佐藤「仕事、辞めたいです……」【SHIROBAKO SS】 (52)


 佐藤(アニメの会社に転職して一ヶ月)

 佐藤(少しは仕事にも慣れてきましたが)

 木佐「大丈夫、大丈夫。俺本気出すとすごいから」

 佐藤「……わかりました」

 佐藤「ってことだったのですが」

 山田「はぁ? 信用できねえよ」

 佐藤「すいません……」

 佐藤(胃が痛いです)


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 佐藤(仕事量は多いですし、残業代は出ないですし)

 佐藤(まあ、それは調べてましたから覚悟してましたけど)

 安藤「え? 円さんのデビュー作ってtree tearsだったんですか?」

 安藤「わたし、あれすごく好きなんです」

 安藤「絵乃ちゃんが切ないですよね!」

 佐藤「…………」

 佐藤(アニメの話もよくわかりません)


 「今年の新人の子どう思う?」

 佐藤(あれ、わたしたちの話でしょうか)

 「安藤さんはいいよね。アニメ好きなのわかるし、なんていうかこっち側の人間っていうか」

 「素直だし、人当たりもいいしね」

 佐藤(よかった。安藤さんは好印象みたいです)

 「それに比べてもう一人の子はね。名前、なんだっけ?」

 「あー、敬語がすごい子ね。名前覚えてないな」

 「あの子はちょっとやりづらいよね。堅すぎだし、何考えてんのかわからないっていうか」

 「あー、わかるわかる。アニメも全然知らないしね」

 「真面目なのはいいけど、真面目すぎるのもちょっとね」

 佐藤「…………」


 佐藤(真面目でなにがわるいんですか)

 佐藤(真面目なのはいいことじゃないですか)

 佐藤(敬語だってできてて責められるのはおかしいです)

 佐藤(他の業界だったらこれくらい普通なのに)

 佐藤(アニメだって普通大人は見ないものですし)

 佐藤(私、この仕事向いてないのかも知れません)

 佐藤(それに――)

 佐藤「はぁ……」

 佐藤(やっぱりわたしは人とうまく関われない人間みたいです)


 佐藤(真面目すぎ、お堅い、一緒にいて疲れる)

 佐藤(いつもそんな風に言われてしまいます)

 佐藤(学生時代はそんなことなくて)

 佐藤(真面目でえらい、しっかりしてる、うちの子も佐藤さんみたいな子だったらよかったのに)

 佐藤(なんていっぱい褒めてもらえたのですが)

 佐藤(同じことをしてるのにどうしてうまくやれないのでしょう)

 佐藤「…………」

 佐藤「仕事、辞めたいです」


 佐藤(やっと仕事が終わりました)

 佐藤「お疲れ様です。お先に失礼します」

 宮森「うん、遅くまでお疲れさま」

 佐藤(宮森さんはまだ残られるんですね)

 佐藤(もう十一時を過ぎてるのに)

 佐藤(家に帰ったら十二時過ぎ)

 佐藤(お風呂入ってすぐに寝て)

 佐藤(起きたらまた仕事)

 佐藤(自分の時間なんてありません)

 佐藤(土曜日も勿論仕事ですし)

 佐藤(日曜日も行かないといけないかも)

 佐藤(こんなにつらい思いをして)

 佐藤(私、何のために働いているんでしょうか)

 佐藤(なんだか、わからなくなってきてしまいます)


 佐藤「……あ」

 佐藤(いい匂いです)

 佐藤(焼き鳥の屋台ですか)

 佐藤(そういえば、最近お酒も全然飲めていません)

 佐藤(夜食べるのはよくないことですが)

 佐藤(でも、少しくらいいいですよね)

 佐藤「すいません、一人です」

 店主「いらっしゃい。そこ、かけて」

 佐藤「はい」

 佐藤(もう一人お客さんがいますね)

 みーちゃん「ねえ! 聞いてます? わたし、ぜえったいCGで天下取りますから!」


 佐藤(完全にできあがってます)

 みーちゃん「あれ、お姉さんも一人ですか?」

 佐藤「はい、そうですけど」

 みーちゃん「じゃあ一緒に飲みましょうよ」

 佐藤「でも、私明日仕事がありますから」

 みーちゃん「そんなのわたしも一緒ですよ」

 みーちゃん「楽しめるときに楽しめばいいんですって」

 佐藤「いえ、職場で迷惑をかけてはいけないので」

 佐藤「今日は一杯だけと決めてますから」


 三十分後――

 佐藤「生追加! 早く持って来なさいよ!」

 みーちゃん「いい飲みっぷりですよ、佐藤さん!」


 佐藤「だいたいみんな自分勝手すぎるんですよ」

 佐藤「自分が楽したいからって適当なことして」

 佐藤「そのせいで私がどれだけ頭を下げないといけないか!」

 みーちゃん「大変なんですね」

 みーちゃん「でも、わかります。わたしも最近転職したんですけど」

 みーちゃん「すぐ辞めた適当なやつって思われてるみたいで」

 みーちゃん「みんな新卒の子を露骨に贔屓するんですよ」

 みーちゃん「わたしのほうが仕事できるのに」

 みーちゃん「やってられないです!」

 佐藤「藤堂さんも大変なんですね」


 みーちゃん「それですよ、それ」

 みーちゃん「藤堂さんってなんか堅いです」

 佐藤「あ……」

 「あの子はちょっとやりづらいよね。堅すぎだし、何考えてんのかわからないっていうか」

 佐藤「すいません……」

 みーちゃん「いや、謝らないでくださいよ。わたしは佐藤さんと仲良くなりたいから言ってるんですから」

 佐藤「え?」


 みーちゃん「佐藤さんって年下のわたしにも丁寧な口調で話してくれて」

 みーちゃん「すごいいい人だなぁって思ってですね」

 みーちゃん「もっと仲良くなりたいなぁって」

 みーちゃん「ダメですか?」

 佐藤「い、いや、ダメじゃないですけど」

 佐藤「じゃあ、美沙さん、とかですか?」

 みーちゃん「もう一声」

 佐藤「じゃあ、みーちゃんさんで」

 みーちゃん「うーん」

 みーちゃん「もう一声、と言いたいところですけど」

 みーちゃん「今日のところはそれで満足してあげます」


 翌朝


 佐藤「……もう朝?」

 佐藤(頭痛い)

 佐藤(仕事行かないと)

 佐藤「…………」

 佐藤(藤堂美沙、みーちゃんさん)

 佐藤(なんか仲良くなってしまいました)

 佐藤(お酒の席でのことですし)

 佐藤(きっと連絡を取ることはないんでしょうけど)

 「佐藤さんって年下のわたしにも丁寧な口調で話してくれて」

 佐藤(うれしかった、ですね)


 その夜


 佐藤「お疲れ様です。お先に失礼します」

 宮森「うん、遅くまでお疲れさま」

 佐藤(宮森さんはまだ残られるんですね)

 佐藤(もう十二時を過ぎてるのに)

 佐藤(今日はさすがに遅いですし)

 佐藤(まっすぐ家に帰らないと)

 「もっと仲良くなりたいなぁって」

 佐藤「…………」

 佐藤「覗くだけ。覗くだけしてみましょう」


 佐藤「すいません、一人です」

 店主「いらっしゃい。そこ、かけて」

 佐藤「はい」

 佐藤(もう一人お客さんがいます)

 木佐「ねえ、聞いてる? 俺、ぜえったいヒルクライムでてっぺん取るから!」


 佐藤(完全にできあがってます)

 佐藤「って木佐さんじゃないですか」

 木佐「あれ、ムサニの新人の人」

 佐藤「私、今木佐さんに明日の午前までって原画お願いしてますよね」

 木佐「…………」

 木佐「まあまあ、仕事のことは忘れて一緒に飲もうよ」

 佐藤「忘れられないです!」

 木佐「大丈夫大丈夫。もうほとんどできてるし」

 佐藤「……なら、いいですけど」

 佐藤「でも、私明日仕事がありますから」

 佐藤「今日は一杯だけと決めてますので」


 三十分後――

 佐藤「生追加! 早く持って来なさいよ!」

 木佐「いい飲みっぷりだよ、佐藤さん!」


 翌朝


 佐藤「……もう朝?」

 佐藤(頭痛い)

 佐藤(仕事行かないと)

 佐藤「…………」

 佐藤(木佐さん)

 佐藤(なんか仲良くなってしまいました)

 佐藤(お酒の席でのことですし)

 佐藤(きっともうあんな機会はないんでしょうけど)

 佐藤(悪くはない、ですね)


 その夜


 佐藤「お疲れ様です。お先に失礼します」

 宮森「うん、遅くまでお疲れさま」

 佐藤(宮森さんはまだ残られるんですね)

 佐藤(もう深夜一時を過ぎてるのに)

 佐藤(今日は本当に遅いですし)

 佐藤(まっすぐ家に帰らないと)

 「もっと仲良くなりたいなぁって」

 佐藤「…………」

 佐藤「覗くだけ。覗くだけしてみましょう」


 佐藤「すいません、一人です」

 店主「いらっしゃい。そこ、かけて」

 佐藤「はい」

 佐藤(もう一人お客さんがいます)

 池谷「もう働かない! もう働かないぞ! 働いてたまるか!」


 佐藤(完全にできあがってます)

 池谷「君も一人?」

 佐藤「はい、そうですけど」

 池谷「一緒に飲む?」

 佐藤「いえ、私明日仕事がありますから」

 池谷「そうか」

 佐藤「はい。今日は一杯だけと決めているので」


 三十分後――

 佐藤「生追加! 早く持って来なさいよ!」

 池谷「仕事なんかクソくらえだ!」


 翌朝


 佐藤「……もう朝?」

 佐藤(頭痛い)

 佐藤(仕事行かないと)

 佐藤「…………」

 佐藤(池谷さん)

 佐藤(なんか仲良くなってしまいました)

 佐藤(すごくダメな人でしたね)

 佐藤(木佐さんよりもひどいかも)

 佐藤(上には上がいるんですね)

 佐藤(お酒の席でのことですし)

 佐藤(きっともうあんな機会はないんでしょうけど)

 佐藤(悪くはない、ですね)


 佐藤(それにしても)

 佐藤(連絡、ないですね)

 佐藤(みーちゃんさん……)

 佐藤(きっと、社交辞令だったんですよね)

 佐藤(大丈夫、大丈夫)

 佐藤(わかってたことじゃないですか)


 その夜


 佐藤「お疲れ様です。お先に失礼します」

 宮森「うん、遅くまでお疲れさま」

 佐藤(宮森さんはまだ残られるんですね)

 佐藤(もう深夜三時を過ぎてるのに)

 佐藤(今日は本当に本当に遅いですし)

 佐藤(まっすぐ家に帰らないと)

 「もっと仲良くなりたいなぁって」

 佐藤「…………」

 佐藤「もう一度だけ」

 佐藤「最後にもう一度だけ行ってみましょう」


 佐藤「すいません、一人です」

 店主「いらっしゃい。そこ、かけて」

 佐藤「はい」

 佐藤(もう一人お客さんがいます)

 ずか「ねえ、聞いてます? わたし、ぜえったい声優で世界取りますから!」


 佐藤(完全にできあがってます)

 ずか「あれ、お姉さんも一人ですか?」

 佐藤「はい、そうですけど」

 ずか「じゃあ一緒に飲みましょうよ」

 佐藤「でも、私明日仕事がありますから」

 ずか「どうせわたしは仕事のないちくわぶみたいな声優ですよ」

 佐藤「私はちくわぶ好きですけど」

 ずか「ですよね!」

 ずか「ちくわぶだっていいですよね!」

 ずか「わたしたちがいるからこそ大根や牛すじが引き立つんです!」

 ずか「はぁ……」

 ずか「でも、牛すじになりたいなぁ」

 佐藤(これは付き合ってるとめんどくさそうです)

 佐藤「今日は一杯だけと決めてますから」


 三十分後――

 佐藤「生追加! 早く持って来なさいよ!」

 ずか「誰か! 誰か仕事をください!」


 翌朝


 佐藤「……もう朝?」

 佐藤(頭痛い)

 佐藤(仕事行かないと)

 佐藤「…………」

 佐藤(坂木さん)

 佐藤(なんか仲良くなってしまいました)

 佐藤(愚痴を聞かされているうちに朝になってましたね)

 佐藤(疲れました)

 佐藤(もう勘弁して欲しいです)

 佐藤「…………」

 佐藤(でも、たまにはこういうのもいいかもしれません)


 その夜


 佐藤「お疲れ様です。お先に失礼します」

 宮森「うん、遅くまでお疲れさま」

 佐藤(宮森さんはまだ残られるんですね)

 佐藤(もう明け方の五時を過ぎてるのに)

 佐藤(ちゃんと家に帰ってるんでしょうか)

 佐藤(心配になってきました)

 佐藤(今日は遅いというかもう朝ですし)

 佐藤(まっすぐ家に帰りましょう)

 佐藤「…………」


 佐藤(屋台は見ないようにして通りすぎました)

 佐藤(そうです。これが普段の私です)

 佐藤(今週の私はおかしかったのです)

 佐藤(なんでもない社交辞令に期待して)

 「佐藤さんって年下のわたしにも丁寧な口調で話してくれて」

 「すごいいい人だなぁって思ってですね」

 「もっと仲良くなりたいなぁって」

 佐藤(疲れてますね)

 佐藤(なんか涙が出てきちゃいました)

 佐藤「…………」

 佐藤(わたし、真面目なんですから)

 佐藤(そんなこと言われると)

 佐藤(期待、しちゃうじゃないですか)

 佐藤(私なんかと仲良くなりたいなんて)

 佐藤(そんなこと)

 佐藤(あるわけないのに)





 みーちゃん「――佐藤さん!」


 みーちゃん「佐藤さん、探しましたよ」

 みーちゃん「ひどいじゃないですか」

 みーちゃん「全然返信くれないなんて!」

 佐藤「え、でも、LINEには何も」

 みーちゃん「これ、アップデートしてないでしょ」

 みーちゃん「だから通知がこないんです」

 みーちゃん「ほら、ちゃんと起動すると」

 みーちゃん「いっぱいきてるじゃないですか」

 佐藤「……そうだったんですね」


 佐藤「みーちゃんさん」

 佐藤「その……」

 佐藤「私と、友達になってもらえませんか?」



 佐藤(声が震えてしまいました)

 佐藤(顔を見るのが怖くて)

 佐藤(目を閉じて顔を俯けました)

 佐藤(少しして)

 佐藤(みーちゃんさんは言いました)



 みーちゃん「何言ってるんですか」

 みーちゃん「わたしたち、もう友達じゃないですか」


 佐藤(仕事は相変わらず大変です)
 
 木佐「大丈夫、大丈夫。俺本気出すとすごいから」

 木佐「それよりまた今度飲みに行こうよ」

 佐藤「木佐さんが今日中にあげてくれたら行ってもいいです」

 木佐「えー、明日じゃダメ? いいでしょ?」

 佐藤「ダメです」

 木佐「しょうがないなぁ」

 木佐「わかった。今日中にあげる」

 佐藤「お願いします」


 佐藤(仕事量は多いですし、残業代は出ないです)

 佐藤(アニメの話もよくわかりません)

 佐藤(陰口を言われることもあります)

 佐藤(でも、もうちょっとがんばってみようと思います)

 佐藤(あ、LINEですね)

 みーちゃん『今夜、飲みにいきませんか?』

 佐藤「……ふふ」

 佐藤(いけないいけない。顔を引き締めないと)

 佐藤(いきます、と)


 佐藤(またLINEだ)

 木佐『今日あげるんで今夜行きましょうよ』

 池谷『今夜飲みに行きませんか?」

 ずか『今夜時間ありませんか?』

 佐藤(うーん。わるいけど)

 佐藤(今日はみーちゃんさん優先で)


 佐藤(真面目すぎ、お堅い、一緒にいて疲れる)

 佐藤(やっぱり、私は人とうまく関われない人なんだと思います)

 佐藤(でも、そんな私を好いてくれてる人もいるみたいで)

 佐藤(私が思っているよりも)

 佐藤(私は悪くないのかもしれません)


 みーちゃん「佐藤さん、こっち!」

 佐藤「はい、みーちゃんさん」

 みーちゃん「もう、みーちゃんさんじゃないですって」

 佐藤「……そうですね」

 佐藤「みーちゃん」


 おわり

以上。
感想もらえるとうれしい。

あれ?これいつもの人?
なんか質感がちがうね

>>39
軽いの続いたので重めのやりたかった。
佐藤さんかわいい。

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