一夏「新年……か」(397)




以前書いたSSの手直しです。
処女作でもあり、いろいろ直したかったので……スレタイは変えました。

『一夏「もう朝か……歯でも磨こう」』というSSの続編的三次創作SSです。
↑のSSを読むのが面倒な人は、次の事を踏まえれば、たぶん読めるかと……

①一夏は、異世界の一夏と入れ替わってしまった。
②異世界の一夏はクズで、一期メインヒロイン全員を非処女にした。
③いろいろあって箒とセシリアの仲が悪く、他のヒロイン達の関係も希薄。
④その異世界で一夏は一期メインヒロインを始めとして、ほとんどの女子に嫌われている。
⑤一夏は自力で元の世界に帰れない。
⑥ラウラだけには『異世界の一夏』と気づかれているが、独占に狂い、脅されている。
>>1はISをアニメでしか知らない。二期?ナニソレ?

以上です。




一夏(めでたくも何ともない……)

一夏(俺は相も変わらず……ラウラの慰み者にされていた)


―――――――――――


ひと気のない、とある準備室


ラウラ「一夏……なぜそんな顔をする?」

一夏「……えっ?」

ラウラ「いや……正しくは、なぜ無表情なのだ? なぜ笑わない?」

一夏「……すまない……これでいいか?」 …ニコ

ラウラ「……もういい」

ラウラ「一夏、わかっていると思うが、お前には私だけしか居ないのだからな?」


一夏「…………」



一夏「……もう どうでもいいよ」



ラウラ「!?」

一夏「俺をおとしめたいのなら、やればいい。 いくらでも殴られてやる」

一夏「……なんか、さ……疲れてしまって、さ……」

一夏「もう……放っておいてくれ……ラウラ」

ラウラ「……っ! ……いい度胸だ。 後悔させてやる!」

     バンッ! ガラガラッ! バンッ!

一夏「…………」




     ……それから何日か

     身に覚えのない事で千冬姉やセシリア、鈴達に殴られ続けた。

     俺は……反論も抵抗もしなかった。

     どうせ無駄だと思ったから……



     きっとラウラが俺を見ているだろう。

     どこかで薄ら笑いを浮かべているだろう。












     ……やがて、それも無くなった。











―――――――――――


数日後の昼休み


一夏(…………) モク モク

一夏(はあ……)

一夏(…………)

一夏(……IS学園で人がいる場所は、俺が存在するだけで空気が悪くなるから)

一夏(一人でいられる場所を探して見つけたけど……)

一夏(校舎の影の上に吹きさらし……寒いな)

一夏(…………)

一夏(……昼休み……もう終わるな)


授業中

1組教室


千冬「さて、授業を始める前に……織斑」

一夏「……はい?」

     ツカ ツカ ツカ     グイッ!(胸倉をつかんだ音)

一夏「グッ!」

千冬「お前……最近、何か妙だな?」

千冬「抵抗もせず殴られるし、以前と比べると随分大人しい」

千冬「何を企んでいる?」

一夏「…………っ!」




     ……千冬姉。 俺、何も悪い事してないよ?

     やった覚えも、していない事も全部謝ってきた。

     大人しく殴られて、蹴られて、ツバだって吐きかけられて……

     それでも俺は、いつか……いつか、わかってもらえると思って、がんばってきた。



     もう……そんな日は来ないのか?

     あの、厳しいけど……優しい千冬姉の笑顔を見る事は、出来ないのか?

     誰か……誰か、教えてくれよ……













     俺、どうしたらいいんだよ……!



















     ……俺の中で何かが堰を切る。 

     もう止める事が……出来なかった。










一夏「……うっ……ぐっ……うう……」

千冬「……何のつもりだ織斑」

一夏「…………お、織斑…………先生……ううっ……」

一夏「質問して……よろしい、で……しょうか……?」

千冬「……ふん、良いだろう。 言ってみろ」

一夏「……ぐ……どうしたら……俺は……」



一夏「改心したと……判断して……もらえるのでしょうか?」



     パ……  ストン(胸倉放す)

千冬「……そうか、ならば答えてやる」


千冬「死ね」

一夏「」

千冬「聞こえなかったのか? 死ね、だ」

一夏「…………」

     トコ…… トコ……

千冬「待て、織斑」

千冬「ISは置いて行け」

     カチカチ……  パカ   ……コト

     トコ… トコ… トコ… トコ……

     ガラガラッ……ガラガラッ……パタン

千冬「……ふん。 では授業を始める」

ラウラ「…………」

箒「…………」


校舎屋上



     俺は、ふらふらと……

     でも確実に金網に手をかけ、よじ登ろうとした。



ラウラ「一夏!」

     ダダッ   ガシッ!

ラウラ「やめろ! 一夏! やめてくれ!」

一夏「……放せよ、ラウラ」

ラウラ「落ち着け! 死んだって何もならないぞ!」




一夏「お前に何がわかる!!」



ラウラ「!!」 ビクッ!

一夏「千冬姉に……たった一人の血を分けた家族に……」

一夏「 ”死ね” と言われたんだぞ!!」

一夏「……千冬姉は厳しいけど……優しくて……尊敬できて……頼りになって……」

一夏「俺の……ううっ……大切な……ぐっ……」

一夏「この世で……うぐっ……たった一人の……血を分けた家族なのに……」

一夏「あんな……ゴミを見るような目で……死ねって……ぐっ……」

ラウラ「……っ」




     この瞬間……


     私は一夏に何をしたのか


     初めて理解した。



ラウラ「……悪かった。 私のせいだ」

ラウラ「私がことごとく お前の悪評を広めたからだ」

ラウラ「でなければ、教官もあそこまで言わないはず」

ラウラ「だから……」


一夏「もう……駄目さ……お終いなんだよ!!」

一夏「今さら何ができる? 何が変わるんだ!?」

ラウラ「そ、それは……」

一夏「だから……もう……いいんだ……死ぬしかないんだよ!!」

ラウラ「!! 駄目だ!!」


     グイッ! ズダ~ン!


ラウラ「はあっ…はあっ…」

一夏「はあっ…はあっ…」


ラウラ「一夏……お願いだ……死ぬのだけは……死ぬのだけは、止めてくれ……」

ラウラ「もう、お前のする事に何の邪魔もしない」

ラウラ「私だけを愛せとも言わない……」

ラウラ「だから……死ぬ事だけは……うっ……考え直し……」

ラウラ「私のせいで一夏が……ううっ……死ぬのは……ひっく……耐えられない」

ラウラ「頼む、一夏ぁ……」

一夏「…………」









     目の前で泣くラウラを見て……

     俺は落ち着きを取り戻した。

     ……根本的な解決にはならないけど。









1組教室


     ガラガラ…… ガラガラ…… パタン

千冬「……ふん、織斑か」

一夏「……すみませんでした織斑先生。 頭を冷やしてきました」 ペコリ

千冬「まあいいだろう。 席に着け」

     トコ トコ トコ   着席 IS装備

     ガラガラッ…… ガラガラッ…… パタン

ラウラ「……もどりました、教か……織斑先生」

千冬「遅かったな、ボーデヴィッヒ」

ラウラ「すみません。 なぜか教本がベッドの下にあり、発見に手間取りました」

千冬「そうか。 席に着け」

ラウラ「はい」

千冬「では授業を再開する」




     ……翌日の昼休み

     俺は、いつもの寒い場所で自作の弁当を食べていた。

     弁当を作る金は、もちろん千冬姉に出してもらっているが

     毎週 決まった額(千円単位)を定期的にもらい

     必ず、先週、何に使ったか領収書の添付を命じられている。



     そしてバイトなども禁止され徹底管理の下

     俺の自由にできる金など一円も無かった……




一夏(…………) モク モク

一夏(ふう……弁当、半分も食えないや)

一夏(それにしても寒いなあ……ここ)

一夏(…………)

一夏(……結局、俺、生きてるけど……)

一夏(どうしたらいいのかな……)


?「一夏」


一夏「!?」

箒「…………」

一夏「……ほう…いや、篠ノ之さん」

箒「……こんな所にいたのか」

箒「寒くないのか?」


一夏「……寒い。 けど、俺がいると」

一夏「みんなの空気が悪くなるから……」

箒「…………」

箒「寮の自分の部屋に戻ればいいじゃないか」

一夏「三台もの監視カメラつきで落ち着かないんだ……」

一夏「寝てる時は、さすがに何も感じないけど」

箒「……そうか」

一夏「で? 俺……また殴られなきゃならないのかな?」

箒「……違う」

箒「質問しに来た」

一夏「質問?」




箒「お前は……本当に一夏か?」



一夏「!!!」

箒「私は、昨日の一件が頭から離れない」

箒「……いや、本当はずっと前から疑問に思っていた」

箒「以前に比べ、明らかにセクハラ的な奇行はしなくなったし」

箒「どこか……私達に対して怯えてすらいる」

箒「私が知るIS学園での織斑一夏と、あまりに違いすぎるんだ……」

一夏「…………」

箒「……自分でもおかしな事を言っているのは分かっている」

箒「でも……昨日のお前は、その……なんと言うか……」

箒「”違う”と、確信したんだ」


一夏「…………」


一夏(……ラウラだけじゃなかった。 ……でも)

一夏(…………)


一夏「……篠ノ之さん」

箒「うん?」

一夏「その、話そうと思う。 だけど……」

一夏「多分……荒唐無稽すぎて、口を挟みたくなるだろうけど」

一夏「我慢して最後まで聞いて欲しい」

一夏「かまわないか?」

箒「……わかった」



―――――――――――


一夏「……で、今に至る」

箒「」

一夏「……信じられないって顔だな」

箒「当たり前だ! 鏡の世界だの、こっちの一夏だの……」

一夏「……だよな」


箒(馬鹿馬鹿しい……そんな事あるわけが……)

箒(…………)

箒(だが……筋は通っている)

箒(……………)

箒(仮に本当ならば……この一夏は)

箒(本人の責任でもない、こちらの一夏の罰をずっと受けているのか……)


一夏「篠ノ之さん?」

箒「……とりあえず言いたい事はわかった」

箒「今日はこれで失礼する」

一夏「そうか……」

一夏「ありがとうな。 聞いてくれて……」

箒「…………」

     スタ スタ スタ…

箒(…………)

箒(一夏の奴……ずい分やつれていたな)

箒(…………)



―――――――――――


次の日の昼休み

いつもの寒い場所


一夏「」

箒「どうした一夏? 何を驚いている」

一夏「え!? いや、その……」

箒「それよりもお前、ちゃんと食べているのか? 顔が病人みたいだぞ?」

一夏「それを言うなら”顔色”じゃ……」

箒「うるさい。 とにかく病人らしく粥でも食え」 サッ

一夏「え?」

箒「わざわざ作ってきてやったんだ。 まさか食べさせろ、とは言わないよな?」

一夏「…………」









     俺は、箒の差し出した小さな土鍋を受け取り、ふたを開ける。

     もうもうと湯気が立ち上り、見るからに暖かそうなお粥がそこにあった。

     ……俺はレンゲを持ち、ゆっくりと、それを口に運ぶ。








一夏「…………」

箒「どうだ? 旨いか?」 フフン

一夏「……ふぐっ」

箒「!?」

一夏「~~~~~っ!!」

箒「いち……夏?」

一夏「……うぐあっ……あっ……あったか、い……よ……ひぐっ……箒……」

一夏「うぐ……あぁぁぁっ……ひぐっ……ぐっ……」

一夏「ありっ……ありが、とうっ……箒……ひぎっ……」

一夏「おいし、い……ぐ……おいしいよ……」

一夏「ズズッ……はぐっ……うう……」

箒「…………」




     今 わかった。

     この一夏が



     どれほど、孤独だったのか
 
     どれほど、寂しかったのか

     どれほど、飢えていたのか



     どれほど、痛みに耐えてきたのか……






     本当の意味でこの一夏は

     たった一人だったのだ。



     ……私は何も言わず、ただ静かに

     一夏が食べ終わるのを見ていた。



     もっと早く声をかけてやれば良かった……



     私は……そう思った。





―――――――――――


一夏「ありがとう、ほ……篠ノ之さん。 美味しかった」

箒「落ち着いたか」

一夏「う……その、なんか恥ずかしい所、見せたな……」///

箒「……箒、でいい」

一夏「え!?」

箒「と言うか、さっき号泣してた時に 箒、箒、って言いまくってたぞ」 ニコ

一夏「そ、そうか?」/// アセ アセ

     ハハハ…


箒「ところで一夏」

一夏「うん?」

箒「お前……どれくらい体重落ちたんだ?」

一夏「え? 確か……10キロくらい」

箒「そ、そんなにか!?」

一夏「おう……さすがに何かやつれたなあ……とか思って」

一夏「この間、測ってみたから間違いない」

箒「まったく……あきれたものだな」

一夏「めんぼくない……」


箒「まあいい。 昼食は当分付き合ってやる」

一夏「はい?」

箒「不服か?」

一夏「いやいや! 俺はうれしいけど……いいのか?」

箒「かまわない」

一夏「そうか……ありがとうな、箒」

箒「何かリクエストはあるか?」

一夏「え? また作ってくれるのか?」

箒「! ……そ、それは、そうだろう? お前は病人なのだからな」/// テレ テレ

一夏(……うれしすぎる。 一緒に居てくれるだけでも十分なのに) グスッ


箒「一夏?」

一夏「……っと! すまん。 ええと、その……」

一夏「また……お粥がいいな」

箒「なんだ、またお粥でいいのか」 クスッ

一夏「ああ。 でも今度は梅干を付けて欲しいな」

箒「おっと……少し図に乗ったな。 ふふっ」

箒「わかった、任せておけ」 ニコ

一夏「…………」

一夏「……箒」

箒「ん?」

一夏「……何でもない。 呼んでみただけだ」 クスッ

箒「何だそれは……ばかもの」 クスッ

一夏(本当にありがとうな……箒)



―――――――――――


二日後の昼休み

調理実習室


     ガラガラッ

鈴「あれ?」

箒「……?」


鈴(こいつは確か……1組の……)


鈴「なに、あんた? 居残りでもしてんの?」

箒「いや……昼ご飯を作っているだけだ」

鈴「ふうん……わざわざ昼休みに? 随分手間をかけるのね」

箒「たまたま、そんな気分なだけだ……っと」 カチッ(ガス止め)


箒「そう言う2組のお前は 何をしに来たんだ?」

鈴「忘れ物よ。 さっきここで授業だったから……」

鈴「ほら、筆箱」 スッ

箒「……そうか」 上着 着込み 着込みっ

鈴「……何してんの? 上着なんか着込んで」

箒「決まっている。 外で食べるからだ」

鈴「は?」

鈴「この寒いのに?」

箒「だから、そんな気分というだけだ……よっと」 土鍋 ツツミ ツツミ

箒「じゃあな」

鈴「…………」


鈴(何……あいつ)

鈴(……怪しいわね)

鈴(こっそり後をつけてみよう)


―――――――――――


鈴(ずいぶん寂しいところに来たわね)

鈴(景色がいい訳でもないし……日当たりも悪いし)

鈴(ますます怪し……)

鈴「」




     あたしは 後悔した



     ちょっとした好奇心で



     1組のあいつの



     後をつけた事を……



鈴(…………)

鈴(何よ……あいつ……)

鈴(あいつだって……あのゴミに……)

鈴(酷い目にあわされたって聞いたのに……)

鈴(何で……あんな笑顔で、楽しそうにお昼してるのよ!!) ダッ


いつもの寒い場所


一夏「うん! 今日のお粥も旨い!」

箒「そうか……でも、よく飽きないな」

一夏「はは、俺もそう思う。 何て言うか……」

一夏「箒が作ってくれるから……かな?」

箒「んなっ!? な、ななな、何を言うんだ……!」///

一夏「ははは、すまん。 そう怒らないでくれ、箒」

箒「い、いや怒ってなど……もういい」

一夏「?」



箒(この一夏は……そばに居ると暖かい感じだが)

箒(なんて言うか、女心をくすぐるわりに)

箒(全然気持ちを汲んでくれない……)

箒(向こうの私も、私とは違う意味で苦労してそうだ……) ハア…

箒(…………)


箒「……そうだ、一夏」

一夏「ん?」

箒「お前の…… 一夏の世界の私って、どんな感じなんだ?」

一夏「俺の世界の……か」

一夏「そうだな、いつも身構えていたな」

箒「……は?」


一夏「竹刀とか、木刀とか、常に持ってたし」

箒「…………」

一夏「こっちの世界と変わらないぐらい殴られたり蹴られたりもしたっけ……」 ポリ ポリ

箒「」 ピキ

一夏「……でも、ふとした時に見せる寂しそうな顔とか」

箒「!」

一夏「ひたむきに強くあろうと努力する姿勢や」

箒「…………」

一夏「凛とした感じが、とても印象に残って……」

箒「…………」/// カアッ

一夏「一言で言うなら、白ユリの花の様な女の子だな。 うん」

箒「も、もういいっ! な、何か、聞いてて恥ずかしいっ!」///


一夏「はははっ……」

一夏「…………」

一夏「……箒」

箒「うん?」

一夏「ちょっと、頼みたい事があるんだ」

箒「何だ?」

一夏「ラウラを……呼んできて欲しい」

箒「ラウラ? ラウラ・ボーデヴィッヒの事か?」

一夏「そうだ。 実はな……俺がこっちの世界に来て」

一夏「一番最初に俺に気がづいたのは……ラウラなんだ」

箒「……!!」


放課後

1組教室


     ツカ ツカ ツカ

箒「ラウラ・ボーデヴィッヒ」

ラウラ「?」

箒「話がある。 来てくれないか?」

ラウラ「何の用だ? ここで話せばいいだろう?」

箒「……いいのか? 異世界の事なんだが?」

ラウラ「なっ……!?」

箒「…………」

ラウラ「篠ノ之 箒……」

ラウラ「……気づいたのか」

箒「ああ……」

ラウラ「わかった……場所を変えよう……」


ひと気の無い、とある個室


ラウラ「……それで、話とは何だ?」

箒「一夏に頼まれて来た」

箒「ラウラに会いたいそうだ」

ラウラ「…………」

箒「…………」

ラウラ「一夏は、私とのいきさつを話したか?」

箒「……あらかたは、な」

ラウラ「ならば……答えずとも分かっているのではないか?」

箒「私も同じ事を一夏に言った」

箒「でもあいつは、伝えるだけでいい、と……」

ラウラ「…………」


箒「一夏はもう気にしてないそうだ」

箒「いきさつはどうあれ……ラウラに世話になったのは間違いないし」

箒「命の恩人に改めてお礼を言いたい、と」

ラウラ「…………」

箒「無理強いはしない」

箒「もし……その気になったら私に言ってくれ」

箒「昼休みに案内する」

ラウラ「…………」

箒「要件はそれだけだ」

箒「これで失礼する」

     スタ スタ スタ…

ラウラ「…………」

ラウラ「一夏……」





     今更……どの面下げて、会えと言うのだ

     私にそんな資格など……



     ……いや、逆の可能性もある

     今までの報復や精算……それをさせるつもりなのかもしれない。











     いっそ、その方がこちらとしてもスッキリする。

     たとえ命を取られても文句は言えない。 なにしろ……

     元の世界に帰れなくなった原因は……私にあるのだから。









―――――――――――


次の日の昼休み

いつもの寒い場所


ラウラ「…………」

一夏「ラウラ……! よく来てくれた」

ラウラ「…………」

一夏「元気そう……じゃ、なさそうだな」

ラウラ「……嫌みか?」

一夏「はは……すまん、そんなつもりじゃない」

一夏「厚着はして来たか? ここは本当に寒いからな~」

一夏「まあ座ってくれ」

ラウラ「…………」


ラウラ「……篠ノ之 箒」

箒「なんだ?」

ラウラ「お前は……どうやって一夏を笑う様にしたんだ?」

箒「……? 何を言っている?」

ラウラ「一夏の……こんな笑顔を私は見た事が無い」

ラウラ「一夏は、こんな風に笑ってくれなかった……!」

ラウラ「私がどんなに望んでも……こんな風にはっ!」

箒「…………」

一夏「…………」


一夏「ラウラ……言葉で説明するのは難しいんだけどな」

一夏「箒は俺の”心”を暖めてくれたんだ」

ラウラ「心……?」

一夏「そう。 心が暖まるとな、自然に笑いたくなるものなんだ」

ラウラ「何だそれは? どういう意味だ?」

一夏「うん、それが難しい。 心の暖め方は……人によって違ったりするしな」

ラウラ「…………」

一夏「だから、きっとこうだと俺は思うんだ……」


一夏「ラウラは、俺に笑って欲しかった」

一夏「それは俺の心を暖めようとした行為だった」

一夏「でも……ラウラの方法は俺には合わなかった」

一夏「結果は残念だったけど……だから俺は、ラウラに礼を言いたいんだ」

一夏「ラウラ、ありがとう」

ラウラ「…………」

ラウラ「……違う」

ラウラ「私は……私は! そんな事など考えていなかった!」

ラウラ「私は、お前を見えない鎖で縛りつけ」

ラウラ「時には暴力で従わせて」

ラウラ「無理やり私のそばに お前を置いていた!」

ラウラ「自分の……欲求を満たす為だけに!!」


一夏「……うん、そうだな」

ラウラ「!!!」

一夏「でも……俺の命を救ってくれた」

一夏「それは紛れも無い事実だろ?」

一夏「だから感謝してる」

一夏「それじゃ……駄目なのか?」


ラウラ「……っ」


一夏「それと……出来るならラウラの心を」

一夏「俺は暖めたいと思っている」

一夏「ラウラの……本当の笑顔を見たいから」


ラウラ「…………」

ラウラ「…………っ」





     どうして私は

     この一夏を縛り付けたのだろう?





ラウラ「い、ちか………ごめっ……ひぐっ……ぐっ……」

ラウラ「ごめんなさいっ……ひっ……ぐ……うっ……ごめんなさいっ……!」

ラウラ「……うあっ……うあああああああっ……うえっ……うえっ……」




     こんなに優しくて

     こんなに暖かい人を

     私は他に知らない



     なのに私は

     醜く 残酷な方法で

     この人の”心”を傷つけてしまった……






     それでも……この一夏は

     私に『ありがとう』と言う



     そんな資格など無い

     私の”心”を暖めたいと

     本当の笑顔を見たいと

     言ってくれる






     ごめんなさい 一夏

     ごめんなさい 一夏



     あなたの言う通り

     私は…… 私は……

     ただ……



     温もりが欲しかった……




放課後

凰・鈴音の部屋


鈴「…………はあ」 ゴロン

鈴(何でこんなに気になるんだろ?)

鈴(あんなゴミ屑……)

鈴(まして……1組のあの女、よくヨリを戻す気になったものね) ゴロン

鈴(あたしもそうだけど、相当こっ酷く振られたはずなのに……)

鈴(それもあんな笑顔で……)

鈴(…………)

鈴(……笑顔?)

鈴「!!!」 ガバッ



―――――――――――


次の日

1組教室・休み時間


     ガヤ ガヤ…

鈴「えーっと……」

鈴「あ、いたいた」


セシリア(……? あれは、2組の?)


鈴「ねえ」

箒「……?」


鈴「ちょっと顔を貸してくんない?」

箒「なんだ、いきなり」

鈴「あたしは構わないけど、あんたの方がまずいんじゃない?」

鈴「あんたがどこで、誰と、お昼食べているか、知ってるんだけど?」

箒「……!!」

箒「わ、わかった、どこにでも連れて行け」

鈴「おっけー。 じゃ、来て」

     テト  テト  テト…

セシリア「…………」

セシリア(何ですの? あの篠ノ之箒の慌て様……)

セシリア(もしかしたら……何か弱みを握られた……とか?)

セシリア(…………)

セシリア(ふふふ、そうだとしたら)

セシリア(あの忌々しいクソ女を苦しめられますわね……) ニヤリ…


屋上


セシリア(……む、この出入り口から出ては、さすがにバレますわね)

セシリア「……ブルーティアーズ、頭部、一極限定モードで起動」 スウウウウウン!

セシリア「センサー類オンライン……集音マイクを起動」 ピピピ……ピ……

セシリア(これでよし……さあて、聞かせてもらいましょうか)

セシリア(クソ女の秘密を……ふふふ)


箒「で、何の用だ?」

鈴「そうね。 聞きたい事があるの」

鈴「……変に思われるかもしれないけど」

鈴「あの一夏って、本当に一夏なの?」

箒「!!!」


セシリア(……? どういう意味ですの?)


鈴「ま……あたし2組だし、四六時中見てたわけじゃないけど」

鈴「少なくとも」

鈴「あんたとご飯食べてる一夏は……このIS学園での一夏じゃない」

鈴「あれは……」


鈴「あたしの……思い出の中に居る一夏と、同じ笑顔だった」


箒「…………」

鈴「答えて。 あの一夏は誰なの?」

箒「……わかった、話そう」

箒「だが少し長くなる。 今は無理だ」


鈴「そう。 じゃ……放課後なんてどう?」

箒「ああ、それでいい。 場所はどこがいい?」

鈴「ここは? 放課後の屋上」

箒「うむ、私は構わない」

鈴「じゃあ決まりね。 ちゃんと来なさいよ」

箒「武士に二言は無い」


セシリア(あのゴミが違う? 何を言ってるのかしら……?)

セシリア(ま……放課後の楽しみですわね)


放課後

屋上


鈴「来たわね」

箒「…………」

鈴「じゃ、話して」

箒「うむ……」

箒「でもその前に名前を名乗らないか?」

鈴「あれ? 言ってなかった?」

箒「私は篠ノ之 箒。 箒、でいい」

鈴「あたしは中国の代表候補生、凰・鈴音。 鈴、でいいわ」

箒「鈴……か、わかった」

箒「では、本題に入るが……結論から言うと」

箒「鈴……お前の推測は正しいのだ」

鈴「……?」



―――――――――――


箒「……という訳なんだ」

鈴「」


セシリア()


箒「信じられないだろうな……」

鈴「当たり前じゃない! そんな話……!」


箒「でも、つじつまは合う。 一夏が劇的におとなしくなった事も説明がつく」

鈴「ぐっ……! ……箒はその話、本人から聞いたの?」

箒「ああ。 私だって今の鈴と同じくらい信じられなかった」

箒「だが……ほんの些細な事で信じられる様になったんだ」

鈴「…………」

箒「まだ鵜呑みにできなかった時……目の前に居る一夏が」

箒「本人の責任でもない、こちらの世界の一夏の罰を受けている」

箒「そう思ったら……哀れになってな」

箒「翌日、私は謝罪の意味もこめて、一杯の粥を振舞ったんだ……」

鈴「…………」


箒「そしたらあいつ、わんわん泣き出してな……」

箒「あったかいよ、箒、おいしいよ、箒、ありがとう、箒、と」

箒「何度も繰り返すんだ……」

鈴「…………」

箒「……私は、信じようと思った」

箒「いや……正しくは騙されていてもいい、と思った、かな……」

箒「私は……多分、愚か者なのだろうな……」 …クス

鈴「…………」


セシリア「…………」


鈴「…………ねえ」

箒「うん?」

鈴「今から……えげつない質問をするけど……」

鈴「答えたくなかったら 答えなくていい」

箒「……ああ」

鈴「…………」

鈴「箒は……あいつに……こっちの世界の一夏に」

鈴「なんて言われて振られた?」

箒「……!!」


セシリア「……!!」


箒「…………」

箒「もう、よく覚えていない」

箒「確か……巨乳に飽きた……とかだったと思う」

鈴「……そ」

鈴「うらやましいな……あたしは今でもはっきり覚えているの……」



鈴「『お前なんて単なるオナホの一つだ。 彼女面するな』」



箒「……!」


セシリア「……!!」


鈴「笑っちゃうよね……」

鈴「あたしは必死に勉強した」

鈴「中国の代表候補生という、日本行きのチケットを得る為に」

鈴「何千人というライバル達を押しのけて」

鈴「やっとの思いでそれを手に入れたのに……」

鈴「その理由の大元に あっさりと突き落とされたわ」

箒「…………」

鈴「言われた時……本気で殺してやるって思った」

鈴「まあそれはドイツの代表候補生や先生達に阻止されたけどね」

鈴「……後は……大泣きしたわ」

鈴「それからは……視界にあいつが入った瞬間に蹴りを入れるようにした」


セシリア「…………」


鈴「で……今に至る、よ」

箒「…………」

鈴「……あたしは、どうしたらいいのかな?」

鈴「向こうの一夏に……謝るべき、かな……?」

箒「…………」

箒「それは私に聞く事じゃない」

箒「鈴が決めるべき事だ」

鈴「うん……そうね」

箒「でも、会いたくなったら いつでも来るといい」

箒「会ってみれば 何かが変わるかもしれない……」

箒「私も歓迎する」 ニコッ

鈴「箒……うん、ありがとう」


セシリア(…………)



―――――――――――


次の日の昼休み

いつもの寒い場所


ラウラ「一夏、美味いか?」

一夏「おう、美味いぞ。 ラウラのおにぎり」 ニコ

ラウラ「そ、そうか。 良かった……」/// ニコ

箒「…………」 モク モク

一夏「……箒? さっきから静かだけど、どうかしたのか?」

箒「ん? ……いや、気にしないでくれ。 何でもないから」 ニコッ

一夏「そうか……ならいいんだ」


箒(鈴……やっぱり昨日の今日では無理……か)

箒(難しい事だものな……)


ラウラ「そうだ、一夏」

一夏「うん?」

ラウラ「向こうの世界の私は、どんな感じだ?」

一夏「俺の世界のラウラか……まず、第一印象は最悪だったな」

一夏「いきなり引っ叩かれた」

ラウラ「う……それはこちらの世界でも同じだ……」

一夏「ははっ……でも、IS暴走から助けてからは」

一夏「別人みたいに可愛くなったな」

ラウラ「!?」/// カアッ

箒「…………」 ピキ


一夏「特に臨海学校からこっち、どんどん服とか、アクセサリーとかでオシャレして」

一夏「ますます可愛くなって……」

ラウラ「あ……う……」/// カアアアアッ…

箒「…………」 イラッ

一夏「例えるなら……うん! 鈴蘭の花の様な可愛い女の子だな!」

ラウラ「あわわ……も、もう止めてくれ、一夏っ……」///

ラウラ「どうにかなってしまいそうだ……!」/// プシュー…

一夏「なんだよ、ラウラから聞いてきたんだぞ?」 アハハ

箒(……なんだか悩んでいるのが、バカらしくなってきた) イライラ


セシリア(…………)

セシリア(楽しそうですわね……)



―――――――――――


次の日の昼休み

いつもの寒い場所


鈴「一夏……」

一夏「!? り……鈴!?」

一夏「あ……い、いや……凰さん」

鈴「……鈴でいいわよ」

鈴「事情は箒から聞いているから」

鈴「初めまして……と言う方が正しいのかな?」

一夏「……え?」


箒「本当だ、一夏。 一昨日、私が鈴にたずねられてな……」

箒「すべて話した」

一夏「…………」

鈴「ま、あんたに悪い事したかなーっと思って」

鈴「とりあえず……これ、作ってきた」 サッ

一夏「……! 酢豚……」

―――――――――――

鈴「……どう?」

一夏「……美味い。 こっちの世界で、また鈴の酢豚が食えるとは思わなかった……」 シミジミ


鈴(…………)

鈴(……何よ。 箒の時は号泣したってのに)

鈴(あたしにはホロリもないっての……)


一夏「鈴……ありがとうな」

鈴「……別にいいわよ、酢豚ぐらい。 たいした事じゃないし……」

一夏「いや、そうじゃない」

鈴「は?」

一夏「ああ、えっと……それも違うな」

一夏「酢豚の事もありがとう。 それと、な」



一夏「俺に会いに来てくれて……ありがとう、鈴」



鈴「……!」 トクン

一夏「……俺、箒が会いに来てくれた後、考えてみたんだ」


一夏「もし自分が箒の立場だったら、どんな気持ちなのかなって」

鈴「…………」

一夏「自分をないがしろにした相手に会うって、それだけでも大変なのに……」

一夏「顔も声も同じ奴の 中身が違う事を確かめるって」

一夏「どれ程の勇気を出したんだろう……」

一夏「どれ程の恐怖に耐えてくれたのだろう……」

一夏「箒って凄いなって、思ったんだ」

箒「…………」/// テレ

鈴「…………」

一夏「そして……鈴もきっと、凄い勇気を出してくれたんだと思った」

一夏「だから、お礼を言いたいんだ」




一夏「鈴、俺に会いに来てくれて……ありがとう」 ニコ



鈴「…………」

鈴「…………っ」

鈴「……く……うっ…………ぐっ……う…………」

鈴「うあっ…………うあぁぁっ……あああああっ!」


一夏「お、おい、り……」 箒 ガシッ

箒「一夏……」 (首) フル フル

一夏「…………」


鈴「うえっ……うえっひぐっ…………うあっ…………」

鈴「いっ、ぢがっ……ごめっ……ごめん…………ひぐっ」



     やっと……



鈴「ごめんねっ……!……ごめんっ……ごめんっ……うぐっ……」

鈴「うええええぇぇぇぇっ……ひうっ……あああああああ…………ぐっ……」



     やっと…… 会えた



鈴「いぢがっ……いぢが……っぁあぁぁぁっ………」

鈴「うえっ……ひっく……ひうっ………ぐっ………」









     会いたかった 一夏に

     会えた













     あたしがここに居る

     理由のすべて



     何もかもを犠牲にしてでも

     会いたかった人










     あの時と変わらない

     優しい笑顔と 眼差しを

     私にくれる人



     それなのに……








     あたしは長い間

     あなたに気づけなかった……



     気づかなかった……



     寂しかったよね……?

     辛かったよね……?

     痛かったよね……?






     ごめんね……

     あなたに気づかなくて

     ごめんね……



     一夏



     本当にごめんなさい……





―――――――――――


一夏「……落ち着いたか?」

鈴「……うん」/// テレ

一夏「鈴は何も悪くないんだ。 謝らなくてもいい」

鈴「……うん」/// テレ テレ

ラウラ「…………」 イラ

箒「…………」 ピキ

一夏「さ、飯を食おうぜ! せっかくの酢豚が冷めちまう」 アハハ


セシリア(…………)

セシリア(わたくし……何をしているのでしょう)

セシリア(わたくしは…………何がしたいのでしょう……?)



―――――――――――


一夏「ふう……あー、うまかった」

鈴「……ところでさ」

一夏「うん?」

鈴「あんたの世界のあたしって、どんな感じ?」

一夏「おっ、鈴もその質問してきたな」

一夏「やっぱ……気になるものか?」

鈴「そ、そりゃあね」

箒「…………」 ピク

ラウラ「…………」 ピク


一夏「そうだな……鈴はとにかく活発で、中学の頃と変わってなくて」

一夏「ああ……鈴だなって思ったな」

鈴「むー……」

箒「…………」

ラウラ「…………」


一夏「昔と同じように俺の世話を焼こうとしたり、やたらとベタベタしてきたり……」

鈴「…………」 ピキ

箒「…………」

ラウラ「…………」


一夏「でも、笑うと見える八重歯とか、髪もサラサラで、そこが可愛いよな」

鈴「!」

箒「!」

ラウラ「!」


一夏「花に例えるなら……」

鈴「…………」 ドキ ドキ

箒「…………」

ラウラ「…………」


一夏「ひまわりみたいな女の子かな」

鈴「」

箒「」

ラウラ「」


一夏「……あれ? 何、この空気?」

鈴「何でひまわりなのよ! 女の子の例えとして、おかしいでしょ!?」

一夏「うおっ!? ど、どうして怒るんだ!? 鈴!」

鈴「ほら! もっとあるでしょ!? こう……女の子っぽい花が!」

箒「…………」 (笑い堪え中)

ラウラ「…………」 (笑い堪え中)

一夏「え? う、う~ん……あ! あれか!」

鈴「そうそう! やっと分かったのね!」





一夏「朝顔だな!」



鈴「」

箒「」

ラウラ「」



     ……その後、俺は鈴から踏み込みの効いた 

     強烈なグーパンチを顔面に食らった。

     腹を抱えて笑う箒とラウラ。 ……俺、何を間違ったんだ? イテテ……




セシリア「…………」

セシリア「……ブルーティアーズ、待機状態へ」 スウウウウウンッ…


一夏「自分をないがしろにした相手に会うって、それだけでも大変なのに……」

一夏「顔も声も同じ奴の、中身が違う事を確かめるって」

一夏「どれ程の勇気を出したんだろう……」

一夏「どれ程の恐怖に耐えてくれたのだろう……」


セシリア(…………)


一夏「そして……鈴もきっと、凄い勇気を出してくれたんだと思った」


セシリア(…………)

セシリア(…………勇気)



―――――――――――


翌日の朝

1組教室


セシリア「……篠ノ之さん」

箒「!? な、何だ?」

箒(セシリア・オルコットが……私を『さん』づけで呼んだだと……?)

セシリア「……後でお時間をいただけますか?」

セシリア「向こうの世界の事について、お話をしたいのです」

箒「!?」


休み時間

屋上


箒(いったい、どういう事なのだ……?)

箒(ラウラは恐ろしいほどの客観性で……)

箒(私や鈴は、過去の一夏を知っていて見抜けた事だというのに……)

箒(そのどちらも無いセシリアが……なぜ……)


セシリア「…………」


セシリア「そうですわね……まず」

セシリア「わたくしは、あなた方に謝らなければなりません」

セシリア「ごめんなさい」 ペコリ

箒「……!? 何に対して……だ? それにあなた「方」?」

セシリア「…………」

セシリア「わたくしは……ここでの篠ノ之さんと、2組の凰さんの会話を」

セシリア「……盗聴しておりました」

箒「!!」

セシリア「ごめんなさい」 ペコリ

箒「…………」

セシリア「…………」


セシリア「……ご安心ください。 脅しに使う事はありません」

セシリア「ここでの……御二人の話を聞いて、わたくしは」

セシリア「自分がとても情けなくなりました……」

セシリア「どうして、わたくしは篠ノ之さんを憎んでいるのだろう?」

セシリア「どうして、堂々とあなたの前に立てないのだろう?」

箒「…………」

セシリア「……あのゴミ一夏がいなければ」

セシリア「友人になれたかもしれなかったのに……」

箒「…………」


セシリア「それと……向こうの世界の一夏さんとの楽しそうなお昼」

セシリア「ゴミ一夏とまったく同じ声なのに……とても暖かで明るい人だと感じましたわ」

セシリア「凰さんがなぜ謝ったのか、わかる気がします」

箒「…………」

セシリア「わたくしも……あの輪に入りたい」

セシリア「わたくしも、篠ノ之さん達とおしゃべりしたい」

セシリア「だからわたくしは……今日、謝罪しに来ました……」

セシリア「なけなしの勇気を……振り絞って来ました……」

セシリア「どうか……わたくしを…………許してください……」

セシリア「……そして……良かったら」

箒「…………」



セシリア「わたくしと……お友達になってください……」


箒「…………」

セシリア「…………」 グスッ…

箒「……箒、でいい」 ニコ

セシリア「……えっ!?」

箒「箒と呼んでくれ」 ニコ

箒「そのかわり私もセシリア、と呼んでいいか?」

セシリア「……は、はい! ですわ!」 パアア

箒「うむ」 ニコ


箒「それじゃあ……次は鈴に謝りに行くのだな……」

箒「私も一緒に行こう」

セシリア「え?……でも……」

箒「迷惑か?」

セシリア「い、いえ!」 アセ アセ

箒「じゃ、行こう」

箒「これから、よろしくな、セシリア」 ニコ

セシリア「……! はい、箒さん!」 ニコ


昼休み

いつもの寒い場所


セシリア「えと……始めまして? 一夏さん……」

一夏「ああ、よろしくな、セシリア。 よく来てくれた、ありがとう」 ニコ

セシリア「い、いえ……」


セシリア(う~……やっぱりお顔を見ると)

セシリア(どうしてもゴミ一夏を思い出してしまいますわ……)

セシリア(早く慣れませんと……)


箒「……みんな、ちょっと提案があるのだが」

ラウラ「提案?」

鈴「なに?」

箒「セシリアと話している時に思ったのだが……」

箒「こっちの世界の一夏の呼び方を決めておかないか?」

箒「ゴミ一夏、という呼び方は、その、一夏に悪い気がしてな……」

セシリア「……あ。 ご、ごめんなさい、わたくし、その……」 アセ

箒「す、すまん。 セシリアを責めるつもりは無いんだ」 アセ

鈴「うん。 あたし、それ賛成」

ラウラ「ふむ。 確かに一理あるな」

一夏「俺としても ありがたいな」


箒「なにかいい呼び名はあるか?」

鈴「単純にゴミ屑でいいんじゃない?」

ラウラ「いや、それだと普通のゴミと区別しにくい。 腐れ外道はどうだ?」

セシリア「ちょっとエレガントさに欠けませんこと? ダスト、とかでよろしいのでは?」

箒「……なんか響きがカッコよすぎないか? 万年発情期でどうだ?」

鈴「長すぎよ! カスとかでいいじゃない!」

ラウラ「気持ちはわかるが正確じゃないぞ? 強姦魔は? 的確だろ?」 ドヤ

セシリア「……的確ですけど、あまり人前で使いたくありませんわ」

一夏「」


箒「では、節操なしは?」

鈴「インパクトに欠けるわね……ド直球に変態がいいんじゃない?」



一夏(…………えーっと)



ラウラ「それだと違う意味にも聞こえてしまう。 種馬野郎とかどうだ?」

セシリア「お馬さんに失礼ですわ……。 デブリヒューマンなどはいかがです?」



一夏(…………何だろう。 この、いたたまれない気持ちは……?)




箒「煩悩魔神! これはぴったりだろう!」 ドヤ

鈴「な、なんか無駄に強そうね。 サル頭ぐらいでいいでしょ?」



一夏(……何か遠回しに)



ラウラ「いや……奴の狡猾さを考えると違和感がある。 性欲悪魔なんてどうだ?」

セシリア「悪魔という言葉は、宗教上の問題が起きそうですわ……」



一夏(……凄いバカにされている気がする) シクシク……




一夏「み、みんな!」

箒・鈴・ラ・セ「?」

一夏「こ、こんなのはどうだ!?」

一夏「こっちの俺は……言ってみれば、負の一夏だ。 そこで」

一夏「『マイナス』って呼ぶのはどうかな?」 ハハハ…

箒「ふむ……」

鈴「まあ、いいんじゃない?」

ラウラ「うむ、悪くは無い」

セシリア「無難な感じですが……よろしいのでは?」

一夏「よし! これで行こう! うん!」

一夏(……ほっ)


セシリア「そ、そうですわ!」

箒「ん? どうした? セシリア?」

セシリア「肝心な事、聞くのを忘れていましたわ!」

鈴「肝心な事?」

セシリア「一夏さんの世界の、わたくしの事です!」 キラキラッ

一夏「おー、そういえば」

箒「…………」 鈴をチラ見

鈴「…………」 ドヨン…

ラウラ「…………」 鈴をチラ見

一夏「なんか恒例化してきたけど……セシリアな」

セシリア「はい!」


一夏「セシリアは……最初、高圧的でヤな奴だなって思ったっけ」 苦笑い

セシリア「あう……」 シュン

一夏「でもなぜか、急に優しく接してくれる様になって驚いたんだよな」

セシリア「!」

箒「…………」

鈴「…………」

ラウラ「…………」


一夏「…………あ」

セシリア「? どうしましたの?」

一夏「そ、その、言いにくいんだが……」

一夏「あくまで、俺の世界の、セシリアの、事だから……な?」

セシリア「え? ええ……」

一夏「こほん……その……絶望的にマズイ料理を作ってた……」

セシリア「んなっ!?」

箒・鈴・ラ「」

一夏「これがもう……筆舌に尽くしがたい酷さで……」

一夏「見た目、普通のタマゴサンドなのに……生臭い味と香りが口一杯に広がっ……」

一夏「……おえっ」

セシリア「な……な……」 ワナ ワナ

箒・鈴・ラ「……」 (笑い堪え中)


一夏「……それさえなければ綺麗な金髪に抜群のスタイルで」

セシリア「……!?」

箒・鈴・ラ「!?」

一夏「丁寧な口調の凄い美人で、申し分ないのになあ……」

セシリア「……あう」///カアッ

箒・鈴・ラ「……」 イラッ

一夏「そうだな……花に例えるなら……」

セシリア(こ、ここですわ!)

箒(……ここだな)

鈴(ここよね)

ラウラ(ここだ)




一夏「棘の無いバラ……だな。 うん」



セシリア「……はう」/// カアアア

箒(……くっ) イラッ

鈴(……なんでよ) ムカ ムカ

ラウラ(棘の無いバラ? ひ弱なだけだな) フフン

一夏「とまあ、こんな具合だが セシリア」

セシリア「はい!」/// ウフフ



―――――――――――


数日後の放課後

図書室


一夏(…………) カリ カリ

一夏(…………) カリ カリ

一夏(…………うん)

一夏(こんなものかな)

一夏(後は……)

一夏(みんなの了解を得られるかどうか……)

一夏(…………)

一夏(……大丈夫。 きっと)



―――――――――――


次の日の昼休み

いつもの寒い場所


一夏「みんな、ありがとう」

箒「……? え?」

鈴「何よ? いきなり」

ラウラ「特に何かした覚えはないが?」

セシリア「右に同じですわ」

一夏「……うん。 その、な。 「何でもない」のが、うれしくて」

箒・鈴・ラ・セ「…………」


一夏「ほんの一ヶ月前まで……俺は、ほとんど会話のない毎日をすごしていたのに」

一夏「今は、みんなが居てくれている」

一夏「こうやって他愛の無い会話ができるって」

一夏「本当に幸せな事なんだなって思ったら」

一夏「お礼が言いたくなった」 アハハ

箒「一夏……」/// ポッ

鈴「……そ、そんなに気にする事じゃないわよ、こんな事……」/// カアッ

ラウラ「……そうか、あ、改めて言われると、その……」/// カアッ

セシリア「一夏さん……」/// ポッ


一夏「……でも、な」

一夏「後一人、足りない……」

箒「……何?」

鈴「へ……?」

ラウラ「誰なんだ?」

セシリア「……もしかして」


一夏「シャルロット・デュノアがいない」


箒「一夏……」

鈴「…………」

ラウラ「…………」

セシリア「……やっぱり」


箒「一夏……残念だが、それは不可能だ」

一夏「うん……わかってる箒」

一夏「シャルはIS学園に来た時、マイナスから男装をバラすと脅され」

一夏「毎晩マイナスの相手を……強要された」

鈴「…………」

一夏「俺がどう思っていようが……俺はマイナスとまったく同じ顔、同じ声」

一夏「シャルに近づくだけで、彼女にいらぬ恐怖を思い出させるだろう……」

一夏「……俺にできる事は せいぜいシャルの視界に入らない事ぐらい」

ラウラ「一夏……」


一夏「いや、別に俺は……俺の事は、どうでもいいんだ」

一夏「問題なのは、どうしてシャルは あんなに無表情でいつも一人ぼっちなのか?」

一夏「という事なんだ」

セシリア「一夏さん……」

一夏「みんな、教えてくれないか?」

一夏「IS実習の時も気になったんだが、シャルは専用機じゃ無かったし……」

一夏「今、シャルは、どういう立場なんだ?」


箒「…………」

箒「実はな……公(おおやけ)にはなってないが、デュノアの一件は」

箒「国際問題に発展したんだ」

一夏「!?」

セシリア「まず、日本政府側がフランス政府に対して抗議文を出しまして……ね」

セシリア「白式の技術を盗む為に性別の詐称までして」

セシリア「特異体……マイナスに近づいたわけですから」

セシリア「ISの国際条約 禁止事項にも抵触すると……」

一夏「…………」


ラウラ「だが、フランス政府側も強硬でな」

ラウラ「あくまでデュノア社の独断という姿勢を崩さなかった」

ラウラ「実際は出国手続き等で、何らかの便宜を図った可能性があるのだが……」

ラウラ「日本側への圧力……量産型ISの部品納入見合わせをチラつかせてきた」

一夏「……!」

鈴「……結局、双方の妥協で、日本はシャルロットへのデュノア社の完全切り離し」

鈴「フランスは、後の人材育成確保の為」

鈴「シャルロットのIS学園在学の存続……という事で落ち着いたわ」

一夏「……何だよそれ」

一夏「IS学園の特記事項は?」

箒「……今回は適用されなかった」

一夏「!?」


箒「理由や経緯はどうあれ……IS学園内で強姦陵辱劇が行われた」

箒「しかも」

箒「管理側の教師の……弟がしでかした大不祥事だ……」

一夏「!!!!」

セシリア「学園側は織斑先生を守るため……やむなく……」

セシリア「しかも張本人のマイナスには、特異体という事もあって」

セシリア「一週間程度の謹慎処分……本来なら退学でも足りないくらいですのに……」

セシリア「でも、これ以上の日本政府の干渉は何とか防ぎましたわ」

一夏「……っ」


一夏「……んだよ、それ」

一夏「一番の被害者であるシャルが……」

一夏「全然救われてないじゃないか!!!」

一夏「……んだよ、それ……」 グス…

鈴「一夏……あんたが悪いわけじゃない」

鈴「マイナスが全部しでかした事よ」

ラウラ「そうだぞ、一夏……」

ラウラ「そんな……悲しい顔をしないでくれ……」

一夏「…………」


一夏「……ようやくわかったよ」

一夏「千冬姉が……どうしてあんな目で俺を見るのか」

一夏「千冬姉は俺から……マイナスから生徒を守りたかったんだ」

一夏「千冬姉は、やっぱり千冬姉だった」 クス

ラウラ「一夏……」

一夏「それにしても」

一夏「マイナスの野郎、許せねえ……!」 ギリッ

箒「まあ、それに関しては同感だな」

一夏「機会があれば絶対ぶちのめしてやる……」

一夏「でも、今はシャルの事だ」


一夏「ともかく、今の話でシャルの状況はわかったが……」

一夏「どうしてシャルは一人ぼっちなんだ?」

セシリア「! ……そ、それは」

ラウラ「…………」

箒「う、うむ……」

鈴「みんな……どう接していいか 分からないのよ……」

セシリア「その通りですわ……」

ラウラ「……私は……同室なのだが、人と接する事自体が……その……」

箒「デュノアの顔を見ると……どうしても……な」

鈴「あの事件を真っ先に思い出して……」

一夏「…………そうか」


一夏「…………」

一夏「でも、みんな」

一夏「あえて言うけど、頼む」

一夏「シャルを……救ってやって欲しい」

一夏「俺を救ってくれた様に……」

一夏「どうか、頼む……!」


―――――――――――



翌日の昼休み

食堂


シャル「…………」 モク モク

シャル「…………」

?「ねえ」

シャル「……!?」 ビクッ

鈴「ここ……いいかな?」 ニコ

シャル「え!?……あ……ど、どうぞ」

鈴「ふふ、ありがと!」

シャル「う……うん」


鈴「……ね、あんたの髪ってさ、綺麗だよね?」

シャル「え!? ……そ、そうかな?」

鈴「シャンプーとか、何使ってるの?」

シャル「え、えっと……普通だよ? IS学園備え付けのやつだけど……」

鈴「えっ!? ホント!? あたし、ここのシャンプー合わなくてさ~」

鈴「合うやつ探して見つけたけど……これが結構バカになんなくて」

鈴「もうやんなっちゃう……」 ハア…

シャル「そ、そうなんだ」


鈴「ね、もしかしたら、なんかコツとか……あったりするの?」

シャル「え……!? ……う、う~ん」

シャル「……少し長めにゆすいでいる……かな?」

鈴「長めにゆすぐ?」

シャル「うん」

シャル「ボクも最初、ちょっと髪が痛んでね……」

シャル「何かの本でシャンプーが髪に残ってると、痛みやすいって書いてたのを思い出して」

シャル「それからは長めに髪をゆすぐようにしてるんだ」

鈴「へえ……そうなんだ。 よし、さっそく あたしもやってみよ!」

鈴「あ、それからリンスなんだけどさ……」


―――――――――――


シャル「……って感じかな」

鈴「うわあ……勉強になるわ……」


シャル「えへへ……」///

鈴「っと、もうこんな時間! 行かないと!」

鈴「あたし2組の凰・鈴音っていうの。 鈴、でいいから。 よろしくね!」 ニコ

シャル「え!? あ、うん。 ……確か、中国の代表候補生の人……だよね?」

シャル「ボクは1組のシャルロット・デュノア……」

鈴「シャルロット・デュノアね。 じゃあ、シャルロットって呼んでいい?」

シャル「!? う、うん……」

鈴「それじゃあまたね、シャルロット!」 ニコ

シャル「え!? あ……うん。 また……」


シャル(………びっくりした)

シャル(…………)

シャル(でも……楽しかったな)/// フフッ



―――――――――――


数日後・夜

IS学園寮・シャルとラウラの部屋


ラウラ「シャルロット・デュノア」

シャル「え……? 何かな?」

ラウラ「そ、その……折り入って頼みがあるのだが……」

シャル「う……うん」

ラウラ「明日の休日。 私の服を買うのに付き合って欲しい……」

シャル「…………」

シャル「え?」


ラウラ「と、唐突なのは分かっている。 驚くのも無理は無い……」

ラウラ「ともかく、これを見てくれ」 バサ

シャル「……? これ、メイド服?」

ラウラ「そうだ。 先日、外出用の服を部下に頼んだのだが」

ラウラ「これと、こんなのが届いた」

シャル(……ゴスロリに……魔法少女っぽい服……)

ラウラ「私は世俗にうとい。 このメイド服というのを着て外出したら」

ラウラ「好奇の目にさらされてな……」

シャル「……うん。 そうだろうね……」

ラウラ「そこで、だ。 自分で服を買おうと思うのだが……選択基準がわからん」

ラウラ「そして私は……非常に友人が少ない」

シャル「……うん」

ラウラ「同室のよしみで、助けると思って! 頼む!」



―――――――――――


翌日・午前中

ショッピング・モール


ラウラ「……凄いな。 こんなに色々な種類の服があるのか!」 フンフン

シャル「ラウラ、楽しそうだね」 フフフ

ラウラ「うむ! なぜか興奮するな!」 フンフン

シャル「じゃあさっそく……こんなのはどう?」

ラウラ「う、うむ。 と、言われてもよく分からないのだが……」

シャル「ほら、こっちに大きな鏡があるでしょ?」

シャル「これでちょっと体にあわせてみるんだ」

ラウラ「ほう……に、似合っているか?」

シャル「うん! とっても可愛いよ?」

ラウラ「そ、そうか! じゃあ、これにしよう!」


シャル「え!? 試着しないの?」

ラウラ「む? 試着……とは?」

シャル「ほら……あそこにカーテンがあるでしょ?」

シャル「あそこで、ちょっと着替えて、ちゃんと合うかどうか最終チェックするの」

ラウラ「ふむ……そうなのか。 よし! 行って来る!」

シャル「うん、ゆっくりでもいいからね」

シャル「…………」

シャル「…………!?」

シャル「わあああああっ!? ラ、ラウラ!」

シャル「カーテンを閉めてから着替えるんだよ!!」



―――――――――――


ラウラ「よし! これで私服は完璧だ!」

ラウラ「ありがとう、シャルロット」

シャル「うん、ボクも楽しかったよ」

ラウラ「……シャルロット、お礼としてお前に服を贈りたいのだが」

シャル「え!? そ、そんな、悪いよ。 お昼もおごってもらったし……」

ラウラ「いいんだ、感謝の気持ちとして受け取ってくれ」

シャル「で、でも……」

ラウラ「迷惑だろうか……?」

シャル「ううん! そうじゃなくて……」

ラウラ「今日は私が無理に誘ったのだ。 そのくらいさせてくれ」

ラウラ「そして、できるなら……また一緒に外出してくれると嬉しい」/// モジモジ

シャル「…………」


シャル「うん、わかった」 ニコ

シャル「じゃあ、ありがたくもらうね?」

ラウラ「……! そうか! ……よかった」 パアア…

ラウラ「でも、あまり値段の高いものは無理だぞ?」

シャル「うふふ、わかってる」

シャル「実は……ちょっといいなって、思う服があったんだ」 エヘヘ…

ラウラ「ほう? あの熱心に見ていた黄色いやつか?」

シャル「ううん、それじゃないけど……確かにあれも捨てがたいな」 フフフ

ラウラ「ならば両方とも試着するべきだな」

シャル「うん! もちろん!」



―――――――――――


翌日

1組教室・休み時間


セシリア「……あの、デュノアさん」

シャル「!? はい!?」 ビク

セシリア「その、ちょっと相談したい事がありまして……」

セシリア「お時間、いただけますか?」

シャル「……う、うん。 いいけど」



―――――――――――


シャル「それで、なにかな? 相談したい事って?」

セシリア「……その、わたくしに」

セシリア「お料理を教えていただけないでしょうか?」

シャル「…………は?」

セシリア「お、お願いします……」/// ペコリ


放課後

調理実習室


シャル「……え~と、それじゃあ、準備はいいかな?」 エプロン装備

セシリア「はい! よろしくお願いいたします!」 フリル付きエプロン装備

シャル「じゃ、まず……どんな料理を作る?」

セシリア「そうですわね……オムライスなどは いかがでしょう?」


シャル(オムライス。 良かった……得意な料理で)


シャル「うん、オムライス。 じゃあそれで行こう」


セシリア「はい! デュノアさん!」

シャル「えっと……なんだかやりにくいから、シャルロットで良いよ?」

セシリア「え? そ、そうですの? わかりましたわ、デュ……シャルロットさん」

セシリア「でしたら、わたくしの事もセシリア、と、呼んでくださいませんこと?」

シャル「うん、わかった。 よろしくね、セシリア」 フフフ


―――――――――――


セシリア「うう……目が……目が……」 ウルウル

シャル「タマネギは、力を入れて押し潰す様に切っちゃ駄目だよ」

シャル「こんな風に力を入れずに……すべるように切ると目が痛くなりにくいんだ」 トントントン



―――――――――――


シャル「……セシリア、その調味料の山は何なの?」

セシリア「はい、全部入れれば、より美味しくなるかと!」

シャル「……えっと、ね? まず基本から始めようね? お願いだから……」


―――――――――――


シャル「まず、タマネギをやや強火で炒めて……」 ジャー ジャー

シャル「大体火が通ったら、ご飯を投入……」 ジュー ジュー

シャル「今回は簡単にケチャップのみで味付けを……」 ジュー ジュー



―――――――――――


セシリア「ま、まずタマネギをやや強火で……これくらいですか?」 ジャー ジャー

シャル「うん、それくらい」

セシリア「大体火が通ったら、ご飯を……も、もう、いいでしょうか?」 ジュー ジュー

シャル「うん、いいよ。 あ、少し火を弱くして?」

セシリア「それから……ケチャップで味付け……ですわね?」

シャル「うん。 ボクがやった様に、ほんのり色が着くくらいでいいからね?」

セシリア「よ……と。 これくらいでしょうか?」 ジュー ジュー

シャル「うん! ちょうどいいと思うよ!」

セシリア「ホ……」



―――――――――――


シャル「最後に薄焼きタマゴを作るね。 まずタマゴをわっ……」

セシリア「はい!」 グシャ!

シャル「!? ちょ!? セシリア! タマゴを握り潰しちゃ駄目だよ!」

セシリア「はい?」


―――――――――――


シャル「これで完成!」 ホカホカ

セシリア「完成ですわ……」 グデーン…

シャル「それじゃ、食べてみようか?」

セシリア「はい……」


セシリア「美味しいですわ!」 パアア

シャル「フフフ」 ニコ

セシリア「見た目は……アレですけど……初めて食べられるものが作れましたわ!」 モグ モグ

シャル(……今、さらっと凄いこと言ったような) モグ モグ

シャル「良かったね、セシリア。 でも、上手く作れない事を気にしなくても良いよ?」

セシリア「と、おっしゃいますと?」

シャル「ボクもね……最初に作ったときは酷かったんだ」

シャル「本を見ながらだったから、ご飯も、薄焼きタマゴも見事に焦がしちゃってね……」

シャル「とてもじゃないけど、食べられる代物じゃなかった」 モグ モグ

セシリア「まあ……」 モグ モグ


シャル「後は、慣れるしかないかな。 少しずつ上手くなっていくと思うから」 モグ モグ

セシリア「はい、わかりましたわ。 ……でも、よろしければ」

セシリア「また教えていただけますか?」

シャル「うん、ボクでいいのなら」 ニコ

セシリア「ありがとうございます!」 パアア モグ…

      ガリッ!

シャル「…………」

セシリア「…………」 ペッ…

セシリア「…………タマゴの殻ですわ」

シャル「こ、これから、だから、ね?」




IS学園寮・シャルとラウラの部屋


シャル「ただいまー」

ラウラ「うむ、お帰り、シャルロッ……」 クン?

シャル「……? どうしたの? ラウラ?」

ラウラ「ケチャップのいいニオイがするな」

シャル「ああ……実はね」


―――――――――――


ラウラ「ほう……セシリアがお前に料理を」

シャル「うん。 ボクもびっくりしたんだけどね」

シャル「どうしてボクに聞いて来たんだろうって思った」


ラウラ「…………」

シャル「……? ラウラ?」

ラウラ「あ……」

シャル「……どうしたの?」

ラウラ「い、いや、 なんでもない! 凄く失礼な事など思いついてないぞ!?」

シャル「……別に怒らないから、言ってみて?」

ラウラ「つまり……セシリアは、料理が下手な事を恥じていたわけで」

ラウラ「それが拡散するのを恐れている……そこで、」

ラウラ「料理ができそうで、なるべく友人の居なさそうな人物を……」

シャル「…………」


ラウラ「も、もちろん他の可能性もあるぞ!?」

ラウラ「リサーチの結果、シャルロットの料理の腕前を見込んだ、とか!」 アセ

ラウラ「シャルロットの人柄を選択基準としたのかも……」 アセ アセ

シャル「うん……凄くありそうだね……」 ドヨン…


シャル(ラウラの意見はヘコむけど……確かにありそう)

シャル(…………)

シャル(…………でも)

シャル(気持ちは分かるし……)

シャル(楽しかったな) フフッ



―――――――――――


数日後

IS実習訓練後・IS格納庫


箒「…………」

シャル「……篠ノ之さん?」

箒「!?」 ビクッ

箒「……デュノア」

シャル「ボクのISがどうかしたの?」

箒「ああそうか……今はデュノアが使っているのか」

シャル「?」


箒「いや……私は幸運にも専用機を持てた……が……」

箒「以前、私が使用していた打鉄(うちがね)がどうしているかな……と思って」

シャル「ああ……」

箒「実は、これまでにも時々会いに来てたんだ」 クス

シャル「え? そうなの?」

箒「専用機持ちになって嬉しかったのは最初だけだった」

箒「打鉄(うちがね)に乗っている時は、性能の低さにイライラしていたが……」

箒「紅椿に乗ってからというもの その高性能に振り回されてばかりいる」

箒「その時」

箒「初めて私は、打鉄(うちがね)が、いかに操縦者に優しいのかを理解したんだ……」

シャル「…………」


箒「何の事はない」

箒「私は打鉄(うちがね)がどんなISか、理解してなかったのだ……」

シャル「…………」

箒「なあ、デュノア」

シャル「え!? ……うん、なに?」

箒「私の癖がついていて扱いにくい……何て事はあるか?」

シャル「……ううん。 多分大丈夫だと思うけど」

箒「そうか……という事は……」

箒「もう私の事は覚えてないのかな」

箒「だとしたら……少し寂しいな」

シャル「……篠ノ之さん」


箒「……と、すまない。 なんだか話し込んでしまったな」 クス

シャル「ううん、ボクはかまわないよ。 それに……」

シャル「良かったら……これからも打鉄(うちがね)に会いに来てあげて?」

シャル「ボクは全然構わないから」 ニコ

箒「いいのか?」

シャル「うん。 というか、今の話を聞いてダメ!なんて言えないよ……」

     アハハ……

箒「ありがとう、デュノア」

シャル「どういたしまして。 それに……シャルロット、でいいよ?」

箒「そうか……ならば私の事も、箒、と呼んでくれ。 シャルロット」

シャル「うん! よろしくね、箒」


箒「良かったら今度、お昼を一緒に食べないか?」

シャル「うん! もちろん!」 ニコ

箒「うむ、楽しみにしている」

箒「またな、シャルロット」 ニコ

シャル「またね、箒」 ニコ



シャル(…………)

シャル(うふふ……またね、か)

シャル(なんだか嬉しいな) クス

シャル(ありがとう、打鉄(うちがね)……)



―――――――――――


翌日

昼休み・食堂


鈴「でさ、怪しいと思って同室の子に聞いたらさ」

鈴「案の定あたしのシャンプー使ってたのよ!」

鈴「通りで減りが早いわけよ……もう、アッタマ来ちゃう!」 プンプン!

シャル「あはは……災難だったね」 クス

鈴「笑い事じゃないわよ……」 ハア…


箒「楽しそうだな、鈴、シャルロット。 ここ、いいか?」

シャル「あ、箒。 うん、どうぞ」

鈴「ちょっと聞いてよ、箒~」

シャル「あれ? 二人は知り合いなの?」


箒「専用機つながりで」

シャル「ああ、そうだよね」

鈴「ん? ……そう言うあんた達は?」

シャル「打鉄(うちがね)つながり……かな?」

鈴「何よそれ……?」

箒「鈴達こそクラスも違うのに どういう仲なんだ?」

鈴「あたし達は……」

シャル「……シャンプーつながり?」

箒「……なんだそれ?」

     プッ……アハハ!


セシリア「あら? みなさん楽しそうですわね?」

ラウラ「私達も混ぜてくれるか?」

鈴「いーよー」

シャル「あ、じゃ……ちょっと詰めるね」

箒「千客万来だな」 ニコ

     ソレデサー アタシハイッタノヨ……
     マア、ヒドイデスワネ……アハハ……
     ソレ モラッテイイカ? アア、カマワンゾ
     コノマエノシケン、ウッカリマチガエチャッテー……

     キャッ キャッ ウフフ……


いつもの寒い場所


一夏「…………」 モクモク

一夏「…………」 モクモク

一夏(ふう……)

一夏(久しぶりにひとり……か)

一夏(ここはいつも寒いけど、更に寒く感じるな)

一夏(…………)

一夏(……でも、今頃)

一夏(きっとシャルは笑ってくれているだろう……) フフ

一夏(みんな……ありがとうな)


さかのぼる事、半月前


一夏「ここに俺が知る限りのシャルの情報を書いておいた」

一夏「俺の世界の、だけど……」

一夏「そして、これを使ってシャルと友達になって欲しいんだ」

一夏「気の合う、合わないは、あるのかも知れない……」

一夏「もちろん合わないのなら……無理強いはしない」

一夏「そこの判断はまかせる。 でも良かったら……ぜひ頼む」


一夏「俺なりに いくつかの注意点を考えておいた」

一夏「みんなわかっていると思うけど……俺の……マイナスの話はタブーだ」

一夏「でも、シャルがこの話を振ってきた時は」

一夏「無理に話題を変えようとせずに応対してくれ。 ……難しいと思うが、な」

一夏「後は、できるだけ普通に彼女に接して欲しい」

一夏「そして別れ際に……」



一夏「『またね』を付けるよう心がけてくれ」



―――――――――――


一夏(…………)

一夏(……時々手鏡で教室のシャルを見るけど)

一夏(目に見えて明るくなってたな)

一夏(本当に良かった……)



―――――――――――


しばらくたった昼休み

いつもの寒い場所


一夏「今日は暖かいな」

鈴「もうすぐ春休みだからね」

鈴「桜のつぼみも大分膨らんでるし」

ラウラ「…………」

一夏「そうだな。 もう春の足音が聞こえているな」

鈴「天気予報じゃ2~3日後に また冷え込むって言ってたけどね」

ラウラ「…………」


一夏「ラウラ?」

ラウラ「!? ……なんだ?」

一夏「なんだか元気が無いみたいだけど、大丈夫か?」

ラウラ「…………女には毎月体調の優れない時期がある」

一夏「……すまん」

ラウラ「いや。 ……だが、今の私に ここは少々堪えるようだ」

ラウラ「今日はこれで失礼させてもらおう」

一夏「ああ、わかった。 すまないな、気づいてやれなくて」

鈴「…………」

鈴「一夏。 あたしラウラに付き添うわ」

ラウラ「……!? い、いや、私は一人でも……」

鈴「いいから。 ごめんね、一夏」

一夏「ああ、また明日な」


鈴「…………」

ラウラ「…………」

鈴「……ラウラ、何か悩んでるでしょ?」

ラウラ「…………」

鈴「あたしじゃ話せない、かな?」

ラウラ「…………」

鈴「……うん、それならそれでいいけど。 辛かっ」

ラウラ「鈴……」

鈴「!? ……う、うん、なに?」

ラウラ「私は……もう……」

ラウラ「限界だ……!」 ウル…

鈴「!?」



―――――――――――


放課後

ひと気の無い個室


箒「どうした?」

セシリア「緊急の要件と伺いましたが……?」

ラウラ「…………」

鈴「あたしから話す……でも、その前に二人に聞くけど……」

鈴「恋愛感情も、友情も、何かもすべてをひっくるめて」

鈴「一夏とシャルロットの事、好き?」


箒「何故そんな事を聞く?」

鈴「重要な事なの。 答えて」

セシリア「好きに決まっていますわ……」

箒「嫌う理由はない」

鈴「うん……あたしもよ。 でもね、最近、さ……」

鈴「何かモヤモヤした物がたまってない?」

箒・セシ「…………」

鈴「あたしはその正体に気づけなかった。 けど……ラウラ」

ラウラ「…………」

ラウラ「……みんな、シャルロットを」




ラウラ「一夏に会わせたい、と……考えた事はあるか?」



箒・セシ「!!」

ラウラ「シャルロットは……本当にいいやつだ」

ラウラ「私の突然の頼みも、場違いな質問も、真摯な対応をしてくれる」

ラウラ「シャルロットを救いたい、と言う一夏の気持ちが痛いほどわかる……」

箒・セシ「…………」

ラウラ「今のシャルロットの笑顔を間近に見れたら……」

ラウラ「一夏は、どれほど喜ぶだろううか……」 ウルッ


箒「……だが……それは」

セシリア「たとえ事情を話したとしても……」

ラウラ「お前達はいい! でも! 私は!」

ラウラ「シャルロットと同室なのだぞ!? 嫌でもあの笑顔を見てしまうんだぞ!?」

ラウラ「彼女の……屈託の無い笑顔を……見るたびに、私は……」 ポロッ

ラウラ「私は……!」 ポロ ポロ

箒・セシ・鈴「…………」

鈴「でね……あたし思ったんだ。 もうシャルロットに全部話したらって」




鈴「…… 一夏に内緒で」



箒・セシ・ラウ「!!!」

箒「そ、それは……まずいだろう……」

鈴「そんなの百も承知よ。 でも悪役のままでいいと言う一夏が」

鈴「賛成してくれると思う?」

セシリア「…………」

セシリア「……でも鈴さん。 最悪の場合わたくし達の関係は」

セシリア「修復できないのでは ないでしょうか?」

鈴「……あたし達はシャルロットの為とはいえ『一夏の指示』で彼女に近づいた」

鈴「それを暴露するのだから……シャルロットは もう誰も信用しなくなるかもしれない」

鈴「そうなったら……無断で行動したあたし達を一夏は恨むでしょうね」

箒「…………」


箒「だが……最悪の場合を考えてしまうのは」

箒「私達がシャルロットを信頼していないだけ、なのかもしれないぞ……?」

セシリア「…………」

鈴「そうかな……あたしはもっと卑屈に考えた」

鈴「何もかもぶちまけて、自分が楽になりたいだけじゃないの?って……」


一同「…………」


セシリア「一夏さんも……シャルロットさんも……失いたくありませんわ」 ウルッ

ラウラ「そんな事……ここにいる全員、同じ気持ちだ……」

箒「…………」


箒「……なあ、みんな」

箒「ここは多数決で決めないか?」

鈴・セシ・ラウ「……!」

箒「私は、どちらかと言えば……前へ進みたいと思っている」

箒「……勝手な言い方だが、私はシャルロットを信じている」

箒「彼女ならきっと、この問題を乗り越えてくれると……!」

鈴・セシ・ラウ「…………」

箒「でも……ここに留まりたい、という気持ちも……ある」

箒「だから否決されても その意見に従おう」

箒「四人しか居ないから二対二でも否決とする」

箒「……どうだろう?」




一同「…………」



鈴「……よし、あたしは覚悟を決めた」

セシリア「……わたくしも」

ラウラ「私も……それが最善だと思う」

箒「うむ……」

箒「では……皆に問おう……」

箒「一夏に何も伝えず、シャルロットにすべてを告げる」

箒「この意見に賛成の者は……」

箒「挙手を!!」



―――――――――――


同日・夜

IS学園寮・ラウラとシャルの部屋


シャル「ただいまー」

シャル「ちょっと山田先生と話し込んじゃって、遅くなっ」

シャル「……あれ? みんな?」


箒・鈴・セ・ラ「…………」


シャル「……どうしたの?」


ラウラ「……シャルロット」

シャル「うん……」

ラウラ「話がある」

シャル「……な、なんなの? みんなも……それにラウラ、その荷物は?」

ラウラ「荷物の話は後でする。 今は……ただ聞いて欲しい」

シャル「…………」

シャル「うん。 わかった……」

ラウラ「……では」

ラウラ「まずは、織斑一夏について……だ」

シャル「!!!!」 ビクッ



―――――――――――


ラウラ「……というわけなんだ」

シャル「…………」

ラウラ「…………」

シャル「…………」

ラウラ「……シャルロット?」

シャル「…………」

ラウラ「シャルロット!」

シャル「!」 ビクッ

ラウラ「……話を聞いていたか?」

シャル「……何言ってるの、ラウラ」


シャル「あの人が……鏡の世界から来た? ボクに酷い事した人と……別人?」

シャル「同じ顔と、同じ声してて? 別人? 別人!? 別人!?」

シャル「何言ってるんだよ!? ラウラ!?」

ラウラ「落ち着いてくれ! シャルロット!」

シャル「ボクは……あの人の名前を言うのも聞くのも嫌なのに……」 ブルブル

シャル「どうしてそんな話するの!?」 ポロッ

シャル「ボクに……そんな話を信じろって……言うの……?」 ポロ ポロ

シャル「……う…………ううっ……酷いよ……!」 ポロ ポロ

シャル「…………」 ポロ ポロ


シャル「……!!」


シャル「……まさか」

シャル「みんなは、信じてるの……?」


箒「……結論から言えば、そうだ」

シャル「……!!」

セシリア「シャルロットさん……わたくしも信じられませんでしたわ」

セシリア「事情は……割愛しますが」

セシリア「わたくしは最初、一夏さん達を盗聴しておりました」

セシリア「マイナスと同じ声ですのに……なんだかとても暖かな気分にさせられましたの」

シャル「……マイナス?」

セシリア「シャルロットさんに酷い事をした織斑一夏をそう呼んでおりますの」

シャル「…………」


シャル「…………」

シャル「……仮に」

シャル「その話が本当だとして……」

シャル「どうしてボクに話したの?」

鈴「…………」

鈴「……あたし達ってさ、知り合ったの……ここ最近だよね……」

鈴「どうしてだと思う?」

シャル「…………」


箒「私達だけじゃなく……みんなマイナスの事件があって」

箒「シャルロットにどう接していいのか、わからなかった……」

箒「それを……教えてくれたんだ」

シャル「……!」



セシリア「ご自分の事で大変なのに……いつも無表情ですごされている」

セシリア「シャルロットさんを気にかけておりました……」

セシリア「そんな暖かいお人なんです」

シャル「……まさ……か」




ラウラ「あいつは……本当にいい奴なんだ」

ラウラ「今回だって自分は悪役のままでいいと……」

ラウラ「シャルロットが笑ってくれるなら構わないと、笑顔で言ってのけるんだ……」


ラウラ「向こうの世界の……織斑一夏は!!」


シャル「…………」

シャル「……え? ……何?」

シャル「じゃあ……」

シャル「ボクが……みんなと…………友達になれたのは」

シャル「……向こうの世界の? ……あの人の? ……おかげ?」

シャル「…………あの人の? ……あの人の? あの人の!?あの人の!?」

ラウラ「シャ、シャルロット!」


シャル「いや……………………いや…………いや……いや! いや! いやあっ!!」

シャル「いやああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」

ラウラ「シャルロット!」

シャル「さわらないでっ!!」

ラウラ「!!!」

シャル「嘘なんでしょ? ……何もかも全部!」

シャル「優しい顔して近づいて……ボクの心をもてあそんで……」

シャル「うぐっ…………また……ひぐっ…………ボクは………酷い事……」

シャル「されちゃうんだ……ううっ……うっ……ひぐっ……」

シャル「う……あああああああああああああっ…………あああっ………ああああああっ!!」



一同「…………」


ラウラ「……シャルロット」

ラウラ「ごめんなさい……」

ラウラ「でも……」 ポロ

ラウラ「私も…………限界……だったんだ……ひぐっ」

ラウラ「うえっ……シャル、ロット……ひっく…………お前と……」

ラウラ「外出………したとき…………楽しかった……うあっ…………」

ラウラ「あの時……お前に選んでもらって…………買った服は……うっ……」

ラウラ「今も…………大事にしている…………うっ」



シャル「ひうっ………ぐ…………うう………あう……?」


ラウラ「お前も……向こうの一夏も…………ひっく………何も悪くないのに」

ラウラ「ただ………笑いあう事が………ううっ………どうして出来ないんだ……?」

ラウラ「一夏も……シャルロットも…………本当にいいやつで………大好きな人で」

ラウラ「二人が……みんなと、一緒に……笑っているのを……ひっく……」

ラウラ「望んでいるっ………だけなのにっ………うぐっ………」

ラウラ「………うああああああああああああああああああああっ…………」 ボロ ボロッ

シャル「…………」


箒「……シャルロット。 確かに出会いは、偶然を装った……」

箒「でも……お前と過ごした時間に………偽りは…………ない」

箒「お前は……うっ……私の大切な……友人だ……! ううっ………」



鈴「辛いよね……苦しいよね…………ごめん……ね………ひっく」

鈴「こうなるって…………わかって……いたのに………ひぐっ………」

鈴「ほかに………いい方法…………あれば………うぐっ………」



セシリア「シャルロットさん……わたくし………練習続けてます…………」

セシリア「最近は……薄焼きタマゴだって…………上手に………ううっ……」

セシリア「こんど……ご馳走して…………差し上げま………」




―――――――――――



シャル「…………」

ラウラ「……シャルロット」

シャル「…………」

ラウラ「…………」

ラウラ「……きっと混乱しているだろう」

ラウラ「しばらくゆっくり考えて……気持ちを整理するといい」

ラウラ「私は邪魔だろうから、しばらくセシリアの部屋にいる」

ラウラ「もう荷造りはしてあるから……な」


ラウラ「シャルロット……」

ラウラ「落ち着いたら、携帯でもメールでも何でもいい……連絡してくれ」

ラウラ「待っているから」


     ……パタン


シャル(…………)

シャル(……ボク)

シャル(どうしたらいいの?)

シャル(……お母さん………おしえてよ………) クスン…



―――――――――――


翌日の昼休み

いつもの寒い場所


一夏「…………」

一夏「……なあ」

一夏「今朝、教室に来て驚いたんだが……みんな、どうしたんだ?」

一夏「……その、全員、目が真っ赤だったぞ?」

一夏「シャルも休んでたし……」


箒「……すまない、一夏」

箒「ちょっと大喧嘩してな」

箒「今日からしばらく一夏とのお昼も休みたいんだ……」

箒「私は皆を代表して……その事を伝えに来た」

一夏「…………」

箒「……本当にすまない」

一夏「……箒、その……大丈夫か?」

箒「平気ではない……が、今は何よりも時間が要ると思う」

箒「……だから、そっとしておいてくれ」

一夏「…………」



―――――――――――


一夏(…………) モク モク

一夏(…………) モク モク

一夏(…………)

一夏(……くそ)

一夏(みんなに事情を聞きたいけど……)

一夏(俺は動く事が出来無い)

一夏(……みんな、いったい何があったんだよ……?)



―――――――――――


次の日

休み時間・廊下


千冬「ボーデヴィッヒ」

ラウラ「!!」 ビクッ

ラウラ「……きょ、教官!」

千冬「織斑先生と言えと……何度言わせる?」

ラウラ「す、すみません……」

千冬「……まあいい。 それよりも聞きたい事がある」

千冬「お前、オルコットの部屋に転がり込んでいるようだが……」

千冬「デュノアの欠席と何か関係しているのか?」

ラウラ「!!!!!」


ラウラ「…………はい」 ブル ブル

千冬「……そうか」

千冬「問題の解決にどのくらいかかる?」

ラウラ「……見当もつきません」 ブル ブル

ラウラ「でも今は、とにかく時間がいる、と、友人のアドバイスを聞き入れて」

ラウラ「……様子を見ております」

千冬「…………」

ラウラ「…………」


千冬「いいだろう。 寮長としては見過ごせない所だが」

千冬「黙認しておく」

ラウラ「……! きょ……織斑先生!」

千冬「だがボーデヴィッヒ。 明日、明後日の休日が明けても」

千冬「デュノアが出席しない時は 私が様子を見に行く。 いいな?」

ラウラ「……はい。 その時は……お願いします」 ペコリ

千冬「うむ。 話はそれだけだ。 行っていいぞ」

ラウラ「……はい、失礼します」


千冬「…………」


昼休み

屋上


鈴「…………」 モク モク

セシリア「…………」 モク モク

箒「…………」 モク モク

ラウラ「…………」 モク モク


鈴「……シャルロット、ちゃんと食べてるかな」

箒「心配、だな……」

セシリア「……会いたいですわ」

ラウラ「私もだ……」


鈴(……みんな何も言わないけど)

セシリア(後悔……しているのでしょうか……?)

箒(無いと言えば……うそになる……が)

ラウラ(我々は……全員が前に進む事を選んだ)





全員(シャルロット(さん)を信じて……)







放課後

IS学園寮ロビー付近


ラウラ「…………」 ウロウロ ソワソワ…

ラウラ「…………」 ウロウロ モジモジ…

箒「ラウラ?」

ラウラ「!!」 ビクッ

ラウラ「……箒か」

箒「何を……って、わかりきっているな」

ラウラ「箒……私は、何人かにシャルロットを見かけたか聞いてみた」

ラウラ「トイレに入ったのを見た、と言う者が一人いただけだった……」

箒「……そうか」


ラウラ「心配で心配でたまらない。 でも……踏み出せない……」

箒「一歩を踏み出すのが怖い、か。 私と同じだな……」

箒「だから私は、半歩擦り寄ってみようと思う」 スッ…

ラウラ「箒? それに、その包みは……?」


―――――――――――


IS学園寮・ラウラとシャルの部屋付近


     コン コン

箒「シャルロット……私だ、箒だ」

シャル「…………」

箒「食事は取っているだろうか? 私も皆も、心配している」

シャル「…………」


箒「お粥を作ってみた。 良かったら食べてくれ……」

シャル「…………」

箒「でもな……ただのお粥じゃないぞ?」

シャル「…………?」

箒「ある人が、このお粥は『心が暖まる』と言ってくれてな」

箒「私の自慢のお粥なんだ……」

シャル「…………」

箒「ここに……ドアの脇において置く」 コト…

箒「じゃあ、またな……」



―――――――――――


     カチャ……

シャル「…………」 ゴソゴソ……

     カチャ……パタン

シャル(…………心が……暖まる…………か)

     カパ……モワワ

シャル(…………)


シャル(…………) ハム… モク モク…

シャル(…………)

シャル(…………) ポタ…

シャル(……おいしい) ポタ…ポタ…

シャル「……ふ……ぐ……」 モク モク

シャル(……とっても……優しい味……)

シャル「うぐっ………ぐ……う……んぐっ………」 モク モク

シャル(会いたい) モク モク

シャル(……みんなに……会いたいよ) モク モク

シャル「うぐっ……くっ………ううっ……」 モク モク…



―――――――――――


休日の早朝

IS学園寮・セシリアの部屋


セシリア「……ラウラさん、酷いお顔ですわね」

ラウラ「……お前もな」

セシリア「さ……そろそろ起きませんと」 ウーン…セノビ~

     ピピピ…… ピピピ……

ラウラ「……携帯。 クラリッサか?」

     ピッ

ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」




???『…………もしもし』



ラウラ「!!!!」

ラウラ「シャ、シャルロット……!」 ガバッ

セシリア「……!!」 ガバッ

シャル『……えっと……心配かけて、ごめんね?』

ラウラ「何を言う……謝るのはこっちの方だ……!」 ウル

シャル『……これから、会えるかな?』

ラウラ「!? ……ああ、もちろんだ!」


シャル『みんなを呼んでもらってもいい?』

ラウラ「もちろん……言われなくても呼ぶぞ!」 グスッ

シャル『……ありがとう、ラウラ』

シャル『場所は…………食堂でいいかな?』

ラウラ「わかった。 食堂でな……」

     ブッ……ツー ツー

セシリア「ラウラさん。 シャルロットさんは、なんと?」

ラウラ「……これから食堂で」

ラウラ「みんなに会いたい、と……!!」




食堂


シャル「……みんな、おはよう」

箒・鈴・ラウ・セシ「シャルロット(さん)!」

シャル「あ……箒。 これ、ありがとう」 洗いたて土鍋 スッ

シャル「とっても……『暖まった』よ」 クス

箒「そうか。 良かった……」 ニコ


―――――――――――


シャル「……正直言うと、まだ信じられない」

シャル「でもね、みんなの事は信じようって思う」

シャル「今は……これが精一杯、かな」

ラウラ「……そうか」


セシリア「シャルロットさん、お気になさらずに」

セシリア「わたくしも最初は その様なものでしたわ」

箒「我々は急ぎすぎたのだな……」

鈴(でも……これじゃあ「一夏に会ってもらう」のは……無理ね)

シャル「…………」

シャル「……あの、さ」

箒・鈴・セシ・ラウ「……?」

シャル「みんなに聞きたいんだけど……」

シャル「みんなは、どうして……「一夏」の事をそんなに信じられるの?」


箒・鈴・セシ・ラウ「!」

箒・鈴・セシ・ラウ(今、「一夏」、と、言った……)


シャル「ボクから言わせてもらえば……具体的な証拠も何も無いわけだし」

シャル「ええと……マイナス?が、善人を装って……その……」

シャル「みんなを……弄(もてあそ)ぼうとしている、としか思えないんだけど……」


箒・鈴・セシ・ラウ「…………」


箒「シャルロットは最近……いや、ここ数ヶ月」

箒「一夏の「顔」を見た事はあるか?」

シャル「えっ? …………無いよ。 見たくもないし」

箒「そうか。 ならば以前の……マイナスなら どうすると思う?」

箒「奴の事だ……ニタニタしながら お前の前に現れ、怯える様を見て爆笑しただろうな」

シャル「…………」


鈴「うわぁ……。 的確すぎて簡単に想像できた……」

鈴「それにやたらと抱きついたりして「スキンシップwww」とか言ったり」

鈴「スカートめくりした後に「もっと色気のあるパンツはけよwww」とかやってそう……」

シャル「…………」

セシリア「思い出すのも嫌ですけど、いきなり後ろから胸を揉みしだいたり……」

セシリア「卑猥な言葉を連続で発言したりしてましたわね」

シャル「…………」

ラウラ「しかし、それらの奇行は数ヶ月前、突然無くなった……」

ラウラ「それはシャルロットも否定できないだろう?」


シャル「き、きっと、油断させるために……」

ラウラ「こんなに時間をかけて、か?」

ラウラ「マイナス自身はともかく……奴の下半身がそれを許さないだろう」

シャル「で、でも! 何度か……悪い噂が立ったじゃない!」

シャル「……そうだ、今年に入ってからだってあった!」

ラウラ「……!」

シャル「ほら! みんな騙されているんだよ!」

シャル「改心した様に見せかけて、騙して……みんなを使って」

シャル「ボクに何かするつもりだったんだよ!」

ラウラ「…………」


ラウラ「……違うんだ、シャルロット」

シャル「何がだよ!」

ラウラ「その噂を流したのは……私だからだ……」

シャル「……!」

ラウラ「私は……同世代の異性は、マイナスが初めてだった」

ラウラ「最初はマイナスも優しくてな……」

ラウラ「私が奴に好意を抱くのに時間はかからなかった」

シャル「…………」

ラウラ「だが……突然、私はマイナスに捨てられた……」

ラウラ「私は……文字通り身も心も奴に捧げたというのに……」

シャル「…………」


ラウラ「そんな時、一夏が現れた」

ラウラ「一夏は……本当にマイナスとは間逆の存在で……私は……」

ラウラ「一夏を手放さないために……私から離れようとしたら」

ラウラ「悪い噂を流して一夏を酷い目にあわせる、と……脅迫した」

シャル「…………」

ラウラ「それがどれだけ惨めで愚かな行為である事にも」

ラウラ「一夏を恐ろしいまでに追い詰めてしまう事にも」

ラウラ「私は一夏の…………自殺を止めるまで気が付かなかった……!」

箒・鈴・セシ「!!?」

シャル「…………」


箒「……そうか。 あの時」

箒「ラウラが教本を忘れた、と言って教室を出て行ったのは……」

ラウラ「教官に死ねと言われた一夏の様子を見て……もしや、と……」

セシリア(…………あの時は……どうせ演技だろう、と思ってましたわ……)

シャル「…………」


シャル(……みんな、一夏の事を本当に信頼してる)

シャル(そんなに……信頼できる人……なの?)

シャル(ボクの事を気遣って……?)

シャル(ボクが笑顔でいて欲しい……?)

シャル(ウソだよ……そんなの)


箒「シャルロット。 少し考え方を変えてみないか?」

箒「自分が異世界に放り込まれて……そこにいた自分は」

箒「ビッチで、男と見ればすぐベッドへ誘うような女だとして……」

箒「そいつと外見も、声も、まったく同じだったら……どうやって違うと証明する?」

シャル「……!」

箒「私だったら……自分の言う事を否定され続ける環境に、どこまで耐えられるだろうか……」

箒「気が狂うかもしれない……いや、その前に死を選ぶかもしれない……」

箒「だが、一夏はそれに耐え続けた」

箒「それどころか自分が居ると雰囲気が悪くなるから、と」

箒「一日中陽の当たらない様な場所でひとり、弁当を食っていたんだ……」

箒「今思い出しても……胸が締め付けられる。 あの姿は……」

シャル「…………」



シャル「みんなは……ボクに一夏と会って欲しいの?」


箒・鈴・セシ・ラウ「!!!!!」

シャル「みんなが一夏に好意的なのも、マイナスの存在も理解できた。 けど……」

シャル「どうしてボクにこだわるのかな……?」


箒・鈴・セシ・ラウ「…………」


鈴「一夏は……シャルロットの事を、ね」

鈴「『シャル』って呼ぶの」

シャル「えっ……!?」 ドキッ

鈴「みんなも……うすうす気が付いていると思うんだけど……」

鈴「もしかしたら向こうの世界で一夏は、向こうのシャルロットと」

鈴「『特別な関係』だったのかもしれない……」

シャル「!!!!」


セシリア「……そう考えると、いろいろと納得できますの」

セシリア「なぜ、一夏さんがシャルロットさんをずっと気にかけていたか……」

セシリア「なぜ、ご自分が悪く思われたままでもいいから」

セシリア「シャルロットさんに笑っていて欲しいと言うのか……」

シャル「…………」

ラウラ「もちろん、ただの推測にすぎない」

ラウラ「それに一夏に会うかどうかを決めるのは、シャルロット自身だ……」

ラウラ「会わない、という選択でもかまわない」

シャル「…………」



―――――――――――


二日後の朝

1組教室


シャル「…………」

シャル「……!」

シャル(一夏だ……)

シャル(…………あ)

シャル(こっちを見ない)


一夏(……さてと。 今日はみんな、どんな様子かな?) 手鏡 スッ

一夏(……うん、箒……セシリアにラウラ、顔が明るい。 仲直りできたか……)

一夏(シャルは…………うん、良かった来てる。 元気そうだ)

一夏(……!?)

一夏(ど、どういう事だ!? シャルが、こっちを見ている……!?)



―――――――――――


シャル(向こうの一夏が、向こうのボクと『特別な関係』?)

シャル(マイナスとまったく違って、みんなが好意を寄せる一夏が)

シャル(ボクと……『特別な関係』……)

シャル(……って!? 違う違う! 向こうの世界のボクと!)

シャル(あああ、もう! 授業に集中できないよう……!)///


一夏(…………)

一夏(どうしてだ?)

一夏(なぜ、シャルが俺の方を見る?)

一夏(…………)

一夏(いや……たまたまこっちを見た、というだけの事だ……)

一夏(きっと……そうだ、うん。 そうに違いない……)


休み時間

1組教室


シャル(一夏は、本当にボクの方を向かない)

シャル(ボクを……気遣ってくれている……?)

シャル(今日だけじゃなく、こっちの世界に来てから、ずっと……?)

シャル(…………)///

セシリア「シャルロットさん?」

シャル「うひぁっ!?」///

セシリア「ど、どうなさいました?」

シャル「ご、ごめん、セシリア。 えっと……何かな?」

セシリア「お昼をご一緒にいかが? と、思いまして……」

シャル「あ、うん。 いいよ、一緒に食べよう」


昼休み

いつもの寒い場所


一夏「えっと……箒」

箒「ん? なんだ?」

一夏「その……仲直りしたみたいだけど、喧嘩の原因って何だったんだ?」

箒「ノーコメントだ」

一夏「……さいですか」


一夏(……うう、気になる。 でも、これ以上聞く勇気も無い……)

一夏(……本当に何があったんだよ)




IS学園寮・ラウラとシャルの部屋


シャル「…………」

シャル「ラウラ」

ラウラ「? なんだ、シャルロット?」

シャル「……明日、ね」



シャル「一夏に会ってみようと思う」



ラウラ「!!!!!」


ラウラ「だ、だが、シャルロット」

ラウラ「いいのか? こんなに短期間で決断して……」

ラウラ「もう少し時間をかけるべきじゃないのか?」

シャル「……うん。 そうかもしれない。 ……けど」

シャル「みんなから いろいろ聞いたから、かな?」

シャル「一夏の事があまり怖くなくなっていたの」

シャル「自分でも驚いた……」

ラウラ「シャルロット……」


シャル「一夏の事……知りたいって思う、ボクがいる事に……ね」


ラウラ「…………」



―――――――――――


翌日の昼休み

いつもの寒い場所


鈴「一夏」

一夏「おう、鈴。 今日は鈴とセシリア……あれ?」



     そこに全員いた。

     本来は鈴とセシリアだけのハズだったのに。 箒もラウラもいた。

     そして……箒の後ろに誰かがいた。

     ……俺の心臓の動きが早くなる

     可能性を考えたら、一人しかいないからだ……




箒「……紹介したい人がいる。 お前の事情も話してある」

セシリア「彼女は……わたくしなど到底及ばない勇気を出してくれました」

ラウラ「一夏に内密で行動した事は、後でいくらでも謝罪しよう」



     みんなが……ゆっくりと道を空ける

     そこには、俺がどんなに会いたいと思っても

     絶対に居てはいけない人物が……静かにたたずんでいた。














     俺は……頭が真っ白になった……












一夏「……シャ……ル?」

シャル「……こんにちは、一夏」 ニコ



     彼女が……俺に笑いかけた……?

     俺の世界のシャルと変わらない、優しい笑顔で

     どうして……? この世界のシャルにとって俺は……

     恐怖の対象でしかないハズだ

     なのに……何でここにいる? どうして? なんで!?



シャル「一夏?」

一夏「……!!」 ビクンッ!




     俺は我に帰った。

     と、同時に慌ててシャルに背を向ける。

     そして……ここ数日の出来事の不可解さが、一気に解消された。



一夏「俺の事情……喧嘩じゃなく、それが原因でみんなの様子が……」

一夏「シャルが休んだのも……それが理由だったのか……!」

一夏「なんて事をしてくれたんだ!」


箒「……すまない一夏。 お前の策は、ほとんど完璧だった」

箒「だが一つだけ……大きなミスを犯していた」

一夏「……ミス?」

箒「私達の心を考えに入れていなかった事だ……」

一夏「!」

鈴「あんたは何も悪くないのに……こんなにシャルロットの事を気遣っているのに……」

鈴「一夏はずっと悪者のままで、それを彼女に隠し続けなくてはならないあたし達が」

鈴「どれだけ、心苦しかったか……」

一夏「…………」


セシリア「わたくし達も迷いました……」

セシリア「最悪の事もたくさん考えました……」

セシリア「それでも、わたくし達は前を向き、前に進む事を選択いたしました」

一夏「…………」

ラウラ「一夏、振り向いてくれ。 お前の望んだ、シャルロットの笑顔がそこにある」

ラウラ「この笑顔は、間違いなくお前がもたらした物だ」

ラウラ「一夏が居てくれたおかげで、シャルロットは笑っている」

一夏「……っ」


一夏「………う………ぐ…………く…………」



     俺は、うつむいたまま 泣いた……

     どうして、そんな事に気づけなかったのだろう?

     シャルの事ばかりに目を向けすぎていたから? 

     決してそんなつもりは無かったハズなのに……!



     結局、俺は……ここにいる全員の心を苦しめてしまった。

     もう誰も傷ついて欲しくなかったのに……!



一夏「……ごめん………みん、な………俺の……せいで……うぐっ」


シャル「一夏。 怖がらないで、こっちを向いて?」

一夏「!! ……で、でも………俺はっ……!」

シャル「ふふ、なんだか……変な感じ」

シャル「ほんの数日前まで、ボクが一夏を怖がっていたのに……」

シャル「今は、一夏がボクを怖がってる」

一夏「…………」

シャル「一夏のおかげで、ボクは、ここに居るみんなと友達になれた……」

シャル「みんなとおしゃべりしたり、お出かけしたりして すごした時間は」

シャル「本当に楽しくて、嬉しくて……」

シャル「デュノアの家に引き取られてから、初めて生きてるって実感できたかもしれない……」

シャル「だから、ありがとう、一夏」




     ……俺は、覚悟を決めて、ゆっくりと振り向いた。

     シャルがいる。 俺の顔を……俺の目を……ジッと見て……

     俺に微笑みかける彼女がいる。



     これは……本当なのか? 現実なのか? 夢じゃないのか?

     この世界で俺に……俺と瓜二つのマイナスに

     酷い目にしか合わされていないシャルが、俺に笑ってくれている……



     言葉が出ない。 胸が詰まって……言いたい事があるはずなのに。

     出て来るのは涙だけなんて……

     きっと俺は今、酷い顔をしているだろう……




シャル「一夏……」 ギュッ…



     ……!! シャルが、俺の手を握ってきた!!!



シャル「ほら……ね? ボクは、怖がってないから……安心して?」



     ………シャル、ウソ言うなよ! 震えているじゃないか……!!

     無理しないでくれよ……!




シャル「……みんなの言う通りだ。 マイナスと全然違う」

シャル「ボクの痛みを感じて……こんなに泣いてくれる……」

シャル「暖かい人だって……わかるよ、一夏」 ニコ



     ……誰が聞いてもわかる。 シャルの声は……震えていた

 
     もういいんだ……そんなに無理するな……こんな…………

     俺なんかの為に……!!



一夏「…………う………ぐ……ああ………」 ボロッ…

一夏「あああああああああああああああああああああああ…………」 ボロ ボロッ




     俺は……泣いた。 シャルの手を握ったまま、その場に泣き崩れた……

     うれしくて、うれしくて、うれしくて…………ただ、うれしくて

     みんなからの告白が、どんなにか辛かったか……

     どんなにか痛かったか……どんなにか苦しかったか……

     それを乗り越える為に出してくれた勇気は、俺の想像をはるかに超える

     もの凄いものだろう……






     シャルが、俺を認識してくれた。 マイナスではなく、俺を



     暖かい人だと言ってくれた……

     こんな……みんなの心を無視した作戦を立てた俺を……

     俺なんかを……  シャル、本当にありがとう……



シャル「一夏も辛かったんだね……苦しかったんだね……」

シャル「これからは………違うから……ね?」 ホロリ…

シャル「一夏」



―――――――――――


放課後

職員室


一夏「織斑先生」

千冬「なんだ、織む……!?」

千冬「…………」

千冬「その目はどうした?」

一夏「……ちょっと大き目のゴミが、目に」 アハハ…

千冬「両目にか?」

一夏「……はい」


千冬「…………」

千冬「……まあいい。 それで? 何の用だ?」

一夏「その前に……少しだけ姉弟に戻ってもよろしいでしょうか?」

千冬「…………」

千冬「許可しよう」

一夏「ありがとう、千冬姉。 早速だけど……お金が欲しいんだ」

千冬「ほう。 いくらだ?」

一夏「五千円くらい。 もちろんいつも通り、領収書の添付もするから」

千冬「……ふむ」



千冬(どうせまた、くだらない物に使うつもりなのだろうが……)

千冬(最近の行動の謎が解けるかもしれん)

千冬(今回は泳がせてみるか)


千冬「いいだろう。 そら」 ピラ

一夏「ありがとう、千冬姉」

千冬「無駄遣いするなよ、一夏」

千冬(尻尾を掴んでやる)



―――――――――――


次の日の早朝

職員室


千冬(一夏の奴……何を考えている)

千冬(何に使うかと思えば、単なる食材だとは……)

千冬(だが……全額を食材に使う理由はなんだ? あんなに買い込んでどうするつもりだ?)


一夏「失礼します、織斑先生」

千冬「!? ……い……織斑か」

一夏「昨日は ありがとうございました」 ペコリ

一夏「領収書とおつりです。 それから……これを」

千冬「……なんだ? この包みは?」

一夏「弁当です。 良かったらお昼に食べてください」 ニコ

一夏「それでは。 失礼しました」 ペコリ


千冬「…………」

山田「織斑君、なんだか変わりましたね」

千冬「……山田先生」

山田「去年の彼と、今の織斑君が同一人物だなんて……ちょっと信じられないくらいです」

千冬「山田先生、くれぐれも油断しない様に。 奴を甘く見ない方がいい」

山田「は、はあ……」

山田(自分の弟なのに……)

山田「……? 織斑先生、お弁当の包みの上から何をなさっているのですか?」

千冬「これは束に作ってもらったスキャン装置でな」

千冬「毒は入ってない様だが……そうか! 懐柔策か!」

千冬「なるほど……奴め……アプローチの仕方を変えて来たようだな」

山田「…………」


山田「……って!? 織斑先生!」

山田「何お弁当、ゴミ箱に入れようとしてるんですか!?」

千冬「食べる気にならん」

山田「……でも……だからって」

千冬「なら山田先生、良かったらどうぞ」 スッ…

山田「……え?」

千冬「ほら、いらないだろう?」

山田「!! い、いえ! 喜んでいただきます!」

千冬「そうですか。 でも、おかしいと思ったら迷わず捨ててください」

山田「…………」


昼休み

校舎裏近くの資料室


千冬(やれやれ……たまにしか来ないとはいえ、ここは一度 整理した方がいいな)

     ハハハ……

千冬(ん……?)

千冬(小窓の外から話し声が聞こえるな……?)

千冬(誰だ?)

千冬(…………)

千冬(!!!!)

千冬(あれは…… 一夏!?)

千冬(篠ノ之に 凰、オルコットに ボーデヴィッヒ……!)

千冬(そして…………デュノア……だと!?)


千冬(…………)

千冬(どういう事だ?)

千冬(他の四人は……それでも、かなり難しい部類に入ると思うが)

千冬(可能性はあるだろう……)

千冬(だが……デュノアは、ありえない!)

千冬(……奴め………どんなマジックを使った!?)

千冬(……何故あのメンツで、あんなに楽しそうに食事できる!?)

千冬(……何故)


職員室


千冬「…………」

山田「あ、織斑先生……」

千冬「? 山田先生?」

山田「その、お弁当なんですが……私には食べられません」

千冬「!? 何か、異常が!?」

山田「いえ、そうではなくて……とりあえず見てもらえますか?」 カパッ

千冬「………?」










     弁当のご飯の部分に「千冬姉 ありがとう」と海苔で書かれていた。











千冬「…………」

山田「…………」

山田「織斑先生、お茶を入れましょうか?」

千冬「…………」

千冬「……お願いします」

山田「はい!」 ウフフ

山田(織斑君……本当に改心したのかもしれませんね……)


いつもの寒い場所


一夏「どうかな? 俺の弁当?」

箒「美味しいぞ」

ラウラ「うむ! その通りだ!」

シャル「うん! 凄く美味しい!」

鈴「うぬぬ……悔しいけど、美味しいわ」

セシリア「美味しいですわ……戦わずして敗北ですわね……」 クスン…


一夏「良かった……。 これが今の俺に出来る、精一杯の感謝だけど」

一夏「みんな、ありがとうな」

セシリア「一夏さん……」

箒「気にしないでくれ、最後は無断で行動したし……」

鈴「今でも ヒヤヒヤするわ……」

ラウラ「私達よりもシャルロットの方が大変だっただろう……」

シャル「それは……まあ。 でもボクの方こそ、ありがとう、だよ」

     アハハハハ……


シャル「あ、そうだ。 一夏、聞きたい事があるんだけど……」

一夏「おう、何でも聞いてくれ、シャル」

シャル「うん。 その、一夏は……どうしてボクの事を『シャル』って呼ぶのかな?」

箒・鈴・セ・ラ「!!!!」

一夏「ああ……これは、俺の世界でそう呼んでいたから……って、嫌だったか?」

シャル「ううん、そんな事ないよ? ちょっと気になっただけ」

一夏「そっか……ならいいんだが」

一夏「実を言うと、これは俺が『シャルロット』って、なかなか言い慣れなくて」

一夏「じゃあシャルって呼んでいいか? という事で、そう呼ぶ様になったんだ」

シャル「な、なんだ……そうだったの」


箒(……という事はっ!) キラン☆

セシリア(向こうの世界でのお二人はっ!) キラン☆

鈴(特別な関係じゃっ!) キラン☆

ラウラ(無かった! という事だなっ!) キラキラン☆

シャル(……ちょっとガッカリ)


シャル「それじゃあ……向こうのボクって、どんな感じかな?」

一夏「シャルは最初、男として……って、これは同じだったな」

一夏「ISの事で悩んでいる時にいろいろ教えてくれてな……」

一夏「凄く教え方が上手かった」

シャル「へえ……」


箒・ラウ・鈴(…………)

セシリア(教え上手なのは、認めるところですわね……)


一夏「女の子だった事は驚いたな。 ……後、そうだな。 なんていうのか」

一夏「一人で何もかも抱え込んでしまうクセがあって、危なっかしい、というか」

一夏「支えたくなるっていうか……」


シャル「えっ?」 ドキッ

箒・鈴・セシ・ラウ「えっ?」


一夏「そして、なぜかいつも笑顔で……でも、それが可愛くて」

シャル「!!?」/// カアッ

箒・鈴・セシ・ラウ「!!?」


一夏「本当に健気で、儚そうで、それでいて一本筋が通っていて……」

シャル(……う………ひゃあ……)///

箒・鈴・セシ・ラウ「……………」 ピキ


一夏「うん、コスモスの花の様な女の子だな」

シャル(……ううっ、か、顔が熱いよお……)/// カアアアア

箒(くっ……!) イラ イラ

鈴(どーして あたしは……) ピキ ピキ

セシリア(むむむ……可愛らしい花ですわね……) イラ イラ

ラウラ(うむう……複雑だ) ズ~ン……




     俺は……元の世界のまま、とまではいかないが

     ようやく平穏な日常を取り戻した気がしていた。



     今はこの五人に感謝をしつつ、これから少しずつでも

     織斑一夏としての信頼回復に勤めて行くつもりだ。



     きっと……千冬姉にもわかってもらえる日が、いつか来るだろう。








     今は元の世界に帰る事は出来ない。

     けど……

     それだっていつか可能になるかもしれない、と

     いつになくポジティブに考えられる様になっていた。







―――――――――――


数日後の深夜

IS学園寮・某所


女生徒「ん――!!んんっ!!んっ――!」

????「んほっ……たまんねぇ……wwwはあ……はあ……はあ……www」

女生徒(ひいっ! いやぁ……! こいつ大人しくなったって……聞いたのにっ!)

????「うはっ濡れ濡れじゃんwwwこの状況、興奮するわけ?www」

????「はあ……はあ……ああ、久しぶりだから、も、もう もたねぇwww」

女生徒「んんっ!? ん――!ん――!」

????「はあっはあっはあっ……うあっ!! www」

女生徒「ん―――――――――――っ!!!」



―――――――――――


翌日の早朝

IS学園寮・一夏の部屋


     ゴン ゴン!

?「一夏! 起きているか!? ここを開けてくれ!」

一夏「!?」

一夏「そ、その声は箒か? ……まずいだろ、ここに来るのは?」

箒「今は緊急事態だ! 早くしないと……」

箒「千冬さんがお前を殺しに来る!!」

一夏「!?」


     タッ タッ タッ タッ……

一夏「箒、何があったんだ!?」

箒「私は今日、たまたま日直で早めに登校したんだが……」

箒「昨夜、二年の女生徒が強姦された話で持ちきりだった!」

一夏「!!?」

箒「千冬さんの耳に入るのも時間の問題だろう……だから、お前を呼びに行った」

一夏「しかし、それって……」

一夏「! まさか!?」

箒「一夏が犯人でない事はわかっている。 ならば可能性は一つしかない!」

箒「マイナスが……こっちの世界に帰って来たんだ!!」


職員室


山田「…………」

山田「織斑先生」

千冬「山田先生……」

千冬「結果は……どうでした?」

山田「…………」

山田「……DNAが、織斑君の物と完全に一致しました」

千冬「…………」

千冬「そうですか」

山田「……残念です」


IS学園某所


箒「……くっ! だめだ……ここにも人が!」

箒「ラウラ達の部屋にかくまってもらうつもりだったが……!」

箒「とにかく一夏、今はどこかに隠れていてくれ!」

一夏「し、しかし!」

箒「いいから黙って聞け!」

一夏「…………」

箒「一夏、私は……これから千冬さんに事情を説明して来る」

一夏「!」


箒「難しい事なのは分かっている。 でも何も知らないよりは多少ましだと思う」

箒「だけど……私達はあのシャルロットだって説得できたんだ」

箒「奇跡が起きない……とも言い切れないだろう?」

一夏「…………」




校内放送「学園全生徒に告ぐ! 昨夜、学園内にて暴行事件が発生!

校内放送「容疑者は、一年生 織斑一夏! 繰り返す!」

校内放送「容疑者は、一年生 織斑一夏!」




箒「くっ……! これで、学園全体が敵になる……!」

一夏「……くそっ!」


校内放送「なお、以下の一年生は容疑者をかくまう可能性がある!」

校内放送「見かけた場合、拘束、もしくは教師に報告せよ!」

     篠ノ之 箒!
     セシリア・オルコット!
     シャルロット・デュノア!
     ラウラ・ボーデヴィッヒ!
     凰・鈴音!

校内放送「繰り返す……」



箒「!?」

一夏「!?」


IS学園寮・ラウラ・シャルの部屋


ラウラ「くっ! これでは身動きが取れなくなる!」

シャル「ラウラ! いますぐ一夏の所に行ってあげて!」

ラウラ「! ……し、しかし!」

シャル「どうせボクは専用機を持ってない……足手まといになる!」

シャル「だから行って! 一夏の力になってあげて!」

ラウラ「……すまない。 来い! シュバルツェア・レーゲン!」 スウウウウウンッ!


シャル(お願いだよ……ラウラ。 一夏を守ってあげて……!)

シャル「…………」

シャル「…………!!」

シャル「そうだ。 ボクにもまだ、出来る事がある!」 ダッ!


三十分後

いつもの寒い場所


一夏「はあ……はあ……」

箒「はあ……はあ……」

??「……やっと来たか。 お前達」

一夏・箒「!!」

千冬「確実に敵を追い詰める為、頑強な包囲網に一箇所穴を開けて誘導する」

千冬「古来からある兵法の一つだ。 ガキ共……」

千冬「さて……」


     ゴブオッ!!!


一夏「ぐはあっ!!!」

箒「一夏あっ!!」






     千冬の一撃は見事に一夏の腹に決まり

     衝撃で彼は後ろに吹き飛ばされた。

     そのあまりの速さに二人は動くどころか

     身構える事すら出来なかった……






一夏「お…………ご………が………」

箒(み……見えなかった。 さすが……千冬さん)

千冬「立て、織斑……今のはわざと急所を外しておいた」

箒「ま、まってください!千冬さん!」

千冬「黙っていろ篠ノ之。 こいつの懐柔策に落ちた、貴様の言など聞く耳もたん」

箒「……!!」

千冬「どけ、篠ノ之」

箒「どきません! 話を!」

     バシイッ!!!

箒「ぎっ……!」 ドサッ…

千冬「下がっていろ、篠ノ之」

一夏「……ほ…うき……」


千冬「織斑一夏」

     ドガアッ!!

一夏「あがあッ!」



千冬「私は今日」

     ボゴオッ!!

一夏「ギャアッ!」



千冬「殺人を犯そうと思う」

箒「……!」

     ゴガアッ!! グボオッ!!

一夏「アガッ! ……ゴッ……」


千冬「雪片で首を飛ばしてやってもいいんだがな……」

     ドゴオッ!! バグンッ!!

一夏「がっ……ぐおっ…………げえっ……」



千冬「それでは、被害にあった者も、私も、納得できない」

     ガスッ!!  ゴブッ!!

一夏「お………ぐ………げえ……」



千冬「お前は相応に……苦しんで死ね」






     ガシイッ!!



箒「はあっはあっはあっ……!」

千冬「……篠ノ之、邪魔をするな」

箒「……駄目だ、千冬さんっ……!」

     バキッ!!

箒「ああッ!!」 ドサッ…

千冬「邪魔をするなと言っている」

箒「……ぐっ」

千冬「……ふん」




     ガバッ



千冬「……何のつもりだ」

箒「止めてくれ……千冬さん。 この一夏は……違うんだっ!」

千冬「そうか。 ならば、そのかばった屑と一緒に死ね」



     ドガアッ!! ゴボオッ!! ゲガアッ!!



箒「ぎゃあっ!! あああああああああああっ!!」

千冬「……どうしても どかないつもりか」

箒「……ど……かな…い……」

千冬「…………いいだろう」


???「停止結界!!」



     ぴしいいいいっ!



千冬「!?」

ラウラ「大丈夫か!? 箒!? 一夏!?」

箒・一夏「…………」

ラウラ(……くっ! 二人を探すのに手間取った!)

千冬「ボーデヴィッヒか……」

ラウラ「教官!! 話を聞いてください!!」

千冬「……教師部隊」

     ズアアアアアッ


ラウラ「!!!」

千冬「ボーデヴィッヒ、今すぐAICを停止しろ」

千冬「従わない場合は……わかるな?」

ラウラ「教官!! 話を!!」

千冬「攻撃!!」



     ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドゴオオオンッ!!!



ラウラ「あああああああああああああああああああッッ!!!!!」

千冬「…………」

千冬「ほう、まだAICを維持するか」

ラウラ「きょ、教官っ……は、話を……!」


千冬「攻撃!!」



     ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドゴオオオンッ!!!



ラウラ「あああああああああああああああああああッッ!!!!!」

     バシュウンンンン……(ラウラのIS停止) ドサッ

千冬「……教師部隊、下がってくれ。 後は私だけでいい」

     スウウウウウン……

千冬「これで邪魔者はいなくなったな……」

一夏「…………」

千冬「覚悟しろ……」




??「織斑先生!!!」



千冬「…………山田先生」

山田「はあっはあっ……良かった間にあっ……」

山田「!? 織斑君!! 篠ノ之さん!!」

千冬「……あっちにボーデヴィッヒも転がっている」

山田「なんて事を……織斑君の怪我は、致命傷になりかねない……」

千冬「……そのつもりでやったからな」

山田「……言いたい事はありますが、今は後にします」

山田「織斑先生。 この織斑君は、犯人では無いかも知れません」

千冬「!?」


IS学園・セキュリティー制御室


千冬「山田先生、説明を」

山田「はい、まずはこれを……織斑君の部屋の監視カメラ映像です」

山田「午後九時ごろに就寝して、そのまま朝まで寝ている映像が記録されています」

千冬「監視カメラは細工が可能だ」

山田「三台とも同時に? 確認しましたが、三台のカメラ映像のタイムラグは」

山田「まったくありませんでした」

山田「織斑君に超一流の電子技術スキルがあるのなら、わかりますが……」

山田「もともとカメラ工作を防ぐ為に複数台設置したわけですしね」

千冬「……だがDNAはごまかせん」

山田「ええ……それについては 私も否定しません」

山田「ですが、これをご覧ください」


山田「これは織斑先生もご存知でしょうが、生徒は知らないセキリュティーです」

千冬「……赤外線感知システムだな」

山田「犯行時刻、こちらにある点が自室にいる織斑君の赤外線反応……」

山田「重複しますが、カメラ映像とも合致しています」

山田「そしてこちらが、犯行現場の赤外線反応です。 ……時間を動かしますね」

千冬「…………」

千冬「……!?」

千冬「なんだ!? 今のは!?」

山田「……わかりません。 女生徒を襲った犯人の赤外線反応は、突然現れ消えたんです」

山田「そして、この犯人が現れたとき、この学園内の人数が一人増えました」


千冬「!? 外部の者が……!?」

山田「私が知る限り、この赤外線システムで感知できない方法は」

山田「宇宙服の様な物を着るか……ISの絶対防御に包まれるか、です」

千冬「…………」

山田「そこで私は、学園のホストコンピューターのISの動作記録を調べてみた所」

山田「……犯行時刻に白式の展開記録がありました」

千冬「……!?」

山田「ですから私は、織斑君に事情を聞こうと思ったんです」

山田「何度も言いますが、彼が犯人なら電子スキルは絶対条件です。 そして」

山田「セキュリティーの事を知る知らないは別として、犯行時にISを展開していた……」

山田「織斑君が犯人なら、足が付くだけなのになぜ?という疑問が残ります」

山田「そして……彼の腕に付けられてる白式の展開記録を見て……更に謎が深まりました」

千冬「…………」


山田「犯行時刻、織斑君の白式は展開していない事を記録しています」

千冬「……どういう……事だ?」

山田「わかりません。 でも、これらの情報は私の手柄じゃないんです」

千冬「?」

山田「織斑君は犯人じゃない、記録を調べて見てくださいって……」

山田「デュノアさんが必死に懇願してきたんです」

山田「オルコットさんや 凰さんもそうでした」

千冬「…………」

山田「……織斑先生、これから事情を聞きに行きませんか?」

山田「織斑君と篠ノ之さんは、まだ無理ですが……二人の傍にみんないます」

千冬「…………」

千冬「…………そうだな」


IS学園・医療室



     医療室のベッドの上に手当てを受けた一夏と箒が

     それぞれ横たわっている。

     二人とも包帯が痛々しいが、命に別状はない

     もちろん一夏の方がより酷いのだが……



シャル「…………というわけです」


千冬「」

山田「」


シャル「そうですよね……信じられませんよね……」

シャル「ボクも……そうでした」

シャル「一夏に会ってみて、話してみて、初めて違うと感じたんです……」

シャル「彼は……こっちの世界に来て、苦しんで、苦しんで、苦しみぬいて」

シャル「自分の事で大変なのに、ボクの事まで気遣ってくれて……」 ポロ

シャル「人の痛みが分かる……暖かい人…………なのに」 ポロ ポロ

シャル「どうして……こんな事にっ……!」 ポロ ポロ


千冬・山田「…………」


ラウラ「……教官」

千冬「! ……ボーデヴィッヒ」

ラウラ「……私は……初めて教官を憎みます……!」

千冬「…………」

ラウラ「なぜ、話を聞いてくれなかったのですか……?」

ラウラ「箒だって、きっと話をしようとしたハズです!」

ラウラ「なぜなのですか!? なぜ!?」 ポロ

ラウラ「答えてくださいっ!!」 ポロ ポロ

千冬「………っ」

鈴「ラウラ! やめなよ……」

鈴「千冬さんも……辛い思いをしてる……」

ラウラ「……う……ぐうっ………うう………あああああああ……」 ボロ ボロ

鈴「一夏は……きっと笑って許しちゃうよ」

鈴「だから……泣き止もう? ね?」 ポロ




     千冬は……その場に力なく崩れ落ちた。



山田「織斑先生……!」

千冬「…………」

千冬「……信じがたい事だが、筋は通っている」

千冬「では……何か……?」

千冬「私は、まったく関係の無い人間を殺しかけた上に……」

千冬「マイナス……こっちの一夏は……本物の私の弟は……」

千冬「相変わらずの屑人間だと……」

千冬「平然と女を辱める、最低な人間のままだと言うのか……?」

千冬「そんなの……あんまりだ……」 ポロ


山田「…………」

山田「織斑先生」

山田「私があなたの立場だったら、『織斑一夏に襲われた』という」

山田「被害者の証言だけで、織斑君の身柄を確保をしようとしたでしょう……」

山田「でも……あなたは、DNA鑑定の結果が出るまで待ちました」

山田「織斑君に暴行を加えたのは……らしくありませんでしたが……」

山田「それは肉親の情ゆえの事で、公平だったと思います」

千冬「……うう……ぐ………うあ………」 ボロ ボロ


セシリア「…………」

セシリア「……織斑先生、傷口に塩を塗るようですみませんが」

セシリア「マイナスは まだ野放しのままです」

千冬「……!」

セシリア「このまま放置しておけば、また犠牲者が増えるだけですわ」

セシリア「対策を考えるべきかと……」

千冬「…………」


千冬「……その通りだな、オルコット」

千冬「嘆いてなど……いられない!」 スクッ

山田「織斑先生……」

千冬「山田先生、職員会議を開く……」

千冬「荒唐無稽な話だが、山田先生のデータとの関連性を見れば」

千冬「納得して貰えるかもしれない」

千冬「手伝ってくれ」

山田「わかりました!」



―――――――――――


一夏「……う」

箒「! 一夏!」

一夏「? ここは……いててて!」

箒「無理するな一夏、大人しく横になっていろ」

一夏「!? 箒、お前も怪我しているじゃないか!」

箒「……ああ。 でも、お前に比べたら たいした事はない」

一夏「……すまない。 俺が不甲斐ないばかりに……」

箒「怒り狂う千冬さん相手じゃ、どうしようもないと思うがな」 クスッ

一夏「まあ……な……」 ハハハ……


一夏「…………」

一夏「……箒の怪我、もしかして」

一夏「俺をかばって……か?」

箒「……気にするな」

箒「考えてみれば、ISを起動するとか出来たのに……」

箒「一夏が殺される、と思ったら、考えるよりも体が勝手に動いていた」

箒「きっと他のみんなもそうするだろうし」

箒「お前だって私の立場ならそうするだろう?」

箒「だから……気にするな」 ニコ

一夏「箒……」


箒「そうだ、実はな……奇跡が起こったんだ」

一夏「奇跡?」

一夏「!!」 

一夏「千冬姉が わかってくれたのか!?」

箒「それもだがもっと凄い。 小一時間程前に校内放送で」

箒「お前が、向こうの世界の一夏である事を知らせる告知がされたんだ」

一夏「!!?」

箒「私も驚いた。 多分、ほとんどの者が半信半疑だろうが……」

箒「一夏とマイナスの存在は区別していると思う」

一夏「……すげぇ」

箒「……ただ、喜べない事もある」

一夏「?」


     ガチャ

モブ子「……しつれーしまーす。 ……って!」

モブ子「織斑君、起きてる!」

一夏「えっ?」

モブ子「わあ~……怪我、痛そうだね」

一夏「い、いや……まあ……」

モブ子「よし! おねーさんが包帯を変えてあげ」

モブ美「あー!! モブ子ずるい!! 織斑君のお世話は、あたしがす」

モブ枝「ちょっと! モブ子もモブ美も何言ってるのよ! さっきジャンケンであたしに」

     アタシガー! アタシヨー! アタシダッテバー!

一夏(……どうすりゃいいの?)

箒(さっきからこの調子で誰かれ構わず、ひっきりなしに面会に来る……) イラ イラ

箒(せっかく一夏と二人きりになれたのに……) イラ イラ



―――――――――――


千冬「極めて不本意だが」

束「やっほー! 向こうのいっくん、よろしくー!」

一夏「」

千冬「……彼女の手を借りる事にした」

束「もう! ちーちゃん、乗り悪~い! 他人行儀すぎ~!」

千冬「……すまないが急いでいるのでな。 早くお前の用事を済ませてくれ」 ピキ ピキ

束「お~、そうだった!」


束「あのね、向こうのいっくん。 君の世界の『数値』をちこっ!と、調べさせてね!」

束「あ、もちろん痛くないから~」

一夏「え? あ、はい……どう」

束「はい終了~。 そんじゃあ束さんは、これから忙しくなるのでバイバ~イ!」

束「あ、箒ちゃん、後でハグハグしようね~」 バヒュン

箒「しません! ……って、あの人は」

一夏(この世界ってホント、俺しか違わないのな……)

千冬「さて、一夏……と呼んでいいのか。 とにかく、すまなかった」 ペコリ

一夏「いや……わかってくれたなら、それでいいから」

千冬「篠ノ之も……すまなかった」 ペコリ

箒「千冬さん。 もう気にしていませんから」

千冬「……ありがとう、二人とも」


千冬「一夏」

一夏「はい?」

千冬「お前の作ってくれた弁当……美味かったぞ」 ニコ

一夏「千冬姉……」

千冬「……お前が本当に私の弟だったら……いや」

千冬「何でもない……」

一夏「…………」

箒「…………」

千冬「……もう行かなければ」

千冬「二人とも 今はゆっくり体を休めてくれ」




IS学園・緊急対策室


千冬「束、状況は?」

束「向こうのいっくんと、向こうの白式のデータから おおよその解析が出来たけど」

束「やっぱり実際にマイナス君に出てもらわないと難しいかな……」

千冬「こちらの世界にマイナスが潜伏している可能性はあるか?」

束「どうだろうね……。 束さんのお手製ISレーダーに引っかからないISなんて」

束「存在しないと思うけど……だから多分ないとしか言えないよ、ち~ちゃん」

千冬「そうか……」

千冬「マイナスはどうにかして、こっちと向こうの世界を行き来する方法を見つけ」

千冬「こっちで狼藉を働き、向こうに帰った可能性が高い……そうだな?」

束「今のところは、ね~」

千冬「……歯がゆいな。 いずれにせよ、マイナスが動かないと何も出来ん……か」

束「まあ、あせりは禁物だよ~」


IS学園・某所


????「おいおい……なんだよこれwww」

????「なんで向こうの俺が、こっちの世界でなじんでんだよ~www」

????「おまけにマイナスって……超失礼www」

マイナス「ったく……どうすっかな?」 キリッ

マイナス(きまったぜ……wwww)



―――――――――――


翌日の朝

医療室


一夏「ふあああ……よく寝た」 セノビー

箒「……おはよう、一夏」 フア…

一夏「おう、おはよう 箒」

箒「……? おい、立って大丈夫なのか?」

一夏「あれ? そういえば、昨日は動くだけで痛かったのに……?」

箒「……私は まだ痛い」

一夏「よく寝たから……かな?」

一夏「まあいっか。 それより腹減ったなあ……朝飯くわないか?」

箒「そうだな、私も空いた」

一夏「よし、二人前もらって来る」


     ガラッ

鈴「おっはよー! 一夏! お腹空いたでしょ……?」

鈴「って、ええ!? あんた、何で立ってるのよ!?」

一夏「いや……なんでって言われても」

鈴「だってドクターは全治に一ヶ月はかかるって……」

箒「私も驚いている……」

一夏「そ、そんなに酷い怪我……だったのか?」

一夏「それにしても旨そうな匂い……話はそれくらいにして飯にしないか?」 グウ~

箒「うむ、その意見には賛成だ」

鈴「そうね、食べてからでいっか!」


一夏「そういえば他のみんなは?」 モグモグ

鈴「あたしもそうだったけど、警戒活動してる」

箒「昨夜からか?」 モグモグ

鈴「そ。 お肌に悪いったらありゃしない」 モグモグ

一夏「IS学園全体で警戒してるのか……」 モグモグ

鈴「専用機持ちは、センサーの精度も範囲も広いから重宝がられてね……」

鈴「でも昨日は空振りだったわ」 モグモグ

箒「シャルロットは どうしてる?」 モグモグ

鈴「彼女は普通の生徒に混じって、三人一組のチームに編成されて警戒活動」

鈴「……今の時間帯なら、寝てると思う……たぶん」

鈴「まあ、そのうちここにみんな来ると思うけどね」


一夏「……ふう、ひとここちついたな。 鈴、ありがとうな」

箒「私からも礼を言う。 ありがとう、鈴」

鈴「うふふ、どういたしまして!」

鈴「さて、あたしも仮眠を取らなきゃ……」

鈴「ラウラがね、『休むのも兵士の勤めだ!』とか言うし」

一夏「ぷっ! なんだよ鈴、ラウラの物真似なんかして!」

箒「結構似てたな」

鈴「え? そんなつもり、無かったんだけど……?」

     アハハハハ……



―――――――――――


千冬「……凰に話を聞いて来てみたが」

千冬「本当に治っているな。 信じられん……アザすらない」

一夏「いやその……千冬姉、いきなり上着を脱げって……けっこう恥ずかしいんだけど?」///

箒「…………」///

一夏「そういや福音事件の時も大怪我を負って死に掛けたけど」

一夏「翌日には治ってたっけ……」

千冬「ほう? そうなのか。 こっちの一夏は一週間生死の境を彷徨って」

千冬「全治に夏休みが丸々潰れたんだが……」

箒「福音は教師部隊と専用機持ちの共同戦線で何とか仕留めたしな……」

一夏「へえ……」


千冬「そうだ一夏。 まさか本当に治っていると思わなかったが……こうなれば言っておく」

千冬「お前はここに居ろ」

一夏「え!? なんでだよ!?」

千冬「私が一番危惧しているのは『誤認』だ」

千冬「外見がまったく同じで見分けが付かないからな……我慢しろ」

一夏「くっ……!」

千冬「……悔しい気持ちはわかるがな。 私がお前の分まで殴っておく」

箒「耐えるんだ、一夏……」

一夏「……わかってる箒」



―――――――――――


シャル「……本当に治ってるの?」

セシリア「信じられませんけど……良かったですわ」

ラウラ「昨日は酷い状態だったからな……」

一夏「ハハハ……まあそんなに驚かれると、治ったのが悪い気がするよ……」

シャル「そ、そんな! もちろんうれしいよ!」

セシリア「さあ、それより お昼にいたしませんこと?」

ラウラ「うむ! 異論はない!」

箒「おいしそうだな、このオムライス」

ラウラ「それでは一夏、ケチャップをかけてやろう」

一夏「は? いや自分ででき」

ラウラ「遠慮するな……」 ツツツツツ…


一夏「ん? なんだこれ? ドイツ語か?」

ラウラ「うむ……イ、イッヒリーベディッヒ……と読む。 ……励ましの言葉だ」///

シャル・セシリア「!!!!!!!」

セシリア「ち、ちょっと! ラウラさん! ずるいですわ!」

シャル「そ、そうだよ! ずるいよ!」

ラウラ「こ、これくらい、いいだろう!?」

箒「……?」


シャル(うう……次はジュテームって、ボクが書くもん!)///

セシリア(きー ……次は、わたくしがアイ・ラブ・ユーと……って、書けませんわああっ!!)///


IS学園・某所


マイナス「はあ……こっちの世界の向こうの俺と、上手く入れ替わるつもりだったのにwww」

マイナス「無防備な女のケツを見て、つい手をだしちまったwww」

マイナス「ちっ……まいったな。 もう向こうには帰れないしwww」

マイナス「おまけに腹も減ってきた……www」

マイナス「こう、警戒が厳重だと、うかつに動けないしwww」

マイナス「何とかして、向こうの俺がいる場所を突き止めないとwww」




IS学園・緊急対策室


千冬「山田先生、変化はありませんか?」

山田「今の所は……篠ノ之博士のレーダーも変化無しです」

千冬「そうですか。 後は私が引き継ぎます。 山田先生は休んでください」

山田「あ、はい。 わかりました」

     ピピピッ…… ピピピッ……

山田「!!」

千冬「束のISレーダーに反応が!」

山田「! この場所は……!!」

     ズウンッ!!

     ……フッ


千冬「くっ……! 配電施設をやられたか……!」

山田「大丈夫です! 二次電源、復旧します!」

     ……パッ

千冬「システム再起動……ISレーダーは!?」

山田「……起動、確認できません!!」

千冬「なんだと!? 至急 束に連絡!! 寝ていても叩き起こせ!」

山田「は、はい!」

千冬「全学園生徒に告ぐ! マイナスの襲撃発生! 警戒を厳にせよ!」

千冬「繰り返す! マイナスの襲撃発生! 警戒を厳にせよ!」


千冬(くそ……! こうも簡単に奇襲を許すとは……!)

千冬(だが……奴の目的は何だ? こちらの『目』を潰して、何をするつもりだ?)

千冬(…………)

千冬(……!! まさか!!)


医療室


一夏「……くっ! マイナスの奴!」

箒「一夏、落ち着け! 千冬さんに任せておくのだろう?」

一夏「そりゃそうだが……」



     シャキィィィィィィンッ!  ドゴオッ!!



一夏「!?」

箒「!?」




     俺は……もうもうと立つ 煙の中から現れる人影に戦慄する。

     まるで、そこに大きな鏡でも有るかの様な錯覚……。

     白式をまとうそいつは、ニタリ、と、不敵に笑った。



マイナス「よお……www」

箒「紅椿!」 スウウウウン!

一夏「来いっ! 白式!」 スウウウウン!

箒「!! ま、待て! 一夏!」




     しかし……箒の言葉は、俺に届いていなかった。



一夏「うおおおおおおっ!!」

マイナス「うほっ! 元気いいじゃんwww」


     ガキンッ! キンッ!


一夏「くっ! 待てえっ!!」

箒「なんて事だ……!!」





     俺とマイナスは、互いに切り結びながら外に出た。

     実力は、ほぼ互角……! くそっ! こんな奴に……

     負けてたまるかああああっ!!




一夏「どうした! マイナス!? 逃げようったって、そうはいかないぜ!!」

マイナス「それはこっちの台詞だぜ! マイナス!!」

一夏「!?」





     突然向かってくるマイナス。

     そして俺は、奴の策に

     まんまとハマッてしまった事にようやく気がついた……!!




一夏「……そうか! お前、俺と入れ替わるつもりだったのか!」

マイナス「なに……!? そう言う魂胆か!!」

一夏(くっ……!! もう俺になりきってやがる!!)


セシリア「箒さん!!」

箒「セシリア! ……すまん! もう私にも見分けが付かない!」

セシリア「なんですって!?」

鈴「ど、どうすんのよ! これじゃあ……」

ラウラ「一夏を援護できないぞ!」


千冬(……くっ!! 遅かったか!)

シャル「先生っ……ああ!? い、一夏が!!」

千冬「……デュノア、下がっていろ。 あれは……どちらかが、マイナスだ」

シャル「―――――!!」


一夏「うおおおおおっ!」

マイナス「でやあああああっ!」



     ガキンッ! ギィンッ! キンッ!



     繰り返す斬撃。 

     お互い白式を身にまとい、唯一の武装、雪片二型を振るう。

     二人とも鬱陶しくなるくらい力は拮抗していた。



マイナス(ちっ……! こいつ、うぜえ!)

一夏(畜生……! ホントに鏡に向かって戦っているみたいだ!)

マイナス(つーことは……)

一夏(決め手も同じ、だろうな……!)





     零落白夜……! それを使うときが勝負を決める!!




束「ちーちゃん! ごめ~ん束さんのレーダー……」

千冬「束……いや、もうそれはいい。 あれを見ろ」

束「おお! いっくんが二人!!」

千冬「何とか識別できないか?」

束「う~ん……まだデータ収集中だから、解析済ませないと難しいかなあ~」


マイナス「はあああああっ!」

一夏「おおおおおおっ!」



     何回目の打ち合いだろう、一夏がわずかに受け流し損ねる!



一夏「!! し、しまった!」

マイナス「もらったああああああっ!!」


     ガキンッ!!


一夏「ぐあっ!!」




     マイナスの渾身の一撃! 反動で後ろに飛ばされる一夏。

     だが、かろうじて受けきり、最小のダメージにおさえた。



一夏「はあっ はあっ はあっ……」

マイナス「はあっ はあっ はあっ……」


箒「……くっ!!」

セシリア「ああもう……! やきもきしますわ!」

鈴「マイナスってわかれば……遠慮なく、龍砲ぶち込んでやるのに!!」

ラウラ「何か……いい方法は……!?」




マイナス「みんな! 手を貸してくれ!」

一夏「手を出すな! こんな奴……俺一人で倒す!」



箒「一夏なら……「手を貸せ」なんて言わないんじゃないか!?」

セシリア「し、しかし……! 自分を有利にするために「手を出すな」と言ったのかも……」

ラウラ「どちらの可能性も否定できない……」

鈴「んもう! イラつくわね!」




シャル「一夏あっ!!」



箒・セ・鈴・ラ「!?」


マイナス「何だ!? シャルロット!」

一夏「下がってくれ! シャル!」


箒・セ・鈴・ラ「!!」








     その瞬間――

     箒達は一斉に二人の「一夏」の間に入り

     『シャルロット』と呼んだ一夏に照準を合わせる。








マイナス「!? お、おい!?」

セシリア「黙りなさい……マイナス」

マイナス「!! な、なに言ってんだよ! 俺が一夏だ!」

箒「一夏はな……シャルロットの事を」

鈴「『シャル』って呼ぶの……」

マイナス「……!」

ラウラ「残念だったな」


千冬「……勝負あったな」

束「おおう~ 急展開~」


一夏「……水を差されたな」

マイナス「…………」

一夏「どうする? マイナス」

一夏「いや……『こっちの世界の織斑一夏』」

一夏「大人しく捕まるか?」

マイナス「…………」 ギリッ

マイナス「…………」

マイナス「……ま、それもしゃーねえな」

マイナス「けどよ」

マイナス「お前とは……決着をつけたかったな。 『向こうの世界の織斑一夏』」

一夏「…………」

一夏「……奇遇だな。 俺もそう思う」


箒「一夏!?」

鈴「何言ってんのよ!」

ラウラ「やめろ一夏! 自ら不利な状況で戦ってどうする!?」

セシリア「そうですわ! 一夏さん!」

シャル「だめだよ! 一夏!!」


一夏「千冬姉……どうだろう? もう奴は逃げも隠れも出来ない」

一夏「やらせてくれないか?」

い冬「…………」

千冬「……ひとつ聞こう。 なぜだ?」

一夏「そんなの、決まっている」




一夏「俺がやりたいからさ」



千冬「……いいだろう。 思い切り行け!」

箒「千冬さん!!」

千冬「下がれ! お前達!」

千冬「それとも何か? お前達の知る一夏は、マイナスに負けると思うのか?」

箒・鈴・セシ・ラウ・シャ「…………」

千冬「……信じてやれ、お前達の一夏を」

箒・鈴・セシ・ラウ・シャ「…………」


マイナス「……お前、バカだな。 ヘドが出る」 スッ…

一夏「お前は、賢いらしいな」

一夏「下半身以外は」 スッ…


マイナス「……は、てめえがぶら下げている物は飾りか? 少しは使えよ」

マイナス「それとも使えないのか?」 ジリッ…

一夏「使わないだけさ……」

一夏「お前みたいに ぼっちになりたくないしな」 ジリッ…


マイナス「……いちいちムカつくぜ」

一夏「いいもんだぜ? 相手が笑顔で話をしてくれるのは」

一夏「こっちに来てから……本当に実感したよ」




一夏・マイナス「零落白夜、発動!!」



     ゴウッ!!



     技術も、技量も、関係ない。

     ただ……二人の一夏は、真正面から全力でぶつかり合った。

     切り結び、離れ、直線的にまた向かって行く。

     力の限り、同じ顔、同じ力量の相手にそれをぶつける。

     繰り返し 繰り返し……




一夏「はああああああああっ!!」



     何度目かの斬撃を繰り出す一夏。 それを弾くマイナス。

     マイナスも負けずに一夏へ雪片二型を振りおろす。



マイナス「たああああああっ!!」



箒(一夏!)

鈴(両方とも動きは似ているけど……)

セシリア(マイナスの方が、やや回避力で……)

ラウラ(一夏の方が、少し攻撃に長けている……!)

シャル(一夏……! がんばって……!)


一夏「はあっはあっはあっ」

マイナス「はあっはあっはあっ」

     スウウウウウウン……

一夏「!! 零落白夜がっ!!」

マイナス「!! ……もらったあっ!!」



     シールドエネルギーを使い切った一夏に漫然と襲い掛かるマイナス。

     ……だが一夏は、マイナスの予想外の行動に出た。



     あえて避けようとせず、マイナスに向かって行ったのだ。



マイナス「なっ!?」




一夏「おおおおおおおおおおっ!!」


     ガァンッ!!


マイナス「ぐあっ!!」

一夏「これでえぇぇっ!!」


     一夏の体当たりで完全に虚を突かれたマイナスの防御は、崩されていた。

     そこに一夏の渾身の一撃が振り下ろされる!


     ガギインッ!!


マイナス「うわああああああああっ!!」




     吹き飛ばされ、仰向けに倒れこむマイナス。 

     そして……



     スウウウウウウウウン……


マイナス「零落白夜が……! はっ!?」

一夏「勝負あり、だな……」



     マイナスが起き上がるよりも早く

     一夏は、マイナスの眼前に雪片二型を突きつけていた。




箒「よしっ!」

箒「さすが一夏だ!」

セシリア「ええ!」

鈴「まったく……ヒヤヒヤさせないでよね」

ラウラ「それでこそ私の嫁だ、一夏!」

シャル「一夏……良かった」



マイナス「ちっ……」

一夏「いい勝負だった」

一夏「凄く反省して、もっと腕を磨けば……」

一夏「きっと千冬姉もみんなも、いつか許してくれるさ」

マイナス「…………」


千冬「一夏……ご苦労だった。 後は任せてくれ」

一夏「……ああ、任せる」

     スウウウウウウン……(白式解除)

千冬「…………」

千冬「さて、一夏(マイナスの事)……」



     ズブウッ……!



千冬「」

一夏「」

箒・鈴・セシ・ラウ・シャ・束「」


マイナス「……なんだよ、千冬姉」

マイナス「千冬姉まで、そいつの味方なのかよ」

千冬「……がっ……ぐ……」 ポタ…ポタ…

マイナス「毒を食らわば皿までだ!! あばよ! 千冬ね…」


     スウウウウウウウウン……(マイナスの白式解除)


マイナス「!? あ、あれ!? おい! 白式!!?」

一夏「てめええええええええっ!!!」

     バゴオッ!!

マイナス「ぶげあっ!!」 ドサッ! ゴロゴロゴロッ……


一夏「千冬姉!!」

千冬「くそ……油断……した」

一夏「千冬姉……!」

千冬「……この出血……たぶん肝臓をやられた……な」 ハア… ハア…

鈴「あ、あたし、ドクターを呼んでくる!!」 バヒュン

千冬「まさか……本当の弟に……刺される……なんて……」 ハア… ハア…

一夏「もういい! 千冬姉、しゃべるな……!」

束「ちーちゃん!」

箒「千冬さん!!」

ラウラ「教官!!」

セシリア「織斑先生!!」

シャル「織斑先生!!」


一夏(くそおっ! くそおっ!! くそおおおっ!!!)




     ピチョン…



一夏(……!?)

一夏(…………)

一夏(ここは?)

一夏(……そうだ! 福音の時に見た……あの夢の中だ!)



     汝……力を求めるか?



一夏(……あの時と、同じ質問)




     汝……力を求めるか?



一夏「…………」

一夏「ああ、求める。 力が欲しい……」

一夏「でも……誰かを倒す力じゃない。 誰かを守る力でもない……」

一夏「今、欲しいのは……」

一夏「誰かの……命を救う力が欲しい!」



     …………………………




少女「お兄ちゃん」

一夏「んをっ!!?」 ビクンッ!

一夏「……君は?」

少女「お兄ちゃんは、優しいね」 ニコ

一夏「えっ? ……そ、そうかな?」

少女「お兄ちゃんのお願い、叶えたいけど……」

少女「今は……元気が足りないの……」

一夏「元気?」

少女「うん。 だから……「妹」にお願いしてくれるかな?」

一夏「妹……? 元気……?」




少女「そうすれば、叶うから」 ニコ


―――――――――――


一夏「はっ!?」

一夏(い、今のは!? ……妹、……元気)

一夏「…………」

一夏「!! そうか!!」


一夏「箒!!」

箒「……っ!? な、なんだ!?」

一夏「箒、今すぐセカンドシフトしてくれ!」

箒「!?」

一夏「説明している時間が無い! 頼む!」

箒「そ、そんな事、急に言われても……!」 オロオロ…

束「箒ちゃん」

箒「ね、姉さん?」

束「ちょっと耳を貸してくれる?」

箒「え? は、はい……」

     ごにょごにょ……

箒「……!」

束「わかったかな? 箒ちゃん」 ニコ

箒「はい!」




     紅椿のセカンドシフト

     それは……白式の操縦者の事を想う事で発動するの


     ただ純粋に……気持ちを込めるだけ

     それだけだよ



箒(白式の操縦者…… 一夏の事を想う)

箒(私は…… 一夏の事が……好きだ)

箒(一夏の力になりたい……)

箒(一夏と……共に……)

箒(在りたい!!)



     ギュウウウウウウンッ!


     ピピピ……

     紅椿 セカンドシフト

     絢 爛 舞 踏


箒「……できたっ!!」

一夏「白式!!」

     スウウウウウウウンッ!

一夏「箒!! 手を!!」

箒「おうっ!」

     ギュアアアアアアアッ!!


一夏(よし! エネルギー回復!!)

一夏(さあ……白式。 頼む!! 千冬姉を……)

一夏(千冬姉を救ってくれ!!!)



     カッ!



セシリア「ふわっ!?」

シャル「眩しいっ!」

ラウラ「くっ! いったい何が!?」



     ピチョン……


千冬「…………」

千冬「………?」

千冬「ここは……?」

     チフユネエー!

千冬「一夏……?」

一夏「千冬姉!」

千冬「一夏……」

一夏「良かった、千冬姉……!」

     ギュッ

千冬「……!!? お、おい、一夏!?」

一夏「死なないでくれ、千冬姉……」

千冬「……!」


千冬「一夏……]

千冬「…………」

千冬「でも……お前は……」

千冬「私の……本当の弟ではない」

一夏「だったらなんだ……?」

千冬「!」

千冬「だったら……だと?」

千冬「私は、本当の……この世界の一夏に……実の弟に刺されたんだぞ?」

千冬「生きている意味が……あるのか?」

一夏「ある!」

千冬「!」


一夏「そもそも『生きる意味』ってなんだよ?」

一夏「千冬姉は……いつも俺の為に働いて、俺を守ってくれて……」

一夏「厳しい時もあるけど、優しくて」

一夏「俺にとって……かけがえの無い、大切な存在なんだ」

千冬「…………」

千冬「……でもそれは、お前の世界の『私』の事だ」

千冬「私は……違う……」

一夏「違わないよ」

一夏「俺の世界の千冬姉も」

一夏「今こうして……抱きしめている千冬姉も」

一夏「俺にとっては、『同じ』大切な千冬姉だ……」

千冬「一夏……」


一夏「千冬姉は、まるで桜だ」

一夏「綺麗で、眩しくて……いつも見上げている……」

一夏「でも、いつまでも散らないで欲しい」

一夏「俺の事ばかり優先してないで、自分の事も大事にして欲しい」

一夏「だから……死なないでくれ」

千冬「…………」

千冬「……っ」

千冬「…………本当に」 ギュッ

千冬「お前が私の弟だったら……」 ポロッ

千冬「どんなに嬉しいか……!」 ポロ ポロ

千冬「心底、向こうの私がうらやましい……!」 ポロポロッ

一夏「……さあ、帰ろう? 千冬姉」

一夏「みんな待っている」

千冬「……ああ」 ニコ


IS学園・上空


     バヒュン

???「よし! やっと来れた!」

????「まったく、あのゴミ屑のせいで時間がかかりましたわ!」

?「ここに…… 一夏がいる」

?「まっててね、一夏。 かならず探し出すから」

???「そして……ボク達の世界に早く連れて帰ろう!」


IS学園・中庭付近


鈴「みんな! ドクター連れてきたよ!」 ヒュン

鈴「さっ、ドクター!」

ドクター「緊急事態の概要を……これかね?」

鈴「……って、なんで千冬さんに一夏が覆いかぶさっているのよ!?」

セシリア「……わたくし達にもわかりませんの」


ドクター「……この倒れている二人は、問題ない」

ドクター「織斑先生の服に付いている血痕は気になるが……生命反応に異常は無い」

ドクター「気絶しているだけだ」

ドクター「む? あっちにも倒れている人間が……おや? 双子か?」

ラウラ「それはマイナスだ」

ドクター「……校内放送で言ってたあれか。 信じられん」 ピピピ……ピピピ……

ドクター「ふむ、命に別状はないが……あごの骨が折れているな」


箒「良かった……。 一夏、千冬さん」

ラウラ「ああ……これで終わったな」

セシリア「そうと決まれば、祝杯ですわ!」

シャル「うん! いいね!」

鈴「一夏と千冬さんが目を覚ます前に、準備しましょ!」



???「一夏!」




ラウラ「!?」

セシリア「へ?」

シャル「えっ?」

箒「どうした? ラウ……」

鈴「な……!?」


真・箒「……私が……いる」

真・鈴「うわ……」

真・セシリア「わかっていても……」

真・ラウラ「気持ちのいいものでは無いな……」

真・シャル(……? どうしてこっちのボクは、専用機じゃないんだろう?)



一同「…………」


真・箒「……状況は、わかっているだろうか?」

箒「……あ、ああ」

真・箒「ならば話が早い。 そこに倒れているのは、どちらの一夏だ?」

箒「ええと……それは――」



     言いかけて……箒はゾクリ、と悪寒が走った。

     ……いや、箒だけではない。 鈴も、セシリアも、ラウラも、シャルも、同様だった。



鈴「…………嫌よ」

真・箒「? どうした? その一夏は……」

鈴「一夏は…… 一夏は! 渡さない!!」




     ゴウッ!!



真・鈴「くっ!?」

真・ラウラ「鈴!!」

真・セシリア「な、なにをいたしますの!?」

ラウラ「……はああああっ!!」 ゴウッ!

セシリア「ブルーティアーズ!!」 ヒュンヒュンッ!!

箒「くっ……!! わああああっ!!」

シャル「み、みんな!?」





     箒は箒に、ラウラはラウラに、と、それぞれがそれぞれの

     異世界の自分に襲い掛かっていく……。

     一番の理由は『誤認』をしないためだった。



真・シャル(どうしよう……! 援護しようにもこれじゃあ……!)

シャル「ねえ! 向こうのボク!!」

真・シャル「!?」

シャル「お願い! ボクに……」

シャル「通信機を使わせて!!」


箒(嫌だ……嫌だ……! 嫌だ!!)

鈴(一夏と……離れたくない!!)

ラウラ(絶対に連れてなど、帰らせない!!)

セシリア(わたくし達は……これからなんですのっ!)


真・箒「くっ!! 邪魔をするな!!」

真・鈴「あたし達が、どれだけ心配したか!!」

真・ラウラ「どれだけ会いたかったか!!」

真・セシリア「あなた達に……わかりましてっ!?」


シャル「みんな、聞いて!!」

真・箒「!?」

箒「オープンチャネルか!」

鈴「シャルロット!? 何のつもりよ!?」

シャル「もう戦うのはやめて!! 一夏は……そんな事望まないよ!!」



全員「……!!」



シャル「ボクだって…… 一夏に帰って欲しくない……」

シャル「ずっと一緒に居たい。 一夏の隣で寄り添いたい……」

シャル「でも一夏の意思は……どうなるの?」

シャル「一夏は、こっちの世界に望んで来たの?」

シャル「違うでしょ?」


箒「で、でも……シャルロット!」

鈴「あんたはそれでいいの!? 一夏が居なくなるのよ!?」

ラウラ「嫌だ! 私は……そんなの耐えられない!」

セシリア「わたくし達の気持ちは、どうなりますの!?」



シャル「一夏は……きっとボク達の事を考えてくれる……」

シャル「こうやって帰れる手段が見つかっても……」

シャル「一生懸命、考えて……考えて……」

シャル「苦悩する」



箒・鈴・ラウ・セシ「!!」




シャル「そんな一夏を見たい?」

シャル「こっちのボク達と、向こうのボク達の狭間で、悩み、苦しむ一夏を……」

シャル「見たいの!?」

シャル「……ボクは……いやだよ」 ポロッ

シャル「ボク達のせいで……苦しむ一夏なんて……」

シャル「見たくないよ……!」 ポロッ ポロッ



箒「…………」

鈴「…………」

ラウラ「…………」

セシリア「…………」



真・ヒロインズ「…………」


箒「…………」

箒「あそこに……千冬さんの傍にいる一夏が、向こうの一夏だ」

真・箒「……!」

箒「一夏に……お前の事を聞いた」

箒「いつも木刀や竹刀を持っていて、暴力を振るうらしいな」

真・箒「んなっ!?」

箒「ハハハ……」

箒「でも……凛として、時折 寂しそうな顔を見せる」

箒「白百合の様な女だ、とも言っていた……」

真・箒「!!?」/// カアッ


箒「一夏は、見るべき所はちゃんと見てくれている」

箒「不安で……つい手が出てしまうのは分かるが……」

箒「その時はセカンドシフトの気持ちを思い出せ」

箒「きっと……素直になれる」

真・箒「…………」

箒「さ……もう連れて行ってくれ。 私の気が変わらない内に」

真・箒「……すまない」 ヒュン


箒(…………)

箒( 一夏、 一夏ぁ……!) ポロポロ


鈴「……ねえ」

真・鈴「……なによ?」

鈴「……ごめん」

真・鈴「今さら言う?」

鈴「だから悪かったって……謝るわ……」

真・鈴「……もういいわよ」

鈴「…………」

鈴「あんたの事、一夏から聞いたわ」

鈴「昔と同じで世話焼きでなれなれしいってさ」

真・鈴「……ケンカ売ってんの?」

鈴「笑うと見える八重歯と、サラサラの髪が可愛い、とも言ってた」

真・鈴「!!?」/// ドキッ


鈴「後は……ひまわりみたいな女の子だって」

真・鈴「はあっ!?」

鈴「あたしも腹が立ってさー。 一夏に訂正させたら、なんて言ったと思う?」

鈴「朝顔よ? 朝顔!」

真・鈴「………… 一夏ぁ」 プルプル……

鈴「…………」

鈴「…………でも」

真・鈴「……?」

鈴「一夏らしいよね……」 クスッ

真・鈴「…………」


鈴「一夏の事、大事にしてあげて。 そして素直に、ね」

鈴「ライバル多いから覚悟しなさいよ」

鈴「代表候補生になる事の方が、よっぽど楽だと思えるから」

真・鈴「……わかってるわよ」

鈴「……じゃ……もう行って」

真・鈴「……ごめん」 ヒュン


鈴(…………)

鈴(……どうしてよ、一夏ぁ!!) ポロポロ


ラウラ「……見た目はそれ程変わらないな」

真・ラウラ「……まるで中身は違う、とでも言いたい様だな?」

ラウラ「……そうだ」

ラウラ「私は……また、過ちを犯すところだった」

真・ラウラ「……?」

ラウラ「詳しくは一夏に聞くといい」

ラウラ「私は……言いたくない」

真・ラウラ「……かえって気になる言い方だぞ」


ラウラ「一夏は、お前を可愛いと言っていた」

真・ラウラ「う……うむ」/// テレッ

ラウラ「花にも例えていた……鈴蘭だそうだ」

ラウラ「調べてみろ……とても可愛い花で、きっと気に入るだろう」

真・ラウラ「……そ、そうか」/// カアッ

ラウラ「行動する時は迅速さも重要だが、熟考する事も大事だ」

ラウラ「その上で判断する事をお推めする」

ラウラ「…… 一夏の事は、特に、な」

真・ラウラ「…………」

ラウラ「……もう、行くがいい」

真・ラウラ「……ありがとう」 ヒュン


ラウラ(…………)

ラウラ(一夏…… 一夏………… 一夏っ!) ポロポロ


セシリア「……本当に鏡を見ている様ですわね」

真・セシリア「それは……お互い様ですわ」

セシリア「いきなり発砲して……ごめんなさい」

真・セシリア「……もう、いいですわ」

セシリア「…………」

セシリア「あなたは、料理は出来まして?」

真・セシリア「……もちろんですわ」

セシリア「その様子だと……自分の料理の味見をしてない様ですわね」 ハア…

真・セシリア「そ、それが何ですの!?」


セシリア「一度、自分の作った料理を食べてみなさい」

セシリア「それを一夏さんに食べさせていたかと思うと」

セシリア「とてつもない自己嫌悪に囚われますから」

真・セシリア「な、なぜ、その様な事をあなたに言われなくては なりませんの!?」

セシリア「一夏さんに聞かされたからです」

真・セシリア「なばっ!?」

セシリア「ふふ、でも」

真・セシリア「……?」

セシリア「それ以外は……綺麗な金髪に抜群のスタイルで」

真・セシリア「!!?」/// カアッ

セシリア「丁寧な口調の美人だと……おっしゃっておられましたわ」

真・セシリア「……あ……う……」/// カアアアッ

セシリア「そして、棘の無いバラ……とも」

真・セシリア「い、一夏さんったら……」///


セシリア「淑女として殿方に尽くすのも大事ですけど」

セシリア「もっと自分をさらけ出してみて下さい。 一夏さんは……きっと」

セシリア「あなたのどんな醜い部分も受け入れてくれますわ……」

真・セシリア「…………」

セシリア「さあ……もう お行きなさい」

真・セシリア「……ごめんなさい」 ヒュン


セシリア(…………)

セシリア(…… 一夏さん、…… 一夏さんっ!) ポロポロ


シャル「ありがとう、通信機を使わせてくれて」

真・シャル「ううん……ボクの方こそ戦いを止めてくれて、ありがとうだよ」

シャル「リヴァイブ……懐かしいな。 やっぱり いい機体だね」

真・シャル「……キミはどうして専用機に乗ってないの?」

シャル「簡単に言うと……マイナスの……こっちの一夏のせい」

シャル「詳しくは一夏に聞いてみて」

シャル「もっとも……あんまり気持ちのいい話じゃないけどね」

真・シャル「…………」


シャル「一夏がボクを『シャル』って呼ぶの、ビックリした」

シャル「みんながね、『向こうのボクと特別な関係』だったんじゃないかって……」

真・シャル「……ボクは、そうありたいんだけどね」

シャル「うん、知ってる。 一夏から聞いたから」 クスッ

シャル「…………」

シャル「キミの事、一人で何もかも抱え込んで、危なっかしくて」

シャル「支えたくなるって言ってた」

真・シャル「……えっ!?」

シャル「本当に健気で、儚そうで、それでいて一本筋が通っていて……」

シャル「コスモスの花みたいだ、ともね」 クスッ

シャル「そして、キミの笑顔が可愛いって……」

真・シャル「も、もう! 一夏ったら……」///


シャル「でも……キミは、一夏の事をちゃんと見ているのかな?」

真・シャル「……!?」

シャル「一夏に寄りかかるだけじゃ……いつか、一夏は倒れるかも」

真・シャル「…………」

シャル「支えあう関係が一番望ましいんだけどね……」

シャル「どうするかはキミしだい、だよ?」

真・シャル「…………」

シャル「……さ、もう行って。 キミの世界に」

真・シャル「……うん、ボク……頑張ってみるから」 ヒュン


シャル(…………)

シャル(……痛い……痛いよ、一夏ぁ) ポロポロ


IS学園・上空


真・箒「一夏の奴……」

真・鈴「どこまで罪作りなのかしら……」

真・セシリア「……心が痛みますわ」

真・ラウラ「だが一夏への想いは……」

真・シャル「ボク達だって……譲れない」




     虚空の中に突如として現れる穴……

     異世界の箒の腕に抱かれた一夏と「さよなら」という言葉と共に

     向こうの世界の自分達は、帰って行った……



箒「!! 一夏……」

鈴「…… 一夏ぁ」

セシリア「…………うぐっ…… 一夏さん」

ラウラ「一夏……」

シャル「…… 一夏」


箒「うっ……あ……………… 一夏、一夏ぁ……」

箒「ああああああああああああああああああっ……!」


鈴「うっ……っ………………うああああああああ」

鈴「ああああああああああああああああああああっ!」


セシリア「ひぐっ…………っ…………」

セシリア「一夏さ……ああああああああああっ!!」


ラウラ「……一夏、一夏………… 一夏…… 一夏ぁ」

ラウラ「うああああああああああああああああああっ!」


シャル「一夏ぁ…………っ…………ひぐっ………」

シャル「一夏ぁあああああああああああああっ!」


束「…………」




     こうして……俺は無事に元の世界へと帰還できた。

     目が覚めると、全てが終わった後だったが。



     不思議なもので、帰って来たという実感があまり沸かない。

     気を失ったままで帰ったから

     元の世界と瓜二つで見分けが付かないから

     ……理由付けをすれば、そんなところだろう。






     …………

     いや……多分そうじゃない。

     向こうで過ごした毎日は、酷い事の方が多かったけど

     いい事もあった。

     向こうのみんなと別れを済ませられなかったから……

     あまりにも突然の別れで

     俺自身の区切りが付けられていないのだと思う。

     向こうの世界のみんなは、どうしているのだろうか……





―――――――――――


元の世界・春休み

IS学園・屋上


一夏「もうすぐ新学期か……」

一夏「今だに帰ってきた実感が薄いな」


鈴「聞き捨てならないわね。 向こうにずっと居たかったって言うの?」

セシリア「その通りですわ! わたくし達が どんな思いで居た事か……」

箒「向こうの私達との逢瀬が忘れられないと?」

ラウラ「どうやら、私の嫁としての自覚を教えてやらねばならん様だな」

シャル「ふーん。 そういうこと言っちゃうんだ……」

一夏「今、もの凄く実感した。 うん」


鈴「……大変だったのはわかるけどさ」

鈴「こっちだって、いろいろ大変だったんだから……」

一夏「……だろうな。 しかし、よくマイナスを見抜けたな?」

ラウラ「お、思い出したくもないが……あいつの気持ち悪さは」

ラウラ「尋常じゃなかったからな……」

ラウラ(一夏だと思っていつも通り裸でベッドに入ったら、体中なめ回されて……うう)


鈴「ま、ラウラのおかげで結構 早い段階でマイナスを見抜けたのは」

鈴「ラッキーだったわね」

セシリア「その後は篠ノ之博士が一夏さんを探す研究を始めましたわ」

セシリア「座標がどうの……とかで、形になるまで半年以上かかってしまいましたが……」

箒「だがやっとプロトタイプが出来た時、マイナスに強奪されてな」

箒「万全を期して我々のISに搭載されるのを待っていたら」

箒「時間を食ってしまった……」

シャル「篠ノ之博士も不眠不休で頑張ってくれたんだよ?」


一夏「そうだったのか……何にしてもみんな無事で良かった」

一夏「向こうでみんなの事は心配していたけど……」

一夏「帰る事が出来ないと思って、あっちで生きる覚悟をしていた」


箒「向こうの私達は……どうだった?」

シャル「……ボクは聞きたい様な……そうでもない様な」

ラウラ「私も……」

一夏「じゃあ、シャルとラウラの事は話さないで……」

シャル・ラウラ「それはそれで嫌!」

―――――――――――
事情説明中……
―――――――――――

一夏「――という感じだった」

セシリア「……全員……マイナスに」

鈴「……そう、だったの」

箒「……マイナスめ、もっと殴っておけば良かった」

シャル(……あの時……向こうのボクは、どんな気持ちだったんだろう……)

ラウラ(向こうの私……あの言葉の重み。 今、理解した……)


一夏「…………」

一夏「今頃、向こうのみんなは どうしているかな……」

一夏「…………」

一夏「……笑ってすごしていると、いいな……」



???「一夏!」



一夏「……えっ!?」

※ここでIS一期OPをBGMにするといいかもです。


箒「……おい」

鈴「……ウソでしょ」

セシリア「……どうしてあなた達が」

シャル「……ここにいるの」

ラウラ「……まさか」



異・シャル「会いたかったよ! 一夏!」 抱きっ



ヒロインズ「!!」




一夏「!? お、おいシャ……いや、向こうのシャル!?」

異・セシリア「ちょっと! シャルロットさん! 抜け駆けは許しませんわ!」 抱きっ

異・箒「くっ! 負けてたまるか!」 ギュムッ

異・ラウラ「一夏!」 抱きっ

異・鈴「あーもう!! 出遅れたっ!」 ギュッ




ヒロインズ「!!!!!!!!!」




一夏「く、苦しいっ……」


鈴「い、いきなり何してんのよ! あんた達!?」

異・鈴「んー? 一夏分の補給?」 スリスリ


箒「と、ともかく、離れろ!」

異・箒「断る!」 フフン


ラウラ「なぜ、どうやって ここに来たんだ!?」

異・ラウラ「篠ノ之博士は私達の世界にもいるからな」


セシリア「にしたって、早すぎですわ!!」

異・セシリア「あなた達の機体をスキャニングして解析したそうですわ」


シャル「一夏の事は あきらめたんじゃなかったの!?」

異・シャル「ん? 確かにボク達、励ましはしたけど……」








異・ヒロインズ「『あきらめる』なんて言ってない」 デスワ






ヒロインズ「!!!!!!!!!」






一夏(…………)

一夏(この空気……)

一夏(やばい!!)


箒「………… 一夏ぁ」 ゴゴゴ……

鈴「………… 一夏」 ゴゴゴ……

セシリア「一夏さぁん……」 ゴゴゴ……

シャル「一夏…………」 ゴゴゴ……

ラウラ「嫁ぇ…………」 ゴゴゴ……



一夏「ひいいっ……!!!」 ダッ!




異・シャル「あっ! 待ってよ! 一夏!」 ダッ

異・ラウラ「私からは逃げられないぞ?」 ダッ

異・箒「一夏!」 ダッ

異・鈴「待ちなさーい!」 ダッ

異・セシリア「一夏さ~ん」 ダッ


ヒロインズ「……負けるかー!!」 デスワー!!




一夏「わあああああああああああっ!!」







     ……結局、向こうの世界の5人は

     ほぼ毎日こちらの世界に来て俺のまわりにいる。

     そして今まで以上にピリピリするこっちの世界の5人……ううっ



     マイナスは、あの一件からISを起動出来なくなったとか。

     価値を無くしたマイナスは、怪我も治らないまま学園を退学させられたらしい。






     そして向こうの千冬姉は、マイナスと共に姿を消そうとしたが

     束さんや箒たち、学園の生徒に学園関係者の人からも止められ

     思いとどまったようだ。



     マイナスのその後は、というと……

     向こうの千冬姉が言うには、束さんの作った更生施設

     (拘束……と言いよどんだ気もする)に入れられたそうで

     脱出は千冬姉の力を持ってしても相当困難らしい。



     まあ、そのおかげで向こうの千冬姉は 安心して仕事を続けられているのだが

     少しだけ(本当に少し)マイナスが哀れに思えた……





―――――――――――







     新学期









異・シャル「いーちか!」

異・シャル「今日のお昼は、ボクが作ったお弁当を……」

シャル「ボクとだよね!?」

シャル「っていうか、どうしてこうやる事なす事、同じになるの!?」

異・シャル「そんなこと言われても……」

     タッ タッ タッ

セシリア「見つけましたわ! 一夏さん!」

異・セシリア「わたくしの方が先に見つけましてよ!?」


ラウラ「ええい! とにかく私と一緒に来るんだ、嫁よ!」

異・ラウラ「この隙に……!」


鈴「させないわよ!?」

異・鈴「とぉーりゃー!!」










     今日も俺のまわりは賑やかだ。










箒「ええい! 止めないか、みんな!」

異・箒「一夏も戸惑っているぞ!?」


鈴「なによ、箒s。 自分だけいい子ですよーってアピール?」

異・鈴「それってずるいわよね?」


箒「そ、そんなつもりあるか!」

異・箒「そ、そうだとも!」


シャル「顔に出すぎだよ……箒s」

異・シャル「だよねー」


セシリア「ささ、一夏さん!」

異・セシリア「わたくしとお昼を!」











     正直……鬱陶しく思う時もある。











ラウラ「……?」

異・ラウラ「一夏、どうしたのだ?」


セシリア「え? 一夏さん?」

異・セシリア「ど、どうかしましたか?」


シャル「一夏?」

異・シャル「き、気にさわっちゃった……とか?」


箒「そ、それなら謝る」

異・箒「許して欲しい……」


鈴「こ、こんなの、いつもの事……でしょ?」

異・鈴「……黙ってないで、何とか言いなさいよ」











     でも、そんな時は向こうで一人だった事を思い出すようにしている。

     そうすれば今が、どれだけ幸せか分かるからだ。











一夏「…………」

一夏「……ふふっ」



両ヒロインズ「!?」 ビクッ



一夏「ああ、ごめんみんな」

一夏「聞いてなかった訳じゃないんだ」

一夏「ええと、お昼だよな?」

一夏「いつも通り みんなで食おうぜ!」



両ヒロインズ「ホッ……」



一夏「それから、な……」











一夏「みんな……いつもありがとうな」 ニコッ










     おしまい

という事でおしまいです。 ラストは少し変えました。
最初に書いたやつは、投下しそこねたりした部分もあって
直したのを投下したいなーとずっと思っていました。
あースッキリ。
改めて読んでくれた方、ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月26日 (木) 02:58:35   ID: LyEETv10

凄くよかった
久々に面白いssを見たわ

2 :  SS好きの774さん   2015年03月31日 (火) 18:19:03   ID: swuT8yZ-

ハッピーエンドが見れて良かった。
面白かったです。

3 :  SS好きの774さん   2015年04月26日 (日) 09:19:39   ID: mp0qLN11

面白かった。が……
ささやかなツッコミを入れると、異世界のシャルは
専用機を持っていないのにどうやって行き来してるのだろう……
まあ、そこまで言うのは無粋か。
束が何とかしたと解釈しておこう。うん。

4 :  SS好きの774さん   2015年06月17日 (水) 11:39:25   ID: w_HfgYyn

あの絶望的な始まりの風呂敷を良く畳めたと感嘆する。
良いSSだったよ本当に。

5 :  SS好きの774さん   2015年08月19日 (水) 23:38:25   ID: 7WLuALdW

何度か見にきてるけど、ISのSSの中でも本当いいSS

6 :  SS好きの774さん   2015年09月05日 (土) 17:32:27   ID: LYsqYsaX

メチャクチャ良いssで後半泣きそうになった

7 :  SS好きの774さん   2016年11月18日 (金) 01:00:10   ID: 0ypQsQHS

良いやん!これ見て泣いたわ!

8 :  SS好きの774さん   2017年11月17日 (金) 19:28:44   ID: veVx_S5E

ISのSSの中でも群を抜いての傑作だわ…
この作者のSSもっと読みたいわ

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