宮森「矢野さんに監禁されてこれで一週間か」 (42)


 宮森(美味しくないご飯)

 宮森(窓のない部屋)

 宮森(鉄格子は頑丈でどんなに揺すってもびくともしない)

 宮森(アニメも見えないし、つくれないし)

 宮森(これじゃ生きている意味なんてないよ)


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 矢野「人聞きの悪いこと言わないでよ」

 宮森「矢野さん! 早くここから出してください!」

 矢野「だからそれはできないんだって」

 矢野「宮森は思想警察に目をつけられてるんだから」

 矢野「あいつらは宮森を処刑したくて処刑したくてうずうずしてる」

 矢野「だから守るためにわざわざ孤島の刑務所に拘置してるの」


 宮森「それはわかってます。わかってますけど」

 宮森「でも、わたしにはアニメのない生活なんて耐えられません」

 宮森「お願いですから、アニメを作らせてください」

 矢野「いい加減にして!」

 矢野「口を開けばアニメ、アニメ、アニメって」

 矢野「それがどんなに危険なことかあんたちゃんとわかってる?」


 矢野「アニメはもう作れないの。お願いだから大人しくしてて」

 宮森「でも、わたしは」

 矢野「宮森」

 矢野「お願いだから」

 矢野「わたしは、宮森まで失いたくないの」

 矢野「わかってよ」

 宮森「…………」


 宮森(児童ポルノ法の改正を皮切りに)

 宮森(国はどんどん物語への規制を強めた)

 宮森(首相は少数独裁性集産主義を推し進め)

 宮森(自身の独裁の妨げになるすべてのものを強硬に弾圧した)

 宮森(小説も映画も漫画も音楽も)

 宮森(あらゆる物語的文脈を持ったすばらしいものが失われた)

 宮森(…………)

 宮森(アニメもその例外ではなかった)


 宮森(わたしたちは弾圧に立ち向かった)

 宮森(自分たちが信じるいいものを作って、人々に届けようと奮闘した)

 宮森(わたしたちががんばることでだれかの人生を少しでもよくできたらって思った)

 宮森(そして、いつの日か、国もアニメを認めてくれると)

 宮森(そう純粋に信じていた)

 宮森(でも、ダメだった)

 宮森(どんなに抵抗しても、抵抗しても)

 宮森(世界を変えることはできなかった)


 宮森(丸川社長が死んだ。渡辺さんが死んだ)

 宮森(木下監督が死んだ。山田さんが死んだ。円さんが死んだ)

 宮森(小笠原さんが死んだ。井口さんが死んだ。杉江さんが死んだ。遠藤さんが死んだ。瀬川さんが死んだ)

 宮森(みんな、みんな死んでしまった)

 宮森(殺された……処刑されてしまった)

 宮森(思想警察に)


 絵麻「矢野さんの言うとおりだよ。おいちゃん、アニメはあきらめよ?)

 宮森「でも……」

 絵麻「たしかにあきらめきれない気持ちはわかるよ」

 絵麻「わたしだって同じ気持ち。たくさんの人が作ってきたアニメって文化を」

 絵麻「国なんかのせいで台無しにされたくないって思ってる」

 絵麻「でも、もうどうしようもないよ」

 絵麻「アニメはあきらめて、プロレとして生きよ?」

 絵麻「きっと、みんな許してくれるよ。わたしたちはよくがんばったって」


 宮森(絵麻はわたしと同じ独房に収容されている)

 宮森(罪状はわたしと同じ国家反逆罪。期間とか細かいとこはまだ決まっていない)

 宮森(矢野さんがうまく手を回してくれたのだ)

 宮森(他の三人はどうしてるかって?)

 宮森(……多分、あなたが想像したとおりだと思う)


 宮森「実はさ。わたし白箱持ってるんだ」

 絵麻「白箱ってまさか……」

 宮森「そう。わたしたちが最後に作ったアニメの白箱」

 宮森「渡辺さんから託されたの」

 宮森「『世界を変えられるかもしれないアニメ』の白箱を」


 宮森「この孤島の西端に電波塔があるでしょ」

 宮森「そこをジャックして『世界を変えられるかもしれないアニメ』を放送したらどうかな?」

 宮森「みんな目が覚めて、またアニメのある世界が戻ってくるかも」

 絵麻「…………」

 絵麻「おいちゃん。お願いだからアニメはあきらめて」

 宮森「でも、みんなが命をかけて作ったものなんだよ」

 宮森「放送しないと。誰かに届けないと。きっと、みんな浮かばれない」

 絵麻「気持ちはわかるよ。でも、でもさ」

 絵麻「もうおいちゃんは十分がんばったよ」

 絵麻「わたしはおいちゃんまで失いたくないの」

 絵麻「だから。だから、お願い」

 宮森「…………」


 ミムジー「アニメをあきらめるなんてありえない」

 ミムジー「そんなの息するなって言ってるようなものじゃない」

 ロロ「でも絵麻さんの言うことも正しいよ」

 ロロ「放送したところで世界を変えられるかはわからないわけだし」

 ロロ「どちらにしたって僕らはまちがいなく殺されちゃうんだよ」

 ミムジー「でも、あきらめるなんていや! 絶対いや!」

 宮森「まあまあ、ミムジー。そんなに怒らないで」

 絵麻「…………」


 絵麻「おいちゃん。さっきから誰と話してるの?」

 宮森「誰ってミムジーとロロだけど」

 宮森「ほら、いるでしょ、そこ」

 絵麻「…………」

 絵麻「そうだね。たしかにいるね」

 宮森「でしょ。変な絵麻」


 宮森(ミムジーとロロもわたしと同じ罪状で捕まっている)

 宮森(それもきっと矢野さんが手を回してくれたのだろう)

 宮森(矢野さんはとってもやさしくて)

 宮森(正しい人)

 宮森(…………)

 宮森(だから、わたしに絶対ドーナツをくれない)


 宮森「はぁ……はぁ……はぁ……」

 絵麻「おいちゃん、大丈夫?」

 宮森「うん。いつものことだから」

 宮森「見苦しいかもしれないけど、ちょっとの間放っておいて」

 絵麻「うん……」

 宮森「ドーナツ……」

 宮森「ドーナツ、ドーナツ……」

 宮森「ドーナツドーナツドーナツドーナツドーナツ」


 宮森(わたしは冷たい床にからだをこすりつけて)

 宮森(芋虫みたいにうねうねとうなった)

 宮森(呼吸ができなかった)

 宮森(吸っても吸っても息苦しい)

 宮森(ドーナツさえ)

 宮森(ドーナツさえあれば)

 宮森(…………)

 宮森(そのためにはきっと人だって殺してしまうだろう)


 宮森(気がついたとき、床にくの字に寝ていたわたしの背中を)

 宮森(絵麻がずっとさすってくれていた)

 宮森(ありがとう、となんとか言った)

 宮森(やさしさがうれしかった。自分が情けなかった)

 宮森(わたしは声をあげて泣いた)


 宮森(どうしてわたしが残ったのだろう)

 宮森(ずかちゃんやみーちゃんやりーちゃんじゃなくて)

 宮森(どうしてわたしが)

 宮森(わたしはこんなにも弱くてどうしようもないのに)

 宮森(…………)

 宮森(不意に理解した)

 宮森(そうか。そのためにわたしは生きているのだ)



 宮森(草木も眠る午前二時)

 宮森(わたしは独房から抜けだし、電波塔を目指した)


 絵麻「おいちゃん、やっぱり行くんだね」

 宮森「絵麻……」

 絵麻「いいよ。わたしはもう止めない。その代わり)

 絵麻「わたしも一緒に連れて行って」

 宮森「ダメだよ、絵麻。着いてきたら絶対殺される。絵麻まで死ぬことないよ」


 絵麻「いいの。わたしも」

 絵麻「アニメのない世界なんてもうたくさん」

 絵麻「一緒に世界を変えさせて」

 宮森「……わかった」


 ミムジー「そうよ。そうこなくっちゃ」

 ロロ「僕はちょっと怖いけど」

 ミムジー「じゃあ引き返したら?」

 ロロ「イヤだよ。僕だってやるときはやるんだ」

 宮森「みんな……」

 宮森「よし、みんなでいざ、電波塔だ!」



 矢野「宮森。絶対やめろって言ったよね」


 宮森「矢野さん……」

 矢野「さすがにそれを放送されたとなると」

 矢野「もう宮森を庇うことはできない」

 矢野「思想警察はどんな手を使ってでも宮森を消すよ」

 宮森「矢野さん、ごめんなさい」

 宮森「でも、アニメのない人生なんて考えられないんです」

 宮森「わたしは世界を変えます」

 宮森「どうか」

 宮森「どうか、行かせてもらえませんか」

 矢野「…………」

 矢野「そっか」


 矢野「いいよ。いきな」

 宮森「矢野さん……」

 矢野「わたしもアニメがない世界なんて大嫌いだから」

 矢野「大丈夫。宮森は間違ってない。それはわたしが保証する」

 矢野「だから、振り返っちゃダメだよ」

 宮森「……本当に」

 宮森「本当に今までありがとうございました!」


 宮森(みんなが残してくれた白箱)

 宮森(この、『世界を変えられるかもしれないアニメ』で)

 宮森(わたしは……、わたしは、世界を変えるんだ!)

 宮森(心臓が早鐘を打っていた)

 宮森(このアニメできっと世界を変えられる)



 絵麻「……嘘」

 宮森(絵麻が言ったのは島の西端に着いたときだった)


 絵麻「お、おいちゃん、おいちゃん」

 宮森「どうしたの、絵麻」

 絵麻「ないの。電波塔がどこにも」

 宮森「そんな……」



 白衣の男性「ダメじゃないか、宮森さん。また勝手に抜け出して」


 宮森「あの、電波塔は」

 宮森「電波塔はどこですか?」

 白衣の男性「電波塔? 何を言っているのかわからないが」

 白衣の男性「ここにはそんなものないよ」

 宮森「そんな……」

 宮森「あるはずなんです。この白箱で世界を変えないと――」



 宮森「あれ?」

 宮森「ない。白箱が、どこにも」


 絵麻「そんな。落としちゃったのかな」

 宮森「そんなわけないよ。ぎゅっと握りしめてたから」

 宮森「さっきまでたしかにあったのに」

 宮森「先生、CDケースがどこかに落ちてませんでしたか?」

 白衣の男性「宮森さん。そんなものはないんだ」


 宮森「そんなはずは、そんな」

 宮森「ねえ、絵麻だってわたしが持ってたの知ってるでしょ?」

 絵麻「そうです、先生。おいちゃんは確かに持ってたんです」

 絵麻「だから、どこかに必ずあるはずで」

 宮森「先生も一緒に探してください。早く来ないと思想警察が来ちゃいます」

 白衣の男性「宮森さん」

 白衣の男性「さっきから誰と会話してるんだろう?」

 白衣の男性「わたしには、君以外に誰も見えないんだが」


 宮森「…………」

 宮森「…………」

 宮森「…………」

 宮森「…………」

 宮森「え?」


 おわり

以上。
感想もらえるとうれしい。

何がしたかったのん?

>>32
好き勝手やってみたかった。
今は反省している。

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