【咲-Saki-】やえ「牌に愛された子か……」 (138)



『晩成高校』

奈良県では知らぬ者のない名門。私は、その名門晩成高校のエースポジションを二年連続で任されている。
インターハイ奈良県個人戦二連覇、中学から通算だと5連覇、県内の公式戦の平均着順1.2位。県内では誰もが認める奈良の王、それが私、小走やえだ。


由華「先輩、ごめんなさい……私のせいで……」


こいつは巽由華、私が高校生になった昨年のインターミドルにおいて奈良県一位になり、鳴り物入りで晩成高校の大将に抜擢された期待の一年。
抜擢された結果は、白糸台のエース宮永照に惨敗。名門晩成高校は、二回戦でインターハイの団体戦から姿を消した。

決して、巽が弱いわけではない。
今年の個人戦において、奈良県で唯一私を着順で上回り、私の県内平均着順を数年ぶりに1.0以外の数字にした犯人がこいつだ。

それが、完膚なきまでに叩き潰された。


やえ「おまえのせいじゃない。たとえ私があの場に居ても結果は変わらなかった。悔しいがな」


その事実は、私にとっても他人事ではなかった。

昨年度のインターハイチャンピオン。
一年生にして、並み居る強豪を蹴散らして頂に立った、規格外の怪物……私と同い年のはずのそいつが、当然のように立つ場所の遠さを、思い知らされた。


紀子「…やえでも、無理?」


丸瀬紀子。中学の時から私をライバルに認定して因縁を吹っかけてくる目つきの悪い女だ。
その実力は私が保証する。私のライバルと言い張るこいつは、県内では私以外のほとんどの相手に大幅に勝ち越している。巽ですら例外ではなく、部内順位と今年の奈良県予選の順位は2位。
こいつが一度も私に勝ったことがないのに対して一度とはいえ巽が私に勝ったので異論はあるだろうが、多くの者が認めるであろう奈良県のナンバー2だ。


やえ「……今の実力では、無理だろうな」


認めたくはない。しかし、事実。
高校生になってからいきなり現れた同期のライバル。
愛宕洋榎、清水谷竜華、白水哩、弘世菫、福路美穂子…インターミドルでも何度も対戦した同期の中心的な面々と比べても明らかに異質な存在。


―――宮永照


『県内最強』、その称号と誇りは、彼女の前では、日に照らされた夜の闇のような儚いものだった。


由華「う……うわああああん! 先輩! 先輩!」


私にしがみつくようにして泣きじゃくる後輩をあやしながら、私は、頂に昇る太陽の遠さを噛みしめていた。


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『白糸台高校、インターハイ二連覇』

晩成の二回戦敗退から数日の後に発せられたその知らせは、瞬く間に全国に広がった。
そして、その立て役者である宮永照の名も、一年ぶりに全国の津々浦々に届くことになった。


やえ「牌に愛された子、か…」


新聞を広げながら、そこに書かれた文句を見て独りごちる。
聞きなれた単語と、自分にない才能、自分にない強さ。

――最下位からの奇跡の大逆転

仲間の負けをすべて背負って、なおチームを勝利に導く姿は、私の理想そのものだった。


日菜「やえ、どうしたの? まだ負けたことを気にしてるのかな?」


木村日菜。晩成の二年生レギュラーだ。
部内4位、巽や紀子には及ばないものの、二年生にして晩成の三年生をすべて押しのけて今年のレギュラーに収まった逸材。
堅実に和了りを刻み、振り込みは滅多にしない。どの区間に配置しても確実な結果を残してくれる団体戦には欠かせない存在だ。


やえ「負けは気にしていないさ。巽で無理なら私でも無理だ、完全に実力不足だったな」

日菜「でも…やえ、暗い顔してるよ…」


負けたことは気にしていない。これは本心。
勝負の結果、しかも全力を尽くした結果だ、いつまでもくよくよするものではない。
あまり引っ張ると巽にも悪影響だしな。

私が悩んでいるのはそれではない。


やえ「『奈良の王者』か…井の中の蛙とはこのことだな」


自嘲する。
絶対的なエース。チームの皆に信頼されるエース。それが私だ。

だが、私は、少なくとも今のままでは絶対に宮永照に勝てない。

何度やっても、結果は同じだろう。

負けたことはいい。過去のことだ。これから取り返せばいい。
しかし、『勝てない』、というのは問題だ。

何度やっても勝てないのだから、挑む意味すらない。
エースである私が勝てないのだから、他のものはなおさらだ。
私個人の負けがチームの負けに繋がる。それほどの信頼を受けた絶対的なエース、それが将来に渡って負け続けることを確信しているのだ。
来年のインターハイそのものが無意味に思えてくる。



日菜「そんなこと言わないで、やえは強いよ…」

良子「そうだぞ。お前が井の中の蛙なんて言ったらあたしらはどうなるんだ?ミジンコか?ゾウリムシか?」


上田良子、部内8位。5位から7位と9位から13位までは三年生なので、レギュラー以外の二年生以下の中では頭一つ抜けていることになる。
よほど有望な一年が入らなければ、来年はこいつがレギュラーになるだろう。


やえ「日菜はまあいいとして、上田は…水道管のバクテリアかな」

良子「ぶっ殺すぞドリル頭」

やえ「…宮永照、か。私があいつに勝てなければ、優勝は出来ないんだろうな」


軽口を叩いた後に本音を漏らす。こいつなら、これが本音だと察してくれるだろう。


良子「…勝たなくてもリードを保って逃げ切れば良いんじゃないか?」


…そうだな、しかし、巽に出来なかった以上、私にもおそらく無理だろう。
よほど大量のリードがあれば別だが、巽は2万点ほどのリードがあったのに最後には10万点以上の差をつけられた。
巽が12万なら、私でも10万程度は負ける。

白糸台は宮永以外も決して弱くはない、10万点のリードを作るのは到底無理だろう。やはり現状ではどうにもならん。
しかし、それをそのまま正直に言ったところで不安にさせるだけだ。
言おうかどうかと少しの間逡巡して、結局、私は悩みを自分の中に抱え込んだ。


やえ「…そうだな。ま、何はともあれ個人に集中しなければな」


日菜「うん!頑張ってね、やえ!」


個人戦。
宮永照と私の差をじかに確かめるために意気込んで臨んだものの、私と宮永が打つことはなかった。

宮永が辞退したわけではない。あいつは個人も制覇して団体戦・個人戦の二連覇を成し遂げた。

つまり、奴と打つ前に、私が個人戦の舞台から姿を消したのだ。

一試合目の相手、荒川憩。
北大阪、三箇牧高校の一年。北大阪の個人戦一位。
こいつに、完膚なきまでに叩き潰された。
それはもう徹底的に。
具体的に言うと、一度も聴牌することができないまま、試合が終わった。

それを引きずったまま次の試合でも精彩を欠いた打牌をして、気付けば予選落ち。

そして、その荒川憩ですら、宮永照には勝てなかった。


絶望的な実力差は、私の心を蝕む。


【新子家】


昨日、シズから電話があった。
インターミドルの決勝、和が優勝した試合を見ていたらしくて、すごく興奮しているようだった。

――原村和――

私たちが子供の頃通っていた、阿知賀こども麻雀倶楽部の一員。インターミドルチャンピオン。


憧「あの頃は私もいい勝負出来てたはずなんだけどな…」


誰に言うでもなく呟く。

どうして差がついたのか?

私が努力を怠ったわけではない…と思う。
親友であるシズと別れてまで、阿太峰に進学して練習を重ねてきた。
けど、私は県予選すら突破できず、和は全国チャンピオン。

この差の原因……和が私以上に努力したか、でなければ……


憧「才能の、違い…?」


認めない。
そんなもので私の努力を否定させはしない。

そして、才能の違いでないなら、努力や環境の差なんだ。


憧「ごめんね、シズ。あんたのことは応援してあげたいけど、私は本気なんだ」


シズは阿知賀に進学する。
阿知賀に麻雀部はない。
麻雀部がないところに、良好な練習環境はない。

よって、シズと一緒に阿知賀に進学することは、麻雀の上達を諦めることになる。


憧「私は、晩成高校に進学できる学力がある…【王者】を筆頭とした奈良県最強の麻雀部に行くチャンスがある」

ちなみに、県北部の人間なら県境を超えて南大阪の姫松という選択肢もある。
しかし、私にはその選択肢はなく、今選べる中で最高の環境となると晩成高校になる。

…和の活躍を見て、私の決意は固まっていた。


憧「私は、晩成高校に行く!」


【翌年 晩成高校麻雀部室】


やえ「…ベスト4は全員姫松に行ったか」


日菜が今年の新入生の情報を持ってきたので目を通す。
目玉は阿太峰中の新子と岡橋、インターミドルの成績は県ベスト8。
目玉がベスト8なのだから、ベスト4は他へ行ったわけだ。
姫松がなまじ近く、晩成の進学校としての偏差値も障害になって、奈良県で実績を残した強豪は姫松に進学することが多かった。


紀子「ベスト4にも目ぼしい人材はいない。もともとあてにしてない」


そうは言っても落胆は隠せない。
宮永に対抗できる人材が入って来てはくれないものか、という浅ましい期待は打ち砕かれた。

私が宮永を抑えなくてはいけない。
それが出来なければ勝ち目はない。

そして、それは出来ない。

私の中で、優勝を目指す志が消えていくのを感じる。

絶望という毒に蝕まれて、心が萎えて行く。


日菜「良子ちゃん、一緒に頑張ろうね」

良子「ま、ベスト8止まりの連中には負けないだろ、よろしくな」

紀子「…はあ」


多分、10分ほど前なら溜め息を吐く紀子に共感しただろう。

上田は弱くはない、が、強くもない。
申し訳ないが、宮永照率いる白糸台…昨年を上回る戦力と評判の『チーム虎姫』を相手にするには、明らかに役者が足りない。
こいつしかいないとなれば、溜め息の一つもでるだろう。

しかし、今の私には、白糸台に勝つ気はなくなっていた。

だから、こんな言葉が出る。


やえ「せいぜい、足を引っ張らないようにしてくれよ。よろしくな」

紀子「……」


紀子が、ただでさえ悪い目つきをさらに厳しくして私を見ていた。


晩成高校麻雀部は一年生の仮入部の時点でその年の一軍の選抜を行う。
仮入部を経ずに後から入る人間にはあまり期待していないからだ。

よほどの規格外の逸材でもいれば話は別だが、晩成高校の長い歴史の中でそのような例はない。

一軍の選抜は昨年の一軍メンバーが行う。
定員は9名まで。
9という数字に深い意味はないらしい、近年は最大でも7名までに収まっている。

岡橋と新子がどの程度か知らないが、どちらかを一軍に入れて合計6名が今年の一軍になるだろう。


由華「ロンです、5200。アガリやめします」

紀子「…」

日菜「由華、最近調子いいね。またやえが居る卓でトップだよ!」

由華「はいっ!」


また紀子の奴が睨んできている。
おそらく、負けたことを責めているのだろうが、実力で負けたものは仕方ないだろう。


紀子「…やえ、真面目に打ってる?」


ほら来た。
私は手を抜いたりはしていないので、この質問には「もちろん」と答えるだけなのだが、なぜか言葉に詰まる。

理由は分かっている、確かに、私は本気で打てていない。

もちろん、今出来る全力では打っているが、それは、こいつの知っている「王者」からはほど遠い。


やえ「…もちろん本気だ。巽は強くなった」

紀子「嘘。本気のやえは私に負けたりしない」


…いつもは「ライバル」だの、「次やったら勝つ」だのと言い張っているくせに。


日菜「何言ってるの? 今回だって紀子ちゃんよりは上じゃない」

やえ「…それはどうかな? 紀子だぞ」


紀子は確信のないことは言わない、そういう奴だ。
ということは、こいつは「今の対局で私に勝った」、そのはずだ。


紀子「…」パタン


先ほど私が切った1筒で和了り。混一色ドラ3、12000の手。
私の下家に座っているので、ダブロンはもちろん、上家取りでも紀子の和了りが優先。

そして、私と紀子の点差は12000の直撃なら逆転する。


紀子「…いい加減にして、やえ」

日菜「の、紀子ちゃん…」

やえ「…」


勝ったはずなのにその悔しそうな目はなんだ。
というか、何故和了りを申告しなかった?

そう言おうとしたが、言えなかった。

紀子の視線に気圧されたからだ。


紀子「…」


部屋全体を、重い沈黙が包む…


しかし、沈黙は長く続かなかった。
無造作に扉をあけ放ち、アホ面を下げて登場した馬鹿が居たからだ。


良子「おーっす、茶道部の部長に新入生の扱い方とか聞かれて遅くなった!」


これ幸いとばかりに、私は上田に話を向ける。
紀子の視線から逃れるために。

日菜も巽も、私の企てに乗った。


やえ「…茶道部の部長は相当のアホだな。聞くなら私か日菜に聞くべきだろうに」

日菜「よりにもよって良子ちゃんに聞くなんて……茶道部も終わりかな」

由華「伝統が途絶えるのは、寂しいですね…」


良子「酷っ!? なにこれ、なんでいきなり集中砲火喰らってんの私!?」


紀子「…」


紀子の不満げな視線が私に向く。

私は、紀子から視線を逸らすことしか出来なかった。


翌日、紀子の機嫌は悪かった。

無表情、無口、無反応、ゆえに、こいつの機嫌は分かりにくい。
付き合いの長い私ですら、よほど機嫌の良い時ぐらいしか見分けがつかない。

それが、誰の目にもはっきり分かるほどに機嫌が悪かった。
普段の仏頂面をさらに不機嫌そうに歪ませ、周囲を威圧するオーラを放っている。

これから、新入生の選抜だというのに。

紀子の不機嫌の原因は間違いなく私だ。
だから、私が何とかしなければならないのだが、今の私にはどうすることも出来ない。


新入生の選抜。
岡橋と新子以外には見どころのあるものはいなかった。

岡橋と新子もこれから見るからまだわからないというだけで、期待は出来ない。


紀子「その二人は私が見る。日菜、どいて」

日菜「えっ?あ、うん、それはいいけど…」


…どういう風の吹き回しだ?


やえ「なら、私も巽と代わろうか?」

由華「あ、はい、では……」


言いかけて、巽が動きを止める。原因はもちろん……


紀子「…」


そんな目で睨むな。巽はまだいいが、新入生が怯えるだろう。


由華「い、いえ、遠慮します」

紀子「…そう。じゃあ、この四人で」


まったく、何を考えているのやら…


憧「ロン、5800。二位まくりで終了します」

日菜「うそ……」

良子「おいおい、どうなってる?」

由華「先輩が…三位?」

初瀬「凄いすごい! すごいよ憧! あの県内無敗の『王者』に順位で勝っちゃったよ!」


やえ「…なるほど、このため、か」

紀子「…」


新子と岡橋の試験対局、半荘通して紀子は私を狙い続けた。
最後の新子からの直撃は本当に読めていなかったが、私が振らなくとも紀子が差し込んでいただろう。


憧「……」

初瀬「……どうしたの憧? 『王者』に勝ったんだし、一軍も確定みたいなもんでしょ。嬉しくないのあんた?」

憧「……そうだね、喜べないな」

紀子「」ピク


一年は一年で何か言っている。
まあ、私に憧れて入って来たのなら、失望もするだろうな。

だが、私にはそれを咎める権利はないだろう。


憧「…あなた、本当に『王者』?」


予想通り、『王者』に勝ててしまったことを認めたくないらしい。
さて、どう答えたものかと思案している間に、よそから非難の声が上がる。


良子「おいこら一年、まぐれで勝ったぐらいで調子のんな!」

日菜「そうだよ! やえは強いんだから! あなたには分からなかったかもしれないけど、今だって紀子ちゃんがやえばっかり狙ってたから…」

やえ「……」ハッ


待て、おかしい。
何故、こいつは私に勝てた?


『王者』はまぐれで勝てる相手ではない。
『王者』は、丸瀬紀子が徹底的にマークした程度では揺らがない。
『王者』は、昨年のインハイ個人戦で巽由華が奇跡を起こすまで、奈良県内の公式戦において1着以外で半荘を終えたことがない無敗の『王者』なのだから。

百歩譲って、今の腑抜けた私に紀子が勝てるのは認めよう。
だが、私がミドルで大した成績も残せてない新入生に負けるなんてことがあるのか?

晩成高校の歴史の中でもでも稀有な逸材である木村日菜ですら出来ないことを、いくら紀子がサポートしたからと言って出来るものなのか?


憧「私が聞いた話だと、徹底的な三対一の状況でも『王者』は負けないって話でしたけど?」


その通りだ。
事実、日菜や上田では三対一でも私に勝てない。
今こいつが勝ってみせたのと同様に紀子がサポートしても、おそらくそれは変わらない。

だからこそ、『なぜこいつは私に勝てたのか』が疑問として湧いてくる。

その答えは、恐ろしく単純だ。


――――新子憧は、『王者』にまぐれで勝てる程度には強いのだ。


負けて、晴れやかな気分になったのは初めてかもしれない。
腑抜けていたとはいえ、紀子がサポートしたとはいえ、私に勝てる一年が入って来て、しかも勝ったことに満足していない。

打倒白糸台と全国優勝……諦めていた心に、活力が戻るのを感じる。


やえ「…その通りだ。丸瀬紀子が知っている『王者』なら、紀子が徹底的に狙ったぐらいでトップを手放したりしない。そうだな紀子?」

紀子「…うん」

由華「せ、先輩?」


不思議なものだ。
今さっき和了りを逃した手牌を今見れば、どう考えても切るべきでない牌を切り、わざと和了りを逃したようにすら思える。

やえ「三萬」

呟きとともに、山に手を伸ばす。
先ほどの対局が続いていれば、自分がツモったであろう牌。

盲牌をして伝わってくる感触は、三本の線と、ごつごつした画数の多い漢字のそれである。
予見した通り、そこには三萬があった。

やえ「……気の持ちようでここまで変わるものか。麻雀とは面白いものだな」


日菜「や、やえ……?」

紀子「……」

やえ「すまないな新子。先ほどまでの私は、『小走やえ』ではあっても『王者』ではなかった」

憧「…どういうこと? 選抜試験だから手加減してたってこと?」

やえ「いや、全力だったさ。先ほどまでの私にとっての、だがな」

紀子「……」


紀子の仏頂面が、見慣れた仏頂面に戻った気がする。
少なくとも、視線だけで人を殺せそうなほどの威圧感はもう感じない。


やえ「すまない、新子、もう一度打ってくれないか? 今度こそ、『王者の打ち筋』をお見せしよう」

憧「…なんかよくわかんないけど、安心したわ。あの程度なら晴絵とかお姉ちゃんの方が強いし。晩成に来たことを速攻で後悔するかと思った」


腑抜けていたとはいえ、私から直撃を取った1年。
1年ゆえに成長も期待できる。

私の心を蝕んでいた猛毒を抑えるのに十分な希望だ。


紀子「…岡橋さん、由華と代わって」

初瀬「え?」

由華「え?」

紀子「…王者が帰って来る。出迎えは、豪華に」


やえ「そうだな。腑抜けと打って調子に乗った2年に、現実を教えておく必要もある」

日菜「や、やえ…?」

やえ「日菜、上田、おかしなことを抜かしていたから貴様らにも後でわからせてやる。紀子に狙われようが、1年がまぐれのバカヅキを起こそうが、『王者』に負けはないということを」

良子「え? 私も?」

日菜「お、お手柔らかに……」


憧「これが『王者』か……さっきと全然違うじゃん。聞いてた通りの化けもんだわ」

初瀬「私と打ってた時も十分強いと思いましたけど……凄いです! 小走先輩!」

紀子「……おかえり、『王者』」


やえ「ああ、ただいま」


東場はさっきの半荘で油断していた新子と、最近ヌルイ打牌で勝てていた巽を狙って浮上。
南場は完全な三対一だったが、東場のリードにものを言わせて不自由な打牌を強いて逃げ切った。
終わってみれば圧勝。だが、点差ほどの差はない。


由華「追いつけたと思っていたんですが、まだまだだったみたいですね」

やえ「そうでもない、東場のリードが大きかったからな。お前は私に勝利しうる奈良県で唯一の打ち手であることには変わりないぞ」

紀子「…唯一じゃない。私が居る」


自称ライバル様は昨日の自分の発言をお忘れになったようだ。
からかってやりたい気もするが、恩を仇で返すわけにもいかないので私も昨日のこいつの発言は忘れたことにしておく。


やえ「さて、そういえばこれは一軍の選抜試験だったな…」

憧「うっ…」

由華「まあ、結果は言わずもがなですけどね」

紀子「腑抜けていたとはいえ、やえから直撃をとって順位でも勝った。日菜より有望」

日菜「えっ!? ちょっと紀子ちゃん、それは聞き捨てならないよ!」

良子「てゆうか、それだと私がレギュラー落ちるだろ! 一軍はともかく、そこの格付けは直接打ってからだ!」


やえ「新子憧、一軍だ。岡橋は残念だがしばらく二軍で研鑚に励んでくれ」


初瀬「はい…」

憧「え? いいんですか? 私、さっきの半荘ボロボロでしたけど…」


やえ「この面子は奈良県の個人戦決勝卓だぞ。トバずに半荘打ち切っただけでも上出来だ」

紀子「…良子なら飛んでる」

良子「おいこらそこ!」

由華「よろしくね、新子さん」

憧「は、はい! よろしくお願いします!」


私から直撃を取った期待の一年。
鳴き三色や鳴き一通を絡めた速度重視の立ち回りは評価できる。
どういうわけか、格上相手の勝負にも慣れているようだった。

こいつを鍛えれば、あるいは……という浅ましい考えが浮かんでくる。
少なくとも、速度に優れていることもあって私よりは奴との相性はいいはずだ。



良子「さっきから紀子の毒舌が絶好調なんだが」

日菜「さっきまでの不機嫌オーラ全開よりましだよ…」

やえ「むしろ、これは紀子の機嫌がいいときの特徴だな。これだけ饒舌にしゃべる紀子は珍しい」

紀子「…そんなことない」

由華「丸瀬先輩は先輩にご執心ですから」

紀子「…由華」


紀子が巽を睨む視線には、昨日私を怖じさせた圧力は込められていない。
まあ、それでも並みの人間なら怖じて言葉を飲むだろうが、この程度なら巽は慣れている。


やえ「さてと、次に行くか。日菜、上田。お前たちと新子の格付けを済ませようじゃないか」

日菜「うっ…」

良子「げっ…」

由華「手ごわいですよー。なんでこの子がベスト8止まりだったのか分かりません」

紀子「…指にマメが出来てる。最近になって相当打ちこんだはず」

憧「…良く見てますね」

やえ「それに気付けんようでは、王者のライバルは務まらんさ。では、始めるぞ」


【五月】


憧「ねー、やえー」


放課後。
部室に向かう途中、廊下で憧が声をかけて来た。
言って直るとは思えないし、事実直らないのだが、先輩として言うべきことは言っておくことにする。


やえ「せめて『先輩』をつけろと何度言えば分かるんだお前は」

憧「べつにいいじゃん。それよりこの牌譜なんだけど…」


言っても直らない事をお互いに理解した上での、形だけの注意。
それを「べつにいいじゃん」の一言で一蹴し、さっさと本題に入ろうとしてくる。
ここまで来ると、もはや清々しい。

こちらとしても形だけの注意なので、問答を続けることはしない。
特に抵抗もせずに、差し出された牌譜に目を通す。
これもこいつの傍若無人を助長している気がするが、かといって不毛な時間を費やす気もない。

牌譜はどうやらネットで打った対局の記録らしい、日付は昨日。
ミスらしいミスはないが、結果は憧が三位で終わっている。


やえ「ミスというほどのミスはないな。半荘一回で相手の癖を見抜くのは新子にはまだ無理だろう」

紀子「…そうやって甘やかすからつけあがる」


いつから居たのか、紀子が不満げな視線を私に向けていた。
甘やかすなと言っても、注意しても時間の無駄にしかならないのだから仕方ないだろう。


憧「あ、紀子。ちょうどいいや、紀子にも見てほしいんだけど、これどう思う?」

紀子「…」


そして、こいつに私を責める権利はないと思う。
呼び捨てを咎める事すらせずに、差し出された牌譜とにらめっこを始めた奴に「甘やかすな」とは言われたくない。


紀子「デジタル的にはミスはない。けど、東場までの時点で、相手の……特に対面の打ち方に自風を鳴く、少なくとも鳴こうとする傾向が見られる。南一局のこの場面ではポンを警戒して対面の風は後で切るべきだった」

やえ「それを、今のこいつにもう求めるのか?」

紀子「…憧なら出来る」


断言するが、こいつが我々のなかで一番憧に甘い。
その甘さは、孫を溺愛する祖父母のそれに近い。


憧「あー…なるほど、言われてみれば対面がおかしな打ち方してるわね。他の二人はそれを知って変な打ち方してるのかな…?」

紀子「セオリーを外れた打牌には、対応した打ち方が要求される。一人の異物が紛れ込めば、場の状況は激変する」

やえ「場の状況と自分の手牌が全く同じでも、相手によって打牌は変わる。変えない奴は、この世界では超一流か二流以下のどちらかだ」

憧「相手によって……か。つまり、相手の打ち方を半荘一回の間に把握しなきゃダメってことだよね?」

やえ「ネト麻ならそうだな。牌譜が出回ってるような上位の有名アカウント相手でなければ初見で対応するしかない」


ネト麻なら、ということは、現実の麻雀では違うと暗に匂わせている。
それに気づかない奴ではないので、食いついてくるだろう。


憧「…現実でも同じじゃない? 無名の選手は研究しようにも牌譜がないじゃん」

やえ「それはそうだが、現実問題として、全国に無名の選手が出てくることはまずない」

紀子「出てきたとしても、有名選手に率いられたチームの人数合わせ程度」

やえ「…まあ、最近は二年連続でおかしなやつが出てきているがな」


一年時の宮永照は無名の選手だった。
対策すらできずに、ほとんどの者が圧倒的な力にねじ伏せられた。

昨年の天江衣も無名の一年生だった。
やはり、なすすべもなく名門校が蹂躙されていった。
臨海は天江をどうにかすることは諦めたのだろう、副将でトバして勝負を避けた。

今年も無名の一年が大暴れするのだろうか?

…してもらいたいものだな、新子憧に。


憧「ま、それもそうか。個人ならわからないけど、あたしが出るのは団体だしね」

やえ「個人で出ても構わんぞ? 巽か紀子を蹴落とせばいい」

紀子「…私は無理だから、由華を蹴落として」

由華「ちょっと、私なら蹴落とせるみたいな言い方やめてください。まだ負けませんから」ヒョコッ


噂をすれば影が差す……部室へ向かう途中だが、いや、途中だからこそか、話し込んでいると余計な奴らがワラワラと湧いてくる。


やえ「立ち話もなんだ、とりあえず部室に行かないか?」

憧「てゆうか、由華にも紀子にも勝てないって。ギリギリで日菜だね。だから睨まないでよ由華」

由華「憧、呼び捨てをやめなさいと何度言えば……」

憧「やば、お説教が始まる……逃げちゃえ!」


憧が部室に向かって駆け出す。
巽も憧も目的地が部室なのだから、逃げてもどうせ捕まるだけなのだが……

計算しているのか、天然なのか、憧のタメ口と呼び捨てを真面目に注意する唯一の先輩である巽は、毒気を抜かれていた。


由華「もう……部室についたら麻雀でお説教です」

やえ「はははっ、ほどほどにな」


【二週間後】


やえ「インハイのオーダーが決まったから発表するぞー」

事前に、今日発表することは伝えてある。
それを伝えた時、上田は自分のポジションを気にしていた。


良子「あー、ついに私の全国デビューか」


アホはほうっておいて、淡々とオーダーを発表していく


やえ「まず先鋒、新子憧」

憧「…は?」


予想通りの反応。
おそらく、先鋒は私だと考えていたのだろう。


やえ「次鋒、丸瀬紀子。中堅、巽由華」

憧「ちょっと、無視すんな! 説明を要求する!」

やえ「副将、木村日菜。大将は私、小走やえだ。異論は私に勝てたら聞いてやる」

憧「異議あり! 勝ったら異論を聞くんでしょ? 私は一軍選抜の時に勝ったからいいよね?」

やえ「ノーカンに決まってるだろ馬鹿が。まあいい、質問ぐらいはさせてやろう」


飛んでくる質問が一つしかないことは分かっている。
普段小賢しいくせにこういう時は素直に読みどおりの行動をするのが、こいつの憎めないところだ。


憧「じゃあ聞くけど、なんで私が先鋒なの!?」

やえ「宮永照を抑えるのに、お前が一番適任だからだ」

憧「…へ?」


進学校でもある晩成に来るぐらいだから、うちの部員は基本的に頭が切れる。
ただ、その中でもこいつは別格だ。

私の告げた一文の意味を、全力で解読している。
一を聞いて十を知る、それは本当に知恵のあるものにしか出来ない。

私は、こいつと会話をするのが好きだ。


憧「優勝への障害は白糸台だけじゃないでしょ? 大丈夫なの?」


今、憧が発した言葉には、「私が本気で優勝を狙っていることを理解した」というメッセージが込められている。
必要な情報を省かないように、かつ、やり取りの回数を最小限にとどめるように会話を飛ばしていく、こいつとの会話はそれ自体がゲームのようなものだ。


やえ「先鋒は一番データが集まるポジションだ。お前を信頼している」


後付の理由と本音。
一番データが集まりやすいポジションだから対策などを立ててフォローすることが出来るというのが後付け。
信頼しているというのが本音。

そもそも、最強の高校生である宮永照の相手を任せるのだから、他の誰が相手でも安心して任せられるに決まっている。


憧「…分かった」


由華「え、えっと…先輩、会話について行けてないんですけど…」


残念ながら会話についてきていない者が出たようだ。


やえ「新子、お前が会話の途中経過を飛ばすからだぞ」

憧「やえだって飛ばしまくってるじゃん!」

日菜「最近、やえの思考が理解できないよぉ…」

良子「ところで、あたしのポジションは?」


紀子「…ということは、私がエース?」


当然だが、こいつは会話についてきている。

先鋒はエースポジションだが、このオーダーにおいて憧はエースではない。
相手のエース相手に速度を生かして立ち回り、失点を最小限に抑えるための起用だ。
その失点をカバーし、リードを作って中堅に繋ぐ、今回は次鋒が実質的なエースポジションになる。

更に巽を中堅に起用したので、最悪でもここまでにはプラスに戻せると踏んでいる。
日菜が私に繋いでくれれば、最後は私がどうにかする。


やえ「そうなるな。新子が削られた分を取り返して、可能ならリードを作ってくれ」

紀子「……なら、天江は任せる」

やえ「最初からそのつもりだ、任された」


日菜「…紀子ちゃんまで異次元の会話をしてる」

良子「おい、いい加減分かるように説明しろ」

由華「うーん…憧の起用は宮永照対策で…ということはこれは優勝を目指すオーダーで…」


やえ「では、オーダーの説明をするぞ。まず新子を先鋒に起用した理由だが……」


【新子家】


憧「へ? ハルエが?」

望「そ、阿知賀の顧問やるんだって」


赤土晴絵、私の麻雀の原点である阿知賀こども麻雀倶楽部の先生。
それが、阿知賀女子の顧問になっているという。

阿知賀には、シズと玄が居る。
他の三人がどの程度打てるかにもよるけど、ハルエが指導するなら強敵になりえる。


憧「そう……ま、勝つのはあたしだけどね」

望「あんたが阿知賀に行っててくれれば楽だったのにねー。かたや母校と親友、かたや実の妹、どっちを応援すりゃいいのか悩ましいよ」

憧「素直にハルエの応援しなよ。あたしには100人を超える応援団がつくことが決まってるんだから」


100人というのは部員だけの数だ。
OG、後援会は言うに及ばず、奈良県内なら麻雀を打つ人間のほとんどは晩成高校の味方をする。
実際に阿知賀と対戦するときに私の応援をする人は、100人どころか1000を軽く超える数になるだろう。


望「あはは、そんなこと言って、実際にあたしが阿知賀の応援したら寂しいくせに」


この姉は変なとこだけ鋭いんだから。
んなこと気にしなくていいって言ってるのに。


憧「…まあね」

望「先鋒だけあんたの応援するよ。そのあとは阿知賀の応援」

憧「…ありがと」

望「どういたしまして」


正直、たとえ玄が相手だろうとうちのレギュラーが負ける気はしないけど。
しかし、ハルエがコーチにつくなら用心するに越したことはない。

明日あたり、やえに話しておこう。


やえ「ふむ……阿知賀のレジェンド、赤土晴絵か」

憧「そ、大丈夫だとは思うけど、気を付けてね」


帰り道。

私に対する地獄の特訓のねぎらいとしてやえがコンビニでおごってくれるということなのでお言葉に甘える。
ついでに、阿知賀の話をしている。


初瀬「でも、先輩がいれば大丈夫ですよね!」

やえ「どうだかな。その時の牌譜は見ているが、あれは相当打てるぞ」

憧「本人が出てくるわけじゃないけどね」

やえ「麻雀教室をやっていたんだろう? その教え子がお前だ、指導力は推して知るべしだな」

初瀬「いやいや、憧だって中学の頃は私と同じぐらいだったんですよ? そこまで警戒しなくても…」


憧「あ…」

やえ「ん?」

?「あっ!? 憧!」


コンビニの中で品物を物色しながら喋っていたら、見覚えのあるジャージが入口から入って来た。


憧「久しぶり、シズ」

穏乃「久しぶりー! 元気にしてる?」スッ

憧「今は腕上がんないからハイタッチはパスね」

穏乃「え、どうしたの? 怪我!?」

やえ「部活だ。腕が上がらなくなるまで打たせた……貴様のそのマメ、なるほど、相当打ってるようだな」

穏乃「えっと、誰?」

憧「シズ、王者を知らないで麻雀打ってる奈良県の高校生は多分あんただけだよ」

穏乃「王者?」

初瀬「本当に知らないの!? うそでしょ?」


やえ「マメか……懐かしいな。私は小3の頃からマメすら出来ん」

穏乃「え?」


やえ「少し前なら、マメができるのはニワカと侮っただろう。自分にマメが出来ないと驕っただろう」

憧「やえ…」

やえ「しかし、私はマメができるまでどれほどの牌を打たなければならないか知っている。
  マメができるほどに打ち込めばどれほど成長するかを知っている。
  新子から聞いただけでは半信半疑だったが、確かに、貴様ら阿知賀女子は強敵らしい」

穏乃「もちろん! 目指すは全国、憧にだって負けない!」

やえ「せいぜい頑張れ。ただし、十年前の奇跡は二度と起こさせないぞ」

憧「てゆうか、あたしより下だったあんたが調子乗んな! 玄にだってもう負けないから!」

穏乃「私だって三年前のままじゃないやい!」

やえ「そこまでだ、店内で騒ぐな」

憧「はーい」


そこで一区切りつけて、目当ての品物を手に取って会計を済ませる。
外に出て、別れ際に、シズに一言告げる。


憧「待ってるよ、シズ。決勝で」


玄とシズが居るチームをハルエが指導する、この時点で相当な強敵。
部員が五人もすんなり集まると思えないから、おそらく宥姉も誘ってるはず。
宥姉もかなり打てたはずだから、まず間違いなく決勝には出てくるだろう。


穏乃「うん! 絶対行くから、待ってて、憧!」


自信満々、おそらく何の根拠もなく勢いだけで言っている。
それでこそシズだ。

テンションが上がったシズはそのまま走り出す。


穏乃「うおおおおお! 燃えて来たーー!」


そのまま、猛スピードで走り去るシズ。
変わらないな、あいつは。


やえ「決勝で待ってる、か。言うようになったじゃないか」

初瀬「憧の口は元からでしょう」

憧「私がヘマしてもやえがどうにかするでしょ。決勝までは余裕だって」

やえ「私任せか。これは性根を鍛え治す必要があるな」

憧「はいはい、メニュー追加なら明日にしてね。今日は流石に帰るわよ」

やえ「まったく、明日は覚悟しておけよ」

憧「お手柔らかに」


軽口を叩き合ってやえと別れる。

県予選が、もうすぐ始まる。


全国麻雀選手権大会団体戦奈良県予選初日、ついにこの日が来た。

事前に送られてきた組み合わせ表を確認する。
今年の奈良県予選は出場校が32校ちょうどなので、シードが存在しない。
そのため、9年連続、創立以来39度の優勝を経験している晩成高校も一回戦からの参加となる。

その、一回戦の相手。

――阿知賀女子学院――

中高一貫制の私立高校。
過去に一度だけ晩成が県大会優勝を逃した、10年前のインターハイの奈良県代表。

私の麻雀の原点、阿知賀こども麻雀クラブのあった場所。


憧「決勝で待ってるとかカッコよく言ったあたしがアホみたいじゃない。組み合わせ決めた奴、空気読みなさいよ」


しょうもない悪態を一つ。
これで心の準備は出来た。

先鋒として対局室に向かう。
そこには多分、見知った顔が居るはずだ。

先鋒はエースポジション。
それを任されるのは、阿知賀なら誰か?
私の中にある人物が浮かぶ……これは間違ってないという確信がある。


対局室に居たのは、松実玄だった。

阿知賀こども麻雀クラブの不動のエース。
あたしもシズも、玄自身も、和やハルエだって認めていた絶対のエース。
阿知賀こども麻雀クラブのエース松実玄は、阿知賀女子のエース松実玄になっていた。

それは当然だろう、エースは一番強いからエースなんだ。

あの玄が……私もシズも、後にインターミドルチャンピオンになった和ですら勝てなかった玄が、今、倒さなければならない敵として私の前に居る。
それは、私を何とも言えない気持ちにさせた。

こどもの頃、絶対的に信頼していた強者が自分の敵になること。
自分の想い出の相手が敵になること。


そして、松実玄を敵に回して、自分が勝てると思っていること。


それらが全て混ざって、変な感傷に包まれた。

振り切って、卓に向かう。


憧「久しぶり、玄」

玄「憧ちゃん? え? 晩成の先鋒が、憧ちゃん?」

憧「そう。私が晩成の先鋒。子供の頃と同じだと思ってると焼き鳥になるよ」

玄「…私は、負けない。勝って、おねーちゃんと、穏乃ちゃんと、和ちゃんと、また麻雀を打つんだ!」

憧「…私は勝つ気だよ。けど、心のどこかで、玄には私に勝って欲しいって思ってる。がっかりさせないでね」

玄「…お任せあれ! 阿知賀女子のエース、松実玄の力をお見せします!」


モブ「よろしくお願いします」

モブ「よろしく」

憧「よろしくお願いします」

玄「よろしくお願いします」


場決めをして卓につく、今回は玄の下家、これほど打ちやすい位置もなかなかない。
玄はドラを手放さない、玄はドラをすべて集める。
通常なら、ドラ付近は残すのが正しいが、玄が同卓しているという事実は常識を反転させる。

ドラの隣は端牌と同じ、ドラ待ちカンチャンは死に面子、ドラ待ち両面はペンチャン…
しかも、今は一回戦。
玄のことも、私のことも、知ってる人間はいない。

晩成の一年レギュラー、それが妙な打ち回しをしたところで、玄の能力だと考える人間はいない。
場にドラが一枚も見えないのも、私の力だと考えるだろう。

考えられるのは、全てのドラを王牌に押し込める力。
絶対的なエース小走やえを擁しながらそれを先鋒におかない理由としても、卓上全体の打点を下げる打ち手をエースが集まる先鋒にぶつけると考えれば自然に思える。
まあ、一回戦のレベルでそこまで考えが及ぶかどうかは怪しいけど。

上手いことそこに考えが至ってくれれば、ドラ目当てで死に面子を残すこともないだろう。
玄はドラを固める分だけ手が縛られる。
私一人だけだとどうしても追いつけないこともあるけど、三人とも玄への対策が出来ていて、それを私がサポートすれば、玄の封殺は難しくない。

阿知賀で怖いのは玄と宥姉、晩成で一番弱いのは私。
宥姉の対策は紀子に伝えてある。

私が玄を抑え込んでしまえば、紀子や由華、ましてや『王者』小走やえが負けるとは思えない。

ここで、勝負を決める。


東家 新子憧
南家 荒蒔高校(荒モブ)
西家 春日野高校(春モブ)
北家 松実玄



東一局 ドラ:3索


玄「」タン

打:8s


憧「それ、チー」

憧手牌

46789m中中中 チー:234p 789s 


憧(玄の下家に居れば、ドラに絡まない牌は切られてくる。ドラを見切って手作りしてる私にしてみれば、玄が最も鳴きやすい相手になる)

打:4m


憧(ドラが中張牌なら玄の手は中張牌に寄る。ドラが槓子になるからピンフもつかない。
  赤が来るから一色に染めることも出来ないし、使い切るための手作りが限定されてドラに絡まない牌が残せない。
  見たところ、三色もトイトイも狙ってないみたいだから、タンヤオドラ6ってとこでしょ?
  つまり、9萬をツモったら切る。さっさと出しなよ、玄)

やばいちょー面白い
アコチャーの抜けた穴は誰が埋めるのか


玄(あ、9萬……どうしよう?)


玄手牌

赤5赤5p33334赤5s23赤568m ツモ:9m


玄(考えるまでもないよね)

打:9m


憧「ロン、1500」

玄「は、はい……」チャラ


憧(…想定の範囲内。玄は、ドラに縛られてる。ドラが集まるから、小6の頃のあたしならドラに怯えるだけだっただろうけど…)

憧「一本場」

憧(…私はもう、子供じゃない。晩成高校の先鋒、新子憧。だから、沈めてみせる)


阿知賀女子のエース、松実玄を、沈めてみせる―――


東一局 4本場 ドラ:7萬


荒モブ(晩成の一年、新子。ここまでの打ち方、何かおかしい)

春モブ(7萬がドラなのに、一巡目から手出しで89萬のペンチャンを落としてる)

荒モブ(そして、ここまで一度もドラが来ていない、河にも……記憶に自信がないが、多分出てない)

春モブ(阿知賀は素人だ。去年まで出場すらしなかった無名校だし、さっきから無警戒に鳴かせて振り込んでいる。となれば、この異常を作ってるのは、新子で間違いない)

荒モブ(おそらく、ドラをすべて王牌にしてしまう、とかか? 先鋒をロースコアゲームにして次鋒以降で巻き返す戦略……それなら『王者』が先鋒じゃないのも分かる)

春モブ(そうと分かれば、ドラが全て枯れてると考えて打てばいい……いつまでも連荘はさせない)


憧「ツモ、三色のみ。900オール」


玄(まずい、憧ちゃんには私の打ち方を見透かされてる。ただでさえスピードは憧ちゃんの方が上なのに、私の捨て牌を利用してさらに加速してる、このままじゃ…)


憧「五本場」


玄(取り返しのつかない差になっちゃう……)


東一局 五本場 ドラ:中

憧(翻牌のドラか、独り舞台はここまでかな? なにせ……)


憧手牌

1369p22458s1166m


憧(配牌がサイテーな感じにズッタズタなんだよねー)

憧(下家は…「良い手来ました」ってのが顔に出てるわね。オーケー、あんたに任すわ。と言っても、ただ任せたりはしないけど)

憧「ポン!」

打:4s

荒モブ(1萬を一鳴き……役牌バックかチャンタか、トイトイ? いずれにしても、上家の素人がヌルイから仕上げられてしまいそうだ。この手を安手で終わらせるのは惜しいが、連荘を止めるのが優先)

荒モブ「チー!」


憧(オーケー。鳴いてドラなしならそんなに大きくならないでしょ)

玄(うう…せっかくのドラの翻牌なのに憧ちゃんも荒モブさんも早そう…)

荒モブ「ツモ! タンヤオ三色。1000、1500」


憧「…はい」チャラ

憧(ま、親で五回和了れば上等でしょ。ここから先も、あんたにはなにもさせないよ、玄)

玄(うう…これは、まずいのです…)


南4局 親:玄 ドラ:6m


玄(ここまで焼き鳥……振り込みでも失点して、2万以上のマイナス)

玄(だから、これは和了りたい!――んだけど……)


玄手牌

4赤56p4赤567789s赤566m ツモ:7s


玄(憧ちゃんは2副露。ドラを残して回ったら間に合わない…和了りに行くなら、ドラを切るしか…)

玄(でも、ドラを、切るなんて…)

玄(私には、出来ない―――ー)


憧「玄、子供麻雀クラブの頃から何も変わってないんだね」

玄「…え?」

憧「あの頃は、玄の方が強かった。けど、玄はあの頃と変わってない。私は強くなった。今の点差は、その差だよ」

玄「憧ちゃんは…変わった…?」


なんで、私はこんな話をしているんだろう?
玄の手は読めている。玄がいつも通りに打つなら直撃を取れる自信がある。

それが、私にとって一番いい結果のはずなのに…


憧「一生そこで止まってなよ。私は、あんたを置いて先に行く。阿知賀じゃいけないところに、和を迎えに行く。阿知賀のエースじゃ勝てない相手に、挑んでくる」

玄「憧ちゃん…」

憧「置いて行かれるのが嫌なら、進んで見せてよ。玄は、阿知賀のエースなんだから」

玄「私は……エース……」


そのままにしておけば確実に勝てるのになんで敵に塩を送ってるのかね、私は。

理由は分かってる。
私は、玄が手も足も出ずに負けるところを見たくないんだ。

晩成高校の先鋒を任された今でも、私は阿知賀こども麻雀クラブの新子憧で、松実玄は阿知賀こども麻雀クラブのエースだから。


玄「…そうだよね、エースは、勝たなくちゃダメだよね」


玄の瞳に、先ほどまでとは違う意思が映りこむ。
麻雀を楽しむだけじゃなく、エースとして苦難を乗り越える覚悟。


玄「私は、負けられない。チームのために! 私は、エースだから!」


掴んでいた牌を戻し、新たに牌を掴む。
強い意志を込めて。


玄「ありがとう憧ちゃん。私も……進むよ。ただ待つだけじゃなく、前に」

憧「それはいいけどさ、早く切ってよ。半荘一回丸々待たせておいてまだ待たせる気なの?」

玄「では、ご要望にお応えして…『阿知賀女子』のエース、松実玄の全力、とくとご覧あれ! リーチ!」

打:6m


ドラ。
玄が、ドラを切った。
まあ、それをさせるために煽ったんだけどさ。
勝つために、あれだけ大事にしていたドラを、自分の意志で手放すんだ。

玄、あんたの覚悟、見届けたよ。

玄は、やっぱり、あたしたちのエースだ。


玄「ツモ」


4赤56p4赤5677789s赤56m ツモ:4m


玄「リーチ一発ツモ・三色・ピンフ・ドラ4…8000オールです!」

憧「はい」


多分、親倍ツモに対してこんなに気分よく点棒を差し出すのはこれが最初で最後。


荒モブ「は? ドラ……え?」

春モブ「え? いやいや、新子の力でドラは王牌に……え?」


玄「何のことです? ドラはずっと私が抱えてましたが?」

モブ「「騙された―――――!?」」

憧「勝手に勘違いしたんでしょ。ま、そう思うように仕向けたんだけどね」


ドラを切った玄にはドラが来ない。
それを知ってるのはあたしと玄だけ、対応できてない二人はドラを見切った後にドラをツモってしまったらしい。

グダグダな手作りをしてる二人を横目に私と玄の一騎打ち。
ドラを使わない打ち方に慣れてない玄と、普段は普通にドラを使って打ってる私、やる前から結果は明らかだった。


憧「ロン、8300」

玄「うっ」

憧「じゃ、終了ね。お疲れ様でした」

玄「お疲れ様でした…」

荒モブ「…お疲れ」

春モブ「お疲れ様でした……」


先鋒戦終了

晩成  155600
阿知賀  94900
荒蒔   79200
春日野  70300



やえ「おつかれさん。何やら対局中に話し込んでいたようじゃないか?」

憧「…勝ったからいいでしょ」

やえ「まったく、勝負に情けは禁物だろ」

憧「ごめん」


やえには、あれが敵に塩を送る行為だったことを見抜かれたらしい。
まあ、玄の雰囲気変わってたから分かるか。ドラ切ってたし。


紀子「次鋒は私。たとえあれが直撃だったとしてもなんの問題もない」

やえ「あまり甘やかしすぎるな。ま、問題ないのは同感だがな」

憧「宥姉は強いよ、気を付けてね」

紀子「あのドラ爆がハマった時と同じぐらい強くて、聞く限りだとかなり柔軟な打ち回しが出来る。確かに厄介」

日菜「やえと紀子ちゃん以外なら、苦戦したかもね」

由華「そうですね、私も一位で戻ってくる自信はありません」

やえ「しかし、うちの次鋒は紀子だ」


やえがきっぱりと言い放つ。
やえは紀子に関しては絶対的な信頼を寄せている。
中学時代から、王者のライバルとして闘い、積み上げて来た絆か、あるいは個人的な信頼なのか。


紀子「その通り…」


そして、紀子は常にその信頼に応えて来た。
今回も、多分大丈夫だろう。
私も、紀子が県内でやえ以外に負けるのはちょっと想像できない。


やえ「お前に関しては何も心配していない。区間トップで帰って来い」

紀子「了解」


やえ「繰り返すが、あいつに関しては本当に何の心配もしていない」

憧「信用し過ぎでしょ。いくら紀子でも万が一ぐらいあるって」

由華「先輩にそこまで信頼される丸瀬先輩が羨ましいです」

やえ「そうだな、私と紀子以外に負けないようになったら同等の信頼を与えてやるぞ」

由華「ほとんど無理ゲーじゃないですか…憧も木村先輩もいるし…」

やえ「中二の時のインターミドルから通算して四年連続県内二位、私が居なければ県内四連覇の『王者』はあいつなんだ。信頼もする」

憧「あんたが居なければ紀子もそこまで強くなってないと思うけどね」


ただの勘だけど、紀子はやえを目指して来たからこそ今の紀子になっている気がする。
漫然と上を目指して打ってた中学時代と、和という明確な目標が出来て和を目指して打ってる今の私の差を見れば、それが正しいと確信できる。


やえ「…そうかもな。お前も、誰かを目標にして変わったのだろうし」

憧「どっかのインターミドルチャンピオンが昔馴染でね」

やえ「原村和か。そうか…そうだな、明確な目標、それは人を強くする」


『ツモ。1300、2600』


憧「まずは先制、出だしは順調だね」

やえ「何度でも言うが、あいつに関しては何の心配もしていない」

日菜「なんて言っても紀子ちゃんだからね」

由華「でも、阿知賀も油断できない手を張ってますね」

憧「それはそうだよ、宥姉だし。あたし、あの人が原点割って終わったの見たことない」


紀子「ただいま…思ったより手ごわかった」


次鋒戦終了

晩成  170800(+15200)
阿知賀 110000(+15100)
荒蒔   59200(-20000)
春日野  60000(-10300)


由華「まさか、丸瀬先輩とここまで競るとは……」

やえ「想像以上だったな。新子が警戒しろと言ったのも頷ける」

憧「だから気を付けてって言ったじゃん」

紀子「油断はしてない、相手が強かった」


ま、宥姉だしね。
でも、これで阿知賀のエース格は二人とも抑え込んだ。
シズはここ一番では強かったけど、基本的にあたしの方が上だったし、しばらく麻雀も打ってなかったはず。
どう間違ってもやえが負ける相手じゃない。

後は、私が知らない二人…副将の鷺森灼と…


やえ「…紀子にここまで言わせるか、どうやら、油断は出来ないらしい。巽、しくじるなよ」

憧「モブ川モブ美…こいつは私も知らないわ。数合わせならいいけど、ハルエが鍛えたわけだし、油断は禁物ね」

由華「松実姉妹と違って情報もないですからね、全力で行きます!」

紀子「点差はあるし、後にやえも居る、冷静に」

由華「はいっ!」


中堅戦終了

晩成  213700(+42900)
阿知賀  83000(-27000)
荒蒔   53700(- 5500)
春日野  49600(-10400)


やえ「…おい」

憧「知らないわよ。本当に数合わせだったんじゃないの?」

紀子「先鋒次鋒で稼いだリードで逃げ切る算段が狂った…?」

日菜「かなあ……無謀な攻めで振り込んでたし。本来は憧みたいに安手で回すタイプに見えたよ」

やえ「そうだな、巽が相手でももう少し勝負できる打ち手に見えた。とはいえ、やはり先鋒次鋒に比べると明らかに見劣りするな」

憧「あんなの五人も居てたまるかっての。もしいるなら私も阿知賀に行ったわよ」

日菜「じゃあ、行って来るね」

やえ「ああ、最後は私だから何があってもどうにかする。気負わず冷静にな」

憧「頑張ってねー」




副将戦終了

晩成  207300(- 6400)
阿知賀 120000(+37000)
荒蒔   38200(-15500)
春日野  34500(-15100)


日菜「…」

紀子「ドンマイ」

憧「こっちは数合わせじゃなかったかー」

やえ「少ない失点で切り抜けてくれた、上出来だ。あとは任せろ」

由華「先輩なら、点差が逆でも大丈夫なぐらいです!よろしくお願いします!」

憧「いくらシズでもねえ…やえ相手に87300差でしょ?」

日菜「ごめんね、やえ…」

やえ「気にするな。それとも、私がここから負けると思うか?」

日菜「ううん、やえなら大丈夫」

やえ「そういうことだ、行って来る」


起家 小走やえ
南家 春モブ
西家 高鴨穏乃
北家 荒モブ


東一局 ドラ:1p 


さて、阿知賀のジャージ娘…以前見た時は相当打ち込んでいるようだった。
実際打ってみてもなかなかのものだ。
阿知賀女子が奈良県の高校でなければ、あるいは、奈良でも各区間半荘二回で争う決勝ならまた違ったかもしれん。

しかし、ここは奈良県で、この試合は一回戦だ。


やえ手牌

1p3444赤567s56677m ツモ:8m


穏乃手牌

1455667p中中中東東東


やえ(常識では1筒切りリーチで2358索待ちの4面張に取る。しかし……ジャージ娘から不穏な気配がする、おそらく聴牌だろう)

やえ(捨て牌からして明らかな筒子染め……対してこちらはタンヤオに見える捨て牌で事実タンヤオ手だ)

やえ(掴めば出す、そう考えてドラで待つことは十分あり得る。むしろ、この点差を考えれば本線だ。リーチをしないのは直撃を狙っているから警戒させないためだな)

やえ(デジタル的にはこれは最善ではない。しかし、私にはこれが通るとは思えん。100%振り込むと分かっているならデジタルでも切りはしないだろう?)


打:3s


やえ(これが、王者の打ち筋だ。そう簡単に私から直撃を取れると思うな)



憧「うっそ……なんであのドラが止まるのよ? 相手が染めてるって言っても、タンピン赤1の四面張を役なしの単騎にしてまであのドラは止めらんないでしょ」

紀子「やえだから当然」

日菜「そんな常識で測れるようなレベルで県内無敗なんかできっこない」

由華「てゆうか、憧は……あ、そうか、いつも同卓するか先輩が後ろについてるから見たことないんだね」

憧「てことは、いつもあんなことやってくれてるわけ? そりゃ勝てないはずだわ…」

紀子「『王者』を舐めないこと」

憧「なんで紀子がドヤ顔で言うのよ。しかも滅多に笑わないくせにニヤケてるし」


やえ(来たか。良い心がけだ)

1p444赤567s566778m ツモ:赤5m

やえ(こいつが来たなら流れは私にある、めくりあいは私の勝ちだろうな)

やえ「リーチ」

打:8m

春モブ(『王者』のリーチかよ。無理無理、ベタオリ)

穏乃(くっ……お願い、引いて!)

ツモ:7p

穏乃(一盃口がついた……けど、この流れは……)

打:4p

荒モブ(最悪だわ、安牌ねーし、鳴けねーし。筋だからってドラは切れねーっしょ)

打:北


やえ「ツモ。リーチ一発ツモ・一盃口・ドラ4。8000オール」パタン


穏乃(なっ!? なにこれ? この手でこの切り順って……)

春モブ(これが王者……)

荒モブ(冗談だろ……てゆうかなんでさっきドラ切らねーんだよ? まさか一盃口がつくのとドラ単騎をツモるのが分かってた? もしかして山全部見えてんじゃねーかこいつ?)

穏乃(これはちょっと……登るのに時間がかかりそう。せめて半荘二回あれば)


やえ「では、一本場だ」


穏乃「」ゾクッ

春モブ(今更だけど、一回戦で晩成とか最悪だよー)

荒モブ(くっそ…勝てる気がしねえ…)


憧「…春日野と荒蒔が同時に飛んで終了、か」

紀子「完勝」

由華「東場の親で終わらせるなんて、流石です!」


バタン


やえ「戻ったぞ、今回はついていたな。本来ならもう少し手こずる相手だった」

憧「お疲れ。見せてもらったよ、王者の打ち筋」

由華「先輩! お疲れ様です!」

紀子「…遅い、どっちかだけを狙って飛ばせば二本場で終わったはず」

やえ「ツモってしまったものは仕方ないだろう。というか、紀子がもう少し削っていれば良かっただろうが」

紀子「私は相手が強かった」

やえ「それでも3万は稼いで欲しかったな」

紀子「…善処する」


やえ「さて、一回戦は勝ったが、県予選はまだ終わっていないぞ。気を抜かずにこのまま行こう」

「「「「おおー!」」」」


県予選の二回戦と決勝では、私の出番はなかった。
紀子と巽が張りきったせいだな。

県予選は6月、インハイは8月。
まだ時間はある。
この間に、新子を鍛える。
持ち味のスピードに磨きをかけ、宮永照に対抗できるようになれば、勝利が見えてくる。

無論、私自身も更に上を目指すつもりではいる。
奴の…宮永照の背中を追うために。


みーん、みーん


やえ「蝉が鳴くか…もう夏だな」


最後の夏。
一年の時は私が宮永に負けた。
去年は巽がボロボロにされた。

奈良県代表晩成高校、インターハイにおける晩成高校の最高記録はベスト8。
10年前に晩成を打ち破って快進撃を続けた阿知賀女子は、初出場でそこにたどり着き、敗れた。

県民の悲願、インターハイ決勝進出。
今年は、それが出来るだけのメンバーが揃ったと自負している。
それどころか、優勝すら狙えると思っている。


やえ「あいつが来るまでは完全に諦めていたのにな、現金なものだ」


ドタドタドタ


さて、うるさい奴らが来たようだ。今日の部活に向かうとしようか。


憧「やえー! 部活行くよー!」

由華「なにしてるんですか先輩。先輩がいないと始まりませんよー!」


インターハイ当日に慌しく現地入りするのは避けたい。
よって、我々一軍は前日に現地に向かうことになった。
東京に向かう途中、休憩のためにSAに立ち寄る。
応援団は後から来るので、今いるのは一軍だけだ。


良子「あー、座りっぱなしは疲れるわー。あたしは体動かしてないとダメだ」

やえ「なら麻雀部をやめて陸上部にでも行け。別に止めはしない」

良子「酷っ!?」

日菜「まあ、別に良子ちゃんがいなくても困らないよね」

紀子「むしろ邪魔」

憧「…誰?」

由華「憧、いくら存在価値がないからって上原先輩の存在を忘れるのは酷いよ」

良子「上田だ! 由華のセリフが一番酷いわ! 流石に泣くぞ!?」


やえ「さて、上田をいじって遊ぶのも悪くないが…」

良子「悪いわ! ふざけんなマジで!」

やえ「長旅で疲労がたまるのも事実だ。適当に散策でもして来い、トラブルを起こさんようにな」

日菜「集合時間は?」

紀子「予定より早くここに着いたけど、予定通り?」

やえ「構わんだろう。40分後に集合だ、上田以外は遅れないようにな」

良子「さりげなくあたしを置いてくつもり満々な発言するのをやめてもらえませんかねええええ!!!」

憧「じゃ、あたし売店行って来るわ、紀子、一緒に行こ?」

紀子「世話の焼ける…」

由華「あ、あたしも行きます」

やえ「何だ、お前らもか。まあ、SAで行くところなどそう多くはないしな」

日菜「じゃあ、私も」

良子「無視すんなあああああ!!!!」



やえ「あ、上田は来るなよ? 一緒に行動されると置いていけないからな」

良子「鬼! 悪魔! てゆうかいじめだろこれ!?」

日菜「あ、大丈夫だよ、変質者として警察に通報しておくから、多分パトカーで高速降りられる」

良子「それのどこに大丈夫な要素が!?」


憧「じゃ、行こっか」

やえ「ほら、騒いでると置いていくぞ上田。さっさと来い」

由華「はぐれないでくださいね? 本当に置いて行きますよ」

紀子「置いて行っても問題ない。所詮補欠」

良子「お、お前ら(感動)……って、おいこら紀子、お前だけ一貫して毒吐くな。ここ切り替える流れだろ」


紀子「私の良子への嫌悪感は本物、演技でやってるみんなと同じに考えないでほしい」ギロッ

良子「おおう…マジもんの殺人者の目…」ガクブル

紀子「人を殺したことはない、虫けらの息の根を止めたことはあるけど」

良子「その虫けらって言うのは本当に虫なんだよな!? 「虫けら(のような人間)」じゃないよな!?」

やえ「おい、紀子。いい加減にしないと休憩時間が無くなる」

紀子「…やえがそういうなら」

良子「紀子がマジなのか冗談なのか……いや、考えないようにしよう」


憧「結構イケるねこれ」

やえ「まあまあだな」


湖を眺めながら、売店で買ったパンを頬張る。
ちなみに、日菜と上田は車に戻って休んでいる。


紀子「…」

由華「あれ? どうかしたんですか丸瀬先輩?」

紀子「…」スッ


紀子が無言で指差した先には、湖畔に佇む制服を着た少女が居た。
私は彼女を知っている。
別に生き別れの妹とか、再会を誓った幼馴染なんていうものではない。
麻雀を打つ高校生ならある程度は、特に関西の選手ならほとんどが知っている相手だ。


やえ「千里山の、園城寺怜…?」

紀子「」コク

由華「え、あれがそうなんですか?」


先ほど、千里山の制服を着た集団を乗せたバスが到着するのを確認していたので、千里山のエースがここに居ること自体は不思議ではない。
私や紀子は個人戦で江口や清水谷と何度も顔を合わせているから千里山の人間が珍しいわけでもない。


やえ「放っておくわけにもいかんな」

紀子「…お人よし」


園城寺はふらふらとおぼつかない足取りで柵に手をつきながら歩いていた。
熱中症か何かだろうが、どう見ても危なっかしい。


やえ「おい、大丈夫か?」


近寄って声をかけるが、聞こえているのかいないのか。
こちらに振り向くような素振りを見せたと思ったが、それはせめて受け身が取りやすいように柵のない方に体を向けただけなのかもしれない。

園城寺はそのまま地面に向けて倒れこんだ。



やえ「おいっ!?」


慌てて受け止める。
園城寺の体は驚くほど軽い。


やえ「新子!」


水と氷を……と言おうとして姿を確認した時には憧は売店に向けて駆け出していた。
紀子は園城寺を支えてベンチまで運ぶのを手伝ってくれた。


怜「すんません、見ず知らずの人に…」

やえ「そっちはそうかもしれんが、こっちは見ず知らずというわけでもなくてな。清水谷と江口に恩を売っておくのも悪くない」

怜「…え?」


由華「あ、すみません、千里山の方ですよね? 園城寺さんが…」


巽は千里山の人間を呼びに行ったらしい。
見知った顔が駆け寄ってくる。


竜華「怜! 大丈夫!?」

怜「大丈夫や、ちょっとフラッとしただけ…」

やえ「よう、清水谷。春大会以来だな」

竜華「小走? なんでここに……」

やえ「東京へ向かう途中に決まってるだろう。お前らだってそうじゃないのか?」

竜華「あ、そうか」


間の抜けた回答だな、らしくない。
どうやら、園城寺が倒れて動転しているらしい。


憧「氷と水買って来たよ、あとタオル」

やえ「ご苦労」

怜「えっと……竜華、知り合いなん?」

竜華「まあ、中学からの知り合いやな」

やえ「そうだな。毎年顔を合わせているわけだし、いがみ合っているわけでもない。むしろ友人と言っても差し支えない間柄だ」

怜「……? あれ、よく見たら……その顔、見覚えが……」

やえ「晩成高校の小走やえだ。大阪なら名前ぐらいは聞いたことがあるだろう?」

怜「ふえっ!? な、なんでここに!?」

やえ「さっき清水谷にも言ったが、お前らと同じ理由だ。インハイのために東京に向かう途中、偶然居合わせた」



怜「あー、びっくりしたわ。まさか小走さんがこんなところにおるとは」

やえ「驚いたのはこっちだ。千里山のエースがいきなり倒れた時は流石に慌てたぞ」

怜「ご迷惑おかけしました…うち病弱やから」コホン

竜華「そのアピールやめ」


ベンチに座って、先ほど新子が買って来た氷を入れたジュースを飲みながら談笑する。
もっとも、園城寺は座るというよりは寝ていると言った方が正しい体勢だが。

何故こいつらは人目もはばからずに膝枕をしているんだ。

園城寺は熱中症ではなく、もともと体が弱くて時々倒れたりするのが今起きただけという話だった。
ということで、氷は不要になり、仕方ないから「飲み物を冷やす」という本来の使用方法で利用している。


憧「にしても、千里山のエースと大将って言ったらもっと怖い人達だと思ってたけど、話しやすいフツーの人なんだね」

紀子「…当たり前」

竜華「あははは、そらそうやって。ちょっと麻雀が得意なだけで、個人戦常連の連中だって丸瀬さん以外はそんな怖くない」

紀子「…心外」

やえ「こいつも、見た目こそこれだが、話も分かるし、面倒見のいい奴だぞ」

竜華「いや、その見た目がな~」

紀子「…」ギロッ

やえ「それだそれ、それが怖いと言ってるんだ」ペシッ

紀子「…痛い」


怜「まあ、卓上では怖いけどな、竜華は」

竜華「なっ!? 大丈夫やで、怖くないから嫌わんといて! お願いやから!」

怜「別に嫌ったりせんって、今は普通に勝てるから怖くないしな」

やえ「清水谷竜華に『普通に勝てる』か、これは気を付けた方が良さそうだ」

竜華「おう、警戒しとけー、セーラを押しのけて先鋒に起用された千里山の大エースや!」

憧「うわあ……お手柔らかに」

怜「それは約束できんなー」


『ときー!』


この声、江口か。
ふと気づいて時計を見ると、こちらの出発時刻が目前に迫っていた。


『バスもうすぐ出るでー!』


やえ「そっちも出発の時間か、こちらもそろそろだ。名残惜しいが、また大会でな」

竜華「春の個人戦のケリつけよな、じゃ、行くわ」

やえ「うちとやるまでに消えてくれるなよ?」

竜華「こっちのセリフや」


宿について一息つく。

明日から、インターハイが始まる。

最高の仲間と、鍛えぬいた自分自身、そして、優勝を目指す意志。
頂点を狙うために必要なものは揃えた。

今度こそ、頂に挑む。

二度阻まれた壁を、今度こそ破る。

宮永照を、白糸台を、倒す。


今年のインターハイは52校で行われる。
基本的に各県一校で、東京、愛知、神奈川、大阪、北海道からは二校出場する。

一回戦で48チームが対戦して、一位のみ勝ち抜けで12校に減る。
これに二回戦から出場するシード校を四校足して16校。

二回戦からは上位二校が勝ち抜けになり、準決勝には8チーム、決勝には4チームが進む。

厳しいのは一回戦。参加校の7割にあたる36校がここで姿を消す。
晩成高校も過去幾度となくここで姿を消して来た。

そして、奈良県から決勝に進んだチームは未だに出ていない。


やえ「…千里山とは縁が深いらしいな」


今は抽選中で、晩成の代表として私がくじを引いている。
引いた番号は、25。
非シードの中では一番端に表記される位置で、表記上は第四シードの千里山の隣に書かれることになる。


やえ「よろしくな」

竜華「一回戦はもう勝った気か?」

やえ「今年はお前たちと五分に戦える戦力を揃えたと自負している」

竜華「楽しみにしてるわ、コケんといてな」

遊月「…調子乗ってると痛い目見るよ」ピラッ

やえ「24……一回戦の相手か。天狗になるつもりはないが、大きいことはせめて私か紀子に直対で勝ってから言え、寺崎」

遊月「あんたのとこ、一年が先鋒らしいね。美味しくいただかせてもらうよ」


出来るものならやってみろ。
今のあいつを大きくへこませるのは私でも難しいぞ。
もっとも、教えてやるほど私は親切ではないので黙っておくがな。


さて、シード以外の注目校…姫松は別のブロックか。
永水と姫松に挟まれた連中は気の毒だな、どうやっても二回戦止まりだろう。


一回戦


憧「ツモ。1000、2000」

遊月「クッ…ほらよ」


何なんだよ、こいつ。
昨年の個人15位のあたしと互角? 一年が?
失点覚悟で一年を置いて丸瀬がフォローするオーダーじゃなかったのか?

不味い、これは非常にまずい。
晩成にはこの後、丸瀬と小走が控えてる。
一回戦は一校しか勝ちあがれない。
この後、エース二人が残っている晩成が抜け出すのは目に見えてる。
エースのあたしがここで稼がないと、晩成を削らないと、勝ち目は…


憧「ロン、3900」

遊月「うぐっ! ……はい」


ダメだ、こいつ――――強い。


セーラ「あー、あっついわー」

泉「学ラン着てるからでしょ」

浩子「そのノースリーブもどうかと思うけどな」


バタン


セーラ「おーっす、戻ったでー」

怜「お帰り」

竜華「試合はどうやった?」

浩子「第六試合は晩成の圧勝でしたね。他は混戦でした」

セーラ「晩成かー、寺崎のやつ口だけやんか」

竜華「で、監督はなんて?」

浩子「晩成メインやけど一応三試合ともチェックしとけって言ってましたね」

泉「んじゃ、食事取ったら試合見ましょう。場所はここで」

怜「えー、今日は休みたい…」

泉「いくらかでも今日のうちに消化せんと、明日の自由時間が無くなりますよ?」

怜「それは嫌やな…」

ーー

観戦中

ーー

セーラ「おいおい、やるやん晩成」

竜華「くじ引きの時、うちと五分に戦える戦力とか言ってたけど、マジっぽいな」

浩子「小走と丸瀬に穴らしい穴はありません。純粋に強いだけですわ」

怜「巽さんは波があるっぽいけど、これも基本的に地力が高いだけやな」

浩子「新子は速度特化、鳴き三色や鳴き一通を多用します。癖は分かりやすいですけど、上家が絞るぐらいしか対策はないですね。木村は…まあ、堅実な打ち手ですわ、穴はないけど脅威もない」

怜「つまり、穴がなくて地力の高い、お手本通りの強豪チームってわけやな」

セーラ「他の二校は?」

浩子「剱谷の副将がツキ出すと止まらないタイプですけど、他は大したことないですね」

セーラ「そっか…そんなら…」

竜華「せやな」



セーラ「準決に進むチームは、うちと晩成で決まりや」


浩子「ツモです。1000、2000。トビですね」

友香「でー!?」

玉子「飛ばされたのであるー…」ガクッ

日菜「お疲れ様でした」

浩子「では、続きは準決で」

日菜「ええ」


二回戦、お互い20万近い点棒を積み上げたところで越谷が飛んだ。
次の相手…新道寺と白糸台ならこうはいくまい。

ついに、あいつとのご対面だ。

宮永照。
インターミドルまでは、我々の代の頂点は決まっていないはずだった。
しかし、どんぐりの背比べをしていた私たちをあざ笑うかのように、二年前のインターハイで突然現れた世代の頂点、今となってはインターハイの象徴とまで言われる存在。

白水も、清水谷も、江口も、私も、インターミドルからのライバルは皆、奴に勝つためにこの一年を過ごしてきた。


紀子「やえ」

やえ「ん? どうした?」

紀子「緊張してる?」

やえ「…多少はな、なんでわかった?」

紀子「怖い顔してたから」

やえ「お前に怖い顔とは言われたくないんだが……そうか、顔に出るほど緊張していたか」

紀子「…失礼な」


バタン


憧「やえー、紀子ー、そろそろ行くよー」

やえ「ああ、分かった」

由華「準決勝です、今年こそ、県民悲願の決勝へ行きましょう!」

紀子「由華、志が低い」

やえ「全くだ。これだけのメンバーを揃えておきながら、決勝に行ってそれで終わりなのか?」

由華「…そうですね、訂正します。優勝まであと二つ、気を抜かずに行きましょう!」



照「よろしくお願いします」

憧「よろしくお願いします」

怜「よろしゅう」

煌「よろしくお願いいたします」


起家 宮永照
南家 花田煌
西家 園城寺怜
北家 新子憧


東1局 親:照 ドラ:北


憧(二回戦は周りが弱かったから園城寺さんとも勝負になったけど……)

照「…」タン

怜「…」タン


憧(この二人の争いに割り込めるほどの力が自分にあるとは思えない。二回戦では下から毟る競争だったから勝負になっただけで、真正面から戦えば園城寺さんからは数万点の差をつけられたはず)

煌「すばら」タン

憧(園城寺さんと宮永さんの格付けが済むまで様子見、その後は強い方を走らせないために立ち回る。大差がつかなければ、あとはやえが何とかしてくれる)


怜「ツモ、3000、6000」


憧(まずは園城寺さんが先制……でも、チャンピオンはここから)


ゴゴゴゴゴゴゴ


憧「ふえっ!?」

煌「?」

怜「……」


憧(なに、今の?なんか後ろに鏡みたいなものがあったような…)

怜(今のがセーラの言ってたやつか……もう見透かされてもうたんかな?)


照「ロン、1000」

煌「すばっ!?」

ーー

照「ロン、1300」

煌「は、はい…」

ーー

照「ツモ、400、800」

憧(親かぶりが安く済んだのは良かったけど、三連続…これはどうなの?)

怜(アカンな、なにも出来へん)

煌(いやはや……このままだと二回戦の二の舞ですね、何とかせねば)

ーー

『さあ、チャンピオンに再び親番が巡ってきたーーー!』

『宮永選手の和了率は驚異的です。親番をいかに少ない局数で乗り切るかが、宮永選手を抑えるカギになるでしょう』

『様子見らしい東1局こそ逃したものの、ここまで三連続和了!他校はこの怪物を止められるのかーーー!?』

『ただ止めるだけならばいつかは止まるでしょうが、試合展開を考えれば三本場程度で止めたいところです』

『その心は?』

『最初の親番は偶然東一局だったため流れましたが、後半は宮永選手に二回の親番が回ります。低めの打点であっても親番で三回上がれば一万点程度の得点が予想されますので、親番三回で三万点を獲得する計算になります』

『ほうほう』

『トータルで三万点を獲得すると仮定しますが、ツモで均等に削られるとして四万点差。一区間一万点が団体戦における一般的な許容範囲ですから、これを超えると次以降の区間に制約がかかります』

『去年の天江さんとか軽く7万差まくってたけど…?』

『ああいった突出した打ち手は別です。あくまで通常の、極端に打点を重視したりしない完全なデジタルを前提とした話ですから』

『先鋒で四万差はヤバい、四万差をつけられないための目安が親を三本場で止めるって感じ?』

『そうなりますね、って、こーこちゃんがちゃんと理解してくれた!?』

『いやー、流石アラフォー、解説も分かりやすいですねー』

『アラサーだよっ!』


照「ツモ、2200オール」

怜(ヤバいわ、全然止められん)

憧(マジで? 圧倒的ってこと? 園城寺さんでも手も足も出ないって?)

煌(なにも出来ないまま三本場です。これはいよいよ不味いですよ)


やえ「まったく、あの化け物は……参ったな。個人戦のことを考えると気が重い」

由華「先輩、今は個人戦の事より憧のことを……」

やえ「大丈夫だ、これぐらいは想定している。あいつなら大丈夫」

日菜「ここまで焼き鳥だけど……」

紀子「それは様子見」

やえ「ああ、ここからが本番だ。どうやら、園城寺でも役者が足りないらしい」

紀子「行けると思う?」

やえ「宮永相手なら、二人じゃ厳しいだろうな。しかし、見たところ、新道寺の先鋒もこちら側のようだ」

日菜「え?」

『ポン』

由華「新道寺の捨て牌を鳴いて、憧が動いた…」

やえ「園城寺が上家、これは協力するなら最高の席順だ。ここは決めてもらおう」

『チー』

由華「よし、張った!」

日菜「宮永はまだ二向聴…」

『ポン』

紀子「新道寺……無理鳴き?」

やえ「宮永照の下家に座ってしまったんだ、義務だろう」

由華「でも、ここまではそんな動きは……」

やえ「そうだな、ここまでは宮永の下家とはいえそんな動きはしなかった。
  あの場には園城寺もいる、奴がポンすれば、宮永のツモを飛ばすだけでなく園城寺のツモが増える。
  宮永だけを警戒するわけにはいかないだろうから、ここまで動かなかったのは当然だ……しかし、新子がチーをした事で状況は変わる」

日菜「えっと…?」

紀子「一巡先が見える園城寺が、鳴かせた。つまり、憧のサポートに回ってる」

やえ「自分だけじゃ宮永を止められないと白旗を上げたわけだ。そして、宮永を止めるのに関しては協力する姿勢を見せた」

由華「危険度は宮永さんの方が上だと明確になったわけですね」

やえ「そして、宮永が本場を積んだことで、宮永を止めるために他家のサポートに回るメリットが大きくなった。いや、親を続けさせるリスクが高まったというべきか」

『ツモ、1300、2300』

やえ「新子が和了ったな、上出来だ。あとは宮永が三局続けて和了っても、この半荘は2万差程度に収まる」


照「ロン、2000」

煌「はい…」


怜「前半終了やな、お疲れ様でした」

憧「お疲れ様でした、また後半で」

照「お疲れ様」

煌「お疲れ様でした」


先鋒戦前半終了時

白糸台 120900
晩成   97200
千里山 106400
新道寺  75500


菫「…普通なら十分な収支だが、照にしてはあまり稼いでいないように感じるな」

誠子「調子が悪いんでしょうか?」

淡「えー? テルーに調子悪いとかあるの?」

尭深「聞いたことはないよね。というか、もともとが強すぎて調子悪くても全然わからないし」


バタン


照「ごめん、あんまり稼げないかも…」

菫「第一声がそれか。気にするな、私たちが何とかする」

照「ありがとう」

菫「で、手こずる理由は?」

照「三人がかりで流されると思う。勝てるけど、あんまり稼げない」

菫「なるほど。新道寺はエース二人が後ろに居るから分かりやすいが、晩成もか」

照「鳴きが上手い、速度に特化した打ち手。流す事に専念されると大変」

淡「えー、スピードだったらテルーの独壇場じゃん、ドカーンとやっちゃおうよー」

照「……それが追いつかれた結果がこれ」

尭深「流すことに徹する……園城寺さんもですか?」

照「うん、そうみたい」

菫「先鋒での分の悪い勝負よりも後ろに任せるということか。後にも江口や清水谷が居るとはいえ、舐められたものだな」

淡「全くだねー」

誠子「白糸台のレギュラーはそこらの県代表エースに勝る。穴なんかないって教えてやりましょう」

尭深「…うん」


『後半戦を始めます、選手の方は対局場に…』


照「じゃあ、行って来る」

菫「ああ、大勝ちする必要はないが、ドジは踏むなよ」

照「菫、私、一応チャンピオン」

菫「……そうだったな」


起家 園城寺怜
南家 新子憧
西家 花田煌
北家 宮永照


怜(さて、チャンピオンも今回は最初から全力やろな)

憧「チー」

煌「」タン

照「…」タン

怜(晩成は今回も速攻。この席順なら新道寺もうちら二人の切った牌見てから切れるから、そう簡単には振り込まんやろ)

憧「それもチー」

怜(索子の123と789……今回は鳴き一通か? ツモられるけど、これは止まらんな)

照「……」

憧「ツモ。300、500」

怜(親流れてもうたな。しかし、このひとに和了させるよりマシやし……安手で済んだことに満足しとくか)

照「…」ゴゴゴ

憧(100点でも多く繋ぐ。宮永照を100点でも多く削る……あとはみんなが何とかしてくれる)

煌(安手で場が進むならこちらとしてももうけものです。なにせ、私は捨て駒ですからね)

怜(千里山の目標は常にトップを目指すこと……やけど、宮永照だけは別格や。小さい点差で次につなぐのがチームの勝ちにつながる)

怜憧煌(((利害は一致してる。共闘して場を流す)))


照(……徹底してるね。これは本気でやってもあんまり稼げそうにない)


哩「ええ感じやね」

仁美「南場に入ってまだ8万差……二十万近い差がつくのを覚悟してたばってん、これは上出来よ」

美子「やけん、負けてることも相手が強いのも確かと」

姫子「次鋒には晩成の丸瀬、中堅には千里山の江口がおっと。先輩たちでも厳しか…ぶちょーが頼りばい」

哩「亦野、船久保、木村か…新道寺のエースを張っちょる私としては負けるわけにはいかん相手やね」

仁美「大将の小走、清水谷、大星も個人の決勝近くで実現してもおかしくなか組み合わせたい」

美子「哩が勝てば姫子も勝つけん、大丈夫やろ」

姫子「はいっ、私と部長の絆ば誰にも切れん!」

哩「花田が頑張ってくれよった。仁美、良子、このまま私たちに繋いでくれ。そしたら私がどうにでもしちゃる」

仁美「おう」

美子「しくじったら承知せんよ?」

哩「こっちのセリフよ」


『ロン。1000点の二本場は1600点です』


姫子「あ、煌が和了りよったよ!」

哩「宮永を止めるために晩成と千里山が協力して和了らせてくれた感じやけど、よか、和了りは和了りたい」


南三局 ドラ:中


***

憧「ポン」

***

怜(次巡、宮永のツモ切りした4索をポン……てことは、私が花田さんからポンすれば鳴こうとしてる牌が鳴かずに手牌に入るわけやな?)

怜(宮永のツモが飛ばせるなら上等やろ。新子さんが親やったらちょっと考えるけど、子なら場が進むから、よっぽど高くない限り和了らせてもかまへん)

怜「ポン」

憧(……さて、どうしようか?)


憧手牌

44567s456m北北北南中 ツモ:4s


憧(園城寺さんが私の手が進むのを分かってこの牌をよこしたんだとしたら、宮永照がこれをツモ切りするのが見えたってことだよね?)

憧(早上がりを目指してる私は、北で役が確定してるから4索でも鳴くはず。多分、園城寺さんの鳴きは、私が鳴くことまで見えた上での私をサポートする鳴き)

憧(けど、園城寺さんに見えるのは一巡先まで……その先の宮永照の動向までは見えてない)

照「……」


照手牌

22s2347899p南南中中


憧(さて、ここで問題。宮永照が、私の手を進めるだけのツモ切りをするか? 答えはNO。やえより上の化け物がそんなヌルイはずがない)

憧(てことは、私の手が進んでこぼれる南、中あたりが狙いなわけ。なら、切る牌は……)

打:6m

照「……!?」

憧(ここから混一色に切り替え。南と中が必要な手でそれを握りつぶされたら、いくらあんたでもそう簡単には和了れないでしょ!)

照(……南を切るはずだったんだけど、打ち方が変わった? 半荘一回の間に?)

憧(園城寺さんが動いたことで考慮できる情報が増えたからね。このレベルの卓で打ったら嫌でもワンランク上の打ち方を強制されるでしょ)


憧「ツモ、面前ツモ・混一色・北・ドラドラ。3000・6000」


23444567s北北北中中 ツモ:1s ドラ:中


照(なるほど、小走さんが私の相手を任せるだけはある)


照手牌

22s2244赤599p南南中中


照(一手及ばず、か。お見事)パタン


南4局 四本場

怜「ツモ。ツモのみ、800・1100」

35888s456789m西西 ツモ:4s


照「……その手、リーチしないんだ?」

怜「この面子でリーチしたらズラされるやろ。こんな薄いカンチャン待ちでズラされたらツモ切りマシーンになってまうやん?」

照「……そうだね」

憧「ありがとうございました」

煌「お疲れ様でした」

怜「お疲れさん、また打とな」

照「……半荘の間に強くなる人は苦手だからあまり気が進まない」

怜「ん?」

照「なんでもない。お疲れ様」


憧「ただいまー!」

やえ「三位の癖に随分と意気揚々と帰って来たものだな」

憧「いやいや、あれ以上あたしにどうしろってのよ? 千里山のエースと日本最強の高校生に囲まれてプラスで帰って来ただけでも褒めてほしいっての」

由華「南三局の跳満、あれにはチャンピオンも面喰らってましたね。お手柄です」

紀子「……最初の聴牌チャンスで南や中を切っていたら宮永が和了っていた。あれが唯一の和了りへの道」

日菜「正直言うと最初はなにやってるのかなって思ったけど、凄かったよ」

憧「中が重なってくれて助かったよー。あれ和了らなかったら絶対マイナスだったし」


やえ「あの宮永に、一矢報いたか…」

憧「出迎えの時も辛辣なお言葉だったけど、やえ、もしかしてご機嫌斜め?」

やえ「……一年の時、私はあいつに手も足も出なかったからな。ただの嫉妬だ」

紀子「…なんとなく、分かる」チラッ


紀子の視線は巽に向く。
自分が目標とする強者が、手塩にかけて育てた後輩に倒される複雑な感情。
おそらく一年と二か月前、昨年のインターハイ個人戦奈良県予選で、紀子は味わっている。


由華「へ?」キョトン


やえ「なるほど、あの時のお前はこんな気持ちだったのか。すまなかったな」

紀子「…別にいい。やえはやえだから」

憧「ああ、なるほど。あたしはむしろ、やえが宮永照を尊敬してるってのが意外だわ」

やえ「尊敬とは違う。自分より格上と認めただけだ。お前も県予選で阿知賀の先鋒に何かやっていただろうが」

憧「ん~……あたしの玄に対する感情は「尊敬」で合ってるから、良くわかんないわ」


由華「えっと、私はなんで今の流れで丸瀬先輩に睨まれたんですか?」

日菜「自分で考えようか、由華ちゃん」

良子「やえが憧に負けたら分かるんじゃねーか?」

由華「絶対にありえないですね。先輩が県内で負けることはありません」

良子「お前が言うと説得力の欠片もないな」

憧「あれ? 良子、いたっけ?」

良子「お前らが昼飯の買い出しを押し付けたんだろうが! 今更だけど雑用は二軍にやらせろよ!」

やえ「二軍みたいなもんだろう」

紀子「異議なし」

日菜「私とはそこそこいい勝負するんだけどね」

由華「上田先輩……私は上田先輩のこと、頼りにしてますよ」

良子「ゆ、由華……」ウルッ


由華「上田先輩、体格いいから荷物たくさん持てますもんね。荷物持ちとして頼りにしてます」


良子「だと思ったよこんちくしょおおおおおお!!!!」

憧「はいはい、あたし先鋒で化け物の相手して疲れてるから騒がないでね」

良子「ぐっ、実際良くやってたからなんも言えねえ…」


『次鋒戦を開始します、選手の方は対局場へ…』


紀子「…じゃあ、行って来る」

やえ「ああ、行って来い」

憧「あと頼むね、紀子」

日菜「頑張って、紀子ちゃん」

由華「応援してます!」


紀子「うん」


次鋒戦開始時

白糸台 141100
晩成  101700
千里山 104900
新道寺  52300


ーー

泉(晩成とは微差……ここで突き放したい。
  この状況、弘世が狙うのは新道寺のはず……新道寺の安河内は、三年とはいえ目立った実績はない。
  千里山の一年レギュラーのうちからしたら格下といえる相手や)

泉(好形の一向聴。ここは攻める!)タン


『ロン』ドシュ


泉(……へ?)

菫「…7700」

泉(こ、こっちを狙って来た?なんでや?)

菫(去年とほぼ同じメンバーの晩成と、江口と清水谷以外が入れ替わった千里山……なにか隠し玉があるとすれば千里山のほう、その中でも一年レギュラーのこいつだ。
  ……千里山を追い込んで手の内すべてを引き出す。決勝で勝つためにな。
  そのまま落ちるようなら、手の内を知っている晩成と決勝を戦うだけだ。新子は照が鏡で見たはずだから、全員の情報が見えているからな)

泉(くそっ……三位転落、最低の出だしや。取り返さんと……)

ーー

紀子「ツモ。4000オール」

泉「ふぇっ!?」

菫(流石は丸瀬……深追いすると反撃が致命傷になりかねん)

ーー

美子「ツモ、500、1000」

泉(この点差でそんな安手……うちの勝負手が)

菫(哩姫コンビ頼みで安手で場を回す気か……?
  二回戦とは打ち方が違うが、慣れない打ち方というわけでもなさそうだ。単純に引き出しが多いということか?
  団体戦では作戦に合わせた多彩な打ち方ができ、個人としても相手に合わせて変幻自在の打ち回しが出来る。こんな選手を隠していたか、新道寺め)

ーー

菫(さて、点差を広げて次に繋がなければ部長として示しがつかんしな)

美子「」タン

菫「ロン、5200」

泉(うちじゃなかった、助かった……)


菫「」タン

打:8p

紀子「…ロン、3200」

22234赤5s3458p西西西

菫「8筒単騎……私の余り牌を狙ったか」

紀子「……この区間、私は一位で終わらせる」

菫「で、区間トップ争いの相手である私を狙ったと。そんなキャラだったか、お前?」

紀子「……負けて帰ったら、後輩に示しがつかない」

菫「それはこちらも同じことだ」

泉(三巡前に6索切って以降ツモ切り。普通に聴牌してたらさっきのうちの捨てたドラの1索で5200やん……何やこれ、アウトオブ眼中な上に蚊帳の外やん)

ーー

美子「ツモ、1000、2000」

泉(くそっ、なんでや……なんで聴牌すら出来ずに一方的に……)

泉(打牌にミスはない、裏目引いてるわけでもない……なのに、追いつくことすら)


セーラ「ダメやなあれは」

怜「いや、まだ前半やん。たまたまツキが来てないだけで……」

セーラ「いや、アカンねん。あれはどうしようもない。それこそ、泉が宮永とか荒川みたいな化け物やったらどうにかなるかもしれんけど」

竜華「……せやな、あれは、キツイ」

怜「竜華までなにを……」

浩子「……信じられんことですけど、三年がインターハイの舞台に立つと、平均聴牌速度や平均打点まで上昇するってデータがあるんですわ」

怜「マジかい……そういえば、インハイ始まってからなんとなくツイてるような気はしたけど」

浩子「あの場には泉以外三年しかおりません。てことは、三年三人が好調な分、泉一人が割を食う」

セーラ「もちろん、圧倒的な実力差があればどうにでもなる。向こう側の二回戦……清澄の宮永咲が三年三人相手にトップをまくって見せた」

竜華「あれも相当な化けもんやな。宮永って、チャンピオンの妹かなんかか?」

浩子「それは今どうでもええですわ。今大事なのは、泉がヤバイってことです」

怜「で、どうすれば?」

浩子「残念ながらお手上げですわ。泉が強くなるか、今すぐ三年になるしかありません」

怜「……監督、泉に単位あげて三年にしたって下さい」

雅恵「アホか。ちゃんと応援したれ」


『ロン、3900』


雅恵「ほら、お前らがアホなことばっか言うとるから聴牌すら出来ずに前半終わってもうたやないか」

セーラ「……帰って来れんやろな。誰が行く?」

竜華「ここは部長のうちが……」

怜「竜華、ダメそうな未来見えたからやめとき」

浩子「園城寺先輩が未来が見えた言うと洒落になりませんね」

セーラ「ま、去年団体でやらかした経験がある俺が行くべきやろ。あいつのやらかした分取り返すのも俺やし」

浩子「そうですね、江口先輩なら任せられます」

セーラ「ほな、イッテクルデー」


泉「あ、先輩……」

セーラ「おー、しょぼくれとんなあ。どうした?」

泉「分かってるでしょ。ボロボロですわ」

セーラ「あははは、それで責任感じてるってか?」

泉「そうです……変ですか?」

セーラ「気にすんな、俺が取り返したる」

泉「いや、負けっぱなしで終わるわけには……」

セーラ「実を言うとな、俺も去年、三年三人と囲んでボロボロにされてるんや」

泉「……江口先輩が、ボロボロ、ですか?」

セーラ「おう、ボロッボロやったで。手も足も出んかった」

泉「想像つきませんね、それ」

セーラ「インハイの三年は普通と違うねん。負けても仕方ない」

泉「せやかて、負けたらチームに迷惑が……」

セーラ「アホ、言ったやろ、『俺が取り返したる』って。気にせず負けたらええねん。てゆうかさっさと負けてこい」

泉「酷っ!?」

セーラ「今年は俺が何とかする、その代わり、来年の千里山を任せる。だから、今年は思いっきり負けてこい」

泉「先輩……」

セーラ「そ、『先輩』や、だから任せてくれてええんやで。来年、再来年になったらお前が頼られる側や。先輩ってのがどんだけ頼りになるかその眼に焼き付けとけ」

泉「分かりました、全力で打って、負けて来ます!」

セーラ「おう、行って来い! ……あ、勝てたら勝ってもええで?」

泉「勝てるもんなら勝ちますけどね。前半の感じだと無理ですわ。なんなんですかあれ?」

セーラ「詳しくは後でフナQに聞いてもらうとして、敵さんも『先輩パワー』全開ってとこやな」

泉「はあ……そら困りましたな。対策は?」

セーラ「ない。強いて言えば気合と根性や。だから俺が来た」

泉「じゃ、気合入れるしかないですね。お願いします!」

セーラ「おう! 行って来い!」


ベチンッ!


泉「痛っ!!! ありがとうございます!」


雅恵「おや、上手くやったようやな」

浩子「前半終わってしょげてた奴と同じ人間とは思えませんわ」

怜「気合入っとんなー」

竜華「ま、セーラやからな」

バタン

セーラ「さーて、後半も張り切って応援するでー」

雅恵「お疲れさん、泉に何言ったんや?」

セーラ「俺が取り返すから気にせず負けてこいって言うたった」

浩子「負けて来いって……まあ、勝てんのやからそらそうか」

雅恵「変に勝とうとさせるよりは、負けても良いからしっかり打ちきれって方がマシやな」

怜「で、取り返すって言った以上は勝ってくれるんやろな、セーラ?」

セーラ「ああ、当然」


『ロン、3900』


やえ「好調だな」

憧「いやいや、これ絶好調でしょ。もう白糸台の背中が見えてるじゃん」

日菜「千里山も大きく沈んだし、二位通過は確実かな?」

由華「渋谷尭深の役満もありますし、江口セーラも居ます。副将では白水がいますし、油断は禁物ですよ」

やえ「なにより問題なのは大将戦だろうが。宮永照の後継者と言われる大星淡に、わけのわからん高火力の鶴田、平均素点では私を上回る清水谷までいる。荒れるのは必至だ」


「「「そこはやえ(先輩)だし(ですから)」」」


やえ「気軽に言ってくれるな。私だって大敗することはあるんだぞ」

憧「いや、見たことないし」

日菜「あれは宮永がノーマークで暴れてる中で最後までやえが警戒されてたから…」

由華「え? ホントに負けたことあるんですか?」

やえ「ああ、一回戦で一位で受け取ったバトンを落としたことがあるよ」

日菜「当時、まだ無名だった宮永照が大将だった白糸台が二位で、ミドル時代から有名だったやえが徹底的にマークされたまま試合が進んだんだよ」

憧「宮永照をノーマークで打たせるとか自殺行為じゃん……無名だからって言っても、あれは気配で分かるでしょ」

やえ「ま、それを言っても仕方ない。とにかく、過度な期待はかけてくれるな。もう一度言うが、私でも大敗することはあるんだ」


『ツモ。3000、6000』


やえ「さて、出番だぞ巽」

由華「はいっ! 行って来ます」


中堅戦開始時


白糸台 157100
晩成  143700
千里山  52600
新道寺  46600


ーー


菫「この中堅戦、どう見る?」

照「間違いなく江口さんが抜けてくるだろうね。江崎さんもプラスにはしてくると思う」

淡「タカミーは?」

照「役満二回和了して五分ぐらいかな。三人とも格上」

誠子「江口は分かりますが、巽と江崎もですか?」

照「うん。新道寺のナンバー3、面前派で高火力な打ち手。鳴きで場を乱す人がいないと止まらない」

菫「渋谷も江口も面前派だからな、そうなると奴は打ちやすいか。新子みたいなのが場に居れば別だが」

照「そう。あと、巽さんは面前寄りのデジタルで、やっぱり面前場になる」

菫「ちなみに、巽はどれほど打てるんだ?」

照「読めない。去年鏡で見たけど、あの人は波がある。最高状態なら小走さんにも匹敵するから、そうなったら尭深が勝てる相手じゃない」

誠子「いや、尭深が勝てないって、流石に買いかぶりじゃないですか?」

菫「いや、小走に匹敵するなら無理だろうな。あれに勝てるのは『牌に愛された子』とか呼ばれてる連中だけだ」

誠子「弘世先輩まで…」

淡「まあでも、『牌に愛された子』、つまり私なら勝てるってことだよねー」

照「そうとも限らないけど……話を戻すと、平均的な巽さんなら尭深はオーラス込みで考えれば競り勝てると思う」

淡「ということは……」

照「巽さんの調子次第で、尭深は大凹みするか軽く凹んで終わるかになる」

淡「え? 勝つ展開は?」

照「ない」


『ツモ! 2000、4000です!』


菫「で、巽の調子をどう見る?」

照「好調だけど、最高状態ではない……とはいえ、尭深には厳しいかも」

誠子「あとは、オーラスで役満を和了れるかどうかですか…」


『6000オールや!』

怜「おーおー、飛ばしとんなセーラ」

竜華「いつの間にか晩成がトップになっとるな」

浩子「渋谷がボコボコにされてますね」

泉「巽さんが三年二人相手に普通に競り合ってますけど…」

浩子「まあ、そういうやつもたまにはおるんや。気にすんな」

怜「行け行けセーラ! やってまえー!」



『ロン、5200』


モブ美「巽さん! 頑張って―――!」

灼「モブ美、うるさ…」

穏乃「憧も宮永さんと園城寺さん相手にいい勝負してたし、なんか遠くに行っちゃたな…」

玄「憧ちゃんは本当に強くなりましたのだ」

晴絵「玄は完封されてたしな」

宥「えへへ、自分と打ったことがある人が活躍してると、なんだかあったかいね」


由華(さて、ここまでは順調、トップも奪取しました)

仁美(しかし、オーラス……渋谷尭深の役満が来る)

セーラ(直撃もらったら、プラスが吹っ飛ぶ。俺はそれでもプラスやけど、ここで役満直撃なんか喰らってられん)


尭深「…」ゴゴゴ


由華(…渋谷尭深の役満は大三元が多いけど、必ずしもそうとは限らない。困ったな、切る牌がない)

仁美(現物以外に読む根拠がなか。役満やっちゅうても、九連や四暗刻もあり得るわけで……)タン


尭深「ロン」


仁美(うごっ!? な、なんもかんも政治が悪い…)

尭深「16000」パタン

セーラ(小三元、混一色、対対、白、中、赤1…ギリギリ一本足りんで倍満止まりか)

由華(役満じゃない? ……渋谷尭深の役満には何か規則性みたいなものがあって、今回は役満を作れなかったということでしょうか?)


照「……うん、正しい判断だと思う。大三元狙いで見逃していたら、多分和了れてない」

菫「巽の手に発が対子であるな。三元牌は場に見えないだろうからこぼれることもなさそうだ」

淡「でもさー、これだと収支マイナスだよ?」

照「もともと、勝てる相手じゃないから」

誠子「今回尭深に厳しいですね、尭深、なんかやりました?」

照「……尭深に悪いところがあるわけじゃない。相手が強い」

菫「さて、渋谷は今年からのレギュラーだからまだ見破られてないと考えていたが、今ので見破ることが出来ると思うか?」

照「……小走さんは見破ってくるはず。他は知らない」

菫「ま、だからと言って簡単に止められるものでもないが。対策されたとして、後半は厳しいか?」

照「巽さんはそこまで器用じゃないし、江口さんは役満のリスク以上に稼げばいいぐらいにしか考えないタイプだと思う。9枚ぐらいは揃うはず」


『中堅戦決着―――! 最後は渋谷選手の跳満が晩成高校巽選手を直撃―――!』

『江口選手が荒稼ぎして千里山が浮上しています。上位三校が平たくなりましたね』

『ということは?』

『新道寺は副将と大将が稼ぎ頭ですから、まだまだこれから、というところでしょうか。白糸台、千里山、晩成、それぞれ大将に強力な選手を置いていますが、副将はやや手薄です』

『ふむふむ』

『おそらく、副将戦で白水選手が和了した分、大将で鶴田選手が和了するような関係があると思われますので、副将が手薄なことは新道寺にプラスに働くでしょう。まだまだ分かりませんね』

『てゆうか、二回戦までのデータだと副将の選手も相当打てるけど、手薄っすか?』

『白水選手ですから。宮永選手ほどではないにしても、エース格をぶつけないなら手薄とみなされても仕方ない打ち手です』


副将戦開始時

白糸台 116100
晩成  121700
千里山 103600
新道寺  58600


ーー

哩「さて、トップまで6万ちょいか」

仁美「すまんね、あんまし稼げんかった」

哩「プラスなら十分やろ、よくやってくれた」

美子「前半ラストで倍直喰らった時はダメかと思ったからね、上出来よ」

煌「お願いします、部長」

姫子「信じてます、部長!」

哩「ああ、行ってくる」


やえ「白水か……日菜、分かってると思うが」

日菜「軽く、固く、だね」

紀子「気を付けて」

憧「白水哩が和了った倍の翻数で和了る、だっけ?」

良子「だから早い手で流すんだよな。ま、日菜なら大丈夫だろ」

バタン

由華「すみません、最後の最後で…」

やえ「後半は全体的に失速してたな。お前の波はせめて一日単位に出来んのか?」

由華「出来たらやってますよぉ……」

やえ「まったく、私に土をつけた人間とは思えんな」

憧「やえ? なんか厳しくない?」

やえ「……そうだな、柄にもなく緊張していて余裕がない。すまないな」

良子「おいおい、県民最高到達点であるベスト8までは来てるんだから気楽に行こうぜ」

紀子「…それぐらいでやえが緊張するとは思えない」

やえ「気にするな、緊張の原因は個人的なことだ。ニワカと違って、私は緊張を制御するのにも長けている」

日菜「じゃあ、私、行って来るね」

やえ「ああ、任せるぞ」


セーラ「くっそー、トップ捲れんかったー!」

浩子「一位まくる気だったんですか?」

怜「十分稼いだやん。お疲れ、セーラ」

泉「先輩、サイコーでしたよ!」

セーラ「おう、取り返したったで」

竜華「で、フナQ、行けるか?」

浩子「ほんとやったらデータ欲しいんですけどね。この状況じゃ仕方ないですわ」


怜「おお、フナQが秘められた力を解放するときが来たようやな」

セーラ「世界を滅ぼす危険すらある禁断の力を封じた右目を開眼するんやな」

浩子「やめてください、なんですかその中二臭い設定?」

怜「ノリ悪いなー、ダメダメやでフナQ」

セーラ「これは大将で竜華が頑張るしかないわー」

浩子「ノリと麻雀の実力は関係ないんで」キリッ

竜華「頑張ってな」

浩子「最善を尽くしますわ」


哩(配牌は悪くはなかね。ただ、東1は様子見の局、ここは縛らんでいく)パタン

日菜(軽く流してやえに繋ぐ。普通に打ったら辛い相手だけど、白水はそれなりの打点を目指さないといけない状況。隙はある)

誠子(白糸台のレギュラーを甘く見てもらっちゃ困る、そこらの県代表エースぐらいには負けないつもりだ)

浩子(生データ採取のチャンスやけど、そうも言ってられんな)


誠子「ポン」

浩子(オタ風から鳴く、この場合、普通は手の内に役牌暗刻か染めてるけど、こいつは役が未確定でも普通に鳴く)

浩子(大抵の場合、対対か役牌の後付け。さて、何が出てくるか)

日菜(亦野に楽をさせる必要もないよね。和了りは遠いし、役牌は絞る)


誠子(鳴けないな……トイトイの形は出来て来たが、この巡目で一副露しか出来てないとなるとそろそろオリも考えないと)

浩子「ロン。5200」

誠子「!? ……はい」

哩(なるほど、千里山の船久保……小細工がうまそうやね)

哩(様子見は終わり、こっから全開で行く!)


哩(こん配牌、ドラ2と役牌、リーチで4翻はいかる。7翻まで見えっけど、ここはまだ…)パタン

哩(リザベーションフォー!)ガシャン

ーー

照「リザベーション、かけたね」

菫「何翻だ?」

照「分からないけど、多分4翻じゃないかな? 流石にここで最高形を目指した縛りはしないと思う」

淡「てことは、ここで和了られると倍満確定?」

照「うん、あの二人のコンボは淡でも破れないと思う。ちなみに私は無理」

淡「げっ、テルに無理って絶対無理じゃん。まあいいや、倍満ぐらいくれてやる!」

照「でも、多分この局は大丈夫」

尭深「と、言いますと?」

照「晩成の手が軽い」

『チー』

菫「両面をチーか。和了率偏重の打ち方だな。まあ、後に小走が控えているならここで稼ぐ必要もないか」

照「白水さんが縛りをかけて和了れなかった局は鶴田さんも和了れない。安手で流す気満々の晩成が居ると、新道寺は苦しいね」

尭深「一人が早和了りを目指す分、じっくりした手作りが出来ませんからね」

照「そうなると、縛りも低めの縛りになってくる。この点差だとその展開は苦しいんじゃないかな」

菫「元々鳴き麻雀の亦野が居る場で、更に早和了りを目指すやつが入る、大きな和了りが欲しい状況でそれは厳しいだろうな。しかし……」

照「白水さんだからね、何とかしてくるとは思うよ。3翻でも大将の鶴田さんは跳満になるし」

『ツモ、300、500』

菫「早和了りを目指す奴が居ると分かってどう修正してくるか、だな」


「ロン、8000」


やえ「…よし、よくやった、日菜」

憧「え? 今、白水さんに和了られたじゃん。満貫だから倍満確定でしょ? やえが言ったんじゃん、鶴田さんは白水さんの倍の翻数で和了するって」

やえ「いや。あいつはおそらく6翻を目指したはずだ。あの配牌を見れば誰だってタンヤオ三色にリーチかツモで4翻は見える。
  しかし、あいつは更に平和を目指していた。四翻の縛りをクリアするためにそんなことはしない。あいつは4翻より上、おそらく6翻を狙っていたんだ
  だが、日菜の振り込み覚悟の強打で6翻の手を作る余裕がないと判断して満貫で和了った」

憧「……それはそうだけど、6翻を目指して4翻で和了るとなにかあるの?」

紀子「過去のあの二人のデータ……白水が和了ってるのに鶴田が和了出来ていない局やその逆の場合がある」

憧「つまり、必ず和了りがリンクするわけではない?」

やえ「ああ、そしてここからは推測だが……牌譜を見ていくと、白水が和了っていないのに鶴田が和了した場合、大抵、対応する局の白水の配牌が良くない。
  ここから、白水が和了を目指さなかった場合は鶴田が自力で打っていると推測した」

憧「ふむふむ……で、逆は? 白水さんが和了してるのに鶴田さんが和了していない局」

やえ「それに鶴田の翻数が倍になってない局も加えるが、パターンは二通りある。好配牌で高目が狙えるのに安く収まった場合と、和了が望めないような配牌で和了した場合だ」

憧「どっちも配牌絡み……で、今回は前者ね。この場合は鶴田さんは和了れないってこと?」

やえ「白水は翻数を決め打ちする傾向がある。しかし、一年の時はそれが全くなかった」

紀子「ついでに言うと、個人戦の時も普通に打つ」

やえ「しかし、中学時代の団体戦、そして、二年の団体戦では決め打ちをしている……理由は明らかだな。鶴田とのリンクした和了りだ」

憧「コンボで鶴田さんが高打点で和了るためには、白水さんの翻数を決め打ちした和了が必要ってこと?」

やえ「そうだと、私は考えている。そして、その考えが正しければ、大将戦の前半南2局では白水が和了に失敗したため鶴田は和了れない。これは好機を作ってくれたことになる」


竜華「うわーここで倍満確定か、勘弁してや。東4局の和了りもあるし、あと一回ぐらい来るやろ。前半だけで30000は確定やん。鶴田が親やともっと高くなるし」

セーラ「他の局で10万稼いだらええねん。本場は何本積んでもオーケーや」

怜「頑張ってな竜華」

竜華「気楽に言ってくれるわ……相手、小走やで?」

泉「いやいや、大星の方がヤバイでしょ。あいつの牌譜おかしいですよ?」

セーラ「今の小走やったらなんとかなるやろ。中学時代ならいざ知らず」

竜華「そうやったらええけどな…」


『副将戦決着―――! 新道寺のエース白水選手が大暴れ―――!』

『トップの晩成が振り込みを繰り返して三位に落ちましたね。千里山は上手く凌ぎました』

『この展開どうなの?』

『そうですね、白水選手の活躍もありましたし、新道寺はかなり有利になったと思います。ただ、大将はどの高校も自信を持てる選手を据えているようですし、まだ分かりません』

『さあ、勝負は最後の最後まで分からない――!!! 激戦の準決勝、勝つのはどこだあああああ!?』


やえ「…さて、出番だな」

紀子「頑張って」

やえ「ああ、私の代名詞を勝手に名乗ってる馬鹿に目にものみせてやるさ」

憧「代名詞? 『王者』なんて名乗ってる人、大将戦の面子に居たっけ?」

やえ「知らんなら知らんでいい。知ってる奴も少ないしな」


淡「行って来まーす!」

バタン タッタッタ

照「行ったね」

菫「ああ、行ったな」

誠子「あいつ大丈夫ですかね?」

照「油断だけはしないように言ってある」

尭深「淡ちゃんなら大丈夫ですよ」

菫「どうだかな……照、もういいだろう。何故手を抜いたか話せ」

照「……何のこと?」


菫「完全な三対一。そうだな、不利なことは間違いない。普通ならあれだけ完璧な包囲網を敷かれてプラスで帰って来るだけでも至難の技だろう、それを4万以上のプラスで帰って来たら大健闘だ」


照「うん、手加減して出来ることではない」

菫「それが宮永照でなかったら、惜しみない賛辞を送っていたよ」

照「私でも褒めてほしいんだけど」

菫「私の知ってる宮永照は、辻垣内智葉と荒川憩に囲まれて徹底的にマークされても涼しい顔をしながらトップで帰って来る。それがあの面子で半荘二回打って4万? ありえんな。手を抜いたに決まっている」


照「……バレたか」


尭深「えっ!?」

誠子「宮永先輩、本当に手を抜いてたんですか!?」

照「うん」

菫「お前ら、こいつが誰だと思ってるんだ。園城寺に徹底的にマークされた程度なら、たとえドラが無くても10万は稼いで帰って来る。新子や花田などものの数に入らん」

照「新子さんは手ごわかった。普通に打っても10万稼げたかは怪しい」

菫「しかし、4万しか稼げないはずはない。話を戻そう、何故手を抜いた?」


照「……小走さんの用意した隠し玉を余すところなく見ておこうかと思って」


菫「やけにこだわるな。あいつとの決着はついてるだろう?」

照「ついてない。それどころか、フェアな条件で戦ったことさえない」

菫「……重症だな、ここまで思い入れが強いとは思わなかったよ」

照「……牌に愛された子」

菫「…今や、お前の代名詞だな。天江や神代、大星もそう呼ばれている」

照「元々、私を指す言葉じゃなかった。菫なら知ってるはず」


泉「は? 聞いたことないですよ? 『牌に愛された子』って言ったら宮永照とかあの辺の連中の事じゃないんですか?」

セーラ「せやろな、知らんやろな。マイナー雑誌の記事が出所やから、俺たちの代の一部の人間しか知らんもんな」

怜「ちなみに、泉。麻雀の強さを数字で表すとき、泉はどうする?」

泉「へ? えーっと、麻雀力2000とか、そんな感じですかね?『麻雀力4ぽっちか、ゴミめ』みたいな」

浩子「いっぺん死んで来い。平均打点とか、トップ率とか、平均素点とか、他にも色々あるやろ!」

泉「へ? ああ、そういうことですか。それやったらトップ率ですかね。トップ率37%の天才雀士とか名乗りたいですわ」

怜「それやとラス率50%ぐらいになりそうやな。泉やし」

泉「酷くないですか?」

浩子「で、牌に愛された子の話をしたいってことは、平均着順のお話しですね?」

怜「わかっとるやんフナQ」

セーラ「他の数値と平均着順の違いは分かるか?」

泉「分かりますって。一応千里山の一年レギュラーですよ?」


晴絵「まず、平均打点。和了した時の打点の平均だね。もちろん、高ければ高いほど強いと言える。しかし、これが最適な指標でない理由がある。宥、言ってみろ」

宥「ひゃい!? え、えっと……平均打点が高くても100局に一局しか和了出来ない人とかだと強くないから、ですか?」

晴絵「正解。むしろ、高すぎると高い手を狙って和了り損ねてることが多いんじゃないかと疑われる。とはいえ、トッププロの三尋木咏なんかは、これが16000を超えてくるから必ずしもそうでもないんだがな」

穏乃「なるほどー」

晴絵「次、トップ率……これは言うまでもないな。トップラスを繰り返す奴はそこまで強いとは言えない。50%を超えたりしたら残り全部ラスでも十分強いけどな」

桜子「おおー」

晴絵「平均獲得点数、半荘一回で獲得する点数の平均だ。これも、高い方が強い。しかし、これも強さを表すのに最適ではない。何故だ、玄?」

玄「え、えっと……勝つ時に大きく勝つ人だと高くなるから、ですか? マイナス25000でトビだからマイナスはそんなに大きくならないけど、プラスは結構大きくなりますし」

晴絵「そう、全員トビのプラス10万とかならともかく、平均素点が高くても負けることはあるわけだ。まあしかし、割と強さをそのまま表す指標ではある」

ひな「おー、くろちゃんすごいー」

玄「えっへん!」

晴絵「次、放銃率。振り込んだ回数を局数で割った数字。低いほど守備が固い。これは簡単だから綾に答えてもらうかな」

綾「和了らないと勝てないし、強い人は差し込みとかもする。ツモられるのはカウントしないし、当てにならない数字だよね」

晴絵「そうだな。綾が言った通り、和了らないと勝てない」

宥「さすがだね」ナデナデ

綾「宥さん、暑い…」

宥「ごめん…」

晴絵「で、和了率だが、これは1000点でも役満でも同じだから、いくら高くても勝てるわけじゃない。100%なら絶対勝つだろうけどな」

穏乃「となると、平均着順……勝ち負けをそのまま数字にしたこの指標が、一番適切な強さの指標なんですね!」

晴絵「まあ、微差のトップを何回か取っても馬鹿勝ちトップとかに総合で負けるから絶対じゃないけどな。一つだけの指標を挙げて強さを表すならこれが最適だと思う」

玄「当然、実際にはいくつかのデータを見て総合的に判断するんだけどね」


照「平均着順。半荘一回を終えた時の順位の平均。1.00から4.00になる。並みの打ち手は2.50で、相当強くても2を切ることはまずない」

尭深「ふむ……いろんな指標があるけど、強さをズバリ見たいとなると平均着順が一番都合がいいんですね?」

照「その通り。平均着順が強さで、他の数値はどういう風に強いのかという中身を表していると考えていい。そして、この平均着順の数字を見ると……」

誠子「去年のインハイでは1.00が二人いますね。宮永先輩と天江衣……優勝の立役者とMVP、納得の二人です」

照「ちなみに、全国二位の荒川さんでも1.1」

菫「十分化け物だがな。半荘10回打って9回トップで二着一回ってことだろ?」

照「『牌に愛された子』というのは、もともと、インターミドルで平均着順1.00を達成した『ある選手』に対する賞讃の言葉だった。
  どんなに強くても、牌に……麻雀の神様に愛されてないと出来ないことだから。
  最近では神代さんの和了りが神がかってたから神代さんもそう呼ばれてるけど、私は、去年に関しては私自身と天江さん以外を認めてない」

誠子「淡も個人戦で宮永先輩に負けてますから1.00ではないですね。で、それがどうしたんですか? 手を抜いたことと何の関係もなさそうですけど」

菫「鈍いな亦野。もともと照に対して使われた言葉じゃない、なら、最初にその言葉を使われたのは誰だ?」

尭深「えっと……まさか、居るんですか、今日の相手の中に?」

照「うん、元祖『牌に愛された子』……私がトップに立っても変わらず警戒されて三対一を強いられ、それでも最後まで私を苦しめた人」


セーラ「平均着順1.00の『牌に愛された子』。それが、俺らの知ってる『王者』、小走やえや」

怜「宮永さんに負けてからはパッとしない成績やけどな。全国だと普通に負けるし、県内でも巽さんに負けるし」

浩子「最初見た時はアホかと思いましたよ。平均着順1.00ってどんなチートやねんと。毎回天和でも和了るんかと思ったら牌譜は普通ですし」

泉「え? 能力とか一切なしですか? 相手の配牌悪くした上で毎回ダブリーするとか、配牌もツモも萬子しか来ないとか、永遠に連荘するとかそんなじゃなく?」

怜「小走さんは普通に打ってて、相手も普通にいい勝負は出来て、でも、絶対に順位では勝たれへん。インターミドルの個人戦は順位点のない素点のみで判定するポイント式やから、平均着順1.00でも必ず優勝できるわけではないってのが欠点やな」

泉「原村は順位とか点数状況無視で常に期待値優先で打ってましたからね。そういうルールやって分かってたのに順位を意識してもうたのがインターミドルでのうちの敗因やと思ってます」

セーラ「中学時代、誰一人として、一度も直接対決であいつに勝っとらん。それでも、毎回毎回、トップ争いしてる奴が別の卓で馬鹿勝ちすんねん、呪われてんのとちゃうか?」

竜華「あいつが一番強いと誰もが思ってる。けど、あいつが優勝したことはない。だから、うちらの世代は頂点が決まってなかったんや」

怜「誰が優勝しても、小走さんに勝たんことには認めてもらえんわけや。かと言って小走さん本人も優勝せんから頂点が決まらん」

セーラ「それも、宮永照が出て来るまでの話やったけどな」


紀子「今のやえは、一年の時に宮永に負けて爪と牙を折られたやえじゃない。王者として戻って来た、本当の小走やえ」

日菜(紀子ちゃん、やえのこと語るときだけ饒舌だよね)ヒソヒソ

良子(そりゃそうだろ。中二の時からやえに憧れてんだから、こいつは)ヒソヒソ

由華「…さっき、先輩は大敗したって言ってましたけど…」

憧「あった、これか、二年前の一回戦。晩成が三万リードした状態で大将戦、やえと宮永照の叩き合い…」

紀子「やえは、常に三人がかりで抑え込まれてた。それでも、相手が宮永じゃなければと、今でもそう思う」

憧「で、結果は白糸台が二回戦進出。最終的に4万差ってことは7万差で負けたわけね……え? なんでここでこれ切るの? ありえないでしょ」

紀子「徹底した三対一。宮永照がリーチをかけて、やえがダマでも、やえの現物を切る。そうして、やえの逆転手は全て宮永の和了りに変わる」

憧「だからって、中抜きでリーチに対しての無筋って異常でしょ? 馬鹿なの? このオーラスとか、せめてまっすぐ行ってたらやえが和了して親連荘でまだ脇の二校にも少しだけ希望があるじゃない」

良子「それだけ警戒されるのが小走やえだったってことだよ。 宮永が同格以上の化け物だなんて、当時の同卓者二人には思いもよらなかった」

紀子「せめて宮永が注目される二回戦以降だったら、レベルの高い準決以降の打ち手なら、やえだけが狙われる状況じゃなければ、もし何かが違えば、二年前、優勝していたのは晩成だったと信じてる」

憧「で、宮永照の後継者が相手か……緊張とかやえらしくないと思ったけど、そりゃ緊張ぐらいするわ」


照「あの時、私が小走さんと同等と認められていたら、レベルの高い面子だったら、フェアな条件での勝負だったらどうなっていたかを、知りたい」

菫「それでも、お前が勝っていたと、私は信じているぞ」

照「ありがとう。でも、小走さんは私の憧れだから」

尭深「宮永先輩が憧れる選手が同世代に居るって、不思議ですね」

照「……私は、小走さんの代名詞である『牌に愛された子』の名を継いだ。だから、私は負けない」

菫「都予選までは、強いとは言ってもまだ他の人間……うちの先輩なんかにはたまに負けることもあったが、あれ以降の照は何かに憑かれたように勝ち始めた」

照「小走さんに勝った私が、他の誰かに負けるわけにはいかないから」

誠子「去年の晩成戦とか、特に鬼気迫る感じでしたよね」

菫「個人戦で小走に勝った巽が相手だったからな」

照「私に負けてからの小走さんは本当の小走さんじゃない。だから、本当の小走さんの強さを教えてあげた」

尭深「宮永先輩の本当の全力……巽さん、よくトラウマにならなかったなあ……」

菫「で、淡は勝てるのか?」

照「まず間違いなく、負ける。ただし、チームとしては勝てるかもしれない」

尭深「どういうことですか?」

照「あそこにいるのは、本当の『牌に愛された子』。着順で勝つのは無理。ただ、小走さんは牌には愛されてるけど、絶望的なほどに勝負運が悪い」

菫「……そうだな。中学時代の小走があそこにいるなら、直接打って勝てるイメージは湧かないが、チームや大会全体でなら勝てる気がする」

誠子「マジですか……」

照「晩成が順当に上がってくるなら、淡にはここで学んでもらわないとね。小走さんとの戦い方を」


起家 やえ「よろしくお願いします」

南家 淡「よろしくー」

西家 姫子「よろしくお願いします」

北家 竜華「よろしくお願いします」

ーー

えり「どのチームが上がってくるんでしょうか?」

咏「どこもエース級の選手を置いてるね。どのチームも、こいつならやってくれるはずって思って送り出してると思うよ、知らんけど」

えり「背負う期待は同等ということですか?」

咏「そゆこと。となると、勝負を分けるのは……」

えり「分けるのは……?」ゴクリ

咏「わっかんねー!」ケラケラ

えり「……」イラッ

咏「しかし、準決とかあたしらに実況させてくれりゃいいのにさー」

えり「決勝の放映権取るために準決は譲ったらしいですよ」

咏「そーなん? 大人の事情ってやつだねえ」


大将戦開始時


白糸台 109100
晩成  103200
千里山 111700
新道寺  76000

ーー

起家 竜華

南家 姫子

西家 やえ

北家 淡



東一局

やえ「ほう……」

1358p349m15s西西東白

やえ(なるほど、いやらしい能力だ。これからずっとこのレベルの配牌が続くわけか)

淡「~♪」

姫子(バラバラやね……やけん、部長が残してくれた鍵は少なか。少しでも自力で稼がんと……)

竜華(キツイな……これが『牌に愛された子』ってやつか)


淡「ロン」

姫子「……っ!」

淡「8000」

やえ(ふむ、事前の研究通りだな。私が事前に分かっている対戦相手の研究を怠っているなどと思うなよ)

淡(トップ奪還。らくしょーらくしょー♪)

ーー

やえ「……」

淡「ツモ! 1000、2000!」

ーー

やえ「……」

淡「ツモ! 400、700!」

竜華「……」

姫子「……」

ーー

紀子「……」

憧「なるほどね」

良子「おい、これ大丈夫なのか? 一方的だぞ」

日菜「私に聞かれても……」

由華「先輩……」

憧「とりあえず、ここで大星さんの親番だからね。平たくなると思うよ」

良子「は? なんで独走してる奴の親番で平たくなるって……あ、そうか、東四局は……」


東四局 ドラ:4m


姫子配牌

444赤567m156s西西白中


姫子(ドラ4の二向聴……行かる。部長とのコンボが効いてる局は大星の妙な力も影響なかったい)

淡(さーて、そろそろ来るのかな? この局だよね、確か)

姫子(……ここは和了れるとして、部長の残してくれた鍵だけやと二位に届くかは怪しか、鍵のない局でもどげんかして和了らんといけん)

淡(ん~? なーんか表情が暗いねー、期待外れかなー?)

ーー

姫子「ツモ、面前ツモ 西、ドラ4。3000・6000」


3444赤567m567s西西西 ツモ:2m


淡「ほえっ!?」

やえ(まだ5巡目、鶴田はツモ切りが二回。どうやら大星の力より哩姫のコンボの方が強力らしい)

竜華(きっかり6翻。この点差と巡目で染めにもいかん。てことは、やっぱり白水の倍の翻数きっかりでしか和了れんのやな)

やえ(白水の和了りより小さい翻数で和了ることもあったり、白水が3翻で和了った後に8翻で和了っている牌譜もあって確信が持てなかったが、確定でいいだろう)

やえ(それらの局は、前者は白水が定めた翻数より大きい手で和了った場合、後者はコンボを使用していない和了りに対応する局で偶然鶴田が大きな手を和了ったものだと断定する)

淡(うっそ……やるじゃんしんどーじ!)キラキラ

やえ(二人の能力が衝突した場合の優劣、未確定の鶴田の性質、二つの不確定要素が一局で消えた)


咏「……ああいう子が後に控えてくれてると、先鋒が無茶出来て嬉しいんだけどね。監督、今年のドラフトであの子一位指名してくれねーかなー」

えり「ああいう子? ええと……誰のことですか?」

咏「あの中で一番強い子」

えり「いや、それがわかったら苦労しませんって。誰なんですか? 大星さんですか? それとも今和了った鶴田さん?」

咏「おいおい、その眼は節穴かいアナウンサー? てゆうか今年のドラフトって言ってるだろー」

えり「プロ級の観察眼をもっているなら、アナウンサーにはなってませんよ」

咏「言われてみればそうさね、ま、見てれば分かるよ」


南一局 


やえ「ロン、12000」

淡「うえっ!? 嘘!?」

やえ「なにを驚いている? もう六巡目、貴様の能力で保障された安全は失われている巡目だ」

淡「……無駄ヅモなしならそうだけどさ、フツーありえないでしょ」

竜華「……おい、一年。まさか、フツーの面子を相手にしとるつもりなんか?」パタン


竜華手牌

13s456789m345p東東


淡(嘘、こっちも聴牌!? 何なのこいつら!?)

やえ「おいおい、まだ死んだふりしておいて後でだまし討ちした方が良かったんじゃないか、清水谷?」

竜華「一年のガキなんか眼中にあらへん。お前とのケリ、つけさせてもらうで」

やえ「やれやれ、眼中にないなら『決勝で決着をつけよう』ぐらい言ってほしいものだな」

竜華「言われんでもそのつもりや」

姫子(清水谷竜華、平均獲得点数では北大阪でも随一のトッププレイヤー、そして、部長が一度も勝てとらんっちゅーとった【王者】小走やえ……
  あたしは部長とのコンボがなかやったら手も足も出んのに、こいつらは素で大星と渡りおーとーと?)

淡(マジで? 絶対安全圏を出たらその瞬間からいつでも噛みつかれるって言うの? テルでもないのに?)

やえ「……」ピク

淡「……でも、絶対安全圏が有効なら、私が絶対安全圏に居る内に叩けばいいだけだよね?」ゴゴゴゴ

竜華(これは、フナQが言っとったやつが来るか?)


南二局 


淡「……」ゴゴゴゴゴ

竜華(とはいえ、ここは副将戦で白水が和了っとった局、鶴田に任せるか)

姫子「……」

打:8p

やえ「チー」

チー:678p 打:北

淡「うっ!?」


淡手牌

4468s123m234779p ツモ:1s


淡(……ダブリーが止められた? マジで? 一回しか使ったことないのに対策されてるってこと?)

打:1s


竜華(ツモは7筒……大星が例のダブリーをする気だったなら、これをツモって聴牌だったはずやけど)

淡(あーもう! 役なしだし有効牌薄いしどうすんのこれ!? ダブリー阻止とか聞いてないよ!)

やえ(さて、見たところ負けず嫌いのようだし、出し惜しみする性格でもなさそうだ。地区予選で見せたダブリー以上の奥の手があるなら、早いうちに見せてもらおう)

淡(てゆうか、この局しんどーじの副将が和了ってたじゃん!? 私のダブリーとどっちが勝つかとか試さなくていいの!?)


やえ「ツモ。タンヤオドラ2、1000・2000」


2224赤567s333m チー:678p ツモ:7s


淡「……へ?」 

竜華「……は?」

姫子(必死に迷彩かけたのに、あたしを完全に無視して和了りに向かっちょる……まさか、部長がリザベーションを達成できんかったのが、バレとーと……?)

やえ「どうしたお前たち? 揃いも揃ってこの程度で面食らったような顔をして」

淡(うっそでしょ……なんなのこいつ? 捨て牌を見る限り、しんどーじは攻めて来てる、私の絶対安全圏も通じない強力なコンボを破ったって言うの!?)

竜華(哩姫のコンボをぶち破るんか……この無茶苦茶、中学時代を思い出すわ。こいつにだけは勝てる気がせんかったな、あの頃から)

姫子(なんでバレよったと? リザベーションで部長が何翻で縛ったかは、あたしと部長にしかわからんはずばい。なのにこいつは完全に見透かして……)


やえ「さて、私の親だな……お前たち、まさかこれでタネ切れとは言わんだろう? 二位まで通過できるとはいえ、出し惜しみはしない方が賢明だぞ」


淡「」ビクッ

竜華「……」タラリ

姫子「」ゾクッ

やえ(ま、ハッタリだがな。把握できていない奥の手があると計算が狂う上にそもそも対策が間に合わん可能性があるから、前半のうちに出し切ってもらえるとありがたいが……)


南三局


淡(……ちょっと待って、冷静に考えよう。東四局、しんどーじは私の絶対安全圏を『無効化』した。
  これは、テルでも出来ない。白糸台ではオーラスのたかみーだけが出来るのが、絶対安全圏の『無効化』、しんどーじはそれをやって見せた
  たかみーがそれを出来るのは、半荘一回かけてタネをまいてるからだってテルが言ってた。
  しんどーじは副将が和了れなかったら大将も和了れないリスク、和了った局しか発動しない、とかの厳しい条件があるからまだ分かる。
  でも、晩成のこいつは……何の仕込みもなく、南二局のしんどーじのコンボを破った。これ、とんでもないことだよ?
  それに、南一局では無駄ヅモなしで私から直撃を取ってる……これは、私の知る限りテルぐらいしか出来ないはず)

淡(結論、こいつはテルー並の強者の可能性がある、よって手加減する余裕なし! 全力で行くっきゃないでしょ!)ゴゴゴゴゴ


やえ(……これはさっきと同じか? ダブリー以上の切り札はないようだな。とりあえず一安心)

竜華(南一局で分かるとおり、配牌がダメでもツモは普通に進む。勝負にはなるはずや)

姫子(大丈夫、リザベーションが破られたわけやなか。どうやったかわからんが、縛りをかけたかどうかが見破られただけったい、まだ行かる)

ーー

竜華「ポン」

淡(また一巡目!? 5向聴以下なんだから鳴ける牌だってほとんどないはずでしょ!? なんでそう都合よく鳴けるかな!!)

やえ(そう睨むな、私だって清水谷のやつに翻牌を鳴かせたくはないんだから。とはいえ、お前を封じるには一巡目で鳴くのが最善だからな)

竜華(小走の配牌はバラバラのはず、で、うちの唯一鳴けるとこの翻牌が一打目で出るってことは……今の、大星のダブリー対策やろな。
  厄介事は小走に全部任せて、自分は普通に打って、それでも届かんかったら、中学時代からなんも進歩しとらんってことになってまう)

姫子(……鍵がなかったら配牌はバラバラ、ツモも思うように伸びん……部長がおらんかったら、私はこいつらに手も足も出ん……)


やえ(さて、大星の足止めは出来た、鶴田はコンボが成立してないなら大星の能力で止まる。お望みどおり、一騎打ちと行こうか)

竜華(うちだけ焼き鳥やからな。そろそろ和了らせてもらうで)

やえ(まったく、このバラバラの手牌で役を作らなければいけないのか。面倒なことだ)

ーー

憧「いやー、翻牌って便利な役だねー」

紀子「リーチをかけなくても面前でツモれば和了れる、鳴くとそれも出来ないから、大星対策には出来れば他家を鳴かせたい」

良子「役が無くて和了れないって素人みたいなことになりかねないからな」

日菜「……一巡目に翻牌を鳴けたとはいえ、清水谷さんもよくあのバラバラの手をまとめるね」

由華「先輩、間に合いますかね?」

憧「やえなら行けると思うんだけど、あっちも流石だねー」

紀子「あれも、ミドル時代からの【王者】のライバルだから」


『ツモや。中ドラ2、1000・2000』


憧「あー、親流されちゃったかー」

紀子「で、大星が親」

憧「さーて、どうなりますかねー」

紀子「やえが勝つことだけは間違いない」

由華「ですね!」


南四局


やえ(さて、親かぶりが安く済んだか、だが……)

淡「……もう小細工はさせないよ」ゴゴゴゴゴ

やえ(親のダブリーは止められんからな、どちらに転ぶか、前半で不確定要素を排除させてもらうぞ)

竜華(ま、流石にここは様子見やな。小走がこいつのダブリーをどうするのか、お手並み拝見や)

淡「いっくよー!! ダブリー!!!」ゴッ


やえ(さて、地区予選で見せたのは、終盤付近になってから槓をして、次巡にツモって槓裏を乗せて跳満だったな)

やえ(……手牌は相変わらず悪い。ここにダブリーが来るのだからたまらんな)

竜華(当ったら事故やな)

打:8p

姫子(助かった、現物があったと)

打:2p

やえ(さて、安牌なし、読む根拠もなし、完全な運否天賦だが……)

打:5p

淡「えっ!?」

やえ「なんだ、別にいいだろう? 一応筋だぞ」

淡「い、いや、そうなんだけど、出るんだ……? こんなの生まれて初めてなんだけど……」

やえ「……生まれて初めて?」

淡「……ロン、ダブリー、一発。7700」

やえ「……人和が無くて残念だったな」

淡「……一本場」


憧「ね、ねえ、これ本当に大丈夫? やえが振り込むとことか、私初めて見たんだけど」

良子「ん~? 大丈夫じゃねえか?」

紀子「今の振り込みで、確認できたことがある」

日菜「え?」

由華「大星淡のダブリーの特徴ですね?」

紀子「そう」

憧「……役なし、ドラなし、愚形聴牌で、槓材がある?」

紀子「サンプルは一局だけだけど、槓して槓裏を乗せるという特徴から、槓材があることと愚形であることは必然として推定していた」

憧「今の手もカンチャン待ちだったね」

紀子「終盤に槓するという特徴から、愚形聴牌はそこまでアタリ牌が出にくいようにするための必然」

由華「役なしドラなしは、その時の大星さんの手がそうだっただけですが、能力の弱点としてそうなるのではないかという話でした」

憧「全部当ってたね、流石やえ」

紀子「まだサンプルが二局に増えただけ、しかし、確認できたのは大きい」

憧「役なし、愚形、ドラもない上に、終盤に槓するために大星さん自身の力でアタリ牌が出にくいようにしてるっていうなら、ダブリー相手でも押せるよね」


南4局 一本場


やえ(……生まれて初めて、か。そんなことを馬鹿正直に申告せんでもいいのにな。ふふっ、おかしなやつだ)

淡(笑ってる? 何がおかしいっていうの!?)

打:1p

やえ「……リーチというのは諸刃の剣だと、初心者の頃に教わらなかったか?」

淡「……は?」

やえ「ロン、1600」

1336699p5588m22s ロン:1p

淡「あっ……」

淡(そうだった……こいつは、テルーと同じで、絶対安全圏を抜けたらすぐにでも……)

やえ「……リーチ棒が無ければ、この半荘は私の負けだったな」

淡「へ……? あっ!?」

やえ「じゃあ、また後半でな」

竜華「次こそお前からトップ取ったるからな!」

姫子「これが、【王者】……」

淡「う、うがー!! トップ奪還したのになんか負けた気分だよー!!」

ーー

前半戦終了


白糸台 111700(+2600)
晩成  107400(+4200)
千里山 110300(-1400)
新道寺  70600(-5400)


照「お疲れ様、よく打ててたよ」

淡「でしょー! トップも奪還したし!」

菫「奥の手を使ってな」

淡「うぐっ」

誠子「てゆうか、ダブリー破られたな、割とあっさり」

淡「ぐふっ」

尭深「新道寺には絶対安全圏も無効化されたし……」

淡「……」ドサッ

菫「まあ、トップ奪還はお手柄だ。後半もこの調子で頼む」

淡「りょーかい……」

照「……淡、一つだけ指示を出す」


淡「テルーのアドバイス!? 聞く聞く!」ガバッ


照「アドバイスではない、多分、千点が響く微差の勝負になるから、これだけ言っておく」

淡「……?」

照「本当に和了れる確信がある時以外のリーチは全面的に禁止。この禁止にはダブリーも含む」

淡「へ?」

照「分かった?」

淡「ちょ、ちょっと待って! どうやったら勝てるかとかそういうアドバイスじゃないの!?」

照「アドバイスではないと言ったはず。というか、多分、今の小走さんに勝てる可能性がある高校生は私しかいない」

菫「おい、照……」

照「ここまで競るとは思わなかった。万一のことがあるから、リーチは控えて」

淡「……わかった」

照「わかってくれたならいい」

淡「テルーが私を信じてないってのがよーく分かった! あのドリル頭を倒してテルーに私の力を認めさせてやるんだから!!!」

照「ちょっ!? 淡!」

淡「あっかんべーだ!!!」ベー


バタン


誠子「……行っちゃいましたね」

照「……まあ、淡なら大丈夫だと思うけど」

尭深「うーん……相手が相手ですから、不安ですね」

菫「まあ、万が一があっても戦犯は手を抜いたこいつだ。お前たちは気に病む必要はない」

照「気付いていて止めなかった菫も同罪。私だけ死にはしない」

菫「ふざけるな」

照「私は本気」

菫「本気の方がなおタチが悪い」

照「正直、菫が予想以上にふがいなかったのが計算違いの原因」

菫「手を抜いた奴にだけは言われたくない」

照「菫のせいで、私の後継者の初めての夏は敗北の記憶で幕を閉じることに……」

菫「いや、お前のせいだからな?」

照「またそういう詭弁を……」

菫「どっちが詭弁だ!?」

照「見る人が見ればどちらが詭弁を弄しているかは一目瞭然」

菫「ああ、一目瞭然だな」

照「菫は詭弁を弄したことを反省すべき」

菫「照、ブーメランって知ってるか?」

照「狩猟用の投擲武器。投げると手元に戻って来て何度も使える優れもの」

尭深「あ……」

菫「どうした?」

誠子「後半戦始まりました」

菫「……まあ、別に負けると決まったわけじゃない。本人の士気も高い、信じて待つとしよう」

尭深「はい」

誠子「大丈夫ですよ、なんだかんだで前半ではトップに返り咲いたわけですし」


起家 やえ「起家か」

南家 竜華「対面やないと気が入らんなー」

西家 姫子「……」

北家 淡「ねえ、晩成のドリル頭の人、名前教えて」


やえ「……小走やえだ」

淡「ヤエね、覚えた」

竜華「覚えとらんかったんか?」

淡「……テルーはさ、どうやらヤエのこと相当高く買ってるみたいなんだ」

やえ「……ほう?」ピク

淡「だから、ヤエを倒して、テルーに私を認めさせる。踏み台になってもらうよ」

やえ「……今更そんなことせずとも、お前は宮永の後継者だのなんだの言われてるじゃないか」 

淡「関係ないよ、テルーは、私がヤエに勝てないと思ってるもん。テルーと対等になるためには、あなたに勝たなきゃダメなの」

竜華「……おい一年、後から出てきてしゃしゃんなや。小走はうちの獲物や、邪魔すんならお前から潰すで?」

やえ「ま、手を組まない限りはお前らがどう打とうと構わんさ。二人で結託して私だけを狙うとかはやめてくれよ?」


【翌年三月 晩成高校】


憧「うーん……宥姉が抜けるから勝負にはなると思うけど」

初瀬「県予選で頭抱える羽目になるとはね……」

由華「三年間、先輩と丸瀬先輩のツートップに頼りっぱなしでしたからね……」

憧「結局一軍選考の時以外一回も勝てなかったし! 勝ち逃げすんなー! 留年しちゃえー!!」

初瀬「いや、それ入れても小走先輩に勝ったことあるの巽先輩とあんただけだから」

由華「来年の新入生に期待しますかね」

憧「どーせ腕に覚えのある奴は姫松に行くでしょ、アテになんないって」


?「確か、一年前に私も同じようなことを考えていたような気がするな」

?「上田よりマシな一年が入って来たのは僥倖だった、新入生も、そう悲観したものでもない」

?「おい、憧の代わりにあたしでも全国までは行けただろ」

?「どうかな……やえが立ち直ったのは憧のおかげだと思うし、憧が来なかったら阿知賀に勝てなかったかも」


憧「聞こえてるよー」

やえ「聞こえるように言ってるんだ。どうやら来季の戦力が不安らしいな、現役ども」

紀子「私とやえのありがたみを噛みしめるといい」

良子「つっても、あたしより順位上の二年も一人いるし、憧と由華が居るならそう悲観したもんでもないだろ」

日菜「……厳しいね」

やえ「上田、お前を基準にするのは阿知賀に失礼だろう?」

紀子「高鴨、松実妹、鷺森の三人のエース格に対して、こちらは憧と由華の二人だけ……不利は否めない」

憧「紀子かやえが留年してくれれば……てゆうか日菜でもいいよ」

やえ「留年するような馬鹿は、うちの学年には上田しかいないな」

良子「おい、あたし一応春から帝大……」

憧「良子は要らない」

良子「おいこら憧、いい加減に先輩に対する口のきき方を覚えろや」

初瀬「上田先輩はいいけど、四月の間だけでもいいから、今二年生の先輩にはちゃんとしなよ、下への示しがつかないからさ」

良子「岡橋、お前もか……」

憧「大丈夫だって、良子はどうでもいいとして、ある程度仲良くなるまで逆に敬語なの知ってるでしょ。一年の前では敬語だよ多分」

良子「あたしがどうでもいい理由を教えてもらおうか」

由華「上田先輩はどうでもいいですけど、本当に来期のメンバーどうしましょうかね」

やえ「ま、今年の憧だって地獄の特訓で鍛えたんだ、阿知賀の対策が出来ていればどうにかなるさ」

良子「……日菜」グスン

日菜「酷い後輩たちだねー」ナデナデ


憧「いやー……阿知賀対策なんだけど、最近ハルエのガードが固くてねー。多分だけど、あれマジで全国狙ってるよ」

紀子「次こそ、県民悲願の決勝へ。それが奈良県全体の目標でもある」

やえ「まあ、今年の戦力でいけないならしばらく無理そうだがな」

憧「……惜しかったよね」

やえ「負けは負けだ、お前らは私と同じ轍を踏むなよ」

紀子「やえは負けてない」

やえ「負けたさ。半荘でトップを取ってもチームが三位で終わったら意味がない」

憧「やえ……」

やえ「一人でチームの負けをチャラにする、圧倒的なエース。宮永照が体現し、私が目指してなれなかったものだ」

紀子「誰が相手でも絶対に負けない、最強の雀士。それが私が五年間追いかけた目標」

やえ「……紀子はもっと上の人間を目標にした方がいいと思うぞ」

紀子「やえが私以外に負けたらそうさせてもらう」

やえ「やれやれ」


やえ「……さて、外で話してた会話は聞こえていたんだったな?」

憧「一応ね」

やえ「お前には感謝している。お前が来なかったら、多分阿知賀に負けて一回戦で夏が終わっていた」

憧「いや、流石にそれはないでしょ?」

やえ「どうだろうな? 実を言うと、私が先鋒で腑抜けた闘牌で松実にドラ爆されて、やる気のない紀子が適当に流して、日菜がお前に抑え込まれて、上田が鷺森にやられて、巽が高鴨に競り負ける図がいやにはっきり浮かぶんだ」

憧「……あれ? なんだろ、言われてみたらあたしもそんなのが見える……」

良子「おいおい、大丈夫かお前ら?」

初瀬「……あれ? なんかメガホン落として俯いてる記憶が……え? 何この記憶? こんなシーン記憶にないのに……」

由華「ぶっちゃけ私もなんか見えますけど、収拾つかないんで戻ってきてくださーい」


やえ「……さて、今日来た用件はそれだけだ。お前にだけは改めて礼を言わないといけないと思っていた」

憧「……こっちこそ、一年間お世話になりました」

良子「憧が、敬語を使った……だと?」

紀子「良子、茶化さない」

良子「いや、だってよ……」

紀子「……良子」ギロ

良子「へいへい」

やえ「お前も、同じ代に妙なのが居て大変だろうが、頑張れよ」

憧「あはは、特にアレがね」

やえ「ああ、アレな」


【白糸台高校】


淡「くしゅんっ!!」

尭深「淡ちゃん、風邪?」

淡「むむー……サキかヤエあたりが私との再戦を願って噂話をしてるに違いないね!」

誠子「どっちにも完敗だっただろお前……」

淡「チームはどっちも勝ったもん!!」

尭深「試合終わった後もしつこく付きまとってリベンジを申し込んでたんだよね……」

誠子「で、個人戦代表同士だから打てないって断られて、その後個人戦でも負けたんだよな」

淡「あれは実質私の勝ちだから!」

誠子「実質ってなんだよ……」

淡「ヤエは三年だからハンデあるし、サキはテルーの血を引いててずるいから私の勝ちだもん!」

照「いつも百年生とか言ってるくせに……」

菫「全く、こいつに後を託して卒業するのが不安で仕方ないな」


【長野県某所】


透華「今年こそ我々が優勝を頂きですわー!!」

一「まあ、清澄は竹井さんが抜けるし、鶴賀は部員が足りないらしいし、ベストメンバーがそのまま残ってるうちが有力だよね」

純「全国でも主力選手に三年が居なかったとこはほとんどねえからな」

智紀「そもそも、去年も長野県でなければ決勝には行けたはず」

衣「しかし、奈良のあやつは引退してしまうのか、残念だな。手合せをしてみたかった」

ーー

咲「『牌に愛された子』……ですか? 私が?」

西田「ええ、耳に入ってないかしら?」

咲「あはは、自分では名乗れないですね。それ聞いたらお姉ちゃんが怒りそう」

西田「え? 怒る?」

咲「『牌に愛された子』だけは、本気で怒りますよ。この世にそれを名乗っていい人間が二人だけになるまで勝ち続けるって言ってますから」

西田「その呼び方に特別な思い入れが?」

咲「最初にそう呼ばれた人のファンらしいですよ」

西田「……私の記憶では、宮永照が最初だと思うのだけど」

咲「違うみたいです、私も誰のことかは教えてもらってないんですけど」

西田「『牌に愛された子』ねえ……」


その夏のインターハイ、白糸台高校、清澄高校、千里山女子、臨海女子の四校による決勝戦は、永らくインターハイ史上最高の名勝負と評価されることになった。

その、史上最高とも言われる決勝の前に、準決勝、あるいはそれ以前に涙を飲んでインハイの舞台から姿を消すことになった数多の高校があった。

その中の一つに、晩成高校がある。

県内で王者の名をほしいままにする常勝の名門校。
その長い歴史の中でも、おそらく最高メンバーであろう五人で頂点に挑んだ夏。

彼女達の強さを称える声は絶えない。

特に、史上最高の決勝戦を戦った20人のうちの半数、晩成高校と直接戦った10名は、大会の記憶を語る際には、必ず決勝以上に準決勝の記憶を多く語った。


また、その年、団体戦と個人戦でともに三連覇という偉業を成し遂げた「ある選手」は、三年間で一番苦しかった試合を尋ねられた際に、こう答えた。


『一年生の時の、団体戦です。全国での一回戦。もし、あの時何かが違えば、三連覇を成し遂げたのは私ではなかったでしょう』


この言葉は、ほとんどの者が『迷言』として受け取ることになる。

たとえ一年時の団体戦で優勝を逃しても、その年の個人戦、あるいは翌年以降の優勝校は変わらないと考えるからだ。


ただし、その後、「ある人物」がプロ入りし、その人物こそがこの最も苦しかった試合の相手だと知られるようになると、この言葉を迷言と捉える人間はいなくなったという。


END

というわけでニワカ先輩の誕生日SSでした。大将戦後半以降はちょっと間に合いませんでしたので諦めてやっつけ仕事になりました。

おつ

乙!

乙!
ガチで麻雀してる咲ssはハズレがないわ

おつおつ

たくさんたくさん乙乙
終始コメディ調だったはずなのにENDの瞬間ウルッと来たのはなぜだ
SSの小走先輩は相変わらず光るなー

なぜかタイトルで誰かわかってしまった

密かに無能力者最強と噂されるやえ先輩ほんと好き

リーチして槓材抱えてロンか

くっそ素晴らしかったおつ

ええ話でした

乙ありがとうございます。小走先輩の誕生日SSなので全力で書きました。
小走先輩SSとか晩成SSが増えてほしいです。

乙乙

後日談まで素晴らしかった

乙です

竜華が強そうで、すばらです

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