爆されて返り討ちにされました。


二人目、岡山は讃甘出身、新免那岐。

彼女は玄に赤入り麻雀で挑み、ドラ爆されて返り討ちにされました。


三人目、富山は射水総合出身、寺崎遊月。

彼女は玄に普通の半荘勝負を挑み、ドラ爆されて返り討ちにされました。


四人目、大阪は千里山出身、清水谷竜華。

名に竜を頂く彼女はドラを集める玄に強く惹かれ、玄に麻雀で勝ったら結婚してほしいと申し入れました。

玄は青天井なら良いと言ってその勝負を受けました。

ドラ爆して点数が大変なことになりました。


五人目、長野は龍門渕出身、龍門渕透華。

彼女は目立つために噂の松実玄を倒しに来て、三麻の青天井で勝負を挑んで結果はお察しでした。

抜きドラの北すら集める玄に死角はありません。


各地の強豪を倒した玄の噂はついに都の中心、王者のもとに届きます。

「ふん、調子に乗ったニワカが居るようじゃないか!」

王者はその威信にかけて玄を倒すと決め、玄を訪ねました。


「半荘5回勝負、ルールはそちらで決めてかまわん」

半荘一回では間違いが起きる、だから五回勝負。ルールを玄に委ねたのは王者の余裕でした。

玄は自分にとって最も有利なルールでの勝負を提案します。王者はあっさりと引き受けました。

そして、勝負が始まります。


王者の強さは圧倒的でした。

半荘一回目こそ、最初の一局で和了ってそのリードで逃げ切りましたが、玄のドラ爆は完全に見切られ、それ以降はほとんど焼き鳥状態でした。

王者は、玄が提案したルールから玄の能力を推測し、的確に対応したのです。

最初の一回は、玄の能力を確かめるためにあえて和了らせたのでした。

「私がリーチをかけることで、恐れぬ打ち手はなかった」

その言葉は玄も例外ではありませんでした。

半荘五回を終えてみれば、圧倒的な大差で王者の勝ちでした。

「ふん、ニワカが調子にのるからこうなるんだ」


しかし、王者は玄をいたく気に入ります。

「私に、半荘一回とはいえ勝つとは大したものだ。私の妻になれ」

王者からの求婚を断れるはずもありません。

しかし、玄にはその求婚を受けられないわけがあったのです。


「そうはいかないよ」

「……逃げた奴隷を連れ戻しにきた」

頭にツノをはやした二匹の鬼が、かつて手に入れた奴隷を取り戻しに来たのです。

王者は、その鋭い洞察力で事情を察します。

「なるほど、厄介な連中に目をつけられたものだ」

「いくら王者でも、二対一じゃ分が悪いんじゃないかな?」

「……そのドラ置き場では私たち相手に戦力にならないのは自明。おとなしく渡してもらう」

鬼たちの言うとおり、いくら王者でも、この二人の相手は分が悪いのです。


「ならば、衣が入ろう」

そこに、思わぬ第三者が介入します。

玄を育てた親代わりである衣が、その鋭い洞察力で玄の抱える事情を見抜き、代打ちを申し出たのです。

「ふむ、貴様と手を組めるならば勝機はあるか」

王者はその鋭い洞察力で衣の実力を見抜きます。

こうして、鬼たちと王者・衣ペアの対局が始まりました。

ちなみに、当の本人はまったく事情が分かっていません。


東一局、いきなりとんでもない展開になります。

鬼姉

1s東東東南南南西西西北白白 ツモ:北

鬼姉が小四喜確定の大四喜字一色でリーチをかけます。

王者

111234567899m9s ツモ:9m

王者はそれに怯むことなく果敢に立ち向かいます。

鬼妹

149p19m19s東南西北白発 ツモ:中

王者を抑えるために鬼妹も前に出ます。



22233344478s発発 ツモ:発

それが当然であるかのように、衣も三人の争いに食い込んでいきます。

卓上には四人の雀力の衝突で謎の力場が形成されていました。


「……少しは出来るらしい」

鬼姉が感心したようにつぶやきます。

「それはこちらのセリフだ、ニワカにしてはなかなかやる」

王者がその威厳を漂わせながら答えます。

「喋ってる余裕があるんだね、ツモることに集中した方が良いんじゃないかな?」

鬼妹は勝負を楽しみたいようです。

「それは貴様も同じことだろう」

言いながらも、衣はとても楽しそうです。

東一局で全員が役満を聴牌、振り込めばそこで終了という状況で、全員が無用なリーチをかけています。

誰もが自分の勝利を疑わず、誰も和了り牌を掴むことがないまま、山がどんどん減っていきます。


しかし、それはいつまでも続きません。

最後まで場に出ることがない牌は14枚しかないのです。

彼女たちの和了り牌は合わせて37枚が残っています。

流局などはあり得ません。必ず、どこかで誰かが和了ります。

タン、タン、タン、タン

四人とも何食わぬ顔でツモり、切り、山を減らしていきます。

王牌を除いた残りの牌が24枚になりました。

当然のようにこれをツモって切ります。

次の牌が、事実上の最後の一枚です。

これで、誰かが必ず和了ります。


流石に、卓上に緊張が走ります。

それを眺めていた玄にも、その緊張が伝わってきます。

ごくり、玄が息を飲みます。

「この一枚で、決まるのです……」

そんなつぶやきも漏れます。


この呟きがダメでした。

勝負に集中していた四人ですが、そのつぶやきだけはなぜか聞き取れてしまいました。

そして、卓上の四人の視線が一斉に玄に向きます。

「……へ?」

刹那、卓上に形成されていた謎の力場を構成する力のバランスが崩れ、全てが玄に流れ込みます。

「な、なにこれ、た、助けて衣ちゃん! ハギヨシさん!」

「く、くろー!!?」

月の使者的な力のせいでその場にいた強者四人の誰も手が出せません。

そして、玄を包む力場は収縮を始め、じわじわと、しかし確実にその存在を失っていきます。

しゅう、しゅう、しゅう……

ついに、謎の力場は玄ごと完全に消滅したのでした。


日本昔話 クロチャ姫 ―完―


あるところに松実玄という少女が住んでいました。

玄はある姉妹の奴隷として旅館に奉公に出され、手伝いのために海で釣りをして、釣れた魚を持ち帰るのをお仕事にしていました。

今日も玄は釣りをしに海に向かいます。


浜辺についた玄は子供たちが戯れているのに気付きました。

しかし、どうも様子が変です。


「こいつなんか髪の毛ウネウネしてるぜー!」

「引っこ抜いてたしかめようぜー!」

「うえーん! やめてよー! 髪の毛ひっぱらないでー!」


なんと、子供たちは女の子をいじめていたのです。

玄は慌ててそれを止めます!

「やめるのですボクたち! 女の子に手を出さないように!」

玄が止めに入るや否や、子供たちは逃げていきました。

「あ、ありがとう……誰?」

「松実玄と申します。礼には及ばないのです、それでは!」

いじめられていた少女に名を名乗り、玄は釣りをするためにさっそうといつもの釣り場に向かおうとするのでした。


「ちょっと待ってよー! お礼……そう、お礼するからちょっとだけ待って!」

「ほえ? お礼ですか? さっきも言いましたが、それには及ばないのです!」

「いいからついてくるの! おねーさんの言うこと聞きなさい!」

「いえ、あの……言いにくいんですが、多分私の方が年上……」

「私は実力的に高校100年生だからおねーさんなの! いいからついてくる!」


こうして、お礼をするためということで、玄は半ば強引に連れて行かれることになったのでした。


「あ、あの、そっちは海ですよ!?」

「よゆーよゆー! えいっ!」

ぽんっと音がして、玄と少女を包む空気の膜が出来ます。

「ちょっと深いとこまで行くからねー!」

どうやら、この髪がウネウネする不思議な少女は海の使いのようでした。

あの子ども達も恐れ多いことをしたものです。


「ただいまー!」

「あ、淡ちゃん、お帰り」

海の底に佇むお城のような立派な建物に入り、ずかずかと奥へ進み、一番奥のこれまた立派な扉を開けると、メガネをかけた淑やかそうな女性が出迎えます。

「淡という名前なのですか?」

「そうだよー! 名乗らなかったっけ?」

「多分ですが、名乗られてないのです」

「あちゃー、ごめんごめん」

「淡ちゃん、また名乗りもせずに見ず知らずの人を……」

「タカミー、細かいことは気にしちゃダメだよっ!」

どうやら、淡が名前を名乗り忘れるのはよくあることのようです。


「悪の怪人たちに囲まれて淡ちゃん大ピンチ! そこに颯爽と現れて助けてくれたのがクロなんだよー!」

「それはそれは……淡ちゃんがお世話になりました」

色々と誇張された説明ですが、概ね合っているので玄は指摘しませんでした。

「では、淡ちゃんを助けて頂いたお礼をしなければなりませんね」

そう言ってメガネの女性は手を軽く上げます。

すると、どこからともなく白い制服を着た二軍の群れがやってきました。


「お呼びですか、虎姫様!」

二軍たちは虎姫様に用件を伺います。

「この松実様に、淡ちゃんが助けられました。恩には恩を。我らの名誉にかけて、満足いかれるまで松実様をもてなしなさい」

「かしこまりました!」

二軍たちは大きな声で返事をすると、宴の用意を始めました。

「いえ、大したことはしていないのです。そんな、おもてなしなんて……」

本当に大したことはしていないので、玄は辞退を申し出ます。


が、しかし……

「松実様、何なりとご用命を!」 

豊かなおもちをお持ちの二軍がそう申し出ると、玄は一瞬で態度を変えます。

「では、そのおもちを揉ませていただきます」

そうです、玄はこれ以上ないほどのおもち好きだったのです。

「これはなかなかのなかなか……」

一心不乱におもちを堪能する玄。虎姫様はおもてなしが上手く行っていることを確信し、満足そうにそれを眺めていました。

その後も、玄は白糸城のすべての二軍(おもちを持たぬ者を除く)の胸を揉み、七日七晩、宴に興じたのでした。


「ふう……最高の宴でした」

これ以上ない光り輝くような笑顔で、玄は虎姫様に告げました。

「満足いただけたようでなによりです」

虎姫様も満足そうに頷きます。

「それで、あの……そろそろ地上に戻りたいのですが……」

「えっ!? あの……宴に至らない点がございましたでしょうか?」

宴に満足した玄がずっと白糸城に残ってくれるものと考えていた虎姫様は、おどろいて玄にききかえします。

宴に不満など欠片もないのですが、玄は地上の人です。だから地上に帰らなければなりません。

そう説明すると、虎姫様は残念そうな顔をしました。

「残念ですが、仕方ありませんね。では、せめてお土産をお持ち帰りください」

そう言って、虎姫様は大きな玉手箱を玄に渡し、淡に命じて地上まで送らせたのでした。


地上に戻って来た玄は、玉手箱を持って旅館に帰ります。

七日も仕事をサボってしまったので、そのまま帰るわけにはいかないのです。

この玉手箱を主人に渡して、サボった分をチャラにしようと企んだのでした。

しかし、どうも浜辺の様子がおかしいのです。

玄が知らない道が出来ていたり、見慣れない建物が立っていたり。

浜辺は見慣れた浜辺のはずなのに、どうにも様子が違っていました。


玄はたまらず近くを歩いていた老人に尋ねます。

「ここは松実の浜ですか?」

「随分古い地名ですねえ、ここがそう呼ばれていたのは……まだ私が子供の頃でしたか。ウネウネした髪の毛の女をいじめていたら……云々」

どうやら、玄が淡を助けたあの日に淡をいじめていた子供がこの老人らしいのですが、そんなはずはありません。

あの子供は玄より年下で、玄はまだ老人になるような年ではありません。玄より年下の子供が老人のはずがないのです。

玄は話を聞くのもそこそこに、自分が働く松実館に向かって駆け出しました。


しかし、そこには何もありませんでした。

道を間違えたかと思って何度も何度も松実館があるはずの場所を探しても、それらしき建物の影も形も見えないのです。

どういうことでしょう?

いったいなにが起きたというのでしょう?

実は、白糸城で一日過ごす間に、地上では十年の時が経ってしまうのでした。

玄は、一日かけて近くの人に尋ねてまわり、ここが松実の浜であること、玄が淡をたすけた日から70年がたっていたことを確認しました。


70年。

もう、玄を知っている人間は、きっと誰一人として生きてはいません。

玄は、絶望して近くの竹林で首を吊ろうと考えました。

そして、竹林に赴き、玉手箱を閉じる紐を使って首を吊ろうと、紐をほどいたのでした。


日本昔話 まつみくろ ―完―


昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。

ある日、おじいさんは山の雀荘に、おばあさんは川へ洗濯に行きました。

「ふん、貴様の手牌など透けて見えるわ」

おじいさんは相手の手牌を華麗に見切り、アタリ牌を全て抑えた上で華麗な和了でトップをまくって意気揚々と帰宅しました。

一方、おばあさんが河で選択をしていると上家……ではなく上流からから大きなドラがどんぶらこどんぶらこと流れてきました。

おやおや、このドラは持ち帰っておじいさんと一緒に食べようかねえ。

おばあさんは洗濯もそこそこにドラを持ち帰りました。


家に帰ると、おじいさんは大きなドラを見てたいそう驚きました。

さっそく割って食べようということになり、なたを振り下ろします。

「我が剣に切れぬものなし」

おじいさんの太刀捌きは往年の切れ味を失っていませんでした。

ドラはみごとに真っ二つです。

「おみごと……流石だねえ」

おばあさんがおじいさんをほめたたえます。

おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ。

すると、どこからともなく赤ん坊の泣き声がきこえてくるではありませんか。

おどろいて先ほど割ったドラを見ると、中から可愛らしい赤ん坊が出てきました。

「おやおや、ドラから生まれて来たのかい?」

「ふむ……ドラに愛された子かもしれんな」

おじいさんとおばあさんはこの子をたいそう気に入り、育てることにしました。


「くろちゃーん、こっちの卓お願いー!」

「おまかせあれ!」

ドラから生まれた子は玄と名づけられ、すくすくと育ちました。

今ではおじいさん行きつけの雀荘のメンバーとして働いています。

ドラを集める能力を持っている玄はとても麻雀がつよく、挑みたいお客さんが大勢いてひっぱりだこなのです。

「玄ちゃんはつよいなー、また負けてしまったよ」

今日も、玄ちゃんは勝ったようです。

みんな、なんとか玄ちゃんに勝とうと思いながらも、本当は玄ちゃんの圧倒的な強さを見たいのです。

だから、負けてもにこにこと微笑みながら玄ちゃんの強さを称えます。

おじいさんは鼻高々でした。



「ぐううおおおおおおおお!!! うわあああああああ!!!」


そんなある日のことです、お店に突如として慟哭が響き渡ります。

「失った!!! 何もかも! すべてをだ!!! あの鬼にすべてを奪われた!! 俺はおしまいだ!!!」

どうやら、常連のお客さんのようです。

一見して別人に思えるほど人相が変わり、玄に負けてもいつもニコニコとしていた彼の面影はほとんどありません。

かろうじて、その特徴的な髪の色と一張羅で彼だとわかったのでした。

「お、落ち着いてください! 鬼ってなんですか? 何があったんですか!?」

玄はすぐさま駆け寄って彼をなだめます。


「鬼だよ! 鬼に麻雀で負けて全部持ってかれたんだよ! もうおしまいさあああああ!!!」


どうやら、麻雀でひどく負けてしまったようです。

いつも玄を可愛がってくれた常連さんの惨状に、玄はいてもたってもいられません。


「なら、私がその鬼から取り返してくるのです!!」


こうして、玄は雀荘「鬼が島」に鬼退治に出かけました。


「まあ、玄なら負けることもないだろうねえ……ただ、長引くかもしれないからなにか作ってあげるよ」

そう言って、おばあさんは玄にきびだんごを作って持たせました。

きびだんごをもって、目指すは鬼が島です。

「もしもし、そこのお嬢さん」

きびだんごに誘われたのでしょうか? 鬼が島への道中で、玄に声をかける人が居ました。

「はい、なんでしょう?」

おじいさんにきちんと躾けられた玄は、見ず知らずの人にもちゃんと応対します。

「私はお腹が空いてしまったのです。もしあなたがそのきびだんごを私に一つくださるなら、鬼退治をお手伝いしましょう」

鬼はどれほど麻雀が強いのか分かりません、手牌を通す壁役、サポートするオヒキ、居て困ることはありません。

「わかりました、よろしくお願いします」

玄は、きびだんごを渡して協力者を得ることにしました。

「うちのことは羊と呼んでくれてよかよ」

突然九州あたりの方言でしゃべりはじめた彼女は、自らを羊と名乗りました。


「もしもし、そこ行くお嬢さん」

羊を連れて鬼が島へ向かう道中、再び声をかけられます。

「その腰につけてるのはタコスか? もしタコスなら譲ってほしいじょ、なんでもするじょ!」

 ん? 今、なんでもするって言ったよね?

玄はすぐさま思案を凝らし、思いついた策を実行しました。

「はい、ちょっと変わった見た目と味のタコスですが、それでも良ければ」

「タコスならなんでもいいじょ! はやくくれだじょ!」

玄はきびだんご味のきびだんご風タコスを彼女に渡しました。

「きびだんご風タコスのきびだんご味おいしいじぇ! タコスはどう調理しても最高だじぇ!」

少女はすっかりだまされ、タコスだと思ってきびだんごを食べました。

こうして、なんでも言うことを聞く少女が仲間になりました。

「わたしのことはタコスの化身と呼んでくれ!」

長いのでタコスと呼ぶことにしました。

鬼が島を目指して玄の旅は続きます。


鬼が島にたどり着いた玄は、鬼を探します。

「ツモ。面前ツモ、タンヤオ、ドラ2、5300オール」

「槓! 嶺上開花、三暗刻、対対、ダブ東、白、中、小三元、混老頭。17600オール」

そこには二つの卓があり、頭にツノをはやした二匹の鬼と、延々と本場を積まれて毟られる無辜の民がいました。

「鬼さんたち! やめるのです! 一般人を毟らないように!」

玄は鬼たちのまえに立ちふさがります。


「……誰?」

「知らない人だね。おねえちゃんの知り合いじゃないの?」

「……私に知り合いはいない」

「そうだったね……ごめん」

「……謝られると余計に辛い。やめて咲」


鬼たちはわるびれもせずに飄々としています。

その態度に、玄はたまらず声を張り上げます。

「常連さんから奪ったものを返すのです!」

玄がそう叫ぶと、妹の鬼が少し思案してから口を開きます。

「常連……ああ、昨日の50本場積んで毟った人か。 仇討ちかな?」

「咲はずるい、私は役満まで行ったらそこで止まるから50本も積めない」

相変わらず、鬼たちに悪びれる様子はありません。

痺れを切らした玄は鬼たちに宣戦布告をします。

「麻雀で勝負なのです! 私が勝ったら常連さんにすべてを返すのです!」


こうして勝負が始まりました。

始まりましたが、結果はやる前から明らかでした。

卓上のドラを全て引き寄せる玄は常勝無敗、多少点棒を取られても、圧倒的高打点ですべての失点を一瞬で取り戻す、麻雀の申し子です。

それが、サポート役のタコスと、相手の手牌を見て玄に教える壁役の羊を連れているのです。


負けるはずがない。


そう、負けるはずがないのです。


その慢心が命取りでした。

思えば、最初に気付くべきだったのです。

玄が彼女たちを見つけた時、妹の鬼が和了った手は何だったでしょう?

嶺上開花、三暗刻、対対、白、中、小三元、混一色

そうです、およそドラなど必要としない手、しかも役満、普段の玄を上回る高火力なのでした。

さらに、17600オールというのも異常でした。

親の役満は、16000オールなのです。

1600点はどこから出て来たのでしょう?

そうです、16本場だったのです。

16本場で役満を和了って17本場に行くところだったのです。

17連荘を可能にする恐るべき和了率。

火力でも和了率でも玄が太刀打ちできる相手ではありません。

鬼は、まさしく鬼でした。


気付けば、ヒツジは壁の役目を投げ出して逃げていました。

卓についていない羊は逃げることが出来たのです。

タコスと玄は逃げられません。

壁役が居ても歯が立たない相手に、壁役を失っては勝負になりません。

二匹の鬼を相手に、ただただ点棒を表示するパネルの数字が増えていくのを、牌をいじりながら眺めるだけでした。

玄の点棒を示す数字の前には、マイナスを示す横棒が表示されていました。

それが、どんどん増えていきます。

そして、永遠とも思える連荘が終わり、また永遠とも思える連荘が始まり、終わり、それをもう一度繰り返して、半荘が終わりました。

玄は返り討ちにされてしまったのです。


日本昔話 ドラ太郎 ―完―


エピローグ


ハギヨシ、玄はどうなったのだ?

消滅の仕方から過去に飛ばされたものと思われます、おそらく、七十年ほど前の時代に飛ばされてしまいました……

何ということだ……命に別状はないのか?

おそらく、あの力場は完全に消滅したわけではなく、ドラとして玄を包んで守ってくれていると考えられます。

大きなドラの中から生まれた子供が居たら、それが玄なんだね?

……もし、玄が70年生きていたら、私の所有物。

まずは見つけるのが先だ。貴様らと決着をつけるのはその後だな。

然り、衣も玄を探すとしよう……しかし、ドラから生まれた子か……

そう言えば、先々代が大きなドラから生まれた子を雇っていたとか。

うむ? その話を詳しく聞かせてくれ。

はい、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいまして、そのおじいさんが先々代の常連だったそうなのですが……

以下、玄ちゃんが三つの話を無限ループします。

そしてとりあえず投下したけどスレタイどうしよう……事故ったけど、内容的にはこのままでいいような気がしてきた。

乙ありがとうございます。しかし、流石にスレタイ入力し損ねるのは枕に顔埋めるコースです。

一応、玄「日本昔話」の予定でした。依頼出してきます。

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