新戸緋沙子「私は、お前のことが好きだ。幸平創真」 (52)

注意書き

本作品は食戟のソーマの二次創作になります。
ヒロインはタイトルにあるとおり、秘書子こと新戸緋沙子ちゃんになります。

地の文を利用した小説形式の作品になりますので、そこはご注意ください。

ほんとに秘書子かわいすぎると思う。

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最初は感謝の気持ちだった。

偶然スタジエールの課題で一緒だった彼。
初めこそつっけどんとした態度を取っていたけれど、彼と一緒に過ごしたあの時間は、私にとってかけがいのないものになっていた。

あの時、私が抱えていた悩みという名の氷塊も、彼のおかげで溶かすことが出来た。
彼の後押しもあって、私は私がいたかった場所に帰ってくることが出来た。
元々彼のことはえりな様の邪魔な存在としか思っていなかったが、あれ以降、私が彼に対して敵意を抱くことは出来なかった。
そしていつからだろうか。
私の中に何かわだかまりが出来始めていたのは。

「どうしたの?緋沙子?」
「あっ、はい!すいません。少し考え事をしておりました」
「もう、まずはその敬語をやめなさいって言ったでしょ?」
「す、すみ、いえごめんなさい?あー、もう少し待ってください!中々難しくて、その」
「ふふ、冗談よ。でもゆっくりで良いから直していってね?」
「は、はい!」

あれ以降。えりな様、いやえりなと呼べと言われているが、それは置いておこう。私たちの関係は良好だと思う。
えりな様の隣に立つ。今までの努力とは比べ物にならない努力をしないと辿り着けない場所。
でもあの日、彼に教えてもらったこと。私が気づかなかった私の中の本当の想い。
それが今の私を形作っている。

「で?どうしたの緋沙子?最近良く上の空になることが多いけれど」
「いえ。私自身もよく分からないんです。なんか胸の中にわだかまりみたいなものがありまして」
「わだかまり?まさか、風邪とかじゃないわよね?」
「いえ!体調管理はばっちりです!ですが、このようなものは初めてで、自分でも戸惑っているのです」
「わだかまり、か。少し休暇を取ってみたらどう?私の方は大丈夫だから」
「え、いえ、そんな私の都合でご迷惑をかけるなど……え?」

とん、と人差し指でおでこを突かれ、きょとんとしてしまう。

「そんなこと気にしないの。緋沙子体調が第一。それに……」
「……?」
「と、友達のこと……心配するのは当然じゃない……」

くらっ。
目眩がした。不意打ちだった。
なんだろうこの可愛過ぎる生き物は。
頬を赤らめながらこんなことを言われては、性別関係なく陥落するのではないか。
漫画で聞いたことのあるツンデレというやつなのか?これがそうなのだろうか。
だとしたらなるほど。これは凄まじい破壊力だ、と私は思った。
確かに、私がえりな様のお側に戻る時、従者としてでなく一人の友達としてありたいと本心を言ってくれた。
しかし、こんなの反則すぎる。

「わ、わかりました!新戸緋沙子!暫し休暇を頂きます!」

これ以上この場にいたら何か別の物に目覚めそうだった。

「しっかり休みなさいね?」

ぐらっ。
可愛すぎる。
これだけである意味あの時離れて正解だった気がしてきた。
そんなだらしない思考を垂れ流しながら、私は自分が倒れる前にその危険地帯を退避した。

「しかし休暇と言われても何をするか」

休みと言えばやはり自身の部屋に戻り、くつろぐのが妥当だろう。
しかし、別に体調が悪いわけではなかった。
特に体調を崩していない時に下手に休むと逆に身体に毒だ。
さて、どうするか。

「あれ?新戸じゃん。久しぶりだなー」

ドクンッと心臓が跳ね上がった。
声だけで分かる。分かってしまう。私がえりな様と仲直り出来たきっかけをくれた人。
私にとって今や恩人の彼。

「幸平、創真……」

振り向きざまに彼の名を呼ぶ。心臓の鼓動がより高く聞こえる。
一体これはなんなんだ……?

「何をしている、こんなところで」
「ん?いやさら今から新作料理試そうと思ってさ。極星寮の厨房取られちまってるから、学校の厨房を借りにいくところ」

見れば手には食材などを詰めた鞄があった。

「1人でか?」
「ん?そうだけど。あれ?そういや新戸も一人だな珍しく。薙切はいないのか?」
「今日はえりな様とは別行動だ。丁度良い幸平創真」
「ん?」
「私も気分転換したかったところだ。お前の料理に付き合っても良いか?」
「へ?」

厨房に向かう途中、私は凄まじい自問自答に駆られていた。
わ、私は何を言っているんだ!いや!確かに気分転換にはなるが、よ、よりにもよって幸平創真に何故あんなことを……。
幸平創真は私の提案に快諾してくれた。寧ろ感謝された。丁度味見役が欲しかったと。
何故かはわからないが、その瞬間異様な昂揚感が私を包んでいた。
そして不思議なことに、胸の中のわだかまりも今は収まっている。

「ん?どうかしたか新戸?」
「いや、なんでもない!それより良いか幸平創真!私が付き合うのだから、練習とはいえ不出来な物を出したら許さんぞ!」
「へいへい。お前も相変わらずだなー」
「相変わらずとはなんだ!相変わらずとは!」

スタジエールの時と変わらない応酬を繰り広げながら、私は彼の調理に付き合った。
意外にも定食屋とは程遠いフランス料理の品を試作していたため、私も私で勉強になることが多かった。

「しかし意外だな。まさかお前がフランス料理に手を出すとは」
「いやー、スタジエールで四宮先輩にコテンパンにしごかれてさー」
「し、四宮!?遠月の卒業生の!?」
「ん、お、おう。第二のスタジエールは四宮先輩のとこでさ、まぁ色々あってな……」

ぶつぶつと彼にしては珍しく覇気のない顔で呟いていた。
第二のスタジエールはどうやら余程の地獄だったらしい。

「む、出来たな。では試食といくか」
「おう」

完成した料理を一口含むと、思わず仰け反ってしまいそうな旨味が口の中に広がった。
共同で作ったものだが、メインは幸平創真によるものだ。
秋の選抜で2位に残ったから実力は確かだと知っていたが、これほどとはと思わず狼狽しそうになる。

「んー、まだまだだな」

しかし幸平創真は難しい顔をして言う。
こ、これでか?と思わず言ってしまいそうになるが、情けないのでそれは料理と一緒に飲み込むとした。

「……四宮先輩は、これ以上の物を作っていたのか?」
「あぁ、正直比べ物にならない。四宮先輩の専門分野ってのもあるけど、全く勝負にならねぇ……」

んー、と悩みながら料理を口に運ぶ幸平創真を見て、私は前とは違う胸のわだかまりを覚えていた。
私の死にも狂いの努力は、幸平創真にはまだまだ遥かに及ばないのか。

「幸平創真!」

立ち上がりバンッと机を叩くと、幸平創真はビクッとこちらを見上げる。

「復習だ!何故四宮先輩に届かないのか!私も一緒に考えるから、お前も付き合え!」
「え?いや、元々そのつもりだけど、いきなりどうしたんだお前」
「いいから!しっかりがっつりやるぞ!」

私は自分の悔しさを隠すのに精一杯で、それを誤魔化すように厳格な新戸緋沙子を繕った。
幸平創真はまだまだ先にいる。そしてその遥か先に私のいたい場所がある。

「???まぁ、いいや。なんか知らねぇけどやる気みたいだし。んじゃ、いっちょやるか新戸」

結局、昼から始まった幸平創真との料理の試作は、終わってみれば夜になるまで続いていた。

「ありがとよ新戸。今日はすげぇ助かった」
「気にするな。私も私のためにやっただけに過ぎない。私自身も勉強になった。礼を言う」

「送らなくて大丈夫か?」
「ん?あぁ、大丈夫だ。すぐそこだからな私の寮は」
「ん、そっか。じゃあまたな新戸」
「……あぁ、またな幸平創真」

そして幸平創真の影が消えると同時に、私は頬が好調し、心臓が激しく脈打つのがわかった。
ドクンドクンと内部で暴れまわるそれは、そう簡単に収まりそうになかった。

「一体どうしたんだ私は……」

自室に戻りまた自問を始める。

幸平創真と会ったとき、幸平創真と別れたとき。同じような現象が私を襲った。
そして幸平創真といた時、私の中のわだかまりは綺麗さっぱり無くなっていた。
そしてまた今、わだかまりが出来ている。

ゴロンと横を見ると、あの少女漫画が袋に入って置いてあった。

「あぁ、しまった。返しておくべきだったな」

あの日幸平創真から借りた本。
えりな様に私が返しておくと言って持ってきたのを、すっかり忘れていた。

「あまり長く借りておくのも悪いし、近いうちに日を見て返さないとな」

えりな様がハマった恋愛少女漫画。まぁ飛び切りプラトニックなものだから、そこまで大人な描写はないが結構巷では人気だったらしい。

恋愛か……恋愛?

ドクンッとまた心臓が跳ね上がる。今度はより激しく。内部から私を叩いてくる。

幸平創真といると、わだかまりがなかった……?
幸平創真といたから……?
まさか……?

「いや、そんな馬鹿なことがあるわけない」

その考えに否と言う。

きっと疲れているだけだ。今日はもう寝よう。きっと明日にはこのわだかまりもなくなっているはずだ。
新戸緋紗子が、幸平創真に〜〜〜なんてあり得ない話なのだから。

本日はここまで

ではまた

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