教師「弱い者いじめ」(6)

ゴトッ

教師「…ん、ようやく起きたか…?」

時刻は午前6時ほど、物音に眠りを妨げられたがどの道起きる時間帯ではあった

妻「……」スゥ…スゥ…

教師「……」スック

布団から妻を起こさないようにゆっくり這い出る

4月だというのに若干肌寒いほどの澄んだ空気が覚醒を促す

教師「……」スタスタ

足の裏に冷たい床の感触があるが、今はそれどころではない

階段を下りる…すると

教師「……」

音を立てた犯人が分かった

犯人は先日帽子をかけるために張り付けたフックだった

剥がれ落ちて大きな音を立てたらしい

俺はそれをちらと確認すると、ほったらかしにしてケースに向かった

教師「……」

ケースの中には、相変わらずピクリとも動かない蛇が、昨日と同じ場所に鎮座していた

だから、この蛇が音を立てた犯人でないことは明瞭であった

教師(もうどれだけこうしているのか…)

いつから冬眠を始めたのかは覚えていないし数えてもいない

しかし、今日もいつもと変わらない姿を晒している蛇を見ると…

教師「……」

不思議ではあるが…ホッとするような感情と同時に、憎しみにも似たような苛立ちを感じた

このようなことは、最近ではすでに習慣化してしまっていた

…ふと、考える

教師(妻が起きてくるのは大体6時半頃、娘はそれから1時間ほど…か)

教師(30分間もあればばれないだろう)

そう思った途端、抗いがたい衝動にかられて洗面所へ行く

ドライヤーを手に取り、コンセントに繋げ、スイッチをつける

それからケースの横に立ち、そこそこの間合いにドライヤーを掲げ、熱風を浴びせる

教師「……」

ドライヤーの風を一点に集中させる

すると、今まで死んだように眠っていた蛇が劇的な反応を見せた

少しづつうねり始め、飛びかかるような動作を繰り返す

俺はその憎々しい姿に満足しつつ、熱風を浴びせ続けた

教師(可愛げなんて全くない…冬眠といっても程がある)

教師(やった餌だってもう嫌な臭いがしだしている)

教師(もう春なんだから動き出したってよさそうなもんだ)

これまた習慣化している内心のつぶやきを洩らす

熱風を浴びせるのをやめると、平常を取り戻したらしい蛇はいつの間にかまた縮まっている

この蛇についての知識といえば

ナミヘビという蛇でそこそこ大人しめの蛇である、ということぐらいだ

しかしこの蛇は、ケースの前に来た俺に向かって飛びかかってくるような動作を繰り返した

俺はそれを面白く感じ、飼ってみたのだが…

蛇「……」

教師「……」

冬眠してからというもの、手ごたえが若干薄れてきた気がする

妻「おはよ・・・あら」

妻「また蛇の番?あなたも好きねえ」

教師「その通り、好きでやっているんだ」

嫌いなペットを飼う道理など無いと思うが、果たして俺は当てはまるだろうか

妻「朝ごはんすぐ作るから、テレビでも見てて待ってて」

教師「ああ、そうするよ」

死んだようにうずくまる蛇から目をそらし、スイッチをつけたテレビに注目した

『昨夜未明、〇〇町で女性が何者かに後ろから刺され―――』

教師「・・・・・・」

当たり障りの無いごく当たり前なニュース、別段目を引くものもない

朝食が出来上がるまで、俺は事務的にテレビを見つめていた

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