P「765プロ超能力FILE」【FILE-5】 (54)

P「765プロ超能力FILE」第三話です。
前回の告知とは違いますが、FILE-5を投下します。
前スレ
P「765プロ超能力FILE」【FILE-1】 - SSまとめ速報
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P「765プロ超能力FILE」【FILE-4】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418402068/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1427292928

やよい「うっうー!!おはようございまーす!!」

P「おはよう、やよい」

やよい「プロデューサーおはようございまーす!!」ガルーン

P「ははっ、今日もやよいは元気だな」ナデナデ

やよい「えへへ、それじゃあプロデューサー行きますよー」

やよい「ハイ、ターッチ!!」

やよい&P「イェイ!!」

P「やよいのおかげで俺も毎日元気が出るよ」

やよい「えへへ」ニコニコ

伊織「あら、今日はやよい早いのね」ガチャ

やよい「あ、伊織ちゃんだー!!おはよう!!」

伊織「おはようやよい」

P「おはよう伊織」

伊織「アンタもいたのね」

P「おはよう伊織」

伊織「……」

P「おはよう伊織」

伊織「あーもう!!お・は・よ・う!!これで満足!? 」

P「満足満足。朝のあいさつは大切だからな」

伊織「それくらいアンタに言われなくても分かってるわよ!!」

P「それにしても伊織、今日は早いんだな」

伊織「もうオーディションの二週間前なのよ。今日からもっと気合入れていくんだから!!」

やよい「うっうー!!伊織ちゃん頑張って!!」

伊織「ええ、今回は絶対に主演とって見せるわ!!」

やよい「でも無理はしちゃ駄目だよ?最近は、ほら……」

P「……その件だが、昨日も雪歩と真がその記者に嫌がらせを受けている」

P「恐喝にも近いようだったから、律子に今、警察にきちんと話をしに行ってもらっている」

P「二人とも、これまで以上に外では気を付けてくれ。移動もタクシーや俺達の車で移動するようにな」

伊織「全く……。こんな時期に変質記者なんていい迷惑だわ」

やよい「雪歩さんは、大丈夫そうでしたか……?」

P「頑張ると強く言ってくれたが、やはり精神的には不安だと思う。もし時間があれば、二人とも色々話をしてやってくれ」

やよい「はい!!765プロの仲間ですもんね!!」ガルーン

伊織「それじゃあ律子が来るまでそこのソファーで休んでおくわ」スタスタ

P「ああ、そろそろ帰ってくるとは思うが……」

雪歩「おはようございますぅ」

P「おう、おはよう。ちゃんとタクシーで来たか?」

雪歩「はい。お父さんからも心配してくれてて、家の周りは特に警戒を強めてくれるそうです」

P「それは良かった。今律子に頼んで警察に話をしに行ってもらってる」

雪歩「わざわざ私のためにすみません……」

P「お前のせいでじゃないだろ。それに、これ以上は誰に被害が出るかも分からないからな。こういうのは警察に頼むのが一番良い」

律子「ただ今戻りました」ガチャ

P「お、噂をすればだな。お疲れ様」

雪歩「あ、ありがとうございました!!」

律子「あー……えっと。プロデューサー殿」

律子「例の犯人ですが……」

律子「昨日の深夜の時点で、自首し、既に逮捕されているそうです……」

P「昨日の深夜の時点だと……?」

律子「はい。雪歩や真の証言と一致する事実を述べ、自ら出頭してきたようです」

律子「他にも盗撮や違法行為を色々行っていたようで、それも全て認めているそうです……」

P「そ、そうか……とりあえず、良かったな、雪歩」

雪歩「はい!!逮捕されて良かったですぅ!!」ピョンピョン

P「!?」

雪歩「すっごく嬉しいですぅ!!」ピョンピョン

P「……ま、まぁ不安が無くなってくれたのは何よりだ」

律子「そうですね」

雪歩「それじゃあ真ちゃんとのレッスンに行ってきますね!!」ガチャ

P「……どう思う?律子」

律子「あんなはしゃぎ方をする雪歩は初めて見ましたね……」

P「それも、誰かが逮捕されて喜ぶっていうのは……なんとなく、おかしい気が……」

律子「それだけ雪歩にとっては事件だったのかも知れないですね」

P「そうだな……今後の仕事にも影響出ないように、しっかり心のケアはしていこう」

律子「はい。プロデューサーさんには話せないようなこともあるでしょうから、私や他のアイドルにも頼んでみますね」

P「すまんな。よろしく頼むよ」

律子「それじゃ、私も行ってきますね」

P「ああ、いってらっしゃい」

律子「ほら伊織、行くわよー」

伊織「はいはい、今行くわよ」

────
──…
─…

──車内

伊織「……なんか今日、雪歩の調子変じゃなかった?」

律子「……やっぱりそう思う?昨日の事件の話はもうプロデューサー殿に聞いた?」

伊織「ええ。それにしても、なんというか……」

律子「雪歩は最初は一人の時を狙われてたみたいだし、やっぱり私達が思っている以上に精神的にきつかったのかもしれないわね」

伊織「……分かったわよ、今度時間が被ったりしたら、話は聞いておいてあげるわ」

律子「話が早くて助かるわ。でも、あなたも今は大切な時期なんだから、無理はしないようにね」

伊織「無理なんてしないわよ。私は全力を尽くして、主演を絶対に取る。それだけよ」

律子「……さすが伊織ね。ほら、レッスン場着いたわよ」

伊織「ありがとう。それじゃ、今日も張り切って行くわよ!!」

────
──…
─…

──三日後、夜、レッスン場

真「ふーっ!!今日も疲れたー!!」

伊織「あらあんた、この程度で疲れたって言うの?」

真「なっ……!!僕はまだまだやれるよ!!伊織こそもうバテてるんじゃないの?」

伊織「無理なんてしなくていいわよ。私はもう少し練習するから」

真「何だとーっ!!僕だってやるさ!!雪歩は──」

雪歩「はぁ…はぁ……」

伊織「……」

真「……」

伊織「どうやら私思ったより疲れてたみたい。少し休憩しましょうか」

真「奇遇だね伊織。僕も同じことを考えてたよ」

雪歩「ごめんね二人とも……私なんかのために」

真「そんなことないよ。僕達だって少し休憩いれるトコだったんだし」

伊織「そうよ。それに雪歩、今日のレッスン調子悪そうだったじゃない?」

雪歩「……やっぱりバレてたんだね……」

伊織「まぁあれだけミス連発してたらね」

真「伊織……!!」

伊織「……この間の事件のこと、まだ気になるの?」

雪歩「……!!」

雪歩「ううん……他にも色々悩むことがあってね……」

伊織「悩み事なんて、大体は本来悩む必要なんてないことなのよ。
   自分が今出来る最大限の努力さえしていれば、大抵のことは上手く行くものよ 」

真「そうだね。努力だけをして前を向き続けていたら、悩む暇も無くなるしね」

伊織「あんたは悩みごととか無さそうね」

真「そうだよ!!……あれ、今僕ひょっとして馬鹿にされてる?」

伊織「さぁね」

雪歩「伊織ちゃんはすごいなぁ……いつも自信満々で、努力家で……」

雪歩「私は、そんなに自信満々なことなんて出来ない」

雪歩「いつも後悔ばかりで、何か行動しても不安な気持ちでいっぱいだし……」

伊織「悩んでばっかりじゃ仕方ないわよ。たまには何も考えずに行動してみたら?」

雪歩「何も考えずに、行動……」

伊織「そうよ。もっと自分に自信を持ちなさい!!私の自信を少し分けてあげたいくらいだわ」

雪歩「伊織ちゃんの、自信……」

雪歩「……伊織ちゃん、ありがとう。私、やってみるね」

伊織「そうよ!!まずはどんどん行動する!!自分は正しいんだって、自信を持ちなさい!!」

雪歩「うん……いや、『はい』」

雪歩「伊織ちゃん……本当にありがとう。私、これからは強く、自信を持って生きていくね!!!」ニコッ

伊織「……え、ええ。そうね……」

雪歩「本当にありがとう。さぁ、レッスンの続きをしよう!!私、やる気まで手に入れちゃった!!」

真「なんか変な言い方だけど、元気が出てよかったよ。それじゃ、レッスンの続きをやろうか!!」

伊織「……」

真「あれ?伊織?」

伊織「……違う、違う、やらなきゃ。私は絶対に主演を取るんだから……」ボソボソッ

伊織「そうね!!早速やりましょう!!真、雪歩、私に遅れを取るんじゃないわよ!!」

真「なんだとー!!絶対に負けないからな!!」

雪歩「……」クスッ


──次の日、レッスン場

伊織「またこのメンバーでレッスンなのね」

真「僕と雪歩は来月まで大きな出番はないし、伊織も次のオーディションまでは何も予定入れてないからでしょ?」

伊織「いちいち確認しなくても分かるわよ」

真「別に確認したっていいじゃないか!!」

伊織「はいはい、それより早くレッスンを始めましょう」

雪歩「伊織ちゃんはすごいなぁ……昨日貰ったはずの自信とやる気、もう自分の中で新しく生み出してる……」ボソッ

伊織「ほら、雪歩も早く着替えなさい。いつまでもくよくよしてるんじゃないわよ」

雪歩「……うん。でもね、私はもうくよくよしてないよ」

雪歩「……代わりに、伊織ちゃん、くよくよしてね」ボソッ

伊織「なにボソボソ言ってるの?」

雪歩「何でもないよ。『はい』、もう着替えたから、早く行こう♪」

伊織「」ビクッ

伊織「……ちょ、ちょっと待って……」

雪歩「どうしたのー?伊織ちゃん。まさか、オーディション前なのにやる気無くしちゃったとかじゃないよね?」ニコッ

伊織「そ、そんな訳ないでしょ……」

雪歩「いつもレッスン前は楽しそうに真ちゃんと話してるよね?今日はどうしてそんなに辛そうな顔をしてるの?」ニコニコ

伊織「……たまにはそんな日もあるわよ……」

雪歩「それとも、オーディションへの自信が無くなっちゃった?練習したって無駄だ、私なんて……って思ったりしてるの?」ニコニコ

伊織「やめて、やめなさい……」

雪歩「大丈夫だよ、伊織ちゃん。伊織ちゃんは出来る子なんだから。ね、一緒に頑張ろう?」ニコニコ

伊織「……え、ええ……そうよ。私なら出来る……はず……」

真「二人ともまだ着替え終わってないのー?早くレッスン始めようよー!!」

真「あ、それとも伊織!!僕との勝負に逃げ出すつもりだな!!」

伊織「!!」

伊織「そ、そんな訳ないでしょ!!すぐに行くから待ってなさい!!」

バタバタ

ガチャ

雪歩「……すごいなぁ、伊織ちゃん」クスッ


──夜、伊織宅

伊織(レッスン前に急にやる気が無くなるなんて……私ったら、本当にどうしたのよ!!)

伊織(今回のオーディションは絶対に合格するって決めたじゃない)

伊織(……でも、本当に、自分が合格出来るかしら……)

伊織(私なんか……)

伊織(……ううん、大丈夫。大丈夫よ。私だって、やれるはずなんだから)

伊織(やれるはず、やれるはず……)

伊織「おやすみ、うさちゃん……」Zzz...

────
──…
─…

────
──…
─…


『それでは、結果発表です』

『今回のドラマの主演は、水瀬伊織さんにお願いしたいと思います』

このくらい当然でしょ!!にひひっ!!

『ぐす……落ちちゃった』

『大丈夫だよ、───ちゃん』

『なんであんなデコっぱちが主演に選ばれるわけ?』

えっ……

『どうせ親のコネとか使ってるんじゃないの?』

『───ちゃんの方がずっと可愛いに決まってるよ』

ち、違う……

『あの娘さえいなければ、私が主演だったのに……』

『私の方が、絶対努力していたのに!!!!』


伊織「────ッッ!!」ハッ

伊織「……」ハァハァ

伊織「……夢……」

伊織「夢……か……」グスッ

────
──…
─…

──オーディション一週間前、朝

伊織(あの日から、毎日、同じ夢を見る)

伊織(私がオーディションに合格し、他人に恨まれる夢)

伊織(今の私には、正直、自信と呼べるそれはほとんど無い)

伊織(この間に至っては、ついに雪歩に相談をしてしまうほどだった)

伊織(雪歩はあの事件以来、すごく明るく、自信に溢れた子になった)

伊織(私とは正反対……羨ましい)

伊織(そもそも、私が、他人を羨ましいと思うこと自体が珍しく思えてくる)

伊織(私は……本当に、このまま、オーディションを受けていいのだろうか)

──事務所

伊織「……おはよう」ガチャ

P「お、おはよう伊織」

伊織「ああ、あんたもいたのね」

律子「どうしたの、伊織。全然元気がないじゃない」

伊織「……なんでもないわよ」

律子「そんなんじゃ、来週のオーディション受からないわよ。絶対主演取るんだ、って意気込んでたじゃない」

伊織「主演……」ビクッ

伊織(そうだった……あのオーディションは、ドラマの主演を決めるオーディションだ……)

P「……」

伊織(なによ、そんなに心配そうな顔でこっちを見てきて……)

伊織(ここで元気を出さなきゃ、アイドルどころか、女の子として駄目じゃない!!)

伊織「そう…そうよね!!この伊織ちゃんとしたことが、ちょっと元気がなかったみたい!!」

伊織「さぁ律子!!早くレッスン場に行くわよ!!絶対に主演をもぎ取ってやるんだから!!にひひっ!!」

律子「そっちの笑顔の方が伊織らしいわよ」ニコッ

律子「でも、もし体調が悪いんだったら、今日は無理しなくていいわ。
   一週間前に風邪引いたりしたら、そっちの方が大事なんだから」

伊織「大丈夫よ!!私としたことがガラにも無く疲れてたみたい!!」

伊織(そう、私は疲れていただけ!!もっと頑張れば、みんなから認められるはず!!)

律子「……そうね!!それじゃ、早速レッスン場に行きましょう」

伊織「にひひっ!!もし私が主演とったら、あんたも大忙しなんだから、覚悟しときなさいよね!!」

P「ははっ、楽しみにして待っとくよ。律子も言っていたが、無理はしないようにな」

律子「それじゃ、行ってきますね」ガチャ

P「おお、いってらっしゃい」

────
──…
─…

──オーディション前日、夕方、レッスン場

伊織「ふぅ……今日はこのくらいにしとくわ」

真「お疲れ様。いよいよ明日は伊織はオーディションだね」

伊織「そうね。途中挫けそうな時もあったけど……もう大丈夫。やれるわ」

雪歩「さすが伊織ちゃんだね」

伊織「雪歩、あなたにもお礼を言っとかなきゃね。話を聞いてくれてありがとう」

雪歩「そんなことないよ。お礼を言いたいのは私のほうだよ、伊織ちゃん」

真「確かに、雪歩は伊織と話すようになってからどんどん元気になっていったもんなぁ」

雪歩「ふふっ。でも、ここ一週間は伊織ちゃんと話す時間が無かったから、大変だったんだよ」

伊織「明日のオーディションが終わったらいくらでも話しましょ。にひひっ」

雪歩「うん……でも、今日のうちにこれだけは言わせて」

雪歩「伊織ちゃん、本当にお疲れ様でした!!『はいっ!!』」ニコニコ

伊織「」ビクッ

雪歩「伊織ちゃんは本当にすごいよ。どんなときでも、やる気、自信、楽しさを自分で作っていくんだもん♪」

雪歩「だから明日は……『このまま』頑張ってね!!」ニコニコ

雪歩「お疲れ様でしたー♪♪」ガチャ

真「雪歩、伊織の頑張ってる所みて、すごく嬉しそうだったなぁ。伊織、明日は頑張ってね!!」

真「それじゃあタクシー来たから帰るね!!お疲れ様ー!!」ガチャ

伊織「お疲れ様……」

新堂「お嬢様、お車の準備が出来ました。こちらへ」

伊織「え?え、ええ……」

────
──…
─…

──オーディション前日、夜、伊織宅

伊織(なんでだろう)

伊織(なにも出来る気がしない)

伊織(なにも楽しくない)

伊織(オーディションなんて、絶対に無理だ)

伊織(たとえ万が一合格しても、私は恨まれるだけ)

伊織(私は……なんでこんなに頑張ってきたんだろう)

伊織(……私は……)

────
──…
─…


『それでは、結果発表です』

『今回のドラマの主演は、───さんにお願いしたいと思います』

ああ、やっぱり私じゃないのか。

『やった!!やったよ!!』

『本当に良かった!!本当に良かったね!!』

良かった。みんな嬉しそうで。

『これだけ頑張ったんだもん!!』

私も、頑張ってたけど。

私なんかじゃ、駄目に決まってるよね。

「……」

あれ?喜んでいない人がいる。

だれだろう──?

────
──…
─…

────
──…
─…


───オーディション当日、朝、事務所

伊織「おはよう……」ガチャ

律子「おはよう伊織。早速だけど、もう移動するわよ」

伊織「え、えぇ……」

春香「伊織、頑張ってね!!」

やよい「頑張ってね!!伊織ちゃん!!」

伊織「……」ガチャ

──オーディション当日、昼、オーディション会場前

律子「伊織、調子はどう?」

伊織「…………」

律子「…………」

律子「ねぇ、なんでそんなにやる気が無いのか、教えてくれる?」

伊織「…………」

律子「ねぇ、お願いだから、教えてよ」

伊織「…………」

律子「……なんで、いつも、黙ってるのよ!!」

伊織「」ビクッ

律子「いつもの伊織はどうしたのよ!!やる気があって、常に努力してて、自信に満ち溢れている伊織は!!」グスッ

伊織「……ごめんなさい、律子」ダッ

タッタッタ

律子「伊織……」

律子「お願いだから……いつもの伊織に戻ってよ……」グスッ

伊織(怖い、怖い、怖い)タッタッタ

伊織(誰かに期待されることが)タッタッタ

伊織(誰かの期待を裏切ることが)タッタッタ

伊織(怖い)

伊織「………何やってるのよ、私……逃げ出すなんて……」

伊織(律子のあんな表情、初めて見たなぁ)

伊織(いつも黙ってるの?だって……。私の調子が悪いの、律子には全部お見通しだったって訳ね)

伊織(いつも勝手に自信満々で、少し調子が悪いと誰にも相談しないで……)

伊織(……私って、本当にどうしようもない人間じゃない……)


────
──…
─…


伊織(あれから、どれくらいの時間が経ったのだろう)

伊織(どこかも分からない公園で、たったひとりの時間がどんどん過ぎていく)

伊織(あと1,2時間もすれば、きっとオーディションは始まってしまうだろう)

伊織(これでいいんだ。自分が合格するところも、自分以外が合格するところも、見たくなんて無い)


やよい「あーっ!!伊織ちゃんだー!!」

伊織「っ──!!やよい……」

やよい「隣に座ってもいい?」

伊織「……ええ」

やよい「……伊織ちゃん、オーディション、受けないの?」


伊織「…………」

やよい「伊織ちゃん、この日のために一生懸命頑張ってたから……」

やよい「私にできる事があれば、何でも手伝うよ?」

伊織「……」

やよい「……何があったの?伊織ちゃん」

伊織「………」

伊織「……怖いのよ」

伊織「夢を、見るの」

伊織「一週間前までは、自分がオーディションに合格して……」

伊織「周りの人達から、とてつもない悪口を言われる夢」

伊織「最近は……自分以外の誰かが合格して……」

伊織「誰かが、とても落ち込んでる夢」


伊織「分かってる。たかだか夢を見てるだけで、こんなに不安な気持ちになるのはおかしいって」

伊織「でも、本当に本当に不安なの。自分の行動に何一つだって自信が持てないの」

伊織「オーディションの練習もそう、今こうやって逃げ出している自分もそう。何一つ、自分に自信が持てないし、
   何を考えても、楽しいって気持ちが生まれないの」

伊織「やる気もない、アイドルを楽しめてない自分が嫌いで嫌いで……もう、どうしたらいいのか……」

やよい「……伊織ちゃん」

伊織「分かってる!!こんな自分なんか───」
やよい「──伊織ちゃん、大丈夫」ギュッ

やよい「頑張ってる伊織ちゃんも、少し疲れちゃった伊織ちゃんも、伊織ちゃんには変わりないよ」ギュウッ

やよい「私は、どんな時の伊織ちゃんでも尊敬してるし、大好きだよ」ギュッ

伊織「や……よい……」グスッ

伊織「やよい……うあ、うあぁぁぁぁ……」グスッ

やよい「……いつもお疲れ様、伊織ちゃん」ナデナデ


────
──…
─…


P「伊織!!やよい!!」タッタッタ

やよい「あ、プロデューサー!!こっちです!!」

伊織「……や、やよい、あのね……」コソコソ

やよい「大丈夫、泣いてたことは、誰にも言わないよ」ニコッ

伊織「そ、そう……」

P「伊織、やよい!!二人共、怪我はないか!?」

やよい「はい!!伊織ちゃんも、大丈夫だよね?」

伊織「え、ええ……」

P「良かった……本当に良かった……」

伊織「あ、あんた、私を会場に連れて帰りに来たんじゃないの?」

P「はぁ?そんなことより、伊織が勝手にいなくなったって聞いたから、慌てて探したんだぞ!!」

P「逮捕されたとはいえ、最近変質記者が出たばかりだしな……勝手に出歩くなと言っただろ!!」


伊織「え、あ……ご、ごめんなさい……」

P「はぁ〜……全く。やよいが見つけてくれなかったらどうなってたことやら……」

伊織「あんた、私を会場に連れ戻したりとか……なんで逃げ出したのかとか、聞かないの?」

P「ん、いやまぁ……そりゃ会うまではソッチのことも心配だったんだがな。お前の顔見て安心したよ」

伊織「え?」

P「やよいにたーくさん甘えて、たーくんさん泣いて、少しはスッキリしたんだろ?」ニヤッ

伊織「────ッ!!」

P「やよいに抱きついたままだし、目のところが大分赤くなってるぞ」ハハハッ

伊織「────ッ!!や、やよい!!」

やよい「ふふっ、私は誰にも言ってないよ?」ニコニコ

P「さてと。伊織、どうする?」

伊織「……」

P「俺はもちろん、他にも大勢の人間が、お前の活躍を待ってるぞ。
  ……もちろん、律子もな」


伊織「……」

P「お前が今日のオーディションをぶっちしたところで、俺が先方にごめんなさいと謝れば済む話だ。
  ぶっちゃけ事務所的には大した痛手にはならん」

P「ただ……お前個人が──」
伊織「──なに、べらべら一人で喋ってんのよ」

伊織「当然、この伊織ちゃんが、オーディションで主演をもぎ取りに行くに決まってるでしょ!!早くタクシー呼びなさいよ!!」

P「……りょーかい、お嬢様」ニカッ

やよい「伊織ちゃん」

伊織「大丈夫よ、やよい。本当に大丈夫」

伊織「今、自分自身に自信は持てないけど……それでも」

伊織「みんなの期待を背負ってるっていう自信と、責任感。これだけは誰にも負けないからっ」ニヒヒッ

P「よし、五分程度でタクシーは着くそうだ……っと、その前に、ちょっとだけ伊織、話してもいいか?」


伊織「何よ、急に改まって」

P「……すまん、やよいはちょっとだけ外しててくれるか?」

やよい「はい!!ここからはプロデューサーにお任せしますね!!」ガルーン

タッタッタ

P「……さて、最近、身の回りやお前自身で、何か変なことや奇妙なことは無かったか?」

伊織「な、何よそれ……別に私は変質者なんかには会ってないわよ」

P「いや、変質者で無くても……そうだなぁ。夜中の記憶が無いとか?」

伊織「そんな痴呆みたいな……こともないわよ」

P「うーん……何でも良いんだ。何かいつもと違ったりとか……」

伊織「……あーもう!!そうね、急に自信が無くなったり不安になったり、挙句にオーディションに受かる夢やら落ちる夢やらは見てるわよ!!」

P「お、おう……そうなのか」

伊織「何よ、これじゃまだ不満な訳!?」

P「いや、十分だ。ありがとな」

P(……心理系の超能力……?でも夢に安定性が無いし、よく分からんな……)

P(伊織の不調は超能力のせいかと思ったが……本人の超能力の概要がわからないと、俺もプロデュースのしようがないからなぁ)


伊織「そんなことより……律子は大丈夫なの?」

P「え、ああ……俺に一本電話くれたが……」

伊織「そうじゃないの。今朝の律子、なんていうかいつもと全然雰囲気が違くて……」

伊織「疲れていると言うか、怒っているというか……」

伊織「原因は確実に私なんだけど、私は今からオーディションに直接行くから……もし良かったら、あんた、律子のそばに居てあげてくれない?」

P「……伊織は、優しいんだな」

伊織「な、何よ!!」

P「律子も俺に、『伊織のそばに居てあげて欲しい』ってお願いしてきたんだ。お前ら、本当に仲が良いんだな」クックック

伊織「な、な、な……!!」

伊織「わ、私も律子も、あんたの側に居たくないだけなんじゃない!?変態!!」

P「分かった分かった。ほら、タクシーが来たぞ?」

伊織「きぃぃーー!!私が合格して戻ったら、あんたただじゃ済まさないからね!!」

P「ははっ、楽しみに待っておくよ」

────
──…
─…


──オーディション会場

伊織(なんとか間に合った……)

『では、xx番からxx番の方、こちらにどうぞ』

伊織「はいっ」

伊織(夢で見た時と、同じ会場、同じ空気、同じアナウンス)

伊織(……すっごい偶然ね)

伊織(ここから先の夢は……私はニパターン知ってる)

伊織(……絶対に、あっちの方を、正夢にしてみせるんだから!!)

────
──…
─…



──夕方、オーディション終了後

伊織(……やり、切ったわよね)

伊織(練習での……いや、練習以上の力を発揮できた……はずよね?)

伊織(何悩んでばっかりいるのよ!!さっきまであんなに自信満々だったじゃない!!)

伊織(いや……自信もあるけど……不安な気持ちのほうが……)


律子「……大丈夫、伊織?」

伊織「!!!」

律子「今日は……本当にごめんなさい」

伊織「えっ……」

律子「伊織はいつも頑張ってて……それなのに私、伊織のこと全然考えないで……」

伊織「ちょ、ちょっと!!何いきなり泣いてるのよ!!話が全然分からないわよ!!」

律子「……ううん、分からなくてもいいの。本当にごめんなさい。そして……」

律子「いつもお疲れ様。本当に、よく頑張ったわね」ナデナデ

伊織「ちょっと……なによ……」グスッ

伊織「なんで私が……一日に二回も……グスッ」


伊織「──」ビクッ

伊織(あれ……?)グスッ

伊織(……もう、不安じゃない……)

伊織(……私、もう大丈夫だって、心から思える……)

律子「伊織、このオーディション、色々な思いがあるかも知れないけど……」

律子「もし落ちたとしても──」
伊織「大丈夫よ」

律子「……?」

伊織「大丈夫。絶対に、私が合格よ」

律子「……」グスッ

伊織「だからなんで泣いてるのよ!!私まで泣いちゃうじゃない!!」グスッ

律子「ううん、違うのよ……違うのよぉぉぉ……」

『それでは、結果発表です』

伊織「!!!!」

伊織(ついに、何度も夢に見た場面……)

伊織(でも、何でだろう……今の私は、すごく自信に満ち溢れている)

伊織(落ちる気が……しない!!)


『今回のドラマの主演は、水瀬伊織さんにお願いしたいと思います』


伊織(……)

伊織「やった……やったわよ!!律子!!!」

律子「伊織ぃ〜〜〜」グスッ

伊織「うわっ、だからなんであんたはそんなに泣いてるのよ!!」

『ぐす……落ちちゃった』

『大丈夫だよ、───ちゃん』

『なんであんなデコっぱちが主演に選ばれるわけ?』

『どうせ親のコネとか使ってるんじゃないの?』

『───ちゃんの方がずっと可愛いに決まってるよ』

伊織(ひそひそとした声が、聞こえた気がした)

伊織(でもそんな声より、律子の鳴き声の方が断然大きくて)

伊織(私は意味のないことを考えるよりも、この大きな子供を泣き止ませる方法を考えることを、必死に考えていた──)


────
──…
─…


伊織「さて、泣き虫律子も帰ったことだし……私も……」

Prrrr, Prrrr…

伊織「……もしもし?」

伊織「ああ、ありがとう。律子に聞いたの?」

伊織「ええ、そうだけど……あんた何か知ってるの?」

伊織「『そっちは教えれないけど、お前のことなら教えてやる』ですって?」

伊織「何よ偉そうに……って……」

伊織「……え、ええ…そうよ……うん……」

伊織「……」

伊織「分かったわ。今から事務所に行けばいいのね」

────
──…
─…


──夜、事務所

伊織「……」ガチャ

P「おう、伊織。すまないな、こんな時間に呼び出して」

伊織「……律子の泣いてた理由と、私が悩んでいた理由、教えなさいよ」

P「前者はNOだ。気になるなら明日本人にでも聞けばいいさ」

P「後者は……そうだなぁ。一言で言うなら、『超能力』が原因だ」

伊織「……やっぱり帰るわ」

P「うわっ、待て待て!!今のまま帰ったら、また嫌な夢を見るかも知れないぞ?」

伊織「……」

P「今回のは、単純な超能力じゃ無かったんだよ。だから、俺も解決するのに一筋縄じゃ行かなくってさ」

伊織「……今回?」

P「あっ」

伊織「超能力で苦しんでたのは、私以外にもいるの?」

P「さ、さぁな?」

伊織「……律子?」

P「ゲホッゲホッ!!知らん!!とりあえず今はお前の──」

伊織「あと、春香と響……貴音ってとこかしら?」

P「ぶーーーーーっ」ゲホゲホッ

伊織「汚いわね……最近のあの子達の懐き方を見てたら、なんとなく想像着くわよ」

P「……人には、知られたくないことだってあるだろ?あいつらが言うまで、何も聞かないでやってくれよ?」

伊織「分かったわよ」

P「……今回、お前が悩んでいたのは、二つの原因がある」

P「一つ目は、他人が持っていた超能力」

P「その超能力により、お前は喜び、自信を奪われ、逆に悲しみや不安といった感情を与えられていたんだ」

P「お前が日に日に元気がなくなったり、悩んでいたりしたのも、大きくはこれが原因だ」

伊織「……」

P「もう一つの原因は、お前が持っている超能力」

伊織「私が……持ってる……?」

P「俺も最初はノイズが多すぎてよく分からなかったんだがな……さっきの電話で確信したよ」

P「お前の超能力は……」

P「『未来予知』……『予知夢』だ」

P「自分のことや他人のことの、ちょっとした未来を夢で見るってやつだな。
  オーディション会場やアナウンスが夢と同じだったのが、それで説明がつく」

P「日が変わって、オーディションの結果が変わっていったのは……恐らく、お前のやる気が無くなっていったことの影響だろう」

伊織「……前日の夢では落ちてたのに、未来ってそう簡単に変わるものなの?」

P「いや、普通なら未来は簡単には変わらない。誰かが『普段はしないような行動』をしない限りな」

伊織「……?」

P「ま、そこはおいおい分かるさ。とりあえず、お前が悩んでいたのはこの二つの超能力が原因だ」


P「そしてまず、前者の超能力に関しては解決した」

伊織「!!」

P「今日の夕方辺りで……お前にも自信ややる気が帰ってこなかったか?」

伊織「……ええ」

P「ま、つまりこっちに関してはもう心配しなくていい。お前の感情は、お前だけのものだ」

P「もう一個の方……お前の『予知夢』に関してだが」

P「元々悪い超能力じゃないんだがな……やっぱりコントロールが出来ていないと、今後も困ることがあると思う」

P「この超能力をお前が自由に使いこなせるように……今から、プロデュースさせてもらうぞ」

伊織「……は?」

P「俺の超能力は『超能力をプロデュースする能力』。俺を信頼して、特別レッスン、受けてくれるか?」

伊織「……はぁ……もういいわよ。ここまで来たんだから、信じるしかないじゃない!!」

P「……よし、では今から──」

P「『特別レッスン』を始める」


P「『ステップ1』伊織、先が見えるっていうのは素晴らしいことだよな。でも……得体の知れない情報に惑わされるのは、本当に賢いとは言えないよな」

伊織(──なにこれ……なんか頭の中を直接触られてるみたい……ッ!!)

P「『ステップ2』未来ばかり気にして、本当の自分を出せないアイドルなんて……伊織の目指すアイドルとは違うだろ?」

伊織(頭だけじゃない……心臓……心の奥も───……)

P「『ステップ3』情報は欲しい時に、欲しい分だけ手に入れる……。伊織ならきっと、出来るはずだ」

伊織(頭の中が……ごちゃごちゃになっていたのが、整理されていくみたい……)

P「自信満々、でも本当は周りが気になってしまってる……。悩んで悩んで、それでもファンの前ではいつも元気な伊織だからこそ、輝いて見えるんだぞ」

P「『特別レッスン』一回目、終了……っと、伊織、大丈夫か?」

伊織「……はぁ……はぁ……あんた……何勝手に……人の頭(の中)とか、胸(の中)を触ってんのよ……」ハァハァ

P「はっはっは。いきなりだったからびっくしたか?」

伊織「……少しね……でも……(頭の中とかが)整理……(された)みたい……」ハァハァ

響「……」


響(こんな時間なのに事務所からプロデューサーと伊織の匂いがしたから、思わず来ちゃったんだけど……)

「……はぁ……はぁ……あんた……何勝手に……人の頭とか、胸を触ってんのよ……」

「はっはっは。いきなりだったからびっくしたか?」

「……少しね……でも……生理……みたい……」ハァハァ

響(とんでもない状態だったぞ)

「大体、急にやるのがおかしいのよ……初めてだったんだから……もっと優しくしてよ……」

「すまんすまん……俺も、このくらいの女の子に対してやるのは、あんまり慣れてなくてな」

響(当たり前だぞ!!伊織はまだ中学生!!むしろ今までやったことあるのがおかしいぞ!!!)

「というか……一回目ってことは、まだやるの?」

「ああ。今日だけでも2,3回はしておきたいな。後は定期的にちょこちょこって感じで」

響(は、初めての女の子に2,3回要求!?しかも後は定期的にちょこちょこって……!!)

響「ひ、ひどすぎるぞ!!プロデューサー!!!!!」ガチャ

P「うぉっ!!響!!」

響「プロデューサー!!ついに変態の正体を表したな!!こうなったら……」グググッ

伊織「あら、狼耳……ああ、この間の狼男の話って、あんただったのね……」

P「ひ、響!!落ち着け!!違う!!」

響(狼耳ver)「犯罪者はみんなそう言うんだぞ!!!!成敗ッ!!!」

ガブッ

P「ああああああああああああああッッッ!!!!!!」

これで本編は終了です。
以降二レスほどおまけが続きます。

! FILE No. 5 !

『予知夢』 - 水瀬伊織

自分、もしくは他人の未来を夢で見ることが出来る能力。
自分との距離が近い人間(親族、友人など)ほど、遠い未来を見ることが出来る。
もちろん、自分の事に関してが、最も遠くまで未来を見ることが出来る。
寝る前に『最も意識した出来事、感心事、時間軸』に関しての未来を読む場合が多い。

夢のバリエーション自体は豊富で、自分だけが映し出された夢の時もあれば、
周囲の人間の台詞などまで細かに夢で見られるときもある。
これに関しては伊織本人の意思ではなく、完全に運任せでバリエーションは決まる。
また、基本的に予知夢を見た場合はその夢は忘れるものではなく、一日程度であれば完璧に思い出すことが出来る。

『プロデュース』以前と以後で、ほとんど能力自体に違いは現れていないが、
唯一、『見たい』と思わなければ予知夢は見られなくなった。


! ANOTHER FILE HINT !

千早「……高槻さん……」

千早「ごめんなさい……ごめんなさい……」

千早「殺してしまって……」

千早「本当に、ごめんなさい……」

千早「もう、駄目ね……」

千早「私に、生きてる価値なんてない」

千早「仲間を殺すだけの存在なんて」

千早「生きている意味が無いじゃない……」

千早「……さようなら」

千早「高槻さん……」

千早「春香……」

千早「みんな……」

千早「ごめんなさい……」






───グシャ

久しぶりの投下にも関わらず、お付き合い頂きありがとうございました。
次回はFILE-6を投下予定です。
HTML化依頼を出してきます。

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