インデックス「…?(ヨメヤ…ソラキ…?知らない人なんだよ…)」 (179)

以前落としてしまった同タイトルの続きです。

前スレ
インデックス「…?(ヨメヤ…ソラキ…?知らない人なんだよ…)」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1366839981/)

(注釈)
・禁書のSSです
・オリキャラメインです。勝手に設定した能力者が出ます。
・原作は読んでません。細かい設定はよくわかりません。
・超電磁砲の漫画は8巻まで読みました。
・アニメは全話見ました。超電磁砲Sは視聴中です。
・キャラが崩壊してるかも知れませんがご容赦を。

前々スレ:絶対反論(マジレス)こと詠矢空希(ヨメヤ ソラキ)は落ちていた
絶対反論(マジレス)こと詠矢空希(ヨメヤ ソラキ)は落ちていた。 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1325603888/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1426867785

こんばんわ1です。
ようやく書きあがりました。前スレの最終話を投下します。

(とある空港)

ステイル「じゃあ、そろそろ時間だね」

インデックス「お見送りありがとうなんだよ!」

上条「いやいや、どういたしまして」

御坂「また遊びに来なさいよ?」

事件の事後処理もようやく終わった数日後、ステイルとインデックスの帰国する日が来ていた。

見送りに来た二人と、手荷物検査場の前で別れを惜しんでいる。

インデックス「んと…」

インデックスは辺りを見回す。

インデックス「二人だけ、なんだね」

上条「ああ…」

インデックス「じゃあ、そらきは…」

御坂「まだ、無理みたい…」

上条「体のほうはもう大丈夫なんだけど」

上条「心の方が、まだ安定しないみたいなんだ」

インデックス「そうなんだ…」

4人はそれぞれに目を伏せる。

ステイル「事故とは言え、人一人を殺めてしまったんだ」

ステイル「無理も無いだろう」

インデックスが一人顔を上げた。

インデックス「わたしがいけないんだよ」

インデックス「わたしがもっと早く、そらきの考えに気づいていれば」

インデックス「止められたかもしれないんだよ」

ステイル「いや、インデックス」

ステイル「あの状況では、彼の取った方法でなければ」

ステイル「敵を止めることは出来なかっただろう」

上条「俺もそう思う」

上条「魔術も能力も、すべての力が奪われたあの状況で」

上条「あいつは最後まで諦めずに考え抜いて、あの答にたどり着いたんだ」

御坂「でも、そのせいで、詠矢さんは…」

インデックス「そらきは…誰かが背負わなければいけなかった罪を」

インデックス「一人で引き受けてしまったんだよ」

インデックスのその言葉に、4人は再び沈黙に落ちる。

ステイル「回復は見込めないのだろうか…」

上条「何度か見舞いに行ったんだけど」

上条「俺たちの言葉は、アイツには届いてないみたいでさ」

御坂「受け答えぐらいはなんとかしてくれるんだけどね…」

インデックス「そう・・・なんだ」

言葉を詰まらせるインデックス。

だが、彼女はすぐに顔を上げ、まるで自らを奮い立たせるように、周囲に強い目線を向けた。

インデックス「きっと、きっと大丈夫なんだよ!」

インデックス「そらきなら、きっと今でも考えてるはず」

インデックス「どうやったら戻れるかって」

インデックス「みんなのところに戻れるかって、きっと!」

上条「・・・そうだな。インデックス」

御坂「そうね、詠矢さんならね」

御坂「それと・・・さ」

上条「ああ、詠矢のことはあいつに頼んである」

インデックス「え?あいつって・・・」

御坂「たぶん、詠矢さんの気持ちをわかってあげられるのは」

御坂「アイツだけだと・・・思う」

インデックス「・・・?」

ステイル「あ、すまない、もう出発の時間だ」

ステイルは慌てて時計を確認する。

上条「そっか、いよいよお別れだな」

インデックス「また絶対、絶対みんなに会いに来るんだよ!」

インデックス「もちろん、そらきにも!」

上条「ああ、そうだな」

御坂「うん。絶対、約束よ?」

ステイル「彼には僕からも、よろしく伝えてくれ」

ステイル「では行こう、インデックス」

インデックス「じゃあ、またなんだよ!」

エスカレータの向こうに消えていく二人の姿を、上条と御坂は手を振って見送った。

(とある病院 病室)

 詠矢は一人、ベットの上に佇んでいた。

その視線は天上に向けられているが、何を見るでもなくただ虚空に注がれている。

目の下には大きなくまが浮かび、その表情からは生気が消えうせていた。

あれだけ饒舌だった自慢の口も、今はただ薄く開かれるのみで動く気配すら見せない。

詠矢「・・・」

眠い、と詠矢は思う。

睡魔は絶え間なく襲ってくる、だが目を閉じればあの光景がよみがえり、まぶたの裏は真っ赤に染まる。

寝ようと思っても眠れない。何度も強制的な覚醒を繰り返すうち、いつしか体のほうが寝ることを拒絶してしまったようだ。

今はいつの、何時なんだろう。既に時間の感覚は失っている。何とか情報を得ようと窓の明かりを見る。

日が差している。どうやら日中のようだ。だがそこで思考は止まる。

詠矢「・・・」

全ては上手く行った筈だった。相手は自分の能力を知らない。だから幻想殺しを増幅してくとは思いもしなかったろう。

その考えは見事的中し、敵に一瞬の隙を作ることに成功した。

詠矢「まさか・・・死ぬ・・・とわ・・・な」

自分には、どこか考えの及ばない所がある。今回はその足りない部分が、最悪の結果をもたらしたのだ。

結局は自分のせいだ。だが自省したところで心が癒えるわけでもない。

詠矢「・・・」

結局、出口は見出せない。再び虚無が訪れる。何も無い時間がただ流れる。

??「おい」

誰かが、虚無を切り裂いた。

詠矢は驚いて起き上がると、声の方向に振り返る。

詠矢「・・・!」

詠矢の目に、今の自分に匹敵するような青白い肌がうつる。

一方「なンだかボーっとしてやがったから、勝手に入ってきたぜ」

いつからいたのだろうか、その人物はまったく気配を感じさせぬままベット脇の椅子に腰掛けていた。

詠矢「い、一位・・・サン・・・」

全く予期せぬ人物に、詠矢の思考がわずかに動き出す。おぼつかない動きで眼鏡を取り、顔にかけた。

一方「ケッ、テメエはそれがネエと誰だがわかンねえな」

一方「部屋間違えたかと思ったぜ」

詠矢「・・・そう・・・か・・・な」

眼鏡の位置を直しつつ、詠矢は答えた。

詠矢「第一位・・・サン、なんで・・・ここに」

一方「ちょいとメンドくせえ奴らに頼まれちまってナ」

そう言いながら、一方通行は詠矢の全身をじろりと眺める。

その視線が顔に達し、詠矢と目が合った直後、派手に舌を鳴らす。

一方「更に磨きのかかったシケたツラだな」

一方「たかだが一人殺っちまったぐれえで、そのザマか?」

詠矢「・・・!」

詠矢「どうして・・・それを」

一方「世の中にはナァ、どうでもいい情報を無理やり押し付けてくるアホがいるんだよ」

詠矢「それは・・・」

その人物が誰かは、詠矢にも察しが付いた。だが、なぜかそれを口に出すことが出来なかった。

詠矢「でも、どうして一位サンに・・・」

それは当然の疑問だった。自分にはさして親しくもない一方通行をここに呼んだ理由が、詠矢にはわからなかった。

一方「さあて・・・な」

一方「人殺しの気持ちは人殺しにしかわからねえ・・・まあそんなところだろうぜ」

詠矢「・・・!!」

詠矢「一位・・・サンが…?」

一方「テメエとは文字通りケタが違うがな」

詠矢「・・・」

何があったのか。当然のごとく興味が沸くが、詠矢にはそれを問うことも出来ない。

一方「・・・」

押し黙る詠矢をじろりと睨むと、一方通行は軽く息を吐いて後頭部に両手を重ねる。

一方「で・・・オマエはそのままグダグダやってるつもりなのか?」

詠矢「・・・」

詠矢「っても・・・俺には、どうしようも・・・」

一方「まあ、何でも慣れだからナ」

一方「あと何人か殺してみたらどうだ?」

詠矢「・・・無茶言わんで下さいよ」

一方「やってりゃそのうち楽しくなってくるゼ」

詠矢「楽しい…って」

一方「人殺しなんて、簡単なモンだ」

一方「あんなもん、俺にとっちゃ単なる『作業』で『娯楽』だったナ」

詠矢「・・・」

詠矢「・・・はは」

詠矢「やっぱ・・・違うな。一位サンは」

一方「・・・ああ、違う。俺とオマエはな。だから・・・」

一方「たかだか一人間違えて殺っちまったぐれえで」

一方「加害者ヅラしてこっちに落ちて来んじゃねえよ鬱陶しい」

一方「目障りなンだよ・・・」

詠矢「・・・!」

詠矢「・・・そっか、俺なんか」

詠矢「ぜんぜん、まだまだ・・・か」

そう呟くと詠矢は目を伏せる。その表情には僅かな安堵が浮かんでいた。

詠矢「一位サン・・・ありがとう」

一方「はァ?何だソノ礼は?」

一方「自分よりひでえクズがいることを教えてくれてありがとうってか?」

一方「やメろ、胸糞わりィ」

詠矢「・・・」

詠矢「そっか、そだな・・・」

一瞬変わった詠矢の表情を、一方通行はじろりと見る。

一方「少しはマシなツラになったな」

詠矢「え?」

一方「よっ・・・」

一方通行はゆるりと立ち上がる。

一方「邪魔したな」

詠矢「一位サン・・・」

詠矢「・・・じゃあ、また」

一方「また?・・・次はねえぞ」

詠矢「いや、またどっかで会うよ。そんな気がする」

一方「・・・勝手に言ってろ」

そのまま、名残惜しむことなく一方通行は病室を出て行った。

詠矢「…」

また一人になった詠矢。意味も無く手の平を見る。

詠矢「(なんかちょっと、吹っ切れたかな)」

詠矢「(みんなに感謝、だな)」

心なしか、体が軽くなったように感じられる。詠矢はそのまま体を横たえた。

詠矢「(もっと強くなんねえとな・・・もっと・・・)」

詠矢「ねむ・・・」

自然とまぶたが落ちる。そして詠矢はそのまま、深い眠りに落ちた。

再び、絶対反論(マジレス)の詠矢空希として、目覚めるために。

以上となります。

長い間お待たせして申し訳ありませんでした。

蛇足です

※真々田の式神・傀儡解説
ガゼット:元ネタはアニメ「特装機兵ドルバック」に登場するメカの名前。ヘリコプターから人型に変形する偵察用の式神。別の式札を装備することによって攻撃にも利用可能。
クシャトリヤ:元ネタはアニメ「機動戦士ガンダムUC」に登場するモビルスーツの名前。背中に書き込んだ術を、増幅・拡散して打ち出すことが出来る。緑色の長い髪を持ち、髪と同じ色のドレスに身を包んだ少女。

乙乙!!
続編待ってるぞ!

>>16
ありがとうございます。

短編一本分のネタはあるので、まだ続きます。

こんにちわ、1です。
続きが書きあがりましたので投下します。

(注釈)
・禁書のSSです
・オリキャラメインです。勝手に設定した能力者が出ます。
・原作は読んでません。細かい設定はよくわかりません。
・超電磁砲の漫画は10巻まで読みました。
・アニメは禁書目録、超電電砲双方とも全話見ました。
・キャラが崩壊してるかも知れませんがご容赦を。

※佐天の体型はアニメ準規です。

(とある室内プール)

土御門「いやはや」

上条「いい天気だねえ」

詠矢「室内だからあんまり関係ねえけどな」

青ピ「例え窓の外でも、空は青い方がええでぇ」

更衣室から出てきた四人は、思い思いの水着を身につけ、横一直線に並んでいた。

詠矢「いやー、感慨深いね」

上条「なにがだ?」

詠矢「だってさあ、中学生の女の子とプールなんてさ」

詠矢「夢のような展開ですよ」

上条「まあ、そういう言い方すればそうか」

詠矢「これは紛れも無い事実なのですよ」

上条「・・・うん」

詠矢「どした?」

上条「すっかり元気になったみたいだな」

詠矢「まあ、なんとかね」

詠矢「心配かけたかな」

上条「そりゃな、心配ぐらいさせてくれよ」

詠矢「そっか、ありがとな」

青ピ「上条くーん、ちゃんと紹介してくれやぁ!」

上条「うおっ!」

詠矢「おわっ!」

長身に青髪の男が、二人の背後からのしかかり肩に腕を回す。

上条「あ、えーっと。会うの初めてだっけか」

詠矢「いやいや、お顔は何度か拝見してますぜ」

青ピ「そら会った事は何度かあるけどやあ」

詠矢「ちゃんと話したことはなかったかな」

詠矢「んじゃあ、改めまして。俺は詠矢空希ってもんだ、よろしくなー」

青ピ「僕は青髪ピアスっちゅうんや。よろしゅうにー」

詠矢「青髪・・・ピアス・・・って」

詠矢「なんちゅうか、名は体を表すというか、体が名になってるというか」

青ピ「覚えやすくてええやろ?」

詠矢「・・・そらそうだけど」

土御門「まあヨメやん、細かいことは言いっこ無しだぜい」

詠矢「まあ、そういうもんかねえ」

突っ込みどころを押さえ、詠矢は事態を丸呑みした。

青ピ「いやーそれはそうと、今日はお招きありがとうやでぇ」

上条「お前はただの人数あわせだぞ?」

青ピ「それでもかまへんって。お相手の女の子は属性そろい踏みらしいやないの」

青ピ「たのしみやわぁ」

土御門「お、うわさの女性陣が出てきたぜい」

待ち合わせの場所から正面に見える女子更衣室の出口。少し距離があるその場所にお相手となる4人の姿が現れた。

御坂「あら、思ってたよりずっと綺麗ね」

スポーツタイプのビキニを身に着けた御坂が、辺りを見回しながら言った。

白井「出来たばかりの施設ですから。古さは感じませんわね」

ベージュのワンピースに身を包んだ白井が続けた。

初春「わあ、いろんな設備がありますねえ」

紺のスクール水着を着た初春が、室内のアトラクションを確認する。

佐天「んしょ、今日は思いっきり楽しみましょうね!」

真っ赤なビキニが映える佐天が体を伸ばしながら言う。今日は珍しく後ろで髪をまとめている。

佐天「今日は御坂さんのご招待なんですよね」

御坂「招待って言うかさ、パパの会社でここの無料券をたくさんもらったらしくて」

御坂「送ってくれたのよ」

佐天「そうなんだあ。やっぱりセレブは違いますねえ」

佐天「ありがとうございます!」

御坂「いやそんなたいしたことじゃ・・・」

白井「それはそうと初春。なんですのその格好は」

初春「え、でもこれしか持ってなくて・・・」

白井「だからって学校指定の水着は無いでしょう!こんな場所で」

白井「無頓着過ぎますわ!」

御坂「あんたこそ、今日はずいぶんと大人しい格好じゃない」

白井「え、いえ、今日は殿方もいらっしゃいますし」

白井「自重・・・しましたの」

御坂「えーあんた最近趣味変わったんじゃない?」

御坂「こないだの下着からさあ。なんかあったんじゃないのぉ?」

白井「べ、別になにも・・・」

白井「おねえさまこそ、いつもの少女趣味はどうしましたの!?」

御坂「え?それは、さ、アイツが、似合うって言うから・・・」

白井「は、はあ、そうですの」

白井「聞いたわたくしがバカでしたわ・・・」

御坂「なによそれ、いいじゃないの別に!結構気に入ってるんだから!」

佐天「まあまあ、それぐらいにして」

佐天「男性陣を待たせちゃってますよ」

御坂「あ、そうだった」

白井「もう皆さんおそろいですわね」

対面に並ぶ男性陣を、それぞれの目線で見つめる四人

初春「うわぁ・・・皆さん体格いいですねえ」

佐天「彼氏さん、細いのになかなか引き締まってるじゃないですか」

御坂「そ、そうかな」

初春「あの金髪の人もすごい腹筋割れてますよ」

白井「こうして見ると、詠矢さんもなんというかこう、いい体してますわね・・・」

佐天「そりゃ鍛えてますから!」

白井「そうなんですの?」

佐天「毎日トレーニングしてるらしいですよ」

白井「・・・よくご存知ですわね」

初春「でも珍しいですね、男の人と一緒なんて」

御坂「まあ、今日は詠矢さんの慰労も兼ねてだから・・・」

佐天「慰労って、詠矢さんまた何かあったんですか?」

御坂「えっ!いや・・・その・・・」

御坂「いろいろあって・・・さ」

佐天「いろいろですか・・・」

白井「また何か事件に関わられていたのですか?」

白井「まさか、例の大規模能力消失事件に・・・」

御坂「ほ、ほら、早く集合しないと!」

御坂は二人の疑念を無理やり誤魔化し、男性陣が集まる場所へ皆を引き連れる。

御坂「お待たせ!」

御坂は早速恋人に声をかける。

上条「おー、来たか」

詠矢「おうおう、まいどー」

土御門「よろしくだぜい」

青ピ「皆さんよろしゅうにー」

上条に続き、男四人はそれぞれのノリで挨拶する。

白井「よろしくですわ」

初春「おはようございます」

佐天「おはようございまーす!」

女性陣もまた同じように言葉を返す。

青ピ「ええなぁ、みんなかわいいやないの」

青ピ「お近づきになりたいわぁ」

体をくねらせながら正面にいる初春ににじり寄る青髪。

初春「え・・・」

初春は明らかに困惑し、防御体勢を作る。

詠矢「こらこら、物理的に近づくなって」

上条「いきなり引かせてんじゃねえ!」

上条が青髪に掴みかかって制する。

佐天「詠矢さん!」

いつの間にか詠矢の前に立っていた佐天は、少し体をかがめ、上目遣いで覗き込むように声をかけた。

詠矢「おう?」

あざとい角度に思わず詠矢の目線が下がる。

佐天「ひさしぶりですね」

詠矢「ん?まあそうかな。地味に会ってなかったねえ」

佐天「そうですねえ・・・」

佐天「ほら、これ見て下さい」

佐天は顔を横に向け、まとめた髪を見せる。そこには、青色の髪留めがあった。

詠矢「ああ、あんとき取ったやつか」

佐天「そうです。ばっちり使わせもらってます!」

詠矢「そっかそっか、よく似合ってるぜー」

佐天「ありがとうございます!」

佐天「・・・」

佐天は詠矢の目を覗き込む。

詠矢「どしたね?」

佐天「詠矢さん、なんか雰囲気変わりましたね」

詠矢「え、そうかい?」

佐天「なんか渋くなったっていうか」

佐天「影が出来たっていうか・・・」

詠矢「そりゃまた返しにくい評価だねえ」

佐天「もしかして、なにかありました?」

詠矢「何か?ってまあ・・・あるっていえばあったかな」

佐天「そうなんですか・・・」

詠矢「・・・」

詠矢「(何でこう無根拠に鋭いかな)」

詠矢「まあ、そんな感じかな」

佐天「やっぱり、私が知らないほうがいいことですか?」

詠矢「ゴメン、聞かないでくれるとありがたい」

佐天「そうですか、んー」

目を閉じ、佐天はわざとらしく考えてみせる。

佐天「わかりました!詠矢さんがそう言うなら。そうします!」

佐天はそう言うと、真っ直ぐな笑顔を詠矢に向けた。

詠矢「・・・」

詠矢「そっか、ありがとな」

上条「おーい、詠矢行くぞー」

詠矢「お、移動か」

佐天「じゃ、行きましょう詠矢さん!」

佐天は詠矢の腕を掴んで引っ張っていった。

(とあるフードコート)

上条「さあて、何食うかな」

詠矢「腹減ったねえ」

御坂「混んでるみたいだし、先に席を確保しとかないと」

佐天「そうですねえ。あ、奥のほうはまだ空いてますよ」

ひとしきり泳いだあと、少し遅れた昼食を取るため、併設されているフードコートに四人は向かってた。

詠矢「他のみんなはどうしたんかね」

上条「先に行ってるってさ。もう食べ始めてるんじゃねえか?」

御坂「うわ、すっごい人」

昼の時間を少し過ぎたとはいえ、カウンターにはかなりの行列が出来ていた。

佐天「これは並ぶしか無いですねえ」

詠矢「まあ、それなりに流れているし、そう時間はかからんのじゃね」

大人しく四人は列の最後尾に付く。

??「あら、御坂さん奇遇ねぇ」

御坂「げ、アンタは・・・」

突然現れたその人物。腰まで届く金髪をなびかせ、身に着けた真っ白なビキニはその妖艶な肢体を隠しきれてない。

水着と同じ色の長い手袋に包まれた手で髪をかきあげると、豊満な双房が自然に揺れる。

食蜂「はあぃ、皆さんこんにちわぁ」

学園都市第五位の能力者、食蜂操祈は微笑んだ

御坂「なんでアンタがここに・・・」

食蜂「ちょっと泳ぎたくなっちゃって。いいじゃない別にぃ」

食蜂「上条さんもお久しぶりねぇ」

食蜂は上条に向き直るとしたから覗き込むように挨拶する。

上条「お、おう・・・」

男の性(さが)か、上条の目線は思い切り下がる。

御坂「ちょっと・・・気安く話しかけないでくれる?」

御坂は明らかな嫌悪感と共に、上条と食蜂の間に割って入る。

御坂「・・・」

上条「・・・?どした、美琴」

御坂「今どこ見てたの?」

振り返らず、首だけを横に向け、御坂は背後にいる上条の睨む。

上条「えっ!・・・どこ・・・って、そりゃ・・・」

御坂「・・・」

御坂の背中からは、不機嫌と悲哀の混じったオーラが発せられている。

御坂「しょうがないわよね」

御坂「どーせ私には、あんな立派なものありませんわよ!」

御坂「やっぱり当麻も、あったほうが、いいんだ・・・(バチッ)」

上条「ちょっとまて美琴!ブールで電撃はシャレニなってねえ!」

上条は慌てて右手を御坂の頭に乗せて電撃を抑える。

上条「いや、だから、別に美琴と比べてとかそういうのじゃなくてだな」

上条「男としてこう抗いがたいものがあってだな」

御坂「ほんとに?」

上条「はい、マジっす。上条さんウソ付かない」

食蜂「あらゴメンなさいねぇ」

食蜂「私のあふれる女子力が、無差別に男性を誘惑しちゃうのよねぇ」

食蜂「困ったものねぇ」

困った風など全く見せず、食蜂はわざとらしく額に手を当ててみせる。

御坂「っさいわね!余計なこと言わなくていいわよ!」

詠矢「まあまあ、皆さんその辺にしときなって」

食蜂と御坂の間に、更に詠矢が割って入った。

食蜂「(誰かしらこの人・・・サエない人ねぇ・・・)」

詠矢の第一印象は、極めて失礼な内容だった。

詠矢「えーっと、この人は御坂サンのお友達かな?」

御坂「友達なんかじゃないわよ!」

詠矢「そうなんか?んじゃあお知り合い、だね」

詠矢「どっちにしろ始めましてだな。俺は詠矢空希ってもんだ。よろしくなー」

食蜂「・・・よろしく」

食蜂は明らかに気の無い返事を返した。

詠矢「御坂サンさあ、確か反対側にも食べるところあったよな」

御坂「何よ急に」

詠矢「そっちのほうが空いてるかもしんねえぜ」

詠矢「ちょっと先に行って席確保してるからさ」

詠矢「あとから来てくれよ」

詠矢「んじゃ、佐天サンも一緒に行くかい?」

佐天「あ、はい!」

おそらくこの場に居づらくなっているだろう佐天を誘い、詠矢は場を無理やり変えるために動いた。

詠矢「んじゃあとでなー」

詠矢は佐天を伴って立ち去る。

上条「・・・」

御坂「・・・」

食蜂「・・・」

三人はなんとなくその背中を見る。

御坂「当麻、行こ!」

上条「お、そだな」

御坂は上条の手を取って、詠矢のあとを追おうとする。

食蜂「ねえねえ、御坂さぁん」

御坂「何よ・・・」

食蜂「お友達は選んだほうが良くないかしらぁ」

御坂「どういう意味よ」

食蜂「彼氏さんの関係かも知れないけどぉ、あんなサエない人とぉ・・・」

御坂「それって詠矢さんの事?」

御坂「人は見かけによらないの」

御坂「それに、詠矢さんを甘く見ないほうがいいわよ」

御坂「あの人の力、下手するとアンタでも勝てないかもね」

食蜂「そぉなの?」

怪訝な顔を崩さない食蜂を残し、御坂と上条は立ち去る。

食蜂「・・・」

詠矢空希、その名が、食蜂操祈の記憶に刻まれることになる。

(とある街角)

食蜂「・・・」

とある休日、珍しく取り巻きも連れず食蜂は街をぶらついていた。

食蜂「(なんか面白くないわねぇ)」

食蜂「(御坂さんがいつの間にか上条さんと付き合ってるしぃ)」

食蜂「(ちょっとからかってあげたけど、妙に安定してるみたいねぇ)」

食蜂「(まあ、私じゃ無理なのはわかってるけどさぁ)」

食蜂「(ああ見せ付けられちゃうとねぇ)」

食蜂「(なーんか、面白ことないかしらぁ)」

ウインドーショッピングをしながら考える食蜂。

だが、そう面白事が転がっているわけもなく、増えるのは歩数のみである。

食蜂「あら?」

詠矢「お?」

それは全くの偶然だった。商店街の曲がり角で、その二人はばったりと出会った。

詠矢「あれま、こないだはどうも。偶然だねえ」

自然に話しかける詠矢。

食蜂「・・・」

答えず、怪訝な目線を向けるだけの食蜂。

食蜂「(何度みてもやっぱりタダのモブさんよねぇ)」

食蜂「(でも御坂さんがあそこまで言うんだしぃ)」

食蜂「(何かあるのかしら)」

食蜂「(もしかしてすごい能力者とかぁ?)」

詠矢「・・・?」

相手の反応が無く、詠矢は対応に困る。

詠矢「(なんだ、知らん間に嫌われたか?)」

詠矢「(まあ、そんなもん今に始まったことじゃねえか)」

詠矢「ああ、ゴメン。俺に用なんかあるわけねえよな」

詠矢「んじゃ」

背を向け、詠矢は立ち去ろうとする。

食蜂「(試してみよっか)」

食蜂はバックから取り出したリモコンを詠矢に向け、適当にボタンを押した。

詠矢「・・・」

歩き出していた詠矢が止まる。

食蜂「・・・なによ、普通に効くじゃなぁい」

能力に対し、なんら防御手段を持たない詠矢は、簡単に食蜂の術中に落ちた。

食蜂「見た目通り、全然普通の人ねぇ」

食蜂「御坂さんも冗談きついわぁ」

詠矢「・・・」

食蜂「どうしようかしらぁ、この人」

従順に立ち尽くす詠矢を、食蜂はじろりと眺める。

食蜂「ま、体格はいいみたいだし、ボディーガードでもしてもらおっかな」

詠矢「・・・わかりました」

食蜂の指示に、詠矢は従順な言葉を返す。

不良A「ねえねえ彼女、かわいいねえ」

不良B「俺たちと遊んでくれるとうれしいなあ」

タイミングがいいのか悪いのか、見るからに素行の悪い男たちが声をかけてきた。

食蜂「・・・(やっぱり一人で出歩くとこの手の人たちが面倒ねぇ)」

食蜂「(とっと退散してもらいましょうかぁ)」

食蜂は二人の男にリモコンを向ける。直後。

詠矢「近づくな」

その間に詠矢が割り込んだ。

食蜂「あれ?」

不良A「あ?何だテメエは。女の前だからってかっこつけてんじゃねえぞ」

不良A「怪我したくなかったら大人しくすっこんでろ!」

不良はおもむろに詠矢の胸倉を掴む。

詠矢「・・・」

詠矢は掴まれた手をひねり上げる。

不良A「あ、あいててててっ!」

詠矢は相手の片足を払い、反った上体を落とし込んで相手の体を地面に叩き伏せた。

不良A「がっ!」

落とされた男は後頭部を強打する。

不良B「なっ!テメエ何しやがる!」

怒りのままに、もう一人の男が詠矢に拳を振るう。

詠矢「・・・」

詠矢はそれを冷静に捌き、そのまま腕を取るとがら空きになった相手の胴体に膝を見舞った。

詠矢「がっ・・・がはっ!!」

鳩尾に刺さった膝が、あっという間に相手を無力化した。

食蜂「あら、あらあらあらぁ」

食蜂「ずいぶん強いじゃないのぉ、この人」

食蜂「わたし、『使える』人ってだあい好きよぉ」

彼女の瞳の中の星が、輝きを増していた。

以上となります。

それではまた。

(とあるデパート)

食蜂「ふふっ~♪」

詠矢「・・・」

支配した詠矢を伴い、食蜂は高級店の立ち並ぶデパートで豪快に買物を進めていた。

食蜂「力持ちのお供がいると好きなだけ買えるわねぇ」

詠矢「・・・」

従順に付き添う詠矢は、肩に腕にと大量の荷物を抱えている。

食蜂「さあて、次はどこ行こうかなぁ」

食蜂「下の階かしらぁ?」

特に目的も無く、別の階が見たくなった食蜂はエスカレーターに乗る。

詠矢「・・・」

後ろから着いていった詠矢は、素早く移動し食蜂を追い抜くと、その一段下に立った。

食蜂「あら?」

前に立つ詠矢の後頭部を、食蜂は少し驚いた表情で見る。

食蜂「・・・」

食蜂「(そうそう、階段やエスカレータでは、エスコートする対象の前に立つのが基本なのよねぇ)」

食蜂「(相手が足を踏み外しても支えられるように・・・)」

食蜂「(でもそれが自然と、明確な指示も無いのに出来るなんて)」

食蜂「(この人、普段からよほど考えて行動してるのねぇ)」

食蜂「(ますます気に入っちゃったわ♪)」

食蜂「(玩具は出来がいいに越したことは無いものねぇ)」

食蜂「じゃあ、そのまま降りちゃってくださいなぁ」

詠矢「・・・」

詠矢は小さく頷くと、エレベータを乗り継いで階を降りていく。

やがて二人は、一階にたどり着いた。

食蜂「さてと・・・次はどこに行きましょうかぁ」

適当に考えながら、食蜂はあらためて詠矢の姿を見た。

食蜂「どこに行くにしても、この格好はあんまりよねぇ」

食蜂「かといって、どこかに預けるのも面倒だしぃ」

食蜂「そうねえ・・・」

食蜂「じゃあ、あなた。それを寮まで届けてくれなあぃ」

詠矢「・・・」

詠矢は小さくうなづく。

食蜂「学生寮まで行ってぇ、その辺の寮生に『女王の荷物』っていえばわかるかわぁ」

詠矢「わかりました、女王」

食蜂「はぁい、わかったのなら急いでねぇ」

詠矢「…」

詠矢は、荷物を落とさないよう慎重に、かつ最大限の速度で走り出した。

食蜂「ほらダッシュダッシュー!!」

激励とも嘲りともつかない食蜂の言葉を背に受けつつ、詠矢の姿はあっと今に小さくなっていった。

(とある街角)

佐天「んーと、今日はどこに行くかなあ」

学校も終わり、町をぶらついていた佐天は、何か目的を見つけようと携帯を検索していた。

佐天「なんか面白そうなことないかなぁ」

普通の学生と比べれば、はるかに数奇な事件に遭遇している彼女だが、そう毎日何かあるわけでもなく、刺激を模索していた。

佐天「(まあ、そんなに簡単に見つかるわけないか)」

佐天「(また支部にでも遊びに行くかな)」

佐天「…」

自らが思った言葉に刺激を受け、彼女の中の数日前の記憶が呼びさまされた。

佐天「(そういえば詠矢さん、また何かあったのかな)」

佐天「(ちょっと雰囲気か変わってたしなあ)」

佐天「・・・」

佐天「(最近会ってないなあ・・・)」

佐天は、携帯を取り出し、その画面を眺める。

佐天「(連絡しちゃおうっかな?)」

何か躊躇した佐天は、しばらく考える。

佐天「んー・・・」

悩みながら、携帯から外した佐天の視界に、目的の人物が写りこんだ。

佐天「あれ?詠矢さん?」

大荷物を抱えたその人物は、その状態にそぐわない速度で、道路の反対側を走ってくる。

佐天「詠矢さーん!」

詠矢「・・・」

かけられた声に全く反応することなく、詠矢はそのまま走り抜けていった。

佐天「あれ?」

佐天「聞こえなかったかな?」

既に見えなくなった詠矢の背中を追うように佐天は振り返る。

佐天「・・・」

佐天「んー・・・」

佐天「連絡してみよっか」

佐天は、おもむろに携帯を操作する。

この後、彼女は詠矢を探し回ることになる。

(とある学生寮 上条の自室)

上条「・・・」

黒いエプロンを身に着けた上条は、台所の前で鍋と対峙していた。

神妙な面持ちでおたまを手に取ると、鍋の中身を少量すく上げ、小皿に移す。

小皿はそのまま、傍にいた御坂に手渡された。

上条「どうだ?」

御坂「ん・・・」

促されるままに、御坂はその中身を口に含んだ。

御坂「うん、おいしい」

上条「そっか、よかったー」

御坂「ていうか、もう私より美味しいんじゃない?」

上条「いやいや、流石にそこまでは言いすぎだろ」

御坂「そんなことないよ。ほんとに美味しい」

御坂「でもどうしたの?急に上達しちゃって。私の立場が無いじゃない」

上条「いやー、インデックスがいた頃から結構作ってたんだけど」

上条「御坂に『正しい作り方』ってのを教わってから、急に面白くなってなあ」

上条「いろいろ作って勉強してるんだよ」

御坂「それにしたって、この短期間でここまでねえ」

御坂は皿に残った味噌汁を再び口に含む。

上条「いやー、上条さんも自分の隠れた才能に驚愕しているわけですよ」

御坂「才能かあ・・・」

御坂「でもいいんじゃない?自炊するようになれば、食事の心配はしなくて済みそうだし」

上条「え?そんじゃあ飯作りに来てくれないのか?」

御坂「べ、別に来てるのはご飯作るためだけじゃないから・・・」

御坂「・・・会いたいから・・・だし」

上条「・・・なるほど、そりゃそう・・・ですな」

御坂「うん・・・」

突然、上条の携帯が鳴った。

上条「うおっ!何だ?」

上条「はい、上条です」

上条「あ、店長ですか?なんかあったんですか?」

上条「え?詠矢が?ええ、はい」

上条「いえ、今日は会ってないです。どこにいるかは・・・ちょっと・・・」

上条「はい、わかりました。そんじゃ」

怪訝な顔で、上条は電話を切った。

御坂「誰から?」

上条「バイト先の店長だよ。今日シフトの詠矢が来ないんだってさ」

御坂「え?詠矢さんが?」

上条「ああ、連絡もつかないって・・・」

御坂「それは、ちょっと変ね」

上条「あいつ、サボリどころか遅刻もしたことねえのに」

御坂「何かあったのかしら?」

上条「連絡が取れないってのはあってもおかしくねえけど」

上条「バイトに出てこないってのは、ちょっとな・・・」

御坂「そうね、何も言わずに休むなんて、らしくないわね」

上条「・・・」

上条「ゴメン美琴、探しにいっていいか?」

御坂「うん、私も行く」

返事すると同時に、御坂は携帯電話を操作する。

御坂「黒子たちに伝えて、探してもらうわ」

上条「そうだな、助かるぜ」

最低限の支度を整えると、二人は部屋を後にした。

(とあるゲームセンター)

食蜂「結構頑張るわねぇ」

詠矢は、ダンスゲームの上で必死に足を動かしていた。

もともと身体能力も反射神経も悪いほうではない。だが、高難易度に設定された曲の前に苦戦を強いられていた。

詠矢「・・・!」

食蜂にとっては、特に意味があるわけでもない。ただ暇つぶしの余興である。

だが、命じられた詠矢は必死にその課題に取り組んでいた。

食蜂「あらわら、終わっちゃうわよぉ」

曲が佳境に入ると、詠矢の足は徐々に対応しきれなくなり、終了を告げるゲージが見る見る下がっていく。

詠矢「・・・!」

健闘空しく、画面は閉じ、ゲームオーバーの文字が浮かんだ。

食蜂「なによう、その程度なのぉ?」

詠矢「すみ・・・ま、せん・・・女王・・・」

全力でかなりの距離を往復した直後、殆ど間を空けずに与えられた指示である。

詠矢の息は上がり、肩は激しく上下する。まともに返事も出来ない状況であった。

食蜂「んもう、情けないわねぇ」

食蜂「(結局、身体能力は常人レベルなのねぇ)」

食蜂「(頭は切れるみたいだけど、特別すごいってわけじゃないみたいだしぃ)」

食蜂「(ちょっと期待しちゃったけど、モブさんはやっぱりモブさんねぇ)」

詠矢「・・・」

息を整えながら詠矢は指示が来るまで黙って立っている。

食蜂はその姿をじろりと眺める。

食蜂「そろそろ飽きたしぃ、開放してあげようかしら」

食蜂「こんな人と一緒にいて、変な噂でも立ったら困るしねぇ」

食蜂「そんじゃ、バイバイね」

詠矢に対してリモコンを向けようとした直後。

食蜂「あらぁ?」

食蜂はある気配に気づいた。

(とある街角)

佐天「いないなあ・・・」

最初に詠矢を見かけた場所に戻ってきた佐天は、辺りを見回してみる。

だが、目的の人物の姿は無い。

佐天「(電話しても留守電のまんまだし、メールも帰ってこない)」

佐天「(あのコンビニもいなかったし、いつも会ってる公園にもいないし)」

佐天「(よく行ってるゲームセンターにもいなかったなあ)」

佐天「(ほんと、どいっちゃったんだろう)」

思いつく限りの場所を探したものの、詠矢の姿は無い。

佐天「(・・・まあ、いま会う用があるわけじゃないし)」

佐天「(私が心配することじゃないかもしれないけど)」

佐天「(ここまで連絡つかないってのも・・・ちょっとなあ・・・)」

佐天は、自分が詠矢を探す理由をぼんやりと考えながら、何か手がかりが無いかと最後に詠矢を見かけた通りに戻ってきた。

佐天「なんとなく戻ってきちゃったけど」

佐天「そう都合よく見つからないよね」

佐天「ふう・・・」

なかば諦め気味に再び辺りを見回す佐天。

突如、携帯が鳴る。

佐天「わわっ!詠矢さん!?」

佐天「・・・御坂さん、から?」

佐天「はい、もしもし、佐天です」

御坂『佐天さん?御坂だけど』

佐天「あ、はい、なんでしょう?」

御坂『詠矢さん、なんだけどさ、見かけなかった?』

佐天「あれ?御坂さんも探してるんですか?私もなんですけど」

御坂『なんかさあ、バイトも休んでるみたいでちょっと心配になって』

御坂『当麻と一緒に探してるんだけど・・・』

佐天「そうなんですか。御坂さんや彼氏さんも知らないとなると」

佐天「ますます心配だなあ・・・・」

なんとなく向けた佐天の視界に、突如詠矢が写りこんだ。

佐天「あっ!詠矢さ・・・」

目的の人物は、女性と一緒にいた。

見覚えのあるその女性。金髪で、女性らしい体つきの、遠目でもわかる美人。

佐天「あれ・・・?」

なぜか、佐天の心はやんわりと締め付けられる。

佐天「(なんだろう、すごく嫌だ・・・)」

女性の指示に素直に従う詠矢の姿。二人のやり取りを見るほどに、佐天の焦燥はより強く掻き立てられる。

佐天「(何話してるんだろう)」

佐天「(やっぱり、誰にも連絡取れないように二人で会ってるってことは)」

佐天「(そういうことなの・・・かな)」

御坂『どうしたの佐天さん、詠矢さん見つかったの?』

携帯からの御坂の声が、佐天の思考を遮る。

佐天「あっ、はい。いました」

佐天「なんか、女の人と一緒みたいで・・・前にプールで会った・・・」

そのの発言をとがめるように、金髪の女性が振り向く。

一瞬、佐天と目が合う。

佐天「えっ!?」

佐天の動揺は意に介さず、女性は詠矢を伴って路地裏に消えていく。

佐天「あっ、行っちゃう・・・御坂さん、また後で!」

御坂『佐天さん、どうしたの佐・・・』

会話を聞かれることを恐れたのか、佐天は携帯の電源を落とし、二人の後を追った。

(とある路地裏)

食蜂「(ついて来てるわねぇ・・・)」

詠矢を伴い、背後の気配を感じながら、食蜂は路地を奥へと進んでいた。

自分と、詠矢に向けられた意識をいち早く察知した食蜂は、相手を誘い込むためにわざと人通りの無い道を進んでいた。

食蜂「(あのこ、見覚えがあるわねぇ)」

食蜂「(この詠矢って人にご執心なのかしらぁ)」

食蜂「(ま、『直接』確かめてみればわかることねぇ)」

食蜂は、振り返らず肩口からリモコンの先端を出して佐天に向けた。

必要としている情報が、食蜂の頭の中に流れ込んで来る。

食蜂「(ふぅん、彼女さんってわけでもないのねぇ)」

食蜂「(でも、確実にその方向で感情は進んでるわねぇ)」

食蜂「(ちょっと面白くなってきたじゃなぁい)」

心を読まれているなど知るよしも無く、佐天は物陰に隠れながら二人を追っていた。

佐天「(どこ行くんだろう)」

佐天「(・・・ていうか私、何で追いかけているんだろう)」

佐天「(無事なのはわかったんだし、もういいはずだよね)」

佐天「(でも、すっごい気になる)」

悩む佐天を見透かしたように状況が動く。

詠矢の腕が食蜂の肩を抱く。食蜂の手が詠矢の腰に回る。

二人は密着し、寄り添って歩き出した。

佐天「・・・っ!」

曖昧だった佐天の胸の痛みが、鋭角なものに変わった。

佐天「(わかんない、わかんないけど苦しい・・・)」

佐天「(これってやっぱり『そういうの』なのかな・・・)」

更に状況は進む。寄り添ったままの二人は、角を曲がって佐天の視界から消えた。

佐天は、その姿を追う。

食蜂「はあぃ」

佐天「えっ!!」

角を曲がった場所で、食蜂が待ち構えていた。

驚いた佐天は思わず後ずさる。

食蜂「さっきから着いて来てるけどぉ、なんのご用かしらぁ?」

佐天「あ、えっと・・・」

それを問われると言葉に詰まる。それは自分にも理解できていないのだ。

佐天「あの…、その…」

食蜂「ふふっ」

言いよどむ佐天に食蜂は怪しく微笑みかける。

佐天「・・・」

見透かされたような食蜂の表情に、佐天は沈黙するほか無かった。

佐天「・・・」

佐天「あっ、あの」

佐天「お二人は・・・どういう・・・」

それでも佐天は何とか言葉を振り絞り、自分が一番聞きたかった質問を切り出す。

食蜂「定番の質問ねぇ」

食蜂「何でも言うこと聞いてくれる、そんな関係かしらぁ」

佐天「えっ!?それって・・・」

嘘ではない。だが同時に正確でもないその解答に、佐天の戸惑いは増す。

食蜂は、そんな佐天と従順に直立したままの詠矢を順に眺めた。

食蜂「(まあまあ、どこもかしこも恋愛モードねぇ)」

食蜂「(この人のどこがいいんだか知らないけどぉ)」

食蜂「(さて、どうしたものかしら)」

どうすれば一番面白いか、食蜂はしばし考える。

食蜂「じゃあ、この人にもきいてみましょうかぁ?」

佐天「?」

食蜂「詠矢さぁん、あなたの思いのたけを、このこにぶつけちゃってみてぇ」

食蜂は、詠矢にリモコンを向け、電源ボタンを押した。

詠矢「・・・」

詠矢の体はゆるりと動き、佐天との距離を詰めると、おもむろに手首と肩を掴む。

佐天「え?詠矢さんちょっ、なん・・・ですか?」

その言葉を聞き入れるはずも無く、詠矢は腕に力をかけ、そのまま佐天を壁に押し付ける。

必然的に二人の顔は近づく。そして、詠矢はその距離を更に縮めてくる。

何をしようとしているかは明らかだった。

佐天「い、いやぁぁああ!!」

佐天はまだ掴まれていない手を振るって詠矢の頬を張った。

詠矢は思わず退き、体を離した。

食蜂「(適当な指示だったけど、まあこうなるわよねぇ)」

食蜂「(さて、どうなるのかしらぁ)」

そんな食蜂の無責任な指示を、詠矢は忠実に履行する。

再び佐天に接近すると、その襟首に手をかけ強引に引っ張る。

そのまま肩を掴み、足をかけて佐天の体を地面に組み伏せた。

佐天「いやっ!詠矢さん、やめてください!詠矢さん!」

手足を動かして抵抗するも、詠矢には通じるはずも無い。

詠矢は両襟に手をかけると、左右に大きく開いた。

制服が裂け、佐天の胸元と下着の肩紐があらわになる。

佐天「いやぁぁあ!いやです、こんなのいやです!!」

詠矢「・・・」

詠矢は、開いたばかりの襟を戻し、佐天の首の前で腕を交差させ、頚動脈を締め上げる。

佐天「んっ!ぐ・・・」

食蜂「(抵抗されないように気絶させるんだ)」

食蜂「(襲うときまで考えて行動してるのねぇ)」

佐天「・・・」

佐天の意識はあっという間に落ちた。

食蜂「(そろそろ止めないとマズイわね)」

食蜂「(ん?)」

考える食蜂の耳に、複数の足音が飛び込んできた。

食蜂「(あら、誰か来るわね)」

食蜂「(ここに居合わせるのは流石に問題ねぇ)」

食蜂は少し考えると詠矢にリモコンを向ける。

食蜂「それぐらいにしときなさぃ」

食蜂「それと、今日私と会ったことは忘れてねぇ」

簡単な指示だけを詠矢に送ると、食蜂は足早にその場を立ち去った。

詠矢「・・・」

詠矢の動きが止まる。と同時に、二人分の足音が到達した。

御坂「こっちで佐天さんの悲鳴が・・・あっ!」

上条「どうした美琴・・・なっ!」

二人が目にしたのは、佐天の体の上に馬乗りになった詠矢の姿だった。

上条「詠矢てめえ、ナニやってんだ!!」

上条は反射的に右拳を詠矢の頭部へ振るった。

(キイィィイン)

上条「えっ!」

御坂「当麻の右手が、反応した?」

詠矢「ん・・・いって・・・」

詠矢「あ・・・れ?俺は・・・何を・・・っ!!」

周囲の情報が一気に入ってくる。その情報が処理しきれず詠矢は呆然と振り返った。

詠矢「なん・・・だ・・・・・・これ・・・・・・」

絞り出すように呟く。御坂と上条は顔を見合わせる。

詠矢「これは・・・俺がやった・・・のか?」

上条「お前、覚えてねえのか?」

詠矢「・・・食蜂サンに会った後の記憶がねえ」

御坂「やったわね、あの女」

詠矢「能力、なのか?」

御坂「ええ、あいつになら簡単に出来るわ」

御坂「たぶん、詠矢さんを操って遊んでたんだと思う」

上条「遊んでたって・・・それでこんなことやらせたのかよ!」

詠矢「はは、そいつはまた・・・ひでえ話だな・・・」

詠矢はシャツを脱ぐと、意識を失ったままの佐天の胸元にかける。

詠矢「・・・」

詠矢は目を閉じ、しばし考える。

詠矢「なあ、御坂サン」

御坂「なに?」

詠矢「佐天サンのことを頼む」

詠矢「あと、食蜂サンの能力とか性格とか、詳しく教えて欲しい」

御坂「それはいいいけど、どうするつもりなの?」

詠矢「久しぶりに・・・いや、生まれて始めてかもしれねえ・・・」

詠矢「・・・・・・マジでキレたわ」

詠矢の瞳に、それまで誰も見たこと無い色が浮かんでいた。

以上となります。
それではまた。

こんばんわ1です。
遅くなりましたが書きあがりました。投下します。

(とある高架下)

食蜂「・・・」

リモコンの先端を顎に当てたまま、食蜂はただ待っていた。

食蜂「(こんなところに呼び出しなんて、どういうつもりかしらぁ)」

常盤台の寮に戻った直後、御坂美琴から電話で呼び出したあった。

食蜂「(話があるって、なんのことかしらねぇ)」

見知ってはいるものの、友好的な関係ではない御坂から直接連絡があることは珍しい。

しかも、内容は不明確なままだ。怪訝な表情となるのも無理はない。

食蜂「(まさか、あの詠矢って人のこと?)」

食蜂「(でも、私の操作力で記憶は消去したしぃ)」

食蜂「(もし何か気付かれてたとしても、わざわざ呼び出しってのもねぇ)」

食蜂「んー…」

食蜂「まあ、相手の出方を見てからねぇ」

考えても結論は出ない、食蜂は思考を止めた。

不意に、携帯が鳴る。食蜂は発信先を確認する。

食蜂「御坂さん?何よ今更電話って…」

食蜂「はぁい、もしもし?」

詠矢『やあ、女王』

食蜂「え?その声は・・・」

食蜂「なんであなたがこの電話で・・・」

詠矢『そんなことはどうでもいいさ』

詠矢『なあ女王サン』

食蜂「・・・何よ」

詠矢『あんたの能力、心理掌握(メンタルアウト)だっけか』

詠矢『記憶と精神に関わるあらゆる操作を可能とする』

詠矢『しかも対象の人数や効果範囲もほぼ制限がない』

詠矢『流石のレベル5って感じの能力だよなあ』

食蜂「何の話かしらぁ?」

詠矢『いや、評価してるんだよ。実際に自分が対象になって、その力の凄さを味わったんでねえ』

詠矢『でも、大変な能力でもあるよなあ』

詠矢『人の記憶は複雑怪奇だ。ひとつの記憶を操作しても、それが他の記憶と何重にも絡み合っている』

詠矢『失った記憶と、相互に関係する記憶に矛盾を発生させないように、個別の操作が必要になってくる』

詠矢『場合によっては、記憶の空白を補完するために、別の記憶を充当してやる必要もあるよなあ』

食蜂「だから何の話よ」

少し苛立つ食蜂を意に介さず、詠矢はまくし立てる。

詠矢『精神操作だって同じことさ』

詠矢『人の行動を制御するっていっても、そう簡単なものじゃない』

詠矢『自立行動と反射行動、その双方を管理しないと』

詠矢『操られている人間は、ぶつかってくる車を避ける事すら出来なくなる』

詠矢『相手に指示を与えるにしても、与えられた命令をどう解釈しどう行動に移すかは』

詠矢『その人物が持つ経験や記憶によって違ってくる』

詠矢『それを総合的に調整して指示するってのは、大変だと思うんだよなあ』

食蜂「だから何よ。それが『出来る』能力なのよぉ」

食蜂「何が言いたいのかわからないわねぇ」

詠矢『そう、それだ。能力者には理屈がない。出来る、で出来るわけだ』

詠矢『能力者が持つパーソナルリアリティと、演算という言葉で全てを説明してしまう』

詠矢『んじゃあ、まともに演算が出来ない状況であれば』

詠矢「どうなるかな?」

食蜂「?」

食蜂は、後半から違和感を感じていた。

携帯とは別の位置から、詠矢の声が聞こえてくる。

気配を感じ、食蜂が振り返ると、そこには。

ゲコ太携帯を耳に当てた、詠矢が立っていた。

詠矢「…!」

詠矢は一瞬でその距離をつめると、食蜂の首を押さえ落とし込み、躊躇なく膝を突き上げる。

その豊かな双房を掠めるように、詠矢の膝は食蜂の鳩尾へと叩き込まれた。

食蜂「うぶっ…がぁぁああ!!」

深々と体内にめり込んだ膝が食蜂の胃と食道を強く刺激する。その内容物が喉から逆流した。

食蜂「が…はっ…はっ!!」

呼吸もままならず、食蜂は立ち上がることすら出来ない。

詠矢「おーおー、汚ねえ汚ねえ」

詠矢「どんなお綺麗な人でも、吐くもんは一緒だねえ」

食蜂「…っ!」

食蜂は震える体で、詠矢を下からにらみつけると、リモコンを向けボタンを押した。

だが、詠矢の姿には変化は無い。

食蜂「なっ…!どうし…て」

何度押しても変化は無い。

詠矢「悪いが無駄だ」

詠矢「あんたは俺の話を聞きすぎた」

詠矢「だが、念には念を入れとこう」

詠矢はリモコンを取り上げると、橋脚にたたきつけて破壊する。

詠矢「確か、そこにも入ってるんだよな?」

食蜂が腕に抱えていたカバンを、詠矢は上から力の限り踏み抜いた。

プラスチックが割れる乾いた音が響き渡る。

食蜂「なに…すんの…よ」

詠矢「実質的な意味は無いにも関わらず、能力の行使にすら関わる高度なルーティーン、だっけかな?」

食蜂「…」

詠矢「しかしまあ、これでもまだ安心出来ねえなあ」

詠矢「よっと」

詠矢は食蜂の胸倉を掴んで引き起こす。

詠矢「演算を阻害する方法は他にもあるぜ。一番簡単なのは『窒息』だ」

詠矢は食蜂を橋脚に押し付けると、喉にかけた手の平をじんわりと押し付ける。

食蜂「う・・・ぐっ!」

意識を奪わないよう、詠矢は気管のみを締め上げる。

食蜂の呼吸は徐々に細る。抵抗を試みる両手は詠矢の腕を掻き毟る。

詠矢「その手袋じゃあ無理じゃねえの?まあ、加害側からすればありがたいがねえ」

蹴り上げる足も届かず、力で引き剥がそうにも詠矢の腕はびくともしない。

食蜂「か・・・は・・・ひゅ」

食蜂の眼球が裏返りかけた瞬間、詠矢は手を離した。

食蜂「・・・!!がはっ!」

意識と呼吸が一気に戻ってくる。食蜂は激しく咳き込んだ。

食蜂「・・・[ピーーー]・・気?」

橋脚にもたれ、しゃがみ込みながら、食蜂は絞り出すような声で言った。

詠矢「演算を阻害する方法は他にもあるぜ。一番簡単なのは『窒息』だ」

詠矢は食蜂を橋脚に押し付けると、喉にかけた手の平をじんわりと押し付ける。

食蜂「う・・・ぐっ!」

意識を奪わないよう、詠矢は気管のみを締め上げる。

食蜂の呼吸は徐々に細る。抵抗を試みる両手は詠矢の腕を掻き毟る。

詠矢「その手袋じゃあ無理じゃねえの?まあ、加害側からすればありがたいがねえ」

蹴り上げる足も届かず、力で引き剥がそうにも詠矢の腕はびくともしない。

食蜂「か・・・は・・・ひゅ」

食蜂の眼球が裏返りかけた瞬間、詠矢は手を離した。

食蜂「・・・!!がはっ!」

意識と呼吸が一気に戻ってくる。食蜂は激しく咳き込んだ。

食蜂「・・・殺す・・気?」

橋脚にもたれ、しゃがみ込みながら、食蜂は絞り出すような声で言った。

詠矢「いやまあ、流石にそこまではしねえよ」

詠矢「ただ、こちとらキレちまってるんで、あんまり加減は出来ねえかな」

食蜂「なに・・・よ。ちょっと遊んであげた・・・だけじゃない」

詠矢「そうか。あんたにしてみればそうなんだろな」

詠矢「まあ、俺の体を使って遊んでもらう分にはまだいいんだが」

詠矢「どーにも許せねえことがあってな」

詠矢「なんか心当たりありませんかねえ?」

食蜂「・・・」

食蜂「あれは、あなたの欲望でしょぉ?全部あなたがやったことじゃない・・・」

詠矢「話をすりかえないでもらえるかい」

詠矢「俺の欲望がどうあれ、それをやらせたのはあんただだろ」

食蜂「・・・」

食蜂「・・・じゃあ、許せないっていうんなら」

食蜂「私にどうしろっていうわけぇ?」

詠矢「・・・」

居直りとも取れる食蜂の発言に詠矢の目線が一瞬尖る。

詠矢は目を閉じ、小さく息を吐くと目の力を抜く。

詠矢「そうだな、食蜂サンに二つほどお願いがある」

食蜂「お願いって・・・何よ」

詠矢「まず一つ目は・・・」

詠矢「俺と友達になってくんねえか?」

食蜂「・・・」

詠矢の台詞に、食蜂はしばらく言葉が出ない。

食蜂「あんた、頭おかしいんじゃないのぉ?」

食蜂「ここまでやっといて友達って・・・」

詠矢「じゃあ言い方を変えようか」

詠矢「俺と敵対しないでくれ」

食蜂「・・・」

詠矢「今回の件で、俺が怒りと共に味わったのは恐怖だった」

詠矢「操られたまま、ビルの屋上から飛ばされても」

詠矢「俺は抵抗どころか、自分が死んだこともわからなかったろう」

詠矢は膝を落とし、食蜂と目線を会わせると、再び語りだす。

詠矢「今、俺はいつでもあんたを殺せる状態にある」

詠矢「これでようやく、対等になったと思わねえか?」

食蜂「それって、ただ恐怖で従わせているだけでしょぉ」

食蜂「何が友達よ!」

詠矢「・・・あんたみたいに力を持った人間は」

詠矢「ただ媚びへつらって来るだけの相手は信用できないはずだ」

詠矢「力を示し、対等に渡り合うものしか、本当の信頼は得られねえ」

詠矢「違うかな?」

食蜂「ずいぶんと勝手な理屈ねぇ」

食蜂「それで私が納得すると思うのぉ?」

詠矢「全く間違いでもねえと思うけどな」

食蜂「ふん、知らないわよぉ、そんなこと」

食蜂「もしここで私が断ったら、あなたどうするつもりなの?」

詠矢「そうさなあ」

詠矢「ここで決別するってことは」

詠矢「いつどこで寝首かかれてもおかしくないって事になるな」

詠矢「じゃあ、いっそのこと、思い残すことの無いように」

詠矢「俺の童貞でも、もらってもらいましょうかね」

しばしの沈黙の後、食蜂は軽く吹き出した。

食蜂「面白いこと言うじゃなぁい」

食蜂「それ本気なの?」

詠矢「まあ、わりとね」

詠矢「なにせ、今実行しようと思えば、出来るしねえ」

食蜂「・・・」

食蜂「ふふっ・・・」

食蜂の微笑み、やがて本格的に笑い出す。

食蜂「あなた、思った以上に面白い人ねぇ」

食蜂「いいわよ、お友達ぐらい、なってあげるわ」

詠矢「そいつはどうも。後でメアドでも交換しますか」

詠矢「で、二つ目のお願いなんだが・・・」

食蜂「まだあるわけぇ?」

食蜂「ああ、食蜂サンの能力を」

詠矢「ある人に使って欲しい」

(常盤台中学 図書室)

食蜂「・・・」

食蜂は長椅子に腰掛け、携帯の画面を眺めている。新しく追加されたアドレスを確認しつつ、ボタンの上に指を走らせていた。

そんな食蜂の傍に、訪れる人影があった。

御坂「大変だったみたいね」

食蜂が声の方向を向くと、そこには御坂が立っていた。

食蜂「あら、御坂さぁん」

御坂「どう、私の言ったことが少しは理解できたかしら?」

その言葉を受けると、意味ありげに食蜂は微笑んだ。

食蜂「そぉねえ。確かに、今まで会った事の無いタイプの人ねぇ」

食蜂「でもああゆう」

食蜂「使えるものは何でも使うっていう人は、嫌いじゃないわよぉ」

御坂「あら、随分と素直に認めるのね」

食蜂「私だって、人を評価することぐらいあるわぁ」

御坂「そう・・・」

御坂「ま、わかったのなら、もう余計なちょっかいはかけないことね」

食蜂「あらぁ、それはもう大丈夫よぉ」

食蜂「だってもうお友達だもの」

御坂「・・・なによそれ」

食蜂「お願いされちゃったのよ。お友達になってって」

食蜂「私の女子力がぁ、詠矢さんまで虜にしちゃったのかしら」

御坂「・・・」

御坂「随分とやり込められたみたいだから」

御坂「少しはしょげてるのかと思ったら」

御坂「そんな軽口が叩けるなら、大丈夫みたいね」

食蜂「私は平気よぉ」

食蜂「あ、そうだ御坂さん。ちょっと試させて欲しいんだけどぉ」

御坂「何をよ・・・」

御坂の同意を取る前に、食蜂は携帯電話を向け、ボタンを押した。

御坂「んっ・・・!」

御坂が常時張っている電磁バリアに、何かが衝突し、弾けた。

御坂「ちょっとアンタ、なにしてんのよ!」

食蜂「やっぱり、使えるわねぇ」

御坂「いくら効かないからって、気軽に能力使わないでよ!」

御坂「って・・・それ携帯じゃない」

食蜂「そ、見てみるぅ?」

食蜂は御坂に画面を見せる。そこには、よく見る局番のボタンが並んでいた。

御坂「なによこれ」

食蜂「携帯のリモコンアプリよぉ」

食蜂「赤外線が弱いとかであんまり使われてないけどぉ」

食蜂「私のリモコンの代わりとしれは、十分機能するみたいねぇ」

食蜂「まあ、アプリの起動とか面倒だしぃ」

食蜂「普段は使わないけどぉ。非常用としてはいいわね」

御坂「あんた、いつの間にそんな・・・」

御坂「あ・・・まさか」

食蜂「なかなか察しがいいじゃなぁい」

食蜂「詠矢さんに『教えて』もらったのよ」

食蜂「食蜂サンの使い方なら利用できるはずだ、ってね」

御坂「確かに、詠矢さんが考えたのなら」

御坂「出来るようになってもおかしくないけど」

御坂「でもなんでそんなことを・・・」

食蜂「ちょっと能力を使ってくれってお願いされちゃってさぁ」

食蜂「でもそのとき、私のリモコンは全部詠矢さんが壊しちゃってたのぉ」

食蜂「じゃあ代わりに、って感じかしら?」

御坂「詠矢さんがあんたの能力を?」

食蜂「そおよぉ」

食蜂「ご依頼通り、完璧にこなして差し上げましたわよ」

食蜂は鼻を鳴らし、なぜか得意げに笑った。

(とあるコンビニ)

詠矢「なるほど、そいつは面白れえなあ」

佐天「でしょでしょ?今度やってみましょうよ」

いつものコンビにのいつもの風景。客がいない合間に、詠矢と佐天は楽しげに会話を続けていた。

ふと、扉が開く。

上条「よう詠矢、時間だぜ」

詠矢「おう、上条サンそろそろ交代か」

佐天「あ、こんにちわー」

上条「お?おう。こんち・・・わ・・・」

何気なく交わされる会話、だが、上条は強い違和感を感じた。

佐天「じゃあ、あんまりお邪魔してても悪いんで」

佐天「私はこれで失礼しますね」

詠矢「おう、んじゃまたな」

上条「またなー」

最後に軽く頭を下げると、佐天は店を後にする。

上条「・・・」

上条「詠矢・・・あの子の反応・・・もしかして」

詠矢「ああ、食蜂サンに頼んで」

詠矢「あの日の俺に関する佐天サンの記憶を、全部消してもらった」

上条「お前、そこまでする必要あるのか?」

詠矢「まあ、事情を説明すればわかってもらえただろうけどね」

詠矢「物理的に起こった事の印象は消えねえしなあ」

詠矢「綺麗に忘れてもらった方がいいやね」

上条「そりゃ、正しいのかもしれないけどよ」

上条「お前のそういうところ、あんまり好きになれねえな」

詠矢「そうか?合理的だろ?」

上条「そういうこと言ってるんじゃねえよ」

上条「こんな逃げるようなまねしないで、ちゃんと話すべきじゃねえのか?」

詠矢「まあ、それも考えたんだけどさ」

詠矢「事態が事態だし、どうしても責任とかなんとか」

詠矢「そういう話になりかねんだろ?」

上条「だったらなおさらじゃねえか」

上条「操られたかもしれねえが、お前がやったことには間違いねえんだろ」

上条「だったら、男として責任の取り方ってもんがあるんじゃねえか?」

詠矢「・・・」

詠矢「俺はいいよ、俺はね」

詠矢「ただ、佐天サンに」

詠矢「俺に責任『取られる』ってのを押し付けることにならねえかなって・・・ね」

上条「・・・」

詠矢「ま、相変わらずの考え過ぎなんだけどさ」

詠矢「俺なりに出した結論だよ」

上条「まあ、お前そこまで考えたならもう言わねえけど」

上条「やっぱり納得いかねえな」

詠矢「同意してくれなくてもいいぜ」

詠矢「ただそういう考え方の奴もいるってことさ」

上条「・・・」

詠矢「あ、そうだ上条サン、ついでに一つお願いがあるんだけど」

上条「何だよ」

詠矢「まあ無いとは思うんだが」

詠矢「佐天サンの頭にその右手で触らないで欲しい」

詠矢「能力が解除されて記憶が蘇る可能性があるからな」

詠矢「まあ、そのうち記憶は内面化されて思い出せなくなるだろうから」

詠矢「これから一生ってわけじゃないんだけど」

詠矢「しばらく気をつけて欲しい」

上条「相変わらず、そういうとこは無駄に慎重なんだな」

詠矢「悪いけど頼むよ」

上条「・・・わかったよ」

険しい表情を崩さない上条の背後で、再び扉が開いた。

詠矢「おう、佐天サン、どしたね?」

佐天「えーっと・・・」

詠矢「ん?」

佐天「んー・・・」

佐天「詠矢さんに伝えたいことがあったはずなんですけど」

佐天「どーしても思い出せないんですよねえ」

詠矢「へえ・・・」

佐天「すっごい大切なことだったような気がするんですけど・・・」

詠矢「そっか」

詠矢「まあ、思い出せないってことは」

詠矢「実は大したことじゃねえんじゃねえの?」

佐天「そうなのかなあ」

佐天「うーん、じゃあ思い出したら」

佐天「またお伝えしに来ます!」

佐天「じゃあ、また!」

詠矢「んじゃなー」

去っていく佐天の背中を、詠矢は再び見送る。

あのとき、彼女が何を思っていたのか、何を感じていたのか。

その記憶が蘇る日は、果たして来るのだろうか。

以上となります。
この話はこれで完結です。
お待たせしまして申し訳ありませんでした。

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