【StarboundSS】鳥人間は真実を知ったようです (58)

●イギリスの独立系ゲーム会社Chucklefishが手掛けるSFサンドボックスゲーム「Starbound」の世界観を基にしたSSです

●設定はできるだけ原作から取り入れてますが、一部勝手に補完してたり、オリジナルだったりする設定もあります

●その辺が許せる原作プレイヤーはごゆっくり

●もちろん未プレイの方も歓迎です

●フローランかわいいです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1427376355

困ったことになった――

探索中の惑星から逃げ出す際、あの野蛮極まりない種族によってシップが攻撃を受けた。
連中の使う武器は極めて後進的で、獣を狩るのに使う槍だとか、弓だとか……

――大した傷は受けていないだろう。もし大きな損傷があっても、次に降り立った星で修理すればいい。

俺は甘く見ていた。
急速にシップの燃料が減っているのに気付いたのは、標準時間で約60時間後だった。


実際のところ、あの惑星から離れた直後には、それほど深刻な事態には陥っていなかったはずだ。
                      スペースデブリ
おそらく、宇宙空間に出てから、運悪く宇宙ゴミが傷口にぶつかって追い打ちをかけた、そんなところだろう。
障害物回避のためのレーダーとOBL(Operation By Light。細かい操縦はシップ本体が行ってくれている)には、改善の余地があるな。
メーカーに報告しておきたい。

何にせよ、墜落を避けられたのは不幸中の幸いだ。
墜落してシップが大破してしまえば、最悪惑星からの脱出は不可能……いかにそれが、生命体の生存に適していない環境であってもだ。
だから、少なくはない量の燃料をタンクから垂れ流しながらも、宇宙船の遠隔サーフィススキャナーによれば「安全」と判断されたこの星に不時着できた時、
まずは一安心といった心もちだった。

――「奴ら」の集落を目にするまでは。

奴らは、その名をフローランという。この宇宙において存在を確認されている、いくつかの「種族」のうちのひとつだ。
その響きは、あるいは甘い香りを放つ花を想起させるだろう――実はその通りなのだ。
連中はまさに、植物が特異な進化を遂げたモノであるとされる。
しかし、その姿は遠目に見ればヒューマンやエイペックスと見分けがつかないかもしれない。

フローランは、二足歩行する植物なのである。

ただし、その先祖は、植物は植物でも「食虫植物」の類だという。


平和を象徴する草花のイメージとは裏腹に、連中は一言で表せば「蛮族」だ。
耳障りな「s」の音(主に「シ」の音だ)と共に、他者の生命を刈り取ることを目的とした武器を振り回す。
陳腐な言い回しを持ち出すなら、冷酷な獣……戦闘マシーン……そういったところか。

奴らの住居は、大きな木をくり抜いて造られる。それだけだ。それ以上の快適さを求めるという発想がそもそもないのだろう。
だから、その攻撃性を鑑みれば意外なことだが、使う武器も洗練されていないのだ。

そうでなければ、俺のシップは大破を免れなかったかもしれない。奴らが蛮族で助かった。
……いや、それはおかしいな。

とにかく、俺は惑星探索の途中に奴らに襲われ、命からがらあの惑星を脱出した。
というのに。
不本意にも立ち寄ったこの星で俺が最初に見たものは、あの散立する忌まわしい巨木と、その根元で何やら火にくべている奴らの姿だった。

空から降りてくる無機質な物体を見て、「その中身に」興味を持たない奴らではない。

なんとか谷の底に着陸したため、すぐに発見されることはないはずだ。
しかし、どのあたりに落ちたかは見当を付けられていて然りと思うべきだろう。


――困ったことになった。

ともあれ、シップの修理さえできれば、再び宇宙に飛び立てる。
その間の安全を確保すればいいのだ。

燃料タンクの損傷に応急処置を施してから、アルファベットのHの形をした黄色の機械を取り出した。
見ようによっては、変わった形の銃に見えるかもしれない。
片手で持てる程度の大きさに反してずっしりとした重みがあるそれは、マターマニピュレーターといって、かなり値の張る……だがそれだけに実用性に富んだメカである。
宇宙を股にかける冒険者、スターバウンダーにとっては必需品と言っても過言ではない。

この機械は、トラクタービームを発射して物体を動かすことができるのだ。
もちろん、持ち上げる質量に限界はある。たとえば俺が乗ってきた宇宙船を動かすことはできない。
生命体に対しても使えるのだろうが、推奨はされていない。理由はまあ、お察しだ。

俺はそれを、シップの周りの土に向けて発射する。ビームの先端を受けた周囲の土が浮き上がった。そのまま数メートル移動させ、設置する。その作業を繰り返す。
つまり、シップを中心にして、簡易的な土と石の砦を築こうというわけだ。

実は、前回の惑星でも同じ安全対策を取っていた。しかしフローランどもは、いつの間にか壁の外側に張りこんでいたのだ。
シップが離陸した途端、攻撃を開始。高度のおかげで、ほとんどは外れたのだが……ついていない。

さて、築城はうまくいった。いまやシップを囲むように、高さ10数メートルの壁が屹立している。

――ようやく本格的な修理が始められる。
俺は船内のボックスから、修理キットを取り出した。

*――――


「……」

鮮やかな緑色の肌――セルロースで構成されているため、通常の動物よりも遥かに頑丈だ――に包まれた「そいつ」は、お気に入りの場所からその光景を見ていた。
空から落ちてきた、巨大な機械仕掛けの鳥。
そいつは、それが何であるか知っていた。グリーンフィンガー――族長に聞いたことがあったのだ。
スターシップ
宇宙船。それは空よりも高く、文字通り天上を駆ける船だ。

どうやら、ここからたった数百メートルほど先に降り立ったそれは、「怪我」をしているようだ。
ならば――

フローランは、裂け上がった口角を更に持ち上げた。


*――――

やはり困った。
外傷の修理はなんとかなりそうだが、ある重要なシステムが使い物にならなくなっていることが判明した。
「FTLドライブ」
……何を隠そう、これこそがスターシップをスターシップたらしめ、スターバウンダーをスターバウンダーにするシステムだ。
Faster Than Light、超光速惑星間航行。使用中、時間は止まる。燃料さえあれば、どこまででも行けるのだ。

が、今はそれを使用することができない。
これは非常にまずい。遠距離移動ができないのとイコールだ。

自己診断によると、エルキウス・クリスタルの喪失が原因のようだ。
エルキウス・クリスタル――詳しくは知らないが、装置の安定化に利用される触媒か何かだったはずだ。
問題はやはり、俺の知識不足か。
はっきり言えることはひとつ、すなわちこの結晶が、そんじょそこらで手に入る代物ではないことだけだ。
どうしたものか――と、空を仰いだその時だった。

「……!」

カラン。
俺の耳が、乾いた音を捉えた。
音の出所は明白だった。「砦」の外側、石が落ちる音。自然発生ではない。
意識を集中してみれば、そこで何かが動く音も聞き取れるからだ。
現在進行形で「砦」をよじ登っている何者かがいる。
    モンスター
現地の生物である可能性は完全には否定できないが、ほぼ垂直の壁を登れるような地上生物は見たことがない。
他の冒険者かもしれないが、呼びかけをしてこない以上、敵意があると覚悟しておくべきだろう。
そして、最も危惧すべき可能性はもちろん、あの野蛮なフローランだ。
いずれにせよ。

10メートル以上あるんだぞ、登るか、普通……!

鼠返しを付けておくべきだな、と考えながら、愛用の銃に弾を込める。
鈍い青色に輝く、長めの銃身を持つアサルトライフル……ストライクペルター。高速で撃ちだされる弾は、高い貫通力を持つ。
さあ来い。頭を出した瞬間に、吹き飛ばしてやる――

だが、

カラン。
「げっ……うああっ!」
ドサ。

「……」

足場にしていた石が崩れたのか。
下に落ちたらしい。けっこう高いところまで来ていたはずだが。

「いってーな! ったく……」

壁越しに聞こえる声は、ヒューマンの少女の声に似ているが、それにはない鋭さを持っていた。
やはりこの星のフローランだろう。もはや隠れる気はないらしい。
ふむ、思ったより見つかるのが早かったな……まずいかもしれない。

――いや、待てよ。相手は1人なのか?

あの野蛮極まりないフローランも、基本的には群れで行動する。
彼らの狩りにおいては、最終的に獲物を仕留めた者が最も偉いとされるのではあるが、狩りのプロセス自体は複数人単位で行われるのが普通だ。
また、彼らが「非植物」に対して異常な攻撃性を示すのは、ただそれを生命だと認識できないからだという説がある……真偽の程は確かではないが。

ものは試しだ。

「おい、聞こえるか!」

俺は声を張り上げる。これが伝わるといいんだが。

「そこにいるのは分かっている。何か用があるなら言え」

言って後悔した。警告の言葉も、向こうから尻尾を出したこの状況では少し気恥ずかしいものがある。
少し間を置いて、返答があった。

「っそれ、スターシップだろ? 見せてくれよ」

今までに聞いた中では、かなり訛りは少ないが、それでもあの独特な摩擦音は隠せない。フローランのものだ。
なんと、あの蛮族が見学目的で動くとは。いや、もちろん信用するわけではないが。

「壊れてんだろ? 役に立てるかもしれないぜー!」

なんだと?
誰が見ているわけでもないが、俺は首を振った。ありえない。
何しろ、奴らの文明は原始時代レベルなのだから。

だが、そんなに分かりやすい嘘をつくだろうか?
なるほど、着陸するシップを見て、それが宇宙船だと分かるほどには知識があるということなんだろうが……

「とにかく、そっちに入れてくれよー! 得物は持ってないからさ!」

信じるかよ。

「あ、やっぱナイフは持ってた!」

「……」

「今、捨てた!」

だからここからじゃ確認できないと……
いや、むしろ入れてもいいような気がしてきた。
もし間抜けなフリだったとしても、この距離なら仕留められる。敵の数が少ないうちに――

「ロープがあるから、この壁の上になんか引っかけるものを置いてくれればいい!」

向こうはどうやら、完全に俺を説得した気でいるらしかった。

今日はここまで
書き溜めってこんなに早く溶けていくのか……

レスありがとうございます
思ったけど、原作プレイヤーってこんなところにいるのかしらん
せめてコンソール化されたらなあ、というか正式版が出ればなあ

では始めます

ツタをより合わせて作ったロープを伝って降りてきた姿は、概ね想像通りのものだった。
明るい緑色の身体に、短い腰布をまとっている。首の付け根や肘など、大きな関節にあたる部位には鋭い葉が生えている。
体格は華奢だが、フローランは見た目以上に硬く、重いのが特徴だ。
頭の上部を覆うように細い葉が茂っており(さながらヒューマンの髪のようだ)、そいつはツタを使って「髪」をひとつにまとめていた。
鋭く釣り上がった真っ黒な目の真ん中にある瞳は、既に傾いた日を受けて赤く輝いている。
そして口――植物の身でありながら、肉を食らうために鋭く裂けたそれは、開くと巨大なハエトリグサのようだ――ここまで大きいと、見る者に恐怖心を植え付けるだろう。

見る限り、本当に武器は持っていないようだ。

            エイビアン
「よう、冒険者。ふーん、鳥人族だったんだ……」

「そういうお前は、現地のフローランか」

「ああ、名前はフローラ。へへっ、種族代表って感じだろ?」

そう言って笑う。それがどうにも攻撃的な笑みに見えてしまうのは、先入観のなせる業か。
それにしても、やはり似合わない名前だと思う。
フローラ。花。ヒューマンが昔作ったビデオゲームに、同名の女性が登場するものがあった。勇者の血を引く良家のお嬢様。
今にして思えば、なんとも陳腐な設定だ。

「イバだ。見ての通りのスターバウンダー」

「よろしく、イバ。何もないけど、歓迎するぜ」

「……」

そう言って、そいつは手を差し出した。
フローランらしからぬ言動に、つい困惑する。

「あー……いや、言いたいことは分かるけどさ。ま、アンタを焼き鳥にしようってんじゃないんだ。これは本当だぜ?」

こちらが何も言っていないのに、焦ったように弁解するそいつは、確かに悪い奴ではないようだった。

「分かっている。よろしく、フローラ」

――――


話を聞くに、俺がフローランに対して抱いているイメージは、残念ながらほとんどそのまま、ここの部族にも当てはまるようだ。
俺と知り合ったそいつは、はっきり言って異端である。無論、こちらにとってはいい意味で――とても「野蛮」とは言えない気質の持ち主なのだ。

フローラの祖父は先代のグリーンフィンガー(フローランの族長はそう呼ばれる)であり、フローラに様々なことを教えてくれたそうだ。
他の種族のこと、他の星のこと、宇宙を股にかける冒険者たちのこと。

「冒険者と話すのは、初めてだ」

「それはよかった」

珍しいものでも見るように――実際滅多に見られないのだ――見つめられると、さすがに照れ臭い。
視線を逸らしつつ、

「で、感想は?」

「うーん、よく分かんねー。違う種族つっても、意外と普通に話せるんだな」

「ああ。俺もフローランとまともに話したのは初めてだ」

「マジ?」

宇宙広しと言えど、自らフローランに関わろうとする奴なんてそうはいない。いるとすれば、せいぜい研究者くらいのものだろう。
それも、安全圏からの観察が主な作業に違いない。

危険を冒してまで交流するメリットもない。
そう結論せざるを得ないほど、連中は凶暴な「獣」に過ぎないのだ。

「ま……そうだよなあ」

溜息。その視線の先には、おそらくそいつが住む村があるのだろう。

「良くないと思うんだけどな」

具体性に欠ける言葉だったが、意図は十分理解できた。
彼女は(注。フローランは単性の種族であり、オスもメスもない。あるのは個性だけだ。
が、これもあまり当てにならない。
というのも、彼らは個性を発揮するための知性すら持ち合わせていない場合が多いからだ)自分の種族の現状だけでなく、未来も憂えているのだった。

「フローランは新しい種族だ。まだまだ変わっていくだろう」

「……そうかな?」
                                 
「ああ。俺たちエイビアンだって、昔は酷いもんだった。いや、今だって……」

俺が元いた惑星を飛び出した理由……
あの時は、逃げたつもりはなかった――だが、志を貫くための行動を起こしているかと問われれば、肯定できない。
面と向かって俺を批判できる者がいないのも確かだろう。それに甘えているのかと言えば、そうなのかもしれなかった。
しかし、だからと言ってどうすることもできない。

「どうしたんだ?」

「何でもない。とにかく、どの種族も大変だってことだ。程度の差はあれ、な」

最近、特に悲惨な目に遭ったのがヒューマンだ。事件の顛末はこうだ。

ある惑星に、彗星が接近していた。近くを通過する彗星など、珍しくもない。当然、それが注目を浴びることはなかったのだ。
だが、事態は急変した。彗星が突然進路を変え、惑星に向かって加速し始めたのだ。まるで自らの意志を持っているようだった。
いや、実際にそうだったのだ。
それを破壊する暇もなく、彗星は地表に「降り立ち」、中から無数の触手が現れた。
――そして、星を喰らい始めたのだ。

「はあ? なんだそりゃ」

ヒューマンの大量死に関する話を聞いたフローラが、素っ頓狂な声を上げる。

「残念ながら、これが本当の話でな。宇宙の神秘を感じるだろ」

「……わけわかんねー」

もっともな反応だった。実際にその光景を見た者ですら、何が起こっているのかを理解できなかったというのだ。
そういえば、その怪物には名前が付けられたのだった。「テンタコメット」、間抜けな名前だ。

tentacle(触手)のcomet(彗星)。
だが、名前を付けることで、俺たちは対象を認識の元に置こうとする。
「テンタコメット」は途方もない天災ではなく、並み居る宇宙怪物の仲間となったのである。
今は無理でも、いつか誰かの手によって、倒されることもあるだろう。

「ところでフローラ、お前、機械に強いのか?」

「へ?」

「いや、さっき言ってただろ。シップの修理の役に立つとか」

「あー……」

「……まさか、ハッタリなのか?」

それならそれで、見上げた度胸だとも思えるが。

「いや、実は……」

「なんだ? 嘘なら嘘と言え。別に怒らん」

落胆はするけどな。しかし、こうしてフローランと交流を持つことができたのは、それだけで冒険者冥利に尽きるというものだ。
俺の目的は、冒険することではないとはいえ。

「その……アンタの前にここに来た奴がいたんだけど……そいつのシップが残ってるんだよ」

ここに冒険者が来た。過去形にも関わらず、シップが残っている。
この善良なフローランが妙に言いにくそうにしていたことからして……なるほど、つまりそういうことか。


「どういうことだ?」

察しはついたが、あえて分からないフリをする。
このフローランが、一般的なそれと大きく異なる性質を持っていることも、
種族の伝統というべき「その性質」をよく思っていないのも十分分かっていたが。

「だ、だから……食われちまったんだよ。アタシらフローランが、殺して食ったんだ」

禁忌の言葉をおそるおそる呟くように、彼女は言った。

「……そうだったのか」

冒険者が惑星の探索中に命を失うのは珍しいことではない。
モンスターに襲われての死亡、高所あるいは地下洞窟からの落下死、水に飲まれての窒息死、毒死、凍死……
死因は様々だが、不注意でエイビアンの神殿に侵入でもしない限り、基本的にいきなり他の種族に攻撃されることはない。

だが、フローランだけは別だった。

こんな話を聞いたことがある。
ある冒険者が、フローランのパーティに招かれた。
目的地に着いた彼は、すぐに自分が下劣な罠に引っかかったのだと気付いた。
その星の地下には、アリの巣のように複雑なトンネルが張り巡らされていた。
時々通路は開け、大きめの部屋に突き当たったのだが、その部屋の床は、何かの骨で白く埋め尽くされていたという。
彼は救難信号を発しながら、トンネルの中をなんとか逃げ回り、ハンターの目を掻い潜って、命からがら惑星を脱出した。

この話から分かるのは、フローランは野蛮ではあるが、同時に狡猾であり、獲物を罠に嵌めるための策を巡らせることもできるということだ。
モンスターにはない、厄介な性質だ。まさしく歩く食虫植物といったところか。
更にフローランは、討ち取った獲物を「飾り付ける」風習がある。これこそ、彼らが他の種族に怖れられる所以だろう。
それも含めて――

「よくある話だ」

俺がそう言ってのけると、フローラは信じられないといった目つきでこちらを見た。

「そんなことをいちいち気にしてたら、冒険者は務まらないんでな」

そんなこと。
とはいえ、俺だって「その場面」を見たことがあるわけじゃない。

俺は冒険者の視点で返事をしたが、それが無意味なことだと理解していた。
フローラの罪悪感を無視し、気持ちの主体を俺にすり替えたのだ。

つまり、この状況で不安になっている自分に言い聞かせる言葉だった。

忌み嫌う光景を何度も目の当たりにしなければならない運命にある彼女は、確かに同情はする。
真実を知っていてもどうすることもできない、というその気持ちは理解できるつもりだ。

だが、それが大きな悲劇だとも思えなかった。
余裕がないのだ。

「冷たいんだな。そいつはアンタと同じ、エイビアンだったんだぞ」

少女の視線と声には、明らかに非難の色がこもっていた。
同族か。どちらだろう。
星天の徒か、それとも地触の民か。「評議会」でないのは確かだろう。
どれでも構わない。

「なんだって? それなら、シップも同じパーツを使ってるかもしれない。いいことを聞いたな」

「……けっ。見損なっちまうぜ」

冷血の誹りを受けようが、俺までここで死ぬわけにはいかないのである。

というところで切り上げ

原作だとフローランはガチでたどたどしい話し方をしますが、あまりに読み辛いのでほとんど普通に喋らせてます

原作プレイヤーktkr
フローランパーティミッションまでその本性に全く気付かず、混乱した日本人プレイヤーは数知れないと思ってます

書き溜め消滅の予感
一応ミッション1までやるつもりです

____


ちょうど日が沈んだため、俺たちはフローランの集落近くにある廃棄された宇宙船に簡単に近づくことができた。
俺のシップからここまでの所要時間は、およそ3時間。かなり歩いた。

気付いたこと……この星の夜は非常に暗いようだ。

俺たち鳥人族の特徴として、夜は目が極端に見え辛くなる。
だから、惑星探索の際には暗視ゴーグルが手放せない。
それが、いつもの設定では明るさが足りなかった。
太陽に比べて月が大きいのだ。ひょっとすると、他の着陸可能な惑星が月なのかもしれない。

一方、フローラは――つまり、他のフローランにも当てはまるのだが、この暗さの中でも問題なく進路を取れるらしかった。
視界が利くというほどではないが、匂いや触覚で情報を補完するらしい。いかにもな特技だと思った。
何より、土地勘がある。
こと、この少女に限っては、村から離れていることが多いのだ。

打ち合わせの過程で聞いたところによれば、フローラはこの集落の端っこのあばら家に住んでいる、というより、追いやられたらしい。村八分というやつだ。
そこまでの扱いを受けてなお村を追い出されないのは、先代グリーンフィンガーの口添えがあってこそだという。

「ま、別に困ってないけどな。食糧が足りなけりゃ、自分で取ってこればいいし……たまに邪魔されるけど……それに、村の外にいくつか隠れ家を作ってある」

そのうちのひとつから、俺のシップが着陸する様子を見ていたらしい。
隠れ家には多少の食べ物が保存してあり、閉じこもっていれば夜間も安全に過ごせるのだ、とフローラは語った。

そこまでするのなら、なぜいっそ村を出ないのかと不思議に思った。
――だが、考えてみれば簡単なことだ。その行為には意味がない。
住む場所が変わるだけ。いなくなるだけ。緩やかな死……空しいことだ。

とにかく、フローランの同行者がいるということは、彼女が異端者扱いされていたことも含め、俺にとってはありがたいことだった。
もし放棄されたシップの中を動き回る影に誰かが気付いたとしても、この少女の仕業ということにできるだろう。
彼女が裏切って、あるいはそれ以外の原因で、フローランたちを相手どることになったなら……

その時のため――気になるのは、相手の戦力だ。
具体的には、殺された冒険者が所持していたであろう銃の類。
冒険者なら、銃器は持っていただろう。それがフローランに回収されていたら、この上ない脅威になる。
だが、運はこちらに向いていた。

「いくつかあったみたいだけど、壊しちまった。おっかねえからって」

もっとも、フローランのハンターが得意とするのは接近戦だけではない。弓も使いこなす。
ストライクペルターは威力はめっぽう高いが、リロードに時間がかかるのが難点だ――隙がある。
たとえそうした弱点がなかったところで、あまりに多くの敵を相手にすれば、いかなる戦士であっても窮地に追い込まれることになるのは確実だが。

さて、殺されたエイビアンがこの星にやってきたのは、およそ1月前のことらしい。
集落の近くに降り立った同族は、何を思っていたのだろう。
フローランの凶暴性を甘く見ていたのか、他に意図があったのか……何にせよ、彼は瞬く間に包囲され、文字通りひん剥かれたというわけだ。

運がいいことに、フローランのハンターは宇宙船を破壊しようとしなかったそうだ。
セキュリティが働いたらオート戦闘システムが起動して大変なことになっていたかもしれないが、奴らの本能は優秀だ。
FTLドライブの修理に使えるパーツ、もしくは燃料が残っているといいのだが。

仄かな期待を抱いていた俺だが、結果は予想以上のものだった。

「これは……かなりきれいに残ってるな。しかも同型艦だ」

「ええ? どこがだよ」

「中身さ」

エイビアンらしく、山吹色の塗装が施されている宇宙船。
全長は35メートルほど、全高は儀装を含めて18メートルほど。装飾が多く、ステルス性は高くない。主兵装に10センチ誘導ロケット砲。
未改造だ。
デュラスチールやらヴァイオリウムやらの合金の骨格を強化ファインセラミックスで包んだスターシップは、その雄姿をほとんど損なっていない。
……俺のとはエライ差だ。通常の仕様を知らなければ、確かに元々同じ物だったとは思えないな。

原型を見て今更思い出した。そういえば、宇宙船は大気圏内で燃料が切れても墜落しないような作りになっているんだったか。
完全に失念していた。もっとも、それが分かっていてもわざわざ危険を冒す気はないが。

船内に入って内装を見てみたが、そちらは奪い去られるか、壊されるかしていた。
シップロッカーの中身も空だ。隠れる時はここでいいか。
シップ本体以外は残っていない、そう考えてよさそうだった。

では、燃料はどうだろうか。操縦席近くのゲージを確認する。

「……あった!」

俺は小さく歓声を上げた。

最悪、救難信号を出すことも考えていたが……それはあまりに運任せだ。
それよりは、この星の地下深くに埋まっているであろう石油から推進剤を精製した方が、時間はかかるが確実だ。
まとまった量のリキッド・エルキウスが手に入ったのは僥倖だった。
これでこの星系の中ならとりあえず好きに移動できる――もっとも、FTLドライブが使えないなら、何週間もかけて惑星間を移動する必要があるのだが。

「よかったじゃん。それがありゃ、宇宙を飛べるんだろ」

「そうだな。まずは一安心だ」

死者に助けられる。こういうことがままあるのも、冒険者の生活だ。
やっていることは墓荒らしと変わらないのだが、これはもはや暗黙の了解だった。

次はFTLドライブだ……。
この機構は精密ゆえに、壊れているのかどうかを目で見て判断することは到底不可能だ。一度水に濡れたコンピューターが生きているかどうかが分からないように。
もちろん、考えるまでもなくぶっ壊れている場合は別だが。
だから自己診断機能を使うのだが、この場合はとりあえずその必要はない。
俺のシップを修理するのには、エルキウス・クリスタルさえ十分な量が確保できればいいからだ。

FTLドライブのハッチを開けようとした時、背後から思いもよらない言葉が放たれた。

「なあ、アタシも乗せてくれよ」

俺は思わず振り返った。声の主はもちろん、この変わった協力者だ。
言った本人が驚いている。つい口をついてしまった、という様子だ。
だがフローラは、ばつが悪そうにしながらも続けて言う。

「ダメか?」

まさか、クルーになりたいという意味ではないだろう。

「乗るだけなら、後で乗せてやる」

「お、やったね。約束だぞ」

飛ぶとは言ってないがな。……屁理屈なのは分かっているが、どうしようもない。

彼女が言っているのは、シップに乗って空を飛んでみたいということだろうが、それはあまりいいアイデアとは思えない。
それは、あの冷酷なハンターどもに姿を見せることを意味する。
そのままこの星を離脱すればいいものを、再び着陸すれば、他のフローランに訝られるのは必至だ。
俺のシップに乗ったことを部族の者に感づかれれば、彼女の立場は一層悪くなるだろう。

「ああ、約束だ」

適当に答える俺の意識は、FTLドライブの重要な部分――クリスタルが収まっているはずのタンクに注がれていた。
……ほとんど空だ。そううまくはいかないか。

「どうだった?」

「いや、なかった。というか、どう見ても足りない」

「そうか。そりゃ、残念だったな……っと」

本当に残念そうな顔をする……と思った次の瞬間には、生まれついてのハンターは何かに気付いたらしく、真剣な表情を浮かべていた。
そして、俺に隠れるように指示する。

「仲間が来る。多分2人」

見つかったか……
この少女の仲間。
俺にとっては――そして、おかしな話だが、彼女にとっても――「味方」ではない。
誰もが恐れる、冷酷なハンターのお出ましだ。

――何事もなければいいと思っていたが、そううまくはいかないらしい。

「分かった」

しかし、懐中電灯やランタンを使っていたわけでもないのに、よくもまあ分かるものだ。
偶然近くを通りがかっただけかもしれないが。

予定通り、シップロッカーに隠れる。念のため、武器の準備はしておく。
別にしゃがみこんだり、丸くなったりする必要はなかった。シップロッカーは宇宙船の付属品だが、これだけで十分収集品を収めておけるほどの大きさがある。

そして、奴らが来た。

「オマエ、何をやってる?」

低く、冷たい声だった。冒険者を恐れさせてやまない声。

「……見ての通りさ。何か使える物がないかと思って」

対してフローラは、もっともらしい理由を述べる。さて、相手がどう出るか。

「ケッ、ブンメイかぶれのクソビッチが。先代の口添えがなけりゃ、とっくに灰にシてやってるのになァ? おい?」

今度は甲高い声。なんというか、危険そうな奴だ。
だが、フローランは本来、こういう気質の持ち主なのだ。

「先代」とは、フローラの祖父、前のグリーンフィンガーのことだろう。
なるほど……伝統を重んじる種族であるが故に、いかに気に入らない者であってもローカルルールに則った扱いをしなければならないのか。
フローラは特権を持った異端者というわけだ。案外複雑な内部関係だな。
というか、ビッチって。

「このフネに積まれてた物なら、もう全部運び出シただろう。今更何を探す?」

先程の低い声のフローランだ。
そんなこと突っ込まなくてもいいだろ? 早いとこ帰ってくれ……
俺は内心で舌打ちする。

「なに、ちょっと思い出したことがあってな。まあ、用は済んだからもう戻るぜ」

「……待ちなァ」

「……なんだよ?」

「夕方、落ちてきたよな。ウチューセン」

やはり見られていたか。
予想はしていたことだが、いざその話を切り出されると嫌な汗が出てくる。心臓に悪い……
頼むぞ、フローラ。ここはお前に任せるしかないんだ。

「あ? えーと、そうだっけ?」

「なんだよ、見てなかったのかァ? 役立たずが……」

「悪かったな」

よしよし、いいぞ。
そのまましらばっくれて――

「……偶然か?」

ん?


「今日、フネが落ちてきた。そシてオマエは、このフネに戻ってきた。今までそんなことはなかったのに、いきなり」

まずい。
耳鳴りがする――いや、次の一言を聞き漏らすまいと、聴覚が研ぎ澄まされているのだ。
それまで背景に溶け込んでいたアナログ時計の針の音が、急に気になりだすような。

「確かに妙だぜェ? テメー、ウソこいてんじゃねェだろうな?」

「……冗談だろ? なんでアタシがそんな嘘をつかなきゃいけねーんだよ」

「あ? そりゃァ……」

駄目だ。そんなことを考えさせてはならない。
ほとんど無意識に、腕の中のストライクペルターを握る。
手汗はない。

敵は2人だ。
接近戦では向こうが有利だが、不意打ちでまず1人。
音源から、位置はだいたい分かっている。やれるはずだ。
もう1人……襲ってくるだろうか? とにかく、逃がしてはならない。
増援を呼ばれるかもしれない。
その前に仕留めても、銃声で異変に気付かれるだろうが……

この星から脱出するだけの時間が稼げればいい。いくらフローランが夜目が利くといっても、遠くのものがはっきり見えるというわけではない。
そこにつけこむ――

「オマエ、このフネに乗って逃げるつもりか」

……え?

このくらいで一区切りに
あと数回の投下で前半終了って感じです

原作未プレイの方に楽しんでいただけたら、それはとっても嬉しいなって
設定は話を進めながら明かしていけたらいいなと思います

ここのところ回線がひ弱すぎて? 全然繋がらないのですが、明日にでも続きを投下したいです

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