女剣士「死に場所を求めて……」 (18)


私は飢えていた。

命を投げ出した試合。

命を『私』を晒け出した死合いに飢えていた。

そう、言わば全てだ。

己の持ちうる技術、存在そのものを賭けて戦える存在を求めていた。

しかし、そんな相手に簡単に出逢えるものではない。


私は日のある内から酒場で『それ』を捜す。

兵は時間を選ばない、紛い物もいれば本物がいることもある。

今まで『本物』と思った者と戦ったが、全ての試合に勝利した。

しかし今日は違った。



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自称用心棒、自称賞金稼ぎ、その他諸々……

そんな彼等とは明らかに毛色が違うモノがいる。

見るからに未成年。

振る舞いからして店の客寄せ、又は従業員でもなさそうだ。

酒場に似付かわしくない存在だ。

だというのに、誰もが彼を認めている様子。


正直気に入らない。


小僧一人に呑まれる客と私自身に腹が立つ。

しかし私は苛立ちとは逆に彼を見て確かに感じた。

肌、皮膚、肉と精神、五感が感じた。 

『彼』。

いや、この場に似付かわしくない『あの少年』こそ……

真の兵だと……


画像貼れるのか……ふーん…


肉が強張り脚は震えているが不思議と迷いはなかった。

私が何を目的に立ち上がるのかを察したのか、賑やかだった店内が静まり返る。

席を立った時の椅子の音だけが響く。

そののちに鳴った音と言えば私自身の足音くらいだ。


求めるモノに近付く、体は何とか拒否しようとしている。


私はそれを抑え込み重い一歩を踏み出す。

床の軋む音さえ骨に響くようだ……

客の視線全てをこの身に浴びているが嫌悪感はない。

それは『女』としてではないからだろう。


無謀な挑戦者か、或いは死にたがり。

そう思われているに違いなかった。

私の腰にある剣を見ては溜め息を漏らす者ばかり。

時間が酷くゆっくりに感じられた。


「やあ、何の用だい?」


正面に立ち席に着いた私に、まだ幼さが残る笑みで問う。

何の用かだと……笑わせるな。

目的など初めから分かっているのに何を言うか。

そう言ってやりたかったが小僧相手にむきになりたくはなかった。


「この酒、珍しい色してるだろ?
 これ実は俺が無理言って作らせて貰ったんだ。
 あんたも一杯飲むかい?」

「いらん。酒を飲みに来たわけじゃない」

生意気にも酒を嗜む姿に腹が立ったが何故か様になっている。

腰に差す物から見ても、ただの小僧ではなさそうだ。


「そんなに斬り合いがしたいのかい?」

「ああそうだ。私と試合いして欲しい」


汗が頬を伝い、膝は情けなく震えている。

事実、私は臆している。

にもかかわらず、口から出たのは逆の言葉だった。

目の前でゆったりと酒を飲む異様な雰囲気の小僧を、私は心底怖れている。


「その前に一つ訊きたいんだけどいいかな?」

「何だ」

「俺はあんたを斬り殺した後で全て奪うが構わないな」


喉元に刃を突き付けられたような心地がした。

汗から熱が抜け、冷水が首筋を伝っていくようだった。

「どうした。答えろ」

先刻までのおどけた表情や『子供らしさ』は完全に消え失せた。

その異様さ、体感したことのない圧力が私を包む。

『物の怪』

ふと、そんな言葉が浮かんだ。


「ふふ、俺が怖いのか?まあ無理もないけどな」

「黙れ……いいだろう、私が死んだら好きにするがいい」

当たり前のことだ。

試合ったなら者なら誰しもそうする。

試合いに勝つ度私もそうしてきた。

敗者。死体に権利などない、命を含め全てを奪われる。

そんなことは分かり切っていたはずだ。


だと言うのに……

面と向かって改めて訊かれて血の気が引いた。

遠くから声が聞こえる。

彼等は何やら賭けをしているようだ。

途切れ途切れだが、無謀な挑戦者が何分立っていられるかなどと言っている。

「相変わらず喧しい連中だ。さあ、外に出ようか」

それが私のことだと気付くまで、暫く時間が掛かった。


「ふふ、俺が怖いのか?まあ無理もないけどな」

「黙れ……いいだろう、私が死んだら好きにするがいい」

当たり前のことだ。

試合った者なら誰しもそうする。

試合いに勝つ度私もそうしてきた。

敗者。死体に権利などない、命を含め全てを奪われる。

そんなことは分かり切っていたはずだ。


だと言うのに……

面と向かって改めて訊かれると血の気が引いた。

遠くから声が聞こえる。

彼等は何やら賭けをしているようだ。

途切れ途切れだが、無謀な挑戦者が何分立っていられるかなどと言っている。

「相変わらず喧しい連中だ。さあ、外に出ようか」

それが私のことだと気付くまで、暫く時間が掛かった。


※※※※※

「あんたの好きな時に斬りかかって来ていいぞ?待っててやる」

剣も抜かず無防備な小僧相手に、何も言い返すことが出来ない。

嘗めるな小僧と言ってやりたかったが、唇は微動だにしない。

遠巻きに見る群集の声など気にならなかった。


目の前に立つ者が何なのか、私には最早分からなくなっていたからだ。

身長や筋力は私の方が圧倒的に有利なはずだ。

そう思ってみるものの、試合の後に自分が立っている姿が想像出来ない。

「お、来た。思ったより速いな」

相手が何者か分からぬまま、気付けば走っていた。


いつも通り、上段に構え真っ直ぐに間合いを詰める。

あっという間に私の間合いだ。

勢いの乗った剣を叩きつけるように振り下ろす。

ここで初めて動いた。


小さな体は私の懐に入り込むと同時、柄を握る手を両手で包んだ。

圧を強め潰そうとするも無駄に終わり、剣の勢いは完全に止められた。

別に驚きはしない、初撃を止められたことなど多々あったからだ。

ただ、死合う相手の『姿』が小僧だということだけだ。


「あんた、生きたいとは?」

「……戦いの最中に死にたいとは思う。が、生きたいと考えたことはない」

とは返したものの、言葉とは裏腹に体は生きようとする。


汗一つない、涼やかな顔だ。

よくよく見れば可愛らしい顔をしているな。

私はどうだろうか?

きっと見るに耐えない酷い面をしているに違いない。

「中々に重いが、終わりか」

「ああ、次で終いだ」

元々は生き延びる為、勝つ為に身に付けた技術。

掴まれた手を力任せに解き、左手で背にある短剣を抜く。

後は腹に短剣を突き立てるだけだ。

いつもなら、これで終わる。


「うん。止めたわけだが……続けるか?」

容易く腕を取られ、突き刺すには至らない。

初見で看破されたことに不思議と怒りや驚きは一切なかった。

私は冷静だ。後は残る一つの仕掛けを作動させるだけだ。

「……これ、あんたの手造り?」

「ああ、そうだ」


柄から離れた刃は腹部に刺さったが、さほど勢いはなく傷は浅い。

更に深く押し込むべく、右足がいち早く反応した。

刃が深く突き刺さる。

しかしそれだけでは止まらず、私の足の甲を貫いた。

全身に痺れに似た痛みが走る。


ああそうか……

あの一瞬で刃を抜き、私の足裏に向けたのか……

何をされたのか理解した時、私は体勢を崩し小僧の姿をした物の怪を見上げていた。

一つの言葉が浮かび、口にした。


「……怖い」


「それは死ぬことが?」

「いや、お前という存在がだ」

呑み込まれそうな、夜の海のような不気味さ、怖ろしさ。

知らないから怖ろしいだけなのかもしれない。

姿や所作を見れば実力を測ることは出来るが、この物の怪には通じない。

何も知らずに戦ったのは、これが初めてかもしれない。

しかし私には、どうしても同じ人間だとは思えなかった。


「俺もあんたが怖いよ。
 死を前にして平気でいられるんだから。」

「私が怖い?ふん、物の怪が何を言う。」

「ふふ、俺は物の怪かあ。
 面白いけど……『死人』に言われたくはないかな」

つづく

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