千早「秋めいてきましたね。」 P「ああ。」(30)

まったり書いてきます。

~朝 事務所にて~

p「こんなもん、かな。」

小鳥「何書いてるんです?」

音無さんが肩越しに覗き込んでくる。

p「うわぁっ!? いきなりなんですか!」

小鳥「そんなに驚かなくても… っていうかそれ誰に贈るんです?」
  「これから一年またよろしくって、まるでラブレターじゃないですか。」

p「ちっ違いますよ。そんな軽薄なもんじゃありません。」

急いで便箋と封筒を机の中にしまいこむ。

小鳥「冗談はさておいて、そろそろ時間じゃないですか?」

時計を確認する。

9時12分。 千早の街頭ロケの開始時間は10時。

p(そろそろ出るか…)

p「そうですね、じゃぁそろそろ送ってきます。
 ロケの間向こうで暇つぶして、終わったら千早を家まで送ってから帰るんで、ちょっと遅くなります。」

小鳥「はいはい。じゃあ、気をつけて。」

~午後5時 仕事終了後~

p「悪いな、千早まで歩かせちゃって。」

千早「いえ、構いませんよ。収録が家の近くで助かりましたね。」

p「ああ、本当にすまん。まさか車のキーを無くすとは思わなかった…」

仕事帰り、二人並んで街路を歩く。

少し前まで蝉の鳴き声で賑わっていた通りも、八月の終わりともなると少しばかり静けさを取り戻していた。

千早「なんだか秋めいてきましたね、いつの間にか。」

p「ん?そうか?まだまだ毎日結構暑いけど。」

千早「…プロデューサーには風情が足りてません。」

p「?」

キョトンとするプロデューサー。

その間の抜けたような表情も何処か魅力的に見える。

これが春香の言っていた「夕暮れの魔法」だろうか。


眩いオレンジに光る夕日。

私とプロデューサー、二つの影が揺れる。

千早(結構・・・ロマンチックな状況ね、これ。)

p「千早?」

千早「えっ?あっ はい、どうしました?」

p「いや、いきなり黙りこくっちゃったから。考え事か?」

千早「いえ。」
  「綺麗、だな と思いまして。」

p「…そうだな。普段移動は車ばっかりだし、たまにはこう歩くのも悪くないな。」

千早「ま、プロデューサーが鍵を無くしたせい、なんですけどね。」

p「うっ。悪かったって。」

千早「ふふっ 冗談ですよ。寧ろこうしてゆっくり話せて、ちょっと嬉しいです。」

仕事で見せるものとは違う、力の抜けた笑いを浮かべる。

暫く心地よい沈黙が続く。

千早(そういえば、一年前の今日って確か)

(プロデューサーと初めて、二人で出かけた日、でしたね。)

(歌の仕事がしたいと我が儘を言う私の相談に乗ってくれて。)

(思えば、あのときから・・・だったのかもしれませんね。)

p「千早、ちょっとこっち向いてみろ。」

千早「ふぇっ?」

p「顔が真っ赤だぞ。熱でもあるんじゃないか?」

千早「い、いえ大丈夫ですから。きっと夕日のせいですっ。」

気がつくとプロデューサーの顔がすぐ近くにあって、照れくさくなり思わず顔を背けてしまった。

p「そうか…ならいいんだけど。最近忙しそうだからな。無理だけはするなよ。」

千早「ありがとうございます。」
「でも最近、仕事がすごく楽しいんです。きっとプロデューサーが歌の仕事を沢山とってきてくれているお陰ですね。」

p「ははは。そりゃよかった。頑張ったかいがあるよ。」
「最近、ますます歌も上手くなってるし。」

千早「まだまだ、世界的な歌手には遠いです。」

p「千早なら、きっとすぐになれるさ」
「一年前のあの日、俺はそう思った。」

千早(えっ まさか・・・覚えていてくれた?)

p「千早も覚えてるか?皆でカラオケ行ったときさ・・・」

千早(あっ… なんだ そのことか…)
  
(やっぱり、もう覚えてないかな。こんな些細なこと。)
 
 (そうよね。プロデューサーは他に何人ものアイドル達をプロデュースしているんだもの。)
  
(仕方ないわ。)

p「・・・なんてこともあったな。」

千早「え、ええ。そうでしたね。」

p「千早…?」

少し落ち込んだのが通じてしまったのかもしれない。

心配そうな目でこちらを伺っている。

千早「気にしないでください。少しロケで疲れただけです。」

p「ん…そうか。季節の変わり目は体調崩しやすいからな。気をつけろよ。」

千早「ありがとうございます。」

千早(気配りが出来るんだか出来ないんだか…)

街路を抜け、入り組んだ住宅地へと差し掛かる。

オレンジ色の光を放っていた太陽は姿を消し、空には代わって月がおぼろげに輝いていた。

薄明かりの中を涼風が吹き抜ける。

p「暗くなってきたな。確か千早の家はもうすぐだったよな。」

千早「はい。あそこの交差点を超えたらすぐです。」

p「そっか。」

千早(もう暫く、二人で歩いていたい…)
  (でもこんなときに限って、時間は早く過ぎるものね。)

赤信号の交差点に辿りつく。

時折通り過ぎる車のヘッドランプが二人を照らす。

千早「月が綺麗・・・ですね。」

p「ああ、そうだな。朧月も悪くない。」
「また暇なときに、散歩に来ようか。」

千早「ええ、約束ですよ。」

暫し見詰め合う二人。

信号が青に変わった。

p「ああ、楽しみにしてる。じゃあ千早。気をつけてな。」

千早「プロデューサーもお気をつけて。お疲れさまでした。」

横断歩道を渡り、家へと歩く。

(結局、気付きませんでしたね…プロデューサー)

(ちょっぴり残念ですが、二人の散歩、楽しかったです。)

ガチャ
バタン

千早「ふぅ。今日は色々あって疲れたわ。」

律儀に靴をそろえて脱ぎ、居間へと上がる。

ソファに半ば倒れこむように腰掛け、バッグをテーブルに置いた。

千早(先にシャワーでも浴びようかしら。)

簡素なバスルームへと向かい、手早く入浴を済ませる。

パジャマに着替え、ソファに腰を下ろす。

千早「あら?」

バッグの口から見慣れない物が顔を覗かせていた。

(何かしら…)

恐る恐る手にとって見る。

千早「…!」

可愛らしい青のリボンで装飾された封筒。

女の子が喜びそうな動物のシールで封がなされたそれを裏返すと、

差出人とタイトル欄には、こう記してあった。

title:また一年よろしく
from:p

千早「クスッ 本当に、、、鈍感なのか敏感なのか。」

「でも」

「ありがとうございます、プロデューサー。」

~その少し後のp家にて~

p「ふむ。全く分からんな…」

うちの次の仕事は本屋の宣伝。

一人ひとりお気に入りの文豪の本の紹介をするらしい。

p「俺も何か力になってやろうと思い、偉人伝・夏目漱石を読み始めてみたんだが・・・」
「サッパリわからん。」

ぺらぺらと流し読みをしつつページをめくる。

p「ん?」

ふと視界に飛び込んできたフレーズが目に留まった。

ページを繰る手を止め、その一文を読む。

文豪夏目漱石は外国文学にも造詣が深く、数々の名訳を残したことでも知られる。

その中でも代表的なものをここで紹介しよう。

彼は、とある本の中の"i love you."というありふれた一文を、こう訳した。


"月が、綺麗ですね。"と

p「…!」

pの頭の中に、俯いた千早の顔が浮かぶ。

p(まさか、な。)

…とにかく、また一年の間、いや、これからもずっと トップアイドルの座に上り詰めるまで。

p「そのときまで、よろしくな、千早。」

end

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