まこ「それ、もらってもええかのう?」久「自分のがあるでしょ」 (46)


もうすぐ四月になるというのに、まだまだ肌寒い日が続く……幸い、空は晴れ渡っており日の光がさしているのでじきに暖かくなるだろう

二年間使い続けた学生議会室の長机に腰かけ、その表面をなんとなく指先でなぞる

今日でお別れなんだと思うとさすがに感慨深い……去年なんかは、ここで過ごした時間が一番長かったんじゃないかしらね

私、竹井久はつい先ほど卒業式を終えて清澄高校を無事に卒業した

学生議会長として二年間も過ごしただけあってこの教室にもいろいろと思い出があるのだ……少し思い出に浸っていると、開けっぱなしの扉から声がかかる

一太「あれ、竹井さんこんなところにいたんですか」

久「あら内木くん……こんなところって、あんたも来てんじゃないのよ」

一太「僕にとってはここが一番思い出深い場所なので……てっきり、旧校舎の方に行ってるものかと」

久「先にこっち見てこうと思ってね……部室はこれから」

一太「そうですか」

久「彩乃は?」

一太「正門の方行きましたよ。 ほら」

窓の外に視線をやれば、たくさんの卒業生にそれを見送る在校生たちの姿が見える……たしかに、正門の辺りに生徒議会の仲間たちの姿も確認できる

久「ほんとだ……あんたは行かなくていいの?」

一太「あとで行きますよ……少し、ゆっくりしたい気分なんです。 ……お邪魔でしたか?」

久「別に……私こそ出てこうか?」

一太「いいですよ、そんな……一緒にやってきた仲じゃないですか」

久「……それもそうねー」



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一太「机に座るのは行儀が悪いですよ……座るなら、こちらに」

久「はいはい……いちいち真面目ねぇ」

内木くんの出した椅子に改めて腰かける……わざわざ椅子を出してくれる辺りはポイント高いかしらね

それにしても……普段は多少鬱陶しくもあったが、こういう生真面目な注意もこれからは聞くこともなくなるのかと思うと少し寂しくもある

一太「……ああ、卒業生代表の挨拶とか諸々、お疲れさまでした。 僕に挨拶の原稿書かせたわりにはアドリブで済ませてましたけど」

久「……やっぱり自分の言葉で表現するのが大事よね! それにあんたの書く原稿、真面目でまともで普通なんだもの」

一太「別にふざける場面でもないでしょう?」

久「あんたは、アレね……もっと柔軟な発想と遊び心を持つべきね」

一太「そういう竹井さんは、もっと真面目になるべきだと思いますよ」

久「……今まで、そういうところはあんたがカバーしてくれてたからね」

一太「……最初は不安もありましたけど、なんだかんだいいコンビだったと思ってますよ」

久「そんなの、私だって……あー……あのさ」

一太「なんですか?」

久「……今までありがとね。 あんたを選んでよかったわ」

一太「……こちらこそ、あなたと組めてよかったです」

これで一区切りだから、そう思ってらしくないとも思いつつ素直に感謝の言葉を口にしてみたけど……やっぱりちょっと、照れくさい

顔を見るのも少し恥ずかしくて、再び視線を窓の外に向けてとりあえず見知った顔を探す

クラスメイトや、生徒議会の集まりで見た顔……なんだかんだいろいろなイベントに生徒議会長として関わっていたし知った顔は多い

久「……あ」

一太「……なにか?」

久「いや……正門のとこ」

一太「……ああ、麻雀部の」


門の外にいるようなので被っていまいち姿は見えないけど、須賀くんの金髪はよく目立つ。 走り回っているのでたぶん優希とじゃれてるんだろう

一太「みんな、待ってるんじゃないですか?」

久「んー……ま、待たせておくわよ。 とりあえず今日で最後なんだし、感傷に浸るくらい許されるでしょ」

一太「それもそうですかね……まあ、待っててくれると思いますけど」

久「みんな私のこと大好きだもの。 当然でしょ?」

一太「はいはい、そうですね」

久「なによ、その言い方……」

一太「いえ別に。 いつも通りで安心しただけですよ……あなたのことだから、もっと感傷的になってると思ってたんですけど」

久「私は泣くときはひとりでこっそり泣くって決めてんのよ。 カッコ悪いでしょ?」

一太「そんなことはないと思いますけどね」

久「私は清澄高校麻雀部部長としてクールにこの学校を去っていくのよ。 後輩たちにはちゃんとカッコいい先輩だったって思ってほしいし……」

一太「今さらでしょう? 変に取り繕う必要はないと思いますけどね」

久「最後ぐらい見栄張ってもいいじゃないのよ……」

後輩たちには今まで情けない姿も見せてしまっているけど、概ね頼りになるカッコいい先輩だと思ってもらえてるはずだ……どうせなら、そういうイメージを強く持ってもらいたい

……とりあえず、最後になるんだもんね

…………最後、かぁ

久「……ねぇ」

一太「はい?」

久「……なんでもないわ。 またなにか困ったら頼らせてもらうから、よろしくね?」

一太「僕は便利屋じゃないんですけどね……まあ、できる限りは力をお貸ししますよ」

久「ありがとっ! ……じゃあ、またね」

一太「ええ、また」


内木くんと別れて学生議会室を出ると、人気もまばらな校内をのんびりと歩く

議会室から部室へ向かうのも、たぶんこれが最後になるんだろう

そう思うと、歩きなれたいつもの廊下もちょっと特別なものに思えてきてしまう

私は、こう見えて意外と感傷的な性質なのだ

たまにすれ違う子たちと挨拶を交わしながら、ゆっくりと歩を進める

こうしてみると、やっぱり校内では有名人なんだな、ということを実感する

すれ違えばだいたい声かけられるもんね、私……卒業式っていうのもあるんだろうけど

……それでも、本当に気を許せる相手は学生議会と麻雀部のみんなぐらいなのよね。 ちょっと寂しい気もするけど、むしろそれだけ居れば十分なのかしらね……昔みたいに薄っぺらい繋がりの取り巻きを引き連れてる時よりは、よほど充実していたとも思う

……あ、そういえば……職員室に行って先生方に挨拶でもしてこようかしら

…………まあいっか、担任には教室で挨拶も済ませてるし、顧問は……正直、あまりいい印象を持っていない

なんでも自由にさせてもらえたが、それはなんにもしてもらえなかったということでもある

実質名前だけの顧問であったわけだし、挨拶する義理こそあれど義務はない

生徒議会でお世話になった先生には卒業式のあとにそのまま挨拶してきたしなぁ……

ちょっと前に一応挨拶はしたし、改めて行かなくてもいいかな……あまりみんなを待たせるのも悪いし、やっぱりこのまま部室を見に行きましょうかね

なんとなく気疲れを感じてひとつ伸びをすると、背中がバキバキと音をたてた


――――――

久「……部室」

大きな扉の前で、立ち止まる

ここでは、いろいろなことがあった

いい思い出がたくさんある……それに、あまりよくない思い出も

私はいわゆる家庭の事情ってやつでインターミドルは途中棄権、風越や龍門渕のような名門私立に通うお金もなく結局地元の清澄に入学した

インターハイに……あの大舞台で打つことができなくても、麻雀が楽しめればそれでいい……そんな風に自分に言い聞かせてやって来たこの部室

進学先は希望通りにいかなかったけれど、新しい環境に期待もしていた

まわりにいた子たちは、みんな傍から離れていってしまったから……ここで心機一転、新しい仲間と一緒に麻雀を楽しめれば……たとえ結果に繋がらなくても、きっと満足できる。 そう思っていた

だけど、蓋を開いてみればここにいたのはやる気のない先輩たちばかりで実質活動もしていなかった

長野は大会参加校もけっこう多いし、力のある子はだいたいが風越に行ってしまうから戦力差も開きやすい……戦意を失ってしまうのもわからなくはない

やる気のない先輩に引っ張られたのか……それとも、私ひとりだけやる気満々で空回ってしまったのがいけなかったのか……一緒に入った同級生の子たちも次々と辞めていってしまって……

結局1年生のときはずっと部室にひとりで……誰か帰ってきてくれるんじゃないか、そんな期待を捨てることもできず、ただただ待ち続けていた

冬場には勧誘のこととかも考えていろいろ迷走したあげく、アクロバティックツモの練習とかしちゃったし……

備品を整備して、部室を掃除して……ただそれだけの日々を1年間過ごして

2年目の4月……この、麻雀部の表札を新しくかけ直した日に……そう、そこの階段からひょこっと……



まこ「なぁにやっとるんじゃ?」

久「……まこ」


久「……そっちこそ、なにしてるの?」

まこ「あんたがあんまり遅いから見て来いってせっつかれてのう……邪魔したか?」

久「大丈夫、待たせちゃってごめんなさいね……みんなは?」

まこ「門の方で待っとるよ……あんたも3年間通ったんじゃ、いろいろあるじゃろ? ……ひとりで振り返りたいこととかも、のう」

久「ん、まぁね……でも、そろそろひとりも寂しかったし……ちょっと部室見て行ってもいいでしょ? 付き合ってよ」

まこ「はいよ……それじゃあ、お供させてもらうかのう」

扉を開けて、中に入る……相変わらずの広い部屋だ。 私ひとりから、6人に増えた今でもちょっと広すぎるくらいだ

……今日で、私が抜けるから5人の部室になるんだけど

久「……今ね、ちょうどまこが来た頃のこと思い出してたのよ。 ずっとひとりだったから、ほんとにうれしくってね……あの日のことは、よく覚えてるわ」

まこ「わしもよく覚えとるよ……たったひとりの先輩がアホみたいにテンション高くてのう……お茶やらお菓子やら大量に出てくるし、下校時間ギリギリまで引き留められるし……」

久「……私、そんなに酷かった?」

まこ「いんや、生徒議会長就任してしっかりした人なんじゃろうと思っとったけど……かわいいところがあって親しみが持てるなぁと」

久「……まあ、それならいっか」

まこ「ふふ……そのあとはあんたと1年間ふたりっきりじゃったのう」

久「そうね……ね、まこ」

まこ「なんじゃ?」

久「……ごめんね、満足に麻雀打てる環境も作れなくって」

まこ「そんなん、気にせんでええよ……麻雀自体はうちで打てたしな」

久「あの1年は放課後はRoof-topに入り浸ってたわねぇ……」

まこ「なかなかの優良店じゃったろ? プロ雀士も通っとるぐらいじゃしな」

久「靖子だけどね……まあ、看板娘もかわいいし? ほんとにメイド服着はじめた時はびっくりしたけど」

まこ「……趣味と実益を兼ねておったからなぁ……風船配ったり、なんだかんだあんたの案は当たったのう」

久「でしょ? もし私が路頭に迷ったら拾ってね?」

まこ「あんたならそんな事態にはならんじゃろ」

久「ま、優秀ですからねー」


まこ「とはいえ、優秀なわりにはあんたすぐに迷走始めるんがなぁ……」

久「むっ、そんなことないでしょ? しっかりものの頼れる部長だったじゃないの」

まこ「自分で言うんか? ……あんた、勧誘のために野球やらサッカーやら始めようとするし……」

久「……そんなこともあったかしらね?」

まこ「人数も足りんのにスポーツの試合組もうとするし……」

久「……だって、野球部もサッカー部も人数いっぱいいるじゃないの!」

まこ「だからって……うちは麻雀部じゃろうが」

久「……まあいいじゃない。 なんとかなったわけだし! そんなことよりも、ほら! ふたりで過ごした思い出もいっぱいあるじゃない! そういう話をしましょうよ!」

まこ「誤魔化すのへたくそじゃな……」

久「ほら、親睦会とかおおいに盛り上がったじゃない?」

まこ「やったのう……ふたりきりで親睦会。 結局試験勉強しとったけどな」

久「でも、ふたりでできる遊びとかもいろいろ開発したじゃない……えっと、電話とか!」

まこ「いや、あれは……どうなんかのう?」

久「懐かしいわね~……久しぶりにやってみる?」

まこ「わりとしょっちゅう電話しとるじゃろ……あんた、夜中にも容赦なく電話かけてくるし」

久「……受験の時期は、ストレスが溜まって大変だったのよ! まこに癒されないとダメだったの!」

まこ「はぁ……他にもかける相手おったじゃろ?」

久「だって、優希とか咲に夜中に電話したらかわいそうでしょ?」

まこ「わしならええんか」

久「ゆみも受験で忙しかっただろうし、美穂子はプロ入りの準備で忙しかっただろうし……」

まこ「……まあ、よそ様に迷惑かけるぐらいならわしんとこに来てくれた方がええけどな」


久「他にもほら、忍者とか!」

まこ「……なんだかんだ忍者は長持ちしたのう」

久「折り紙で手裏剣作って的に当てる練習とかもしたわねー」

まこ「いろいろ仕掛けも作ったのう……そういや、板がひっくり返る机とかどこいったんじゃ?」

久「えーと……ああ、今まこが手をつこうとしてるやつだけど」

まこ「は? ……うぉっ!?」

久「……大丈夫?」

まこ「いたた……まだこれここに置いてあったんか……」

久「壊れてても、これはこれで味があっていいでしょ?」

まこ「使う時にひっくり返らなければの……それにしても、今思えば麻雀もせずになにしとったんじゃろうな、わしら」

久「……ふたりじゃ麻雀できないし」

まこ「……まあのう」

それでも、まこが来てくれたことで私の高校生活は大きく変わった

辛くて寂しいばっかりだった時間は影を潜め、明るく楽しい時間が増えていった

なんの意味もない話で数時間盛り上がって、じゃれあって……誰かとこんなに笑い明かすことなんて、久しぶりだった

久「ふふ……だけどほんっと、今年になって4人も入ってきてくれてよかったわ」

まこ「うん……団体戦も、出られたしのう」

久「出場どころか、最高の結果も出せたしね!」


本当に、よかった

最初の一年間をひとりぼっちで過ごした私にとっては、みんなと出会えたこと……それ自体がなけなしの奇跡だったものね

……結局欲が出て、インターハイで優勝するぞ! なーんて、みんなで特訓してみたり……もしそれで、たとえ優勝できなかったとしても……後悔せずに闘うことが、私をあの大会の場に連れていってくれたみんなへの恩返しなんだって、そう思っていた

まこ「……な、久」

久「んー? なぁに?」

まこ「わしも、すまんかったのう」

久「え? なにが?」

まこ「大会……わしのせいで、1年間余計に待たせてしまったじゃろ……?」

久「はぁ……だから、別にまこのせいじゃないって何度も言ったでしょ? 個人戦出なかったのは私が自分で選んだことなんだから……」

……やっぱりまこは随分と気にしていたらしい。 自分が来たから、私が大会に出れなかったって……

夏の県予選頃から、この話は何回も繰り返した気がする……あんたなら個人戦でも活躍できた、って私の力を認めてくれているのはうれしいんだけどね

久「それにさ、まこが来てくれたからこそ諦めないで待ってられたんだから……気にしなくていいのよ?」

まこ「それでも、2年生の時にインハイに出て活躍できとったら……実績がもっと出とったらプロに行く道だって……」

久「1年生の時に全国行けなかった時点で真っ直ぐプロ行こうなんて思ってないわよ。 もともと大学は出るつもりだったしね」

まこ「……ほうか?」

久「そうそう! それに、プロ行こうなんて思ってたら今年結果も出したしコネもあるし靖子になんとかこうとかしてもらって……」

まこ「汚いやっちゃな……まあ、わかったわ。 そこまで言うならもう言わんよ」

久「そうそう、気にしない気にしない……まこには、いろんなものをもらっちゃってるもの。 いろいろと余計なことは考えなくていいの!」

まこ「ん……そうじゃな。 あんたがそう言うんなら、そうするわ」


まこ「……じゃあ、とりあえずお茶でも淹れるかのう」

久「あら、ありがと……そんなにゆっくりしてて平気かしら?」

まこ「どうせけっこうな時間ゆっくりしとるしな……そろそろみんなこっちに来るじゃろ」

まこのその言葉とほとんど同時に部室の扉が開き、後輩たちがなだれ込んでくる

優希「竹井せんぱーい! あんまり遅いから来ちゃったじょ!」

京太郎「卒業おめでとうございまーっす!」

咲「ちょ、ちょっと優希ちゃん、京ちゃん……邪魔したらダメだってば……!」

久「あらみんな……待ちきれなかった? ごめんなさいね……って、和は?」

優希「え? ……あれ? のどちゃんは?」

京太郎「さっきまで一緒だったろ?」

咲「えーと……?」

和「はぁ……はぁ……みんな、走るの速いですよぉ……」

まこ「……大丈夫か?」

和「はぁ……はい……だい、じょうぶです……」

久「和はでっかい重りふたつも付けてるからねぇ」

京太郎「そうっすね! ……うへへ」

咲「京ちゃん、いちいち鼻の下伸ばすのやめてよ……」

優希「のどちゃんに近づくなよ、けだもの」

和「相変わらず最低ですね……」

京太郎「あ、いや! 違います! 誤解ですから! 胸とか全然見てないし!」

和「半径50m以内に入らないでくださいね」

京太郎「部室から追い出されちゃう!?」

まこ「語るに落ちたのう……ほれ、お茶。 全員分淹れたけぇね」


まこの淹れたお茶を手に、ひと息つく

咲「すみません、待ってようって言ったんですけど……」

和「おふたりのお邪魔をするつもりはなかったのですが……」

久「かわいい後輩たちを邪魔だと思うわけないでしょ? 一区切りだしね……みんなとも、ちゃんと話したかったもの」

優希「そんなの、私たちも同じだじぇ! ……あ! そういえば、いいんですか?」

久「なにが?」

京太郎「正門の方、学生議会の人たちいましたよ? 寺平先輩に紫芝先輩に……内木先輩とか」

久「内木くんとはさっき話したから……気にしないで。 部室にいる以上、私は麻雀部の竹井久!」

まこ「……ちょうどインハイの話をしとったんじゃ。 みんなが麻雀部に入ってくれてよかった、ってのう」

和「そんな……こちらこそ、先輩方に出会えなければ今のように麻雀を打てなかったと思います……とても、感謝していますから」

咲「私も……ここに来て、麻雀が楽しいものだったんだって思い出せましたから」

京太郎「俺が連れてきてやったんだろ? 感謝しろよ」

咲「もう、それを言うなら無理矢理引っ張ってきたんでしょ」

まこ「なんにせよ、咲の加入に関しては京太郎様々じゃな」

京太郎「ですよね!」

優希「お前、それ以外になんかしたか?」

京太郎「しただろ! えーと、ほら……いろいろ!」

久「買い出しとかねぇ」

京太郎「そう、それ! えー……それに、お前のタコスだって毎日作ってやってるだろうが! お前こそなんかしたのかよ!?」

優希「何を言ってるんだ? インターハイに関してはやっぱりスーパーエースであるこの私の活躍があってこそだろ?」

京太郎「…………うん、まあ」

まこ「ほんと、よくやってくれたわ」


優希「とは言ってみたものの……」

和「……ゆーきは、とってもいい打牌をしたと思いますよ?」

優希「収支は、いまいちだったから……」

久「なぁに言ってんの! 点数は大事だけど、団体戦なんだからそれがすべてじゃないでしょ?」

咲「お姉ちゃんとか、他にもすごい人がたくさんいる先鋒だったんだから……優希ちゃん全然よかったと思うけどなぁ」

和「……全国大会ではあまり奮わなかったかもしれませんが、麻雀とはそういうものです。 総合的に見ればゆーきの成績はプラスになっているはずですよ」

京太郎「……まあ、なんだかんだ言ってもうちの先鋒はお前しかいないだろ」

まこ「優希がしっかり繋いでくれたから、みんな最後まで打てたんじゃ……な?」

優希「……うん」

久「……もう、暗い顔しないでよ! 高校生活最後に見た優希の顔がそんなんじゃやーよ?」

優希「…………最後、かぁ」

咲「……先輩、卒業しちゃうんですよね」

和「……寂しくなりますね」

あ……余計なこと、言っちゃったかな……?

京太郎「……ほ、ほら! いちいちへこむなって! 別に今生の別れってわけでもないんだしさ!」

まこ「うん、京太郎の言う通りじゃ……どうせしょっちゅう遊びに来るわ」

久「もち! 毎日顔出すわよ!」

まこ「毎日はダメじゃろ……大学で友だちできんかった子みたいになるぞ?」

久「えー……じゃあ週2ぐらいで! それならいいんでしょ!?」

まこ「なにも怒らんでもええじゃろうが……」

京太郎「というかそれでも十分多い方っすよね……」


久「いいでしょ、別に……それくらいは顔出したいって思ってるんだから……まあ、実際にそういうわけにもいかないんだろうけど」

……私だって、卒業するのが寂しいことは否定しようがない

ずっと待ち続けて、ようやく手に入れた大切な仲間たちだ……できることなら離れたくはない

それに、みんなとだけじゃない。 この部室にだって今は愛着もある

みんなが来てから、寂れて暗い雰囲気をまとっていた部室も、だんだんと居心地もよくなってきて……私も、時間を忘れて部室に居つくようになった……そう、授業も忘れそうなぐらいに

……というか、朝に部室来てからお昼まで寝ちゃったこととかも何回かあったし……これは部室にベットあるのがいけないわよね。 私が来た頃にはもう置いてあったけど……なんでベットなんて置いてあるのかしら……?

まこ「ま、会おうと思えばいつでも会えるわ……大学も県内で実家からじゃろ?」

久「ええ……麻雀もそこそこやってるとこだかし、インカレでもバリバリ活躍してやるんだから! 応援よろしく!」

優希「……うん! もちろんだじぇ! 会場までタコス差し入れに行くじょ!」

京太郎「……大会の時期とか被ったら無理なんじゃ」

咲「はい、余計なことは言わないの」

和「当然応援に行きますから……竹井先輩も、私たちの応援よろしくお願いしますね?」

久「それこそ当たり前でしょ? 絶対応援行くから、来年も頑張ってインハイ出場、2連覇よ!」

咲「頑張ります!」

優希「絶対優勝だじぇ!」

和「まったく、ゆーきったら……絶対なんて約束はできませんけど、私としては全力を尽くさせていただきます」

京太郎「こういうときは優勝するって言っちゃえよ……そういうところはこの1年でまったく変わらなかったな」

和「大きなお世話です。 ……私だって、目標は同じ全国制覇ですから」

まこ「後輩たちもやる気満々のようじゃし、心強い限りじゃのう」

久「なによー? まこだってもっと気合入れて頑張って!」

まこ「そりゃあわしだってそのつもりじゃがな……とりあえず、人数揃えるとこから始めんと」

久「あー……」


勧誘、いい思い出ないのよねぇ

そこがうまくいかないからこそ、長いこと卓も囲めなかったわけだし……

優希「そんなに暗い顔しなくても、とりあえずムロが清澄に来ることは決まっている以上団体戦は出られるじょ!」

京太郎「ん……ああ、中学の後輩だっけ? かわいいか?」

和「……私たちのかわいい後輩ですが?」

咲「……真っ先に聞くことがそれ?」

京太郎「なんだよ!? 睨むなよ! 大事なことだろうが! ねぇ?」

久「こっちに振られても……ねぇ?」

まこ「男子にとっては大切なのかもしれんが……今んとこうちにはあんたひとりじゃからね」

久「そういうの、口に出すからモテないのよ?」

京太郎「くっそー……いやでも実際ですね! 来年はインハイ見てうちに来ることに決めたって子も出てくると思うんですよ!」

久「そりゃあ、まあ……そうかもね」

優希「なるほど……私の華麗な闘牌に憧れてやってくる後輩もいるわけか」

京太郎「まあ、女子はそうかもしれないけど……新入生の男どもなんかは、絶っ対! 和を見に来る奴とかいますからね! これはマジで!」

和「私ですか?」

咲「和ちゃんかわいいからね……」

優希「というか、おっぱいでかいしな」

京太郎「ほんとそれよ!」

和「なんですか、もう! セクハラですよ、セクハラ!!」


京太郎「いや、真面目な話……部員増加のためには、そういうライトな層をいかに取り込むかってとこもあると思うんだよね、俺は!」

まこ「言っとることは間違っておらんが……」

久「あはは、勧誘ポスターに和の水着写真とか使う?」

優希「エッロエロなやつだな!?」

京太郎「それだぁ!!」

和「着ませんよ! なんの勧誘ですか!?」

咲「うーん……そんなに人数が増えすぎても、それはそれで大変だと思うけどなあ」

久「たしかに、和をはじめとしたうちのかわいい子たちを狙うバカ男だけ集まってもしょうがないわよねぇ」

和「少人数とはいえ女子は全国制覇を目指すチームです。 初心者の方にも麻雀を楽しんで頂きたいですが、麻雀をする気のない方ばかり集まっても困りますね」

優希「お前だってそんなのばっかり集まっても困るだろ? バカ男」

京太郎「バカ男言うなって!」

まこ「ちゃんとした指導者もおらんしのう……初心者の後輩にも1から教えるつもりじゃが、あんまり大人数になると回せんなぁ……自動卓もひとつしかないし」

京太郎「指導に関しては平気ですよ! 染谷先輩いますし!」

まこ「……信頼してもらえるのはうれしいんじゃが、こう……こそばゆいのう」

久「そうね、まこなら安心だわ……それに、和も咲も優希もいるし……須賀くんだって初心者には教えられるでしょ?」

京太郎「ん、まぁ……大丈夫だと思いますけど……」

優希「なぜこっちを見るのか?」

京太郎「お前が人にモノを教えられるとは思えん! 咲だってそういうの下手くそだし……和のは、たぶん後輩が泣くな」

咲「あはは……まあ、私ちょっと口下手だしね」

和「どうしてですか!? そんなに、厳しく、は……」

優希「のどちゃん、わりとマホ泣かせてたな……」

久「和は、あんまり自分のレベルを回りに求めちゃダメよ? 和みたいに真剣に取り組んでる子もいれば、ちょっと遊びに……って子もいるだろうし……高校の部活だからねぇ」

和「……気をつけます」


優希「でも、部室は広いし……部員もたくさん増えるといいな……卓も、マットとか使えばいいし!」

咲「染谷先輩のおうちから古くなった道具とか、もらってこれないんですか?」

まこ「おろせんこともないがうちの店にもいろいろ都合があるしのう……実績も出したことだし、部費がおりればええんじゃが……」

久「ま、そこら辺は実績出てる以上ある程度融通効くでしょ! 4月になったら生徒議会選挙に菜月が出馬すると思うから投票よろしく!」

京太郎「……紫芝先輩が竹井政権引き継いで麻雀部と癒着するんですね?」

和「それはアリなのでしょうか……」

久「なによ癒着って!? ただ、菜月はうちの部の内情もよく知ってるし、まあ私とのこともあるし、いろいろ便宜も図ってもらえるかと……たしかに癒着っぽいわね、これ」

咲「ま、まあ……悪いことにお金使うんじゃなくって、足りないところにちゃんとお金出してもらおうって話ですから……」

優希「ま、そのためにはやっぱり部員たくさん集めてからだなー」

まこ「たしかに、そこら辺は今から考えても仕方ないわ……取らぬ狸の、って言うしのう」

京太郎「そうですねぇ……」

咲「……どうしたの?」

京太郎「ん? いや……俺もやっぱり団体戦とか出てみたいしさ……まだまだ下手くそだから、巧い新入生がたくさん入ってきたりしたらメンバーになれねぇかもしれないけど」

久「なんでそんなに卑屈なのよ……」

京太郎「だってみんなにちっとも勝てませんし……」

優希「いや、むしろ私たちにポンポン勝てたらその方が問題だろ……」

和「須賀くんは私たち以外の人とも打った方がいいかもしれませんね……」

咲「……ちょっとぐらい勝って自信つけた方がいいと思うよ」

まこ「うちでバイトでもするか? 人手も足りんし……うちのお客さんたちとならもう充分打てると思うんじゃが……」

京太郎「本当ですか? 俺も勝てる……いや、それはマジでお願いしてもいいですかね? とにかく麻雀たくさん打ちたいし……」


和「ネット麻雀ではダメなんですか?」

京太郎「やっぱり牌触りたいからさー」

優希「パイ触りたいとか、セクハラにも程があるぞ?」

和「…………」

京太郎「だから睨むなよ! 今言ったのはそのパイじゃないから!」

久「触りたいくせにー」

京太郎「えへ、そりゃあまあ……」

和「…………」

咲「和ちゃん大丈夫?」

京太郎「無言で距離とるのやめてよ!」

久「それにしても麻雀打ってお金もらえるとか最高よねぇ……私も客で行くよりバイトで雇ってもらえばよかったわー」

咲「……あの、竹井先輩」

久「なぁに?」

咲「それこそ、プロになればよかったんじゃ……お話もいくつか来てましたよね?」

久「んー……さっきまことも話したけど、もともと大学出るつもりだったから」

優希「そいつは意外だじぇ」

京太郎「たしかに……学校なんて面倒だしさっさとプロ行ってバリバリ稼ぐわーってタイプだとばかり……」

久「インハイ行けたのも今年だけだし……散々目立ったから話も来たけど、正直なところ……いきなりプロで通じるなんて思えるほどの自信もないのよ。 それに死ぬまで第一線で打てるわけじゃないしね……堅実に行かないと」

和「先輩の口から堅実に、なんて言葉を聞くとは……」

久「なによー……人生を最大限楽しむためにも、大学ぐらい出とこうって思ったの! 別にいいでしょ?」

和「まあ、私としてはその方がいいと思いますけど……」

まこ「……ま、こんなんでもちゃんと考えとるってことじゃよ」

久「こんなんとはなによ、もう……」


とはいえ、実際のところプロ入りは結構悩んだところでもある

麻雀は大好きだし、ずっと打ち続けていきたい。 打つのを仕事にできるなら最高だ

なにより、プロはお金が入る

活躍すればするだけ年俸も上がるし、そのお金でお母さんに楽をさせてあげたいとも思うけど……活躍できなければ収入は減るし、最悪チームからも捨てられる

残るのはかわいくて優秀な女の子……とは言っても、高卒じゃさすがにまともな職には就けないだろう

片親になってしまい、女手ひとつでたくさん苦労もかけたし……そこはしっかり恩返しをしたい

お母さんが、私のインターミドルの棄権や高校進学のこと、気にしているのも知ってるからこそ、そんなの関係なくしっかりここまで来れたんだ! ってところを見せたい気持ちもある

でも、だからこそここで失敗はしたくない。 大学行くのだってそりゃあお金はかかるけど、私の成績なら奨学金も余裕で出るし貯金だって子どもの頃から地道に貯めたのが残ってる……人生悪待ちの私だけど、無意味なギャンブルはしないのだ

インカレで結果を出せば……例えば優勝でもすれば、インハイよりも地味だとはいえ誰にでもすごいってことは分かる。 それに、私は高校2年間を大会に出ず過ごしたから……例えば、同学年でプロに行く美穂子や咲のお姉さん、インハイで打った大阪の愛宕さんみたいな子たちに比べたら圧倒的に不足している実践経験も稼げる

そっちで自信をつけてからプロに行きたいって言うのが実際のところだ

……まあ、プロ行きは確実だろうって思ってるんだから自信がないなんて言っちゃいけないのかもしれないけど

それに、最悪プロに行けなかったとしても私ならそこそこいい企業に就職だってできるだろうし……靖子のようにインカレで結果を出して実団チームで活躍してプロに行くって手もある

ここまでくれば、私ならどうにでもできる! ……はず!

しっかり稼いで、今まで大切にしてもらった分……しっかり返さないとね


和「……どうかしましたか?」

久「……ん? ああ、いや……これからの輝かしい未来に思いを馳せていたのよ」

京太郎「なに言ってんですか?」

まこ「大丈夫か?」

久「大丈夫に決まってるでしょ! もう、なによさっきから……とにかく、今日は私の新たな旅立ちの日なんだから……しっかり笑顔で送り出してよね?」

咲「……そうですね。 おめでたい日なんですから!」

優希「うん! やっぱりちょっと寂しいけど……門出の日だからな! しっかりきっちり送り出すじぇ!」

和「ええ……その通りですね。 先輩のおめでたい日にケチをつけたくはありませんから」

京太郎「……よっしゃ! ね、先輩……最後に打っていきませんか? 記念対局ってことで!」

久「お、それいいわね! よぉし、みんな卓ついてよ! 最後にお稽古つけてあげるわ!」

まこ「ふふ……ほれ、卓使えるから順番に入りんさい」

咲「染谷先輩こそ、卓についてくださいよ……竹井先輩とは一番長いんですから」

まこ「別に気ぃ遣わんでも……今までわしが一番打っとるんじゃからみんなで……」

優希「染谷先輩こそ遠慮しないでいいじぇ?」

和「竹井先輩が、清澄の竹井久なのも今日で最後なんですから……」

まこ「……ありがとな」

久「よし、早速始めるわよっ!」



京太郎「よろしくお願いしますっ!」

優希「よろしくお願いします!」

まこ「よろしくのう」

久「サイコロ回すわよ……はい、どうぞ」

優希「よし! 起家もらいっ! 行っくじぇー!」

まずは私とまこ、それに須賀くんと優希で卓を囲む

相変わらずの圧倒的起家率で優希からスタート……早速来たわね

優希「そぉら、リーチ!」

京太郎「相変わらずインチキ臭い速度だな……まだ2巡目だぞ?」

優希「男子だって上に行けば私みたいなのがいるんだぞ? 振り落とされないようにしっかりついてこい!」

京太郎「無理言うなって……通るか?」

優希「通るけど……ツモ! リーチ一発ツモ一盃口ドラ3に裏が2枚で8000オール!」

久「あらら……開幕でこれは痛いわねぇ」

京太郎「ほんっと、意味がわからん……」

まこ「さすがはうちのエースじゃな」

久「頼もしいわねぇ」

優希「えへへ……そんなに褒められると照れるじょ」


優希は、本当によくやってくれた

多くの高校が団体戦においては先鋒にエースを据える。 中学から上がりたての優希が、宮永照や辻垣内智葉をはじめとした全国区の中でも特に力を持った相手と渡り合うのは大変だっただろうし、悔しい思いもたくさんしただろう

優希「チー!」

京太郎「お、珍し……くもないか、最近は」

和「ゆーきは、全国を通してかなり打ち方の幅が広がりましたね」

優希「そうだな……合宿や、大会でみんなと打ったのが……全部、私のなかで活きてる……」

久「……今年一番成長したのは、きっと優希ね」

優希「みんなのおかげだじょ! ……来年は、私がエースとしてきっと活躍して見せるから……ツモ! タンヤオドラ1で1100オール!」

咲「火力を速度に……特訓通りだね」

まこ「ん……調子ええのう、優希」

優希「うん! この調子でガンガン稼ぐから……心配しないで!」

久「ええ……この調子なら心配要らないわね! 頼むわよ、優希」

優希「おう!」



優希は、本当に成長したと思う。 この対局の中でも、ここ一年間で覚えたことをいろいろ見せてくれて……出会った頃は南場に入る頃には切れてしまっていた集中力もしっかり持続するようになった。 勢いこそ多少落ちてしまうものの、全国で通用する立派な雀士になったと思う

京太郎「っだー! ……きっついなあ、もう」

まこ「でも、最近は不用意な振り込みも減ってきたのう」

久「そうそう、トビ終了も減ってきたし成長の証よ?」

京太郎「まあ、自分でも前よりはよくなってると思うんですけどねぇ……」

咲「……やっぱり、勝ちたいよね」

京太郎「当然だろ? 俺、みんなが全国で打つの見ててさ……すごいと思ったし、憧れたよ。 みんなみたいに打ちたいって思った」

和「……練習あるのみですよ。 誰だっていきなり強くなれるわけではありませんから」

京太郎「そりゃあわかってるけどさぁ……」

久「……ごめんなさいね。 私のやり方は……やっぱり、須賀くんには優しくなかったから」

まこ「団体戦のメンバーが揃ってからは、みんな自分のことばっかりで……ほんと、すまんかったな」

京太郎「あ、俺そこら辺は全然気にしてませんから! 俺、もともと中学までハンドボールやってて……自分で言うのもアレですけど、かなりできる方だったんで」

優希「自慢か?」

京太郎「おう! 俺、かっこよかったろ?」

咲「……黙ってればそこそこね……喋ると残念だったから全然モテなかったんだよね」

京太郎「うっせ! 余計なこと言うなよ! ……まあ、だから大会で上位狙えるならそっち優先して当然だとも思ってましたし……それに、インハイ終わってから進路のこととか忙しい時期にしっかり面倒見てくれたじゃないですか? それが本当にありがたかったし、うれしかったんで」

久「……須賀くんはいい子ねぇ」

京太郎「惚れました?」

久「ちっとも」

京太郎「ですよねー」


優希「……なあ、京太郎」

京太郎「ん? どうした?」

優希「……麻雀……私たちと打つの、楽しいか?」

京太郎「もちろん! 楽しくなかったら続かねーよ……全然勝てねーし、理不尽な競技だとも思うけどさ……それでも、楽しいよ!」

優希「……そっか!」

まこ「楽しんでくれてるならよかったわ……あと優希、それじゃ。 8000な」

優希「うげっ!? やっちゃったじょ……」

和「もう、話す方に夢中になってるからですよ?」

優希「面目ないじぇ……」

京太郎「そんなんじゃエースの座も危ういぜ?」

優希「むむむ……まだまだ、これからだじょ!」

咲「…………ね、京ちゃん」

京太郎「んー?」

咲「……いや、なんでも。 よかったね。 ありがと」

京太郎「? おう! こちらこそどうも! ……お、カン! 嶺上……! ならず……」

久「じゃ、ドラも増えたしリーチね」

京太郎「うぇ……」

和「むやみやたらとカンをするのは素人のすることだと何度も……」

京太郎「いいじゃんかよー! 俺だって咲みたいにカッコよく和了りたいんだよー!」

久「はい、ツモ! ドラの暗刻に裏も乗って6000・12000! まくったわよ!」

優希「うわっ……京太郎のアホ! やられちゃったじゃないか!」

京太郎「知るか! 和了られる前に和了れよ!」

優希「東場ならともかく南入したら追いかけるので精一杯なの!」

まこ「ふふ……まだまだ修行が必要じゃね」


――――――

和「それでは、よろしくお願いします」

咲「お願いします……手加減なしですよ、先輩」

久「それはこっちの台詞……プラマイゼロなんてしたら許さないんだから! ……本気で来てよ?」

まこ「久、ここで負けたらカッコつかんぞ? ……もちろん、わしも本気でやらせてもらうがのう」

うちの1年生たちは……須賀くんはともかく、女子の三人はインターハイでもその実力を示したように、全国で戦えるだけの力を持っている

咲は言うまでもなく、化け物揃いの大将戦を勝ち抜いたし……和だって完璧なデジタル打ちで公式戦のほぼ全てを多少の差はあれどプラスの収支で乗りきっている

ふたりがこの部室を訪れたときからこれほどの実力を発揮できていたわけではない。 ふたりの才能が花開くきっかけを作ったのは自分だとも思っているし、それが自慢にもなると思っている

こうして、本気のこの子たちと相対するとちょっと身震いするほどのプレッシャーを感じるし、その力が恐ろしくもある

……だけど、私はこの子たちの先輩なんだから……負けるわけにはいかないという気持ちも強い

なんといっても私は清澄高校麻雀部部長、竹井久……この麻雀部をゼロから作りあげ、全国優勝に導いた天才プレイヤーなのだ。 高校最後の対局で後輩相手に無様をさらすわけにはいかない

咲「カン」

久「!」

咲「嶺上開花……責任払いです、先輩」

久「ええ……さすがね、咲」

大明槓からの嶺上開花で責任払い……咲の得意とする手だ

3900点を支払い、まこの親が流れる……咲は私を送り出すためにしっかり本気で来てくれるらしい。 是非ともその力を示して、来年以降の清澄の進退に関して安心させてもらいたいものだ

東二局は得意の悪待ちで和から直撃を取った

和「……なんですか、その待ちは」

久「私の悪待ち、知ってるでしょ?」

和「……別にいいですけど、私はもっと素直に打った方がいいと思いますけどね」

プイッと拗ねてそっぽを向く和はいつも通りかわいらしい……本当は、須賀くんや優希よりも一番子どもっぽいのは和なんじゃないかと思う。 ……まあ、私が言えたことじゃあないんだろうけど

和は、私のようなセオリー外の手を使う打ち手や、特別な牌の偏りを扱う雀士に弱い……と思う。 全国2回戦目の永水女子、薄墨さんとの対局なんかはヒヤヒヤしたしね……


咲や優希のような打ち手が身近にいるにも関わらず、特異な打ち手がいることを頑なに認めようとしない和は堅物で融通が利かないとも思うが……そこが和の強さでもある

ある種のオカルトめいた打ち手の存在を認めず、効率をひたすらに重視する和のスタイルは……その信念の強さに惹かれるかのように牌が応えるのだ

その彼女の強さに今まで助けられてきたし、きっと今後の清澄を助ける力にもなってくれるだろう

久「……ふふふっ」

和「……なんですか?」

久「いや……和が別にいいですけど、なんて言うとは思わなかったから……入学した頃なんかは『そんなのありえません! もっと効率的な打ち方をするべきです!』とかなんとか言ってたじゃない?」

和「真似しないでくださいよ! ……まあ、今は人それぞれに考え方、打ち方があるというのはわかっているつもりです。 当然、理解できないことも多々ありますが……竹井先輩にまかせて事態が悪くなったことはありませんから」

久「あら」

和「……これからも、今のまま……竹井先輩の信じる通りにやっていけばいいと思います。 それはきっと……なんですか?」

久「……べ、別になにも、ないけど」

まこ「照れとるんじゃよ。 和がそんなに素直に久を褒めたことはなかったじゃろ?」

久「照れてないわよ! 余計なこと言わないでってば!」

和「ふふ……ああ、ツモです。3000・6000」

久「あら、親被り……やーねぇもう」

和「油断してると、トバしちゃいますよ?」

久「ふふ……いいわねぇ、和のそういう強気なとこは好きよ?」


咲「ポン」

まこ「ふむ……じゃあ、チーじゃ」

咲のポンは珍しい……が、そこからは大抵の場合加槓への布石だ

まこも眼鏡を外している……まこの視界には今まで何度も練習場、何百何千と目にしてきた咲の対局の記憶が見えているのだろう

まこは、視力こそ低いものの視界は私なんかよりも全然広い

思えばただ、夢を見ていた……憧れの夢の舞台であるインターハイ。 そこで打つ自分の姿……今年の春、優希と和、咲の加入で夢が現実になる兆しが見えたとき……私は浮かれた。 そりゃあもう、浮かれに浮かれた

みんなの強化のために靖子に咲と和の稽古をつけてもらったり、合宿の特訓メニューを考えたり……それから、全国区の高校生雀士のデータ集め

入部してすぐの頃にはちゃんと面倒を見ていた須賀くんへの指導は疎かになっていたと思うし、みんなのメンタルのケアもろくにできていなかった

そんなときに……回りの様子を見て、1年生それぞれに声をかけてあげられるまこの存在は部内でも大きかったし、私自身も支えてもらっていたという気持ちも強い

なんといっても、たったひとりで寂しく過ごしていた時間から解放してくれたのはまこなのだ
。 私自身の心も不安定な時期だったから、甘えてしまっていたところも多々あるし……

というか、まこは人を甘やかすのが上手い。 それに、メゲそうなときにはしっかりおしりを叩いてくれるしね……みんなの、私のメンタル面の大きな支えになってくれた

まこ「……うん、ツモじゃ。1300・2600」

咲「むぅ……やられちゃいました」

京太郎「咲の和了り手を鳴いて潰したのか?」

優希「ああ……ヤバい気配がしてたろ?」

京太郎「わっかんねぇって……咲のポンとか珍しいなぁってぐらいだよ」

まこ「まあ、少しずつ見て覚えていけばええよ……京太郎も経験を積めばいろいろ見えるようになるはずじゃ」


咲「私も、ちゃんとできるってところを見せたいんですけどね……」

久「咲ができる子なのはわかりきってるわよ。 まこがこういうところでちゃんと止めてくれるのは安心できるわねー」

まこ「咲とは何度も打っとるからのう……夏に向けて全国区の打ち手の牌譜を……いや、その前に龍門渕や風越のチェックじゃな」

優希「特に、龍門渕は来年もみんな残るからな! 厳しい戦いになるじぇ」

京太郎「見知った相手なら染谷先輩は打ちやすいんじゃないか? 咲と打った……天江さんが一番ヤバいんだろ?」

和「相手が誰でも、ベストを尽くせば結果はついてきますよ」

まこ「ま、やるだけやってみるしかないからのう」

久「風越なんかは美穂子も抜けるし池田さんなんかは先鋒に移る可能性もあるしねぇ……いろんな状況を想定しておかないとダメよ?」

京太郎「先鋒に関しちゃ、こいつは相手によって打ち方変えれるほど器用じゃないですって」

優希「まあ、私ほどの打ち手になるといつも通りに打てば速度と火力で押し潰せるしな! なんの問題もないじょ!」

京太郎「……一理あるな」

まこ「相手が並ならそれでいいんだがのう」

和「油断しちゃダメですよ、ゆーき」

優希「わかってるって! フルメンバーな以上、龍門渕は同じ編成で来るだろうし……ノッポの鳴きをなんとかしないとなー」

まこ「まあ、龍門渕さんの性格を考えたら並び替えはないじゃろうな……このままなら和との直接対決もあるわけじゃし」

久「ズラしには強くなったとはいえ、井上さんも一筋縄じゃいかないものねぇ……咲も、天江さんに勝つ自信はある?」

咲「そうですね……衣ちゃん、すっごく強いし……秋の選抜では夏みたいな……んーと、なんて言うか……遊びみたいなこともしてなかったですし……」

優希「たしかに海底とか、点数0にしたりとかはなかったな」

京太郎「そもそもそれが狙える時点で意味わかんないんだけど……」


まこ「もともと天江さんは去年の夏に見せたような高速高火力が売りのプレイヤーじゃからのう」

咲「はい。 だから大変だとは思いますけど……私だって……今は、本当に麻雀が楽しくて、もっとたくさん勝ちたいって思ってますから……」

咲「だから、負けません! きっと、来年も勝って見せますから……部長、それカンです!」

久「あら」

咲が手牌を倒し、嶺上牌に手を伸ばす……これも、この1年間で何度も見た光景だ

咲「カンです!」

優希「うわっ……」

まこ「……ほんと、とんでもないのう」

咲「もいっこ、カン!」

和「三連続のカン……すごい偶然ですね」

京太郎「……いい加減、偶然で済ますのもキツくないか……?」

咲「嶺上開花です!」

久「ふふっ……ほんと、みんな頼もしいんだから……うれしくなっちゃうわね」

まこ「……あんた、余裕かましとるがのう……」

久「ん?」

まこ「トビじゃぞ?」

久「あれっ!?」

咲「嶺上開花……対々和、三槓子、三暗刻、混一色、白、ドラ1で……子の三倍満ですから24000ですね」

久「……私、21500点しか持ってないんだけど」

まこ「だからトビじゃって」

久「そ、そんなバカな……」


おかしい……こんなことがあってもいいのかしら!?

予定では悪待ちから倍満ぐらいの手をツモ和了りして……指で弾きあげた和了り牌を卓に叩きつけながら不敵な微笑みと共に点数申告、そして……

久『みんな、まだまだ私には及ばないけどよく成長しているわ……きっと、もう私がいなくても大丈夫ね!』

咲『先輩……!』

京太郎『すげぇ! さすが竹井先輩だ!』

優希『かっこいいじぇー!』

和『先輩の教え、忘れはしません!』

まこ『久……あんたの分までしっかりやるけぇのう……!』

みたいな! 私がカッコよく和了ってみんなの感動の渦のなか華麗に去っていく予定だったのに!

久「……ままならないもんねぇ」

まこ「まぁた、アホなこと考えとったんじゃろ?」

久「そんなことないもん……ま、この私をトバしちゃうくらいだし……来年以降も心配はいらなそうね、咲?」

咲「ふふっ……はい! 頑張ります!」

久「……それにしても」

まこ「今度はなんじゃ?」

久「……悔しいっ! もう一局打ちましょうよ! さすがにラストがトビ終了とか笑えないんですけどっ!」

まこ「ダメじゃ。 もうけっこう長いことおるぞ? そろそろ部室から引き払わんと……打ちたいならこのままうちに来んさい」

久「えー」

まこ「わがまま言わんの」

久「いいじゃないのよぅ……この卓にだって、愛着あるんだから……」

まこ「……ダメなもんはダメじゃ。 我慢せぇ」

久「ちぇー」


私が来た頃にはほとんど使われてなくって整備不良を起こしかけていたこの雀卓も、この一年で酷使が過ぎてボロボロだ

なんだかんだ三年間使い続けた卓だし、愛着も強い。 卓だけじゃない、牌や机に椅子……どんな備品にだって思い出がある

ここから……この部室から、すべて始まったんだもの

久「…………名残惜しいわねぇ」

咲「……先輩、部室出る前に……最後に、写真撮っていきませんか?」

和「竹井先輩の作った麻雀部ですから……一緒に、飾っておきたいんです」

和の視線の先……PCの置いてあるデスクには、麻雀部て撮った写真が何枚も飾ってある

合宿の時に撮った写真、県大会の時、インターハイ団体戦優勝……他にも夏の大会のあとみんなで遊びに行った時や、クリスマスパーティーの時の写真……今年一年で、いい思い出がたくさんできた

久「そうね、このまま帰るのももったいないもの……この制服も、もう着れないだろうし……」

優希「じゃあ先輩は真ん中入って! 染谷先輩も、そんなはしっこじゃなくってもっと寄るじぇ!」

まこ「はいはい、わーったからあんま引っ張らんで……」

京太郎「カメラとかスマホとかあったら……」

咲「えっと、えっと……」

和「咲さん、まだ使い方覚えてないんですか……?」

咲「ちょっと難しくって……」

京太郎「あー、俺がやってやるから貸せって……」

久「……っていうか、須賀くんはなんで自然にカメラマンに収まろうとしてんのよ」

京太郎「え? ……いやいや、俺が撮らなかったら誰が撮るんすか? とりあえず女子の団体メンバーで……」

まこ「はぁ……そういうんはええって。 あんたもうちの一員なんじゃから……」

京太郎「……そうは言っても誰かがやらないとなら、やっぱり俺が……」

久「ま、いいからまかせなさいって!」


一太「……それで、僕が呼ばれたんですか?」

久「私みたいな美少女に頼られてうれしいでしょ?」

一太「…………まあ、いいんですけどね。 思ってたより早く呼び出されただけですし」

菜月「会長! 卒業おめでとうございますっ! あとで私たちとも写真撮りましょうね!」

久「もちろん!」

京太郎「あ、そしたら生徒議会のみなさんで撮るときは俺がやりますから!」

彩乃「これ、みんなの? 写真撮ってあげるからまだあるなら出して出して!」

和「すみませんわざわざ……寺平先輩も、ご卒業おめでとうございます」

まこ「久が長いことお世話になりまして……」

彩乃「ありがとっ! こちらこそ久ちゃんにはお世話になったし……というか、まこちゃんの方が大変だったでしょ?」

まこ「……言われてみると、そうかもしれんなぁ」

咲「でも、竹井先輩は学生議会ほっぽってこっち来ることもざらにありましたから」

優希「どっちもどっちって感じですねー」

久「そこまで迷惑かけてないでしょ!?」

一太「ははっ」

まこ「笑えるのう」

久「なによその反応は……」

和「……先輩にまかせて事態が悪くなったことはありませんが、それも真面目にやっていただいてる場合に限りましたね」

咲「麻雀に関してはいつも頼りになったけど……ねえ」

優希「普段はわりとてきとーだじぇ」

久「むぅ……須賀くん! 菜月! ちょっとなんとか言ってやってよ!」

京太郎「無理です」

菜月「あはは」

久「なによーみんなでそうやって私をいじめて!」


一太「ほらほら、写真撮るから笑顔でお願いしますよ」

彩乃「はい、並んで並んで……うーん、バランスが……須賀くんちょっと縮めない?」

京太郎「無茶言わないでくださいよ!」

菜月「逆に優希ちゃんが伸びるとか……」

優希「仮にのどちゃんや咲ちゃん程度まで伸びたとしても結局バランス悪いじぇ」

一太「普通に撮れるから大丈夫ですって……もう少し全体的に中央に寄ってください」

久「ほら、まこ! こっち来て!」

まこ「だから引っ張らんでって……咲も、もうちょい寄りんさい」

咲「はーい……そっち大丈夫?」

優希「のどちゃんのおっぱいがでかすぎて窮屈だじぇ」

和「ゆーき! だから……もう! 関係ないでしょう!?」

京太郎「お、優希! 俺と場所代わるか!?」

彩乃「須賀くんもだらしない表情やめてねー」

和「そっちの端にいてください」

京太郎「はい、すみません……」

菜月「今度は表情暗いよ~? 須賀くんもキリッとしてれば男前なんだからシャキッとして!」

京太郎「マジっすか!? よっしゃ、これでどうっすか?」

菜月「いいよいいよ~」

優希「ノセられやすいやつだな……」

咲「……ほんとに扱い簡単だね」

一太「じゃあ、撮りますよ――はい、チーズ」


久「……うん、よく撮れてる」

まこ「ちゃんと、他のと一緒に部室に飾らせてもらうわ」

久「よろしくね! 内木くんもわざわざありがと」

一太「いえ……僕も、帰るにはまだ少し名残惜しかったので」

まこ「副会長……二年間本当にお世話になりました」

一太「こちらこそ……染谷さんも、麻雀部の部長大変でしょうけど頑張ってくださいね」

久「私の後任だからね! ちょっとハードル高いかもしれないけど、頑張るのよ?」

まこ「……実際、ちょっとハードルは高いのう」

久「……そんな顔しないでよ。 まこなら大丈夫! まこにしかまかせられないんだから!」

まこ「そうか……そうじゃなぁ」

まこ「あんたが、ここから居らんくなっても……ちゃんと、この麻雀部を、守ってかんとね……」

久「……まこ」

まこ「あんたが始めて、作って、残してくれたもの……どれも、無駄にはせんから」

あ、ヤバい……これ、さすがに泣きそう……泣かないって決めてたのに……

久「……私、私も……みんなに、まこにもらったもの……全部、抱えて持ってくから……本当に、私……みんなにはいろんなもの、もらってばっかりで……」

まこ「そんなことないじゃろ……わしらだって、あんたからいろんなものをもらったけぇね」

久「でも、やっぱり私の方がいろいろもらっちゃってるわよ……お弁当の玉子焼きとか、ケーキのてっぺんのいちごとか……」

まこ「ふふっ……たしかに、そういうこまいものは結構やったがのう」


こぼれそうな涙を誤魔化したくって、つい軽口を叩いてみたけれど……本当に、今日、これで最後になるのよね

言うべきこと、伝えたいことはたくさんある

……ちゃんと、今、言っておかないとダメよね

まこ「だいたい、食べ物ばっかりか? もう全部食べたじゃろうが……というか、ここで挙げるのがそれか? 他にもなんかあるじゃろうが……」

久「そうねー……他には……ほか、には……」

久「夢、とか……希望、とか……」

まこ「……久」

久「私……まこのおかげで、まこが来てくれたから、ずっと耐えられた……2年間待てた……! それで、最高のメンバーが揃った……だから!」

久「たった……たったの1年で、みんなと離れて……一緒に戦えなくなるの、すごく……すっごく、残念で……寂しくて、辛くって……わ、私……!」

つい気持ちが昂って、今度こそ溢れてくる涙も誤魔化せなさそうになって……つい、言葉が止まる



まこ「……なあ、久」

久「……まこ?」

まこ「……今まで……わしからたくさんのもの、あげたじゃろ?」

久「……うん」

まこ「だから……わしからも、ひとつ、お願いがあるんじゃが……」

久「なに? ……なんでも、言って?」

まこ「……それ、もらってもええかのう?」

まこが私の胸元に手をやり……触れたのは、制服の、青い三角タイ


久「……こんなの、自分のがあるでしょ?」

まこ「これ、来年は使えんじゃろ?」

……言われてみれば、たしかに清澄のタイは学年で下から赤、緑、青と色が固定されている

思い返せば、去年なんかも回りには卒業していく先輩にタイをもらってくる子がいたような気もする……私には、そんな先輩はいなかったからすっかり忘れていた

まこ「……去年は、あんたを戦いの場に連れてってやることもできんかった」

まこ「あんたが夢見てたあの戦い……見たがってた景色……もっと、満足いくまで体験させてやりたかった……」

まこ「……あんたは一足先に卒業して離ればなれになるけど……わしらが仲間なのは変わらんじゃろ?」

まこ「だから……また、あそこまで連れていきたいんじゃ」

久「…………まこ」

まこ「……それに、あんたが一緒に戦ってくれると思えば、わしも心強いけぇね」

久「…………まこぉ」

堪えきれなかった。 視界が涙で滲む

まこ「お守りがわりにな……もらっても、ええじゃろ……?」

久「こんなの、好きなだけ持ってってよぉ……もう! ばかぁ……!」

まこ「なんじゃ……! 叩くなって、あほぅが……」

久「泣かないって、決めてたのにぃ……まこが泣かせたぁ……」


1度泣き始めてしまうと、今まで我慢していたものがすべて、どうにも止まらなくなってしまって……まこに飛びついて、思いっきり抱き締める

京太郎「あっ! ちょっと目ぇ離した隙になにしてんすか! みんなで泣かせようって言ってたのに!」

優希「うぅ……ぶ、ぶちょう! 私、わたし……!」

久「きゃっ! ちょっと優希……急に飛びつかないでよぉ……」

まこ「あんたが言えたことじゃないじゃろ! ったく、もう……そんなに、泣かんでもええじゃろ……」

久「まこだって、泣いてるじゃないのよぉ……」

まこ「そんなん、仕方ないじゃろうが……」

咲「部長……今まで、本当に……本当に……うぅ……」

和「部長……おせわに、なりました……」

久「っもう、今は、部長はまこでしょ? 私は……卒業したんだから……」

優希「うっ……ひっく……部長は、部長だじぇ! かわらないじょ!」

京太郎「そうですよ……俺たちにとって、やっぱり部長は部長ですから」

まこ「わしも、しっかりせんと……ふふ、あんたよりも、いい部長になれるよう頑張るけぇ……久、しっかりな」

咲「部長なら、きっと新しい環境でもうまくやれますから! が、がんばって……くださいね!」

和「こちらにも、顔を出してくださいね……いつでも、待ってますから」

久「みんなぁ……」


久「わたし……みんなに、ずっと言いたかった、ことが……あって、ね?」

ずっと、言えなかった

インターハイで優勝した時……いや、県大会優勝……ううん、県大会にエントリーした時……みんながここに集まったときから言いたかった

だけど、改まって言うのも照れ臭くって……今はその時期じゃないって……まだ早いから、最終局を終えてから……全部終わってから……そうやって引き延ばしてきた

でも、とうとうこの時が来た。……みんなと別れる、春の日が

久「わたし、みんなと……みんなと会えて、良かった……!」

久「……須賀くん」

京太郎「はい!」

久「優希」

優希「……うん!」

久「……っ、和」

和「はい……」

久「咲……っ!」

咲「は、っい!」

久「まこ……!」

まこ「うん……うん……!」

久「みんな、っ……あ、ありがとう! 本当に、本当に……ありがとう!」


京太郎「部長……っ! おれ……俺! 部長に教わったこと、忘れませんから! 絶対にみんなと一緒に、インターハイ行きます! 今度は……選手としてっ!」

久「頑張りなさいよ! 男子麻雀だって甘くないんだからっ!」

優希「私もっ! 不動のエースとして、チームを引っ張る存在になるじょ!」

久「優希ならできるわ! ぜーんぶ蹴散らしちゃえっ!」

和「どんなときでも、ベストを尽くします……それが最高の結果を引き寄せるって信じてます!」

久「その調子! 和の強い心が、きっとみんなを助ける力になるわ!」

咲「それに……もう、思い出しましたから! いつも、いつでも……楽しい麻雀を打ちますっ!」

久「そう! それよ咲! 楽しめないなら、意味がないもの!」

まこ「…………久」

久「うん……なに?」

まこ「わしに、まかせてな」

久「ええ……まこに全部、ぜーんぶまかせるわよ! ……頑張ってね」

まこ「ああ……あんたもな。 頑張りんさい」

みんなで泣きながら抱き合って……言いたいことはまだまだあるけど、たぶん全部伝わったんじゃないかって……そう思う


――――――

菜月「……ちょっと、入りづらいですねぇ」

一太「……竹井さんにとって、麻雀部はやっぱり特別だからね」

彩乃「悔しい?」

一太「別に……あの子たちと僕らとじゃ立ち位置が違うだけさ。たいして変わらないよ」


久「あっ! ……菜月! 彩乃! 内木くんも! 大切な仲間だからっ!ほんっとにありがとう!」

菜月「……はいっ! ありがとうございます! 会長っ!」

一太「……やっぱり、少し負けるかもしれないけど」

彩乃「やっぱり悔しいんだ」

一太「……ちょっとだけ、ね」

京太郎「先輩方っ! 今度は俺が写真撮りますからっ! 並んでくださいっ!」

菜月「須賀くんありがとねっ!」

久「悪いわね、うちの部室で」

彩乃「卒業式だもの。 久ちゃんの大切な場所で写真が撮れてうれしいよ?」

一太「それに、議会室でも結構写真撮ってますからね」

咲「あ、寺平先輩! さっきはありがとうございましたっ! 今度は私が……」

彩乃「ありがとう、宮永さん! はい、よろしくねっ」

咲「……えっと」

和「はぁ……咲さん、スマートフォンのカメラなんて使えないでしょう? 無理しないでください」

咲「あはは……ごめん、和ちゃん。 お願い」

優希「部長、ちょっと目元赤くなってるじょ?」

久「えっ、やだもう……どうしようかしら」

まこ「写真じゃわからんよ……ほら、しゃんとせぇ」

久「はいはい……それじゃあ、お願い!」


――――――

京太郎「じゃあ、先輩方の卒業記念にパーティーでも!」

優希「Roof-topか!」

彩乃「あはは、まこちゃんのおうちだっけ? 面白そうだけど私、麻雀打てないよ~」

菜月「それじゃあ、カラオケとかボーリングならどうでしょうか!」

一太「まあ、そこら辺なら無難にみんな楽しめるんじゃないかな」

咲「私、あんまり行ったことないなぁ……」

和「わ、私もです……楽しみですね」

優希「のどちゃんがワクワクしだしたし、決定だじぇ!」

京太郎「しゃあ! それじゃあ近場の店に予約入れるんで……あ、時間とか平気っすか? 駅前でいいですかね?」

彩乃「大丈夫だよ! 須賀くんにまかせたっ!」

優希「よし! 私直伝のダンスで盛り上げるぞ、京太郎!」

京太郎「クラスマッチのアレか!? ……まあいいや、盛り上がるならなんでもしてやるぜ!」



久「おーおー……みんな盛り上がってますなぁ」

まこ「さっきまでみんなで大泣きしてたしのう……やっぱりちょっと恥ずいんじゃろ」

久「ふふ……そうね。 でも、思いっきり泣いて、言いたいこと言ったらスッキリしたわ」

まこ「そうじゃな……変に我慢するよりも全然良かったわ」

久「……ね、まこ」

まこ「ん? どうした?」

久「はい、これ……さっき、約束したから」

まこ「……ありがとな」

自分のタイをほどいて、まこに手渡す

久「……ちょっと、動かないでね」

まこ「な、なんじゃ急に……」

久「私がつけてあげるから…………んむぅ……人のタイ結ぶのって難しいわね」

試行錯誤してみたものの、途中でまこはいつもタイを胸元でリボン結びにしていたことを思い出す

制服で一工夫してお洒落しちゃったり、メイド服とかのフリフリでかわいい衣装がお気に入りだったり……まこはやっぱりかわいいな、って思う


久「んー……よし! できた!」

まこ「どうも……ってちょっとそれ、わしのタイ……どうするつもりじゃ?」

久「ふふっ……優希や和、咲に渡す予定だったのかもしれないけど……まこのは、私がもらっておくわ」

久「……お守りがわりに、ね。 いいでしょ?」

まこ「……そうじゃな。 あんたの好きにしんさい、久」

久「ありがとね、まこ」



京太郎「部長! 染谷先輩! なにしてんですかーっ!」

優希「早くしないと置いてくじぇーっ!」

咲「京ちゃん、優希ちゃんも! そんなに慌てなくても大丈夫だよ」

和「というか、部長のお祝いなのに主役を置いていってどうするんですか!」


久「あらあら……じゃ、行きましょうか?」

まこ「ふふ……そうじゃな」

先を行く生徒議会の仲間たち、そして麻雀部の仲間たちを追って踏み出す

この一歩は、未来への一歩だ

期待と不安の入り交じった未来……きっと楽しいことだけじゃない。 辛いこと、苦しいこともたくさん待っているはずだ

それでも私は、精一杯の自分で、楽しみながら立ち向かっていけるはずだ

大切な仲間たち、みんなとの思い出……そのおかげで取り戻すことのできた、無邪気な笑顔の中に、強さの輝きを灯して……

そして、またいつか……あの夢のような舞台の上じゃなくてもいい。 須賀くん、優希、和、咲……まこ、みんなと……



久「……また、いつか……みんなで、やりたいわね」

まこ「……なにをじゃ?」

久「ふふっ……そんなの、決まってるでしょ?」



久「最高の、麻雀を!」


カン

乙 ほっこりした

卒業シーズンなので。三年生の方おめでとうございます
清澄ss増えて!


良かったよ

一気に読んだ
良いとこだけ切り取った感じだったけど読みやすかったし面白かったよ


しんみり来るなあ

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